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1967-04-20 第55回国会 衆議院 予算委員会第一分科会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十二年四月二十日(木曜日)    午前十時七分開議  出席分科員    主査 鈴木 善幸君       有田 喜一君    井出一太郎君       植木庚子郎君    周東 英雄君       細田 吉蔵君    八木 徹雄君       山崎  巖君    猪俣 浩三君       石田 宥全君    中澤 茂一君       中谷 鉄也君    八木  昇君       横山 利秋君  出席国務大臣         法 務 大 臣 田中伊三次君  出席政府委員         法務大臣官房経         理部長     辻 辰三郎君         法務省民事局長 新谷 正夫君         法務省刑事局長 川井 英良君         法務省保護局長 本位田 昇君         法務省訟務局長 青木 義人君         法務省人権擁護         局長      堀内 恒雄君         法務省入国管理         局長      中川  進君         公安調査庁長官 吉河 光貞君  分科員外出席者         法務省矯正局矯         正局長事務代理 武田 武久君         法務省矯正局医         療分類課長   樋口 幸吉君         大蔵省主計局主         計官      渥美 謙二君         最高裁判所事務         総長      岸  盛一君         最高裁判所事務         総局総務局長  寺田 治郎君         最高裁判所事務         総局人事局長  矢崎 憲正君         最高裁判所事務         総局経理局長  岩野  徹君         最高裁判所事務         総局民事局長  菅野 啓蔵君         最高裁判所事務         総局刑事局長  佐藤 千速君     ――――――――――――― 四月二十日  分科員畑和委員辞任につき、その補欠として  横山利秋君が委員長指名分科員選任され  た。 同日  分科員横山利秋委員辞任につき、その補欠と  して石田宥全君委員長指名分科員選任  された。 同日  分科員石田宥全君委員辞任につき、その補欠と  して中谷欽也君が委員長指名分科員選任  された。 同日  分科員中谷鉄也委員辞任につき、その補欠と  して畑和君が委員長指名分科員選任され  た。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  昭和四十二年度一般会計予算裁判所及び法務  省所管      ――――◇―――――
  2. 鈴木善幸

    鈴木主査 これより予算委員会第一分科会を開会いたします。  昭和四十二年度一般会計算中、裁判所及び法務省所管予算を議題とし、質疑に入ります。  質疑通告がありますので、順次これを許します。猪俣浩三君。
  3. 猪俣浩三

    猪俣分科員 裁判所側に先に御質問したいと思います。  第一は裁判遅延の問題でありますが、これは占い問題でありまして、臨時司法制度調査会でも大きな問題となったのでありますが、どうも実際の裁判状態を見ておりますと、改善の徴候が見えないわけであります。そこで、あらためて臨時司法制度調査会あたりでたいへん問題になりまして、これに対する改善のことを裁判当局も言明なされておったのですが、その後の裁判の進行の状況をお聞きしたいと思うわけであります。  第一、最高裁判所に第一審からかかって十年以上係属しているような件数をもし調査ができておりましたらお示しいただきたいと思います。
  4. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 ただいまのお尋ねでございますが、現在最高裁判所に十年以上係属している事件はございません。  なお、詳細は所管局長から説明させてもよろしゅうございます。
  5. 猪俣浩三

    猪俣分科員 そうしますと、私は、はなはだ恐縮ですが、私に関します事件についでお尋ねしなければならぬと思います。十年以上のはないとおっしゃる。と申しますのは、私の長男が自動車事故で即死をいたしました。満二十五歳で司法試験準備中即死しまして、これが昭和二十九年の十二月五日なんです。直ちに業務過失致死罪として警察は捜査し、検察庁が起訴をいたしまして、これは最高裁判所まで刑事事件として行きましたが、三十五年九月九日になって刑が確定いたしまして、本人は一年の懲役、執行猶予なしで服役して、すでにしゃばへ出ているわけであります。私は会社と交渉いたしまして、なるべく訴訟しないようにと思っておりましたが、会社に誠意がないので、半年もたちました昭和三十年九月二十六日に訴えを提起いたしました。これが、一審で勝訴になり、被告は上訴いたしましたので控訴審になり、控訴審判決が四十年六月二十九日でありまして、すでに十一年間経過しておる。しかるに、被告は、控訴審でも原告が勝ちましたけれども上告をいたしまして、いま最高裁判所に係属中です。控訴審判決が出ましたのが四十年六月二十九日、直ちに彼らは上告したのです。それが今日に至るまで――もう四十二年です。一年有半何らの音さたもないわけで、まだ損害賠償決着がついておりません。自動車保険法のできない時分のことでありますので、私は一銭の慰謝料噴霧賠償も受け取っておらぬわけであります。三人の弁護士を頼んで、とにかく被害後十二年たちましても事が落着いたしません。十年以上のものが一件もないということは、どういうふうな御計算であるか。私自身の体験からするとどうもわからないのです。もう十二年です。これは四十年六月二十九日に控訴が終わっているのです。それからし上告したのですから、本年は四十二年の、もう四月の下旬であります。そうすると、もう十年以上優にたっているわけです。しかもこれは一審、二審で事実審は終わっている。最高裁判所が事実審をすることはめったにないことで、要するに法令、憲法違反、そういうことを審理するのでありますので、被告の代理人も、これは直ちに上告棄却になるから、そうすればちゃんと払うから、執行をかけたりなんかしないでくれろという依頼があって、私はそのままにしておいたのです。しかるに、今日二年近くになっても、まだ決着がついておらぬのです。こういうことは、これはどういう理由でありますか。自分の事件についてお尋ねすることに対して非常に私は恐縮に思うのですが、体験的な事実でありますので、遠慮なく御質問申し上げるわけであります。
