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岡田(利)議員 私は、ただいま議題となりました
石炭鉱業国有法案並びに
日本石炭公社法案について、
提出者を代表し、その提案の趣旨説明を申し上げます。
戦後日本経済再建のにない手となった
石炭鉱業は、その後石油の
進出により急速にその
需要が減退し、千二百円炭価値下げとともにスクラップ・アンド・ビルド
政策が強行され、その結果
失業者のはんらん、
関連中小企業の倒産を引き起こし、
産炭地域は荒廃して大きな社会問題となり、
労働者を
中心として、
中小企業者、
住民、自治体、
一体となって
政府に
石炭政策の転換を迫ったのであります。
昭和三十七年四月
政府は
石炭鉱業調査団を編成し、第一次、第二次、第三次の
答申がなされたのであります。ことに第三次
答申は、抜本策として千億円の債務の肩がわりという私
企業への異例の措置であったのであります。
しかしながら、これらの諸
政策もことごとく失敗に終わり、
石炭鉱業の全面的崩壊は必至の
情勢となってきたのであります。
かくして
政府は
石炭鉱業審議会に
答申を求め、昨年十二月二十五日第四次
答申がなされたのであります。この第四次
答申の基調は再度千億に及ぶ債務の肩がわりを
中心とする五年間四千億
程度の
財政支出を行ない、この間に出炭規模を三千五百万トン
程度に縮小しようとするものであります。
この
答申は私
企業としての経済的基盤を完全に失っている
個々の
企業をそのままの形態にして再建交付金を交付するものであって、全く従来の
政策を踏襲したのみであります。
これは金融機関の救済と個別
企業対策であって、
石炭の産業
政策ではありません。再び過去の失敗を繰り返すことは火を見るよりも明らかであります。
私は今日までの
政府の
政策について、その欠陥を指摘しつつ
政策の提言をいたしたいと思います。
第一に従来の
政策の最大の欠陥は個別
企業対策に終始したということであります。相次ぐ
答申が挫折した原因にはもちろん予想以上の重油価格の低落、諸物価の高騰などがありますが、
政策を策定するに際して
提出された各社の計画が常に会社の利害の上に立ってつくられ、さらに
答申に基づく再建計画の実施が無秩序に行われ計画がそごを来たしたという事実を見のがすことはできないのであります。第四次
答申による
石炭再建策もその轍を踏むことは確実であります。
第一次
答申以来各社は競って、第二会社化、
閉山、首切りをすすめ、五年間逐次実施する予定のスクラップ計画をわずか一年半で強行し、その後における合理化もベースアップの抑制、労働時間の
延長、組夫の導入等全く非近代的
方向で行なってきたのであります。この結果、大災害の頻発となり、
労働者に
炭鉱の将来に対する展望と希望を喪失させ、離山ムードをかり立て、ついに計画出炭体制を経営者みずから放棄するに至ったのであります。
第二には、かように
企業内合理化は非合理化の段階まで落ち込んでいるのに
企業間の合理化は全然放置されてきたということであります。
石炭鉱業の近代化を阻害しているものは、明治以来の先願主義による鉱区の
大手炭鉱の独占と錯綜せる鉱区の分布によるものであります。鉱区の統合は
石炭の生産構造整備の基本であります。地下の鉱物資源が
土地所有権に属す法制になっていた英国においては群小の
炭鉱が存在し、近代化が著しくおくれていたところから、早くより国有化が叫ばれていたのであります。イギリスの国営、フランスの公社営
制度は大胆な鉱区の統合再編成でもあったのであります。したがって生産基盤の整備を行なわずして
石炭鉱業近代化はあり得ないのであります。
次に
石炭鉱業の近代化のおくれはその
流通機構にも見ることができるのであります。わが国においては数百種に及ぶ銘柄があり、しかもこの輸送コストの高い
石炭の交錯輸送が行なわれている現状であります。最近は
石炭の
供給構造が変化し、
北海道に重点が移行し、さらに
石炭各社の出炭と販売シェアが変わりつつある今日、
流通機構の一元化が緊急な課題であります。
石炭の
需要は電力並びに鉄鋼が大宗を占め、いわばその大部分が
政策需要であることからも販売における競争はもはや意義を失っているのであります。今日まで
政府がこれらの根本的問題の解決に手をつけようとしなかったところに、わが国の
石炭鉱業の悲劇があるといわざるを得ません。
第三には、今後の
石炭政策において最も重要な問題はいかにして
労働力を
確保するかということであります。鉱山の命数は鉱量によってきまり、
個々の
炭鉱に就職することは若い者にとっては永遠の
職場たり得ないのであります。高温多湿の地底に、しかも災害の多い
職場で、低賃金で、退職金すら
確保の保証のない
状態において、
労働力の吸収が困難であることは当然であります。それには災害を防止し労働
条件を引き上げ、現在のような各
炭鉱別雇用でなく
石炭鉱業全体としての雇用形態に改め少なくとも現存する
技術者並びに
労働者を
確保しながら若い
労働力の養成をはかることが必要であります。
第四には膨大な債務と残存鉱害の処理の問題であります。欧州各国とも
石炭政策については多くの
予算を計上して保護助成
政策をとっているのでありますが、わが国のごとく私
企業たる個別会社に
政府が債務の肩がわりをした例は皆無であるとともに
企業間においてきわめて不公平な施策となっているのであります。しかも一千億の肩がわりでは立て直しが困難であることが判明した今日個別
企業を再編成し公的機関に統合してこの債務の整理と鉱害の処理を行なう必要があります。
以上の観点よりこれらの問題を総合的に解決する方法は
炭鉱を国有化して公社において経営する以外にないと思うのであります。
わが国におけるエネルギーの消費は年々経済の成長率とほぼ同一テンポで増加しているのであります。
