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1969-07-09 第61回国会 衆議院 外務委員会 第32号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十四年七月九日(水曜日)    午前十一時三十七分開議  出席委員    委員長 北澤 直吉君    理事 青木 正久君 理事 秋田 大助君    理事 蔵内 修治君 理事 田中 榮一君    理事 山田 久就君 理事 戸叶 里子君    理事 穗積 七郎君 理事 曽祢  益君       佐藤洋之助君    坂本三十次君       世耕 政隆君    永田 亮一君      橋本登美三郎君    福田 篤泰君       古屋  亨君    松田竹千代君       宮澤 喜一君    毛利 松平君       木原津與志君    堂森 芳夫君       山本 幸一君    米田 東吾君       樋上 新一君    渡部 一郎君  出席国務大臣         法 務 大 臣 西郷吉之助君         外 務 大 臣 愛知 揆一君  出席政府委員         内閣法制局第三         部長      荒井  勇君         法務省刑事局長 川井 英良君         法務省入国管理         局長      中川  進君         公安調査庁長官 吉橋 敏雄君         外務政務次官  田中 六助君         外務大臣官房長 齋藤 鎭男君         外務大臣官房領         事移住部長   山下 重明君  委員外出席者         法務大臣官房訟         務部長     川島 一郎君         外務大臣官房領         事移住部         旅券課長事務取         扱       林  祐一君         外務省アジア局         外務参事官   金沢 正雄君     ――――――――――――― 七月七日  委員世耕政隆辞任につき、その補欠として中  村庸一郎君が議長指名委員に選任された。 同日  委員中村庸一郎辞任につき、その補欠として  世耕政隆君が議長指名委員に選任された。 同月八日  委員坂本三十次君、世耕政隆君及び毛利松平君  辞任につき、その補欠として周東英雄君、田川  誠一君及び中村庸一郎君が議長指名委員に  選任された。 同日  委員周東英雄君、田川誠一君及び中村庸一郎君  辞任につき、その補欠として坂本三十次君、世  耕政隆君及び毛利松平君が議長指名委員に  選任された。 同月九日  委員宇都宮徳馬君、勝間田清一君及び渡部一郎  君辞任につき、その補欠として古屋亨君、米田  東吾君及び樋上新一君が議長指名委員に選  任された。 同日  委員古屋亨君及び米田東吾辞任につき、その  補欠として宇都宮徳馬君及び勝間田清一君が議  長の指名委員に選任された。     ――――――――――――― 七月七日  世界連邦建設の決議に関する請願井手以誠君  紹介)(第九八五七号)  同(板川正吾紹介)(第九八五八号)  同(只松祐治紹介)(第九九四九号)  同(藤波孝生紹介)(第九九五〇号)  同(角屋堅次郎紹介)(第一〇〇一九号)  同(楢崎弥之助紹介)(第一〇〇二〇号)  同(八百板正紹介)(第一〇〇四七号)  日米安全保障条約廃棄等に関する請願野間千  代三君紹介)(第九八五九号)  同(八木一男紹介)(第九八六〇号)  日米安全保障条約廃棄等に関する請願外一件  (川村継義紹介)(第九九五一号)  同(長谷川正三紹介)(第九九五二号) は本委員会に付託された。     ――――――――――――― 七月八日  日米安全保障条約の堅持に関する陳情書  (第五  六八号) は本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  旅券法の一部を改正する法律案内閣提出第一  〇二号)      ――――◇―――――
  2. 北澤直吉

    北澤委員長 これより会議を開きます。  旅券法の一部を改正する法律案を議題とし、審査を進めます。  質疑の通告がありますので、順次これを許します。米田東吾君。
  3. 米田東吾

    米田委員 私は、前回に引き続きまして、法案に関係する基本的な問題の一、二をさらに質問をきしていただきたいと思うわけであります。  大臣にお聞きするわけでありますが、朝鮮民主主義人民共和国の建国二十周年の式典に参加するために、在日朝鮮公民の方がお祝いに朝鮮に帰りたい、しかし、それは国益に反するということで法務省が不許可にいたしました。これが昨年二回にわたって、政府のそのような方針については基本的人権を侵すものであるという趣旨の判決がありました。これは現在法務大臣が上告して最高裁で争われている問題でございますけれども、この法務大臣上告理由書の中に次のような文書があるわけであります。大きな二の白の項でございますが、「また、昭和四三年一二月から同四四年一月にかけ、戦前から在留し、北朝鮮本籍を有する在日朝鮮人六名に対して、戦前に離別した親族を訪問し、墓参することを目的とする北朝鮮向け入国許可したことに関し、韓国政府外交機関を通じさらには使節団を派遣して、わが国に対し再三にわたり厳重な抗議を繰り返していること。」これは法務大臣最高裁長官に対する上告理由書の一節であります。  私が大臣にお聞きいたしたいのは、まさに人道の問題として、法務大臣許可をされて、墓参をしてこられたわけでありますけれども、これに対して、ここに書いておりますように、韓国政府外交機関を通じ、あるいは使節団を派遣して、そしてわが国に対して厳重に抗議を繰り返しておる、こういう上告理由が明確にされておるわけであります。この問題はきわめて重要だと私は思うのであります。内容のいかんによりましては、わが国主権にかかわる問題にもなろう、内政干渉に関する問題にもなろう、きわめて重要でございまして、この問題は、やはり旅券法国益公安条項とまた十分関係を持つわけであります。そういう点で大臣にお聞きしたいのでありますが、韓国政府外交機関を通してどのような抗議があったか、それから使節団を派遣してどういう抗議をされておるのか、これに対して外務大臣はどういう態度をとられてこの問題について対処しておられるか、この点をひとつ明確にお聞かせをいただきたいと思うわけであります。
  4. 愛知揆一

    愛知国務大臣 その上告書に書かれてあるような事実がございましたことは、これは事実でございます。そしてこれは結論的に申しますと、あまり法律的その他でぎくしゃく論ずることは、私は、事柄の性質上いかがかと思う点もございますけれども、御案内のように、日本大韓民国政府との間に正常な国交を持ちまして、ここに三年余りになっております。この両国間の親善友好関係を保っていくということが、私は日本国益の命ずるところでなかろうかと考えるわけであります。それが日本に対する内政干渉というふうにいきなり取り上げないで、やはり友好関係にあるところの韓国政府言い分、懸念というようなものも、十分聞くべきものは聞くということが、一面におきまして外交政策上たいへん大切なことではないかと私は思うのであります。同時に、日本の主体的な主権国家としての立場というものは明確にしておかなければならぬ、これは当然のことでございます。その立場から申しまして、人道的な事案の処理というようなことにつきましては、日本国政府といたしまして十分考えていかなければならない。いわばそこの調節のところが、実際問題としてなかなかむずかしいと思うのでございます。先般も、当委員会でも率直に申し上げましたように、日本周辺にいわゆる分裂国家というようなものが三つも存在するというようなことは、たいへん不幸なことだと私は思うのでありますが、しかし、これが事実でありますことは、これはまた明白な事実なんでありまして、その間に処して日本の主体的な立場を維持しながら、同時にまた、現実の日本をめぐる国際情勢の中に処して、友好国との関係は十分友好的な関係を維持していかなければならない、その間に調整のむずかしさがある、かようなのが現状でございますから、御意見のほどは、私前回も伺いましてよく理解できますが、その言わんとされるところのお気持ちも、十分私どもとしては体して善処してまいりたい、かように考えておる次第でございます。
  5. 米田東吾

    米田委員 私の言わんとすることもよくわかるという大臣の御答弁でございますので、私も大臣の御答弁については了承いたしますが、ただ、こういう問題は法律事項でございませんで、まさに外務大臣の権限に属する外交上の問題であることは、私も認めるわけであります。しかし、どうも私ども見ておりまして、愛知大臣外交は、特に人道主義というものが非常に弱いのじゃないか、国益公安あるいは外交上の高度な日本の安全なり、そういう問題については、なかなか実績をあげておられると思うのでありますけれども、特にいま一面の人道の問題を主体とするところの外交面というものが非常に弱いように実は感ずるわけであります。特にいま大臣もおっしゃいましたように、日本周辺にたとえば朝鮮あるいは中国、ベトナム、いわゆる分裂国家といわれる国々がある。しかも歴史的にこれらの国々日本とは切っても切れない関係にある。特にその中で、大臣外交上一番配慮をしていただかなければならないのは朝鮮の問題ではないか、こういうふうに思っておるのでありまして、私が言う人道上の配慮が弱いのじゃないかというのも、主として朝鮮に対する問題でございます。この問題につきましては、ひとつ大臣からき然たる措置をとって、人道はいかなるものに対しても優先するし、それからまた、これこそ政治の最も基本をなす問題でなければならぬと思うわけでありますから、これからひとつ大いに大臣からき然たる人道を貫くところの外交を進めていただきまして、特に朝鮮に起きておる、いろいろな在日朝鮮公民、あるいは日本朝鮮に対する渡航、こういう問題について、ひとつ前向きの配慮をお願いしたいと思うわけであります。  そこで、いまの関係でありますが、実はこの上告理由書にありますように、昨年確かに六名北朝鮮を訪問して帰ってこられました。お帰りになりまして、これは法務大臣にお礼に参上して、いろいろ話をされておるくらいに非常に喜んで帰られたわけであります。問題は、あと二人残っておるわけであります。法務大臣許可をされまして、行ってくるようにということになったのが、当初は八名であります。その後、私の承知するところでは、いわゆる外交上の問題が出てまいりまして、そしてそのうち二名はカットした。その理由も、政府のほうで、たとえば朝鮮総連の金融機関の役員をしておるというようなことが一つ理由になりまして、政治的に利用されるのではないかという判断だろうと思うのであります。そういうようなことで、一人の方は許可を得ながらも削られてしまった。いま一人の方は御婦人でありますが、この方はたまたま本籍韓国のほうにある。したがって、南に郷里のある人が北に行くのはおかしいじゃないか、こういう配慮で、とうとうこれが削られまして、二名許可になっておりながら行かれなかったわけであります。これはおそらく主管が法務大臣でありますから、私は法務委員会においても聞きたいと思っておりますけれども、いろいろその後法務省においても配慮をされまして、おそらくこの残された二名の方は、これは法務大臣約束しておるわけであります。いずれそのうちに行っていただきますよということを約束しておるわけでありますから、当然、私は、ごく近い時期に里帰り朝鮮を訪問される、自分郷里に帰ってこられる、こういうことになるのじゃないかと思うのであります。これはあくまでも私の推定であります。その場合に、また外交的配慮大臣が待ったをかけたり、いろいろこれに対して率直にいえば干渉されるようなことになって、不首尾になってしまうということでは、私は人道がない結果になるのじゃないと実はおそれるわけであります。したがって、仮定の問題でありますけれども法務大臣約束どおり、いつになるかわかりませんが、行っていらっしゃいということになった場合は、ひとつ大臣もぜひこれを認めて、人道の問題を優先させる外交推進としてぜひ協力をしていただけるかどうか、このことをお聞きしておきたいと思います。
  6. 愛知揆一

    愛知国務大臣 人道ということを中心にしている米田委員から御意見を交えてお尋ねでございましたが、私は、いま御批判をいただいたり、あるいは御助言をいただいたりして、非常に感謝いたしますが、政府といたしましても、人道の問題としてこの種の問題を扱うことを第一義に考えるということは、従来足りなかったかもしれませんけれども政府方針としては、この人道ということを非常に重視しておるということは、先ほどもちょっと触れたとおりでございます。同時に、私の立場としては、そういうことが、関係者、その中には、たとえばいまの具体的な問題でいえば、韓国政府も入るわけでございますが、十分日本政府考え方というものを理解されるということも、また必要な要素でございます。その点については、従来からも努力いたしておるつもりでございますが、法務大臣と私の間にも、そういう点の扱い方については食い違いはないはずでございます。先般も当委員会法務大臣ともども答弁申し上げているわけでございますから、そういう点については、御意見やいまの御批判などを十分体しまして、また一方におきましては、さらに政府として努力すべき点についても十分努力をして、御趣旨に沿うように考えてまいりたい、かように存じます。
  7. 米田東吾

    米田委員 ぜひひとつそういう姿勢で御配慮いただきたいと思うわけであります。  次に、同じ性質の問題でございますが、この機会にぜひ大臣の御見解を承っておきたい問題があるわけでありますが、それはやはり朝鮮方々帰国の問題であります。これは大臣も十分御承知のように、カルカッタ協定が結ばれましてすでにもう十年近く、日本国交のない北朝鮮に対しまして、在日公民の皆さんをお帰しするという平和、人道事業が進められてまいったわけであります。しかし、八年間、約九万名の方々をお送りいたしまして、世界的に大きな評価をいただいておったわけでありますが、もうすでに二年前になりますけれども政府方針によりまして、もう帰国事業はその目的を果たしたから打ち切るという閣議決定が出まして、以来この問題につきましては、朝鮮赤十字会から再三にわたって、帰国事業を継続するようにという会談なりあるいは申し入れがあるのでありますけれども日本政府態度が変わりませんために、この事業は現在ストップしておるわけであります。しかし、ストップではございましても、両国赤十字間におきましては、御存じのとおり、この間ずいぶん努力をいたしておりまして、ことにカルカッタ協定が有効な期間内において帰国の申請を受け付けた約一万七千名の方々帰還問題等につきましては、これは協定に対する義務としての日赤送還行為というものが終わっておらない、こういうことで接触が繰り返されまして、そうして現在に至っておるわけでありますが、ことしの三月三日には、日赤のほうから朝鮮赤十字会申し入れをいたしまして、国際赤十字を通すことによってこの問題の解決をはかりたいという趣旨申し入れがあったわけであります。しかし、これまた大臣も御承知でありますように、この問題は、日本赤十字あるいは日本朝鮮政府並びに朝鮮赤十字との間の問題であり、今日までそういう関係処理されて、しかも実績をあげてきておるのであるから、ここで第三者である国際赤十字を通すということは、この実績にかんがみてもよろしくないし、これはまたコロンボ日本赤十字約束いたしました約束趣旨にも反するじゃないか、こういうことで、朝鮮赤十字会のほうがお断わりをする、拒否をするという事態になって、今日に至っておるわけであります。私どもは、この人道と、それから赤十字精神によるところの帰国事業というものは、まず残りの部分も、それから在日六十万の方々がおられるわけでありますから、やはり国連の人権宣言あるいは日本の憲法にも明記されておりますように、おのおの自分の祖国へ帰る、そういうことについては十分保障されていかなければならないものと確信しておりまして、この事業は当然継続されなければならない、かように考えて、今日までいろいろ政府を激励しながら、問題の解決のために努力をしてまいっておるわけであります。  そこで、私が大臣にお聞きをしたいというのは、この帰国事業人道帰国事業というものは、特に韓国との関係において好ましくないのかどうか、大臣はどのようにお考えでございましょう。
  8. 愛知揆一

    愛知国務大臣 この北鮮帰還問題につきましては、いまもいろいろお話がございましたように、昭和三十四年八月のカルカッタ協定以来、経緯の非常にある問題でございます。ただいまもお話のございましたように、八万人の帰還を実施して、所期の目的をおおむね達したと認められましたので、政府としては四十二年の十一月十二日をもって終了をいたしたわけでございます。その後、コロンボにおいて会議がございまして、約一万五千人の取り扱い等についての一つ考え方と、それからさらに、その後においても起こり得る事態についての話し合いというようなことになりまして、だんだん話が、率直に申しますと、こじれてまいった。ただいまの御質疑に対してとやかく私が申し上げるべきではございませんけれども、ただ、いわゆる北鮮側言い分だけが正しく、日本政府考え方が間違いであるというふうに一方的におきめいただいているとすれば、この点については、政府としても残念なところでございます。赤十字を通しまして、誠意を尽くして政府としては交渉に当たってきたと思います。その後、朝鮮赤十字のほうから出てきた案というようなものも、必ずしも最初の線のようなことでないことも出てきておるようなこともございますので、今後におきましても、政府としては従来からの考え方を主体的に考えながら善処しなければならないと考えるわけでございます。お尋ねの中に、これについては韓国政府側からの意見があるので、政府基本的に反対なのか、こういうふうな御趣旨お尋ねがございましたが、その点は、先ほども申しましたように、人道的な立場に立って、そして過去千年間にわたって行なわれました実績等に顧みて、日本としては最善の措置をとりたい、かように考えておるわけでございますから、韓国が文句を言うから従前からの考え方日本としては実行できないのであるとか、あるいは北鮮側に対して日本側が逆に前に考えておった線を逸脱するような考え方を新たに出しているとか、そういうことは実はございませんのでありますから、ひとつその点は、問題の取り上げ方基本的な態度というものは御理解をいただきたいと思うのであります。  なお、こまかい経過等につきましては、場合によれば政府委員からさらにこまかくお答えをいたさせたいと思います。
  9. 米田東吾

    米田委員 なかなか大臣からこの種の問題について御意見を直接お聞きすることができませんので、主として大臣にお聞きをしているわけであります。  それで、私も大臣のおっしゃることもわかるつもりでございますが、問題は、韓国関係というものを直接受けられるのは、外交ルートを通しての外務省であり、外務大臣だと思うのであります。したがって、私どもは、この問題についていろいろ進めてまいりました際にも承知いたしておるわけでありますが、たとえば三月三日の電報の趣旨になっている、国際赤十字機関を通すという一つの方式を考えたのも、韓国との関係配慮して外務省が生み出した案である。これは各省相談された結果だという御答弁になりましょうけれども、そういうことをお考えになったのは外務省の案である。それから、たとえば里帰りの問題にいたしましても、あるいは朝鮮渡航の問題にいたしましても、帰国の問題にいたしましても、政府部内でとにかく一番この問題に敏感であり、しかも一番きびしく規制をされているのが、外交を扱っている関係からくるのだろうと思いますけれども外務省である。一時、私どもは、この出入国関係については、むしろ法務大臣法務省態度ガンになって、非常に困難をした時代もあったわけでありますけれども、最近はむしろその中心外務省である。私どもも実際にそういう感じを受けますし、またそういうふうに聞いておるわけであります。とにかく日本外務省韓国との関係には非常に神経質である。何かいわれると、こうした人道赤十字精神基ずくところの、むしろ新しい日本事業としてふさわしいような、こういうものがすぐ後退してしまう、あるいは動揺してしり切れトンボになってしまう、こういうようなことを私どもは遺憾ながら認めざるを得ないと思うわけであります。したがって、私がこうして大臣に御質問をするのも、あまり気がねをしないで、愛知外交というものをひとつ十分推進をしてもらいたい。特にこの韓国との関係等につきましては、私はそういうことを強調して大臣を激励したいくらいでございます。  この帰国関係につきましては、私はどうも外務省ガンだというふうに聞いておるわけであります。もしそうでなければ、明確に大臣からそうでないというふうにお答えいただきたいと思いますし、また、帰国事業がまだ未処理、未解決のまま残っているわけでありますから、この関係については、外務大臣としても、十分各省協力をして推進することについての御決意を披瀝していただきたいと思うわけであります。私の聞いているのは、どうも外務省が一番ガンだ、こういうことを聞いておりますので、こういう御質問を申し上げました。ひとつ大臣の御答弁をいただきたいと思うわけであります。
  10. 愛知揆一

