運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1969-07-03 第61回国会 衆議院 外務委員会 第30号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十四年七月三日(木曜日)    午前十時七分開議  出席委員    委員長 北澤 直吉君    理事 青木 正久君 理事 秋田 大助君    理事 藏内 修治君 理事 田中 榮一君    理事 山田 久就君 理事 戸叶 里子君    理事 穗積 七郎君 理事 曽祢  益君       宇都宮徳馬君    大村 襄治君       佐藤洋之助君    坂本三十次君       世耕 政隆君    永田 亮一君      橋本登美三郎君    福田 篤泰君       古内 広雄君    松田竹千代君       毛利 松平君    山下 元利君       石橋 政嗣君    木原津與志君       堂森 芳夫君    帆足  計君       松本 七郎君    山本 幸一君       渡部 一郎君  出席国務大臣         外 務 大 臣 愛知 揆一君  出席政府委員         内閣法制局第三         部長      荒井  勇君         外務大臣官房領         事移住部長   山下 重明君  委員外出席者         外務大臣官房領         事移住部旅券課         長事務取扱   林  祐一君         外務省アジア局         外務参事官   金沢 正雄君         参  考  人         (日朝貿易会専         務理事)    相川理一郎君         参  考  人         (日本航空株式         会社会長)   伍堂 輝雄君         参  考  人         (一橋大学教         授)      田上 穰治君         参  考  人         (国際貿易促進         協会事務局員) 平井 博二君     ――――――――――――― 七月三日  委員宇都宮徳馬君、小泉純也君宮澤喜一君、  勝間田清一君及び伊藤惣助丸君辞任につき、そ  の補欠として古内広雄君、大村襄治君、山下元  利君、帆足計君及び渡部一郎君が議長指名で  委員に選任された。 同日  委員大村襄治者古内広雄君、山下元利君及び  帆足計辞任につき、その補欠として小泉純也  君、宇都宮徳馬君、宮澤喜一君及び勝間田清一  君が議長指名委員に選任された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  旅券法の一部を改正する法律案内閣提出第一  〇二号)      ――――◇―――――
  2. 北澤直吉

    北澤委員長 これより会議を開きます。  旅券法の一部を改正する法律案を議題とし、審査を進めます。  本日は、本案参考人として相川理一郎君、伍堂輝雄君、田上穰治君、平井博二君の四名の御出席を願っております。ただいまお見えになっていない伍堂参考人は、後ほど御出席される予定になっております。  この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中にもかかわらず御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。今回参考人各位の御意見を承ることになりまして、本案審査に多大の参考になることを期待いたしておる次第でございます。各位におかれましては、忌憚のない御意見を御開陳くださるようお願い申し上げます。  なお、念のため申し上げますが、御発言の際はそのつど委員長の許可を得ることになっておりますので、さよう御了承願います。  議事の進め方につきましては、お一人十五分程度において順次御意見の御開陳を願い、その後委員から質疑が行なわれることになっておりますので、お答えを願いたいと存じます。  それでは、まず田上参考人からお願いいたします。田上参考人
  3. 田上穰治

    田上参考人 御下命によりまして、旅券法改正法案につきまして、簡単に意見を申し上げたいと存じます。  第一は、旅券とは何か、旅券法律学的な意味でございます。これは国家による自国民の国籍の証明ということが第一の意味でございますが、同時に、在外邦人海外にある国民に対しまして国家一般的最終的な保護責任がある。この保護をするために、必要な限度において海外渡航規制を加える、こういうものでございます。この点は、憲法第十三条に、一般的に「生命、自由及び幸福追求に判する國民の權利」これを立法その他国政の上で最大限の尊重を要するという基本的人権ということの保障からくるものでありまして、これはむろん取り締まるというふうな意味重点ではございませんが、保護するために必要な、やむを得ない限度においてはある程度制限も伴うという意味でございます。  この具体的なあらわれとしては、国民出国をするときに、現在の法令でございますと、入管令によって証印を受けることになっておりますが、旅券の上に証印を受ける。そしてこれは、海外渡航する場合、日本を出る場合に、国家がその国民に対して最終的な保護責任があるということから生ずる一つ規制でございます。  もう一つは、やや具体的になりますが、渡航先として旅券記載されている国々に対しまして、ある場合は相手国の事情によって査証を条件とすることもございますが、あるいはそうでない場合には、そのまま当然に相手国に対して入国を求め、また、その滞在中はわが国民保護してもらうということの要請を含むことでございまして、その点からも若干の必要最小限度規制国民に対して加える、こういう性格のものと理解するのでございます。  次に、当面の改正法案につきまして、国交の回復しておりまする、いわゆる承認関係の国に対する渡航が、きわめて幅広く認められるようになったという点を指摘したいのでございます。これは同時に、未承認の国への渡航制限されるという意味にも通ずるのでございますが、この制度は、改正法案におきまして、外務大臣が指定する範囲内の渡航先につきましては、法案の第三条第五世でございますが、数次往復用旅券を出すことができる。その数次往復用というのは、五年以内ということになっているようでございます。それからもう一つが、渡航先包括記載ができる地域範囲というものが外務大臣の告示によって示されることになっております。法案の五条の二という条文でございます。これらのことから、結果といたしまして、表面にはあらわれておりませんが、承認関係の国に対する渡航が従来よりも一段と容易になるということがわかるのでございます。このような改正がどうして行なわれるかという点は、私にもよくわかりませんが、外国制度を見ますと、従来の日本数次往復用旅券が二年以内というふうになっておったのは、あまりに期間が短過ぎる。アメリカにしてもカナダにしても西ドイツにいたしましても五年になっておるようでございまして、イギリスに至っては十年。また旅券渡航先記載につきましても、包括的な記載イギリスをはじめとして若干の制限はつけられるようでありますが、カナダ西ドイツ、フランスなどにおいても認められておるところであり、世界の趨勢でございまして、まことに当然だと私は考えるのでございます。  ただ、このことが、逆に未承認の国に対する渡航制限となるのではないか、少なくともそのような印象が持たれるのでございます。これはしかし、相対的な、つまり承認関係の国に対する渡航がゆるやかになったということから比較して、そのように感ぜられるのでございまして、私の法案を読みました感じでは、未承認国への渡航は従来どおり、特に法案において制限を加えておるというふうには見られないのでございます。問題は、しかしながらそれにしても、何かそのような外務省の指定する範囲というふうなことにおきまして、差別が出てくるのはどういうものかという懸念もございますが……。     〔私語する者あり〕
  4. 北澤直吉

    北澤委員長 静粛に願います。
  5. 田上穰治

    田上参考人 これは、先ほどから申しておりまする旅券制度が、憲法十三条の国民権利生命、自由その他の権利国家が尊重しなければならない、最終的に国民生命自由保護責任を負うということから、条約を結んでおる国々の場合には、比較的にその責任を果たすことが容易であり、相手国との間の条約上の権利義務がございますから、そのほうからこの保護についての裏づけができるわけでございます。また、承認関係国との友好を促進するというふうなことも、これも条約を尊重する義務というふうなことから、これは憲法九十八条第二項にございますが、当然のことでありまして、ただ、私の希望するところは、現在まだ条約を結んでいないと申しますか、いわゆる未承認国というものができるだけ近い将来に少なくなるように、すなわち、世界のほとんどの国とすみやかに国交が回復される、そうなれば、おのずからこのような差別が消滅するわけでございまして、そういうことを希望するものでございます。  次に、多少問題になるところとしまして、いわゆる横すべりに関する罰則という問題がございます。これは御承知のように、渡航先追加する義務が、従来から旅券法第八条にございますが、これについてもしこの手続をとらないで、渡航先を明確にしないで、その国、その地に参ったような場合には、結局旅券法違反ということでございますが、従来はこれについて罰則がなかった。今回の改正法案には罰則がございます。こうなりますと、先ほど申しました包括的な渡航先記載というふうに今回からなるといたしますと、未承認国渡航する場合に、渡航先がその点旅券に明示されていない。その結果、罰則が適用されるということになるわけでございます。つまり、この点が未承認国渡航することにつきまして、この改正法案が新しい制限を加えた、規制を加えたといえるところでございます。これにつきましては、しかしながら、もし罰則がないといたしますと、現行制度であると、渡航先追加する義務というのは、義務違反してもほとんど道義的なものでありまして、法律的には何らの不利益を受けないという結果になるのでございます。つまり、旅券の没収もないし、あるいは将来における旅券発給を拒否するということにもならない。したがって、これは単に法律的な義務というよりも、むしろ道義的な義務というふうになるわけでございます。しかしながら、渡航先を明確にするということは、初めに申し上げた旅券制度一つの重要なポイントでございまして、外国国民が出かけるときに、どこに行くか、あるいはいつ出かけるかということは、政府に対して明確にする義務がある。これに対して政府のほうでは、その渡航した国民について最終の保護責任を負う、こういうたてまえでございます。したがって、その意味におきまして、私は、罰則をつけることは必要であると考えております。  ただし、問題は二つございまして、その罰則程度がどういうものか。一つ考え方は、先ほどは触れませんでしたが、外国日本国民出国をする場合に、旅券がないあるいは確認を受けないような場合には――確認というか、承認を受けない場合には、一年の懲役、十万円の罰金というのを限度とする相当きびしい罰則がございます。あるいは旅券申請するときに、虚偽の事実を記載して申請したというふうな場合には、従来からこれまた一年の懲役、三万円の罰金限度とする相当きびしい制裁がございます。それとの比較において、今回の罰則は三万円となっておりますが、どうかと申しますと、私はこれ以上きびしく罰する必要はない、それは、大体の考えが一種の行政上の秩序罰秩序犯的なものと考えるのでございまして、刑事犯のごときものとはやや性格が違う。また、旅券制度の根本から申しましても、第一には、海外に出かける出国そのものについての規制というものがまず前提でございまして、その次に、いずれの国に、どこの地におもむくかということについて、政府十分連絡をし、了解を得なければならないというのが第二段として考えられるわけでございますから、そういう意味においても、この旅券証印なく、あるいは旅券なく出国する場合とは程度においてかなり違ったものであると思うのでございます。  それから第二点として、やや重要だと思いますのは、一度このような渡航先を隠して、いわゆる横すべりをいたしまして処罰された場合に、処罰となりますと、将来は旅券発給を受けることができない、こういうおそれがございます。この点は、私は当局におかれて慎重に扱うべきだと思うのでございます。海外渡航の自由というのは憲法二十二条で保障されております。むろん、これは先ほどから言っておる旅券制度によって示されるように、公共福祉に反する場合には制限を受けるということは私ども考えているのでございますが、さればといって、一度この点で渡航先追加を怠って横すべりをしたために罰せられて、罰金刑はそれほどではないと思いますが、それによって永久にその人が将来旅券発給を拒否されるということになりますと、その限りでは、いずれの国に対しても渡航できなくなる。渡航の自由がその人についてはほとんど絶対といいますか、完全に奪われるようなおそれもないわけではございません。したがって、私は、この改正法案に反対ではなくて、罰則の必要は考えるのでありますが、しかし、これを旅券法十三条の第一項と結びつけまして、その場合に常に、このような違反があって罰せられたときに、当然旅券が将来は発給が拒否されるというふうにしてはならない、これは行き過ぎであると思うのでございます。たとえば再犯のおそれがないと認められるような場合には、旅券発給も認めるべきではないか。現行法旅券発給を拒否することができるとありまして、拒否しなければならない、当然に拒否されるという条文ではございません。したがって、この法案なりあるいは法律運用にあたりまして、慎重な考慮が払われるべきであり、もしこの点で解釈を誤りますと、むろんこれは訴訟において争われ、裁判所審査を受けることになるわけでございますから、そういう意味において当局が軽たしく発給を拒否しないようにということをお願いしたいのでございます。  なお、もう少し時間がいただけるようでございますが、旅券法案の十九条に返納命令の規定がございまして、その中に、在留邦人一般的信用または利益を著しく害しているために渡航の中止をさせ、帰国させる必要があると認めるときには、外国におりまする邦人渡航者に対して旅券返納を命ずることができるという条文が新しく加わったのでございます。これはいろいろ過去に、最近におきましても在留についての弊害があるようでございまして、外国におきましても、やはり日本国民に対しては、公共福祉に反する場合に、憲法で認められた自由について必要な限度における規制を加えることはできると考えるものでございます。したがって、滞在国在留しておりまする国の一般国民秩序を破壊するような場合は、これは滞在国の問題でございますから、わが国が法律によって取り締まるわけではございませんが、在留邦人並びに渡航者保護のために必要な限度においては、公共福祉要請から、ある程度制限を加えて、つまり、渡航した者が帰らなければならないようにするということもやむを得ないと思うのでございます。しかし、むろんこれはやはり国民憲法二十二条の権利に関するものでありますから、訴訟上の救済は当然与えられるべきであって、それは帰国後において訴訟で争うことを許す。したがって、この点も、やはり当局裁量権を乱用しないように、この法案運用にあたりまして慎重な態度を希望するものでございます。外交上、むろんそういった場合には、在留しておりまする国との関係において、当局裁量の余地が残ることはやむを得ない。外交上特に著しく害があるというふうな場合、そういう影響、関係も出てまいりますから、一般的信用在留邦人利益を著しく害するという場合には、単純な国内における行政処分とはやや違ったものでありますけれども、しかし、人権保障関係のあることは当然でありまして、そういう意味において、訴訟裁判所による審査の対象となり得るものであり、したがって、この条文運用にあたりまして慎重な配慮を希望するものでございます。  それでは時間が参ったようでございますから、あとは御質問がありましたらお答えしたいと思いますが、一点だけ繰り返し申しますけれども憲法二十二条におきまして、海外渡航の自由というのが保障されている。それは一体どこに書いてあるかということですが、私どもは一応通説に従いまして、第二項の海外移住の自由というのが書いてございますが、それに含めて類推して憲法保障を認めるものでございます。しかし、その場合に、第二項には「公共福祉に反しない限り」ということが書いてない。二十二条第一項には書いてあるということから、一部の学説としては、第二項のほうは無制限の自由が保障されている、いかなる意味においても法律によって規制することはできないのだという説がありますけれども、判例また通説は、二十二条第二項の場合あるいは海外渡航の自由についても、一定の限度で、憲法十三条に示されておるような「公共福祉に反しない限り」という一般の制約を受ける、かように見るのでございますが、この点は時間の関係で簡単にいたしまして、ただ現行法もそのようになっているということを申し上げておきます。  なお、もう一点は、法務省との関係がございますが、直接これは法案関係ございませんが、外務省法務省との関係、もし御質問ございましたらお答えいたしますが、時間になりましたので、一応これをもって私の意見を終わります。
  6. 北澤直吉

    北澤委員長 ありがとうございました。  次に、平井参考人にお願いいたします。
  7. 平井博二

    平井参考人 私は、現在日中貿易業界で実際に旅券を利用し、あるいは使用しております体験上から、この問題についての意見を申し上げたいと思います。  この法案を読みまして第一番に感じましたことは、手続の非常な簡素化ということでございますけれども、実は私ども日貿易その他四カ国との貿易を行なっているものは、非常に複雑な手続をいままで要請されておりましたために、これが改正されるのであれば非常に賛成であるわけでありますけれども、実際にこの法案内容を読んでみましたところ、実はそれに名前をかりまして、むしろ特定の国に対する差別を非常に強化しておるのではないか、もう一つは、特定の国に対する渡航をより一そうきびしくしておるのではないか、こういうふうに考えるものでございます。  具体的に申し上げますと、第一点は、五年間有効の数次旅券というものを今後全面的に取り入れる、こういうお話でございますが、これにつきましては、私どもはこの内容を読みまして、旅券法の部分的な改正ではなくて、むしろ新しい旅券法ではないかというふうに考えるわけでございます。いままで私どもが参りますたびに、毎回ごとに旅券申請もしくはその前の複雑な趣意書手続というものをやっておりましたのですが、今度五年間できるということは、五年間しなくてもよろしい、こういうことになるわけでありますから、いままでとは全く――山下部長お話をかりますと、新しい制度というふうに私どもは感じております。その場合に、その考え方根拠となっておりますものが、つまり、五年数次にわたって御本人に旅券を渡しつばなしで自由に使っていただく、こういう政府答弁がございました。これをお聞きしまして、なるほどいままでとは全く違うということを感じたわけです。したがいまして、この中で、五年間どこへ行かれてもかまわない、つまり、どこの国へも五年間は自由に行ける、こういうお考えでございます。ところが、私どもがよくこの法案内容並びに外務委員会におきます大臣山下さんの御答弁を伺いましたところ、それを実行しない国、つまり、五年間有効の数次旅券を出さない国というのがある。法文の上では、外務大臣が指定する範囲内の渡航先、こうなっておりますが、これを大臣のおことばをかりますと、北朝鮮と中国北ベトナムと東ドイツ、こういうふうになっております。私どもは、どういうわけでこの四カ国がこのような差別を受けるのか、こういう気持ちをまず持つわけでございます。このおことばの中では、未承認ということばがございましたけれども、この四カ国以外にまだ未承認の国はあるはずでございます。なぜこの四カ国だけ差別するのかという点は、どうしても合点がまいりません。いろいろ私どものほうで検討いたしました結果、これはこういう立場ではないか。つまり、中華人民共和国を承認しないで、いわば台湾におります蒋介石グループ承認するという問題、それから朝鮮民主主義人民共和国政府承認いたしませんで、いわゆる韓国を承認しておるという問題、それからベトナム民主共和国政府承認しないで、いわゆる南ベトナムを承認しておる、こういう立場。最後にドイツ民主共和国政府承認せず、ドイツ連邦共和国政府承認している。この立場からこの四カ国が排除されている、こういうふうにしか考えられないのであります。したがいまして、この四カ国を差別するというお考えの基礎には、つまり、この四カ国に対しては絶対に承認しないという立場、そういう立場が貫かれているのではないかというふうに考えるわけであります。  たとえば現在までの旅券法を拝見いたしますと、やはり二年間有効の数次旅券がございました。しかし、この数次旅券はむしろ特定の用務ということが重点になっておりまして、特定の国に行くか行かないか、国による差別というものはむしろ書いてございません。今度の新しい旅券法の場合には、まさに国によって差別をするという考え方がここにまず第一に貫かれているのではないか、こういうふうに考えるわけでございます。しかも、その差別根拠と申しますものは、いま申し上げたような政府態度というところから生まれているのではないか、こういうふうに考えるわけであります。  第二点は、いわゆる渡航先追加の問題でございます。いま申し上げたように、今度は旅券というものが五年間有効で、いわば商用であろうと観光であろうと、自由に行っていただく、こういう政府答弁お話のような内容でございますと、そしてまた、その記載の中に包括記載というのがございまして、全世界地域、こういうことになりますと、その旅券を持っておりますならば、全世界いついかなるときでも、相手国がよろしいといえば自由に行ける、こういうふうになっております。ところが、先ほど申し上げた四カ国に対しましては、従来どおりシングル旅券ということでございますが、もちろん、そのうちにシングル旅券を出してない国もあると思いますが、このシングル旅券しか出さないということになりますと、先ほど田上先生お話のいわゆる横すべりという問題でありますけれども、これは全世界地域包括旅券を持っております者にとりましては、この四カ国を除いて横すべりというふうな問題は全然ございません。したがいまして、渡航先追加というふうな問題が起こります国はどこかということを考えてみますと、これはいま申し上げた四カ国しかないのではないかというふうに考えられるわけであります。つまり、この考え方の中には、やはりこの四カ国に渡航しようとする場合、どうして全世界地域の中にこの四カ国を含めないのかという問題でございます。この四カ国をはずすということになりますと、五年有効の数次旅券を持っております者でも必ずその追加申請しなければならない。現在私どもの体験しておりますことでは、この申請はとても一週間やそこらでは終わるものではなくて、二十日から四十日もかかっております。貿易業界にとりまして、現在しょっちゅう世界に出ております。そして貿易の必要上に応じまして、いろいろな国に飛ぶ必要はしょっちゅう起こっております。まして、国交のない国との貿易関係をどういうふうに発展させようか、このように民間は努力しておるのでありますから、いろいろのときに生じました必要性から、たとえば中国から朝鮮に行く、あるいはベトナムに行く、あるいは東ドイツに行く、こういうふうな問題は当然起こり得る問題でございます。したがいまして、これは商売上からいきましても、他の国と何ら変わりのない問題でございます。しかし、これでまいりますと、必ずこの四カ国で、たとえば北京におきまして――私どもは北京にしょっちゅう行っておりますけれども、そこのベトナムの代表部あるいは朝鮮の代表部、そういうふうなものとの接触の中から、急拠商売をしなければならないという場合になりましても、この法案からまいりますと、現在では二十日から四十日間、たとえば香港にまで出まして、そして申請をして、また戻ってきて行かなければならぬ、こういうふうなことになっておるのであります。特に横すべりの問題につきましては、いわゆる横すべりという考え方自身について申し上げたいと思います。と申しますのは、一体、横すべりということが悪いことなのかということでございます。私どもにしてみますと、相手国がどうぞいらっしゃい、こういうふうに言っております。ただ、たまたま私なら私の持っております旅券にその相手国の名前が書いてない。しかし、相手国はそれでもかまいませんからどうぞいらっしゃい。それに行くということがどうして悪いことなのか、私どもにはわかりません。片一方では、五年間有効の数次旅券世界じゅうどこの国へもいらっしゃい、こういうふうな態度をとっていらっしゃりながら、この四カ国の中で、ある一国がどうぞいらっしゃいといったときに、旅券に書いてないからこれはいかぬことだ、こういうふうな考え方がどうしても私どもにはわからないのでございます。  先ほどやはり田上先生のおっしゃった罰則の問題でございます。考え方としてはいま申し上げたような点でございまして、それに対して罰則が全く新しくつけ加えられております。しかもこの罰則というものが、私ども法案を読みましたときは、ただ三万円の罰金と、こういうことかと思いまして、よく読んでみましたところ、たとえばそれに違反した場合には、旅券返納命令、十九条が発動できるようになりました。また、旅券の効力無効宣言、つまり十八条が発動できるようになっております。さらにまた、没収することができる、二十五条の発動もできます。そしてまた、今後の旅券発給やあるいはそのあとの渡航先追加を禁止することもできる、十三条、こういうふうにまでなっております。どうしてこの横すべりという問題について、いままでよりもかくも格段に罰則を強化するのかという点が、私どもにはどうしてもわからないのでございます。戦前の旅券規則を拝見いたしましたけれども、これにもこのような罰則は書いてございません。したがいまして、私どもは、この罰則というものが現実にどこの国へ行こうとする人間に適用されるのかということを考えましたときに、これはこの四カ国に行く人間に対して適用される、こういうふうにしか考えられないのでございます。  それから第四点といたしましては、利益、公安条項の問題がございます。実はこれは別に改正前の法律と違っている点ではございませんけれども、私どもにしてみますと、この旅券法の第十三条の第一項五号のところに、一般旅券発給制限の項目の中に、「日本国の利益又は公安を害する行為を行う」場合に旅券発給制限するというのがあります。これは私どもが調べました範囲内では、現在の旅券法が作成されましたときに、当時の島津政務局長の御答弁によりますと、「御懸念のように、そのときの政府の政治的な考えで左右されるということは万々ないわけであります。」こういう御答弁がございました。しかし、これがどこに適用されたかということを考えてみますと、私どもの記憶では、一九六六年の夏に、中国に青年交流で行こうという青年約六百人近くだったかと思いますが、この人たちに対する旅券発給がこの条項によって制限されております。しかもその根拠は、当時の白幡移住局長の答弁によりますと、閣議の決定ということでございます。これは私どもの理解では、明白に政府の政治的な考えできまったとしか言いようがないように考えております。したがいまして、今度の改正でこのような利益、公安条項をなぜ削除しなかったのか、こういう点がまず考えられるわけでございます。  第五点といたしまして、先ほど田上先生の触れられました旅券返納命令の中で、新しい項目がつけ加わっております。つまり、「渡航先における日本国民一般的な信用又は利益」これは文章を読む限りにおきまして、あるいは御答弁の中であったかと思いますが、たとえばこれは破廉恥罪であるとかいうものであるというふうなお話も聞いております。しかし、先ほど申し上げました利益公安条項、こういう問題と考え合わせてみました場合に、それからあとで申し上げます渡航趣意書というような差別の問題と合わせて考えてみましたときに、この条項がどういうふうに利用されるか。たとえば私どもが北京におりまして、北京の日本人の集会なら集会もあります。その中で、現在の政府に対する批判的な言動をいろいろ出した、こういうふうな場合に、この国民一般的な信用に該出する、こういう判定が下されないということにつきましては、いままでの実績から見まして、私どもはどうしてもこの保障が必要である、このように考えております。したがいまして、このような条文を新しくつくったということ、これが私どもいま申し上げたようなことに利用されるという懸念を非常に強く持っております。  第六番目に、新しくできました外国滞在届けというのもございます。これもいろいろお聞きしましたところ、動乱があったときに、そのときの邦人の動向をつかんでなければいかぬとか、こういうふうなお話がございました。しかし、これもこの旅券の名義人で外国に三カ月以上滞在するものについては、届けを当該もよりの領事館に出すということになっておりますが、この国交の回復してない四カ国の場合には、あるいはその他の未承認国の場合には、どの領事館をお使いになるか、これは存じませんけれども、こういうふうな届け出を出すということによりまして、実はこれは事務の円滑化というふうに説明の中で書いてありますけれども、これも先ほどから申し上げております横すべりをかくも厳重に禁止しているという問題、それから事前審査を依然として強硬にやっておるという問題、こういうことと考え合わせてみますと、これはいわば中国など四カ国に対する渡航者の動向を掌握し統制する、こういうふうにしか考えられないのでございます。  第七番目に、渡航趣意書の問題を申し上げます。これはおそらく御存じない方があるいはいらっしゃるかもしれません。これば私ども中国などへ参ります場合に、法律にも何にもございませんけれども外務省から共産圏渡航趣意書なるものを要求されます。しかも、これは十五通現在要求されております。この渡航趣意書というものはどの法律に基づくものかということを私どもは調べてみましたけれども、どこにもございません。ただ、昭和四十一年の広田移住局長の答弁によりますと、行政上の便宜でとっておるというようなお話がございました。これを出さなければ実は私ども旅券申請すらできない状況に置かれております。現在中国などへ行きます場合には、十五通の渡航趣意書というものと、さらにそのほかに相手国の招待状、インビテーションを要求されております。これも十五通要求されております。このこまかい内容をもっと申し上げますとたくさん時間をとるかと思いますので、省きますけれども、この渡航趣意書というものをまず出しまして、現在では比較的多いのが三週間程度の期間を要しております。それから一カ月かかるというのがざらでございます。まあ、はっきり申し上げれば、私どもは航渡趣意書を出しまして、三週間から一カ月かかって、やっとほかの国に行く人と同じような人並みな扱いが受けられる、こういう状況でございます。したがいまして、これは法律にもございませんけれども、このような行政手段は直ちに撤回すべきである、このように考えております。  以上申し上げましたように、私どもは、事務手続簡素化いたします、こういうことには賛成でございます。現在、日中間におきまして、春と秋に広東で交易会というのがございます。ここで大体年間およそ三億ドル前後の取引が行なわれております。ここへ毎回千人近い日本の商社なりあるいはメーカーの方々が行かれております。この毎回ごとにただいま申し上げたような渡航趣意書を出しまして、そしてまた、今度は新しい法案になりましても、年に二回必ず行くということがございますのに、ほかの国とは違って、五年数次はもらえないで毎回毎回申請しなければならない、こういうふうな状況に置かれておるわけでございます。したがいまして、私どもとしては、事務の簡素化ということでは別にかまいませんけれども、それに籍口いたしまして、実はいま申し上げたような四カ国に対する差別が現実に非常に強化されておるという点、それから先ほど罰則その他でもありましたように、これを取り締まるという面が非常に強化されている。こういうことを強く感じますので、この法案に対しては私はほんとうに反対でございます。  これが私の意見でございます。
  8. 北澤直吉

