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説明員(新谷正夫君)
後藤幸次郎とおっしゃる方は、もと福田姓を名乗っておられたようでございますが、朝鮮の出身の方でありまして、
昭和二十三年の九月二十四日に佐世保の市役所に
後藤さんという内地出身の女性と妻の氏を称する婚姻の届け出をされたわけであります。市役所のほうでは、
日本の法律に従ってこれを受理しました。新しい戸籍がつくられました。自来、
後藤姓を名乗って最近まで
日本人として二十年間生活をしてきたというのが事実関係でございます。
昭和二十三年と申しますと、平和条約の発効するよりかなり前のことでございます。その当時の民法あるいは戸籍法の
適用関係がどうなっておるかということを御
説明申し上げなければならないわけですが、平和条約発効前におきましては、朝鮮も台湾も内地と比べますと、いわゆる異法地域ということになって
おりまして、法制を異にして
おります。内地の法律とこれらの異法地域の法律との橋渡しをいたして
おります共通法という法律がございまして、これがまず働いてまいりまして、内地人とそうでない人との婚姻等の場合、どの法律が
適用されるかということが、この共通法によってきまることになっていたのであります。その当時の婚姻届け出であります。したがいまして、これは共通法の規定によりまして、まず法令の規定によるということになるのであります。これは共通法の第二条の第二項にそのような規定が入って
おりまして、法令の規定によるということになりますと、内地人の女性と朝鮮出身の男性との婚姻でありますと、その婚姻の方式、具体的に申しますと、
日本の法律でいえば届け出になるわけであります。市役所に対する届け出でありますが、この方式につきましては、
日本の法律によることになって
おり、婚姻の要件につきましては、各当事者についてそれぞれその本国法によるということになっておるのであります。したがいまして、この場合、朝鮮出身の男子につきましては、届け出は
日本の法律によってよろしいわけでありますが、婚姻成立の要件とか、あるいは効果につきましては、朝鮮に施行されて
おりました
法規、慣習法というものに従うということになっておったのであります。
昭和二十三年の一月一日に、御承知のように民法が改正されまして、親族相続法が新しい
憲法下において戸主
制度あるいは家族
制度というものを廃止いたしまして、新しい法律に変わったわけでありまして、それに伴いまして戸籍法も全面的に改正されたのであります。その直後のできごとでございました。したがいまして、いろいろ取り扱い上にも十分趣旨の徹底していない面もあったやにうかがえるのであります。妻の氏を称する婚姻届け出ということになりますと、これは新民法あるいは新戸籍法のもとにおきましては、
日本人相互の間であればこれは問題はないのでございますけれ
ども、先ほど申し上げましたように、当時、共通法の規定が働いて
おりました夫となるべき男性につきましては、これは朝鮮において行なわれておった
法規、慣習法に結局従って、その効果、効力が定められるということになるわけであります。そこで、
法務省の
民事局長も、当時、新民法、新戸籍法が施行されました直後にいろいろな問題がございましたので、ただいま申し上げましたような趣旨の通達、回答を出して
おります。朝鮮出身の男子とあるいは
日本の女性と婚姻するような場合に、取り扱いは従前ど
おりということをまず
昭和二十三年の一月二十九日の通達で明らかにいたしました。さらに、三月の十七日に、その従前ど
おりの取り扱いという意味は、共通法の規定によって従来ど
おりやると、こういう趣旨の回答が出されておるわけであります。したがいまして、当初からいまのような事例の場合におきましては、婚姻の届け出そのものが
日本の法律でやれるのでございますけれ
ども、その成立要件なり効力につきましては、夫となるべき男子の属する地域の
法規による。こういうことになっておったのであります。そのことは平和条約が発効いたしまして後、共通法が廃止されて、若干の変更がございましたけれ
ども、現在まで一貫した考え方であったのであります。ところが、
昭和二十三年の十月十五日に、
不法入国者の婚姻につきまして司令部の指示がございまして、そういう
不法入国者の婚姻を認めることはできないということになりまして、婚姻届け出の場合に不法
入国したものでないという趣旨の証明書を出すことになったのであります。その証明書を出す通達の中に、妻の氏を称する婚姻の場合もその証明書が必要かと、こういう趣旨の問いがございました。それに対しましては、回答といたしましてはそのと
おりであるという回答が出て
おります。実はこの回答の趣旨がはき違えられたということになろうかと思うのでございまして、先ほど申し上げましたように、朝鮮出身の男子と内地人女子との婚姻につきましては、届け出はこちらでできますけれ
ども、婚姻の効力につきましては男子の属する地域の法律によるということになりますので、妻の氏を称する婚姻というものは、そのままの効力を生ずるわけにはいかない。佐世保の市役所ではその点誤解があったのであろうと思うのでございますけれ
ども、その当時、妻の氏を称する婚姻の届け出をそのまま受理して、内地の戸籍を編成してしまったということになっておるのであります。これは、もちろん先ほど申し上げましたように、夫となるべき男子の属する地域の慣習法に属するものでございますので、妻の氏を称する婚姻の届け出が、そのままの効力を生ずるわけではございません。ただ婚姻の届け出ということでありますので、少なくとも当事者の意思としても婚姻をする意思があって、双方の意思に基づいて婚姻届け出をしたということでありますれば、婚姻そのものは有効だというふうに解さざるを得ないと考えておるのであります。そこで、この問題につきまして、
昭和四十年になりましてその取り扱い上の間違いが発見された……。