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1968-05-14 第58回国会 参議院 法務委員会 第17号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十三年五月十四日(火曜日)    午前十時三十四分開会     —————————————    委員異動  五月十三日     辞任         補欠選任      迫水 久常君     赤間 文三君      鹿島 俊雄君     鈴木 万平君      斎藤  昇君     岡本  悟君      大橋 和孝君     野々山一三君  五月十四日     辞任         補欠選任      赤間 文三君     近藤英一郎君      鈴木 万平君     菅野 儀作君      中山 福藏君     内田 芳郎君      野々山一三君     木村美智男君      西村 関一君     松永 忠二君      大森 創造君     大和 与一君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         北條 雋八君     理 事                 青田源太郎君                 梶原 茂嘉君                 秋山 長造君                 山田 徹一君     委 員                 内田 芳郎君                 岡本  悟君                 北畠 教真君                 紅露 みつ君                 近藤英一郎君                 菅野 儀作君                 中山 福藏君                 山本茂一郎君                 木村美智男君                 亀田 得治君                 松永 忠二君                 山高しげり君    国務大臣        法 務 大 臣  赤間 文三君        国 務 大 臣  赤澤 正道君        国 務 大 臣  田中 龍夫君    政府委員        内閣総理大臣官        房陸上交通安全        調査室長     宮崎 清文君        警察庁交通局長  鈴木 光一君        法務省刑事局長  川井 英良君        法務省矯正局長  勝尾 鐐三君        運輸省自動車局        長        鈴木 珊吉君        建設省道路局長  蓑輪健二郎君    最高裁判所長官代理者        最高裁判所事務        総局民事局長   菅野 啓藏君        最高裁判所事務        総局刑事局長   佐藤 千速君    事務局側        常任委員会専門        員        増本 甲吉君    説明員        法務省刑事局刑        事課長      石原 一彦君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○刑法の一部を改正する法律案(第五十五回国会  内閣提出、第五十八回国会衆議院送付)     —————————————
  2. 北條雋八

    委員長北條雋八君) ただいまから法務委員会を開会いたします。          、  委員異動について御報告いたします。  昨五月十三日、斎藤昇君、迫水久常君、鹿島俊雄君及び大橋和孝君が委員辞任され、その補欠として岡本悟君、赤間文三君、鈴木万平君及び野々山一三君が、また本日、赤間文三君が委員辞任され、その補欠として近藤英一郎君が、それぞれ委員に選任されました。     —————————————
  3. 北條雋八

    委員長北條雋八君) 刑法の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を行ないます。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  4. 亀田得治

    亀田得治君 質問事項が非常にたくさんあるわけですが、ひとつ重要な項目からできるだけ簡潔にお尋ねをしていきたいと思います。  まず最初に、刑法改正問題についてお尋ねをいたしますが、現在まで刑法改正が過去において八回行なわれたわけです。で、これらをずっと拝見いたしますと、具体的な社会の必要に応じた限度改正をしてきておるわけです。これは私は改正態度としては当然そうあるべきことだと思います。ところが今回のやつは、それに比べると、非常に範囲が広がっておるわけです。そういう意味では、従来の過去八回の改正に比べて、私は性格がだいぶん違う、こういうふうに考えるわけです。で、過去八回の刑法改正特徴点ですね、私がいま指摘したようなとらえ方で大体間違いないと思うんですが、どういうふうにその点を当局考えておられるのか、ひとつまず御説明を願います。
  5. 赤間文三

    国務大臣赤間文三君) 今回の刑法二百十一条の改正も、いまお述べになりました、われわれは必要な限度において改正をするということには変わりはないと考えております。たとえて申しますと、下のほうは一切何らの手を入れてない、ただ最高の三年を五年に上げたのは、非常に悪質なものに行なうということを骨子にいたしておるのでありまして、別に範囲を広げるとかいうような——やはり全く必要な限度法務省としては解釈いたしております。
  6. 亀田得治

    亀田得治君 提案理由説明を拝見しましても、酔っぱらい運転とか、悪質運転とか、これを提案理由にしているわけです。ところが、現実にでき上がった法文は、ごらんのとおり、適用対象が非常に広いわけです。それはおかしいじゃないかという追及をしますと、いやそのほかの部分についても同じ過失であるから同じように扱うことは理論的には間違いではない、こういうまた説明がつけ加わったわけですね。それは間接です、そういうことは、あとのほうの説明は。これは法文が広範な条文になっておりますから、つじつまを合わす改正でそういう説明をしているにすぎない。現実の必要は、何といっても、悪質運転とか、こういうことが理由であることは、これは提案のときの提案理由説明自体で明確なんです。過去八回の刑法改正でこんなことはないのです。もちろん、八回といっても、第一回は、これは刑法の下限の削除ということですから、これはたいした——改正点というよりも、むしろ軽くするというようなものです。それから第二回は別ですが、第三回は、新憲法との関連においてやられたわけでありまして、これは特異だと思いますけれども、しかしそれら以外のものは、そのときに社会的な問題になって、そうして特に必要性が出てきたということで、それをとらえるように具体的にしぼって、そうして全部改正してきているわけです。幼児誘拐が非常に盛んになったということで、それに対する刑を整えるといったようなぐあいに、みんなそうなんですよ。だから、私は、刑法の全般的な改正でこれはないわけですから、何といってもそういう態度が必要だと私たち思うんです。ところが、その必要以外のところですね——以外のところに広く広がっておるわけですね。その点の改正態度としての弱点をこっちが追及しますと、理論的に同じ事態に対しては同じに扱うのが筋だと、こういう説明をされるわけですね。それはへ理屈なんです、そんなのは。あとから出てきた議論なんです、これは。私は、そういう意味で、今度のようなこういうやり方というものは、どうも刑罰法規を部分的に手直ししていくという立場としては、非常にまずいやり方だと考えるわけですよ。いままで、質疑の過程においても、たとえば準備草案があると、そのうちの一つ一つを抜き取りしていくかと言ったら、そんなつもりはないというふうにもお答えになっているわけですね。それは当然そうあるべきですよ。全体のつり合いなり、そういうことを考え準備草案自体ができておるわけですからね。だから、そう考えれば、当然これは、いま緊急に必要性を訴えられておるそこにきちんとしぼって、そうしてやるのが私はあたりまえだと思う。刑事局長に聞きますが、一回と三回は、これは特殊なことですから別として、それ以外においてこういう式の改正というものは私はなかったと思うんですが、それは法律条文ですから、ある程度の広がりは、これは私は考えられると思うのですが、これほど広範な広がりを見せるようなそういう刑罰法規のつくり方というものは、これはやっぱりちょっと根本態度として間違いがあると思うんですよ。そうして、マスコミが騒いだり、いろいろしますか、結局あなた、悪質運転のことだけを言うておるわけなんですね、どの社説等を見たって。だから、そういう点について納得がいかないからこう批判が出ておるわけですね、大きな。どうなんです、その点。
  7. 赤間文三

    国務大臣赤間文三君) 非常に広範にわたるということでありまするが、これは二百十一条の性質が、私は広範になるといういまお話しのような性質を持っておる条文であると考えます。われわれ改正を今度やりまするのは、やはりさきにお述べになりましたような必要な限度でやる、何も大広範にわたる改正をやろうという意味ではない。そういう点からいたしまして、たとえば先般の道交法改正などは、少し刑罰が軽いから罪を重くするというふうなことが各所にあらわれておりまするが、今度の改正においては、御承知のように、下のほうは一つも変わっていない。ただ、上が「三年以下ノ禁錮」が「五年以下ノ懲役ハ禁錮」ということになっている。これはもうほんとうに、われわれから見まするならば、必要な限度に限っておるということが言えると私は考えておる。ただ、亀田さん専門家で、一番詳しいと思いますが、刑の均衡を失しないという点から、私はこの二百十一条の改正が一番適切である、こういうふうに考えております。範囲が広いからといっても、広いところにはあまりさわらないというたてまえ——いまお述べになりましたように、ごく一部の重大なる過失、悪質なものに限って刑の上を上げる、それで非常にあれからいえばやはり必要な限度である、こういうふうにわれわれ解釈をしております。
  8. 亀田得治

    亀田得治君 刑事局長、いかがですか。
  9. 川井英良

    政府委員川井英良君) 刑罰法令改正に関する基本的態度といたしましては、当面必要な目的限度においてこれを行なうというのが基本的態度であることは、御指摘のとおりだと思います。  そこで、問題は、刑罰法令の中における刑法という法律の持っておる特別の性格というものもまた見のがすことはできないと思うわけでございまして、私どもといたしましては、その必要性をまかなう場合におきまして、特別法ではなくて刑法でまかなうのが正しい方法だと、こういうふうに考えましたので、刑法でまかなうといたしましたならばこういうふうなかっこうにならざるを得ない、こういうことであろうと思います。ただ、ただいま大臣から御説明がございましたように、その場合におきましても目的はあくまで悪質重大事犯だということで、悪質重大事犯におのずから運用がしぼられるような面におきまして細心の配慮をしたつもりでございます。
  10. 亀田得治

    亀田得治君 その法律運用の面で説明するということは、これは第二次的なんです、そういう説明はね。運用じゃなしに、刑罰法規自体においてまず適切であるという感じを受けるものじゃなければ私はいかぬと思います。しかし、法規自体はともかく広くこう網を張って、軽いものはその範囲内でやるのだから、そう心配する必要はない、こういうふうな論理というものは、これはもう古い、きわめて権力主義的な考え方なんです、こういうことは。だから、ただいまのようなそういう運用面で軽いものは軽くする、これはあたりまえのことなんで、そんなことは説明にならぬ。そこで私は、前回参考人の方が来られたときに、現在の社会的な必要性からいったら、酒酔い運転、それから無免許並びにスピード違反、こういうことが一番いろいろな事故に結びついておるわけですから、これだけをもっとこう表に出して、そうしてこれに対する刑を重くしていくということのほうが、社会的な効果からいってもいいじゃないか。それから現在まじめに運転をしておる人たち立場からいっても、やはりこう好感を与えるのですね。しかも、そういうことになれば、これは全会一致でいけるわけですよ、全会一致で。何も社会党がそのようなものについての厳罰ということに反対しているわけじゃないのですね。これほど社会的にいろいろ論議になっておるものが、どうもこう一部反対で通らなきゃならぬ、これは立法技術が拙劣だからなんですよ。基本的な考えはほとんど一致しておりながら、しかも抵抗にあう、これはあなたもっとくふうしなきゃ私はいかぬと思うのです。私はいまでも、この現在の社会情勢から言うならば、酔っぱらいなどに対する特別な特例法というものを出していったほうがよほど適切だ。まあわれわれのほうでつくったのは前回読みましたから、ここでは再度申し上げませんが、そういうふうに確信しているのです。ただ、どうも法務省等では、道交法ということになると、管轄がこれは違うわけですね。自分らの扱う場所じゃないと、どうしてもそういう道交法に持っていくとかといったようなことについて消極的、どうしても刑法にしがみつきたがるわけですね。そういう傾向がこれは伝統的にあるわけです。そうして、法制審議会等議事録を拝見しても、あまり議論をしておらぬですわ。別な方法ということについて議論をしておりません。これははなはだ私は遺憾だと思うのです。どの所管になろうが、ほんとう社会的にそれが適切だということになれば、各省がこぞって一番いい方法に協力をしていく、当然そうあるべきだと思う。ところが、たいした議論をしていない。そうして、単独立法だとか道交法などは思わしくないといったような議論だけを続けているわけですね。こういうことでは私はいかぬと思う。  それで、どうしても刑法でやりたいという場合の案を私まあつくってみたわけですがね。これでいかぬかどうか、これは法務大臣考えてほしいのです。で、刑法の「二百十一条ノ二」、これを新設するのです。本文は、「自動車運転者ガ前条罪ヲ犯シタル場合ニ於テ酩酊状態ニ在ルトキ、運転免許ヲ有セザルトキ又ハ当該運転ノ速度法令ニ依ル最高限度越ユルモノナルトキハ五年以下ノ懲役又八二千円以下ノ罰金ニ処ス」、二百十一条に対する例外規定ですね、こういう形をとれば、それほど文章が長くもないし、大体文章が長いということを日本の法律家は非常にきらうのですね。簡単にして、そして専門家しかわからぬような、これがりっぱな法律であるといったような考え方がある。そうじゃないと思う。私は、多少文字がふえても、しろうとがざっと読んでいってもわかりやすいということがもともと大事だと思うのです。私がいま申し上げたような条文は、それほどだらだらしているわけでもない。これで十分私は目的を達し得ると考えているのですが、どうですか。こんなような「二百十一条ノ二」といったようなものをつけるのは、大体ていさいからおかしいというふうな形式論からおそらく始まるのじゃないかと思いますがね。刑法の中に、めいてい状態とか、そういったようなことば自体が適切じゃないと、こういうような、反対をしようと思えば私はいろいろな理屈が出てくると思う。そんなことを言いだしたら、それはあなた、新しい社会には新しい条文が要るのですから、新しいことばを持ってこなければ適切には書けないんでしょう。それは、裁判等においてめいてい状態についての解釈ども確定していけばいいことであって、いままではそういうものを刑法の中に持ってくる必要がないからこれは入っておらぬだけであってね。そういうものを入れるのは罪刑法定主義趣旨に反するとかね、ともかくいろいろな理屈をおっしゃることは私も予想できるわけですが、そういう自分のとらわれた既成の概念だけで、せっかく適切に処理できるものをつぶしていくということは、はなはだいかぬと思う。私が申し上げたそういう条文刑法に入ったんじゃぐあいが悪いですか、どうです。これはちょっと専門的だから、局長から答えてください。
  11. 川井英良

    政府委員川井英良君) 私どもこの法案を提案するにあたって、実は衆知を集めていろいろな案を考えてみました。最初に二十二、三通りの案ができまして、それをだんだんしぼりまして最後に十一の案ができました。それは、刑法における改正の案と、道交法その他単独立法等に分けまして、あらゆる案を考えてみたわけでございます。その考えられました案について何度も慎重に検討を重ねました結果、最後に残りましたのが、ただいま提案をいたしております政府原案でございます。この案を法制審議会にかけまして、法制審議会におきましても、ただいま御指摘のようないろいろな御意見が出ました。さらにまた、ほかの別案についても、別の提案がございまして、そうして審議が重ねられて、採決がとられまして、その結果、結局この政府原案以外適当な方法がないということで、この案にきまったというのが、簡単に申し上げましてこの立法の経過でございまして、法務省刑法だけ担当しているからというだけで、あくまで刑法にしがみついて、刑法でなければいけないのだという狭い考えでは決してありませんで、非常に広いいろいろな立場からの考えを十分に練りましたその結果が、結論としてこういう結論でございます。それから、政府原案は、ただいま法制審議会でやっております刑法全面改正の案もこの案でございます。この全面改正刑法の案ができる前に、いま御指摘になりましたような案も実は出たわけでございます。その案につきましても、今度の一部改正法制審議会ではございませんで、刑法全面改正のほうの、こちらのほうの法制審議会において、全く同じような案が一応議論になっております。そこでは、たとえば問題になりました愛知県の猿投の例のように、ただいま御指摘の三つの例の中では、あの例はどちらにも入らないわけでございます。その他あとから出ましたいろいろな悪質重大犯考えてみますと、すべての悪質犯が入るためには、酒酔い運転、無免許運転、その他無謀運転とでもしないというと、構成要件としてはまことに不完全でございます。そこで、無謀運転ということにするとしてどういうことになるかということで、お隣におられる交通局長のほうにも実は御相談かけたわけでありますけれども無謀運転といいますと構成要件としてはまことに不明確でございます。厳格にすればほとんど入ってまいりませんし、ゆるやかにいたしますというと非常にいろいろなものまで入ってくるというふうなわけでございまして、結局構成要件として明確を期するということでいろいろ議論をいたしました結果、ただいま御指摘の案よりは政府原案のほうが妥当であろうというふうなところに落ちついたいきさつがあるわけであります。お読み上げになりましたのとほとんど同じような案は、私どもも前に十分に検討をいたしました。
  12. 亀田得治

    亀田得治君 案が十一あったというのですが、どういうものですか。
  13. 石原一彦

    説明員石原一彦君) 十一以上を考えて十一にまとめたわけでございますが、先生が御指摘のように、酒飲み運転ということが問題になったときに、この酒飲み運転はどういうように条文上に入れていくかという点がまずあるだろうと思います。その点につきましては、たとえば二百十一条を犯したときに酒気を帯びていたというようなこと、あるいは酒気を帯びて二百十一条の罪を犯した、こういうような書き方等があったわけでございます。そのほか、当時問題になりましたのは、ひき逃げということも問題になりましたので、道交法の百十七条のその関係においてどういうふうに書くかという点でありまして、あらゆる形態におきまして書いたのでございますが、大分けいたしますと、二百十一条というものの中で何かのしぼりを入れていくか、先生のおっしゃったような案をつくっていくか、あるいは道交法のほうを中心にいたしまして、その結果人の死傷を来たしたものを処罰する方向でいくかという点でございます。これを構成要件的な書き方に応じまして幾通りにも組み合わせができて、十一の案ができたと、こういう趣旨でございます。
  14. 亀田得治

    亀田得治君 あとでもいいから、参考にその十一の案というのをひとつ見せてください。よろしいな。
  15. 石原一彦

    説明員石原一彦君) 了承いたしました。
  16. 亀田得治

    亀田得治君 たとえば、いま局長から、酒飲みとか、無免許とか、その他無謀運転——無謀に実はそのひっかかりがあるという説明がありましたが、しかし世間では無謀運転ということばを使ってるんですよ。無謀運転はいかぬ、私は刑法はそれを取り入れたらいいと思うのですよ。その中身は、これはやはりだんだん実際によって固められていくことになるんじゃないですか。大体二百十一条の過失なんというものはそうでしょうが、刑法自体からは何もわからないんですよ。だから、どういう程度ならいけないということは、これはだんだん積み重なっていくわけでね。しかし、おおよそのことはわかってるわけだ、過失でも、無謀でも。それはおおよそさえわかっとりゃいいんで、あと裁判所の仕事ですよ。だから、そんな従来から使っておることばだけで処理していこうなんていったら、それはあなた時勢におくれてしまいますよ。それはそのほうが便利かもしれません、それはね。だけど、それは適切じゃないですよ。だからたいした理由ないんですよ。私たちはもっとはっきりしなさいということについての反論を聞きましてもね。まあ時間があれば、その十一案を全部一つずつ中身を分析してお聞きしたいところですがね、実際のこと。といいますのは、こういう安易な立法作業をやってもらいたくないわけです、われわれ。刑罰法規ですからね、やはりどんぴしゃりと、必要に応じたところでぴしゃりと当たっている、そういうものでなきゃいかぬですよ、それは。一般の人はわからないです。刑法の一部改正やってる、いや無謀運転のことだというと、ああそうですが、それで初めてわかる。何でそんなわからないことばをわざわざ使わなきゃならぬような作業をやるか。だから、ぜひそういうことはひとつ反省してほしい。  もう一つは、過去の刑法改正作業を振り返ってみましても、具体的に社会現象に対して必要とされる条文ということが出てきた場合には、それほど反対が起こっておらぬのですよ。それも含まれるかもしれないが、ほかのやつも包んでいこう、こういうものが説明の上ではっきりしている、あるいは運用上でもそういうことになるのじゃないかと思われるような提案が来た場合には、いつもこれは紛糾しておるんですよ。非常に新しい例では、たとえば凶器準備集合罪ですね。昭和三十三年ですか、当時は暴力団がいろいろの凶器を持って、そうして列車を買い切って出かける、こういうものは、それは大分なら大分に着かぬうちに神戸でつかまえてしまえ、これはみんな必要性を認めたわけですね。ところが、条文のつくり方自体がいろいろ憶測される、それで相当あの点はもめたわけですね。ところが、その後の法の運用を見ておると、やっぱり心配したような運用になっておるわけです。裁判所ではどうなっていますか。いままで無罪になったのなどもあるでしょう、起訴して。だから、そういう広げるような立法のしかたというものは、私はよくないと思う。ところが、新たな事態が出てきておる、おそらく取り締まり当局はそう言うだろうと思うのです。それは、そのときはそんなことは予想されぬことでしょう。予想されぬのに、新たな事態が出たから、先見の明があったようなことを言う人もおるかもしれませんが、そうじゃない。事態は本暦的に違うわけですから、形式のところだけを見ろと、同じだと、こういうふうに言う人があるでしょうが、それはあなた別の政治的立場から見たら、非常に違うわけです。だから、新たに起きているそういう事態を肯定するということじゃないんですよ。私はそれは、それに対する適切な方法考えたらいいのです。ともかくめんどうくさいから、ひとつつくるときに何でもいけるようにやっていこう、こういうことは、これは間違いだと思うのです。そういうことじゃないやつは、すっとスムーズに通ってきておる、そう思いませんか。準備集合罪の問題についてだけ——ほかのやつはみんな具体的につくっているが、これだけです、ちょっと幅を広げてつくっているのは。立法当時の政府の答弁では、運用上そんな広げることはないと、こういうふうに答えているが、実際はそうなっておらぬ。そういうことをきらうわけなんです。まじめな運転者がたとえば、ミスをおかした、やはり最高が五年ということであれば、だんだんそっちに近づけられるのではないか、これは心配するのはあたりまえです。それは、処罰する立場の人とは、また受け取り方が違うわけです。だから、そういう不安を与えぬようにして、なるほどと、そうして全会一致、全国民こぞって、ひとつこれでいこう、これでなければ教育的な効果は半減されますよ。法制審議会は、われわれの先輩なり、りっぱな法律専門家がたくさんおられるわけですが、案外ちょいちょいそういう意味では間違いがあると思うんです。刑法にとらわれ過ぎて、自分の専門の学問にとらわれ過ぎるわけです。法制審議会は大事な機関ですから、尊重されるのはいいのですがね。たとえば、三十五国会でしたか、毀棄罪を非親告罪にするという改正国会に出されたことがあります。何回でしたかね、ちょっと覚えておりませんか、局長。三十五回だったと思いますが、私の記憶では。これは法制審議会でも、その毀棄罪を非親告罪にする、また準備草案もそういうふうになっておりますね、これは。なっているでしょう、準備草案。どうですか、これは。
  17. 川井英良

