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1969-06-11 第61回国会 衆議院 大蔵委員会 第36号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十四年六月十一日(水曜日)     午前十時三十六分開議  出席委員    委員長 田中 正巳君    理事 金子 一平君 理事 倉成  正君    理事 毛利 松平君 理事 山下 元利君    理事 渡辺美智雄君 理事 只松 祐治君    理事 村山 喜一君 理事 竹本 孫一君       伊藤宗一郎君    大村 襄治君       奧野 誠亮君    笹山茂太郎君       正示啓次郎君    田村  元君       地崎宇三郎君    辻  寛一君       中村 寅太君    西岡 武夫君       本名  武君    村上信二郎君       吉田 重延君    阿部 助哉君       井手 以誠君    久保田鶴松君       佐藤觀次郎君    平林  剛君       広沢 賢一君    広瀬 秀吉君       春日 一幸君    田中 昭二君       広沢 直樹君  出席政府委員         大蔵政務次官  上村千一郎君         大蔵省主税局長 吉國 二郎君  委員外出席者         参  考  人         (日本税理士会         連合会会長) 前田慶四郎君         参  考  人         (全国青色申告         会総連合税制委         員長)     茂木 誠陸君         参  考  人         (中小企業政治         連盟会長)   棚橋 元治君         参  考  人         (東京大学法学         部教授)    金子  宏君         参  考  人         (日本大学法学         部助教授)   北野 弘久君         専  門  員 抜井 光三君     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  国税通則法の一部を改正する法律案内閣提出  第三〇号)  国税審判法案広瀬秀吉君外十一名提出衆法  第四号)      ――――◇―――――
  2. 田中正巳

    田中委員長 これより会議を開きます。  内閣提出国税通則法の一部を改正する法律案及び広瀬秀吉君外十一名提出国税審判法案を議題といたします。  本日は、お手元に配付しております名簿のとおり、参考人方々の御出席を予定いたしております。ただいま日本税理士会連合会会長前田慶四郎君、全国青色申告会連合税制委員長茂木誠陸君、中小企業政治連盟会長棚橋元治君が御出席になっております。  まず、参考人方々より、両法律案につきまして御意見をお述べいただき、その後質疑に入りたいと存じます。  それでは、まず前田参考人
  3. 前田慶四郎

    前田参考人 私、日本税理士会連合会の副会長をやっております前田でございます。ただいまから本委員会におきまして、参考人として税理士会意見を聞いていただくわけでございますが、それに先立ちまして一言触れさしていただきたいと存じます。  それは、納税者権利救済に関する法案がここに政府案社会党案二つそろって提出される運びになった原因と申しますか、原動力と申しますか、それは、社会党横山先生を中心に研究されたといわれます国税審判法案議員提出法案として前国会に上程されたことであるということで、納税者権利救済制度に関心を持つ国民の一人としまして、このことを心から喜んでおる次第でございます。  さて、両法案に対する意見を申し上げる前に、その内容とするところの納税者権利救済制度に関する当税理士会連合会考え方とその審議経過などを多少述べさしていただきたいと存じます。  もともと、当税理士会連合会におきましては、納税者権利救済制度については政府税制調査会審議と大体時を同じゅうして、会長諮問機関である税制審議会という機関諮問いたしまして、その答申に基づき当会正式意見決定して、これを関係筋に進達したのでございます。ですから、慎重審議する時間的余裕をいささか欠くうらみがあったのでありますが、そのねらいはもちろん税制調査会審議にも当方意見を大いに反映させたいということでありました。したがって、意見書内容税理士会のビジョンを打ち出すというものではなく、実現可能なものだけを取り上げたという性格のものであったわけです。その後税制調査会答申が発表になりましたので、当連合会全国十三の税理士会のさらに深い研究の成果を集約しまして一つ意見にまとめ、第二次意見書としてこれを再び関係筋提出したのでございます。国税通則法の一部を改正する法律案提出されました現在におきましても、日本税理士会連合会意見は基本的には当初と変わっていないのであります。  以下簡単にその内容を説明してみたいと存じます。  まず、第一次意見書では、その前文で、「課税処分の不服に対する問題は、現在はまだ適切とは認められないから改善しなければならない。そのためには納税者税務官庁とが対等の立場腹蔵なく意見を交わし、問題を正しく、かつ、迅速に解決し得るような不服審査制度の整備が必要である。」としているのであります。すなわち、納税者権利救済事前と事後の二つに分けまして、まず事前照会回答制度更正処分予告制度によって更正処分乱発を防止し、次に更正処分後は第三者的性格審判機関の設置によって納税者権利を救済しようということでございます。この趣旨は、納税者税務官庁とが対等の立場腹蔵なく意見をかわすというところに重点が置かれておるものでありまして、無用の摩擦はあくまでこれを避け、相互不信の空気をこの際一掃しようという意図にほかなりません。あわせて予防医学的効果、すなわち更正処分乱発を防止するという、そしてまた、その結果健全な申告納税制度実現するという役割りをも考慮したものであります。  次に、第二次意見書では、第三者的性格を持った救済機関として、国税不服審判所制度重点的に取り上げられ、ほかに政府原案に取り入れられることを希望する当面実現可能と目される事項が二、三盛られたのでございます。不服申し立てに対する一時的見直し制度をそのまま残そうとする課税当局方針が明らかにされた現在、当然重点不服審判所制度に移らざるを得ないのであります。  以上が納税者権利救済に関する連合会考え方でありますが、以下政府原案内容について当方意見と対照させながら、少しく説明を加えてみたいと思います。  まず、裁決機関についてでございますが、政府案は、第七十八条関係でございますが、税調答申どおりであり、国税不服審判所国税庁付属機関として設けることになっております。そのいきさつは、税の賦課徴収国税庁がやっている。行政統一的運営という面からも、全然税務行政機関と離れた別個のところでやるのは適当ではない。通達批判という関連も含めて、行政段階での第三者的機関としてはそれが一番適当だろうということになったと聞いております。当連合会としましても、裁決機関としては準司法機能を持つ独立機関が望ましいのではございますが、一つには税務に関する執行機関裁決機関相互の紛争、二つには人事の問題、三つには行政責任及び行政統一性等を総合勘案しまして、執行系統からは独立した機関が当面実施可能性があるものとして適当と認めたのでございます。その機関大蔵省付属とし、名称行政機関としての性格を明確にするため、「審判」とせずに「審査」という文言を用いることといたしました。所轄の点で、当会意見政府案と相違するのでございますが、政府案の第七十八条第二項の規定は一応の配慮がうかがわれまして、また、政府案を現在の協議団制度と比べますれば、国民に及ぼす利益というものははるかに大きいものがあるというふうに私どもでは考えておるのでございます。また、同条第五項の規定は省令に委任されてつまびらかではございませんが、運営に関して必要事項については十分の配慮が望ましいと考えております。  次に、事前照会回答制度でございます。この問題は税調答申にもありますように、「すでに一部では実施しており、なお、できる限り書面回答を行なう慣行を育成することが望ましいと考える。」というのですから、この際実施可能なものから実行していただきたいと考えております。  次に、更正予告制度でございます。申告納税制度の健全な発達は官民相互信頼関係を無視してはとうてい望み得ないのであります。ためにする悪意の納税者はしばらくおくとしまして、善意の無知の納税者に対しては、むしろあたたかい心をもって育成すべきではなかろうかと考えております。すなわち、更正処分を行なうにあたっても、納税者がその理由を納得した上ですることが相互信頼に基づく税務行政だといえると思います。その意味で、ある日突然、全く突然に更正通知が舞い込んでくるということははなはだおもしろくないのでございます。そんなとき、あらかじめ問題点についての話し合いの機会さえ与えられておったとするならば、更正というやっかいな手続は生じなかっただろうという場合がかなり多いのでございます。更正は、手続がめんどうなだけではなく、納税者に与える心理的な不快な影響がきわめて大きいことを特につけ加えさせていただきます。この問題は、政府案制度上は意味がないようでございますが、税務行政精神の中に生かしていただきたいと考えましたものですから、あえて申し上げた次第でございます。  次は、審理のための調査権の問題でございます。審判所直属調査官を置かないで、事実審理調査課税処分庁に委任するのであれば独立性が薄れることと思います。よって、審判官等調査権執行機関の職員に委託せず、審判所審理官等を置いて独自の立場調査すべきではなかろうかと考えます。また、審判官質問検査権を与えていますが、参考人にこれを適用し、質問に応じない場合の罰則の適用はいささか筋違いではないかと考えられますので、そんなおそれはないとは思いますが、慎重な御配慮をお願いしたい、こういうふうに考えております。  次に、審理のやり方として、税調答申のごとく、「見過ごされた事実の発見されたときは、請求人の主張には制限されないものとする。」といとことが誇張されて、救済制度の本旨を失するこうのないように強く要望したいのでございます。裁決における政府案九十八条の第二項の変更個所、または不利益変更はできないとする規定との関連においても、十分に御考慮をお願いしたいところでございます。  そのほか、こまかい点がございますので、これを条文にわたって指摘するだけにとどめておきたいと思います。  政府案条文の中で第七十八条の五項でございます。「国税不服審判所組織及び運営に関し必要な事項並びに支部の名称及び位置は、大蔵省令で定める。」という規定がございます。この点につきまして、あとで出てまいります条文とのからみ合いでバランスがとれないのではないかと考えますので、御考慮を願いたいと思っております。それは百条の九項でございます。「国税審査会組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。」こういう規定がございます。これとバランスがとれないのではないかというようなことをちょっと考えております。  そのほか条文としましては、九十六条の二項の「第三者利益を害するおそれがあると認めるとき、その他正当な理由があるとき」というような文言が使われておりますが、こういう点はひとつ御審議のときに明らかにしておいていただきたい、こういうふうに考えております。  なお、こういう個所は、九十七条の第四項の「国税不服審判所長は、審査請求人等審査請求人と特殊な関係がある者で政令で定めるものを含む。)」という個所にも見られております。  はなはだ恐縮でございますが、社会党案のほうをちょっとごらんになっていただきたいと思いますが、第四十四条の利害関係人調書閲覧権個所でございます。こういう規定はわれわれ納税者、特に税務の実務に携わるわれわれとしましては、特に望ましい規定ではないかというふうに考えております。  なお、五十四条の差別的取り扱いの禁止、こういうような規定も実際仕事をやっておりますと、なるほどそういうようなことがあるんだなというような感じを受ける場合がございますので、こういう規定なども精神としてぜひとも生かしていただきたいように考えております。  以上申し述べましたとおり、細部にわたってはなお疑念がないではございません。政府案国民の信頼し得る最高のものとは当連合会としても考えてはおりません。しかしながら、納税者と直結し、納税者を援助して適正な納税義務実現をはかることを職責とする税理士立場としては、納税者にとってどうすることが利益になるかをまず考えるべきであり、政府案中には社会党案精神原動力となって生かされているのではないかとも考えられますので、政府案実現可能なものであれば現時点においては満足するもやむを得ないのではないかというふうに考えます。現在は、国民利益はまず法案が成立することによって約束され、それは早いほどいいということをわれわれは考えるのでございます。実現可能なものから漸進的に改善していき、やがて理想のものに育て上げる忍耐と努力とが必要である、こういうふうに考えるものでございます。  ともあれ、納税者権利救済前提として考えた場合、政府案に対しまして当税理士連合会現時点に関する限り賛意を表し、ぜひともこの法案が成立されることを願うものでございます。  御清聴まことにありがとうございました。(拍手)      ――――◇―――――
  4. 田中正巳

  5. 茂木誠陸

    茂木参考人 私、茂木でございます。  私は、納税者立場からいろいろお話を申し上げてみたい、こう考えております。大体ただいまの税理士会の御意見に私は賛成でございますが、実務的にこういう点が現在こうなっておる、さらに今回の改正法によりまして、われわれ納税者としますと一応満足とまでまいりませんけれども、やや満足すべきところまで来ているのではないかというような観念から、前提としましては現政府案賛成ということで意見を開陳してみたいと思います。  まず、今日の税務署国税局国税庁のあり方、したがってこれから派生しますところの納税者に対する調査異議申し立て審査請求、これらにつきましては私は数年、いやもっと前からいろいろな疑念を持っておったものでございます。特に税務署調査の結果の裁決に際しまして、異議申し立て、不服の申し立てをすることができる、これは当然でございますが、その場合にこれを再調査するのはどこの行政機関であるかというと、現在は税務署でございます。税務署裁決したものをまた同じ税務署で再調査をする、はなはだしきは同じ税務官吏がまた調査をする、こういうような事例がたくさんあるわけでございます。そういう意味におきまして、私はいまの異議申し立て不服申し立てに対する税務署裁決、これは実はむしろないほうがいいではないか、税務署を飛び越えたいまの審査請求でございますが、現在でいえば協議団協議団審査請求をすることによって税務署とは違った観点から、もちろん違った行政官から裁決を仰ぐというほうがすぐれてはおるのではないか。こういう意味で私は現在の異議申し立ての方法に疑念を持っており、これが改正としては審査に持っていくべきではないか、こういう考えを持っておりましたが、実は青色申告をします個人、法人、いずれも税務署に対する異議申し立てを飛び越えて審査請求ができるわけでございます。  私、実は青色申告税制委員長という役をやってはおりますが、本職は税理士でございます。したがって、こういった異議申し立てあるいは審査請求という事案をしょっちゅう取り扱っておる――しょっちゅうというと誤弊がございますが、それほど税務署決定に対しては納税者が納得のいかない決定がときどきある、こういうことでございます。その際に当然のこと、青色申告でございますと、私は、税務署裁決を仰がずにいわゆる異議申し立てをしないで審査請求に持ってまいります。そこで審査請求の結果はどうかと申しますと、協議団の現在の組織というのは国税局付属しておる、ただいいのは、税務署と違いまして、少なくとも三人以上の協議官協議の結果、結論を出す、これを国税局長裁決をする、最終的な判断を下すわけでございます。この点は税務署異議申し立てに対する裁決よりは一段と進んでいると思いますけれども、税務署もやはり国税局の一部なんでございます。協議団もやはり国税局の一部である。そうしますと、税務署決定に対して協議官というのが感情的に、あるいは人事交流の面からいきましても、こういう問題があります。たとえば、今日の協議官があしたは税務署の課長になり、あるいは署長になる、今日の税務署員があしたは協議官になる、こういったような人事交流が行なわれております。そういったような人事交流のもとにおける税務署協議官、この間で公正妥当の結論を期待するということが少し無理ではないか、こんな考えもしております。ただ、現在、協議官で行なわれております――つい最近の問題、数年来の問題でございますが、最近の協議官による協議の結果、いわゆる、裁決というのは比較的公平である。しかも税務署と違いまして、調査能力と申しますか、はなはだ失礼ではございますが、税務署員よりは協議官のほうがはるかに調査能力がすぐれております。時間的な制約がございません。幾日かかろうが、何カ月かかろうが、はなはだしきは長くて困る、二年もかかったというような例もございますが、しかし、時間をかけ、人間の手数をよけい使うだけに、最終的には比較的公平妥当と思われる結論が得られるのではないか。こういう意味で、現行の協議団制度には私はまるまる反対というわけじゃございませんが、先ほど申し上げましたように、国税局長が最終的の裁決権を持っておるというところに疑問があるわけでございます。  今回の国税通則法の一部改正案によりますと、国税不服審判所を設けようという、これに私は大賛成なんでございます。なるほど、社会党案によりますと、今回の国税不服審判所制度も、第三者的な立場からほんとうに公平妥当の判断が下せるかという点で疑念があるから、これを国税審判所でございますか、というような制度を設けて、全く別個のものにしたらどうか、私はこれは理想だと思います。もちろんけっこうだと思うのでございますが、先ほど、税理士会前田先生のおっしゃいましたように、即座に実現ということにはいろいろな困難があるのではないか、やはり一歩、二歩前進すべきではないかという意味で、理想案理想案としまして、私は、政府案であるところの国税不服審判所という問題、これに非常な賛意を表するものでございます。特に、国税局から国税庁に移ったということ、いわゆる審判所国税庁の配下にあるということ、それからおそらく人選の問題では問題があるとは思いますけれども、審判官人選、これが現在の協議官人選とは全く違った観点で公平であり、しかも学識経験者が選ばれることと思いますので、この制度には全面的に賛成をいたします。  特に、私が強調したいのは、現在の税務行政というのは通達行政でございます。国税庁から出された通達によってすべてが処理されておる。したがって、通達に違反するような、通達意見が違うような結論は、税務署あるいは国税局からは得られないのでございます。ところが、法律であれ通達であれ、私は、間違った点はあると思うのです。一つの例を申し上げますと、実は、昨年から青色専従者給与完全給与制になりました。本年から地方税完全給与制がしかれるようになりました。これは本日御出席の諸先生方の非常な御尽力の結果だと思いまして、お礼を申し上げるのでございますが、実は、こういったようなわかり切った宗全給与制なんというのは、去年実現したというのはおそいと思うのです。労働対価として支払うべきものをなぜ税法で制限するか、私は、これは税法は間違いだったと思う。そういった間違った税法が今日まで通用しておったわけでございます。これが先生方の御尽力によりまして、幾ら払ってもというと語弊がございますが、労働対価として適正な給与を払ってもよろしい、こう改正されたというと、改正される前の所得税法の五十六条でございましょうか、これは私は違法だと思うのでございます。こういったように例を申し上げますれば、法律にも、あるいは――もちろん通達法律ではございませんので、通達の中にも、間違った点が多々あると思う。ところが、それに従わなければならないのが今日の税務行政であり、それから国税局方針なんでございます。今回の国税不服審判所の場合でございますと、この審判官はもちろん通達と違う裁決をすることができる、こういう規定がございます。これは一大進歩だと思います。  ただその場合に、何条でございましたか、たとえば審判官通達と違う意見によって裁決をしようとする場合、この場合には国税庁長官意見を具申しなければいけないという規定がございます。これも当然だと思いますが、国税庁長官は、その通達と違った意見が具申された場合にどう裁決するかということが問題だと私は思うのでございます。国税庁長官は、自分の考え審判官意見とが違っておれば、この場合にはさらに国税審査会というものに諮問する、こういう規定になっております。意見が相違した場合に限るのでございますから、当然のこと、国税不服審判所裁決された、いわゆる決定されました審判官意見国税庁長官と符合すれば、もちろんそのまま裁決される。符合しなかった場合が問題でございますが、そこで、その場合に国税審査会というものが設置されて、これに諮問をする。この国税審査会は十人からなる学識経験者大蔵大臣国税庁長官の意向によって任命をするということになると思うのでございますが、この人選が私はすこぶる重大ではないかと思う。というのは、国税審査会決定というもの、意見というものは最終的になるわけでございます。国税庁長官国税審査会諮問をする、その結果に必ず従うのかどうか、この点は私は、審査会というものがせっかく設けられ、これに国税庁長官諮問した場合、その結果については、審査会結論に絶対従うべきだ、こう考えております。  そこで、今度は審査会メンバー選定、これが問題ではないか。学識経験者とただうたってございますが、その学識はどの程度であり、経験はどの程度であるか、またどういう人が選ばれるかという問題でございますが、この際私は、税理士会からも当然の要求が出ると思いますのは、税理士学識経験者といえると思うのでございます。ぜひひとつこれは加えていただきたい。  さらに、私は納税者として意見を述べておるのでございますが、納税者の代表も一人加えていただきたいと思うのでございます。これによりまして、審査会メンバー構成によりますと、なるほどこれは公平な判断が下されるのじゃないかと、そのメンバー構成によって国民判断すると思いますので、特に審査会メンバー選定、これに御留意を願いたいと思うのでございます。  以上申し上げましたごとく、今日の税務署あるいは協議団、これに対しては私は年来非常な不満を持っておりましたが、今回の国税不服審判所の設定によりまして、私が年来考えておりました課税の不公平と申しますか、こういった国民不満、これはある程度解消されるのではないか、こう思いまして、今回の法案には全面的に賛成をする者の一人でございます。  以上であります。(拍手
  6. 田中正巳