    北澤委員長 次に、相川参考人にお願いいたします。
  9. 相川理一郎

    ○相川参考人 今回の旅券法改正案について、私どもは少なからざる問題点を見出しております。しかし、ここでは私が参考人として本委員会に招請されました趣旨をそんたくいたしまして、朝鮮民主主義人民共和国への渡航に即し、改正案、特に第十三条一項五号の存続の問題と、いわゆる横すべり渡航の禁止の問題について、主として意見を申し述べます。  まず、今回の改正案を見ますと、立案者が改良点としてあげている数次往復用旅券の適用の拡大、渡航先包括記載、代理人申請承認旅券記載事項の訂正、旅券の合冊、査証欄の増補、旅券発給事務の自治体委任などがあります。しかし、これと表裏一体の関係におきまして、未承認国への渡航差別・抑制、渡航先追加あるいは横すべり渡航の禁止、旅券発給制限の強化、渡航者海外活動の規制強化、行政官庁の裁量権の拡大など、無視できない改悪点も含まれていることを申し上げたいと思います。  つまり、一言で今回の改正案の特徴を申せば、手続面では緩和しているけれども国民海外渡航権利という質的に重要な面では、かえって制限を強めているものであるといえます。  続いて、改正案の問題点を具体的に申し述べるならば、その第一点は、現行法の第十三条一項五号、つまり、「著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行う虞があると認めるに足りる相当の理由がある者」には、旅券発給及び渡航先追加制限するという規定が、何ら改められもせず、そのままの姿で改正案に存続されていることでございます。  御承知のとおりに、現行旅券法が制定された当時の本委員会の審議において、二十六年十一月十六日ですが、この条項につき黒田委員は、このようなばくたる規定で渡航権利制限できるとすれば、必ずこの第五号が乱用されるおそれがあり、後日人権じゅうりんの問題を起こすと予言しておくと指摘をされておりますし、また大橋法務総裁も、この規定の運用に際しては乱用を戒めるというふうに確言されましたが、不幸にしてその後、この条項をめぐって幾つかの訴訟問題まで継起し、今日なおその乱用があとを断たないという、これは問題の条項でございます。  その実例を次に、現に私どもが体験をしている朝鮮への渡航に即して示し、乱用の実態を明らかにしたいと思います。  現在、私どもは商用で朝鮮へ行く場合、ソ連行き旅券にてナホトカ・イルクーツク経由もしくはモスクワ経由で行っております。東京からパリまたはアムステルダムを経由してモスクワに飛んで、それから朝鮮へ行ったというような実例もございます。外務省の資料によれば、昨年の朝鮮行き旅券発給件数は十二とされております。しかし、これはすべて国会議員とその同行者だけで、実際には上述のような第三国行き旅券で朝鮮へ渡航している者が、そのほかに主として貿易商社を中心に年間約百名ほどあります。これらの人々は、政府旅券発給した国会議員とその同行者が、船で片道二日、船賃三万円程度渡航している道のりを、お手元に資料を差し上げてございますが、その資料1のとおりに、地球を半周するほどの費用と時間をかけて渡航しなければならないのが実情です。なぜこんなばかなことをしなければならないかといいますと、朝鮮行きの旅券発給は差しとめられているからです。つまり、現行旅券法が制定されてから今日まで十八年近くになりますが、この間、外務省は、朝鮮への渡航については、ごく近年になりまして、国会議員とその同行者に限り平壌行き旅券発給しているだけで、他の者には一切発給していないのです。この発給制限の法的根拠は、十三条一項五号に相当するからだといわれており、また、この条項以外に発給制限根拠を見出すことはできません。  では、十三条の、著しくかつ直接に国家利益または公安を害する行為とは一体何かといえば、大橋法務総裁は、同じ本委員会の審議において、これはたとえば刑法の国家の公益に関する罪、すなわち内乱罪、外患罪、国交に関する罪、また外国為替及び外国貿易管理法、麻薬取締法、銃砲刀剣類等所持取締令などに違反するおそれある行為であり、また、著しくかつ直接に害するというからには、これは原則として犯罪になるものに限るだろうと述べられております。しかし、はたして朝鮮に対する機械、設備を中心とした輸出の振興並びに重要な工業原料の輸入を行なうわが国の業者が、その貿易のために朝鮮へ渡航しようとする場合、その行為がいわれるような十三条一項五号に相当するといえるでしょうか。  大蔵省の通関統計によれば、資料2のとおりに、昨年朝鮮へは約七百二十品目、二千万ドルの輸出を行ない、また約九十品目、三千四百万ドルの輸入を実行いたしましたが、これらはいずれも当然ながら政府許可を得て取引されております。御承知のとおりに、政府は、相手国との取引が国益に反するというふうに認められた場合には、資料3のとおりに、輸出においては輸出貿易管理令第一条六項で、また輸入については輸入貿易管理令第十一条によって、その取引を承認しないか、または条件をつけることができるというふうにされておりますが、朝鮮との通常取引で許可にならなかった取引はほとんどないといってよいと思います。つまり、このことを法的にいえば、これらの取引はいずれも国益に反するものでないということが、通産省当局によって認定されているといってよいと思います。また、この認定は、通産省当局によってだけではなく、外務省当局によっても認められているのです。資料4のとおりに、同省は三十六年四月二十六日、韓国に対して亜北第一三二六号の口上書を送っておりますが、その中には、朝鮮との取引行為は経済的にばかりでなく、政治的にも、政府のいう政経分離の方針に合致し、自由諸国によっても支持されている旨が述べられております。これら二つの事実を考え合わせるならば、政府の許可を得、正規の手続を経て正々堂々と行なっている朝鮮との貿易のための渡航が、大橋法務総裁の言われる国益、公安を害する犯罪行為などに相当するものではなく、また、そのおそれがあると認めるに足りる相当な理由などにも決して該当しないことは明白であります。にもかかわらず、朝鮮への渡航には商用ですら十三条が一方的に適用され、十八年もの長期間、しかも全面的に旅券発給が停止されているのが実情であります。こうした裁量権の乱用の事例は、朝鮮だけではなく、かつて中国及び承認以前のソビエトへの渡航にも同様の問題がありましたことは御承知のとおりであります。  さらに申し上げれば、旅券発給制限は、いつの間にか国益、公安を害する者から特定地域への発給制限に拡大をされているという問題もあります。たとえば旅券法十四条では、外務大臣は、一三条によって旅券発給をしないと決定したときは、すみやかに理由を付した書面をもって申請者にその旨を通知しなければならないというふうに規定していますが、これまで朝鮮への旅券発給拒否について、そのような文書による理由の通知を受けた例はほとんどないと思います。この点について、外務省は、これまで朝鮮行きの渡航申請があったのは、国会議員とその同行者だけであって、それ以外ないと言われるでありましょうけれども、事実は、旅券課の窓口で、朝鮮への渡航については上部の承認がない限り旅券申請は受け付けられないということで拒否されている状況にあるのです。この経験は私自身も持っておりますし、他にも多くの事例があり、現在もあります。  このような事態は、一体どこからきているかと申しますれば、資料5のとおりに、現行旅券法が施行されておよそ四年を経た三十年十月二十四日、各省次官会議では、古屋貞雄議員らの朝鮮行き旅券発給申請を機会に、朝鮮との貿易その他の交流を禁止する決定を行なったと伝えられています。この決定は、その後五年半もの間朝鮮との貿易を認めぬ根拠とされましたが、朝鮮との人の往来については、今日なおこの決定が法律に優先をしているところにあると思われます。このことは何を意味するかといえば、特定地域、つまりこの場合は朝鮮ですが、特定地域に対する旅券発給制限することにほかならないと思うのであります。  ところで、旅券法には、国益、公安を害する者――つまりその個人です。その個人には旅券発給制限できる十三条の規定があることは上述のとおりでありますけれども特定地域に対する渡航制限旅券発給制限する規定はございません。また、三条による旅券申請、五条による旅券発給の規定以外に、申請そのものを受け付けないという規定もございません。このように十三条の規定はいつの間にかかってに拡大され、すりかえられて、法律にないことが現実にはあたかも当然のごとく行なわれているのです。  そして、海外渡航国民の基本的な権利だといわれながらも、朝鮮への渡航については、全く不法にもこの旅券法全体の適用が除外されるということが行なわれているのです。これは事の性質上、まことに重大なことだといわなければならないと思います。  「ジュリスト」という法律雑誌の四十一年十一月十五日号で、当時の外務省移住局旅券課の田中祥策氏は、いみじくもこの点につきまして次のように指摘しています。つまり「海外渡航は、居住、移転の自由に属する基本的人権一つであるから、旅券発給拒否はもとより行政官庁の自由裁量の事項ではなく、法律で規定されるべきものであり、これは戦後、旅券制度に関する基本法規が戦前のような外務省令ではなく、法律として制定されるに至った最も大きな理由の一つである」と書いていますが、上述の実例は、いずれも旅券法制定の正当な趣旨に反するものだと申さなければなりません。  こうした問題が発生いたしますのは、何といっても、十三条の規定により、外務大臣の認定に国民基本的人権たる海外渡航の自由の禁止制限が一切ゆだねられているところによるのであって、およそ憲法上の自由を制限する場合に、十三条のようなばく然とし、かつ広義の標準に基づき、包括的な判断を行政庁に委任するようなことは許さるべきでないと考えます。  よって、私は、このゆえに、現行法の十三条一項五号をそのままの姿で残している改正案に賛成できぬものです。  また、かりに旅券発給を拒否できるかどうかの判断を外務大臣にゆだねるという考え方をとってみても、海外渡航の自由は憲法上の権利でありますから、行政処分によるその制限に対しては、権利救済のための行政手続の完備が必要です。  改正案は、現行法のこのような欠陥について何ら考慮が払われず、現行法同様、申請者の釈明などについて何らの規定も設けておらず、相変わらず行政庁による切り捨てごめんの余地を残しているので、この面からも、改正案には大きな欠陥があることを指摘せざるを得ません。  次に、改正案の問題点の第二点として、新しく設けられた第二十三条二項の罰則について申し上げます。  以上のように、朝鮮行き旅券発給されぬため、私どもは、第三国行き旅券で一たん第三国へ行き、そこから渡航先追加を受けずに朝鮮へ渡航しております。  現行法第八条では、渡航先追加を受けようとする者は、外務大臣またはもよりの領事館にその申請をしなければならないとしています。しかし、朝鮮へは、もよりの領事館も追加渡航を認めぬし、また、旅券にその記載がなくても相手国は入国を認め、渡航目的が十分果たされているので、渡航先追加を受けようとせずに朝鮮に渡航してきました。この行為自体は現行の第八条では違法とはならず、したがって、それに対する罰則もありません。  今回の改正案第八条では、これが「当該一般旅券記載された渡航先以外の地域渡航しようとする場合には、」渡航先追加申請をしなければならないというように、つまり、現行法の「渡航先追加を受けようとする者」という手続規定が、「渡航しようとする場合には、」というように、より明確に、実態的かつ網羅的に改められています。  この改正は重要です。なぜならば、今度は八条の手続を踏まずに追加渡航すれば、改正案に新しく加えられた二十二条二項一号によって罰金刑に処され、十三条一項四号によって自後の旅券発給を拒否される仕組みになっているからです。特に十三条の発給拒否条項には、渡航先、期限について何らの規定もないことに留意されなければなりません。また、八条の手続規定に違反したというだけで刑事罰に処するということは、著しく当を欠くものだといわなければならないと思うのです。  したがって、こうしたきびしい条項を持った改正案がそのまま制定されるとすれば、第一に、朝鮮の場合のように、ある地域に対し旅券発給されなければ、その地域へはもうだれも行けなくなる。第二に、発給されても、それが渡航希望者すべてに無差別発給されるのでなければ、発給を受けられぬ者は渡航できないという事態が生ずる。第三に、中国、ベトナムのように、現在は旅券が出ていても、他日情勢の変化とかというような問題で発給がとめられるようなことがあれば、その場合はだれも行けなくなってしまう等々の問題が発生することは必定で、二十三条二項一号の罰則がある限り、その危険性はまた十分にあるといわなければなりません。よって、私は、特定の国への渡航の道を完全にふさぐような危険性を持つこの罰則には全く同意できず、本改正案にはこの面からも賛成できません。  いずれにせよ、渡航権利権利として確立されないでいて、罰則を強化することは本末転倒で、立法上も大いなる問題を残すことになるものです。  以上により、私どもは、改正案に引き継がれた第十三条一項五号の適用が、現にとほうもなく拡大され、乱用されている事実と、これに加えて改正案に盛られた罰則発給制限の拡大あるいは行政庁の裁量権の拡大が、将来国民海外渡航権利の一そうの制限につながる懸念を表明いたしまして、本改正案の本院における慎重審議を要望して、終わりたいと思います。
  10. 北澤直吉

    北澤委員長 次に、伍堂参考人にお願いいたします。
  11. 伍堂輝雄

    伍堂参考人 私は、このたびの旅券法の一部改正についての提案理由と申しますか、改正を必要とし、また改正されようといたしておりますポイントが、現在までの海外渡航につきまして、そのつど旅券の発行を受けなければ海外渡航ができない。例外的にと申しますか、比率的にはごくわずかのようではございますけれども、二年の数次旅行、ビジネスあるいは視察等の場合に、ある条件のもとで許可されておりますけれども、そういう事態が、現在の国際交流と申しますか、ビジネスの面におきましても、あるいは視察とか観光旅行ということが国際的に非常に大幅に増進いたしております中で、特に日本海外渡航が、いわゆる渡航の自由化ということを契機といたしまして、大幅に伸びておるという時期に、このたび改正されようといたしておりますいわゆる一般的な旅行に対しても、五年間を有効期間とする数次旅券が発行できるということは、この海外渡航の非常に要請の高まっておる、しかも今後も大幅に伸びていこうという実態に即して、まことに適切な改正でもございますし、承るところによりますと、すでに数年前から国連の経済社会理事会あるいはOECD、あるいはICAOの国際会議からも勧告が出されておるようでもございますし、世界の先進国の例を見ましても、すでに三年あるいは五年の期間を有効とする旅券が発行され、それが活用されておるという事態から見ましても、見方によれば、おそ過ぎたくらいであって、早くそういう渡航が自由化され、そうしてそれぞれの手続簡素化されるということは、まことに望ましいことだと考えます。  特に、旅行の目的がそのつどきめましても、それが変わる場合もあるというようなことを考慮いたしますと、このたび行く先の包括記載というようなことも許されるというような改正は、まことに時宜を得た改正だと考えております。  また、それに伴いましてのいわゆる事務の簡素化と申しますか、これは旅券を受ける者といたしましても、あるいは本人の出頭が場合によって免除されて、簡易な手続で発行される。そういう面では、旅券を受ける者、旅行をしようとする者の便益から申しましても、まことにけっこうでもございますし、また、行政の事務の簡素化、権限委譲をやることによりまして、地方庁でもそれができるというようなことは、事務の簡素化、合理化、効率化ということにもつながることで、そういう面からも、私どもとして、今度の改正はまことにけっこうな改正だと考えます。  あと、技術的な問題につきましては、私どもとしてもよくわからない点がございますが、いまの大きなポイントとしての簡素化、これが旅行いたします者にとっても非常に便益でもあり、今後もますますその必要が高まることに対応する施策としてけっこうでもあり、またそれの手続簡素化されるということも、その面からもまことにけっこうな改正だと考えます。  以上で、私の意見の要点を申し上げまして、終わらせていただきます。
  12. 北澤直吉

    北澤委員長 これにて参考人の御意見の御開陳は終わりました。     ―――――――――――――
  13. 北澤直吉

    北澤委員長 これより参考人に対する質疑に入りますが、伍堂参考人は正午までしか出席できませんので、伍堂参考人に対する質疑を先にお願いいたしたいと思います。  参考人に対する質疑の通告がありますので、順次これを許します。穗積七郎君。
  14. 穗積七郎

    穗積委員 きょうは、実務家の皆さんがわざわざこの重要な基本的人権に関連をする法律審議に対して御出席をいただいて、非常に各方面から御意見をいただきましたことを厚く感謝いたします。いま伺いますと、伍堂さん、お忙しくて先にお帰りだそうですから、簡単に質問いたします。  いまおっしゃいましたことは、私ども、与党のみならず、野党全員賛成なんです。つまり、数次、長期にわたってグローバルな旅行ができるという原則、これは原則上も手続上もそういうふうにとりましたことは、これはもう当然なことであって、おそきに失したと実は思っているわけです。御参考までに申し上げておきますが、いまから四、五年前に、私どもは野党の立場ですけれども、この不合理な、何か旅行の自由を実行することを認めるか認めないか、政府の特権であるかのごとき封建的な、権力主義的な考え方はもう時代おくれだ。早くどこへでも自由に行けるようにする。これは先ほど出席前でしたけれども田上教授もおっしゃいましたが、われわれは、旅券または旅行に対する基本的なあれは同感なんです。すなわち、それは日本国民であるという身分証明書である、同時に、相手国に対してその保護の依頼を兼ねたものである、こういうふうに理解しております。これは許可証じゃないはずなんですよ。それはたとえば学生でいいますならば、学生の身分証明書のごときものであって、当然発給すべき、要求すべき権利がありますし、大学はこれに対して証明書を出すべき義務があるわけです、国民で国籍を認めておる以上は、学籍を認めておる以上は。それと同様な性質のものであるということをわれわれも理解いたしております。したがって、今度の数次、五カ年間の渡航先特定な自由な旅行、旅行目的も自由である。それが商用であろうと、政務であろうと、あるいは観光であろうと、気晴らしであろうと、かってだということはいいと思うのです。伍堂さんもさすがに国際人でありますから、その合理性に従って、いまの改正の前段についてはこれをたいへんけっこうであるというふうにおっしゃったと思うのです。ところが、問題はそこにはないのです。いままでお述べになりました田上教授をはじめ皆さんの一致した御意見は、旅行なり旅券に対する基本的考え方は、ここにおります与野党の委員全部一致しております。ところが、その基本的な考え手続に反する大きな誤ったものがここにくっついておることが問題になっておるわけなんです。その御精神からいけば、特に特定国、未承認国の中の、平井、相川両参考人から摘示されましたように、特に朝鮮、それから中国北ベトナム、東独、この四カ国に対してきびしい差別取り扱いが行なわれておるわけですし、差別だけではなくて、もう非常な反人権的な制限が加えられている点でございます。これは内容についてはもう伍堂参考人もごらんいただいたことと思いますから、説明を申し上げません。そこの点についての御意見を聞くことができなかったので、国際人であるあなたの立場から見て、いま申しました旅行の自由と、それで旅券というものは身分証明書であり、相手国に対する保護の希望書のようなもの、依頼書のようなものですね。そういうことに立ちますならば、この四カ国に対して絶対に旅行は許さないという原則をやるなら、これは鎖国でございましょう。それも一つの政策かもしれません。ところが、一々点検をして、いろいろな制限、条件をつけまして、そしてこれに差別するということのいわれは、今日の国際環境、特に日本のような、国際的な環境の中においてのみ経済的にも政治的にも生きられるわれわれが、こういう差別をすることは時代おくれであり、不当である、こういうふうに考えるわけなんです。その点について、一点だけあなたの合理的な御判断による御意見を承っておきたいと思うのです。
  15. 伍堂輝雄

    伍堂参考人 ただいま御質問のございました、原則として、国民がいわゆる居住移転の自由という基本権を持って、またその意味におきまして海外渡航についても自由に渡航ができるということは、望ましいことであり、原則的にはそのとおりだと思うのであります。ただ、私も条文をよく勉強しておりませんが、その旅券を出します目的は、確かに日本政府としては、旅行した人のその行き先でのいろんな安全を保障するというような意味においても、やはりそれをチェックする意味で必要だろうと思いますし、また私、条文は何条でございますか、日本の国益に反するような場合には、そういう場合にもチェックできるというような規定があるやに聞いておるのでございますが、そういう面では、政府としてそういう国益に反するような場合にはこれを制限するということはやむを得ないのではないだろうか。ただ、ただいま御指摘がございました日本の国との承認関係にないと申しますか、国交が正常化されておらない国に対しては、冒頭に申し上げましたような意味で、いつ行かれるかわからないようなことでは、日本の国として、日本国民の出先での身分の歩全保障とかいう問題についての処置をとりにくいというような面で、そのつど、行く場合にこれをやるということはやむを得ないんじゃないかというように考えますが、しかし、できるならそういう国に対しましても、できるだけ早い機会にそういうような条件が満たされて、国交が正常化されて、どこの国へでも自由に行けるような時期が一日も早く来ることを、私どもとしては希望をし、期待をいたしております。
  16. 穗積七郎

    穗積委員 たいへん失礼ですけれども、あなたは法律案を読んでおられないわけです、一番大事な点を。おそらくは、私の推測ですが、いまの御答弁で、邪推であればおわびいたしますが、政府・与党の諸君は、今度の改正案が非常な進歩発展で改善であるという点を一言だけ強調してもらえばいいんだというようなことで御依頼したと思うのです。そういうことでありますと、先ほど言いましたように、あなたからさっきのようなことを伺わなくても、われわれはもう数年前からそのことを主張しておるのですから、十分わかっておるのです。わからないのが、その原則に全く反する、逆行するような、従来よりもよりきびしい罰則までつけて、しかもこれは刑事罰ですよ。そんなもの、あなた徳川時代のことですよ。私は三河の出身だけれども、徳川三百年の時代のことならさることながら、まあばかばかしくて聞いておられない、このような法律案というものは。これは何かといいますと、あなたに御参考までに申し上げておきますが、財界の方もこういうことを理解してもらわぬと困るから申し上げるのです。これは外務省意見というよりは、むしろ法務省の中の公安の考え方なんですよ。治安立法なんです、これは。基本的人権を、国益または公安を理由として、これをかってに拡大解釈して、あるいは恣意的な解釈、断定によってこれを抑圧しよう、こういうことなんですね。こういう考え方は、これはいまここで内容について実は御意見を伺うべきでありますけれども、お読みにならないので、それを申し上げません。ただ、あなたが尊敬すべき財界のリベラリストでありますし、国際人でもあるし、それから同時に、きょうは日航の会長として来ていただいた。日本のごとき国際貿易に依存する度合いの高い国はないわけですね。これは日航の一会社の問題ではない。国民生活の経済的側面から見ましても、政治的側面から見ましても、国際関係に依存度の一番高い国だとぼくは思うのです。しかもその先端を行く日航の会長として、これは私はちょっとおかしいと思うのですね。旅行というものを、第一政府が許可権を持っておるなんというのはおかしいのですよ。必要があれば、本来はこれは届け出でいいのです。届け出事項だと思うのです、行政事務としては。政府の判断によって、どこへ行ってはいけないの、この人はいいが、この人は悪いなんということを言うべき筋合いのことではないんですよ。ただ、おっしゃるように、相手の国へ行って、これはどこの国の者であるか、それから多少外へ行けば身体、財産の安全等もございましょうから、それで依頼を兼ねた証明書なんですね。こういったものは届け出によって当然発給すべきことであって、私は、許可事項にしておるというのが第一おかしいとすら思っておるわけです。国際人であり、リベラリストであり、しかも国際的な日本航空の会長としてのお考えからいけば、原則的にだけお尋ねしたいのですよ。あと思想、信条、宗派あるいは経済的な立場なんということは、旅券の場合においては差別すべきことではないと思うのです。いかがでございましょう。その点だけお尋ねいたしまして、あまりこまかいことは、まだ読んでいただいておらぬようですから、これは日本航空としては重要な意味を持っているわけですから、ひとつ一ぺん御精読をいただきまして、おそくはありませんから、どうぞ政府・与党の諸君に、そのあやまちを指摘して、修正あるいは撤回するように御進言をいただきたいと思うのです。
  17. 伍堂輝雄

    伍堂参考人 私はいま申し上げましたように、いまの法律論としまして、これを政府が許可すべきものでないのか、あるいは証明書であるのだから届け出でいいのかという問題については、法律的に私勉強いたしておりませんので、どうあるべきかということはお答えいたしかねると思いますが、たとえば政治、信条その他でそれを区別するというようなことはないはずだと考えております。ただ、先ほど申し上げましたように、政府として、一応国民海外に出た場合のお世話をするというような意味で、それがいつ行かれたかわからぬというような、相手国との関係のあるような場合には、それをそのつどやるということはやむを得ないのじゃないだろうか。それが許可であっていいのか、届け出でいいのかという法律論は、私としてちょっとお答えいたしかねます。
  18. 穗積七郎

    穗積委員 それでは、ほかに伍堂参考人に御質問の方ありましょうか。与党の方、いいですか。――それじゃどうぞお帰りくださいませ。お忙しいところを……。ぜひひとつお読みになって――参考人としてあなたみたいな偉大な人にきていただいて、与野党一致しているいいことだけ言われたのでは価値がありませんから、ぜひどうぞ、お忙しいでしょうけれども、きょう寝ながらでも読んでいただきたい、一番大事なところを。  それでは、ほかの参考人の方に、恐縮ですが、逐次お尋ねさせていただきます。  まず、田上先生からお尋ねいたしますが、国、未承認国の問題が出ましたけれども平井参考人から言われましたように、未承認国承認国で区別してないのですよ。未承認国の中でまた区別が行なわれているわけです。これは明らかに政治的、特に政府外交路線に関する、あるいは思想上の立場に立つ偏向であると思うのです、基本的人権の問題ですから。他のことでありますれば、未承認国承認国との間において違いのあることぐらいは、われわれも国際常識として心得ております。しかし、この問題は、先生も言われましたように、また私が先ほど伍堂さんへの質問の中で申しましたように、旅行の自由の権利というものは、これは何人も侵すことのできない、近代民主主義社会における基本的人権でしょう。先生もそのように言われた。その場合に、承認国、未承認国について差別すべきものは何でしょうか。ないではありませんか。ただ、先ほど言ったように、外交保護権の義務政府にあります。それを執行するのに非常に不便であるということだけではないでしょうか。しかもその相手国は、その旅行者に対してインビテーションを出しておるわけですよ。その写しは少なくとも外務省に届け出がされておるわけです。何月幾日から何月幾日まで招待をいたします、どうぞこれこれの方はおいでくださいということでございましょう。もしその国において日本の在外機関がないということであるならば、それはそれで幾らでも折衝のしようはあるわけなんです。承認しようとしまいと、その国のオーソリティーと存在を認めておる以上は、折衝のしようがある。旅行の自由をそこだけ全部禁止するという態度政府自身かとっていないわけですから。承認国、未承認国の間における差別、昨日、法務委員会におきまして、出入国管理法問題の審議の中で、法務大臣あるいは外務大臣が、承認国、未承認国の間において取り扱い上の差別が生ずることはやむを得ざる当然のことである、こう言われた。それは事によりけりで認めますよ。旅行の自由の基本的人権の執行にあたって、何の差別の必要がございましょうか。その点を実はお伺いしたい。  それから、未承認国の間で分けておること、それから関連して申し上げれば、それは国益、公安を理由にしてこれをチェックしておるわけですね。国益、公安の判断は、一体何をメルクマールにして判断するのか、だれがするのか。時の政府、時の政党、与党、これのかってな御都合主義で判断をして、アトランダムに判断をして、そして基本的人権を侵害しててん然としておるということは許されないことだと思うのです。  そういう意味で、田上先生は実務家ではありませんから、はなはだ一般的、原則的なお尋ねで、ちょっとお答えいただくのにしにくいお尋ねのしかただと思いますけれども、学者であるということでありますから、実務は去りまして、敬意を表して、原則についてお尋ねするわけです。基本的人権の場合における未承認国承認国との区別の必要がどこにあるか、残るのは保護規定だけだと思うのです。外交保護権の行使に便があるかないかということだけだと思うのですが、いかがなものでしょうか。
  19. 田上穰治

