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大川参考人 私はただいま御
紹介を受けました
全国肉用牛協会の
専務理事をしております
大川でございます。
中共食肉の
輸入につきましては、一月三十日
全国酪農農民決起大会におきまして、また二月六日
全国肉用牛生産者代表者大会、また二月十七日に
養豚家研修中央大会におきまして、それぞれ
輸入反対決議をいたしております。また、
中央畜産会、全販、全酪その他
畜産の
生産に
関係ある十数団体が
反対決議をいたしておるわけでございます。それで、ここにさらに私
どもは
輸入反対を表明いたしますとともに、その
理由につきまして
説明させていただきたいと思います。
われわれ
生産者にとりましては、
中共食肉に限りませんで、いろいろ
外国から肉が入りますときに気になりますことは、その
輸入量と
価格がござます。その上にもう
一つ、われわれが重大な
関心を持つものは
伝染病でございます。最近の
わが国の
食肉事情を考えてみますと、その
輸入もある程度はやむを得ない面もあるかとも思います。しかし、
事伝染病に至りましては、
国内の
生産に重大な
影響を及ぼすものでございますから非常に
関心を持たざるを得ないわけであります。特に今回の
中共食肉輸入の
問題につきましては、
口蹄疫という
病気が入るおそれがあります。それはその
伝染力の強いこと、それからまたその早いこと、それがしかも
乳牛とかあるいは肉牛、それから豚及び
綿山羊、いわゆるつめが二つに分かれている
家畜でございますが、そのすべてに伝染するといわれております。これを飼っている
農家は
日本では約二百二十万戸、総
頭数、
延べ頭数にいたしますと八百万頭もあるわけでございます。こういうおそろしい
伝染病であるということは、私がここでいまさら申し上げるまでもなく
皆さま御
承知のことと思います。
もしその
口蹄疫の侵入が
わが国にありましたらどういうふうな結果になるかということを考えてみますと、非常にそらおそろしいものを感ずるのであります。それで、その被害の惨状、
農民に与える心理的な不安、こういうことは、
イギリスで一九六七年、一昨年でございますが、集団的に
発生いたしております。そのときの
農村、そして
イギリス国家がとったいろいろの
措置につきましては、四十二年のこの
アサヒグラフの中に非常に詳しく出ております。
農家はこの
病気をおそれまして、外へ出入りすれば外から
病気を持ち込むのじゃないか、
子供を
学校へやれば
学校からその
病気がうつってくるのではないかということで、家にじっと閉じこもって、数カ月も社会から隔絶した
生活をしなければならない。また、国家的に見ますと、不必要な旅行はやめなさい、あるいはまた
畜産のあらゆる大きな催しものについてはやめなさいというような警告を発する。こういうような社会的な、あるいは国家経済的な非常な不安というものがここに非常に詳しく書いてございます。もし機会がございましたら御一読願いたいと思います。
イギリスは
口蹄疫の非常な
汚染国でございまして、
農家の
知識も、また
理解度も非常に深い国でございます。また、先ほど
入江さんからもお話がありましたように、
イギリスは
防疫体制の完備した国であります。そういう国でさえそういう
実態であるわけなんです。それがかりに
日本に起こったらどういう
実情を招来するかということを想像してみますと、私は非常におそろしいものがあると思うわけなんです。
日本の
農民はいままで
口蹄疫の
経験はございません。少なくともいまの
農家の人は全然知らないと思います。それからまた
防疫体制にしましても、そういう
経験がないものですから十分だとは私は思いません。そういうところへ一時に入ってきたらどういうことになりますでしょうか。私は非常におそろしいものがあるのではないかというふうに考えます。
そこで、これは余談でございますけれ
ども、私の
子供のころでございますが、
口蹄疫にまさるとも劣らないような
牛肺疫という
病気が、
大陸方面から
昭和八年ごろ
日本に入ってきたことがあることを記憶しております。私の姉は
牛乳屋に嫁に行っておったわけなんですが、その
牛肺疫が
日本一円に蔓延したとき、私の姉の家の
乳牛二十数頭が町はずれの
川原に連れていかれまして殺されまして、それで焼かれる。その
実態を見まして、私の義理の兄はへたへたと
川原の石の上にすわり込みました。私はたまたま遊びに行っておってそういう
情景にぶつかったのですが、そういう
情景がいまでも目に浮かびます。そういうふうな
実態は
農民にどんなに衝撃を与えるか。これは経済とかあるいは社会的な
問題以上の社会不安を
農村にもたらすものではないかというふうに私は考えるわけなんです。これは安かろうとか高かろうとか、あるいはまたそのものが足りるとか足りないとか以前の、もっともっと重要な
問題ではないかというふうに私は考えます。
それで、こういうふうなところで、私
たちは
生産者に
関係する
立場の者としまして、二百二十万戸のそうした偶蹄類の
家畜を飼っている
農家と、それからいままで営々として築いてきました
日本の
畜産というものを守るために、絶対にこの
輸入に反対せざるを得ないわけなんです。
そこで、最近新聞紙上とかあるいはいろいろの
記事を読んでみますと、第三次
訪中調査団のいわゆる
田中報告書というものを根拠にいたしまして、そしてその
口蹄疫の有無に言及し、
輸入を促進したいような
記事をたまたまよく見ることがございます。しかし、私はこの
問題は非常に重要だと思います。私は、その
報告書の
内容等につきましても、各界の人の御
意見に耳を傾けてまいりました。そして私はその中で、いろいろ聞いてまいりましたおも立った人の
意見を述べてみたいと思います。