    政府委員川井英良君) 仰せのあれは、器物損壊のことでしょうか。
  18. 亀田得治

    亀田得治君 毀棄罪。
  19. 川井英良

    政府委員川井英良君) 器物損壊ですね。
  20. 亀田得治

    亀田得治君 国会提案されたのです、それは。これは四十二章の損壊の罪の中の。現行法ですと、二百六十四条で親告罪になっておるのを、これをはずしておるのです。そうして、準備草案もそうだし、法制審議会も一致した意見だということで、これは国会に出てきたのです。出てきたが、結局、国会で非常な論議になりまして、ちょっとこういう物がいたんだ、本人がおこってもいやせぬ、それに対して検察権が介入してくる、そんなことは行き過ぎじゃないか。各国のいろいろな例なども出されて、大議論になって、それは削除になったのです。だから、いや法制審議会できまった準備草案にもありますとかいうようなことをよく言われますけれども、それは全体の社会の動向から見たら、やはり間違いもおかす場合があるわけなんです。国会で批判されて、それは現行刑法どおりに戻されたわけです。だから、そういうこともよく経験があるわけでして、この提案を見ておると、ともかくまあ準備草案法制審議会を通ってきた、こういうようなことが一つの大きなやはり理由づけになっておりますが、都合のいいことだけ並べても困る。ところが、日本弁護士連合会はどうですか。これはあなた、単独立法でやるのが現在の情勢に合う。これは元裁判官、検察官の経験者もみな参加しておる連合会です。そこではそういう意見を確定して、正式にこれは文書として出しておるわけです。ところが、そういうようなことは、こちらが聞かれるまではなかなか言わない。だから、そういう意味で、私はできたら何とかもう少し世論にぴしゃんと訴えるようなものにしてほしい、基本的には一致しておるのですから。政府さえその気になれば、それで私は作業できると思うのです。国会もまだあるのですし、せんだっても参考人の御意見拝聴したときに、局長も来ておられましたがね。法案の背景をなす社会現象に対する見方自体については、ほとんど一致しているのだ。私は、まあ大同小異、あとは技術的なことぐらいにしか考えないのですよ。参考人の中でも、自分たちがこうして参考人として意見を述べさしてもらうのは、やはり、法案のこの審議にそれを反映さしてほしい。ただ、国会の行事として、採決をやる前には、重要法案については参考人の意見を聞くのだ、そんなことじゃ困る。こういうことも、そりゃ各人の腹の中で思っていても、なかなか言う人もないでしょうが、そういうことすら発言された方もあるわけですね。なぜこれ、全会一致でやれる技術的な方法があるのに、それができぬのかね。法制審議会で十一の案もあった、その中にはわれわれが言っているようなものもあったというのですから、まるでそんな見当はずれな案じゃこれは絶対ないわけですね。しろうとが見たら、私の意見にほとんど賛成してくれるのですよ、だれに聞いても。これは大臣どうですか、ひとつそういう点を判断してくれるのが私は大臣だと思う。大臣、あまり法律は詳しくないからというような御謙遜があるようですけれども、こんなことは詳しくないほうがむしろいいかもしれぬですよ。大所高所からわかりいいような、そういう立法をやった。単独立法なんかやってごらんなさい、これはもう赤間法案ということになりますよ。永久にこれ残りますよ。どうですか、大臣。私はこれはともかくその点を要望しますよ。あなたのほうがその気ならば、私は委員長のほうにおいてもしかるべく取り計らってもらえると思う。どうですか。
  21. 赤間文三

    国務大臣赤間文三君) 刑法の一部改正というものは、とにかく今日の事態から見て非常に必要じゃというふうに皆さんから思われておることは、非常に私ありがたく存じておる次第でございます。ただ形式が少し亀田さんは気に入らぬというようなふうにいまとったのですが、まあこれはやはり、さきにも刑事局長が言いましたように、法制審議会等にも諮問をして、私の聞いたところでは、非常に慎重な審議が行なわれたというふうに私は承った。ただ簡単な審議でなくて、非常な慎重な審議が行なわれて、二百十一条をこういうふうにやるがよかろうということにきまったように承っておるのであります。しかも、この改正案は全面的な賛成を受けて立案をせられたというように聞いておるのでございます。そういう点からいうと、相当の日子をかけ、また、その道の審議会が、素通りどころじゃなくて、何回も非常な熱意をもって調査をし、しかも全会一致でもってこの方法がよかろうという形式をとられたのであるということになりますと、この案が私は最善のものじゃないか、かように考えております。しかし、亀田さんもなかなかの専門家で、研究心が旺盛——亀田さんのおっしゃることにも相当の理由があるのじゃろう、こういうことは私も考えております。とにかく、それぞれの機関が真剣に全会一致でしたその形式を、法務大臣としてはこれ以上いかないのじゃないか、かように考えておる次第でございます。これで大体のところが一致をいたしておるならば、私のほうからのお願いとしては、ひとつこの際は、そのようなふうで念を入れて研究し尽くされたのであるならば、少しは気に食わぬところもあるが、この際、大事なことじゃからということで御賛成をいただくように、これは私お願いを申し上げるわけであります。亀田さん、なかなか研究され、その道の大家じゃから、いろいろ意見はありましょうが、それだけ骨折って念を入れてつくったものであるならば、ひとつこの際は賛成をしてやろうと、こういうふうにやっていただくと非常にありがたい、かように私は考えておる次第でございます。なかなか、わかりやすくやるということは、われわれのようなしろうとから言うと、考え方としては、ある意味から言うと非常に私はいいと思うのです。しかし、やっぱり基本法の刑法なんというのは、わかりやすいことも必要じゃが、そこに刑法自体としては、おそらく、これは私の想像ですが、刑法の体系もあると、やっぱり刑のバランスの問題もありましょうし、いろいろな立法技術の問題もあろうし、なかなか、たとえば悪質重大なもので、めいてい状態とかあるいは無免許とかあるいはスピードとかいうようなのもあるかもしれませんけれども、これが主となっておるのでしょう。聞いてみるとこのほかにもまだ出てくるというような場合もあるかもしれませんし、なかなかこれは、やはりその道その道の専門家の、審議に待っていいと、私は、結論といたしましては、せっかく苦心惨たんをして法制審議会に諮問して、慎重に審議が行なわれて、しかも全面的な賛成を受けて立案ができておるということ、こういう点からいって、この法案の内容が今日私らの知っておるところでは最善であると、かように考えて御賛成をいただくように、特にお願いを申し上げたいのであります。
  22. 亀田得治

    亀田得治君 私の質問に十分答えないで、お願いだけつけ加えるというのですからね。  ともかく、いま法務大臣がちょっと事例を一、二言われたりしておりますけれども、そういうことはみんなこう片づくのですよ。三つだけじゃ困るというふうに法務大臣が本気にお考えになっておるのなら、「無謀運転」とこう入れたらいいのですよ。「無謀」の解釈は、これはちゃんと裁判所がうまくやっていきますよ。だから私も、何も自分が言ったことを一つも変えることを聞かぬというのじゃないのですからね。お互いにいいようにしていけばいいのですよ。ところが、皆さんのほうはもうあれこれ言うとるが、結局はこれをのんでくれ、こういう言い方なんです。筋の通ったところはひとつ歩み寄って、そうして全会一致になるようにしようというようなことはなかなか言われぬ。だから、それはもうはなはだ残念。何べんやっていっても、簡単にそういうことはおっしゃられぬだろうから、問題点の指摘としてこれは申し上げておきます。  それから、この立法に関連したことを若干午前中にもう少し聞いておきますが、懲役禁錮が今度は選択刑として二百十一条に入ってくるわけですが、立案者としては、この選択というものについての基準ですね、これをどういうふうに考えておるのか、ここではっきりしておいてほしいと思うのです。もちろん、それは最終的には裁判官がきめることですが、立案者としてはその点についての考え方がなければならぬと思うのです。これは局長から。
  23. 川井英良

    政府委員川井英良君) 選択刑として懲役刑を加えるかどうかということについては、立案の過程におきましてもかなり激しい議論が展開をされました。結論といたしまして、選択刑を加えることも適当だというふうな結論になったわけでございますが、考え方といたしましては、先般の逐条解説の際に申し上げましたように、故意犯に属する未必の故意と何と申しますか紙一重のような情状実態を有するような、そういうようなものに対しましては、人命尊重という観点から懲役刑を加えるのが適当ではなかろうか、またそれが今日の国民的な感情というふうなものにもあるいは道義的な考え方というふうなものにも合致するのではなかろうかというようなのが、この懲役刑を加えた趣旨であるとともに、また選択刑としての、どちらを選択するかというふうな場合についての一つの基準でございます。
  24. 亀田得治

    亀田得治君 現在の刑法で選択刑——懲役禁錮を規定しているのは幾つありますか。
  25. 石原一彦

    説明員石原一彦君) いま資料で御説明申し上げます。  数の前に、条文を順次申し上げてておきます。  現行刑法におきましては、九十五条公務執行妨害罪、百九十三条公務員の職権濫用罪、百八十八条第一項礼拝所不敬罪、百六条の騒擾の首魁及び指揮、助勢、百七条暴行、脅迫罪の首魁、百二十三条水利妨害罪、百八十八条説教妨害罪、百九十四条特別公務員職権濫用罪、百九十五条特別公務員暴行陵虐罪、二百二条自殺関与罪、二百三十条名誉毀損罪、二百六十三条信書隠匿罪等でございます。
  26. 亀田得治

    亀田得治君 そういう選択刑について規定が現行刑法にもあるわけですが、これは検察当局としては求刑の基準というのはどういうところに置かれておりますか。
  27. 川井英良

    政府委員川井英良君) 従来、御承知のように、禁錮は非破廉恥罪ないしは政治犯というふうなものについて科せられるのが原則でございました。したがいまして、その各法条の趣旨にかんがみまして、それぞれまたその法条が持っておるニュアンスがございますので、その辺のところを勘案いたしましてあるいは懲役あるいは禁錮を求刑するというふうなことが基本的な態度でございます。ただ、このいわゆる求刑基準というようなものをつくって、このような場合についてはこの法条について禁錮を求刑したのが適当だというようなことは従来いたしておりません。全く個々のケースに基づきまして、主任検察官の考え方を中心にしてその辺については運用が行なわれているというのが実態でございます。
  28. 亀田得治

    亀田得治君 求刑の結果についての統計などはできておりますか。
  29. 川井英良

    政府委員川井英良君) 最近、この二百十一条の運用で、にわかに禁錮刑がふえてまいりました。けれども、ここ二、三年二百十一条の関係で禁錮刑が、禁錮囚が出る前は、もうほとんど数えるに足らないような一、二の例しか毎年禁錮が出ておりませんので、調べればこ二、三年の統計は出ると思いまするけれども、特に禁錮刑について格別の統計なり、あるいは格別の求刑の基本的態度なりというふうなことを特にいままで議論したことはございません。
  30. 亀田得治

    亀田得治君 最高裁の刑事局長見えておられますか——ちょっと参考に聞きますが、裁判官のほうでは、禁錮懲役、選択刑が規定してある、こういう条文の扱いというもの、これはもう各裁判官の判断にすべてまかしておるというようなことでおやりに——基本的にはそうだろうと思いますが、何か基本的なものがあるでしょうか。
  31. 佐藤千速

    最高裁判所長官代理者(佐藤千速君) 仰せのとおり、各裁判官の究極的におきましては判断で選択するということであるわけで、これは当然でございますが、その場合に、基準と申しますか、考え方は、先ほど川井刑事局長が言われましたような、破廉恥であるか、しからざるか、政治であるかというようなことは、やはり一つの判断の基準になりまして選択が行なわれていると私どもは見ているわけでございます。
  32. 亀田得治

    亀田得治君 検察官の求刑と裁判官の最終判断というものは、この選択について相当食い違いというふうなことがありますか。
  33. 佐藤千速

    最高裁判所長官代理者(佐藤千速君) 実は詳しくそこまで検討したことがございませんので、御質問にお答えできないのでございまするが、そこまでは統計を持っておりません。
  34. 亀田得治

    亀田得治君 刑法二百十一条以外の禁錮刑、数が少ないと言われましたが、それらの処遇は普通の懲役刑の諸君とはだいぶ違うでしょう。せんだって習志野をわれわれは見ましたが、やはりあれと同じような施設に入れて処遇しておるというふうに理解していいんですか。交通事犯の場合にはあそこに持っていくか、そうでないような禁錮の場合どうなっていますか。
  35. 川井英良

    政府委員川井英良君) 最近禁錮囚が非常に多くなりましたので、全国にたしか五カ所だったと思いますが、主として二百十一条違反の禁錮囚を一カ所に集禁いたしまして、特別の矯正を行なっております。それから、その禁錮二百十一条関係の全部がまたああいうところに来ているわけじゃございませんで、その中にもまた処遇の必要上一般の刑務所の中に禁錮囚だけを収容する別棟の施設がございまして、そこへ収容して矯正を行なっておるというのもあるわけでございます。
  36. 亀田得治

    亀田得治君 一般の刑務所の中へ禁錮刑を収容する場合でも、処遇のしかたはやはり習志野などあういうところと同じような扱いをしておるのですか。それとも、施設の関係等から、そういうふうには必ずしもいっておらぬということなんでしょうか。実情はどうです。矯正局、きょうは……。
  37. 川井英良

    政府委員川井英良君) 矯正局長が一番詳しいと思いますが、私もこの関係でかなり矯正施設を見たり、また相談なんかにもあずかっておりますので、便宜一応お答え申し上げたいと思います。  監獄法の規定に基づきまして、御承知のように、禁錮囚は懲役囚と別な取り扱いをするようになっております。そこで、禁錮囚だけを収容するような刑務所をつくってはおりませんで、従来一般刑務所の中に禁錮囚だけをまた収容する多くは別棟の建物をつくりまして、そこでもって監獄法の規定に基づいて懲役囚と異った禁錮囚独特の処遇をいたしておりますというのが実情でございます。ただ現実の問題としましては、非常にいままで禁錮囚が少かったために、処遇の実態におきましては、何といいますか、たとえば定役を科さないということになっておりますけれども、本人が請願いたしまして作業をしたいというふうな場合におきましては、適当な作業を与えてその希望に応ずるというふうなこともやっておりますので、その実態におきましては、仕事をしておるし、いろいろな処遇におきましても形の面ではあまり違った形の処遇はいたしておらないと思うわけでございますが、最近は何百というような数字が出てまいりましたので、習志野のような特殊なものをつくりまして、最近も別なところにまた新しい建物をつくりまして、さらにまた禁錮囚独特の処遇を加えたいという意欲に矯正局が燃えておるわけでございますけれども、今後またさらに禁錮囚の減ることが予想されませんので、そういう事態からいきましても、法務省といたしましても、禁錮囚の適当な取り扱いというふうなことについて検討を重ねておるところでございます。
  38. 亀田得治

    亀田得治君 現在の禁錮刑の受け入れのほうの定員ですね、これはどうなっていますか。受け入れ定員というものは各個所によっておのおのきまっておるでしょうが、定員近くまで詰まっておるのですか、どうなんでしょう。
  39. 川井英良

    政府委員川井英良君) 正確な数字を申し上げる資格がございませんが、禁錮囚のおそらく定員というものはかなり全刑務所を通じて余裕があるのではないかというふうに思っております・
  40. 亀田得治

    亀田得治君 それはどの程度だろう。
  41. 川井英良

    政府委員川井英良君) 数字の問題につきましては、矯正局のほうの係官を連絡して来ていただきまして、また正確な答弁を申し上げたいと思います。
  42. 亀田得治

    亀田得治君 それはじゃあ午後答えてください。  こちらが心配しているのは、結局禁錮刑の受け入れが施設上十分できない。そうすると、どうしても今度は選択刑として懲役が入ってきましたからね、懲役刑を加えたときには、いやこれは悪質なやつだけを対象にするんだと、こう言っておりますが、しかし禁錮刑にしても置くところがない、そういうことになると、どうしても本来は禁錮刑であるべきものがそっちに持っていかれるということにもやはりだんだん変化するわけです。そういう点が気になるのでお聞きしておるわけです。だから、どのくらいの余裕があるのか。それから、今後これはふえると思われるわけですが、そういうことに対する対策というものははっきりしておるのかどうかですね、そういう点を矯正局長から、御連絡の上で、ひとつ具体的にお答えを願います。  次に、四十五条の関係ですね、これを二、三確かめておきたいと思うのです。交通反則通告制度がこの七月から実施されるわけですが、そういうことになると、軽いものは大体そこでまかなわれていくようになると思います、おそらくそうすると、いわゆる道交法違反という前科というものがうんと減るんじゃないかとわれわれ思うのですが、そうすれば特に刑法の一部改正でもって刑法四十五条の改正までしなくてもいいことじゃないかと思うのですが、この点の見通しなどどういうことでしょうか。
  43. 川井英良

    政府委員川井英良君) この道交法違反が、ここ数年間、年間平均約五百万件ございます。そこで、その五百万件がこの七月一日から行なわれる反則制度によってどのくらい減るだろうかという見通しでございます。これは警察当局のほうといろいろデータを持ち寄ったり、また警察当局のほうの科学的な推定なんかをお聞きしたところによりますというと、私どももデータを加えまして、大体この七割からうまくいけば七割五分くらいが落ちるんじゃないかという見通しを立てております。そこで、五百万件の中の大体およそ七割見当が落ちるということになりますというと、約三百五十万件くらいは行政手続で落ちますので、残り百五十万件程度が依然として刑事事件として残るのではないかというふうに考えております。  そこで、五百万件のうち三百五十万件も落ちたんだからどうだろうかというお尋ねでございますけれども、やはり百五十万件残りまして、罰金の前科が消えますのが四年間でございますので、四倍いたしますというと、大ざっぱなところ約六百万件というのが常時残ってくるということになりますので、依然としてやはり四十五条の点というのは、検察庁にとりましても、また裁判所にとりましても、非常に大きな負担に相なってまいりますので、反則通告制度の実施にもかかわらず、やはりこの四十五条改正必要性というものは消えていない、こういうふうに考えておるものであります。     —————————————
  44. 北條雋八

    委員長北條雋八君) 質疑の途中でございますが、この際委員異動について御報告いたします。  本日、野々山一三君が委員辞任され、その補欠として木村美智男君が委員に選任されました。     —————————————
  45. 亀田得治

