○佐野進君 私は、
日本社会党を代表し、ただいま提案説明のありました
海外経済協力基金法の一部を
改正する
法律案につき、
総理並びに関係各大臣に質問いたします。
近年、発展途上国と先進国との経済的格差はますます拡大しつつあり、この格差を減少せしむるため、経済協力の拡充が要請されつつあることは世界的趨勢であります。
わが国も
アジアの先進国の一員として、その国力に応じ、相互の自立経済達成のため、有効なる援助を行なうことは、だれしも異存のないところであります。
しかしながら、今回提案された基金法の
内容並びにその背景を見るに、この目的と著しく相違し、
アメリカの強い要請に基づき、そのドル
防衛に協力し、
アジアにおける
アメリカの経済援助の肩がわりと軍事的協力国の結束を強化するためのものであり、
わが国内経済の現状において、国力以上の援助であり、今日まで多く指摘されたむだと腐敗をさらに拡大しようとしております。しかも、今回の
改正案は、その目標をインドネシア援助に向け、賠償供与以後露骨にあらわれているインドネシアに対する
わが国の非効率な援助をさらに繰り返さんとしております。特に、本
改正宝がもし可決されるとするならば、現在行なわれつつある海外経済援助がますます安易に行なわれることになり、将来ゆゆしい事態の発生が予見さわるのであります。
以下、私は次の四点について質問いたします。
その第一は、
わが国の海外経済協力が、
わが国の自主的条件によるものでなく、
アメリカの強い要請に屈し、核とドルのかさに守られる代償として、ドル
防衛協力と
ベトナム戦争支援の一環として行なわれつつあることであります。
このことは、
佐藤内閣が組閣以来、対米協力の姿勢を強化するとともに、その援助費が飛躍的に増大していることを見ても明らかであります。すなわち、六六年度は政府ベース援助で一億八千五百万ドル、六七年度は三億九千五百万ドルに達し、六八年度は、一般会計から経済協力等二百二十五億円をはじめ、対外債務処理費、財投、輸銀を含め、四千百十八億円の巨額に達し、いまや、
わが国経済に重大なる影響を与える結果となりつつあります。
いま、とられようとしている
アメリカの
アジア政策は、
ベトナム戦争
政策転換に見られるごとく、行き詰まりを来たしているが、この際、日米共同声明に端的に見られる、
わが国の
アメリカと一体となった経済協力
政策を改めるべきだと思うが、
総理の所見をお伺いしたい。(
拍手)
次に、
わが国の海外経済協力は、外務省が昨年八月作成した試案によれば、一九七一年で十三億六千三百六十万ドルと、毎年激増することになり、さらに再融資をすることになれば、その額は飛躍的に増大し、特にリファイナンスは、血税の乱費となり、国民の犠牲を強要するおそれがあります。外務大臣は、昨年六月、インドネシアに対する再融資に調印したが、今後もこの措置をとり続けるのかどうか、この際、明らかにしていただきたいと思うのであります。(
拍手)
さらに、
わが国の海外経済協力は、
アジアをはじめ中南米、アフリカ等にわたっているが、近接する北朝鮮、カンボジア、中国等、
アメリカの反共軍事協力国以外の国に対してどのような関係を持たんとするのか、この際、明らかにしていただきたいのであります。
特に、中国貿易については、その実績がいまや
わが国経済にとって欠くことのできないものとなりつつあり、西欧先進諸国の積極的進出が行なわれている現在、これとの協力関係推進は焦眉の問題といわれており、政府内においても、吉田書簡にこだわらず、輸銀使用に踏み切るべきだと、積極的な
意見が出ているのであります。
佐藤総理は、いまこそ輸銀使用と日中貿易の拡大を決断すべきときと考えるが、その
見解をお伺いしたい。(
拍手)なお、海外経済協力基金は、これらの諸国をも対象国とするのか、この際、明らかにしていただきたいのであります。
第二点は、海外経済協力の
わが国経済に与える影響とその対策についてであります。
アメリカの輸入制限措置、特恵関税及び国内における国際収支の悪化、公定歩合の引き上げ、金融引き締め等、内外の悪条件は、いまや
わが国の経済に対して重大な危機を与えようとしておるのであります。特に中小企業は大企業の圧迫、人手不足等の条件も加わり、その倒産数も飛躍的な増大を続け、いまや深刻な事態に直面しております。政府が海外経済協力や大企業対策に示した低利長期の資金を使用し、強力なる対策と援助を行なうならば、これら中小企業の立ち直りは決してむずかしくはないと考えるが、その決意をこの際お伺いしたいのであります。(
拍手)
さらに、発展途上国工業のための援助により生産される製品と、
わが国製品との競合についてであります。すでに韓国、台湾、香港等の繊維、雑貨等と、
わが国製品との競争が激化しつつある現在、今後これらの国に対する経済協力をどのように行なおうとするか、その対策をお伺いしたい。(
拍手)
第三に、今回の
法律改正は、
アメリカの強い要請により、インドネシア援助のためになされるものであることは、いままでの
佐藤内閣の
発言や行動によってすでに明らかであります。
今日、日本の経済協力については、各界において根本的対策の樹立が強く要望されているとき、ただ一国の援助のみを対象として
法律改正を行なうことは、日本国民の利益を裏切るものであります。(
拍手)本年三月五日、ウィリアム・バンディ南
アジア担当国務次官補は、下院
外交委員会の聴聞会で次のように証言しております。「昨年、日本は南
