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加藤万吉君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
趣旨説明のありました
失業保険法及び
労働者災害補償保険法の一部を
改正する
法律案について、若干の
質疑を行ない、明確なる御
答弁をいただきたいと思います。
私は、本
改正案の質問に先立ち、
東京の
荒川放水路における、
集団的災害が
発生をし、八名のとうとい
犠牲者を出した
事件につき、これらの
人々及び御遺族の方に心からなる弔意を表すとともに、
政府の
責任及び
所信をただしたいと思うところであります。(
拍手)
この
事件は、
外部的条件、
偶発的条件によって引き起こされたものではありません。
日本独自に開発され、
日本の新しい特許による
工法を
建設省が採用し、これによってかかる大
災害を引き起こし、
建設省の
責任はまことに重大であります。何も疑わずに、黙々と川底の中で
工事に携わっていた出かせぎ
農民に対し、一体どれだけの
安全性の
配慮をしたのでありましょうか。そして、彼らを死に至らしめた
責任はだれが負うのでしょうか。今回の
事件のうち、七人までが青森からの
季節労働者であり、リンゴの
豊作貧乏の中から、苦しい家計を助け、妻子と別れ上京し、なれない
労働の中から、一握りの労賃を唯一の故郷へのみやげとして、身を粉にして働いていた
人たちであります。一体、このような出かせぎによらなければ
生活の自立ができない今日の農村について、
総理は、どのような反省と、これからいかなる
政策をとろうとしているのか、その
所信をお伺いいたしたいと思います。(
拍手)皮肉にも、今回
事件の起きた第二・
四ツ木橋は、
都市の
過密化解消の
工事であり、そこに
過疎地帯から流出してきた出かせぎ
労働者が働いているという、過密、
過疎の対照をあざやかに示しているものであります。過日、
東京都板橋区において
発生した
ガス爆発事件といい、
都市開発の陰にこのような大きな
災害と格差がぴったりと隣合っている、この事実こそ、
佐藤内閣の誇る
高度成長政策の矛盾でなくて、一体何でありましょうか。(
拍手)
次に、
建設大臣、
労働大臣にお伺いいたします。
今回の
工事は
建設省の
直轄工事であり、新聞の報ずるところでは、最も安上がりの
工法といわれる
リングビーム工法を用い、今回の
事故を引き起こしたのであります。
建設省は、本
工法を採用決定するまで、
安全性をいかに
確認をされましたか、その
経過を具体的に
説明をいただきたいと思います。
一般的に、各省または業者が新
工法を採用するにあたって、その
安全性について事前に
労働省と協議または連絡がとられることになっているが、この点につきましては、
労働大臣にお伺いをいたしたいと思います。また、この
工法は国鉄においても採用されているといわれておりますが、その確たる
原因が究明されるまで、一切の
工事の中止を勧告すべきであると思いますが、
労働大臣の
所見をお聞きいたしたいと思います。
総理にいま一度お尋ねいたします。
今回の
事故原因の究明は、
労働省、
建設省、学者、
専門家によって徹底的に究明されるべきであり、従来しばしばやられたような、各省まちまちの
意見によってその
責任の所在を不明確にすべきではないと思いますが、
総理の
責任ある御
答弁をいただきたいと思います。
また、
総理は、とりあえず出かせぎ
農民の
安全対策、特に
建設業界の前近代的な
労務管理の
改善に勇断をもって対処すべきであると思いますが、その見解をお伺いいたしたいと思います。
また、今回の
事故が
政府の
直轄工事であることと、その
安全性の
確認、
工事監督について重大な誤りがあることは論をまちません。当然これらには
国家賠償法が
適用されてしかるべきと思いますが、いかがでしょうか、お考えを伺いたいと思います。
また、今回の
事故について、
安全性の追及はもとよりでありますが、同時に、これら
人々の遺家族に対し、
法律上の
給付はもとより、
生活上の
保障について最善、最大を尽くすべきと思います。あわせて
所見をお伺いいたしたいと思います。
総理、この
事故のあった翌日、
雄別炭鉱において再び
ガス爆発が起こり、死者十八名、
重軽傷者二十八名の
犠牲者を出すという悲惨な
事故が再び
発生をいたしました。
総理、あなたの
人間尊重の
政治は、この相次ぐ
事故とあわせ見るときに、どこに生かされ、実行されているのか、疑わざるを得ないのであります。確たる
所信を伺いたいと思います。
次に、本
改正案につきまして質問をいたしたいと思います。
政府は、年来、人間らしい生きがいのある
生活を
保障するのが
政治の理想であり、所得をすべての
国民にひとしく潤すのが社会
保障の
役割りであると
国民の前に表明し、
総理もまた人間の尊重、
福祉の向上を表明されているところであります。
総理、この理念は現実の
政治にいかに生かされているのでありましょうか。すなわち、今日わが国の経済は、いまや西ドイツと並び世界第二位の
国民総生産を誇りながらも、
