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1968-04-05 第58回国会 衆議院 懲罰委員会 第6号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十三年四月五日(金曜日)    午前十時三十四分開議  出席委員    委員長 堀川 恭平君    理事 鍛冶 良作君 理事 田中伊三次君    理事 藤尾 正行君 理事 安宅 常彦君    理事 石野 久男君       青木 正久君    井原 岸高君       大坪 保雄君    四宮 久吉君       高橋 英吉君    永山 忠則君       廣瀬 正雄君    森田重次郎君       猪俣 浩三君    池田 禎治君       北側 義一君  委員外出席者         議     員 鯨岡 兵輔君         議     員 穗積 七郎君     ————————————— 四月五日  委員高橋英吉君、曾祢益君及び小川新一郎君辞  任につき、その補欠として松村謙三君、池田禎  治君及び北側義一君が議長指名委員に選任  された。 同日  委員松村謙三君辞任につき、その補欠として高  橋英吉君が議長指名委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  議員穗積七郎懲罰事犯の件      ————◇—————
  2. 堀川恭平

    堀川委員長 これより会議を開きます。  議員穗積七郎懲罰事犯の件を議題といたします。  動議提出者鯨岡兵輔君に対し、質疑の申し出がありますので、これを許すことにいたします。石野久男君。
  3. 石野久男

    石野委員 鯨岡さんにお尋ねしますが、今回の穗積七郎君の懲罰に関して、あなたの所信は、本会議でもまたこの委員会でも承ったところですが、なおやはりこういう一身上の問題に関することですし、特に議員の院における発言に関してでございまするので、この際、議員国会における発言について、これは憲法五十一条の趣旨に沿うて、発言はその信条思想のいかんにかかわらず自由にこれができる、こういうふうに私は思っている。そういう点で、議員発言に関しての鯨岡君の考え方をひとつこの際聞かしておいていただきたいと思います。
  4. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 議員発言は当然自由でなければならぬ。そのことに対する私の所信を述べろというお話ですが、お話にもありましたように、いままでどういう考えを持っていようが、これは自由であるし、そのように考えてやってきたと石野委員もおっしゃいました。いままででなくても、これからもそうだと思います。ただ、院内における発言は、表決その他一切、院外でその責めを問わない、あるいは逮捕されない、こういうふうに特別に扱われておる半面に、当然議員には、憲法でその会議のしかたその他規則を定めて自律しなければいかぬ自律権というものが、学問上もいわれておりますが、私は法律家ではありませんから、詳しいことはわかりませんけれども、常識としても、もちろんそうだと思いますが、自律権というものがあります。その自律権の中に、無札の言動があってはいけない、品位を保たなければいけない、お互い敬称をもって呼ばなければいけない、それに反するときはどうする、というようなことがきまっておるわけであります。言うまでもなく、自由とはいっても、何を言ってもいい、何をしてもいいというものではない。そこにはわれわれが自分できめた規則があるはずである。その規則は守らなければいけない、こういうふうに考えておるわけであります。終わります。
  5. 石野久男

    石野委員 自律上の規則というものはやはり守らなければいけない、そういうことはよくわかります。ただ、ここで聞いておきたいのは、発言内容が、お互いにそれぞれ党派が違い、政治的立場が違えば、おのずから違ってくるわけですから、こういう点で、発言内容について、その議員所信というものが示される場合に、これはその意味では自由だ、それが自律上の院の品位とかあるいは敬称云々の問題で、自律の精神に反してはいけないということは、その限界は非常にむずかしいと思うのです。ただ、私は、ここで聞いておきたいことは、思想信条、そういうものはここでは問わないということを憲法は保障しているし、われわれはそういう権利を持っている。その点については、鯨岡さんもやはりそういうふうにお考えでございますね。
  6. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 この点については、趣旨弁明のときに、相当そのことに心がけて、かなり詳しく申し上げたつもりでありますので、私の趣旨弁明速記録を読んでいただけば御了解がいただけると思います。思想の問題について、これを拘束するなどということは、断じて考えておりません。
  7. 石野久男

    石野委員 これはくどいようですけれども、あなたはやはり趣旨弁明のときに、「重ねて申しますが、私ども提案者は、穗積君の考えておられるその内容を問題にしているのではありません。」、こういうことを言っておられます。そのことをいまもう一度確認させておいていただきたいと思います。それでよろしいですね。
  8. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 はい、けっこうです。
  9. 石野久男

    石野委員 鯨岡さんは穗積さんのことばに対して、これは「驚くべき暴言を吐いたのであります。」、こういうように言っているわけです。で、暴言ということば、これは、議員に対して暴言ということを言う場合の、その暴言内容は何であるかということ、これが一つ問題になってくるわけです。提案者である鯨岡さんは、穗積さんの言ったことば暴言と言われたあなたの認識というものは、どういう点にあるのですか。
  10. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 私は言語学者ではございませんから、暴言というそのことばを言語学的に解明する知識を持っておりませんことをまことに残念に思いますが、ただ、客観的に考えてみても、どう考えてみても、あの売国者というふうに相手をきめつけるというようなことは、はなはだしい暴言であると、私の常識では考えるわけであります。したがいまして、話は前後いたしますが、そう考えたからこそ、私は懲罰提案者になりました。また、私と同じように考えた方が四十名——もっといたかもしれませんが、とにかく四十名というのが規則ですから、四十名いたわけです。そこで、これが暴言であるかないかという御判断は、委員先生方におまかせをするわけでございます。ただ、申し上げておきたいことは、客観性と申しましたが、そのとき総理も、売国者とは何か、失礼じゃないか、こういうふうに言い返しております。失礼じゃないよ、こうまた穗積議員は言われております。これをもって見ても、やはり相手売国者と言われたときには、言われたほうはきわめて侮辱を感じ不愉快を感ずる、そういうことばである、こんなふうに考えます。
  11. 石野久男

    石野委員 いま鯨岡さんから、そのときの発言の問題について、総理ことば、それからそれに対する穗積さんのことば、こういうようなものの引用がありましたが、われわれがここで、特に懲罰などというような一身上の問題に関連することを論議するにあたって、きわめて大事なことは、院におけるところの発言を信憑化する議事録は、きわめて大事な討議資料だと思いますし、本件についても、その議事録がきわめて大事なわけですね。その議事録が、現在まだ私の手元には来ておりません。私は、この議事録のことについては、あと外務委員長にもおいでいただいて、お聞きしたいと思っておりましたが、鯨岡さんは、そのことははどこからどういうふうに——懲罰のもとになる穗積君のことばなり何なり、どこからとってきたのですか。
  12. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 これは私が自分で聞いておりましたから間違いはないですし、また、私の答弁の限りではありませんが、どういうわけか、いまだ正式な速記録は出ておりませんが、仮のものは、ここに懲罰委員会参考資料として出ております。これにも明らかに書いてあります。
  13. 石野久男

    石野委員 仮印刷物の中に言っていることは、こういうことですね。穗積さんは「そんなばかなことがありますか。あなたは売国者です。」、こう言っているのです。それに対して総理は「それで売国奴ですか、そんなことで……。何を言われる。失礼じゃないか。」、こう言っているわけですね。これはいわゆる議事録じゃないですよ。総理は、売国者ということばを使っていないで、売国奴ということばを使っているのです。だから、穗積さんの言っていることと、それから総理の受け取っていることばとは違うのですね。そういうことは、鯨岡さんは議事録の上で確かめていらっしゃいますか。
  14. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 確かめております。
  15. 石野久男

    石野委員 確かめておる……。鯨岡さん、私がこういうことば使い方をなぜやかましく言うかというと、発言問題が一身上の問題になってきているわけですよ。それでそのことばを、総理穗積君のことばを聞き違えてとらえているわけです。  そこで、きょうはまだここに議事録はない。この懲罰問題を取り扱う場合の議員発言について、それを裏づける議事録のあるなしという問題はきわめて重大だと思います。この際、懲罰動議を提出した鯨岡さんが、その議事録についてはどういうふうに考えておられるか、その所見だけをひとつ聞いておきたい。
  16. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 前もって、これはお答えになるかどうかわかりませんが、私はその場におったのですから、きわめて明瞭にそのことを承知いたしております。間違いはありません。そこで、議事録というものはどうあるべきかということは、私ここでお答えする範囲ではありません。それまでの知識を私は持っておりません。だがしかし、ここに、この権威ある懲罰委員会資料として出てきたものは、これまた議事録と間違っておるものではないというふうにも思います。これは別に学問的根拠があって言うわけでも何でもありません。
  17. 高橋英吉

    高橋(英)委員 ちょっと関連して。議事録の問題が問題になっておるようだけれども、たとえば、吉田総理懲罰になった、ばかやろうというふうなのは、議事録にはっきり載っておるか載っていないかわからないわけでありまするし、それからまた、乱闘事件なんかというものは、ほとんど議事録なんかに載っていないわけです。記録の上には載っていないわけです。これは直接の目撃者によって懲罰に付せられるというようなことですから、売国者というのは、もう常識で、何もそのことばの解明なんかの必要もないので、あまりこう……。
  18. 石野久男

    石野委員 現に議事録がない中で、この懲罰委員会が行なわれておるわけですよ。だけれども、やはり議事録というものの重要性をいまここで聞いておるわけであって、われわれはそういう問題を一応ちゃんと認識する中で、議事を進めていきたいと思う。だから、他日議事録の問題が当然問題になる場合にもあるし、しなければならない。そういう意味で私は聞いておるわけですから、いまここで、議事録がないから審議を中断するとかなんとかいうことは言っておりません。そういうことは、お互い理解し合わないといけないと思っております。議事録の存在というものは審議の上で非常に大事だということを前提として、いまその議事録にかわるべきこういう記録印刷がありますから、一応これにたよって進めていくのだということを理解することがきわめて重大だから、私はそのことを聞いておる。議事録がなくてもいいわけではない、やはりなければならぬのです。だけれども、いまはいろいろな都合でこういう事情になっておるということは、どうしてもはっきりしておかなければならない。他日委員長に対し、そういうことを確かめなければいけないと思っておりますが、話を先に進めます。  いずれにしても、議事録が出ていない。けれども、鯨岡氏をはじめとして、当時そのことを耳にした者が、売国者というものに対して、それが暴言であるということから、この懲罰動議が出ておるわけです。そこで、懲罰に付せられた穗積氏が、本会議においても、またこの本委員会における一身上弁明においても、この売国者ということば使い方について特に付言をして、私は決して鯨岡たちが言われておるような罵倒するという意味発言したのではないということを、理路整然と説いておるわけです。この暴言といった内容が、結局、国会法の百十九条の無礼のことばを用いたとか、あるいはまた敬称を使わなかったということで話が進んできているわけです。  ところが、その売国ということば意味について私はいろいろ辞書を引っぱってみた。辞書を引っぱってみると、売国奴ということばがある。売国奴ということば、これは明らかに罵倒するという意味を持っている、こういうふうに辞典には書いてあるわけです。だけれども、売国者ということばは、率直にいって、実はいまどの辞典を引っぱってみても、ちょっとないのです。これは穗積君が言うように、愛国者ということばを、佐藤総理ドゴールの話を引用して使われた。そのドゴールことばを、私はいまだに忘れられないでおると、こういうふうに佐藤総理は言っておるわけです。そういうたてまえから、佐藤総理愛国論を説き、あるいは防衛論を説いておられたわけです。それに対して穗積さんは、売国奴ということばをことさらに避けて、意識的にその愛国の反語として、対語として、売国者ということばを使ったと、こう言うわけです。この穗積さんの言い分というものを、鯨岡さんはどういうようにお受け取りなさいますか。
  19. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 その穗積さんの言い分をどう考えられるかは、まことに失礼ですが、それは先生方が御判断することだと思いますが、せっかくのお尋ねでございますからお答えをいたしますと、ことばというものは、これはもう石野先生十分御承知のように、その場の雰囲気その他から相当左右されるものであろうと思います。そこで、はたして売国者といい、売国奴といい、いずれにしても、そのことが非常に失礼であり、無礼であると、相手に不快の念を与えたというように受け取ったか受け取らないか、そういう普遍妥当性があったかどうか、それが私はむしろこの際問題だと思います。その発言があったとたんに、売国者とは何か、何を言うかというやじが飛んだのと同時に、前段も申し上げましたように、失礼ではないですかと、問われた佐藤総理も反論をしているところをもってみても、そのことは決して通常のことばではない。やはり罵倒としか受け取れない、私はそういうふうに考えるのであります。考えたなればこそ、こういう動議を提出し、賛成者も、そういう気持ちになってくださったわけであります。重ねて申し上げますが、その考えは、その場の状況から見て無理な考えであったかどうか、それは先生方の御判断にまかせる以外に方法はありません。
  20. 石野久男

    石野委員 議員国会における職責を果たす任務の問題について、しばしば国会品位ということがいわれておる。国会品位を保つということについて、私の感じでは、議員は、感情にとらわれないで、客観的な認識に基づいて、それぞれ考え方の違い、思想信条の違いがあって、理論は対立しましても、それは常に私情にとらわれない、感情にとらわれない、感覚的ではない、それは常に客観的な認識というものの上に立って国事に参加するというのが、これが国会品位を保つ、われわれ議員の最大の心がけなければならない問題だ、こういうように思っておるのですが、鯨岡さんは、その点についてどういうふうにお考えになりますか。
  21. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 全く同感であります。
  22. 石野久男

