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国務大臣(
佐藤榮作君) 内藤君から日中間の問題についていろいろ取りまとめられてお話がありましたが、
基本的な
考え方と申しますか、いまのような日中間の
関係がいつまでも続くと、かように私は思いませんし、また
日本のためにも
アジアの平和のためにも、これは日中間の
関係がさらに改善されることを、これは心から願っております。しかし、
事柄にはそれぞれ順序がありますし、チャンスがございますから、そうわれわれの願いどおりにすぐ今日どうこうというものにはならないと思います。
ただいまも御
指摘になりましたように、
ベトナム問題で三月三十一日にジョンソン大統領があれだけ重大な決意を発表し、北側もこれに対応する柔軟な態度を表明しておる。両国とも世界的に称賛を得て、またそれを支持されておる。しかし、いままだ
話し合いの場所もきまらない。したがって、今日も
ベトナムでは激しい戦闘が続いておる。そういうことを考えますと、まだまだ
ベトナム問題の最終的解決、それまでには相当時日を要するものではないか。また逆戻りする危険すら実はあるのではないかと、たいへん心配しております。したがいまして、まずわれわれは、このせっかく
話し合いの糸口を見つけようという、両国のそういう態度について賛意を表し、同時に、これを見守って育てていって、そうして恒久平和がここに実現するように、そういう意味の
協力をしなければならないと思います。
そういうことが早晩できるだろうと、そういうことを前提にして、ただいまの
中共と
日本との
関係、あるいは
中共とアメリカとの
関係、あるいは
中共と国府との
関係等々の問題をただいまるるお話しになりました。しかし、その前提が前提でありますだけに、一足飛びになかなか結論にも達しかねると思います。私は
基本的には、トインビー博士の言い分ではないが、それはもう一八四〇年代以来中国が列強の侵略を受けた、そういうところに
一つの問題があるだろう。しかし、
中共はさすがに
各国の植民地になったわけではない。まあ
各国からかじり取られたというような
感じもする今日でございますけれども、しかし、これもだんだんもとのりっぱな中国大陸に返りつつある、かように思いますから、それらの点は、トインビー博士の言論は別といたしまして、今日の前向きの
状態でどういうふうにしたら世界の平和、
アジアの平和にお互いが貢献し得るか、かように私は考えるべきじゃないかと思います。
そこで、
日本の
立場は、私がアメリカに参りまして二回ジョンソン大統領と話をした。第一回の場合は、もうはっきりアメリカと
日本の
立場は違う、したがって、
日本は隣の国でもあるし歴史的にも古い
関係がある、この
関係では政経分離の形において
貿易の拡大をはかっていく、アメリカがどういうような態度であろうが、
日本はこの
方針でいきます。いくからアメリカもこれを
理解し
協力をしてほしい、そういう態度をはっきりしたわけであります。二度目の昨年参りました際は、
中共のその後の核兵器の
開発がだんだん進んでおりますから、そういう問題が
一つの論点になったということではございますが、しかし、
日本の態度としては、在来からの政経分離の
立場で
中共との
貿易あるいは人的交流、これをやっていくことにおいては変わりがない。したがって、私は
日本に対する
中共側からのいろいろの要求はございましょう。これは今日の
佐藤内閣に対する北京放送あるいは北京における批判等でつまびらかにしておりますが、しかし、私ども考えますのに、
中共自身もやはり共存政策を打ち出すこと、これが何よりも必要ではないか。私どもイデオロギー的に相違もし、あるいは政治形態が違っておりましても、お互いに
独立を尊重し、内政不干渉、こういう問題はイデオロギーを越して両国間の共存が可能である、かように実は思うのでありますから、そういう意味でみずからが孤立主義をとらない、そういうような反省もぜひ必要なんじゃないかと思います。私はこれは別に
中共を非難するという意味で申すわけじゃありません。われわれの希望がそこにあるんだ、そうして共存政策をぜひとってほしい、こういうことを実は言っておるわけであります。
でありますから、期限が到来したというLT
貿易、これが今回再開されたということ、これはまだ一年の期限でございますから、再開されたといいましても、まだまだ不十分でございますし、また両国の
貿易関係などを考えれば、
長期の期間のやっぱり協定が望ましいことであるし、民間協定にしろ
長期のものが望ましいように思います。そういう
事柄をやっぱりこういう機会に希望
意見として述べる。
それについて、ただいま、
