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参考人(井上孝君) 井上でございます。
私は、戦後、戦災復興事業を手始めといたしまして、長い間、
都市計画に携わってまいりました。今回、
都市計画法改正のことを伺いまして、これは新しい
都市計画の基礎を定めることである、という強い印象を受けておるわけでございます。わが国の
都市計画には、さまざまな問題が山積いたしております。その解決は、国民生活にとって、いずれも焦眉の急と思われるものであります。で長い間、この
都市計画法をどうするかというこの宿題を、現在新たに出発させようというその
意味におきまして、私は、この
都市計画法改正は、その着手がおそきに失する非難はあっても、早過ぎるということはないと思うのでございます。
私は、この新しい
法案を拝見いたしまして、全体の結論といたしましてまず申し上げますと、やはりできるだけ早く成案を得られまして、そして実施に移すべきではないかと、こういうふうに私は感じた次第でございます。しかしながら、複雑で変転がはなはだしい、いわばこの生きもののような
都市というものの将来の姿というものを、何らかの形で
法律的に取りまとめていくという、これは非常なむずかしい問題でございます。したがいまして、私は、できるだけ早く立ち上がるべきではあるけれども、その進め方は、漸進的でいろいろと実態に即して、少しずつ切り離していかなければならないものではないかと、こういうふうに思うのでございます。
都市計画というものがいわゆる近代
都市計画として現在の
日本に行なわれ始めまして、たとえば明治二十一年の東京市区改正条例、それから大正八年の
都市計画法と、これはそれぞれ八十年あるいは五十年以前から、またその後長い歳月を経て進められておるものでございます。その間の経過を振り返ってみますと、いずれもまず東京、あるいは大
都市というところでこれが試みられ、そうして次第にそれが地方の中核
都市あるいは市町村に及んでいったと、いわばその姿がやはりこの新しい
法律に対しても
考えられるべきではないかと、そういう進め方に学ぶべきではないかと、こういうふうに
考えるのでございます。
新法の
一つの大きな特徴は、
市街化すべき区域とそれから
市街化を押える区域とをはっきりきめまして、そうしてこれに従って
都市建設を指導していこうという、こういう
考え方に
一つの特徴があろうかと思うのでございます。このような
考え方は、戦後たとえば東京都の区部の戦災復興事業に関連いたしまして緑地
地域というものを東京都区部の周辺に設ける、これによって東京都の市街地が無制限に広がることを防ごう、こういうような
考えからこの制度が出てまいり、あるいは首都圏整備
委員会のこの
計画というようなものにも、そのような
市街化をどうするか、あるいは
市街化を抑制するべき区域をきめようというようなことを問題として取り上げておったわけでございます。しかしながら、いつの段階におきましても、これは非常な困難がございまして、そうして首都圏整備
委員会でも、最後までそれがはっきりした形ではまとまっておらないように思うのでございます。で、こういうふうな経験から、今後有効な施策ということを、いままでの経験を踏まえまして、やはり進めていかなきゃならないと、こういうふうに思うのでございます。で、新法の現在の
市街化区域と
市街化調整区域を定めるという問題の最も私はむずかしかったと思われますのは、この
考え方だけでこの制度というか、
計画を実現しようと思って
考えたところにあるのじゃないかと思うのでございます。やはりほかの施策がこれに伴って、交通
計画でございますとか、それぞれの市町村の
計画でございますとか、いろいろのものがやはり一体となって
一つの目標に向かって合一しなきゃならなかったと、こういうことがあるいは欠けておったのではないかと思うのでございます。
そのことは、新法の最もむずかしいと思われますこの地価、
土地の値段というものに対してどういうふうに
考えるかという、この問題についても私はあらわれてくるのではないかと存じます。全体といたしまして、現在のような形で野放図に市街地の発展を認めていくということについては、何らかの対策が要るに違いない。対策をしなければならない段階であるということは、私もよく認めるわけでございます。またそれを制限することによって地価が著しく
市街化する
部分について騰貴するかどうかという点につきましても、私、衆議院におけるいろいろな御議論も読ましていただきましたが、これにつきましても、極端に地価がつり上がるのでもなかろうという、そういう皆さまのお