    石野委員 だとしまするならば、われわれは議員発言については、感情にとらわれてはいけない。正しくそれを理解し合わなければいけない。その理解の中で、懲罰なら懲罰に値するような内容があるかどうかということを私たちは見つけ出さなければならないのだと思うのです。鯨岡さんは、われわれはこういうように思ったから、皆さんに考えてほしい、こういうことを言っている。鯨岡さんは総理ことばを引用し、あるいはまた、「売国者とは何だ、取り消せ」というやじが出たということを唯一の根拠にしておられる。正式な議事録はありませんが、ここにあるこの記録によりますと、別の印刷によりますと、総理は「それで売国奴ですか、」こう言っているのですよ。これは明らかに穗積さんの言っている、「そんなばかなことがありますか。あなたは売国者です。」と言っている、その売国者というのと売国奴というのとは違うのです。受け取り方の違いがあります。私は先ほども言いましたように、辞典を引っぱってみると、売国ということばはいろいろあります。これはとにかく自分利益のために自国の不利になることをすることとか、あるいは自分利益のために自国の内情や秘密を敵に通報することとか、いろいろ国に不利になるようなことを、大体売国といっているわけですけれども、穗積さんは前段でずっと述べてきて、佐藤首相の言っている白紙論というものが、それが主権をみずから放棄するものであるという意味で、国を売るという、こういう見方をしてきたのだということをるる述べております。辞典では、売国奴というのは、売国の行ないある者をののしって言うことば、こう書いてある。ののしって言うことば売国奴といっております。者ということばは、この売国ということを行なう者、こういうふうになると思うのです。行なう者ということの認識は、政治家としては、当然取り上げてしかるべき客観性を持った認識であります。当然言ってしかるべきことばだ、私はこう思うのですよ。これは鯨岡さん、総理であってもだれであっても、私たち国事に参画して、この国の独立考えていく、この国の平和を考えていく、この国の国民生活の安定を考えていくという立場に立てば、国民生活の安定を阻害するとか、あるいは国の独立を危険におとしいれるという場合には、その者に対し、非愛国者として、売国者として敢然と立たなければならない任務を課せられている、こう思います。そういう点については、鯨岡さんはどういうようにお考えになりますか。
  23. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 この国の安全、この国の平和のためには命がけで戦わなければならない任務を帯びているという、その点については全く同感であります。
  24. 石野久男

    石野委員 そのことを、われわれが議会で発言することは間違っておりますか。
  25. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 間違っておりません。
  26. 石野久男

    石野委員 私は、鯨岡さんも言われるとおり、議員が他の議員に対して侮辱をするとか、あるいはののしるとかいうようなことをすることによって国会品位を下げるということは、これはやはり慎まなければならぬことだと思います。けれども、この国が今日置かれている課題に直面して、自分たちのありたけ考え方、ありたけの行動を通じて、国民に奉仕するということは、当然やらなければならぬことだ、こう思っておるわけです。穗積さんの言ったことばは、時間もあまりないことですから、前段からこの記録を一々読むことはいたしませんけれども、おおよそのことを言いますと、とにかく沖繩に対する総理白紙論というものは、それは沖繩が返還されることによって、かえって日本の国から遠ざかっていく結果になりはせぬか、日本の国に近づいて、日本の国土の中へ、いわゆる領土の復帰という、そういうものになるんじゃなくて、逆に遠ざかっていきはせぬかという心配から、こう論じてきているわけです。そうしてそういうたてまえから論を展開する中で、特に基地自由使用という問題は、これは非常に危険じゃないか、これは国の主権の一部分を失うことになりはせぬか、みずから放棄することになりはせぬか、こういう設問をしているわけです。総理大臣たるもの、この国の領土を守るということについて、だれよりも真剣に考えなければならぬと思う。この国の独立を確保するために真剣に考えなければならぬ、こう思います。穗積さんがそういうことを聞いたことに対して、総理白紙でございます。こういうことを言っている。その前に、穗積さんはこういうふうに尋ねておる。この印刷によりますと、「それで、返った以後、」——返った以後というのは沖繩が返った以後、「B52、ポラリス潜水艦の立ち寄り、または寄港は禁止でございますね。当然でございますな。特例はあり得ませんね。」ということを、これは白紙論に対して、沖繩日本に返ったあとでは、B52とかあるいはポラリス潜水艦の立ち寄りなんというものは、そんなものは当然許すべきじゃないという国の自主権をここで言っているわけです。それに対して総理は「そういうあらゆる場合を考えて、白紙だと、ただいま申したのです。」こういうわけですよ。そこで穗積さんは「それまで白紙ですか。」と言っているのです。それに対して佐藤内閣総理大臣は「はい。」と答えているわけです。私はこの段階——もしここまでの論理を展開しておる立場からすれば、この段階で、穗積さんが売国者ということばを使わなかったのはたいしたものだと思う。おそらく私だったら使います。だけれども穗積さんは、この段階のときでもこう言っているのです。「非常に危険なものでございますね。」こう言って、そこで一応打ち切ったわけですよ。そのあとまた聞いていったわけです。そのあと聞いていって、今度は事前協議の問題をずっと聞いていったわけです。事前協議の問題について、四条の規定と六条の規定の解釈のしかたについて、従前行なわれてきたいろんな例を引かれまして、事前協議という問題の重要性を説いてこられた。重要性を説いてき、そしてずっときたあとで「沖繩の返還の場合に、基地自由使用の問題が出ておる。これは事前協議の免除であります。そのことは、言うまでもなく、主権の重大な部分である作戦並びに戦闘並びに外交権をアメリカへ白紙委任をすることである。さきのドゴールの言うとおりだ。」——ドゴールの言うとおりだというのは、結局他国に核のキーを預ける、こういうことになるんだ、こういうふうに言って、そういうことはいけないじゃないかということで、あらためて佐藤さんにまた聞いているわけですよ。ところがやはり佐藤さんは、いや、「私は、白紙でございますから、ただいまの穗積君の御意見、よく記憶にとどめることにいたします。お話を伺っておきます。まだ白紙でございますから……。」こう言っておる。だから穗積さんは「そんなばかなことがありますか。あなたは売国者です。」こうきたのです。だからいま鯨岡さんたちが言われるように、穗積さんがただ憎しみを持つとか、あるいは侮べつ感を持って、懇意的に、総理に対して売国者ということばを使ったんじゃない。むしろ前段段階で、もうすでに売国者ということばを使うべきであったかと私は思う。そういう段階であったけれども、それは「非常に危険なものでございますね。」ということで押えて、なお総理に対して、わが国の総理大臣という任務における責任感、その信念を問うための質問をした。それにもかかわらず総理の反省がない。それはまさにドゴールの言う愛国的な立場でない、キー他国に預けるということになるから売国者だ、こういうように言ったというこの穗積さんの心情というものについて、鯨岡さんは、それは非常に間違っているというようにお考えになりましょうか。
  27. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 その考えておられることについて、いい悪いは別です。賛成、反対は別です。それは穗積先生考えとして、理解はします。それからまた、そういう考えを持っている人が穗積先生のみでないことも、われわれは知っております。るるその間の事情を御説明になりましたけれども、私は、その内容のことを言っているのではないということは、再三にわたって申し上げているところであります。これを、たとえばかつての総理、総裁というものが、ばかやろうと言って大問題になったことがございます。しかし、ばかやろうと言わざるを得ないような事情がその人にあったかもしれません。そのこととは別に、ばかやろうと言ったことばが無礼なことばであり、品位を汚すということで問題になったことは御承知のとおりであります。したがいまして、るる内容について御説明がありましたけれども、そのことは、私としてはそんなに重要に考えておらないわけであります。
  28. 石野久男

    石野委員 そういたしますと、結局問題になるのは、鯨岡さんが言われるように、内容は問題にならないのだ。内容は、それはいい悪いは、穗積君の発言は自由なんだから、それでよろしい。問題は品位の問題だ。売国者ということばを使った議員品位の問題だ、こういうことになるわけでございますね。  そこで問題は、国会議員品位国会品位、こういう問題について、われわれ今後いろいろ発言をしなければなりませんから、こんなことでたびたび懲罰にかけられてはしようがありませんから、この際、鯨岡さんが国会品位、議院の品位というものの要素を、どういうふうにお考えになっていらっしゃるか、この点だけひとつ聞かしておいてもらいたい。
  29. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 非常にむずかしいかつ広範な問題でございますので、一言でお答えできませんが、これまた先日の趣旨弁明の中でるる申し上げましたように、われわれは、野党の皆さま全員が、その心に日本の平和を願うこときわめて切なるもののあることを信じます。だが同時にまた、皆さまのほうも、総理はじめ与党の全員が、きわめて切に日本の平和を願っていることを疑ってもらっては困ります。そこでお互い日本の平和を願うということですが、その日本の平和を願うための方法はどういうことかということになりますると、方法には幾種類もございましょう。そこで、そこに意見が分かれるわけであります。意見が分かれているからといって、その目的を疑うようなことを、あるいは平和に対する敵であるというようなことを言うということは、相手の人格を無視するものである、こう言わざるを得ません。そういうようなことをもし言えば、売りことばに買いことばと世俗いわれているとおり、何を言うかというので、また同じような暴言相手に投げ返す。かくして国会は秩序もなく混乱をしていくであろう。そういうことは、やはり国民が期待している国会品位を保つゆえんではない、こう考えるのですが、いかがでございましょう。
  30. 石野久男

    石野委員 私は、国会で平和を論議することもとより大事でございますから、平和の問題について、いま鯨岡さんのおっしゃられたように、それぞれの意見があるということからくる混乱というようなものが出てこないようにすべきだと思っておりますけれども、国会品位というのは、それだけじゃないと思うのです。
  31. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 もちろんそれだけじゃございませんよ。
  32. 石野久男

    石野委員 基本的には少なくとも、今日の国会は、憲法に基づく立憲の議会である。だから、憲法というものは、国会運営の中で最も重大な位置づけを持っておるものだ、こういうように私は思うわけですよ。その点は、鯨岡さんも同じでございましょうね。
  33. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 全く同感であります。
  34. 石野久男

    石野委員 そういう憲法に基づいて、議員国会運営をしていく、これは議員だけじゃなくて、行政府にある諸公も、総理大臣以下、みな憲法に基づいて、国会と三権分立の立場で、やはり行政的な処置をする、こういうふうに私は見るべきだと思いますが、その点についてはどうですか。
  35. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 全く同感でございます。
  36. 石野久男

    石野委員 私たちは、先ほどもちょっと申しましたけれども、国会品位というのは国の独立——これは総理も、完全独立を確保しなければならないということをここで言っておるのですが、国会でもまた、完全独立に対して議員は真剣に考えなければならぬ、こう思いますが、それはどうでございますか。
  37. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 まあ同感であります。
  38. 石野久男

    石野委員 まあ同感だというのだけれども、その場合、議員憲法に基づいて国の独立を論ずる場合に、ことばだけは非常にすばらしいことを言って、しかし事実はそれと違うという場合に、議員はそのことをなじる、そのことをとがめる、そのことに対する反省を求めるということをすることは、当然の権利だと私は思いますが、いかがですか。
  39. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 そういうことは、現在の日本にないと私は思いまするけれども、もしあれば、そうでございます。
  40. 石野久男

    石野委員 ないと思うことの問題についての認識の相違は、また論議しなければなりませんが、しかし沖繩返還の問題で、穗積氏が総理を論難する過程で、沖繩返還に、核つきあるいは基地自由使用、こういうような問題がくっついたままで沖繩が返還される場合は、国の自衛権とか国の主権というものは、侵害されるじゃないか、というたてまえをとって立論をされたわけですよ。これは議員としては当然の論理だと私は思うのですが、いかがですか。
  41. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 私も沖繩特別委員であり外務委員でございますし、そのことについては、私の見解がございます。しかしここで、私はそれを論議すべき場所ではないと思います。
  42. 石野久男

    石野委員 論議すべきじゃないという、確かにそのよしあしは論議しなくてもよろしいのです。ただ問題は、議員として、そういう発言をするということは、議会の中では当然じゃないかということを私は聞いておる。
  43. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 沖繩の施政権が完全に返還された場合に、基地のあり方がどうであるべきかということを発言するのは、言うまでもなく当然のことであります。
  44. 石野久男

    石野委員 私は、国会品位を保つということのために、あくまでも議員感情にとらわれてはいけないと思うのですよ。理性に基づいて、発言は常に客観性を持っていなくてはならぬと思うのです。そういう意味合いで、ことばの持つ意味というのは非常に大事だと思います。そしてことばというのは、一、二の人がこう考えるということと、大多数の人がこう考えるという場合、対立した場合には、大多数の人々の考えることに従うのだろうと思うのです。それからまた、私たちことばについては、学校で教わった解釈や、辞書というものがありますと、そういうものにたよって、ことばというものを解釈して使っているわけですね。先ほども私が申しましたように、一つのことばには、事実を事実として述べる場合と、語気鋭く、憤りを込めてののしるとか、罵倒するとかいうことばとがあります。私はその場合に、同じ場合でも、事実を事実として述べる場合と、ののしって述べることばとの使い分けは、当然なされていると思うのですよ。鯨岡さんは、そういう点についてはどういうようにお考えですか。
  45. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 お尋ねの意味がちょっとわからないのですが、もう一回お願いいたします。
  46. 石野久男

