○柳岡秋夫君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
趣旨説明のありました
最低賃金法の一部を
改正する
法律案について、
総理並びに労働
大臣に
質問いたしたいと思います。
賃金は、
労働条件の最たるものであります。労働者保護の基本法である労働基準法は、その第一条において、「
労働条件は、労働者が人たるに値する
生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」と宣言し、ILO憲章もまた、その前文において、社会状態を
改善する主要な手段の一つとして、「妥当な
生活賃金の支給」を掲げております。そして去る
昭和三十三年、すなわち
現行最低賃金法制定の前年に、ジュネーブで開かれた最低賃金制に関する条約・勧告専門家
会議は、その
報告書において、「妥当な
生活賃金という
原則は、すべての最低賃金
制度の根拠になければならないものであり、したがって、最低賃金を決定するにあたっては、労働者の通常の必要を考慮しなければならない」と述べております。さらに、本年はあたかも世界人権宣言二十周年の国際人権年に当たりますが、その人権宣言は、「何人も、労働する者は、人間の尊厳にふさわしい
生活を、自己及び家族に対して
保障する、公正かつ有利な報酬を受ける権利を有する」とうたっているのであります。このように、いやしくも賃金と名のつく限り、その内容は真の
意味で人間らしい
生活を営むことのできるものでなければならないとされているのであります。
今日、
日本人の平均的な
生活に必要な
経費の基準といたしまして、人事院の標準生計費があります。これによりますと、
最低賃金法の制定をされました
昭和三十四年において、標準生計費は、一人当たり七千九百三十円であり、同じ年の労働省の調査で、定期給与が八千円に満たない労働者の数は百九十四万三千人でありました。そうして法施行後八年を
経過した
昭和四十二年の標準生計費は一万五千五百六十円で、定期給与一万六千円に満たない労働者の数は、四十一年の統計で百九十万八千人であります。すなわち、法施行八年の実績は、標準生計費以下の低賃金労働者を減少させることができなかったのであります。
標準生計費とは、言うまでもなく、
厚生省の
国民栄養調査に基づく、
日本人の栄養
所要量等をもととして算定した生計費でありますから、これを下回ることは、必要な栄養量を摂取できず、人間として生存することさえ不可能となるのであります。のみならず、労働省発表の最低賃金決定状況によれば、四十二年度末で、賃金日額六百円未満の労働者は五百四十九万人であり、最低賃金適用労働者の九〇%を占めているのであります。日額六百円未満ということは、月収が一万五千円未満ということであり、これまた標準生計費に満たない低賃金労働者であります。労働省が最低賃金行政八年の成果として誇っているものは、実は膨大な低賃金労働者を法の名によって固定化したものにほかならないのであります。このような結果をもたらした原因は、一体どこにあるのでしょうか。
その第一は、
政府が法の制定にあたって、労働基準法との法的関連を断ち切ってしまったことであります。労働者に人間らしい
生活を
保障するという賃金の根本
原則は、
最低賃金法に取り入れられず、捨てて顧みられないまま、今日に至っているのであります。
そこで、
総理にお伺いしたい第一は、
最低賃金法の名のもとに、労働基準法第一条に違反する
労働条件を膨大につくり出したということを、まずお認めになりますか。
第二は、
最低賃金法は、本来、労働基準法に法的根拠を有すべきものでありますから、その旨を明記する
意思はないかということであります。
原因の第二は、最低賃金決定基準の中に、企業の支払い能力という要素を大きく取り入れたことであります。最低賃金の決定基準については、最低賃金決定
制度の実施に関するILO第三十号勧告におきまして、労働者に適当な
生活水準を維持させるべきことを第一とし、あわせて生計費類似の賃金ないし一般賃金水準を考慮すべきことを掲げているのであって、企業の支払い能力には全く言及していないのであります。ところが、
現行最低賃金制の大宗をなすところの業者間協定は、その性質上、ほとんど業者の支払い能力のみを考慮することによって締結されてきたことは疑いをいれません。「労働者に
生活賃金よりも低く支払うことによって存在を続けている企業は、この国では存続する権利を持たない」と宣言したルーズベルトのことばは、最低賃金制そのものを貫くところの普遍的な原理であります。
すなわち、労働者の健康と
精神とを破壊することによって成り立っている企業活動は、もはや企業活動の名に値するものではなく、一つの罪悪行為と言うべきであります。しかりとすれば、国が最低賃金制の名においてこのような最低賃金を認め、助長することは、労働者に対する罪悪であるのみならず、企業に対しても、このような行為が合法的であるという誤認を生ぜしめているという
意味におきまして、まさに二重の罪を犯しているということになるのであります。
政府は、この際、最低賃金決定基準から、支払い能力の
原則を除くべきだと
考えるのでございますけれ
ども、
総理の所見をお伺いいたしたいのであります。
次に、
制度運営における誤りの一つとして、地域性の固執を
指摘したいのであります。本来、
わが国の経済構造に根強く存在をいたしておりまする地域格差は、高度成長
政策の強行によりまして拡大されております。
国民所得の六〇%、労働力の五〇%が南関東、東海、近畿の三地方、いわゆる太平洋ベルト地帯に集中しているのであります。経済構造の地域格差は、そのよって来たるところが複雑であり、これを是正する方策も単純ではあり得ないのでありますが、