    田上参考人 御質問、まことにごもっともでありまして、私が承認関係国、未承認国と申しましたのは、たぶんそうなるだろうというふうなことで申し上げたのであります。別に法案に書いてあるわけではないと思います。  ただ、ただいまの御質問にお答えしなければなりませんが、海外渡航の自由、あるいはこれは広い意味において旅行、居住移転の自由にも結びつくものでありまして、人権一つであることは当然でございます。しかし、その人権であるがゆえに無制限、いかなる意味においても規制できないというわけでないことは、もう御承知のとおりでございまして、それが憲法の上では公共福祉に反しない限りというふうに私どもは解釈しております。もっとも、これは先ほど申し上げました二十二条の第一項の場合の「公共福祉に反しない限り、」という意味ではないのでございまして、第二項の海外移住の自由という項の中にもし含めるといたしますと、直接その二十二条には限定がございませんが、これは判例、学説において大体一致しておるところで、一般的に憲法保障する個人の自由についても、公共福祉に反する場合に必要な最小限度において制限を加える可能性がある。具体的にどの条文、いかなる場合にということになりますと、さらに個別的に申し上げなければならないのでございますが、そういう意味において、結局ただいま御指摘の承認、未承認ということよりも、法律論としては、旅券法十三条の一項五号の解釈、運用に帰すると思うのでございます。この点で、結局承認なり未承認というふうなことの区別が若干結びついてくると思うのでございますが、未承認国に対して渡航するということが、当然にはいまの旅券発給拒否理由に該当するとは私も考えないのでございます。けれども、これに関連しまして、未承認といえば、つまり、条約関係国交が回復されていないということになりますと、そこに承認関係の国とはかなり違ってくる。つまり、条約上の結びつきのある国でありますと、相手国におきましても相互に条約を尊重する義務がございます。そういう意味において、わが国がその相手国に対して、国民保護のために必要な措置をとる、要求をするという場合に、これが相手国においてその要求を条約に従って慎重に考慮するということになるわけでございますが、条約関係のない国でありますと、その点が必ずしも明確でないし、当然には保障されない。そこで、御指摘のように、未承認の国の場合には、常にわが国民渡航した場合に保護されないのかというと、そういう抽象論というか、一般的にはわれわれも考えないのでございます。しかし、これはやはりケース・バイ・ケースで考えなければならないのであって、一般論として、どこの国とか、あるいはいつの時代、時期とかいうふうなことを離れまして、一般的には、この承認関係の国に対する渡航とで区別が出てくることはやむを得ない。しかし、御指摘のとおりに、未承認の国に対する渡航であるから、一律に同じようにきびしく規制するとか、あるいは当然に渡航旅券発給を拒否する、こういう結論にはならないのでございますし、また判例におきましても一つ、東京地方裁判所の、三十五年でございましたか、判決がございますが、未承認国に対する渡航であるからということだけで、その理由のみをもって旅券発給を拒否するということは、ただいまの旅券法十三条一項五号の不当な拡大解釈であるというふうに申しております。下級審の判決でありますが、この趣旨には私も賛成でございます。しかし、だからといって、この未承認の国に対する渡航承認関係の国に対する渡航と全く同じように扱われなければならないかというと、かなり条件というか、事情が違っている。その意味で、一方には五年間の数次往復旅券を出すということがありましても、一方の未承認国に対する場合にはシングルな旅券を出すというふうに、従来どおりの扱いといたしましても、この差別は必ずしも憲法の、法の下の平等に反しない。法の下の平等というのは、何ら差別する理由のない場合、つまり、不合理な差別の場合に憲法違反とするのでありまして、ただいま申し上げましたように、条約関係によって、日本の国が、相手国邦人滞在するときに、これを保護するについての有利なある程度保障のある場合と、そうでない場合とによりまして、差別を設ける一それも程度によりますが、ある程度差別を設けることは、憲法違反考えないのでございます。  それから、いろいろ御質問がこまかくございまして、一々お答えするのがあるいはできないというか、漏れているかと思いますが、その点はあとで御指摘いただきまして、外務当局外務大臣が、ただいまの国益、公安条項でございますか、それを適用して旅券発給を拒否するということになっておることは、非常に乱用のおそれがあるという御指摘でございます。私も、できるだけこのような規定は条件を明確にすることができれば、立法技術的に見て好ましいと思うのでございます。しかし、若干私の感想を申し上げますと、これは旅券法にはそれほどその点について特別な規定が見えないようでございますが、権利の救済制度につきましては、その後、御承知のように三十七年の十月以来、行政事件訴訟法の規定も国会を通り、実施されているのでありまして、たとえば、先ほどほかの参考人のほうの意見の中にもございましたが、中共あるいは北鮮に対する旅券発給申請した、ところが、外務当局のほうでははっきり拒否はしないけれども、しかし、その申請書の受理を容易にしないとかいうふうなお話がございます。事実を私は存じませんけれども、もしかりにそのような発給申請をし、その申請を受け付けない、あるいは受け付けても直ちに措置をしない、拒否あるいは発給するということをきめない場合には、現行訴訟法によりますと、不作為の違法確認の訴えという道も新しく開かれているわけでございます。かつての二十八、九年あるいは三十年代の初期に見られたようなそういう場合とは、救済の手続法はかなり改善されているわけでございます。また外務大臣の判断が誤っているという場合には、むろん御承知のように訴訟で争い、裁判所審査を受けることができるのでありまして、この点は、若干入管法のたてまえとは違っていると思うのでございます。国民の場合と外国人の場合とにおきまして、憲法のほうから申しますと、二十二条が適用されるかされないかという相当の違いが出てまいりますが、旅券法の場合には、国民海外渡航でございますから、むろん憲法の二十二条が正面から適用されまして、したがって、その行政当局裁量権の乱用の疑いがある場合には、訴訟上の救済によってこれを直すことができるし、また、将来のそういう事態に対しては、判例によってかなり明確にその点の是正はできると思うのでございます。また、先ほどもちょっと申し上げましたが、承認、未承認という区別は、これは現実にはそういう国によって違いがあることは明瞭でございますが、ここでは、私は外交のほうの特別の専門というか、その立場ではございませんけれども、結局、先ほど申しました海外渡航の自由がどういう場合に制限されるか、あるいは現行旅券法の十三条の規定などがはたして人権の規定から見て合憲であるかどうかというふうな問題につきましては、結局公共福祉に反する場合はどういうことかということできまると思うのでありますが、国内の国民の生活につきましては、ほとんどの国法が適用される状況でございます。ところが、海外渡航いたしますときには、その国民に対しては一般のわが国の国法はかなりの場合ほとんど適用されなくなる、身分的な属人的なものを除きまして適用されなくなる。そこで、公安関係という御指摘がちょっとあったかと思いますが、そういうものについては、これを一応旅券法のいまの発給拒否の条項の中に入れる必要があると私は考えるのでございます。また、国益ということばははなはだ不明確でございますが、これは日本国家利益ということでございますが、民主政治あるいは国民主権ということから見まして、国民の総意によって運営される日本の政治あるいはその意味における国家立場というものが、特に外交関係におきまして――これも先ほどほかの方から御指摘があったかと思いますが、いまの中共でありますとか、北鮮のような場合でありますと、同じ国の中に別の政権が樹立されている。これをどういうふうに評価するかはむずかしい外交の問題でございまするけれども、そういう場合に、一方の政権とはわが国が条約承認関係にあるし、他方はそうでないといたしますと、その間の調整はどうするかということは、一般の未承認国の場合とかなり違うと思うのでございまして、そういう場合に、これはだから渡航する国民個人の保護の問題から少し角度が違ってくるのでございますが、渡航によって生ずる国益にはたして害がないかどうか、こういう判断でございますが、この点は非常に私としてはむずかしいし、またはなはだ遺憾なことだと思うのでございますけれども、現実には要するにまだ国交回復してない国がある間は、そういう差別が出てくる。その場合の判断は外務当局だけでなくて、結局これは同時に裁判所審査ということも考慮いたしまして、そのような意味で慎重に考えなければならない、かように先ほどから申し上げたのでございます。あるいは答弁が不十分かと思いますが、なお御指摘をいただきましてお答えしたいと思います。
  20. 穗積七郎

    穗積委員 いろいろお尋ねをして、御意見を伺いたいことがありますけれども、時間も限りがありますから、二点だけ、ちょっといまの問題をしぼってお尋ねをいたします。  私が先ほど言いましたことはこういうことなんです。承認国と未承認国との間に国際条約上または外交上区別が生ずること、そんなことを一般的に議論をしておるのではないということ、これはこの点に限定をしていただきたいのです。すなわち、旅行の自由というものはその個人に属した権利です。その場合に、その個人個人の思想上の立場、政治的立場あるいは経済的その他の立場、宗教上の立場等々は差別をしないで、これは享受すべきものだと思います。その旅行自由の原則に限って見たときに、承認国と未承認国差別をしなければならない条件、または手続差別をしなければならないということは、何を基準にして差別をしなければならないかといえば、それは一つ保護の問題、すなわち、旅行者の立場に立っての保護に対する政府責任あるいは義務といいますか、そういう立場から、手続上については承認国とは違った心配があるということで、すべての点を検討をして、そして本人の旅行の安全のために手続や条件を区別するということはありましても、そのときの基準は何かといえば、これはまさに旅行者自身の側に立っての安全保護のことだけを基準にすべきだと私は思いますが、その点を私はお尋ねしたかったのです。この場合における承認国と未承認国との区別は、旅行者自身の安全保障立場に立ってのみ、これは手続上あるいは条件上の多少の区別はやむを得ない。やむを得ないけれども、その基準はいま言ったとおり、旅行者自身の保護のためである。それ以上の公安のものであるとか、あるいはその他の理由によって差別すべきではないと私は思うのですよ。  それから第二点は、国益、公安の問題です。こういうことですよ。その人が、さきに出たように、麻薬、あるいはその国でも禁止されておる賭博、あるいは淫売、または銃砲弾薬、そういうかの国でも禁止されておる、公安といいますか、公の秩序に非常に明瞭に悪い影響を及ぼすことを計画しておる旅行目的、そういうものは別ですよ。そうでなくて、その人が同じ目的で、同じ旅行の趣旨で旅券申請を出したときに、承認国ならば先ほど言ったような数次五カ年間の包括的な旅券が出る。それと同じ条件、同じ目的をもって未承認国へ行こうとしたときには、これは差別はあるべきではないと思うのです。まさに保護の問題だけになると思うのです。それで、公安の問題というのは、これはわが国の政治の歴史の中で、国益、公安を拡大解釈して基本的人権がじゅうりんされた苦い経験がある。のみならず、最近においてはその危険が増大しつつある。こういう政治情勢の中では、また法理的にも、当然国益、公安というようなばく然とした抽象的なものの場合には、これは明確に限定すべきものである、より具体的に制限をすべきものであると考えます。そのときに、一例をあげてお尋ねいたしましょう。たとえば同じ未承認国であって、分裂国家、分裂政権がある場合でありましても、中国には同じ政府旅券を出した。ところが、朝鮮民主主義人民共和国には、他の条件は全部同一であるけれども、それには同じ政府が同じ人に対して出さない。これは一体国益の立場で認めらるべき制限でございましょうか。私は、明らかなる乱用であり、偏向である、基本的人権の侵害であるというふうに考えるわけです。  それから最後に、ちょっと先生のおことばで誤解があると思いますから、先生の名誉のために、質問をして明らかにしておいていただきたいことがある。行政執行者に国益、公安の拡大解釈や権利の乱用があった場合でも、裁判制度訴訟等によって救済措置が認められておるのだということを盛んに先生はさっき言われましたが、それをエクスキューズとして、多少の拡大解釈や乱用もまたそれほど心配したことはないという印象を持たれるわけですよ、さっきの御意見の陳述では。先生はそういうお考えで言われたのではないと思うのです。裁判上あるいは訴訟上の救済制度があるから、多少の拡大解釈や乱用はそれほど気にしなくてもいい、そういうことでバランスがとれておるというふうに説明さるべきではなくて、それがあったにしても、やはり国益、公安というようなものの拡大解釈や権利の乱用が政府に行なわれることに対しては、民主法治国家においては厳格に制限すべきものである、そういう立場を明確にしていただきたいと思うのです。これは先生の学識あるいは立場から見て当然のことですが、先ほどの御陳述の中では、人によってはいささか誤解を招く印象を持ちましたので、これは友好的にちょっと質問の形で申し上げておきますから、先生の名誉のために、そういう救済措置があるからということによって権利の乱用、拡大解釈に対してルーズであってはいけないのだという点は、これはひとつ態度として明確にしておいていただきたいということを期待いたしまして、三つの点についてお尋ねをいたします。
  21. 田上穰治

    田上参考人 順序はちょっと正確でございませんが、最後に御指摘になりました、裁判所の救済、訴訟上の救済があるから拡大解釈もそれほど問題にならないというふうに申し上げたといたしますと――そういう意味でお聞きいただいたといたしますと、直すことをお許しいただきたいと存じます。  むろん、法律学の議論として、権利の乱用は違法である。でありますから、乱用にわたってならないことは当然でございます。あとになって裁判所が判決で取り消せば、それで関係当局責任が免れるという意味にはとうてい解釈できないのでございまして、一つは、そういう乱用を未然に防ぐための立法的な措置、これも当然常識的にくふうしなければならない。と同時に、裁判所にすべてを依頼する、依存するというのでなくて、第一は、民主政治は国会の政治でございますから、国会において、国民の名において、そのような乱用のある場合には、行政当局に対して説明を求め、責任を追求するということは当然でございます。  それからなお、いろいろまだ御質問なりお尋ねを受けておりますが、未承認国ということばは、あるいは使わないほうがよろしいかと思いますが、いまの外務大臣の告示あるいは指定によりまして、数次の往復旅券を出さない場合、あるいは包括的な記載をしない、これは当然結びつくわけでございますが、そういう場合は法案で予想されておりますけれども、御指摘のように、たとえば北鮮であるとか――中共のほうは旅券の問題はだいぶ違うと思いますけれども、現実に北鮮には旅券がほとんど出されていない。国会議員以外には最近出されていないように……。(穗積委員「全然出て出ておりません」と呼ぶ)このことは、法律直接というよりは、私は、そういう法律上当然に旅券を出してはならないというふうな規定とは見ないのでありまして、つまり、未承認国であるから、あるいは北鮮であるからというだけで、何らのそれ以外の理由なく旅券を出していないとすれば、これは現在の旅券法が悪いというより、むしろ旅券法の趣旨に反する、かように私は考えるのでございます。旅券を北鮮なりあるいは未承認国であるから出さないという、そういう簡単な論理でありますというと、これはまあ判例、地裁の判決においても、それは認めておりませんし、私どももそういうふうに旅券法を解釈することはできないと見るのでございます。国益あるいは公安を害するということには当然にはならないと考えております。先ほども申し上げましたように、さらに一歩進んで、そういう承認、未承認というふうな区別がなくなるように、国交をできるだけ回復するという努力が必要だと考えますが、これは法律学の議論でございませんから、一応その程度にしておきたいと思います。  それから、いろいろ御質問がありました渡航者の個人的な政治あるいは宗教、思想、そういうまあ広い意味における一種の信条とでも申しますか、そういうことによって差別をして、ある特定の種類の信条を持っておる者に対しては旅券を出さないとかいうようなことは、これは私は憲法の規定、趣旨、原則に反する、憲法十四条の規定に反すると考えております。したがって、旅券法にもしそのような規定があれば、それは憲法違反でございますが、私は、旅券法はそのように考えていないのでございます。ただ、実際の運用において、あるいは御指摘のように、具体的な事例として、渡航を希望して旅券発給申請した者に対して、信条による差別、つまり、宗教、思想あるいは政治的な立場によって、それだけで差別をするということはできない。しかし、そのことが、繰り返しになりますが、あるいは日本外交上の利益、まあこれも広く考えると、かなり乱用のおそれはありまするけれども、たとえば旅券の問題から離れまして、いろいろたとえば刑法の規定などを見ましても、個人の法益を保護する規定、あるいはその意味の罪の規定でございますが、それを離れまして、公益というか、あるいは外交上の利益、そういうものにつきましても、極端な場合、著しくこれを害する場合には、必ずしもその個人の法益を害しなくても罰則を適用することがございます。私の申しました公共福祉に反する場合というのは、必ずしも渡航者一個人ではなくて、一応それを広げまして、在留法人の一般利益、さらにこれをもう少し広げますと、国会あるいは――国会において条約は御承認になるわけでございますが、そういう最高機関としての国会が明確に決定された、条約を通して決定されたような外交の方針、こういうものに明らかに矛盾するような場合は、公共福祉に反するものということが一応いえるのではないか。しかし、条約そのものも、常に絶対に正しいものであるとはいえませんけれども、一応われわれとしては、そういう意味において条約関係を著しく阻害するような場合には、これがひいて公共福祉に反するということにもなるのではないか。こういう意味におきましては、条約内容をさらに国会においても御検討いただかなければなりませんし、またできるだけ広く条約によるわが国との国交が回復するように持っていかなければならない、こういう前提はございますが、しかし、とにかく締結された条約につきましては、誠実にこれを順守するという憲法の規定から考えまして、条約関係を著しく阻害するような場合には、その渡航者個人の保護――厳密には結びつかないようでございますが、それはやはり公共福祉に反するものとして、この海外渡航の自由、広くいえば、そういう旅行の自由というものを制限することも可能である。けれども、これもやはり常に必要最小限度という条件はございます。最大限度人権を尊重するというのが憲法十三条でございますから、逆に公共福祉に反するものを取り締まる、規制するという場合は、必要最小限度でなければならない。この判断を誤りますと、繰り返しになりますが、これは違法であり、したがって、訴訟上の救済と同時に、これは違法ということになれば、関係当局責任ということも、民主政治の上から同時に問われる性質のものでございます。
  22. 穗積七郎

    穗積委員 お尋ねした点が少しそれましたけれども、時間がまだ自由にあるわけではありませんから、少し前へ進めたいと思います。  そこで、お尋ねいたしますが、もう一点、先ほどお尋ねした中で、これは、先生は実務家でもないし、それから裁判官でもないわけですから、国益の乱用であるかないかということの判定をされることは、必ずしも答えることが適当でないとお考えになれば、お答えいただかぬでもいいわけですが、先ほど言ったように、同じ人が、同じ旅行目的で、同じ政府に対して、中国並びに朝鮮へ続いて旅行しようとした、便宜上ですね、北京から平壌へ続いて行くのだといって、申請をしたときに、中国には出したけれども、朝鮮民主主義人民共和国に対しては、渡航先として記載を拒否したということがありましたときに、これは国益の乱用ではないか、こう思うのです。その場合、旅行目的が初めから、非常に公安を害する、社会の秩序、善良な風俗に反することをどうも計画しておるようだ、その証拠は顕著であるというときには、これは別ですよ。許可さるべき範囲内における旅行目的、それで、中国には出したが、朝鮮には出さなかった、こういうことになりますと、朝鮮はいま罰則に触れる結果になるわけですね。こういうことは、私は国益解釈の乱用であると考えておりますが、それは具体的にどうお考えでございましょうか。  それから続いてお尋ねいたします。  さっき第二の重要な先生の御意見の中で、大事なのは横すべり罰則の問題なんですね。これはもし誤解があると先生の名誉のためにいけませんから、ちょっと失礼ですが、申し上げておきます。横すべり制というのは、本人が従来の規定には罰則がなかったので、その抜け穴を利用して、それでつい渡航目的記載追加または記載手続をあえてしないで、脱法または違法な横すべりをやったんだということではないのです。横すべりといえば、そういう印象を持ちがち、違法あるいは脱法性を連想しがちでございますが、そうではないのです。全然出さない。同じ政府の中でも、通産なり大蔵が、大いに北朝鮮へ行って貿易をやってくれ、中国ともどんどん拡大してくれということを言っておる。それは責任ある態度で奨励されておる。私語ではないのです。それで今度は、外務省法務省はこれをチェックする、こういうことなんですね。そうなれば、申請を出して発給するのは外務省ですから、外務省がうんと言わぬ以上いけないわけですよ。そこで、外務省は一体なぜかといえば、それがもし知れた場合には、韓国から、二分政権の中の一方の韓国から、わが国に対して適視だ、非友好的だといって文句をいってくるから困るのだ、こういうことになるわけですね。それ自身が私は国益判断で間違っておると思いますけれども、そういう事実ですから、実は外務省も、北朝鮮へ行く目的であるということは初めから知っているのですよ。事前に知っておるわけで、行った事実は、何か情報によって行ったことを知ったのではない。脱法または違法行為を知ったのではないのです。初めから知っておる。なぜそういうことをするかというと、日本政府が平壌または朝鮮民主主義人民共和国へ行くということのその渡航先記載した旅券をその者に出すことは、韓国に対して敵視行為をとったということをみずから証明することになるから、黙って行ってくれ、もし文句が出たら、こっちはそんな者は許可した覚えはないのだというエクスキューズをもって韓国には説明する、そういうことがもう公然たる秘密といいますか、もっといえば、暗々裡の了解のもとで、便宜的にそういう方法がとられておったわけですね。  それからもう一つは、初めから渡航目的はなくても、中国へ行っておる最中に、たとえば商談上あるいは友好上の政治的の意見の交換の中で、隣国の朝鮮にもぜひ足を伸ばすことが貿易上必要になってきたということで行こうとする、そういう場合も多々生ずるわけです。そういうときに、届け出の義務は、これは旅行者に負ってもらっていいと思いますけれども、それに対して全然出さないという事実がずっとあったわけですね。その上での横すべりなんですよ。だから、横すべりは違法性もなければ、違法の主観も全然ない。犯意もないわけです。全然犯意はない。政府もそのことは知っておる。それで、むしろそれを奨励しておる。そういうことで行なわれてまいりましたから、罰則がないから、これで助かっておったわけですよ。今度はそれに対して、いまおっしゃるように、差別待遇をするのはあたりまえだ、国益の判断でこれは制限して解釈すべきであって、乱用は慎むべきであるけれども、それもまたやむを得ないという解釈になってまいりますと、そうすると、未承認国であるということ、それから外交上の国益、そのときの政府の方針に合致しないということ、国益に反するという理由で発給しない。それで行ったときには、一方的に罰則を受ける。本人は全然犯意はないですよ。こういうことがこの法律でできてくるわけですね。これは法の構造上から見て、もう全く矛盾撞着もはなはだしい法の構成であると私は考えるわけです。この横すべり罰則問題についていかがでございましょうか。
  23. 田上穰治

    田上参考人 お答えをいたします。  ただいまの御指摘の事実は、私よく存じません。で、もしそういう事実であるとすれば、私もはなはだ不合理があるというふうに考えるものでございます。一つは、先ほどちょっと私申しましたように、この罰則はむしろ秩序罰的な、秩序犯というか、行政上の秩序犯ということであって、つまり、届け出を怠った。あるいはいろいろなほかの許可制の場合にも、許可の手続をとらなかった場合、実際に実質的には社会の一般公衆に不利益を与えない、あるいはその他実害のない場合であっても、その手続を怠ったということによって罰せられる、こういう制度はかなりございます。むろん、それは刑罰犯罪と申しましても、性質はかなり違うわけでございまして、刑法に書いてあるような犯罪とは、刑事犯的、自然犯的なものとは非常に違うものがある。制度的にはこれももう御承知のとおりでございます。そういう意味で、私も実情はよく存じませんけれども、この三万円の罰金という金額はともかくといたしまして、これは、一応その他の旅券法二十三条にございますかなりのものが一年の懲役以下の刑罰ということでございますが、それとの比較の上で、私は罰金刑相当であろうということで、原案に賛成なることを申し上げましたが、その一つ意味は、これは秩序罰的なものである、秩序犯に対する処罰というふうに半ば理解しているものでございます。しかしながら、その理屈とは別に、ただいま御指摘のような実情であるとすれば、これはやはり早急にこの運用において改めるべき点があると思うのでございまして、つまり、罰則をつけて、従来と違って――御指摘の点であったように、従来とかなり違うわけでございます。しかも正面から渡航先追加義務というものを強制し、そして従来暗黙に義務に反してもというふうなことでもしあったといたしますと、非常にたてまえが変わってくるわけでございますから、もしそうであるとするならば、従来の実際の措置、つまり、中共にはある程度旅券を出すが、北鮮には出さないというふうなことは、やはりすみやかに変える必要がある。運用において、北鮮に対してもさらに従来のようなことでなくて、相当数の旅券発給すべきであるというふうに私は考えるのでございます。  その前提としまして、これもいま御指摘がありましたが、なぜ北鮮と中共と区別するかといえば、私もやはり考えておりますのは、これはもう一つ別の承認関係の政権が双方ともございます。中共の場合には、中華民国、台湾のほうの政権がございます。そして北鮮の場合には、別に南のほうの韓国の政権がございます。そこで、それとの関係において相当違うのではないか。つまり、私もしろうとでよくわかりませんが、中華民国のほうの側ではそれほどわが当局に対してきびしいいろいろな注文と申しますか、あるいは妨害のようなことはなくて、だから比較的容易にこの中共のほうには旅券が出せるが、北鮮のほうには反対の事情から容易に出せないということがあるかと思うのでございます。で、私は、これは必ずしも現在の旅券法十三条一項五号の国益、公安条項の解釈上、外務当局が間違っていると断定はいたしません。つまり、国益という中には、先ほどから申しました日本外交上の利益、しかし、それはただばく然と外務当局考えた、外交上このほうが都合がよいというようなことではなくて、そこにはやはり条約というものが一つ加わるわけでございますが、条約によって裏づけられた関係、この点でもってそういうものがそういう意味における外交上の関係に著しく妨げのある場合に、これが国益に反するという解釈が成り立つ余地はあると思うのでございます。しかし、これもむろん具体的に程度問題でありまして、条約関係をある意味で利用して、相手国が不当にきびしい要求なり注文をわが外務当局に突きつけてくるとすれば、それをすべて無条件にのむというか、それに従うということではなくて、これも私は法律学者の立場で、外交の実務の立場ではございませんから、比較的簡単に申すわけでございますが、法律学者としては、できるだけそういう一方の相手国態度に対しては外交上ひとつ反省してもらって、そういう障害をできるだけ排除して、旅券が出せるように努力すべきである。言いかえれば、少なくとも中共の程度に――中共と北鮮によって渡航者の間に旅券発給が非常にアンバランスになっているという、ふうなことは、私どももはなはだ不自然だと思うのでございます。全く根拠がないとは思いません。これはいまのもう一つの政権が違っておる。中薬民国と韓国という違いがあるからでありましょうが、しかし、その違いからどのような極端なアンバランスが生じても、それは結局外交上やむを得ないのである、すべては国益から見てしかたがないというふうな解釈は好ましくないし、またおそらく、こういうことは裁判所においてもそう簡単に容認されないと思うのでございます。法律学者というのは、裁判官ではございませんが、こういう問題につきましては、幾ぶん近い立場でございまして、直接政治、外交立場ではなく、幾ぶん外部から第三者的な立場憲法法律に照らして批判する立場でございますが、そういう意味においては、おそらく裁判所考え方もわれわれとそれほど違っていない、かように見るのでございます。  もう一度つけ加えますと、現状でもし御指摘のように、北鮮に対する旅券の出し方が非常にわずかであって、国会議員以外には出していない、そして中共に対する場合と非常に違っているということでありますと、これは一応事は外交に関する、そしてそれは中華民国と韓国とのわが国に対する態度の違いということのように思われますけれども、これはやはり外務当局としてはできるだけ努力をして、できるだけ近い機会にその非常なアンバランスを解消するようにつとめていただきたい。これは私の希望でございます。
  24. 穗積七郎

    穗積委員 最後に、二点田上先生にお尋ねいたします。いろいろありがとうございました。  私は、台湾と韓国政府の対日政策、態度が違うことを前提として考えることは間違いだと思うのです。わが国が中国あるいは朝鮮と経済、文化の交流、人事の交流をやろうがやるまいが、そのことは自主的な内政問題です。それに対して台湾や韓国が文句をいってくる、これは不当な干渉ですよ。さっきおっしゃったように、両国に対しては、われわれは反対だけれども、とにかく日韓条約、日台条約というものがあります。その条約に基づいて、日本政府がそれに違反し、あるいは履行の義務を怠っておるという場合に文句をいうのはいいですよ。それはある意味で政治的には賛成しなくても、法律的にこれはジャスティファイさるべきものでしょう。ところが、韓国、台湾に関係のない、すなわち、中華人民共和国あるいは朝鮮民主主義人民共和国とわが国の人民が文化、経済、人事の交流をやることが、何の干渉を受けるべき筋合いがありましょうか。国際的に見まして、その不当な干渉によって、われわれ日本人民の基本的人権というものがそれを理由にして侵されるなんということは、法律的に見て、これは許すべからざることではないでしょうか。それを一点お尋ねしたいのです。  第二点は、それは罰則の問題です。罰則は、私も立場としては反対であります。もし置いたとしても、置いてあるこの法律があったとしても、事の性質上、これはさっき言ったように、秩序罰、すなわち行政罰にすべきことだと思いますね。そうでありますならば、罰金ではなくて、過料にすべきことである。さらにはなはだしきあやまちというものは、さっき言ったように、旅券の無効、没収あるいは再発行の拒否、こういうことまで刑罰の内容が発展しておるということは、これははなはだしき権利の乱用であると私ども考えます。したがって、先生の言われる秩序罰、これはあえていえば、私は行政罰でとどめるべきものである。やるとしてもですよ。やることに賛成ではありません。やるという論理に立ち、必要に立っているという法治国としての日本政府の論理からいきましても、これを越えるべき筋合いのものではないというふうに考えますが、その点は先生はどういうふうにお考えでございましょうか。  それから最後に、先ほど平井または相川参考人から陳述されました。私ども旅券法によって旅券発給申請をする正当な権利があるわけですね。それに対して政府は受付をしないのです。受付した上で、法律に従ってこれにノーといい、イエスという場合があっていいですよ。そのことまで言うのではないのですよ。そうではなくて、受け付けることが当然なことではないでしょうか。それに対して、何の法の根拠もなしに、事前審査と称して、共産圏渡航趣意書というものをまず出せ。それは何だといえば、何でもない、紙きれだと、こういうわけです。説明書にすぎない。旅券申請書とは何ら関係のないものである。こういうことで旅券申請の受付を拒否する。怠っておる。これは明らかに違法、権利の乱用行為であると私は考えますが、法律学者としてどうお考えでございましょうか。旅券法に従ってのみ政府は行なうべき義務権利があるわけですが、それを明らかに逸脱いたしました権利の乱用行為であるといわざるを得ないと思うのですね。  その二点について、尊敬すべき法律学者としての御意見を陳述をしていただきたいと思うのです。
  25. 田上穰治