    石野委員 たとえば、辞書を引くと、先ほども言ったように、売国ということばの解釈があります。同じく辞書の中には、売国奴というものに対する解釈があります。そして売国ということについては、国の利益をそこなうというような具体的な内容がずらっと並べてあるわけです。それから売国奴ということについては、先ほど言った、売国の行ないある者をののしっていうことば、こうあるわけです。ののしっていうことば、それが売国奴なんです。売国者ということばは、確かに辞書ではなかなか見つからないです。穗積さんも言われているように、日本には韻を踏む対語というのがある。愛国者ということばがあれば、それに対して売国者ということを言うのは当然のことなんだ。奴ということばを使えば、それはののしったことばになる。総理に対してののしったことばは使いたくないという、一瞬の気持ちがあって、そして対語として売国者ということばを使った、こう穗積さん自身も一心境を述べておられる。  事実上、私はこの印刷をずっと読んでみて、議事録はどういうふうに違っている知りませんが、明らかにその配慮は、明瞭、明確に出ているのですよ。この事実を、鯨岡さんたちは恣意的に、感情的にとらえちゃいけないと思うのです。私は、賢明な鯨岡さんたちは、おそらくそういうこともなかろうと思いますけれども、しかし印刷をずっと見てきた感じからすると、やはり穗積さんの言おうとしている真意を、皆さんは誤って取り上げているのではなかろうか。総理もやはり誤って取り上げていますね。穗積さんは、そういうふうに非常に理路整然といろいろと説いてきて、そして総理に対する敬意を込めて、しかし総理の持っている考え方に対する反対の立場を、売国者ということばで言ったわけですよ。それを総理は勘違いをして、「それで売国奴ですかと」、こういうように奴ということばで取り上げているのです。これは印刷が間違っていると思いません。確かに私もそこにおって聞いたのです。だから、これは明らかに錯誤の取り上げ方をしているわけです。こういう錯誤に基づいて、議員発言を論議するということは、これは今後の大きな悪例となるのではなかろうか。同時にまた、議員発言の自由というものは、その点でそこなわれてくるのではなかろうかというように私は思うのでございます。鯨岡さんたちはそこまで御検討なさったかどうか知りませんけれども、やはり将来のことを考え、あるいはまた議員発言に対する権威というものを考えてまいりました場合に、こういう誤られた取り上げ方というものがあると、非常にまずいと思うので、そういう点について、いま一度、私がいままで申し述べたような点についての鯨岡さんの所見を、ひとつ聞かしておいていただきたい。
  47. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 石野先生のお許しをいただいて、ちょっと承りたいのですが、先ほど申し上げましたように、言語学的なことは、私はほとんど知識がございません。御熱心に売国ということについて字引きを引っぱって御勉強のようでありますが、売国というのはどういうことですか、ちょっと……。
  48. 石野久男

    石野委員 売国ということばは、私が調べてまいりましたのが三つ四ついまありますから、申し上げましょう。  岩波の、新村さんの広辞苑によりますと、「自国の内情・秘密を敵国に通じ、または自国に不利で敵国の利益となることを企てて私利をはかること。」、これが売国。それから、保育社の新辞源によりますと、「自分利益のために、自国の不利となることをすること。」、角川の漢和中辞典には、「自分利益のため、自国の内情や秘密を敵に通報する。」、それから冨山房の大日本国語辞典、これによると、「自国の内情・秘事を敵国に通じ、又は自国の不利にして敵国の利益となることを企てて私利を図るもの」、それから三省堂の広辞林によりますと、「自国事情を敵国に通じ、又は本国の不利にして敵国の利益となる事を企つること。」、こうあります。  ここで一言だけ、私はつけ加えさせていただきたいことは、これに対して、売国奴というのは、こういう売国の行為のある者をののしって言うことばだ、こういうことになっているわけです。ののしって言うことば穗積さんは、ここでいう売国ということばを使うについては、いつも言っているように、この場合の穗積さんは、佐藤総理ドゴールと話し合いをする中で、愛国者の真情をドゴールがうたった。ドゴールは、自国独立を守るために敵国に核のキーをゆだねるようなことは私は絶対にしないんだ、私はこの国を愛するからだ、こう言われた。穗積さんのそれ以前における質問等を通じて受け取れることば、それからまた、一身上弁明によることから理解しますと、穗積さんは総理沖繩返還等についての発言基地自由使用だとか、あるいはまた事前協議の問題についての考え方というものは、国の自主性を失うものである。それはドゴールの言うキーを敵国にキーを渡すのと同じじゃないかというふうに受け取っているわけですね。そういうような意味で使ったものだと私は理解している。
  49. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 先ほどの御質問にお答えをいたしますが、決して私どもは感情的に、石野先生、とらわれてやっているのではない。とっさに、もうそのことばが出てきたとっさにこれを取り上げたのならば、あるいはそういう御懸念を抱かれてもしかたがない。そうでないのです。一日おいて——提案理由の説明でも申し上げましたように、一日おいて次の日に、十一時間余にわたって、このことは、穗積先生にも来ていただいて、これは困るではないかということをるる申し上げたのです。それは穗積先生一身上のことにも関係するからとの理由から、秘密理事会を開いて、これは申し上げましたとおりでございます。したがって、十一時間余にもわたって、四回も休憩してやっていることですから、決して、感情にとらわれてやったというふうにおとりになられては、はなはだ迷惑をするのであります。  そこで、売国者という——奴と言おうが者と言おうが、私に言わせれば、あるいは御反論になるかもしれませんが、その場の空気からいえば、取り上げる感じというものは、ほとんどひとしい場合もある。このことを一つ御理解を願いたいと思う。それなればこそ、その場合のことばはちょっとうまくなかったなということは、その理事会においても、詳しくは、私は秘密理事会ですから申し上げられませんが、社会党の方も言っているんです。適当ではなかった……。それから公明党も民社党の方も言われておるわけです。またテレビ等におきましても、社会党の代表の方は、国会討論会で、私だったらこう言うというようなことを言われておる。以上のことから、少なくとも、適当なことばではなかったということだけは、社会党並びに公明党、民社党すべての方がお認めになっているところであることを御理解をいただきたいと思うわけであります。決して感情的になって言っているのではない。売国奴と言わないで売国者と言ったといいますが、そのときの雰囲気その他からいえば、これはまた適切な例ではないかもしれませんが、ばかと言おうが、ばかやろうと言おうが、そこのところは、そのときどうであったかということは、私はさして問題にはならないのではないか、こう思うのです。  それから次に、石野先生せっかく御研究でございますので、お教えをいただきたいと思いますのは、あらゆる辞書を熱心にお引きくださって、売国とは何かということを御研究のようですが、いま御開陳のあったところを承りますと、これは自分利益のために企てるということが主要な要素ですね、売国というのは。自分利益のために企てる。間違って国のために不利をはかった者は売国とは言わないというように、いまの御説明では受け取れた。もしも間違って国の利益を失った者を売国と言うのであれば、戦争中の主要なる人は別として、戦争中に何か人をリードする立場にあった者はみな売国です。国があれで誤ったんですから。これを国民売国とは言わないです。というのは、自分利益のために企てなければ、自分利益のために意識的に企てなければ……。そうしてそれをする者を売国者と言うのであるとすれば、売国者というのは、おまえはこの国の利益をおまえの利益のために売っているではないか、こういうことになるんだと思うのですが、これは私の考えです。お教えいただけたらありがたいと思います。
  50. 石野久男

    石野委員 いま辞書を引っぱりますると、言われるように、自己の利益ということが出ております。しかし自己の利益ということは、国をそこねるということに基づいて出てくることなんですね。それで、総理大臣は、この国の完全独立を確保するために、沖繩の無条件返還は真剣に考えなくちゃならない問題です。真剣に考えなくちゃならないから、やはり自己に損がありましても、国の完全独立のために敢然として戦わなければいけません。自分がかりに相手国、アメリカに若干の知己を得て、その人との対話とか何かの中で非常に不利があっても、しかしそれは国の利益のためであるならば、それは当然敢然として戦わなければならないというふうに私は理解します。自己の利益のためにということは、物的利益だけとは私は考えません。それはやはり物的なものもあれば、あるいは無形のものとしての権威の問題ということもあると思います。総理大臣総理大臣の権威を保つ上に、他国の領袖と話し合いをする、その話し合いの中で、自己の権威を保つということを、国そのものの利益のためにやれば、これはりっぱな総理大臣になるだろう。しかし相手の主張に屈して国の独立をそこねるようなことをやれば、自己の立場を守るためにそういうことをやるのですから、これもまた自己の利益を守ることになるのだと私は思います。  そこで問題は、沖繩がほんとうに完全独立をするかどうかという問題です。完全独立の領域、いわゆる日本領土として戻るか戻らないかということは、この国の利益のためにとってきわめて大事なことだと私たちは思います。沖繩を完全独立さすという、より完全に日本の領域のもとに戻すということに懸命に働くことこそが、ほんとうにこの国の利益のためになるのである。しかしこの国に戻ることができない、むしろ一部基地自由使用だとかあるいは事前協議の問題等について、この国の不利になるようなことをあえてするという、そういうことになれば、これは国の不利になります。同時にそれは、総理として、他国の領袖との間の話し合いの中で取りつけてある自分立場を守るという観点から、白紙論が出てくるとするならば、総理大臣という立場からして、これはやはり売国ということばになってくるだろうと私は理解します。ただしかし穗積さんの場合は、もちろんその点もあったと思いますけれども、より以上に、ドゴールことばに対比して言っているわけなんですね。ドゴールことばは、御承知のように、他国キーを渡してはいけない、しかしいま論議の過程で出てきたところの佐藤総理発言は、明らかにドゴールがかぎを渡してはいけないということをやるんじゃないか、それではいけないじゃないか、こういうふうに言ったわけであります。しかも穗積さんは重ねて言っております。日本にはやはり対語がある。だから白といえば黒、上といえば下、こういうことばがある。穗積さんは、愛国者に対して、愛国ということばの裏のことばは何なのか、それを教えてほしい、こう言っているわけです。  私は先ほどから鯨岡さんにお聞きしておるのですが、あなたは穗積さんが、自分考え方をこの議会で、国のためにという信念に基づいて発言することはよろしい、こうおっしゃっているわけですよ。それで穗積さんは、愛国者ということばの反対のことばをさぐり尋ねたんだ。だけれども、売国奴ということばを使ったのでは、あなた方が言うように、総理侮辱するようになるだろう、こう考えた。そこで愛国ということばの裏のことばとして、売国ということばがある、それで愛国者ということばの対語として、売国者ということばを使ったのであって、決して侮辱をしたり、あるいは総理をけなしたりする意味でやったのではないということを言っているわけです。  だから、この際、私は鯨岡さんに聞きたい。その穗積さんの心情、議員としては、国民に対して政治を行なうにあたって、その職責を果たすために、ことばを通じなければ議事録に載らないのだから、ことばをさがし求めて出したこのことばが不適当であるならば、適当なことばがあるなら教えてくださいと、今度の一身上弁明のときにも言っているわけですよ。いまでもそのことばが不適当であれば改めます、こう言っているわけです。だから私は、そういう穗積さんの心情というものも、鯨岡さんも十分おわかりだろうと思います。もし穗積さんのことばが非常に不遜であるというならば、どういうことばを使いますか、教えてください。
  51. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 私、学識高邁なる石野先生、少し無理した御議論をなさっておられるように思うのです。そこで、せっかく御研究になられた各書店発行の売国という意味は、自己のために企てる、これが目的です。それは国のためにはかっているのじゃなしに、自己のためにはかっている。それは物質的ばかりではないかもしれません。自己のためにはかっている。これが目的であることは、石野先生がお調べになったところが正しいとすれば、これは明瞭です。私はこのことば内容については、申し上げましたように、まことに浅学ですから、わかりませんよ。わかりませんが、せっかくお調べくださったので、私はそう思うのですが、間違えましたらお教えをいただきたいと思います。それが目的です。自分のためにはかるということが目的なんです。私は前段でも申し上げましたように、われわれ国会議員は平和を願っている。国民の中から選ばれてきているのです。何人といえども、日本の平和を願わないものはない。これがわれわれの目的です。石野先生の目的であり、穗積先生の目的であり、微力ですが、私どもの目的でもあります。その目的を疑って、おまえの目的はそうじゃないのだ、おまえのためにはかっているのだ、それて国を売っているのだ——その字引きで調べられたところによりますれば、そうなります。それなればこそ、あのえんえん十一時間余にわたった理事会におきましても、これは適当なことばではないということはお認めになっているのです。それからテレビでもそうですし、野党の方もこれをお認めになっているのです。そのときに、あれは何といったか忘れましたが、社会党の領袖の方があそこで、私ならこう言う——それを私忘れてしまいましたが、何か言われました。そこで、対語対語とおっしゃいますが、白でなければ黒、そういうものの考え方はどうでしょうか。白でなければ黒でしょうか。白でなければ黒でない、灰色もありますね。そこで、白でなければ黒ときめつけることは、事と次第によっては重大な結果を及ぼすことを、私のような浅学なものでも考えなければならないことだと思うのです。  そこで、おまえが穗積さんだったらどう答えるか言ってみろ——私のようなものが申し上げましても、とてもいい答えが出てくるはずはありませんが、私の答えですから、ひとつ気にしないで聞いてください。私は、ドゴール自分の国の平和の安全のキー自分で持った、これは自主的でありまことに愛国者である、その意味からいえば、あなたは自分の国の平和のキーを他のものに渡していると私は思う、したがって、ドゴールの前例を引くならば、あなたは愛国者とはいえない、と言うなら話はわかります。これを、とたんに売国者と言うのでは、これはあまりにも語彙、持っていることばの数は少ない、そういうふうに思うのです。
  52. 石野久男