    愛知国務大臣 先ほども申し上げましたように、私は率直に申し上げているつもりで、あるいは御批判をいただき、御激励をいただきまして、まことにありがたい次第でございますが、大韓民国政府との間に日本が三年有余前に国交を樹立いたしまして、この国との間に友好親善関係を確立するということが、私ども外交方針一つの柱になっておりますことは、これは御承知のとおりだと思います。そこで、先ほど申し上げましたように、人道的立場に立った問題の処理については、政府として主体的に考えておりますけれども、これを円滑に処理をいたしますためには、先ほど申しましたように、分裂国家の事実がここに存在しておって、あるいはこれはことばの使い方がまことにむずかしいのでありますけれども、常識的にいえば戦争状態が依然として続いておる。そしてゲリラ活動その他は、韓国側からいえば非常に憂慮にたえないということで、三十八度線を境にして対峙しているこの国の国民の気持ちあるいは政府人たち態度立場というものを、やはり友好国としては十分私どもも関心を持たざるを得ない。したがって、こういう種類の問題を処理いたしますのには、私は、やはり理解を十分求めていくことが円滑に処理できるゆえんであると思います。私は、これは決して内政干渉とかなんとかいうことではなくて、やはりこういうことが複雑で、またきびしい現状のもとにおいて、人道的なわれわれの善意というものが実現できるために必要な措置ではなかろうか、そのためには、ある程度の時間もかかりましょうし、またいろいろのくふうも必要でございましょう。赤十字に応援を頼み、また赤十字国際委員会が非常な善意による努力をしてくれておりますことにわれわれとしても感謝いたしておりますのは、そういう趣旨から出ておることでございまして、要するに、この赤十字間の話し合いもいろいろ経緯がありますが、私としては、最近における朝鮮赤十字考え方も、私たち善意というものがわかってくれて、たとえば三月三日の日赤の提案のラインというようなものをまたここでくずしてまで、たとえば日赤証明書で事足りるようにするということは、これは日本立場からいいましてもいかがかと思っているわけでございまして、そういう点について朝鮮赤十字の側もわれわれの善意というものを信頼し、そして従前のような線で話し合いができるようなことになれば、一面において、私どもといたしましては、韓国側に対しても、われわれの意のあるところを必要ならばさらに説明につとめるということも可能ではなかろうか、こういうふうに考えているわけでございます。
  11. 米田東吾

    米田委員 大臣の御答弁で、あるいは私聞き違いかもしれませんが、非常に重要な点があると思うのでございますが、三月三日提案の線をくずしてまでという御答弁だったように思うのでございますけれども、私は、三月三日の提案というのは、国際赤十字を介するということについての提案という趣旨だろう、大臣の御答弁ではそういうことだろうと思うのであります。この問題を扱っているのは主として厚生省であり、あるいは法務省であり、内閣官房というところでございますから、外務省が相当大きな指導権を持っておられることは当然でありますけれども、そういう各省の関係があるわけであります。いろいろ事態の推移というものは一つはあるだろうと思いますけれども、三月三日のいわば国際赤十字を介しての処理という関係につきましては、これは大臣もおっしゃいましたように、その真意は朝鮮のほうでもだんだんわかっていただいておるようだという御答弁があったようでありますが、それはあるいはそうかもしれませんけれども、しかし、この提案が現実には受け入れられないまま今日の七月までずっと空白という状態はさらに続いており、時間はたっておる。この事実だけは間違いがないと私は思うのであります。したがって、この段階で、大臣がおっしゃるように、人道の問題として解決するためには、この問題の提起をした日本側において、ある程度一つの提案なり対案なり、そういうものを出して、そして解決をしていく。そのかぎは、私は、相手の朝鮮民主主義人民共和国から出てくるのでなくて、むしろ日本側のほうで提起をして、円満に、しかも早急に、こうした人道の問題については解決をはかるということが、今日の状態として必要だと思うのであります。したがって、大臣のおっしゃった趣旨がどうもちょっとわからなかったということと、それから三月三日の提案の事態にこだわっておったのでは、問題の解決にならぬのではないか。むしろ私が率直に言わしていただくことができますならば、新しい何かのものを、外務大臣なり政府から提起してもらって、そして早急に解決に当たらせる、そういう一つの英断を持ってもらわなければならない時期に来ているのではないか、こういう感じがいたしますので、御質問をしておるわけであります。お答えをいただきたいと思います。
  12. 愛知揆一

    愛知国務大臣 米田委員お尋ねになる趣旨は、私理解しているつもりなんでありますけれども、そこで、先ほど率直に申しましたように、この問題については長い経緯がございますが、たとえば昨年の九月二十八日でございますか、日赤から朝鮮赤十字あてに提案いたしました内容がございます。コロンボ会議の際、明らかにした考え方に基づいて、申請済みの未帰還者については、六カ月に限って協定の例による暫定措置を実施するというようなことが提案の内容でございますが、こちらがこういうふうな提案をしておりまして、たとえばその後になって、朝鮮赤十字としては、赤十字代表者の取り扱いの問題、いろいろ入国手続等についても申してきたり何かいたしまして、従来こちらも非常ににむずかしい環境の中において、いろいろ人道的な立場から考えてかくもしようかというのについては、私率直に申しまして、ずいぶん日本側としてもいわば低姿勢でこの問題を処理してきているつもりですが、低姿勢にも、これはお許しをいただきたいのですけれども、限度がある。これはやはり日本の主体的な立場というものから考えまして、これ以上御要請になったり、あるいはこれ以上前々の話を蒸し返して、さらにそれをひっくり返すというようなことまでなさらぬでもいいではないかということで、前々からの線を私どもは最善の案と考えておるわけでございます。したがいまして、今後、両赤十字代表がたとえばイスタンブール会議で接触するということもございましょうが、私が日赤に期待しておりますのは、従来からの考え方や提案を朝鮮赤十字側に十分説明していただいて、その受諾を求めるということになりますれば、この問題は非常に大きく前進するわけでございます。  まず、そういうところを現在の私としては期待いたしておるというのが実情であり、また私のほんとうの腹でございます。この考え方につきましては、いろいろ御観察がおありと思いますけれども、ただいまお述べになった中にもございますように、これはひとり外務省だけの問題ではございませんので、関係各省も非常に多いことでございますから、従来から政府としては内閣官房が座元になりまして、関係各省庁、日本赤十字と十分意見の交換につとめておるわけでございます。私は、前に、本件については内閣側においても関与いたしましたものでございますから、この一連の経過につきましては、私としても従来から誠意を尽くして当たってまいりました。現状の心境は、外務省立場におきましても、いま申し述べましたような考え方が、外務省としてだけではなくて、政府全体として、こういう行き方でいくのが最善ではなかろうか、こういうふうに考えておるわけでございます。
  13. 米田東吾

    米田委員 この委員会大臣と問答いたしましても、そうすっきりとした結論が出てくることはないと思いますし、また、私も十分政治的な関係配慮しながら質問いたしておりますが、この問題は一番障害になり、しかもたった一つだけ障害になって、今日のような事態になっているポイントは、いまも大臣が御答弁されましたように、昨年の九月二十八日に、コロンボ会議の集約をまとめて日赤が朝赤に書簡という形で提案をされました、この提案の趣旨というものは、実は二つあるわけでありまして、いま大臣が御答弁されましたように、六カ月の期間で返そう、それから引き続く問題については、これも従来の精神に準じて帰国をしてもらいましょう、配船については二カ月に一ぺんなり三カ月に一ぺんなりしてもらって、日赤も十分協力して進めていきましょう、この二つの提案のそれぞれは、大臣も御承知でありますように、朝赤側も基本的には了承されておるわけであります。ただ問題は、六カ月の期間の関係は、これは協定に基づくところの帰還であるから、朝赤代表の入国関係については、従来どおり問題はない。ところが、協定が切れたと理解される六カ月以後の帰還業務について、迎えに来られる朝赤の代表の入国がどういうふうになるか、これが実はポイントなんであります。法務省のほうでは、国交未回復であるから、出入国管理法の関係もあって、相当な手続をしてもらわなければならぬ、朝赤側のほうでは、従来の事業実績と歴史にかんがみて、ひとつ簡単に入国できるように、手っとり早くいえば、いままでどおり朝赤代表が入国できるようにそういう措置をしろ、こういうことになって、その措置をめぐっての経過であり。でありますから、これは大臣が言われておりますように、朝赤側のほうが譲ってくれなければということでございますが、経過からいきますと、そのかぎを持っているのは、実は、この問題の性質からいきまして、日本側である、そういうことになるわけであります。したがって、私は、そういう点で、ひとつ外務大臣からも、人道赤十字精神に基づくところの在日朝鮮人の皆さんの帰国の問題でございますから、朝赤代表の入国については、従来に準じて外務省も最大限協力をする、そういう御答弁をいただければ、私はもうこれで終わるわけであります。そういうふうにひとつ外務大臣としてのお考えを披瀝していただけないものかどうか。再度失礼でありますけれども……。
  14. 愛知揆一

    愛知国務大臣 お述べになっております御趣旨は、先ほど申しましたように、私も理解できますけれども、ただ、本件については、何と申しましても日本政府といたしましての主体的な立場というものを確保したい、この点だけは、残念ながら米田委員と見解が違うのではないかと思われますけれども、私は、率直にいうと、そのかぎを握るものは、朝鮮赤十字のほうの態度にかかっていると思うのです。つまり、詳しく経過などをくどくど申し上げませんけれども、まとまりつつあった線があるわけでございますね。それを何か最近におきましては、われわれにも理解できにくいような態度や提案があるらしく思われますので、従来の線でまとまれば本件の処理はつくのではないか、私はこう考え、これ以上何も日本政府の権威や面目を失墜してまでやる必要はないのじゃないか、率直にいえば、私はそういう感じがいたすわけでございます。せっかくの御熱心な御意見でございますから、私もこれは十分胸に入れますけれども、同時に、私の率直な気持ちはいま申しましたとおりであることを念のため申し上げる次第でございます。
  15. 米田東吾

    米田委員 大臣の御答弁わかりました。しかし、胸に入れておくという御答弁でございますので、どうかひとつしっかり胸におさめていただきまして、この問題の解決にあたりましては、政府部内を特に大臣からリードしていただきますように、これは御希望を申し上げておきたいと思います。  なお、この問題は政府間の問題でございませんで、赤十字間の問題でございますので、したがって、まず赤十字間で十分その意思疎通と、いま大臣もしばしば御答弁されましたように、問題の理解にあたって誤解があったりそういうようなことがあってもいかぬわけでありますから、赤十字間で十分話をしてもらう。そういうことは、特に今日まで、三月三日電報提案、それ以来特にそうでありますが、相当空白がありますので私は、赤十字間で早急に意思疎通をはかってもらう必要が、まず、第一段階としてあるのじゃないか、こういう感じを持っておるわけでありますが、このことにつきましては、大臣も御異論はないと思いますけれども、御答弁いただきたいと思います。
  16. 愛知揆一

    愛知国務大臣 先ほど申しましたように、日本赤十字にもいま非常に苦労をお願いいたしておるわけでございますから、ただいまのお話には私は異論はございません。
  17. 北澤直吉

    北澤委員長 米田君、お約束の時間もきているのですが、どうぞひとつ……。
  18. 米田東吾

    米田委員 あともうすぐやめますから……。  やはり大臣から御答弁いただきたいのでありますが、日朝貿易の問題につきましては、これはすでにこの委員会でも十分論議をされておるわけであります。一つだけ大臣から答えていただきたいのは、日本から朝鮮に行くことも、もちろんこの委員会で明らかになりましたように、ほとんど閉ざされておる。しかし、横すべりは、これはわずかでありますけれども、百名程度は特に貿易関係、通商関係方々渡航しておられる。しかし、朝鮮からは日本には全く入ってこれない。特に貿易関係において、この一方交通が、商取引やあるいは今後技術やプラント等を含めてだんだん貿易が拡大し、上昇していくにあたって、こうした片道通行というものがどれほど災いをするか、これはもうしばしば委員会においても議論になっておりますし、また、従来からも予算委員会や外務委員会、そういうところで指摘をされておるわけであります。そこで、去年の三月二十九日の衆議院の予算委員会で、わが党の横山利秋代議士がこの問題に触れまして、北朝鮮からの商談について必要な技術者の入国について考える時期に来ているのじゃないか、考え気持ちはないかということを当時の三木外務大臣質問をされておられます。このときの三木外務大臣は、会議録によりますと、具体的な問題ごとに検討をしたい、要するに、ケース・バイ・ケースでということだと思いますけれども、検討したいという答弁があるわけであります。この問題につきましては、今度のこの旅券法関係についても、朝鮮との渡航の問題が最大の焦点でございます。これにかんがみまして、朝鮮からのこうした技術者の入国等については、従来からさらに前進する方向というものは見出せるのかどうか、これは外務大臣からひとつ御見解をこの機会に聞かしておいていただきたいと思うわけであります。ケース・バイ・ケースというのが三木さんのお答えでありますけれども、情勢も変わっておるし、今度の旅券法の審議にあたりましても、この問題が、北朝鮮との関係が一番問題になって、議論されて今日に至っておるわけでありまして、私は、やはりこの事態というものは前進をさせなければならないと思うわけでありますが、このことについての大臣のお考えを一点だけ聞いておきたいと思います。
  19. 愛知揆一

    愛知国務大臣 先ほども率直に申し上げましたように、この朝鮮半島と日本との関係というものは、まことに微妙なものでございますので、現在私といたしましても、三木前大臣答弁を申しましたそれを繰り返すということにとどまる次第でございます。何とぞ御了承願いたいと思います。
  20. 米田東吾

    米田委員 三木さんの御答弁は昨年の春なんでありますが、どうでございますか。その繰り返しということは、どうも外交に進歩がないように思  いますが、いかがでございますか。
  21. 愛知揆一

    愛知国務大臣 この点におきましては、昨年以上に私、公に申し上げることはございません。それ以上に政府としては考えておりません。
  22. 米田東吾

    米田委員 終わります。
  23. 北澤直吉

  24. 渡部一郎

    渡部委員 さっそくでございますが、前回委員会におきまして、日本朝鮮の間、特に北朝鮮との間の貿易に関しまして、これが今回の旅券法において阻害されるような事態になったとしたら非常に問題である、この両国の貿易については、どういう見通しあるいはどういう経緯を持っているか、その点をお伺いしょうとして、私は金沢参事官に御質問をいたしましたところが、御回答が明確でございませんで、質問に対するお答えが中途はんぱになっております。その後、資料等もいただいておりますが、金沢参事官の口から、その問題について総括してまずお答えをいただいたほうがよろしいんじゃないかと思いますので、お願いいたします。
  25. 金沢正雄

    ○金沢説明員 日本北朝鮮との貿易につきましては、お手元に書類を差し上げたわけでございますが、逐年増加いたしておりまして、昨年度におきましてはわがほうからの輸出が約二千万、わがほうの輸入が三千四百万、合計五千四百万という数字になっておるわけでございます。それで、これは表をごらんいただければわかりますように、昭和三十一年から日朝間の貿易が始まったわけでございます。逐年増加してきておりまして、昨年の総計五千四百万ドルのこの数字は、その前年に比べまして——前年は三千五百万ドルでございまして、こういうふうに逐年ふえてきておるというのが実情ではないかというふうに考える次第でございます。  その商品の構成でございますが、わが国からの北鮮への輸出におきましては機械類が第一位を占めておりまして、昨年度におきましては八百万ドルでございます。それからついで化学製品がございます。それから電気機械、繊維品、鉄鋼、こういう順序でございます。北鮮からの輸入につきましては銑鉄が第一位を占めておりまして、ついで鉄鉱石、それから非金属鉱物、生糸、綿、こういうふうな順序でございます。  こういうふうにだんだん伸びておりますので、今後も自然の勢いといたしまして、伸びていくのではないかというふうに考えておるわけでございます。
  26. 渡部一郎

    渡部委員 北朝鮮に対するところの西欧貿易と日本の貿易とのふえ方を見ておりますと、昭和三十六年以降、わが日本政府朝鮮民主主義人民共和国との貿易を認め、輸出入取引に許可を与えておりますことは、これは明らかに国益に反するとは認められないからであると存じます。それでありますならば、もしも貿易に必要な関係者北朝鮮に対する渡航に対しまして、国益に反するということで、旅券を出さないということになりますならば、それはさらに現行のやり方さえも否定する考え方になりますし、はなはだしい矛盾におちいると思われるのであります。したがいまして、貿易業務に関しては、この際大幅な旅券の発給が認められてしかるべきであろう、こういうふうに考えられるか、それとも、この際国益に反するという項目をさらに拡大して、北朝鮮に対する貿易にたがをはめる方向にいくかは、日本政府として大きな方向の岐路に立っておると思うのであります。この点について、くどいようでありますが、外務大臣から所信を伺いたいと存じます。
  27. 愛知揆一