    田中委員長 ちょっと速記をとめて。   〔速記中止
  7. 田中正巳

    田中委員長 それじゃ速記をとって。  次に、棚橋参考人
  8. 棚橋元治

    棚橋参考人 ある資料によりますと、昭和四十一年度における異議申し立て数が六万九千余件、それから再審査を要求したものが二万七千余件、それから正式裁判に持ち込んだものが千余件、こういう数字を私見ておるのでありますが、相当量の多いものでありますから、これにはいろいろな原因や何か事故があったんだろうと思います。  しかし、私が冒頭に申し上げますことは、先ほど来お話がありましたからこれはくどく申し上げる必要はありませんけれども、従来の国税局長のもとにおける協議団というものは、これはどうもお互い同士の話のようなことで、公共性がないと私ども思っておりますから、また、それによって非常に不明朗なことが起こっておるということも聞いておりますので、これをさらに上級の不服審判所をつくるということはもちろん賛成でございますが、その法案に対する希望はあとで申し上げますといたしまして、要するに国民のうちでも、特に小規模企業とそれから税務署あるいは国税局との関係が非常に不信感が高いということを申し上げたい。その原因は双方にありますけれども、主として税法の不備ということに私は帰すると思うことがある。このことをまず御参考のために申し上げたい。  それは、私自身が経験したことを一つ申し上げますと、両三年前から予定納税ということが始まりました。これは私は町で商業を営んでいる者とかそういった事業を営んでいる者にのみかかっておるんだと思っておったら、私のところに来た。私はごらんのとおり老齢でありますからもう現役を退いておりまして、いまの団体で手当はもらっておりますが、それはしれたものです。それからその他昔働いた会社、団体等から顧問とか相談役とか嘱託とかいう名前でもらっておりまして、総計すれば中流階級の暮らしになるが、俸給生活者に間違いはない。俸給生活である以上は、いいかげんな会社ならともかくも、いっぱしの会社なればいずれも源泉徴収をやっております。だから俸給生活者は源泉徴収で、あともし足りないとかあるいは払い過ぎたという場合には精算すれば、確定申告をしたときでいいじゃないかと思っておった。ところが、予定納税というものが来た。しかも何万円かずつ三期にわたって来る。私は何のためにこんなものを取るんだ、大体年間に取れる金はわかっております。ただ臨時収入としては原稿料とか講演料とかいうものが多少ございます。それは確定申告のときに払っておるし、一文の滞納も従来しておらない。それから税務署に聞きましたところが、いや、そういう規則になっておりますと、法律でそうきまっておりますからそれを変更することはできませんと言うから、そんなばかなことはない、それはどこかの間違いだ、よく調べてみたまえと言ったところが、若い人でしょう、電話ですからよくわかりませんが、どうしても規則をたてにとって払えと言う、こっちは払わぬと言う。とうとう期日が来て、今度は滞納処分をする、しなさい、差し押えまでは来ませんでしたけれども、延滞利子を払えといってきた。で、家内が非常に心配しまして、どうもこういうことはおとうさん一ぺん税務署に行っていらっしゃいと言うのだが、私も忙しいし、そういうくだらないといっては失礼だが、つまらぬことで、こちらの得心のいかないことで時間をつぶすのはばかばかしいですからほっておいた。とうとう今度は納税令書が来た。それは滞納分に対する日歩四銭、いよいよもってけしからぬ。しかし、それでも私行かなかったのです。何千円か、たいしたものではありませんものですから、そのままうっちゃらかしておいた。そうしたら昨年になってまた来ました。そこで私もいよいよたまりかねて、これくらい異議申し立てておるのにまだそういうことをするのかということで、私、藤沢の税務署へ行った。行きまして、そのときはそんな若い人でなく相当な年配の人が応対に出られまして、こういうことが規則にきまっておるということをあなたのほうは言うが、われわれは滞納をしておらないし、それから事業を営んでおる者ではないから特定な収入もないし、ただ私は老齢だからいつやめるかわからない、またやめさせられるかもしれない、だから予定納税というものは、そういうものはほぼ確定して初めて取るものであろう、それがわれわれのは不安定なのだ。ですから、そういうものを払ったら、それは余れば返すというかもしれぬけれども、それは非常な手続じゃないか、めんどうじゃないかということを申し上げて、それではひとつ免除の申請をしてください、こういうわけです。そういう用紙があるのですね。私は初めて見たのですが、あるのです。それなら若い人が初めに、去年の間にそれを言うべきじゃないか、そういう申請の手続があるならばと言ったところが、それはまことに申しわけないということで、見ましたならば、まだいろいろな書類を添付しなければならない。それから添付して、私が行きがかり上出しました。そうしたらそのまま私の言うことが取り上げられて、そういう予定納税は免除するという通知が来まして、ことしはもうそれは参りません。  まあ、そういうことも何のためにやるのか、一体源泉徴収をした上に税金の先取りをしなければならぬほど国家が窮乏しておるのか、それなら依頼書を出したらいいじゃないか、こういう国民的の感情があるわけで、私だからそこまで行ったけれども、これは泣き寝入りをしている人が相当あるのじゃないかと思います。  そこで、先ほどあげました大きな更正決定を受ける要素、これはほぼ小規模企業だろうと思いますけれども、いろいろな苦情が私どもにも参りますが、それは記帳を十分にしていないということ、どんぶり勘定でやっているからそういうことになるのだ、せめて青色申告ぐらいしたらいいだろう、できない、忙しくてできないといったって、人を頼んだってできるよ、税理士にちょっと頼んだって、何も一カ月分の俸給を払わなくったって、わずかの報酬でやってくれるはずだ、なかなかこれをやらない。それをやらない原因というものを考える必要があると私は思うのであります。  なぜやらないか、それは確かに目に一丁字がない人もあるでしょう。しかし、いまの教育程度で自分のところの家業の収支決算ができないという人は、私はおそらくりょうりょうたるものだろうと思う。それをなぜやらぬのだろうか、やらないほうが得だという観念があるのじゃないでしょうか。あるいは税務署とひとつチャンバラをやってやろうというような考え方もあるのかもしれません。それは税法の欠陥から来ておる。先ほど青色申告完全給与制が本年から実施されたとたいへんお喜びでありますけれども、では白色申告は何だ。これは十五万円の基礎控除があるきりですね。十五万円あるいは十六万円で一年食えという意味ではないでしょう。あとはもうけのうちから払えというが、もうけがなかったらどうする、この人は死ぬんですか。生存権というものは憲法二十五条ですべての国民は云々ということが規定してあるはずだ。だから、何よりもまず生活費というものを特別に税務署が見るべきである、そういう税法改正しなければいけない。むろんこれは事業主でもそうです。零細企業の事業主は生活をどうしているか、もうけで払えと、いまは事業税がたしか二十七万円まで控除になっております。二十七万円で標準世帯が食えましょうか。食えなければもうけから食う。もうからなかったらどうする。いまの時代ですからどうなるかわかりません。こういったものを、まず生活というものを保障してやれば、そうすればあとはもうけに従って税金を出すことはさほど苦しいことではない。生活費に税金が食い込むということが反感をそそる原因だと私ども思う。これは私どもは本年度はぜひ実行していただきたいと思っておりますが、そういう意味から、紛争というものはあちらが悪い、こちらが悪いというものではありませんけれども、税金に関する限りは私はいまの税法は下のほうに酷だ、文明国家としてはなはだしい手落ちだ、思やりがないということを私は特にこの席で申し上げたい。  そういうことを前提といたしましてこの審判というものを考えてみますと、これはよほど申請者の立場を尊重しなければならぬのじゃないか、こういうふうに私考えます。  私も本日参考人に出るまでに幾日もありませんでしたから、それほど詳しく何条何条まで調べたわけではありませんが、大体社会党案政府案というものの違いを検討はしてまいりました。デッドロックに乗り上げるような大きな相違はありませんね。ですから、これは話し合いが当然つくものだと私どもは思っております。  ただ、一番大きな問題は構成の問題ですね。不服審判所構成の問題、そのトップの問題だと思う。トップは、先ほど来お話のあったように、いままでは国税局長であった。これじゃ仲間うちのなあなあ話になるから、今度は国税庁長官にしようじゃないか。なるほど国税庁長官にすれば、一、二級階級が上がったので幾らかの安心感はあるかもしれませんが、これまた仲間うちですね。先ほどもお話があったように、国税局長考え方と違った裁決審判所がした場合には、また国税庁長官に伺いを立てる。そこでどうなるのか、はなはだ不明朗なことになる。これは社会党案になると、総理府に置けということになっておりますが、こうなると三権分立があやしくなるから、そこまでいく必要はないと思うが、大蔵大臣ぐらいはいってもいいのじゃないかという気がする。つまり、この審判所長というものは国税庁長官と肩を並べるという程度の権威は持たせるべきじゃないか。また、それぐらいのことは、いままでかなり圧制な税制をしいたのだから、当然罪滅ぼしにも国民のためにやってやるべきじゃないかと私どもは考える。ただし、これがいろいろな法令上できないという何かがあれば、これは別ですけれども、私どもはそんなことは打開できるのじゃないかという感じがいたします。  それともう一つは、先ほど来お話のあった審判所長並びに審判官人選ですね。これはもうくどく申し上げるまでもありません。なるべく公平な方あるいは各界の人を網羅することがいいだろう。税務署の言うことを聞くような、そういう軟骨漢ではしようがない。少し硬骨漢を採用されるがいいだろうと私思いますが、この点は給与の点もありまして、税制調査会が特別の給与考慮する必要があるといわれたのは、はなはだわが意を得ておると私は思っております。そういう考え、もう少し権威のあるものにしたらどうだろうか。それはもちろん、事実は大蔵大臣が一々そんな紛争を見るというようないとまはありませんでしょうけれども、しかし、かなり最高の人がそれに関与しているということに国民的安心感がわくということが考えられると私ども思っております。  それから、いろいろありますけれども、もう一つ申し上げますと、異議申し立ての前置条件ですね、これはどうなんでしょう。社会党案の十七条ですか、青色、白色とも異議申し立てを経てから審判を請求するか、それとも直接審判を請求するかの選択ができる。これに対して政府案は、青色はよろしいけれども、白色は異議申し立てを前置条件とする。なぜこんな区別をするのでしょうか。先ほど来申したとおりに、青色であるからとそういう区別をするから、いよいよ白色の者はひねくれてしまうのです。やはりこれは機会均等でやることが当然だと思う。結局白色を青色のほうに持っていかなければならぬのだ。けれども、命令や告示で、おまえたちは記帳をやれと義務づけたところで、これはやれません。結局それによって得るものがある、記帳すれば生活権の確保ができるという税法にしていけば、自然これはできてくると私は思う。だから、こういう新しい法律をつくるときに青色と白色を区別するということはもってのほかだと私は思う。同じような機会均等を与える社会党案のほうがいい、私はそう思います。  その他はそれほど違いはないと私は思っております。まあ答弁書の問題もその他の問題も、お話し合いを願えば当然そこに妥協点が見出される点が多いと思いますから、時間の関係もありますから私はくどく申し上げませんが、重ねて申し上げたいことは、人間に区別をつけることはおやめなさいと言いたい。それでなくても不信感が多い税務行政に対して、取り扱いに差別をつけるなんということはもってのほかだと思う。これは非文明国のやることである、文明前時代のやることであると考えますから、その点を十分御留意いただいて、そうして理想的な法案が成立するように御尽力いただくことをお願いしまして、私の陳述を終わります。(拍手
  9. 田中正巳

    田中委員長 これにて各参考人よりの意見陳述は終わりました。  なお、茂木参考人には、時間の都合もありますので御退席いただいてけっこうでございます。御多用中のところ御出席いただいてありがとうございました。(拍手)     ―――――――――――――
  10. 田中正巳

    田中委員長 これより質疑に入ります。通告がありますので、順次これを許します。広沢賢一君。
  11. 広沢賢一

    広沢(賢)委員 茂木さんがお帰りになったので前田さんに、茂木さんにかわりましていろいろとお答え願いたいと思います。  今日の協議官税務署長からなったりかわったりするということについては、こういう人事交流は公正妥当にならない。そればそうなんですね。あとでもってどんなふうに出世の妨げになるかわからぬというのでは、いかなる硬骨漢でも機構上なかなか遠慮します。それで公正妥当にならないと言われておるのですが、これが一つですね。それならば、今度審判官になった場合、こういう人事交流がないという保障があるかどうか問題になっているわけですが、そうすると協議官人選審判官人選とは違って、審判官人選のほうがすぐれているという問題ですが、これについては私はちょっと疑問があるのですね。やはり同じではなかろうかというような、いろいろ分析しまして事実を調査すると、事実上そうなるのではないか。それではせっかくこれほどのいい制度にしようという努力がだめになるのじゃないかという問題が一つ。  それから、協議官のほうが調査能力があると茂木さんはおっしゃいましたが、私もいろいろ事例を調べるとそういう感じがします。したがって、その問題についてもう少し具体的にいろいろの御意見を聞かしていただけばありがたいと思います。  それから、もう一つでございますが、七十八条、税務事務、人事行政の統一性から、これは人事並びにいろいろの機構の独立性――行政裁判で独立性を保持しているのが相当あるのです。海難審判所、特許、それからその他、公正取引委員会はちょっと性格が違いますが、それから労働審査会、全部独立した保障をしている。それだからこそやはり信頼が置けると思うのです。そうすると、この案でも相当独立性についてはいまおっしゃったとおりだと思うのですが、三人の方がおっしゃったとおりまだ不十分だと思う。そうすると大蔵大臣質問したのですが、権利救済が主か、事務その他行政の必要性からの問題が主かと言ったら、それは第一番目に権利救済である。したがって、そうしますと独立性、つまり権利救済国民の信頼を得る一番必要なものが行政の統一性その他に従属する、もしくは犠牲になってしまう。ということは、これはとても本旨に違うのじゃないかということで、たとえば茂木さんも言いましたが、前田さんも同じ意見だと思いますが、つまりせめて大蔵大臣のもとに置いたらどうか。これは与党の中でも非常に意見がございまして、税制調査会でも意見がある。したがって、それをやるということですね。一歩前進、二歩前進で、大蔵大臣も将来、独立性権利救済を主としたものに、これをやってみてそれから変えると言うのですが、なるべく早くこれは変えなければならぬと思いますが、御意見はいかがでしょう。  以上二つ……。
  12. 前田慶四郎

    前田参考人 私、政府の役人でないので、お答えを求められましたので、お答えするわけでございますが、人選につきましては確かに御質問のとおりのところがございます。  それから、協議団の能力につきましては、先ほどの茂木さんの説明では、税務署の職員よりは、協議団の職員のほうが調査能力が多いのだというふうに言ったのではないかと思うのですが、それでございましょうか。
  13. 広沢賢一

    広沢(賢)委員 すぐれているというのは、調査能力、事務処理能力というよりも、むしろ先ほど申しましたように、いろいろわからない、税法がわからないでおろおろしているいろいろの方がいますが、そういう人たちに対して親切に、これはやはり権利救済で重要ですから、そういう調査能力にそういうものを含めてのすぐれてだと私は思いますが……。
  14. 前田慶四郎

    前田参考人 その点につきましては、確かに税務署の第一線の方よりは経験も豊富でございますし、とにかく年齢的から申しましても常識をわきまえておるというようなことで、思いやりがあるのだろうと思います。ですから、今度審判所制度ができますと、協議官であった方々がそのまま横すべりするかどうかわかりませんが、そういうような熟練者の方々がおそらくなるのだろうと思います。またならなければ、そういう事務的な能力ができないのではないか、私はそういうように考えております。これは個人的な意見で、連合会意見ではございません。  それから、先ほどの、所轄を大蔵大臣のもとに置くか、国税庁長官のもとに置くかという問題につきましては、私個人では、いろいろなところからいろいろな影響、いろいろな洗脳をされまして――実は意見がいろいろあるのでございます。そして、長官から遠くなればなるほど独立制が保たれるということは事実だろうと思うのです。ただ、そういうふうにすることによって、法案の成立がおくれてしまうのでは、かえって納税者のためにはならないのではないか。とにかく納税者のことを考えるのならば、一日も早く何とか妥協点を見出して通していただきたい、まあ、そういうようなことから、私先ほど申し上げましたようなことになったのでございます。
  15. 広沢賢一

    広沢(賢)委員 もう一つ問題は、罰則の適用はずいぶん議論になっておりますが、やはり第三者に罰則の適用というおそれですね。これはやっぱり第三者というのは明確にしなければならぬし、そして、これについてのおそれがあるというのですが、これについて具体的にこういう事例でこういうふうになったら困るのだということを言っていただくと、審議しやすいと思います。
  16. 前田慶四郎

    前田参考人 まことに申しわけないのですが、ちょっと例の持ち合わせがございませんので……。
  17. 広沢賢一

    広沢(賢)委員 はい、よろしいです。
  18. 田中正巳

    田中委員長 竹本孫一君。
  19. 竹本孫一

    ○竹本委員 私は、きわめて簡単に、重複を避けながら伺いたいと思います。  まず、最初に前田参考人にお伺いいたしたいのでございますけれども、先ほど御説明を聞き漏らしたような感じですけれども、まあ国税に関する不服の問題について、事前と事後に分けて、事後の問題はいろいろお話がありましたが、事前にどういうふうな対策を講じたらいいかということについての御意見をもうちょっと詳しく承りたい。これが一つ。  それからもう一つは、今度の不服審判所というものは、いろいろ御意見が各方面にあるわけでございますけれども、私ども民社党の考えとしましては、準司法機関にすべきであるということを非常に強く考えておるわけでありますし、同時に、準司法機関として取り扱うということを決定するならば、これであと一審を省略する、すぐ二審にいけるというふうに考えないと、制度の機能が十分生かされないのじゃないかと思いますので、その点についてのお考えを承りたい。  それからもう一つは、異議申し立ての期間ですね。今度延長されましたけれども、これについてどういうお考えがあるか。あるいは、期間を過ぎてさらにまた救済を考える方法が必要であるとお考えになるかどうかという三点について、前田参考人にお伺いをいたしたいと思います。
  20. 前田慶四郎

