○中村時雄君 私は、民主社会党を代表して、
昭和四十二
年度農業動向に関する
年次報告並びに
昭和四十四
年度において講じようとする
農業施策に関して、
総理大臣及び
農林大臣に対し、二、三の
質問をいたしますが、私は、個々の数字的の計数の問題は委員会でやるといたしまして、少なくとも、本日は
農政の根源をもって重点的な
質問をいたしたいので、簡明率直なお答えをお願い申し上げます。
農業白書の提出は、今回をもって八回に及んでおります。すなわち、
農業基本法制定後八年を経たということであります。八年という歳月は決して短いものではございません。子供なら、生まれてからもう小学校の三年生であります。にもかかわらず、今日の
農政は、八年前に生まれたままの姿であり、本質的には何らの進歩も成長も見ておらないといっても過言ではないのであります。いな、むしろ混迷と苦悩を深めているのであります。そこで、この
機会に、あらためて、
農業基本法制定の
趣旨に反して何ゆえにわが
農政に進歩と前進の
成果がないのか、その根本原因は一体何か、いささか所見を開陳し、また、
政府の忌憚のない見解をただしてみたいのであります。
農業基本法制定前夜の
農業及び
農村を見ますると、
昭和二十八、九年以降の数次に及ぶ
農業災害によって
農業生産は停滞し、かつ、経済の
高度成長期に差しかかって、
農業の
所得と非
農業の
所得とは次第にその
格差を
拡大し、わが
農業及び
農村はようやく落ち目の
傾向になってきたのであります。したがいまして、欧米の先進諸国にならって、
わが国においても
農業基本法を制定し、小手先のそのつど行政を廃して、根本的かつ近代的な
農政を展開し、近代国家にふさわしい
農村を建設しようとして全国の
農民が一斉に立ち上がり、
政府がこれに従ったのでありました。自来、私どもは、来る年も来る年も、真に
農政らしい
農政の展開を
期待し続けて今日に至ったのでありました。しかしながら、今次の
農業白書を通読して、遺憾ながら、再び裏切られた感じをどうしてもぬぐい去ることができなかったのであります。私は率直に、
総理以下閣僚諸公に、私の言わんと欲するところをお聞き願いたいと思います。
率直に言って、あなた方はほんとうに
農業及び
農政というものがおわかりになっているのかどうか、私は疑うのであります。多数の役人のエネルギーを動員して書かれた、三百数十ページに及ぶところの活字と数字とが羅列されたこの
報告書を手に取って、じっくりとあなた方はほんとうに御検討になったのかどうか。何ゆえに日本の国の
農政がうまくいかないのか。何ゆえに
農業基本法が予定する基本政策が円滑に進展しないのか。
政府・与党が国政に対して真に責任感をお持ちであるとするなれば、今日の事態に対していかなる認識を持ち、いかなる手を打つべきかを十分お
考えになっているのかどうか、これを私はお尋ねをしたい。
現在、世界の奇跡といわれる経済的進歩の時代において、わが
農業のみが著しい立ちおくれを示している
現状について、一番心配しておられるのはほかならぬ
総理大臣、佐藤さんではないかと私は思うのであります。もし、そうであるとするなれば、五ページでも一〇ページでもけっこうです、これこそ問題の真の根源であり、真の
対策であるという自信のある案を率直に御提示され、すべての
国民の協力を求めようとせられないのか。私どもは、今次の
農業白書を受け取って、いつもながらの憤りと憂慮の情を押え得ないのであります。私は、この際、こまかい数字や
説明は一切これを抜きまして、最も根本に属する問題に関し、私見を二、三示して御所見を伺っておきたいと思うのであります。
その第一点は、
農業基本法が指向する構造政策、すなわち、
農業経営の
拡大、
自立経営農家の育成といった方針がうまく実現せず、全
農家の八〇%に達するとうとうたる
兼業農家の大量発生の最も大きな原因は那辺に存するかということを私はお尋ねしたいのであります。私は、その最大の原因は、主として
地価並びに
農地価格に対する政策がゼロにひとしいということであろうと思うのであります。坪何千円、何万円の
農地を購入して、一体いかなる
農業経営が成り立っていくのですか。そして、