    愛知国務大臣 この問題は、おことばがございましたが、西欧と日本立場とは、私は相当大きく違うのではないかと思います。日本といたしましては、一衣帯水の間に朝鮮半島を持っておりまして、先ほどもお答えをいたしましたように、まことに悲しむべきことでありますけれども、そこで分裂抗争の状態が起こっておる。わが国としては、韓国との間に友好親善関係の正常な国交を持っておる。これが現状でございますので、私は、日本外交政策といたしましては、韓国政府との友好親善関係を確立していくということが、まず考えなければならない主題である、かように存じます。そういう観点から考えますと、積極的に大いに北鮮との貿易を伸長する、これから旅券法の改正を契機にして、どしどしこの方面に積極的な奨励策をするというようなことは、私としては考えたくございません。
  28. 渡部一郎

    渡部委員 北朝鮮との貿易に関しては、これを続々ふやす方向というものはとりたくないというお話でございますと、もう一歩突っ込みまして、この北朝鮮との貿易の拡大が日本国益に反するとまでお考えになるのかならないのか、その点を明らかにしていただきたいと存じます。
  29. 愛知揆一

    愛知国務大臣 これは微妙な問題でございますから、イエスとかノーとか、端的にお答えはできないと思います。やはり日本立場に立ちまして、韓国との間の親善友好関係を確立する、そしてそういったような——これは大きな国益だと私は信じておりますが、それをそこなわないということでやる得る程度のことは考えてもしかるべきじゃなかろうかと思っております。
  30. 渡部一郎

    渡部委員 それではその問題はちょっと預かりにしまして、次に移ります。  旅券法の第二十三条、「左の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。」こうなっております。また、同条の二項では「次の各号の一に該当する者は、三万円以下の罰金に処する。」こういうようになっておりますが、この規定は裁量の余地のない罰則規定であります。ところが、第十三条は「一般旅券の発給又は渡航先の追加をしないことができる。」第十九条には「旅券の名義人に対して、期限を付けて、旅券の返納を命ずることができる。」こうなっております。これは政府の裁量行為であるかのような答弁が、前回委員会の際に私に対して行なわれました。すなわち、裁量行為でありますから、しないこともできるし、することもできる、どっちでもできる、それは政府の解釈の次第であるというようなお考えのようでありますが、政府側のこの御見解は必ずしも明確ではないと存じます。すなわち、日米安保条約第六条「アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。」こういうようになっております。また、地位協定の五条では「日本国の港又は飛行場に出入することができる。」それは日本国に裁量権があるような解釈であるかのごとくいま見えるわけであります、法令から見れば。では、することが許される、あるいはすることができるというような場合に、日本政府として裁量権を持っておるのか。別にことばをかえていえば、日本国政府はアメリカに対して区域や施設の使用を許さないこともできるし、またそのこともあり得るというような解釈が成立するのかどうか、また、日本政府日本国の港または飛行場に出入することを許さない、または認めない権利があるというのかどうか、この辺が全部ひっかかってまいってくるのではないかと思います。ところが、アメリカ側としては、施設及び区域を使用する権利、飛行場に出入する権利と理解しているかのごとくであります。したがって、日本国政府に裁量権があるなどということは考慮していないのではないかと思います。したがって、私がいまここで問題にしておるのは、ことばじりをつかまえるようでありますが、法律上の文言だけで実態を議論するわけにはいかないということを申し上げたいわけであります。要するに、日本政府の腹のうちは、渡航先の追加をしない、旅券の返納を命ずる、こういうふうに解釈しているのじゃないかという疑いも残るわけでございます。実際上はでき得るとかあり得るとかという表現になっていても、裁量権を政府が持っているかのごとくであったとしても……。したがって、疑っていうならば、委員会の審議の際にはきれいに言っても、実態的にはほとんど懲罰的な旅券の発給停止ということが行なわれるのではないかという疑問もなおかつ残るわけであります。したがって、この点について、部長及び外務大臣に明確に御回答をお願いしたいと存じます。
  31. 山下重明

    ○山下政府委員 これは前の委員会の席でほかの先生からも御質問がありまして、お答えしたのですが、同じような前の事例がございまして、四十三年におきまして、十三条の関係で、前にいろいろな刑罰を受けた人に対して旅券を出すことができるかどうかということで、出したケースと出さないケースとおのおのありまして、必ずしもその関係ですべて拒否するということじゃないという例として御説明して、四十三年において二十三件許可して、四件拒否したというケースがありました。この二十三条の二項の場合にも、同じように、その具体的ケースによって、次の旅券を出すとか出さないとかいうことをきめることになる、こう考えております。
  32. 愛知揆一

    愛知国務大臣 私の意見もということですから、これは当然いま山下部長の申しましたとおりの意見でございます。  なお、これは要らざることかもしれませんけれども、法律でどんな細部も、考え得るあらゆる場合にこうするんだということを法律で書くということはむずかしいことであって、どうしてもこれは一般的に法律の規定されておるところの範囲内で、そのとき、そのときの判断というものが行政権にまかせられている、こういうふうに私は理解すべきではなかろうか、かように考えます。したがって、ただいま御質問の場合におきましても、そのときの当局の判断によって出す場合と出さない場合があるということは、あながち法律の趣旨に違反することであるというふうには考えませんし、またそういう場合を想定して、ほんとうにこまかなものができるかどうかということになると、法律としてはそこまで規定することはむずかしいのではないだろうか、こういうふうに考えます。
  33. 渡部一郎

    渡部委員 そうすると、この改正案については私は了解できるのであります。しかしながら、安保条約のほう及び地位協定のほうについては、全く理解がいかないことになるわけです。ということは、これは裁量権があるかのごとき言い方をしていながら、実際には裁量権なき、アメリカ軍の自由な、日本に対するいろいろな権利というものが確保せられておる。きょうは、その問題はこの委員会の本旨の問題とは違いますから、別個の際に私は行なうことにして、この問題は、これもまたあとにためて楽しみにしてとっておきたいと思います。  二十三条の罰則について今度は申し上げたいと存じます。  二十三条の罰則について、第二項が新しい規案として加わっておりますが、この第二項を新たに加えた理由は何でありましょうか。この二十三条の二項で三万円以下の罰金となっておりますが、これを三万円以下の過料とかなんとかにすることはできないのか。もっと直接的にいえば、入域料あるいは手数料、そういう形にできないものか。そうであるならば、私たちとしては、世界の人々とほんとうに仲よくしていこう、あるいは運命共同体としての世界の趨勢があるときに、このような、ある地域だけに限って、そこへ入ることが法律上の手続に違反したというせきを設けて、そうしてこのような懲罰規定を設ける形というものは、あまりにもどうも得心がいかないものを感ずるのであります。そこで、こういったものを過料などにすれば、刑罰ではなくなりますし、そうすればこれは何らの問題のない法律になる。したがって、私は、その点についてどうお考えになっておられるか、伺っておきたいと存じます。
  34. 山下重明

    ○山下政府委員 この二十三条の二項に設けました罰金三万円につきましては、外務省としても、非常にいろいろな角度から十分検討いたしましたし、またこの罰則の関係法務省の刑事局の一番関係しておられるところで、その方面とも十分検討し、また諸外国においてもどういうふうになっているかということも検討した結果、こういう結論になったわけでございます。
  35. 渡部一郎

    渡部委員 諸外国の例を聞いているのではなくて、こういうものは過料ぐらいにすることはできないか、伺っているのです。
  36. 山下重明

    ○山下政府委員 そのような検討の結果、やはりこの旅券法の法体系を維持するという意味から、この罰金三万円が妥当であるという結論に達しましたわけでございます。
  37. 渡部一郎

    渡部委員 法体系を維持することが大事なんではなくて、外交することが大事なんだし、理屈をいいますとそういうことになる。私は、そういうような妙なお答えが続くと、だんだん話がほかのほうに行ってしまうことをおそれるのですけれども、私が言っているのは、こういう罰金というようなやり方をすることが——当初は懲役刑まで加わっていたそうでありますが、懲役刑を取り除いた点の外務当局の努力には敬意を表しますけれども、三万円の罰金というのは、罰金なんか科する必要が何があるか。私は、こんなものは、ほんとうのことをいったら軽犯罪にもならない問題だと思うのです。人間が好きなところへ渡航して好きなところを歩くのに、それに対して罰金まで科さなければならぬほどの意味があるのかということについて、もう一回考え直すことこそ、賢明なる、平和日本の法体系を維持するゆえんではないか、こう思うのです。
  38. 山下重明

    ○山下政府委員 いろいろの御意見があると思うわけでございまして、先生の御意見も確かに御意見だと思います。この罰金三万円を設けるに至ります過程においては、そのいろいろな議論のうちに、これは重過ぎるという意見がありましたけれども、一方においては軽過ぎるという意見もあって、こういう結果になったわけでございまして、外務省としましても、この点については、初めからこれは三万円の罰金が妥当であるというふうに考えておりまして、そういう結果になったわけでございます。
  39. 渡部一郎

    渡部委員 そんなことをぼくは聞いているのじゃないのです。何回も言うのですけれども、三万円以下の罰金にする、懲役刑にしなければならぬ、そういう考え方もあったし、それが重いという考え方もある、それは経過の説明であります。私が聞いておりますことは、そういう決定をして、こういう法案をまとめた考えの基礎になる点を伺っておるわけであります。私たちは、世界の民族について、一国について特殊な差別というものはするべきものではないし、どんどんそれは取り除いていく方向に向かうべきである。朝鮮なんかというやり方をして、あの国はどうだ、韓国と条約を結んでいるから、あそことはあまりつき合わないほうがぐあいがいいんだというようなやり方で、閉鎖的かつ非友好的な方向というものを取り続けてきていることは、かえってマイナスになるんじゃないか。しかも今日大きな貿易を続けることによって関係国の変質が起こり、大きな文化交流によって関係国の相互理解というものが進んでいくということは、現在の世界におけるところの趨勢であります。そうするならば、このような罰金なんというものはかえってマイナスになるだけである。どうしてもお金を取りたければ、昔の東海道の関守みたいに外務省がどうしてもお金がほしいとおっしゃるならば、なぜ入域料にするか関所通行料にするか特別旅行税にするか何かにしないのか、なぜ罰金にしなければならないのか。私は、その罰金という懲罰をするんだという姿勢に対して、それは日本の、平和憲法の方向ではないんじゃないかと言っているわけです。
  40. 山下重明

    ○山下政府委員 この罰則は、決して北朝鮮とかいうものに関連されたものではなくて、旅券法において、旅券の上に渡航先が記載されていないとき、その記載されていない地域に行ったということに対して、その旅券法の規定を守っていただくということで設けてあるわけで、その場合に、体刑などはもちろん重過ぎる、まあ罰金三万円というのが妥当であるということで、これは北朝鮮もしくは中共とか具体的な地域とは全然関係なく、法律そのものの秩序を維持するという意味から、設けらたれものでございます。
  41. 渡部一郎

    渡部委員 そんなお答えでは私はよくわかりませんよ。私の質問にお答えになっていないわけです。もしそういうお答えをなさるのだったら、私は、法務省関係の方にその問題についてどうしても聞かなければならないことになります。私は三万円が重いとか安いという問題を言っているのではない。そういう外交姿勢というものは将来取り除いていかなければならないのじゃないか、そういう疑問を提出しているのです。これは当然にあたりまえで、これは三万円が妥当だ——それはいまの段階で妥当だとおっしゃる見解をお持ちになるのは、見解の相違で御自由です。ただ、私は、諸国間における将来というものは、こんな罰金なんというものをもって過料を続けていくということは、決して賢明じゃないということをさっきから申し上げているわけです。部長がどうしてもお答えしにくいなら大臣に……。
  42. 北澤直吉

    北澤委員長 渡部さんに申し上げますが、法制局の第三部長の荒井さんが来ておりますから、法制局のほうからお聞きになったらどうですか。
  43. 渡部一郎

    渡部委員 法制局に実は聞きたくないのです。私は外交方針を聞いているのです。だから、部長がどうしてもお答えしにくいなら、大臣にお答えしていただきたいのですが……。
  44. 山下重明

    ○山下政府委員 先生の言われたことは、世界平和ということのために、自由に日本の国民が世界を渡航されるということを理想にしているということは、全く同感でありまして、何らそういう罰則のない旅券、われわれとしても、渡航先も全く世界のどこの地域に行ってもいいという旅券が出せるということが理想でありまして、そういうことに努力いたしてきているわけでございます。ただ、現実にはいまなお一回限りの旅券を出すという地域があるということで、やむを得ず一回限りの旅券を残していくということになってきたわけで、その場合に、そういう旅券法の秩序というものに関連してこれができたので、将来はすべての国との国交が回復されて、あらゆるすべての国に自由に行けるということが、われわれとしても理想であり、その方向に努力するということでございます。
  45. 愛知揆一

    愛知国務大臣 どうも私の答弁申し上げることは、本件に限らず、お気に入らないようですから、あらかじめお断わりしておきます。  いわゆるシングル旅券というものを現在の段階では出さざるを得ないというところに帰着するわけです。私どもは前々から申し上げておるように、旅券というものは理想としては身分証明書だ、私はこういうふうに観念いたしておるわけです。しかし、現状においては、そういうふうにクリアカットにいけない。これについてもどうせ私の御説明では満足されないのですから、それは御了承いただけないかと思いますけれども、私の認識としては、現状においてはいわゆるシングル旅券を出さざるを得ない。ほんとうは全部五カ年間というもので出すようにすれば、罰則も何もそんなものは問題じゃないわけです。しかし、いま山下君からお話ししたような状況において、やはり法律をつくった以上は、それに違反した者に対して無罰則であるということは、まあ法律の体系というよりは、むしろていさいとしておかしいというふうに政府としては考えざるを得なかったのが、この三万円という罰金の姿になっているわけです。そういう点はおわかりいただけないかもしれませんが、政府としては、これが現在としては最善の案と考えております。
  46. 渡部一郎

    渡部委員 では法制局の方に、先ほど御説明になりたかったことをひとつお話ししていただけますか。
  47. 荒井勇

    ○荒井政府委員 刑罰、広い意味の罰則規定というものの中には、刑法上の刑を科するものと、そのほかに、過料として一種の秩序罰というものを科するものと、広い意味では二種類あるということは御指摘のとおりでございます。ただ、旅券法の体系を見ますと、海外に渡航する場合には、身分証明書であると同時に、保護依頼状であるところの旅券というものを持っていかなければならないのだということで、旅券の発給を申請しなければならない。その反面、その旅券の発給を受けないで海外に渡航するという場合には、現行法の二十三条に書いておりますように、刑罰を科するという体系でできているわけでございます。旅券法は、その旅券を発給する際に、現行規定でいいますと、第八条にありますように、「渡航先の追加」というものを受けなければ、その発給を受けた旅券の券面に記載している渡航先以外の所には行けない。それが今回の改正で、表現は若干修正されておりまして、「名義人は、当該一般旅券に記載された渡航先以外の地域に渡航しようとする場合には、」その「渡航先の追加を申請しなければならない。」ということで秩序づけて、それにさらに十三条で、一定の渡航先の追加というものを許可しあるいは許可しない基準というものを定めているわけでございますが、その旅券なしで外国の地域に渡航するということと、それから旅券の発給は受けたけれども、その旅券に記載されている渡航先以外の所に行くというのは、いわばその保護依頼状で行き先はこれとこれとかくかくしかじかの地域であるということが記載されている場合に、それ以外の地域に行くということですから、旅券の法秩序として考えているものからいいますと、同質の違反行為である。旅券の発給を受けないで海外に行くということ、旅券に記載されていないような地域に行くということの本質を考えますと、やはり刑罰というものをもって担保すべきだというのが主務の各省の見解であり、それは旅券法の体系から見ましても、同じように価値判断をすべきものだというふうに考えられるということで、御提案申し上げておるようなものになっているわけでございます。
  48. 渡部一郎

    渡部委員 御説明を聞いても、ぼくの質問の答えにはならないのですよ。まことに悪いのですけれども、せっかくるる御説明をいただいたのだけれども、私の言っているのは、ここでは外交の問題です。旅券法の法体系のていさいを整えることが大事なんじゃないんだ。実際に日本を将来どういう国にするかということがいま重大問題なんです。  それで、私は、いま質問というよりは、特にここで最後に申し上げておきたいのですけれども旅券法自体というものを通すにあたっても、何をするにしても、いまの外交基本的なやり方と現実的な妥協、将来の見通しの両側面がなければならないと私は思っております。その大きな見通しは、少なくとも日本民族にとっては、また東洋の一国としての日本は、また世界の平和をになうべき日本としては、どんなことをしても、このような世界の平和を阻害するような要因というものを、むしろ積極的にこちらから取り除いていくべきものである。国家自体の存立に重大な害悪のあるそういうものを次から次へと取り除いていくことのほうが、日本にとっては大きなプラスになるだろうと私は申し上げているわけであります。先ほど外務大臣は、あきらめたような言い方で申されましたけれども外務大臣現状に対する御苦衷というのは、私はわからぬではない。ただ、大臣は、あまりにも現実だけであって、将来性を含まなさ過ぎる。そのやり方というものに対して私は批判をしているわけであります。私は、法体系を整えることが大事ではないと思う。法体系は、別の観念をもってすれば、別の法体系ができるはずである。少なくとも新しい日本としては、平和国家日本としては、別のものがあるべきものじゃないか、こう私は考えております。それが私がこの際特に申し上げたいことであり、わが党の重大なこの法案に対する疑義であります。  以上で私の外務大臣に対する質問関係を終了いたします。
  49. 愛知揆一

    愛知国務大臣 先ほども申し上げましたように、私は、この旅券というものの性格から申しまして、この角度からだけいえば、数次往復旅券というものがあらゆる国に対して適用されることが望ましい。そうなれば、あるいはその場合におきましても、これは十分検討しなければならないと思いますが、全然罰則というものがなくていいかどうかということは、別個の法のていさいあるいは体系の問題として考えなければならぬ点があるかもしれませんが、私は、理想としてはそういう時代が来ることが望ましい、かように考えます。ただ、この前も再々御答弁いたしておりますように、旅券についての国際的ないろいろな研究会議あるいは勧告提案というものもございますが、それの最近旅券についての関心の深い各国の専門家といいますか、あるいはそれにはもちろん国際問題等の権威者等も入っているわけですが、そういうところで現実的にできている勧告というものに、今度御提案申し上げたものが相当ぴったりしているのではなかろうか。そういう意味において、その将来の理想に対する数歩前進というふうには考えておりますが、ただいまお話しになったことは、趣旨としてあるいは外交の理想としての御意見としては、よく私も理解できるところだと思います。
  50. 北澤直吉