考えも私は認めるものでございます。しかしながら、この
法律だけで地価の問題、あるいは
土地の問題が片づくということではございません。私は第二次大戦直前にイギリスのバーロー・レポートというレポートがございますが、このレポートが、その後二十年以上のイギリスの
都市計画のいわば基本的な
考え方として重んぜられてきたということを想起するのでございます。このバーロー・レポートは、大
都市に
人口が集中することに対してどういう不利な点があるかということを調査した報告書でございますが、その報告書をさらに検討してまいりますと、農地に対してしからばどうしたらよいか、あるいは
土地の問題についてどうしたらよいか、あるいは工業についてどうしたらよいか、というような問題が起こってまいりまして、それらの問題につきましては、その後
一つ一つさらにこまかい調査報告書が出ました。そして、あるいはその
考え方を踏まえまして、ロンドン
地域の大きな
計画、具体的な
計画というものもつくられたわけでございます。そして、それらのいろいろな議論のまた
一つの結論といたしまして、新しい
都市計画法がイギリスに生まれ、そして工業を適正配置する工業配置法というようなものもでき、さらに新しい
都市、いわゆるニュー・タウンというものを建設するような、そういう
法律もつくられ、そしてそれに従って
都市計画も運営されておるわけでございます。私は、このバーロー・レポートをいまだにこのイギリスの
都市計画家が引用いたしまして、バーロー・レポートではこう
考えておる、その後新しい事態もございまして、いろいろと間違っておったところもあるように思われますが、なおかつ
一つの報告書に基づいてその後のいろいろな施策が長く続けられ、そしてそれがまた横にいろいろと対策を広められたという、このことが私は今回の
都市計画の新しい
法律に対しても
考えられるべきではないかと思うのでございます。それは、
宅地制度審議会から始まりまして
宅地審議会に至るまでさまざまの議論が、あるいは私はこのバーロー・レポートに当たるものではないかと、そして、それに応じてこの
都市計画法というものがいまや生まれつつあるのであろう、こういうふうに私は
考えるわけでございます。しからば、それから先、地価の問題、あるいは工業の配置その他いろいろな
法律が、すでにできておるものもございますが、やはり一貫したこの対策というものがとられ、そしてそれと同時にそういう
考え方が長く続かなければ、とてもこの大問題は解決できないのではないかと、こういうふうに私は
考えるわけでございます。必ずしもすべてのものがそろわなければそれで対策が立たない、というものではないと思うのでございます。
都市計画法がまず第一の布石といたしまして、あるいは建設省の御関係の
法律もあろうかと思いますが、それ以外のいろいろな対策というものがまたこれと軌を一にして進められなければならない。これが私どもこの
法律を拝見いたしまして一番強く
考えた点でございます。
それからさらに、これに関連いたしまして若干の私といたしまして
考えた点を申し上げたいと思います。
第一は、この新
法律には、七十四条でございますか、受益
負担の規定がございます。私は、
都市計画のいろいろな問題に携わっておりまして、この
都市計画事業をやることによって非常な得をした人がたくさんおって、そしてその点については何ら手が打たれておらないという点に、やはり
一つ非常なもの足りなさを感ずるのでございます。七十四条のお
考えが、あるいはその全体をカバーするものではないかもしれませんが、私は、
都市計画事業によって利益を受けた、その利益に対してどうするかと、これは、海外の
都市計画におきましても、公共の投資を公共に返せということが非常に強く言われておるように思いますが、この点にもひとつ御注意をいただきたいと、こういうふうに思うのでございます。
それから、第二番目といたしましては、これはこまかい課税のシステムでございますが、税金をとられる基本となる値段と取引される値段というものにあるいは若干の差があるのではないかと、こういうような点につきましても
考えたいと存ずるのでございます。
それから第三番目には、これは主として
道路でございますが、
道路を建設いたしますと、それに応じてその沿道に新しい
開発が進められます。そういう
開発が進められることによりまして、その