    田上参考人 お答えをいたします。  第一点の三万円の罰金でございますが、今日は過料のほかに行政上の――秩序罰ということばは、学問的にはことばづかいがいろいろございまして、過料ということを秩序罰というふうに、内容ではなくて、むしろ刑罰の罰、処罰の形式についてそういうことばを使う場合があります。しかし、私どもは、先ほどから御質問もおそらくそのように伺っておるのでございますが、実質的な違法性よりも、形式的な手続の上において渡航先追加しなかったという意味における義務違反というか、違法であるというように伺っているのでございますが、私といたしましては、大体そういうふうな考えでございまして、そういう意味で、反社会性が実質犯というほどの顕著なものではない。したがって、刑罰も軽くしなければならないということを申し上げたのでございます。秩序犯といったほうが正確でございますが、行政法上の義務違反行政犯と申しますか、そういう意味において、刑罰は軽くしなければならない。けれども、過料でなければならないというふうには考えないのでございます。過料は戦前にはかなりございましたが、戦後はむしろその点において、罰金刑は必ずしも行政犯に対する処罰としてきびしいとは考えないのでございます。むしろ問題は、非常にきびしくおとりになると思いますが、それは旅券を将来において発給しない、発給を拒否するという効果が伴うことではないかと思うのでございます。それは先ほど私ちょっと初めに申し上げたところでありますが、この旅券発給拒否の現出として、旅券法十三条の一項に五つ列挙してございますが、その中で、いまの第五号あたりはもちろん重大であり、特にそういう比較的例外の場合ということが一応文章の中に織り込んであるのでございますが、第四号の、旅券法罰則、二十三条違反の事実があった場合、これにはいろいろその違法性と申しましても、程度の差があり、しかも、それは一度二十三条によって罰せられますと、当然四号に該当するということになってしまって、あとで反省をしても必ずしもそれが旅券をもらえないような感じがするかと思いますが、私はそのように法文を見ないのでございます。旅券発給または渡航先追加をしないことができるという法文でございまして、これは必ず機械的に発給を拒否するという理由とは見ないのでございます。もしそのように具体的にこの法を適用するといたしますと、それはおそらくわれわれとしても法律の規定に合わないと思いますし、また訴訟の問題になれば当然裁判官のほうからも違った解釈が出てくると思うのでございます。つまり、この二十三条の規定に該当して刑に処せられた者については旅券発給しないこともあるというのであって、常に当然旅券発給されないというふうには読むことができない。ことに罰せられてから何年かたっておる場合、あるいはその違反の理由、事情によるのでございますが、たとえばただいま御指摘になっておる、中共に行く旅券を出してもらって、中共に渡航するためにわが政府から旅券発給された者が、横すべり――このことばもあるいは不適当かと思いますが、渡航先追加しないで北鮮に入ったということで、将来二十三条の規定によって罰せられるといたしますと、その次に今度はまともに北鮮に向けて渡航したいから旅券を出してもらいたい、こういう申請に対しては、また再度横すべりのおそれがあるということを考えましても、それは北鮮の問題ではなくて、この北鮮からさらによその国に無断で旅行するのではないか。こういうおそれがない限りは、北鮮に横すべりをしたという事実が直ちに北鮮向けの旅券発給の拒否の理由にはならないのじゃないか、かような考えでございます。したがって、一応それは旅券発給申請においてはマイナスの事由として一つ計算には入るといたしましても、それだけで直ちに機械的に旅券発給が拒否されるという結論にはならないし、またそう簡単に解釈をし、結論を出してはならないというふうに考えるのでございます。ただ、ほかの場合、たとえば同じく十三条の一号、二号、三号あたりのほうになりますか、かなり明白でありまして、おそらくこれに該当すれば、もう機械的に当然に発給されないという感じがするのでございますが、四号の場合はかなり幅が広いものでございますから、二十三条の規定に該当して何らかの形で処罰されれば、もう何か何年たっても旅券発給されないような受け取り方、読み方もあるかと思いますが、それはわれわれのほうの解釈としては、そういう結論は十分警戒を要するし、また機械的にそのように判断することは誤りであるというふうに見ているのでございます。それから……。
  26. 穗積七郎

    穗積委員 旅券発給由請の受付をしないことです。これは違法です。乱用です。
  27. 田上穰治

    田上参考人 その申請を受理しないということは違法でございますが、ただ、私もその点細目の規定を存じませんけれども、その申請にあたって、添付すべき資料なり文書が――むろんそれはおそらく外務省令か何かの規定にあると思うのでございますが、それが発給審査に必要な限度、無用、無意味な多数の書類、同じようなものを何通も出すということは理解しがたいのでございまして、審査に必要な限りにおいて申請者がその書類を用意すべきである、かように見るのでございます。しかし、この点は、今回の旅券法改正法案の趣旨でもございまして、できるだけ事務の簡素化ということが原則でございますから、もし法律でなくて、政令とか省令の問題でありますと、当然私としては、この改正法案の趣旨に従って、そういう点も簡素化できるものは簡素化すべきである、簡略にすべきである、かように見ております。  それからもう一つは、とにかくそういう法律の趣旨に反する無用な書類を要求し、あるいはその他の事情で発給申請を受理しなかったらどうかと申しますと、それは私はいまのような点を若干考慮いたしますけれども、つまり、常に付属する、添付する書類を要求する制度が当然違法であるとも思いませんけれども、とにかく一応適法に申請をしたのに、当局が受理しない、あるいは受理しても、それに対する適切な発給なりあるいは拒否処分も含めまして、何らかのそういう明確な答えをしないといたしますと、それは違法でございます。しかし、その違法については、先ほどちょっと申し上げましたように、前は、二十七、八年ごろの事件を私は存じておりますが、旅券発給せよという訴えを地裁に出した事件がございます。この場合は、そういう訴訟は初めから不適法であるということで、裁判所がむしろそういう訴えに対してたしか却下の裁判をしたと思いますが、今日はそうではなくて、その点についても訴訟法の改正によって争う、救済が与えられる。言いかえれば、相当な期間経過してもなお当局が結論を出さない、旅券を出すか出さないかという返事をしない、処分をしない場合には、その不作為を違法として確認を求めることができる。確認の裁判があれば、あとはすみやかに当局としてイエスかノーか、発給するかどうかということをいわなければならないという点で、若干ではありますが、従来よりは救済の手続は改善されていると見るのでありまして、御質問に対してちょっとよけいなことを申したかと思いますが、受理しない、あるいは受理してもそれに対して返事をしない、処分をしないということは違法である。しかし、審査に必要な限度において書類の添付を要求し、あるいは必要な限度においてある程度の期間処分をしないで待ってもらうということは適法でございますが、その限度を越えた場合には違法ということで、今日は違法として争えるというか、あるいは非難する、責任を問うように制度がなっていると見るのでございます。
  28. 穗積七郎

    穗積委員 あとに与党の御質問もあるようですから、御遠慮いたしまして、あと平井、相川両参考人に一問ずつお尋ねをして、御意見をお聞かせいただきたいと思います。  両参考人のお述べになりましたことは、理論的にも、また経験的にもたいへん正しいことを陳述していただいたのでありまして、きょうは大臣がおらぬのがはなはだ残念でございますけれども部長、課長はいらっしゃいますから、よく謹聴して反省していただけたということを、私は高く評価をいたしております。いずれ私は、次の機会に、外務、法務両大臣をはじめとして政府当局に対する質問をいたしますけれども、その参考としてお尋ねいたします。  まず、平井参考人にお尋ねいたしたいのは、先ほど申しましたように、渡航趣意書は、私は明らかな違法行為、権利の乱用だと思うのです。いま田上教授がおっしゃったとおりですよ。必要な書類なら受付と一緒に要求すればいいんだ、いつでも出すのですから。そこで、先ほど伺いますと、その趣意書のために三週間から一月かかるという。私どもは、商業上の目的をもって両国その他問題になっている四カ国へ渡航申請をしたことはありません。ありませんが、われわれの経験からいたしましても、たとえば相手の招待を受けたときに、どういう会合がある、セレモニーがあるから、この機会に来てもらいたいということで、それはタイミングがあるわけです、文化あるいは友好の交流訪問の場合におきましても。そういう経験があります。まして、経済のことになりますと、商機がございまして、特に最近の国際的に激甚な競争の中で、政府の非協力のもとでこれを促進しなければならぬということになりますと、その商機を逸する、タイミングを逸するために、非常な損害をこうむる、あるいは損害だけではなくて、全然その行く目的が拒絶されたと同じ結果になるという場合があると思うのです。この趣意書審査、こういうことで受理すらしないということが、今度新法になったら、この手続を相変わらずとるのかとらぬのか、私はお尋ねするつもりでおりますよ。これは大事な問題ですからね。しかも実害を生ずるわけです。だからお尋ねいたしますが、いままでは少なくともこのことが行政上の便宜という理由で不当にも行なわれてきた。そのために非常な実害を生じたという例がおありになるのかないのか。具体的なこまかいケースは必要ありません。そのために商機を逸し、そして渡航者の個人または会社、団体、これが非常な損害を生じたり、あるいはその時期を逸したために拒絶されたと同じ結果になって、実害を生じたということがありましょうか、ありませんか。それを伺っておきたい。それが一点。  それからもう一つは、たとえば第三国、他の国へ行っておった。そうすると、出先から中国、朝鮮、ベトナムへ行く商業上の必要が生じた。そのときに、その国には日本政府の在外機関がありませんから、だから電報その他で追加申請をするわけだ。そうすると、いまの事前審査みたいなことから、政治的な討議から始めるわけですね。その間にまた非常なあれが生ずる。そういうことが、私どもしろうとでありますが、特に貿易上の実務に当たっておられる方からすれば、その時間、タイミングが問題になるわけですね。許可するしないじゃない。そのときに必要なんだということが、横すべりの合法性というか、妥当性というものが、そこでやはり生じてくるのではないかと推測するわけですよ。つまり、いまの渡航先追加の問題について、その実情についてお答えをいただきたい。  それから時間の節約上、失礼ですが、相川参考人に続いてお尋ねいたしますから、一括してお答えをいただきたいと思うのです。これは何かといいますと、実は朝鮮の場合に特に問題が多いわけでございますが、最近、朝鮮と日本との貿易については、日本からのプラント輸出というものがあるだろうと思うのです。私も一、二そういうことを経験したことがございます。そういうことになりますと、わが国から向こうへ国益の増進のために、貿易拡大のために行く必要があるわけですね。ところが、そのために、ソビエトを回ったり、あるいは中国を頼んで通してもらったり、いろいろしなければならないために、非常なヨーロッパとの競争の中で行なわれておるこういうものに障害が生ずるわけですから、いま平井さんにお尋ねしたように、朝鮮貿易の場合でも、タイミングを失したために、大魚を逸したという例があるのかないのか、それをお尋ねしたいわけです。  それからもう一つは、いま申しました取引の中で、プラント輸出が最近になって増加しておるとすれば、そのときには、こちらから行くだけでなくて、向こうの技術者を商談を固めるために呼んで、機械を持っていくわけにはいかぬのですから、来て見てもらって、それを点検した上で、商談というものは妥結するものだと思うのですね。そういうことで、かつて、商談を固めるために、日本の国益になるプラント輸出をするために、朝鮮から技術者あるいは商談の代表者を招待することを申請されたことがあるかどうかですね。それがもし断わられたとすれば、そのために非常に国益を失しておる事実が生ずるだろうと思うのです。その有無についてお尋ねをいたします。  それから、これは近い将来のことですが、漏れ承りますと、ことしの秋あたりをめどにいたしまして、わが国の工業展覧会を朝鮮国内において開くという御計画を進めておられるやに伺っております。もしこれが両者の間において意見の一致を見て実行に移りますならば、中国の場合と同様に、両国の友好理解と貿易増進のために、直接の商淡あるいは説明員以外に人が行くことは当然でありますが、相当の人数の者が行く必要が生じましょう。その場合に、私の考えでは、これらに対して理解を持っておる、あるいは利害関係のある人が、用談は済んでおるけれども、行って向こうの政府または経済関係の担当者と接触をしながら、日本の実情を説明し、向こうの実情を相互理解をする。これは展示会をやる以上は、持っていった物だけを売るのが目的ではない。さらに両国の貿易の潜在的な可能性を顕在的に拡大しようということでございますから、すなわち、日本からの渡航が最小限度の事務担当者だけではなくて、そういうような友好的な相互理解発展のための訪問が必要であろうと思う。そういう計画がありますかないか。この必要をどうお考えになっておられるか、お伺いをしたいと思うのです。  それから最後に、これは共通した問題ですから、両方からお答えをいただきたいと思いますが、いま申しましたようなことで、基本的人権が脅かされただけでなくて、経済上の実害を生じておる例があるだろうと思うのです。それに対して、かつて行政訴訟損害賠償請求を提起されたことがあるかないか。将来は私は起こすべきだと思うのですね。損害賠償請求を含む違法行為に対して訴訟を起こすべきだというふうに思うのです。そうでありませんと、皆さんのような実害をこうむった方からやっていただかないと、われわれがこの裁判を提起して、国益、公安の拡大解釈または行政権の法の範囲を越えた乱用、これを是正することは困難になるわけですから、過去の実害に対しては、これは十分な取り返しがつかぬにしても、これからの、将来の拡大解釈、乱用を戒めるためには、私はいまの三権分立による訴訟制度というもの――田上教授もその点を強調されましたが、私は、これはぜひ実害をこうむった当事者が提起すべき訴訟でありますから、かつてあったかないか。かつてないとしても、今後はこれはやるべきだと私は期待をかけてお尋ねするわけですが、どういうお考えであるか、そのことを御両人からお答えをいただきたい。  以上をもって私の質問を終わります。
  29. 平井博二

    平井参考人 お答え申し上げます。  第一番に、実害を受けたことがあるかどうかという問題でございますが、これは私自身の体験から申し上げますと、ちょうど一九六七年に私一年ほど北京におりました。六七年のいろいろな商談がございまして、北京にも各社の代表がおいでになっております。それで、現実に毎日中国側の貿易顧問と話をするわけでございますけれども、やはり一人では一これは、貿易会社はいろいろ専門の部かございまして、機械にいたしましても何にいたしましても、専門的な知識というものが非常に必要でございます。ですから、一人ですべての商品を扱うということはできないわけでございます。したがいまして、たとえば豆の商談である場合には豆、機械でも、たとえば工作機械の場合には工作機械の専門家というものがどうしても必要でございます。しかしながら、北京におきまして、数カ月間各商社の代表が滞在しておりまして、中国と折衝しております。その中で、この中国市場と申しますものは、たとえば機械を取り上げましても、西欧諸国と非常に激烈な競争下に置かれております。したがいまして、値段の点につきましても、納期につきましても当然のことでございますが、向こうとしましては、技術的な内容、それがたとえば西欧諸国より日本のほうが非常にすぐれておるというような説明を非常に要求するわけでございます。ところが、残念ながら、おります人間は、そのことについてそう専門的な知識を持っておるわけではございません。ところが、西欧諸国の場合には、あとで申し上げますけれども、たとえば西ドイツの場合ですと、世界各国フリーに回れる旅券を持っておりまして、いついかなるときでも中国がオーケーと言ったらすぐに入ることができます。ところが、私どもが商談の過程で、こういう専門家をどうしても北京に呼ばなければならぬ、この専門家と向こう側の最終的なユーザーと話し合いを煮詰めて、この商談を成立させたいと思いましても、六七年の段階におきましては、早くてもとにかく四十日、つまり、先ほど申し上げました渡航趣意書を出すという段階から、旅券をもらいまして、香港のビザを取りまして、それから三日間かかって北京にやってくる、こういう状況でございます。したがいまして、話が起こってから現実にその人が入ってくるまで一カ月という期間はどうしても見なければならぬわけです。こういうことでは国際競争には全然勝てません。したがいまして、六七年のときに、私が北京におきまして各社の方々から痛切なことばとして言われておりますのは、何とかして早く自分たちの必要な専門家がせめてほかの国並みに来てほしい、来れるようにしてほしい、こういうことでございます。現在他の国に対する旅券は、まず趣意書というふうな段階は全くなくて、申請をすれば、およそ一週間ないしちょっとかかる程度でございます。そういたしますと、その時点におきましても、それと同じくらいでやれれば、十日間で北京に飛んでこれる。それが飛んでこれない、こういう状況でございます。この実害については、もちろん計算はいたしておりませんけれども、ほとんどの各社がせっかくいい商談をつかみましても、みすみす西欧に取られる、こういう実害は非常に大きいものだと考えております。  第二点につきまして、それでその次に起こってきます問題は、しかし、何とかしてその商談をものにしたい、非常に偶然的な要素もございますけれども、たとえば西欧諸国の中にそういう機械の専門家がおる、あるいはカンボジアにおる、あるいはインドにおる。国はいろいろございますけれども、こういうところにたまたまその社の専門家がおりまして、そこからすぐ北京に派遣すれば何とか間に合うのじゃないか、こういう問題がございます。この場合にも、今度の法案によりますと、これは全く違法になりますから、現状からいきますと、つまり、二十日間から一カ月間の同じような渡航追加申請期間を経なければどうしても北京に来れない、こういうことになるわけでございます。こういたしますと、今度の法案が通りましても、簡素化どころではなくて、むしろもっときびしくなったとすらいえるわけです。つまり、世界じゅう――大きな貿易会社になりますと、世界じゅうに駐在員がおりまして、また専門家もいろいろあっちこっちに配置をしております。しかし、こういうふうな人材をすぐに使うということが今度の法律では全く禁止される、こういうことになるわけでございます。これが第二点でございます。  第三点につきまして、先ほど申しましたように、各社ほとんどそういう状況を受けております関係上、たとえば、それについての具体的な損害額というふうなものはまだ計算しておりません。したがいまして、これについて損害賠償の裁判というぶうなものは、私どもとしてはまだ起こしておりません。しかし、先ほどお話がございましたように、私どもとしては、いままでほんとうに民間の努力で、六億ドルに及ぶ日中貿易というものを築き上げてまいりました。この主要な功績というものは、まさに民間の商社あるいはメーカー、ユーザー、そういうふうな人たが、こういうほかの国よりももっときびしい制限の中で、差別の中でつくり上げてきたものでございます。したがいまして、そういう意味で、先ほど先生のおっしゃったような損害賠償の問題は、私どもはこれから十分に取り組んでいきたいというふうに考えております。  なお、もう少しこまかに、趣意書手続というものについて、おそらく先生は国会議員という形でおとりになっていらっしゃると思うので、私どもが具体的にこの趣意書の問題でどんなふうにいじめられておるか、はっきり私どもの感情からいえば、そう申し上げたいような実情をちょっと申し上げたいと思います。  つまり、通常旅券申請をいたします場合には、旅券申請書というものをほかの国へ行く場合には出すわけでございます。ところが、私どもの場合には、まず、名前はいろいろありますけれども一般的には共産圏渡航趣意書、こういうものを出さなければなりません。これを出して、これがオーケーでなければ外務省旅券申請を受け付けないわけでございます。先ほど田上先生のおっしゃるように、全く違法な行為をとっておるわけでございます。この渡航趣意書というものはどういうものに基づくかということを申し上げますと、先ほど田上先生は、省令か何かにあるかもしれないというふうにおっしゃいました。私も調べてみました。ところが、この渡航趣意書を出さなければならないという法的根拠をどこにも見出すことができなかったのでございます。渡航趣意書というものを合計で十五通出しております。普通、書類は本文とそのほか若干のコピーということはございますけれども、一体十五通も出して、この十五通がどこへいくのかということでございます。私どもの聞いた範囲内では、この十五通のうち、大体十通ぐらいは、むしろ法務省あるいは公安当局、治安当局、そういうふうに回っておるというふうに聞いております。私ども貿易関係でございますから、一通はまさに通産省のほうに回るだろうと思いますけれども、これがどういうわけで十通もこういった公安、治安当局のほうに回らなければならないのか、全然私どもにはわからないのでございます。しかも、その渡航趣意書のほかに、相手国中国から参りましたインビテーション、これもコピーをつくりまして、やはり十五通そこに添付して出さなければなりません。つまり、確かに中国側が呼んだかどうかという証明がなければいかぬ、こういうことでございます。旅券申請以前において、そういうことをまず要求されておるわけでございます。それではほかの国はどうかと申しますと、私どもの聞いておりますところでは、ソ連、東欧諸国の場合には、現在五通になっております。そうして、これに対する外務省側の回答も、この渡航趣意書を出しまして翌日か、おそくも翌々日にはほかの国並みに旅券申請をしてよろしい、こういう回答でございます。ところが、中華人民共和国、こういうことになりますと、少なくとも三週間、一カ月がもうざらだ、こういうふうな状況でございます。先ほど、先生はタイミングということをおっしゃいましたが、つまり、もう相当以前からやらなければなりませんけれども、それにつきましても、相手国の招待状というものが要るわけなんです。そうしますと、相手国といたしましても、日本の事情を考慮して、半年前に招待状を出すようなことは、まず常識的に考えてもあり得ない。ちょうどその時間に間に合うような時期に相手国も出すのは、これは当然のことでございます。ところが、間に合う時期にいただいたインビテーションをつけて、それから渡航趣意書を出す、こういう段階でございます。それでは何回も渡航申請書――つまり、旅券は半年間出発まで有効でございますから、一年に二回申請すればよいではないか、こういう問題がございます。しかし、それでは外務省は受け付けない。相手国のインビテーションがなければ、旅券も支給しない。まず渡航趣意書を受理しないわけです。ですから、そういう形になりますと、これはもうどうしても相手国からインビテーションが来なければならない。しかもその渡航趣意書を出してから、二十日から一カ月間どうしても待たなければならない、こういうふうに置かれております。  これは一般的な内容でございますが、もっと詳しく申し上げますと、こういうことがございます。これ以外の文書までいろいろ要求されております。たとえば私ども貿易の場合になりますと、これはどこから来るかわかりませんが、特にメーカーの場合で、あるいは商社の方でも、特にそういった機械関係、ココムの関係とか、こういうものと疑われるような技術なり、そういうものの渡航者の場合には、その人に対して、あるいはその会社に対して、どういうことを話しに行くのか、どういう技術交流の内容を話しに行くのか、こういうふうな問い合わせがございます。つまり、商売の話をするときに、その商売の内容がココムにひっかかるかどうか。ココムそのものも当然問題でございますが、それはちょっと別にいたしまして、そういうことを口実にして、旅券申請をする以前に、そういう調査なり問い合わせなり、調べというものがございます。それから公務員の場合には、これは地方公務員まで含めまして、監督官庁と申しますか、主務官庁と申しますか、そういうところの旅行許可書というものが必要でございますが、これもほかの国とは違いまして、渡航趣意書の段階で一緒にあるいはそのあとで、やはり十五通要求されております。しかもこれは原本をそろえて十五通要求されております。また、労働組合員の場合ですと、組合専従者でありましても、休暇証明書というものを教育庁からもらって、それもまた十五通コピーをつくって出さなければなりません。また、大学の教授である場合には、以上のほかに、たとえば日程表を非常に強く要求されます。どこの大学に行くのか、どういう研究所に行くのか、どういう内容を話しに行くのか、その日程表をこまかにしたものを要求されるわけでございます。これも趣意書の段階において要求されておるわけでございます。また、労働事議などが起こりまして、それで裁判をしております場合には、担当裁判官の証明書が必要とされておりますが、同時にまた、本人から、公判期日に間に合うように帰ってくるとか、それに類した一札をとる、こういうこともございます。  つまり、一般的に、趣意書というのは、たとえば中国に行きます場合には全部に強要されておるわけでございますけれども、その中を見ますと、さらに細分化されて、こまかいさまざまな書類、そういうものが要求されておるわけでございます。したがいまして、これはもう私どもの感じでは、明白な事前審査でございます。私どもがほかの国に行く場合には、直ちに外務省旅券申請をしておるわけでございますけれども、それ以前に趣意書を出して、そしてそれが公安、治安当局で、いわば思想調査と申しますか、何と申しますか、わかりませんけれども、こういうふうな調査を全部やられて、しかもそれが二十日から一カ月間かかって、その上でやっと一人前に扱ってもらえる、こういう状況でございます。そしてそのときに外務省から参りますものに、その趣意書の受付のナンバーがございます。この何番と何番のナンバーの趣意書はおりました、こういう返事でございます。おりなかった場合にどうなるか。旅券申請すらも全然できないわけでございます。  以上申し上げましたように、たとえば中国へは旅券を出しておるではないか、こういうお話でございますが、その旅券を実際にいただくまでにこれだけの多くの不当な差別を私どもが受けておりまして、しかもこういった考え方で現在のこの法案が成り立っている、こういうふうにしか私は思えないのでございます。
  30. 相川理一郎

    ○相川参考人 御質問の第一点は、ソビエトもしくは中国を経由して行くというようなために、商機を逸し、損害を受けた事実はないかというお尋ねであったと理解いたします。その問題についてお答えいたします。いろいろありますけれども、典型的な例を一つ申し上げたいと思います。  昨年、私どもは朝鮮に約六百台の工作機械の売却契約をつくりました。そのうち三百五十台は、昨年中に朝鮮に船積みをしまして、これは日本円でいいまして約十億円ほどになります。これは通関統計に載っております。それから残りの二百五十台、約十億円は、ことしになって船積みされるもので、契約残として昨年末では残ったものです。こういう工作機械の大きな取引のほかに、これはいずれも昨年の春に成約ができたものでございますが、さらに昨年の夏から秋にかけまして、工作機械の追加商談が参りました。これは全体で百三十台で、金額は、かなり今度は大型のものがございましたので、三十億円ぐらいになる見込みでございました。日本の業界では、まとまった工作機械がすでに契約ができている上に、重ねてこういう大きな注文が来たので、たいへん意気込んで、私どもの会員商社の者たちも非常に積極的にこれに取り組んだわけです。そしてその商談がたいへん先方で急ぐということでございましたが、昨年の十月に、今年度の朝鮮との取引商談を進めるために、私どもの会員商社を中心に約三十名ほどの商社代表団をつくって、朝鮮へ年末に送りました。実はここで百三十台、三十億の商談を固めるという期待をもって出ていったわけですけれども、すでに日本側の代表団が着いたときには、これが西独のメーカーに全部振りかえられて、西独にかわってしまった。せっかく準備して行ったけれども、あと口の商談は一台もまとめることができなかったというような……。
  31. 穗積七郎

    穗積委員 行程が予定よりどのくらいおくれましたか。一月くらいですか。
  32. 相川理一郎

    ○相川参考人 朝鮮側から来たのが九月でございますから、十月の末にこちらを出ていったんですけれども、そういう典型的な例がございます。  それから次の御質問ですが、そういう大きなプラントや機械類の商談のことで先方の貿易の代表とか技術者を呼ばないために、損害を受けた実例はないかというお尋ねでございますが、これはかなりたくさんの方が御記憶でいらっしゃると思いますけれども、四十一年に、私どもは朝鮮にアクリルの繊維プラントを輸出するための商談を進めました。この商談は、アクリルの原料から綿をつくり、綿からさらに糸をつくって製品をつくるという一貫のプラントで、全体では日本円にして四百億円ぐらいになる大規模のものでございました。原料から綿をつくるまでを第一段として商談が進められてきまして、そしてこれは仮契約するところまで進みました。しかし、買い手側としては当然のことながら、こんな大きな買いものをするからには、日本のメーカーの工場も見、技術的な打ち合わせもし、買い手としてほんとうに買い手の望むような機械、性能で、あるいはその他の技術的な条件を持っているかどうかということをぜひ日本へ来て調べたい、これはまことに当然なことでございましたけれども、このアクリルプラントの買い付けのための朝鮮の貿易もしくは技術代表団の入国が、一たんは、私ども伺っておるところでは、閣議で入国を許可するというふうなところまで進んだそうでございますが、これがほかの国の非常に露骨な干渉によってついに実現を見なかった。こういうような実例もございます。そうして、これはその後の朝鮮側の話によりますと、ヨーロッパから買い付けるというふうに振りかえられたそうでございます。事ほどさように、朝鮮からは最近非常にたくさんの繊維とかあるいはその他のまとまった機械プラント、あるいは自動車工場とか、そういった大型の買いつけ商談等もございますが、何といっても、朝鮮の場合は、先ほど平井さんのお話しで、中国の場合は共産圏渡航趣意書を十五通も出さなければいかぬ、そのために三十日も日にちがかかるというようなお話でございましたが、朝鮮の場合は共産圏渡航趣意書までまだ話がいっていないので、それすら提出ができないというような実情にあるわけで、こちらからも行けないし、またただいまのアクリルの話のように、先方からも来れない。したがって、たいへんこういう商売は実際上はやりにくいわけですが、最近のヨーロッパ諸国は、たとえば西独にしてもフランスにしても、もうほとんど朝鮮に常駐の業者を置いておる。また朝鮮側のほうでも、フランスあたりは常駐のこういうプラント類の買いつけの代表団を置いておるというように、西欧諸国とたいへんな差が出てきております。  御承知のとおり、つい最近、朝日新聞や日本経済新聞にも出ていますが、日本のプラント輸出が近年ずっと落ちてきている。これは、プラントの輸出というのは、日本の長期の経済発展にも非常に影響するので、この総合的な助成策を考えなければいかぬというようなことで、いま通産当局でその総合的な助成策を検討中であるようでございますが、せっかく朝鮮なんかの場合はそういうたくさんの機械類の買いつけが来ているにもかかわらず、実際はいま言うように、人の行き来もできない、また延べ払いの問題については、三年以上の延べ払いは認めないとか、あるいは輸銀のお金は一切使わせないというような差別があるために、たいへんそういう全体的な不利益を受けております。  それから第三点、展覧会の御質問に移りますが、私どもは、現在、朝鮮に対外科学技術交流協会という団体がございますが、この団体との間で、本年の十月十五日から二週間、主として珪酸塩関係――珪酸塩というのは日本でいう窯業関係ですが、窯業関係の機械類と、それから計測器類の機械類を主とした展覧会を開く取りきめを結んでおります。現在、この展覧会を開催すべく準備中でございます。この展覧会には、この展覧会の主催団体である私どもの事務局員のほかに、展品の売却、展品の技術説明あるいはまたそういう展品の将来の輸出の拡大のために必要な技術者等々の渡航が、全体として五十名くらいになるんじゃないか、そういうふうに見ております。  展覧会は、ついでに申し上げますが、いまの工作機械でございますけれども先ほど昨年は六百台もできたということを申し上げましたが、一昨昨年に同じような展覧会をやりまして、そのときに工作機械を四十台出したわけですが、そのときも、ぜひ直接行かしてほしいという要望を外務省に行ないましたが、許可になりませんで、全部当時は中国回りで参りましたが、その四十台の工作機械が六百台の工作機械になるというようなことで、展覧会というのは、将来の機械輸出には非常に大きな意味合いを持つもので、私どもも非常に重視をしております。今度は規模としては小さい展覧会でございますけれども、そういう日本の将来の大きな機械輸出につながり、国益につながる問題なので、こういった展覧会に必要な人々の渡航についても、ぜひ直接行けるような道が開かれることを特に私どもは強く希望いたしております。  それから、最後になりましたけれども、そういう実害を受けたので、過去において訴訟したことがないか、また実害を受けた人がやはり訴訟をやるつもりはないかというお尋ねでございましたが、私の知る限りでは、過去に訴訟があったということを存じません。それから実害を受けた人が今後裁判をやるつもりはないか、訴訟にするつもりはないかというお尋ねでございますが、これはいま私どもの会員の中でも、裁判まで考えるべきじゃないかというような意見は多数出てきております。しかし、だからといって、すぐいま裁判に訴えるというようなことにもまだなっていないので、これは実害を受けておる業者ともよく相談をし、またその御意見も聞いて、これから慎重に検討いたしたい、こういうふうに考えております。
  33. 穗積七郎

