○島本虎三君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
趣旨説明のありました
公害関係二
法案について、総理並びに
関係大臣等に対し、若干の
質疑を行なわんとするものであります。
一昨年、第五十五国会における
公害対策基本法案の審議の際、佐藤総理は、
公害紛争処理機関の
整備と無過失
責任制度については前向きに検討すると述べ、人間尊重と
国民の健康を確保し、
生活環境を保持することこそ
政治の大
目標である旨、答弁を行なったのであります。
公害対策基本法が制定されて三年、水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそくが
公害病と
認定されて二年にもなりますが、これによって
公害病がいささかなりとも減少するどころか、今日ますます
激増の一途をたどり、広く深く
国民の
生命、財産をむしばみ続けているではありませんか。昨今、
政府自身が箱根をはじめとする国立公園にさえ、急遽緑を守るための
特別の
措置を講ぜざるを得ない状態に追い込められていることは、すでに御
承知のとおりであります。
いささか古い統計ではありますが、一九六五年六月二十五日のニューヨーク・タイムズの伝えるところによりますと、アメリカでは
国民一人当たりの
公害による損失は年間六十五ドルであるといわれ、アメリカ全土で百十億ドル、邦貨に換算すれば約三兆九千六百億円、まさに
日本の国家予算の四割に該当する額が
公害によって失われていると報ぜられたのであります。また、昨年の大阪市や川崎市で
調査したところによりますと、一世帯当たりの家計
被害が大阪で一万四千円、大阪市総計百二十九億円、川崎市では年十万円の家計
被害が報ぜられているのであります。
公害は、知らないうちに
国民の家計費にまで忍び寄り、ささやかな
生活をさえ脅かしているのであります。
公害は現代における最も深刻な問題の一つとして、先進諸国におきましてもその
対策に苦慮していること、御
承知のとおりでありますが、
わが国のごとく、その
公害による
被害が今日のように拡大してからではすでに手おくれであり、
施策の重点は、あくまでも
企業責任において
公害予防を行なわせることに置くべきであったと思うのであります。しかるに、自民党
政府による
施策は、今日なお産業優先、
企業擁護の範囲を一歩も出ないものであり、その
政治責任は
国民的批判の
対象とさるべきであると思うのであります。
昭和四十四
年度予算の編成に際しても、自衛隊員六千名、警察官五千名の増員は認めても、わずか七名の
公害担当官の増員は認めず、
政府みずから
公害病と
認定しても、その治療
対策の積極的開発をサボってきた態度こそ、
公害紛争をいたずらに長期化させている
原因であるといっても過言ではないと思うのであります。(
拍手)
私は、ここで人間尊重を主張された佐藤総理に思い起こしていただきたいのであります。
富山県にイタイイタイ病が
発生して二十三年を経ております。熊本県に水俣病が
発生して足かけ十六年であります。この間、イタイイタイ病では百数十名が死亡し、水俣病では四十名以上の死亡者を出しているのであります。これこそ
企業の人命を無視した生産活動による社会的殺人といっても過言ではありません。(
拍手)この
責任は当然当該
企業にとらせるべきであります。いまなおこの問題の早期
解決すらできないなら、人間尊重などという誇大広告の看板を即刻引きおろさなければなりません。(
拍手)
そこで、私は総理に具体的にお伺いいたします。
熊本の水俣病に見られるように、
企業責任が明確になったにもかかわらず、いまもって
補償問題の
解決がおくれている最大の
原因こそ
政府の怠慢であると考えるのでありますが、総理はこの点について、
公害対策会議の最高
責任者としていかなる
政治責任を感じておられますか、誠意ある御答弁を承りたいのであります。
次に、総理並びに総務長官にお伺いいたしたいと思います第二点は、今回
提案された
公害関係法案が、その作成の段階でいわゆる
基地公害が除外されたように、