    亀田得治君 まあ何しろもとの件数が多いから、相当多数落ちてもなお相当あるということもまあ考えられますが、それならば一歩譲って、道交法違反の罰金ですね、この点だけを取り上げて、それによって遮断しない、こういうことでいいんじゃないですか。ほかの罰金まで全部これ含めて改正することになるわけですね。そうすると、やっぱり与える印象は、何か道交法の場合と多少違うのですが、一般の刑の罰金についても軽う扱っておるというふうな感じもするわけですね。とにかく道交法のやつを一々頭に入れたのでは、これはもう実際上たいへんだと、こういうことが何といってもこの改正に手をつけようという一番一つの大きな根拠だと思うのです、出発点は。しかしまあ、そういうふうにやろうとしてしまうと、今度はまたむしろそのほうが筋が通っているんだというふうな理屈は、これはあとからつけるわけですね、法律家が。だから出発点はやっぱり道交法なんだから、一般の罰金についても同じ取り扱いじゃなしに、とりあえず道交法の罰金というものだけを取り上げてもよかったんじゃないですか。そういう点について、たとえば法制審議会等でも議論があったんじゃないのかね。その辺を少し詳しく承っておきたいと思います。
  46. 川井英良

    政府委員川井英良君) まさにお説のとおり、受理するものは約五百万件で、一年間に判決のあるものが約四百万件、四百万件の判決の中で三百八十万件が大体道交法でございます。そういうふうな事情に相なっておりますので、提案の過程におきましても、また法制審議会におきましても、ただいま御指摘のような意見も一つの意見として過程において出たわけでございます。そこで、いろいろ議論がございましたけれども結論といたしましては、こう申し上げますと、またあとからつけた理屈じゃないかということになるかもしれませんが、ひとしく国が科する刑罰を罪名によって取り扱いを異にするというふうな結果にならないだろうか、道交法だけの分はいま言ったとおり遮断をしない、ほかの罪名の分は、併合罪は遮断するというようなかっこうの取り扱いというのは、やはり刑法の取り扱いとしては不合理ではないかというふうな考え方が結局大勢を占めまして、この点につきましてはやはり全部の罰金、科料の刑についてこれを改正するというふうなことが適当だろうというふうな結論に落ちついたわけでございます。
  47. 亀田得治

    亀田得治君 一応承っておきます。  そこで、直接の法改正のところだけの疑問点をもう一、二点お聞きしておきますが、法律の用語ですね、改正されたりあるいは新たに立法する場合、どういう方針を法務省が持っておられるのか、ちょっとこの際聞いておきたいのです。法律用語というものについて、文語、口語いろいろある。何か基本的なそういう点についての方針というものは論議でもされてあるんでしょうか、どうでしょうか。
  48. 川井英良

    政府委員川井英良君) 私どもは、立案する刑法なんかも国の一つの法案でございますので、最終的には、内閣法制局に持ち込みまして、内閣法制局で、内容はもとより、形式、用語につきましても、十分まあ審議をいただくことに相なっておりますので、内閣法制局のほうにおきまして、国の立案する法律の用語についてもすでにいろいろな確定した線が出ているわけでございます。私ども立場といたしまして、刑法は、御案内のように、非常に古い法律で、かたかなで書いてございまするし、また今日使っていないような非常に難解な用語が多いわけでございますので、まあとにかく早く全面改正を急ぎまして、近代的なものにしてみたい、すべきだということで努力はいたしておりますけれども、何ぶんにも今回のものは一部改正でございますので、これだけを改めて、他とのつり合いを考えずに、現代的な用語に改めるということも、適当でございませんので、過去八回の刑法の一部改正の大体この趣旨といいますか、方針にならいまして、用語の現代化その他ということにつきましては、やがて行なわれる全面改正に譲りまして、今回は一部改正でございますので、全体との、刑法の現行法の一応振り合いを考えて、その形式なり用語は従来の例にならったというのが実際でございます。
  49. 亀田得治

    亀田得治君 まあ部分改正をした場合に、そこだけを口語体にするとか、あるいはまるをつけたり点をつけたりするのはどうもていさいが一致しないというふうなことのようですが、そこが私は大体ふに落ちないのですがね。いいことはどんどん、部分でもいいんですからね。全体がよければ、すべて部分の集まりですから、まず一部改正をやるときから、そういう新しい方式を取り入れていっていいんじゃないか、まさにそうすべきだ。そうすればですね、刑法条文を見たときに、ああこれはなるほどひらがなを使ってある、点が打ってある、あるいはまるがついているとかね、これはそうすると新しくできたやつだなと、これはえらい便利ですね。ある意味では、これのついておらぬのはこれは大体古いやつだと一目りょう然として、かえっていいんですよ、これは。だから、どうも法律家はそういう点が形式的過ぎると私は思うのですね。だから、端的に聞きますがね、せっかく四十五条の改正に手をつけながら、これはちょっとほかの方からも質問があったかもしらぬが、他では見られない「止タ」という字があるわけですね。これの故事来歴は聞いても聞かなくてもたいしたことはありませんがね。どうせ四十五条に手をつけるのであれば、これは削除したらいいわけでしょう。削除したって、意味がちゃんと、一そう通じるのじゃないですか。一般の人は刑法なんて見んでもいいんだ、専門家にまかしておけばいいんだという感覚があるから、こういうものがやはり残るわけです。残るのです。この「止タ」を取るためだけに法律改正をやるというほどのことは私はないと思う。四十五条が手をつけておりながら、内容がついでなんですから、こういうところはだからふに落ちない。  それからもう一つは、二百十一条の「業務上」ということばですね、これはこの委員会においてもたびたび質問もあり、またお答えも願っているわけですが、しかし一般の社会で使っている意味と違うわけですね。はなはだしく違うわけです、はなはだしく。危険性の反復継続といったような説明をされるわけですが、それならそれでそのようなことばを使われたらどうなんですか。反復してあるいは継続していろいろするものについてはこれだけの責任があるというふうに——法律家に聞きますと、ほとんどそういうことは言いませんよ。いやそれは判例上はっきりしているからまあ疑いがないでしょうと言うたって、それはあなた専門家だけのことですよ。そのためだけの改正なら、そこまで私は強く言いませんが、せっかくあなた刑を上げたり選択刑を設けたりするのですから、そういうことをおやりになったら私はいいと思うのですよ、実際は。いやそうすると、失火の場合にもある、ほかの条文でも使っているからそっちも直さなければならぬ——それは直さぬでもいいですよ、それは従来の判例のとおりでいいんですから。ただ、新しい表現のしかたはこれだと、ちゃんと今度はひらがなとかたかなまで区別してくるわけですから、そうすると新しいのはこういう書き方だな、非常にこれははっきりしていいんです。私は、同じく改正するなら、この二つをやってほしいと思う。意味は少しも変わらぬのですから、だれも私は反対はする者はないと思う。法務省としての反対する理由ないでしょう。いわんや四十五条の「止タ」を取るなんていうのは、そんなことは反対すべき理由は全然ない。この二つだけちょっとお聞きしまして、あとまあ各論的なことがいろいろありますが、これは午後に譲ります。山田さんちょっと待っておられるので、ひとつぴしっと答えてください。
  50. 川井英良

    政府委員川井英良君) あとのほうの「業務上」でございますが、「業務上」につきましては、ただいま御指摘のように、現行刑法の中に、ほかにも数カ所同じようなことばが出てまいりまして、これだけを簡単に変えるということはなかなか困難でありますし、またこの「業務上」という用語の解釈につきましては、御案内のように、いろいろな判例の解釈というふうなものも積み重なってきておりますので、今日このことばをほかの用語に置きかえるということは、これはもちろん常時検討いたさなければなりませんけれども現実の問題としては、かなり見通しが困難じゃないかという気がいたしております、率直に申し上げまして。  問題は「止タ」のほうでございますけれども、これは私どもといたしましても、非常に古いことばでございますし、ただこれを見せた場合に、これを「ただ」と読める人が何人いるか、ほんとうに言うほどにむずかしいことばでございますので、この「止タ」につきましては、改正にあたりましても部内でいろいろ議論が出ました。ただこれだけを研究してみますと(笑声)——申しわけありません、そういうつもりで使ったわけではございませんが、研究してみますと、刑法ことばとして、非常に古い因縁と意味を持って使われてきたことばでございまして、まあ一部改正という点でこれを取るか、あるいは全面改正改正をまかせるかというところが、結局最後結論といいますか、議論があったわけでございますけれども、今回は一部改正であるということで一応見送りまして、これは全面改正のときに適当なことばに改めていただくということで、一応今回はこのまま御審議をお願いするということになったわけでございます。
  51. 山田徹一

    ○山田徹一君 この四十五条の後段の改正でありますけれども、「「確定裁判」を「禁錮以上ノ刑ニ処スル確定裁判」に改める。」とあるんですが、この考え方についてどういうプラス面、マイナス面を考えられて改正しようとされるのか、その点をお尋ねします。
  52. 川井英良

    政府委員川井英良君) 犯人が数個の犯罪を犯しているというふうな場合に、どういう刑を科するかということが、従来裁判上一つの問題点になっております。そこで、数個犯しておりましても、そのうち情状の悪い一つだけを取り上げて、その刑で、きめられておる法定刑の範囲内で刑をきめるか、あるいは、一つじゃなくて数個犯しておりますので、もうちょっと重く科したほうがいいかどうかというようなことが、立法例でいろいろ議論されております。それはともかくといたしまして、一人の人が数個の犯罪を犯しておったと、ところが一つについてはもうすでに刑罰を受けておったと、刑が確定しておったというふうになりますというと、もう刑を受けておったものにつきましてはもう一回刑を科するということはできませんので、その残りだけについて新しく刑を科すると、こういうことになるわけでございますが、途中でもって一回刑を受けているのにまたあとで反省もなく犯したというんだから、あとのほうはよけい悪いんじゃないかという考え方が素朴な考え方でございますので、その確定判決を受けたところで一応併合罪を断ち切りまして、前とあととを別々にして裁判をするというのが現在の実情でございます。そうしまするというと、一人の人について判決で二つの刑が言い渡されるわけでございます。一度刑を受けた前の刑について懲役何年、それから一度刑を受けたあとのまた二つ、三つの刑については懲役何年ということで、一人の人が裁判を受けるのに同時に二つの裁判を受けるというのが現行の四十五条のたてまえでございます。ところが、その四十五条のまん中にある刑罰というのは、禁錮でも懲役でも罰金でも科料でも二つに断ち切れるんだと、こういうことになっておりますので、今日五百万件ある——道交法でもって五百万人ずつの前科を持った人が出ているわけでございますが、その人が交通事故かなんかでかりに二千円なら二千円の罰金を受けておったということが途中に一つはさまっておりますというと、その人が五つ、六つのたとえば窃盗を犯しておった、五つ、六つの窃盗のまん中に事故でもって二千円の罰金があったということになりますというと、罰金も刑罰でございますので、前とあとと二つに分かれて二つの刑罰が言い渡される、これが現行法のたてまえでございます。ところが、非常に罰金を受ける人がふえまして、四年間消えませんので、常時二千万以上の、前科を持った、刑を持った人があるわけでございますので、その併合罪を犯した人をつかまえてきて刑罰を言い渡す場合には、その二千万の中から——その人が偽名でも使っているとなかなかわからないんでありますけれども、前科があるかないかということを常に調べて、そして前科があれば必ず裁判所は刑を二つに分けて言い渡さなきゃならないということになるわけでございますので、私どもある前科を適当に把握しまして、間違いなく裁判に反映させるために、検察庁においてはその前科を調べるというだけで何十人という事務官をいまや専従させておるようなかっこうになっております。裁判所のほうにおいても同じことでございまして、それにもかかわらず、あまり数がないものですから、罰金や科料の場合には、それを見過ごしたために、高等裁判所へ行ってから罰金、科料の刑があったということがわかって、裁判が破棄されて一審のほうへ差し戻されるのが年間平均二千五百件ぐらいずつ今日出ているわけでございます。そこでいろいろ考えました結果、まん中で断ち切るというのは、禁錮とかあるいは懲役刑というふうな体刑のいくような重大な犯罪について一回刑罰を受けた、それでも反省しないでまた同じような犯罪を犯したというような場合だけに断ち切ることにして、罰金とか科料というふうないわば軽微な犯罪の場合においては、二つに刑を分けない、全部一緒にして、まん中で刑を受けたものは除きますけれども、刑を受けない残りは前もあとも一緒にして、そうして一本にして刑を習い渡そう、こういうような、従来の実例によりますというと、被告人にも有利な取り扱いになるわけであります。二つを分けますと、どうしても刑が重くなるということがございますので、いろいろ理屈はございますが、損得と言うか、何と言いますか、改正必要性、やはりその改正した結果においてどういうふうな有利な点が出てくるかということをざっと申し上げますというと、四十五条の改正というのはそういうふうな趣旨でお願いをしたものでございます。
  53. 山田徹一

    ○山田徹一君 四十五条並びに二百十一条のこの改正について、裁判所としてはどのような考えをお持ちなのか、賛否等について明確にお答え願いたいと思います。
  54. 佐藤千速

    最高裁判所長官代理者(佐藤千速君) 裁判所といたしましては、この法案の性質上、結局国会の御審議に待つ、こういうことでございまするが、そういう態度でございまするが、なお御参考までに申し上げますると、ただいま問題になりました四十五条の問題につきましては、従前裁判所におきましても、実務家といたしましては、罰金によって分断されて主文が二つになるということにつきましては、ただそれに手続が煩瑣であると、裁判がおそくなるということだけでなしに、従前から実務家の間では疑問がかなり提起されているところの問題でございます。  それから二百十一条の問題でございまするが、これまた性質上、結局は国会の御審議に待つということでございまするが、法制審議会におきます審議の段階におきましても、裁判所側の委員も出ておりまして、その委員もこの法案と同じ内容の事柄について賛成の意見も表明しているという事実もございます。また、交通事件を担当いたしております裁判官の気持ちといたしましては、交通事件、これはわれわれにとりましては、自動車によるところの業務上過失事件というのは、比校内新しい経験であるわけでございまするが、最近では、この種事件についての態度としてば、重かるべきは重く、軽かるべきは軽くという考えをかなりとってきておるのでございまして、ただその死傷の結果というものだけを重視して量刑を行なうというのではなくて、運転態度というものをかなり重視してきているというように見受けられるのでございます。そうして、その運転態度のいかんによりましては、重かるべきものは重く、もっと重くしてもいいんじゃないかというような裁判官の意見もあるわけでございます。ただ、それが、すべての裁判官はそうかということになりますると、これは多数の裁判官の中でいろいろ意見があろうかと思います。ただ、最近交通事件を担当しておりまする裁判官はかなり、同じ交通事件と言ってもそこにおのずから軽重があってしかるべきだというような考え方をとっているというように思われるのでございます。
  55. 山田徹一

    ○山田徹一君 午前中の最後の質問としまして、今回のこの刑法の一部の改正の主たる目的が、交通事故の防止と、あるいは無謀運転を食いとめよう、このような趣旨があるわけでありますが、この交通事故については、再々議題にのぼったように、道路問題とか、あるいは夜間における横断歩道の照明だとか、運転手の自覚の問題だとか、数多くの問題点があるわけであります。したがって、この改正によってはたしてどれだけの効果があるか。もちろん、効果があると思えばこそ、改正に踏み切ったわけでありましょうが、いずれにしても、施行されてからの問題として、はたして効果があったかどうか、こういう点の調査の方法、こういう点についてはどんなお考えでいらっしゃるか、その点をお尋ねします。
  56. 赤間文三

    国務大臣赤間文三君) この法律の施行によりまして交通事故がどの程度減るかということは、なかなかはっきりとは、だれも申し上げにくいことがらと思いますが、私の個人的な考えから見れば、相当私は交通事故についての注意の喚起ができる。私は交通事故というものは、やはりいろいろな問題がありますが、注意が足らなかった、注意がルーズだった、注意がどうも行き届かなかったということから、交通事故というものは、これは相当なものがあると思うのであります。私は注意を喚起する点にも、これはやはり役立つと思うので、そういう点から見ますと、交通事故に対しましても相当の効果が考えられると考えております。なおまた、車はこれは何にしましても、まだやはり増加の傾向にございますので、一日も早くこういう法律を施行して、事故がふえることを少なくとも防ぐことにも役立てなければならぬと考えております。さらに、これをまた、一方、法律の施行とあわせて、いつもわれわれ承っておりますが、また、お述べになりましたように、道路の幅員を広げるとか、あるいは、いろいろな安全設備等についても注意をすることを絶えず考えております。  それから調査の点につきましては、警視庁あたりで、十分ひとつ事故がこの法律施行の暁にどういうふうなぐあいになっていくかということは、依頼して調べていただく、そういうことを考えております。
  57. 山田徹一

    ○山田徹一君 その調査内容をいまお尋ねしたわけなんです。たとえば車の台数に対するパーセントだとか、あるいはどういう道路の幅員においてどういうふうな事故がいままでに多発しており、それがどうなったというようなぐあいに、法務省としては、そのデータの出し方について、どういうお考えなのか、その点についてお尋ねします。
  58. 川井英良

    政府委員川井英良君) 私は、この法案を施行して一番期待をしていますのは、いま言われたように、いわゆる悪質重大事故の顕著な減少ということが、この法案の改正によって招来することができるならば、これは非常なしあわせだと思っております。したがいまして、私ども法務省としての直接の調査の対象も、悪質重大事犯の推移ということに重点を置いております。従来、この二百十一条関係のような事件は、必ずしも法務大臣に対する報告事件になっておりませんけれども、来月の十三、十四日に、全国の交通事件担当検察官を東京に招集いたしまして、さらに最近の交通事情にかんがみまして、法の適正な運用ということについて協議をすることになっておりまするけれども、私の考え方といたしましては、悪質重大事犯については、漏れなく報告を求めまして、その内容の推移について十分な分析検討を行なって、さらにまた打つべき手について考えてみたい。ただいま御指摘のような交通事故全体の数字がどういうふうに変化していくか、また、どういうふうな内容の事故がふえ、どういうふうな内容のものが減っていくかということにつきましては、最も的確な数字を持っております警察庁のほうと連絡をいたしまして、常時そういう全体の事故の趨勢についてまた考えていってみたい。それから交通安全対策の関係におきまして、私もそのメンバーの中に入っておりますので、全体の施策の推進との関係において、事故がどういう推移を示していくか、その中において、この刑法改正案がどういうふうな効果をもたらしていくかというようなことにつきまして、重大な関心を持って推移を分析検討していってみたい、こういうふうな当面考え方でおります。
  59. 山田徹一

    ○山田徹一君 この前もお尋ねしたことではございますが、運転手がこの刑法等に対して十分認識して初めてその効果があらわれてくると、このように考えるのでありますが、その運転手に対して、この刑法改正についてどのような教育をしていくか、そういう点についてお尋ねします。
  60. 川井英良

    政府委員川井英良君) この刑法改正案が幸いにして法律になったというふうな暁を考えてみました場合に、その趣旨の徹底をはかるということは、非常に重要な政府としての施策の一つだと、こう思います。法務省立場といたしましても、いま私どもの方面に広報連絡のためのまた特別な係というふうなものを総務部の中に設けておりまするけれども、あるいは交通担当の検察官というふうなものを通じまして、いろいろ具体的なこまかい点はいまいろいろ計画中でございまするけれども、あらゆる手を尽くして、法務省としてできる限度内においての趣旨の徹底をはかってまいりたいと思っておりますが、それだけではなくて、やはり職業運転手もおりまするし、何と申しましても、悪質重大事故の中にオーナーの事故が最近非常に激増いたしております。一般国民のほうに対しましてその趣旨の徹底をはかるということが重大なことでございまするので、総理府のほうとも連絡をとりまして、これを機会に、交通安全対策の一環といたしまして、そういう面からのまた徹底的な趣旨の徹底、PRということをはかってまいるつもりでございます。
  61. 山田徹一

    ○山田徹一君 さらにもとに返りますが、施行後一年間、この期間は十分な、効果面について調査をなされることと思いますが、万が一、案外効果がなかった、こうなったときに、法務大臣は、このままその刑を強化したことに対して放置していくか、あるいは、かつて道交法の診断書添付制度につきましても取り消しをなさいましたが、そのように刑の点についてまたもとへ戻すとか、効果をねらっての刑罰の強化でありますので、効果がなかったとしたならば、またもとへ戻すことも私は考えてもいいんじゃないかと、このように思いますが、法務大臣として見解はどうでしょうか。
  62. 赤間文三

    国務大臣赤間文三君) 施行して一年間の間にあらゆる面から法律施行の効果を見て、効果がなかったときにはもとに返すかという御質問でございまするが、私はもとに戻すというような考え方は持っておりません。交通事故が減ることについては、さらにまた創意くふうをいたそうと思っております。法律をもとに戻すという考え方は持っておりません。
  63. 山田徹一

