○安井謙君 私は自由民主党を代表いたしまして、
総理並びに
関係閣僚に対して若干の
質問を試みたいと存じます。
総理は、
さきに
東南アジア諸国を訪問して、これら諸国との友好親善をはかり、さらに
アメリカ合衆国を訪問して、刻下の諸問題について
ジョンソン大統領と隔意ない意見の交換を行なって、
日米両国間の
理解と親善を一そう深められたのであります。われわれは、
総理のこの
外交的努力に対しまして深甚の敬意を表します。
ことに、
日米首脳
会談において、長い間の懸案でありました
沖縄、
小笠原の
施政権の
返還につきまして、「
小笠原は一年以内に
返還され、」「
沖縄は両三年内に
返還時期を決定する」という
合意に達しましたことは、
沖縄、
小笠原の
復帰を願う
日本民族の
願望に対して、大きな光明を与えたものであります。なぜ私が今回の
会談の結果を高く評価するかと申しますと、いままでの
返還交渉に比べまして、今回のそれは格段の前進を示しているからであります。
沖縄、
小笠原諸島の
施政権返還に関する
日米両国首脳
会談は、過去においてすでに三回にわたって行なわれております。すなわち、岸
総理・アイゼンハワー
大統領、池田
総理・ケネディ
大統領及び一昨年の
佐藤・
ジョンソン会談がこれでございます。しかしながら、過去の三回にわたる折衝の結果は、遺憾ながらわれわれの満足すべきものとはなり得なかったのであります。
会談の結論は、「
沖縄、
小笠原が
日本固有の
領土であることを確認する。」したがって、早期
復帰は好ましいものではあるが、
極東の緊張が解けるまでは、この問題を具体的に進めることは待ってほしいというのが、いままでの結論でございました。まさに
施政権返還に対する壁は、
極東における国際
関係の緊張と不安であり、これが続く限り、
返還問題は遠き将来の希望にすぎなかったのであります。いまなお、
極東における不安定と緊張は依然として続いております。
ベトナム戦争の継続、
中共核実験による脅威といった国際
関係の不安定な情勢のもとで、今回の
会談も行なわれたわけであります。しかも、
大統領選挙を明年に控えているという政治的な悪
条件にもかかわらず、今回は
施政権返還の
基本方針を明らかに
了解し、その実現のための具体的なスケジュールに入るという点で、
双方の
合意を見たのであります。まさに画期的な成果と言えましょう。これは言うまでもなく、一億
国民の
願望を背景に、
佐藤総理が強く正しい
主張をされたのに対して、
米国が
日本に対する信頼感をもってこれにこたえたということにほかなりません。(
拍手)しかるに、
国民の一部では、この成果をあえて過小評価し、また
交渉結果に必要以上の疑心暗鬼を抱く方もなしとしません。この際、それらをただす意味において、
総理の御
見解を伺いたいと存じます。
第一は、
返還の時期の見通しと
方式論についてであります。
沖縄施政権の
返還がいつごろ実現するであろうかということは、現地
住民はもとより、
日本国民すべての大きな関心事でございます。
総理は、去る五日の
演説において、「両三年内に
米国との間に
返還の時期についての
合意に達し得るものと
確信している」旨、述べられております。との裏づけは、
共同声明において、
総理が「両三年内に
双方の満足し得る
返還の時期につき
合意すべきである」と
主張されたのに対し、
ジョンソン大統領が、「十分
理解した」旨が記されておるのであります。この英文によりますと、フーリー・アンダースタンズということばが使ってございますが、これは私
どもは、むしろ「了承した」と考えてもよろしいんじゃないかと思うのでございますが、いかがでありましょうか。
総理は、さらに
復帰を促進せしめるための
日本側の
態度について所信を表明されております。「
日本が国際社会に対して果すべき
責任をじみちに果たすとともに、
国民一致して、みずからの国をみずからの手で守る気慨を持ち、現実的な対策を考えることが、近い将来、
沖縄の
復帰につながるものである」旨を述べられました。まことに当然の御意見だと存じます。