内容が、総理の一昨年の国会答弁とはおよそかけ離れたきわめて不十分なものだといわざるを得ないことであります。これは
国民が多くの不満を抱いていることを見ても明らかであります。
総理は、この二
法案が、
国民が満足するに足る十分な
内容を持ったものだとお考えになっておるのでしょうか。現に
被害のある
基地公害を、
紛争処理法案の適用外とした
理由はどこにあるのですか。また、今後はどのように
救済の道を開く方針であるのか、御答弁願いたいのであります。
第三点は、農水産物等の物的
被害により
生活権すら脅かされている者に対して、何ら
生活保障の
措置が講ぜられていないことであります。
公害病患者の多くは、
生活の道を断たれ、一家の働き手を失った家庭が多いのであります。
紛争処理機関によってたとえその
補償がなされたにしても、その間、これらの
被害者の
生活を保障する道がない限り、安心して治療に専念することができないのであります。このような立場にある者に対して、いかなる
生活保障の
施策を施されるおつもりなのか、率直な御
意見を承りたいのであります。
次に、
公害に係る
健康被害の
救済に関する
特別措置法案について、
厚生大臣にお伺いいたします。
第一は、この
法律の適用の
対象についてであります。
政府案によりますと、
救済の
対象を
大気の
汚染と
水質汚濁にかかる
健康被害のみに限定しているのであります。
本案が、
騒音、振動、地盤沈下、悪臭による場合を除外しているのは、いかなる
理由によるのでありましょうか。また、適用範囲も、水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく等に限定されるようであるが、大阪、川崎、東京、安中等の
公害患者も当然その適用を受けてしかるべきだと考えるのでありますが、今後、これらを本
法案の適用
対象とするのはいつのことでありましょうか、この点、承りたいのであります。
第二は、
対象となる
医療給付の範囲であります。
政府案によりますと、健康保険による
医療費のうち、自己負担分のみを
支給するにすぎないのでありますが、これでは
救済の実効を著しく減少するものであることを指摘しなければなりません。何となれば、
公害病のごとき、治療も困難で、
原因究明の容易でない
疾病は、健康保険の診療方針のワク内では、とうてい治療し尽くせるものではありません。健康保険の診療方針によらない
医療でも
支給対象に当然すべきだと思うが、御所見を承りたいのであります。
第三にお尋ねいたしたい点は、
所得制限の問題であります。
政府案によれば、
医療費、
医療手当、
介護手当のいずれにもきびしい
所得制限を設けることになっておるのであります。このように
医療の
救済になぜ
所得制限を設けたのか、その
理由を承りたいのであります。すべての
国民がひとしく
医療を受ける権利を有することから見ても、全く納得できないところであって、おそらく
国民の批判は免れ得ないでありましょう。
第四は、
医療費の負担についてであります。
この問題点は、
公害の
発生者が明らかになった場合には、立てかえ払いをした国が
加害者に対して求償権を持つべきであるにかかわらず、最も弱い立場にある
被害者住民に
損害賠償請求権をゆだねてしまったことであります。法的
責任、道義的
責任をすべて回避しようとする
加害者企業に対して、
被害者住民がどれだけの要求を貫くことができるかは、
公害の
紛争がこじれて
補償問題も
解決しないまま、絶望的な苦難にあえぐ
公害患者が、苦しみの中で一番よく知っているのであります。社会保障
制度審議会も、
政府に求償権が明白な場合には、それを国または
地方公共団体がかわって行使すべきだと勧告しているのであります。この点について
厚生大臣の御
意見を承りたいと存じます。
次に、
公害紛争処理法案について、総理府長官にお伺いいたします。
まず第一は、国の
中央公害審査委員会が準司法的
行政機関として、省庁並みの強い権限を持った
国家行政組織法の第
三条機関ではなく、総理府の
付属機関、すなわち同法八条機関として位置づけられたことであります。これでは、遺憾ながら、いかに名目上立ち入り権を認めたといえ、
