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参考人(
渋沢喜守雄君) まっ先に御
指名にあずかりまして光栄に存じます。
実はお手元に
刷りものをお差し上げしてあると存じますが、一部足りない方もあるそうでございますが、たいへん失礼いたしました。
刷りもののうち
日本文は、これは去年一
年間私が現在の
病院で実際取り扱った
患者さんの
検査成績、横文字は
参考のためにサルで実験した
成績でございますが、本日はこの
日本文で書いた
患者さんの
検査成績だけを申し上げます。
私自身、
昭和三十八年の夏、
厚生省へ出張した帰りに、皇居の前で
小型トラックにぶつけられまして、私自身むち打ちになったのでございます。そのとき私はむろん頭が痛い、目が回るというようなこともありましたが、非常に
背中と腰が痛いということ、それから足がしびれる、それから物につまずきやすいということを感じたのでございます。そのときからむち打ちという
病気は、これは首や頭だけの
病気じゃなしに、もっとほかのところにも
障害があるのじゃなかろうかと、こういうふうに感じ、そのうちに
厚生省を通じまして科学技術庁の
交通事故防止対策特別研究調査費をもらいまして、多数の
患者さんを取り扱う機会を数
年間持ちましたが、ますますそういう感を深くしたのでございます。
この
日本文の四二四ページの第Ⅸというところがございますが、まず
患者さんはいろいろのところが痛いということを訴えます。たとえば首が痛い、肩が痛い、
背中が痛い、腰が痛い、腕が痛い、そういう痛いというようなところをよくさわってみますと、そこには四二五ページから四二六ページにあるような、ちょっとこれは薬や何かではなかなかなおりそうもないような
変化があるということに気づいたのでございます。これはほとんどすべての
患者さんに、全例とは申しませんが、ほとんどすべての
患者さんに出てくる
症状でございます。そういったこととともに
筋肉の力が落ちてまいります。したがいまして、これは
神経のほうからも説明できますが、ものをにぎる力とかあるいは胸を広げる力とか、あるいは背骨をこう曲げる力、
胸筋力、背筋力というようなものがどんどん落ちてまいります。
それから、前のほうへ飛んで恐縮ですが、四二○ページの第二列目の上のほうに書いてございますが、
背中が痛い、腰が痛い、つまずきやすい、腰がふらふらする、こういうふうな
患者さんが相当の
パーセントに出てまいります。したがいまして、ここから上だけじゃなしに、腰から下にも何か故障があるのじゃなかろうかということを暗示するものと存じます。
次に四二一ページのⅢと書いて、「
呼吸機能と
心電図」とございますが、
呼吸機能はいろいろの
検査の
方法で調べておりますが、どの
検査方法をいたしましてもおよそ七〇%、七割くらいの
患者さんに
呼吸機能が、どういう
方法で調べましてもかなりの
程度、二〇%くらい、落ちております。そうして血液はアルカリ性に傾く
傾向があります。また、
心電図はおよそ五割の
患者さんにおいて、一定ではございませんが、何かしらの
変化がございます。
それからその次に、Ⅳと書いてございますが、胃の
カメラというものを飲んでもらって、これは首の痛い
患者さんに胃の
カメラを飲ませるのはたいへん
医者としては忍びないことでございますが、飲んでもらって調べてみますと、第5図というように
線状のびらんあるいは出血、かいようというようなものが
正常人よりも
パーセントが非常に高く出ているわけでございます。
その次にⅤと書いてあるところがございますが、「
内分泌機能」
内分泌機能のうち、特に
副腎の
機能というようなのがございますが、
副腎の
機能は大体七割くらいの方が低下してまいります。そのうち約三割は著しい低下を来たして、しまいには
アディソン病という、顔が黒くなるようなそれほどひどい
病気に、
障害になる者もございます。で、よくむち打ち症の
患者さんが立ち上がると目がくらむとかなんとか申しますが、あれは
副腎機能の
障害と
関係があるのじゃなかろうかと、こういうふうに
考えます。
それから御
婦人では、卵巣のホルモンの分泌のしかたが
生理の
機能に従いまして、山を描いてふえたり減ったりするのでございますが、これが平べったい一直線になってしまいます。しかも非常に
レベルが低い
レベルになってまいります。そして無月経、あるいは
生理が非常に不順で、月に五回
生理があるなんていう方が、決してまれでございません。