中共側から三
原則が出れば、当方からも三
原則を出せ、こういう話を言われますけれども、私は主張そのものはお互いにそれぞれあるだろうと思います。そしてその間にそう議論、まあ筋を立てて議論するほどのことはない、
基本的に何といっても共存政策に立ったんだ、このことが一番大事だ、かように思います。お互いにときには率直な遠慮のない
意見を述べることも適当ですが、お互いにわかったことはほどほどにするのも
一つの行き方でございますから、そういうことで共存政策が打ち立てられればたいへん私は都合がいいのではないかと思います。
ただ、中国の場合には国府、国民
政府がありますし、北京
政府があるし、
二つの実力を持った国があります。これが中国は
一つだ、こういうたてまえをとっているために、
一つの私どもなかなか割り切れないものをいつも
感じておる。いまのような形で共存政策を続けるにしても、どうも隔靴掻痒の感があって、もう
一つ思い切ったものができない、こういううらみがございますが、しかし、現実の問題としてそれぞれの力、この
貿易、条約上の権利義務はもうすでにわれわれ持っておりますから、その権利義務を遂行すると同時に、現実にある北京の
中共政府とも政経分離の形でつき合いを進めていく、かように実はただいま考えておる次第でございます。
それについて先ほど、親韓使節を出したらどうか、また米中の橋渡しをしたらどうか、こういう話であります。私どもアメリカに行くたんびにワシントンでジョンソン大統領のアメリカの中国、
中共に対する態度、これは緩和はできないものか、こういうことをしばしば
指摘してまいりました。そのつどワシントンで申しますことは、
自分たちは
中共と人的交流はしたいのだ、新聞記者諸君の交換もしたいのだ、しかしそれらのことがいままで実現しないでいる、こういうようにアメリカ側では申しております。したがって、私は一部で言われるいわゆる封じ込め政策あるいはアメリカ自身が一切の交際を断つと、こういうものではないように思いますし、また現実の問題としても、ポーランドでは両大使がしばしば
会談を持って
話し合いをしておる。かような機会は開かれておりますから、これはむしろはたでいろいろ議論しておるこの
状態は、両国間の親善を深めると、そういう方向へやはり
協力する、こういう
立場でポーランドの
会談なんぞも見ていけばいいが、どうもこれの見方も非常に冷い見方をしている、こういうことが両国間の接近にあまり役立っていないだろうと思いますので、これはやはり
各国がこういうせっかく芽ばえた両国間の
話し合いの場をやはり育てていく、こういうことを望ましいのではないだろうかと思います。私ども
日本がこの
立場にありますから、しばしば米中間の橋渡しを、その役をしろ、こういうことを
国内からも、また外国からもしばしば要望されます。私はそういうことについて、もちろん
日本が果たし得ることがあれば、
アジアの平和と世界の平和のために私は果たしていきたいと考えるのであります。しかし、あまりにも隣にいるために、実情をはっきり知っておりますだけに、どうもこういう点にあまりいま直ちに行動に出ることが当を得たものではないようにも思います。やはり橋渡しをするについては十分効果があがるような方法が望ましいのです。それには、先ほど申しました共存
関係に立つのだ、このことで、その
考え方で私は話はできると、かように実は思っております。
また、ただいまの
状況のもとにおきまして親善使節を出したらどうか。つまり、私どもの党のほうからも党員がわざわざ出かけて、LT
貿易、それの再開について
話し合いをいたしますが、私がそういうものもとめていない。また、こういう
事柄がやはり親善のそういう使節の一部でもある、かように御了承いただきたいと思います。
また、お話しになりました輸銀の問題、輸銀を使用したらどうか。まあ最近問題になりますのは、野党諸君からしばしば聞かれるいわゆる吉田書簡、これはまあ吉田書簡というものは
政府の取りきめではございませんから、いわゆるこれを緩和するとか、あるいは撤回するとか、そういうようなものではございません。そこで、いまの
貿易をやる、現実に日中
貿易が行なわれております、そういう観点から見まして、この輸銀を使うことについてはケース・バイ・ケースで処理していく、在来の
方針を重ねて申し上げるわけです。
ただ、私重ねて申し上げますが、今日在来の
方針をただいま変えるという
考え方はございませんけれども、しかし、いまのような
状態がこれが今後とも長く続くことが望ましい姿ではない、これは改善されなければならないものだと、かように思っておりますし、また必ずそういう時期が来るだろうと、かように私はそれを期待するものでございます。