    前田参考人 実を申しますと、権利救済に関しまして、事前と事後に分けて考えるんだというのは、実は日本税理士会連合会の独特の考え方なんでございます。できればそういうような方向で進んでいただけば、税務行政が外部から見ても非常になごやかにおさまるのではないかというふうにわれわれは考えたわけです。  その内容とするところは、事前の処置としましては、とにかく税務署納税者とは話し合いをしなければいけないんだ、話し合いさえすればある程度解決のつく部面があるわけなんで、いま更正決定の数が多いというようなお話がちょっと出ましたが、その数も話し合いをすることによって大幅に減ずるのではないかというふうに考えたものでございますから、更正決定をする必要があるというような場合には、まず呼んで、納税者税務当局とが話し合う場をつくるというような考え方でございます。それに入ります前に、税法の取り扱い、解釈、そういったような法令の解釈というようなことになりますと、とかく人間の能力には差がございますし、やはり一つの事柄でも違った考え方が生ずると思います。それで事前税務当局と打ち合わせをして、これならばよろしいのではないかという合意点が見つかれば、それに基づいて申告したものにつきましては、税務当局も満足するし、納税者のほうも満足するので、事前納税者のほうから、ある問題について聞いた場合に御回答を願う。その御回答も単に電話でお答えを願う、あるいは口頭でお願いをするというだけではなくて、なるべく書面でお願いをする。書面でお願いをするということは、あとで紛争の種にならないようにというような配意がございますが、その裏を返しますと、また税務御当局側からすれば、やはり文書を出したことによってまずい点も出てくるし、慎重にならざるを得ないというような逆効果もございますので、それをどういうふうに解決するか、ちょっと問題はあるのですが、いずれにしましても、事前にそういうようなことを貸いた場合には、当局のほうから、進んでそれに知恵を貸してくれるというようなことをすれば非常にうまくいくのじゃないか。それを事前照会回答制度というようなことばで言っております。  それから、いま申し上げましたように、更正の必要を認めた場合には、更正通知をすぐ出すのではなくて、一応該当者をお呼びして、あなたの所得はこういう理由で漏れているのではないかというような指示といいますか、相談といいますか、そういうようなことをしていただくわけです。それにつきまして、納税者のほうで納得すれば、修正申告なりあるいはけっこうですというようなことですぐ解決しますし、納得しない場合には、税務署のほうから更正の通知がなされるというような制度でございます。ですから、あくまでもその時点におきましては、納得した場合には、これはもう納得で済んでおりますから、納得しない部分だけが更正の通知としてあとに残るわけです。そういう意味更正の件数が非常に少なくなるのではないか、こういうことでございます。  それから、二番目の準司法機関のほうがよいかどうか。これはもう言わずもがなだと思いますが、私も準司法機関のほうが望ましいわけです。われわれも当初ぜひそういうふうにというふうに考えたのでございますが、先ほど私ちょっと触れましたように、現段階で解決しようというようなことを考えた場合には、どうしても先ほど来問題になっております租税不服審判所、ああいうような程度で解決しなければ解決できないのではないかというふうに考えられますので、われわれもしかたがない。われわれとしては、不服審判所という名前じゃなくて、不服審査会という名前を使っておりますが、政府案では審判所ということになっております。そういうことで、その所轄の問題につきましては国税庁長官のもとに置くというのが政府案でございまして、われわれの当初の考え方は、大蔵大臣の下に置くということ、これはどちらに置いてもいろいろ問題があるようです。  それから第三番目に、期間経過後の救済。救済ということを前面に押し出して考える場合には、期間が過ぎたからといって何でもかんでもいけないというような態度は、これはちょっと私は好ましくないと思います。そういうようなことで特例を設けるというようなことは望ましいのではないかというふうに考えております。
  21. 竹本孫一

    ○竹本委員 たいへんありがとうございました。意見を戦わせるほうは避けまして、次に棚橋参考人にお伺いをいたします。  一つは、中小企業の皆さんのこれから税務署に対する異議申し立てというものはだんだんふえていくだろうと思うのだけれども、その異議申し立て手続を代行するといいますか、あるいは代理人をあっせんすると申しますか、そうした機能を充実する必要があるのではないかと思いますが、そういう点についてのお考えがあれば承りたいということが一つ。  それから異議申し立て審査請求とは、次々にというような形でなくて、選択という程度にしたほうが処理が簡単でいいんじゃないかというふうに思いますが、その点についてのお考えを伺いたい。  それから、最後にもう一つは、いま生活費に食い込む税金は困るのだ、これがまた問題なんだということをおっしゃいましたけれども、課税最低限、御承知のように九十三万円とか百万円とか、あるいは百三十万円とかいろいろありますが、棚橋参考人はどういうお考えを持っておられるか、ついでにお伺いして終わりにしたいと思います。
  22. 棚橋元治

    棚橋参考人 二番目、ちょっともう一度先生おっしゃってくれませんか。二番目、私ちょっとそのどちらがいいか……。
  23. 竹本孫一

    ○竹本委員 異議申し立てをしてからまた審査請求にいくというような形で回りくどいのを、異議申し立てというのは本来戦後の混乱期にできたもので、ちょっと署長さん間違っていやしないかということが事の起こりなんです。それを一ぺん通って、こういうふうなややこしいことをしないほうがいいのじゃないか、こういうことです。
  24. 棚橋元治

    棚橋参考人 御回答申し上げます前に、ちょっと速記を訂正していただきたいと思いますが、先ほど私は税金をごまかすほうが得だというようなことを言ったと思いますが、これはちょっと言い過ぎだと思います。結局税金をまともに取られたら食えないというので、やむを得ず申告能力くらいあったってしないということが紛争を非常に多くさせておる原因だと思います。そのようにひとつ訂正させていただきます。  それから、いま竹本先生のお話ですが、実はいまのような税制度でいきますれば、紛争はますます多くなるでしょう、こう考えます。私、先ほどあげた数字は昭和四十一年度の数字ですが、それから累増しておるはずですから、たいへんな数字だと思います。そこで、実は私どもの団体でも昨年からそういうことを考えまして、こういうことはなかなか商売しておる者、あるいはつとめをしておる者ぐらいでは処理のつかない問題。そうかといって、一々、税理士や弁護士に相談するということもたいへんですから、昨年からまず私どもに法律相談部を設けたのでございます。これは弁理士も兼ねておりますから、二人の弁護士が、どんな小さな問題でも相談に乗ってくれて、適当な処理をしてくれる、こういうことをやりました。その前に税金の問題が非常に一時やかましかった二、三年前ですが、嘱託税理士をつくろうと思いまして、働きかけた経験があるのです。そのときにはまだこちらの腰がしっかりきまっておりませんでしたから、二、三名にはお話をして御承諾を得たまま、実は機能発動に至っていないのでございます。いろいろそういった面をすでに経験もしておりますから、ぜひ顧問弁護士と同時に顧問会計士というものを相当の数お願いをして、地域的に御相談して、代行事務といいますか相談所といいますか、そういったものを開設する意思は、私ございます。ぜひやりたいと思っおります。  それから、いまの二者択一と申しますか、異議申し立てた上で、つまり私の言う前置条件、法律による前置条件ですね、これは私も、何も異議申し立てて、そして再審査を願うという二段の手続を経るということは非常に煩瑣だ。どちらも煩瑣だろうと思いますが、ただ先ほどあげた数字の異議申し立て全国昭和四十一年度で六万九千件あったのに、再審査要求したのは二万七千だということになりますと、異議申し立てで話し合いできまったものが大部分だということにも考えられるのですね。そういう意味では、先ほど前田さんが言われたように、一応被告扱いをしないで、更正決定をする相手は一度税務署へ呼んで話し合いをするという制度に置きかえたらどうだろうか。そして腹に据えかねたのは再審査要求する、あるいは本訴を起こすということを直接的にやればいいと思います。  それから、例の課税の標準額の問題でございますけれども、俸給生活者がことしは九十一万円ですか、課税準標額ですね。来年は百万円にすると自民党では言っておるわけですから、百万円になるでしょう。そうしますと、それらを勘案すると、中小企業の経営者もまずそこらあたりじゃないか。つまり、標準家庭を営むために要する費用というものは、おそらくはエンゲル係数からいいましても、来年になりますれば、そこらあたりまで来るのではないか、そういったこと。それから専従者控除は、これは雇った額によりますし、あるいはボーナスを支給した額もありましょうから、若者あるいは年寄り、年配者にしろ、それぞれの持っておる特徴あるいはその他技術等によって違いましょうから、これは完全給与制でいいわけです。こういったものをちゃんとまず見てやれば、こんな紛争は大部分なくなる。つまり確定申告したほうが得だぞ、メリットあるぞといえば、おそらく幾ら教育のない零細企業でも、人を頼んだってやるだろうと私は思います。ただ申告しろ、そうすれば得があるぞぐらいのことでは、いや申告しないほうが得だという反論もありますから、まあそんなものだろうと思います。よろしゅうございますか。
  25. 竹本孫一

    ○竹本委員 けっこうです。
  26. 田中正巳

    田中委員長 田中昭二君。
  27. 田中昭二

    田中(昭)委員 私は、公明党を代表してでございますけれども、党代表ということよりも個人的に、いまの各参考人の御意見を聞きまして、部分的でございますけれども、お尋ねをしたいと思います。  まず、前田参考人にお尋ねしますが、先ほどから御意見をお聞きしました中に、税務署更正決定に対するいわゆる事前回答制度でございますか、並びに更正の予告でございますか、そういうものは私もたいへんけっこうなことではないかと思います。そうしますと、税法というもの自体が国民のいわゆる財産権を侵害するわけでございますから、結局すっきりした法律になさなければいけない。そういう国税に対する不服の問題に対してこういうりっぱな意見がある――いま副会長がおっしゃったような制度でございますが、そういうものは私はぜひ取り入れるべきである。法律ですからそのりっぱなことは取り入れるべきだ。そうしませんと、現実の第一線におきましてはそれを間違って解釈したり、それから権力の介入があったり、こういうことが行なわれがちなんです。ですから、どうもそこに――もちろん機構、制度の問題につきましても、国税局長から長官にいった、長官でもいけない、大蔵大臣にすべきである、大蔵大臣よりも内閣総理大臣の直轄にすべきである、こういうような意見もあるわけですね。そういうことも全部私は、この不服審判所ができる、協議団からかわることにおいて、そういうものを正しく法律に取り入れるべきではないか、こういうように思いますが、そういうことに対しまして現段階においてはしかたないではないか、こういうような意見のようにお聞きしたわけでございますけれども、私たちとしては、はっきりいいましてそういうことでは手ぬるい、こういうような感じを受けるわけでございます。  それともう一つは、税理士連合会の支部でございますか、全国に十三かあるようにいまお聞きしましたが、その中では、あるところはこの不服審判所の開設については反対だ、絶対反対だ、こういうことも聞いておるわけです。そうしますと、そういうものが全国連合会になってまとまってきた。じゃその絶対反対だといわれた一番重要な問題点、それが中央の連合会でどのように処理されたか、そのいきさつ、そういうことを二つかみ合わせて御意見をお伺いしたい。  それから、審査会というものが重要な位置を占めるわけですが、この審査会メンバー人選についてどういう御意見をお持ちか、お聞きしたい。
  28. 前田慶四郎

    前田参考人 いろいろ御心配をいただいておる向きを拝聴しまして、お礼を申し上げます。私、自分の職掌柄、常に疑問に思っていることを何とか解決したいものだと考えておるのでございますが、われわれのような職業ではなかなか解決しようと思っても解決できない面が非常に多いわけであります。そういう面でぜひとも議員の先生方のお力を得て、できるだけ早く、よりよく法律改正していっていただきたい、こういうふうにこちらのほうからお願いしたいと思います。  手ぬるいという問題でございますが、私、先ほども申しましたように、一つの事柄を改正あるいは改革するというような場合に、一気かせいにやるというような方法と漸進的にやるという方法と二つあると思いますが、一気かせいにやるという場合には、どうしてもその抵抗が非常に強いと思うのです。そういうようなことで、当連合会としましては、納税者利益をほんとうに考えるならば、少なくとも現在の法律よりはよくなることを早く改正してもらいたいというような念願から、実はまあ妥協ということばは変だと思いますけれども、そういうような気持ちで政府案賛成しているわけなんです。  それから、税理士会が反対だという先ほどの御意見がございましたが、あれは私の聞いている範囲では、錯覚でああいう反対だということを打ち出したということでございまして、必ずしも直意は反対ではないのだということでございますので、何かその辺の事情をちょっとお聞きになったのがお間違いではないかと思いますが、なお、私のほうで間違いでございましたら調べておきたいと思います。――九州北部会の税政連が発表しております。法律案の理解が不十分だったというような理由で、現在の政府案ではやむを得ないというふうに変えておるそうでございます。  それから審査会メンバーでございますが、これは運営がうまくいくような人選をぜひやっていただきたい。それにはひとつ国会のほうでよく御審議をいただきまして、そういう法律がうまく運営されるようにこちらのほうからお願いしたいと思います。お答えになりましたでしょうか、そういうので……。
  29. 田中昭二

    田中(昭)委員 いまの最後の審査会メンバーでございますけれども、これは先ほどの茂木参考人からの御意見が出ておりましたが、税理士会としても何かそういうふうな具体案があるのかどうかということでございます。  それともう一つ、いまの初めの問題でございますが、これは確かに北部税理士政治連盟に実は私は出席したわけであります。その内情を申し上げますと、そのときに政治連盟は絶対反対だというものが、中央連合会の方が来られまして、そうじゃないのだというようなちょっといきさつを見たものですから、もう少しそういう点意思統一してやるべきじゃなかろうか、こういうふうに思いました。私、それを申し上げた問題は、税法というのはこれ以上税金を取ってはならないというような精神でいわゆる租税法定主義ができておるとするならば、結局いいかげんな妥協をすること自体が私は法律の趣旨としてはおかしい、こういう考え方を持っておるわけです。現時点において一歩前進だということもわかりますけれども、そういうことで納税者権利が守られるかどうか。先ほど棚橋会長のお話もありましたように、税法には明らかに課税最低限というのが生存権さえ認めないというような率直な御意見、もっともだと思います。そういうところがあるわけでございます。税理士の方の仕事ということを考えてみますと、かりに十の依頼者があった場合に、一人の税理士さんが十人から不服の申し立ての依頼を受けたという場合に、その各人各人によっていろいろ段階が出てくることは私は見ております、知っております。そういう段階ができることを納税者のために一番有利な点で解決するためには、法律ではっきり納税者権利は守らなければいけない、こういう考え方に立っておるわけでございます。  それで、回答はその程度であれでございますが、いまの最後の審査会メンバーについてだけ具体的な御意見があれば……。
  30. 前田慶四郎

    前田参考人 審査会の委員の構成につきましては、ぜひとも税理士を入れていただきたい、それから納税者の代表、こういうようなことを考えております。それから租税法に関して知識のある大学の教授、こういった方々が適当ではないか、こういうふうに考えております。
  31. 田中正巳

    田中委員長 只松祐治君。
  32. 只松祐治

    ○只松委員 せっかくおいでをいただいた参考人方々でございますから、御意見をここで論争しようという場ではございませんが、お帰りになりましたが茂木さん等が、社会党の案はいいけれども、理想案である、こういうことをおっしゃいました。私はたいへん心外でございました。理想案はもっと高いところに社会党の案はあるのです。しかし、これならば現実にできる、こういうことで法制局その他といろいろ相談をしてつくったのがこの案でございます。当然に税法学会や皆さん方、関係者の御意見も十分に聴取したはずです。決して理想案ではございません。それこそあまりお考え違いないように、まず御要望申し上げます。  そういう中から一、二だけお聞きをしておきますが、皆さん方、局長と長官とそれほど変わるものか、私たちはこれは同じ穴のムジナと、こう言っているのです。皆さん方それほど、実際上実務をおやりになっている。そういう中から、局長と長官は全然別人格者である、あるいは相当に機構が違う、離れておる、あるいはそういうことで何かえらいかけ離れたもので、前進したものだとかそういうふうなお考えがあるかのようなお話に私は承った。私の錯覚なら別でございますが、私たちがこの問題で一番問題にしておるのは、ひとつ機構上のそういう問題、皆さん方それほど税務署長と局長はえらい違うというようなお話がさっきありましたね。茂木さんでしたかどなたかでしたか、あったと思いますが、さらば、局長と長官はそんなに立場が違ったり権限というものが違うのか、まずそれを承りたいと思います。
  33. 前田慶四郎

    前田参考人 はなはだむずかしい問題で、お答えになりますかどうか……。  われわれの考えとしましては、国税局長のほうは仕事に対する直接の裁決の責任者、それから長官のほうは、その仕事に対する直接の責任者ではないんだ、それを監督するというように考えておりまして、そういう特別に区別して考えるということをいままでしていないわけなんです。
  34. 只松祐治

    ○只松委員 最初前提に申し上げましたように、参考人でございますから、御意見で論争しようというわけではないのですが、まあ確かに窓口として接触されるのは、署長さんと局長さんというのは皆さん相当違うだろう。しかし、こういう法体系としてものを見る、したがって論議するという場合には、これは署長さんも、局長さんも、長官も、同じ系列になってくる。通達その他を出す場合には、局長が出すわけではないのですね、解釈ぐらい局長が出しますが、全部長官から出す。そういう角度から、私たちはこの問題を社会党案政府案というものを対比したり論議したりしておるわけです。税理士会に行っても私的には多少お話ししたことがありますが、おっしゃったように、政府案がベストであるとは皆さん方もおっしゃっていない。しかし、ベター、よりよいものが、より早く、こういうお考えでございます。その考えそのものはわからぬことはありませんけれど、社会党案に対する何かお考え違いといいますか、認識の違いというのがあるようでございますから、その点だけをひとつ、質問の形にして社会党案も理解をしていただきたい、こういうことをひとつ申し上げておきます。  それから、百七条に、「不服申立人は、弁護士、税理士その他適当と認める」こうなっておりますね。税理士会としては、「その他適当」というものをどういうふうに御理解になっておるか、あるいは「その他適当」というものをどういうものならばいい――弁護士と書いてあるけれども、裁判に持ち込まれれば弁護士が参加するといたしましても、実情はほとんど、弁護士ではなくて、税理士の皆さん方だろう。したがって、この問題の解釈なり今後の運営をめぐっていろいろ問題が生じるだろうと思います。それらの点に対するお考えを聞いておきたい。
  35. 前田慶四郎

    前田参考人 これはわれわれに非常に関係しておりますので、われわれとしてもぜひとも政令で範囲をはっきりさせていただきたい。それには、よく審議をしていただきたい、こういうふうに考えておりますが、一応租税法関係のある方、そういう方をひとつ考えております。そのほか、これは特別の例だと思いますが、申し立て人が病弱であるために、その親族その他直接その申し立て人と関係のある人、こういうような方、それを適当と認めるというように考えております。
  36. 只松祐治

    ○只松委員 これは百二十六条等の罰則との関係、その他にもいろいろ出てくるのですね、第三者の問題等が。したがって、きょうは短い時間で御意見を承ったわけですから、ひとつ皆さん方のほうでそういう御要望がありましたら、ここでおっしゃっていただいてもいいし、あるいは文書等でその点に対して、いま審議中でございますから出していただく。そういう意味で公聴会を時間の関係で開けなかったのは私たちは残念です。公聴会と参考人を招請することを私たちは要望したのです。公聴会は時間の関係等で開けなかった。そういう意味も含んで、私たち個人、議員でもいいし、当委員会でもいいですが、これは茂木さんお帰りになりましたが、棚橋さんその他、ひとつ御要望等がありましたたら、いま短い時間で足らなかったと思いますので、お出しいただいて、さらに私たちの審議にいろいろ便宜供与をしていただき、御意見を賜われば、たいへんけっこうだと思います。どうぞよろしくお願いします。
  37. 田中正巳