    ○山田徹一君 罪を重くするということは、じゃ法務大臣は、極端な話ですけれども、喜びとするというような気持ちは毛頭私はないと思うんです。加害者等の家庭、あるいは加害者自体の問題が過失でありますから、故意じゃないわけですから、してみれば、一つの大きなねらいはあくまでも、その注意喚起と同時に事故をなくすという大きなねらいがあると思うんです。その点に効果がなかったとしたならば、効果があまりあるように思えないとしたならば、何も罪を重くしてそのまま置いておく必要はないと、このように考えるんですがね。
  64. 赤間文三

    国務大臣赤間文三君) 私は実は効果がなかったというようなことは感じが出ないのです。必ず悪質無謀な運転というものは、この法律によって相当減る、また、必ず減るようにわれわれPRもするし、くふうをしていこう、ことに無謀な運転によってとうとい人命が失われることが一向減らないなんというような事態は許せないことであって、何とかして極力ひとつそういうものをなくそうというのが、われわれの理想なんです。それについてこういう法律改正もやっている、あわせてまた、いろいろな施策も講じたいと考えておるのでありまして、それでなくなるというふうに——まあ露骨に言いますと、必ず効果はあると私ども思い、また、あるように指導をしていきたいと、こういう考え方を持っております。  それからもう一つ、なぜ変えぬかと言いますと、粗暴な乱暴な運転をやって人命を失うというようなことは容易でないことだと考えます。人命というものはだんだんだんだん、だんだんだんだんと文化の進展とあわせて尊重せられる私は時世になる、文化の進展で人命尊重というものはだんだんに多く考えられる時世になると、そういうことをも考えて、これを軽くするというような考えはいま持っておらないし、必ずまた効果があるようにすると、こういう考え方ですから、御了承願います。
  65. 山田徹一

    ○山田徹一君 いまの法務大臣のお話を聞いておりますと、一年間に、一年でなくてもけっこうですが、効果があらわれてこなければ、またほかの方法をもってその効果があらわれていくような施策等を考えていきたい、こういうお話でありますが、そうすると、このきめた法律が、この法律を効果があったようにさせるために、刑の軽減をはかることができないと、こういうふうに聞こえるのです。そういうことではなくて、法務大臣の腹の中は、事故をとにかく少なくしようと、人命を尊重しようというところに主眼点があるならば、人間がこしらえた法律ですから、重くしてみてあまり利益がなかったとしたならば、軽くしてもいいんじゃないかと私は思うわけです。こういう点についてひとつ法務大臣、再検討というところでお考え願いたい、こう思うわけですが、どうでしょうか。
  66. 赤間文三

    国務大臣赤間文三君) やってみないうちに、効果がなかったらとかなんとかということではなくて、私は効果があると考えております。ただ、事件が、ほうっておくとますますふえてくるということです。で、ふえるのを防ぐ、そういうことだけでも効果はあるのですから。人によると、事件が年によってふえたから効果がなかったと言うが、そういう簡単な考え方は持っていない。私は今日以後については車の数がふえてくる、特に農村あたりを見ても、車が非常にふえれば必然的に事故がふえてくる趨勢にある。それを防いだだけでも、たいへんな効果があるんじゃなかろうかと私は思う。どうもその効果というものの測定がなかなか容易ならぬことであって、それをただ数から言うと一つも減っておらぬから、効果がなかったというわけにはいかない。やらなかった場合には、どれだけふえているかという、その測定をやるということがまたこれは困難なことであります。いずれにいたしましても、全力を尽くして人命尊重を効果のあるようにPRするし、あらゆる方策を講じて、この法律趣旨に合うようにやりたい、かように考えます。
  67. 山田徹一

    ○山田徹一君 ここでいま効果があったかなかったかということを論ずることはできないわけです、まだ施行していないわけですから。しかしながら、施行後の問題として、おっしゃるように、人命尊重ということを一つとっても、これは考えられなくちゃならない問題です。したがいまして、いまの調査の方法、データのとり方、こういう点について最初お尋ねしたのも、それは事故の件数が一向に減っていない、しかし、車の台数はこういうふうに伸びている、これを全体観に立って見れば、こういうふうな効果があったと、こうあってほしいと思って質問したわけです。そういう点においても、なおかつ、全体観からあまり有効ではなかったとしたならば、これは再検討の余地があるのではないか、このように御意見を申し上げているわけですが、いかがでしょうか。
  68. 川井英良

    政府委員川井英良君) 刑法でございますので、私、かりにこの法案が通りましても、すぐに四年、五年という裁判例はおそらく出ないだろうと思います。それに値するような事故がなければ幸いですけれども、今日、きわめて慎重なわが国の裁判所態度というものを考えてみましても、五年以下という刑罰のときに、最高刑のほうの四年とか五年とかというふうな言い渡しの量刑がすぐ出てくるというふうなことにはとうてい考えられませんので、これはもうきわめて裁判所が慎重に運用されることでございます。  それが一つと、それからもう一つは、刑法でございますので、効果はじわじわと出てくるので、一年、二年、三年の間に、きわめて顕著にこの効果が出てくるというような性格のものではございません。これは御承知のとおり、刑法以外の取り締まり法あるいは行政法規と言われるような罰則がたくさんございます。これは当面の行政取り締まりを目的といたしておりますので、効果を観察いたしまして、どんどん改正をしていくと、こういう性格のものでございますが、くどいようでございますが、刑法というのは、ほんとうの国の基本法でございまして、何といいますか、一種の法典のようなもので、そういう行為は法律がなくても悪い行為なんだということでございます。法律がなければしていい行為は、これは取り締まり法のほうにいくわけでございますが、御承知のとおり、法律があってもなくても刑法にきめてあるようなことは、これはどなたが考えてもいけない行為、してはいけない行為でございますので、それを刑法という法律の中に、罪と刑罰ということできめておるものでございます。そういうたてまえで運用をするものでございますので、三年が五年になったということで、この効果というものは国民全体の中に非常に大きな心理的な影響を与えるとは思いまするけれども、それをばりばり運用して、特別法規のようにすぐに一年、二年でもって効果があらわれてくると、こういうような運用をすべきものではないと思います。きわめて慎重な運用をするというのは、いままでそういうふうなわけで申し上げたわけでございまするので、一年、二年ということは無理でございまするが、しかし、刑事局の私のところは 刑法を含めて全刑罰法規立法解釈を担当しておる局でございます。あらゆるデータを集めまして、常時、この法律は時代に合っているか合っていないか、どういうふうにしたほうがいいかということを研究いたしておりますのが、私ども法務省の刑事局というところの役目でございますので、この法条をも含めまして、長期の構想に立って、常時、先ほど御指摘がありましたような的確な分析資料に基づきまして、この法規の今後における役割りというものにつきましても、私、十分に検討あるいは研究をしてまいりたい、こういう考え方でございます。
  69. 山田徹一

    ○山田徹一君 今回のねらいが主として交通事故ということに対しての大きなねらいがあるわけなんで、先ほどのお話のように、じわじわ出てくれたのじゃ困るわけです。そのためにどのような趣旨徹底をするかということを私はお尋ねしたわけなんです。目的が人命尊重にあり、そうして、そのねらいが効果にあるとしたならば、趣旨徹底を慎重に考えると同時に、それをいかなる方法をもってやっていくか。十分にやって——即席ラーメンみたいなようなわけにはいかぬでしょうが、しかしながら、その効果が十分あらわれてこなければ意味がないと思うのです。ぜひそうしてやってもらいたいと私は思います。時間の関係もありますので、きょうは、午前はこの点で終わらせてもらいます。
  70. 北條雋八

    委員長北條雋八君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後四時三十分再開することにいたしまして、これにて休憩いたします。   午後零時三十四分休憩      —————・—————   午後五時四十分開会
  71. 北條雋八

    委員長北條雋八君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  まず、委員異動について御報告いたします。  本日、鈴木万平君が委員辞任され、その補欠として菅野儀作君が委員に選任されました。     —————————————
  72. 北條雋八

    委員長北條雋八君) 休憩前に引き続き、刑法の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を行ないます。  質疑のある方は、順次御発言を願います。
  73. 亀田得治

    亀田得治君 午前中ちょっと矯正局長の、残っておりましたので。
  74. 勝尾鐐三

    政府委員(勝尾鐐三君) 全国の収容施設のうち、禁錮受刑者につきましては、一般受刑者と分画して刑の執行をすることになっております。その分画のための収容定員が全国で千八百でございます。さらに、禁錮受刑者のうち、いわゆる業務上過失致死傷事件等にかかる交通違反による禁錮受刑者につきましては、さらに施設にできるだけ集めまして、処遇の徹底化をはかっておりますが、その集禁施設といたしましては、現在、習志野、加古川、豊橋、佐賀、山形、さらに尾道、帯広の施設で集禁をいたしておりますが、その集禁施設の定員は九百十七でございます。現在の禁錮受刑者のうち、交通違反受刑者の定員は、ただいま申し上げました集禁施設では七百三十四、これは本年の三月三十一日現在でございます。  なお、将来の考え方といたしましては、交通違反禁錮受刑者につきましては、できるだけ集禁をいたしまして、開放的な処遇を行なうという方針で、さらに、四国におきましては、西条の施設を集禁施設として整備する計画を進めております。さらに、習志野の施設につきましては、ただいま千葉の郊外の市原に新しい施設を、新営でございますが、その定員は四百五十名、このように予定をいたしております。現在の拘禁率は八〇%でございますが、さらに、交通違反関係の禁錮受刑者につきましては、集禁施設を拡充するという方向で体制を整えていく方針で準備を進めております。
  75. 亀田得治

    亀田得治君 この習志野の新しい建物は、現存の習志野の施設よりどれくらい人数としてはふえておりますか。
  76. 勝尾鐐三

    政府委員(勝尾鐐三君) 現在の習志野の施設の収容定員は、三百四十六名でございますが、これは約百名増加いたしまして、四百五十名の予定でおります。
  77. 亀田得治

    亀田得治君 西条で計画しているのは、どのくらいの施設です。
  78. 勝尾鐐三

    政府委員(勝尾鐐三君) 西条の計画は、百二十名の予定でおります。
  79. 亀田得治

    亀田得治君 そういたしますと、現在の余力が百八十三名、それに対して、習志野で百名程度、それに西条の百二十名、まあ、それらの新設のものを入れると四百名ですね、およそ現在より収容力が多くなるのは。
  80. 勝尾鐐三

    政府委員(勝尾鐐三君) さようでございます。
  81. 亀田得治

    亀田得治君 そういうことで、この交通事犯がふえても、まあ大体これで間に合うという予定ですか、当分。
  82. 勝尾鐐三

    政府委員(勝尾鐐三君) いままでの実績によりますと、禁錮受刑者の最も増加しますのは、おおむね七、八月でございますが、まあ最高が大体千四百くらいに達したことがございます。最近の傾向を見まして、とりあえず、現在の四百をふやすことによって、当分はまかなえるものと考えておりますが、なお、現在、全国の収容施設の状況にかんがみまして、収容の定員の再配分というようなことも計画をいたしまして、これ以上禁錮受刑者がふえましても、集禁的な施設をすることについて遺憾のないようにできると考えております。
  83. 亀田得治

    亀田得治君 以上で大体総論的なことは一応終わったことにして、若干具体的な項目について、以下少しく確かめておきたいと思います。  まず第一は、よく言われる信頼の原則ですね、交通事犯の処罰、あるいは処罰だけではなしに、交通問題についての。これは一般的に定義をするとどういうことになりましょうか。
  84. 川井英良

    政府委員川井英良君) 危険な業務に従事した場合の注意義務の軽減の法則とでも言うことができるだろうと思います。この危険な業務の内容の発展とともに、危険な業務に従事するものの間においても危険を分配するということが、公平の原則から妥当であろう。さらにそれが発展いたしまして、業務に従事するものだけではなくて、危険な業務に従事するものと、それからそれによって被害を受けるものとの間においても、危険の分担、それに基づく信頼の原則というふうなものの適用によって、業務の発展、その業務によってもたらされる社会的な効用と、それから危険の負担とを公平にして、その間のバランスを保っていく、こういうふうなことが、この信頼の原則の法理の基本的な考え方であろうと理解いたしております。
  85. 亀田得治

    亀田得治君 それは、したがって交通事故の場合に適用いたしますと、車と車との間は当然適用されるが、車と歩行者間においてもこの原則は適用されると——若干その点で異説もあるようですが、その点はどうでしょうか。
  86. 川井英良

    政府委員川井英良君) 御指摘のように、先般最高裁判所におきまして、わが国におきましても、車と車との間において信頼の原則を適用した画期的な判例があらわれました。問題は、車と歩行者との間においてこの原則が適用になるかどうかという点が、今後の問題点だろうと思います。法則の抽象的一般的な考え方といたしましては、車と歩行者の間にも理論的にはこの原則の適用があろうかと思いますけれども、具体的に日本の交通事情を考え合わせてみまして、いついかなる場合におきましても、車と歩行者との間において信頼の原則が適用があると、こういうふうに考えるのは、まだその時期が来ていないような気がするわけでございまして、歩行者と車との間におきまして信頼の原則を適用するということのためには、この交通事情の実態というものを十分に勘案した上でないというと、適用については慎重にならざるを得ないのではないかというのが、ただいまの私ども考えているところでございます。
  87. 亀田得治

    亀田得治君 最高裁のほうですね、この裁判の変遷があるわけでしょうが、その点についてのこの経過ですね。裁判がずっと変わってきた、そういう点について、この刑事並びに民事双方とも概略御説明をいただきたいと思います。どっちからでも先に。
  88. 佐藤千速

    最高裁判所長官代理者(佐藤千速君) 信頼の原則の適用の問題でございまするが、昭和四十一年に最高裁判所の判例があらわれて以来、注目されるところとなったわけでございまするが、そういう信頼の原則という呼び方はいたしませんでも、下級裁判所におきましては、予見可能であったかどうかというような観点から、同じような考え方を適用して判断していくというような傾向は、すでにその前からあるように見受けられたのでございます。最高裁判所の信頼の原則適用の事例以降は、特に信頼の原則という、信頼ということばを使って判断しているという判例に多く見当たるのでございまするが、その萌芽はすでに相当前から下級裁判所の判断においてあった、こういうことに思われます。  それから交通事件処理についての刑事裁判官の考え方と申しますか、態度と申しますか、それについて申し上げますると、これが二百十一条の問題でございますると、やはり結果が発生しなければ二百十一条の問題にはならない。死傷の結果が発生しなければならないわけでございまするが、その傷害あるいは死亡ということに着目して事を考えるという傾向から、現在ではむしろ、この死亡するとか、あるいは、けがをするということは、瞬間的なことできまる。傷害と死亡という差は事柄の性質上、瞬間的なことできまるというようなことから、その結果というよりも、むしろ、この過失の内容と申しまするか、運転態度と申しまするか、そういうものをかなり重視して考える。結果だけを見るのではなくして、過失の内容そのものを見ていくというような傾向が現在ではあらわれておるように思うのでございます。したがいまして、この量刑の面からながめてみますると、すべてが、交通事件の自動車によるところの業務上過失致死事件というもの全部が刑が重くなっているということではなしに、やはり軽く処すべきものは軽くということは、かなり行なわれている。執行猶予にいたしまする率を見ましても、四十一年について見ますると、七〇%ぐらいが執行猶予がついておると——禁錮刑についてでございます、というようなことで、全体が重くなっているというのではなくして、やはり過失をよく見て、それによって量刑を考えていくという傾向があるように見られるのでございます。
  89. 菅野啓藏

    最高裁判所長官代理者菅野啓藏君) 信頼の原則というものが民事の裁判の面でどういうふうなことになっておるかというお尋ねでございますが、過失の認定という点、つまり、民事で申しますと、交通事件の損害賠償の要件が、過失の要件を考えますときに、この過失の有無あるいは過失相殺というなことを考えますときに、やはり本質的には刑事と同じような考え方があるいは考えられてしかるべきものであろうかとも思うのでございますが、ただいままでの判決例にあらわれましたところで見ますと、直接いわゆる信頼の原則というようなことが判決の上で問題にされた事例はないようでございます。
  90. 亀田得治

    亀田得治君 過失相殺という概念がありますわね、これとはどう違うんでしょうか。
  91. 菅野啓藏

    最高裁判所長官代理者菅野啓藏君) これは過失相殺を考えますときに、やはり相手が交通規則を守ったかどうかということは一つの要素として考えられると思います。しかし、それが直ちにそのままなまな形で出くるかどうかということは、ただいま申し上げましたように、裁判例としては論じられておりませんし、事例を存じませんし、結局、私個人としてその辺のところを申し上げるよりしかたがないと思うんでございますけれども、考慮すべき問題であろうと思いますけれども、そのものがすなわち過失相殺の基準というふうに直ちにはなり得ないのではなかろうかという、もう少しまた別に考慮すべきことがあるのではなかろうかというふうに考えるのでございます。
  92. 亀田得治

    亀田得治君 まあ民事関係では、まだ信頼の原則という考え方自身が、否定はしてないんでしょうが、そういうことばにはまだなじんでおらないということですね。刑事関係ですね、先ほどの説明、少しはっきりしなかったわけですが、車対車についてははっきりそういう原則の適用をうたっておるんだが、歩行者について、私人についてこの原則を同じように適用する、考えるということが無理なことなのかどうか、その点どういうふうにお考えになっているでしょうか。刑事のほうですね、これは主として。
  93. 佐藤千速

    最高裁判所長官代理者(佐藤千速君) 理論の問題といたしましては、歩行者は別だということはないと思うんでございまするが、この信頼の原則と申しまするのは、相手も交通法規に従って行動してくれるであろうということの信頼、それに基づいているものでございまするので、歩行者もそういう交通法規に従って歩行してくれるであろうということの信頼ができ、また、そう信頼することが相当であるということの問題であろうと思うのでございます。そして現状では、これは学者なども指摘しているところでございまするが、車両の運転者は歩行者に比べて、よりよく交通法規というものに習熟しておると、それに対して、歩行者というものに対しては、一般的に、その交通規則に従って行動することが、車両の運転者に比べて、まだそこの信頼度が低いのであると、そういうことから、車両の運転者に対すると同様な期待を現段階において歩行者にすることは多少行き過ぎであるというような考え方があるのではないかと思います。この信頼の原則というのは、ドイツにおいて発展された理論のようでございますが、ドイツにおきましても、やはり車両対車両の関係を調整する原理として働いてきたというような関係にあるようでございます。その関係では、歩行者に対する場合には、実際の適用におきましてはやや違うというようなことになっていると、かように承知しておるわけであります。
  94. 亀田得治

    亀田得治君 歩行者に対してそういう考え方を適用して出したような判決例などは出ておりませんか。
  95. 佐藤千速

    最高裁判所長官代理者(佐藤千速君) 最近一つ承知しております事例といたしましては、本年の四月十八日、神戸地方裁判所姫路支部の判決がございまするが、それは対歩行者の関係におきまして、突如歩行者が車両の前面に出てきたという案件について、無罪の判決をいたしております。これはつまり、予見義務との関係において考えておりまして、予見義務の範囲を越えて歩行者が車両の前面に出てきたということで、その場合にこの責任を問うのは酷に失するという考え方が根底にありまするので、やはり信頼の原則という考え方によって処理されたものではないかと、かように思います。
  96. 亀田得治