農民の側からするなれば、この擬制的な
価格の
農地を資産として保有し続けているのであります。この矛盾の
解決策に関して、
農業白書はほとんど一言も触れていないのが
現実であります。私をして言わしむれば、
経営の
拡大に対して最も重大な側面がここにあるであろうと思うのであります。
農地価格ないしは
地価の
上昇については、
農民自体には全く責任はないのであります。
農業に専心しようとする
農民にとっては、全くこれはありがた迷惑なのであります。なぜそれでは
地価が上がるのか。これこそ、
政府・自民党の諸君が、戦後熱心に育て上げました金融資本を頂点とするところの、
わが国資本主義体制の矛盾そのものに胚胎するのであろうと思うのであります。
政府・与党は、まいた種はみずから刈り取らなければなりません。
日本経済は、あたかも大型経済時代に突入したといわれております。先般来公正取引委員会は、八幡、富士両製鉄の合併を認可しようとしております。これを契機にして、空前の大型企業時代が到来しようとしております。しかるに、わが
農業経営に関しては、今日なお神代ながらのままの超小型
経営の姿であります。
政府・与党がこれまでのように小出しの
農業政策を続けている限り、効果のきわめて少ない
農業保護政策を、半永久的に持続せざるを得ないと
考えるものであります。
農民も日本
国民である限り、人間としての生きる
権利を主張しています。生きる
権利を要求する限り、
米価の値上げを要求し、また
兼業化いたします。私は、
総理はじめ閣僚諸公は、このように、本来の線から飛び出して、遅々として効果のあがらない
農政の
現状深く思いをいたされ、この際、抜本的な
施策の検討に着手せられんことを切に望みたいのであります。
私見をもってすれば、すなわちそれは、
農地に対する二重
価格制度の採用以外に方法はないでありましょう。
政府が、
生産物たる米について二重
価格制度を堅持されるおつもりがあるとするなれば、
生産手段たるところの
農地に対しても、二重
価格制度を採用されても一向おかしくないのであります。その具体的な方法については、公債を交付することもよし、あるいは
農民年金
制度とかみ合わせる方法もよし、方法の細部に関しては立ち入った検討を必要とするでありましょう。まず、本件について、
農林大臣の御見解を承っておきたい。
第二の
質問は、
農産物価格制度のあり方及びその決定の仕組みについてであります。
農業白書は、一方において、
米価の
上昇により
農家の収入が
増大し、農工間
格差が縮小したと誇らしげに述べると同時に、他方においては、米による収入と米以外の
農産物との
価格の相対関係が後者にとってますます不利となり、
畜産物、蔬菜等のいわゆる
選択的拡大が一向に進まないと嘆いているのであります。そして、米が五百万トン余ったとか、
食管の赤字が三千億円に達したとか大騒ぎをしたあげく、
生産者米価、
消費者米価のストップ令とか、
自主流通米とか、反間苦肉の策を弄して当面を糊塗しようとされているのであります。
そこで私は、
政府に、あるいは与党にお尋ねしたい。あなた方は、一体いつまで両
米価にストップをかけておくつもりなのか。また、
昭和四十四
年産米の
生産者米価は絶対に上げないのか、あるいは上げるのか。また、
自主流通米は
食糧行政の切り札であるかのごとくもてはやしているわけでありますが、総
生産量の一五%にも達する
自主流通米制度が全く無準備のままで
実施せられて、
食管制度の矛盾をうまくこれによって解消ができるとお
考えなのかどうなのか、そういう点を明確にお答えを願いたい。私は、いままでやられている方式というものは、いずれも苦しまぎれの小手先行政にすぎないと
考えるのであります。私は、そういうことよりも大事なことは、この際根本的に、全
農産物の
価格体系、その決定の仕組みそのものに真剣に検討を加えるべき時期にあると
考えるのであります。私は、その方法を、私ながらに簡単に示唆しておきましょう。
全
農産物を、
国民の必要度、
生産の事情等に応じて、国内においてあくまでも自給を必要とするところの戦略的
農産物と、必ずしもそうでない、国内自給を必要としないところの非戦略的