    田中委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。  両参考人には、御多用中のところ長時間にわたり御出席いただきまして、まことにありがとうございます。委員会を代表いたしまして、厚く御礼を申し上げます。(拍手)  御退席をいただいてけっこうです。  午後二時再開することとし、暫時休憩いたします。    午後零時十一分休憩      ――――◇―――――    午後二時九分開議
  38. 田中正巳

    田中委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  国税通則法の一部を改正する法律案及び国税審判法案についての参考人として、ただいま東京大学教授金子宏君。日本大学助教授北野弘久君が御出席になっております。  まず、参考人方々より、両法案につきまして御意見をお述べいただき、その後質疑に入りたいと存じます。  それでは、まず金子参考人
  39. 金子宏

    金子参考人 ただいま御紹介をいただきました金子でございます。  当委員会で御審議中の国税通則法の一部改正案並びに国税審判法案について、意見を述べるようにとのお申しつけでございますので、簡単に意見を述べさしていただきたいと思います。  以下、国税通則法の一部改正案は一部改正案と呼び、国税審判法案審判法案と呼ぶことにいたします。  一部改正案は、納税者権利救済制度を中心といたしまして、その他更正の請求等若干の問題にわたっているわけでございますが、中心は権利救済制度に置かれております。それから審判法案はもっぱら権利救済制度内容としているわけでございます。そこで、ここでは権利救済制度に限って私の意見を申し上げることにいたしまして、その他の問題についてはもし時間がありましたら申し上げるとか、あるいは質疑の時間に意見を申し上げることにしたいと思います。  申すまでもなく、納税者権利救済制度の問題を考えるにあたって最も重要な観点は、納税者に迅速で公正な権利救済を与えるためにはどうしたらよいかという問題でございます。ところで、この問題というのは制度の問題でございまして、理論の問題では必ずしもないわけであります。理論の問題を背景としながら制度をどう考えていくかという問題でございます。そこでどうしてもいろいろな制約や条件との相関関係において考えていく必要が一方では生じるわけでございまして、そこでここでも、どちらかと申しますと超越的な批判ないしは意見はできるだけ避けるようにいたしまして、客観的、内在的な批評を試みることにいたしたいと思います。それから随時現行制度との関連において問題を述べていきたいというふうに考えているわけでございます。  まず、最初に申し上げたいことは、全体の筋道として、現行制度では裁判所への出訴につき不服申し立ての前置主義が採用されております。そして一部改正案もそれから審判法案もともにこの点は維持しているわけでございますが、この問題についてまず順序として申し上げたいと思います。  この点は、行政事件訴訟法では、従来いろいろ批判のあった訴願前置主義、現行法に即して申しますと不服申し立て前置主義と呼ぶべきでありましょうけれども、それを廃止いたしたわけであります。選択制度をあるいは選択主義を採用したわけでございますが、これに対しては行政事件訴訟法の制定の過程で、法制審議会で訴願前置主義の問題を種々議論いたしました際に、法制審議会では不服申し立て前置主義を廃して選択主義を採用することを原則としつつも、幾つかの場合については例外を設けるべきことを述べているわけでございます。そしてその例外と申しますのは、第一には、行政庁の処分が大量的、集中的、反復的に行なわれる場合には前置が必要であるということ、それから行政庁の処分が専門的、技術的な問題に関する場合にはやはり前置を認めるということ、それから準司法的な手続行政段階不服申し立てについての審理が行なわれる場合にも同じように前置を認めるということでございます。そして租税事件はこのうち第一の事件の数が大量的、集中的、反復的であるという場合に該当いたしますので、したがって、従来不服申し立ての前置がなされてまいりまして、そして現行法でそうなっているわけでございます。  そして、この点をどう考えるかという問題は、やはり裁判所の負担の問題と関連させて考えなければならないわけでありまして、直接裁判所に出訴を認めることにいたしますと、大量の事件が一時に裁判所に殺到する、そして審理の遅延が生じ、結局納税者権利の救済を得る機会がそれだけ時間的に遠のくということになるわけでございます。したがって、この点については不服申し立ての前置を定めることによってフィルターの効果あるいはスクリーニングの効果をそこに期待することができるということになるわけであります。  現在こういうふうに不服申し立て前置が要求されておりますけれども、それでもすでに租税事件の数は裁判所において相当の数にのぼっておりまして、全行政事件のおそらく四割以上を最近では占めているのではないかと思います。おそらく最近では五百件をこえているのではないかというふうに思われます。正確な統計は持ってまいりませんでしたが、そのように思われます。そしてその場合に、一つ租税事件の特徴として、事実問題が非常に多くて法律の解釈問題が比較的少ないということでございます。そのために裁判所では租税事件の処理にかなり頭を悩ませているわけでございますし、現実問題としても、租税事件の審理は遅延の傾向にあるというのが現状でございます。そういう意味では不服申し立て前置制度は依然として維持されるべきではないかというふうに私は考えております。  かりに選択制度をとるといたしますと、おそらく裁判所に過重な負担を負わせる危険があるのではないかというふうに思われます。現実に選択制度をとってみなければ、どの程度直接裁判所への出訴がなされるかということをはっきり断定することはできませんけれども、おそらく相当数の事件が裁判所にいき、そして審理の遅延が生ずるのではないかという危惧の念を持つわけでございます。その段階でまた不服申し立て前置に戻るというのは、制度の問題としては朝令暮改の感じを与えるわけでありまして、それはおそらく好ましくないというふうに私には思われるわけであります。裁判所にすぐ出訴できれば問題はすぐ解決するというのは、おそらくは一つの神話ないしはドグマでありまして、現在の裁判所の組織でありますとか陣容でありますとか、そういうものを総体的に考慮いたしますと、やはり現在では不服申し立て前置主義というのは避け得ないところではないかというふうに思われるわけでございます。  それから第二番目には、それならば不服申し立て前置が必要であるとして、その前置される不服申し立てば一段階で足りるのか、それとも二段階を要するのかという問題が次の問題として出てまいります。この点については、現行制度は原則としては二段階を要求しているわけでありますが、青色申告者に対する更正についての不服申し立てについては、異議申し立てを省略して直接審査請求をなし得るということにしているわけでございまして、その意味では青色申告者については一段階の前置制度である、現実にはそうであるというふうに一応考えてよいかと思われます。それからそれ以外の場合にも、異議申し立てを省略して直接審査請求をなし得る場合というのが若干規定されているわけでございます。そしてこの点については、一部改正案は、ほぼそれを維持すべきものとし、それから審判法案は、異議申し立てを経た上で審判を求めてもいいけれども、直接審判所に事案を持っていける、いってもいいということにしているわけでございますから、要求されるものとしては一段階ということになろうかと思われます。  この点については、私は全体としてはやはり現行制度がいいのではないかというふうに考えております。こまかい点についてはいろいろ問題がありますが、青色については直接審査請求をしてもよいけれども、白色についてはそうではない、二段階を必要とするという制度が適当なのではないかというふうに考えております。なぜかと申しますと、青色申告者に対する関係では、所得税法百五十五条などで帳簿書類を実地に調査した上で更正するということになっており、かつ、処分には具体的な理由を付記しなければならないということになっておりますので、すでに事実関係がかなりの程度において実態的真実に近づいているというふうに考えていいわけでございますが、白色の場合には帳簿書類を持っていない、あるいは帳簿書類を持っていても不十分であって、青色申告の承認を受ける程度には達していないという場合でございます。そこでは、したがって推計課税制度法律上認められているわけでございますし、それから理由の付記も要求されていないわけでございます。この点では、私はかねて白色申告者の場合には、更正とか決定と呼ばれるものは一つの中間的な処分であって、そしてそれに対する異議申し立てにおいてもう一度見直しをして、そこではっきりとかなり具体的な理由のもとに最終的な処分が行なわれるという仮説を持っておりますが、こういう仮説というのはかなり実際に即した仮説なのではないかというふうに考えております。したがいまして、こういう白色申告の場合には見直しという問題がどうしても出てまいりますので、したがって、もう一度原処分庁で見直して、そしてそれに不服な場合にはさらに審査の請求をするという形にすることが適当なのではないかというふうに考えているわけであります。もちろん納税者権利保護の見地からは、現行制度が認めているように、青色申告者以外の場合についても異議を省略して直接審査請求ができる場合を認める必要がありますし、それから改正案でもそういうことになっているわけでございますが、こういう点はあとう限り納税者権利保護の見地、早期に権利の救済をはかるという点からも、今後も維持されていくべきものではないかというふうに考える次第でございます。  それから、なおこれに付言いたしますと、申し立て期間が、異議申し立てについては従来一カ月、審査請求についても一カ月でございましたけれども、この点は改正案でも審判法案でも始審的な場合には二カ月ということになっているわけでありまして、このような改正納税者権利保護の見地からも、それからもう一つは、行政不服審査法の原則規定納税者権利救済制度を合致させるという、制度の斉合性と申しますか、そういう見地からいたしましても、適当な好ましい改正であるというふうに考える次第でございます。  それから第三番目に、御審議中の改正案及び法案の中心問題であります審査機関の問題が出てくるわけでございます。この点については、ドイツ、日本式な制度と、それからイギリス、アメリカ式な制度というのは旧来顕著な対照を示しているわけでございまして、アングロサクソンの法にはもともと自然的正義の原則と呼ばれるものがございまして、何人も自分自身の問題について裁判官たり得ずという原則があったわけでございます。そしてこの原則はイギリス及びアメリカの行政手続においてかなりの程度浸透しているというふうに考えていいわけでございますが、これに対してドイツ、日本式の制度というのはそうではございませんで、現在の制度におきましても、独立行政機関行政不服申し立て審査に当たる場合と、それから処分庁ないしはそれと同一系列の行政機関がそれに当たる場合とがございますが、前者はどちらかといいますと例外でございまして、後者が圧倒的に多いわけでございます。したがって、そこではピラミッド型の行政組織の中で問題を処理するということになるわけでございまして、そういう例外的に特殊な独立行政機関を設けてそこで審査に当たる場合以外は、不服申し立て審査にあたっては、申すまでもなく、通常の行政そのものの場合と同じように指揮監督も当然に及びますし、それから法令についての通達にも拘束されるということになってくるわけでございます。これについて租税関係納税者権利救済制度におきましては、御存じのように、異議申し立ての段階では完全なピラミッド型の組織の中で問題が解決されるわけでありますし、それから審査請求の段階になりますと、協議団という特別の制度がございまして、そこで問題が検討され、そこでの決定に基づいて国税局長なり国税庁長官なりが審査裁決を下すということになっているわけでございます。したがいまして、どちらかといいますと、先ほどあげた二つの類型の中では後者の類型に属している、ただ協議団という別の審理機関を設けて、そこで審査させているという点でやや特殊性が見られるということになってくるわけであります。  この点についてどう考えるべきかという問題でございますけれども、異議申し立ての段階につきましては見直しの要素が強いものですから、現行の制度はやむを得ないところであるというふうに考えられます。それから審査請求の段階についてでございますが、これも現状を見てみますと、相当に救済の実をあげているということは事実でございまして、その点は評価すべき点であると思います。  ただ、問題がある点は三つほどありまして、裁決権自体が長官なり局長なりに属しているという点でございます。それから協議団の議というのは拘束力がない、法律上は「基づき」でございますので、その解釈として拘束力はないということになっている点でございます。この点は解釈論としては、参与機関として構成し、そして拘束力を認めるという解釈も不可能ではないと思いますが、しかし、その解釈はかなり無理でございまして、一般には拘束力はないというふうに考えられているわけでございます。しかし、現実にはその協議団できめたところに従って裁決がなされているということは御存じのとおりでございます。それから三番目には、ピラミッド型の組織の中に協議団があって、そして法令についての独自の解釈をなし得ないという点ですが、これは独立行政委員会等を設けている場合のほかは、わが国では一般的に、そういう解釈がほかの行政不服申し立てについても、行政不服審査法の解釈として一般的にとられているところでございます。それから実際問題としては、メンタリティーの問題というのが四番目にはあり得るかと思いますが、これはまた後に触れたいと思います。  そして、それならばどういうふうにこれを改正するのが適当であるか、あるいは現状維持でいいのかというような問題でございますが、この点については、現状維持の考え方からアメリカ型のタックスコートの考え方までいろいろなバリエーションがあり得るわけでございます。そしてこの点については、一部改正案も、審判法案も、いずれも現状維持ではなくて、そこから踏み出すべきであるという考え方をとっているわけでございますけれども、審判法案のほうはおそらく独立行政機関考え方ということになりましょうし、それから一部改正案のほうは、実際的に現状において不備な点を改める、そしてかなりの強い独立性を持たせるけれども、行政委員会程度独立性は持たせないということになるかと思います。結局この問題の中心問題は独立性程度ということになるわけでありますが、この独立性程度考えるにあたりましては問題点はさらに幾つかに分かれてくるわけでございます。  そして、そのうちでも主要な問題点は二点になってくるわけでございまして、一つは、どこに設置するかという問題でございます。それからもう一つは、独立性をどの程度にするかということでございます。この点については理念論としては、たとえばアメリカ型の租税裁判所制度が適当なのではないかということも出てまいります。ただ、実際に具体的な制度改正考える場合には、いろいろな制約の中で考えなければならないわけであります。したがって、せっかくつくっても、それが機能しないと申しますか、ワークしなければ、そのせっかくつくった意味がなくなるわけでありますから、そういう意味ではなかなかむずかしい問題であるということになってくるわけでございます。  この点について、まずどこに設置するかという問題でございますが、これについては、国税庁に設置するという案、それから大蔵省に設置するという案、それから総理府に設置するという案、あるいは内閣に設置するという案、いろいろな考え方が可能でありましょうけれども、私は、全体としては国税庁に設置するのが適当なのではないかというふうに考えております。  まず第一には、現行の国家行政組織考え方を見てみますと、内閣とか総理府に置かれるものは、一つの省あるいは庁の所管を越えて全国家的に重要な問題あるいは複数の省や庁の所管にわたる場合であります。そして任命は、多くの場合、両院の承認を得て内閣総理大臣がその担当者を、委員なりその他の長なりを任命するということになっているわけであります。この点では、現に租税の賦課徴収に当たっている機関である国税庁に置くことは好ましくないのではないかという反対論が当然に予想されるわけでありますけれども、この点では一部改正案の線でもかなりの進歩であるということが言えるわけであります。つまり、現在では裁決権国税庁長官なり国税局長なりに帰属しているわけでございますけれども、そこから裁決権を離して審判所長に移すということだけでも大きな進歩であるというふうに考えられます。つまり、現実の税務行政機関税務争訟の裁決機関とを二元化する、そして切り離すということでありまして、これは自然的正義の原則への一歩前進であるというふうに考えられるわけであります。  それからもう一つは、独立性程度の問題でございますけれども、先ほども申しましたように、通常の行政不服審査の場合には、その審査に当たる者は上級庁の指揮監督に完全に服するわけでございますが、これに対して審判法案考え方をとりますと、そのような指揮監督は一切及ばない、つまりコントロールは完全に排除されるということになります。それから一部改正案考え方をとりますと、そのようなコントロールは相当程度に排除される、ただ若干の点で残っているということになるわけであります。一部改正案を見てみますと、事実認定については国税庁長官のコントロールは一切及ばないということに解釈上なるであろうと思われます。つまり、現実の行政機関からのコントロールは排除されるということになります。これは裁決権自体が審判所長に帰属しているという規定からも明らかでありますし、また、九十九条で法令の解釈についての指示権が国税庁長官に与えられていることの反対解釈として、事実認定についてはもはや国税庁長官は何らの指示をすることができないということが、反対解釈として出てくるからであります。問題は、法令の解釈についての長官の指示権が残っている点でありますが、これも現行制度から見ますと非常な進歩であるというふうに私には思われるわけでございます。これを見てみますと、従来は租税法の解釈については、行政府の内部に関する限りは長官の独占するところであったというふうに言えるわけであります。租税法規の解釈については解釈権は長官の独占するところであったわけでありますが、この一部改正案ではもはやそうではなくなっているということでございます。  まず、九十九条を見てみますと、「国税不服審判所長は、国税庁長官が発した通達に示されている法令の解釈と異なる解釈により裁決をするとき、又は他の国税に係る処分を行なう際における法令の解釈の重要な先例となると認められる裁決をするときは、あらかじめその意見国税庁長官に申し出なければならない。」という規定でございますので、まず第一には、通達の解釈と異なる解釈であるのかどうか、あるいは「他の国税に係る処分を行なう際における法令の解釈の重要な先例となると認められる」のかどうかという点についての判断権は、審判所長自身にあるということでございます。ですから、審判所長がそう判断すれば意見を申し出ることになりますし、判断しなければ、たとえ国税庁長官がそれは申し出るべきだと言ったところで、申し出なくてもいいということになるわけでありまして、その点についてのかなりの進歩がこの規定の解釈上認められるということになるわけでございます。  それから、意見を申し出るのは審判所長でありますので、そういう意味で問題自体をイニシエートするのは審判所長である。それからイニシエ一トする際にどういう解釈が適当であるかということを言い出すのも審判所長であるということになってくるであろうと思われます。  それから第三番目には、国税審査会が百条に規定されているわけでありますけれども、国税庁長官は九十九条に基づいて審判所長から意見が申し出られた場合にはそれを審査会の議に付して、そこの意見を聞いた上で指示を与えるということになっておりますので、そういう意味でも長官の法令解釈権というのは大幅な制約を受けてくるということになるわけでございます。もちろん法律の解釈としては、法律と申しますか法案の解釈といたしましては、長官には法律上は審判所長及び審査会の解釈と異なる解釈をとり、そしてそれを押し通す余地というのは残されているわけでございます。純粋に法律技術的に見ますと、そういう余地は残されているわけでありますが、多くの場合には、それを独自の解釈を押し通す、審判所長なり審査会なりの意見に反してそれを押し通すということは、実際問題としてはかなり困難な場合が多いのではないかというふうに思われるわけでございます。  結局、一部改正案審判法案とを見てみますと、両者は非常に違っているわけでありますが、しかし、この点奇異に聞こえるかもしれませんが、私にはそれほど本質的に違うものではないように思われるわけでございまして、私の立場から見ますと、二つの案は相互に接続しているというふうに考えられるわけでございます。つまり自然的な正義の原則、これはわが国では従来認められていなかった原則である。そして現在徐々に行政手続の中にも浸透を開始しつつあるわけでございますけれども、その原則に一挙に移っていくか、それとも徐々に移っていくかという点の違いのように見えるわけでございます。そして結局は、その二つの案とも進歩の方向に向かっているということは確かでございまして、そしていろいろな現在の制約を考えてみますと、どうもいろいろな制約があるということは確かでございます。たとえば準独立行政機関を設けてそこで審査に当たらせるという制度、これ自体は理念論としては非常にいい、好ましい制度だと思いますけれども、まだそれに当たる人を得ることがはなはだしく困難な状態にあるということを、法学教育に当たっている者といたしましては痛感せざるを得ないわけでございます。つまり、そういう機関を設けますと、租税法に通暁しているだけではなくて、法律一般について通暁している、つまり、租税法についてのいろいろな解釈理論等を駆使できるような人がそこでその任に当たることが好ましいわけでありますけれども、実を申しますと、わが国の租税法教育というのはまだ始まったばかりでございまして、租税法専門の若い弁護士なども徐々に幾らか育ちつつございますし、また租税法に詳しい若手裁判官なども出てきつつあるわけでございますが、まだその数は非常に少ないというのが現状でございまして、権威の高い独立行政機関を設けましても、そこにすわる人が少なければ結局うまく機能しないのではないかということを、どうも私としては感ぜざるを得ないという事情があるわけでございます。  それからもう一つは、国税庁に付置するのがいいし、それから法令の解釈については若干指示権を改正案のような形で残しておくのが適当ではないかと思われる理由は、これは依然としてまだ、行政不服申し立て制度に期待されている機能を見てみますと、そこではやはり簡易、迅速な事案の処理ということが納税者によって期待されているということ。それからもう一つは、国税庁長官が国税の賦課徴収の最高責任者として、そこに付置される審判所裁決についても責任を負い得るような体制というのを幾らか残しておいたほうが、いまのところは適当なのではないかという感じでございます。  私は、審判法案も一部改正案もともに進歩の方向に合致したものであり、現行制度を大幅に改善するものであるというふうに考えておりますが、現状におけるいろいろな制約や条件などを考え合わせますと、一応一部改正案程度の改善策でも早急に実現するのが適当なのではないかという感じを持っているわけでございます。その他いろいろな問題がございますけれども、この点については時間もございませんので、またあとで御質問があれば意見を述べさせていただきたいと思います。  ちょうど四十分になりましたので、ここで失礼させていただきます。(拍手
  40. 田中正巳