    北澤委員長 この際、午後五時より委員会を再開することとし、暫時休憩いたします。     午後一時四分休憩      ————◇—————     午後五時十八分開議
  51. 北澤直吉

    北澤委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。穗積七郎君。
  52. 穗積七郎

    穗積委員 外務大臣、御苦労さまです。  いろいろいままで各党の委員から御質問がありまして、私は大体伺いましたが、ときに所用のためにちょっと席をはずしたことがあって、伺い漏らした点もあります。したがって、多少は重複する部分が出るかもしれませんが、最後の締めくくりみたいになりましたから、そういう意味で問題を整理しながら、少しお尋ねいたしたいと思います。簡潔にお答えいただければ、どんどん前へ進めようと思っております。  最初に申し上げてお尋ねしたいのは、実は大臣ももう御存じかと思いますけれども、現行のわが国旅券法なるものは、非常な時代おくれでございまして、これは最近の国際的な渡航自由化の情勢に合わない。そういうことで、早く時代にマッチした内容の改正をすべきであるということを主張してまいりました。今度の改正案の一部には、そのことが不十分ながら制度としては盛られております。しかし、十三条を中心とする国益公安の誤った古い残滓が、相変わらず法の中央に盤踞いたしておりまして、これが外務大臣の専決権といいますか、独裁権といいますか、そういう専決権と結び合わされて悪用されますと、非常に憂うべき現象が出るわけです。しかし、制度としては、特にマルチプル・パスポートの取り扱い等はその形において進歩が認められる。この進歩については、われわれも従来からエンカレッジをしておったし、賛成であります。  そこで、国際的な平和共存の原則に立ち、大臣も御同感であると思うからお答えをいただかないが、特にわが国は、世界の中で最も貿易に依存度の高い国だと思うのですね。したがって、文化の向上、生産性の向上のためには、貿易、資本の自由化だけでなくて、文化、科学技術の相互交流、したがってそれに伴う人事の往来というものが、グローバルに発展、自由化されなければならぬと私は考えます。ここまでは大臣もおそらく御同感だろうと思うのですね。にもかかわらず、先ほど言いました前進と見られるべきこの継続長時間の旅券制度が、一部の国を全く除外されて、その前進とは全く逆行する制度、精神が特に露骨に今度強化されておる。この差別と制限の強化というものは、われわれどうしても納得のいかない大きな矛盾を感ずるわけです。それは私の主観ではない。これは今度の改正案の法の制度、システムの中にあらわれておるわけです。したがって、私は、制度において一部の前進が見られるこのマルチプル・パスポート制度というものを、一部を除外しないで、世界のすべての国、特に貿易及び貿易に従う人事の交流の行なわれている諸国に、国交の回復国はもとよりでありますが、回復されない国におきましても、やはり共存の原則に立って、同様の無差別の取り扱いにすべきものであるということを強く感ずるわけです。それが今度できていないことに対して、外務省の国際的な認識、日本経済の国益に関する認識の欠如に驚いておるわけです。いまからでもおそくはありませんから、この除外例を撤去しまして、無差別平等の取り扱いにされるべきである。せっかくこの長年待望しておりました旅券法の改正にあたって、冒頭にかつ基本的原則として、このことを私は強く感ずる次第でございます。いまからでもおそくはありませんが、外務省の英断をもってこの差別、制限というものを撤廃されて、完全な意味における国際渡航の自由化に即応すべきである。それでこそ、初めてこれは改善であり、改良になると私は思うのです。このことをまず第一に、原則上の問題でございますが、御所感を伺って、それがもしできないとするならば、できない理由をはっきりしていただきたいと思います。
  53. 愛知揆一

    愛知国務大臣 これは、私はしばしば申し上げておりますように、今度の旅券法というものは、多年の国民的な要望にこたえると同時に、当局側といたしましても、これ以上これを放置することは、事務的にももうできなくなったというところから、ずいぶん長いことかかりましたけれども、ようやく今度御提案申し上げることになったわけでございます。そしてこれもしばしば申し上げておりますように、また今朝も申し上げたのですが、そもそも旅券とは何ぞや。理想からいえば、身分証明書のようなものでございますし、それからどこの国、どこの地域にでも五年間あるいはそれ以上の効力を持ったものが無差別、平等に発給ができるということが、私は理想だと思いますし、それが世界的な人権尊重ということにもこたえることであると思います。しかし、一面におきましては、これもずばりといつも問題になります朝鮮半島の例をあげましても、ここに不幸にして分裂国家といわれるような状況がございます。日本としては、韓国国交を正常化し、かつ親善友好の実をあげたいということを、少なくとも現内閣の外交基本方針にしておる。こういう関係もございます。いろいろそういった点をかみ合わせて、現在またそれ以外にも未承認の国もございますし、あるいはローデシアというような国もございますことが国際の現状でございますから、そのもとにおいてシングル旅券という制度をつくらざるを得ない。しかし、基本的な気持ちは、いま申し上げましたようなところでございますから、これを運用上の問題においてできるだけ本来の趣旨に沿うようにひとつやってみたい、こういう方針でおりますことは累次申し上げたとおりでございます。  簡単に答えろということでございますから、御趣旨はよくわかります。現状においてはこれが最善と思います。したがって本法案の修正ということは考えません。
  54. 穗積七郎

    穗積委員 修正をしたくないというのを無理に強要することはできないわけですけれども、いまあなたのおっしゃった中にも、自己矛盾が非常にあるわけですね。先ほど言いましたように、渡航の自由というものは、自然権ともいって差しつかえないような基本的人権であることは、あなたも認めておられるわけだ。外務省の発行しておる今度の関連文書の中でも、そのことは明確に確認をしておる。そうであるならば、これは国の利益のためではない。個人の基本的人権の自由として渡航するわけですね。そうであるならば、それを尊重するなら、それは単なる身分証明書にすぎない。相手国政権に対して保護を依頼する依頼状にすぎない。それだけのことなんです。したがって、どの国へ、国交回復国、友好国へ多く行こうが、あるいは分裂した政権の統治下の国家へ多く行こうが、それは政府の関知せざるところですよ。関知すべからざるところです。それは基本的人権の権利の主体である個人の自由です。それを承認国の反対の立場にある未承認国に多くの者が行くことが国益に反するかのごときことは、それは自民党の党益には反するかもしれない。しかし、国益とは何の関係もないことです。したがって、いまおっしゃいました渡航の自由という基本的人権、それから旅券は身分証明書にすぎない、こういうことと、十三条を中心にして規定されておるいろいろな国益公安の拡大解釈、乱用、これはいまの御答弁の中でも明瞭に、文章にでもしてみればだれもが気がつく自己矛盾であると思うのです。しかし、私は、それでは差別待遇をする正当な御説明とはとうてい考えられません。でありますから、このことをより多く論じなくても、私の言わんとするところ、あなたの言っておることの自己矛盾、これはもう御自覚になられていると思いますから、あとはあなたの決断の問題です。なお一段の御再考をわずらわして、前に進みましょう。  それでは、この制度の中で一番問題になりますのは、罰則規定が非常に強化されたことでございます。特に二十三条の関係で、渡航先記載以外の地域に行った者に対して、従来なかった罰則を加えておる。それが罰金刑だけでなくて、十三条にはね返って、その者に対しては旅券の発給を拒否する、こういう制度になっておるわけです。いままで各委員の方あるいは参考人の方が——渡航先記載にない地域に旅行せざるを得なかった、みずから欲してではないが、政府のかたくなな態度のためにやむを得ず、いわゆる横すべりして渡航先記載以外の地域にも出ざるを得なくなったわけです。それが今度は罰則としてやっておる。出すものを出さないで、罰則を置くということに対して、大臣は自己矛盾をお感じになりませんでしょうか。
  55. 愛知揆一

    愛知国務大臣 ですから、あなたのおっしゃるように、人権ということを徹してお考えになれば、それはそれに対しての障害になる面もございましょう。国益ということについても、前々からいろいろの観点からお話がございますが、そこまでいかなくとも、たとえば旅券を持っている人に対しては、日本政府としては、この人間の身分を安全にし、かつ便宜を供与してくれ、こういう趣旨もあるわけでございますね、これが第一義の目的ではないかもしれませんが。ところで、これを未承認国に出しまして、行きました人が承認国と同じような身分上の安全や便宜が保障されるか、何によって担保されるかといえば、それに対しては承認国とはおのずから差があるのではないでしょうか。そういう点もあるくらいでございますが、いわんや、先年も問題になりましたけれども日本とは全然ものの考え方もイデオロギーも違う国が、非常に大ぜいの、日本のまだいたいけな少年少女を連れていって、しかも全部向こうの費用でそして日本に対する革命教育というか、そういうものをするがために、渡航を許すかどうかということがありますような場合には、これはあなたが政府立場にお立ちになっても、よほどお考えになるんじゃないでしょうか。そういうことも現に世の中にはある以上は、ここにある程度の国益的な制限を置くということは、私は当然のことではないかと存じます。それがいけないとおっしゃるのならば、これは意見の相違でございますから、何とも私はいたし方がございません。御意見を拝聴するにとどめるよりほかに方法はないと思います。(穗積委員「罰則のことは」と呼ぶ)  罰則は、これも今朝も申し上げたのでありますが、率直に言えば、記載してあるもの以外の行動をした、あるいはそれと同じようなことがあったという場合に、法律の規定に違反する者に対して、法律というものの権威をもっても、法のていさいというものからいっても——厳重な罰則とおっしゃるけれども、三万円の罰金なんですね。これはこの法案をつくります過程におきまして私もずいぶん努力をしてまいりました。法の体系、ていさいを整えるための罰則としては、私はやむを得ない程度のものである、常識的にかような結論を持ったわけです。  それから、これが人権を阻害する、非常に厳重な罰だというふうに仰せになるのは、おそらくこの旅券を発給しない点にかかわっておると思いますけれども、これは実際の運用上は最長五年以内ということになると思います。それから、五年以内におきましても発給しないことがあり得る、あるということなんでございまして、これはまたそこで行政権が不当な権限を持ち過ぎると仰せになることはわかっておりますけれども、しかし、旅券を発給する当局といたしましては、その状況によりまして、さような違法の行為がございましても、これは事実行為として違法の行為があったということは、事実判断の問題であり、立証の問題です。そこで、立証できたものについては罰金を取らざるを得ませんけれども、その人に対しまして旅券の発給を求められた場合に、するかしないか、あるいは旅券を没取することをするかしないかということは当局の判断でございますから、これはさような場合に絶対に旅券を発給しないというふうには御解釈にならないでいただきたいと思います。かようなことをいろいろの点から御判断いただきますれば、私どもとしてこの改正法律案を立案する場合に、相当程度のいろいろの場合を想定して努力をしたということは、私は認めていただきたいものと思います。
  56. 穗積七郎

    穗積委員 罰則規定があって、それに対して違反をした場合には、再度旅券を発給することを拒否することがある。しかし、することがあり得るのであって、拒否するとは限らない、そういう運用の面ということですが、これは罰則の解釈並びに施行にあたっての態度についてでありますから、これは後に法務大臣もお見えでありますから伺いたいと思います。それよりは、世界の中で、渡航することを禁止したりまたは制限をしておって、罰則のみを置くことは、法の体系上矛盾をしておるではないかということを私は伺っておるわけです。もしそうであるならば、罰則規定というものを削除するか、しからずんば少なくとも再発給の拒否の制度をおろすか、どんなに譲歩的に考えましても、そうせざるを得ないのではないか、そうするのが正しい論理ではないかというふうに思うのです。  そこで、お尋ねいたしたいのは、そういう禁止または制限がされておる実情のもとにおいて、罰則のみをここへつくっておくということは、法の体系上矛盾をしておるというふうに思いますから、罰則規定を削除するか、しからずんばこれを修正するか、そうすべきだと思いますが、大臣のお考えをこの際最終的に伺っておきたいと思うのです。
  57. 愛知揆一

    愛知国務大臣 これはいまのお答えで私は尽きていると思いますけれども、法に定めてあることに違反の行為があった場合に、法の権威のためにこれに罰則をつけるということは、私は自然の発想ではないかと思うのです。そういう意味合いにおいて、同時にしかし、この旅券法というものの性格あるいはその現状というようなことにかんがみて、できるだけこの罰則というものは置くにしても軽度にしたいということで、いろいろ政府部内で検討、慎重審議をいたしまして、かような結果になったものでございますから、私としては、これを修正する、罰則をやめるという修正に政府として応ずるわけにはまいりません。
  58. 穗積七郎

    穗積委員 それでは関連をして第三の質問をいたしましょう。それは、法に違反した者を刑の程度は別にして罰するということは、法のたてまえ上矛盾はしない、こうおっしゃるわけですね。ところが、行きたいところに行けるなら、それは法を犯さないで行くことができますから、法を犯さないで行く道があるのに犯すということは、これは罰則の正当性がありましょう。しかし、行きたいところにも行けない。非常なきびしい制限が行なわれておって、所用の目的のために所用の時期に行くことができないというような制度を設けておいて、あるいは運用しておいて、そして罰則だけは正しい、あたりまえだ、こういうことでは間違いだと思うのですね。それでは、罰則規定は正当なものであり、罰則は削除または修正しないつもりであるというなら、どこへでも行くべきところへは行ける、本人の欲するところ、行きたいところへは行けるという道を地域で区別しないでお認めになるつもりでございましょうね。論理上それが当然なことだと思うのです。それを伺っているのです。
  59. 愛知揆一

    愛知国務大臣 これは論理がぐるぐるめぐりをするだけだと私は思うのです。それはあなたのおっしゃるように、日本人は要求さえすればどこへでも旅券の発給ができ、受ける権利があるのだ、こういうことならばそういうことになりましょうし、また罰則とか制限規定とかいうことも必要なくなる。そこのところは、先ほど申しましたように、基本的に意見が私は違うところだと思います。本来どこへでも出したい、それが理想であるし、人権の尊重ということだけからいえば、それは正しい見方でありましょうが、政府といたしましては、十三条一項五号のような規定を置くことが現状においては必要だ。行きたいところどこへでも行けるわけではないのです。できるだけ行かせるようにしてあげたいとは思うけれども、ここの場合は政府としてはやめていただきたい、こういう場合があることが前提でございます。したがって、いまのお話は、私はどうしても意見がかみ合わない。どうかそういうふうに御了解をいただきたいと思います。
  60. 穗積七郎

    穗積委員 私の言っているのは、そうじゃないのです。原則はどこへでも行ける、除外例はある、こういうことでなければならぬと思うのですね。渡航の自由が基本的人権であるならば、原則はどこへでも行きたいところは行けるのだ、ただし、それについては除外例なり制限、条件というものはある。——論理が逆ですよ。そうじゃありませんか。それでは、今度の改正案の目的は、ある地域に限って渡航を禁止したり制限する目的でお出しになっておられるのでしょうか。
  61. 愛知揆一

    愛知国務大臣 それは、御質問になることがまた別のことをおっしゃっていると思うのです。いまの問題を片づけなければならないと思いますが、除外例をお認めになっているわけですね、行けないところがあると。これはあなたの御意見とは反するけれども政府考え方はそうですね。除外例をお認めになっておれば、その除外例として認められないということについて、それに違反をするようなところがあり得るわけでございましょう。それだったら私の言うことが正しいので、あなたのおっしゃることとはどうしてもすれ違うのです。
  62. 穗積七郎

    穗積委員 それでは率直にお尋ねしましょう。先般、六月二十日でしたか、あるいは七月四日であったと記憶いたしますが、わが外務委員会の与野党の理事会の懇談会に、あなたは法務大臣とともにお見えになって、そして今度旅券法改正案を提案したのは、いずれの国、いずれの地域に対しても渡航の自由を制限することを目的としたものではない、したがって、いずれの国、いずれの地域に対しても渡航の自由についてはこれは善意をもって処置したい、これが基本方針であるということをおっしゃいましたが、それは間違いございませんね。
  63. 愛知揆一

    愛知国務大臣 ベテランの穗積委員の御質問でございますから、私は敬意を表しますけれども、私の気持ちはおわかりになっているはずでございます。
  64. 穗積七郎

    穗積委員 そこで、次に進んでお尋ねいたしますが、われわれはそう聞いて、私はそう理解しております。だから、いずれの国あるいは旅行の目的、個人の思想、信条、政派等々は超越して、元来は自由が原則である。ただし、旅行の目的地、旅行の目的の種類、あるいは旅行する人が多少刑事犯罪の疑いを持たれているとか、いろいろな場合においては、これに制限または条件がつく、こういうことは例外としてあり得ることですね。しかし、基本的には世界のいずれの地域に対しても、法の目的としては、旅行の制限あるいは禁止をする目的でこの法律は出ておるものではない。私もそう解釈したいのですが、どうですか。
  65. 愛知揆一

    愛知国務大臣 まあその辺のところは、私は先ほど申しましたように、よくおわかりいただいておると思いますから、あまり突き詰めて私どもの答えをお求めにならないでいただければ幸甚でございます。もし公式に開き直って申し上げますと、お気に沿わないことがあるのではないかと思います。
  66. 穗積七郎

    穗積委員 何もそうあなた、法律のことですからね。法律の基本原則を言うておるのですよ。それでは特殊の地域、特殊の人物に対しては制限をしたり禁止することを目的としてこの法律をお出しになったのですか。この法律の主目的はそういうところにあるのでしょうか。
  67. 愛知揆一

