○平林剛君 私は、
提案者を代表いたしまして、
大蔵大臣水田三喜男君
不信任決議案の
趣旨説明を申し上げたいと存じます。(
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最初に、案文を朗読いたします。
大蔵大臣水田三喜男君
不信任決議案
本院は、
大蔵大臣水田三喜男君を信任せず。
右決議する。
〔
拍手〕
次に、この
決議案を
提案した
理由を申し上げます。
その第一の
理由は、
大蔵大臣水田三喜男君は、言うまでもなく、国の台所である大蔵省のさいふのひもを預かる立場にあって、国の財政経済の運営にきわめて大きな
責任を有し、わが国の経済の安定成長をはかり、
国民生活の向上、
社会福祉の充実に重大な影響を与える役割りを背負っておるのであります。しかるに、
昭和四十二年度の予算編成にあたって、本院でいま重大な問題として与野党の対立と議会の混乱までに発展した健康保険財政の赤字に対して、何ら積極的財政措置を講じなかったばかりか、坊厚生
大臣とともに、
政府管掌の健康保険に発生すると見られる赤字を解消するという基本方針をとり、まず赤字増大を食いとめるという官僚的見解に固執いたしました。このことは、健康保険諸法がすでにわが国に定着して、健康と生命を守る
国民のとりでとなっておるのに対し、
佐藤内閣の冷酷なコスト主義を示したものでありまして、人間尊重の政策は看板だけで、
社会保障制度を単なる保険制度の地位におとしいれようとする、制度の後退をはかったというべきであります。(
拍手)
かつて、高度経済成長政策を進めた保守党の政策に対しまして、私どもは、
国民大衆とともに、生産か生活かで争うたように、いまや、
社会保障政策においては、
国民大衆とともに、コストかヒューマニズムかの分岐点に立たされたわけであります。私どもは、
佐藤内閣のコスト主義に賛成することができないのであります。
水田三喜男君は、その職責をきわめて狭義に解釈して、
国民の生命と健康に重大な脅威を与えたものでありまして、その政治
責任を追及するとともに、水田君を信任できない
理由であります。(
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第二に、
水田三喜男君は、健康保険会計の赤字解消だけに頭が一ぱいになりまして、わが国の医療制度に対する根本対策については、何の能も何の策もなかったばかりか、勤労者や患者、医療機関の犠牲と負担をしいる健康保険制度改悪案にくみし、
政府の
責任においてその赤字を解消せよという
国民の要望に対し、必要な財源措置を積極的に講じようとしなかったのであります。
御承知のように、
政府管掌健保の赤字は、何もいま突然始まったわけではありません。
昭和三十五年度までは黒字の経営であったものが、
昭和三十六年度より赤字に逆転し、
昭和三十九年度には累積黒字を食いつぶしまして百七十二億円の赤字となり、その後何の対策も措置もとらなかったために、
昭和四十年度六百六十九億円、
昭和四十一年度に千百四十三億円と、だんだんと赤字が重なったわけでありまして、
水田三喜男君が直接予算編成を行なう立場にあって、なお積極的財政措置を怠ったことは、その責めを免れることはできません。それにもかかわらず、
水田三喜男君は、この本
会議においてわが党代表の
質問に答え、保険に赤字があればその解消は被保険者の負担にさせるのは当然である旨の見解と、その無理解な思想を明らかにいたしました。まことにけしからない
答弁でありまして、
政府の医療政策は、保険があって医療がないというべきであります。(
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水田三喜男君の感覚は、民間の保険会社の三等社長と同列といわなければなりません。
政府管掌健康保険赤字発生の
理由で見のがすことのできませんことは、被保険者の低賃金、
日本の被保険者の平均賃金が低いことも重要な影響があるのであります。この低い賃金を標準にした保険料だけで、まともな診療報酬体系も医療保障の前進もないことを知りながら、ただ犠牲を
国民大衆に押しつけているのが
佐藤内閣であります。わが国の
社会保障政策の充実、医療制度の抜本対策には、大幅な国庫負担の導入が必要なことは言うまでもありません。
ところが、
水田三喜男君は、去る
特別国会における新聞
記者会見に際して、
健康保険法案をゆさぶる敵は
