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浅井美幸君 私は、公明党を代表して、
田中武夫君から提案のあった
衆議院議長松田竹千代君
不信任決議案について、
賛成の
討論を行なうものであります。(拍手)
まず、私は、松田
議長が就任以来わずか十日間足らずして
議長不信任決議案が提案される事態に立ち至ったことに対して、深い悲哀と憂慮を禁ずることができ得ません。わが国議会政治の救いがたい紊乱と権威失墜をまのあたりに見て、国の行く末を深く憂え、かつ、あまりの権力主義の横行に強い憤りに胸の張り裂ける思いを抱いているからであります。
わが党は、先週、松田
議長の裁定に対し、内容的には不本意な点もございましたが、あえて新
議長の誠意、努力に敬意を表し、国会の権威を高からしめ、正常化ならしめるため、その裁定を受け入れたのであります。その裁定が平然と踏みにじられたいまは、この
議長不信任の声を強く鳴らすのは当然のことといわねばなりません。
多数党の横暴による異例の長期延長国会、十数回にわたる強行採決、議会政治始まって以来の異常な不祥事は、イデオロギーを超越して何びとも認めることのできぬものであり、民主主義議会政治を支持する日本国民の名において、断じて許されざる行為というべきであります。
振り返ってみますと、その中でも特に嘆かわしいのは、いわゆる健康保険法修正案の
審議において、自民党の多数におごる暴力の跳梁は、ついに憲法違反の
議事運営を誘発し、前
議長、副
議長の引責辞任というゆゆしい事態を引き起こしたのであります。しかるに、この異常事態収拾のため、国民及び
衆議院議員大多数の期待をになって登場した松田
議長は、新鮮な見識と豊かな経験によって、再び前車の轍を踏むことなく議会政治の権威を回復するものとして迎えたのは、私一人ではありますまい。ところが、松田
議長はこの信頼を全く裏切ったのであります。
二十四日夜の衆院
文教委員会における
大学運営臨時措置法案の自民党の不当な強行突破は、だれが見ても不法なものであり、しかも、これが計画的に用意された悪質なもので、文教委員長の
大坪君のごときは、不謹慎にも本
会議を欠席して第十六委員会室に侵入し、委員長席にすわり、強行突破を策していたのであります。この行為は、議会人として断じて許されざることであります。(拍手)さらに、残り九人の
質疑通告者の貴重な
審議権を奪って平然と強行採決し、何ら反省の色もないとは何事でありましょうか。しかも、この問題
法案を、
議長は易々として本
会議への上程を認めたことは、松田
議長の良識を疑わざるを得ないのであります。その上、
議長の就任直後の抱負で述べた公平無私のことばと全く矛盾するものであり、われわれの厳重なる抗議に対し、松田
議長の処置が注目されるところでありました。
しかも、この
文教委員会において採決された
大学の
運営に関する
臨時措置法案なるものは、
大学紛争の収拾はおろか、ますます紛争を拡大し、激化をもたらす悪法であり、国民の大多数から強い反発が起こっております。この悪法は、学問の自由と
大学の自治を侵害するものとして、わが国教育の根本をゆがめるものであります。かつて文部大臣を経験した松田
議長には、特に関心の強い問題でもあり、したがって、
文教委員会における
審議が十分に尽くされて、国民の前にその問題点の解明を行なうことは、
議長の本来望んでいたことであります。しかも、当日の午前中に公明党は
議長に対し、
議長裁定順守の申し入れまで行なっているのであります。そのとき松田
議長は、強行採決を行なわないという申し合わせの順守は文教委員長に伝え、その旨を体させることとなったと、はっきり確約していたのであります。
しかるに松田
議長は、これまで
議長の不偏不党、公正無私を堅持するに必要な党籍離脱も行なわず、国会の権威を取り戻すための何らの具体策も講ぜず、
議長の席にありながら拱手傍観を続けたことは、重大な怠慢であります。さらに、文教委員長に対する指示も簡単に聞き流され、無視されながら、何ら適切な処置も講ぜず、みずから
衆議院議長の高い権威と伝統と名誉を傷つけたことは、本院を代表する
議長としてきわめて不適格と断ずる以外にないのであります。(拍手)
要するに、松田
議長は、本院の永年勤続
議員として尊敬を集めてこられましたが、遺憾ながら、狂暴なる与党の荒れ狂う議会政治に対しては指導力の欠除を示すというしかないのでありまして、まことに遺憾ながら、その職を辞せられることが晩節を全うされるゆえんであるといわざるを得ないのであります。
しかるに、このたびの自民党の政治的没常識、非道徳な悪行に対し、みずからの
議長裁定を無視し、あまつさえ、無謀な強行採決という手段で委員会採決をした悪法たる
大学法案を本
会議に上程し、自民党の横暴を容認したということは、惜しみても余りある重大なる過失でありました。問題は、松田