農産物に分類をいたします。そして、前者に関しては、
生産費
所得補償方式に
需給価格を加味した方法でもって
価格体系を改定して、これによって著しく物価
上昇に影響のあるものについては、十年とか十五年とかを限って国から
価格差補給金ないしは不足払い金を交付するものとして、しこうして、このようにして算定された
価格で
計画的に
生産し、
計画的に販売する
農業協同組合に対しては、管理
価格が形成できるような仕組みを案出することであります。戦略的
農産物としては、牛乳あるいは豚肉、鶏卵、おもな果実、蔬菜、
飼料等が該当しましょう。また、非戦略的
農産物は、この際思い切って輸入の
自由化をはかり、物価の引き下げに役立てるようにすべきでありましょう。多くの熱帯
農産物は、国内産と競合しない限り、
自由化することがよいと思います。また、
自給率二〇%に
低下してしまい、輸入数量五百万トンに達しております小麦その他麦類を、
政府は今後一体どう取り扱うつもりなのか。麦作
農家は生かさず殺さずという
考え方で進められようとしておるのか、明確なお答えを願いたい。私は、むしろ非戦略
農産物に編入して、麦作
農家の
転換を考慮すべき時期に来ていると思っておりますが、いかがでしょうか。
以上、私が申し述べましたように、
農産物価格政策を採用する以外に、ますます激化の一途をたどるところの米と米以外の
農産物間の
生産及び
価格のアンバランスを是正して、均衡のとれた
農政を展開する方法が、もしいま言った以外にあるとするなれば、
農林大臣から明確に私にお教えを願いたい。
農林大臣は、ただいま、
農業経営の
拡大のために
農地法を
改正して、借地農主義を取り入れようとしておられますが、これはすでに
農民自身が、以前において、請負耕作や裏作小作の
制度によってみずから
解決している問題であります。
政府が四十四
年度において講じようとする
施策のごときは、全く視野の狭い、官僚の作文行政以外の何ものでもないと私は思っております。天下の大政党をもってみずから任ずるところの自民党の諸君や、並びにこれを率いるところの佐藤
総理大臣及び閣僚諸公に、率直に、私は、これをこの際忠告をしておきたいのであります。
わが国をめぐるところの内外の
情勢を、活眼を開いて観察していただきたい。日本のGNP、
国民総
生産は、すでに世界の第二位にのし上がったといわれております。科学技術の進歩は、月世界へ人類を送り込もうとしております。いまや原子力の時代であり、エレクトロニクスの時代であります。企業に国境はなく、ますます国際化に向かいつつあるのであります。
政府は、一九七〇年を迎えるにあたり、経済の二重構造を徹底的に打開して、近代
農業の創設に全力をあげて取り組まねば、百年の悔いを残すことは明らかであります。そして、われわれには、それを可能とする力があるのであります。単に、
農業基本法農政とか、
総合農政とか、ことばの遊戯にふけっているときではないのであります。いやしくも
政治家たる者は、枝葉末節の行政に振り回される醜態はすみやかに清算をしなければならない時代であります。われわれ世代の者がなすべきときになさざるの報いは、われらの子孫にその犠牲をしわ寄せすることになるのであります。
そこで私は、
最後に佐藤
総理に伺いたい。
私が本日ここに端的に申し述べました
考え方を効果的に実現するには、現行の
農業基本法を
改正するか、あるいはヨーロッパ諸国が採用しているがごとき
農業基本法補完法の制定を必要とすると
考えますが、その決意ありやなしや、明確にお答えを願いたい。
もし、なしとするなれば、在来あなたがおっしゃっている、持論であると伝えられておる、
農業の安楽死を
意味するところのオール
兼業化が日本の
農村に実現することになります。そして佐藤内閣は、
農政に対しては、歴史に残る何らの仕事をしなかった内閣になるでありましょう。佐藤内閣は、ひとり沖繩問題に限らず、
農業においてもまた選択の岐路に立つものといわざるを得ないのであります。
私は、
総理の真剣な御答弁を
期待して、降壇するものであります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