ベトナムと百十万ドルの医療援助追加協定を結び、インドネシアに対しては、
アメリカと同じくインドネシアの海外からの援助必要額の三分の一を与えた。われわれは、ことしも日本がインドネシア必要額の三分の一を分担してくれるものと期待している。」さらに、
ジョンソン大統領が二月八日下院に
提出した海外援助特別教書によると、「インドネシアに対する援助を提供することは、確実にわれわれの利益にかなう。」と述べており、さらに、「日本の
佐藤内閣は、
アメリカと同額の援助を負担しようとしており、そのために、基金法の
改正を提案している。」といわれておるが、そのような約束が
アメリカ並びにインドネシアとあるのか、この際明らかにしていただきたいと思うのであります。(
拍手)
次に、三月二十八日来日したスハルト
大統領の日本訪問は、本年度援助額の確認を求めに来たものであり、同行したマリク外相は、帰国後の新聞記者会見において、インドネシア援助の約束について確認をとったと言明しているが、それは事実なのか、また金額は幾らなのか、この際はっきりと
報告してもらいたい。
さらに、大蔵大臣は参
議院でわが党の委員の質問に答え、海外援助に予備費は流用しないと言明したが、補正予算を前提としない本年度予算との関連において、増加分をどこから支出するのか、この際明確なる答弁を求めるものであります。(
拍手)
さらに、インドネシアの持つ債務は、一九六六年六月末現在、二十三億五千三百万ドルの巨額となっており、
わが国の債権は債権国中きわめて少額であるにもかかわらず、債権国として果たした役割りは、債権
国会議以前において三千万ドル、債権
国会議後六千万ドルと四千五百万ドルの再融資で、最高の援助をしているが、その陰に、政財界の策動、特定商社の暗躍があり、この支払いを受けた大手十社の商社が、四十一年七月から四十二年六月まで約九千万円の政治献金をした事実が、わが党の木村政審会長の追求でほぼ明らかにされた。このように海外援助費が黒い霧のもとに
乱用されつつあることに対してどのように措置するのか、この際明らかにしていただきたいと思うのであります。(
拍手)
第四点は、海外経済協力について、
国会の果たすべき役割りと
内閣の
責任についてであります。
現在、経済協力の大きな部分を占める円借款再融資等は、
国会議決事項となっておらず、
国会の権限は政府予算として
提出された資金並びに国庫の配分の審議についてのみであり、その他一切の行為は政府並びに輸出入銀行、海外経済協力基金等にまかされ、その運用をはじめ、対象金額の決定、対象国の範囲の決定、供与条件の策定等はすべて政府の権限に属されております。このきわめて大きい政府の権限と、年々巨額に膨張する援助費に比較し、
国会の権限はあまりにも微弱であります。この点を是正し、経済協力の取りきめはすべて
国会の議決事項とすべきだと考えるが、その所見を承りたいと思うのであります。(
拍手)
さらに、基金法は、第二十条第四号の貸し付けを受ける際、当該輸入につき日本輸出入銀行及び一般の金融機関から資金の貸し付けを受けることができるとしるされてあるが、その認定は、総裁以下少数の理事に一任せられることとなり、第二十三条の次に、その事務の一部を銀行に委託することができる条項とともに、きわめてルーズな運営を許す
改正を行なおうとしております。国民の血税を、物品供与、低金利で使われる道を無限に広げることになるのは、基金法発足当時における審議の
経過と、その後の実績に徴しても明らかであります。かかる
乱用を阻止する歯どめは何によって行なうのか、この際明らかにしてもらいたい。
次に、輸出入銀行との関係であります。基金は、もともと輸銀からその一部を継承し、輸銀の行ない得ない経済協力についてその役割りを分担し、その対象は開発事業と限定し、東南
アジア・中南米、アフリカ等に援助を行なってきましたが、十分なる成果をあげ得ず今日に至っております。今回の
改正によれば、さらに業務が複雑となり、目的が多元化され、開発事業より安易な海外経済協力の方向に力点が置かれることが予測されるのであります。したがって、この際、輸銀との関係を明確にするとともに、その業務の範囲につき、開発事業に限るべきであると思うが、どうか。なお、輸銀は今後物品援助に類する一切の業務を行なわないことときめ得るのか、明らかにしていただきたい。
そもそも、海外経済協力基金は、アイゼンハワー
大統領時代に始まったドル
防衛に端を発しており、
アメリカの金の加速度的流出に対比するがごとく、日本の賠償並びに経済協力が強化されてきているのであります。しかしながら、ポンドショックによる英国のスエズ以東からの引き揚げ、
アメリカの
ベトナム政策の
転換等、
アジアからの撤退が予測せられるとき、
わが国の開発途上国援助に対する視点も、また新たなるものが必要となりつつあります。いまこそ政府は海外経済協力について、法体系の根本的整理、
わが国経済の実情に見合う経済援助、海外経済協力に関する行財政の整理等、地理的、
思想的差別の撤廃、相互互恵、むだと腐敗のない海外協力を強力に推進すべきであり、さらに
アメリカのドル
防衛協力、
ベトナム戦争支援、特定業者の保護、特定国に対する過剰サービスは、この際勇断をもって改めるべきものと思うが、
総理の所見をお伺いし、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