  6. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 先ほどの冒頭のお尋ねを私ちょっと誤解いたしました。最高裁判所に十年以上係属している事件があるかというふうに私受け取りましたので、そういう事件はございませんとお答えいたしたわけでございます。  ただ、一審から上告審までどのくらいかかった一件が何件あるかというようなことは、ちょっとただいま戸元資料を持っておりませんので、いずれそれは――資料がございますけれども、ここに持ち合わせておりません。最高裁に事件が係属しましてから約二年近くというお話でございますが、それも具体的な事件審理過程については、ちょっと急場で資料を持っておりませんですが、いずれ調査いたします。
  7. 猪俣浩三

    猪俣分科員 これは臨時司法制度調査会にも提出されたことですが、その間、私は中途で議員を落選いたしまして委員でなくなりましたので、最後の半年間は臨時司法制度調査会委員でなかったわけであります。それは三、四年前です。そのときは統計が出ておるはずです。その後の統計もやはりあると思いまするから、きょう私、質問通告の中に入れておきませんでしたので御答弁できないのも無理はないと思いますが、いずれ御提出願いたいと存じます。私の質問は、一審以来十年かかってもなお判決が確定せざるものが何件ありやということであります。  こういう自動車事故のようなこと、私は、私自身専門弁護士で、しかも専門の三人の弁護士を頼んで十数年争っておりましても一銭の慰謝料も払ってもらえないというようなことでは、裁判というものはほとんど有名無実になりまして、泣き寝入りをせざるを得ない状態になっておる。いまは自動車保険法ができましたから、多少の金が入るわけでありますが……。  そこで私が引き続いて質問いたしますのは、いま交通戦争といわれておりまする世情に照らしまして、裁判所はいかなる機構をお考えになっておるか。裁判所の機能というものも、社会情勢の変化に従って考えていかなければならないと思います。こういう交通事件が多く、したがって訴訟事件も多くなる。しかも、スピード犯罪というのは立証に非常に困難な点が多々あるのでありまして、相当の技術を必要とする、かような意味におきまして、この交通戦争に対して裁判所は一体どういう態度をおとりになっておるか。たとえば、専門交通裁判官を養成するとか、専門のそういう部を設けて交通違反専門民事刑事にかかわらず専門の部を設けてやるとか、いま公害とともに社会の最も重大な問題に相なっておることに対しまして、裁判所が旧態依然たる態度ではいけないと存ずるのでありますが、これに対処するどういうお考えがあるかを承りたいのであります。
  8. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 最近の交通事犯激増に伴いまして、裁判所といたしましても、その迅速処理についていろいろ苦心をいたしております。東京大阪のような大きな裁判所には交通事件専門部を貫いてございます。なお、簡単に処理できる事件につきましては、御承知かと思いますが、例の切符制度で、いわゆる一貫作業と俗に呼んでおりますが、できるだけ迅速に処理する方策を講じておりますけれども、それでも交通事犯というのは日に日に激増いたしております。最近警察庁のほうから、いわゆる通告制度という制度についての御提案がありまして、裁判所のほうにも御連絡がございました。それによりますと、従来の、すべてを刑罰をもって処理しておったやり方に多少の訂正を加えまして、事実の簡単な事件については一応は警察官の手元で処理する。しかし、それがいやな場合には、やはり普通の刑事手続によるというふうないろいろなお考えがあるようでございます。そういう案に対しましても裁判所は、司法の基本的な性格に触れる問題がございますので、いろいろな問題がございますけれども、前向きでそういう制度考えております。  なお、詳細につきましては、所管刑事局長からその問題点を御説明いたさせてもよろしゅうございます。
  9. 佐藤千速

    佐藤最高裁判所長官代理者 先ほど総長からお答え申し上げたことに補足して御説明申し上げます。  交通事件処理につきましては、業務過失致死傷事件というのと、それから道路交通法違反事件、これは比較的軽微な事件というふうに大別することができるわけでございまするが、先ほど総長から申し上げました警察庁考えておられますところの反則金制度と申しますものは、道路交通法違反事件のうち特定のものにつきまして、刑事手続前の段階において、反則金という制度を設けまして、警察段階において違反者の同意のもとに、その反則金を支払った場合には刑事手続に移行しないで処理するというような構想のように承知いたしておるわけでございます。これにつきましては、この構想を昨年の六月ごろ発表されまして、裁判所におきましてもその案を検討さしていただいて、いろいろ問題点を提起し、なお引き続き意見の交換を行なってきたというような状況でございます。  