これがために
供給源の分散化、海外原油の
開発、備蓄等の
対策が進められ、増殖炉等発電用原子炉の
開発が期待されていますが、国内資源である
石炭鉱業の継続的安定こそ最も確実な安定
供給であります。また鉄鋼生産の飛躍的な増大に対処し、その原料炭の
確保は、最も肝要であり、国内炭のみではなく、海外
開発もみずから行なう体制の確立が必要であります。国民総生産は世界第三位に達したわが国経済において、今日の出炭規模
程度の維持はけだし当然といわなければなりません。
かかる見地に立って以下
石炭国有法案の概要について申し上げます。
第一章は目的についての規定であります。
石炭がわが国における重要なエネルギー資源であり、エネルギーの将来にわたる安定的
供給を
確保する上に重要な位置を占めていることにかんがみ、
石炭の掘採、取得及び輸入の権能を国に専属し、計画的、合理的な生産及び
供給を
確保し、
石炭鉱業の継続的安定をはかり国民経済の健全な発展に寄与することを目的とするものであります。
第二章は前述のごとき目的に基づき
石炭鉱業に対する国の権能を規定しました。しかしてその権能の実施は日本
石炭公社をして行わしめることにいたしたのであります。
第三章は
石炭需給計画について規定しました。
石炭審議会の
意見を聞いて毎年
通商産業大臣が当該年度以降五年間の需給計画を定めることにいたしたのであります。
第四章は
石炭審議会の規定を設け、公社の労使、
需要者、学識経験者からなる四者構成といたしました。
第五章は
石炭鉱業等の買収について規定いたしました。買収の価格方式についてはわが国における従来の鉄道国有法、日本製鉄株式会社法、日本発送電株式会社法の場合、並びに欧州における国有法、公社法の場合の方式等を
検討いたしましたが、わが国における
石炭鉱業の
企業経理の
実態から一定期日前一定
期間の平均株価を基準として評価することにいたしました。これらは政令によって定めるわけでありますが、わが党としては国有法案が
国会に
提出された二月十八日前一年間の株価平均といたしたいと存じます。
非上場の会社については評価審査会において上場会社の買収価格を考慮にいれながら資産を評価し、それから負債を控除した額を基準とすることにいたしました。兼業会社は政令による基準によって
指定し、当該
企業の
石炭部門を買収することとし、この評価は非上場の場合と同じ方式をとることにいたしました。現在稼行していない鉱業権については消滅さすこととし、その際これによって生じた損失については補償することにいたしました。買収時において鉱業権者等が有する権利、義務は国が承継し、直ちに公社に引き継がれるものといたしました。これらの買収代金並びに補償金については、国債証券を交付し二十年以内に償還することといたしました。
なお本
法律施行に伴う諸種の
法律の整理については別に施行法を
提出する所存であります。
次に、
日本石炭公社法案について説明申し上げます。
第一章においては日本
石炭公社は国有法に基づき、
石炭の掘採、取得、輸入、販売、海外を含め未
開発炭田の
開発等の業務を行なうことを規定いたしました。輸入業務は委託を行なうことができるように規定し、また販売についても小口等は従来どおり商社を通じ販売するつもりであります。
資本金は二百億円と全額
政府出資といたしました。
第二章に業務運営の重要事項を決定する機関とし経営
委員会を設け学識経験者、
労働者を代表する
委員、公社を代表する特別
委員で構成することにいたしました。
第三章は役員並びに職員について規定いたしましたが、職員の身分関係については公社と労働組合との協約並びに就業規則に譲ることといたしました。
なお、職員の労働諸権制につきましては、ILO結社の自由に関する実情調査調停
委員会のドライヤー報告書のすべての公有
企業が、関係
法律上区別することなく、同一の基盤で取り扱われることは適当ではないと述べている勧告に基づき、本公社の職員は公労法の適用を受けず一般労組法、労調法の適用を受けることといたしました。
第四章は財務及び会計について規定いたしました。この点に関し、現行の三公社と異なる点は給与総額を設けず、かつ
予算上不可能な
資金の支出を内容とする協定を締結したときは、その協定締結後十日以内に必要な補正
予算を
国会に
提出しなければならない旨の規定を設けました。
その他
石炭債券発行等の規定を設けました。
以上が
日本石炭公社法案の概要でありますが、すでにわが国と同じく
石炭を私
企業として会社別に経営をしてきました西ドイツにおいては、昨年
石炭鉱業の適応化と
産炭地域の健全化に関する
法律が成立し、ルール
石炭鉱業株式会社が発足し、ルールにおける二十九
炭鉱会社中二十四
炭鉱会社を吸収統合し、その下に七社を置き、
石炭生産シエア約八十数%、従業員十九万人の一大体制整備を断行し、今後二十年間にわたる西ドイツ
石炭鉱業の安定を目ざしているのであります。
また、わが国においても第四次
答申に至る間において、
石炭経営者側からは、
全国一社化案、三社化案、販売
機構の一元化案が提案され、またいわゆる植村構想が
検討された経緯もあり、
石炭の長期安定のためには、いまや抜本的な体制的解決が不可決の要件となっているのであります。今日までの
石炭政策のきびしい反省と、
石炭鉱業の
実態を直視すれば、
石炭鉱業の国有、公社化が最善の道であると確信するものであります。
わが党政権下であるならば、当然エネルギー全体を把握し管理する方式をとるべきでありますが、現在の政治的分野を配慮して、この崩壊しようとする
石炭鉱業に限定し、その立て直しをはかり、国産エネルギー源を
確保する見地から、
石炭鉱業国有法並びに
日本石炭公社法案を提案する次第であります。
何とぞ、本法案がすみやかに
審議され、可決されんことをお願いいたしまして、提案の趣旨説明といたします。