    穗積委員 ちょっと一言だけ両参考人に希望として意見を申し上げておきたい。  私は、損害賠償を伴う訴訟の問題、権利の乱用であるということは、将来の権利の乱用をチェックするためにも必要であるとともに、弱腰の外務省に武器を与えることなんですよ。それで、政府は、韓国がいってきたときに困るので、北にはやりたくないのだけれども、裁判は、民主法治国としては、その行政措置はと訳ないのだ、とれば違法行為として負けるのだ。だから、これで外務省の韓国恐怖アレルギーが除去できるのだ。これは国益に合致することだし、外務省の両局長喜んで笑っておられるけれども、そうやってもらえば、エクスキューズが与えられるから、やってくれということですから、それは進んでひとつ業界の実害者は、国益の発展のため、われわれの正統な基本的権利の確保のためですから、ぜひやっていただきたい。外務省もおそらく歓迎すると思うのです。これをやれば、韓国から何といってこようが、わが国の法治国のたてまえ上それはできないのだ、不当処分は。こういうことでやられれば、これでもうあとはすっといくと思うのだ、ぜひやってくださいということを私は政治的判断まで含めてお願いしておきますから、これは真剣にひとつ考えていただきたいと思うのです。
  34. 北澤直吉

  35. 山田久就

    ○山田(久)委員 もう予定の時間をだいぶ経過しておりますので、旅券発給の目的といいますか、この自国民の安全保障というものに関係しての実情をひとつ参考人からお尋ねするということに問題をしぼって、簡単にお尋ねしたいと思います。  この人で牛に平井参考人にお尋ねしたいと思います。  御承知のように、旅行者あるいは商社の人間が外国に行った場合、この自由世界と共産圏というものを比較して、共産圏の官憲の、そこへ出かけていっている人の身の安全保障というような点が、自由圏に比較してかなり不安定な状況にあるということがわれわれの悩みの種です。と申しますのは、御承知のように、スパイ容疑というような、きわめてあいまいな、本人なんかにとっては多くの場合に身に覚えのないようなことで拘束される。しかも、これに対して、正規の外交関係のある場合であっても、官憲自身が逮捕の官憲に対して直接会うということがほとんどできない。大体外交機関を通じないとやれないというようなことで、いわんや本人に対する接見というような点、これは法治国において法には書いてあるけれども、ほとんどそういうようなことが不可能だというような実情であるわけですが、非承認国の場合なんかにおいては、なおさらそこら辺についての非常に不安定な要素があるわけです。  御承知のように、中国でいま十三人ばかりこの間つかまっている。これは商社、それからプレス関係を含んで、十三人ばかりつかまって、これについては、間接に外国人あたりにいろいろと消息の調査というようなものも依頼しているけれども、満足のいくような回答が得られない。関係者から非常に抗議を受ける。あるいは場合によっては、関係者自身があまり抗議しないでくれというような、ちょっと受け取れないようなことが行なわれているということも、あるいは御承知じゃないかと思うのですけれども、現地で普通つかまったようなときに、すぐ、どこでもやるようなことを、一体なぜやったのだ、わけがわからないということで、個人的にも厳重な抗議なんかを申し込んでいるというような実情なのかどうか、あるいは安否を問い合わせたら、そういうことが答えてもらえているというような実情であるのかどうか、あるいはまた、接見というようなことが認められているのか、そこら辺の法律関係と実情とがどういうようなことになっているのか、これはひとつ実務家の経験者として、そこら辺がどういうふうになっているのかという点、これは非常に大事な点だと思うので、この点についてちょっとお伺いしたいと思います。
  36. 平井博二

    平井参考人 お答え申し上げます。  私も、新聞報道その他で十三人という方が中国におられる、こういうことを承知しております。ただ、これは私どもといたしましては、もちろんどこの国へ行きましても、そういうふうな問題が一つある。こういうことで、ほかの国に何十人か何百人か、それは存じませんけれども、たとえばほかの国で法律を犯したり、そういうふうなことでもってやられている実例はおそらくあろうかと思いますが、それは私よく存じません。  中国におきまして、身の安全保障という問題でございますけれども、これについて、私自身、直接の経験はございませんが、新聞によれば、たとえば英国の新聞記者とか、これがいま接見が認められているというふうなことを新聞報道で見ております。ただ、先ほど抗議というふうなお話もございましたけれども、これは内容がどういう内容であるか、私は存じませんので、その点、そういうふうな抗議というふうなことも私は聞いておりません。ただ、先ほどから申し上げましたように、国交未回復であるから十三人ということではなかろうと思います。これはいずれの国におきましても、そういうふうな問題はあろうというふうに考えております。
  37. 山田久就

    ○山田(久)委員 私は、いま代表者というより、実務家として、あそこへ行っている方々は、そういう点では、むろん自分で非常な不安を感じておれば、関心も持っておられるところだと思うので、あなた自身がそれらの実務に携わり、現地にいたということで、実際がどうかということをお尋ねしているわけですよ。一体行って聞いているのか、むこうから説明してもらえているのか、接見が可能になっているのか、そこら辺がどうなっているのでしょうか。実際の経験家として聞いておきたい。
  38. 平井博二

    平井参考人 現在でも北京に日本の友好商社員がおりまして、それからまた広東にも、今回は多少減っておりますけれども、昨年までおよそ千人に近い友好商社員が訪中しております。それから、私どももそこへ訪中しておりますけれども、そういうことで、自分の身の安全保障ということについて、心配というものをほとんど持っておりません。それは、私ども自身がそういう非常に悪いことをする、こういうことではございませんので、その限りにおいては、何ら不安のない形で生活を送っております。
  39. 山田久就

    ○山田(久)委員 あなたの個人の考え方で、ちょっと常識上納符できないような点が語りますけれども、それは別にしまして、あそこへ皆さんが行かれておって、それで、商社の方なんかが毛沢東語録などを持って、たいへん特別な学習をしておられる、あるいは日本の祖国の政府その他の誹謗を盛んにやっている。さっきあなた自身がそのことに触れておったようだけれども、こういうことは、普通の貿易や何かをやっている他国の例と比較して、ちょっと異常な関係にだれが見ても見えるわけです。つまり、これは、そういうことをやらないと、やはり貿易上さしつかえるし、あるいは他のいろいろなことで、安全その他の理由でぐあいが悪いということにやはり関係しているのではないかというような推測を生むわけです。しかし、これは皆さん方が全くの自発的な意思で、そうしたくてやっておられるのか、それとも他からのあれで、意思に反してやっているのかもしれないけれども、バイ・フォース・オヴ・サーカムスタンセス、客観情勢上そういうことを直接、間接に強制された結果によって、そういう態度をとらざるを得ないようなかっこうになっているのかどうか、それが第一点。  それから第二には、同じように貿易に従事しておられる他の西欧の商社の諸君も、同じように毛沢東語録を読み、あるいは自国誹謗、批判というようなことを中共政府のラインに従ってやっているというのが実情であるかどうか、その点についてお尋ねしたいと思います。
  40. 平井博二

    平井参考人 第一の点について申し上げます。  一つは、毛沢東語録についての学習というものが義務づけられているかどうかというような趣旨と思いますが、そういう義務づけられていることはございません。ただ、この毛沢東思想というものが、実は現在の中国において、あの語録は十億冊ぐらい出ていると思いますが、それほど大きな影響力を持っているもので、これは私ども商売をする人間にとりましては、相手国がどのように考え、どのように国の経済計画を考えたり、あるいは海外貿易政策をやっていくのだろうか、こういうことをいろいろ調査し、考えてやるということは、これはもう商売上の常識でございます。そのために、あの七億の人間があの語録を持って、そしてあの内容について学習し、自分の生活をそういうものでもってやっていこうとしている、こういう実情に私どもが直面いたしましたときに、これがどういうものなのか、それが現実の生活の中でどう生かされ、あるいは貿易上どうなのか、その点について積極的に商社の方がこれを取り上げておやりになる、これは商売上の点からいって、当然のことであろうと思います。  それから第二番目に、西欧諸国の問題でございますが、これはやはり同じようでございます。直接私ども西欧諸国の商社の間に入ってやったという経験は持っておりませんが、同じように西欧もまた商売人であれば、当然のこととしてこの問題について大きな関心を持って、それなりにやっているというふうに考えております。
  41. 山田久就

    ○山田(久)委員 実際われわれの持っている西欧の場合の情報は違いますけれども、しかしながら、それをここであえて私は追及しようとは思いませんけれども、自国批判というようなものについては、お触れにならなかったようでありますけれども、どこの国でも、常識的にいえば、争いは波打ちぎわまで、外に行けば、これはまた日本人は日本人としてのやり方をやる、その国の人はその国の人としての行き方をしていくということが常識で、間々行なわれているような海外におけるその種の行動というものは、決して人間の評価、個人の評価あるいは国民の評価も上げ得るものではないので、そういうような点は、よしんばそれが自発的であっても、ひとつ御再考願うほうがいいのではないかというふうに思いますが、この点は、あえてきょうは触れません。  なお、一向御不安がないというお話でございましたけれども、それはほんとうに不安を持っておられないのかどうなのか。やはりこれは他の国との比較で、あなたもずいぶんほかの国にも旅行されておったようですけれども、その点ではだいぶ違うんじゃないかというのが偽らざるところじゃないかと思います。できるだけ制限がないように自由に行くということは、私は原則として賛成だけれども、また実際上困るような点についてどうするかというようなことは、またそういう角度から善処し得るような御意見も、ぜひひとつもっと率直に当局者に具申していただきたい、こういうふうに考えます。  時間が非常にあれしておりますから、この程度で私は終わらせていただきます。
  42. 北澤直吉

    北澤委員長 戸叶里子君。
  43. 戸叶里子

    戸叶委員 すでに穗積委員からいろいろ御質問ございましたので、私は一点だけ田上先生に伺っておきたいと思うのですが、先ほどのいろいろなお話ありがとうございました。その中で、外務省なり何なりに向かって、旅券発給にあたっては、発給を軽々しく阻止するようなことがないようにしてほしい、こういうふうなことをおっしゃいまして、まさにそのとおりだと思うのですが、こういうふうにおっしゃるだけ、この旅券法というものが差別をしているということを認められているから、そういうふうにおっしゃったのじゃないかと思うのです。そこで、もう一つの問題といたしまして、包括的な記載を今度はする。そして旅行にどこかへ行った場合に、よそへ行くときには、当然これは手続をしてよそへ行かなければならないというのは、これはあたりまえだということをおっしゃったわけです、未承認国の場合ですね。未承認国の場合には手続をしていかなければならない。いまの法文ではそうなっているわけでございます。これは認めますけれども、ただ、いま中国や朝鮮の実務をやっていらっしゃる方々から申し述べられましたように、ことに中国に行かれるためには、まだ旅券をもらう前に渡航趣意書というものを出さなくてはならない。こういうふうなことになりますと、日本を出るときはパリならパリへ、そこでどうしても商談の関係中国へ行かなければならないというようなときに、そこの先で手続をするということになりますと、いまのような趣意書日本に送ったり、必要な書類が集められなかったり、いろいろな不自由が起きて、結局スムーズにいく仕事もいかないというような面が起きてきてしまうように思うのですけれども、そういう点に対してどういうふうにお考えになるかをお伺いしたいと思います。
  44. 田上穰治

    田上参考人 私もどうもそういう点の知識がないものですから……。おっしゃるようにできるだけ――先ほどもお答えいたしましたが、国益あるいは公安を害する方というようなことが法文にございますが、審査をするのに必要な書類、手続ならばやむを得ないと思いますが、そうでない限りは――そうでないというのはおかしいですけれども、特に必要でなければ、できるだけそういう書類なり手続は簡単にして、すみやかに旅券を出す、あるいは出さない――出さないという場合もございましょうが、それは理由を明確にして結論を早く出すべきである、かように考えております。
  45. 戸叶里子

    戸叶委員 あとは委員会で聞きましょう。
  46. 北澤直吉

    北澤委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位には、長時間にわたり貴重な御意見を御開陳いただきまして、まことにありがとうございました。  この際、暫時休憩いたします。     午後一時二十四分休憩      ――――◇―――――     午後三時十五開議
  47. 北澤直吉

    北澤委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  旅券法の一部を改正する法律案を議題とし、審査を続行いたします。  質疑の通告がありますので、順次これを許します。帆足計君。
  48. 帆足計

    帆足委員 きょうは外務委員のお歴々の先輩が大ぜいお見えになりまして、その前で、私は、党派を越えて人道の立場からこの問題を論議することができますことは光栄の至りでございます。  まず第一に、愛知さんにお尋ねしたいのですが、人間というものは、うそをついていいものでしょうか、また特に、外務大臣がうそをついていいものかどうか、ちょっと参考のために聞いておきたいと思います。
  49. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 何か底がありそうなお尋ねでございますが、私はうそをつかないようにいたしたいと思います。
  50. 帆足計

    帆足委員 もしうそをついたとしたら、改むるにはばかることなかれ、もし誤ってうそをついたら、なるべくそのうそは早く訂正して、うそのない人間になりたいというのが、小学校のとき習った恩師の教えだと思いますが、私は愛知さんとは同学ですし、親しい間柄ですから、こういういやらしいことは言いたくないのですけれども、やはり公のことはやむを得ません。明らかにいたさなければなりませんので、うそをついたとしたらうそは改むべきものである、こう思いますが、大臣はいかがお考えですか。
  51. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 まさにそのとおりに考えます。
  52. 帆足計

    帆足委員 人間の移動というものは、特にふるさとへの移動というものは、旅券法並びにビザ、それからその国の憲法並びに法律、並びに世界人権憲章及びユネスコ憲章と関係のあることでございます。在日朝鮮人の数は五十八万おりまして、当時まだ帰りたい人がたくさんおりました。その最終確認もしないうちに、政府は軽率に帰国協定の打ち切りを一方的にきめました。  そこで、私は、すでに申し込んでいる朝鮮人の数、帰国権益を持っておる人の数ですらが一万七千人もおるし、これは国際赤十字が立ち会って約束した既得権益でもあるのでありますから、とにかく善後策を講じなければ、帰りたいという人をそのままほっておいて一年も二年もたてば、生活難におちいり、絶望し、そして不測の災いを生ずるから、愛知さんの良識ある御善処をお願いしますということを、帰国協力会の幹事長として御懇談いたし、また党の当時の書記長も立ち会って御懇談いたしましたら、まあ一、二カ月のうちに必ず便法を講じ善処するからというお約束でございました。しかし、その後すぐおやめになってしまった。そして今日までうそのつきっぱなしで、結局何一つ解決しておりません。そこで、うそをついた人間が今度は外務大臣になったのですから、そのうそをもう償う権限をお持ちになったのですから、内外の事情複雑でございましょうが、多少のことはがまんいたしますから、うそはつかないように、どういうふうにかつてついたうその罪滅ぼしをするか、御研究になる御誠意があるかどうか。私は、うそをつかれたということは非常な精神的打撃でありまして、ほんとうは慰謝料を請求したいところでありますけれども、それはしばらく差し控えまして、愛知大臣、はっきり御記憶でございましょう。あと少なくとも一、二カ月以内に善処する――少しも善処せずに、悪処している。そして再び外務大臣におなりになったのですから、現事態において最善を尽くされる意思と、それから理性がおありになるならば、タイミングの問題について私どもは理解するにやぶさかでございません。したがいまして、まず、このことを正確に御答弁を願いたいと思います。
  53. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 ただいま帆足委員から御指摘がございましたように、このいわゆる北鮮送還の問題というものは、ずいぶん長い間続いておる問題でございますけれども、私も、いまと立場は違いますが、内閣官房長官の当時にも、ずいぶん努力は続けたつもりでございます。またその当時、なるべくすみやかな機会に政府として善処いたしたいということをお約束したことも、ただいま御指摘のとおりでございます。私はその地位を退きましたけれども、私の承知しておりますところでは、あとを引き継いでくれた人たちあるいは関係当局が、非常な努力を続けて、そして、まあ詳しくは御承知のような経過をたどっておると思います。御承知でない部分がございましたら、細部にわたりましては、政府委員から説明いたさせますけれども、御承知のように、赤十字にも非常な協力をいただいておるのでございますが、一万五千人ですか、その問題と、それからさらにその後というようなことが関連してきて、なかなか話し合いがむずかしくなって、膠着状態になっておる。何とかしなければならないということで、非常に心を痛めてはおりますけれども、ただいまのところ膠着状態になっておる。これは先ほど来うそだ、うそでないかということからお尋ねになってまいっているわけですけれども、これは御承知のように、日本だけではどうにもならないこともございますので、事柄の性質上、簡単にまいらない問題だということは御承知のとおりだと思うのでございます。したがって、これからも努力はいたしたいと思いますけれども、明確にその期限をいついつまでにということまでは、私いまの状況では申し上げかねる状況にございます。
  54. 帆足計

    帆足委員 それは道徳的な問題ですから、私は一言だけまずはっきりさせておきたいと思うのです。  私、あの帰国協定の原文をよく覚えておりますが、帰る朝鮮人の数が減ったときは船を減らす、毎月帰るのを三月に一ぺんとか半年に一ぺんにすればよろしい、これは覚え書きに書いてあるのです。それから、もう帰りたい希望者が全部なくなって完了したと相互に確認した場合には、協定をそれで廃棄する、こう覚え青きに書いてあります。両者何ら協議せずして、国際赤十字にすら協議せずして、一方的にやめた。これは、法律の事情をほとんど知らない人――閣僚各位が知らないのは当然でしょう、お忙しいから。外務省の下のほうの役人にほんとうに悪いのがおると思うのです。その人が、これは法律違反だということをちゃんと愛知さんに、官房長官に教えればいいんですけれども、悪いのがいて、うろちょろ、うろちょろして、おそらく韓国から金をもらったか何かしたに違いないと私は思うのです。ここまで言わざるを得ないのです。もちろん金を払うほうの韓国のほうがうろちょろしておる姿も見かけたこともあります。そこまで日本が悪くなっているとは――アルゼンチンの大使ですらこう書いています。日本はグエン・カオ・キや季承晩の政権ほどには悪くなっていない。しかし、相当悪くなっている。それはインフレーションと重税のためであって、そこで社用族というのが生まれて、そして交際費でもっていろいろなことができる。そして政治にまた政治資金というふしぎな形の金が出ている。そこで、外国から来られる客は驚かれるであろうけれども日本人はただ客のもてなしが好きであるばかりでなくて、非常なもてなしをする。しかし、これは自分のポケットマネーでやっておるのじゃなくて、社用族というて、交際費でもって公の金を使ってやっておる習慣がこの国にすでに発生しておる。しかし、この国の官僚並びに財界は、まだグエン・カオ・キや季承晩ほどは腐ってないから、まだ日本の政治及び財界には健全な要素があるから、これほどの工業国として権威を保っておる。たいへんよく説明してあると思うのです。ですから、私は、この前のときに、あれは文部大臣賞をやって推薦図書にしたらよかろう、こう申し上げた次第です。  そこで、愛知さんは、とにかく帰国協定があるのに、国際赤十字に相談もせず、朝鮮赤十字にも相談せず、日本赤十字ともまた相談せず、われわれ帰国協力会という一万人を擁する、大きな協力をした団体、赤十字社から功労章までもらったわれわれの団体にも相談がなく、やめたといって、一晩でやめてしまった。大部分の国民は知らぬから、朝鮮人五十七万も八万もまだ残っておると知りませんから、帰国協定いつまでだらだらやっているんだろう、もうやめたらいいじゃないか、こう思って、国民は錯覚に陥って、それでいいかと思った。ところが、子供の年が大きくなると、国に帰りたいというのが出てきて、やはり年に千人や二千人帰るというのが自然発生的に出てくる。不景気になればまたふえる。好景気になれば、帰りたいといって届けを出したのが、やはり日本はいい国ですから、いたいという事情にもなる。このくらいのことは、外務省の専門の担当課長は当然知っておるはずです。知っておるはずの課長が、大臣、次官を助けなかったというのはおかしいと思うのです。一ぺんこの連中は学歴詐称かどうか、身元調べをする必要がある。このくらい極端な事件なんです、この事件は。こういうことは保守政党であっても、私はほんとうにいけないと思うのです。保守政党でも革新政党でもどちらでも、自分が絶対に正しいということはないのです。しかし、あまり目に余るようなことはしてはいけないと思うのです。  そこで、愛知さんのところに行きましたら、官房長官であられて、それは必ずすみやかに善後策は講じなくてはならぬ、適当な善後策をもって対処し、国際赤十字にも、また善後策を示すことによって感謝の意もあらわさねばならぬ。その期間はと尋ねましたら、必ず一カ月か一カ月半の間になさるというお答えでした。ところが、やがて愛知さんは退任された。幸いに外務大臣になって、いまでは直接の担当者であられるので、御注意を促したわけです。しかし、愛知さんは苦しい声をお出しになって、たいへん苦しいけれども、せっかく心配して努力しておると言われましたから、私は公の席でこれ以上申し上げますことは、同学の友に礼を失することになりますから、これでとどめまして、本論に入ります。  旅券法の問題は、まず法制局と外務省当局とどういうふうに御相談になったか、旅券法の問題は、新憲法世界人権宣言、ユネスコ憲章と不可分の関係にありますが、その関連をよくお調べになったかどうか、第三部長さん、お尋ねしたいと思います。
  55. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 これは旅券法改正政府として御審議をお願いしておるわけでございますが、この立案過程におきましては、各省庁とも十分連絡をし、特に法制局においては十分時間をかけて検討をしてもらいました案がこれでございます。法制局の意見は法制局からお聞き取り願います。
  56. 荒井勇

    ○荒井政府委員 法制局として法律案審査をいたします場合に、それがわが国の憲法上の要請に適合しているものであるかどうかというのは、もちろん第一番目に重視して検討する事項でございまして、それとあわせて憲法九十八条でもいっておりますような「条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」という意見で、そのようなものについても十分な考慮を払うというのが、私ども一般的に法律案審査をいたします場合に考えておるところでございます。
  57. 帆足計

    帆足委員 あなたがこの旅券法が新憲法、国際人権憲章並びにユネスコ憲章と合致しているかどうかを調べたとしたならば、まことに罪深き仕事を引き受けたものであって、災いなるかなと私は思います。その宿命に対してほんとうに遺憾に思う次第です。それを具体的に述べますと、日本憲法によりましても、人権憲章によりましても、人間の移動は基本的人権として認められております。これを制約することは、特に日本の新憲法のもとでは非常な慎重を必要としておるのでございます。  そこで、直ちに本論に入りますが前半の旅券法改正案の部分は、事務の煩瑣を省くということ。旅券というものは、その人の身元保証、まずまず正常な日本人であるということを保証するための戸籍謄本のようなものでございます。本来は、海外に出るときは、この戸籍謄本さえあればビザによってきまるのでございます。相手国が入れたくないと思えば入れませんから、ビザをくれません。来てもいい、歓迎すべきお客と思えば、ビザを出します。したがいまして、原則として、旅券というものは、彼が正常なよき日本人である、正常な市民であるということの保証でございます。  そこで、第二の問題は、まず旧旅券法と新旅券法を比べますが、海外旅行をする人の数が非常に多くなりました。貿易国として私はこれはよいことであると思います。遊覧旅行であるとしても、島国根性の日本国民世界は広いということを知り、世界いろいろな国によって風俗習慣も異なるということを知ることは、こちらが向こうに行って恥をかくようなぶざまなことさえしてくれなければよいことであると思います。青年諸君にとってたくさん外国に行くことは、相当為替の浪費になりますけれども、なおかつ、私は、貿易の国、船の国、海の国日本にとっては有利なことであると思っておる。しかし、海外旅行者の数が非常にふえましたために、旅券課の事務が煩瑣になってまいりまして、忙殺されていとまがない。そこで、煩瑣な事務を簡略化し、一度旅券を渡したならば、正常な方々、よき日本人に対しては数カ年連続して使えるようにしたいというこの前半の改正は、まことに当を得たものと思うのでございます。海外から日本に参るツーリストも多いわけでありますから、それから見れば、こちらから外国に参ります者が相当数おりましても、収支のバランスから見ても、また精神上、教育上から見ても、私はバランスを得たことであると思います。前半の改正は、これは必要から来たことで、悪知恵から起こったことではありませんから、敬意を表しておる次第でございます。  現在、ツーリストによる海外収入、ツーリストによる海外支出、このバランスはどうなっておりますか。ちょっと正確な数字を知りたいと思いますので、お教え願います。これは事務当局から……。
  58. 山下重明

    山下政府委員 われわれのほうでは、旅券発給したときの目的に従って、観光で行かれたとか、業務で行かれたとかいうような正確な統計を持っておりますけれども一般的に盛んになってきた観光並びに交流によってどれだけ観光収入があるかということは、現在手元に情報を持っておりませんが、大体収入は七千万ドルくらいあるのじゃないかというふうに推定しております。支出のほうは収入より多くて、二億五千万ドルくらいになっているというふうに聞いております。
  59. 帆足計