自民党の中にもいると述べたことが伝えられておりますけれども、健康保険制度の改悪に批判するものを敵扱いにするということはまことに大胆不敵、この
不信任案には、私は、自由民主党の
諸君の中において水田君から敵扱いをされた同志
諸君の賛成も
期待してやまない次第であります。(
拍手)
さて、健康保険会計の赤字解消に対しまして、
政府自体、大蔵
大臣自身はどう処理をされたか。
昭和四十二年度に発生すると見られる赤字に対して、
政府はわずかに二百二十五億円の国庫補助をしたにすぎなかったのであります。そして、料率の改定をはじめ、初診料百円から二百円に、入院時は三十円から六十円で四十四億円をかせぎ出し、外来投薬時の本人負担に百二十六億円と、その大半を大衆負担に押しつけましたことは、五兆円という国家予算を預かる大蔵
大臣の知恵が足りなかったこと、財政配分の能力が欠除しておったということ。その容貌を見るに、慈悲あふるるような温顔で、まさにお釈迦さまの遠縁か、正視すれば観音さまの血筋を引いておるのではないかと見られる水田君にいたしましては、冷酷非情のそしりを免れることができないのであります。(
拍手)
では、本年度に発生する赤字を埋めるために国家の財政にその余裕がなかったでございましょうか。その財源がないというわけでは断じてありません。かりに
昭和四十二年度における税の自然増収は——まだ本日は八月の段階ではありますけれども、予算編成当時の諸指標の見通しは、民間の設備投資にいたしましても、鉱工業生産にいたしましても、なだれのように大きくくずれ、一般的には最低三千億円から四千億円、五千億円の自然増収を
期待することができる見通しが強まっておるのであります。私立大学のある教授の説によりますと、八千六百億円程度はあるのではないかという見通しさえあるのでございまして、ここまでいかなくとも、例年の
政府の経済見通しから考え、また、税の自然増収を低目に押えておる例から考えましても、私は、少なくとも三千億円から四千億円の自然増収は
期待できるものと考えるのであります。(
拍手)
政府が、最近、予定した公債の発行額をおおよそ千二百億円ほど減らしたことも、この見通しがある程度確実であるという証拠でありまして、この額を減じてもなお財源があることは明らかであります。
政府において、もし人間尊重の政治をうそでないというならば、とりあえずこの健康保険財政の赤字をみずからの
責任において処理し、後に抜本的対策を立てることが可能なのであります。この事情を知りながら手をこまねいておる
水田三喜男君は、その不明を謝して蔵相の地位を去るべきではないでありましょうか。
第三に、私が水田君を信任できない
理由は、今
国会におきまして、健保
改正案をめぐって大きく混乱をいたしましたのは、
政府の強引なる
法案通過の態度でございまして、あの八月二日の
委員会の採決に際し、わが党の
佐藤觀次郎
委員が
質問第一陣に立ったとき、突如として、いままでの約束を破って強行採決をしたところから始まっておるのであります。あのとき、わが
佐藤委員は、水田大蔵
大臣の出席を求めて、この健保会計の赤字が、財政的にはたして可能なのか不可能なのかの
質問を展開しようとしておったにもかかわらず、おくれてまいりました。おくれて入ってくるやいなや、おや、まだこの
委員会は終わっておらなかったのかと、とぼけたのであります。すなわち、これは、
政府側におきまして、すでに、初めの約束を裏切って、最初の
質問者から
質疑を打ち切ることをきめておった証拠でありまして、
政府閣僚の中でも重要な地位を占める
水田三喜男君が、その陰謀に参加しておったことは、すでに明らかでございます。(
拍手)私は、かくのごとく
国会の運営を混乱におとしいれ、しかも政党としての約束を踏みにじって、この混乱を巻き起こしてきた自由民主党、
佐藤内閣の
責任の一端は、
水田三喜男君も負うべきであると考えるのでございまして、これが私の水田君を信任できない
理由でございます。
以上、私は、大要三つの点にわたりまして、
大蔵大臣水田三喜男君を信任できない
理由を申し上げました。私は、どうか満場の
諸君が、正しきものは正しきもの、悪きものは悪きもの、そうして誤りがあれば、それをお互いに反省して正すところに、わが国の政治の進歩も
国民生活の向上もかかっておると考え、
諸君の御賛成をお願いいたしまして、
説明を終わろうとするものでございます。(
拍手)
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