この構想は、私ども見まするところは、比較的簡単な事件につきましては、一々裁判手続を経ないで、しかも軽微な事件について前科者の扱いをしないというような、そういう配慮のもとに、簡易迅速な処理をはかるということが目的だと理解しているわけでございます。そのねらいとするところにつきましては、私どもといたしましても、大きな点において反対はないわけでございます。適当なるスクリーニングの方法によりまして、裁判手続前の段階においてそれが処理されるということ、でありますならば、それも一つの行き方であり、国家機関の側におきまするエネルギーの節約の問題もありますし、それから違反者として問われている人たちの便宜の問題もございますし、前科者として処遇しないという利点もございますので、それらのかね合いの問題といたしまして、裁判手続前の段階におきましてこれをスクリーニングする、そしてなお争いのありますものにつきまして裁判手続に移行する、このような構想の大筋においては反対はないわけでございますが、なお個々的な問題につきましては、反則金の支払いにおきまして、警察の認定限り、それを最終的な前提といたしまして反則金を支払うというようなことに対する若干の疑問を持っているわけでございます。それらにつきましては、警察庁に対しましても、従前問題点として検討をお願いしているというような段階でございます。
  10. 猪俣浩三

    猪俣分科員 いま違反者に対する裁判所態度はわかりましたが、被害者慰謝料問題等についての民事的処理につきましての説明をもう少し具体的に――すみやかに被害者に対して損害を賠償し、慰謝の道を講ずるような方法考えられないか、民事局長からでももう少し具体的に御説明いただきたいと思います。
  11. 菅野啓蔵

    菅野最高裁判所長官代理者 交通事件訴訟事件のうち、民事関係処理につきまして申し上げます。  民事事件交通関係事件というものが、ここ数年激増してまいりました。これに対応するために、裁判所としては、やはり通常の手段では事件処理しきれない状況というものが見えてまいったのでございます。そこで、先ほど総長から御説明申し上げた点でもございますが、東京大阪等交通事件処理専門部が設けられましたほか、名古屋、神戸、京都というようなところにも漸次専門部が置かれるようになってまいりまして、やはり特別な部で専門的にその事件を扱うということが能率的な事件処理方法であることは申し上げるまでもないのでございますが、やはりそういう部を設けました結果というものが、事件処理審理期間の短縮という面にもだんだん出てまいっております。たとえば、東京におきましても、従来は交通事件損害賠償事件というものは普通の一般訴訟事件よりもやや複雑である関係上、平均審理期間というものが一般民事事件に比べて多少長い。具体的に申し上げますと、一般通常事件平均審理期間というものが一年六カ月ぐらいであるのに対しまして、交通事件につきましては一年七カ月というような状況であったのでございますが、昨年あたり東京交通部審理平均期間数というものを調べてみますと、通常事件よりもやや下回って、一年半はかからないというような状況が出てまいっております。  それからなお、これは新聞等で御承知であろうと思いますけれども、全国的に損害賠償の額というものが、この二、三年来、裁判所で認定いたします額というものが飛躍的に高くなっておるということが申し上げられるかと思うのでございます。  なお、交通事件には調停に適する事件というものが非常に多いわけでございまして、事件の割合から申しましても、通常訴訟事件よりも調停のほうがやや上回っているというような状況でございますが、この調停におきましても、調停委員の方に自動車について相当理解のある方に入っていただく必要があるということで、東京調停部におきましては、交通事件に関する限り、一般調停委員以外にも、自動車理解の深い、たとえば自動車運転免許を持っておる方に、そういう事件処理については特に調停委員に入っていただくというような事件処理のしかたをしておるわけでございます。全体といたしまして、わずかながらではありまするけれども交通事件処理につきましては、民事事件に関する限り少しは改善の効果が見られている状況ではないかというふうに存じておるわけでございます。
  12. 猪俣浩三

    猪俣分科員 金額が非常に多額にのぼってきたことは認められますが、私は、何よりも大事なことは、早く決定して処理していただくということじゃなかろうかと思うのです。たとえば十数年前に私が起こしました訴訟なんというものは、同じ金額としてももう今日十分の一の値打ちしかない。さればといって増額は許されませんですね。長い間引っぱられておって、そして解決いたしましても 実際は解決にならない。この貨幣価値の変動の激しい今日においては。そういうことも考慮していただくのみならず、私どもはどうやら生活をしておるのでありますが、中には非常に生活に困窮している人が多いわけでありまして、惨たんたるものがあるわけでございます。そういうものに対しましてすみやかなる救済の手を伸べるということが、金額を多くすることよりなお大切じゃなかろうか。それに対しましては、調停委員会というものは交通処理に対する特別な調停委員会をつくって、いまあなたのおっしゃったような専門の人を充てて、早く処理する。専門の知識がないために、あの鑑定だ、この鑑定だといって、非常に時間が長くかかっているのが実情であります。それから裁判所においても、特別の部をいま設けておられるのは大阪東京だけのようでありますが、これも、できたらおもなる裁判所にはそういう特設部を設けていただいて、一般民事事件と別にスピーディーに、あるいは一日置きくらいに裁判を開いて早く片づけてしまう。やりようによっては私はできると思う。ほんとうに被害者立場を考慮して、人同性ある裁判をやろうとするならば、私はできないはずはないと思うのですが、あまりにゆうちょう過ぎると思うのです。