    亀田得治君 前回の質疑の際に、歩行者の注意義務あるいは交通に関する守るべきルール、そういうものについて、現在の道交法の規定が非常にゆる過ぎるということを問題にしたわけですが、私この点は、したがって、道交法一つの欠点だと思うのです。道交法の現在の規定のいかんにかかわらず、社会の実態からいうと、もう少しきびしくあっていいというふうに考えられておると思う。その点が私は非常に大事なことじゃないかと思うのです。結局、交通の秩序は、車はもちろんですが、車と人によってこれは維持されておるわけでしょう。だから、双方に私は同じようにこのルールを守る義務というものが強く出てこなきゃ、ほんとうにうまくいかぬと思うのです。一方だけにこの負担をかけるような考え方ではいけないと思うのですね。そういうことがだんだん裁判等で実際のケースを裁判官が扱っておると、いろんなケースで出てくる。そこからやはり信頼の原則というふうなものが一つ編み出されてきたと思うのですね。現実の状態からそういう理論が発展してきたわけです。私はこれはぜひ、もっとこの交通関係法規を扱う上において、重大に取り上げていかなきゃならぬと思うのですね、民事の場合でも、あるいは刑事の場合でも。まあ民事の場合はなおそのことば自体がなかなかなじんでおらないということのようですが、どうもそういうことではいかぬのじゃないか。いろんなこの説をなす人の意見を聞くと、車と人とは別だと、運転者は専門家だと、専門家同士の間において初めて信頼というものがことばどおりあり得るので、歩行者はしろうとだというのだが、社会全体が歩行者に期待しておるのは、何も運転手が運転上持っておる専門的な技術とか、そういうものを期待しているわけじゃない。歩行者に対しては、たとえば横断歩道があればちゃんとそれを渡るようにしようとか、車の直前の横断などはしないようにしようとか、これは歩行者としては、やはりそれくらいの信頼はされなければいかぬわけですね。そんな信頼をするのは無理だと言えば、これはまたにっちもさっちも道路が動かぬようになるわけですね。私はそういう意味で、刑事裁判の中で発展してきた信頼の原則というものを、これは刑事裁判においても、車対車だけじゃなしに、車対人、こういう関係においてももっと深めていくべき問題だ。いわんや、民事の損害賠償問題等においても、もっと大胆にこれは取り上げられていいことじゃないか。全体の裁判の傾向はそういうことになっておる。そういう面では、私は進歩だ、こう見ておるのですが、もっとはっきりこの問題というものは、実際の法を運用される人において検討されていいと思う。これは単に刑事裁判あるいは民事裁判だけじゃなしに、たとえば交通事故に関する行政処分とか、いろいろなことがありますが、あらゆる面において私は検討しなければならぬことだと思います。人の力にはこれはもう限度があるわけですから、不公平な扱いによって押えつけていつまでもいけるものじゃない。やはり公平な扱いをしていきませんと、これは進歩しません。そういうふうにこの信頼の原則というものについて私考えているわけですが、これはどうでしょうか、刑事局長。総括的にもう一度お考えを承っておきたいと思うのです。
  97. 川井英良

    政府委員川井英良君) 刑事における信頼の原則の導入につきましては、理論的には、車対車の関係でなく、対歩行者の関係においても、理論としては適用のある筋合いのものではないかというふうに理解をいたしております。ただ、現実の問題として、対歩行者との関係においてこの原則を導入する、適用するということにつきましては、やはり日本の交通事情の実態、それは設備をも含めて、あるいは歩行者の交通道徳に対する理解の程度というふうなものをも含めて、諸般の事情を十分に考慮した上で、具体的な場合について慎重な検討を要するのではないかという程度のところが、ただいま考えているところでございます。
  98. 亀田得治

    亀田得治君 先ほど最高裁の刑事局長があげられました姫路の裁判ですね、それについての行政処分というものはどういうふうになっておるか、もしおわかりになっていたら、お答え願いたいと思うのですが、どうでしょうか。
  99. 鈴木光一

    政府委員鈴木光一君) 御引例の事案は、昭和四十二年の二月十一日に姫路市の中の町で起きた事案だと思いますが、この事案につきましては、四十二年の十月十二日に、被処分者も出席いたしまして、公安委員会が聴聞を開きまして、その結果、免許の停止百四十日という申し渡しをしているわけでございますが、これにつきましては、法定の期間内に不服の申し立てもございませんし、行政訴訟の提起ももちろんなかったわけでございます。そういうことになっております。
  100. 亀田得治

    亀田得治君 この交通関係の事案では、ずいぶん無罪が出るわけですね、無罪が。また、損害賠償請求につきましても、ときどき、たとえば死亡者の遺族からの請求、こういうものに対して、請求棄却という判決が出る。これは私は、交通事犯の非常にむずかしい側面をそのまま反映しているものだと思うのですね。したがって、先日も申し上げたわけですが、交通事犯についてどちらに責任があるかといったようなことが争われておる、そういうものについての関連した処分というものは原則として待ってやるべきだ。そうしないと、なかなか取り返しのつかないやはり迷惑をかけることになるわけですね。で、裁判所では、信頼の原則というようなことがずいぶん理論的に究明されておるが、警察のほうでは、あんまりこのことは問題にされておらぬわけですな。まあ警察の処分が早いものだから、じっくりそんなことを考えているひまがないと言うかもしれませんけれども、どうしても私はそこにギャップがあるように考える、現在の運用を見ていると。だから、ぜひこれはひとつよく研究をしてほしいと思うんです。特に歩行者との関係についてのことなどは、皆さんが参加しての会議録を見ましても、歩行者優先しゃあというふうなことを言い過ぎている、その弊害があるということは認めてもおられるようですからね。だから、実際のこの取り扱いにおいて、あらゆる面において私は公平な取り扱いをやってほしい。前回もお聞きして、その後、私も若干調べたんですがね、ともかく、刑事裁判なり民事裁判等で、運転者自身の間違いというものがないとされたものでも、ほとんど行政処分を受けておる。で、若干警察のほうから金銭的にその支払いをしているのもありますが、それはとてもそういうことで完全な賠償ということになるものじゃ私はないと思うのですね。だから、ぜひこれはひとつ慎重にやってもらいたいということだけをここで要望いたしておきます。     —————————————
  101. 北條雋八

    委員長北條雋八君) 質疑の途中でございますが、この際、委員異動について御報告いたします。  本日、西村関一君及び大森創造君が委員辞任され、その補欠として松永忠二君及び大和与一君が委員に選任されました。     —————————————
  102. 亀田得治

    亀田得治君 では、少し問題を変えまして、昭和三十三年に起きた事件で、仙台市長が被害者から訴えられて、そうして市長のほうが敗訴して損害賠償請求を認められたという、例の穴ぼこ判決ですね。これちょっと事案をまず御説明願いたいと思います。
  103. 菅野啓藏

    最高裁判所長官代理者菅野啓藏君) ただいま、その判決を持ってまいりませんのでございますが、記憶によりますと、やはりたしか、いま亀田委員から御指摘になりましたように、仙台市が道路の補修を十分に行なっていなかったために事故が起きたことにつきまして、その道路でけがをした人が仙台市を相手として訴訟を起こしまして勝訴をした事件であったわけでございますが、もし御必要でございましたら、資料を取り寄せまして詳しく御説明をすることにいたします。
  104. 亀田得治

    亀田得治君 まあ取り寄せている時間もないでしょうから、ここにちょっと写しがありますから申し上げますと、原告は、昭和三十三年十二月九日午後九時ごろ、夜おそくなってから、第二種原動機付自転車、これを運転して行ったところ、道路の中で直径約一メートル、深さ約十五ないし二十センチの道路の決壊部分があり、そこに突っ込んでけがしたという事案です。で、判決は、道路の管理者としては、所轄内道路を常時良好な状態に保つよう、維持修繕をするとともに、欠損個所などがある場合には、回り道をするように指示をするとか、こういうことをしなきゃならぬということで、結局、市長が敗訴しておるわけです。控訴して上告をしたが、結局、最高裁で上告棄却になって確定しております。この上告棄却の判決の中で、実は非常に重大なことが書いてあるのです。ちょっとその部分を指摘してみますと、「地方公共団体が予算の範囲内で道路の管理をすれば道路に瑕疵があっても前記法条にいう道路の管理の瑕疵があるとはいえないとの所論は、採用できない。」。まあ仙台市長のほうで、なるほどおれのほうはうっかりしておったかもしらぬが、しかし、予算がないのだという抗弁を出したのだが、最高裁は、それは認めない、予算の有無によって自己の怠慢をかばうことができない、こういう判決を出しているわけなんですね。私は、この一審、二審、三審の判決をずっと見まして、これは国としては、あるいは地方公共団体、道路の管理者としては、よほどこう真剣に考えなければならぬ問題の指摘だと考えているのです。その点、後ほど総理などが来ればまた聞きたいとも思っているくらいなんですが、この判決は、国家賠償法に基づく請求に対して出されたものですが、賠償法の第二条によるものですね。これは、この際ちょっとお聞きしておくのですが、この第二条の請求権というのは、いわゆるよく言う無過失賠償責任というものを認めている規定なんですか、どうでしょうか。そういう客観的な欠陥さえあれば、もうそれでいい。それに対して、その主観的な管理者の要素などは考える必要はないのだ、という考え方で理解していいでしょうか。
  105. 菅野啓藏

    最高裁判所長官代理者菅野啓藏君) 国家賠償法の第二条によりますと、普通の民法の損害賠償の第七百九条と、規定のしかたが違っております。故意、過失というようなことは申しておりませんで、施設に瑕疵があれば責任をこの管理者が負わなきゃならぬということになっておりますので、どの程度で免責されるかということは非常にむずかしい問題であろうかと思いますけれども、まあ一種の無過失責任的な規定であるというふうに見てもよいのではなかろうかというふうに思います。全然不可抗力という場合まで考慮されるかどうか、その点は問題だろうと思いますけれども過失がなかったというだけでは責任を免れないという意味におきまして、いわゆる無過失責任というものを言っている規定ではなかろうかというふうに考えております。
  106. 亀田得治

    亀田得治君 その点ははっきりしましたが、もう一つ、この最高裁の判決の中で、予算がないということによって免責されるものではないと、これは最高裁の判決ですから、法務大臣は否定はされないでしょうが、法務大臣どうですか、これは最高裁の判決のとおり考えていいでしょう。
  107. 赤間文三

    国務大臣赤間文三君) 最高裁の判決のとおりでよいと私は考えます。
  108. 亀田得治

    亀田得治君 それから、こういう仙台の事件のようなケースですね、これはほかにまだ若干出ているでしょうか。最高裁のほうでも、法務省でも、どっちでもいいですよ。穴ぼこ判決のような事例がほかにあるでしょうか。
  109. 菅野啓藏

    最高裁判所長官代理者菅野啓藏君) これも資料持ってきておりませんので、記憶で申し上げるわけでございますけれども、たしか、四国のほうでもそういうのに似た事例がございます。これは、がけくずれで事故が起きたことに対しまして、事故を受けた人が公共団体に訴訟を起こしまして勝訴した。ほかにも、それに似たのが一、二あったと思いますけれども、きょうは資料持ってまいりませんでしたので、不正確でございますが、記憶に基づいてお話しいたしますが、たしか、仙台の事例一つではないというふうに記憶しております。
  110. 亀田得治

    亀田得治君 それはいずれでいいですが、資料をさがしてひとつ参考に御提出願いたいと思います。いいですね。  それで問題を出しますがね、裁判官としてどう考えるか、ひとつお答え願いたいのです。交通が非常にこうふくそうする場所があって非常に危険である、子供がそこを通って学校に行かなければならぬ、それで、その付近の住民の方は何とかここに早くきちんとした信号をつける、あるいはまた、歩道橋もつける、そういったような安全施設を当局に要求してきた、しかし、なかなかやってくれない、そのうちに事故が起きた。これは何も架空な話じゃない。たくさんあるわけですね。私はそういう危険な場所であれば、そのような安全施設も一体となって初めて私は道路管理者の責任が果たされたと見るべきだと思うのですね。その立場からいうと、国に責任があると思うのです、国に。道路管理者に言うと、いや予算があるとかないとか必ず言うのですよ、それは。で、この穴ぼこ判決並びにそれに対しての最高裁のこの判決の趣旨というものから考えたら、いま私が申し上げたような事例が、これはたくさんあるわけですが、こういう場合に私は、国は事故に対する賠償の責任を負うべきだと思うのですが、これは民事局長どうですか。
  111. 菅野啓藏

    最高裁判所長官代理者菅野啓藏君) どうもたいへんむずかしい試験問題でありまして、非常に微妙な問題だと思うのでございます。お説のように、道路というものは安全施設を含めて一つの施設として一体として見るべきであって、当然歩道橋なり、そういう安全施設をつくるべきところであるというふうに考えられる場所に、そういうものがないために事故が起きたとすれば、それはやはり施設の不備と見るべきであるという考え方も成り立とうかと思います。ただ、しかし、国家賠償法の二条を見ますというと、ものの瑕疵というふうに書いてあるわけでございます。それをはたして瑕疵と言えるかどうかという点につきましては、私がもしそういう事件を扱うとすれば、相当迷うんじゃないかと思うのです。ただ、この点で考えなければならないのは、照明とかガードレールの設置がないことが道路管理者の瑕疵と認めて損害賠償を認めた判決が東京地裁にございます。そういうものから推していくというと、おっしゃられました歩道橋というものも、あるいは、それをつくっていないということが損害賠償の責任になるという考えの裁判官もなきにしもあらずと思いますけれども、すべての裁判官がそう考えているかどうかということになりますと、いささか疑問がないわけではございません。私自身といたしますれば、ややちゅうちょするということを率直に申し上げます。
  112. 亀田得治

    亀田得治君 どこの場所についても私申し上げるわけじゃないわけでして、非常にふくそうしていてちょいちょい事故が起こる、そういう場所においての道路というものは、それに付帯した安全施設もない場合には、これは道路と言えないですな。そういう考えにならなければいかぬ時代ですよ、これは。ただ、コンクリでばっと舗装したら道路じゃ、そういう観念ではないわけですね。国家賠償法をつくったころは、できた施設に穴があいたりしたのをほうっておくと、それはいかぬと、これは平面的に一応そう考えるわけでしょうが、しかし、その精神は、そのことによって人に損害を与えてはいかぬ、迷惑を与えてはいかぬと、その迷惑というところがやはりねらいどころなんですから、これだけ交通事情が非常にふくそうし、しかも、国なり自治体の責任が非常に大きくなってきておる。これは個人じゃどうにもならぬですよ、完全な道路をつくろうなんていうのは。個人ではどうにもならぬ。したがって、国なり自治体の責任が非常に大きくなっておる。これはだれでも認めておるところなんです。そういう状態を頭に描いた場合には、私は当然そのことによって迷惑をかけた場合には、国が補償していくということになって初めて、これまた、国なり自治体も、これはほっておけぬ、一生懸命やろうということにもなるわけですから、これは裁判所やり方一つによって非常な影響が出ると思うのであります。公害問題等でも、最近ずいぶん裁判所が前向きの判決を出す。これは何といっても、政治、行政に対して非常にいい刺激になっています。私はそういう点で高く評価するのですが、だから、そういう精神からいうならば、私がいま申し上げたようなことは、これは当然積極にここで答えてもらわなきゃ、何か行政庁のほうに少し遠慮をしておるような感じを受けるのですが、どうでしょうか。
  113. 菅野啓藏

    最高裁判所長官代理者菅野啓藏君) 裁判所はやはり法律解釈をやるところでございまして、そのほかには何ら考慮するところなしに事の判断をし得るところであろうと思います。でございますので、おっしゃられる趣旨は十分わかりますが、やはりその場所いかんということが具体的な事件では問題の中心になろうかと思います。おっしゃられますように、歩道橋がなければ真に道路とは言えないというような具体的の場所である場合であれば、お説のような考えというものも十分に成り立ち得るかと思うのでございますが、先ほど私が申し上げましたのは、一般に歩道橋をつけたほうがいいと思われる場所につけなかった、そういう現実の声もあったけれどもつけなかった場所でたまたま事件が起きたときに、直ちに国家賠償の問題になるかどうかということになると、それはいざさか証拠不十分であるというふうに申し上げたのでございます。
  114. 亀田得治

    亀田得治君 そうすると、だれが考えてもここはちゃんとこれだけのものをしなければ非常識だと思われるような場所において事故が起きた場合には、国の責任があるのですね。
  115. 菅野啓藏

    最高裁判所長官代理者菅野啓藏君) だれが考えてもということが具体的の事件の場合には非常にむずかしい点であろうかと思いますが、そうなった場合には、お説のような考えをとり得るということに十分な理由がある。十分、そういう当事者からの主張があったとすれば、裁判所は考慮すべき理屈であろうと、かように思うのでございます。
  116. 亀田得治

    亀田得治君 それでは、この問題は一応この程度にして、次に移りますが、被害者の救済の問題ですね。これもいろいろな角度からすでに御質疑があったわけですが、少し私、具体的な面から確かめてみたいと思うのですが、裁判所のこの問題に対する基準といいますか、そういう点をお聞きしたいのです。といいますのは、交通事故による損害賠償の問題等は、まあ非常に数が多いわけですね。事故件数に比例してこれが多くなるわけです。裁判所に持ち込まれるのは、これはもうほんのその一部ですね、一部です。したがって、私は、この裁判所の使命というものは、この非常にたくさんある交通事故の救済問題についての基準を設定していくという大きな任務があると思うんですね。社会的な任務がある、全部が一々そこへ来ないだけに。いずれもみんな解決を急ぐ問題が多いわけです。したがって、そういう基準が確立されていけば、まあ裁判所へ行っても大体これ以上は取れないんだと、また、そこへ引き出されたらこれぐらいはどうも出させられるというふうな点がおおよそ明らかになってくることが、この交通事故の問題については非常に大事だと思うんですね。そういう意味で、まあこれは聞くわけですが、どうも基準は若干あるようですけれどもね。しかし、裁判官、なかなか言いたがらないんですね。何か持っておられるような、しかし、なかなか言いたがらない。裁判というものは、そんな法律以外は基準など設けてやっているのと違う、一つ一つの事案を検討してきめていくんだというふうなことを言われまして、実際はあるのだけれども、どうもその辺を明らかにされない。しかし、まあ、ここは大所高所いろいろな角度から検討する場所ですから、その辺のことについて、実際どういうふうになっておるのか、お答えを願いたいと思います。
  117. 菅野啓藏

    最高裁判所長官代理者菅野啓藏君) 裁判にあらわれます事案というものは、御承知のとおり、千差万別でございまして、したがいまして、結果として判決にあらわれる損害賠償の額というものが非常にまちまちであるような印象を世間の方々には、あるいは与えているのじゃないかというふうに私ども考えております。で、これは、この千差万別であるということが、一つには過失の態様、過失相殺という問題が含まれている事件というものが訴訟になりやすいわけであります。一方的な過失という場合には、比較的訴訟にもならず、裁判所に持ち込まれないでもあるいは片づいておるのではないかというような事件もあるのではないか。したがいまして、裁判所にあらわれます事件というものは、かなりの程度過失相殺ということが問題になる事件が多く、その過失の程度というもののあらわれ方というものは、具体的な事件につきまして千差万別でございます。そういう点が一つと、それからもう一つは、御承知のとおり、民訴の百八十六条の関係で、請求自体というものが必ずしも客観的な損害というものと合っていなかった事例が従来あったわけでございます。つまり、裁判所の認定よりも少ない請求しかしてこないという事案が従来はかなりありました。たとえば、こういう点もございます。つまり、ただいまでは、裁判所に訴訟を起こすための弁護士の費用というものを損害賠償の一部として裁判所に請求してまいりますと、たいていの裁判所は認めるような傾向になっております。ところが、御承知のように、損害賠償の額の因果関係の中に入るかどうかということは、学説の上ではいろいろ争いがございます。と申しますか、むしろこれを消極に解する説のほうが多く、あるいは裁判例もそのほうが多かったわけです。したがって、そういうものを初めから当事者が請求してこないという事例が相当あったわけでございます。そういう点で、具体的な事件につきまして、損害賠償の額の算定につきまして、個々の事件の間にでこぼこができておるというようなこともございました。そういう損害賠償の訴訟事件におきまして、認容の額がばらばらになるという要素があるわけでございますが、大体におきまして、いわゆる消極的損害の算定は、これはもう客観的にきまるわけでございます。この点につきまして個人差というものは出てこないはずであります。それから消極的損害の中でも、いわゆる得べかりし利益というものの算定につきましては、むずかしい点もございますけれども、しかし、これはいろいろな統計であるとか、つまりこの人がいつまで生きられたであろうとか、いつまで働けたであろうかというようなことは、裁判所が事案を判断するにつきましては、たとえば厚生省でつくっておられる簡易生命表であるとか、あるいは労働省でつくっておられる賃金の構造基本計画調査報告、あるいは得べかりし利益から必要経費を差し引く場合におきましては、総理府の統計を利用するとか、大体そういうことは、各裁判所同じだろうと思うんです。しかし、その中でも、農業の収入をどういうふうに算定するか、あるいは店屋さんの営業上の利益というものの得べかりし利益というものを、どういうふうに算定するかというような点、あるいは婦人のなくなった場合の得べかりし利益をどういうふうに算定するかということは、いろいろ学説、考え方ございますので、これは基準はありますけれども考え方によってその基準が違ってくるということになろうかと思います。  それから一番問題は、やはり慰謝料でございます。慰謝料の算定ということは、これはいわば裁量的なものになりますので、そこにまちまちな面が出てこないわけではないわけでございます。これはものの考え方によるものでございます。そういう点がある。しかし、裁判は独立である、具体的な事件でおのおの違う、こう申しましても、やはりそこは客観的なものがあって、基準というものがあってしかるべきであろうというふうに私ども考えておるわけでございまして、その基準をどういうふうにしてつくっていくか、できていくかということにつきましては、裁判官の会同を開くとか、それでいろいろ議論し合って、そこでみんなの考えというものを話し合って、客観的なものをつくり出していくとか、あるいは私どものほうで事務局としてやっておりますのは、たくさん交通事件の損害賠償の事例を集めまして、こういう事例ではこうなったという、損害賠償の算定事例集というものをつくりまして、各裁判所に配付して、参考に見てもらうというようなことをして、具体的に、どれもこれも同じ結論というわけにはいかないにしても、その具体的な事例の中に、やはり客観的なものを盛っていくという努力はいたしておるつもりでございます。
  118. 亀田得治