    帆足委員 この数字に私はちょっと疑問を持っておりますけれども、これは国際収支全体、すなわち貿易収支及び貿易外収支合わせて論ずべき問題でありまして、単に遊びに行ったお客さまと、それから百ドル使ったけれども千ドルももうけてきたお客さまの問題との関係もありますから、実はその観点から見まして、私が先日自分で調べましたのでは、この程度海外旅行はまだ奨励してもよくて、ストップすべき段階でない、そういう結論でありました。それで、政府側のほうとしてどういう数字をお持ちかと思ってお尋ねしたわけで、他意はございませんから、この問題は総合的に御調査を願いまして、そして軽率に日本国民海外旅行はレジャーである、ぜいたくであるとのみお考えにならないようにお願いしたいと思います。  よく地方の議員などが外国に参ります。世論の攻撃を浴びますけれども、あのいなか議員さんの赤ゲット旅行でも、品よく、日本国民の品位を低下させないように旅行してくださるならば、やはり帰りましてから何ほどか益するところがあると思っておるのでございます。特に私はざっくばらんな人間ですから、むしろアメリカタイプでありますけれどもイギリスに参りまして英国が非常に好きになりました。イギリスに三カ月もおりますと、私どものような粗暴な人間でも曽祢さんのように多少品よくなってまいります。ほんとうにイギリスはそういう国でございます。私は、外国に参りまして視野を広くしてくることは非常に大切なことだと思いますから、旅券法の審議にあたりまして、旅券を出すとお金が要る、そのお金の支出というものの統計のつくり方には、政治的、経済学的考慮をいつも含めていただきたいということをまず申しておきます。  それから、直ちに本論として、前半はよろしいけれども、今度は何をたくらんだかということを申し上げましょう。古い旅券法のことを先に申し上げます。  古い旅券法には重大な欠陥がありました。しかし、運用によりまして、従来その欠陥は救われてまいったのでございます。古い旅券法にどういう欠陥があったかといいますと、政府が多少過大な権限を持っておりまして、海外旅行者のうち、政府が行かせたくないと思うときには、生命、財産を保護するため必要なときには旅券発給しなくてよろしいという項目が第一です。第二には、著しくかつ直接に国益を阻害するおそれある者。者というのは人物のことです。土地ではありませんし、砂でも石でもありません。鉱物ではなくて、生物でございます。著しくかつ直接国益を阻害するおそれある者、これが第二でございます。第三、第四は簡単でありまして、犯罪を犯し刑を受け、または訴追されておる者並びに過去において旅券法違反をして罰せられた者、これには旅券をやらなくてもいい。あとの二つは自明の理でありますから、たいした問題ではありません。最初の二つに問題がありまして、この二つに対する旅券法が通りましたときの速記録を見ますと、著しくかつ直接に国益を阻害する者とは、それでは当時の常識では、まず共産党員などはその一つの例ではあるまいか、こういうふうに論ぜられました。すると、政府当局は、いやしくも公党として認めておるものを、思想の相違によって赤ときめつけて国益阻害人物ということはよくない、そういうこととは絶対にいたしません。それでは国益阻害人物とは何であるかといいますと、それはここに書いてありますが、おおむねギャング、婦女誘拐者、アヘン密売者、密出入国常習犯、いわばピストル売買の密輸出入のたぐい、こういう連中を著しくかつ直接に国益を阻害する人物、こういうふうに定義いたしまして、これには思想の問題は入れない、あるいはカントであろうと、へーゲルであろうと、ジャン・ジャック・ルソーの思想を持っていようと、あるいはそれと正反対のフイフイ教であろうと、キリスト教であろうと、またはサド候爵のような思想を持っておろうと、これは差しつかえない、そういう答弁でありました。     〔委員長退席、田中(榮)委員長代理着席〕 つくりましたときは、そういうことで、これは人物をさす。人物をさすとなると、それは審査をせねばなりませんから、いかなる審査委員会でそれが不適当な人物であるかを審査するのか、これは人の名誉に関する問題であるから慎重にせねばならぬという質問に対しまして、とりあえず法務大臣外務大臣が協議してその認定をする、一応そうなっておりました。しかし、その後の経験に徴しまして、パスポートを出さなかった例において、両大臣が協議せずして出さなかった例がたくさんあることが見つかりまして、裁所判からたびたび警告を受けたことは、すでに御承知のとおりであります。  第二には、生命、財産を保護するために行くことをとめる。生命、財産を保護するためと書いてありまして、無条約国とは当時書いてありませんでした。社会主義国とも書いてありませんでした。そこで、当時は社会主義国との交流を鬼のごとくおそれておりました。いまはモスクワに参ることも普通のことでありまして、ニクソン大統領でもルーマニアに参り、アメリカの高位高官の方でもモスクワを訪れる今日、また経団連の会長、理事長でもモスクワ、東欧諸国を旅行する、また、自民党の幹部諸兄でもモスクワ、北京を訪れる時代でございますから、いま考えると、隔世の感があるのでございます。私はモスクワ、北京に民間の一日本人として参りました第一号でありまして、そのときにこの旅券法を身をもって体験いたしまして、その機会にこの旅券法のことを徹底的に研究いたしまして、その後は外務委員会でミスター旅券というあだ名がつきまして、旅券法に関する限りはちょっとした博士論文ぐらいは書ける程度の学識経験を持っておるつもりでございます。そこで、第二の問題として、生命、財産の保護、これを悪知恵をもって外務省当局は解釈をいたしまして、苦しまぎれにこういうふうに解釈しました。未承認国であるから、条約関係がない、したがって、直接日本政府が交渉するチャンスがない、だから、日本国民がその国で不幸な目にあったときに、直接話し合い、交渉し、救う機会がない、そういうことで、生命、財産の保護ということは、多少未承認国、無条約国とも関係がある、こういう理屈をつけたのでございます。  そこで、私がモスクワへ参ろうといたしましたときに、当時モスクワで世界経済会議が開催されまして、経済学者として招待を受けたのでありますが、なんぼたっても私に旅券をくれません。旅券申請いたしますと、一定の常識的期間内にイエスとかノーを言わなければならないのを、イエス、ノーを第一言わないのです。これが今後の非常に大切な問題であると思います。期限が書いてありませんから、イエス、ノーを言わない。そのうちに会議は済んでしまう。結局、船は出ていく、会議は終わる、終わる会議はしゃくの種……。(笑声)こういうことをねらって、そして何を言っても答えないのです。そこで、私は一計を案じて、こちらもさる者ですから、モスクワの国際経済会議は済んでも、お産にあと産というものがあるように、会議に行った人は、モスクワが珍しいから、あと一カ月ぐらいは各地を旅行し、また貿易の問題について、今度は実務についての会議があと非公式に行なわれますから、会議におくれても行きさえすればよいのではないか。敵が悪知恵でくるならば、こっちは聡明な知恵をもってこれと戦う、敵が熊となってくれば、こちらは虎となって戦うというのが私の主義でございますから、長いものに巻かれろなどという教育は子供のときから受けておりません。長いものは適当な寸法に切って整理整とんすればよろしい、また適当な長さのものならばかば焼きにして食べてもよろしい、泣く子と地頭にはかなわぬなどという腐敗した精神は私の親から受けておりません。泣く子は多少甘やかしてもよろしいが、地頭は断じてまかりならぬ。こういう精神の哲学の上に立脚いたしまして、この問題を分析いたしまして、まず、著しくかり直接に国益を害する人物という項目がありますが、私は当時外務大臣に会い――当時外務大臣は通称オニゴン、岡崎という名前でありました。しかし、たいした人物でありませんから、これは記憶するに足るほどの人間ではありません。次官は井口という名前であったことだけを覚えております。この二人に会いましたところが、なんぼ考えても私を著しくかつ直接に国益を害する人物とは言いにくい。確かにそうでしょう。面と向かってそういうことを言えば、だれだっておこってしまいます。私が著しくかつ直接に国益を害する人物であるならば、参議院議員になるはずもないし、また私を当選せしめた市民に対する侮辱でもあるし、私は直ちに弁護士にお願いして、侮辱罪として損害賠償一億円ぐらいを要求したいと思っておりましたが、残念ながら、君はそういう人物ではない、まず上院議員にふさわしい人物と思う、こう言いますから、なんのことはない、第二の理由は消えてしまったのでございます。消えてしまうと、外務省当局は困ってしまいまして、それでは私にパスポートを出さねばならぬというので、思いついたのが、生命、財産を保護するという悪知恵を思い出したのでございます。君の生命、財産を保護するために、君をモスクワに行かすわけにいかないと言いますから、講和条約はまだできていないけれども――これは後に鳩山さんの御努力によってできたのですが、しかし、いまは戦争も済んでおるし、国際会議に来賓として招待されたのであるから、今日の常識をもってすれば生命、財産に危険のあるはずがないのに、どうしてそういうことを言うのですかと言いますと、現に漁船が拿捕されている例がある、したがって、君も拿捕されないとは言えないではないか、こう言うのです。私は軽格のさむらいの家で、残念ながら漁師と関係はありませんといって履歴書を出しました。ところが、カニをつかまえている船が近ごろ拿捕されておると言いますから、私は、カニを食べるとじんましんができて、カニかん詰めには絶対に近づかないことにしておりますから、拿捕される心配はありません、こう言いましたら、困ってしまいまして、それでも君が拿捕されたときに、国交が断絶しているから、何としても救う方法はないと言いますから、私は、去年の秋肺炎をわずらったときに、外務省当局は一度もお見舞いの花束もくれなかった、私の家内はつきっきりで介抱してくれたけれども外務省からはお見舞いも来なかった、そのお見舞いも来なかった外務省が、急に私の生命、財産の保護に対してかくも熱心になったのは、不正な動機があるに違いない、それは私をモスクワに行かせまいと思って、生命、財産を保護するというこじつけをこれにつけようとしておるに違いないと思うが、どう思いますかと言いましたら、うつむいて答えません。そこで、松尾渡航課長さんがこの不幸な仕事を引き受けておりましたが、松尾君ちょっと来い。これは大学の後輩ですから、十年も後輩だと先輩に頭が上がりません。何だ君、君はそれで日本の官吏といえるか。君はこじつけをして、私の生命、財産を保護しようとしておるわけじゃなくて、彼をモスクワにやるなという厳重な命令を受けて、あらゆる悪知恵をしぼったあげくの果てが、生命、財産を保護するというへ理屈をつけたにすぎないではないか。もしほんとうに生命、財産を保護するならば、まず、私自身が喜んでやはり行かないほうがいいということになるし、私の家内もそれに賛成するし、娘も賛成するはずである。そこで証人として私の家内を呼んでくれ。私の妻は、うちの主人はときどき新宿ではしご酒して深酒をする癖がありますが、当時の新一宿は非常に危険でありましたから、生命、財産に危険がありますから、新宿行きのパスポートはあまり出さないでください、しかし、モスクワならば今日何の心配もないから、出していただいてけっこうでございます。こういうふうに家内は証言いたしました。その証言には、さすがに外務省も困ってしまいまして、結局、外務省は私に、あぶない、あぶないと言いますけれども、あぶないならば、徳川義親公がマレーにトラ狩りに行ったときに、パスポートを出したのはなぜであるか。生命、財産に危険があるならば、北極探険にも行けないではないか。アルプスの雪山に登ることも控えたほうがいいということになるではないか。そういうことを選ぶのは、個人の人権において、自己の危険負担において選ぶのであって、生命、財産を保護するに緊急な必要がある場合というのは、たとえば急にペストが流行して、一定の場所に対してパスポートを出さないとか、コレラが流行する、または内乱が起こって非常に危険であって、流れだまが当たる危険がある、そういうところから大量に引き揚げている移民などが何一人といるというようなところは、それは政府として注意をせねばなりませんから、そうすると、政府の言うことと、パスポートを出されない人との立場は、利害が一致しておりますから、何の矛盾もありません。これがすなおな法律運用というものでございます。しかるに、私をモスクワにやりたくないために、生命、財産を保護するというようなこじつけでパスポートを出さなかったのでございますから、どうしても当人は納得しないわけです。生命、財産の保護は自分で考えるから、何もこのときにあたって突如として外務省のお世話になろうとは思わぬ。  後に、このことは裁判所に提訴いたしまして、裁判官もとうとう笑い出しまして、私の家内が証人になりまして、そのことばを申しましたところが、それはこじつけである。生命財産の保護を口実にして、帆足計君にパスポートを出さなかったのは、外務省のこじつけである。この項目は、外務省の敗訴となって終わったのでございまして、よく当時、私の友人から、君がモスクワに行ったという事実はいまとしては大きな仕事であるけれども、とにかく法律を破ったのであるから、謙虚にしておらねばいけないよと、先輩は私に忠告しました。それで私は、大先輩の言うことですけれども、告訴しているのは私であって、原告は私、悪人の被告は外務省であるから、あなた間違わないでください、こう申しましたが、一カ月後に判決が下りまして、そして外務省は負けということになったのでございます。  その後、生命、財産の保護という口実を使うことはやめてしまいまして、結局、著しくかつ直接に国益を阻害するものというのを、今度は又悪知恵を出しまして、ことばをこっそり変えまして、著しくかつ直接に国益を阻害するおそれある場合、こういうふうに解釈し得るというふうに政府答弁いたしました。この第一の理由に対しては、ものというのは人物でございます。ものが人物である以上は、両大臣が協議してその人物の当否を審査する、こういうことになっておるのでございます。速記録もそのとおり書いてあります。ところが、ものでは都合が悪いので、おそれある場合というふうに拡大解釈する、こういうことでまた抗告をいたしました。裁判所は、この問題についても、もう事態は明らかでありますから、これに対して否定的態度をとりましたけれども、当時まだ駐留軍が日本におりましたときでございますから、駐留軍の意向や政策をも考慮に置いて、そしてこの問題はけんか両成敗ということにして、もう両方が取り下げることにしたらどうであろう、慰謝料の問題については、帆足計君は「ソ連、中国紀行」という本を書いて印税もだいぶ入ったようであるから、もうこの辺のところで折り合ってくれないかということで、示談のような形で私の事件は済んだのでございます。  この苦い経験の中にこのたびの旅券法の問題点が含まっておるのでありまして、第一にお尋ねしたいことは、未承認国を例外にしたということです。未承認国をまず例外にするならば、その未承認国の中で、行っていい国と行って悪い国がある。また、行っていい場合と行って悪い場合がある。今日未承認国でありましても、歴史の過渡期におきましては膨脹拡大いたしますために、やっぱり行かねばならぬ場合がたくさんあるのでございます。それを国益を阻害するという理由であるいはとどめ、あるいは行っていいということになると、時の外務大臣並びに法務大臣の主観と趣味によって、そのごきげんのいいときは行ってもいいというし、ごきげんの悪いときは行っては悪いということになるから、客観的基準がないわけでございます。そこで、国益並びに公共福祉というものについて一体どのように考えるかということが、当時の裁判で問題になりました。  結論は、もはや問題の核心に近づきましたから、法制局にお尋ねいたしますが、国益並びに公共福祉とは何を基準にしていわれるのか。当時の政府の政策、一内閣の趣味、一内閣の好みによっていうのか、あるいは野党、与党を通じて国民の大多数を占める良識によってきめるのか。  もっとお答えをしやすくしまするために申しますと、たとえば軽犯罪法における公共福祉の定義がございまして、昔ならばミニスカートを着て歩きますと、荒木将軍ならば、風俗壊乱であるといって電車からおりることを命令するでしょう。あるいは女学校をやめさせたかもしれません。しかし、今日ではミニスカートを着ているお嬢ちゃんは案外かわいらしいなということになっております。しかし、越中ふんどしのままラッシュアワーに乗り込んだといたしますならば、さすがに共産党の諸君から社会党に至るまで、もう与野党とも満場一致でございましょう。それはちょっと無理だ。人類として無理である。たってしたいならば、それはゴリラのたぐいで、おりのほうへ入ってもらおう、こういうことになります。したがって、公共福祉というのは、与党、野党の政見の相違または趣味の相違でなくて、社会的、政治的人間としての共通の場かすなわち公共福祉でございます。国益もまたそうでありまして、単に中国に渡る、または朝鮮民主主義人民共和国に重要な貿易の用事、また文化の用事等持って参る、その問題が国益に当たるか当たらないかというのは、そのときの政府がたまたま台湾政権から文句を言われたとか、または朴政権から文句を言われたとか、こういうことで、すなわち一政党、一内閣の政策できめるべきものではないと思うのでございます。このことは、すでに先日の裁判におきましても、公共福祉または国益というものの定義は慎重でなくてはならぬという判決が下りまして、一政府の政策、一政党の政策、一内閣の趣味、一内閣総理大臣のツルの一声、それによって国益または公共福祉はきまるものではないという有名な判決が出まして、これは有名な最近出た判決でございます。したがいまして、法制局は国益及び公共福祉をどのような基準で理解しておりますか、簡単にして明確な御返答を願いたいと思います。
  60. 荒井勇

    ○荒井政府委員 ただいまのお尋ねにお答えを申し上げますが、私どもは直接法律の執行の事務に当たっているわけではないので、個々具体的にどのケースが国益、公安、両方に該当するかというのを判断する立場にはございません。しかし、一般論として答えろということでございますならば、それはもとより合理的に、客観的に判断してきめられるべきものであるということにお答えせざるを得ないと思います。その判断の中には、外交的な配慮というものも加わるでありましょうし、わが国の国際的な立場というものを十分考慮した基礎に立ち、しかもそれがそういうおそれがあると「認めるに足りる相当の理由」――「相当の」というのは、合理的なという意味であるというふうに解しますので、そういう恣意的な判断がいけないという点はおっしゃるとおりで、それは、客観的に合理的なものでなければならないというのが、十三条一項五号の趣旨であるというふうに理解いたします。
  61. 帆足計

    帆足委員 たぶんそういうつまらぬことを言われると思ったのですが、わが国のと言いますけれども、わが内閣のとおっしゃればいいでしょう。社会党内閣かできたときは、一向それは――たとえば社会党内閣ができたときに、私は寛大ですから、愛知さんがパリに行って悪いなんてやぼなことは言いません。しかし、わが党の中にもどこの党にも、やぼな人間というものはおるものです。愛知さんがパリに行ったら、そうしたら、昔の保守党の方だからパリの女の子と遊ぶおそれがあって、そして国益を阻害するおそれがあるかもしらぬ。したがって、パリならとにかく、ワシントンやニューヨークには、アメリカと仲よくなり過ぎたり、社会党政権または社会主義国としては国益に不利であるから、やりたくない。もし国益というものがそのときの内閣の政策を意味してよいならば、そのような結果になるのでありまして、あなたの解釈でいうならば、それでは社会党内閣ができたときに、愛知さんをワシントンにやらないでいいということになるでしょうか。すなわち、われわれはこのごろ主として社会主義国と友好政策をとりたいというような政策をとっていたときに、アメリカにしばらく近づいてもらいたくない、そういうときに、愛知さんにはワシントン行きのパスポートは国益阻害であるから出さない、そういうことは可能性がありますか、ちょっとお答え願いたい。
  62. 荒井勇

    ○荒井政府委員 その特定の内閣の判断ではなく、もっとそれを越えたようなものが必要ではないかというお尋ねの趣旨だと思いますが、その意味では、この十三条一項五号の正当性を最終的に担保するものは裁判所であるということになると思います。ただ、現在の日本憲法のたてまえからいたしますと、そういう判断をするというのは議院内閣制のもとにあるということで、この十三条一項では外務大臣というものに一次的な判断をする権能を与え、第二項であらかじめ法務大臣と協議するということが義務づけられているというふうに解するわけでございます。
  63. 帆足計

    帆足委員 それと同じであるならば、私が外務大臣になったとき、穗積君が法務大臣になって、二人で相談して当面議院内閣であるから、われらが判断の基準である、余はエホバの神のごときものである、愛知さんはしばらくワシントンに行くことを慎しんでもらおう、旅券を出さない、こんな法律をつくるとしたならば、法制局はどうですか、いい気持ちがしますか。まじめな法制局の職員なら怒るに違いないと思うのですが、どうですか。
  64. 荒井勇

    ○荒井政府委員 十三条一項五号は非常に抽象的ではございますけれども公共福祉のために合理的な制限に服するものであるという意味で書いておりまして、具体的にどの人物がどこに行くこと、その場合には拒否するというふうに個別的には書いていないわけであますし、そういう個別的な立法がふさわしくないということは、十分同様に考えます。
  65. 帆足計

    帆足委員 私はそれを言うたのではないのです。あなたのように時の政府ということが基準の一つになり得るならば、われわれが政権をつくったときに、今度は逆に同じことをやり得る。おのれの欲せざるところを人に施すことなかれ、そのくらいのことわざは御存じだと思いますが、法律をつくるときは、保守党にとっても社会党にとっても――こういう公共福祉に関する法律をつくるときは、どっちかをひいきする法律でなくて、普遍妥当のものでなくてはならぬ。その普遍妥当の基準は、憲法世界人権憲章とユネスコである。しかして、時の政府としては行ってもらいたくないと思っても、その人が行きたいというのですから、小鳥が飛んでいくことを防ぐことができないと同じように、たとえば国内に例をとりましょう。私が下関に野党の代議士のために講演をしに行く。そうすると、野党が行くと、与党の人が負けるかもしれぬ。東京駅長が旅券課としますと、下関に行くと、どうも負けるおそれがある。公共福祉に反するから、私に理屈をつけて、帆足は下関に行くとフグを食う心配があって、生命、財産を保護しなければならぬといって、駅長が手かげんをして、行くのを延ばしたり、演説会に間に合わないようにしたら、これは不正にして不当なことだと思うのです。それは私が社会党員であっても、そういうことをしてはならぬし、またほかの駅長さんであっても、自民党員であっても、そういうことをしてはならぬ。そういう意味合いのものが旅券法だと私は言っているわけなんです。意味は、法制局の方は頭がいいから、数学的に頭のいい方がそろっているから、わかっているに違いないけれども、政治的圧力のために言いにくいだろうと思いますが、論理の許す範囲で、もう少し具体的にお答えを願いたいと思います。
  66. 荒井勇

    ○荒井政府委員 私が先ほどからお答え申し上げている点は、十三条一項五号というのは、党利党略的に運用してよろしいということで申し上げているわけでは毛頭ございませんで、それは合理的に客観的に判断しなければいけない。そしてその正当性は最終的には裁判所によって担保されるものであり、ある恣意的な判断をしたという場合は、多数党内閣が組織する政府行政行為であるとしても、それは敗訴になるということが、この十三条一項五号の書かれておる趣旨で、そのような意味から、きわめて客観的に判断をしなければならない趣旨のものとして書かれているのだというふうに解しているわけでございます。
  67. 帆足計

    帆足委員 委員長から、あと二人質問者がおるから、ぼつぼつ結論を急いでくれという御注意もございました。私はまだ明日も申し上げたいことがあるのですが、そこは理事の命令に従うことといたしますが、ただいまのお答えに満足はできません。  と申しますのは、裁判所に行くというのは、これは行政が終わってしまってからのことでございます。いやしくも法律をつくって、事あるごとに裁判所に提訴せねばならぬというような法律をつくられては、国民が迷惑でございます。裁判所に行って提訴するなどということは、よほどの場合でなければ、費用もかかることですし、ひまもかかりますし、お互いに不愉快ですし、国事を渋滞させますから、行政関係法律をつくりますときは、その法律が情意兼ね備わった形でできておって、その運営がまた正しく行なわれるようになっておって、よほどの例外のときにのみ裁判所に提訴するという事件が起こる、これが法律をつくる技術だと思うのです。したがいまして、もしあなたの言うがごとくんば、この法律は政党政派の意見の差によって、その主観によって、またはその趣味によってきめられるべきものではないということばが一句入るべきである。また、その審査にあたっては審査委員会が必要である。少くともかかるべきものである。その審査委員は中立の者をもって充てるべきである。こういうような機構が少なくともできていなければ安心はできないと思うのでございます。しかし、この中には、いまあなたの解釈したような、公共福祉及び国益というものは、政党政派の独断または趣味、意見と何の関係もないものである、これは超党派的に見て、良識によって国益並びに公共福祉と理解すべきものである、こういう意味ことばが入っておらなければ――私は、これについての苦い経験を、思い出しても身の毛がよだつような経験をあとで申し上げたいと思いますが、それは実際に体験したことなんです、外務省の中で。外務省の中でこういうことばが使われることは驚くべきことである。おそらく愛知さんがお聞きになったら、ほんとうに愛知さんのお人柄だったら悲しまれると思います。いずれそれも後ほど述べますけれども、そのようなことのないように、法制局の言うのがうそでなければ、淡々として、ただ、はなはだしく国益を害することのないように、すなわち社会党が考えてもまずまず、それから与党、保守党が考えてもまずまずというところがまず国益、また社会福祉。ですから、先ほど言ったように、ミニスカート程度はまずまず、越中ふんどしはちょっとまずい、こう申したのであります。  したがって、私が外務大臣になっても、そういうことがあったならば、愛知さんがいま行かれては社会党内閣としては多少困ることがあるけれども基本的人権であるから、あなたは気持ちよくやっぱりワシントンに行ってください、しかし、こういう状況にあることを多少考慮に置いてください、それはただ私が希望するだけのことです、とらわれないで、自由人として、あなたの良識によってワシントンに行ってください、私ならそう言ってパスポートを出すでしょう。  ところが、今度の改正法案はそのようになっていないではないですか。法制局第三部長の言われるようなことばは入っておりません。ここで言われたことは、やがて法案が通ってしまえば、だれもその速記録を問題にする人はないのです。ですから、それが法文の中に入らなければ、これは意味がありません。また、そのことをきめるためには、適当な審議会がなくてはなりません。  それから、裁判所に提訴せよと言いますけれども裁判所に提訴するときは、もう何もかも済んでしまっているのです。済んでしまったあとに訴訟を起こすということは非常にむだなことですから、非常に不愉快で、また損害賠償の金をもらっても、それで済むことでもありません。商売人としては、大きな玉すなわち発注を西ドイツにとられたり、英国にとられてしまって、商売はこわれてさんざんな目にあったあとのことです。ですから、裁判、裁判と言いますけれども、裁判にかけるということは人生の最後の手段です。軽々しく裁判所を口にすべきものではないと私は思います。中国ことばにもあるでしょう。資性訟を好む、それはみだりに訴訟に訴えることを戒めたことばであります。このように訴訟ということは、個人の人権、自覚ある証拠ですから、資性訟を好むといって、私は別に悪いことではないと思うのです。しかし、東洋の哲学と経験では、よく何かというと、すぐ訴訟を起こすやつがおりますけれども、それは東洋では美徳とされていないというのは、東洋的良識がそれをわれわれに教えておると思います。したがいまして、訴訟が始終起こるような法律はつくらぬこと、そうすれば、訴訟なしで、そして円滑にやれるような公平な法律旅券法を特につくる。もし封建時代のように、国内を移動するのにすら殿さまの許可が要るとしたならば、同じことが、私が先ほど申したように、下関に行く旅行ですら行なわれ得るわけでございます。国内と同じように世界をお考えくださるならば、旅券法がいかに公平でなくてはならぬか、そして、旅券法によって自分の反対論者や好ましくないと主観的に思う旅行を閉ざすことと、多少当面不利だと思っても、それに道をあけて論理と言論の自由を通すことと、いずれが公共福祉、国益に合致するかということをよく考えてもらいたいと思います。  私が、十八年前、戦後最初の日本人としてモスクワに参りましたときに、世論は警倒して、ある者は攻撃し、ある者は私をほめてくれました。そのくらいこの国民は島国根性であったのでございます。大東亜戦争の始まった年、日本の鉄は需給能力三百万トン、アメリカの鉄は六千八百万トンでありました。三カ年後、日本の鉄は二百万トンになり、アメリカの鉄は九千八百万トンになりました。このくらいのことすら知らなかった日本国民が、ソロモンからガダルカナルヘと滅びの道を選んだのも、すなわち時の政府の主観が強過ぎて、そして国民に自由がなかったからでございます。したがいまして、自信のある政府であったならば、二人や三人の人間が自分の外交政策と反する、また百人や二百人の貿易業者が自分のそのときの意見に反する旅行をしたところで、大目に見ておってよいことは、イギリスがこれを示しておるではありませんか。英国は、北京政府ができて二週間後にこれを承認し、そして台湾にもちゃっかり領事を黙って置いたままにして、やはり七つの海を黙って支配しております。十六年も監獄にぶち込んだガンジー及びその弟子のネールと仲直りをして、妹のようなつき合いもただいましております。その英国の影響を受けたカナダのピアソン首相が、どういう良識を持っていたかも参考になることです。また、ダレス以前のアメリカ、ルーズベルト時代のアメリカ、ケネディ時代のアメリカがどういう道を進もうとしていたかということも、われわれに参考になることです。あるいはスターリンからフルシチョフへ急回転して、多くの自由が社会主義国に与えられました。それは善悪両面がありますけれども、それはそれとして、また他山の石として参考になることです。  そういうことを考えますと、今日のこの旅券法は、何か戦争中時代の治安立法と一脈共通のものがある。そこで、貿易と隣邦に対する友好と平和共存が必要な海国日本立場としては、やはり旅券法というものは非常に大事なものでありまして、私が戦後最初の日本人としてモスクワ、北京に参りましたときの苦労を考えてみましても、あのような苦労はもう二度としたくないと思います。人にもさせたくないと思います。したがいまして、ほどほどの良識の許す旅券法にしておかなければ、戦時中の旅券法のような面影をこの中に残すことは正しくないと思います。現に、ピアソンのあとを受けて、カナダ中国承認をすら踏み切って、話し合いを続けておりますし、イタリアもまた中国と話し合いを続けております。おそらく皆さんが言われることは、最後の結論になってくると、北朝鮮、すなわち朝鮮人民民主主義共和国が問題になっておるのだと思います。これに対して、実に朴政権がしつこいし、――李承晩がしつこかったのですけれども、朴は李承晩のほんとうの息子じゃないのですけれども、養子かと思わられるくらいに、これまた非常にしつこい男でございまして、ですから、国益ではなくて、朴益のために、皆さんはいまこうして時間を空費しておるのではあるまいか。ここは韓国の議会ではなくて、日本の議会ですから、日本人の自信と日本人の利益によってきめればよいのであって、朴政権があまり出しゃばったことをすればしかればよいのであって、確かに外交上の支障はいろいろ起こるでしょう。しかしまた、朴には朴の弱味がありますから、不正なことをするときには、その弱いところを押えて、そして誠意をもって対処すればよいのであって、私は、韓国に遠慮し過ぎていると思うのです。韓国に遠慮して、われわれがこのように旅券法をひん曲げねばならぬということは、とうてい耐えられないことでございます。  したがいまして、この問題につきましては、すでに参考人も呼びまして、いろいろな角度から論じました。このときに、与党から参りました国際法学者の方も、この問題の運営には重大な欠点があり、事前の審査がどうなるかわからぬ、そして裁判にかけたらいいと言っている。しかし、彼は実務者でありませんから、裁判というものがどんなにめんどうであるか知らない。商売人にとって裁判の手段に訴えるということは、経費の点からもほとんどできない。実務的に済んでしまったあとの裁判というものは、経費がかかるだけのもの。したがって、事前に民主的手続が必要だということ、いま第三部長の言われたことと同じ趣旨のことを、やはり参考人の国際法学者も指摘したわけであります。したがいまして、この問題は、虚心たんかいに与党の方も再考していただいて、未承認国というような差別扱いをなくすことが理にかなったことと思います。しかし、現在与党でそれができないとするならば、せめてもとどおりに、現行法のような弾力性ある運用の形で残しておくことが、むしろ与党の立場から見ても適切なことだと思います。  世界人権憲章、ユネスコ憲章等によって承認された人権、すなわち、自分の責任で当人が危険を負担すべきものを、それをすら抑圧し、刑をもって弾圧するような法規の基礎は、幸いにして日本憲法にはないのです。日本はファッショ国ではなく、世界で一番進歩的な自由な憲法を持っている国であるから、日本憲法日本国民の守るべき基準である。請う、朴政権もこれを了とせられよ、そういう習慣をつけなければ、朴政権が目をさますまでいつまでもごきげんをとっておったのでは、百年河清を待つごとしではないかと思います。したがいまして、私は、過当な責任を、また重荷を外務大臣に負わせたくありません。しかし、このままでは、野党はとても通す気はありません。同時に、無理を言おうというのでありませんから、最悪のときでも――これは戦争前でも許されておったのです。東条時代に、森戸辰男先生がちょうどベルリンにおりました。ベルリンからモスクワに行って、そしてマルクス・エンゲルス研究所に行って、リヤザノフの有名な書物を買ってきました。それをだれもとがめる人はなかったのです。東条政権時代にもとがめることのなかったことが、この平和の時代に、平和憲法の時代に、民主主義の時代に、愛知さんのようにわれわれが敬愛している外務大臣の時代に、それがとがめられる。そうして三万円の罰金まで払って、前科者になって、あとは旅券がもらえなくなるというような法律を、断じてわれわれは承認することができません。  きょうは時間が限られておりますそうですから、私は省いて議論しておりますけれども、自分が体験したことですから、まだまだたくさんあります。  それから、この過程において、外務省の内部において、当時の官僚大臣、次官は、いま名前はあげませんが、愛知さんとは全く月とスッポンほど人格の違う方で、占領軍はダレス国務長官支配時代のこと、いま思い出してもぞっとするような事件ですけれども旅券法に関する幾つかの事件がありました。また、収賄に関する問題もありました。私自身がそれらの問題にぶつかりましていかに心を痛めたかということを、私は次回に皆さんに申し上げたいと思います。  真実は中庸の道にあります。第一に、まず日本国は島国といいますけれども、島国ではありません。海の国です。第二に、貿易と船の国です。それから第三に、平和と友好を必要とする国です。愛知さんの気持ちもわかりますけれども、アメリカの車力にたよっているのは、ソ連とアメリカとのバランスをお考えになってのことであろうと私は察しております。世界にまだ平和が来ておりませんから、それは保守党は保守党としての考え方があるのは当然です。私たちはそれと全く違う考え方をいま持っております。世界観についてこれほど大きな意見の相違があることは、これは今日の歴史の宿命でありまして、現にフルブライト外務委員長の言またはロバート・ケネディ氏の意見と、それからゴールドウォーター氏の意見と、どんなに大きな開きがあるかと思うならば、与党と野党との今日のわれわれの意見の相違は、それほど驚くほどのことはないと思うのです。互いに日本を愛するという真心さえあり、そうして友情を尊重するという気持ちさえあるならば、意見の相違は意見の相違としておいて、こういう実務的法案については、もっと慎重審議をして、そうして害の少ない方向に持っていくことが正しいと思います。  私は、法制局の第三部長が国際的治安維持法に手を貸したことで家門を傷つけることは、まだお若いですから、そういうことをすることはほんとうに残念なことだと思います。私はおそらくあと二十年くらいしか生きないでしょうけれども、第三部長は四十年、五十年生きるでしょう。その日が来たならば、月旅行にもゆうゆうと行くような時代が来、世界連邦もできる日が来るでしょう。その人類の平和の夜明け前に、ちゃちな治安維持法まがいの旅券法をつくって、ずいぶんと世界国民の交流のじゃまをしたというのでは、一体奥さんに対して済まぬことではなかろうかと思います。それほど私たちは思っておるのですから、この旅券法についてはもっと慎重な審議を続けたいと思います。  そこで、具体論はあした聞きますけれども、身の毛もよだつようなおそろしいことは、やはり法務大臣からお聞きしたほうが安心でいいと私も思うのです。帰りがけにピストルで殺されでもしたらたまりませんから、また、愛知さんに累が及んでは困りますから、明日具体的例を述べまして、そうして、保守といい、革新といい、意見は違いますけれども、明治維新のときでも、あれくらい意見の違いがありまして、吉田松陰があれほど尊敬されていても、彼が獄死して八年目に、維新の鳥羽伏見の戦い、坂本竜馬が京都の寺田屋で殺されて、ちょうど六カ月目に新政府ができました。そのようなことを思ってみても、政治というものはきびしいものでございます。しかし、当時と違って、いまは民主政治でありますから、言論による意思の疎通によって法案を審議し、法案を審議するということは、互いに直すところは直したり、附帯決議をつけたりして、よくすることでなくてはなりませんから、私は率直に自分の体験を述べまして、肉体をもって感じた体験は明日西郷さんの前で申し上げて、参考にしていただきたいと思います。     〔田中(榮)委員長代理退席、委員長着席〕 旅券法をよくするも悪くするも、多数党の自民党の同僚議員諸君の御配慮に訴えねばならぬことでございます。また突如として断が下って、壇上に物価委員長がかけ登らねばならぬという醜態はいたしたくありません、したがいまして、そういうことのないように委員長にお願いいたしまして、あとの論議は明日に譲ります。よろしくお願いします。
  68. 北澤直吉