    田中委員長 次に、北野参考人
  41. 北野弘久

    ○北野参考人 ただいま御紹介いただきました日大の北野でございます。  まず最初に、納税者権利救済のあり方に関係しまして、非常に重要な法律案であります二つ法律案につきまして、このように慎重に本委員会審議されつつあるということを眼前にいたしまして、心から委員会に対しまして敬意を表したいと思います。  時間の関係重点的に、主として政府案を中心として意見を述べさせていただきたいと思います。  今回の政府案につきましても、率直に申しまして幾つかのすぐれたメリットがあるということを私としましても認めないわけにはいかないのであります。その幾つかを例示的に申し上げますと、すでに御承知だと思いますけれども、大体四つのものがまず目につくわけであります。  第一に、更正の請求期間を、従来一般には一月間、所得税、法人税につきましては二月間、これは現行しているのでございますが、それを一年間に延長して、やむを得ない場合にはさらにその特例を設けるということになっております。  第二番目に、差し押えまたは担保の提供によりまして徴収の確保がはかられた場合には、延滞税率を現行の日歩四銭から日歩二銭に軽減するということになっております。  第三番目に、行政不服審査法の原則規定に従いまして、異議申し立ての期間及び始審的審査請求の期間を現行の一月間から二月間に延長するという改正が予定されております。  第四番目としまして、さらに注目されねばならないことは、現行法では青色申告者のみに対しまして、更正の際に更正理由付記をするということになっておりまして、その結果、処分理由納税者に知らせるということになっておるのでありますけれども、改正案におきましては、白色申告者をも含めまして、広く処分理由が通知されていない更正決定につきましては、異議決定の段階あるいは異議申し立てから三カ月を経過した段階で処分理由を明らかにするという、そういう措置が講ぜられております。これは納税者権利救済権利保護という観点から申しまして、画期的な意味を持つメリットのある改正点であると考えるわけであります。  そのほかにも、政府案の基本的な前提であります行政レベルのワクの中で権利救済制度考えるという、そういう前提に立ちました場合には、きわめて多くの個々のメリットを指摘することができるわけであります。その意味で、立案当局の御努力に対しましては敬意を惜しむものではありません。  しかし、日本国憲法の格調の高い権利思想のもとにおきまして、本来税務争訟制度というものはどのような方向であるべきであるかという、そういう基本的な観点から問題点考えていきますと、政府案につきまして多くの疑問点を指摘しなければならないと考えるわけであります。  行政不服審査制度のあり方につきましては、大体におきましては二つ考え方があり得ると思います。一つは、行政不服審査制度というものを行政の自己反省あるいは自己監督の制度という観点で強くとらえるという立場であります。もう一つは、国民権利救済という観点を非常に強調する立場でありまして、行政レベルのものにいたしましても、権利救済制度という観点から申しますと、本来、後者すなわち国民権利救済という観点をできるだけやはり強調すべきであるということになってくると思います。この点につきましては、昭和三十七年に制定されました行政不服審査法、現行法でございますが、しかも、税務争訟制度も基本的には行政不服審査法を前提にしておるわけでありますけれども、その行政不服審査法は、従前の訴願法を全体として改善するというものではありましたけれども、本質的には従前の訴願法と同じ行政の自己反省あるいは自己監督の作用の側面の強いものであったといわねばならないと思います。今回の政府案の基本的姿勢も、後に述べますように、実質的にはそれとあまり変わるところがないというのが私の見解であります。  以下、そういった観点から幾つかの疑問点を指摘したいと思いますが、まず第一に指摘されねばならないことは、裁決機関第三者性の問題であります。現行の協議団制度につきましては、発足当初の、あの戦後の混乱期に、審査庁以外の機関裁決または決定の段階で介入せしめるという協議団制度というものは、確かに当時におきましては画期的な意味を持っていたと思いますけれども、現在の段階では多くの欠陥を持っておるということにつきましては、いまさら指摘するまでもないと考えるわけであります。  そこで、政府案では、御承知のように国税庁国税不服審判所を設けることを提唱しているわけであります。同審判所協議団と異なりまして、みずから裁決権を有するということになっております。しかも、たてまえとしましては、通達に拘束されないで、それとは異なる裁決をすることができるということになっているわけであります。しかし、審判所長が通達の解釈と異なる解釈によって裁決をする場合、あるいは法令解釈の重要な先例となると認められる裁決をする場合には、審判所長はあらかじめその意見を長官に申し出なければならないということになっております。長官は、この申し出に対しまして指示を与えるわけでありますけれども、その際、別に設置されます、しかも国税庁に置かれます国税審査会、これは非常勤の学識経験者から構成されるということになっておりますが、この国税審査会の議に付しまして、その意見を尊重して指示しなければならないということになっておるわけであります。「尊重して」ということばに御注意願いたいと思います。ともかくこのような問題につきましては、長官が、法律構成的には、指示権を持つわけであります。しかも、国税審査会というものは、ことばは必ずしも正確だとは思いませんけれども、あくまで一種の諮問機関的な存在にとどまるものになっておるわけでありまして、このように、政府改正案のもとでは、不服審判所裁決権というものば初めから形骸化するということが不可避といわねばならないと私は考えるわけであります。  また、組織法的にいいましても、審判所国税庁機関になっておるということは非常に疑問であります。この点、社会党国税審判法案では、国税審判庁を内閣総理大臣の所轄のもとに置くということにいたしております。しかも、納税者の不服が通達の法令不適合性を理由とする場合には、すべて統一的に中央の国税審判庁に対しまして審判の請求をすべきであるということにいたしております。さらに注目されますことは、審判官の除斥、忌避の制度を設けておりますし、また、特定の場合には、国税審判庁の裁決に不服のある処分庁自体に対しまして、裁判所への出訴権を認めておるという、画期的な構想になっております。  もっとも、裁決機関をどこに置くかということは、実は裁決機関構成するメンバーの問題と切り離しては論じられないわけでありまして、私としましては、総理府系統に置くことが望ましいと考えるわけでありますけれども、その場合、単に形の上で総理府系統に置くということだけではなく、やはり審判官の身分保障を行なうと同時に、事務局職員につきましても厳正な態度でその構成にあたるということにしなくちゃならないと思います。  具体的に申しますと、審判官等の不服審判所メンバー構成につきましては、大蔵省国税庁と別系統の人事の面でも完全に別の組織にいたしまして、原則として両者の間に人事の交流を行なわないという、発足当初は人の確保の問題がございますから、ある程度はやむを得ないと思いますけれども、方向としましては、採用コースを全然違ったコースにするという、そこまで徹底しなければ公正な審判は期待できない、そのように考えているわけでありますけれども、ともかく裁決機関第三者性の問題につきましては、少なくとも社会党案のレベルのものでなければならない、そのように考えるわけであります。  この問題に関連しまして、先ほどもちょっと触れましたが、政府案国税審査会の法的性格は単なる諮問機関的な性格のものであるということでありまして、はたしてどの程度に期待し得るものであるか、その実効は、私としては、従来の日本のこの種の機関のあり方からいきまして、過去の実績からいきまして、はなはだ疑問視されると考えるわけであります。  税調答申によりますと、これは政府税調答申でありますが、先ほど申しました長官の指示権というものは、「税務行政の統一ある運用」を維持するための配慮である、「行政の統一」ということを非常に強調しておるわけでありますが、この「税務行政の統一ある運用」ということによりまして、納税者権利救済という観点、視点が背後に押しやられたわけであります。すなわち、裁決機関第三者性の確保の要請ということが、このような行政の自制作用という考え方、視点から犠牲に供されたというふうに考えざるを得ないわけであります。行政の自制作用という観点の強調は政府案に一貫する基調的な考え方であるということが指摘されるべきであると思います。  なお、行政の統一ということが強調されまして、このような指示権が与えられたということになっておりますが、そしてそういうことが一般にいわれておるのでありますけれども、はたして行政の統一ということがそれほど意味のあることであるかどうかということにつきまして非常に疑問に思うわけでありまして、かりに長官の指示に従って不服審判所長が裁決を下したということになりました場合に、それが従来の通達と違った形になったという場合でございますけれども、そのような場合通達はさかのぼって改められないと思いますので、要するに将来に向かってのみ通達変更ということが出てくるわけでありまして、その限度においてのみ行政の統一がはかられる。既往の古い通達の取り扱いについては、少なくとも理論的にはアンバランスにならざるを得ない、そういうことになってくるわけでありまして、行政の統一と申しましても決してそれほど意味のある、実効のあるものではないわけでありまして、国税庁長官の指示権がなくても、すなわち、審判所長が独自の主体的な判断裁決を下しまして、それがたまたま従来の通達と違っていたということでありましても、そのつど国税庁長官通達変更をすれば足るわけであります。つまり、同じ結果になるわけであります。その意味では、行政の統一ということが強調されておるわけでありますけれども、あまり意味のあることではないと私は考えております。  それから参考までに申し上げておきますが、事後的な救済手続としましての行政不服申し立て制度というものは、これを行政の自己反省あるいは自己監督の制度の域から根本的に脱皮せしめまして、いわば前審裁判――審判じゃございません、前審裁判の本質を備えるように準司法化すべきである。そして憲法七十六条はそうした要請を含んでおるんだ、すなわち、行政不服申し立て制度の準司法化という要請は憲法七十六条に内在する立法政策的な要請であるという公法学者の主張もございまして、要するに立法政策的な観点ではございますけれども、憲法上の要請であるという主張を強調する学者もございます。  それから、わが国の行政法学の通説的見解を代表されまして、しかもわが国の行政法学の発展に大きな貢献をなされました田中二郎最高裁判所判事の最近の論文を拝見したわけでありますけれども、田中先生は従来の通説的見解を代表されるという意味では、最近の、若い人々を中心にしました日本の公法学界の動向からいきまして、どちらかといえばコンサーバティブな評価を受けておられる方でございますけれども、その最高裁判事ですら次のように述べておるわけであります。課税庁の系統機関から完全に独立した第三者機関を設けるべきである、このように先生はおっしゃっておられまして、先生はさらにそれを租税審判庁という名前で呼んでおられるわけでありますけれども、その租税審判庁は準司法機関として機成すべきであって、準司法手続に従って審判をすべきであるということを強調しておられます。この点を御紹介申し上げておきます。  それから、裁決機関の問題に関連して、小さな問題でありますけれども、名称の問題でありますが、政府案では国税不服審判所という審判ということばを使っております。しかし、先ほど申しましたように、政府案の実態は審判というイメージとは違ったものでありまして、その意味では国民に対しまして不当な、何と申しますか実態に反するような幻想を抱かせるような危険性がある。そういう意味で実態に即するような審査ということばを使うべきであるということを私ども税法学会では意見書に書いているわけであります。  以上のように、行政レベルのものでありましても、裁決機関第三者性という問題につきましては、できるだけそれが確保さるべきであるといわなければならないわけでありますけれども、ただ観点を変えまして、制度の立て方として、私としてはまた別の観点があり得るのではないか、このように考えておりまして、それを御参考までに申し上げておきたいと思います。  それは、いわゆるドイツ的な方向での方策を検討してもよろしいのではないかということでございます。ドイツでは租税委員会というものが廃止されまして、行政レベルの救済措置としましては、現在では税務署――フィナンツアムトに対する異議申し立て――アインシュプルッフが存するだけであります。あとはあげて司法裁判所でやります。財政裁判所及び連邦財政裁判所にゆだねる、そういう構成にいたしております。行政府の中にどんなりっぱなコートをつくりましても、それはしょせん行政機関でありまして、司法裁判所ではないわけであります。憲法三十二条が予定しております裁判所ではないわけであります。公正な判断ができるということで、人々は司法裁判所の裁判官を最も信用するわけであります。行政レベルのものを充実するくらいだったら、むしろ司法裁判所そのものを整備充実させたほうがよろしいのではないか、そのほうが日本的な国民感情、国民感覚にマッチしておるのではないか、そのようなことも考えられるわけであります。  この点につきまして、昭和二十四年のシャウプ勧告はつとに租税の裁判所につきまして民事租税裁判所の設置を示唆しておったわけであります。要するに、不完全なものを行政レベルでつくるよりも、むしろ行政レベルの救済措置を簡素化しまして、その意味では現在のままでもよろしいわけでありますが、租税専門の司法裁判所の整備充実をはかったほうが望ましいのではないか、そういう議論も制度の立て方としてはあり得るのではないかということを参考までにつけ加えておきたいと思います。  第二の問題としまして、先ほど金子参考人からも詳しく御説明がありました不服申し立て前置主義の問題があります。私は、この問題はある意味では裁決機関の問題以上に大切である、むしろ税務争訟制度のかなめである、そのようにすら考えております。今回の政府案におきましても依然として前置主義がとられておるわけであります。昭和三十七年の行政事件訴訟法は原則として不服申し立て前置主義を廃止いたしました。ただ、これにつきましては例外を設けておりまして、その例外規定に従いまして幾つかの前置主義をとる立法例があるわけでありますが、その例外につきまして昭和三十五年七月の法制審議行政訴訟部会の行政事件訴訟特例法改正要綱試案では、この例外に該当する場合の処分として三つのものをあげていたわけであります。一つは、大量的に行なわれる処分であって、不服申し立て裁決によりまして、行政の統一をはかる必要がある大量的な処分について、まず指摘いたしております。それから第二番目に、専門技術的な性質を有する処分、第三番目に、不服申し立てに対する裁決が、第三者的な機関によってなされることになっている処分、この三つをあげていたわけであります。一般に租税に関する処分というものは、このうち、もちろん論者によりまして若干重点の置き方が違いますが、一あるいは二に該当するという説明がなされていたわけであります。ともかく国税通則法は租税事件の特殊性ということから不服申し立て前置主義をとっております。  もちろん不服申し立て制度につきましては、それが持つ利点や、それが現に果たしている機能からいきまして、不服申し立て制度それ自体の存在というものは肯定されねばならないと思いますけれども、しかし、だからといいまして、訟訴に先立ちましてどうしてもそれを前置させなければならないという、そういう本質的な理由国民権利救済という視点からは出てこないわけであります。理論的には全く出てこないわけであります。国は、直ちに司法裁判所の裁判を受けたいというそういう納税者に向かって、行政上の不服申し立てをしてからにしなさいといって前置を強制するという、そのことについての合理的な根拠は憲法論上は出てこないわけであります。もちろんこれは、前置主義は憲法違反であるということを言っているわけじゃございませんが、国民権利救済という観点から考えていきますと、行政上の不服申し立てと訴訟のいずれかを選択させる、それを国民の自由な判断にゆだねるということは当然の筋合いであります。この意味におきまして、前置主義というものはこれに関するいろんな理由づけにもかかわらず、結局は広い意味での国側の便宜の手段にすぎない、そういうことが言えるわけであります。特に現行制度のもとにおきましては、法令の違憲性、租税法規の違憲性や税務通達の見解の合理性が争われる、そういう場合には前置主義は国民にとって全く無用の長物でありまして、ときには事実において誤った通達等を法源化する、そういうような有害の機能すら果たす危険があるわけであります。つまり、通達をして事実として、法と同じような定着的な機能を果たせしめる、そういう危険性があるわけであります。このことは、今回の政府案でかなり解消されることになるわけでありますけれども、しかし、今回の政府案におきましても、それなりにやはり同じような議論が本質論的には言えるわけであります。  なお、この不服申し立て前置主義を廃止すると非常に困るという意見があるわけでありますけれども、その論拠としまして、廃止すれば裁判所に事件が殺到するというふうなことがよくいわれるわけであります。一般に、裁判というものは、手続が非常に煩瑣でありまして、しかも時間と経費がかさむ。それでありますから、簡単な行政上の救済措置で目的を達し得るものであれば、それによったほうが納税者としても得策でありまして、自然裁判所に訴えるにふさわしいものだけが直訴されるということになっていくだろう、そういうふうに私は見ております。したがって、裁判所に事件が殺到するのではないかという、そういうおそれはないと考えるわけであります。もし、かりにそのようなおそれがあったとしましても、だからといいまして前置主義によって事実上国民の出訴権に制約を加えるということを正当化する根拠はどこにもないわけであります。  前置主義については、後ほどまた質問の段階で詳しく申し上げますけれども、私としましてはかりに前置主義の全面的な廃止ができない場合でありましても、最小限度法令の解釈等に関する問題につきましては、前置主義からはずすべきである、そのように考えております。  第三の問題としまして、異議申し立て制度自体の問題に移りたいと思いますが、政府案におきましては、これから申し上げますようなことは一切考慮されていないわけでありますけれども、すわなち、更正処分事前手続の整備の問題であります。課税処分というものを慎重にやるということは紛争を事前に防止するという予防法学的観点からいきまして非常に望まれるわけでありまして、課税処分をなす場合には事前にその内容納税者に通知することにいたしまして、しかもその通知を課税処分の有効要件として法律的に構成するわけでありますが、納税者がその通知内容異議があるという場合には、その段階でそれについての審理の請求をなし得る、そういう制度をこの際法制化すべきではないかと私どもは考えております。もし、この制度が法制化されますと、異議申し立て制度は不要になってくるわけでありまして、異議申し立て制度は廃止すべきであるということになってくるわけであります。かりに一歩を譲りまして、政府案考え方に従って考える場合におきましても、審査請求に先立ちまして異議申し立てを前置させるということは、これは改めるべきであると考えるわけであります。審査の請求に先立つ異議申し立ての前置というものは不必要である、これは先ほど申しました権利救済という観点から理論的には根拠づけることはできないというのが私どもの見解であります。  第四の問題としまして、不服申し立てと徴収との関係の問題がございます。現行制度は、執行停止をたてまえとしております。今回の政府案もこれに従っております。その理由としまして、税調答申によりますと、「執行停止を原則とするときは、いわゆる乱訴の弊が生じやすい」そこで、この制度を改める必要はないということを述べているわけであります。この問題に関連しまして、つとにシャウプ勧告が将来の目標としましては、納税者が納税しないで争訟することを一般に認めるべきことを示唆していたのであります。今回の改正案におきましても、滞納処分は差し押えまでにとどめて、換価処分は行なわないということになっておりますけれども、たとえ差し押えまでにしろ、それによって一般の納税者は多くの、直接間接の被害を受けるわけでありまして、たとえば取引先であるとか銀行等の信用の失墜があるとか、そういう直接間接、多くの損害を受けるわけであります。もっとも、たとえば担保を提供すればよろしいという緩和措置などもございますけれども、そもそも担保を提供できるだけの資力がない一般の庶民というもの、あるいは中小企業というものはそれには浴し得ないわけでありまして、そういう意味で私は、この問題はこの際根本的に考えてみる必要があるのではないか、そのように考えるわけであります。  ひるがえりまして、昭和三十七年の国税通則法の制定前までは、すなわち旧所得税法、旧法人税法におきまして、青色申告者につきましては執行停止を原則としていたわけであります。過去の経験からいきまして、少なくとも私どもの判断では、執行停止を原則としましても乱訴の弊は生じないと考えるわけであります。最近の情勢からいきまして、今日ではもはや青色、白色の区別を問わないで執行停止を原則とすべきである、そのように私どもは考えるわけでございます。  なお、この問題につきまして、不服申し立てと徴収の問題でありますが、社会党案三十六条の二項でありますけれども、そこでは原則的に差し押えしないことを命令できる規定がございまして、きわめて注目に値すると思います。  第五の問題としまして、更正の請求の問題があげられます。この問題につきましては、先ほど述べましたように、期限を一年に延長するということが予定されておりまして、その点では私も大賛成でありますけれども、さらに欲を言いまして、現行の更正の請求と修正申告の二本立ての構成を改めまして、修正申告は更正の請求を吸収するものとして法律的に構成をいたしまして、増額、減額を問わないで同じように期限の制限はなく修正の申告を行なうことができる、そういう制度にすべきではないかと考えております。なぜかと申しますと、更正の請求も修正申告もともに納税者による課税要件事実の確認をめぐる手続でございまして、両者の間には性格的な懸隔はないと考えられるからであります。  以上、重点的に政府案を中心としまして幾つかの問題点を申し上げたわけでありますけれども、最後に総括的な所見を申し上げまして、私の報告を終わらせていただきたいと思います。  税務争訟制度の抜本的な改善ということは、これはかねてからの国民的な課題であったわけであります。このような背景を受けまして、昨年の四月に構想としましては画期的な社会党国税審判法案提出されたわけでありまして、今回の政府案はそうした国民的な課題にこたえることが期待されていたわけであります。しかし、全体として見ますと、今回の国税不服審判所制度の設置を中心とします改正案内容は、実質的には八年前の昭和三十六年七月の国税通則法制定答申のそれとあまり変わるところがないと私は考えるわけでありまして、率直にいいまして、今回の国税不服審判所制度のレベルであれば、つとに昭和三十七年の、すなわち、いまから七年前の国税通則法の制定の際に立法化が可能であったといわねばならないと思います。  したがって、方向的にはこのような政府案については満足できないわけでありまして、税務争訟制度というものは長期的な安定的な視野に立って抜本的なレベルの高い権利救済制度として構成されるべきであると考えるわけでありまして、所得税法、法人税法などの実体課税規定を中心とした税法と違いまして、こういう問題は何もあわててつくる要はないと私は考えるわけであります。つくらなければあすから困るという問題ではないと考えるわけでありまして、そういう意味でいろいろ慎重に考えるべきだと思いますが、ただ、今回の改正案のうち、冒頭に申し上げました更正の請求期間の延長等、国税不服審判所制度と直接関係のない項目であるとか、あるいは先ほど来強調いたしました前置主義の廃止に関する問題は早急に実現させるべきであると考えるわけであります。それでその分だけの実現をさせるための修正を行なうことはできないものであろうかと、そのように私は考えておるのでありまして、もし修正という形で困難であれば、その分だけの単行の特別暫定措置法を早急に提出していただきまして、それだけでも制度化するということにしてほしいということを希望するわけであります。そして、国税不服審判所制度につきましては、少なくとも社会党案の方向で別途慎重に検討するという方向でよろしいのではないか、そういうふうに考えるわけであります。もっともそういうことでは困る、どうしてもまとまらないということでございましたら、さらに一歩譲りまして、長官の指示権だけは廃止する、そういう修正を行なって審判所制度実現するということでもよろしいと思います。もちろんそうすることによりまして、長官も審判所長の裁決に拘束されるということになるわけであります。  以上、非常に率直に所見を申し上げさせていただきました。すべての法律学というものは、最終的にはいかにして国民の基本権を擁護するかという観点から展開されるべきであると私はかねて考えているわけであります。そのような観点から、ただいま率直に意見を申し上げさせていただいたわけでありまして、何ぶんのお許しを願いたいと思います。私はいまから二年前、すなわち、昭和四十二年の五月二十三日の本委員会におきまして、同じく参考人として出席する機会を与えられまして、その際多くの代議士の諸先生から、租税審判所の設立の問題に関連しまして発言がございました。たしか春日先生なども発言されたと記憶しておるのでありますけれども、抜本的なレベルの高い審判所をつくるようにしてほしい、われわれに対しましてもそういう方面の研究をしてほしいという発言がございましたことを、先ほど来想起しているわけであります。  長時間、御清聴ありがとうございました。(拍手
  42. 田中正巳