    石野委員 辞林によると、売国というのは、自国事情を敵国に通じ、本国の不利になることを企てることをいっているのです。「自分利益のため」とか、「私利を図る」ということも解釈されているが、あくまでもその国の不利になるということが主体になっているわけです。穗積さんの場合は、そういう論議をしていない。穗積さんは、ドゴールことばに対して、ドゴールことばをもってすれば、あなたは愛国者でない、こう言うているのです。これは愛国者ということばの対語として、愛国者でないという意味をわれわれが言う場合のことばとしては悪くありませんよ。愛国というものの逆が売国だということだとすれば、愛国者ということばがあれば、売国者を使ってもいいのではないか。売国奴というものと売国者というものの違いをもう少し明確にしなければいかぬと思う。事実を事実として述べるということは、そういう点をもう少し理解し合わなくてはいけないと思います。  だから、ここで、鯨岡さん、私がお聞きしたいことは、やはり議員発言する場合に、侮辱をしたり何かするというような、品位を汚すようなことはしていけないということは、私はそのとおりだと思うのです。たとえば衆議院規則第二百十一条の「品位を重んじなければならない。」ということ、これは私たちもよくわかります。ただ、品位を重んずるということのために、発言ができないことではいけませんよ。自分たち侮辱する意思を持たないで、事実を事実として述べ、論理の結果としてそうなってくるという場合に、それが間違いであるならば、やはり変えなければいけない。変えるということで、適切なことばがあれば変えてもいいと思います。懲罰動議にかけられている本人も、そういうことは甘受すると言っているわけです。だけれども、当時の理論の推移から見れば、当然こうなるのではないかということを言っているのであって、皆さんが言うように、悪意を持ってやっているものではない。ましてや総理が受け取っているように、売国者ということば売国奴というふうに錯覚を持って受け取ったようなあり方は、非常に間違いです。総理も非常に錯誤を起こしております。そういう錯誤の上で論議をするということは、改めなければならぬと思いますが、鯨岡さんに聞きます。  私たちは、やはり間違いは間違いとして当然改めなければいけませんので、論理の推移上それが間違っているということならば改むべきだと思うのです。穗積君が使ったことばでないものを、使ったことばのようにおっかぶせていく、それを強要するというようなことがあってはいけないと思うのです。鯨岡さん、そういうようなつもりで、この動議を出しているわけではないでしょうね。
  53. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 そういうつもりというのは、どういうつもりですか。総理考えですか。それは、総理売国者と言われたのを、売国奴と受けとめた、そういう雰囲気ですよ。それはそこのところでもって違う。文章の場合は大いに違いますよ。しかしやりとりの場合には、売国者と言われたのを売国奴と言われたように受け取るということは、十分あり得ることです。それを後日になって、それは売国奴でない、売国者だと言っても、その場の空気は、石野先生おられたのですから十分おわかりでしょうが、何が売国者だというような不規則発言が出たくらいでありますから、その点は御理解願いたいと思います。
  54. 石野久男

    石野委員 最後に、時間を急がれていますから、鯨岡さんにもう一度お尋ねいたしますが、議会における議事の運び方というものは、あくまでも客観性がなければいけないと思うのです。そのときの感情で事を処してはいけないというふうに私は思っているのですが、その点もう一度、鯨岡さんにお尋ねしておきたい。
  55. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 先ほどもかなり、御理解をいただきたい一念で申し上げましたが、決して感情的ではありません。というのは、もう十何時間も理事会でやったんですから。何とかして——これは委員長でもお呼びになるようなことがあれば、お聞きくださればわかりますが、委員長も、何とかして大きくしないでまとめようというので、かなり骨を折ったんですから、そうしたあげくに出てきたことですから、感情的でなかったということを、十分御理解をいただきたいと思います。
  56. 石野久男

    石野委員 感情的でなかったということについては、何べんかそういうふうにお話があるわけですから、私もそれを理解したい、受けとめたいと思いますが、鯨岡さんは雰囲気ということを盛んにおっしゃられるのです。この雰囲気というものが、われわれの議事の進め方とかあるいは判断の材料として、どれほどの重要性を持つかということです。これは、一身上の問題というような客観的な論議をしなければならない場合の問題として、非常に大事だと思うのです。雰囲気とは、どういうことを軸にして規定するのか。その雰囲気の持つ、理論の正邪についての効果というものはどういうものなのか、ここらはひとつはっきりしておいていただきたい。
  57. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 これはむしろ常識の問題でございまして、博学な石野先生におかれましては、私から申し上げるまでもなく、十分おわかりのことと思いますが、国会の論議は、ややもすれば、目的は同じでも方法が違いますから、そこで議論が白熱化してくることもありますので、白熱化してくるときは、むしろそのときこそ冷静に冷静になって、だんだんだんだんことばまでが白熱するようなことは、厳に慎まなければいけないことだと思います。そういうことを称して、雰囲気と申し上げたのであります。
  58. 安宅常彦

    ○安宅委員 ちょっと関連があるのですが、鯨岡さんに聞きますが、きのう、総理が、ないことにしようと手を振って、そういうしぐさがあったというふうに聞いておるが、あなたは知らなかった。きょうでもまだ思い出せませんか。
  59. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 私は、そのことを知りません。
  60. 堀川恭平

    堀川委員長 石野君、結論をひとつ急いでください。
  61. 石野久男

    石野委員 もう結論に入ります。結論といっても、お尋ねしているわけですから、結論は出ませんが……。  いま雰囲気という問題が出たのですが、ちょうど安宅氏からも話があったように、その当時の雰囲気は、総理が一時非常に激高しましたように見受けられます。あの当時、確かに一時総理は、売国者ということば売国奴ということばに受けとめるほど、雰囲気は非常に険しいものがあったようです。しかし、その直後にまあまあそういうことはないことにしましょうと言って、そうして論議を進めていったわけです。これも一つの雰囲気なんですよ。そういう雰囲気があって、そうして委員長は、あとでよく調査の上善処しますということになったわけです。だから、この雰囲気の問題でこの動議を提出したとすると、私はちょっと感情的だという疑義を持つのです。もちろん十一時間の論議があったということは、そのあとでございます。その当時の雰囲気の問題は、確かに一時双方とも辛らつなことばのやりとりがあったわけですよ。それは穗積さんからすれば、総理の態度というものは非常に売国的だという考え方を、論議の結果として出したわけです。ですから、そういうことに対して、雰囲気がそうだったというようなあなたの動議の提出の基本的な根拠がそこにあったということだというふうに理解してよろしゅうございますか。
  62. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 それは雰囲気のみではありません。先ほど、ことば売国者売国奴ということで、それは違うんじゃないかと言うから、文章にすれば、それは明らかに——後に議論の対象になることになるけれども、それはことばという場合になると、議論の対象にはむしろならないのではないか。それで、せっかくお尋ねですし、私もお答えをしているのですが、それらのことは、どうもあまり私としてはそんなに重要なことではないのじゃないかということで、雰囲気の問題を申し上げたわけでございます。
  63. 石野久男

    石野委員 私は、これで一応おきますけれども、議員発言の自由というのは、一番最初にも申しましたように、きわめて重要でありますし、われわれは、発言があらゆる意味において遅疑逡巡しなくちゃならないような状態に置かれておったのでは、国政に対して思い切り論議を展開していくことはできないと思うのです。そのことばが恣意的であり、あるいは作為的であって、それが著しく他人を傷つけたり、国会品位をそこなう場合は、これはまたとがめられる理由になるかもしれません。一時は暴言を吐いた、そういうふうに思っても、真意をただすとそうではないのだということになってくれば、国会としては、そういう問題についての取り扱い、あるいは動議提出者においても、その取り扱いを当然配慮しないといけないだろうと思うのです。もちろん鯨岡氏は、そういう問題の判断はあなた方でやってくれ、こういうことでございます。しかし動議提出者の考え方というものが、われわれの審議については非常に重要でございますし、またそれを無視しては論議が始まらないわけですから、あなた方が動議を提出したその基本的な立場が、まだほんとうを言うと、議事録もありませんし、どれが信憑性を持つものかということがはっきりしない中で論議を進めているという、きわめて不安定な問題があるのです。そういうことでございますので、動議提出者のみなさんが、当時の気持ちと、その後穗積氏の一身上弁明があり、われわれがこの問題について解明をしている過程で、若干の思い過ごしや、あるいは強調して受け取っているとか、いろいろあろうと思います。そういうときは、おのずから皆さんの動議提出の根拠も若干の変化がくるだろうと思います。そういうことについての配慮を動議提出者としては考えていらっしゃらないのかどうかということだけを聞いておきます。
  64. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 動議を提出する当初から、いまもって私の考えは変わっておりません。変わっておりませんが、この私の趣旨弁明は、これは速記録に載っておりますので、ひとつ恐縮ですが、なお読んでいただきたい。私は、いままで懲罰動議の提出というのはどんなふうにやっているものであろうかと思って、ずいぶん読みました。読みましたが、そこで私の口から申し上げるのはなにですが、その真意はわかる、そのことは十分に申し上げている。これは、いままでの懲罰動議提出にはなかった形式であることを御理解いただけたらありがたいと思います。ただ、真意はわかるけれども、何を言ってもいいというものでもない。石野先生、われわれは規則をつくっておるのですから、自律権というものがあるのです。われわれは何をしてはいけない、これをしてはいけないと、人から強制されたのではない。われわれは自分でつくったのです。この中の秩序を正すために自分でつくったものを守らないということはいけないのではないか、こういうことについての私の信念は変わっておりません。
  65. 石野久男

    石野委員 いま規則をつくっているということで、結局、衆議院規則二百十一条あるいは二百十二条の品位の問題、敬称を使わなければならぬというような、そういう品位の問題についてのことに、また鯨岡さんは戻ってこられたのですが、そうなると、国会品位とは何ぞやということになるわけです。あるいは議院の品位とは何ぞやということになってくる。敬称というのは、辞典を引いてみると、その人の氏名の下に敬意を表することばをつけるというのが敬称なんですね。そういうふうになっております。何々さんとか、こういうことばを使えというのが敬称意味だというふうにいわれている。品位の問題こそが非常に大事なことになるだろうと私は思うんです。国会品位というのは、ただ単につき合いとしての問題ではなくて、議員としての任務を対象的に考える中で、品位の問題が出てくる。国会に対しての議員の責務を遂行するという過程で、品位が保たれていかなければいけないのであって、ただことば使い方だとかなんとかいう問題だけではないと、私は理解するわけです。そういうことから、立憲政治のもとにおいては、まず憲法を守るという立場をとる、そういう中で、公正妥当で、客観性を持っていることを積極的に発言するということが、議院の品位を保つゆえんである、こう思っているのです。したがって、それらのことを通じて、この国の独立と安全と国民の平和的生活というものに寄与するようなことをするのが議院の品位である、私はこう思っております。そういうことをそこなうようなことがある場合は、これは品位を汚すことになると思います。国の独立国民生活安定、平和のために積極的な発言をすることは、品位を汚すことにならぬと私は思っているのです。この見解ははっきりしておかなければいけない。だから、鯨岡さんが言われるその品位の問題について、いま私が申し上げた品位の点の理解が同じであるとするならば、鯨岡さんの言う品位とは何ぞやということになります。あなたの説明によると、ただ雰囲気なんです。雰囲気だけしか残ってこないのですよ。それではちょっと、私は、議事を進める上においてあまりにも不安定じゃないかということで、実は先ほどから聞いておるのですから、率直にひとつ……。
  66. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 石野先生、いま先生は、衆議院規則の二百十一条についてお述べになりました。しかも、それを広義に解釈しておられる。しかし、これは広義に解釈すればいろいろありましょう。いろいろありましょうが、これはいろいろな本を見ましても、これをそのまま率直に、すなおに解釈していけば、議院の秩序に関する規則であります。これは「第二節 秩序」というところの一番冒頭に、二百十一条、「議員は、議院の品位を重んじなければならない。」ということです。ですから、議院の秩序を保つ意味品位です。むしろ問題なのは、国会法百十九条をごらん願いたいと思います。「各議院において、無礼の言を用い、」、こう書いてあります。そこで、どうか簡単にひとつお考え願いたい。私のほうでそんなことを言っては申しわけないのですが、私は、これを無礼の言だと思うのです。無礼の言を用いてはいけないと書いてある。そこで、無礼の言だと思う。これは、きのう安宅先生から、逃げちゃいけないと言われましたが、決して逃げるのではないのですが、無礼の言であるとわれわれは思う。ずいぶん熟慮した結果、そう思う。そこで、先生方は、無礼ではないと思うか、思わないか、それをおきめくださればいい。そういうことです。
  67. 石野久男

    石野委員 問題はやはりそういうところに集約されている。そして無礼の言であるかどうかという点についても、穗積議員は、売国奴と言えば非常に無礼でありあるいは侮辱したことになるだろうというふうに考えた、それで結局、愛国者という反対語として、売国者ということばを使ったのだ、こういうことなんです。それは見解の違いもあるでしょう。しかし、ただ、そういう売国者ということばについても、もっと適切なことばがあればということのお話で、先ほど鯨岡さんからは、あなたは愛国者でないとこういうふうに言ったら、それは無礼の言じゃないのだ、こういうふうにおっしゃられた。愛国者でない、と言うことのほうが、もっと大衆わかりのする失礼なことばのような気がするのですよ。むしろ懲罰問題になると思う、総理大臣に対して。だから、ここらのところは、もう少し動議提出者としても、考慮すべきだろうと私は思います。これはあとでまた、皆さんと相談しなければならぬことばです。私は、疑義を残しておるということを申し上げて、鯨岡さんに対する質問を一応終わります。
  68. 堀川恭平