それから次のページにⅦというところがございますが、まず
患者さんは大体四日目ごろから自分がちょくちょくお
トイレに行く。たいへんどうも下等な
お話で恐縮でございますが、しばしばお
トイレに行くということに気づきます。むろん
看護婦も気づきます。したがって、われわれもそのころ気づくのでありますが、よく見ておりますと、
ほんとうによく通うんです。私は女性についてはそういうことはできませんが、男性の
患者さんについては、しばしば
トイレまで
一緒についていって、みますと、尿の流れが非常にのろくなる。そうして排尿する時間が非常に長くかかる。そして帰ってきてもまたすぐ
トイレに行きたい。つまり
残尿が残る。こういう
傾向が大体二週間ごろ最も著明になってまいります。そして大体三週間くらいになりますと、
状態はもっと悪くなってまいります。そのころ
患者さんは
便泌を訴えて盛んに下剤を要求してくるようになります。また腹が張ってガスがふくれて、腸がこんなに大きくなりましたということをよく言ってまいります。ちょうどそのころこれまたたいへん下等な
お話で恐縮でございますが、男の方ですと、勃起不能なんという
現象がしばしば起こってまいります。この勃起不能という
現象は、私が取り扱いました
患者さんでは四五%が
一過性に起こっております。また
難治症になった同
症患者では六〇%が六カ月以上の勃起不能を訴えております。むち打ちというのは若い人に多うございますから、若い
患者さんでこういうことが起こってまいりますと、その家庭はたいへんな悲劇に見舞われるのではなかろうかと、こういうふうに存じます。この勃起不能、
排尿障害というのは、三カ月くらいでよくなる者もありますし、六カ月たってもよくならない者もございますが、大体境目は三週間くらいで
見当がつきます。三週間くらいたって
症状がさらに悪くなっていくというような場合には、これは必ず慢性化してくる。三週間くらいたって少しずつ軽快してくる者は、これは軽くてなおるということが、およそ
見当がつくわけでございます。そして勃起不能が回復したあとどうなるかと申しますと、今度はこれまた下等な
お話でまことにおそれいりますが、
射精がたいへんうまくいかなくなります。
射精の時間が非常に長くなる、
射精の量が少なくなってくる。
患者さんの
ことばを使うと、のろのろ、ぽとぽと
射精する、こういうふうに
患者さんは言います。こういうころに腰の
痛みとかあるいはものにつまずきやすいとか、あるいは足がしびれるということを同時に訴える者が多いようでございます。
こういうふうに、きわめて簡単でこざいましたが、むち打ちの
患者さんは
全身に、至るところと言ってもいいくらい多くのところに隠された
症状をひそめて持っておる。たとえばいま申しませんでしたが、
盲腸炎、正しく言えば、
医学的には虫垂炎と申しますが、
盲腸炎のような
痛みを訴えるという
患者さんが幾人もおります。また、ここに
胆嚢という苦い水の
たまるところがありますが、
胆嚢の働きが悪くなって胆汁がうまく出ないというような
患者さんもおります。そういう
ぐあいにむち打ちという
病気は、肩、首、頭という、こういうだけの
病気ではなしに、
全身にまだわからない、
医学的に解明し切れない、隠された
症状を秘めて持っておる、そういうふうに
考えられます。
ところが、
患者さんに対してはまことに申しわけない言い方でございますが、むち打ちの
患者さんくらい
医者の指示に忠実に従わない
患者さんは、これまたきわめてまれでございます。
患者さんは、ここに
代表者がおられるのでまことに恐縮ですが、
ほんとうにむち打ちの
患者さんは
医者の言うことをあまりきかない。これはむろん
社会的なあるいは経済的な事情があってきくことができないだろうと存じますし、これは
医者であるわれわれには解決することができない問題だろうとは思いますが、
医者としては、
被害者はもちろんのこと、その御家族もまたその方を雇っている会社、
団体、そういうものも、また
加害者も、
加害者の加入している
団体も、言いかえるならば、
社会全体がこのむち打ちということがきわめてやっかいな、何だかわけのわからない、
医学できわめ尽くされないいろいろなものをひそめておる、そういう
病気であるということを十分に認識してくださって、そうして
治療には長い日数がかかるというふうにお
考え、また覚悟していただくということが必要じゃなかろうかと、こう存じます。
渋沢の証言、以上でございます。