    田中委員長 これにて参考人よりの意見陳述は終わりました。     ―――――――――――――
  43. 田中正巳

    田中委員長 これより質疑に入ります。  通告がありますので、順次これを許します。渡辺美智雄君。
  44. 渡辺美智雄

    ○渡辺(美)委員 金子、北野両先生からたいへんりっぱな御意見を聞かしていただきまして、どうもありがとうございました。私どもしろうとには、先生方の御意見を承ると、どちらもごもっともで、どちらに手をあげていいのか、正直のところちょっと迷うというのが、私は真相であります。  そこで、いま一番問題になりましたのは、いずれも訴願前置の問題あるいは設置場所の問題、指示権の問題こういうふうなものが中心になってそれぞれ御意見の発表があったわけでございますが、まあ金子先生はおおむね政府案支持、北野先生はおおむね社会党案のほうがいいんじゃないか、こういうふうに私は承ったわけであります。  そこで、まず訴願前置の問題についてお尋ねをいたしてみたいと思いますが、訴願前置というものは確かに行政不服審査法等のたてまえからすれば、これはなくするのが趣旨ではないか、こういうふうな点で北野先生は強調をされておるわけであります。私も、純粋な法理論だけからいえば、そういうようなことが言えるかと存じます。しかしながら、現在の異議申し立てあるいは審査請求というものの争いの大部分は、長官の通達に対する見解を異にするというようなことではなくして、事実問題の争い、こういうことが非常に多いように私は見ておるのであります。つまり、この経費は実際出張しないのに出張したようにつくったのではないかとか、売り上げが実際あるのにそれを落としたのではないかとかというような事実問題をめぐった争いが一番多いというように私は承っておるのであります。おそらく八、九分以上がそうではなかろうと思うのであります。そうなってまいりますと、かりに訴願前置ということを廃止をして、直接国民が裁判に出訴する権利を持っているだんから直接裁判に行きなさいということは、まあ純法律的にはそれが正しいのかもしれませんけれども、現実の問題として裁判所が非常に迷惑をするのではないか。現在の裁判所の機構、人員から見ますと、金子先生がおっしゃいましたように、なかなかこの租税に関してたんのうな人たちがそうたくさんいるという実情ではない。もう一つは、事実調査をするということについて、非常にたくさんの売り上げ漏れがあるといって推定をされたといたしましても、実際問題としてその推定の裏づけとなる個別の調査というようなことについて裁判所ば、これは言うはやすく実際は行なうはかたしというところではないかと思うのであります。したがいまして、やはりどうしてもある程度異議申し立てなり審査請求というものをもう一ぺん見直してフィルターにかけて整理をしていくということのほうが現実的ではないか、理屈の上では私もそう思ったのでありますが、よく事実問題を確かめてみると、どうも訴願前置というものはあったほうがいいのじゃないかというような気がするのであります。   〔委員長退席、毛利委員長代理着席〕 ただ、そこで一つだけ、現在は訴願前置というからには審査請求を経なければ出訴はできないというのがたてまえであります。これを異議申し立てを一応通って、役所のほうで自分で振り返って見直すというようなことで、その結果が出て、しかも更正理由が明らかにされて論争点が比較的具体化をする、こういうような段階になれば選択制にしてそれは出訴をすることも認めるし、審査請求に行くことも認める、こういうふうにしてはどうなのか、これは一体どんな弊害があるか、弊害の点について金子先生にひとつ所見を承りたいと思います。  またもう一つは、先ほど引用されました田中二郎さんの所見といたしまして、現行の審査請求制度にかえて第一次的な救済制度として課税庁から完全に独立をした第三者機関を設けてはどうか、こういうふうな御意見、これらの訴訟については現在の三審制を行なうということよりも、実際問題として租税に明るい人たちが末端の地方裁判所にまでそうたくさんいるというふうにはなかなか考えられないので、第一審をなくして直接高等裁判所に提訴するという道を開いてはどうかという御意見があるのであります。これらに対しまして、その是否論と申しますか、そこらについての御所見をまず金子先生にちょっと承ってみたいと存じます。
  45. 金子宏

    金子参考人 お答え申し上げます。  先ほどの裁判所の負担の点でございますが、この点についての御感触については私は全く賛成でございまして、裁判所にいる友人などとも話をしてみますけれども、通常の民事事件に比べますと行政事件は負担が非常に重い、そして行政事件の中でも特に租税事件は負担が重い。なぜかと申しますと、多くのものが事実認定に関する事件であって、したがって時間と労力が非常にかかるということを聞いております。それですから、事件の割り当てにおいても租税事件は数件分として扱われているということも聞いたことがございます。そういう意味ではやはりその前置制度を存続して、そしてフィルター効果を期待するということが適当なのではないかというふうに考えております。よほど裁判所の陣容を抜本的に強化いたしませんと、おそらく裁判所側としては非常に困った事態が来て、そして租税事件が長期間たなざらしにあうというだけではなくて、他の種類の事件についても悪影響を及ぼすのではないかというふうに考えております。  それから、次におっしゃられました御構想、つまり異議申し立てだけを経て、そして裁判所に出訴することはどうかという御構想でございますが、これは私もいま興味深く拝聴しておりましたのでございますけれども、この点については更正理由がはっきりした段階で裁判所に出訴させたらどうかという御意見だと思いますが、そういたしますと、青色申告者に対する更正については現在でも異議申し立てを経ないで審査請求が認められておりますので、それについては直接一切の前置を経ないで裁判所に出訴させる、こういう御構想でございましょうか。
  46. 渡辺美智雄

    ○渡辺(美)委員 青色申告者は異議申し立てをして悪いという規則はないのでございますから、大部分の人はやはり青色申告といえども異議申し立ての場合は税務署からやっているのが私は実情だろうと思います。おそらく面接国税局へ出すというのは数%しかないのじゃないかということでありますから、やはり青色申告の場合も異議申し立てからと。しかもどうしても異議申し立をやらなくて直接出訴したいという人には、それは何かの条件をつけて出訴の機会を与えるということで何か弊害があるかどうかということであります。
  47. 金子宏

    金子参考人 非常によく御構想わかりました。その点でございますが、最近の不服申し立て事案を見てみますと、たしか国税で所得税、法人税その他の税金の関係異議申し立てが何万件かございますね。それから審査請求もたしか一万件ぐらいはありますのじゃないでしょうか。(渡辺(美)委員「三万件」と呼ぶ)審査請求だけで三万件ございますか。そういたしますと、異議申し立てを経た段階だけで裁判所にいくということになりますと、審査請求に相当する部分だけのフィルター効果はそれだけ少なくなるということになりますので、現在ですと異議申し立て段階で不満がある場合はさらに審査請求をして、その段階で請求が認められればそこで問題は落着する。なおも審査裁決に不服があれば裁判所に出訴するということになりますので、審査請求もかなりの程度のフィルター効果を持っているのではないかというふうに、どうも私、この点はおそらく感触の相違かもしれませんけれども、思いますのですけれども、その辺のところはもう少し検討してみたいと思いますが、どうもそういう感じが私にはいたします。  それからもう一つは、田中先生の御意見でございますが、これは私も、「税大論叢」に書かれたものを言っておられると思いますが、興味深く読ませていただきました。そしてこれは、田中先生の御構想というのは、いまもお話がございましたように、行政段階での審査裁決をする機関を準司法機関として非常に充実する。一方では直接地方裁判所ではなくて高等裁判所につなげる。そして事実問題については実質的証拠法則を採用して、そこの審判所で認定された事実についてはもはや裁判所はあらためて審査をし直すことはしない。実質的証拠法則によってささえられている限りはもはや事実問題については判断しない。裁判所が主として判断するのは法律問題であるということになるわけでございますね。そういたしますと、先ほどのような裁判所の負担の問題というのは大幅に解消いたしますし、そういう意味では私は、理念論としてはこれは非常にけっこうな構想ではないかというふうに考えておりますが、ただ、現在の段階でそれが実現できるかどうかという点についてはきわめて懐疑的でございます。  田中先生が考えておられるのはおそらくアメリカの租税裁判所の制度なのではないかというふうに思いますけれども、あそこでは確かに租税裁判所から直接高等裁判所に出訴するわけでございまして、そしてファクト・ファインディングと申しますか、事実認定については租税裁判所の認定というのが大幅に実際問題として拘束力を持つということになると思います。そしてそういうような制度というのは、私、制度としては非常に興味深いし、好ましい制度ではないかというふうに理念論としては前から考えておりますが、ただそういう制度を現に採用することができるのかどうかという点で非常な疑問を持っているわけでございます。つまり、そういうりっぱなものをつくったときに、はたしてそこで審判に当たる人をどうやって得るのかという問題が一つございます。それですから、おそらく私は十年、二十年後にはそういう方向に日本の制度も徐々に移っていくであろうし、また、移っていくことが好ましいとは存じますけれども、そういう方向に移っていくワンステップとして政府案を私の考えでは評価したい、こういうのが私の感じでございます。
  48. 渡辺美智雄

    ○渡辺(美)委員 よくわかりました。結局現在の段階において、ただ単に国税通則法の一部改正というようなことだけで、私が言ったようなことは容易にできるものではない。裁判所との問題もございますし、機構の問題もありますし、人員の問題もありますし、これは非常な大問題である。したがって、現在の段階でこの国民権利救済を一歩前進せしめるか、それともずっと将来までかかってももっとはっきりした国民権利救済というものに重点を置いたものをつくるかというようなところで御意見が分かれてくるだろう、こういうふうな気がしたわけであります。  そこで、私は同じことについて北野先生に承りたいのでありますが、先ほど北野先生もお認めになったように、かりに訴願前置というものを撤廃をする。撤廃をしても裁判はべらぼうに金がかかるし、現在の段階では。裁判制度そのものを改めていけば別ですよ。裁判官や何かもたくさん増員をするし、それから租税にたんのうな人もうんと配置をするというふうにすれば別ですが、現状の裁判の制度では訴願前置を撤廃して、そして訴訟に持ち込むということになれば非常な金がかかる。これはもうだれでも常識的に、民事事件は長いということは知っておることで、金がかかる。私は、そう金がかかったのではあまり利用者はないのじゃないか。観念論としてはよくわかるけれども、現実にいま異議申し立てが六万四千件か何千件かある。審査請求の段階になると、審査請求が一万二千件ぐらいにがくんと減ってくる。さらにこれが訴訟ということになれば数百件、五百件か六百件ということで非常に減る。現在でも審査請求を終わった人は裁判に出ていいはずなんですから、審査請求を終わって不服があったら裁判やっちゃ悪いという規則はないので、どんどん裁判に出てけっこうだ。現在でも審査請求を終われば裁判に出る道が開かれておる。開かれておるのだけれども、裁判に出る人は五、六百件しかないということだとすると、これはどっちにもとれるのだが、訴願前置というものを撤廃して裁判の道を開いたって利用者がないじゃないかということにもそれはなりましょう。それからかりに訴願前置をなくすれば裁判に出る人がいまよりもふえるであろうということも、これも当然想像がつくでしょう。しかしながら、急増するということは私も考えておりませんが、いずれにいたしましても、裁判が非常に金がかかるから、現在数万人の人が審査請求の段階であきらめるのかあるいは納得するのか知りませんが、そこで異議申し立て審査請求というものを取り下げてそれ以上提訴しないというのが実情だと思うんですね。そうするというと、これはここで訴願前置という問題は現実の問題としては、観念論としてはわかるが、何が何でも置かなくちゃならない、何が何でもはずさなければならぬというようなきめ手になる問題はないのじゃなかろうかという気がするのですが、その辺の御所見をひとつ承りたいと存じます。
  49. 北野弘久

    ○北野参考人 お答えしたいと思いますけれども、渡辺先生のおっしゃること、一般的には全くごもっともでございまして、別に反対を唱える必要はないと思うわけでありますが、私は前置主義の持つ効果、利点については少なくとも三つあると思っております。  一つは、裁判に先立ちまして行政庁にみずから反省の機会を与える、あるいは再審理の機会を与えるということであります。第二番目に、裁判所の負担を軽くするということでございます。第三番目に、行政の統一をはかることができるのだ、この三つの利点があるということは認めるわけでありますけれども、ただ国民権利救済という感覚、しかも高い憲法次元から考えていきますと、裁判所へ行きたい、たって行きたいという人に向かって、行くなとはなかなか言えないわけであります。ですから、先ほども渡辺先生おっしゃいましたように、裁判所に持ち込む数がそれほどふえないのじゃないかという見通しであれば、それをもって前置主義廃止という結論になるわけでありまして、むしろ前置主義を維持する根拠が薄くなってくるわけであります。それで事実認定の問題が多いのじゃないかということでございますので、その点ではフィルターにかけて裁判所に行かしたほうがいいのじゃないかということはごもっともでありまして、私としては、先ほどもちょっと申しましたように、一歩譲りまして事実問題については前置主義を維持してもよろしい、しかし、法律問題については、これは納税者の選択にまかせるべきであって、前置主義を廃止すべきである。裁判所へ行くか、あるいは審査請求等を受けるかはタックスペイヤーの自由な判断にゆだねる、それでいいのじゃないかと思います。しかも国税庁通達というのは税法の全領域についてあるわけでありまして、しかも税務の実務でも理論的にも、事実問題と法律問題はそれほどはっきりしてないわけでありまして、そういう意味で私としましてはほんとうはすべての問題につきまして前置主義をはずしたほうがいいと思いますけれども、ただ次善の策としては、法律問題だけについてこの際限定して――法律問題と事実問題の判断はむずかしい問題がございますけれども、方向としては法律問題だけに限定してはずしてもらってもいい、こういうように考えております。
  50. 渡辺美智雄