国民は慢性的物価高に家計を破壊され、大気汚染、騒音に
生活環境を脅かされ、過密の中で住宅難と交通
事故に苦しみ、
過疎の中では文化
生活から取り残されているのが
現状であります。産業再編成の中では、相次ぐ炭鉱の閉山、一万件をこえる中小企業の倒産、中小私鉄の軌道の廃止、国鉄赤字線の廃止の動きなど、
労働力不足とはうらはらに、今日
失業問題は、中高年層を中心に深刻な
政治問題として立ちはだかっております。
そこで、私は、まず佐藤
総理にお尋ねいたします。
今日、
国民の状態は、
政府の統計によりましても、月収二万円以下の勤労者八百万人、内職世帯が二百万世帯、臨時工、日雇い、パートタイマー、
季節労働者などの半
失業者は約一千万人、完全
失業者六十三万人、そして百十六万人の求職者のうち、就職できた者わずかに十五万人という状態であります。こうした状態にもかかわらず、わが国の社会
保障の状態はどうでありましょうか。たとえば老齢年金は月に千八百円、
生活保護は大
都市で一人約七千三百円。物価高の今日、これでいかなる
生活ができるでしょうか。
国民の生命を守る医療
保険は、相次ぐ改悪により、ますます
保険主義を強め、受益者の一そうの
負担を増大し、病気にかかっても医者にかかれないという
状況にあります。
ただいま
趣旨説明のありました
失業保険に関する
改正案は、これら社会
保障制度の一連の後退にさらに拍車をかける何ものでもありません。ヨーロッパの先進的な国家においては、対
国民所得に対する社会
保障費は、一九六四年現在で、イギリスにおいて一四・六%、フランスは二〇・三%、西ドイツにおいては二一%であり、わが国は六・三%にすぎず、それはヨーロッパ諸国の三分の一にしか当たらないのであります。
社会保障制度審議会は、このような
現状から、
政府に対し社会
保障制度に関する勧告を行ない、一九七〇年にはわが国の社会
保障が少なくとも西欧諸国の一九六一年の水準に追いつくよう勧告するとともに、さらに、
政府のその後の
政策が、実質的には前記目標に対し年々後退していることを指摘しているのであります。また、厚生省発表の厚生白書は、
日本を除く諸国において社会
保障給付率が一三%から二〇%という高い段階にあるにもかかわらず、経済の成長率も高いことを指摘し、高い
保障給付が経済成長を鈍化させるという関係は見出せないと述べているのであります。しかるに、四十四年度の社会
保障費は、前年度比一六・一%の伸びにすぎず、われわれの要求はもとより、再び社会正義の理念から
政府の勇気と努力を要望した
社会保障制度審議会の申し入れも、みごと弊履のごとく捨て去られたのであります。一体
政府は、このような
実情についてどのようにお考えでしょうか。また、今後高度成長に似合った社会
保障をどのように発展的に進められようとしておられるか、お伺いをいたしたいと思います。
次に、農林大臣に質問をいたします。
今回の
改正案によりますと、
失業保険の
受給資格取得期間を延長することといたしておりますが、これは
失業保険の
制度的な後退であるのみならず、
季節労働者の
生活権を侵害するものでもあり、私は絶対に容認することができないのであります。今日、わが国の農家の八割は、農業所得では家計を維持できないのが
現状であり、その
原因が
政府の農業
政策の失敗にあることは、ここにあらためて指摘するまでもありません。農業基本法の制定は、わが党が指摘をしたとおり、それは農業の保護
政策ではなく、零細農切り捨ての
政策であり、高度経済成長の要請にこたえ、農村
労働力の流出以外の何ものでもなかったではありませんか。この結果、地域開発のおくれた地方から出かせぎ者が激増するのは当然の理であります。むしろ、これら出かせぎ
農民は、低廉な
労働力を
高度成長政策の安全弁とし、通年雇用や定着化の条件を産業界が怠っているために、まさに
農民は、その農業によっても、出かせぎによっても、みずからの
生活の自立をはかれないという状態に置かれ、結果的には、やむなく季節的出かせぎ
労働と
失業保険給付によって
生活の基盤をささえているのが
現状であります。農林大臣、この農業の実態について所管大臣としてどのようにお考えになりますか。また、
失業保険金がこの
改正によって
受給されない場合の農家の所得の向上と零細農家の
生活の自立についてどのような
政策をお持ちか、お伺いいたしたいと思います。
次に、
労働、厚生大臣に質問いたします。
このたびの
改正案に
特別保険料制度の創設があります。本問題は二つの面で重要な
内容を持っています。
第一は、短期循環
労働者が被
保険者の十分の一をこえる場合は、使用する
事業主に二倍以上に及ぶ
保険料を支払わせるとのことです。若年
労働力を大企業に吸収され、短期循環
労働力をもってようやくその倒産のうき目からはい出そうとしている中小企業、また、季節的条件によって短期
労働力を必要とする果樹栽培業等は、この創設によって二倍以上の
保険料を支払わなければならないことになります。また、
特別保険料を支払わないためには、
事業主側の
責任による解雇でも、
労働者に対し任意退職の形式を強要し、
労働者は
失業保険の