    堀川委員長 それでは、猪俣浩三君。
  69. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 簡単にお尋ねいたします。  売国者ということばがあまりいいことばじゃないということを前提といたしましても、問題は、このことば懲罰に値する価値あることばであるかどうか、要するに、価値判断の問題だと思うのです。これは正しい、どこまでもきれいなことばだと言い張ることもいかがなものであろうかと思います。ただし、これが直ちに懲罰に値することばであるということにも問題があろうかと思うわけであります。だから、結局は、国会議員懲罰するということから見て、そのことばの価値判断をどうとるかという問題だと思うのであります。ところが、鯨岡さんは「これが懲罰を求めんとする本動議提出の底に横たわる思想の根源は、実にその議会政治の崩壊に対する憂慮にほかなりません。」と、重大な決意をなさった。価値判断、これ以上の重大な価値判断はないのじゃないかと思う。「議会政治の崩壊」だと、こう言う。それが一体正しい認識であるかどうか。たとえば現在の貨幣価値のもとにおいて、五円や十円のものを盗む。しかし、窃盗罪の構成要件に当てはまっているから、窃盗罪として起訴はできます。しかし、検察官がこれで起訴はしないでしょう。それは、価値判断が、起訴に値するほどのものじゃない。理屈を言えば窃盗罪に当てはまるが、価値判断として、これを処罰するに値する行為じゃないという判断のもとに、これは起訴しないでしょう。あなたはいま、検察官の立場に立っておられるので、検察官は、起訴するに至りましたあらゆることについて、法廷で説明し、その証拠を提出する義務があるわけです。そこで、私ども執拗にあなたに質問するのも、その意味であります。あなたは検察官なんだから……。  そこで、まず第一に、これを懲罰委員会にかけられました法的根拠、これはこの動議の中に説明されておりますが、なおまとめて、何法の何条のどこというふうに、御指摘願いたいのです。
  70. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 大先輩であり、法律の大家でもある猪俣先生からの御指摘であります。お答えになりますかどうか、御質問に対してお答えをいたしたいと思います。  これは、私の趣旨弁明の中にるる申し上げましたとおりであります。われわれは憲法五十一条によって「議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。」ことになっております。(猪俣委員「それはわかっています。あなたの動議は何条によるか、罰条だけ言ってください」と呼ぶ)  そこで、われわれは自律権を確立しなければならない。それは憲法五十八条に明記されております。それを受けて、衆議院規則二百十一条では、議院の品位を重んじなければいけない。それから、同規則二百十二条では、議員は、互いに敬称を用いなければいけない。国会法の第百十九条では、議院において、無礼の言を用いてはいけない。それから、百二十条では——これはまあ、この場合、自律の羅列をしただけですから、ここに当てはまりませんが、そういったようなものであります。
  71. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、憲法五十八条、それから国会法百十九条、百二十条、それから、衆議院規則の二百十一条、二百十二条、これが本動議を出した準拠法だということになるわけですね。
  72. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 はい、さようでございます。
  73. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そこで、いま論争がありましたが、国を売る者と言えば、いまあげられた条文に当てはまらぬが、売国者と言えば当てはまる。非常にデリケートですね。そういう非常にデリケートのことを、民主政治を破壊するような重大なことで、憂慮にたえないと言って、あなたは動議を出された。ちっと大げさじゃないでしょうか。いかがですか、あなたの御感想は。
  74. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 石野先生から、君なら何と言うかというお問いがありましたから、あまりいいことばではないかもしれませんが、そう申し上げた。それはことばですが、私は、言語学については、しばしば申し上げますように、そんなに学問はありませんから、適切なことばはわかりません。ただ、なぜ議会政治の将来にわたって非常に憂慮にたえないかといえば、われわれはみんな、日本の国を繁栄させるという目的で、日夜苦労しているわけです。これを疑いません。これは野党の諸君もそうだろうと思うし、またわれわれもそうであることは、何人も疑いを許さぬところであります。ただその方法において異なる。そこで、お互いの目的はそうだということを確認し合いながら、その方法の違い、それを論じ合っていく、これが議会が円滑にいく方法ではないか。自分の手段と合わないからといって、目的までも疑うようなものの言い方をする、無礼な言動を用いる、そういうことになってくると、売りことばに買いことばで、議会が混乱する。その混乱の姿を、今日文明の世の中ですから、テレビ、ラジオを通じて、国民がじかに見る。その結果、国会というところは何をしているのだろうというようになってくると、これは議会政治が崩壊するではないか。そういう意味で、憂慮にたえない、こういうことです。
  75. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 風が吹けばおけ屋が喜ぶという論理がありますが、あなたのその論理を展開すれば、議会政治の崩壊——ところが、国を売るものと言えばいいし、売国者と言えばいけない。まことにぼくはデリケートだと思う。そこで、議会政治の崩壊というと、なるほどあなたのおっしゃる心配もあるでしょうが、言論の自由ということもまた重大なんです。非常にデリケートで、ちょっとした言い方で、懲罰になったりならなかったり、そういうものをみんな懲罰だといって持ち込んできますと、これはまた非常に弊害が生じて、それこそあなたの心配する議会政治の崩壊につながるかもしれぬ。というのは、野党はなかなか容易に発言ができなくなるのですよ。懲罰にかけて処置しようとすれば、与党としては易々たるものだと思うのです、多数党だから。だから、ちょっと気に食わぬことを言うた者は全部懲罰にかけてしまう。こういうことになると、これは議会政治の崩壊につながるのじゃないか。ぼくはそのほうを心配するのです。だから、あなたの心配とちょっと違うのだ。だから、要するに売国者と言ったことばの価値判断をどうするか。あなたのおっしゃるように、議会政治の崩壊につながるというように見るのか、あるいは、品のいいことばじゃないが、このくらいはというふうに見るのか。私どもは、いま言ったように、穗積君の釈明を聞いて、これは愛国者の対句として、売国者ということばがつい口から出たのだというふうに考えられる。穗積君のその後のいろいろな釈明、行動を見ても、そのとおりだと思うのです。しかし、かりに売国者ということばが悪いことばだといっても、これは直ちに議会政治の崩壊につながる重大問題だといって、懲罰に付するということに対しては、どうも首肯しかねるのです。  そこで、なおお聞きすることは、これは国会議長側近、国会法に精通した者に来てもらえばよかったと思うのですが、この懲罰犯というもの、これには全然犯罪意思というものが、つまり自分懲罰に付されるようなことば相手をののしるような意思を持ってののしったという、そういう意思が一体要るのか要らぬのか。普通の刑法犯は、犯罪意思と犯罪行為——故意または過失、これは主観的条件です。客観的条件としては犯罪行為がある。人を殺そうと思って殺したものでなければ殺人罪にならない。ところが行政罰、秩序罰といわれるものの中には、そういう行政の取り締まりの規則に触れただけで、主観的犯意を必要とせずして処罰せられるというのもある。すると、一体懲罰事犯というものはどちらに属するのか。これは議員同士質疑応答しておるのもおかしな話だと思うのだが、私もこれは議論せんがためにしているのじゃなくて、実際ちょっと不明ですから言うのですが、これは一体、穗積君はほんとうに総理大臣をののしる、はずかしめる、罵倒するというような意味で、このことばを使ったのか、あるいは愛国者の反対語として突如として売国者ということばが出て、売国奴と言わないで売国者と言ったのは、ののしる意思はないのだ、だから犯罪意思がないということにもなるのですよ。そうじやない、おまえは犯罪意思があるんだということになると、検察官、起訴した人がそれを証明しなければならない。そんなはずかしめる意思がないのだ。意思があったなら、およそ売国奴とか売国奴めとか言うてやるなら、これははずかしめる意思が客観的に証明されておりますが、ただ愛国者の反対語として、うっかりして売国者ということばが出た、国を売るものと言えばよかったものを。国を売るものと言えば、つまり日本語で言えばいいが、漢語で言うと悪い。そういえばかな話もないと思うのだが、そういう意味で、一体、穗積君にそういうはずかしめる意思があったということを主張なさるのかどうか、そうすれば、どういうことをもってその証拠となさるのか、これをお尋ねします。
  76. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 猪俣先生のおことばでございますが、どうも私、ふに落ちない。国を売るものと言えばいいということは、私は申し上げませんよ。これはちょっと御訂正願いたい。君だったら何と言うかというから——これは言わなかったほうがよかったかもしれませんな、石野さん。だから私は、あなたは愛国者とは言えない、こういうふうに私なら言ったかもしれない、こう答えた。そこでこの点は御訂正を願っておきます。  それから、私は、事は簡単なんですよ。私は専門家でもなんでもないですからね。私の言っていることはきわめて簡単です。一つだけ言えば、国会法の第百十九条に「各議院において、無礼の言を用い、又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない。」、こう書いてあるのです。そこで私は、これは無礼の言だと判断するのです。そこで、価値判断ということですが、価値判断先生方がなさってくれるのです。私はそう思うから動議を提出したのです。これはしばしば言っていることです。
  77. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 価値判断は、もちろん委員会が最後はするけれども、起訴した以上は、あなたはそういう価値があると思って起訴なさった。だからあなたとしては、これはとにかくわが国議会政治の崩壊に通ずる道だ、そこで、これは容易ならぬもので、懲罰に値する、こう思っていなさるのかどうか、そこを聞いているのです。最後に、それがどっちが正しいかは、この委員会判断しますよ。
  78. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 穗積さんの言で、ドゴールの話まで出てきたように、どうか私の提案理由も、前からずうっとお読みいただきたいと思います。これは時間の関係もありますから全部読みませんが、先ほども申し上げましたような事情で、このようにきまったことを、何ら何もしないでじんぜん日を送り、だんだんだんだんこれが普通だというようなことになってくれば、議会の秩序は保たれない。そこで議会は崩壊する。大風が吹けばおけ屋がもうかるという落語の理論も知っておりますけれども、私は必ずしも、そうではないと思います。
  79. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 イギリスの議会あたりでは、そういう侮辱に値するようなことばをちゃんと例示しておって、それを使わせないようにしておるのです。たとえば悪党めらとか、悪党根性とか、間抜け、ロパのようなふるまいだとか、犯罪者というようなことばは使ってはならぬということになっているわけなんです。これらは非常に侮辱を含んだことばです。ただ穗積君が今回使った事情、るる身上弁明でもやっておりますから、繰り返しませんけれども、私どもといたしましては、これは直ちに懲罰に値する言だとは考えられませんが、ことに穗積君自身が、そういう意思はちっともなかったと言っている。あなた方はあったと言う。これはどういう証拠で、あったと認定されるのか。
  80. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 私はあったとは申し上げておりません。そういう意思がない無礼の言であれば、無礼の言とはみなさないというようなことは、この国会法の中では出てきませんから。
  81. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 いま言ったように、だからあなたに聞いているんだ。これは犯罪意思及び行為、そういうものからでき上がっているんだから、この懲罰は、侮辱する意思はなくてうっかりしゃべったものまでも、みんな懲罰に値するのかどうか、そこをお尋ねしているんです。だからあなたがおわかりにならぬならならぬ、研究するなら研究する、しかしこの動議を出されたときは、そこまで考えられたのか考えられないのか。考えられたとするならば、どういう証拠をもって、穗積氏は佐藤総理侮辱する意思が十分あったと認定されたのか、それをお尋ねする。
  82. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 佐藤総理侮辱する意思が十分にあったということは、私はどこでも申し上げておりませんし、また今日でもそうは考えておりません。あったか、なかったか。なかったとも思えません。あるいはあったとも思えません。ただ私は、穗積先生の心情はわかるということは、るる申し上げたとおりであります。
  83. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、あなたは、この懲罰事犯には、犯罪意思を必要としない。要するに、懲罰に値することを知っておりながら、あえてその認識のもとにやった、いわゆる主観的条件というものはなくていいのだ、客観的なことば自身でもって懲罰にできるんだ、こういう根拠に立っておられるんですか。それは意思があったかなかったかは委員会できめてくれなんというのでは、起訴できませんよ。そんなことできますか、あなた。ちゃんと犯罪意思あり、犯罪行為ありということでいわゆる起訴するところの検事が、実はそういう犯罪意思があったかないかわからぬで起訴するといったら、とんでもないことだ。だからあなたは、穗積君が佐藤総理侮辱する意思を持ってやったんだということを、一体どういうところで、何を証拠になされるのか、それをお尋ねしているんです。
  84. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 国会法百十九条、「無礼の言を用い、」云々の条項について、いろいろな本を見ましたけれども、そういう無礼の言を用い、侮べつしようという意思があった場合とかない場合とか、ということを書いてある書物は一冊もございません。したがって、私は常識的に考えて、これは無礼の言である、したがって、きのう安宅議員が言われたように、それは恣意になるおそれはないか、それはあるであろう、こうお答えいたしました。それで恣意であるかどうかということを御判断なさるのは、先生方のほうで御判断していただくほかはない、こういうことをお答えしたのであります。
  85. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 その点、あなたは、穗積氏が侮辱する意思を持ってやったかどうかということは考えておらぬが、ことばそれ自身が侮辱に値するとして、この懲罰動議を出した、こういうことに理解してよろしいか。
  86. 鯨岡兵輔

    鯨岡議員 おおむね間違いありません。
  87. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それではわれわれと非常に見解が違う。いやしくも議員懲罰という重大な事案、本人の主観的意思を抜きにして、しかも売国奴と言ったらはっきりしましょうが、はなはだデリケートな、売国者とわざわざ言っておる。   〔委員長退席、田中(伊)委員長代理着席〕 そのことをとらえて、そうして国会の崩壊に通ずるような論理でこの動議を出されたということは、はなはだ私は遺憾に思うが、それだけ承って、私は質疑を終わります。     —————————————
  88. 田中伊三次