その中で、
生産者として最も考えなければいけないことは、
昭和四十一年十月に
わが国の
獣医界の
権威者である人が二十一名お集まりになりまして、
田中報告を含む
中共の
衛生状況ということについて
検討懇談会を持たれたというふうに聞いております。その
会議の
結論といたしましてどういうふうな
結論が出ているかと申しますと、
中共の
家畜衛生状況というものは想像以上に改善されてはいるものの、特に
口蹄疫については、その
疫学的特性からして、
わが国に対する
安全性は必ずしも十分に確保されているとは言いがたいというふうに私は聞いております。
またここに「
アジア農業」という本があります。これは
アジア農業交流懇談会から出ておる本でございますが、その四十三年十月の六巻十号の中の
座談会で、
田中報告を書かれました
田中先生が言っておられる
記事がございます。その中に、一九六二年に
中国の
辺境地区で
発生した
口蹄疫がどういう型のものであって、どうしてなくしたかと私は尋ねましたところ、なくなったということについては若干教えてくれたけれ
ども、どういう型であったのか、現在
予防注射にどんなワクチンを使っているかについては絶対に教えてくれなかった、このことは
防疫の
立場から一番聞きたいとろであって、その点が疑問のままに残っている、その辺が最大の
問題なんですというふうに述べておられる
記事がここに出ております。
いま
一つは、私
どもは
農村医学会の会長をしております
若月俊一先生をお呼びいたしまして、第二
議員会館において
講演会を開催いたしました。そのときに
若月先生は、
日本ではいま
問題になっていないけれ
ども、
ヨーロッパでは
口蹄疫は
農村医学の
立場から非常に重要だ、それで、おとなにはそう
感染率は高くないし、うつってもそう重くはならないけれ
ども、
ヨーロッパでは
子供が親のしぼったなまの
牛乳を飲む、そうしますと乳幼児がそれにかかる、かかったときにはその治療の手がない、
死亡率は二八%に及ぶ、今後
口蹄疫が入ってくるようなときには、
日本でも
農村医学会においてそれを取り上げなければならないというような趣旨の講演をお話しになったのを私はこの耳で聞いております。
そういうふうにいろいろ各界各
方面の
意見を聞きまして、私は考えるのでございますけれ
ども、
家畜衛生の基本というのは予防
衛生にあるわけなんです。
病気になって、金を注いでなおしてからこれをまた使うのだというような、人間とはまた違うわけなんです。なる前にそれをならないようにするのが
家畜衛生の基本であるわけです。法律は人を守るためにあって、疑わしきは罰せずというふうにいわれております。
家畜衛生におきましても、予防
衛生の見地に立てば、疑わしきは入れずなんです。ですから交通を遮断しまして、人を入れないようにするとか、全部やるわけです。
イギリスの
農民にいたしましても、外へ出れば人からうつって持ってきやせぬか、あるいはまた人が来れば自分のところへ持ち込みはせぬかということで、立ち入り禁止の立て札を
農家自身が立てるほど
イギリスの
農民は発達しておりますけれ
ども、そういう疑わしきは入れずということが
家畜衛生の基本的姿勢でなければならないと思うわけです。ですから、いまの各界の
意見を聞いてまいりますと、私はうしろに二百二十万の
農家とそれだけのなまの
家畜をかかえておって、そしておそらくないだろうと思う、おそらく
発生は見ていないだろうというあいまいな根拠で牛を入れられたら非常に困ると思うわけなんです。この牛が入ることによって
日本の
畜産がどのようになるか、あるいは
農家がどういうふうな
立場に追い込まれるかということをよく考えていただきたいのであります。
先ほど私の姉の家の例を引用しましたけれ
ども、
牛肺疫で牛二十数頭を焼き殺されましたその
あと、だれがめんどうを見てくれたでしょうか。もとへ回復するのに十数
年間を要して、戦後ようやくもとの
状態に返ったくらいです。一たびこれがつぶれてごらんなさい。回復するのに長い年月を要するのじゃないかと私は思うのです。そういう意味におきまして、疑わしきは入れず、これが
家畜予防
衛生の原則であって、この原則を行政の
方面においてもあくまでも堅持していただきたいというのがわれわれ
生産者の願いであります。
それで
最後に、私
ども生産関係者は、消費者の方々に低廉な肉を食べていただくために、日夜営営として増産に努力いたしております。百五十五万頭の牛が、四十三年度統計によりますと百六十六万頭にふえております。最近の総合農政のブームもございましょうけれ
ども、増産意欲は非常に高まっております。そうして消費者の方に安い肉を供給していけるように努力しているわけでございます。しかしながら、一方で総合農政を唱えながら肉を
輸入してくる。
輸入一辺倒の、安易なる
輸入に依存して、そうして
農家の
生産意欲に水をぶっかけておって、長い展望の上に立てばそれに大きな期待が持てますでしょうか。いま国際的な
食肉需給を見ますと、
食肉全体で六千万トン、そのうち牛肉が三千万トン、その
生産の
状況は、その三千万トンを境にしてふえたり減ったりしておるような
状態、その三千万トンの中での
貿易量というのは百五十万トン前後、先年なんかはアルゼンチンの気象的条件とかあるいはオーストラリアの干ばつによって、百三十万トンくらいの
貿易量に減っている、その
貿易量の約七、八〇%というものは特定五カ国によって独占されている、
あとの二十数%がその他の国によって
貿易されているような
状態で、
食肉需給
状態は決して楽な展望には立てないわけなんです。ですからもう少し
国内の自給率を高め、そのために
国内の
生産対策というものをもう少し強化していただきまして、そして長期的展望に立った対策をこの席を借りてお願いしたいと思います。
終わります。