    亀田得治君 まあ概略承りましたが、結局積極損害なり、得べかりし利益、これはずっと計算していけばそれなりに出る。一番問題なのは慰謝料の問題ですね。これについてはおおよその何か基準とか、そういうものはできているんじゃないですか。それは実際に裁判官が自分で判断すればいいのだといたしましても、やはり初めて担当される裁判官は、前の判例を見たり、あるいは先輩の人に聞いたりするでしょうし、そういうことは、やはりこういう問題については幅を持たして、一つの基準というものがあってもいいということですね。だからそういう意味でお聞きしておるのですが、実際は何もなしで、各裁判官にまかしてしまうということで理解していいのか、真相はどうなんですか。
  119. 菅野啓藏

    最高裁判所長官代理者菅野啓藏君) 裁判のことでございますので、事務局としてたとえば通達で、こういう場合は慰謝料幾らにしろということはとうていきめられないことであります。しかし、裁判をするにいたしましても、そこには法律的な基準というものがないわけでございますので、やはり裁判官が会同等で集まりまして、そうして現時点においてはこのくらいが妥当ではなかろうかとか、いや、そうではないという議論をしてもらいまして、大体そこのところでこの辺ということが自然にきまっていく、一応の一般的な標準というものはそこでそういうところできまっていくということがいいのではないかというふうに考えて、交通事件の会同をやる、特に交通事件が多い大阪とか名古屋とか東京の裁判官が、協議会を開いて集まってもらう、そうしていろいろ議論してもらう、そうしてその議事録をつくり、そうしてその場合においては全国に配って、見てもらうというようなことをしておるわけでございます。
  120. 亀田得治

    亀田得治君 その程度にその問題はしておきますが、損害賠償請求事件についての和解調停ですね。これは裁判所態度としては積極的にこれを進めていくと、そうしてともかく早く片づけるという方針がいいと私は思うのですが、その点はどういうふうな方針を持っておられるのでしょうか。各裁判官にそれこそまかしっぱなしということなんでしょうか、どうなんでしょう。
  121. 菅野啓藏

    最高裁判所長官代理者菅野啓藏君) まず、調停のことから申し上げます。  先刻御指摘になりましたように、全国では一年に五十何万件というような交通事故が起きておることに対しまして、裁判所に出てくる事件というものは、ただいまで二万件くらい、調停、訴訟合わせまして。で、つまり二%くらいということでございます。こういったような事態というのは、あまり好ましいことではないのでございまして、司法的な機関によって司法的に紛争が解決されるということが一番いいことではないかと思うわけでございます。したがいまして、調停ということを私どもは推進しなければならないというふうに考えまして、実は昨年調停につきまして申し立ての手続を非常に簡便にするような通達をいたしました。たとえば口頭の受け付けもどんどん受け付けるようにするとか、それから申し立て書の形式も簡単なものにきめまして、そうして当事者の申し立てしやすくいたしました。そのために、その直後から調停の事件が約倍くらいにふえてまいりました。私その当時、こういうことをやって、どのくらいふえるかということを新聞社の人に聞かれましたが、見込みですから自信もなかったわけですけれども、大体三倍くらいになるでしょうということを申し上げたのです。しかし、いまの現状を見てみますと、当時の三倍くらいの程度には調停がふえてくるのではなかろうかというふうに思っております。  大体この交通事件の損害賠償の事件では、訴訟をやりましても、ぎりぎりのところ、やはり慰謝料という不確定要素といいますか、そういうものが含まれておる事件でございますので、事件とすれば調停とか和解に適した事件が多いのではなかろうかというふうに考えております。で、調停はそういうぐあいにして大いに裁判所でしてもらいたいという気もしておりますし、それから、たとえ訴訟として起こされた事件でございましても、ある段階に達すれば和解を勧告して、そこでまとまるということが、事を円満に片づけるゆえんでもありますし、時間的にも多少早いという利点もございますので、この事件を扱っているときに、和解ができ得べしというものは非常に多いようでございます。東京と大阪では多少その率が違いますけれども、東京なんかでは七、八〇%は和解で事件が片づくというような現状でございます。
  122. 亀田得治

    亀田得治君 そうすると裁判所態度としては、特殊な事件は別として、一般的にこの種の事件は、この調停なり和解なりで早く片づくのがいいという考えで臨んでおる、こう理解していいですね。
  123. 菅野啓藏

    最高裁判所長官代理者菅野啓藏君) さようでございます。
  124. 亀田得治

    亀田得治君 それからもう一つは、この調停、和解などができ上がる場合に、保険金の支払いというものが今度は非常に関係があるわけですね。したがって、この保険に加入している場合には保険会社の代理人も、これは事実上の参加でいいかと思うんですが、何かそういう道を開いていただきますと、話が成立したあとの処理が非常にスムーズにいくわけですね。その保険会社から実際上金をもらわなければいかぬわけですから、その辺の関係というものを裁判所として何か考慮されておりますか。
  125. 菅野啓藏

    最高裁判所長官代理者菅野啓藏君) お説のように、加害者、被害者間の争いでございましても、結局は損害補てんというものを保険会社にやってもらう例が多いわけでございます、調停あるいは和解の段階におきまして、はっきり利害関係人ということで調停に参加さすという形をとるのは、そう多くはないのでございますけれども、実際上意見を聞きながら調停をやり、和解をやるということが相当あるというふうに聞いております。
  126. 亀田得治

    亀田得治君 最近は交通事件について最終の解決がつくまで待つわけにいかない、被害者の状態が気の毒で。したがって、よくその仮処分なども出るわけですね、一部支払いの仮処分に対しては、保険会社は現在支払わぬようですね。しかし、それでは保険に入っておる効果がだいぶ減殺されるわけですね。これは法的にはどうなるかわかりませんが、やはりそういう仮処分などが出た場合には、保険会社もそれに従っていくというふうにこれはできないものですか。実際の被害者の救済という立場から見ると必要だと思うのですが、どうなんでしょう。
  127. 菅野啓藏

    最高裁判所長官代理者菅野啓藏君) 実際に仮払いの仮処分の事件数というものは、これは東京の保全部で聞いておるところでございますけれども、年間に十数件というくらいで、そう多くはないということでございます。これは仮処分として不可能ではないかと思いますけれども、強制保険に仮払いの制度がありますし、この仮払いというものが手続でスムーズにいけば。いわゆる仮処分の必要性という点に多少法律上問題もあろうかと思います。  それから保険金のほうを仮処分で仮払いを命ぜられた場合に、払うべき法律上の根拠があるかどうかという点につきましては、やはり仮処分は、実際は金を払うわけでございますけれども法律的にはやはり仮払いという形でございますので、その辺に保険金を支払うかどうかということの問題の点があるのではなかろうかと、実は深く研究しておりませんので、はたして全然できないものか、保険金支払いできないものかどうかということにつきまして、確信を持ってただいまちょっと申し上げかねますが、仮払いというところに問題があろうかと思うのでございます。
  128. 亀田得治

    亀田得治君 ともかく裁判所がいろんなお仕事をやっている、これは結局被害者の救済、こういうことを早くやるためにこれは動いておられるわけで、したがって、当然仮処分にいたしましても、非常に裁判所が積極的にやってくれるということが一般的にわかりますと、これはもっともっと私は要求が出てくると思うのですね、要求が。したがって、その際に、命令は出たけれども、金は出てこないというのでは、これはもう浮いたようなものですから、そういう点の研究をひとつ裁判所としてもやってほしいと思うのです。現行法のワク内でどうにもならぬ問題であれば、何か立法的なことをこれは考えなければいかぬのかもしれませんし、これはもう非常に具体的にやはり困っている人がたくさんあるわけですね、事故を起こして。非常にたくさん金を持っている人は、適当に支払いできますが、大部分はそんなことはできないわけでして、これはひとつ要求しておきます、研究のほどを。  で、総務長官が総理の代理でお越しになって、少し何か調子が悪いので短時間でということのようですから、総理がお越しになったらちょっと一、二点聞きたいと思っていたことを確かめておきたいと思うのですが、その第一は、車の増加と、それから道路の延び並びに道路の整備、これがバランスがとれておらぬわけですね、私たちちゃんと統計を見ても。ともかく、車のほうがどんどん先行していっているわけです。これが一つの重大な問題だと思っているのですよ。まあ道路の整備なり、いろいろなことを、われわれも要求もし、努力もするわけですが、その根本に非常に無理な問題が一つあるわけですね、いま申し上げたとおり。これはどうするかということですな。たとえば道路の整備は一生懸命やるが、実際問題として、言うがごとく右から左、どなたがやっても、これはそう簡単にいくものじゃない。そうすれば、道路の延びに車の所有を合わすということも、私はこれは一つの大きな考え方だと思うのですよ。私はそういうことを考えているのです。これは思いつきではない。これはもう数年前から言っているのです。ただ、そういう提案をすると、何だ、えらいやつだけ車に乗って、あとはおまえ持つなということかと、こうなって、何か非常に差別扱いする、あるいは人の自由を制限するというふうな誤解もこれ与えますが、しかし、私は幾らいろいろ考えましても、このままで、車の増加をそのままにしておいて、にっちもさっちもいかぬように必ず私はなるんじゃないかと思いますが、そんなことはないと、まあこうこうこうして、何カ年計画でこういうふうにしていって、こういうふうになるというふうなお答えをいただけるなら別ですが、なかなか私は、それは佐藤総理といえども、幾ら、何といいますか、答えにくいことだろうと思う。車の所有制限について、端的に聞きますが、どういうふうにお考えになりますか。  もちろんそれは、所有制限じゃやろうということがきまりましても、どういうふうにそれを実施するか、これはまた、なかなか具体策についてはいろいろ意見があろうと思うのですね。あろうと思いますが、とにかくそういうことが野放しでいいのかどうかということについて、非常に大きな私は疑問を持っておる。どうですか。
  129. 田中龍夫

    国務大臣(田中龍夫君) お答えをいたしますが、その前に、当委員会に本来総理が出席をいたすところでございますが、ただいま、ちょうど衆議院のほうの本会議に公職選挙法の問題がかかっておりまして、そちらのほうに出ておりますが、それが終わりましてから、ちょうど、御存じのとおりに、タイのタノム首相が参りまして、公賓接遇のために、目黒の迎賓館のほうに参りまして、表敬をいたし、さらにまた、タイ国の大使館のほうの非公式の会合がございまするし、かような次第で、委員会に出席をいたさなくては相ならぬのでございますが、かような次第でできませんので、私が参上いたしたような次第でございます。どうぞあしからず御了承いただきとうございます。  それから、亀田先生のただいまの御質問でございますが、これは非常にむずかしい問題であろうと存じます。御案内のとおり、今日の道路交通禍と申しますか、たいへんな被害を出しておるような状態で、これに対しまする、あるいは横断歩道の問題でございますとか、あるいは道路の整備とか、鋭意努力はいたしておりましても、なかなか自動車の台数とはさみ状になって、いろいろな災害がますます多くなる。  そこで、いま先生指摘のように、その台数を制限してはどうかというような御意見もいろいろとございますが、他方、また日本の自動車というものが、世界的なだんだんと評価を得まして、海外のほうにも輸出をいたしておるような次第でございまして、他方、これがまた内需で振りかえるときに、それをまた制限するということになります反面におきましては、外車が入るといったようなことで、なかなかその御指摘のような持ち車の制限をいたすということが非常に困難なことではないかと、かように存ずる次第でございます。なお、交通安全対策という上から申すならば、確かに一つの御見識でございますが、ただいまの御意見に対しまして、さらにわれわれのほうでいろいろと検討もさせていただきたい、かように考えます。
  130. 亀田得治

    亀田得治君 ほかの方も御質問あるようですから、まあいろいろあるのだが、大事なことだけにしぼっておきますがね。  いま私が提起したようなことが、皆さんのいろいろな交通問題に関する機関なり会議があるわけですね、そういうところで一応課題になっておるのかどうか。たとえば特定の、非常に込む場合に、車をその場所に入れないというふうな措置は、部分的にやっているわけですね。これは私は一種のやはり私権の制限ですね。私権の制限なんです。必要性からこれはきておるわけですね。だから、それを伸ばせば、これは所有そのものについても検討するというふうなことがあっても、少しもこれはとっぴなことじゃないと私は思うのです。まあいま、検討されると言われましたから、これはぜひこの最高責任者の総理にも伝えて研究してください、この問題は。お聞きしますがね、そういういろんな各種の会議なり機関等で、いま私が提起したようなことが議題になっていますか。
  131. 田中龍夫

    国務大臣(田中龍夫君) 私のほうで交通安全対策を所掌いたしております関係から、交通関係の会議に出ますと、ただいま亀田先生の仰せのようなお話はよく出るのでございます。それから予算委員会におきましても、ちょうど同じような質問が出まして、総理が答弁されたことを記憶いたしております。
  132. 亀田得治

    亀田得治君 では総理はどういうふうに答弁しておりますか。
  133. 田中龍夫

    国務大臣(田中龍夫君) 私の記憶に誤りなかりせば、いまの問題は非常にむずかしい問題だというような御回答でございました。
  134. 亀田得治

    亀田得治君 それはほんとうにむずかしい問題なんです。それだけでは、やはり最高責任者として、責任果たしておるというわけにはいかないのですね。これはだから再度要望しておきます。
  135. 木村美智男

    木村美智男君 いまの問題に関連をして、交通安全国民会議というものを政府自身が主宰をしておられる。その仕事の問題も次に伺いたいのですが、実はいま亀田委員がお聞きをした問題と同じような意味で、この間法務大臣にも私お伺いしたのですけれども、いまのはこういうふうに理解をしてよろしいですか。つまりあなたが交通安全関係のいわば総理の代行的な立場におられる元締めだというような意味で、今日の車の増加という問題は、これはやはり道路を直したり、安全施設をつくったりしても、なかなか間に合わぬ状態にあるという現実はわかるのであります。したがって、政府としても、何らかこのことについて検討をしなければならぬというような立場に、たとえば交通関係の閣僚会議なりに、今日の車の問題は何とかしなければならぬじゃないかということで、とにかく相談をかけて、知恵をしぼってみよう、こういったようなふうに理解してよろしゅうございますか。
  136. 田中龍夫

    国務大臣(田中龍夫君) ただいまの案件は確かに重大な、しかもなかなか簡単には結論出ない問題でございますが、みんなの気持ちも、その問題につきましては思いは同じであると存じます。
  137. 木村美智男

    木村美智男君 いまのやつは、どうも私せっかくにお答えをいただけたので、そうじゃないかということでお伺いしたのですが、それは確かに、何か車の問題をどうにかしなければならぬという話をすると、直ちに生産量か何かをばさっと切るような、そういうことをあるいは想定されるかもしれませんけれども、それはやはり、いろいろ産業界の問題もあるだろうから、いろいろの点からやはり検討をしていかなければ無理なんじゃないか。そういう意味では手ざわりとして考えられるのは、たとえば、大臣言うように、国内よりも生産を輸出向けに重点を置くとか、あるいは内部については税制の問題を考慮するとか、さらに自賠責等について人命尊重という問題もあるわけですから、したがってこれを相当引き上げることによって、やはり自動車を持つということについて、間接的ではあるけれども、やはり多少何といいますか、ちょうど皆さんがおっしゃるようなことを逆にとっていけば、何だか罰則を強化すれば、事故について注意するような気持ちを持つというような意味合いがかりにあるとすれば、納める税金が高いから、じゃ自動車を持つことを控えようかというようなことは、これは通ずる話になりますわな。いろいろそういうようなことを考えて、とにかく、どういうことになるか、いまは野放しだ、野放しじゃいけないんだという立場に立って、とにかく政府としてもこれに真剣に取り組んでみよう、こういう気持ちで、どこで相談をするかは、これはどうこう差し出がましいことを申し上げる気持ちはありません。  そういう立場で、ひとつ真剣に今日の道路問題、交通事犯の問題と交通事故の問題と関連をして、ひとつ真剣にこの問題と取り組んでみると、具体的にこうやった結果、この点はこうだ、この点はむずかしかった、あるいはこれは不可能であったという、少なくともまじめに検討した結果が、一つのある程度報告なり、質問に答えるという形が先先においてできるような、この場だけで、ただ気持ちの上で、それも大事な問題だからひとつ検討してみたいという抽象論だけで終わってもらったのでは、これはやはりうまくないので、そういう意味大臣のお考えを聞いているわけなんです。
  138. 田中龍夫

    国務大臣(田中龍夫君) 木村先生のお話のように、この自動車工業自体に対するどうのという問題とは別に、いわゆるいろいろな交通安全対策としての意味から、自動車の保有の問題を間接的に何らかの方法で抑制することはできないかというようなことに相なると思います。と同時に、また、最近は都市の問題だけではなく、農村方面において非常に車を持つようになりまして、交通事故、交通禍というものが、大都会からさらに全国的に地方に広がっているというようなこともございます。そういうことで、この自動車の保有の抑制という問題は、何らか間接的な施策によって、まあ抑制すると言うてはちょっとことばがきつ過ぎるかもわかりませんが、何とかある程度の措置をとらなければならないように感じてもいる次第でございます。
  139. 木村美智男

    木村美智男君 だから大臣ね、その感じている、そこで感じているだけじゃ困るので、私申し上げているのは、さっきから、やはり経済全体の発展の中で、ひとつモータリゼーションというものが特に飛び出て、まああらゆる面でそのことが、どうも何と言うか、一歩どころじゃなくて、数歩先んじているところに実はいろいろ問題がある。で、自動車はどっちかというと、交通の事故防止という観点からならば、本来安全性がやっぱり一番重要視されて、それがこの宣伝に乗っていく、あるいはマスコミにかかっていくという形でいくならいいんだけれども、いまは加速性の問題なんかが先に出てしまって、これは大臣、テレビごらんになっていて御承知だと思う。とにかく、いやが上にもスピード欲をあおるような宣伝だけが先に出ていくというような形になっておる。それは単なる販売の分野だけじゃなしに、いまたとえば道路も、年間何千億の費用は入れているけれども、しかし道路の発展よりは、はるかにそのテンポの早い形で車が増加しているというこの問題なんですね。だからある程度全体の経済の中で、均等な発展をしていくような形での抑制策というものは、それは工業界の問題もある場合にはそれは含まれるかもしれません。それはしかし、そのことがきつい意味での抑制ということに、あるいは制限ということになるかどうかは別として、全体的にもう少し調和がとれて、結果としてそれが交通事故を少なくするということにだれもやれないんです、これは。佐藤総理以下いまの政府の首脳が、今日の佐藤内閣がこれはやらない限り、これはなかなかできないわけなんです。だからそういう意味でひとつどういうことの方法があるかということについて、具体的に閣議なり、あるいは経済閣僚会議でもいいですから、問題点としてとにかく提起をして、人命尊重、交通安全という立場からひとつ車の問題について検討をして、積極的にやってみましょうという実はお答えがほしいわけなんです。
  140. 田中龍夫

    国務大臣(田中龍夫君) 総理が先般もお答えいたしましたように、非常にむずかしい問題ではございますが、御指摘のとおり、これは何とか考えなきゃならないと考える次第でございまして、交通関係のいろいろな諮問機関にいたしましても、あるいはまた、交通安全国民会議というふうなものもありまするし、私のほうでも、この問題をひとつ取り上げさせていただきまして、検討させていただきたいと思います。
  141. 木村美智男

