○森本
委員 私は、日本
社会党を代表して、
簡易郵便局法の一部を改正する
法律案に反対の意を表明するものでございます。
申すまでもなく、
郵政事業は
国民の日常
生活に密着したきわめて
公共性の強い事業でございます。これが国営事業として経営されてきたゆえんも、事業本来の
公共性によるものと存じます。したがって、その役務は国が責任をもって直接提供すべきは当然でありまして、わが党は、かかる観点から、
簡易郵便局については、たとえその
受託者が
地方公共団体や農協など非営利
団体であっても、
国民に対する国の責任をあいまいにするものとして、
制度そのものに反対する立場をとってきたのでございます。もともとこの
制度は、
昭和二十四年当時の要員
事情や事業財政の都合などから便宜的な措置として
考え出されたものでありまするが、その間の
事情を一応参酌するといたしましても、
郵政事業という
国民と結びつきの強いこうした大事な事業を便宜的に取り扱い、国の責任をあいまいにすることはとうてい許されないところでございます。へんぴな
地方といえ
ども窓口機関の
設置が必要であるなら、国の
直轄下に
郵便局またはその分局を
設置すべきであるというのが、われわれのかねてからの主張であったわけでございます。
しかるに、今回のこの改正案は、われわれが指摘している点を改めるどころか、かえってこの
制度を拡大し、
個人にまでその業務を委託しようというのでありまして、わが党としては、その本旨においてとうてい容認しがたいものがございます。
個人委託そのものがいろいろ矛盾や欠陥を含んでいるものでございますから、以下、数点にわたってこれを明らかにしておきたいと思うのでございます。
その第一は、
個人委託はかつての請負
制度の悪弊復活につながるおそれが十分にあるということでございます。
昭和二十四年、
簡易郵便局法案の審議の際、政府は逓信
委員会において、戦前の
特定局における請負
制度については
非難が多かったので、
個人への委託は認めないことにしたという趣旨の答弁を行ない、当時、みずから請負の弊害を自認していたのでありますが、今日政府は
社会事情の変化等に籍口して
個人請負
制度を復活させようとしているのでございます。同じ系列の自由民主党政府として、国会と
国民を愚弄するもはなはだしいものであるといわなければなりません。
郵便局の請負
制度は、戦前戦後を通ずる従業員の長い苦難と闘争のあとにようやく廃止されるに至ったものでありまして、今日また事業の一角にその復活のきざしがあらわれたということは、まことに憂慮すべきことでございます。極言すれば、時代逆行であるとも言えるのでございます。
第二は、業務の
個人委託は利用者に不安や不便をもたらすものであろうということでございます。
改正案によりますと、
個人受託者は「十分な
社会的
信用を有し、かつ、
郵政窓口事務を適正に行なうために必要な能力を有する
個人」になっておりまするが、この規定はまことに抽象的でありまして、その具体的な内容については、われわれの
質問に対する政府側の答弁によってもいささかも明確になっておりません。これでは
国民を納得させることはとうていでき得ないのでございます。極端な言い方をすれば、欠格事項に該当しない限りだれでも
受託者になれるとさえ受け取れるのでございます。大切な
窓口事務を委託すべき
個人の資格がこのようにあやふやなものであっては、
国民が安心をして利用できないのは当然でございます。
基本的人権として憲法で保障されている通信の秘密ははたして守られるのかどうか、貯金や保険等の現金の取り扱いを安心してまかせられるかどうか、そういう不安が絶えないのでございます。さらに、
窓口事務の取り扱い時間も問題でございまして、
簡易郵便局の取り扱い時間は「週三十時間を下らない範囲で定める」こととなっておりまするけれ
ども、一日何時から何時までとはきめられていないのでございますから、
地方公共団体等が
受託者になっている場合はまだしも、
個人受託の場合においては、この取り扱い時間が
受託者の意向によってきめられるおそれは多分にあるわけで、これでは利用者の利便はとうてい確保できないのでございます。
第三は、
個人委託は事故、犯罪の増加を来たすおそれが多分にあるのでございます。
制度創設以来今日までの二十年間における
簡易郵便局の犯罪件数は百九十七件で、その被害総金額は約四千六百五十万円となっておりますが、これは
受託者が
地方公共団体等に限られていた場合の数字でありまするから、
受託者に
個人が加わることになれば、犯罪は勢い増加を免れないと思われるのでございます。一方、
簡易郵便局に対する監督について見ますると、第一次には集配局の長及び
地方監察局の監察官がこれに当たることになっておりまするが、とれまでの
実情は、集配
局長による監査指導は年四回
程度にとどまり、監察官による定期考査は二年に一回
程度しか行なわれておらず、また、随時行なわれる特別考査も年間全
簡易郵便局の五%くらいにしか及んでいないのでございます。このような状態では、
簡易郵便局の監督に万全を期し得ないのは当然でありまして、
個人受託の場合に備える犯罪防止の体制としてははなはだしく不十分であるといわざるを得ません。犯罪と並んで事故件数も大幅に増大するであろうと見られますけれ
ども、この点についても格別の用苦心があるともいえないようでございます。
第四は、
簡易郵便局の置局の
実情及び
手数料に関してでございます。
制度発足以来今日までの間に
簡易郵便局は三千七百十二局
設置され、四百八十五局が廃止されております。この五百局近い
廃止局の廃止事由には、市
町村合併や鉱山の廃鉱等、環境条件の変化によるものもございまするけれ
ども、取り扱い
事務量僅小とか維持困難とかいうものが二五%にものぼっておるのでございます。
一方、
簡易郵便局の
手数料の実績を見ますると、
昭和四十二年度においては一部に月額十万円近い高額の
手数料を得ている
簡易郵便局もございまするけれ
ども、平均は月額二万二千円足らず、最低はわずか一万三千円
程度で、ほとんど
基本料のみというものもございます。このように
手数料収入が少ないということは、
団体受託の場合と違って
個人受託の場合は直ちに行き詰まってくるわけでありまして、せっかく
簡易郵便局が
設置されてもすぐに廃止を余儀なくされるケースが出てくることも十分予想されるのでございます。また、このように
手数料収入が少ない場合には、
受託者の業務意識が薄れ、
サービスも怠りがちになることもあり得ることでありまして、いずれにせよ、
個人受託には相当の無理があるといわざるを得ないのでございます。
また、いわゆる再委託の問題もございます。
事務再委託はもちろん法律違反でありまするけれ
ども、今日すでに事実上の再委託か相当数にのぼっていることは
質疑の中でも明らかなとおりでございます。この改正案は、この法律違反の再委託を合法化するためのものであるといわざるを得ないのでございます。こうした疑問をおくといたしましても、
個人受託はこれに拍車をかけ、場所によっては
簡易郵便局の委託が一種の利権化する可能性さえもあるのでありまして、この意味からも
簡易郵便局制度を現行以上に拡大することはきわめて不当と断ぜざるを得ないのでございます。
以上、本改正案に対するわが党の見解を明らかにして、私の絶対反対の討論を終わるものでござ
います。