受給についてきわめて不利な扱いを受けざるを得ません。
第二は、今日の
保険制度から
失業保障制度へと強く要請されている
状況にもかかわらず、短期循環
労働者を多く雇用する
事業主に対し
特別保険料を
負担きせるということは、一昨年、健康
保険臨時特例法の制定にあたり、受益者
負担という荷物を病人の肩にかぶせたのと同様、社会の
責任たる
失業に対する
保障に私
保険化の道を開くことであり、社会
保障の理念を否定するものとして絶対に容認できないところであります。
次に、
給付の
改善でありますが、今日、
失業保険財政は、四十三年度には約二千二百億円の剰余積み立て金を残すことが予想され、健全財政そのものであります。このような健全財政であるがゆえに、当然に大幅な
給付の
改善があってしかるべきでありますが、今回提案された
改善の
内容は、
一般失業保険においては、
扶養手当をわずか十円
引き上げ、
保険料率を千分の一
引き下げ、また、
給付日数の若干の
改善を試みているにすぎないのであります。
給付の
改善にあたり、まず考慮すべきことは、わが国の実質
賃金水準は、健康にして文化的な
生活を営むにはあまりにも低く、また、諸外国の水準にも遠く及ばないという実態を誤りなく認識しておき、その上に立って
改善をすることが重要であります。低
賃金の中の六割という
給付水準では、
制度の本旨である
生活の安定を目ざすことができるかどうか、
説明の必要もないところであります。私どもは、この点について、最低八割にすべきであることを繰り返し主張してきたのであります。もし所得をすべての
国民にひとしく潤すのが社会
保障の
役割りであり、
政府の方針であるとするならば、まず
失業保険給付の
引き上げから始められてはいかがでありましょうか。西ドイツにおいては、すでに最高九割の水準まで
引き上げております。西ドイツに比肩すべき経済力を備えたわが国で実行できない理由はないと考えるのであります。まさに佐藤
総理の風格ある社会への第一歩であると思われますが、この点、
労働、厚生両大臣の
所見を承りたいと思うのであります。
さらに、
不正受給に対する追徴金
制度の新設でありますが、この
制度は、社会
保障の本旨に反するものであり、他の社会
保障制度との均衡の上からいっても、全く失する
措置といわなければならないのであります。今日まで
政府が、不正の名において、いかに正当なる
労働者の請求権を侵害してまいったかは周知の事実であります。
失業保険においては、今日
職業安定所の窓口において不当な
給付の制限が行なわれており、その例は枚挙にいとまがないのであります。四日市市において、窓口における規制と
失業という現実の
生活苦が一家の主柱を自殺にまで追い込んだ例は、その過酷さを如実に物語っているのであります。まして、今回の追徴金という罰則強化は、他の
制度との均衡はもちろん、社会
保障の名においても断じて許せないと思うのでありますが、この点、
労働大臣の御見解を承りたいと思うのであります。
さらに、大蔵及び内閣法制局長官にお尋ねをいたします。
福祉施設の
改善に関する今回の
改正は、
失業保険制度の本旨に反するものとして、きわめて重視をしているものであります。
福祉施設費は、近年その
失業保険特別会計の支出に占める割合が急速に増加をし、四十四年度予算について見ますると、従来
保険給付として取り扱われていた
就職支度金及び
移転費とを加えると実に四百二十七億円、支出の二二%の高い割合を占めることになります。財政上の均衡は著しく阻害されているのであります。このような事態を招いた
福祉施設に関する同法第二十七条の二は、目的条項たる同法第一条の
失業保険金を支給するとの目的に違反するのみか、目的にない目的条項として、第二十七条の二は違法性の疑いがあると思いますが、法制局長官、いかがでしょうか。
ざらに、
失業保険特別会計の
業務運用費の
負担についてでありますが、四十四年度予算においては、
業務運用費百十一億円の中で、一般会計からの受入れはわずか一億五千万円にすぎないのであります。その差額は剰余積み立て金の運用利子収入で充てるとしても、それは
労働者及び使用者の
保険料であります。
業務運用費が国家公務員の給与はもちろん、庁舎新築費、公務員宿舎費まで含んでいることを考えれば、
政府は行政運営費の一部を、労使が拠出をする
保険料によってまかなっているといわざるを得ないのであります。さきに
政府の提案の中で
不正受給ということばがありましたが、これこそ、まさに
政府による
保険料の悪質な不正流用以外の何ものでもないといわなければならないのであります。大蔵大臣の御見解をいただきたいと思います。
以上、幾つかの点について質問を試みてまいりました。私は、むしろ改悪点の多い本
改正案はすみやかに撤回をされ、焦眉の急といわれている農林漁業への
適用、
給付の大幅な
改善、
日雇い失業保険の
給付日額の
引き上げ、あるいは扶養加算
制度の大幅な
改善などの諸点の
改正を早急に行ない、
失業保障制度に一歩踏み出すことこそが重要であると考え、
政府の再考を強く促しまして、
本案に対しまする
質疑を終わるものであります。(
拍手)
〔内閣
総理大臣佐藤榮作君
登壇〕