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永野参考人 日本の
鉄鋼業の今日の姿は、ただいま稻山社長から御説明ございましたから繰り返しません。
私は、主として、どういう点が合同する利益か、あるいは合同することについて配慮せんならぬ問題がどういう点にあるかということに重点を置いて御説明を申し上げたいと思います。
まず、
日本の
鉄鋼業が先ほどのように世界三位、大きくはなりましたけれ
ども、幾多の問題で、ただ規模の大きさじゃなくて、これ以上に
コストをどうして下げるかという点にまだまだ
努力をせんならぬ問題がたくさん残っております。具体的に例をあげて申しますと、先ほどのように、
設備をみんながばらばらでつくり合う、国の全体の
需要とのバランス、ほかの
経済とのバランス、こういう点について片ちんばになりますと、御承知のようにこれは主として財政、金融の面で考えておられる問題と思いますけれ
ども、
日本の
経済にインフレーションも起こさないで、ほんとうの必要なものを
経済の割合に沿っていこうとすると、ある競合——何と申しますか、
設備資金に投下されるべきワクがあると考えていいかと思うのですが、そのワクを、特に鉄がお互いにせり合って取るということは、他の
産業のワク、これは
国民経済全体から言いましても、ある場合には道路、ある場合には橋、ある場合には港湾、あるいは他の
産業方面の資金
需要というものに対して競合するわけでございますから、私
どもの立場から申します、社会資本に迷惑をかける場合もあるし、あるいは他の
産業にいくべきものが、みんなのせり合いの結果、鉄が横取りするというかっこうになれば、いわゆるお得意さまの
需要を減らして自分は拡大
生産をする結果になって、しまいには自分自身がはね返りを受けて返り血をあびて困るということになりますので、これをどう調整していったほうがいいかという問題は、われわれのほうで言いますと、諸
設備は、過度に要らない、
経済の
発展に即応して、要らないものに対してつくるようになるのを注意しなければならぬという意味でございまして、決して、一定の量にして、それで過当なあるいは有利な商売、有利な利益を上げようなんというような根性は毛頭ございません。
一つの例を申し上げてみますと、十年ほど前でございましたか、世界的に鉄ブームの年がございました。
日本の
鉄鋼も市価がトン当たり九万円とかしたような際に、私
どもは、
設備資金は自分でしておいたほうが将来の
需要者に対して金利だけ
コストが安くなるから、この際に幾らかでも、トン当り五千円でも一万円でも上げたいと思ったときに、政府から、低物価政策の観点から、将来の
需要者の問題を考えることはもちろんよくわかるけれ
ども、目先低物価政策に協力してくれという要請がございまして、私
どものやっている仕事が、先ほ
ども話が出ましたが、いわゆる基幹
産業、各
産業に共通な
需要品であるという点を考えまして、その当時市価が九万円も十万円もしている際に五万円で出した。ただ、その当時は、まだ今日の情勢とは違いまして、十年以上前ですから、不足している。それを七万円くらいで
輸入して、そうして平均で六万円くらいで売ったような例がございます。この一例でわれわれの考え方を御推察いただきたいと思うのであります。
それから、先ほ
ども話がございましたように、今日のように
日本の鉄が
発展をしてまいりますと、世界的に
輸出する。ことに、先ほどのお話のように、約一千万トン見当のものを
輸出しまして、その半分がアメリカに参っておるわけでございます。最近アメリカでいろいろな問題が起きておるのでございますが、そんな関係で、従来は
技術について、パテントあるいはノーハウ等について、遠慮なく教えてくれた。これが、昔の上杉謙信、武田信玄の例ではございませんけれ
ども、最近は思うように教えてくれない。最近もアメリカのある有力な製鉄業者が特異な
技術を持っておるということを私
どもの
技術で知りまして、それを導入交渉いたしましたら、もう教えてくれないのです。もうこれから先は、自分自身の力、
日本の
鉄鋼業自体の力で
技術を開発していく以外には方法がない。その際に、御承知と思いますけれ
ども、何と申しましても
技術の改良には非常に多額な資金と相当な日数がかかる。この間は支出だけでありまして、収入は立たない。したがって、相当な規模の分母を持ちませんと、なかなかそれがやりにくい、やれない。ばらばらになっておれば、結局そういうことができない、結局
技術的におくれをとるということもわれわれは案ずるのでございます。
それから、
コストにつながるもう一つの問題では、運賃の問題がなかなかばかにならないのでございます。今日、会社は別ですから、したがって経理は別ですから、私
どもは北海道にも工場を持っておりますけれ
ども、北海道でつくった製品が九州の八幡にいっておるという事実がございます。また、九州八幡の製品が北海道、東北その他の地域にいっておる実例がございます。これは原材料、機械を買うような場合には、やっぱり自分のところのものを使ってくれないかというようなことば、商売の
競争が激しくなれば理の当然でございます。そんなようなこと、あるいはお得意の関係等から、非常に大きな交錯輸送をやっております。はっきりした金額は双方の事情が十分わかりませんから申し上げかねますけれ
ども、おそらく数十億円というむだな運賃を払っておることが想定されます。
それから原材料についてでございますが、原材料も、
