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辰己説明員 これまでの
局長の御答弁によりまして明らかになったものと思いますが、なお補足的に御
説明を申し上げます。この
法案五十六条と
現行令の五十三条との対比につきましては、立法技術的に、解釈的に三つの問題があろうかと思っております。
その一つは、
法案五十六条二項の各号、それから
現行令五十三条二項の各号というものを、反対論者は順番が書いてあるのだというふうに言うのでございますが、これは荒唐無稽でございます。
法案の五十六条の二項には、「次に掲げる国のいずれかを送還先に指定することができる。」のであり、
現行令五十三条におきましても「左に掲げる国のいずれかに送還されるものとする。」ということでございますから、そこに一番最初に書いてあるから一番で、一番最後に書いてあるから
あと回しだというようなことはないわけでございます。この点が、第一点として明白にしておかなければならない点だと思います。
第二点は、第五十六条の第二項は「
地方入国管理官署の長は、」「送還先に指定することができる。」と書いてある。ところで、
現行令五十三条はだれがするということは書いていなくて、「されるものとする。」と書いてある。だから、
地方入国管理官署の長がかってに指定をするのだという非難があるやに聞いておりますが、これは次に申し上げるような事柄から、当たらないのであります。と申しますのは、
退去強制をされる人は、
法律上
日本に置いておけない、好ましくない
外国人であります。それを
国外に出すのでございますが、この
法案におきましても、
現行令におきましても、領海の外に追い出せばいいということにはなっておりませんで、御丁寧にも
日本の国費をもちまして送還先の相手国にまで届けるという、世界にあまり例がないのでございますが、非常に親切な
規定であります。でありますから、相手先に届けなければならない場合において、送還をする官憲のほうでどこに送るかということを指定するのは当然であります。
現行令五十三条二項で見ますと、抽象的に「されるものとする。」と書いてありまして、だれがきめるかさっぱりわからない。そして
現行令五十二条の三項に見ますと、五十三条二項に
規定したところに帰すというふうな形に書いておりまして、
手続的に明確ではない。それでこの
法案におきましては、五十五条の三項におきまして、
退去強制令書にはっきりと送還の方法、送還先を書くということにしたわけでございます。そしてその令書を相手方に執行する際には示さなければなりませんから、送還先が自分の意思に合っていない、気に食わないということであれば、行政訴訟も起こせるというふうになるわけでございますが、かようにはっきり
退去強制令書に送還先を書かせる。そして書かせる以上は、それをだれがきめるか、
退去強制令書を発付する
地方入国管理官署の長が指定をするのだというふうにしたわけでございまして、その指定が役人の独善に流れる、役人が独善的にやるというだけで「指定」としたわけでないことは、おわかり願えると思います。
第三点は、その指定が、それでは
現行令五十三条の二項のように「本人の希望により、」ということが抜けてしまったから、本人の希望も聞かずして指定されるのではないか、こういう反対論があります。それにつきましては、先ほど来
局長及び
大村先生から十分御理解のある
お尋ねがあったわけでございますが、
現行令のように「できないとき」という絶対不能ないしは客観的な不能というものにふくらみをつけまして、「送還することが適当でないと認めるに足りる相当の事情があるとき」というふくらみをつけております。しかも、そのふくらみは「適当でないと認めるに足りる相当の事情があるとき」という表現でございますから、客観性を帯びているわけでございまして、
地方入国管理官署の長が主観的に適当でないと認めるわけにはいかないわけでございます。そういたしまして、「送還することが適当でないと認めるに足りる相当の事情があるとき」というふうにふくらめましたがために、「できないとき」という客観性、絶対不能というものがふくらみまして、本人の希望が一番重要な要素として当然に含まれて第一項ではだめで第二項にいくということでございますから、まさに本人の意思ないし希望
——それは政治的な迫害が待っておるから帰りたくない、あるいは自分の本国はAという国であるが、自分の親族がBという国にたくさんいるから、そちらのほうに帰してもらいたいという意思というものが、まさに今度新しい
法案に入れましたふくらみによって解決されるわけでありまして、人道的な
見地に立っているということは明白であります。
ただ、ここで問題としてちょっと申し上げておきたいのは、本人の意思によりすべて送還先が決定されるというものでは、
退去強制の本質にかんがみてあり得ないということであります。
日本に一番近くの国から
日本に不法にやってきまして、それが
日本から一番遠い、いい国に送還してくれと言われましても、
局長から御答弁がありましたように、その相手国がそれを引き取らなければどうにもならないわけであります。また、その本人がそれを希望するに足る客観的な事情、すなわち迫害があるとかあるいは親族がそちらにいるとかいう事情がない限りは、単純な意思だけで送還先が指定されるものではないということは、これまた一面明らかであると思います。蛇足を加えたようでございますが、以上でございます。