    ○田中(伊)委員長代理 本人穗積七郎君に対して質疑の申し出がありますので、これを許したいと思います。鍛冶良作君。   〔田中(伊)委員会代理退席、委員長着席〕
  89. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 私は、いま穗積議員に質問する前に、昨日の穗積議員一身上弁明のうちに、ただいま問題になっておると同様に見られる不穏当なる発言があったと思います。それを確かめるために、きのうすぐ発言しようかと思ったが、しなかったのですが、昨日、「午後には本会議におきまして、佐藤総理のアメリカ一辺到の従属性から出てくる、民族の期待あるいは国民大衆に対する裏切り、すなわちその政治的売国性について、野党すべてから弾劾を受けようとしておる」、こういうことばがございましたが、私は、今日ここで問題になっておると同様に、ここで使われておることばは、——————、しかしこれはいまここでわれわれが懲罰としてやっておるのですから、それはこの場合でやってもよろしいが、委員長として、これは黙視すべきものでないと心得ますから、委員長において善処していただきたい。
  90. 堀川恭平

    堀川委員長 委員長は、取り調べまして、善処いたします。
  91. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それならよろしいです。そのことをまず申し上げておきます。  そこで、穗積さんに承りたいのですが、鯨岡君もしばしば言われたように、私は、穗積さんのこの間からの議論の内容は、あえて言おうとは思いませんが、どうもあなたの発言を読んでみ、また昨日の一身上弁明等も読んでみましたが、あなたは一人で論理をこしらえて、一人で判断をして、そしてそこで断定をしておられると思うのです。そうは思いませんですか。その一つの事実を申し上げますると、佐藤総理の、沖繩返還交渉について、核つきで返すか核抜きで返すかについては、ただいま白紙の状態だと言った。これは事実でございます。あなたはそれに対して、「核兵器基地を認めることを意味しておる」と断定しておられる。そうして、これは憲法上許すことはできないことだ、ときめつけておられるのでありますが、核兵器を認めるという場合もあり得ることだ、こうあなたは言っておられる。ここまでは私はいいと思う。白紙だというのだから、あり得るけれども、それを直ちに、核兵器を認めることを意味しておる、これはいかぬ、こう言われることはたいへんな論理の飛躍と私は心得ますが、あなたはどうお思いになりますか。
  92. 穗積七郎

    穗積議員 私は、白紙がすなわち論理的に核兵器を認める態度を首相が表明をしたと、断定をした記憶はちょっとありませんが、どこの部分でございましょうか。もう一ぺんお尋ねします。
  93. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それはあなたの質問の部分ですよ。
  94. 穗積七郎

    穗積議員 弁明の中ですね。
  95. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 いや、質問です。あなたの質問においてです。
  96. 穗積七郎

    穗積議員 それは記憶がちょっとありませんね。何というのか、速記録が出てないのですから。もしありとすれば、その言った意味は、白紙だということは、論理的に、核を抜く場合もあり得るし、核つきの場合もあり得るという論理、そういう意味で申し上げておるのです。その速記は速記者の聞き違いかもしれませんし、私は、それほど非論理的な議論を、委員会においてした覚えはございませんから。もしありとすれば、私の間違いであるか、速記者の聞き違いであるか、いずれかであろうと思います。
  97. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 もう一ぺん読みますよ。「沖繩についてあなたが白紙だと言った」わけですね。「核兵器基地を認めることを意味しておるわけですね。そういう場合もあり得ることである。」これはここまでは私はいいと思う。白紙だというのだから、そういう場合もあり得る。ところがすぐそこへいって「その場合に、攻撃性の核、核兵器を置く基地は認められない、これは憲法上許すわけにはいかないという条件」である。それをあなたは、あとへいって……(発言する者あり)とにかくあなたは、これをもって、認めることである、憲法上許すべからざる、とこう言っておられるのですよ。それを私は言うのです。これは論理の飛躍ではありませんか。
  98. 穗積七郎

    穗積議員 それはいままで……   〔発言する者あり〕
  99. 堀川恭平

    堀川委員長 御静粛に願います。
  100. 穗積七郎

    穗積議員 私が、総理または外務大臣等に、委員会におきまして質問をしたことが幾たびかございます。したがって、私の論理としては、白紙がすなわち核つきを認めるものであると断定をした記憶はございません。もしそれが、速記がそういうふうになっておるとすれば、私もう一度調べまして、私の間違いであるか、速記者の聞き違いか書き違いか、いずれかであると思いますが、そう断定をしたものであるとすれば、言ったか言わないか記憶がありませんが、もしそうであるとすれば、その文章は論理的に誤りであります。正確ではない。
  101. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それならばわれわれはいいと思うが、あなたは断定しておられる。  それから、総理はすべていまのところ白紙ですとこう言っておられるのですよ。そういうことは、いよいよ話をする場合の事情によってやるのだ、こう言っておるのだから、あなたが言われるように、そんなものは核つきで返してもらうのですと、そんなことを一つも言ってやしないと思うのですが、あなたが、もしそういうことがあるとすれば間違いだと言われるならば、それ以上は私は言いません。この速記録には、そのように書いてあります。その点、あなたはそこまで言ってくださるならば、われわれはあえてそれ以上は言いませんから、善処せられんことを望みます。  それから、事前協議の問題について、その次、同じことですが、あなたは事前協議の提案権は相互に平等にあると、こう言っておられる。しかるに外務省は提案権はアメリカにのみあるという売国発言をしておる、総理、これを取り消しておいてもらいたい、こういう発言をしておられる。これは間違いでございませんね。
  102. 穗積七郎

    穗積議員 大体速記を見ておりませんから、そういうふうに、てにをはまで言われて、これが正確であるかどうかと言われれば別ですけれども、大体そういうふうに言ったと記憶されますね。
  103. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 私は、速記録を見て、間違いなくこれは言っておるのですから……。
  104. 穗積七郎

    穗積議員 その速記録が権威のあるものかどうかわからぬでしょう、まだ。
  105. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 そこで、総理は、第四条の随時協議や第六条の施設及び区域に関する協議は、常時随時できるが、事前協議は、相手方が行動を起こすときに、その行動を起こすものが協議するのだから、こちらから協議を持ちかけるわけにはいかない、こう言っております。それに対してあなたは、「沖繩の返還の場合に、基地自由使用の問題が出ておる。これは事前協議の免除であります。」、これは何のことから出ておるのか、私にはわからないのだ。こういうことばがございます。自由使用は、事前協議と関連をして、絶対にあり得べからざることであると言い……(穗積議員「そのとおりですね」と呼ぶ)ところが総理は、私は白紙でございます。御意見をよく記憶にとどめておきますと言っておるのに、あなたは、「そんなばかなことがありますか。あなたは売国者です。」そしてそのあとで、鯨岡君も言うておられるように、「佐藤さん、こっち向きなさい。」防衛、外交権をいまアメリカに一方的に白紙委任をしておる、こう言っておられるのです。これはどこから、こういう論理や結論が出てくるのですか。私は出てこない論理だと思うのですが、いかがです。
  106. 穗積七郎

    穗積議員 弁明でも申しましたとおり、論理的に非常にはっきりしておると、私は思うのです。第一、問題にされました事前協議権について、提案権がいずれにあるかということについては、私が断定をしたのではない。そうではなくて、政府の答弁が、過去の正式な委員会において、二つに分かれておるわけです。すなわち、藤山さんは、アメリカに提案権がある、こちらから要求するときは、第四条による随時協議権によって催促するのだ、こういうことになっておる。ところが、大平外務大臣並びに志賀防衛庁長官、このお二人は、事前協議の提案権、提議権は当然双方平等にございます。すなわちわがほうにもありますということを明言しておられる。その不統一、混乱があったので——政府側で、ですよ、私たちと政府の意見の違いではありませんよ。政府部内でそういう不統一、混乱、矛盾が生じておるので、そこでわれわれとしては、この解釈は、当然提案権は双方平等にあるべきものと法理的に理解すべきである、ということを私たちは主張したわけです。それに対して東郷北米局長が、それは終始一貫いたしまして、条約解釈上アメリカにのみあって、こちらには事前協議の提案権はありません、そういうふうに放棄して、断定的なことを言われたので、それは日本利益を売るものである、すなわち売国的答弁ではないか、首相はどうお考えになりますかと、お尋ねしたのでございます。  それから第二の、事前協議権を放棄することは、すなわち基地自由使用意味であります。今日の沖繩がそうであります。今日の韓国の基地がそうであります。今日の南ベトナムの基地がそうであります。あそこにおけるアメリカの作戦行動、司令官の行動については、ベトナム政府あるいは沖繩の民政府、これは何らこれをチェックすることはできない、すなわち事前協議権はない、これを自由使用といっております。したがって、事前協議権を放棄するかしないか白紙で臨みます——事前協議権は、安保条約体制の中で、わが国の重要な主権の行使の唯一の場所であります。それだけが認められておる。いわば、事前協議権を放棄して基地自由使用を認める場合もあり得るということは、首相が交渉に臨むにあたって、アメリカとの話し合いの中で、場合によれば主権相手にゆだねる。すなわちそのときの主権内容は、具体的に言えば、外交、防衛に関する重要な権限をアメリカの一司令官にまかしてしまう結果になる。そういう意味で私は申したのでありまして、事前協議権の放棄もあり得るというようなことは——これは非核三原則を国会を通じて国民に約束した。憲法は必ず守らなければならぬということを言明をし、しかもB52、ポラリスは憲法に明らかに違反しますと、その委員会で私に対して答弁しているのですよ。それでなおかつ事前協議権すなわち主権について白紙ということは、これは国益を売るものでなくて何でございましょうかと、私は申し上げたのでありまして、そういうことはあり得べからざることである。相談の上できめるべきことではない。首相としては、非核三原則を踏まえ、憲法を踏まえ、さらに主権はあくまで完全独立を目ざしてやるべきである。完全独立こそが愛国の前提であると、首相は言っておられるのですから、そんなばかな矛盾した間違いがあるでしょうかと、私は驚嘆をして、そんなばかなことがありますかと申し上げた。しかも私の言った意味は、時間が制限されていましたから、全部読んでいただくと、先に、首相は、こういうのが私の愛国心である、私は完全独立でいきたい、いまのアメリカの依存体制を早く脱却したい、ドゴールの例まで引いて、そう言っておられて、それを受けておるのですから、それが愛国者ですね。愛国首相を自認しておられるあなたは、そうではなくてその反対ですよ、すなわち売国者ですよと言ったのでございます。それからさらに、いまおっしゃいました、総理こちらを向きなさいと言ったのは、この間の外務委員会でも、総理のうしろで、私が重要な質問中に、ちょっと休憩なら休憩を求められて、そして外務省官僚と打ち合わせをされるのはいいけれども、ほとんど耳に入ってないのだ、私の言うことが、だから事務官が言うことをそのまま言うだけだから、重要な点だから、首相こっちを向いてよく私の言うことを聞いてもらいたいという意味で、私は、こちらを向いてもらいたい、話をやめてもらいたいということは、しょっちゅう言っております。
  107. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 いまあなたと議論したってしょうがないから、ただあらわれておることで意見を聞いておるのです。先に出ておる総理ことばからいうと、事前協議というものの一般的なあの人の解釈だと思います。第四条及び第六条は、随時協議ができるし常時できるのだ。けれども、事前協議というのは、相手方がこれからやろうというときにそれが問題になるのだから、おれはこういうことをやろうと思うがどうだ、こう言うてくるのであって、どういうことをやるかわからぬのに、こっちから言うていくことはできないじゃないか、これは一般的な問題だと私は思います。
  108. 穗積七郎

    穗積議員 その法理論はここではやめましょう。権威のないことですよ。政府と国会とやるべきことであって、私とあなたと論争してもむだだから。
  109. 堀川恭平

    堀川委員長 ちょっと、あとで言ってください。
  110. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 その次は、今度は沖繩返還の場合についてあなたが言われるものだから、総理は、そのことはいま白紙でございます。それはあなたはそう言われるならその意見を聞いておきましょう、こう言っておると思うのだが、それを直ちに、そんなばかなことがあるか、あなたは売国者だと言われる、こう言われることは、いかにもどうもあなた一人で頭に置いておいて、そして、けしからぬ——これを読んだだけでは、そういうことは出てこない。あなた一人が何か別のことを考えて、そして直ちにそれは売国者だ、こう言われたように思うがあなたはどうです、こう言うのです。
  111. 穗積七郎

