○阪上
委員 私は、
日本社会党を代表し、ただいま議題となっております
政府提出の
昭和四十三年度総予算二案に対しまして反対、加藤清二君外十三名提出の
昭和四十三年度予算を撤回のうえ編成替えを求めるの動議に対し賛成の討論を行なうものであります。
なお、この際、民主社会党及び
公明党よりそれぞれ提出されております
政府予算に対する編成替え要求動議につきましては、にわかに賛成しがたい点もありますので、やむを得ず反対の表明をいたします。
さて、
政府の
昭和四十三年度予算の致命的な欠陥は、何よりもみずからの失政によって招いた国際収支の赤字と財政の行き詰まりを
国民生活の犠牲により打開しようとする態度であります。そしてそこには、深い反省がないばかりか、むしろ誤りを指摘されたものが往々にしてたどるところのいたけだかな態度となり、
佐藤内閣は最近とみに高圧的な姿勢をとり、
アメリカの核のかさとドルのかさのもとに対米従属と大衆収奪の様相を露骨にあらわしたのであります。そして、このことを反映したのがこの予算であり、明らかに正面切って
国民に挑戦するところの反動予算であるといわざるを得ないのであります。このことはこのたびの
政府の予算編成に明らかになっているのであります。
申すまでもなく昨今の内外経済の
危機と
国民生活の貧困に正しく対処するためには、
政府は
国民とともに
うそ偽りのない道を歩まなければならないと思うのであります。すなわち、ここでも
国民的な合意がきわめて
決定的な役割りを果たすものと私は信ずるわけであります。しかるに、今日までの予算審議を通じて明らかになったように、
政府は内外経済
危機の実態をおおい隠し、もっともらしく
秘密文書に籍口して、
国会の審議権を踏みにじり、どこまでも真実から
国民の目を奪う態度に終始したのであります。こんなことでもってこの
昭和四十三年度予算が
国民的合意により祝福せられるものでないことは火を見るよりも明らかだと思うのであります。しかし、幾ら
政府がこの点をおおい隠しても、今日、
わが国が置かれている内外情勢のきびしい現実と、そうしてその生活実感の中から、
国民は、このような
政府の
秘密政策を看破できないはずがないのであります。予算審議の進むにつれて、その馬脚が次々とあらわれ、そのからくりが明白になってきたものであります。
第一のからくりは、国際収支の赤字を解消するために、景気抑制型予算を組んだとしていることであります。しかしその実態は、すでに本
委員会で指摘されたとおり、国立療養所の特別会計移管、あるいは
昭和四二年度における公共事業費の執行繰り延べ額の
昭和四十三年度積み上げ等を考えるならば、四十二年度当初に比べ二0%の膨張予算となり、実質的には、むしろ景気刺激型予算となっていることであります。
一方、ポリシーミックスを導入しての金融引き締めにより、年初以来の公定歩合の再度の引き上げ、銀行の選別融資ないしは窓口規制が強化されて、一そう中小企業の
危機を深め、さらに勤労階層の生活を圧迫する結果を招いたのでありますが、景気過熱の真犯人である大企業の設備投資は野放しとなり、引き締め効果は一向にあがっていないのであります。その上
政府は財政法の都合のよいかってな解釈により、予備費、繰り越し明許費、国庫債務負担行為等の執行を無制限に拡大し、かつ、しようといたしております。この
政府の意図は、憲法の保障する財政民主主義のたてまえをくずすところの戦前の緊急財政措置に類する行為であり、特に国庫債務負担行為の乱用は、明らかに将来にわたる
防衛関係費を増大し、核
安保体制を強化するものであって、アジアと
日本の平和を脅かすものであり、
国民と憲法の断じて許さないところであります。
次に、第二のからくりは、財政硬直化という俗説を唱えて、公共投資、ことに
国民生活に密着する公共事業を抑制し、一方、受益者負担の名のもとに国鉄運賃その他の国、地方を通ずるところの公共料金の値上げを強行して、
国民負担を増大しようといたしておることであります。
今日のいわゆる財政硬直化は、当然増経費の増高により、新規政策財源が不足するといういわゆる財政そのものの硬直化ではございません。もしそうだとするならば、地方財政こそここ十数年来硬直化しているのであります。今日の国の財政硬直化の実態は、自民党政権の高度成長政策のもとでの物価値上がりによって代表されるところの各般の行政の硬直化であり、さらには圧力団体等の予算ぶんどりによって代表されるところの自民党
政府の政治の硬直化であります。これを、ミクロに見るならば、資産所得優遇、大企業保護の税制のために、
先ほど北山君からも申しましたとおり取るべきところから税を取っていないからであります。そして、直接には景気の見通しのつかないままにフィスカルポリシーを導入し、巨額の国債発行をし、放漫な財政運営を行なってきた
政府・与党及び官僚の姿勢の硬直化であるとも言えるのであります。
政府は、国債依存率を下げたと称しておるのでありますが、相変わらず六千四百億円もの国債を発行し、おまけに地方自治体から四百五十億円の借金をし、われわれの要求である減債計画のめ
どもつかない
状態であります。
さて、
わが国は、いまや交通化の激しい渦巻きの中にあります。これに対する対策は何よりも急がなくてはなりません。過密、過疎対策の急所は、とりもなおさず公共投資であります。見せかけの公共事業の長期計画では役に立ちません。しかるに
政府は、過密、過疎の題目だけを唱えて、むしろ公共投資を抑制しているのであります。これはわれわれの断じて納得するところではありません。一体、いまごろになって
政府が財政硬直化対策を打ち出してきた理由はどこにあるのか。それは国債政策の破綻と、きびしい国際経済情勢に対処するため、
国民負担の増大により、大がかりな資本蓄積、