わが国の最低賃金制が全国全産業一律方式の導入を時期尚早ないし非現実的であるとして、当初から放てきし、いたずらに地域性を固執したことが、賃金構造の地域格差を解消することなく、ひいては経済構造の地域格差を拡大する一翼をになっていることも否定できない事実であります。若年労働力の不足を背景として、格差縮小傾向の著しい中卒初任給においてすら、全国平均に対して南九州八〇%、東北八二%、北海道八六%という格差を示し、さきに述べた労働力の集中を招来しているのであります。他方、四十一年の勤労者世帯について消費者物価の地域差を見ると、最も低い四国、九州が全国平均の九六%、東北九六・九%というように、物価の地域差はきわめて小さくなっております。にもかかわらず、世帯実
収入の格差は、九州八七・三%、四国九〇・六%、東北九二・一%の開きを示しているために、消費水準は、九州九一・七%、東北九二・九%、四国九三・六%と制約せざるを得ないのであります。
消費者物価の地域差がほとんどないということは、必要生計費にもさしたる差がないということであります。したがって、地域性と支払い能力とを固執し偏重する
考えを捨てれば、全国一律最低賃金を実現し、他の経済諸
政策と相まって、賃金の地域格差解消へと向こうことができ、ひいては、経済構造の地域格差解消という、
わが国経済政策の戦略目標を達成する一助となり得るのであります。いまこそ一律最低賃金制に踏み切る客観的条件は熟しており、また、その必要性の大きいときはないと
考えるのでありますが、
総理の決意を伺いたいのであります。
次は、業者間協定についてお伺いいたします。
この方式がILO第二十六号条約に適合しないことは常識でありますが、その常識が
政府の根本的認識になっていないことは、はなはだ遺憾であります。今回の
改正案において、業者間協定方式を廃止する理由があいまいであり、中央最低賃金
審議会の答申においても、この点の
説明が不明瞭であります。同方式が条約に違反する旨の強い
指摘に基づいて、
現行法を同条約に適合せしめるための検討を
審議会に追加諮問したのは四十一年二月でありますが、
政府に常識があるならば、少なくとも業者間協定の締結を促進するようなことは慎むべきにもかかわらず、労働省
当局は、さながら突貫工事のごとく、第一線の基準監督署にノルマを課し、一方的に企業の支払い能力を評価し、業者を説得して拡大をはかったのであります。このことは、
佐藤総理みずからが、昨年の六月、
衆議院本
会議において「
現行法でも二十六号条約に適合している」と言明しているように、
政府の誤った認識によるものであります。
総理のこの点についての根本的認識を明らかにしていただきたいとともに、世界の常識に従って、業者間協定方式は条約に適合しないものであることを明確にすべきと思うのでありますが、
総理のお答えを願いたいのであります。
次に、
改正案の
経過措置を見ると、業者間協定による最低賃金の効力を、法
改正後なお二年間存続させ、その間使用者のみの発意による改定を認めることとしているのは、条約不適合の状態を二年間延長しようとするものではないか、労働者からの
異議の申し立てがない場合、または、申し出があっても、行政官庁が効力存続の決定を行なった場合は、これをそのまま
審議会方式による最低賃金とみなすとしているが、これは条約に適合しない方式で定めた最低賃金を永久に存続させる措
昭和四十三年四月十日 参議院
会議録第十一号置であり、条約に適合させるための
改正ではなく、したがって、同条約の批准は将来にわたって不可能となる道理になりますが、条約批准の
意思と時期について、
総理から明らかにしていただきたいのであります。
次に、最低賃金
審議会の構成について伺います。
賃金は、本来、労使対等の交渉によって決定さるべきことは言うまでもありません。したがって、最低賃金決定機構の構成と機能とは、あくまでも対等
関係にある労使を
中心とすべきものであり、公益委員は補充的ないし補助的
役割りを果たすべきものであります。ところが、
わが国の最低賃金
審議会の公益委員は、その人員において、また権限において、全く労使の委員と同等であり、ILOの
規定する線をはるかに逸脱し、労使委員の果たすべき機能をそこねているのであります。ILOは公益委員について、労使はもちろん、官庁からも影響を受けることのない独立不偏の存在であり、しかも最低賃金の専門家であること、さらに公益委員の選任にあたっては、労使の同意を要することを
規定しております。そこで労働
大臣にお伺いしますが、この際、公益委員の選任にあたっては、このILOの
規定に従う
意思はないか、また、特別委員
制度の廃止をする
考えはないかということであります。
最後に、家内労働対策について二点、労働
大臣にお尋ねしたいと思います。
第一点は、家内労働
審議会の答申時期であります。
政府は、昨年末、四十三年三月までに答申を得て、通常国会に家内労働法案を提出すると言明してきたのでありますが、去る三月半ばに至って、ようやく「家内労働法
制度検討上の問題点」がまとめられたにとどまり、最終答申を経て法制化に至る道程は、なお長いものと想定せざるを得ないのでありますが、答申と法制化の時期の見通しについて伺います。
第二点は、家内労働
審議会に対する労働
大臣の諮問の内容は、「法制的
措置を含む今後の総合的家内労働対策をいかにすべきか」というものでありましたが、まとめられた問題点からは、流通過程の規制、税制、時間規制など、重要なポイントが落ちており、全体に消極的、後退的色彩をぬぐいがたく、総合的家内労働対策とは称しにくいものとなっております。対策の総合性、積極性を私は強く要望するものでありますが、労働
大臣のこの点についての見解を承りたいと思います。
今日、
日本の全労働者が、みずからの
生活と権利を守るために春闘を展開いたしておりますときに、私は
政府の積極的な労働者保護の姿勢と、明確な答弁を要求いたしまして、私の
質問を終わる次第であります。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