    穗積議員 鍛冶先生、お互いに長年議員をいたしておりますと、一々質問をするとき、しかも制限をされて貴重な時間でやっているときに、その当該の委員会で、政府と国会との間で事前に積み重ねた確認事項というものが、条約解釈についても、それから政府の方針についても、あるわけですよ。したがって事前協議権の問題というのは、安保条約第五条、すなわち共同行動の義務規定と関連をして、もう十年来これは安保特別委員会、予算委員会、外務委員会その他関係委員会で、政府と国会の間で議論されている。ですから、もうそれは佐藤さんと私の間には、ことば足らずで罵倒しているといいますが、論理はわかっているのですよ。しかもその日は隣に外務大臣の三木さんがちゃんとついておられる。その問題は、もう今国会でも、第五条と事前協議の関係は、私がベトナム戦争エスカレートの段階の中で、日本が安保条約の義務規定に従って戦争に参戦しなければならなくなる危険があるという情勢判断のもとで、いまも申しましたように、佐藤さんにも、それから三木さんにも、幾たびか聞いているのです。幾たびか聞いております。その理論、政策の論理というものは、お互いに聞くほうも答えるほうも、確認されているのですからね。初めて見た人が見れば、白紙に対して売国者と言うのは、これは言い過ぎじゃないかというのですけれども、白紙だということは、事前協議権を放棄することもあり得るという論理ですから、それはとんでもないことだ。こういうことは佐藤さんにとってはもうわかり切ったことなんです。そういう意味ですから、白紙に対してつばを吐きかけたというふうにおとりになっては、これははなはだ私としては心外なことであります。提案者鯨岡先生も、外務委員会にずっと出ておられますから、事前協議権に対して政府が白紙であるということがいかなることを意味しているか、その中からいかに危険なことが出てくるかということは——これは十年来の国会における問題でございます。そういう点で、白紙とは何を意味しているかということは、これはもう重要な答弁なんです、内容を示したものでございます。ですから、そう申し上げたことが、私の独断でもなければ、国会における審議のいままでの積み重ねた論理の上から、当然言われることであると、私は信じております。
  112. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 いまあなたも言われたように、白紙といえば、それを認めるということもないとは言われないじゃないか、そんなことがあったらたいへんだ、ここまではいいと私は思う。そんなことのないようにやってもらわなければ困ると言うならいいが、白紙とはけしからぬ、そんなばかなことがあるか、それは売国者だ、こう言われるということは、いかにもあなた一人の論理で、あなた一人の判断だとわれわれは心得ます。これ以上は言いとうもないが、その次は、いまあなたが言われた国連軍との事前協議についても、これは佐藤政府委員が答えているようですが、派遣軍についての協議についても、だれを相手にするのだ、こう言うたら、国連においては、安保理事会でアメリカ軍に一任しているのだ、だから相手はアメリカだ、こう言うた。それをあなたは直ちに、わが日本を売るものだ、売国的だ——これらもわれわれは読みまして、どうしてそういう結論が出てくるのか。それはけしからぬと言われるのはよろしいですよ。それを直ちに売国だ、解釈が違うからといって、売国的だと言われるようにわれわれは思うが、あなたはそう思わぬですか。
  113. 穗積七郎

    穗積議員 これも、実は朝鮮戦争が起きましたのは一九五〇年でございますから、その停戦協定が一九五八年、それ以来、この問題は幾たびか議論されたことなんですよ。すなわち、あのときは、ソビエトが安保理事会において欠席いたしておりましたときに、国連軍というものをアメリカが無理やりに決定して、すなわちソビエトの拒否権はソビエトみずからが放棄したものだという——法理的にこれは国際条約上誤っていると私どもは考えますが、そういうことをでっち上げて、そこで国連軍というものをつくり、国連軍の旗を持って日本に上陸し、韓国に上陸しておるわけですね。しかも、このことはなぜかといえば、これは国連が、一九五〇年に起きました朝鮮戦争を処理するためのものである、それは合法性がいささか疑わしいといたしましても、そういうものである、それが三年間で、五十三年に停戦協定を結んでいるのです。停戦協定を結んでおるとすれば、国連軍というものは、当然もうここで一ぺん解体すべきです、特殊目的のためのものでありますから。それをアメリカがいまだに今日に至るまで国連軍を解体しない。これは、歴史上まれに見る、例のない長期の停戦であるということを、いまだにダレスもラスクも言い張って、そうして国連においてあれを解消することをしない。そうして日本外務省はどうかといえば、この国連軍の解体について、常にわが国の立場というものを忘れて、アメリカに同調し、追随してきた。国益を売るものであるという憤りが私どもにはある。そして論理的に誤っているものであるという解釈があるわけです。というのは、この間からベトナム戦争が拡大をするでしょう。私どもの思い過ごしじゃないのです。この間のプエブロ事件を見ましても、非常に緊迫した状態が出てくる。そうなると、韓国における軍隊は、米軍の場合と国連軍の場合と二つあるわけです。国連軍が戦闘行為を起こして、その報復攻撃として日本基地が爆撃をされたときに、一体事前協議権はどうなるのだということは、米軍の場合と違って、国連軍をかさに着ますから、そこで問題になる。しかも、それに対しては、その国連軍の行動というものは、本来いえば、国連憲章にのっとって、安保理事会が責任を持つべきものなんですよ。だから、国連軍を解体しないなら、日本が戦争に参加するかしないかのせとぎわの権限を国連軍司令官が持っておるのであるから、それに対する事前協議権も、その戦闘行為の責任も、すべて国連安保理事会にこの際移すべきであるというのが、われわれの所論なんです。それを外務省は、アメリカに一方的に奉仕をして、そうしてわが国が危険をおかして、国益を放棄して、それは米軍司令官に一切あるのだ、国連は関係ないのだ、そういう包括的な白紙委任が、国連安保理事会から米軍司令官に行なわれておる。したがって、それはまさに国益を売るものだと私は思うのです。それを申し上げたのでありますから、決して言い過ごしではありません。よく理解していただきたいと思います。
  114. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 私は、いまあなたの言われることのよしあしを言うておるのじゃありません。あなたは政府委員に対して、お前らそういう解釈をしておってはいかぬ、それは間違いである、そんなことをしてはたいへんだ、こう言われるまではよろしいのですけれども、さようなことはどうも売国的だ、こう言われると、われわれは、はなはだどうも——お前の議論は間違っておる、考えてみろ、もっと勉強してこい、これまではよろしいけれども、相手の議論がおれと違うからといって、直ちに売国的だ、これはどうもあなた一人の理論、あなた一人の結論のように思われますが、これ以上は言ってみても、あなたはそうじゃないと言われるでしょうから……。しかし私はさようには見られません。  その次は、先ほどから言い古されたことですが、国会法にもあるし、衆議院規則にもありますが、お互いが、国会議員として、国会品位を保たなければならぬということは、あなたも十分御認識になっておると思うが、いかがですか。
  115. 穗積七郎

    穗積議員 先ほどおっしゃったことを、先にちょっとお答えいたしておきますが、外務省のアメリカ一辺倒、われわれ外務委員会は、安保条約の審議以来、いつも日本の外務省の局長あるいはその他の人の答えは、まるでアメリカの外務省の役人かその下請ではないかと思われるような答弁をするんですよ。アメリカ絶対なんですね。そういうものを私は国益を売るものだと言う。すなわち愛国の反対ですね。佐藤さんは完全独立愛国と言うのだから、その寸法をもってすれば——私の主観ではありませんよ。佐藤さんの言っているものさしからいたしましても、これは明らかに愛国の反対ですから、私は、国益を売るものだ、国の安全を他人にまかせるとはけしからぬじゃないかと、怒りを込めてそれを売国的と解釈した。それは誤っている、法理的にも誤っているし、立場も誤っているということを申し上げたのでありますから、それはオーバーでも何でもないですよ。大事な問題ですよ。一夜明けてみたら、もう戦争になっておった。佐藤総理も責任を持たない。あるいは国会が反対しても、安保条約五条の前には何の権限もない。この解釈は確定しているのです。あたかもベトナムの人民と同じですよ。戦争をする意思がないのに戦争が行なわれておる。これは笑いごとじゃないですね。そういうことで言っておるのですから、決してオーバーでも何でもない。私の売国の解釈は、愛国の反対、すなわち国益を売るものであるという意味で、私は使ったのです、主観は。  それから、第二のお尋ねの、品位を保つべきこと、国会が国権の最高の機関としての権威を保つべきであることは、当然どなたも同様でありますが、私も人後に落ちずに、そのことは心得ているつもりでございます。
  116. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 あなたはあなたの解釈としてそう解釈せられるのを、私はここで責める気持ちはありませんよ。しかし、あなたの意見と違ったからといって、相手を国を売る者だ、こう言われたら相手はどう思うか。私はその点だけを言っておきます。あなた一人がそう考えられるということはまことに残念だと思います。  その次は、国会品位を守ることは心得ているとおっしゃるのならば、この品位を守って、国会法にもあるとおり、無礼の言を用いてはいかぬ、これも一十分お考えでございましょうね。
  117. 穗積七郎

    穗積議員 そのとおりです。
  118. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それで、あなたは、きのうも言われ、この間も言われたが、愛国者の反語として売国者と言った、こう言われる。あなたはどういう字引をもって言われるのか知らないが、愛国者の反語は、私は必ずしも売国者とは考えない。それは売国者も一つ入るかもしれないが、それにしても、日本国民として非常にきらうことばがあるのです。だれが聞いても、これは非常に侮辱されたと、こう国民一般に認めることばがあると思うのですが、あなたはそういうところには気がつきませんか。たとえば非国民であるとか、人でなしとか売国奴とか国を売るものだ、こういうようなことは、日本人は最も侮辱されたことばだ、さように心得ておるが、あなたはそう心得ておりませんか。
  119. 穗積七郎

    穗積議員 私は、売国ということばを、愛国に反する対語として理解をし——それは私の誤りであるかもしれませんが、私としては、国益を売るものである、アメリカに従属して、そうして日本独立と国益を売るものであるという意味で、売国という対語を使ったわけです。そこでそれが語感として、社会一般で言う非常に侮辱的な語感を与えておることを知っておるか、それについては、私、先ほど石野さんもお示しになりましたが、売国奴あるいはばかやろうというふうなことばを使えば、これは明らかに、客観的に、侮べつ感あるいは相手に対して名誉を傷つけるような表現であるということは私も知っております。ただ、私は論理的に——愛国愛国佐藤さんが言われるから、しかも、佐藤さんの示された——鍛冶先生、よく知っておいてくださいよ。私が、私の意見に違うやつはみなやっつけてしまう、独断でやるように、鯨岡さんもあなたも言われるけれども、そんなことは速記録をごらんいただいて、どこにもありませんよ。佐藤さんのものさしではかってみて、その愛国のものさしとは全然逆なことを言われるから、それではあなたは何々者、愛国者に対する何々者か知らぬが、反対の者ではないかという論理的な表現で言ったのでありまして、私は、佐藤さんとは、御兄弟とも個人的に昔から知っておりますし、先ほど問題になりましたように、その人格を傷つけよう、あるいは罵倒して、その論理をわがほうに有利にしようなんという考えは全然ありません。したがって、侮べつ的な意味は全然ありません。  なお一言。これは鯨岡さんも証言していただけると思いますが、私はそういう論理に従って対語として申し上げたのです。ところが、相手または周囲の人が、それによって特に名誉を傷つけられたとか侮べつを受けたという印象をお持ちになったとすれば、そのことは私の真意に反することでありますから、それに対しては、たいへん遺憾なことであるということで、私は何も、このことばが最良だ、おれこそが国語学者だ、そんなことは一度も申し上げていない。とっさの場合ですから、売国奴ということば——そのときに私のその瞬間の意識でも、いまでもそうですけれども、客観的に侮べつ感を含んだことばであり表現であるということはありました。だから、愛国者に対する対語としての売国者というのは、例のないことばのようですけれども、対語、対語で申し上げたことは、その中に表現されておると思うのです。それで、そのことはが不適当であるかどうかは——私はそういう主観は全然ありませんでしたが、もし皆さんにして客観性があるとするなら、これははなはだ遺憾なことですから、私の真意に反します。そうお受け取りになったならば、そのことに対しては遺憾の意を表します。こういうことは、もう秋田委員長並びに与党の理事の諸先生にも申し上げたところであって、私は、何もことばに固執しておりません。
  120. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 あなたは固執せられぬでも、はかられたのですから。そうして、ものさし、ものさしと言われるが、どうもあなたのものさしでそう言われたのでは、われわれは納得しにくいことがあることだけは申し上げておきます。  その次は、これも言い古されましたが、お互い議員の間でも、品位を保たなければなりません。一国の内閣総理大臣として国会へ出ておる。私は、内閣総理大臣に対しては、特に総理大臣としての権威を保つべき義務が、国民にもあるいは議員にもあると考えるのですが、あなたはその点どうお考えですか。
  121. 穗積七郎

    穗積議員 むろんあります。ありますけれども、総理大臣の名誉や地位に敬意を表せということを求める前に、他の何者にもない重大な責任があります。政治的な責任があるのです。ある意味では、道徳的にも責任があるでしょう。そのことをのけて、私が——佐藤さんの論理は違っておっても、意見は違っても、佐藤さんがほんとうに完全独立のために努力しておる、そうしてその主権は放棄しない、事前協議権はあくまで確保するように努力するような態度をとられれば、それに対して私が、反対党なるがゆえに、佐藤さんに対して売国者というようなことを言ったならば、これは誹謗であり非礼であると思います。私は、議員としての立場から見ましても、一般の方々が、議長に対して、最高権威の国家機関の構成員として、ある程度の敬意を表することを求める以上に、責任を感じておる。佐藤さんにも責任を感じてもらいたい。したがって、そういうことは幾たびかあるでしょう。あの革命のときにおいて、一番の責任を持たなければならぬのは首相ではないでしょうか。首相なるがゆえに手をつけずというのは、旧憲法の天皇神格化の、何者によっても侵されない、何者によっても汚されない、何者によっても名誉を傷つけられないというのと同じで、そんな考えは私は全然ありません。首相というものをそういうふうに取り扱うべきだということは考えておりません。しかし、一国を代表する責任者でありますから、責任とともに、私は敬意は表します。その責任を感じてほんとうにやってもらいたいというのに対して、佐藤首相が礼を尽くさず、あるいは間違ったことを言われれば、そういうことでは、あなたは愛国者と言っておるけれども、愛国者ではなくて、その反対の売国者になりますよ。そういう頂門の一針として申し上げることは、何ら非礼ではないと私は考えます。
  122. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 いまも、あなたははなはだ不穏当なことばを使われたと思う。ここでいま議論しておってもしようがありませんが、一国の総理というものは特別に品位を保たなければならぬということが認められるものであるならば、その総理に対して、おまえは国を売る者だ、こう言うことは、日本国民全体が聞いてもたいへんだとわれわれは思う。これが外国に聞こえたらどうだ。私はその点を言いたいのです。日本総理が、国を売る者だと言われておる、こういうことは、われわれは重大なことだと思うのですが、あなたはそうお思いになりませんか。ならなければしようがない。
  123. 穗積七郎