日米安全保障体制を堅持しながら、著しい
経済成長を遂げておる
日本が、国際社会の一員として果たすべき
役割りを果たすと同時に、自国の
防衛に十分な関心を持つべきことは、理の当然であります。この当然な現実認識に対して、それが
憲法改正、再軍備に通じるとか、徴兵制度をもくろんでおるとかいったような、的をはずれた議論も一部にあるようですから、この際、あらためて
総理の具体的な御
見解を伺いたいと存じます。
次に、
返還の
方式論でありますが、申すまでもなく、
沖縄は
日本を含む
極東の
安全保障体制に重要な
役割りを果たしてまいりました。また、今日その
重要性はいささかも減退はしておりません。したがって、
沖縄の
施政権が
返還されるにあたって、この
安全保障体制上の問題がまず十分に配慮されなければなりません。もちろん、この
機能はきわめて流動的なものであります。時間の経過による
国際情勢の変化、科学技術の進歩等と関連し、現実には常にそのあり方が変化していくものと考えるべきでありましょう。
沖縄返還の
方式については、種々の
見解が出ております。
核基地つき
返還、核抜き
自由使用、
地域的分離
返還、
本土並みの
基地存置、即時全面
返還等がこれに当たります。しかしながら、これらの
方式は、いずれをとるにいたしましても、永続的に固定したものとして考えて、今日の段階で即断的な結論を下すことは正しい
態度ではなかろうと存じます。むしろ
返還の最終段階まで慎重な
検討を続けた上で、最終的に決定されるべきものと考えますが、
総理のお考えはいかがでございますか。
第二に、今回の
会談の結果、
沖縄の
施政権返還が
小笠原諸島の
返還とすりかえられたのではないか、あるいは
返還問題にからんで、
日本側が
米国より
防衛体制上新たな特別の任務を背負わされたのではないかという憶測が一部に行なわれているようですが、この点はいかがでございますか。
第三に、今後の
沖縄の
施政権返還について、
日米が継続的
協議に入るにあたって、従来どおりの
外交折衝にゆだねるのか、あるいはまた、別に
日米間に特別の継続的
協議機関を
設置する用意があるのかどうかを、お伺いしたいと存じます。
また、現地に新設される予定の日琉米代表よりなる
委員会は
高等弁務官の
諮問機関といわれております。
米国政府の
諮問機関に
日本政府の代表が加入することは、いかがであろうかという批判もあるようでございますが、このあたりの法的な解釈をお伺いしたいと存じます。また、参加する
日本側の代表は民間人であるか、
政府代表であるかの点も、あわせてお伺いします。
第四は、
沖縄と
本土との一体化の問題についてであります。今日、
沖縄と
本土との間には社会制度と
経済機構上かなり格差があります。
佐藤内閣発足以来、この是正に意を用いられ、四十一年度、四十二年度の
日本側の財政援助は飛躍的に増大してまいりました。しかしながら、長期にわたって米ドル
経済のもとで成長してまいりました
沖縄の社会
経済機構を
日本の水準に引き直すためには、今後なお相当の努力が必要でございます。単に財政援助のみにとどまらず、金融上の
措置も必要であり、その他全般的な長期計画を立てる必要があろうと存じます。
政府は
南方連絡事務所の拡張等をお考えのようでありますが、さらに民間人等をも含めた総合調査機関をおつくりになる考えはございませんか。また、当面の問題として、明年度、
政府の援助額については、どのように考えておられるかという点をお聞きいたします。
なお、あわせて
沖縄における重要産業である製糖業の近代化と振興対策につき、格別の配慮を農林大臣に
要望いたしておきます。
第五に、
小笠原諸島の
復帰は
日本国民にとって、まさに朗報でありますが、旧島民が
復帰できるためには相当な再
開発計画が必要であろうと思います。私は、
小笠原復興は、これを一地方団体にまかせるというようなことでなく、
政府自体十分な
責任をもって遂行されることが好ましいと思いますが、いかがでございますか。
次に、北方
領土について一言伺います。国後、択捉、歯舞、色丹等の北方諸島が、
日本固有の
