○
中村参考人 中村です。
大型合併についてのいろいろの
寡占の
体制の強化に伴うところの
問題点について、
経済政策なりあるいは
企業の
あり方なりの問題については、すでに
木村先生のほうから
説明がございましたが、ほぼ私も同じような
意見であるわけなんです。そこで、ひとつ
木村先生が残されました、非常に
説明が簡単になりましたところの、
規模の
大型化に伴う
経済効果という問題にしぼって、ここで少し
説明をしておきたいというふうに思っております。
大型化による
規模の
利益はないんだというような
意見もございますが、これは
産業の認識といたしましてはかなり間違った点があるのではないかというふうに思います。
規模の
利益こそ、
大型合併による
企業の
集約化が
現実に
日本の
資本主義が置かれておる
国際環境とこれまでの
あり方から見ますと、
一つの必然的なコースとなっておる大きな
理由であるわけなんです。
技術革新に伴いますところの設備の
大型化は、
鉄鋼業について見ましても、この十年間で非常に顕著なものがございます。昭和三十五年ころ高炉は容積にして千五百立方メートル、ところが現在では二千五百立方メートルと著しく
大型化しております。
ところで、この設備の
大型化によるコストダウンの
経済効果というものは非常に大きいものがあるわけです。たとえば二千立方メートル、それから二千六百立方メートルの高炉を二基備えたある
製鉄所と、千六百立方メートルの高炉二基を備えたある
製鉄所を比較した場合に、前者のほうが製品コストで約一〇%近く安いといわれております。これは
鉄鋼業とか化学工業とか、そういった装置工業にとっては、プラントの
大型化がコストダウンに与える影響はきわめて大きいからなんです。大体通常、労働手段というのは機械的労働手段と装置的労働手段の二つに分けられますが、機械的労働手段では、たとえば
生産を十倍にいたしますと機械の台数も十倍にしなければならない。したがって機械を置く場所も十倍に広げる必要がある。労働者についてみましても、これまでたとえば十人で済んだ分は、今度は百人必要となるわけなんです。建設費の点から見ても、労務コストの点から見ても、やはり十倍化しなければならないという
条件にあるわけです。もちろんこれは管理技術が進んできますと、労働者も少なくて済みます。しかし管理技術を
一定としますと、コストは
生産量に比例してふえるというように考えなければならない。ところで、装置工業では装置の拡大は容器の面積や体積の
変化にかかってくるわけですから、たとえば容器の壁を二倍にいたしますと体積は八倍になります。この場合、単位能力当たりの建設コストは、装置が
大型化すればするほど著しく安くつくということになります。また労働コストも
生産能力が十倍になったからといって、所要の労働力が十倍になるわけではございません。所要の労働力はほとんど変わらないという場合もかなり多くあるわけなんです。こういった点から見て、
規模の
大型化の
利益は非常に大きいわけです。もちろん小
規模の装置を大
規模化していくためには、ただ単に装置工業の場合に容器を大きくすればいいというだけの問題ではございません。容器を大きくするためには、かなりの困難な経済的な問題がございます。これは一般にスケール・エフェクトというようなことばで呼ばれております。こういった技術的な困難性の解決ということがこの際問題になるわけなんです。この技術的な困難性の克服にはいわゆるエンジニアリング力がどれだけ確立されているのか、あるいはどれくらい高い水準にあるのかということが重要な問題です。このためには、
関連部門の技術あるいは
関連部門の研究まで含めて、高い技術面での自主的創造性の開発ということが重要な課題として提起されてくるわけでございます。
ここでまた
鉄鋼業にちょっと戻りますと、
製鉄所は、前は二千五百立方メートルと言いましたが、現在建設中のものは高炉で約三千立方メートルに達しております。こうなりますと、高炉一本の年間の供給量は約二百五十万トンにのぼります。この高炉及びこれに伴う分塊、圧延その他の加工を適正
規模でやるといたしますと、大体高炉を四本設けなくてはならない。つまり粗鋼ベースでは一千万トンぐらいが適正
規模だというふうに考えていただけばけっこうかと思います。このような一千万トンの適正
規模の工場をつくるといたしますと、資金にして約三千五百億円というものが必要になってきます。これは現在
八幡と
富士の
資本金を合わせたものの約倍近くになる。この巨額の資金をどう調達してくるかということも、この
大型化に伴うところの重要な課題になってくるわけでございます。
次に、この超
大型化に
対応する
市場性の問題もございます。たとえば高炉一本で粗鋼ベース年間二百五十万トンを
生産できるといたしますと、今後の国内需要の伸びを年間五百万トン、輸出の増加を二百五十万トン、計七百五十万トン増加とかなり大胆に予想いたしましても、毎年新設される高炉が三本もあれば、つまり毎年三本か四本の高炉と申しますと、一セットの