    愛知国務大臣 私はそうでございますと言っているわけではございません。
  68. 穗積七郎

    穗積委員 そうでなければ、法律の目的は何でしょうか。
  69. 愛知揆一

    愛知国務大臣 従来からしばしば申し上げておるとおりでございます。
  70. 穗積七郎

    穗積委員 どういうことですか。私は愚鈍にして耳が違いから、もう一ぺん言ってください。
  71. 愛知揆一

    愛知国務大臣 私は従来からしばしば私の真意を申し上げておるつもりでございます。
  72. 穗積七郎

    穗積委員 だから聞いているのですよ。旅券法の提案理由の説明にそんなことは書いてない。
  73. 愛知揆一

    愛知国務大臣 ですから、旅券法の提案理由説明をふえんしていままでいつも申し上げておりますが、これを文章にしてしかと申せとおっしゃるのならば、提案理由に書いてあるとおりでございます。
  74. 穗積七郎

    穗積委員 そうであるならば、特定の地域、特定の目的、特定の人に対して禁止または制限をすることを目的とするものではない、こう解釈すべきでしょう。いかがでしょうか。
  75. 愛知揆一

    愛知国務大臣 先ほど私がお答えしたのはそういう意味でございます。
  76. 穗積七郎

    穗積委員 そこで、この法律の取扱いを言いますと、先ほど言いました数次往復、それから長期にわたる旅券発行は外務大臣の指定する地域に限るわけですね。これは何を基準にしてこの地域とそうでない除外の地域とを区別なさいますか。これをはっきり伺っておきたいと思うのです。
  77. 山下重明

    ○山下政府委員 法律の上では、五年数次の旅券を出す地域を外務大臣が指定するという形になっておりまして、それ以外の地域は一回限りの旅券ということになっております。われわれとしては、なるたけ五年数次の旅券がたくさん通用するようにしたいということでありますが、現状においては承認関係のない地域が一回限りの旅券を使う地域になる。現状ではそういうふうにわれわれは考えております。
  78. 穗積七郎

    穗積委員 その地域、未承認国はどこどこですか。
  79. 山下重明

    ○山下政府委員 承認してない国としていま私たち考えておりますのは、中共、北鮮、北ベトナム、東ドイツ、そのほかにおきましても、先ほど申しませんでしたけれども、一般の数次旅券をとる地域でありましても、もし御本人の都合上一回限りの旅券のほうが便利である、一回限りの旅券は、一回もらうと在外にいる限りいつまでも使えるという形になっておりますので、あるいはブラジルあたりに移住される方は、五年数次よりも一回限りの旅券のほうが便利だという場合には、お出しすることになっております。
  80. 穗積七郎

    穗積委員 それは渡航目的による差別ですね。地域による差別ではないわけでしょう。
  81. 山下重明

    ○山下政府委員 あとから申し上げたブラジルの場合には、地域というよりも、御本人の希望によってどこの地域に対してもお出しするということになっております。
  82. 穗積七郎

    穗積委員 渡航目的による除外例。そこで、未承認国はその四カ国だけですか。
  83. 山下重明

    ○山下政府委員 承認していない国というものについて、大体現在ではわれわれはその地域と考えておりますけれども、必ずしも承認してない国だから一回限りの旅券ということにはならないので、もし問題がなくなりますれば、北ベトナムにしてもだんだんはずしていくというふうに流動的に考えて、外務大臣の指定する地域というふうに残したわけでございます。同時に、ある場合にはローデシアとかなんとかの問題がありまして、ここはいけないという場合には、どうしても追加しなければならないという場合もあることを想定しております。
  84. 穗積七郎

    穗積委員 そうしますと、大体シングル。パスポートを想定しているのは、未承認国のうち四カ国だけ、その四カ国間において差別がありますか。
  85. 山下重明

    ○山下政府委員 具体的に旅券の発給ということになりますると、具体的なケースに従って審査するということになると思います。
  86. 穗積七郎

    穗積委員 原則的には差別はありませんね。
  87. 山下重明

    ○山下政府委員 原則的にはございません。
  88. 穗積七郎

    穗積委員 そうすると、そのあとの制限は、渡航目的、申請者、旅行者本人の差異による違いになるわけですね、その四カ国間において地域上区別がないとするならば。
  89. 山下重明

    ○山下政府委員 渡航目的渡航先、それからいろいろほかの要素も入ってくるかと思いますけれども、全体として審査するということになると思います。
  90. 穗積七郎

    穗積委員 全体としてというのは、私の理解では、おもなる制限は地域の制限、差別制限ですね。もう一つは、旅行目的による差別があるわけですね。それから申請者、旅行者自身の差別があり得るわけですね。そうすると、地域で包括的に差別をするというのでないとすれば、旅行の目的並びに申請者のそのときの状況によって判断するわけでしょう、おもにイエス、ノーは。
  91. 山下重明

    ○山下政府委員 同じ目的、同じ渡航先であっても、ある場合にはいいけれども、ある場合にはいろいろな状況から遠慮していただく、出せないという状態もあるかと存じます。
  92. 穗積七郎

    穗積委員 法務大臣が見えましたので、ちょっと委員長、速記をとめてください。
  93. 北澤直吉

    北澤委員長 速記をとめてください。     〔速記中止〕
  94. 北澤直吉

    北澤委員長 速記を始めて。
  95. 穗積七郎

    穗積委員 それでは区切りがいいところまでもう一点だけ伺ってから法務大臣に伺いますが、渡航目的の分類並びにそれに対する制限の基準をお示しください。違いがあるでしょう。これはちょっと念のために申し上げておきますが、現行法の場合とこの新法の場合とでまた違うか違わないか、どう整理してかかっておられるか、これは他の方から質問があったかもしれませんが、なければそれをお答えいただきたいのです。
  96. 山下重明

    ○山下政府委員 渡航目的のほうは、旅券の機械化をしまして以来、業務、観光とか、役務提供とか、研究とか、留学とか、そういうことで二十の項目をあげておりまして、そのほかに、それに入らないものについてはその他ということで具体的に書いていただいているわけです。そして目的関係して旅券をお出しできないということがあるわけですが、一つの例は、たとえば去年のベトナムのテト攻勢のときに、一般邦人の方にみんな引き揚げてほしいという勧告を出しまして、そのときには、観光の目的で行く人は遠慮していただきたいということで、これは行政指導の範囲でとどまりましたけれども、もしどうしてもという場合には出さざるを得ないかと存じておりますけれども、観光ということで遊びに行く人は御遠慮くださいといったケースもございます。それから前に、日ソ国交回復の交渉をしているときに、馬島先生が政府と別な平和回復の交渉をしようという御希望で、ソ連行きの旅券を申請されましたときに、その目的のために行ってもらうと国の利益にならないということで、お断わりしたケースがございます。そのケースによって扱いがいろいろ違ってくるかと存じます。
  97. 穗積七郎

    穗積委員 そういたしますと、法律のつらには旅行目的の分類並びにその分類に従って、政治目的のときはこの基準によっていく、観光のときはこの基準によっていく、技術交流はこの基準によっていく、それから通商貿易の場合はこの基準によっていくという、主観的でなくて、ごく客観的な基準というものは示されていないわけだ。分類もなければ基準もない。そうなりますと、政府の全くアトランダムな判断によって、政府のだれか、個人であるか複数であるかは別として、そういうものによってこれがきまるということになりがちだ。これは非常に危険なことですね。したがって、おそらくはこの関係役所の中で省令または行政措置の運用上の内規というか、そういうものもあろうかと思うのです。いままでは一体どういうものさしを使っておられたか、今後はどうされるつもりであるか、それを伺いたいわけです。
  98. 山下重明

    ○山下政府委員 別に内規というものはございません。旅券の発給を制限する場合は、われわれとしては非常に慎重に取り扱っておりまして、関係各省集まり、十分討議して一その場合に目的も重要な要素になりますが、十分討議して、なおかつそれでもきまらない場合には、内閣において検討していただいて、そのつど決定しておるというのが現状でございます。
  99. 穗積七郎

    穗積委員 そうすると、非常に恣意的といってはお気にさわるかもしらぬが、判断の基準に非常に主観性が入るわけですね。時により人により違うわけですね。
  100. 山下重明

    ○山下政府委員 判断の基準は、法律にございますように、十三条の規定もしくは十九条の規定というものではっきりしておりまして、その法律の条項に照らして、関係者が集まって十分検討した結果、決定しておる次第でございます。
  101. 穗積七郎

    穗積委員 これは客観性がちっともないですよ。国益公安とか国民の信用とか利益なんということばは、抽象的かつ包括的なことばでありまして、これは客観的なものさしにならない。そういうわけですから、旅行目的を二十一に分類しておるなら、それに何か客観性があるはずでしょう。許可をする基準についての差異があるわけでしょう。これはございませんか。ばく然としたものですか。
  102. 山下重明

    ○山下政府委員 われわれのほうではございません。あるいは各省で、たとえば通産省で、貿易のことで行くときに、ココムが困るとかいうようなことがあるかも存じませんけれども、それは各省でいろいろの観点から御判断になるときの基準はあるかないか存じませんけれども、結局渡航目的をいろいろこまかく分けているのは、実際に渡航される状況とか、いろいろな問題を審査するに都合がいいように、そしてまた、大体こういう目的は各国ともこういう目的を使っておるということで採用しておるわけでございます。
  103. 穗積七郎

    穗積委員 これはそれじゃ大臣にまた返ってお尋ねします。  いまは地域、目的の区別でございましたが、大別いたしまして、このマルチプルのパスポートとシングルパスポートは、地域差によって区別しておるわけですね。この区別が必要はないではないかということを私は申し上げておるわけだが、しかし、必要があってこういう制度を新法の中でおとりになったと思う。そうであるならば、両大臣から伺いますが、政府立場から見て、国民のためにこういうふうに二つに分類することがどこに必要の根拠があり、どういう理由でこういうものを必要とするか。具体的かつ実益の観点から、理由を御説明いただきたいと思うのです。
  104. 愛知揆一

    愛知国務大臣 いままで山下政府委員からるる御説明しておるとおりでございまして、マルチとシングルの発給の場合においては、主として地域差といいますか、いまお話しのとおりです。これはやはり具体的にいえば、承認国と未承認国というようなことになるかと思います。その理由は何かと仰せですが、これはもう前々から申し上げておりますとおりに、マルチのほうは五年間有効で、非常な便宜を供与することに、従来から比べてなるわけでございますから、それをいますぐに他の地域にも均てんすることはいかがであろうかというような配慮から、こういうことをいたしたわけで、先ほどもるる申し上げましたように、理想としては、どこの地域にもマルチで無条件にしたいのはやまやまです、人権ということだけを考えてまいりますれば。しかし、そうはいかないということは、これはもうよく御理解をいただいた上での御質疑と思いますから、その辺のところは御理解をいただけるものと私は信じております。
  105. 穗積七郎

    穗積委員 法務省は、何か未承認国に渡航許可する場合に、一回限りのシングル旅券でなければこういう実害が生ずる、こういう不便が生ずるということが、法務省の角度、法務省立場からあろうかと思うのですね。それを率直にひとつ大臣からお示しをいただくようにお願いいたします。
  106. 西郷吉之助

    ○西郷国務大臣 その点につきましては、いま外相の御答弁がございましたが、そのとおりでございます。
  107. 穗積七郎

    穗積委員 そうすると、これは特に国益公安というものを確保するための便宜上、そういうことにするという意味でしょうか。
  108. 西郷吉之助

    ○西郷国務大臣 別にそういう意味ではないと思います。
  109. 穗積七郎

    穗積委員 それでは何でしょうか。
  110. 中川進

    ○中川(進)政府委員 未承認国と承認国に対して旅券にいままで差別がある理由でございますが、これはいま外務大臣がるる御説明になられました点で尽きておるかと思いますが、しいてお尋ねでございますのでお答えいたしますと、やはり国益公安ということとともに、その行かれる御当人の身体、財産の保護ということもからんでおりまして、未承認国におきましては、万が一日本国民がそこで何か事故にあったというようなときにも、かけ合う先がないわけでございますが、それが承認国の場合にはそういうことがないということでございます。
  111. 穗積七郎

    穗積委員 それは同じじゃございませんか。これら未承認国の場合は、承認国の場合以上に、相手が責任をもってお迎えしましょうということなんです。もう事前にインビテーションが来ているわけだ。そうでなくて、他の国は、マルチのパスポートを出すところは、これは自由の原則によって、かってに通って、かってに来てくれ、かってに出てくれということになる。ところが、未承認国の場合は、これははっきり相手が、政府または団体あるいは個人が責任をもってお引き受けいたしましょう、だからインビテーションを受けて行っておるわけですね。一方、それを承知の上で、安心して行っておるわけだ。それに対して、本人の保護のため、安全のためということに藉口して、政府がシングルにしてくれることは、私は要らざる干渉ではないかと思うのですね。たとい保護をするにしたって、在外機関はないのですから、シングルであろうとマルチであろうと、未承認国には政府の在外機関というものはないわけですから、同じことではありませんか。保護の理由によって区別をする理由が、これでは発見することができない、いまの御説明を伺って。
  112. 中川進

    ○中川(進)政府委員 日本人が外に出た場合のそれの生命、財産の保護の問題でございまして、外務省の御所管じゃないかと思いますが……。
  113. 山下重明

    ○山下政府委員 承認してない国におきましては、たとえば中共において最近十三名つかまっております。その場合におきましても、実際は保護はできないからといって、われわれとして放置しているわけにいかないので、いろいろその手を尽くしたりなんかしておりますし、そのような場合を想定して、やはり一回ずつ旅券を出していただいて把握していく。それ以外の国交のある地域でありますれば、大体におきまして、行った先において、長くおられる人は領事館に滞在届を出していただいたり、そのほかいろいろとコンタクトができますけれども、そうでない場合はいろいろな問題が起こりやすいので、どうしても特別に一回ずつやっていただくということが適当だと考えた次第であります。
  114. 穗積七郎

    穗積委員 それは、外交保護権を行使する政府の機関がその国にない、そういうことで渡航を認めるわけにはいかないということであるなら、それが主要な理由でありますならば、シングルにする特別の扱い、差別扱いをする理由であるならば——全部禁止するなら論理的にわかりますよ、政策的に誤っていますけれども、そうでなくて、渡航を認めているのですよ。今度の場合は政府で黙認をしておる。たとえば中国の例を盛んにお引きになりますが、これは高碕・廖承志——最近は覚え書き協定というので、こちらは松村謙三先生が責任者になって事務所ができたわけだ。したがって、政府にかわって、準じてこちらから先方に話をしたり、あるいは様子を聞いたり、あるいは依頼をしたり、あるいは要望を出したりすることはできるルートはちゃんとできておる。それを承知の上で、池田内閣時代からこれが認められてきておる。今度の新聞あるいは貿易の渡航者というものは全部これですよ。だから、われわれ昨年も参りましたが、田川誠一さんはじめ古井さん、ことごとくこの問題については向こうと話し合いをしておられるわけです。そういうことは政府は初めから承知の上で、新聞記者交換並びに貿易事務所の相互設置というものを認めておるわけでしょう。そうしておいて、未承認国には外交保護権行使が安心ができないからというので、シングルだという根拠に私はならぬと思うのです。全部禁止すれば論理が合っている。政策は誤っているけれども、論理は合っている。だから、合っていないと思うのですよ。
  115. 愛知揆一

    愛知国務大臣 その点は、先ほどから何べんも私も直接御質問にお答えしておるのですが、ぐるぐる回りをしていると、率直に私はお答えいたします。つまり、政府は全部禁止しようなんということを考えているわけではございません。しかし、それなら承認国も未承認国も全部同じにして、無条件にマルチの旅券を出したらいいじゃないかということにまた逆戻りするかもしれませんけれども、そこまでは私どももいま現実の課題として考えておりませんということですから、結局運用の問題だと私は思います。その辺のところはもうお互いによくわかり合えると思いますので、どうかひとつ御了解いただきたいと思います。
  116. 穗積七郎

    穗積委員 大臣、たとえば、いま行っているのは新聞あるいは通商ですね。そうであるなら、渡航目的の中に番いてあるわけですよ。今度の新法によりますと、渡航目的変更については、旅券を一ぺん返納せしめて、そうして再発行するという制度になっておるわけでしょう。そうでありますならば、一回限りでなくて、数次で出しても同じじゃありませんか。ちっともシングルが——本人の安全のためという観点から見て、シングルなら安全だが、マルチなら危険だということにはならぬと思うのですね。旅行目的変更の場合の手続というものはちゃんと新法で規定されておるわけだ。旧旅券を返納して、そうして新旅券を得て出ていく。そこで、渡航目的の書きかえになるわけですね。だから、そこでチェックできるじゃありませんか。
  117. 愛知揆一

    愛知国務大臣 実にいろいろの角度から、一つ基本的なお考えをお持ちで攻め立てられるわけですから、御答弁もなかなかむずかしいと思うのです。  私は、先ほど政府側の答弁の中に、旅券を持っておる者の安全とか相手国の便宜供与とかいうこともございますと言っておるのであって、それがただ一つ理由でないことは当然でございます。  それから同時に、これは穗積さんにおことばを返すようですけれども、インビテーションをしておるんだからいいじゃないかとおっしゃるけれども、しかし、たとえば日中関係でも、新聞記者の交換はなるほど先輩の方々の御奔走によって話し合いができておるわけです。そうして、交換が無事にできてけっこうなことだと思っておりました。ところが、そのあとの人たちが御承知のような目に会っておりますが、これをトレースするによしなしというような状況であって、たいへん残念なことでございますから、インビテーションだからといって安心はできない。同時に、今度は逆に、先ほど私が申しましたように、インビテーションで招待ならよろしいかというと、私はそうはいかないという場合があると思うのです。たとえば、まだ思考力も十分でない少年少女を、全部向こうの費用持ちでもって大ぜいの人をインバイトするというようなことは、これはやはり政治的な意図があると見なければいけない。こういう場合にはインビテーションであってもお断わりしなければならない。これは政府立場に立って、国益を守るゆえんから、そういう場合があり得るのではないだろうか。こういうふうないろいろな場合、それは個々の見方や解釈やあるいはそれに対する観察のしかたについては、何か基本的にやはりあなたと私とは違うように思われますから、個々の場合をあげて、これはどうか、これはどうかと議論しておりますと、ぐるぐる回りになってしまって、どうも建設的でないのじゃなかろうか。ひとつお互いに超党派的に、この種の問題については建設的に処理するようにやっていくことはできないだろうかというのが、私の偽らざる気持ちでございます。どうかひとつそういう方向で御協力をいただきたいものだということを重ねてお願いをいたしたいと思います。
  118. 穗積七郎