    ○渡辺(美)委員 私は考え方としては非常にいい考え方だと思います。私もその考え方は決して反対じゃありません。ただ事実問題か法律問題かのその認定がなかなかむずかしいのが実際問題としてある。これは一体修繕費なのかそれとも改造費なのか、つまり資本的支出か修繕費かというようなことは、そのこと自体の結局事実問題、法律問題、どっちにするかということ、それ自体がすでに非常にむずかしい、こういうようなのが税務にはたくさんあるのですが、事実問題か法律問題かということを一体だれがそれでは判定をして、裁判に出訴するように――先生の考えだと事実問題は訴願前置を置いてもよろしい、法律問題だけを裁判所へ持っていったらどうか。私は理論としてもこれは非常にすっきりしていると思うのです。しかし事実問題であるか法律問題であるか、あいまいな問題が非常に多いのですけれども、そのあいまいな問題を、これは事実問題、これは法律問題、だれがそれはきめるのか、その基準はどこに求めるか。簡潔でけっこうでございますからひとつお聞かせいただきたいと思います。
  51. 北野弘久

    ○北野参考人 それは非常にむずかしい問題でございまして、まさに日本の税法学が当面する大きな課題でありまして、税法学の未発達にも関係するわけであります。ですから私としましては、すべての問題についてたてまえとしては前置主義を廃止すべきであるということなんです。ただ次善の策と言ったのはそういうことでございまして、あくまでそういう障害があるということを承知の上で曲げて言っただけのことでございまして、法律問題、事実問題の判断は、これはやはり税法学の発達あるいは判例の形成などによって考えていかざるを得ないわけでありまして、ちょうど行政事件につきまして、不当問題と違法問題の区別がございます。不当問題は行政審判の段階では扱いますけれども、裁判所の段階では扱わない。   〔毛利委員長代理退席、委員長着席〕 この不当問題と違法問題の区別と同じようなことにもなってくるのじゃないかと思いますけれども、そういうことでやはりこれは長い時間をかけてその基準を考えていくべきだ。客観的な問題でありまして、決して納税者判断できまるというものじゃなくて、形の上では裁判所の段階で考えることになるのだと思いますけれども……。
  52. 渡辺美智雄

    ○渡辺(美)委員 訴願前置の問題は一応その程度にいたしたいと思いますが、一つこれは金子先生に承りたい。  審判所決定が、少なくとも行政段階ではこれは最終的なものになるわけです。そのときに納税者のほうはそれにさらに異議があれば出訴をしてよろしいということになるわけですが、ことにこの国税庁長官の指示権について、国税庁長官がやたらに指示、介入することはいかぬということで、審査会その他をつくっておるわけです。ところが、先ほど金子先生の御解釈によると、法令の解釈で重大な先例になるようなものとか、あるいは通達法律違反であるというふうに認定されるようなもの、こういうものについては長官の指示を仰がなくちゃならない。この解釈の反対解釈をすれば、事実認定の問題については審判所長が決定をしてよろしい、こういうことになるわけですね。そうすると事実問題について、これは審判所長が事実問題を明らかにするということももちろんできることではありますが、私はその傍証を固めるのには非常に手足が足らないのじゃなかろうか。かりにそれが納税者に不利に事実問題が決定をされれば文句はないのだが、非常に脱税的なものがあるのだけれども、国税庁としてはそれについてはどうも承服しがたいという場合、現在の規定からではこれは泣き寝入りということになるのだろうと思いますが、それらの点は法律上何か御所見がございますか。
  53. 金子宏

    金子参考人 この点はやはり非常に重要な、この制度がうまく機能するかどうかという点で非常に重要な問題だと思いますが、不服審判官の中から適当な人を指名して事実調査などにも当たらせるということもございますけれども、やはりかなりスタッフを充実しなければいけないのではないかというふうに考えております。  それからもう一つは、質問検査権規定がこの改正案の中には入っておりますが、これは規定がなくても公定解釈では、現在の所得税法なり法人税法なりの中に規定されている質問検査権規定が働いてくるというふうに解釈されておりますが、その点を一そう明確にする意味でこういう権限を明文で定めたわけでございますけれども、この辺の権限をどういうふうに使っていくかということもまた大きな実体的真実の発見と申しますか、それに関連して大きな問題であろうと思われます。  いずれにしましても、何らかの程度の職権探知主義と申しますか、そういうものはやはり必要なのではないかということと、それからもう一つは、かなりスタッフを充実しなければいけないのではないか、独自の手足というものが必要なのではないかというふうに考えております。そうでないと、審判所長の段階ではこう権限が分離いたしましても、下のほうで、たとえば事実調査の段階では、実際には現実に賦課徴収に当たる職員の人たちの助力を仰ぐというようなことになってもまたこれは問題があるように思いますので、その辺はかなりスタッフの充実ということを心すべきではないかというふうに考えております。
  54. 渡辺美智雄

    ○渡辺(美)委員 次に今度は、時間の催促をされていますから簡単に御質問申し上げます。  争点主義と総額主義ということで、国民権利を守るというような点から、そういう審判所というものは争点主義にすべきでないか。ところが、現行法は総額主義ということになっておる。ただし不利益処分はしない、こういうふうなことになっております。そこで、争点主義にするということになりますと、一つの事実なり、法の解釈なり、異議申し立てについてただ一件だけということはなくして、大部分の審査請求事案というものは三つも四つも問題が出てくることが実際問題として非常に多いのであります。  そこで、原処分庁のやった甲なら甲の事実については間違いがある。しかしながら、原処分庁の全然いままで手を触れてなかった丁の部分については、新しい所得の漏れなり経費の否認というものを発見をしたというような場合は、こちらの申告が百万円で、更正決定が三百万円の更正をされた。それでこちらは百万円に戻してくれ、こういう申請を出しておった。ところが、いろいろ調査の過程で四百万円に所得がなるという場合は、不利益処分はしないというのですから、百万円の申告は認められないが、原処分の三百万円までは、これは認めるということになろうか、こう思います。そのときに、この争点主義を主張するということになれば、当然、甲、乙、丙で争っているのに丁の部分がのっかってくるということは、争点主義じゃないじゃないかということになるわけであります。だから、たとえそういうのは発見できたとしても不問にしなさい、こういうことが争点主義の主張だと思います。  この点について北野先生に承りたいのだけれども、かりに甲、乙、丙について争いがあって、それは異議申し立て人の言い分どおりであったが、全然異議申し立て人が言ってない問題、税務署でも取り上げていなかった新しい丁の問題が出て、相当な所得が脱漏が出たというような場合、争点主義にすれば、それは黙認をするというのだが、黙認をしただけでは、これは同じ国税庁機関内にあって、同じ国家公務員たる者が、これは私は法律家じゃないからよくわからないが、そのままで済ませるということは、どうも解せないのじゃないか。争点主義というものをはっきりうたうということになれば、事件の原審差し戻しと申しますか、そういうような制度というものもこの中に入れなければならぬ、税務署へもう一ぺん差し戻して検査をし直しなさいというようなことにならざるを得ないのでなかろうかと思うのでありますけれども、その点はどういうふうにお考えになりますか。
  55. 北野弘久

    ○北野参考人 それはおっしゃるとおりでございまして、私は、争点主義の問題は、単にそれ自体だけ切り離して論ずることはできない問題である、裁決機関第三者性のあり方と密着して議論すべき問題だと思いまして、裁決機関第三者性の確保が可能な段階では争点主義をとるのが望ましいと考えるわけであります。ですから、その行政レベルにしろ、準司法的な性格の強い機関構成になった場合に、おっしゃるような争点主義をとることが非常に望ましい、そういうふうに考えております。
  56. 渡辺美智雄

    ○渡辺(美)委員 そうすると、北野先生は現在の法案はあまり賛成をしてないのだから、現在の法案について争点主義がいいか、総額主義がいいかについてお話しくださいということも無理でしょうから、それは申し上げることを差し控えたいと存じます。  その次の問題、異議申し立て人が審査請求をすると、審判官なりそれの付属機関の方がいろいろ調査をするということになります。調査をする際に、検査権、あるいは領置権、あるいは質問権、そういうような権利を持つことになります。その場合、異議申し立て本人は、所得税法や法人税法税務署から調査を受ける場合は、これは質問、検査に応じない場合、ことに税務署調査に非協力というような場合は罰則がありまして、なかなかこの罰則は重いのですよ。法人税法所得税法、相続税法では一年以下の懲役または二十万円以下の罰金、国税徴収法では十万円以下の罰金、酒税法や通行税法では十万円以下の罰金または科料、こういうふうにいろいろあるわけであります。ところが、この不服審判法といいますか、正確にいえば通則法の一部改正によると、これは本人が検査を拒否する、黙秘をするというような場合、つまり非協力というような場合は、罰則規定は何にもない。三万円の罰金ということになっておるわけであります。それは不利益処分はしないという精神で、それはいいとしても、今度は調査権限がある人が真実な資料を収集しなければならぬ。したがって、こちらの人が売り上げを落としました、本人は落としておりません。売り上げがある場合には、必ずだれか相手方があるはずですから、税務署はあちらの人というようなことを言うかもしらぬ。そのときに、そちらの別な、買ったという人を呼び出して、それでほんとうにあなたは三百万円買ったのですか買わないのですかと聞いた場合に、この人が検査を拒否をすれば三万円以下の罰金、こういうふうなことになっておる。ところが、非常に重いじゃないか、そういうふうなことは非常に罪が重過ぎる――社会党案では過料と思いましたな。政府案は罰金、こういうふうなことで、三万円ぐらいどうということないから、納めてしまえばそれまでで、前科一犯になるかもしらぬが、場合によっては三万円くらいじゃたいしたことないから、それはもう協力しないということになったら、これは私は真実の発見というものができなくなるのじゃないか。非常にこの罪は軽過ぎる、私は逆なんですよ。本人のは無罪にしてもけっこうだが、証人その他の者は、やはり政府がそれに相当権限を持たせるというならば、もう少ししっかりした真実を供述するという担保がなければ、幾ら審判所がえらい月給を払ってりっぱな機構をつくっても、出てくる人が甘く見たんでは、これは真実の把握が非常に困難だと私は思う。   〔委員長退席、山下(元)委員長代理着席〕 ましてや手足も税務署のようにはない、どうしても証人をたよったりなんかするようなことが重きをなしてくるだろう、こう思う。刑法によると、刑法には偽証罪というのがあって、これは偽証にもいろいろ問題がある。刑事訴訟手続法で裁判の証人に呼ばれますと、これは本人が自分自身の場合は黙秘権はもちろんあります。また、自分自身の場合、偽証にならないんだろうと私は思います。また、特定な親族等については、これは黙秘をしてもいいということになっておる。しかし、それ以外の者については三カ月以上、十年以下の懲役ということになっておるわけであります。これはやっぱり真実なる証拠を得るというところにポイントが置かれているから、そういう規則になっておるんだろうと思います。これは私は、真実というものを担保するために、真実な証言を担保するために、この刑量は不適当である、こう思うのでありますが、金子先生、どういうふうなお考えか、ひとつ御所見を承りたいと思います。
  57. 金子宏

    金子参考人 お答え申し上げます。  いまの御質問は非常にむずかしくて、私も自信のあるお答えはできないわけでございます。そして、これは法律上の義務に違反した人に対して、法律上の義務をどういうふうに守らせるかということで、たしか「法の義務づけよう」という論文を書かれた大先生がおられましたけれども、まあいろいろな利益を与えて義務を守らせる、こういうわけでございますが、義務違反が重大な場合には重い制裁を科しますし、義務違反が軽微な場合には軽い制裁を科するしということで、おそらく政府案社会党案との相違は、その辺の認識の相違に由来するのではないかというふうに思っております。この辺は、質問に答弁しなかったり、あるいは偽りの答弁をした場合の刑事制裁として三万円以下の罰金、実刑はなくても、もっぱら罰金刑というのが適切かどうかという御趣旨、あるいは罰金刑だけにしても、もっと多額の罰金を科すべきではないかという御趣旨のように思いますけれども、この辺のところは、私、実は刑法の専門家ではございませんで、どの程度の義務違反に対してはどの程度の刑事制裁を科すべきかという点について、おそらくいろいろな比例関係のようなものが立法者の頭の中にはあるのではないかというふうに思いまして、この辺のところは、もっと多額の罰金刑にすべきなのか、あるいは実刑をも科すべきなのか、それとも、もっと少額にすべきなのかというような点について、私、全く自信がございませんけれども、ただ一つ言えることは、他の租税法規の中の質問検査権違反に対して刑罰が科されていることからいたしますと、罰金刑ではあれ、刑罰を科すことは、その均衡を得ているのではないかという感想を持っていることだけでお答えをお許しいただければと思います。
  58. 渡辺美智雄

    ○渡辺(美)委員 もっと質問したいことがたくさんあるのですが、これでやめますけれども、北野先生もいまの所見を結論だけでけっこうですからお願いをしたいと存じます。  それから北野先生にはもう一つおまけがついているのですよ。これは一つは、いままでは査察事件があっても、査察事件は一方でその起訴をしておいても、異議申し立てなり審査請求ができたというふうに記憶しておるのですが、今回はそれは認めないということになったわけであります。国税犯則取締法による事件と書いてありますから、わかりやすくいえば査察事件、これは今回は審査請求その他は認めないということに法律改正になったのであります。これに対する一つの所感。私はどうも、現在の査察裁判というものは非常に長い時間がかかる、何もそう時間をかけなくても事実そのものはもっと早く、ともかく審査の段階で解決がつくというような問題もたくさんある。にもかかわらず、査察をかけた以上告発しなけりゃならぬということで告発をしたり、あるいは告発をしないで、修正申告を出さしたりする例があるわけであります。その場合この異議申し立てば認めないということは、裏返しにいえば、修正申告に応じないものは全部告発するぞ、告発するぞというおどしではないのかというような気がするわけであります。それから裁判は一方において行なわれるのに、違った結果が出ては困るというふうな配慮でやっておるのか。これは国税庁から詳しく聞きたいと思いますが、そういうふうに国税犯則取締法の事件について審査請求を認めなくしたということの当、不当、これは結論だけでけっこうです、理由はまたあとで聞く機会があると思いますから。  もう一つは、代理人というものをこれははっきりさしてきたわけであります。税理士が代理人になるということも書いてあるのでありますが、こういうような納税者権利というものを現在よりも少なくとも強く認めていくというような過程において、代理人となるべき税理士税理士法でいままでのように中正な立場という帽子をかぶっておるということは、私は適当でなくなってきたのじゃないかという気がするのですが、これに対する北野先生の御所見を承りたいと思います。
  59. 北野弘久

    ○北野参考人 お答えいたします。  まず第一点の政府案の百二十六条の罰則の問題でありますが、これは金子参考人がおっしゃったとおりの結論でお許し願いたいと思います。  第二番目の問題、これは後ほど申し上げますけれども、第三番目の問題でありますが、これは御指摘のとおり、私はかねて税理士法第一条の中正の立場という文言に非常に疑問を抱いているわけでありまして、法理論的には中正の立場というものはあり得ないということを考えているわけでありまして、租税法律関係というものは国または税務官庁とタックスペイヤーとの間の法律関係でございますから、税法の認めたワクの中でどの立場に立つかということしかないわけでありまして、決して中正の立場ということは論理上は考えられないというのが私どもの見解でありまして、その意味で、この中正の立場という税理士法の一条の規定は、単に文言だけの問題ではなくて、現在の税理士法の構造を示す象徴的な文言である。税理士制度というものを税務行政の補助機関的な位置づけしか与えていないという、そういう現在の税理士法の構造的な問題に連なる問題と思いますので、そういった問題が、特にいま御指摘のようにこの審判所制度実現してきますと、おのずと税理士の社会的な地位も高くなってくるわけでありまして、そういう意味税理士法のあり方についてもこの審判所制度一つの契機となって大きな波紋を提起するだろう、そういうふうに考えております。  第二番目の国犯法上の刑事事件についての問題でありますけれども、ちょっとこれは先ほど最初聞き漏らしたわけでありますが、行政不服審査法の四条の七号にも除外規定があるわけでありますが、いろいろ議論がございますけれども、私どもとしましては国犯法上の処分は大体においてこれは刑事手続に関する問題だという、そういう観点から考えるべきでありまして、広い意味行政争訟に親しまない、そういう見解をとっておりますので、刑事手続で争うことはいいのではないか、そういうふうに考えております。   〔山下(元)委員長代理退席、委員長着席〕
  60. 田中正巳

    田中委員長 村山喜一君。
  61. 村山喜一

    ○村山(喜)委員 時間の関係もありますので、私の意見はできるだけ交えないで、両先生からこの際考え方をお尋ねをいたしたいと思うのです。  この行政審判制度というのが、先ほど北野先生のお話の中にございましたように、国の立場からは、行政の自己反省と自己監督のそういうような制度として問題を処理をしようという考え方をとっている。それに対して忘れられている国民権利救済制度としての問題を考えなければならないのではないかという説明をお聞きをいたしまして、私も非常にその考え方に敬意を表するわけでございます。  そこで、先ほど金子先生のお話を聞いておりますと、二審級の前置主義というものは、これはやむを得ないのではないか、こういうような話がございました。ところが午前中、中政連の会長棚橋さんのお話の中で、青色であっても、白色であっても、訴願をするというその立場においては、あるいは審判に持ち込むという立場においては、変わりなく処理をするのがほんとうではないか。大体青色申告をする分については、税法の上にそれだけのメリットが与えてある。たとえば専従者の完全給与制度も、これは青色申告だけに認められる、白色の場合には十五万円でぶった切られちゃう。だから、記帳をすれば中小企業であってもめしが食えるのだということで、大体荒利益の五〇%分ぐらいを税金に納めたらあと半分ぐらいは残るような形になって、とにかくめしが食える。ところが、白色の場合には、その帳簿がないとかいろいろなことで、そういうような税法上の恩恵というものは非常に少な目に与えてある。そういうような形の中で、行政的に誘導をして青色申告に切りかえようとしているのだけれども、この不服申し立てについてまでなお差別をつけなけりゃならないということは、これはおかしいじゃないかという話がありました。  結局行政審判制度というのは、何といっても国民が安心をして行政的な手続の中で不利益を救済をしてもらえるのだという仕組みをつくることにねらいがなければならないのだ、そういうような考え方から、先生のお話を聞いておりますと、異議申し立て審査請求というその選択権というものは認めないのだ、やはり二審級の前置主義というものが実情から見てやむを得ないのではないかという話でありますが、そういうふうになってきますと、いわゆる国民の選択権というものをどういうふうに評価するか。それは単に行政審判だけでありませんで、裁判所に対する出訴権の問題とも関係があろうと思う。現実に税務署あたりでやられている行為を見ておりますと、現職の担当官が、異議申し立てをした場合についても、それが調査担当官に同一人がなってしまってやるようなことさえあり得るわけです。そういうような状態の中で、はたして公正な行政上の措置が期待ができるかということになると、私は疑問を感ずるのですが、それをやはり先生はそういうような主張をなさるつもりであるのかどうか、この点についてお尋ねをいたします。  それから、時間の関係がありますから、引き続いてもう一問お尋ねをいたしますが、これはいわゆる国税庁長官の指示権の問題であります。先ほどお話を聞いておりますと、その指示権というものは、実質的には大幅なワクの制約が加えられているのだという解釈でございました。しかしながら、私は、行政組織法の上から考えてまいりますと、その審判所というものは、これは国税庁付属機関であります。そしてヒエラルキーの原則というのですか、ピラミッド型の官僚の組織機構の上から考えてまいりますと、大体長官が指示権を持っているということは、それに対する拒否権を持っているということを意味していると私は思うのです。そういうようなものが審査会というようなものをつくってみましても、その審査会メンバーというものはだれが任命をするかというと、これは国税庁長官が任命する。承認権は大蔵大臣にあるけれども、承認を得て任命をするのは国税庁長官でありますから、これはどう考えてみても隠れみの的な存在というのですか、そういうようなものに私はなろうと思うのであります。そういうようなことから考えてまいりますと、はたして第三者的な性格というものを担保するだけの、そういう規定になっているかどうか、法律上ですね。私はそれを見て、どうも先生がおっしゃるのはあまりにも官僚というものは善良なり、というその前提の上に立ったものの考え方ではなかろうかという気がするのです。それを推し進めていくとするならば、もしその独立性というものを認めていくとするならば、やはりそこには、審判官になった者は審判官としてずっと過ごしていく。ほかの人事との、他の課長になったり、あるいは部長になったりするような行政官の一員であるけれども、他の職と交流をするというようなことはしないのだということにしなければ、任命権者が、自分の部下のように審判官を適当に入れかえるような組織原理の中では、その職務の独立性ということを保つことはできないと私は思う。やはりそこには、職務の独立性を保つには原則があるはずで、でありますから、その原則というのは、任命権上の独立性というのですか、それからもう一つは、やはり職務上の独立性というものを保障する体制というものが、政府提出をしましたところのこの法律案では欠けている。だから、どんなに善良に解釈をいたしましても、大幅に、何というのですか、その恣意というものを制限をするような中身に、残念ながら法律の形はなっていないと思うのですが、それでもそういうようなことが期待ができるかどうか、この点を先生からお答えをいただきたいと思うわけです。
  62. 金子宏