これでは裁判所というものは国民の権利を保護する場所だという観念が薄らいでしまいまして、皆泣き寝入りするのが大部分で、そこで示談屋なんというものがつけ込んで、裁判なんかやったって何年かかるかわからぬぞ、この辺でやってしまえ、こういうようなことで、会社から頼まれてはいいかげんなことで解決している。示談屋のばっこは裁判所責任ですよ。さようなことについていま私は徹底的なくふうをお願いしたいと思います。  それから裁判が非常におそいというのは日本裁判の特徴であります。これにはいろいろの原因があろうと思いますけれども、ぼくは、裁判所側から見るならば、判事の数が非常に少ないからじゃないか。事件に比較いたしまして判事の数が少ない。非常に裁判がおくれる、なまけているのじゃないかと一般の人は考えられるようでありますが、実際は判事は過労になるくらい非常に勉強をなさっておると思うのです。だから、結局判事の絶対数が足りないのじゃないかと思うのですが、これに対しては一体どういうふうにお考えになっておりますか。
  13. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 ただいま御指摘のとおり、日本裁判官は世界で一番事件の過重な負担をになっておるということは、まさにそのとおりだと思います。裁判所といたしましても、毎年裁判官増員ということを考えておりますが、何ぶんにも裁判官というものは一朝一夕にして養成されるものではございませんので、どうしても他の法曹から裁判官への転換希聖者に期持するほか当面の窮策としてはないわけでございます。ところが弁護士会のほうへお願いして、弁護士会のほうでも、日弁連あたりでも十分いろいろと御尽力くださいますけれども弁護士から裁判官への任官希望者というのは非常に少ない。その一つは何かと申しますと、やはり長い間弁護士事務をとっておられますと、そこにちゃんとした基礎が固まりまして、いまさら歳判官にかわって従前よりも低い収入で満足されるというようなことは非常にむずかしいことで、その点もよくわかるのでございますが、しかし裁判所といたしましては、できる限り優秀な弁護士の方が裁判所に来られることを実は希望し、期待いたしております。その隘路一つとしましては、途中から来られますと収入が格段の相違を生ずるということと、それから従来から裁判官で長年つとめてきた者と比べますと、退職などされる場合にやはり非常に不利な立場に置かれるという点もございまして、おやめになったときにはもうもとの事務所の基礎というものはくずれてしまってどうにもならぬ、そういうような点もあろうかと存じます。それで、ここ一、二年のことでございますが、日弁連裁判所のほうとときどき連絡協議会を催しまして、弁護士会の内部において何か互助年金制度というものを考えていただいて、そうしてそれを国のほうの――これは非常に問題があるかと思いますが、もしできますならば、国の年金制度に途中から切りかえることができれば、事態も少しはよくなるのじゃなかろうかというようなことも考えまして、ただいま日弁連のほうでも弁護士会における互助年金制度というものを考えて立案しておられるようでございます。今後そういうような施策とともに、また裁判というものはただ裁判官の数が多いだけで済むものではございませんで、現在の裁判所の配置がはたして適正であるかどうか、つまり能率的な裁判の運用のためにこれでよろしいかどうかといったような問題、あるいは現在の管轄について再検討してみる必要はなかろうかどうか。現にイタリアあたりでも第一審の事件が非常に激増しましてどうにもならなくなりまして、そこで第一審の管轄をどう分配したらいいだろうかというようなことを考えて、何かの法改正をやったそうでございますが、この問題は非常に重要な問題で、裁判所だけの考えでできることでもございません。法務省弁護士会等と十分御相談申し上げて、そういう方面からと、なおそのほかに手続の面から、従来の手続にむだな、いたずらに時間とエネルギーを消費するような点がありはしないか、そういったような問題、総合的に考えまして、現在の事件激増、それに対する裁判官数の不足についての対策を考えていきたいと思っております。  なお、御参考までに最近五カ年間の批判官増員を調べてみますと、平均五カ年間、年に約百人の増員にはなっておりますけれども、また定年その他途中でやめられる方もありますので、現状では決して十分なものとは申せませんので、この点についても裁判所といたしましても今後十分の努力をいたしたいと考えております。
  14. 猪俣浩三

    猪俣分科員 私ども裁判官増員が非常に必要だと思っておりますし、これは臨時司法制度調査会でも問題に相なりましたのですが、これは弁護士会の諸君はおこるかもしれませんけれども法曹一元を持ち出したのは弁護士会が先なのでありますが、この弁護士会法曹一元に対する努力が私は非常に足りないと考えております。これは弁護士会としても大いに反省しなければならぬとぼくは思うのです。いまあなたのおっしゃったようないろいろな隘路がありましょうけれども法曹一元を唱えた以上は、不利な条件でも進んで裁判官になっていくという気がまえを弁護士会が持たなければ、法曹一元を唱えた責任をぼくは果たせないと思いますが、どうもそういう気魄はないように感ぜられるのであります。ただふしぎなことは、衆議院法務委員会で数年前、最高裁判所の機構改革問題が問題になりましたときに、これは各党一致成案ができまして、最高裁判所判事を三十名にする、その当時、最高裁判所事件が非常にふくそういたしておりましたし、そうしてまた、老齢の人が多いために非常に裁判官に重荷がかかり過ぎる、これには増員をしてさばくよりしかたがないじゃないかという結論に達しまして、三十名の案を法務委員会意見として決定いたしましたが、これに対して最も反対されたのは最高裁判所なんです。ぼくはいまでもそれは奇怪だと思うのです。最も事件を遅延せしめておる一つ原因最高裁判所にあることは否定できないと思いまするが、この判事増員につきまして、国会で一致成案がそこに出ているにかかわらず、徹底的にこれに反対せられまして、実現を阻止してしまって、いまの十五人になっておるわけであります。いろいろの理由を言っていらっしゃるけれども、それは数年前のことで、いまの当局者は一体どういうお考えになっておるか知りませんが、最高裁判所判事増員という数年前の衆議院法務委員会の決定に対して、いまでも最高裁判所では反対意見を持っておるのでしょうか。それをお尋ねします。