道路が次第にこまかく出入りする車両のためにいわば死んでくるわけでございます。著しい例を東京の周辺で申しますと、たとえば大宮、浦和を通る街道筋でございますが、古い街道から国道ができ、さらに国道が一ぱいになって産業
道路ができ、産業
道路がさらに詰まって、また最近の大宮バイパスというものができるというような形で、
一つの
道路にあまりにもこまかい交通までがぶら下がるという、こういうことは、やはり、
公共投資のむだではないか、沿道に対する制限というようなこともあろうかと思うのでございます。
それから第四番目といたしまして、
都市整備ということが非常に言われておりますが、たとえば
道路整備あるいは河川の整備、国鉄の整備というようなものに比べまして、私はやはり
都市整備の財源に対して、何らかのくふうが要るのではないか、こういうふうに思うのでございます。環境整備のための財源というものが、全体といたしましてはあるいは多少乏しいのではないか。公共事業の一部を新しい
開発者は
負担しなければならないということがございますが、住宅公団ですら大きな団地に対しては国の補助を、地方公共団体による
道路事業というか、街路事業というようなものに依存しなければならないというような点もございまして、私はそういう
都市を総合的に整備するためには、どうしても
都市整備のための財源を確立する必要があるのではないか、こういうことを
考えるわけでございます。
それから第五番目に、この新しい
都市計画がいろいろと進み出しますにつきましては、それを実際に担当する、
法律の運営に当たられる人、あるいは
都市計画を技術でつとめる人、そういういわゆる仕事を担当する人々がはたしてこの新しい体制に対して間に合うものであろうか、という問題があると思うのでございます。これは
日本だけでございませんで、
都市問題に対する世界的な
一つの傾向でございますが、そういう仕事に携わる人をどういうふうにするかという、こういう問題でございます。
それからその次に第六番目でございますが、これはこの
法律のたとえば二十三条前後でございますか、関係機関との
調整ということが掲げてございます。これがはたしてこれだけうまく
調整ができて、そうして総合的な
計画ができるであろうか。ただいまの担当の衝に当たられる公務員の
方々その他も
考えあわせまして、この
調整の仕事というものは、非常に大きな仕事になるのではないか、さらに原案の第六条に書いてございます基礎調査の中で、将来の市街地の見通しという条項がございます。こういうような見通し、いわゆる基礎調査でございましたら、これは比較的この形式どおりに私はできるかと思いますが、将来の見通しを立てるという
意味においては、これはやはり
相当関係する機関も多かろうかと、そういうようなことに対して何か
一つのそれを受けとめる機関というか、組織というか、そういうものが要るのではないかと、こういうふうに思うのでございます。これは私は
都市計画に従事する人々を強化すると同時に、
都市計画の機構そのものをやはり
相当強化しなきゃならない。先ほど申しましたイギリスのことを思い返してみますと、
都市計画に対する
一つの新しい省が生まれたというような事実もございます。しかしながら、これは
日本は
日本なりのことを
考えなけりゃならないと思うのでございますが、少なくとも経済的な
計画というものと、それから社会的な
計画という経済を基礎とした
計画と、それから社会福祉を基礎とした
計画とを二つ取りまとめて、この施設としてこれを打ち出すということ、これは
法律の一番初めにも書いてございますが、そういうことができるような場所である。これはおそらく私は
道路をはじめといたしまして、水を取り扱う、
道路を取り扱う、あるいは住宅を取り扱うというそういう国土建設のこの全体を、さらにその中で
計画の見通しを立てるという、そういうような機構が必要になってくるのではないかと、こういうことをこの
法律を拝見いたしまして、私は感じたのでございます。
地価の問題という、
土地の値段の問題ということ、それから関係のいろいろな機関とのむずかしい
調整というこの二つのことを
考えましても、なかなかこの
法律ができまして、それからそれが理想に目ざして進んでまいることは私はむずかしいことであろうと思います。しかしながらこれはむずかしいからやらなくてよいということではなく、従来その対策がなかったために非常に大きな損を国民にかけておったんではないか、こういうふうに私は思うのでございます。今後のこの新しい布石の一番初めのものとして、私はこの
法律が成立し、そして今後の対策に期待しておるものであります。こう申し上げたいと思うのでございます。