    金子参考人 お答え申し上げます。  まず最初の点でございますが、現在の行政不服審査制度のねらいがどこにあるかというところから御出発になったわけでございますが、この点については、戦前は訴願の目的というのは、行政庁に反省の機会を与えることにあるという説明のしかたも有力でございましたけれども、今日ではもはやそういう説明を表に出してある行政法の教科書や概説書というのはあまりありませんで、行政不服申し立て行政不服審査制度、これも第一次的には国民権利の保護救済を目的とするというふうに、どこにも書いてあるわけでございます。ただ、あわせて行政庁に反省の機会を与える、あるいは自己抑制の機会を与える効果が期待される、こういうことでございまして、それはどこまでも二次的なことでございまして、そちらだけに力点を置いた考え方というのは、今日ではあまりないというふうにお考えいただきたいと思います。  それからもう一つは、白色も青色も同じように異議申し立てを経ないで直接審査請求にいけるようにするべきではないか、そうして青色については、ほかにいろいろなメリットを与えておるから、この点では同じように扱うべきではないかというふうな御質問の趣旨のように承りましたけれども、この点ではそういう考え方も確かにできますけれども、他方では、青色については直接審査請求にいけるという、いわゆる選択権ですね、これも青色申告に与えられるメリットの一つであるというふうに普通はいわれているように私には思われます。  それから先ほど私が白色については二段階をというふうに申し上げましたことには、実質的な理由があるわけでございまして、それは白色の場合には、やはり推計課税の場合などが典型的な場合でありますが、十分な実地調査ということがどうしても不可能なわけでありまして、そこでもう一度原処分庁が見直して、自信のある回答に到達するという手続、これがどうしても要請されるのではないか、そして現在の異議申し立てに対する決定手続というのは、現実にはそういう機能を果たしているのではないかということでございます。先ほど、その中間的処分と最終処分というような、あるいはややミスリーディングかもしれないことばを用いましたけれども、それもそういう趣旨でございます。  それからもう一つは、確かにこの制度自体と制度の運用という問題がございまして、これはやはり運用するのは人でございますから、そういう意味では運用が適正、厳正に行なわれるということを期待するほかはない――期待するというか、その方向に持っていくように努力するほかはないわけでございまして、制度自体がよくなっても、運用が悪いということもございますし、あるいは制度は旧態依然たるものであっても、その内実は運用の日々の問題に対する適切な対処によって、うまく機能しておるという場合もあるように思われます。  それから二番目の指示権の問題でございますが、これは通常の行政庁が不服申し立てに対して審査をする場合には、先ほど申しましたように、完全な意味で上級庁の指揮監督権も及びますし、取り消し権も及びますし、そういうことになるわけでございますが、この案では、その点をかなり制約しておりまして、いわばピラミッド型の組織の内部にはあるけれども、半分はそこから出ているというようなかっこうではないかと思います。御質問の御趣旨は、もっと完全にピラミッドの外に出すべきではないかという御趣旨のように思います。そして、その国民権利救済ということを考えますと、長期的にはそういう方向に制度を持っていく必要というのは、私はあるように思いますけれども、それはやはり司法裁判所との関連、そういうものをつくった場合に、なおかつ第一審裁判所につなげて四審級を経させる、最高裁判所までだと四審級を経させるのかどうかという点の問題もございますし、そういう問題もございます。それから、そういう完全にピラミッドの外に出た組織としてつくった場合には、そこの手続をどのように整備するのか、あるいは証拠調べの採証法則と申しますか、そういうものをどういうふうに整備するのか、あるいは人をどういうふうにして得るのか、現在即刻そういう人を得ることができるのかどうかというような幾つかの問題があるように思います。  そして私は、確かに長官の指示権が残っているという点では、依然としてピラミッドの中の組織という色彩をぬぐえないわけでございますけれども、この制度は一歩前進した、あるいは数歩前進したものである。そしてそれを固定的には考えませんで、フレキシブルに考えて、将来その方向に持っていくためのステップともなり得る。そしてこういう制度の問題でございますので、いろいろな試行錯誤を重ねながら、制度を全体としては好ましい方向に持っていかざるを得ないのではないか。私も理念論としてはいろいろなことを考えますけれども、いろんな制約の中で考える場合には、やはり試行錯誤を重ねながら前進を続けていく以外にはないのではないかというふうな感じを持っているわけでございます。  それから人事交流の問題でございますが、これは私もおっしゃる趣旨に賛成でございまして、要するに現実の賦課徴収に当たる機関の人と、それから審判所審判官との間にあまり交流があるということは好ましくない。やはり審判官はそのメンタリティーとしては、納税者権利保護と申しますか、そういうようなメンタリティーに全体としてなっていくことが好ましいわけでありまして、そういう意味では、人事交流ということがあまりひんぱんに行なわれることは好ましくない。特に審判官の段階になると、それは原則的には好ましくないというふうに考えております。要するにこの辺のところは、運用をどうするかということと非常に密接に関係してくる問題ではないかと思います。
  63. 村山喜一

    ○村山(喜)委員 時間がありませんから、もうこれでやめますが、最後に北野先生にお尋ねいたしたいと思うのです。  行政審判の方式でやるかどうか、あるいは裁判で争うかどうか、それの選択権を国民に与えるというのがほんとうの基本的な考え方だと思うのです。ただそのときに、われわれも異議申し立て審査請求の選択権を与え、自由に選ぶことを認める法案を出しておりますが、やはり前置主義というものはとっておるのです。とりました理由は、御承知のように、現在の裁判の機構、税法の裁判を担当し得る人材というようなもの等が、現実に見て非常に少ないという状態ですね。そういうような状態の中で、それを裁判ですべてをこなしていくと、なるほど国民行政機関よりも裁判所というものを信頼をしておりますから、それが最も望ましい姿ではあるけれども、しかしながら、それが現実的にできない。できないとするならば、どうしたらいいか。一番独立性の強い行政組織機構の中における審判制度というものを設けて、それで当面はカバーしていくよりほかにはない、こういうような考え方に立ったのです。それで審判官に対する忌避の権利等も保障をするというような中身のものも出しておりますが、そういうような考え方に、一面においては理想を追っかけながら、一面においては現実を踏まえていくという、そういうような法案になっていることは御承知のとおりであります。これでいくより当面はしよえうがないんじゃないかという考え方ですが、やはりそういうような出訴権という裁判の権利というものを保障をするために、独立した一つ税法の裁判所みたいなものを、憲法はこれを否定をしていないんだという考え方で先生は処したほうがいいというふうにお考えでございますか。その点だけ御説明をいただきたい。
  64. 北野弘久

    ○北野参考人 お答えいたします。  先ほど申し上げましたのは、原理論的あるいは本質論的には前置主義は根拠づけることはできないということを申し上げたわけでありまして、ただ次善の、実践的な側面での議論としましては、行政機関内部のものであっても、その構成第三者的なものであるということであれば、前置主義を維持しても、それほど不合理にはならないというふうに考えるわけであります。ただ私、申し上げましたのは、政府案のレベルの構成では、実践の側面におきましても、前置主義は問題であるということでありまして、行政レベルの問題であっても、第三者的な性格が強くあれば、前置主義を維持しなくてもよろしい、そのように考えます。
  65. 田中正巳

    田中委員長 広沢直樹君。
  66. 広沢直樹

    広沢(直)委員 両先生の御意見を拝聴いたしましたので、一、二点お伺いしてみたいと思います。  まず、金子先生にお伺いいたしますけれども、先ほどいろいろ御意見を拝聴して、やはり現在の政府案をお認めになることは一歩前進であるからというお話があったわけであります。したがって、私としてはそのお話を拝聴しながら、消極的ながら一応お認めになった、一つのステップであるという考えに受け取れたわけでありますが、そうであるとするならば、北野先生からもう一歩進んだ御意見も伺いまして、そういうわけでどういった点を基本的に将来持っていくべきかというお考えがあるかどうか。北野先生からのお話では、以前の不服審査制度ができるときに、現在のようなもう一歩進んだ組織ができたはずだという御指摘もありました。私も確かにそうだと思います。そういう点でその点をひとつお伺いしておきたいということと、両先生に共通にお伺いしておきたいことは、協議団制度ができたときには、これは革新的なものであって、相当権利救済という面に大きな働きをなすであろうと思われましたし、現実にそういう働きをしてきた。しかし、現在においては相当問題点が多い、こういう御指摘であります。税調においてもそういう答申が出ておりますが、やはり問題点ということはどういうふうに御指摘になるのか、少し具体的にその点をお伺いしておきたいと思います。その問題の掌握のしかたによっては、制度そのものの改革の行き方も変わってくるものと考えられます。その点をまず第一にお伺いしておきたいと思います。
  67. 金子宏

    金子参考人 まず最初の点でございますけれども、これは最初のときにも申し上げましたように、やはり行政不服審査制度というものは、一方では簡易迅速な救済の機会を与えるというところに一つのねらいがあるということは、確かなように私には思えるわけであります。そして行政委員会制度が採用されておる分野というものは幾つかございますけれども、それは非常に専門技術的な分野、たとえば公正取引の問題でありますとか、そういう問題ですね。あるいは人事院は非常に大きな独立性を持っておりますが、これは人事行政そのものが人事院の所管というふうにされているわけですね。そういう意味では租税事件そのものというものは、租税関係行政不服申し立てそのものというのは、いま言いました人事院的な場合とも違いますし、行政委員会で取り扱っているような特殊な問題とも違いますし、いわば現実の租税の賦課徴収と密接に関連して出てくる問題でございますので、そういう意味で、私はやはり簡易迅速に処理するためには国税庁に置いたほうがいいのではないかというふうに考えているわけでございます。  それから、将来の問題でございますが、私の考えておりますことは、先ほど申しましたように理念論でありまして、それはいろいろな点と相関関係を持ってくるわけでありまして、たとえばアメリカ型の租税裁判所を設けるというような場合には、現在の異議申し立て審査請求との関連をどうとらえるか、それから司法裁判所との関連をどうとらえるか、あるいは租税裁判所的なものの内部での事案の処理それ自体についてどういうふうにするかというようないろいろな問題があるわけですね。ですから私としては、一応別個の問題として、将来の課題として考えていきたいというふうに現在のところは思っているわけでございます。  それからもう一つ、先ほどの御質問で、ちょっと私、お答えしょうと思っておりましてお答えしなかったことがあるのでございますが、よろしゅうございましょうか。――それは、不服申し立て前置主義のことでありまして、全面的に廃止することには私は消極的だということを申し上げました。それからそのあとで法律問題と事実問題とを切り離して、法律問題だけについては直接出訴を認めたらどうかという点に論点が移ってきたわけでございますが、この点は私は、法律問題と事実問題との区別がそもそも非常にむずかしいという御指摘が最初のころございましたが、それとあわせて、法律問題にからんで出訴するのであろうと、事実問題にからんで出訴するのであろうと、法律技術的には処分の全部または一部の取り消しを求めているわけですから、したがって、法律問題として出訴しても、あとから処分が違法な理由として事実問題を持ち出すということは幾らも可能なわけです、現行の訴訟制度上。この二分論にはそういう意味での法律技術的な観点からの疑問を感ずるということですね。それから、かりに法律問題しか最後まで争わないといたしましても、法律問題というのは密接に事実問題にからんでいるわけでございまして、先ほど例にあげられた修繕費かあるいは資本的支出かという問題ですね。この問題なども法律問題、ある支出が資本的な支出かどうかというのは、日本では法律問題だと思います。アメリカではこれは事実問題というふうに考えられていると思います。そしてこの点でそれが資本的な支出かあるいは修繕費かという法律問題を検討するにあたっては、裁判所はやはり事実を綿密に調査しなければ、法律上の論点についての結論には到達し得ないと思います、良心的な裁判官である限りは。そういう意味では、事実問題と法律問題とを区別するということは、理論上はできるけれども実際上は困難を伴う。そういう二つ理由からどうも消極的なわけでございます。
  68. 広沢直樹

    広沢(直)委員 それから北野先生にお伺いしたいのですが、先ほど申し上げましたとおり、いろいろの諸問題ということですね。その諸問題を御指摘の上で、抜本的な、もう一歩進んだ改革論をおっしゃっていらっしゃると思いますが、その原因になっております現在の協議団制度の諸問題をどういう御指摘になっていらっしゃるか、それをお聞かせいただきたいと思います。
  69. 北野弘久

    ○北野参考人 お答えいたします。  協議団制度の欠陥につきましては、いろいろございまして、まず裁決権国税局長にあるということでありますし、それから協議官自体は税務官吏であるということでありまして、税務官吏構成します判断に基づいて国税局長裁決を行なうことになっておるわけでありまして、いわゆる同じ穴のムジナ、そういう議論などございますけれども、法的な構成の面でも実態的にもいろいろ問題があるわけであります。ただ昭和二十五年でしたか、当時できたころはこれは非常に重要な意味を持っていた。審査庁以外の機関がともかく裁決あるいは決定に参加するという、そういう制度行政争訟制度の中では特殊な注目すべき事例でありますものですから、その点私は評価するわけでありますけれども、戦後約二十年を経過しました今日の段階では、この際根本的に考えてみるべきであろう、そういうように考えております。よく試行錯誤的に徐々に直していけばいいんじゃないかとおっしゃるわけですが、しかし、私はそれは非常に危険な発想であると思います。  日本の戦後の二十年間の税法改正の歴史を見ますと、たとえばごく最近の例だけで申しますと、昭和三十四年の国税徴収法の全文改正昭和三十七年の国税通則法の制定、あるいはごく最近ではさらに昭和四十年の所得税法、法人税法の全文改正という、わが国の税制上基本的な法典の改正がきわめて安易な姿勢で行なわれている。たとえば今回のものにつきましても、昨年の夏に、わずか半年前ですか、おくれておりますからちょっとたっておりますけれども、半年くらい前にあわててつくられておるわけでありまして、その間担当官の方は非常に勉強されていることをよく知っておるわけでありますけれども、何もこれはあわてて出す必要はないのじゃないか。私は、日本の税制の問題を考える場合に、税法の立法過程論が学問的に追求されるべきである、これなくしてはいかなる税制の民主化も税務行政の民主化もあり得ないというふうに考えておるわけでありまして、大蔵官僚機構を中心とします税法の立法過程に社会科学的側面からの学問上のメスを加えなければ、絶対に日本の税制はよくならない、税務行政はよくはならない。大体国会で審議されますのは、従来もっぱら財政論あるいは経済論でございまして、法律論的な構成についての審議はわりに旧来行なわれなかったわけですけれども、二、三年ほど前から社会党の議員の方が中心になって、非常に積極的な動きを示されつつあるわけであります。  税務の実際の問題は結局法律論でございまして、たとえば、会社がある支出を行なったことの損金算入が法人税法上適法であるか違法であるかというのは法律論の問題でありまして、そういう法律構成論的な審議を立法段階でやらないと――商法の改正あるいは民法の改正は非常に長年の、長期の検討を終えた上で国会に提出されるわけでありまして、私は実体税法に関する、たとえば控除を上げるとか下げるとか、あるいは税率を上げるとか下げるとか、そういう問題はやはり経済の変動に応じてまさにフレキシブルに考えていくべきだと思いますけれども、日本の税制改正の歴史を見てまいりますと、これはずっと調べてみたわけでありますけれども、現に私どもは研究グループを組織しておりまして、現代資本主義の発達の過程における税制の占める地位というものを法律学の立場から研究をやっておりますのですけれども、かなり長期に調べてみた結果同じようなことが言えるわけであります。税法改正は社会経済の変動に応じて改正が激しいのはあたりまえである、そういうことがよく言われますけれども、よく検討してみますと、あまり改正する必要がないときに改正されておるということがよくあるわけでありまして、もとへ戻ったとか、当然一度にやるべき問題を部分的、小刻み的に国会に提出するという、そういうきわめて作文的な安易な姿勢の改正、これは決して担当官が悪いという意味ではなくて、やはり日本資本主義における官僚機構の位置づけの問題になってくるわけでありまして、まさに社会科学的研究課題でありますけれども、そういう側面からメスを加えないといけないわけであります。要するに、税法に関する立法現象を社会現象の一つとしてつかまえまして、客観的に社会科学的にメスを加えるというそういう作業をやらなければ、永久に日本の税制、税務行政は民主化されない。ですから、試行錯誤的なという発想は非常に危険であるということを私は体験上よく承知しておるはずであります。  それで、特に今回の権利救済制度は、きょうあす改正しなければ困るという問題ではないわけでありまして、できることなら安定的な視点に立って御検討願いたい、そういうふうに考えております。
  70. 広沢直樹

    広沢(直)委員 どうもありがとうございました。
  71. 田中正巳

    田中委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。  両参考人には、御多用中のところ長時間にわたり御出席いただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚くお礼申し上げます。(拍手)  御退席を願ってけっこうです。  次回は、来たる十三日金曜日、午前十時理事会、十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後四時五十分散会