領土であることは国際的な常識であります。今日、ソ連
政府が一方的に
領土権を
主張し、領有しておることは、まことに遺憾と申さねばなりません。
三木外務大臣は、先般訪ソの際、コスイギン首相より、この問題に関し中間的なものの提案を受けられたやに伺いますが、その
内容はどういうものか、支障のない
範囲で承りたいと存じます。
また、
国民の一部では、
ベトナム問題
中共関係、
沖縄の
施政権復帰等に関しては、一方的な
立場でたいへん辛らつな批判をなさる一方、北方問題については、あえて口をぬぐうという風潮がなしとしません。これは、まことに遺憾なことであり、
政府は、今後いかなる方策をもって北方
領土の解決に努力されるか、御
方針を承りたいと存じます。
次に、財政問題に移って、特に、財政の硬直化と明年度予算の編成
方針について大蔵大臣にお尋ねします。
さきに、閣議で了承されました
経済企画庁の「四十二年度
経済見通し改定試案」によりますと、
経済成長率は、名目で当初見通しの一三・四%が一六・九%、実質で九%が一二%というように、予想をはるかに上回っております。また、国際収支は、輸出が予想よりも減り、輸入は予想を上回り、貿易外収支もまた赤字幅を
拡大する結果として、当初見通しの収支均衡はくずれておるようでございます。引き締め
政策がとられておるにもかかわらず、このように
経済の成長率が高く、国際収支に赤字を生じておるということは、
日本経済の成長力についての評価が過小にすぎるため、
政府のとった財政金融上の操作に食い違いが生じておるのではないかとの議論も一部にあるようですが、御
見解を伺います。
明年度予算は、景気抑制型の予算といわれ、国債への依存率をいかに押さえるかに重点が置かれているようであります。ところが、他方、歳出の当然増は一三・七%という、これまでにない大きな数字が予想されております。明年度予算が景気抑制型となり、予算規模の
拡大が控え目に押さえられるならば、新規
政策のための余裕はきわめて乏しいものとなります。この財政の硬直化をいかにして打開するか、明年度予算の
最大の問題であります。
今日、
政府の予算に占める公共投資、社会資本の割合は、外国のそれに比べて決して低いものではありません。むしろ最高の率ともいえましょう。にもかかわらず、依然として公共
施設、公共対策は、社会の実態に比べて立ちおくれております。交通問題一つとっても明らかであります。このことは、
政府が公共事業に努力をしておるにもかかわらず、民間
経済の成長のほうが、さらに上回っておるということにもなりましょう。言いかえれば、
日本経済の規模に比べて、
政府の予算規模が小
さきにすぎるのではないかとの疑問もわいてくるわけであります。この間の事情について、大蔵大臣の御
見解を伺いたいと存じます。
財政硬直化の原因はいろいろございましょう。中でも、行政
機構の複雑、膨大化と、毎年のベースアップによる人件費の増加、米価の逆ざやによる食管会計の赤字の増大、医療保険の赤字の増高等が特に注目をされております。
いろいろ伺いたいのですが、時間の
関係もあり、左の二点についてお伺いいたします。
第一の行政
機構の複雑、膨大化とベースアップによる人件費の累増を抑制するため、
さきに
総理は一省一局の削減という強い
方針を打ち出されました。この
総理の指示が時宜に適したものとして
世論の広い
支持を得たことは御承知のとおりであります。同時に、
世論は、この一省一局の削減が名口だけのものでなく、実質的なものであることを期待しております。しかしながら、一方、現在の
政府各省間を比較してみますと、定員と業務量との
関係は必ずしもバランスを得たものとは言いがたいと思います。行政
機構を簡素化し、定員を縮小させると同時に、各省間の業務繁閑のアンバランスを是正する必要がありましょう。そのため、各省
設置法に基づく定員制を改め、
政府の総定員を国家行政組織法で制定することの
検討も進められておるやに伺いますが、この点、実現のお見通しがあるかどうかを伺いたいと存じます。