  15. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 最高裁判所の機構改革の問題が数年前活発に論議されましたことは私も承知いたしております。ただ、その当時、私は行政事務に携わっておりませんで裁判の仕事ばかりいたしておりましたので、その間の経過はよく承知いたしておりません。との最高裁の機構改革の問題が起こりました発端は、たしか昭和二十七、八年ごろがその最初だったと思います。当時は最高裁判所に七千件ないし八千件近い事件が係属いたしておりました。そこでこのままでは今後この上告事件処理はどうなるかということが憂えられまして、法制審議会等で本問題にされまして、機構改革を考える必要がないかということであったようでございます。しかし、その後次第に最高裁に係属する事件処理されてまいりまして、ここ一、二年の間を見ますと、当時七、八千件ありました事件が最近では三千件台を割るようになったわけでございまして、しかも最高裁に事件が係属しまして、その間いろいろ資料を整え、調査官の手元でいろいろ調査をする、そういう期間を入れますと、大体いつも千件程度の事件というものは動かずに準備中として残される勘定になります。現状としましては、往年のような最高裁の負相過重あるいは訴訟遅延は昔ほどは問題になっておりません。現在では、このままこれを推進すれば、さらに最高裁の事件というものは減少していくのであろう。前長官も、それから現在の長官も事件迅速処理ということについては格段の関心と熱意を持っておられますので、必ずやその成果があるだろうと私どもは見ているわけでございます。
  16. 猪俣浩三

    猪俣分科員 そうしますと、先ほどあげました私の事件なんというのはどうしても理解ができないのです。二年間もそのままほっておかれるわけであります。やはり私は調査が行き届かないためじゃないかと思うのです。世界の例を見ましても、ドイツの最高裁判所判事は、私どもが七、八年前に視察したときに百二人で、また増員しなければならぬと言っていました。最高裁判所の諸君は、アメリカの連邦裁判所判事が十五人ということを常に主張されるのですが、アメリカは各州に最高裁判所がある。事実審理をする日本最高裁判所にあたるものが各州にある。それが十五人だといたしましても、その五十倍が最高裁判所判事なんです。連邦最高裁判所判事だけは十五人ですが、各州に事実審理をします日本最高裁判所にあたるような裁判所があるわけなんです。ドイツはやはり日本最高裁判所にあたるような憲法裁判所以外の最高裁判所は百人をこえる判事を持っている。しかるにアメリカの連邦裁判所判事の数だけを言うて他を説明なさらずに、アメリカは十五人だというようなことをしょっちゅう説明なさっておった。世界の各国に比べましても、ぼくは最高裁判所判事の数が非常に少ないと思うわけです。あなたはいま現在はやはり十五人で十分だというお考えでありますか。そうしますと、一体一年も二年も事件処理せられざることとどういうふうに調和なさるのですか、私ははなはだ疑問だと思うのです。その点いかがですか。
  17. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 アメリカの連邦の最高裁判所は、日本最高裁判所と違いまして、御指摘のように、すべての事件をやるわけではございません。各州の最高裁判所の扱った事件のうち、連邦最高裁で受理してその問題をきめるのが適当だというふうに決定された事件だけをやるわけでございます。したがいまして、その数は連邦最高裁は九人の裁判官で構成されております。それに比較しますと、わが国の最高裁は十玄人、それが普通の事件の場合は三つの小法廷に分かれておりますので、連邦最高裁のように、いつも九人で一つ裁判体を構成しておるというのとは違いまして、大多数の事件が小法廷に参ります。小法廷には三個の小法廷がございます。この問題は今後もいろいろと事情の推移を見ながら考えていかなければならない問題だと思いますが、現在のととろでは別に急速にその点に増員をしたりしなければならぬという事情ではないように一思われます。
  18. 猪俣浩三

    猪俣分科員 それたらもっと迅速にやってもらいたいのです。上告してから、あなた、二年間も全然放任されておるというようなことでは、被害者の救済にも何にもならぬのです。しかし、いまあなたの説明に対しても私は疑義があるのですけれども、それは略します。第一、司法修習生は、これは国家の費用で養成しておる、これが裁判官、検察官になり手が年々減ってくる。これは臨時司法制度調査会で本問題に相なりましたけれども原因がどこにあるのであるか。私は若い連中に聞いてみましても、決して俸給の問題にあるのではないということをみな異口同音に言うのです。そこで一体裁判所側では、何がゆえに司法修習生に裁判官希望者が少ないと考えられるか。いろいろの勧誘をなさっておるようであります。「青年法律家」という雑誌を見ましても、ちょっと度を過ぎた勧誘をなさっているように見られますが、私はこれはあまり責める気はないのです。たとえば裁判官を希望するなら、二回試験の成績を考慮してやろうというような発言があったというのが出ておるのでありますが、これはなるべく裁判官に引っぱろうとする当局者の苦労のいたすところだと私は存じておりまして、それをあまりとがめる気もいたさぬのですが、それほどまでにしなければ裁判官になり手が少ない原因はどこにあると分析なさっておるかをお聞かせ願いたい。