製鉄所をつくれば十分でございます。ところが
日本には現在大手六社がございます。しかもこれらの各社がそれぞれ一セットの適正
規模の
製鉄所をつくろうとしておりますし、またこれまで銀行が各社に対してたいへんな貸し出しをやっていますので、激しい
企業競争の中で、
鉄鋼企業と銀行が組んで一セット主義の設備投資を推し進めるということをやってきたわけでございます。そうしますと、これはたいへんな過剰設備投資ということになります。そこで毎年
鉄鋼業界では自主調整という話し合いが続けられ、各社が一本ずつというようなことで設備投資をやってきたわけです。この結果、各社とも鉄鋼バランスが失われ、片肺操業というのが現在
日本鉄鋼業の現状なんです。片肺操業と、そうでない場合を比較いたしますと、簡単な例ですが、片肺といわれる高炉一木を設けますと、予備を含めて転炉が二基必要です。高炉二本では転炉は三基でいいわけです。つまりそれだけ片肺操業ではコストヘのはね返りが大きいわけです。そこで国際
競争力を備えた適正
規模の工場をつくるためには、どうしてもひとつ投資の
集約化が必要である。このことから
一つの
合併問題の必然性も出てきたでありましょうし、またこれは必ずしも
大型合併だけではなくて、共同投資という問題もここから生まれてくるというふうに私は考えます。
最後に、よくこういう
大型企業が生まれてきた場合には、
技術開発力があまりないのじゃないかというような問題を指摘される向きがございます。この点についてちょっと触れておきますと、
企業の
大型化は必ずしも
技術開発力を強化するものではない、たとえばUSスチールはトップの座に安住して
技術開発力に対する意欲に欠けておる、もっと一般的に言いますと、トップ
企業は技術に本質的に怠慢である、こういうふうにいわれておりますが、これは現代の科学技術の創造開発に関する限りでは現状認識にやや欠けておられるのではなかろうかというふうに思います。
こうした見解では一例としてよく現在
鉄鋼業において最も革新的な技術だといわれておりますところのLD転炉の例があげられます。これはオーストラリアの小っぽけな
会社が開発したもので
日本では世界に先がけていち早く取り入れました。その取り入れたのは
八幡や
富士ではなくて住金たんです。現在同社では製鋼プロセスの九〇%以上がこの転炉法です。このようにトップ
企業が必ずしも技術的に先行していないということは、
鉄鋼業以外でも類似の例がございます。たとえば電機工業におけるソニーと日立、東芝の例を考えていただいてもけっこうかと思います。
しかしながら、こういった転炉の例はありましょうが、一般的に見ますと、現代の革新技術を生み出すためには、何といっても強大な
技術開発力が必要であるということは間違いございません。USスチールは
技術開発の意欲がない、トップの座に安住しておる、こういわれておりますけれ
ども、一説によりますと、USスチールは直接製鋼法を完成してテストプラントを動かしておるというふうにいわれております。この直接製鋼法というのは、現在の製鋼法よりも約一〇%コストを引き下げます。これは特に原子力発電と結びついて、そのコストは電力料金いかんによって大きく左右されます。しかし、原子力発電による安い電力の利用と結びつきますと、直接製鋼法はたいへんなコストダウンを可能とする、まさに製鉄技術ではコペルニクス的転回だといわれておるわけです。
さらにUSスチールはリムド鋼の連続鋳造法をやっております。これは約百億円の研究投資がかかるわけです。これをやりますと鋼材の非常に大量
生産が可能で、コストダウン
効果がきわめて大きい、こういわれております。このリムド鋼の連続鋳造法の開発には約百億円の金が必要です。このように
鉄鋼業で見ますと、改良技術の開発でさえ数十億円、中にはこのように一件百億円をこえるものが出てくるわけなんです。
そうしますと、こういった
大型の
技術開発は、どうしても
大型のいわゆる研究
条件を持っておるととろでなければなかなかむずかしいということは言えるわけなんです。
これまで
日本の
鉄鋼業を見ますと、非常に
技術進歩が早くて、どんどんどんどん
大型化し、国際的に見て非常に安い鉄をつくるというふうにいわれておりますが、しかし、これまで見ますと、大体導入技術を主体にして、いわゆる技術は借りもので、これを具体化した設備をそのまま輸入し、あるいは設計図面を輸入して
日本でつくるというふうな形でやってきておりますので、
技術開発という点では非常におくれております。
八幡、
富士合わせて大体年間六十億前後というのが研究費です。それで、現在では、これは
あとで問題になるかと思いますが、技術導入期はほぼ終わっております。したがって基本技術の自主開発ということが
研究開発の主要な目標です。そのためには
技術開発力を強化しなくてはならないわけです。もちろん、この
技術開発力を強化するためには……。