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政府委員(川井
英良君)
前回に御
質問をいただきまして、答弁を次回に譲らせていただきました点が数点ございますので、本日冒頭に答弁をさせていただきたいと思います。
第一点は、先般の美濃部知事に対する一部の者の脅迫等の事実について検察庁としてどういうふうな
措置をとっているか、こういう点でございます。東京地検にさっそく照会をいたしましたところ、当面担当の警視庁と緊密な連絡をとって、警備はもとよりのこと、刑事事犯と目されるような凶悪事犯につきましても鋭意慎重な
検討を進めていると、こういうことでございました。なお、この種事件の当面の担当は何と申しましても警察関係でございますので、検察庁といたしましては、当面担当の警察官と十分に連絡をとりまして、この暴力ないしは脅迫等の不正事犯というふうなものについての刑事的な責任の追及ということについて、今後も引き続き遺憾のないように努力をする覚悟である、こういうふうな
報告でございました。
それから次に、
刑法仮案の問題について御
質問がございまして、私その当座の記憶で大正十五年に仮案ができたというふうな
趣旨のことを御答弁申し上げたわけでございますが、その後資料に基づきまして
検討いたしまして、正確を欠いている点がございましたので、この機会にあわせて
説明をさせていただきたいと思います。
大正十年に臨時法制
審議会に対して刑
法改正の諮問がなされまして、大正十五年にその臨時法制
審議会は答申をいたしまして、刑
法改正の綱領を発表いたしたわけでございます。で、この臨時法制
審議会の大正十五年の
改正の綱領に基づきまして、翌
昭和二年からこの原案起草
委員会が司法省の中に設けられまして、
改正綱領を基本といたしまして刑
法改正予備草案の作成に従事いたしました。間もなくそれが、予備草案が完成いたしまして、その後
刑法並びに監獄
法改正調査
委員会の手にこれが移されまして、引き続き
検討をいたしました結果、総論、各論のすべてにわたりまして仮案ができましたのが
昭和十五年のことでございました。
昭和十五年に仮案というかっこうでもって一応公表されたわけでございます。ところが、その後間もなく第二次大戦に突入するというようなかっこうに相なりまして、この
刑法も、仮案は発表になりましたけれども、全面的な刑
法改正事業というものは一応そのまま中止と申しますか、そのままの状態に置いておかれまして、あとは引き続きその仮案の中から当面必要と思われるものについて一部
改正の事業が数回にわたって繰り返されたというのが、この
刑法仮案の発表の経緯の概要でございます。
それからなお、問題になりました失火罪の刑の引き上げとそれからまた業務上失火並びに重過失失火の新設が
昭和十六年の
改正で行なわれたのにかかわらず、二百十一条のほうの人身に対する重過失致死傷罪が
昭和二十二年になって初めて設けられた、その経緯についての御
質疑がございました。これは、その当時の
提案理由その他につきまして一応調査をいたしましたので、ごく簡潔にその概要を御
報告させていただきます。
要するに、
昭和十六年というこの社会の
状況は、戦争が始まるないしはすでにその戦争に入ったときのことでございまして、いわば個人の私益よりは
一般の公益的なものが非常に優先するというふうなかっこうの
考え方が非常に強かった時代でございますので、現行憲法が施行されてすでに二十年たっております今日から
考えますというと、まことに不合理な
考え方のように思いますけれども、当時の情勢からいきまして、この財産罪に対するものについての、経済的な価値あるものを消滅するというようなことについての非常に大きな要望というふうなものから、三百円でありました失火罪が千円に引き上げられ、同時にまた業務上並びに重過失失火罪というふうなものの新しい類型の刑罰が新設されるというふうなことになったわけでございますが、片やこの人身に対します過失致死傷の罪におきましては、単純な過失致死はすでに罰金千円以下の法定刑がございましたけれども、この重過失致死傷罰について業務致死傷罪と同じような刑罰のところまで引き上げるというふうなところまでは思い及ばなかったというのが、今日から見まして
アンバランスと思われるものの実態のようでございます。なおその後、戦争が終わりましてから後に、新憲法が施行されるということに対応いたしまして、公益、私益の
考え方が大きく変換をされまして、個人の尊厳をもととし、特に人命を尊重するということが第一と
考えられる新しい倫理観念というふうなものが優先してまいりまして、
昭和二十二年の大
改正のときに、二百十一条の中に重過失致死傷を設けると、こういうふうな経過になったようでございます。なお、御
承知のとおり、泉二先生の本など研究いたしてみますというと、すでにそのころ、重過失失火罪を設けながら、二百十一条のほうに重過失致死傷罪を設けないというのは不合理ではないかというふうな、学説の面ではっとに
指摘のある文献もあらわれております。そういうふうな点を考慮いたしまして、二十二年の
改正の際にあらためて重過失致死傷罪が二百十一条のほうに設けられたというのが、今日から
考えてみましてそのいきさつの概要でございます。
なお、その他一、二点、統計についての御
質疑で留保したものがございますので、あらためて刑
事課長のほうから、配付申し上げてある資料に基づきまして、簡潔に御
説明申し上げたいと思います。