  19. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 修習生の課程を終えまして、いわゆる二回試験に合格した者のうち、裁判官希望者が比較的少ないということは、まさに御指摘のとおりでございます。当初は八十人とか九十人近い希望者があったことがございます。それからまたそれが四十人程度に下がって、最近は大体六、七十人というところが例のようでございます。それに検察官の希望者が約五十名近く、そうしますと、二回試験、いわゆる研修所を終えました五百名近くの者のうち、大多数が弁護士を希望する、こういうことになるわけであります。それで、どういうわけで一体裁判官の希望者が弁護士希望者に比較して少ないのだろうかということは、私どもも非常に関心を持っておる点でございまして、機会あるごとにその気持ちを尋ねるというようなことをやっております。それは各人各様の考え方がございまして、これが唯一の原因だというふうにはまいらないと思うのであります。一つは、単なる報酬だけの問題ではないという点も確かにございます。しかしその点は、これはごく最近のことでございますが、ある大都市では弁護士事務所に来てくれれば大体七万円くらいの報酬を出す、またある都市では六万円くらい、そういうところもあるようでございます。そうしますと、判事補として任官した当初の月額報酬に比べますと格段の相違があるわけで、経済的な面だけが問題になるとは申しませんけれども、これもやはりよく修習生自身の口から聞くことでございます。それから、裁判についての使命感と申しましょうか、そういうものをはっきり持っておる人は、そういうことにはかかわりなしに成績優秀な人たち裁判官判事補を希望してくれておる例もございますが、どうして君は裁判官にならないのかと、よく個人的にこの人になってもらいたいんだがというような人に対して尋ねることもございますが、そういうときにはやはり若いうちにはいろいろな経験をしてみたい、裁判官は先にいってからでもなれるので、弁護士として自由な空気のもとで思う存分いろいろな経験をしてみたい、そういうことを言われる人も相当ございます。それから、最近は背と違いまして、二回試験を終えました平均年齢がだんだん少しずつは下がってきておりますけれども、二十七、八歳あるいは三十歳、中には家族を持っておられる方が相当ある。そういう方についてはやはり生活の問題もありますし、それから一番きらわれておるのは転任の問題であります。弁護士だと自分の好きなところで仕事ができるけれども判事補になりますとある一定期間は任地をかえなければならぬ、転任がある、そういう点はちょっと家庭的な事情からいっても困るんだ、そういうような理由から裁判官を希望されない、そういうような事例もございます。
  20. 猪俣浩三

    猪俣分科員 いまあなたのあげられた理由はみな一つずつ理由があると思うのでありますが、ただ報酬の面について、司法修習を終えて弁護士事務所に入れば七万円出す、これは実に特殊な例だと思うのです。私のところの事務所にも若い弁護士がおりまして、他と比較しておりますが、そんなところはめったにありません。それは最高のところをおとりになったんじゃないかと思うのです。彼らに私も裁判官になることをよくすすめるのです。彼らの言う理由には、自由の空気がない。その例にあげるのは、伊達判決をした伊達裁判長、ああいう判決をするとおやめにならなければならぬじゃないか、こういうことを言う。そうしてまた飯守という裁判官、これはいま鹿児島の地方裁判所長になっておるようでありますが、この先生が何か職員に配る雑誌を編集しておる。それに極端な共産主義排斥、戦争謳歌のような記事をたびたび書いておる。これは昨年衆議院法務委員会で多少問題になったようでありますが、現在七人の弁護士からこの飯守裁判官に対する公開質問状を出しておる。それに対して答弁をしない。こういう裁判所長がある、そのもとで働かなければならぬ、そういうふうな裁判官の反動傾向、そういう空気がどうもいやだというような修習生が相当あるわけです。  そこで、私はあなたに聞きたいのは、この鹿児島の地方裁判所長の飯守裁判長の論文というものは、私は相当問題をはらんでおる論文だと思いますが、かようなことについて、一体最高裁判所の事務当局は、裁判行政としてこのまま放置なさっておるのか。こういう問題を放置なさっておると、裁判官弾劾法によって訴追委員会の問題にもなりかねないような言論をなさっておるようですが、これに対しては、裁判所長は判決には容喙できないでしょうが、裁判所長がこういう「裁判所広報」という国費でもって印刷したものに自分の意見を載せて職員に配る、その中に、たとえば戦争絶対反対だ、戦争はもうこりごりだ、むすこを絶対に戦争には出しませんとわめいてみても何にもならぬというようなことを書いてある。私は日本国憲法九条のもとにおける裁判官として、こういう考えを個人で持っておることは思想の自由でしょうが、国費でもって印刷している印刷物にさような論文を書いて、そうしてみな裁判官その他に配る、こういうことを最高裁判所としては何ら行政府に注意をするとか監督するとかいうことができない。そうなると、若い、いま自由の空気を吸っておる人たちが魅力を感じなくなると思うのです。勇敢なる判決をするならばやめなければならぬというようなこと、伊達さんがそのためにやめたかどうかわかりませんが、一般にあの違憲判決を下したためにやめたといっておる。今度の恵庭事件についても、ああいう肩透かしのような判決、これは裁判の模様を見ますと、違憲判決をするということが何と考えても当然過ぎるほど当然に予期された裁判の進め方であったにかかわらず、急にああいうふうなまるきり肩透かしの判決をやった、そういうことも、もし勇敢なる判決をやると、そこにやめざるを得ないような何らかの空気があるんじゃないかということを若い修習生は疑うのですよ。たとえば飯守裁判所長、こういう人のこういう言動、平和憲法に違反したような言動に対しても、最高裁判所としては何らの注意もできないものであるかどうか、その所信を承りたい。