    穗積委員 こんな法律でも、通れば、われわれもこの法律のもとに、法治主義でいく以上は、支配されなければならない。したがって、最大の可能性というものをわれわれは探求しておきたいと思うのです。そういう意味では、あなたも私も同じことですよ。そこで、違うところは、基本的人権公安問題等について考えが間違っておってはいかぬから、それをはっきりさしておきましょうというだけのことです。いまのお話、あなたもだいぶ混乱しておりますよ。私は、本人の安全保護の立場から見て、インビテーションのことを言ったのであって、旅行目的のことを言ったのではありませんよ。あなたは、招待目的が政治的で偏向で、政治教育をやるのだというようなことを言われますが、その目的の話を私はいましているのではない。未承認国においては外交保護権の行使をする機関がないので、そこへシングル旅券をもって一回一回チェックしながら本人の安全を確保していくのだというお話ですから、それに対しては、在外機関はないけれども、相手はインビテーションを出して責任を持とうとしておるのであるから、それは同じことではないかということを言っておるわけです。つまり、本人の保全保護の立場で私は言っておる。あなたは旅行目的のところへすりかえて、そして差別待遇したり、シングル旅券をやることをジャスティファイされようといたしますが、それはあなたお疲れになって、さすがの聡明な愛知揆一さんも、頭が混乱しているのだろう。おれも疲れているけれども、おれの論理のほうがまだロジカル。おれ、旅行目的のことを言っているのではないですよ。
  119. 愛知揆一

    愛知国務大臣 いや、インビテーションということ、招待ということについての意見を申し上げたのであって、その中に目的のことも入ったかもしれませんけれども、インビテーションだから安全だとはいえない、私はそこを言ったわけです。
  120. 穗積七郎

    穗積委員 いやいや、旅行目的、招待目的が何であるかということは、それは別の問題です。(愛知国務大臣「別の問題とあわせて言って何が悪いのです。」と呼ぶ)本人の安全保護のために、未承認国には外交保護権を行使する在外機関がないので、一ぺん一ぺんで帰って、そこで確かめて、安全を確保していくのだ、こういう角度からシングルが望ましい、こういうことをおっしゃるから、その場合は、未承認国の場合は、インビテーションつきである、それから承認国のマルチの発行の場合は、五年間どこでもだから、政府なんぞは大体確認もしてない、あるいは団体も確認をしてない、トランシットあるいは観光トラベラーで行けば、そんなことは知ったことではないというだけのことになるわけだから、その安全の点ということから見て、未承認国にはシングルを出さなければならぬという理由は、どうもさっきからの問答で、あなたのほうの負けですね。ちっとも根拠がないと思う。薄弱です。そうであれば、他の政治的理由が今度はこっちにあるのであろう、こう考えざるを得ないので、それでは目的に入ってお尋ねいたしましょう。  承認国にマルチを発行する場合には、旅行目的について制限する場合もありますね。ある場合もない場合もあるでいいんだ、そう思うのです。そのときに、今度は未承認国の場合と区別がありますか。未承認国については、目的によって——これこれこれこれのようなものは大体許可するつもりであるけれども、それのワクの中に入るものでも、個々のケースによってまた違うこともあることもむろん認めます、一般的にいって。承認国には許される旅行目的であっても、未承認国には許されない、原則的に一般的に認められない旅行目的というものが区別されておるかどうか、それを聞きたいのです。シングルはわかっていますよ。形の上で一方はマルチ、一方はシングルになっておるわけだ。そのときに、シングルでも許可するというときに、旅行目的によって区別をしておるか。マルチの場合にはしない制限を、未承認国の場合には旅行目的自身でもしぼって制限するつもりであるかどうか、それを伺いたいわけでございます。私は、こういうことはすべきではないという立場お尋ねしておるわけですが、政府はどうお考えでございましょうかと、こういうことです。
  121. 山下重明

    ○山下政府委員 今度の旅券法が通りましたならば、五年数次の旅券については、特別に目的欄に特別な記載をしないで、どの目的でも使える、最初行ったときは観光であったけれども、その次は商売で行くというような場合も出るので、五年数次には、目的欄には特に規定しないという考えでおります。それで、一回限りの旅券を出すときに、この目的はだめだとか、この次のこの目的はだめだとかいうことは考えておりません。具体的に申請が出た場合に、それがいろいろ考えて決定されるということになると思います。
  122. 穗積七郎

    穗積委員 それではお尋ねいたします。未承認国四カ国に対して、貿易通商の目的をもって渡航するなら、目的だけで除外しますか、除外しませんか。
  123. 山下重明

    ○山下政府委員 目的だけで除外することはありません。
  124. 穗積七郎

    穗積委員 スポーツはどうですか。
  125. 山下重明

    ○山下政府委員 スポーツだけで除外することはございません。
  126. 穗積七郎

    穗積委員 学術文化はどうですか。
  127. 山下重明

    ○山下政府委員 学術文化で除外することもございません。
  128. 穗積七郎

    穗積委員 友好訪問はどうでございますか。
  129. 山下重明

    ○山下政府委員 目的だけで除外することはございません。
  130. 穗積七郎

    穗積委員 それから外交その他の問題−内政問題はお互いに不干渉ですから、これは共産国であろうと資本主義国であろうと、あるいは国交未回復国であろうと回復国であろうと、問うところではない。これは国際法上の原則です。しかしながら、外交問題はお互いに、たとえば中国の外交政策わが国に影響いたしますし、わが国外交政策は中国に直接影響する、または間接に影響する場合が多い。したがって、それに対して相互で独立と安全と平和を保つための話し合いをすること、または特に近隣のアジア諸国において、回復国であろうと未回復国であろうと、これらの国との間で、お互いに貿易交流、技術交流等々について話し合いをすることは、これは相互の利益のためであると思います。そういうことは一つの政治性を持った訪問目的ですね、その原則について。個々の取引ではありませんよ。そういう場合は、外務省あるいは法務省日本政府のいまのお考え方からいえば、政治的目的を持ったものであると考えられるわけでしょう。その場合でも、目的によって、これは初めから除外いたしますか、それだけで。
  131. 山下重明

    ○山下政府委員 目的だけによってじゃなくて、そのときの国際情勢なり何なり、それからまた、場合によっては、ほかの各省方々いろいろ検討した結果、その決定をするということになっております。
  132. 穗積七郎

    穗積委員 そういたしますと、こういうふうに理解してよろしゅうございますね。これは特に担当の外務大臣お尋ねいたします。いろいろ過去の実績を見ますと、こういうわけで、いろいろな使節が直接または間接に事実上交流しているわけです。そして、今度の新法によっては罰則が規定されておりますから、特にわれわれはこれに対して非常な不安を抱いておるわけだ。そこで、お尋ねしておくわけだが、新法ができることによって、従来これらの四つの未回復国との間で事実上いろいろな形で交流が行なわれておったのに対して、その事実は認める、これが従来の実情に即して、今後これらの未回復国との渡航の問題に対しての処理はされるつもりであるか、されないつもりであるのか、これは基本方針の問題でございますから、担当の外務大臣からちょっとお尋ねしておきたい。私の希望としては、従来の実情は大体外務省法務省においては特に掌握をしておられるはずです。これらの実情に即して、私は、今後の、平和と繁栄のための情勢展望の中で、発展的に前向きに考えるべきではなかろうかと考えておりますが、それに対しての一般的な御所感でけっこうですから、外交の原則上のことを……。
  133. 愛知揆一

    愛知国務大臣 一般的な所見ということに特にお断わりお尋ねでございますから、従来の掌握している実例というものは参考になる、かように考えております。
  134. 穗積七郎

    穗積委員 そこで、法務大臣お尋ねいたしましょう。今後、未回復国だけに限ったわけではありませんが、特に未回復国に対する渡航申請者により多くの影響があろうと思われるので、その点も頭の中では区別しながらお尋ねするわけです。  現行法におきましては、十三条におきまして、死刑、無期または十年以上となっておる。新法においては、これをさらにきびしくして五年以上と書いた理由はどこにありますか、その必要性はどういうことにありますか、具体的にお答えください。
  135. 川井英良

    ○川井政府委員 いままでのいわゆるシングル旅券がマルチプルの旅券になるということ、それから旅行の外貨の割り当てが次第にワクが広げられてきているというようなこと、そういう実態にかんがみまして、国民の海外への渡航が非常に多くなるとともに、またきわめて容易になることが予想されるわけでございます。したがいまして、その実態にかんがみまして、国内において犯罪を犯した者が容易に国外に逃亡する機会が多くなることが予想されるわけでございますので、いままで長期十年以上というふうなところで限定しておりましたけれども、今回はそういう実態からいたしまして、長期五年以上というところに線を引くことが、この渡航手続の緩和と、それから国家刑罰権の行使との二つの利益の適正な調和をはかるゆえんではなかろうかというふうに考えまして、この辺のところがきわめて合理的な線であろうということで、こういう改正に相なったわけでございます。
  136. 穗積七郎

    穗積委員 具体的に続けてお尋ねしますが、現行法におきましては訴追に限っておった。ところが、今度は訴追、逮捕状、勾引状、それから勾留状もしくは鑑定留置状、これが加わっておりますね。特に訴追以下のものにつきましては非常にきびし過ぎるというふうに私は考えるが、それをきびしくされました理由は、いまと同様の理由でございますか。
  137. 川井英良

    ○川井政府委員 同じ理由でございます。
  138. 穗積七郎

    穗積委員 続いて、これは大臣お尋ねいたします、政治性のある問題でございますから。  十三条の公安国益条項というものは、有名な——これは乱用されたのであります。たとえば、当初わが党の帆足君がソビエト、中国へ渡航いたしましたときに、これは国益公安に反するという理由であったが、政府はこれは敗訴したわけだ。それほど乱用の経験を持っておるわが国でございます。これが従来どおり、非難にかかわらず、何らの反省するところなしに、十三条でそのまま受け継がれておる上に、さらに十九条を新設されまして、外地に出ましてから日本国民の一般的信用、利益を害するおそれのある者、これに対しましては中止または返納を要求するというきびしいことになっておるわけですね。これの運用に対して、私はあとで具体的にお尋ねいたしますが、こういうものをあえて設ける必要がどこにあったか。法理の点を申し上げておきますが、従来の十三条の公安国益条項をもってしても中止または返納を求めることができたわけだ。それに新たに十九条を新設いたしまして、日本国民の信用、利益という、ばく然とした、最も拡大解釈のできる主観的な——あるいは両大臣の決定によることと思うが、その両大臣協議において、恣意的にこれを政治的偏向をもって圧力を加えることができるわけです。これは治安維持法以来、われわれはこういう苦い経験を持っておる、悲しむべき日本の政治であり、われわれは苦い経験者でございますから、特にこの点については、何がゆえにこういうものが出てきたのか、屋上屋を重ねて、至るところへこういう反動的な治安立法的なものを、しかも国際渡航の自由化と簡素化を目的としたこの改正案の中へ入れてきておるというのは、自己矛盾もはなはだしい二つの潮流がある、こういうふうにぼくは思わざるを得ない。その根源はおそらく法務省だと思うんだ。西郷どん、どうぞ。——大臣に聞いておるんだ、政治的なことだから。
  139. 愛知揆一

    愛知国務大臣 いや、これは私どもです。これは第十三条の一項の五号、それから二項、そこで、「外務大臣において、著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行う虞があると認めるに足りる相当の理由がある者」これは前々から何べんも御論議があったところでございますけれども、今度の改正案でそのまま前の条項が残っている。これは御指摘のとおりでございます。そこで、これは私は何もシングル旅券だけの問題ではないのじゃないかと思うのです。一般的に旅券につきまして、国家公安を著しくかつ直接に害するような行為が行なわれるおそれがあるという場合は、やはりこれは対外的な国と国との関係になりますから、私もずいぶん考えましたけれどもこの項は必要である。ただし、同時に「第五号の認定をしようとするときは、あらかじめ法務大臣と協議しなければならない。」ということで、これが一つまたその上にかかる押えになる、かように考えるわけでございます。それから十九条の関係で、旅券の没取とか再交付しないとかいうことについての解釈、運用のくだりは、先ほど申し上げましたとおりでございますし、また、たとえば一般の場合の罰金との関係先ほど申し上げたとおりでございます。こういう関係でございますが、第五号の運用については、先般帆足委員にも申し上げましたが、今日のように環境や条件がいろいろ改善されてまいりましたから、ますますもって第五号の運用ということについては心しなければならない。ことに法律的にでございますから、「外務大臣において、」ということは書いてありますけれども、これは政府の責任者としての意味であって、同時に、行政官庁の外務省という意味であります。これは愛知個人が、この前も冗談のようなお尋ねがございましたが、穗積さんが北京に行かれることに対して、あなたと私はイデオロギーが違うからといって、この条項に当てはめて、愛知がこれを拒絶するというようなことはあり得ざることである。同時に、穗積外務大臣が、将来愛知がパリに行きたいと思うときに、おまえの行くところがけしからぬ国だからといって拒否されるような筋合いのものではなかろう。お互いに民主主義、議会主義というものに対して自信を持って、こういう点はもうほんとうに例外の例外としてあるいは予想しておかなければならぬかという程度のものとして扱わなければいかぬ、私はかような気持ちでおりますし、おそらくどなたでもそういう見識をお持ちになって運用されるに違いないと確信を持っております。
  140. 山下重明

    ○山下政府委員 十九条一項五号の点でありますが、これは十三条一項五号に屋上屋を重ねたというような御見解の御質問かと思います。十三条一項五号は十九条一項一号にそのまま引き継がれておりまして、在外において国益公安条項にかかる場合は現行法でも適用できるということになっております。しかし、現実には一件も適用したことはございません。それ以外に、現在は渡航の自由化に伴いまして、非常に多くの方が海外に出られる。その中にはいろいろな方がおりまして、この委員会でも御説明しましたように、カリフォルニア州で、表彰状をあげるからということで邦人から金を巻き上げた。それで、そこにおられる日本人全体の利益、信用、並びにその人がその国において犯罪行為になりまして、いろいろトラブルが起こるということになりますれば、その人のためにも一応帰っていただいたほうがいい。それからまた、二、三年前ですが、ブラジルにおいて爆弾を領事館に投げつけるということで、ブラジル政府から国外追放になったわけですけれども、その場合でも、一回国外追放になると今度はブラジルに行けなくなるというような場合に、事前に説得して、どうしても聞かない場合には、旅券を返納してもらいまして、あらためて国籍証明書——今度新しい法律になりますと、帰国のための渡航書というものですが、それで帰っていただくということが、一般在留邦人並びに御本人のためにもなるということで設けたわけです。もちろん運用につきましては十分注意して、単に現地の領事並びに総領事だけでなく、必ず本省に経伺しまして、慎重に取り扱っていきたいと考えております。
  141. 穗積七郎

    穗積委員 十三条並びに十九条の国益公安、信用、利益の政治的判断というものは、これは外務大臣法務大臣と協議になっておりますね。そうであるならば、特に罰則規定でありますから、法務大臣の御意見をわれわれとしては無視するわけにいかない。そういう意味で法務大臣お尋ねをいたします。外務大臣お尋ねするのではありません。法務大臣お尋ねするのです。  そこで、公安国益条項によって旅行の中止、旅券の返納はできるはずです。これは御存じでございますか。
  142. 中川進

    ○中川(進)政府委員 その点は承知しております。
  143. 穗積七郎

    穗積委員 そうであるならお尋ねいたします。公安国益と信用、利益とは、どの部分が重なって、どの部分が違うのですか。大臣お尋ねいたします。これは重要な点です。公安国益が狭いのか広いのか、それとも信用、利益が広いのか狭いのか。この四つを二つずつ並べて追加しなければならぬところの必要性はどこにあるのか。違うなら違う、こういうわけで必要だ——あなたに聞いているんじゃない。大臣です。これは罰則の問題で、刑罰の問題ですから、法務大臣お尋ねいたします。
  144. 西郷吉之助

    ○西郷国務大臣 いまのお尋ねの件につきましては、罰則はございません。
  145. 穗積七郎

    穗積委員 これは中止、返納がありますよ、行政罰があるのですから。ちゃんと行政措置がとれるじゃないか。旅行の中止と旅券の返納を強制するでしょう。国家権力でこれを執行するんでしょう。——ちょっと、外務大臣あとにしてください。法務大臣に、大事な点だから、われわれは法務省にひどい目にあっているんだから……。外交上のことはあなたにお尋ねします。
  146. 愛知揆一

    愛知国務大臣 第十九条は、法律文としましても、外務大臣または領事官というのが主体でございまして、そして第五号が「一般旅券の名義人の渡航先における滞在が当該渡航先における日本国民の一般的な信用又は利益を著しく害しているためその渡航を中止させて帰国させる必要があると認められる場合」こういうわけでございますから、これはいわゆる刑事罰というものではなくて、行政上の措置であり、その場合に「外務大臣又は領事官は、」「期限を付けて、旅券の返納を命ずることができる。」こうなっておるわけでございます。したがいまして、私及び領事官は、当該渡航先において日本国民の一般的な信用または利益——これは一般的な借用または利益、いずれにプライオリティーがあるというものではございません。一般的な信用または利益を著しく害しているために帰国させる必要があると認められる場合、こういうふうにお読みをいただきたいと存じます。
  147. 穗積七郎

    穗積委員 では、国益公安と信用、利益を法務省はどう解釈しておるのですか、聞かしてください。これは一体どう違うのですか。
  148. 山下重明

    ○山下政府委員 在外において事件が起こった場合には、外務省が、これは国益公安の条項のもとに問題が生じているというふうに判断するか、もしくはそうじゃなくて、これは日本人の一般の信用の点にかかっているということで、もし十三条一項に該当するということになれば、法務省と協議するということになります。
  149. 穗積七郎