    北澤委員長 曽祢益君。
  69. 曾禰益

    ○曽祢委員 帆足委員のきわめて博学なお話のあとで、私は簡単に質問をしたいと思います。  まず第一に、この法律全体は、旅券の近代化と、それから外国旅行が非常にふえた現状から見まして、実務から見てもけっこうな改正だと思います。  ただ問題は、政治的な面が確かにあります。その一つの点は、いま帆足君が御自分の体験から述べられたような未承認国に対する旅券発給については、やはり制限があり得る、こういう点であろうと思います。私は、その点は個々の判断に恣意的なことがあってはならないと思いますけれども、未承認国に対する旅行に対して制限があるということは、これは必ずしも合理性のないことでないので、少なくとも改悪とは認められないと思うのです。だから現状のままで、問題は、恣意的な判断であってはならないということにポイントがあるのではないかと思うのです。  そこで、結局一番問題になるところは、未承認国といっても、実は共産諸国、なかんずく、最近では、中共に対する旅行については、ほとんど旅券上の問題は起こってないようでありまして、現実には朝鮮民主主義人民共和国、いわゆる北鮮に対する旅行についてどうなんだろう、これが旅券記載どころから横すべりするというところに非常に関連があることは、お互いによく承知していることなんです。  そこで、私が外務大臣に伺いたいのは、この北朝鮮に対する旅行についても、私どもの了解するところでは、これはあくまでも日本の独自の判断でやることである。よし北朝鮮と友好的でないいわゆる南朝鮮政府のどういう思惑があろうと、そのことが日本の国の行為を支配するようなことがあっては断じてならないわけでありまして、わが国といたしまして、あくまで第一にわが国の判断で北鮮に対する旅券の問題を処理する、この基本方針について、はっきりとした判断があると思うのですけれども、まずその点を伺いたいと思います。
  70. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 先ほど帆足委員の非常に詳細な御意見を承ることができましたが、それにも関連いたしまして、ただいまの御質問にお答えしたいと思います。  いま曽祢委員に言っていただきましたように、私は、いかなる点から申しましても、現在の時点から考えて、この旅券法はもう改正しなければどうにもならない、事務的にももうパンク状態にあるということで、政府としても、慎重に扱ってここに御提案をし、御審議を願っているわけでございます。ですから、少なくとも大部分の条項については、もう皆さんから喜んでいただける考え方ではなかろうかと私は思っております。  ただ、その中で問題とされますことは、ずっと詳細に御論議をいただいておりますように、一つは、未承認国の取り扱いの問題、それから先ほど帆足委員の体験から出ている御意見、御心配は、大きく分けると、十三条一項五号と二項の問題の二つではないかと思います。十三条の問題は、法体系からいえば、未承認国だけを対象としているものではございませんで、全般にかかる問題でありますが、しかし、ここにごらんをいただいておりますように、現行法より悪くしているわけではない、現行法と同じ扱い方であること、それからここに掲げられた一項も、各号でごらんのとおり、あるいは死刑、無期懲役というような、非常に重い罰を受けた人の場合とか、あるいは先方の渡航先で困るといっている事情があるような場合というふうに列挙して、その他、こうこうこういう場合とございますから、かりに先ほど帆足さんが穗積さんと二人で外務大臣、法務大臣におなりになった場合に、愛知をパリにやらないようにするかもしれないぞというお話がございましたが、これはどなたがその衝にお当たりになってもきわめて限定的にやらなければならない。議院内閣制のお話も法制局から出ておりますけれども、お互いこういう立場に立ちましたならば、この条文の配列あるいは御説明を申し上げておりますような環境、状況から申しまして、帆足さんのえらい御体験というようなことにはならないように、また、国際情勢もその当時から見れば非常に変わってきておりますし、日本立場も非常に変わってきておりますから、こういう点は万々御心配のないように、運用の上で十分良識をもって限定的に扱う、こういうふうに御理解をいただきたいと思います。  それで、もう一つの未承認国の問題は、私もいまお話しのとおりだと思います。未承認国、中でも具体的に拾い上げてまいりますと、結局北朝鮮の扱い方が一番御心配の点ではなかろうかと思います。しかし、この点につきましては、今回の場合においては、従来のような便法とは申しながら法律違反するようなことではない。未承認国に対しましても、日本の自主的な判断によって考慮をしていくべきものである。この点については、先般の外務委員会におきましても、私としてはぎりぎりの御答弁を申し上げているわけでございますが、運用等につきましては、野党の方々の御懸念呼も十分頭に入れてまいりたい、かように存じております。すべて日本の自主的な判断による処理をいたす、こういうことにいたしたいと思っております。
  71. 曾禰益

    ○曽祢委員 あくまで日本の自主的な判断でやる、これは了承いたします。これは公の記録でありますとともに、当然のことでもあるし、神聖なる議会における外務大臣答弁といたしまして、重要な意味を持つものといたしましてテークノートいたします。  それからもう一つ、同僚委員の心配されているのはわからぬでもありませんが、私のセンスからいえば、いままでの法律でも、虚偽の申告をしたりその他不正の方法で旅券を得た者には退去及び罰金がかかる。これが今度は二つに分かれまして、つまり、旅行先、渡航先をいわばごまかした者に対しては体刑なしの罰金がかかるというふうに改めているという点、これはどうもけしからぬじゃないか、また、そういうことをすると、旅券の再発給はできないということは過酷ではないか、これは私は人情論としてはわかるのですけれども、理屈からいえば、いままででも法を犯していいわけではない。法を犯した場合には制裁規定があってしかるべきだ。その法を犯させるような法の存在、あるいは法を犯させるような法の運用に無理があった。これは反省しなければならぬ。私は、そういう意味からいえば、わが国の自主的な判断で、いろいろこまかくいえばケース・バイ・ケースということになろうと思いますけれども、大体累計がわかっているので、いままででも国会議員が北鮮に行くときには、そう言っては悪いけれども、共産党の人であっても、政治的目的があろうとも、政府はこれを許している。なぜ民間人ではいけないか。それもはっきりいって、政治的目的でない、しかも重要な目的のある、貿易上の目的、あるいはスポーツの目的、そういうときに、政府の窓口へ行っても旅券をくれないというような、自主的でない、あるいは現実に即さない法の運営があったからこそ、そういったような回り道をしたのだろうと思うのです。問題は、渡航先を偽って旅行することに対する罰則がじゃまになるのではなくて、当然日本の国益から見て行くべき者に与えてないというところに問題の根源があるわけです。だとするならば、わが国の自主的な判断でやる、これが明確になった以上は、これはいろいろカテゴリーの問題もありましょうが、国会議員のときはOKを出す、民間人の場合はだめ、そんなことはここできめられないけれども、たとえて言うならば、いま言ったように、正当な、だれが考えても、どの内閣になっても、だれが見ても、日本利益になる――国の任務ではありません。しかし、民間人が行くにしても、はっきりスポーツの目的、あるいは貿易の具体的な話し合いの目的、理由のある者はどんどん外務省申請する。外務省法務省がもうタブーのような態度をとっているから、横すべりが起こるのじゃないでしょうか。そうでなくて、そういうような理由のある者については、自主的な判断で善処する。こういうことが確立するならば、名目的といっては悪いけれども、それでも悪いことをする者に対する罰則そのものが残っていることにクレームをつけるべきではなくて、運用さえよくなれば、掛川というものはあれどなきがごとくなる、こういうことになると思うのです。  そこで、非常にデリケートなことと思いますが、外務大臣は、この際、いま申し上げたようなことはケース・バイ・ケースということになりましょう。そういう未承認国、特に共産諸国、なかんずく北鮮のような場合、従来ほとんど出しておらない。国会議員、それらの場合でも一回限りの旅券だけれども、理由のある者は出していくのだ、こういう意味で、私の申し上げたことにどういう見解を持たれるか、ここにはっきりとひとつ御答弁を願いたいと思います。
  72. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 渡航は、私も原則的に全然同じような考え方のつもりでございます。実は、この旅券法の御審議を願いましてから、ずいぶん多くの方たと私もお目にかかる機会がございました。具体的な例をあげて、こういう場合はどうなるかということで御心配もありますけれども、私は、いま並びに前回、前々回からこの御審議が始まって以来、ここでお答えをいたしましたり、御説明をいたしている。この範囲の中で私は日本の自主的の立場に立って善処し得る、こういう心証を私としては持っておるわけでございます。そういうつもりあるいは気持ちで適正な運営に当たってまいりたい、かように考えております。
  73. 曾禰益

    ○曽祢委員 くどいようですけれども、私がいま申し上げた例もございましたが、そういう私の発言全体を含んで善処し得る、こういうお答えであるかどうか、もう一ぺんここで明らかにしていただきたい。
  74. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 そのとおりと申し上げて間違いないと思います。十分私は善処してまいりたいと思います。
  75. 曾禰益

    ○曽祢委員 これで外務大臣に対する質問を終わります。
  76. 北澤直吉

  77. 渡部一郎

    渡部委員 この旅券法の一部改正法律案につきまして、きょうはまず私の見解を述べます前に、具体的な事項についていろいろとお伺いしたいと思います。したがいまして、率直にお答えを願えれば幸いであります。  まず、わが国のこの旅券法の一部改正法律案の一番の問題点になっておりますのが、北朝鮮に対する一般旅券発給の問題であろうと思います。現在の状態と、北朝鮮との間の旅券発給に関しては、この改正案が具体的に、たとえば一人の日本人が北朝鮮のほうに入ろうとすると、その入る前とあととどういう差があるか、具体的に例を引いてお話し願いたいと思います。
  78. 山下重明

    山下政府委員 いまの御質問の趣旨は、改正の前とあとでどう違うかということでございますか。
  79. 渡部一郎

    渡部委員 いま北朝鮮に入ろうとする方がいるとします。そういう人に対してはどういうふうにやられて、法律上許可等が行なわれていくか。それからどのくらい許可が行なわれてきたか。そうしてこれが施行されると、それがどういうふうに変化するか。具体的に例をあげてお話し願いたい。
  80. 山下重明

    山下政府委員 現在の旅券法において北鮮に渡川航した例は、外務省申請をいたしまして、旅券をもらいました場合には、その旅券で北鮮に渡航される。ただし、実際に行こうと思っておる方でも、いままで北鮮に対して面接旅券をお出ししたのは、先ほどからも問題になっておりますように、国会議員と同行する人たちでございまして、それ以外の方たちが行きたいということでわれわれのほうに申し出がありました場合に、いままでの前例では、一応検討をいたさなければ、すぐに旅券が出るかどうかわからないという形の御返事をしましたときに、その人たちはそれ以後外務省申請に来られませんで、実際にはソ連行きの旅券で行かれているのではないかと想像しているわけでございますが、今度旅券法改正いたしました場合に、その北鮮に行きたいという人も特別に法律上変わった手続があるわけではございません。そこで、今度は来られた場合に、また国会議員の方と同行者の方、そのほか貿易の方などがおられると思いますが、その場合にも、いままでと同じように、慎重に検討して取り扱いをきめていくことになると思います。
  81. 渡部一郎

    渡部委員 では一つずつ伺いますが、いままでは、たとえば北朝鮮に行こうとされた方はどれくらいの申請件数があり、それに対してどれくらいの許可が行なわれたのか、公用旅券と両方分けて御説明いただきたい。
  82. 山下重明

    山下政府委員 最近、直接北鮮行きの旅券をもらって行かれた方、去年においては松本善明議員外五名、横山利秋議員、長谷川正三議員外五名、それから四十二年におきましては林百郎議員一行十名、それから四十一年におきましては亀田得治議員一行十名というぐあいに、大体十人前後の方が行っておられる。そのほかの方は外務省に来られないので、どのくらいの方が実際に北鮮に行かれたか、私のほうには正確な数字はわかっておりません。
  83. 渡部一郎

    渡部委員 実際的には議員及びその一行がほとんどであって、それ以外の方はほとんど行っていない、こういう意味でございますね。そうすると、一般の方々はほとんど許可が出ない。許可の出ない方は、先ほど申されましたように、モスクワ経由で入られる。ある例として言われましたが、そのモスクワ経由で入った場合、その旅券はモスクワまでの旅券であって、モスクワから今度は旅券なしで北鮮のほうへ入る、こういう意味でございますね。
  84. 山下重明

    山下政府委員 その場合に、渡航先がソ連となっている旅券を持って行かれているわけで、その先北鮮に行かれたとしても、おそらく旅券は一応持っておられるのじゃないかと思いますが、そこである意味では身分証明書という役を果たしているのではないかと思いますけれども、実際にはソ連行きの旅券ということになっております。実際に北鮮においてその旅券がどういうふうに役立っているかということは、私ども正確に存じておりません。
  85. 渡部一郎

    渡部委員 モスクワに行かれて、モスクワ経由で北鮮へ入られた方は、帰ってきてから現行法律においては処罰をされることはあり得るか、また現実にそういう処分になった例があるか、それを伺いたい。
  86. 山下重明

    山下政府委員 ソ連行きの旅券を持って北鮮へ行かれた、その場合、日本を出るときから北鮮へ行くつもりで、北鮮に行くという渡航先を隠して旅券を取ったということになると、虚偽の申請になって罰則がかかるということになる。しかしながら、ソ連に行って、実際に必要性が生じて北鮮に行ったということになりますれば、これは虚偽の申請にはならない。それから、現実に帰ってきて、それが虚偽の申請だということで告発をしたという例はございません。
  87. 渡部一郎

    渡部委員 今回この法改正についての場合は、処罰の要項というものが、従来とどういうふうに変わるのか、実際の運用の面でどう変わるのか、ここが問題だと思います。したがって、まず法律的には、前回の処罰要項とどういうふうに変わっているか、それを言っていただきたいと思います。
  88. 山下重明

    山下政府委員 今度の新しい法律のもとにおいて、渡航先追加しないで行ったいわゆる横すべりの事実があった場合には、その横すべりの事実に対して三万円の罰金がかかる。ただし、その場合には、おそらくソ連行きの旅券をそのつど取るのではなくて、五年間通じどこへでも行ける旅券を持っているということになりますから、その旅券を取るために、虚偽の申告をして旅券を取ったということはほとんどなくなってくる。犯罪の対象にならなくなってくるのじゃないかということだと思います。そこで、前の旅券法と今度の旅券法におけるこの問題に対する制度が変わってきているということがいえるのじゃないかと思います。
  89. 渡部一郎

    渡部委員 念を押すのですけれども、モスクワ行きの旅券は五年間の旅券で行くわけですね。その途中で急に思い立って北朝鮮に入ったといたします。そうすると、それは突然必要性が出てきて入ったわけですけれども、処罰の対象になるのですか、ならないのですか。前だったら処罰の対象にならないで、突然用事ができたから入ったで済みましたね。そこのところは今度はどうなるのですか。
  90. 山下重明

    山下政府委員 今度は横すべり自体を対象としておりますから、当然処罰の対象になるということでございます。
  91. 渡部一郎

    渡部委員 今度は処罰の対象に機械的になる。そうすると、入った者は前はお目こぼしにあずかるというと変ですが、何かの処罰されないあれがあったが、今回の場合は入ったこと自体が処罰の対象になる、こういうことですね。
  92. 山下重明

    山下政府委員 入ったこと自体がはっきり証明できるとなれば、外務省として告発する義務があるということになると思います。
  93. 渡部一郎

    渡部委員 そうすると、そういうふうにして入った人に対しては、今後、持っておる旅券の没収とか、一般旅券というものを発給しないとか、それから罰金を科すとか、そういったことが行なわれるわけですね。
  94. 山下重明

    山下政府委員 入った事実によって、罰金刑に処せられたあとにおいて、持っておる旅券の没収ということができる、さらにまたそのあとにおいて、旅券発給制限することができる。三万円の罰金までは政府としてこれはしなければならないのですが、そのあとは、できるということで、必ずしもする必要はないということだと思います。
  95. 渡部一郎

    渡部委員 ということは、法律上はそうなっておるけれども、実際にはあまり処罰もしたくないし、それから三万円も取る気もない、こういうことですか。
  96. 山下重明

    山下政府委員 横すべり自体に対してはっきり証拠がそろえば、われわれとしてはすべきであると考えております。
  97. 渡部一郎

    渡部委員 そうすると、向こうに入るかどうかわからない、こういう名目のもとに北朝鮮に入られた人に対してはほとんど処罰をしない、こういう意図がおありだという意味でしょうか。
  98. 山下重明

    山下政府委員 そういう意図は持っておりません。
  99. 渡部一郎

    渡部委員 私は、やさしいことばでだんだん積み上げてきましたが、結局は、今回の法律改正によって、北朝鮮入国に対しては、従来と全く違う特段の厳重な抑制措置がとられたことになると解してよろしいですか。
  100. 山下重明

    山下政府委員 それは今後具体的に、実際に北鮮に行きたいと言われる方に対して再申請が正式に出されて、旅券をどういうふうにお出しするかとか、いろいろ将来の具体的問題についてでなければ、いまの状態と、この新しい旅券法が施行されたあとと、簡単に比較することはむずかしいのではないかと思います。
  101. 渡部一郎

    渡部委員 あなた、私の質問にお答えになっておりません。それは別のものを比較されたからです。私はいまの法律上の規制だけを取り上げておるわけなんで、行政措置を伺っておるわけではない。だから法律上は、前回の法律と今回出されておる法律案とを比較すると、横すべりして入国したこと自体が処罰の対象になるというのだったら、前とは違って格段に強い抑制措置になっておる、抑制の法律規制になっておるということはお認めになる点ですか。そうですね。
  102. 山下重明

    山下政府委員 お尋ねの点が、将来北鮮に行かれる人が渡航先をはっきり追加しないで行った、それに対して罰則を今度は適用するかという点については、確かに制限強化であるということになると思います。
  103. 渡部一郎

    渡部委員 したがって、今度はその点については、今回の改正案においては、北鮮に行かせないようにという意味合いというものが色濃くあらわれておるというように考えるしかない。ただ、救わるべきはそれに対する行政措置だと思う。  今度は行政措置のほうを伺うのですが、実際には、北鮮のほうへ行きたいという人に対して、前は絶対的にほとんど国会議員の一団以外には認められなかったものを、今回はそういう立場ではなくて、相当程度許すお気持ちはあるかどうか、伺いたい。
  104. 山下重明

    山下政府委員 将来どのように取り扱っていくかということは、具体的のケースに応じて慎重に検討していくことになると思いますけれども、この点については、外務大臣がほかの委員方の質問に対して十分答えられていて、その範囲でわれわれも将来検討していくことになると思っております。
  105. 渡部一郎

    渡部委員 そこで、いよいよ外務大臣にお答え願いたいのですが、北朝鮮のほうに対する入国に対して、実際的には従来のようなまるっきりの禁止措置のようなやり方で、国会議員以外には認めないという方針でいかれるのか、あるいは将来大きな含みを持ってその他を考慮する用意をお持ちであるのか、その点の行政問題としての外務大臣の所信を伺いたい。
  106. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 この旅券法の御審議を願うようになりまして以来、しばしばをお答えを申し上げておるとおりでございます。また、先ほど帆足委員、それから曽祢委員にお答えをいたしておるとおりでございます。私の考え方はそれらからひとつ御理解をいただきたいと思います。
  107. 渡部一郎

    渡部委員 私は、外務大臣がそういうふうにおっしゃっておられるのをあえて伺うまでもないわけでありますが、そこのところはちょっと不明確な感じを避けられないと存じます。実際には、北朝鮮のほうに対する問題が、北朝鮮へ入るかどうかという問題よりも、わが国の外交姿勢の基本的な問題に関係すると思うからであります。従来、佐藤総理は、いずれの国とも仲よくするのが自民党の、また政府外交方針である、こう申されております。ところが、そのいずれの国とも仲よくするという方針に関して、どうも私がそこのところで伺っている範囲内では、北朝鮮だけを別扱いにする、承認国と未承認国の差というのが先ほど論じられましたけれども、それ以上に北朝鮮だけをはずれた別の種類とするという方針をおとりになっていくのであったならば、かねてよりおとりになっている、言明されている外交の基本方針とは相当矛盾するものではないか。これは克服すべき問題とごらんになるのか、それともいまの段階としてやむを得ないものだとごらんになるのか、そこのところのニュアンスは相当違うと思います。その点を外務大臣お答え願いたいと思います。
  108. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 未承認国承認国との間では違いが起こることはやむを得ない、それがこの旅券法改正の基本になっておるわけです。未承認国に対しては、この法改正によりまして、行政的にも十分処理をいたしたいと考えております。その中で、先ほども曽祢委員がおあげになったように、中国本土に対する場合、あるいは北ベトナムに対する場合、そういう場合と北朝鮮に対する場合は、従来の取り扱い方からいって、比較的前二者は問題がなさそうだ、やはり北朝鮮について一番懸念されるところが多いだろう、こういうお尋ねでありますから、私はそのとおりだと申し上げました。この委員会外におきましても、私はずいぶん多くの方々と直接お目にかかる機会もございましたが、それらの方々の御懸念になっていることは、私がこの間から申し上げているところによって、行政的に善処し得る、かように私は考えておりまして、こうお答えをしておるわけでございます。同時に、私は、お答えできるぎりぎりのところも申し上げたつもりだということも先ほど申し上げたとおりでございます。したがって、そういうやり方でいけば、かねがねのいろいろの政策とも完全にうまくいくことはないかもしれませんが、原則的には私の考え方の線に沿うて善処することができる、かように思っております。     〔委員長退席、田中(榮)委員長代理着席〕
  109. 渡部一郎

    渡部委員 北朝鮮とわが国との貿易、すなわち、わが国と朝鮮民主主義人民共和国との貿易関係、文化的な諸関係については、いつごろから始まり、現在どういう程度になっておるか、それをお伺いしたいと思います。
  110. 金沢正雄

    ○金沢説明員 北朝鮮との貿易でございますが、これについてわれわれははっきりした数字を持っておらないわけでございますが、大体聞いておりますところによりますと、昨年は数千万ドル程度貿易があったのじゃないかというふうに了解しております。
  111. 渡部一郎

    渡部委員 ずいぶんいいかげんな御返事のように受け取れるけれども、どうして数字がはっきりわからないのですか。
  112. 金沢正雄

    ○金沢説明員 それではもう一度申し上げます。昨年度は往復で約五千万ドル程度というふうに承知しております。
  113. 渡部一郎

    渡部委員 五千万ドルをどうして数千万ドルなんてごまかすんですか、あなたは。大体からなめているんだね、そういう言い方をするのは。そういうふざけた答弁をなさるなら、私はもうこんな質問なんかできないよ。何というふざけた答弁をなさるのですか。私は数字をちゃんと聞いているんじゃないですか。人がおとなしく質問したら返事できないというのですか。ちゃんと返事したまえ、初めから。     〔田中(榮)委員長代理退席、委員長着席〕
  114. 金沢正雄

    ○金沢説明員 失礼な点がございましたらおわびしたいと思います。
  115. 渡部一郎

    渡部委員 じゃ、貿易取引高は開始以来どういうふうな数字になっているか、それを述べていただきたい。
  116. 林祐一

    ○林説明員 本件は、経済的な日本と北朝鮮との関係でございますので、実は私自身から申し上げる筋ではないかと思いますが、詳しい資料は追って御連絡申し上げて、御報告させていただきたいと思います。ただ、私が聞いておる範囲におきましては、北朝鮮といわば経済的な関係ができましたのは、昭和三十四、五年ごろからというふうに記憶しております。なお詳細な数字等につきましては、追って御報告させていただきたいと思います。
  117. 渡部一郎

    渡部委員 それではそういう資料をはっきりしていただきたい。  それならば、私はもう一つ伺いたい。その貿易額やそういうような取引高の推移というようなものを、他国の貿易高と比較していただきたいと思って、いま私は伺っている。たとえばフランス、たとえば西ドイツ、たとえばイギリス、こういったような国々においては、北朝鮮との間の取引というのは毎年急激な上昇を示しておる。その急激な上昇を示している背景には、渡航者あるいは商売をなさる方たというものが急上昇をしているはずなんだ。ところが、わが国においては国会議員の一団を送り込む以外は全くの禁止措置をとっておる。この辺に問題があるのではないかと私は伺おうとしておるのです。ところが、その問題に対する認識がまるっきりないから、貿易額が幾らかもはっきりわからないというのでは、話にも何にもなりません。私は、きょうはこれはもう質問にならないからあしたに留保させていただきたいのですが、どうでしょう、委員長
  118. 北澤直吉

    北澤委員長 貿易の問題に対する質疑はまたあしたでもいいですが、それ以外の質問をやって継続してもらいたいのですが……。
  119. 渡部一郎

    渡部委員 では、これに関する問題は全部留保させていただきます。  次に、今度は旅券法改正案について。この旅券法改正案は、どういう観点とどういう必要性から提案されたものか、御説明願いたい。
  120. 山下重明