  21. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 ただいま鹿児島の飯守所長のいわゆる「広報」に載せております論説についてのお尋ねがございました。その前に一言先ほどちょっと私申し上げることを忘れましたので補充さしていただきたいと思いますが、猪俣委員はあまり深く取り上げないとおっしゃいましたけれども、事柄が市大でございますので、ちょっと申し上げたいと思います。  それは、裁判所が、修習生に裁判官になるようにすすめて、二回試験のほうは考慮してやるから、そういうことを申したというような趣旨のことが伝わっておりますが、これは事実を調べてみましても、絶対にそういうことはございません。試験は試験で厳正にいたしておりますので、判事補に勧誘するために試験をどうのこうのするということは考えられないことであり、事実絶対にないということを申し上げておきます。  それから、ただいまお尋ねの、伊達判決の結果伊達判事はやめざるを得なくなったんじゃないかというお尋ねでございますが、私は絶対にそういうことはないと思います。といいますのは、たまたまその何年か前に、まだ東京地方裁判所刑事庁舎が伊達判決のありました勝閧橋の仮庁舎に移ります前に、つまりこちらのバラックにありましたときに、伊達判事が私の部屋に参りまして、実は自分は前々から裁判官をやめて学者のほう法政大学へ行っておられましたが、勉強のほうをしたいと思っておるんだ、それにこのごろひどい耳鳴りがして、そういう点からいっても法廷にすわっているのは非常につらいので、実はやめたいという気持ちを持っておるんだという、まあいわば個人的な相談を受けたことがございます。当時私は、いろいろ事情があるかも知らぬけれども、そういうやめるというようなことを言わずに、やはり裁判所のためにやるのがいいんじゃないかというようなことを言って別れたことがございます。伊達判決がありましたのはそれから二、三年後のことでございますので、伊達判事がやめたということは何ら判決とは関係ないということを私は申し上げることができると思います。   それから恵庭事件、これは特定の事件でございますが、あの事件がどういうふうになるかということは、世間が非常な関心を持って見ておりました。あるいはああいう訴訟指揮のやり方ではお話しのように違憲の判決が出るんじゃなかろうかという観測をされた方も大ぜいおられました。ところが、北海道新聞によりますと、あの新聞の司法記者は審理の成り行きを洋紙に観察し分析して、そうしてたまたまあの判決と同じような論説を、判決前に推測記事を書いております。そういうことから見ましても、具体的な裁判について他から何らかの力が加わるとか、そういうことはとうていわれわれとしては考えられないことでございます。また七そういうことがあっては非常にたいへんなことだと思います。  それから飯守所長の問題につきまして、御指摘のとおり、昨年の法務委員会で取り上げられました。これは七月二十一日の法務委員会で、ここにおられます横山委員から御質問がございました。その際、鹿児島の地方裁判所で発行しておりますごく薄いパンフレット、「広報」と申しておりますが、その「広報」に、非常に政治的に片寄ったという印象を与えるような論説を所長が書いておる、そういうことで、一号から七号までのその「広報」の部分部分を抜粋して読み上げられたわけでございます。当時私どもは、そういうものが出ておって、そういうものが書かれておるということは存じておりませんでした。その際読み上げられました点を、ずっとつづられた点を聞いておりますと、非常にいわば政治色濃厚という感じがいたさざるを得なかったわけです。というのは、もっとも、現行憲法の解釈に触れておりまして、憲法という法律はまた政治とも非常に無関係とは申せませんで、そういうことから、そういう意味合いもあったと思います。そこで、この問題についてどう考えるかという御質問がございましたので、さっそくその「広報」を、取り寄せまして通読いたしました。通読いたしまして私ども考え法務委員会で申し上げようと思っておりましたら、それから一週間たちました二十八日の日に、これは横山委員の御都合もあったと思いますが、この間の問題は、正式に法務委員会意見を聞かなくても、その後最高裁判所がどういう処置をとったか、それが自分が納得がいけばそれでいいから、それを聞かしてくれという御連絡があったわけであります。そこで私と総務局長が国会へ参りまして、委員会でない別の部屋で横山委員にお目にかかりまして、私ども考えを申し上げたわけであります。そのとき申し上げたメモをたまたま持っておりますので、それを御紹介いたしますが、この間の「広報」の一号ないし七号全部を通読いたしましたが、全部が全部政治的論説ではなくて、この「広報」によって職員に政治的教育をしようというふうには必ずしも考えられない。その内容も、全体としての意味をくみ取れば、これは随所に出ておりますが、憲法の平和主義、民主主義、議会主義を守らなければならぬということも強調されておるわけであります。また、決して戦争を賛美しているわけでもなし、特に問題になりました四号の、「大東亜戦争と東京裁判」という論説の中でも、日本も誤りを犯しているというようなことをちゃんと書いてありますので、全体としての真意をくみ取れば、憲法を否定しているような、そういう内容のものと断定することは問題である。しかし、その論説の内容は、各人各様の受け取り方、評価のしかたもあろうと思います。それで、所上長がかりそめにも「広報」の誌上を借りて裁判所の職員に政治的教育をしているという誤解を与えることは、これは穏当じゃない。そこで、さっそく当時の事務次長から飯守所長に電話でその点をコメントいたしました。と同時に、私は直接の監督官である福岡の高裁長官に電話をいたして、「広報」の論説がそういう点で問題になっておる、その連絡しました結果、今後はそのような誤解を受けるおそれのあるようなものは「広報」には掲載しない、そういうことになっておるからと長官からも私のほうへ連絡が、ございましたので、そういう経過を横山委員に申し上げました。