    穗積委員 これはどうですか、中川さん。十九条の第二項ですね。これは十三条二項の共同協議の条項が準用されているのじゃないですか。
  150. 中川進

    ○中川(進)政府委員 「第十三条第二項」と書いてございますから、準用されております。
  151. 穗積七郎

    穗積委員 そうすると、それは協議事項じゃないですか。
  152. 中川進

    ○中川(進)政府委員 協議事項だと思います。
  153. 穗積七郎

    穗積委員 大臣、伺いますけれども、準用されるんだ……。
  154. 愛知揆一

    愛知国務大臣 いまお尋ねの五号は準用されないですよ、十九条の本文が生きますから。
  155. 穗積七郎

    穗積委員 五号の認定をするときはと書いてありますが、これは違いますか、法務省。これは関係ない。
  156. 西郷吉之助

    ○西郷国務大臣 その項は関係ございません。
  157. 穗積七郎

    穗積委員 それでは念のために伺いますが、法務省でも外務省でもけっこうですが、公安国益と、国民の信用、利益とどう違いますか。公安国益で包括しておるんじゃないでしょうか。
  158. 愛知揆一

    愛知国務大臣 いや、そうじゃない。御意見は別といたしまして、これは法律の構成あるいは意味するところをわれわれの気持ちを申し上げますと、十三条一項五号と二項は、先ほども申しておりますように 「著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する」ということでございまして、これはたとえば——そういうことを申しますとまた議論がずいぶん長くなるかと思いますけれども、たとえば間接侵略の謀議に加担するなどという場合も、あるいは観念的には考えられるかもしれない、そういうふうな問題じゃないかと私は思います。  それから十九条のほうは、旅券の返納あるいは帰国させる必要が認められるような場合でございまして、強制帰還とでも申しましょうか、これはたとえば旅行先におきまして破廉恥罪をやったとか強盗をやったとかということが、一般的に国民の信用を害するものである。また、利益を害するということは、詐欺、横領を働いたというようなことも入るかと思いますが、そういう場合を十九条の第五号は規定したものである、かように御理解を願いたいと存じます。
  159. 穗積七郎

    穗積委員 それでは具体的にお尋ねいたしますが、私行上非道徳的な破廉恥罪といいますか、そういうものがこの信用、利益というものの主要なものですか。
  160. 愛知揆一

    愛知国務大臣 私はそういうつもりで立案をいたしました。
  161. 穗積七郎

    穗積委員 それでは具体的にお尋ねいたしましょう。たとえば外国へ出まして、内政問題ではない、近隣の諸国に関係のある外交政策について、これは誤りである、日本政府の政策は誤りであるから、われわれとしてはこれを批判し、是正したいと思うという立場に立って、それで共同声明をある国の代表と書く、これは十三条、十九条との関連でひっかかりますか。
  162. 愛知揆一

    愛知国務大臣 それは、いまおあげになった例が適当であるかどうかはわかりませんけれども、私のことばで申し上げますならば、たとえば、先ほどの間接侵略といいますか、日本国の体制に対して反逆を企てるというようなことについて、共同謀議や何かを外国でやるというようなことは、考えようによりましては、観念的には十三条一項五号に該当するものではないかと私は考えます。そういう種類のものは第十九条の一項一号になるわけです。「一般旅券の名義人が第十三条第一項各号の一に該当する者であることが、当該一般旅券の交付の後に判明した場合」、これは本来なら一般旅券を政府としては交付することを拒否すべきものであったのが、その後、渡航先においてそういう事実が具体的に判明した場合、これはいまあなたのおあげになったものがぴったり適例であるかどうかわかりませんが、要するに、そういったような、公安上著しく害があると認められた場合、これはこの一号でございまして、五号の場合はむしろ破廉恥罪といったようなものが該当すると思います。
  163. 穗積七郎

    穗積委員 そうすると、自国または日本友好関係にある国の外交政策——内政ではありません。外交政策、それから影響を受けるわが国の国民並びに訪問先の国民との間で、この政策に不賛成の態度をとって、そうしてこれを共同声明に書くということは、十三条または十九条、どこにも抵触をいたしませんね。政治的な発言の自由は……。
  164. 愛知揆一

    愛知国務大臣 作文の上で、紙にそういうことを書いたくらいのことでは、私は、「著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行う虞があると認める」に大体足りないかと思います。
  165. 穗積七郎

    穗積委員 向こうの国民大衆と訪問をした者との間で大会を開いた。大会の決議は当然自由ですね。それから声明も自由ですね。それから一つの政策を批判する共同の集会を開いた。これも言論の自由、思想の自由をもって取り扱うべきものであって、十三条または十九条に関連をしない、こういうことでよろしゅうございますね。
  166. 愛知揆一

    愛知国務大臣 私は、政府立場におきまして、あらかじめ、現在日本国と友好関係にある国との間柄に対して、大会を開いてそれに対して批判とか非難とかをするようなことを、仮定的にせよ前提としてお尋ねがあって、それに対して私が、それは何ともないことと思いますとは申し上げられません。
  167. 穗積七郎

    穗積委員 それは内容によりけりです。
  168. 愛知揆一

    愛知国務大臣 もちろんそうでございます。
  169. 穗積七郎

    穗積委員 その場合に、同じ内容のものであっても、政治家ならいいけれども、経済人ならいけない、学者ならいけない、あるいは労働者ならいけないというような、人による区別をいたしますか、いたしませんか、職業その他による。
  170. 愛知揆一

    愛知国務大臣 私は、いま申しましたことで、ひとつ政治的に御判定をいただきたいと思います。これを一々コンピューターにかけましたように、この場合はどう、この場合はどう、こういうことを論ずるのにはなじまない。もう日本も大国でございますから、大国の衆議院外務委員会における論議といたしましては、私は、これ以上はなじまないのではなかろうか、私はかように考えます。
  171. 穗積七郎

    穗積委員 それでは外務省でも法務省でもけっこうです。両方からならなおけっこうですが、お尋ねいたします。  先ほど言った、マルチというのをパスポートから除外した四カ国、これは過去に正式または横すべり等で訪問をして、そしていろいろな活動があったと思うのです。あるいは意思表示があったと思う。それに対して、いままでの掌握しておられる実例の中で、これははなはだしく好ましくない、あるいはいまの十三条または十九条の国益公安、国民の信用、利益に反するようにお考えになった例がありますか、ありませんか。
  172. 山下重明

    ○山下政府委員 いままではございません。
  173. 穗積七郎

    穗積委員 それでは今度は法務大臣に……。先ほど出ていかれて、途中で横へそれましたが、罰則規定の運営について、特に法務大臣お尋ねをいたしたい。  たとえば、こういう問題があると思うのです。いま問題になっておりますように、緊急にして必要やむを得ざる理由で、すでにマルチまたはシングルの。パスポートを持って行っておったが、その途中、旅行先で、さらに他の未承認国へ行かなければならなくなったというときに、その許可を求めた。求めたけれども、その審査があれして間に合わないということで、どうしてもやむを得ざる事情で、許可を得る前に入ったということに対して、情状酌量はありますか、ありませんか。とにかく、まず罰金から伺いましょう。その場合には、理由のいかんを問わず、入ったということの事実によって、この二十三条の罰金の免除はありませんか。
  174. 川井英良

    ○川井政府委員 緊急性のいかんによると思います。内容のいかんによると思います。犯罪でございますから、違法性がなければ犯罪は成立いたしません。緊急の内容によりまして、緊急性が著しく強いというような場合には、違法性を欠きますために、犯罪は成立しないと思います。しかしながら、緊急の内容が、法律上必ずしも著しくないということで、違法性を欠かない、違法性を阻却しないということでありますれば、犯罪は成立する、法律的にはこういうことになると思います。
  175. 穗積七郎

    穗積委員 そういたしますと、犯意もなければ違法性を害するような事情もなくて、やむを得ざる緊急の事情でやったというような場合には、罰金刑も免除する場合もあり得る、こういうことですか。
  176. 川井英良

    ○川井政府委員 その緊急性というのは、いわゆる法律的に刑法上にいう緊急性、緊急避難の要件に該当するような、そういうふうな緊急性である場合に限って、犯罪の成立を阻却する、こういうふうに説明をしておるわけでございます。
  177. 穗積七郎

    穗積委員 その場合、罰金刑を受けた者は、事情のいかんにかかわらず、全部次の再度旅券発行を拒否されますか。必ずしもそうでない場合もありますか。
  178. 川井英良

    ○川井政府委員 新しくできたこの罰金刑の条文によりまして処罰を受けたということになりますれば、次の機会にはそれは支障を生ずると思います。
  179. 穗積七郎

    穗積委員 外務省のほうはどうですか。
  180. 山下重明

    ○山下政府委員 出す場合もございます。
  181. 穗積七郎

    穗積委員 それから、もう一つお尋ねしますが、事情によって罰金を科した、しかし、旅券の拒否はしないという場合があるというお話ですが、それで旅券を拒否した場合に、その者は、刑法上からいきますと、五カ年間は再度申請があっても出ないということになるが、これが事情によっては、過去の違反のときの事情と、それからさらに今度の訪問の目的並びに周囲の事情によって、一回目は拒否されたが、五年に至らざる以前に再度二回目は許可するという場合もあり得ますかどうか。
  182. 山下重明

    ○山下政府委員 ございます。
  183. 穗積七郎

    穗積委員 法務省、いまの二つのことについては間違いありませんかどうか。
  184. 川井英良

    ○川井政府委員 法務省も同意見でございます。
  185. 穗積七郎

    穗積委員 その判定はだれがどこでいたしますか。
  186. 山下重明

    ○山下政府委員 外務大臣が、必要によっては法務省と協議して決定いたします。
  187. 穗積七郎

    穗積委員 外務大臣、それでよろしゅうございますね。
  188. 愛知揆一

    愛知国務大臣 それでいいと思います。
  189. 北澤直吉

    北澤委員長 ちょっと速記をとめて。     〔速記中止〕
  190. 北澤直吉

    北澤委員長 速記を始めて。  それでは穗積君、質問を継続してください。
  191. 穗積七郎

    穗積委員 それでは続いてお尋ねしますが、旅券法の現行法もそうですし、新法もそうですが、渡航したい者は、旅券申請の手続をとれと書いてある。それに対して必要な文書もちゃんと列挙してある。ところが、現行法は、事前審査と称して、先ほどお話のあった特に未承認四カ国については、共産圏渡航趣意書というものを出させた。これは前の参考人の陳述のときにも、もうこれは法律上何の根拠もないものであって、すべて申請者がこれを拒否すれば、それを理由にして申請書受理を政府が断わるわけにはいかない、断わればこれは違法行為である、こういうことが、政府・自民党の信頼してお呼びになった田上教授も、そういう御見解であって、したがって、これは廃止すべきであるというのが、もう全参考人の共通した意見であったわけです。参考人並びにわれわれが意見が一致しただけではなくて、これは道理からいいましても、法治国である以上は、これは不当な処理であって、これに対して応諾するかしないかは申請者の自由である、こういうことが考えられるわけであります。おそらくは政府の賢明な皆さんのことだから、法律上はそのたてまえであるべきであるとお考えだと思います。私は、この際、新法は自由化を促進し、手続の簡便、簡素化をやるんだというたてまえで、その提案理由説明が行なわれておるわけでありますから、これを機会にして、こういう事前審査制度というものは廃止されて、必要文書は法に従って拒否せずに全部初めから出しますから、最初から渡航申請書を受理していただきたい。政府にこれを何も無理にお願いするのではない、当然なこととして、その制度に戻るべきである、こう考えますが、大臣に御所見があればお答えいただきたい。
  192. 愛知揆一

    愛知国務大臣 これも実情を私以上に御存じの方にお答えするのは、たいへん恐縮なんですけれども、私もよく調べてみまして、十五通の趣意書というものが現在実際上要求されていることは御指摘のとおりです。これは悪いことだと思います。十分簡素化いたします。
  193. 山下重明

    ○山下政府委員 補足説明いたします。  これは決して事前審査という意味ではなくて、どこまでも御本人の便宜のためにやっておるのでありまして、実際に申請書及びその法律に書いてある書類をとりまして、審査いたします場合に、非常にいろいろなところを審査しなければならない。それを順繰りに審査が済むごとに回していくということになれば、たいへん時間がかかる。そこで早く出していただくという便宜のことから起こったもので、これは今回の改正により、なるたけ便宜的に省略していくという方針で、承認しているソ連等は廃止するつもりにしております。それから承認してない共産圏の場合も、なるたけ部数を少なくし、早くし、もちろん要望される方につきましては、申請書と同時に出していただいてもけっこうな問題です。ただ、実際にこれが法律上何ら根拠がないということはありませんで、これは参考書類、要するに、審査するときの必要な書類という意味で、ただ、それを事前に早目に出していただいて審議を進めるということで行なった便宜上の習慣でございます。
  194. 穗積七郎

    穗積委員 それは、参考資料というものを申請者が応諾するならば、やられたほうが便宜がいいでしょう。それは私は合意の上でやるなら認めます。だがしかし、その審査が済まなければ、申請者が申請書を出しても受理しないということは、これは不当な処置ではございませんか。当然受けつけるべきだと思うのだが、それと同時にこれが参考のために必要だからひとつ出してくれぬか、そのほうがお互いに便宜であるし、審議が促進される、こういう御意見であるならば、こちらが必要と認めれば、それに協力してすぐ一緒に出します。拒否しません。ですから、いずれにしても、他の国に対しては、つまり承認国に対しての渡航の場合は、直ちに申請書を受理する。未承認社会主義国に対しては事前審査と称することをやる。これは不当な差別である。根拠なき差別であると思うから、これは廃止していただきたい。そしてすぐ受理をしていただきたい。このことを強く要望いたしますが、お答えいただきたい。
  195. 山下重明

    ○山下政府委員 もともと申請者のための便宜、それから役所の事務処理の便宜を考えたことで、ぜひとも同時に出すようにしてもらいたいと言われる方には受けつけるようにいたします。
  196. 穗積七郎

    穗積委員 わかりました。  第八条の一項三号についてお尋ねいたします。これは渡航先追加の場合に、特に未承認国へ入る場合に、必要な書類を提出せしめることができると書いてある。これは一体どういう意味でございましょうか。どういう内容のものであるか。どういう理由によってこういうものを要求されようとするのか。これも不当な差別待遇ではないかと思う。
  197. 山下重明

    ○山下政府委員 これは渡航先いかんによりまして、いろいろ先方の領事館で要求される書類でございまして、そういう場合には、こちらでも、この人がたとえば労働に行くという場合には、旅券の目的に働きに行くんだということを書いていただきまして、その参考資料として、ビザの写しを出していただくというようなことであります。
  198. 穗積七郎

    穗積委員 政治的な意味を持っていますか。
  199. 山下重明

    ○山下政府委員 政治的な意味はございません。
  200. 穗積七郎

    穗積委員 それから審査をする場合に、渡航先における日程表ですね。向こうへ行って滞在中の日程表を要求される事実がいままであった。  それからもう一つ、これはわれわれ経験したことですよ。政治的活動をしないという誓約書を要求されたことがある。それから自国並びに友好国の政策批判をしないという誓約書または覚え書き、保証書を要求された事実もあります。これははなはだしく政治的悪意を持つものであるし、不当なものであるし、この法律を見れば、申請手続については明記してあるわけですね。日程表というようなものは、参考資料として出したほうが便宜だ、つまり、そういうことで、本人も出す可能性があるものなら、そして合意に達すればいいので、行ってからのことなんかわかるわけないのです。たとえば、いま申請中の中国についても、そういう不当な要求をされておるわけです。これは慣例上、部長御存じないかもしれないから申し上げておきますが、中国でたとえば招待がある。これは朝鮮の場合でもその他の国でも、四つの共産圏国同様でございますが、参りますと、まずお客さんの意向を聞く。向こうの事情を話す。両方で話をして合意に達して、はじめて日程表というものができるわけです。お客さんだけがかってに希望は述べることはできるけれども、日程表というものをこちらから出すことができるはずはない。渡航目的の中に明記してあるわけです。これも不当な要求だと私は思うのです。しかも、それらの日程表等の要求は、法律上どこにもないことでありますから、これもひとつ廃止をしていただきたい。
  201. 山下重明

    ○山下政府委員 もともと日程表をとるということになりましたのは、外貨の関係で十分金があるかどうかということでとるようになったわけで、外貨はだんだん豊かになってきたので、だんだん廃止する方向にいっておりますので、なるたけ早い機会にそういうものなしで行けるようにしたいと考えております。  それから、政治的な活動をしないようにという誓約書をとったということですが、旅券については、そういうものをとったことがなくて、むしろ入国の場合にそういう条件がついたということじゃないかと思います。
  202. 穗積七郎

    穗積委員 林さん、御記憶ございませんか。あなたが審査課長をしておられるときに……。
  203. 林祐一

    ○林説明員 外国人が日本入国する場合におきましては、法務省ではそういった例がございますが、外務省においては旅券を発給するに際しては、そういったことはございません。
  204. 穗積七郎

    穗積委員 法務省外務省日本政府だ。われわれ人民は日本政府と対して話をしておる。この法律の施行は外務省だけで執行するんじゃない。だから聞いておるのです。
  205. 山下重明

    ○山下政府委員 法務省外務省と言われますけれども、旅券をお出しするときに、そういう条件をつけたことはございません。ただし、入国のときにそういう条件がついたということは、要するに、入国許可を出すとき……。
  206. 穗積七郎

    穗積委員 それは違うのです。あなたはまだそういう奥の院の話をお聞きにならぬから御存じないだけで、あなたが、私が知っている限りではそういう記憶はないと言うならいいけれども、ないと断言されたら、あなたは私どもにうそを言うことになります。私自身がそれを要求されたことがあるのですから。だから、それはないと言い切ることは間違っている。やらぬということですから、私はそのことを追及いたしませんが、今後はこういう不当なものはおやめをいただきたい、よろしゅうございますね。御答弁ください。
  207. 山下重明

    ○山下政府委員 そういうことは今後もやらないつもりであります。
  208. 穗積七郎

    穗積委員 続いてお尋ねいたしますが、未承認国に三カ月以上滞在している者は、十六条によると、同様に届け出義務がありますね。この前ちょっとどなたかがお尋ねになったようだが、ちょっと不正確でわからなかったものだから、事務的な質問ですが、大事なことで、これも旅券法違反になりますから、それを理由にして再発行を拒否されるというようなことでは困るので、大事なことですから、念のためお尋ねするわけです。
  209. 山下重明