    山下政府委員 これは前に戸叶委員からも御質問がありまして、御説明いたしましたが、現在の世界における人的交流、貿易交流、いろいろな交流が盛んになりまして、日本からも外国に行く人が非常にふえてまいりまして、その人たちがいまの旅券法では非常に不便を感じておられる。そこで、これらの渡航する方の不便を取り除くと同時に、事務的にも簡素化して、なるたけ早く旅券がお出しできるようにする。それからまた、国際的にも国連の勧告、OECDの勧告、ICAOの勧告等もありまして、大体国際的にこの程度旅券発給秩序をお互いにつくろうじゃないかというラインに伴いまして、大体そういう方向でこのたびの改正をお願いしておるということになったわけでございます。
  121. 渡部一郎

    渡部委員 そうしましたら、この旅券法改正が必要だと認識され、かつ草案の作成に着手されたのはいつごろからでしたか。
  122. 山下重明

    山下政府委員 これは大体五年くらい前から鋭意検討をしておる次第でございます。
  123. 渡部一郎

    渡部委員 いつごろからそれはやられたのですか。
  124. 山下重明

    山下政府委員 五年前でございます。
  125. 渡部一郎

    渡部委員 五年前から検討を開始されて、それで今日まで五年間かかった理由はどこにあったのですか。
  126. 山下重明

    山下政府委員 これはいろいろこの委員会でも議論になってますように、承認していない国との関係その他いろいろの関係がありまして、各省の間でも意見の一致を見ませんで、国会に提出できる段階に立ち至らなかったということでございます。
  127. 渡部一郎

    渡部委員 そうすると、外務省でこういう必要性を感じられて、法律を直すのに五年くらいかかるのは通常のことですか。
  128. 山下重明

    山下政府委員 外務省法律改正するというようなことはあまりございませんで、普通条約の場合が多いのでありますが、法律改正で五年かかったというのはあまり例がない。ただ、これは単に旅券法関係だけでなくても、たとえば去年の国会は小笠原の条約が出る、しかも参議院の選挙があって、会期が短いとか、いろいろ旅券法以外の理由によっても見送らなければならないというような事態がございました。
  129. 渡部一郎

    渡部委員 私はもう率直に申し上げるのですけれども旅券法の中で、旅券発給事務が混乱をしておって、そのために非常に皆さん迷惑なさっていることは、ほんとうに私も身で味わった一人です。ですけれども、どうしてこんなに長くかかるのかということですね。いま小笠原の問題があったからとおっしゃったけれども、小笠原の問題はついこの間の事件、何も五年かかる要因の一つにはなり得ないと思うのです。せいぜい出すのが一年おくれたというならわかる。要するに、非能率をきわめておって、こんなにのろのろかかっておる。この旅券法の別の部分は別として、いまおっしゃった、たとえば旅券発給手続の問題からいえば、なぜこんなに五年もかからなければならないのか。そうしてなぜこんなにのろのろしなければならないのか。外務省というのは、よっぽどそういうところが非能率的にでき上がっておるのか。特殊な何か深い内部的葛藤がおありであったのか。その辺のところをひとつ伺いたい。
  130. 山下重明

    山下政府委員 五年もかかって、なおかつもたもたしているのは、まことに申しわけないと思っております。ただ、御承知のように、私どもは、この法案渡航する人のためにも日本のためにもなると思っておるのでありますが、本国会におきましても、提出以来いろいろと御意見が出て、われわれ苦労しておる。これは国会だけでなく、へ出す前に、各省間でいろいろ問題を提起されまして、苦労しておる次第であります。
  131. 渡部一郎

    渡部委員 それはよけいなことをくっつけたからですよ。よけいなことをくっつけないで、ほんとうの一般旅券発給手続だけの問題に限れば、こんなごたごたすることは何一つないのです。私は、何回か外務省筋の御説明も伺ったけれども一般発給手続がこれほど混乱しているのを見ておって、平ちゃらな顔をして平然としている皆さんの神経と、それからこの際、そういうほかの関連のものをくっつけて出そうという策謀がついておる、そこにこんなにも問題がごたごたしている原因があると思いませんか。部長さんどうです。
  132. 山下重明

    山下政府委員 それはわれわれとしても旅券という観点からだけ考えますれば、ほんとうに自動販売機か何かですぐ出せるようにしたいということでありますが、現行法でもそれだけでなくて、いろいろの規定が入っておりまして、各省ともいろいろの関係がありまして、全くわれわれとしても一日も早くこの法律改正できて、渡航手続が簡単にできることを期待しております。
  133. 渡部一郎

    渡部委員 こういうような旅券法改正に関して、いま海外旅行の方たに対する必要性から提案したとおっしゃいましたけれども、それと同時に、いま一番問題点になっているポイントは、実は発給事務のほうに関しては、先ほども先輩議員の御質問を伺っておりましても、そういうのはほとんど出てこない。問題となっておるのは、要するに、そうではなくて、罰則規定の問題であり、北朝鮮との関係筋に対する配慮の問題であり、政府外交姿勢の問題である。私はそう思うのですが、その点はどうですか。
  134. 山下重明

    山下政府委員 この五年間においてやはり一番苦労したのは、先ほど申し上げましたとおり、承認しておらない国に対する渡航の問題並びに罰則の問題、これらの問題は、御指摘のとおり、われわれとしても一番苦労してきた点でございます。
  135. 渡部一郎

    渡部委員 そうすると、なぜもとどおりにしておかないで、罰則規定の問題、そういう点の問題を変えようとなさったのですか。
  136. 山下重明

    山下政府委員 その点だけもとどおりにして、ほかの点は改正するということはできなかったわけでございます。
  137. 渡部一郎

    渡部委員 どうしてできなかったのですか。
  138. 山下重明

    山下政府委員 もう少し具体的に申し上げますれば、先ほども申し上げましたように、一般数次旅券を五年にして、九九%この数次旅券を出すということになりますと、いままでの一回ごとの渡航に対して審査して旅券を出すという制度と基本的に変わってきまして、承認していない国に対する渡航のあり方というのが変わってきますので、その全般を考えて、関係各省とも十分連絡した結果、こういう形で提出することになったわけでございます。
  139. 渡部一郎

    渡部委員 この改正案のそういう問題点について、憲法やあるいは世界人権宣言やあるいは国連憲章、そういうものによって定めている、国民の基本的権利一つである渡航自由の原則が、どういう形で考慮されておるかということこそが、本改正案に対する私たちの最大の問題点であります。その点をこの改正案が大幅に制限をしているのではないかという疑いを私たちは捨て切れない。先ほどの御説明にもありましたように、渡航自由の原則に関しては、今回の改正案においては、相当法律的には前回の法律案とは違った特段の制約が加えられていることは、部長がいま言われたとおりだと私は思います。そうしたら、その渡航口由の原則は、この際どういうふうに考慮されているか。それが憲法の精神あるいは国連憲章の精神とますます離れたものとなっていくことに対して、どう考えておられるのか。ひとつ部長外務大臣と両方からお答えになっていただきたいと思います。
  140. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 これは従来からしばしば御説明しているところなんですけれども先ほど山下部長も言いましたように、大ざっぱなお話でいえば、九九%あるいはそれ以上の方々の利益がこれによりまして十分拡大される。そのことが取りもなおさず、海外旅行の自由といいますか、人権を尊重する国連憲章その他おあげになりましたが、やはりその線に大きく沿うものであると私は考えるわけであります。それから、実は先ほど山下君からも非常に率直にお答えをしているとおりでございまして、私も、この問題については、就任以来ほんとうに真剣に取り組んだつもりでございます。そして実は外国の例などもよく調べてみまして、これは国際機関で旅券のことを真剣に研究している機関なども御承知のようにございますが、そういうところが一般論として取り上げている原則にも、私は、今度の改正法というものは適合していると考えております。と申しますのは、たとえば、この旅券というものの性格については、この間も戸叶委員との間に質疑応答をかわしたわけでございますが、私どもは、理想としては身分証明書である、こういうふうに考えたいのです。しかし、これがやはり世界の国際的な状況からいえば、お互いに承認している国もあれば、あるいは相互に利益をさらに一そう増進するような取りきめをしているところもあれば、また一方には未承認の国もある。というようなことで、たとえばビザの問題と関連してみても、それから旅券を持って渡航した人の安全ということや、あるいは便宜の供与というようなことや、いろいろまた複雑な要素を考え合わせなければなりませんので、各国ともそういう点についてはやはりずいぶんそれ相応の苦労をしておるように見受けるわけでございます。私は先ほど申しましたように、一番問題は、未承認国の取り扱い、それから先ほど帆足委員が御体験からるる切々のお話がございましたが、これは第十三条の問題でございます。十三条は未承認国だけの問題ではない。こういう規定を従来同様に置いてあることに対する御懸念、この二つの問題だと思います。結局、未承認国の問題にしても、中国関係はだんだんと観光その他が定着してまいっておりますから、こういうやり方になりまして、むしろうまくスムーズに行くんじゃないかと思います。あるいは同じような分裂国家といってはいかんのかもしれませんが、南北ベトナムで、北ベトナムの場合もまずまずたいした問題はなかろうと思います。したがって、先ほど来るる申し上げておりますように、北朝鮮がどうなるだろうかということが、北朝鮮と貿易をしておられる方、あるいは文化的な仕事をしておられる方、そしてこういう方々は、従来はいわゆる横流れの旅券といいますか、横流れで北朝鮮へ入っておられる、こういう方々が今度の改正でどうなるかということを非常に御心配になる。これはごもっともなことだ、私も十分その御希望、背景がわかるのです。ですから、今度はそういう場合を停止しようというんじゃないのでございますから、未承認国に対しての旅券発給ということができるわけでございます。一般的な五年間で無差別というものとは違うけれども、一ぺんずつで出せる方法を講ずるわけでございますから、それを先ほど御説明申し上げましたように、日本の自主的の立場に立って、こういう事情をわきまえながら善処をいたします、運用によりまして御懸念のようなことをできるだけ少なくするようにいたします、こう私は御説明申し上げておるのです。これは幸いにして法律が制定せられましたならば、その気持ちを十分運用の上に反映させたい、かように存じております。しかしながら、やはりいま申しましたように、いろいろ複雑な国際的な事情もまだ現に存在しておりますので、ある程度以上、私がコンピューターにかけたようなつもりで、こういうケースはこう、こういうケースはこうということを申し上げるのには不適当の場合もあろうかと思いますので、ぎりぎりのところまで申し上げておりますということを先般来率直に御答弁しておる次第でありますから、長年にわたって何をなまけていたか、いろいろの御議論もごもっともだと思います。私も非常にそれは心苦しく思っているわけですが、ようやく国内各官庁との打ち合わせもこれででき上がり、そうしてここに御審議を願うことになっておるわけでございます。また、私どもとしての苦衷というものもある程度率直に申し上げておるわけでございますから、どうかひとつ前向きに御審議をしていただきたい、心からお願い申し上げる次第でございます。
  141. 北澤直吉

    北澤委員長 渡部君に申し上げますが、先ほど北朝鮮と日本との貿易関係の御質問留保されておりますが、いま資料が届きまして、政府委員答弁できるそうですからそれを含めて御質問願います。
  142. 渡部一郎

    渡部委員 委員長、それは話が違いますよ。即席の返事じゃ困りますよ。
  143. 北澤直吉

    北澤委員長 質問をお続け願います。
  144. 渡部一郎

    渡部委員 御返事ができるようだったら質問するけれども、そうでなかったらあすに留保します。さっきあすとおっしゃったじゃないですか。資料もまだ手元に来ないですよ。
  145. 北澤直吉

    北澤委員長 各党申し合わせで審議を尽くすことになっておりますから、ひとつ審議を尽くしてもらいます。――とにかく質問を続けてもらいましょう。
  146. 渡部一郎

    渡部委員 これは委員長に対するお話ですけれども貿易の問題に関しては準備をなさっていなかったんだと私思います。これが論点ですから、明日堂々たるお答えを期待して、正式資料を提出していただいた上で御質問を続けたいと思います。
  147. 北澤直吉

    北澤委員長 それでは貿易の点を除いて質問を続行願います。
  148. 渡部一郎

    渡部委員 理解あるおことばに感謝しております。  ただいま外務大臣の率直なお話を伺いまして、私もその外務大臣の置かれている立場について、それがわからないわけではないわけであります。そうしてその国際的なぎりぎり一ぱいのところまで話しているとおっしゃっている問題について、私は、国民立場からは、どうも不明確な点がまだあることは十分はっきりさせなければならぬと存じます。それはどう考えても、国民の基本的権利一つである渡航自由という原則をこういう形にしていくということは、むしろ法律の逆行ではなかったのか。たくさんのいろいろな交渉の上でこういうまとめ方をなさったという御説明を伺いましたが、私は部長に伺いたいのですが、こういうような法律の変更というものは、渡航の自由をさらに狭めていく方向になっていくのではないか。国連憲章の方向から逆の方向に戻っていったのではないか。そうしてまた、日本の置かれている国際的な環境を顧慮するのあまり、逆に憲法の精神とも反するところの方向に進みつつあるのではないか、そういう疑いを捨て切れない。その点、部長にお答え願いたいと思います。
  149. 山下重明

    山下政府委員 いまの御質問の点は、要するに、現在の法律よりも、新しい法律改正のほうが、渡航の自由をより制限しているのではないかということだと思いますけれども、われわれといたしましては、決してそうではない。新しい法律改正において、国民渡航の自由をより制限するようなことはないというふうに理解しておるわけでございます。
  150. 渡部一郎

    渡部委員 それではその次に、この旅券発給するにあたって、許可条件、不許可条件、その許可あるいは不許可となる資格、そういった問題について、もう一回説明をしていただきたいと思います。
  151. 山下重明

    山下政府委員 旅券を許可する許可しないという形で、どういう場合に旅券発給制限するかということでございますが、それは十三条に書いてございまして、一項においては、相手国の査証が取れない場合、その次には、死刑、無期もしくは長期五年以上の刑にあたる罪で訴追されている場合等、それからさらに「禁こ以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者」、それから四番に、第二十三条の規定に該当して刑に処せられた者、さらに国の援助を必要として公共の負担になった者が、また公共の負担になるような渡航をしようとする場合、それから直接に国の利益または公安を害する行為を行なうおそれがあると認めるに十分な理由がある者、こういうふうに十三条に規定をしておりまして、そのほかに、十九条に、旅券返納をしてもらう場合の規定が書いてございますが、これもある意味では、場合によって旅券発給制限にかかる場合がございます。それには大体五項までございまして、十三条一項各号の一に該当するものである。それから、その者が旅券を受けた後に、十三条一項各号に該当するという場合、それから錯誤もしくは過失により旅券発給された場合、それから、これも議論になっておりました旅券の名義人の生命、身体、財産の保護のために旅行を中止させるというような場合、それから最後に、新しくつけ加えた項目でございますが、当該地における日本国民一般的な信用もしくは利益を著しく害しているということで、渡航を中止していただくというような場合、これがある意味渡航制限になってくるんじゃないか、こういうふうに考えております。
  152. 渡部一郎

    渡部委員 こういう海外渡航の自由を含む基本的人権の尊重に関しては、憲法あるいは国連憲章、世界人権宣言、平和条約等に私は規定されておると思うのでありますが、部長は、こういったものについて、どの条項が海外渡航の自由をうたっておると思われるか、御自分で説明していただきたい。
  153. 山下重明

    山下政府委員 憲法において二十二条で、移住の国民の持つ権利保障しておるわけでございますが、それも公共福祉ということに反しない触りというので、具体的に申し上げますと、渡航をする人御本人の保護の問題、それから国の利益の問題、そういう問題に抵触する場合には、ある場合に制限、中止することができるということになっておるわけで、この点は、けさの田上参考人意見でも、大体そういうふうに解釈されておるということでございますし、われわれもそういうふうに解釈して一おります。
  154. 渡部一郎

    渡部委員 では、北朝鮮へ行くのは、公共福祉に反するとお考えになっておられるのかどうか、その点を説明していただきたい。
  155. 山下重明

    山下政府委員 具体的に申し上げますと、いままで北朝鮮に行くのが国益に反するということで拒否したケースはないわけでございます。いままでは、北朝鮮への渡航の問題は、実際に具体的に、関係各省の間でも十分審議が尽くされていない。その間に御本人においてはそれで行っておるというような状態ではないかとわれわれは類推しております。
  156. 渡部一郎

    渡部委員 いままで北朝鮮にだまって行かれた方々、そういった方々が行かれた行動は、公共福祉に反していたと認められるのかどうか、伺いたい。
  157. 山下重明

    山下政府委員 その点になりますと、具体的なケースに応じて十分検討した後でないと、われわれとしても軽率にいえない問題ではないか、かように思います。
  158. 渡部一郎

    渡部委員 先ほどあなたは、公共福祉に反する場合においては、憲法の二十二条の規定というものは制限されてもいいというような意味合いのことを言われました。そうすると、いまあなたがこういう法律案を具体的に提出されておるということは、北朝鮮のほうに行くということは、公共福祉に反するからという意味合いの議論をとっておるという意味になるのでしょう。
  159. 山下重明

    山下政府委員 もしかりに、われわれとして北朝鮮に行く旅券を拒否した、それがしかも十三条一項五号によって拒否した、これはどこの項目に当たるかというと、たとえば国の利益ということになってくると思うので、その国の利益というものは、公共福祉に入ってくるという解釈で、国の利益の中には、外交上の利益も経済上の国の利益も、いろいろな国の利益が入ってくるので、これは外務省だけの問題ではなくて、ほかの省とも十分検討して決定されるということになると思います。
  160. 渡部一郎

    渡部委員 そうすると、二つ問題がありますね。国の利益になるということは、外務省及びほかの省が判定すべきかどうかということが一つ。もう一つは、いままで北朝鮮に行った人が、国の利益にならなかったのかどうか、なったのかどうか。いままでのが不利益であったと認めておるのかどうか、この二つの質問に答えてください。
  161. 山下重明

    山下政府委員 第一の御質問の、国の利益外務省で判断するのじゃなくて、ほかの省で判断するかどうかということかと思いますが、その場合、具体的な渡航がどういう目的で行かれるかということによって、外務省だけの判断、もしくは外務省法務省だけの判断、あるいは貿易関係では通産省とも相談することになって、必ずしも一般的にこれこれこれが関係するということじゃなくて、具体的のケースによってどの省とどの省が関係するということになるかと思います。それからまた、いままで北朝鮮に行っておられる方々の渡航が、国の利益になったかどうかという点になりますが、これもやはり具体的に相当調べてからでないと、ばく然とお答えできる問題ではないのじゃないかと思います。
  162. 渡部一郎

    渡部委員 具体的なことは調べなければとおっしゃるんだったら、具体的なことをあげなければ、この法律案を通す意味はなくなってしまいますよ。というのは、あなたは、国の利益をいままで渡航した人が、これとこれとこれはこういうふうにいったから阻害した、だから今度こういう法案を出して、渡航自由を制限した、こういうのがあなたの論拠なんですね。そうするならば、あなたはその具体的な論拠を出さなければならぬ。具体的な論拠を出さないで、いまのような論拠を使われるんだったら、こういう法案を出す意味合いがなくなってしまう。
  163. 山下重明

    山下政府委員 それは、渡部委員が、北朝鮮に対してわれわれが旅券を出さないという方針を立てておるという前提に立った場合ではないかと思うのですが、われわれは……。
  164. 渡部一郎

    渡部委員 そんなことを言っておりません。あなたは具体的事実がわからない、具体的事実判断しなければわからないと言うから、そういう公共利益に反する具体的な事実をあげろと言っておる。あげられないでおいて、こんな法案を出すのはおかしいと思う。
  165. 山下重明

    山下政府委員 具体的ケースが出た場合に、それが公共利益に反するかどうか、国の利益に反するかどうかということを検討するのがこの法律のたてまえであると私たちは理解しております。
  166. 渡部一郎

    渡部委員 具体的事実をあげないことが公共福祉にかなうというのですか。
  167. 山下重明

    山下政府委員 どうも少しあれでございますが、具体的にたとえば、先ほど御議論のあった、帆足先生が昭和二十七年にモスクワの国際会議に行かれるということを申請してこられた場合に、外務省は最初十九条の四号で生命、身体、財産の保護の観点からいわれ、それからそのあとで十三条一項五号の観点からも検討したというお話がありましたけれども、具体的な例が起こったときに、それが旅券法の規定に該当するかどうかということを検討して、外務省は取り扱いをきめているということでございます。
  168. 渡部一郎

    渡部委員 じゃ具体的にいままでどういうふうに取り扱って、どういうのが国の利益に反し、公共福祉に反したかという具体的なデータをあげていただきたい。どいつとどいつがどういうふうに北鮮に行って、どういうことで日本の国の利益を阻害したか、述べていただきたい。
  169. 山下重明

    山下政府委員 先ほども申し上げましたように、北朝鮮の場合には、十三条一項該当として拒否した事例はございません。それは具体的にそういう申請を受けてそれを拒否したという事実がないからでございます。それから、いま言った十三条一項五号該当の件はどういうのがあるかということになりますと、たとえば、これは三十九年に長野国助さんがブラジルに渡航する。あそこで中共のスパイ事件が起こっている。それの弁護に行かれた。ところが、ブラジルにおいて非常に反共的な政府ができておって、ブラジルにおられる日本人の方々がそこに来て、中共のスパイ事件を日本の弁護士の方が弁護すると非常に困るという強い空気が生まれて、これは好ましくないということで、十三条一項五号で拒否したケースもございます。そのほか、この間からも議論がありましたように、四十一年の夏に中国から日本の青年を六百名くらい招待したいということに対して、これは好ましくないということで、十三条一項五号によって、内閣の決定で渡航旅券発給制限をいたしたこともあります。
  170. 渡部一郎

    渡部委員 そうすると、あなたのおっしゃるのは、そういうような場合が国の利益を害する、こういう意味ですね。そうすると、朝鮮に関しても、そういうような類似のことが行なわれないようにしているのだ、こういうのですね。そういうふうに理解してよろしいですか。
  171. 山下重明

    山下政府委員 北朝鮮の場合も、あるいは将来申請がありまして、その人に旅券を出すと国の利益に害があるというような判定が行なわれました場合には、そういうことになると考えております。
  172. 渡部一郎

    渡部委員 そうすると、北朝鮮へ日本の青年が六百人行くということは、その時点では日本の国の利益に反する、こういうことになるわけですか。
  173. 山下重明

    山下政府委員 日本の青年が六百人行くということだけじゃなく、あのときは中共政府渡航費も全部まるがかえで日本の青年を呼んで、向こうで革命教育をするということで、そういう具体的な渡航の目的とか態様とか、そういうものを十分検討した上で、これは国の利益にならないというような判定が下されたわけでございます。
  174. 渡部一郎

    渡部委員 そうすると、そういう国の利益にかなうとかかなわないという問題は、どの省の人が最南責任をとってきめられるのですか、いろいろな省と相談なさるという言い方をなさいましたが、それは終局的には外務省がなさるのか、主管大臣というべき人はどなたなのか。
  175. 山下重明

    山下政府委員 それも先ほどから申し上げましたように、問題によりまして外務省と通産省で、外務省法務省で協議する、そうして外務大臣責任をとってきめるという場合もございますけれども先ほど申し上げました中共の場合には、非常に重大な問題として閣議で決定されたというケースもございます。
  176. 渡部一郎

    渡部委員 そうすると、今回のこの海外渡航の自由の制限という問題は、要するに、総理大臣もしくは外務大臣が北朝鮮に自由に旅行者が行くということは、公共福祉あるいは日本国の利益にならない場合があり得る、それを制限するために、内閣総理大臣もしくは外務大臣責任のもとにこういうものをつくった、こういうことになるわけですね。
  177. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 これは非常に重大な点ですから、私からもお答えいたしたいと思いますが、先ほどの曽祢委員のお尋ねにお答えいたしましたように、十三条の問題は、これは相手の国がいかなる場合であっても適用される条文でございますから、北朝鮮というようなことに限定しての問題じゃございません。先ほど例があがりましたように、たとえばブラジルとかいうような国に対してもこの適用をいたしたことがある次第でございます。それで著しくかつ直接国益に反する、あるいは公安に直接反するというような場合におきましては、十三条一項、二項をあわせまして外務大臣が決定するわけでございますが、特に法務大臣と協議しなければならない、こういう規定に相なっておるわけでございます。  それから、先ほど山下部長から十分お答えしたと思いますけれども、実は北朝鮮向けの旅券については、これは私の就任前のことですからなんですけれども、私はこう理解しております。直接外務省に対して北鮮行きということで旅券発給を求めてこられた事例がないから、したがって、過去において北鮮に入った方につきまして、外務省の当時の見解はどうであったかと言われても、その過去の場合には、審議することがなかったわけでございますから、自然その当時の状況について、いまの時点から、ひるがえって、あれがこれから起こることであったならばどうであろうかということについては、現在としてはお答えができないと、こういう趣旨を山下君が申し上げている。そういう趣旨もございますということを御理解いただきたいと思います。  そして今後はどうなるかといえば、未承認国に対しましてもストレートの旅券発給ということの申請が受けられるわけです。そうしてこれを申請によって審査いたしまして、発給することができるわけでございます。  で、いままでのところ、旅券法においては、まあ実際上無理もなかったことと思いますけれども法律上からいえば違反行為が行なわれておったわけですから、それをそのまま続けるよりは、こういう改正の機会に際しまして、いま申しましたような態勢で日本政府が主体的な立場で判断する。そうして正常なりっぱな目的で渡航される方は、ひとつ申請日本政府に対してしてください、こういうかっこうになりますことは、私は改善だろうと思っておりますが、しかし、これは御意見がいろいろございましょうから、なんですが、私はさように理解をし、そしてとにかくこの旅券法改正は、現在までよりはもうはるかにいい面が非常に多い。問題にされるような点についても、十分の配慮をしたつもりでありますし、また運用上も十分善処する用意を持っておる、こういうわけでございますので、御理解を進めていただきたいと思います。
  178. 渡部一郎

    渡部委員 ではその続きでございますが、いままでの間、北鮮に対する旅券申請についてはなかった、だから、外務省としては判断していなかったのだと、いま外務大臣山下さんを弁護なさっておられますが、私は判断していないということは、申請に対して判断をしていなかったのであって、申請されていないで北朝鮮に入っている者に対しては、当然判断が行なわれておったと思うわけであります。であるからこそ、このように北朝鮮に対する旅行をきびしく制限するものを提出されたわけでありますから、結局は申請をしていなかった人々に対して、これとこれは国益に反するというような判断を具体的に立てられていたのではないかと思うわけです。先ほど山下さんが、国の利益に反するものは、具体的に判断しなければわからない、具体的例で一つずつ判断するほかはないと言われたけれども、いままで北朝鮮に入ったいろいろな旅行者その他について、これとこれは具体的にいって国益に反する、あるいは公共福祉に反するというような判断をされたことがあったかなかったか、お答えを願いたいと思います。
  179. 山下重明

    山下政府委員 いままで外務省に北鮮行きの旅券申請しないで、実際上北鮮に行かれた人たちが、具体的に国益を害したかどうかということだと思いますけれども、これは非常にお答えしにくいので、仮定として、いままで貿易なり何なりで行った方たがどういうことをやったかということをわれわれはよく知りませんけれども、われわれが理解している範囲では、あまり具体的に国益に害があったということは考えておりません。特に申し上げたいのは、われわれが今度罰則をつくったというのも、強化するというような意味で設けたわけではございません。もちろん、国益を害するようなことがあります場合に、旅券をお出しできないということがあることは当然でございますが、いままでの例で、特に北鮮に行かれた方々が国益に著しく審があったということはお聞きしておりません。
  180. 渡部一郎

    渡部委員 今回の旅券法改正案を見ますと、全般的に基本的人権の尊重という方向からは遠くなったという印象を避けることは、私はできない。その理由の一つは、多年悪条項として指摘されてきた十三条一項五号には何ら改正の手が加えられていないのに、二十三条の罰則等においては、人権を縛る方向が露骨に見えておりますけれども、今回の草案の段階において、この五号の改正についてはそういう意味合いのことが論議されていたかどうか。どういう見解を持っておられたか、その辺をお伺いしたいと思います。
  181. 山下重明

    山下政府委員 われわれの間で、十三条の一項五号が不適当な条文であるという議論はございませんでした。
  182. 渡部一郎

    渡部委員 二十三条の罰則について、第二項が新しい規定となって加わっておりますけれども、この第二項を新たにつけ加えた理由は、外務省としてはどういうように考えておられますか。
  183. 山下重明

    山下政府委員 これは先ほども申し上げましたように、今度一般の五年数次の全世界承認国に出す旅券、こういう大幅な緩和が制度上とられるということに対応して、いままでの旅券法と違う点で、この程度旅券法秩序維持のための手続的な罰則がつくのはやむを得ないという観点で設けられたものでございます。
  184. 渡部一郎

    渡部委員 それではあと貿易に関する問題、法務大臣に対する質問、そういうものを残しまして、きょうは……。
  185. 北澤直吉

    北澤委員長 本日はこの程度にとどめ、次回は、明四日午前十時より理事会、十亜三十分より委員会を開会することとし、これにて散会いたします。     午後五時五十五分散会