議長が単に議会
運営のテクニックにふなれであったかどうかというような末梢的なことを論じているのではないのであります。国民が議会政治に期待しているものは何か、そして、それにこたえるためには
議長はいかにあるべきか、ここに
議長の決意と資質が問われているのであります。
議長は
議員を相手としているのではなく、国民の代表として議場にすわっておられることを決して忘れないでいただきたいのであります。少なくとも、国民の声なき声を唯一のたよりとして、議会政治を守るため、からだを張って戦ってこそ、
議長の座は栄光と信頼の座として国民の支持するところとなったでありましょう。(拍手)
しかし、いまや国民は、国会に対し強い不信感と失望を感じております。この事実を
議長はどう考えておられるのか。国会混乱の原因が、すべて自民党の委員会
審議の無視、問答無用の強行突破策に原因することは論をまちませんが、加えて、
議長の優柔不断と使命感、すなわち、議会の権威を高めようという責任感、そして国民の信託にこたえようという信念の欠除がその要因となっていることを、われわれは悲しみを込めて、あえて指摘せざるを得ないのであります。(拍手)国民が松田
議長に期待していたのは、ほかならぬこの点の是正にあったのであります。
議長が一度や二度、ことばを言い間違ったとして、われわれは何をとがめましょう。問題の本質は、民主主義の破滅を食いとめる情念の不足を、国民の名において強く叱喧したいがための不信任であります。これまで歴代の
議長の中には、調停者としての公平無私の姿勢に欠け、いたずらに各党間のあつれきを助長する機能しか果たさず、みずから
議長の存在と役割りを土泥と化してきた動きがあったことは、いなめない事実であります。議会政治の正常な発展と成長を期するためには、どうしても国会
運営のかなめとして
衆議院議長にその人を得なければならないことは、衆目の一致するところであります。したがって、現在の国会に何をおいても必要なことは、性急な
法案成立をはかることでもなければ、引き延ばしにうき身をやつすことでもない。失われた
議長の権威と地に落ちた議会の威信の回復をはかることこそ、緊急かつ根本的なわれわれ議会人に課せられた問題であります。(拍手)それゆえにこそわが党は、
議長の委員会差し戻し権について、今国会における国会法の改正と、正副
議長の党籍離脱を強く訴えてきたのでございます。これが無視され、再びこのような理不尽な国会
運営と混乱を招いていることは、きわめて遺憾なことであります。と同時に、
議長に人を得なかったという不信の念は、ますます増大するのみであります。
松田
議長の示された
議長裁定は、物理的抵抗をしないかわりに強行採決は行なわないことが示されております。各党、すなわち自民党もこれを了承しているのであります。
文教委員会においては、いささかも物理的抵抗の形跡は認められません。にもかかわらず、多くの
質疑予定者を残し、一方的に
質疑打ち切りを強行し、採決をはかったことは、まさに公党間の信義と約定を踏みにじるものであり、当然
議長は差し戻しに最大の努力をなすべきでありました。しかるに、何ら努力の誠意が認められなかったことは、もはや
議長たるの信頼をみずから失ったというしかないのであります。
国会においては、不法が公然と、しかもしばしば行なわれ、今日では、もはや慣例化の傾向すらうかがわれる。議会政治にとりきわめて重大な問題であり、重大なときでございます。松田
議長は進んで
議長に就任したのであり、就任にあたっては、国会
運営の正常化に強い自信と抱負があったはずであります。
議長の職責はきわめて重大であり、一個人の名聞名利のためにあるのではなく、国民のためにあるのであります。あえて
議長の職責の重大性についてるると申し上げましたのも、国民の手に民主政治を取り戻したいという強い一念から出たことを了としていただきたいからであります。(拍手)
そして最後に、
議長の権威を確立するものは、
衆議院全体の責務であることをもわれわれは自覚しなければならないと存じます。この点、特に多数を占める自民党の
諸君に申し上げたい。数を頼んだ強行採決はファッショに通ずるものであり、議会政治の自殺になるということを。そして、そのあと始末を
議長に押しつけるというやり方を繰り返せば、たとえいつまでたっても、またたとえ何人
議長を取りかえても、議会
運営は円滑にいくものではなく、逆に、議会政治の墓穴を掘ることを自覚せらるべきでありましょう。その代価はあまりにも高いものとなる。そして、
議長をここまで追い込んだ自民党、特に文教委員、社労委員及び国会対策委員
諸君の猛省をあわせ促して、私の
衆議院議長松田竹千代君
不信任決議案の
賛成討論を終えるものであります。(拍手)
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