    木村美智男君 大体そういうことできようは了解をしておきたいと思いますが、いまこの問題について交通安全国民会議などでもいろいろ意見を徴してみたい、こういうお話があったのですが、実は、この交通安全国民会議というのは、私どうも別にひがんで見るわけではないのですけれども、少しやっぱりお祭り的な要素が強過ぎて、とにかく何か行事として交通安全のことをやったのだという、そういうおざなりの会議になっているような気がしてならない。これは過去少なくとももう五回からやられていると思う。なぜそういうことを申し上げるかというと、実際に安全を守っていくために、さっき申し上げたような、たとえば過大な高速性の宣伝広告だとかというようなことは規制をしてほしいとか、きわめて具体的な意見がこの会議の中では出されているわけです。しかしこのことについて、依然としてこれはもう全然抑制をされるどころか、ますます最近は激しくなっている。あるいはこの交通事故対策のために専門委員会を設けろというような積極的な意見も出ております。しかし、これだって特別政府のほうがそういう関係として、ほんとうに専門的にそれに取り組んで、抜本的な対策を講じようという姿勢は、どうも今日のところ見られない。  それから衆議院の附帯決議の中では、特に交通科学研究センターをつくれというような、これは総務長官御承知だろうと思うのです。しかし、これなんかは、まあ名前をどうするか別ですけれども、言わんとしている趣旨はわかるだろうと思いますけれども、今日依然としてこれもつくられていないのです。そうしてみると、さっきお祭り騒ぎと言ってはちょっとあれかもしれませんが、受け取りようによっては、まあ言いぱなし、聞きぱなしの会議に終わっている。そうとしかとれない。そうだとすれば、どうも一つの、まあ年に一回あるいは二回、国民と名前をつけて、そうして交通安全国民会議というようなことによって、何か事故がそれによってなくなるような印象だけを与える。しかし、新聞の報ずるところは、年々事故件数もふえれば、けが人もふえる。不幸にして死ぬ人も多くなっている。こういうことで、少なくとも民間のやはり協力まで得てあれだけの会議を開くということなんだから、私はもう少し本格的に事故防止、安全という問題に取り組む体制と、それからそれと活動を実際に裏づけるような予算措置というものをきちんとつくって、そうして現実にドライバーというか、あるいは運転に携わっているような人の意見もどんどんそこに取り入れていって、そうしてやはり対策を具体的にとっていかなければ、せっかく設けている安全国民会議といわれる、政府自身が、総理が議長になって開いている会議としては、これは私きわめて残念なことだと思う。ほんとうにこういう国会審議にだって、なかなか総理が委員会にとどまるということは、わずか一時間かそこらしかおれぬ。しかし、交通安全国民会議は、少なくとも議長として長い時間やはりタッチをするというそれだけの関係にあるのだから、それがほんとうに具体的な効果があがるような、そういう会議の運営にひとつこの際してもらわなければいかぬじゃないか、この点どういうふうに考えられますか。
  142. 田中龍夫

    国務大臣(田中龍夫君) ただいま御指摘の国民会議でございますが、先生よく御承知のとおりに、これは四十年の三月以来、五回にわたりまして開かれておりまして、ことに当初のような姿から非常に変わりまして、四回目からでございますが、この分科会といいますか、グループ別になりまして、おのおの交通安全の問題についてのテーマを持って、きめのこまかい真剣な検討を続けるようになりました。参加団体も八十をこえるというような状態でございます。  また、同時に、私のほうの役所が所掌いたしておりまする対策本部を中心といたしました、各省庁の関係官によりまする活動もほんとうに真剣に取り組んでおりまするのみならず、交通安全対策に対しまするいろいろな教育あるいは啓蒙その他、かような対策経費も五百九十七億の膨大な資金量に相なりまして、これは財政硬直化といわれます今日におきましても、対前年比四〇%増というような破格の経費を充当いたしておるような次第でございます。また、そのほか、これは都道府県までも含めまして、業務量、工事量というようなことを累計いたしますと、一兆数千億というような膨大なものになるのでございますが、交通網の整備に関しましても、あるいはまた、環境の整備、その他教育関係あるいは科学的な検討、いまやほんとうに国をあげてと申しますか、真剣に取り組んでおるような次第でございまして、決してお祭り騒ぎだけではなく、ほんとうに足が地についた、きめのこまかい研究にこの国民会議も入っておりますことを、この機会に御報告申し上げたいと思います。
  143. 木村美智男

    木村美智男君 大臣、私は、大体四回目から会議の持ち方については多少具体化して、何か前向きになったような気かするんです。しかし、実際に前向きになったかどうかということは、そういう会議の持ち方が変わった結果、具体的に交通安全施策というものが表に出てきて、初めて私は変わってきたというふうに言えると思うんです。そういう意味で言うならば、今日のやっぱり事故の問題なんかにしましても、車の構造の問題とか、あるいは安全運転の問題であるとか、あるいは歩行者を含めて車と対峙するほうの交通安全教育の問題であるとか、具体的なものに専門的にせっかく会議を持たれるんですから、衆知を集めて、そこから出てきた意見が、ひとつ内閣の交通安全対策だということで、それを実行していくために、予算がどのくらい要るということまで含めて、次の年度には具体策としてこう何かぴしっと出てこないと、これはなかなかうまくいかぬじゃないか。大臣が答えていられるように、うん、そうだという感じがしないわけですよ。  そこで、たとえばこの間、東名道路が開通したとたんに第一回目の事故は、これはタイヤの問題です。タイヤの問題であの事故が起こっている。そういうことから考えると、たとえば安全性の問題を一つとらえてみても、最近は例のディスクブレーキというやつは、もう高速については欠かすことのできないブレーキなんですね。そうすると一部では、スポーツカーはそいつはいいけれども、ほかの車は困るんだとかいうような意見が必ず出てくるわけなんです。そういうことを調節をして、一部特殊の車についてだけ必要なものは、何かそういうものは一つの規制というものをやっぱり考えていく必要があるんじゃないか。それから窓ガラスだって、いまの強化ガラスなんていうものは、石かなんかぶっつけられると、ぱっと割れて白くなって見えなくなる。こういうものについては、たとえば合わせガラスというようなものがあるわけですね。そういうものに全面的にかえていくとか、タイヤなんかについても偏平タイヤであるとか、いろいろあるわけです。  そういったようなことが、それぞれの分野の山で、日ごろの経験を通してきちっと結論づけられるか、結論までいかぬでも方向づけられる。それを吸い上げて、一つのたとえば車体構造についての基準というか、あるいはものさしとして、製造の方面にも示す。安全運転についてはドライバー関係に、オーナードライバーを含めて、それが指示されていくというような、具体的な指導の面に生かされてこなければ、交通安全国民会議というやつは、どうも内閣の人気取りでやっているんじゃないかと悪口言われたって、そうじゃないかということになる。そういうことをやっぱり大臣が、せっかく総理と一緒に中心的にこの会議の首脳部を構成しているわけですから、それは私の意見どおりというわけじゃないですよ。十分いま言わんとするところをくんでいただいて、せっかく第六回、第七回となっているが、ことしはまだ持ってないようですが、近く持たれるんでしょうが、これが必ず次の年度にはこういう形で今度は国民会議の意見が具体化するんだということにやっぱりしてもらわなきゃいかぬ。そのためにはとかく、何というか、第一線で働いている人たちのやっぱり意見というものが十分述べられるように、そういう人も多数これに参加をさせるというようなことを含めて、ひとつこれは要望で、お答えいただかぬでけっこうだと思いますが、十分ひとつ運営にあたって考えていただきたい。
  144. 田中龍夫

    国務大臣(田中龍夫君) 国民会議の運営の方法につきまして、いろいろと御高見をいただきましたが、民間の各位からのいろんな御意見を、できるだけ政府の施策の上に取り入れるように努力をいたしてまいりたいと存ずるのでございます。なお、いろいろな御注意につきまして、さらにわれわれのほうで十分検討さしていただきたいと思います。
  145. 木村美智男

    木村美智男君 関連でありますから、これで終わります。
  146. 亀田得治

    亀田得治君 それじゃ、できるだけ最小限必要な法律問題にしぼってお聞きすることにいたします。  せんだって警察の交通局のほうからいただいた資料ですが、歩行者の取り締まり状況、ここ五年間の分、たとえば四十二年ですね、四十二年をとってみますと、合計で検挙が二千二百二十五、送致したものが八百四十三と、こうなっておりますが、検察庁に送致された後、これがどういうふうに処理されておるのか、この点ちょっと御説明願えたら。
  147. 鈴木光一

    政府委員鈴木光一君) 歩行者の送致後の検察庁及び裁判所からの結果につきましては、まことに申しわけありませんけれども、具体的な連絡がございませんので、私どもからもう少し積極的に調べなければなりませんけれども、データはございませんので、申しわけないと思います。
  148. 亀田得治

    亀田得治君 これは法務省のほう、わかりますか。
  149. 石原一彦

    説明員石原一彦君) 前々回もお答え申し上げましたとおり、道交法違反事件が四百万件からありますので、こまかい結果についての調査までは行き届かない点がございまして、その点まことに申しわけないと存じておるのでございますが、先般本改正に関係いたしまして、ある期間を限りまして特別調査をいたしましたところ、大体六〇%ないし七〇%が起訴でございます。その基準は、一般の場合よりもきわめて起訴率が低いわけでございますが、やはり歩行者の場合でありますと、非常に情状の軽いものもございますので、六、七〇%にしか達していない、かように考えられております。
  150. 亀田得治

    亀田得治君 起訴率六、七〇%というのは、全体の数字と聞いたんですが、歩行者の場合も同じですか。
  151. 石原一彦

    説明員石原一彦君) 歩行者の違反として送致されたうち、起訴されたものが六、七〇%である、かような意味でございます。
  152. 亀田得治

    亀田得治君 その内容はどうですか。裁判、刑の内容は。
  153. 石原一彦

    説明員石原一彦君) 大体においては罰金刑で処断されております。
  154. 亀田得治

    亀田得治君 それはどの程度の罰金刑ですか。
  155. 石原一彦

    説明員石原一彦君) 各刑の現実の場合について全部とっておりませんが、大体は一万円以下でございます。
  156. 亀田得治

    亀田得治君 まあ、いずれにしても全体の違反から見たら非常に少ないのですよ、歩行者の実際の違反から見たらね。皆さんも新聞でごらんになったと思いますが、たとえば五月十一日、大阪駅前で朝日新聞の記者の方が取材された記事が、私、せんだって大阪に帰ったときにちょっと目についたのですが、この大阪駅の東口と阪急の梅田駅の間ですね、あすこは国道一七六号線が通っているところです。二十五メーターくらいの幅のところですね。信号機はもちろんそういうところですからあるのですが、青にならないうちに歩き出すわけですね。それが二十五メーター歩いて向こう側のほうへ着いたころにようやく青になる、極端な場合にはそういう状態がある。で、自動車はたいへん戸惑うわけです。で、新聞記者の人がその飛び出していった人に二、三質問をしているのですね。そうすると、ある一人はこういうことを言っておる。「歩行者優先だよ。みんながどっと渡れば信号なんてどないなっていても車は突っ込んできやへんわ。毎日やっててようわかっとる。」、こう言う、まだほかにも書いてありますがね、こういう調子でやられたのじゃ、これはもう車のほうはたまったものじゃないですよ。私も現にそういうことは見ておりますがね。車が取り巻かれてしまうわけです。そういう状態があるにもかかわらず、この検挙数はほんのわずかですわ。これはもう九牛の一毛ですわ。おそらくその罰金といっても、いろいろ調べても自動車の場合に比べたら非常に低いものしか出しておらぬと私は思うのです。えらいたくさんの交通統計の中のこまかいことを私突っつくようですが、そうではないのです。この点が一つの大きな盲点なんですね。盲点になっている。その点をひとつ反省してもらいたいという意味でこれは申し上げておるのです。ちょうど自治大臣が来られて、こういう方面の最高の取り締まり責任者なんですがね。もうこまかいことは要りません、こまかいことは。私は現状ではよくないと思っている。どういうふうにお考えになっているか、時間をあまりとらぬように、簡潔にひとつお答え願いたい。
  157. 赤澤正道

    国務大臣赤澤正道君) 自動車運転手のことかと思ったら歩行者のことでございますのでちょっとびっくりしましたが、それは歩行者の場合は、まあいろいろな指示をしたのに反抗した者しかつかまえておりません。そういうことになっておると思います。信号無視は別ですけれども、まあとにかく交通違反を注意したけれども聞かないという者だけ処理しておりまするので、そういうことになっておりますが、しかし、やはり歩行者のマナーというものがまだ非常に未熟でございまするので、これはいろいろな教育、その他あらゆる機会あるごとに徹底をさせて、そしてその面からも激増する交通事故に対処しなければならぬ、かように考えております。
  158. 亀田得治

    亀田得治君 大臣はひょこっと出て来られたから、私がいかに歩行者の問題をいろいろ心配しているかという気持ちがまだ伝わっておらぬようですね。これはほんとう検討してもらわぬといかぬです。そのことが民事、刑事、行政処分、いろいろなことにつながっていっているのです。だから、私は十分ひとつ交通局長には耳にたこができるほど意見を言いましたから、十分ひとつ検討してもらいたい。
  159. 赤澤正道

    国務大臣赤澤正道君) わかりました。
  160. 亀田得治

    亀田得治君 それで、次に若干道交法のことについて確めておきます。  これは警察のほうに確めますが、七十四条をちょっとごらん願いたい。第二項、「雇用者は、雇用運転者が第六十八条の規定に違反する」——つまりスピード違反ですね、最高速度の。「規定に違反することを誘発するように時間を拘束した業務を課し、又はそのような条件を付して雇用運転者に車両等を運転させてはならない。」、この規定があるのですが、これは私現にこれに反することが相当行なわれていると思うのですね。たとえば名神高速道路あたりでも最高速度が百キロになっているわけですね。ところが、ずっと百キロで走らないと間に合わないようなダイヤがつくられているように私たちは聞いておる。だから全部を百キロで走れるわけはないわけでして、場所によってはもっと落とすわけでしょう。そうすれば当然それを取り返すために百キロをこえなければならぬというところに無理が出てくるわけですね、こういう点についてよくお調べになっておるのかどうか。これは罰則がついているわけですが、罰則の適用などはどの程度今日まで行なわれておるのか、簡単にひとつお答え願いたいと思います。
  161. 鈴木光一

    政府委員鈴木光一君) この条文の罰則につきましては、実は百十九条におきまして、「国家公安委員会又は公安委員会が第七十四条第二項に規定する時間を拘束する業務として定める業務を課し、又はこれと実質的に同一の結果となる条件として定める条件を付して雇用運転者に車両等を運転させた雇用者」ということになっておりまして、実は公安委員会がこの基準をきめなければならないわけでございますけれども、これはたいへん技術的にむずかしいことでございまして、たとえば東京から大阪まで行くのに一体どういう時間になるだろうか。いろいろな道路を通って行くわけでございます。その道路も交通の状況に応じて、そこを走る場合のスピード、それから交差点における待ち時間、そういったようなことを考えますと、基準というのはなかなかつくりにくいということがございまして、明確に、たとえば東京から大阪まで三時間で行ってこいというようなきわめて非常識な場合はやれるのでございますけれども、実際の場合にそういう明確な立証方法がむずかしいものですから、その条文を適用して雇用者を罰したという事例が見当たらないのでございます。
  162. 亀田得治

    亀田得治君 こういうことはもっと厳格にやってもらいませんと、実際に運転をしておる人は、何といっても、お客さんに迷惑をかけちゃならない。お客さんは何時にはどの何時のバスがどこへ来るということでそこへ集まってくるわけですから、やはりそういう考慮というものが当然働くわけですね。だから、これは罰則が一度も発動されておらないなんというのは、私はもう少しはあるんだろうと思ってお聞きしたのですが、はなはだこれは心外ですね。そうして、私はこの七十四条二項はきわめて大事な規定だと思うのですが、場所によって非常に込む場所と込まぬ場所とあるわけですね。混雑の度合いまで考えてこの時間帯を雇用者はつくる義務があると私は思うのです。そういうことをもう無視して時間をきめますと非常な無理がある。私はバスを実際に運行しておる人から聞いておるわけなんです。それで、このことの質問をしたわけですが、どうもいまのお答えのようですと、あまりそういう点についての取り締まり、責任追及というものがなされておらぬように思いますが、はなはだ残念です。  それから、どんどん進めますが、七十五条ですね、これも第二項ですね、これは「安全運転管理者その他車両等の運行を直接管理する地位にある者は、」、つまり雇用者側ですね、「当該業務に関し、車両等の運転者に対し、アルコール又は薬物の影響、過労、病気その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転することを命じ、又は車両等の運転者がそのような状態で車両等を運転することを容認してはならない。」、これも、私は実際に、相当これに反した状態というものを見るわけですね、反した状態。その場合に、その雇用者がそういう過労状態を全然知らなかったということは私はそれはあり得ないと思うのですね。この点の罰則の適用状況というものはどうなっているでしょうか。
  163. 鈴木光一

    政府委員鈴木光一君) 手元に四十二年の統計がございますが、御指摘のように、この七十五条の車両等の運行を管理する者の義務違反につきましては、実は私どものほうで、最近におきまして、重点項目といたしましてこれの取り締まりに当たっておるわけでございますが、これは立証技術上の問題がございまして、なかなかうまくいかないわけでございますが、四十二年の統計で無免許運転を下命容認した件数は四百二十一件、それから酒酔い運転の下命容認につきましては三十二件、過労運転の容認につきましても同様三十二件を検挙いたしておる次第でございます。
  164. 亀田得治

    亀田得治君 検挙して、それはそれぞれ処罰までいっているのですか。
  165. 石原一彦

    説明員石原一彦君) ただいま警察庁交通局長が御答弁されたように、検察庁に事件が送致されております。それで、その事件を処理する際に、起訴できるかどうかという点をしさいに検討いたしますと、先ほど来、交通局長が御答弁されたとおり、非常に証拠上困難な点があるわけでございます。しかしながら、そういうような状態におきましては、このいまの過労運転の容認、下命行為以外にも、ほかに罰則に当たる部分がございますので、その部分を適用いたしまして起訴いたしておるのでございます。たとえて申し上げますと、百七十九例の重大人身事故例で申し上げた第一番に載っておりまする神戸のタンクローリーの炎上事件につきましては、警察からその分を送致されたのでございますが、下命容認行為につきましては起訴できませんでしたが、それ以外の点について起訴いたしまして、乗務者に対しまして罰金刑が言い渡されております。
  166. 亀田得治

    亀田得治君 これは七十四条にちょっと手をつけておるようですが、まあ実際の状況から見たら、ほんの一部が手をつけられているにすぎないと思います。第一、労働省にしましても、運転者の労働時間の改善基準——労働省どなたか来ていますか。労働者は来てませんか。来てませんな。じゃ、よろしい。ところがこの基準を見ても、一日十一時間までの実働を許しておるわけですね。だからまだまだ惰性があるわけですね。長時間労働をやって、そうしてあくる日は全部休むとか、そういうふうなきわめて人間として不自然なことを労働省自体がまだまだ許しておる、こういうところに問題がある。だから、そういう状態だから、いわんや警察のほうにおいても、過労運転の程度はまあ大したことあるまいというふうな認識があるわけなんです、気持ちがあるわけですね。だからあまり問題にされない、こういうことになっておると思う。しかし、これは実際の事故というものに結びつく可能性というものはこれは非常に多いわけですね、多いんです。だから、もっともっとこれは真剣に取り組んでもらわにゃいかぬと思います。  それから次は、六十二条と六十三条の二ですね。これは自動車の整備の関係ですね。こういう点についての罰則の発動は、雇用者に対してどの程度発動されてますか。まず、六十二条からおっしゃってください。
  167. 鈴木光一

    政府委員鈴木光一君) 使用者につきましては、両罰規定の適用がございまして、両罰規定が四十二年におきましては一万三千三百七十三件の両罰規定を適用しておりますが、その中で整備不良車両について両罰規定を適用した内訳が現在のところ見当たりませんが、この中に相当部分を占めておると思います。
  168. 亀田得治

    亀田得治君 それはまた後ほどひとつ報告をしてください。  六十三条の二はどうでしょうか。これはいろいろ社会的に問題になって追加されたわけですが、実際の運用状況はどうですか。
  169. 鈴木光一