紛争処理や
被害者救済等の実効をあげ、
加害者の主力である大
企業から弱い立場の
被害者住民を守ることは、とうてい期待できるものではありません。たとえば、
公害紛争の
処理には高度の技術的、科学的、
法律的専門知識が必要であって、専門的
調査機関を
紛争処理機関の下部に常設していることが不可欠の要件であると思うのですが、この点について総務長官の御所見を伺いたいのであります。
第二にお尋ねいたしたいことは、
紛争処理の最終段階である
仲裁が、
加害者の合意がなければ、
被害者は
制度の適用を受けられないことになっていることであります。
従来の
公害紛争の例から見て、このような
条件を設けた
制度ならば、その活用はほとんど期待できないことは、だれの目にも明らかではないでしょうか。
公害紛争処理の重要性にかんがみ、
調停、
仲裁は、
被害者よりの申請があれば直ちに発動し得るようにして初めて実効があがるものといわなければならず、場合によっては職権
仲裁を講ずる必要さえあると思いますが、御所見を承りたいのであります。
第三に、
調停、
仲裁の
内容が非公開とされたことであります。
このような秘密主義は、法的
責任、道義的
責任をすべて回避し、あいまいにしようとする
加害者にはまことに有利であっても、
被害者には著しく不利なことは、実例を見れば明らかではないでしょうか。公開をあくまで原則とすべきであると思うが、いかがでしょう。
最後に、特定有毒物質、
水質二法の
改正、裁判の簡素化などについて、
関係大臣にお伺いいたしたいと思います。
まず、通産大臣にお尋ねいたします。
いわゆる有機水銀やカドミウムの流出による
被害は、いまや
生命に対する
脅威にもなってきたことは御
承知のとおりであります。しかしながら、これらに対する法的規制が何ら有効に行なわれていないことはまことに遺憾であり、
政治の怠慢といわなければなりません。通産大臣はこれに対しいかに対処せんとしているのか、お伺いいたしたいところであります。
次に、
経済企画庁長官は、
水質二法の主管大臣として、現在のままで
水質保全は万全と考えておられるのでしょうか。人間の
生命にかかわる重大な
公害の
発生源は、かかって河川を中心にして惹起されていることを考えるとき、その
改正は目下の急務であると思うが、どうでしょうか。
次に、法務大臣にお伺いいたします。
公害紛争の中で最も困難なことは、
因果関係の
究明であります。たとえ
訴訟に踏み切っても、結審に至るまで長年月を要し、被災者の多くは、
生活に窮し、
訴訟費用すら満足に支払えない状態に追い込められるのであります。
民事訴訟法により免除規定はあるとしても、
公害の特殊性にかんがみ
特別の
措置が必要であり、また、裁判の進行についても、実情に見合った運営をすべきであると思うが、いかがでございましょう。また、
公害罪の新設について検討を進めているようでありますが、その
内容等についてお示し願いたいのであります。
また、運輸大臣にお伺いいたしますが、民間航空
騒音と自動車の排気ガスの規制は、
騒音と
大気汚染には重大な
影響があるのでありますが、この規制の具体策並びにその効果について、
国民の前に明らかにしていただきたいのであります。
なお、社会
党案の
提案者である角屋議員には、
党案と
政府案の基本的な相違並びに
政府案の欠陥と思われる点を御
説明願いたいのであります。
最後に、私は、富山のイタイイタイ病
患者で
訴訟に踏み切った一婦人のことばを、そのまま総理並びに各大臣にお伝えいたしたいのであります。それは、「私は金を取りたくてやっているのでありません。私の母もこの病気で死んでしまいました。しゅうとめも死にました。いま私もかかっています。私が食いとめないで、だれがやってくれるのでしょうか。そう思ってやっているのです。」
経済繁栄の陰に泣く
公害病患者の救いを求める心底からのこの叫びに耳を傾け、誠意ある答弁を期待いたしまして、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
角屋堅次郎君
登壇〕