    穗積議員 重大なことでしょう。重大なことであるほど、重大なことを佐藤さんは間違っておるのです。だからそれは、たとえば、李承晩さんに対して、ソウルの学生が売国者李承晩出ていけというような反対運動、倒閣運動をやった。それから、そんなことはわが国の歴史の中でも幾たびかありますよ。あるいは弾劾をもって、言論をもってやる、あるいは実力をもってこれに天誅を加えるというような表現で、一国の総理に対して、そういうことがしばしばあるわけです。そのことが、この重大な段階で、情勢認識の問題ですけれども、私は重大だと思っておる。戦争か平和か、安定か混乱か、経済、外交ともに重大なときに、佐藤さんとして最もなすべきことは、その国益を中心にして、自主独立の情神でやっていただきたいという気持ちで一ぱいであります。政策が違う、党が違うからといって、けなすのではありませんよ。その点は、与党の先生方に、私がさっき言ったように、侮べつ感も何もない、用語が間違っておったらいつでも訂正しますと言っておる。それをとらえて、総理を神格化したオーソリティーを持ち出して、それに対して、無礼だ、切り捨てごめんだというようなお考えは、与党の責任として、むしろ佐藤さんの政治路線について問題ではないでしょうか。それよりは自民党のAAの諸君が、佐藤のアメリカ一辺倒の政策は国益を売るものであるということで、いま立ち上がっておることが外国に知れたらどうなりましょうか。そのことばの受ける印象はどうかということは、やはり日本国民として真実に問題を追及し、あやまちは正し、路線の統一を求めていくのが、国会任務ではないかというふうに考えます。このことは、耳を傾けて政府の責任者もそういう態度をとっていただきたい。その気持ちは切なるものでございます。
  124. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 もうあなたと私とこれ以上幾ら話しても合わないでしょうから、しかたがないが、どうもあなたの話を聞いておると、自分で論理をきめて、その論理に合わぬ者は何も言ったってしかたがない、間違っている、こういうふうに考えるのですが、はなはだ遺憾なことだと思いますので、その点ははなはだ遺憾だと申し上げて、私の質問を打ち切ります。
  125. 藤尾正行

    ○藤尾委員 関連して一点だけ私は申し述べたいと思いますし、また、御意見を承りたいと思いますけれども、一国の総理大臣は、この外交の最高に属すべき問題について、今後ともいろいろと外国との間に折衝をしなければならぬというときに、その問題の内容について、これはこういたします、あれはああしなければなりませんということを、絶えず申さなければならぬということはないと、私は思うのです。当然沖繩の問題その他についても、その内容について、今後これは討議しなければならぬ、相手の出方もあるので、いろいろなことを考慮しなければならぬということになれば、その責任ある立場といたしましては、その内容については白紙でございます。申し上げられません、と言うのが至当である、これは常識だと私は思うのです。この点いかがですか。
  126. 穗積七郎

    穗積議員 私もいささかしろうとではありませんから、政府の、特に国の執行部の方々が交渉の最中に、特に対外的な折衝においては、間違っていないと確信を持っていても、発表はできないことがあることは、むろん国益のためにあり得ることです。ところが、わが国の過去における外交は、国民はこれにものを申すべからずということで、いわゆる官僚秘密外交あるいは宮廷外交、これをやって失敗してきた。戦後ようやくにいたしまして——自民党の党風のために私は惜しみますが、最近党の領袖の方が、官僚の方々が来られて、官僚——私は前歴を問題にするんじゃない。議員として出てきた以上は、国民の代表として、民主的な態度でなければならぬにかかわらず、やはり権力主義、秘密主義というものを、外交の場合においては特に持ちがちな傾向が強い。そこのところの調和の問題だと思うのです。したがって、抽象的にどこがどうだということを申し上げるわけにはいかぬと思う。最近の傾向は、そういう独善的な権力主義的な傾向が強くなりつつあるから、私どもは、これは大いに警戒しなければいけないというふうに考えております。  そこで、政策上のことですね。たとえばどの程度の折衝をして、どの程度の賠償できるかとか、あるいは領海の問題についてどういうふうにするか、あるいは在日米軍の装備をどの程度にするとか、規模をどの程度にするという政策上のことなら、そういうことが一般的に言えると思うのです。ところが、国の主権の問題について、あるいは憲法の問題について、あいまいな態度というものが首相に許されるでしょうか。外交の秘密の問題とは違いますよ。基本的に違う。そこを私は強く言っておるわけです。
  127. 藤尾正行

    ○藤尾委員 いろいろ議論をする意思は、私はございません。ございませんけれども、沖繩の返還に関する問題というものは、将来にわたる非常に大事な問題です。その内容について、まだ問題が起こっていないのじゃないか。(穗積議員「起こっていないのじゃないのです、ちゃんと起こっているのです」と呼ぶ)事実上は出ていないのです。外交交渉は起こっていないのです。それに対する要望をして、そうして今後外交渉が始まるかもしれない、両三年中には始まるかもしれないというのがいまの現実です。そういうときに、その中身についてどういう——基地の問題についてはこうでございます。寄港の問題についてはこうでございますということを、事前に何でもかんでも申し上げなければならぬということは、私はない、かように思うのです。そういった問題について、首相が身を粉して、ありとあらゆるものを読み、ありとあらゆる人の意見を聞き、そうして十二分にそういった意見を考慮に入れながら、しかもなお白紙の状態で、対外的な折衝に臨むまで、いるという態度こそが、ほんとうの愛国的な首相であり、そうしてそういった認識のもとに、われわれはこれを支持しておるというのが現実であるということを申し上げたい、それだけのことです。
  128. 穗積七郎

    穗積議員 あなたは二点において違っております。  共同声明は——この間の佐藤さんの訪米は、特にこちらから持っていった第一の中心問題は、沖繩返還の問題です。それは共同コミュニケの中に出ておるのです。しかもこれは原則的に継続して両者の間で友好的に話し合おうといって、もう交渉に入ろうということを言っておるのですよ。(藤尾委員「その中身は話しておりません」と呼ぶ)話しておるのだ。そこで問題は、まだアメリカでどんどんやっておるのですよ、具体的な条件について。そのときにわがほうで、アメリカですでに発表をしておる政府の方針を、国会審議が行なわれておるのに、こっちは白紙一点ばりで、おれにまかしておけ一点ばりで黙っておって、国会の権威が守れるでしょうか、責務が守れるでしょうか、私はそうは考えない。それが第一。交渉はすでに始まっておるのです。ここに、共同のコミュニケにちゃんと書いてある。文章にもなっておる。  それから第二点は、私はさっきも言ったように、どの程度のことをやるか。政策上のことじゃないのですよ。私が白紙であってはならないと言うのは、憲法主権の問題なんですよ。憲法を犯すか犯さぬか、主権を譲るか譲らぬかということを、白紙でいいのですか。あなたの思想性、愛国性を私は疑いますよ。そのことについて言っておるのです。装備の規模とか、軍隊、在日米軍の規模とか、場所とか、そういう政策上のことについて、私はすべていまから明らかにしろというようなことを一ぺんも言っておりません。そうではなくて、憲法にのっとってやるかやらぬか、主権を放棄するかしないか、そのことを基本的に事前に国民に言って、安心せしめなければならない。というのは、昨年お立ちになる前から、常にこの問題については一番国民が心配するわけですから、記者会見でも、いつも、核基地は認めるのか、自由使用事前協議はどうするのですかと言って、一番聞いておるでしょう。それは何かといえば、基本的な憲法問題、主権問題であるからでございます。これに白紙は許されないというふうに私は考えます。ぜひひとつ御理解を賜わりたい。
  129. 森田重次郎

    ○森田委員 私、いろいろありますが、簡単な質問を一つしたいと思います。  先ほどあなたの発言の中に、あなたの発言は……(発言する者あり)簡単ですから……。あなたの論理で展開されて、あなたの信念に基づいて、これは侮辱することばじゃない、こういう信念で発言したというのが、この間からあなたのおっしゃることで一通りわれわれはわかります。わかりますが、先ほどの発言の中に、これはあなたの信念だ。それが客観的にそうでない、侮辱というふうにとられるとするならば、それは遺憾なことに思う、というような御発言があったように聞いたのですが、そのとおりでございますか。よろしゅうございますか。
  130. 穗積七郎

    穗積議員 そのとおりです。
  131. 森田重次郎

    ○森田委員 それなら、私は最後に聞いておきたい。今日まで何回も委員会を開いて、いろいろ審理をわれわれはいたしました。そこで、いまあなたのおっしゃる、そういう解釈をされれば遺憾に思うということですね。それをいままでの審理の結果に照らして、あなたが自己反省をなされて、あの発言は遺憾であるということを、この委員会発言なさる気持ちはございませんか。それをお伺いしておきたい。
  132. 穗積七郎

    穗積議員 私は、鯨岡先生がそこにおられるのですが、再々言っておるのですよ。私は侮べつ感を含んで言ったというのではなくて、私は愛国に対する反対、すなわち国益を売るものとして売国ということばを論理的に使った。しかも佐藤さんと私の応答の論議を追ってきた中で、冒頭の愛国に対する佐藤さんの所信の表明からずっと来て、それで、そういうことではあなたは売国者になりますと言わざるを得ませんよという意味で言ったのです。それについて、私は再々言っておるように、おれは何でも知っておるというような思い上がった気持ちはありません。国語については浅学でありますから、したがって、私の語彙というものは非常に少しなものである。しかもそのときはとっさの場合です。だから、そういう主観、そういう論理から追ってきて、私は信念に基づいて、それは愛国の反対のものだという信念は変えません。論説は変えない。いまでも変えません。だから、佐藤さんに反省を求めておる気持ちは続いております。しかしその愛国に対する対語として、売国ということばが、そういう論理的に相手が受け取らなかったという事実は——私は相手侮べつ感を持たせたりあるいは名誉を傷つけたりしようというのではないのですから、それを佐藤さんがもしそういうふうにおとりになったということであれば、私の気持ちと佐藤さんの気持ちとはすれ違いがある、食い違いがあるわけですね。その事実に対しては、はなはだ心外なことであり、遺憾なことである、どうぞ聞き流してもらいたい、こういうことでございます。それ以上ではありません。
  133. 森田重次郎

    ○森田委員 それはあなたの主観としては、間違いないといまでも考えているということなんだ。しかしここでは厳然たる一個の事実として起訴されたということなんですよ。そこで主観だとか客観だとかいうようなことばの争いをしている段階ではない。もう結論が出るというところなんですから、そういうことばのあれではなく、これは発言として不穏当であったとか、あるいは不注意であったとか、自分でも遺憾に思うとかという、自己反省に基づく発言を、この委員会でする気持ちはございませんかということを聞いているのです。
  134. 穗積七郎

    穗積議員 だから私は、これが最良、最適のことばだという確信はないので、それが誤りだと言っておられる方に対して、愛国の正しい対語は何ですかと言って、辞を低くして伺っているのです。お教えくだされば、いつでもとれを訂正いたします。それで、佐藤さんは、さっきの仮速記を見ましても、たぶん売国者ということば——売国奴と言われるのは失礼じゃないか、というふうに言われた。ところがそれは、私が続いて、そうじゃない、あなたがそう言うなら、さっき言われた主権を放棄するような発言を取り消しなさいと言ったら、佐藤さんは取り消さぬと言われて、それじゃあなたたいへんなことですよ。そうなると安保条約五条との関連で、日本主権の重要な部分である防衛、外交権をアメリカに譲ることになりますよと言って、また私が、愛国の反対で売国と言ったことば趣旨説明申し上げた。それはおそらく佐藤さんも理解されたと思うのです。それで、帰るときに、もうさっきのことはなかったことにしようと言われて、にこにこして帰られた。これは私だけではない。私はそこにすわってやっておったのですが、佐藤さんそう言われた。だから佐藤さんは、なるほどと思われたのでしょう。きっと売国者売国奴と初めは勘違いをされたのでしょう、そうではなかったかと思うのです。にもかかわらず、佐藤さんはあなたの与党の方ですから聞いていただきたいのだが、そういう侮べつを受けた印象が残っておるとすれば、仮定ですが、そうすれば、私はこれに対して、それは私の意思に反することですから、たいへん遺憾なことだというふうに考えます。
  135. 森田重次郎

    ○森田委員 あなたは仮定の上に立って言っているのです。私はそんな仮定を抜きにして、して、遺憾に思うかどうかということを発言する意思がありませんか。なければない、あるならあるということを……。
  136. 堀川恭平

    堀川委員長 森田君に申し上げます。  きょうは、もう約束の時間が過ぎましたから、本日は、この程度にとどめまして、次回は、来たる九日午前十時から理事会、午前十時三十分から委員会を開会することとし、これにて散会いたします。    午後一時十四分散会