海外援助、軍事力拡充の体制を立て直すことにそのねらいがあるのであります。
第三のからくりは、減税一千五十億円であります。
この所得減税は、酒、たばこの増税により差し引きゼロであるといわれているところのものでありますが、しかしこれは勤労者にとってはゼロではなくして、逆に実質的な増税であるということであります。確かに国庫収入はとんとんである。しかしながら、
国民は国庫で生活しているわけではない。所得減税といっても、物価値上がりの中で、名目所得の増加に伴い、税金は急激に高くなっていくのみでありまして、来年度は物価調整減税すら採用されなかったのであります。しかも四十三年度の租税特別措置は三千百五十億円に及び、その穴埋めとしての酒、たばこの増税と見るならば、これは明らかに大衆の課税によって、高額所得者の減税をまかなうものであり、減税財源の大半は、所得税を納められない低所得者層の負担となるのであります。
このような増税と一連の公共料金の値上げによりまして、
政府の言う四十三年度消費者物価上昇率を四・八%にとどめることはもはや困難であり、
政府が、みずから立てた経済社会発展計画の最終年次の消費者物価上昇率三彩の目標に逆行するものでありまして、したがって、これは
政府の物価安定の公約に違反するものであります。
第四のからくりは、いわゆる補正なし予算ないしは総合予算主義であります。
この総合予算主義は、もともと財政法の
原則であります。それをいまさら麗々しく持ち出したのは、公務員給与の引き上げを、人事院勧告が出ても予備費計上のワク内で圧縮しようとするものであり、消費者米価につきましても、補正なし予算でスライド制を押しつけようとしていることであります。このことは、とりもなおさず将来における所得政策導入の条件を整えようとするものであり、また米価審議会の編成がえと相まちまして、食管制度の
原則を骨抜きにしようとする意図はきわめて明白であります。
第五のからくりは、地方財政の好転説であります。
今日の地方財政は、国以上に硬直化している。すなわち懸案の行政事務の再配分は一向に進まず、数多くの国の委任事務を押しつけられ、公共事業の超過負担額に悩まざれ続けているのであります。一方、急激な都市化に伴う都市再建対策や地域開発対策を思い切って打ち出すこともできず、そのため
国民は過疎の弊害と過密の弊害に悩み抜いておる
状態であります。一時的に歳入が多少よくなったからといっても、地方公共団体は地方債の現債額四兆円をこえる始末で、地方財政はようやく借金でもってまかなっている現状であります。ましてや、その歳出の貧困を見ることなく、いたずらに単年度収支の帳じりをつかまえて黒字だとか赤字だとかの論をなすことは、全くこれは誤りであります。
いまや地方公共団体は、憲法二十五条が保障するところのナショナルミニマムを確保することは不可能といっても過言でありません。ましてや、それの基準を引き上げることはとうてい考えられないのであります。そのため地方公共団体では、最近住民意識がだんだんと薄れ、コミュニティーは崩壊し、民主主義の基盤はまさに失われつつあるのであって、おそるべき事態に直面いたしておるのであります。しかるに
政府は、財政硬直化を理由に地方交付税率を引き下げようとしたり、四十三年度では交付税の法定額を四百五十億円も削減したり、あるいはまた二百五十億円の地方債の繰り上げ償還を交付税特別会計の中で強要するなど、地方交付税制度の根幹を危うくしようといかしておるのであります。また実質国税減税ゼロを肩がわりしているのは、七百億円にのぼる地方税の減税であります。しかしながら、何らその減価を補てんしようとする措置をとっていないのであります。かつて私
どもは
戦時体制の中で、富国強兵の国家観のもと、戦費調達のため、極度に地方財政が圧縮され、臨時軍事費が
国会審議無用でのさばり、
国民生活の犠牲になったこと、及び中央集権制が強化されて、固定化した事実を体験したのであります。われわれは、この四十三年度予算がその同じ道をたどる端緒となり、
秘密保持の名のもとに、
防衛費が
国会審議無用でまかり通り、その累増によって再び地方財政が圧縮され、財政中央集権制が強化されて、そのため
国民生活が犠牲になることは断じて許してはならないことだと思うのであります。
われわれはこの四十三年度予算について、以上、五点のからくりを指摘したのでありますが、こればかりにとどまることなく非核三
原則の問題、
沖繩返還問題、ベトナム問題、日中覚え書き貿易問題、課徴金問題、円
防衛の問題等々、各般の重要な問題が山積いたしておるのであります。一昨日来、ロンドン金市場は閉鎖されるという異状な事態に突入いたしておるのでありまして、内外の情勢は、まことにきびしいものがございます。
日本はこの情勢に誤りなく対処しなければなりません。そのためには、これらの重要問題についてのそれぞれの
国民的合意が不可欠であります。一党、一
政府の力だけではどうにもならないのであります。言うまでもなく、この
国民的合意への道は、まず
日本国憲法の完全
実施であります。ところが
政府・与党は、
倉石発言に見るごとく、また
防衛問題に対する
政府答弁、警察官職務執行に対する
政府答弁等々、ことごとに憲法軽視の態度がちらつくのであります。このようなことでもって
国民的合意などはとうてい得られるものではありません。
国民的な合意が得られないような予算案を、
日本社会党は承認するわけにはまいらないのであります。
政府・与党は、この際、憲法を尊重し、議会制民主主義のもとにおける政党の政治責任というものを自覚して、与党としての姿勢を正すことにより、内外政策を根本的に転換し、この
昭和四十三年度予算を撤回するとともに、社会党の編成替え動議に基づき、この予算案を組みかえることを強く
主張いたしまして、私の討論を終わる次第であります。(拍手)