    ○山下政府委員 これはこの前、私が、未承認国の場合には、必要な場合には、中共の場合には香港、東独の場合には西独というようなことを申し上げました。これはその後も検討しましたけれども、実際には現在各国で、領事館でやっておるので、それを引き継いで法律の根拠のもとにやるということで、すぐには未承認国で届け出を出してもらう必要性はないというような結論になって、将来必要がある場合には香港の領事館に出してくれというようなことがあるかもしれませんけれども、さしあたりは、未承認国では行かれる方には届け出を要求しないというつもりであります。
  210. 穗積七郎

    穗積委員 これは除外しますね。それで間違いなければこの点は了解いたしましょう。  それから次に……。
  211. 北澤直吉

    北澤委員長 穗積君に申し上げますが、大臣の時間もありますので、申しわけないのですが、この辺でひとつ……。  ちょっと速記をとめて。     〔速記中止〕
  212. 北澤直吉

    北澤委員長 速記を始めて。
  213. 穗積七郎

    穗積委員 それからちょっとお尋ねいたしますが、北京の学術について一その目的によってこれを拒否しないということをあなたはおっしゃいましたけれども、例のシンポジウム、これに対してはどういうお考えを持っておられますか。
  214. 山下重明

    ○山下政府委員 中共関係で去年、おととし、それからことしの半年、旅券をお断わりしたケースはございませんけれども、新たな今後の問題としては、具体的な問題が出なければ最終的なことを申し上げるわけにはまいりません。
  215. 穗積七郎

    穗積委員 それは検討する可能性があるということですか、どうですか。
  216. 山下重明

    ○山下政府委員 そういうことでございます。
  217. 穗積七郎

    穗積委員 それからあと審査について。さきに私が言いましたように、制限は、地域の差別、制限がある。第二は、旅行目的の差別と制限がある。第三は、個人の場合ですけれども、個人についての差別、制限の基準というものはどういうことになっておりますか。これは内規でもあるいは実例でもけっこうですが……。
  218. 山下重明

    ○山下政府委員 個人に対する制限はございません。
  219. 穗積七郎

    穗積委員 取り扱い上全然ありませんか。これは出国の場合でも入国の場合でも、いままで幾たびかわれわれ経験しているんですよ。目的は同じであっても、ある者はいけない。たとえば公務員は許可が要るとか、そういうことならわかりますよ。それ以外のことで差別されたことがあるのです。入国についてもあった。つまり、国または地域の差別、それから旅行の目的の差別、個人による差別。
  220. 山下重明

    ○山下政府委員 先ほども申し上げましたように、個人だけでこれは差別しているということはないので、そのときのいろいろな情勢を全部総合的にあれしまして、ある人は同じ目的でも許可に、ある人は旅券をもらえなかったということが出るのは、総合的な結果でそういうことが出る。
  221. 穗積七郎

    穗積委員 最後に大臣お尋ねいたします。  今度のこの制度によりますと、外務大臣の権限というものが非常に拡大強化されておるわけですね。これと関連している出入国管理法においては、法務大臣の権限というものが非常に強化拡大されている。しかもこの五条、二十二条等において外務大臣に包括的な委任が行なわれておるわけです。これは先ほどから相互の意見の一致しております渡航の自由の基本的人権、あるいは国際的な渡航の自由化、あるいは今度の法律提案のもう一つ目的である事務の簡素化あるいは敏速化、これから見まして、これらはやはり非常に基本的人権に関連することですから、すべて列挙主義でなければいけないのが私は原則だと思う。それが包括的に外務大臣の権限にゆだねられておるということになると、外務大臣の思想性や良識いかんによって非常な影響を受けるわけですね。その点についての大臣のお考え、あるいはこの法律運用にあたっての態度についてお尋ねをいたします。これが一点。  それから十四条で、旅券の申請、発給を拒否した場合には文書をもってこれを回答しなければならないとある。私の経験では、寡聞にしていまだかつて文書をもって回答が行なわれた例はないわけです。これは法律の命ずるところでもありますから、われわれから見れば、申請者から見れば、要求する当然な権利ですね。そういうことでありますが、これに対してこれからこれを励行されますかどうか、その点をひとつ伺っておきたいと思います。
  222. 愛知揆一

    愛知国務大臣 私は、今回の改正案によって外務大臣の権限が不当に拡張されたとは必ずしも思いません。しかし、先ほど来申しておりますように、特に外務大臣の判断によるところにつきましては、十分に事柄の重大性を考え、かつ旅券の本来あるべき目的に従って、戒慎にも戒慎をして運用いたしたいと考えます。  それから書類の問題等につきましては、必ずしもこれまた従来おろそかにしておったつもりはございませんけれども、御指摘のような御批判もありますから、十分これは適正に運用をいたしたいと思います。
  223. 北澤直吉

    北澤委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。     —————————————
  224. 北澤直吉

    北澤委員長 この際、御報告申し上げます。  七月四日の外務委員会理事懇談会において、政府側から、旅券法改正案は、いずれの地域に対しても渡航の制限をする目的に出たものでないとの説明があり、なお、いずれの地域に対する渡航の自由についても善意をもって措置するなどの発言があり、与野党理事がこれを確認いたしました。  以上、御報告申し上げます。     —————————————
  225. 北澤直吉

    北澤委員長 これより討論に入ります。  討論の申し出がありますので、これを許します。田中榮一君。
  226. 田中榮一

    田中(榮)委員 私は、自由民主党を代表して、旅券法の一部を改正する法律案について賛成の意見を述べさせていただきます。  本案を通じて見ますと、本案には従来の旅券制度に比べ格段の前進が見られます。すなわち、まず第一に、五年間数次往復用旅券をとれば、その間ほとんどすべての国へ何どき行っても差しつかえないことになっており、最近海外渡航者が急激に増加した現状にかんがみ、海外渡航しようとする者の便宜はこれにしくものはありません。第二に、手数料は約倍となりますが、これによって将来の旅券発行事務について合理化され、機械化される結果、従来より迅速に旅券を交付できることになります。これらは現在諸外国で行なわれています旅券制度並びに国際慣行にも近いものであります。  さらに、政府はいずれの地域に対しても渡航を制限するものではないとの言明を得ておりますので、本案に対して賛成するものであります。
  227. 北澤直吉

    北澤委員長 穗積七郎君。
  228. 穗積七郎

    穗積委員 私は、質問の中でも申しましたが、一部は前進、最近の状況にマッチしようとする改良の部分も認められますけれども、以下申しますような諸点において、われわれは原則的にも、また個別の取り扱いから見ましても、やはり時代に逆行する、あるいは大きな政治的偏向というものが行なわれておるということをあげまして、社会党を代表して、本案には強く反対をする意思を表明いたしたいと思います。  再々質問の中でも出ましたように、わが党の各委員が主張いたしましたように、海外渡航の権利というものは、近代憲法あるいは国際法、国連憲章等におきましても、自然権に近い基本的人権として確立されたところであります。したがいまして、旅券の発行というものにいろいろな制限または禁止条項をつけ、あるいは政治的な理由を付して、そして不許可にするというような性質のことではなくて、日本国民であることを証明する国籍証明書である、同時に渡航者自身の安全を保障するための、ある意味では相手国に対する依頼状でもある、この性質を出るものであってはならぬと思います。したがいまして、本来いえば、届け出をもって直ちにこれを許可する、いわば届け出事項として取り扱うべきことであるとすらわれわれには思われる。ただ、特殊の刑事犯罪その他の個人の保護の点から見まして、不適当なものに対する除外例はありましょう。これは政治的偏向を加えてはいけない。ところが、今度の新法におきましては大きな偏向があるわけです。すなわち、承認国に対しては、先ほど与党の委員が言われたように、数次にわたって五カ年間、いずれの地域に出てもいいという旅券に改正されておるにかかわらず、未承認国、特に朝鮮民主主義人民共和国、中華人民共和国、ベトナム民主共和国、ドイツ民主主義共和国、これらの国に対しましては、非常なへんぱな差別と制限が強化されておるとすらいわなければなりません。そして旅券の形式も一回一回の渡航に限って許可をする。しかも特に十三条というのは、先ほど質問の中でも申しましたように、国益公安というばく然としたものであって、しかもこれが時には時の政府の党利党益に合わせて国益と詐称するような態度をもってこれに制限を加え、あるいは拒否をする。そして今度の法案におきましては、十九条に、さらに日本国民一般の信用と利益を阻害する等々の条項をつけまして、そしてこれを拒否する。しかも従来からいきますと、これらの国に対しては制限または禁止をされておりましたし、しかも国民的な常識から見れば、国益に合致すると思われる平和の追求、友好の発展、相互貿易の拡大あるいは文化技術の交流等の国益のためになる旅行目的をもって渡航せんとする者に対しましても、これに対して非常な制限や禁止が行なわれてきた、こういう状態であります。特に朝鮮民主主義人民共和国に対しましては、国会議員数件に対して平壌行きのパスポートが出た事実はありますけれども、それ以外は全部禁止であります。ゼロでございます。このようなことが行なわれておりましたのは、分裂政権の他のほうとの国交があるということがおもなる理由であって、それらの国交回復国からの不当な外交干渉に屈して、この基本的人権が禁止または制限をされておったのであります。したがいまして、やむを得ざる便法として、これは政府立場から見ても、渡航者の立場から見ましても、全く便法として行なわれましたのが、いわゆる渡航先記載のない横すべりの方法であった。ところが、従来はこれに罰則がなかったのですが、今度は二十三条におきまして罰金のみならず、再度の旅券発行を拒否することができるというきびしい条項になっております。もしここで政府が反共あるいは敵視政策をもってこれらの国に対する渡航を抑止または禁止するといたしますならば、この罰則規定によって便法は完全に遮断をされまして、両国関係というものは鎖国状態になるわけでございましょう。こういう危険があります。いままでの審議の中で、外務大臣を先頭として法務大臣からも、これらの取り扱い方については、先ほど委員長が読まれましたように、すべての地域に対して渡航自由を阻害しないように措置をしたいという御意思が表明されました。これによってかすかなる可能性をわれわれは信じたいと思います。しかしながら、今後の情勢いかんによりましては、この法律のたてまえからいきますならば、これが悪用されまして、罰則規定によって鎖国状態に引き込まれる危険もある、こういうことであります。  さらに私どもが非常にけげんに感じますのは、いままで渡航先の国によりまして、同じ渡航目的でありながら、ある国には寛大、ある国にはきびしい、こういう政治的な判断が行なわれてまいりましたことは、われわれにとっても忍びがたい不平等な制限であるとともに、相手国に対してもこれは侮辱であり、あるいは敵視政策であると見られても差しつかえはない。こういう制度が残りますことをわれわれは非常に遺憾に思うのであります。  多くを申しませんが、こういうことによって、私どもは、マルチのパスポートというものを未回復国四カ国に対しましても無差別平等に施行することを強く要望、要求いたしまして、私の反対の理由といたしたいと思います。
  229. 北澤直吉

    北澤委員長 曽祢益君。
  230. 曾禰益

    ○曽祢委員 私は、この法案の骨子が、世界の大勢であり、また日本の旅券発給事務の簡素化からいっても必要なものであり、進歩的なものである、こういうことが第一の理由で、この法案に賛成するものであります。  また、これに関連いたしまして、国益公安条項が残っているからいかぬという議論もありますけれども、私は、現在の世界の大勢が、必ずしもすべての国において渡航の自由が行なわれていない、あるいは分裂国家等の実情を踏まえるならば、このような条項が現に存するのは、各国にある事例から見て、これはやむを得ない。問題はそれが恣意的な判断によって行なわれてはならない。こういうことに尽きるのであって、これは本案に反対する理由にならないと思います。  第二の問題は、やはりある種の国に対しては実際上渡航をさせない、国会議員以外に朝鮮民主主義人民共和国に対する渡航は事実できないようになっている。それに対して今度のような問題が起こって、いわゆる渡航先以外のところに、記載以外のところに行った者に対する罰則問題がある。これはけしからぬじゃないかという議論がございました。しかし、それは問題の根本じゃない。いかなる国に対しても、いかなる地域に対しても、日本の自主的判断で、これは必要だということに対しては原則として旅券を出すべきである。このほうが私は基本ではないかと思うのであります。いま委員長が読み上げられた外務理事会の懇談会における確認事項といいますか、各理事が確認いたしました、政府としてはいずれの地域であっても本法は渡航を制限するという趣旨のものではないということが第一項だと思います。  また第二項は、むしろ積極的にいずれの地域に対しても渡航の自由をやらせるのだということが目的で、それに善意をもって対処するという、こういう表明があり、それを確認したわけであります。  なおかつ、私自身本委員会におきましてこういう質問をして、大臣からこういう応答があったわけであります。「私が外務大臣に伺いたいのは、この北朝鮮に対する旅行についても、私どもの了解するところでは、これはあくまでも日本の独自の判断でやることである。」こういうことを私が言いましたのに対しまして、外務大臣は「未承認国、中でも具体的に拾い上げてまいりますと、結局北朝鮮扱い方が一審御心配の点ではなかろうかと思います。」少し飛ばします。「未承認国に対しましても日本の自主的な判断によって考慮をしていくべきものである。」「すべて日本の自主的な判断による処理をいたす、こういうことにいたしたいと思っております。」こういうふうに述べられております。さらに同じ北朝鮮の問題でありますが、私は「民間人が行くにしても、はっきりスポーツの目的、あるいは貿易の具体的な話し合い目的理由のある者はどんどん外務省に申請する。外務省法務省がもうタブーのような態度をとっているから、横すべりが起こるのじゃないでしょうか。そうでなくて、そういうような理由のある者については自主的な判断で善処する。」こういうことが必要ではないかということを申し上げまして、さらに「ケース・バイ・ケースということになりましょう。そういう未承認国、特に共産諸国、なかんずく朝鮮のような場合、従来ほとんど出しておらない。国会議員、それらの場合でも一回限りの旅券だけれども理由のある者は出していくのだ。こういう意味で、私の申し上げたことにどういう見解を持たれるか、ここにはっきりとひとつ御答弁を願いたいと思います。」この質問に対して愛知国務大臣は「渡航は私も原則的に全然同じような考え方のつもりでございます。」「私は、日本の自主的の立場に立って善処し得る、こういう心証を私としては持っておるわけでございます。そういうつもりあるいは気持ちで適正な運営に当たってまいりたい、かように考えております。」こういうふうに述べておられます。最後に「くどいようですけれども、私がいま申し上げた例もございましたが、そういう私の発言全体を含んで善処し得る、こういうお答えであるかどうか。もう一ぺんここで明らかにしていただきたい。」これに対して愛知国務大臣は「そのとおりと申し上げて間違いないと思います。十分私は善処してまいりたいと思います。」これは七月三日の本委員会の正式な記録でございます。  私は、以上の記録に徴し、私の一番問題としておりましたこの未承認国への渡航の問題について、政府の善処ということの、信頼するに足る御答弁があったと、この了解の上に立って、本案に対して賛成するものであります。
  231. 北澤直吉

  232. 樋上新一

    樋上委員 私は、旅券法の一部を改正する法律案につきましては、公明党を代表して、遺憾ながら反対の意見を表明するものであります。  その理由を申し述べますならば、すでに質疑の経過においても明らかにされましたとおり、まず第一に、当然改正さるべき十三条一項五号がそのまま残されている点であります。しかもこの規定は未承認国への渡航についてのみ発動され、主として朝鮮民主主義人民共和国行きの旅券が国益公安を害するとして、その対象とされているのであります。このような不当な措置の背景には、韓国の、内政干渉ともいうべき不法なる言動をおそれての措置であることは、政府答弁でも明らかであります。われわれとしては、このようなことのために、国民の基本的権利である渡航の自由を制限する規定をそのままにしたこの改正案に賛意を表することはとうていできないのであります。  第二点として特に注目すべきは、新たに第二十三条二項とし、いわゆる横すべりに対する罰則が加わったことであります。  政府は、かねてより未承認国との間にも、政経分離の原則に基づいて、貿易を行なうことを認めております。北鮮、中国、北ベトナム等と貿易を行なう業者は、困難な条件のもとに、常に政府のこの政策に沿って国の利益を考え、貿易振興のために、努力を積み重ねているのであります。しかるに、今回、発給制限の条項はそのままにしておきながら、旅券に記載された渡航先以外の地域への渡航、いわゆる渡航先の横すべりはけしからんということで、二十三条二項として新たに罰則を設け、これに罰金を科し、さらには、十三条一項四号によって、以後旅券の発給を停止することは、国民の渡航の自由という基本的権利の侵害のみならず、経済活動をも阻害するものであって、まさに国民の生活権すら奪い去るものであります。  また、ここに見のがせないことは、法体系を整備するという名目のもとに、権力による威圧を国民に押しつけようとする意図が本法律案の行間にうかがわれることであります。私たちは、このように国民の基本的権利を不当にも制限し、国家権力の乱用とも見られる本、法律案には、断固として反対せざるを得ません。  終わりに、未承認国に対する旅券の発給制限をゆるめ、貿易等を通じて、それらの国との間に友好親善関係を促進し、相互理解を深むるは、まさに国民の声であり、主権者たる国民の意思であることを申し添えまして、私の反対芝論を終わるものであります。
  233. 北澤直吉

    北澤委員長 これにて討論は終局いたしました。  これより旅券法の一部を改正する法律案について採決いたします。  本案を原案のとおり可決するに賛成の諸君の起立を求めます。     〔賛成者起立〕
  234. 北澤直吉

    北澤委員長 起立多数。よって、本案は原案のとおり可決いたしました。(拍手)  おはかりいたします。  ただいま議決いたしました本案に対する委員会報告書の作成等につきましては、委員長に御一任を願いたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  235. 北澤直吉

    北澤委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。     —————————————     〔報告書は附録に掲載〕     —————————————
  236. 北澤直吉

    北澤委員長 次回は、来たる十一日午前十時より理事会、十時十分より委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。     午後七時四十二分散会