また、公務員のベースアップの財源を当初予算に盛り込むことにより、年度中途における予算補正を避けるべきだとの議論があり、これまた傾聴すべき説だと存じますが、これには
二つの問題点があります。一つは、ベースアップ分を当初予算に組み入れることにより、他の必要経費を圧迫するとの懸念であります。いま一つは、公務員のベースアップをあらかじめ想定することになります。したがって、公務員の給与を民間給与に準じて訂正するという本来の趣旨と異なってくるという点であります。この問の事情について
政府の御
見解を伺いたいと存じます。
第二に、医療保険制度について伺います。
さきに厚生省でまとめました医療保険制度の抜本改正案によりますと、現行の医療保険の各種の制度を統合することは行なわず、現行の諸制度はそのままにして、各保険から一定率の拠出を求め財源をプールし財政調整を行なう、給付については多少とも受益者負担の原則を導入する、ということになっております。これは確かに一案であるとは申せますが、抜本改正と申し得るかどうかは、いささか疑問ではなかろうかと存じます。
医療保険は、読んで字のごとく保険である、社会保障ではないというのが、これまでのたてまえでございます。そのために、大会社の重役までが健康保険で十割の医療給付を受けられるというのが現状でございます。この現状を改めて、医療保険に社会保障の考え方を導入し、生活の余裕に乏しい低所得者に対しては手厚い医療給付を行ない、必要な国家負担も行なうが、一方、一定額以上の高額所得者に対しては、これを保険の対象からはずして、むしろ自由診療にゆだねる、そうして、その中間にある中位の所得者については保険システムをとる、こういう形で医療制度に自由診療と社会保障の考え方を導入するならば、現在の医療給付の悪平等は是正され、保険財政の赤字の解消にも役立つのではなかろうかと思うのでありますが、厚生大臣の御意見を伺いたいと存じます。
最後に、大学の自治と学生運動の規制について文部大臣に伺います。
最近頻発する一部学生の暴力事件に関しまして、灘尾文部大臣は、大学当局の
責任者との
会談において、学生の教育については大学自体がその
責任の自覚を一段と深めてほしい、その上で学生指導、大学管理の
責任体制を確立するため、大学自体具体的な
検討を行ない、事実によって回答を示してほしいとの
要望を出されたやに承っております。
また、劔木前文部大臣も、羽田事件に対する善後策のため、二回にわたる大学当局との会合の席上でも、学校当局の自主的
措置を強く
要望されたようであります。これに対する大学当局の反応はいかがなものでございますか。私は大学の自治を尊重し、学生問題を極力学校当局の
責任と自主性において解決するというたてまえは原則として何ら異存はありません。また、いつの時代にあっても、社会のひずみに対する学生諸君の持つ鋭い批判精神が正義感をさそい、情熱のほとばしりとなってあらわれ、時に常軌を逸した行動となったからといって、それを一つ一つとがめだてをするつもりはございません。それがわれわれの持つ社会観と異なった
世界観から発したものであっても、でき得る限り寛容であるべきだと思います。しかしながら、ものには限度がございます。今日一部の学生の指導者によって行なわれておる数々の計画的暴力行為は、はるかにその限界を越えておると言うべきでありましょう。一種の異常感覚につちかわれた彼らの秩序破壊的行動を、教育という名のもとに温情主義をもって接していくだけでは、むしろ今日逆効果になる危険さえ含まれると私
どもは思うのでございます。(
拍手)大学の自治、学問研究の自由は尊重さるべきでありましょう。しかしながら、大学といえ
ども治外法権の場ではありません。明らかに社会秩序を破壊し、あるいは個人の生命に危険を感ぜしめるがごとき一部学生の計画的暴力行為に対しては、断固たる法律による
措置が、むしろ学校の自治を守り、善良なる学生の自由な研究を助けることになるのではないか。このことは識者もひとしく認めておるところだと思いますが、これに対しまして当局の御
見解を伺いたいと存じます。
以上をもって私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