    政府委員鈴木光一君) この点につきましても、雇用者につきましては両罰規定の適用がございますので、先ほどの件数の中にこれも含まれていると思いますが、内訳については同様つまびらかにしておりません。
  170. 亀田得治

    亀田得治君 じゃ、それは調査して報告をいただけますか、二つとも。
  171. 鈴木光一

    政府委員鈴木光一君) 調査して資料を差し上げたいと思います。
  172. 亀田得治

    亀田得治君 それから道交法でもう一点お聞きしておきますが、七十二条の一項の後段です。いわゆる報告義務の規定ですね。これは、憲法三十八条一項の「自己に不利益な供述を強要されない。」というこの規定と矛盾をするということで、岐阜の地方裁判所でこの条項は無効だと、こういう判決をされておりますね、それは御存じですな。
  173. 鈴木光一

    政府委員鈴木光一君) 存じております。
  174. 亀田得治

    亀田得治君 これは最高裁のほうは、また二審、三審があるかもしれませんが、どういうふうにこの規定は解釈されますか。
  175. 佐藤千速

    最高裁判所長官代理者(佐藤千速君) 御指摘の判決は、本年の三月二十七日、岐阜の地方裁判所の判決でございまするが、そのただいまお話しの七十二条一項後段、これが憲法三十八条の法意に反するということで無罪、この部分についての無罪の判決が出ておるということでございまして、これにつきましては、旧道路交通取締法二十四条一項、二十八条一号、これに基づく施行令六十七条二項におきまして、事故がありました場合には、「事故の内容」及び措置を警察官に報告しなければならないと、こういうごとに規定されておったのでございます。その当時におきましては、下級裁判所におきましてこの規定の合憲性について積極、消極、両説が対立しておりました。ところが、昭和三十七年五月二日に最高裁判所の判決がございまして、その判決では、この事故の内容というのは、当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度並びに当該交通事故について講じた措置という外形的なもので足りるのであるから、憲法三十八条の法意には反しないのであるという趣旨の判決が出まして、この点に関する論争は実務上は一応終止符を打った感があったのでございます。そして、その後の現在の道路交通法は、この最高裁判所の大法廷の判決が言っている表現をそのまま使いまして規定をいたしたという経緯になるわけでございます。今回の岐阜の判決は、この現在の道路交通法についての判断でございまするので、その点は旧法時代のとは違うのでございまするが、先ほど申し上げました大法廷の判決との関係をどのように考えているのかということは、判文上明白ではございませんので、この点が今後問題になろうかと思うのでございます。
  176. 亀田得治

    亀田得治君 これは検事のほうでは控訴しているのですか。
  177. 川井英良

    政府委員川井英良君) 検察官のほうから控訴をいたしました。
  178. 亀田得治

    亀田得治君 これは抗告ではなしに上告をして早く解釈を明確にするほうがいいのと違いますか。
  179. 川井英良

    政府委員川井英良君) このケースにつきましては、検察管から高等裁判所に控訴をしたという報告を受けております。
  180. 亀田得治

    亀田得治君 締めくくりますが、先ほど休憩中に、刑事課長から、この刑法の一部改正についていろいろな案が過去においてあった。それをさっき見せてもらったわけです。案が十、そうして別な要旨で二つと、合計十二、それを拝見いたしますと、規定のしかたはいろいろ違っておりますが、初めのほうの十案ですね、十の案は全部刑が三年ですね。三年となっている。ただ、禁錮だけじゃなしに、懲役が加わっているだけなんです。三年以下の懲役または禁錮と、十の案が全部そうなっているのです。だから、私それを見てたいへん実は奇異に感じた。だから、政府が出しておられるような五年懲役、こういうことは初めからあったのじゃない。初めから出ておる案は、禁錮に対して懲役も加えていこう、刑の上限についてはまだだいぶんゆとりがあるだろう。併合罪適用なり、いろいろなことを考えればという考えがあったように、私はあの案を見て——それは知らなかった。刑事課長が見せてくれたからわかったわけです。だから、そういうことを知っておれば、もっとこの点について強く議論をしたがったわけですが、もうあまり時間もないようですから控えておきますが、いずれにしても、立法の経過から見てもいろいろな意見があったことは事実だし、現在でもいろいろな角度から疑問はある。せんだっての参考人諸君もみんなそうですよ。しかし、せっかく原案として出されたんだから、まあ積極的に反対するわけにもいくまい、こういうふうな気持ちなんですね、ほとんど。したがって、最終的にお聞きしたいのは、そういう経過をたどっておるわけですから、いずれ刑法改正といったようなことがまた問題になる時期があるわけですね。そういう際には、ぜひ、今度の改正の結果の実績はどうだったか、そういう点もよく検討されまして、そうしてこのままでいいかどうか、全体の立場から見て、そういう点をやはり検討するだけの余裕が私はあってほしいと思っている。これは大所高所から考えなければならぬことですから、ひとつ法務大臣からこのお考えを承っておきたいと思います。
  181. 赤間文三

    国務大臣赤間文三君) 将来、刑法全般についての改正をいたしますときには、このたびの刑法の一部を改正する法律につきましても十分ひとつまた検討いたしたい、かように考えております。
  182. 亀田得治

    亀田得治君 もう一ぺん、最後にもう一つ聞きますが本案の附則によりますと、「この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。」、こういうふうになっておるわけですが、まあ、本日、委員会でもし成立したとすれば、あすの本会議にかかる。これは普通の順序からいけばそうなるわけでしょうが、そういう場合にはいつ公布するか。その点について、もう皆さんずいぶんさっきからせかしておった案件ですから、あした成立したらどうする、こういったようなことも予定をつくっておられると思いますが、もしその点についての腹づもりがありましたらひとつお答えを願いたいと思います。これは局長からでも。
  183. 川井英良

    政府委員川井英良君) まだ具体的に、ただいま公布の日についてもはっきりした腹案は持っておりませんが、幸いにして成立いたしましたならば、内閣とも御相談を申し上げまして、慎重な配慮の上でもって適当な公布の日をきめたいと思っております。ただ、いままでの刑法の一部改正の過去における実績を見ますというと、大体、本会議を通りましてから数日中には公布をしているのがいままでの実態のようでありますので、過去の事例を考え、またこの法案の持つ意味をも考え、内閣とも御相談の上で適当な公布の日をきめたい、こういうつもりでおります。     —————————————
  184. 北條雋八

    委員長北條雋八君) 質疑の途中でありますが、委員異動について御報告いたします。  本日、中山福藏君が委員辞任され、その補欠として内田芳郎君が委員に選任されました。     —————————————
  185. 山田徹一

    ○山田徹一君 時間もだいぶ超過いたしましたので一つだけ伺います。  まず、交通事故の問題に関連してでございますが、被害者並びにその家族には自賠償等による救済方法が法令によって定められております。今後もなおこの被害者側の保障については、当然強く進めていかなければなりませんけれども、一方、加害者側の立場に立って考えてみますとき、悪質あるいは故意犯はともかくといたしまして、一般の運転者が何も好んで交通事故を起こそうというようなことは絶対にないわけであります。やむを得ず交通事故が引き起こされた、こういうことになると考えられます。しかしながら、そのために懲役、あるいは禁錮、あるいは免許の取り消し、こういうことが起こった場合、その加害者側の家族というものは全く被害者の家族と同様に悲惨な生活を一瞬に味わっていかなければならないと思うのであります。今日、自動車が著しく増大しておりますし、あわせて運転者も非常に増大しております。したがいまして、過失致死傷の加害者が起こった場合、その加害者の家族に対して救済する制度というものが、私は当然できていいのではないかと考えるわけです。また要望もしたいわけでありますが、法務大臣としてのお考えはいかがでしょうか。
  186. 赤間文三

    国務大臣赤間文三君) 被害者の救済が遺憾ながら満足でない現状におきまして、加害者の家族の救済まで完全を期するということは、私は非常に困難な問題があると思うのでございます。御指摘のような例の生じました場合においても、またお述べになりましたように、まことに痛ましいことが考えられるのでございます。私といたしましては、財政当局その他関係機関とも十分ひとつ協議をいたしまして、今後ともお述べになりました趣旨については十分な検討を続けていきたいと、かように考えております。
  187. 北條雋八

    委員長北條雋八君) 速記をとめて。   〔速記中止〕
  188. 北條雋八

    委員長北條雋八君) 速記を始めて。  他に御発言もなければ、本案に対する質疑は終局したものと認めます。  これより討論に入ります。御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べを願います。
  189. 秋山長造

    ○秋山長造君 私は日本社会党を代表して本改正案に対し次の四点にしぼって反対の意思を表明したいと思います。  まず第一に、本改正案は、現行の禁錮刑に新たに懲役刑を加えようとしておりますが、過失犯に懲役刑を科することは、破廉恥罪には懲役刑、過失犯、政治犯等には禁錮刑という現行刑法の大原則をくつがえすものであります。最近の交通事犯に未必の故意と紙一重の悪質重大事犯がふえているということでありますが、真に悪質なものについてはこれを故意犯として処罰することも可能でありますし、現にその判決例も少なくありません。ただ、未必の故意は立証がむずかしい場合が多いことは否定いたしませんが、だからといって、いきなりこれに懲役刑を導入することは、刑法の大原則である過失の原理をあいまいにし、行刑が安易に流れるおそれもなしといたしません。立証がむずかしいからといって、刑法の大原則を破ってまで便宜的、妥協的な形で法定刑を盛り込むということは許されないものと考えるのであります。  第二に、刑法総則第三十八条にありますとおり、「罪ヲ犯ス意ナキ行為ハ之ヲ罰セス但法律ニ特別ノ規定アル場合ハ此限ニ在ラス」、すなわち、過失は罰しないというのが現行刑法の大原則であり、第二百十一条の業務上過失はあくまで例外中の例外であります。したがって、それは厳格に狭く解釈さるべきであり、刑罰も最小限度にとどめるべきでありまして、たとえば、第百十六条の失火、第百二十二条の過失侵害、第二百九条の過失傷害、第二百十条の過失致死等、いずれも体刑を科さず罰金のみにとどめておりますのもこの趣旨に沿う規定だと思います。本改正案の場合、悪質重大事犯がふえ、量刑が頭打ち現象を来たしていることがその理由とされておりますが、法務省の提示された総計資料を見ましても、現行法の三年の最高刑を科せられた事例は実にりょうりょうたる数字にとどまっておりますし、また、いわゆる悪質重大な事犯は事実上すべて酒酔い、無免許、ひき逃げ等、自動車による交通事犯に限られておりますので、これらは道路交通法との併合罪で十分処理し得るものであります。もしそれでもどうしてもこなし切れないというならば、道路交通法ですでに過失の要件を明確にしているのでありますから、道路交通法を改正して悪質犯の量刑を重くするなり、あるいは具体的にこれら悪質重大事犯を対象とした単独立法考えるべきでありまして、これを刑法第二百十一条の業務上過失というような、自動車、鉄道、船舶、航空機など各種の交通機関から始まって、広く医師、薬剤師、看護婦、産婆、さらに鉱山、工場、工事現場等で働く労働者、幼稚園、小中学校、高等学校等で働く教師から、飲食店、旅館等で働く調理士、理髪店、美容院等で働く理髪師、美容師、さらにはり、きゅう、マッサージ師、食料品の生産、販売業者等々にまで及ぶきわめて広範囲な、かつ、一般的な規定で規制しようとするところに非常な無理と危険性を感ぜざるを得ないのであります。この改正によって、一般的に業務上過失事犯の求刑、また量刑が引き上げられ、一般善良な人たちまでが厳罰に処せられる傾向になるのではないかとの疑惑と不安を感ずる向きの多いのは当然であります。  第三に、本改正は、酒酔い、無免許、ひき逃げ等による悪質重大事犯を規制するとともに、広く今日激増しつつある交通事故、交通事犯に対し警告を発する一罰百戒的な予防的効果をねらっておられるわけでありますが、刑罰を重くすること必ずしも事故防止にはならないのではないかという点であります。現行の禁錮刑なら、また最高刑三年なら注意を軽くして運転し、今回の改正懲役刑になったら、また最高刑五年になったら特に注意して運転するというものでも事実上はないと思います。現に昭和三十九年、道路交通法の罰則が強化されましたけれども、交通事故、交通事犯はふえこそすれ、一向に減ってはいないのであります。また、交通事犯の受刑者については、昭和四十年以来、法務省みずから開放、集禁処遇を実施し、好成績をあげておられるのでありまして、本委員会が現地調査をした習志野刑務支所におきましても、現在までの出所者に一名の再犯もないし、交通事犯については、短期の刑で集中的に訓練をするのが一番効果的と思うという支所長の述懐にわれわれは深い感銘を受けたのであります。法務省が大きな熱意と期待をもって取り組んでおられるこの開放処遇、集禁処遇、さらには教育刑主義を一そう大胆に盛り込んだ監獄法改正を準備されつつあるようでありますが、これらを通ずる法務省の新しい大方針と、三年を五年に引き上げて、懲役刑まで加えようという今回の改正とは一体どういう関係になるのか、実は理解に苦しむものであります。  最後に、今日の交通事故、交通事犯の激増傾向の根本原因は一体何であるかという問題であります。その原因は端的に言って、第一に、政府の基本的な交通政策の貧困であります。交通安全基本法問題一つを取り上げてみましても、昭和三十九年三月、交通基本問題調査会が答申を出してから、すでに四年以上も経過した今日いまだ成立を見ない実情であります。その第二は、各交通企業が営利第一主義の経営政策をとり、過当競争の中で利潤のみを追求して、安全輸送という交通企業者としての社会的責任をおろそかにしている態度であります。その第三は、国鉄と公営、民営とを問わず、すべての交通関係労働者が労働基準法その他関係法令を無視した、きわめて劣悪な労働条件の中で合理化による人減らし、過重労働、そして一昼夜勤務、長時間連続勤務、ノルマ制給与等によって生活不安にさらされ、心身ともに疲れ切っている労働実態であります。もしそれ政府にして、真に今日この洪水のようにふえつつある交通事故、交通事犯を食いとめようとする誠意があるならば、何よりもまずこれらの根本原因を取り除くことにこそ全力を尽くすべきであり、しかる上で、どうしても必要ならばその時点で現行刑罰の再検討を行なうというのがものごとの順序であろうと思うのであります。この点からも今回の刑法改正はいわば刑罰先行主義であり、本末転倒の措置でありますがゆえに、一面において悪質重大事犯に対し厳罰の必要性はあえて否定しないながらも、私ども改正案に強い疑問と抵抗とを禁じ得ないものでございます。  以上をもちまして反対討論を終わります。
  190. 梶原茂嘉

    ○梶原茂嘉君 私は自由民主党を代表いたしまして、本改正案に対し賛成の意を表するものであります。  自動車の激増に伴いまして、交通事故また非常な激増を示しつつあります現状、さらに将来を考えましても、自動車の増加に伴って交通事故の増加も当然に予想される情勢であります。現在の時点におきましては、何としてもこれら交通事故の防止の施策を立て、これを実行いたしますことは、政治上も、また社会上も最大の課題であると考えます。これがためには、どういたしましても、各方面、各部門にわたりまして施策が総合的に、かつ、強力に推進せられなければならないものと存じます。  もとより刑法は刑事政策の基幹的法典でありまして、したがって、その改正につきましては、慎重の上にも慎重を必要とすることは言うまでもありませんが、自動車交通事犯の現状、特に悪質な事犯の増加の情勢にかんがみますると、刑法の持っておりまする本来の使命と刑法の責任の上からいたしましても、今回のこの改正が行なわれますことはまことに妥当であり、適切なことと考える次第であります。  この理由によって、私は本案に賛成するものであります。
  191. 山田徹一

    ○山田徹一君 私は、公明党を代表して、刑法の一部を改正する本法律案に対し、附帯決議を付して賛成の意見を述べるものであります。  本法案が四十年以来、長年にわたって慎重に審議されてきたことは、本法案がいかに重要であるかを物語るものであります。特に交通事故は平均三十八分に一人の死亡者が出ており、四十八秒ごとに一人のけが人を出しているという実態であります。国民の日常生活における恐怖としては、交通事故が一番にあげられるのであります。わが党は、人命尊重の立場から、人命軽視の風潮を抑止する一助となり、交通事故に対する人身事故への注意を喚起するとともに、交通事故防止の一環となることを期待するものであります。しかし、刑罰の強化によってのみ人命が守られるとの考えは持っておりません。したがって、本法案成立後の施行にあたっては、その適用は特に慎重でなくてはならないことは当然であります。  政府は、人命尊重を第一として、また、本法案は事故防止の一環であるがゆえに、慎重に事態の重要性を認識して 交通安全対策に対する総合的な施策を早急に講ずるとともに、労働条件の改善にも努力することが必要であります。また、現在の交通安全施策は不十分な状態であり、これに対し、抜本的機構、計画、予算措置を実施すべきであります。  さらに、交通事故における加害者の家族もまた被害者であります。被害者の救済制度は整備されつつありますが、加害者の家族は事故によって悲惨な生活を余儀なくされる場合も少なくありません。国家が加害者の家族の救済制度を設けることを強く要望するものであります。  以上をもって本法案に対し賛成の討論を終わります。
  192. 北條雋八

    委員長北條雋八君) 他に御意見もないようでございますが、討論は終局したものと認めて御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  193. 北條雋八

    委員長北條雋八君) 御異議ないと認めます。  それでは、これより採決に入ります。  刑法の一部を改正する法律案を問題に供します。本案に賛成の方の起立を願います。   〔賛成者起立〕
  194. 北條雋八

    委員長北條雋八君) 多数と認めます。よって、本案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
  195. 青田源太郎

    青田源太郎君 ただいま可決されました刑法の一部を改正する法律案に対して、各派共同提案による附帯決議案を提出いたします。  提案趣旨にかえまして、附帯決議案を朗読いたします。  刑法の一部を改正する法律案に対する附帯決議案  (一) 政府、なかんずく検察及び警察当局は、第二百十一条の法定刑の加重が、主として自動車の無暴運転による悪質重大な交通事犯に対処するためであることを銘記し、いやしくも同条違反の罪に対する科刑が一般的に重くなるようなことの絶対にないよう、改正趣旨の徹底に努め、その運用には特に慎重を期すべきである。  (二) 政府は、交通事犯による行政処分(身分上の処分を含む)に当っては、違反事実及び過失の認定を慎重に行ない、当該事犯の刑事裁判の結果を勘案する等、一般善良な運転者の権益の擁護について十分に配慮すべきである。  (三) 政府は、速かに陸海空にわたる総合的な交通安全基本法を制定して、国、地方自治体及び企業経営者の責任を明確にするとともに、道路の改良、安全施設の拡充、交通教育の徹底、交通労働者の労働条件の改善向上、そのための関係監督機関の要員確保等あらゆる交通安全施策を一層強力に推進すべきである。  (四) 政府は、将来刑法の全面的改正を行なう場合においては、今回の第二百十一条の法定刑の改正の効果を慎重に考査し、同条の罪に対する自由刑の長期及び懲役刑について、刑法全体の立場から実情に即して再検討すべきである。  (五) 飲酒運転によって、しばしば悪質重大な自動車交通事犯が発生している事例にかんがみ、政府はドライブイン等における運転者への酒類販売の規制について、速かに有効適切な措置を検討すべきである。右決議する。  以上でございます。何とぞ各位の御賛成をお願い申し上げます。
  196. 北條雋八

    委員長北條雋八君) ただいまの青田君提出の附帯決議案を議題といたします。  青田君提出の附帯決議案に賛成の方の挙手をお願いいたします。   〔賛成者挙手〕
  197. 北條雋八

    委員長北條雋八君) 全会一致と認めます。よって、青田君提出の附帯決議案は全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。  ただいまの決議に対し、赤間法務大臣から発言を求められておりまするので、この際これを許可いたします。赤間法務大臣
  198. 赤間文三

    国務大臣赤間文三君) 刑法の一部を改正する法律案につきましては、長日月にわたりましてきわめて熱心に御討議をいただきまして御可決をくださいましたことにつきまして、厚くお礼を申し上げます。  これが運用につきましては、たびたび申し上げましたとおり、慎重に行ない、万遺憾のないようにいたしたい考えであります。  なお、ただいま可決をいたされました附帯決議につきましては、十二分にその趣旨を体しまして、これが実現に努力をいたす考えであります。まことにありがとうございました。
  199. 北條雋八

    委員長北條雋八君) なお、本院規則第七十二条により議長に提出すべき報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  200. 北條雋八

    委員長北條雋八君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後八時四十五分散会