鉄鉱石は幾らお互いに張り合っても、海外の山を開いてもらうという場合には、一緒に話し合う。これは八幡、富士だけではありませんで、他の大きな製鉄業者等も一緒になって海外の鉱山と交渉いたしまして、長期の契約をして開山してもらうわけですけれ
ども、これなんかは、何しろ天然
資源のことですから、品位そのものが、いいのもあれば悪いのもある。あるいは海岸から遠いのもあれば近いのもある。あるいは海が深いところも浅いところもある。深い海というのは、先ほ
ども話がありましたけれ
ども、大きな船で運ぶから運賃が安くつきます。それから距離も、インド、マレー、豪州のように比較的近いところもあれば、アフリカとかブラジルとか、そういう遠いところもある。それを要約しますと、
日本着の鉄分一%当たりの鉱石の値段は全部ばらばらでございます。アメリカあたりの例ですと、たいていの工場が一種類か二種類の鉱石を使っておるのです。したがって、ストックヤードにしましても、岸壁にしましても、あるいはそれをまぜ合わすにしても貯鉱槽にしましても、簡素なもので済む。
日本は、簡素にしようとしますれば、あるところは非常に有利なものばかり集まる、あるところは非常に不利なものばかり集まる。したがって、有利なものも不利なものも入りまして、高いものは高いもの、安いものは安いもの、こうばらまきますから、一つの工場で何十種類という種類の多い鉱石を配分せんならぬということになります。そこで、広いヤードを、一坪安くても数千円——最近は数千円といえば安いのですけれ
ども、何万円もするような土地を余分に何万坪、何十万坪ととる。往来の菓子屋の店頭みたいに菓子箱を並べたようなストックヤードをつくらなければならぬ。また、貯鉱槽も同様にたくさんつくらなければならぬ、クレーンもつくらなければならぬ、またそれをまぜ合わすためのベルトコンベアその他の施設も要ります。これなんかも、
原料関係で非常に不利な点でございます。これが一つの経理母体になりますと、安いものは安いものに、高いものは高いものにまぜ合わせましても、そんな不利が、トータルでは一つの経理に入るものですから、これができる。
それから
技術でございますが、
技術は製鉄の
技術で何十、何百、あるいはもっとでしょうけれ
ども、一つ一つのこまかな
技術の総和が全体の
コストにつながるものですけれ
ども、ベターは複数でありますけれ
ども、ベストは一つしかない。そのベストのものを、あるものは八幡が持つ、あるものは富士が持つ。おのおのお互いにこれは出しっこしませんから、そこでこれを共用して使えば、その優秀な
技術の効果は倍にして使えるということにもなるのであります。
また、先ほどの例に申しました研究所なんかでも、今日数十億の金をかけまして八幡も富士も同じような研究所をつくって、同じような研究をしていたのであります。また、ぜひ来ていただきたいというような優秀な先生も、まとまっては来ませんで、ある特定な専門のりっぱな先生は八幡に行く、ある先生は富士に行く。そこで、それが両方重なった
技術を出せばよりよく、もっと高くなるのがこの辺でとまっておるというような問題もございます。
これは販売経費の問題ですけれ
ども、
国内においても、全国に両社とも支店網、営業所網を持っております。同様に海外にも幾つかの支店を持っております。これなんかも明らかに重複している投資でありまして、これなんかも結局は
コストにつながるというような結果になるわけであります。
それと、こういう合同の場合によく問題になるのは労働問題でございますが、以前がこの両社は
日本製鉄として一社であった関係上、ずっと尾を引きまして、今日でも同じ系統の労働組合でございますから、相互間の摩擦がなくてやりやすい点もございます。私は
生産性本部の副会長をしておるのでございますが、
生産性本部では、
生産性の向上は結局は資金と労働とあるいは
需要者と、そういうものがあって初めて事業がやっていけるのだから、
生産性向上による利益というものはそういう方面におのおのに分けなくちゃならぬというのが、
生産性本部の大きな標語になっております。今度の合同というのは、ある意味におきます
生産性の向上でございます。したがって、ただいま申しましたようなもろもろの合理化による利益というものは、いま言ったような点に沿った配分をしていくべきではないか、こう考えておるのであります。
なお、よく、こんな大きな会社が合同したら
競争がなくなって、結局国民にその負担が転嫁するのじゃないかということがございましたが、最初に申し上げましたように、市価が十万円もしたようなときにその半値ぐらいで、われわれはある
程度以上の利潤は求めない、結局は国民が全体の
需要者であるこの鉄なものですから、そちらへサービスするという精神をおくみ取りいただいたと思いますけれ
ども、今後はやはりその点と、並びに今後両社が大きくなったと申しましても三十数%、そしてその他の四社もなかなか力強く、午後もお聞きになるそうですけれ
ども、そこで御
意見をお聞き願えればわかると思いますが、私
どもの考えますのでは、両社が寄っても
競争はなかなかなくならない、激しい
競争が相変わらず続くことは覚悟しております。しかし、だからといって、先ほど申しましたような長所がたくさんあるのに、
コストが下がるのにこれをやらないという手はございませんので、こんな点について配慮いたしたい。
時間の関係もございますので、この辺で、気持ちを申し上げた次第であります。
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