そのとき横山委員から重ねて、それでは「広報」に絶対今後書かぬのかとお尋ねがありましたが、いやそういう趣旨ではなくて、所長が職員に政治的教育を施しておる――政治的教育といいましても、一方的なある特定の片待った政治的教育を施しておる、そういうような印象を与えるようなものは、これは今後当然慎まなければならぬ、そういう趣旨で、絶対に「広報」に載せないという趣旨のものではありません、そういうふうに、高裁上長官が非常に心配して直接何回も飯守所長に会っていろいろ話をし、勧告をしておりますので今後の成り行きを見ていただきたい、こういうことを申し上げました。そこで横山委員の御了解を得ましたので、そのままこの問題は解消しまして、法務委員会での正式の論議の対象にはならなかった次第でございます。  その後、七号までは当時問題になりましたが、八号以下ずっとわれわれも送付を受けましたものを目を通しております。あるいは抑留生活時代の思い出話、しかもそれも音楽を主題とするような話、ベートーベンとかモーツァルトの話とか、そういったものでありますし、その次の九号、十号は、「男女平等、夫婦不平等」という題になっておりますが、これは読んでみてもおもしろいような、何か結婚式のスピーチにでもふさわしいような、まあ一種の随筆を書いておるわけであります。それから次の十一号に「裁判所の防衛について」、これは題名から申しますとちょっと奇異の念を抱かれる向きもあるかもしれませんけれども、この十一号の内容全体を見ましても、各人個人としていかなる政治的信念を持つことは自由であるけれども、しかし、裁判官はもちろん、裁判所一般職長としては、政治的中立性を他から疑われるような言動があってはならないという趣旨のことがこの論説の骨子となっております。この程度のことは、どこの所長でも長官でも、表現は違い、いろいろな話し方はあると思いますが、そういう趣旨のものを書いておられる。それから十二号は「祈り」という題で、クリスマスにちなんで書いておられます。これは飯守所長はクリスチャンでありますので、これも一つの随筆と見られるものでございます。それから十三号は「鹿児島復古と明治百年」というようなことで、鹿児島におられますので、昔の島津斎彬のことばなんかを引いて、これもやはり随筆の域を出ていない。それからあと十四号、十五号、十一号なんか「人が人を裁くことができるか」というトルストイのことばを引いて書いております。こういうわけで、なるほど一号から七号までの間には非常に誤解を招くものがございましたけれども、その後は、やはり約束どおり、そういう政治的教育を施すようなものは載せないという約束は守られており、また裁判所のほうでもそういう点を特に注意いたしております。現在としては、別にこれを取り上げてどうこうするという考え裁判所としてはございません。
  22. 横山利秋

    横山分科員 関連して――驚いたことに、私の名前が出て、そうして本衆議院委員会の会議録以外に、懇談をいたしましたことを御報告になり、しかも思いがけないことには、私はその場における雑談として、個人的な――個人的といっても、全く個人的ではありますまいが、それでもメモをきちんと持っておられ、それを本委員会で報告をなさるということでありましては、私も、場合によっては私の一身上の問題でもございますから、特に質問をいたしたいと思うのであります。  そういうお取り扱いはいささか意外でございまして、なるほど、議場外において懇談をするということは間々あることであります。しかし、その懇談のメモをきちんと持っておって、それを出さずに話をしながら、一年たったあとでメモを出して自分の止揚を擁護するというのは、いささかこれは妥当な方法ではない、これがまず第一であります。  それから、この飯守裁判官につきましては、同僚諸君並びに政府側についても、飯守という人がどういう人であるかを知ってもらわないと判断に苦しまれるから、簡単に申しますけれども、飯守さんは、抑留生活中に洗脳の手記と題する自己批判書を書き、その中で、かつて私は日本帝国主義の手先であったと深刻な反省をした人であり、そうして日本に帰ってきてから、あれは早く帰国せんがための手段であったという手記をまた書かれた人であり、そうしてまた、昭和三十五年、ハガチー事件の勾留理由開示公判で、裁判官を侮辱したとして、弁護士を監置二十日間という最高刑にして、東京拘置所に拘置した人であり、三十六年二月には、中央公論社の嶋中事件に関連して逮捕された赤尾敏大日本愛国党総裁の拘置請求に対して、殺人と殺人未遂教唆については証拠が薄いとして拘置を認めず、結果を聞いて引き揚げようとする新聞記者団をわざわざ呼びとめて記名会見し、「風流夢譚」は皇室に対する名誉棄損で、政府、国会は対策を立てるべきだ、政治テロは安保闘牛の集団暴力に原因があるので、立法措置によってこれらの集団暴力を取り締まるべきだと、わざわざ新聞記者会見をして発言をし、そして今回このような事態になった人であります。そういう一連の経緯の中から見まして、私が昨年法務委員会で取り上げたこの「裁判書広報」といもの、それからそれに関連をいたしまして「旬報カレント」、これがきわめて徹底した反共右翼の雑誌でございますが、それを公費で、裁判所の費用で購入して全員に配付しておったこと、それから、この「裁判所広報」なるものが、本来的に人事だとか裁判所の機構の変化とか、そういうものが前面に掲載されて、一番最後に雑文がまあ潤いの立場で掲載されるならばまだしもであるが、いかにも裁判所の所長が麗々しく「展望」何々と称して、いま一端を御報告になったのでありますが、当時私が読み上げたのは、「この戦争で戦ったどちらの国が正しくて、どちらの国が不正であったかは容易に判断できない。大極的に見れば、戦争責任は日米英あまり違わないと云うべきである。」「日本国民は植民地化されたアジアの諸国民に深い同情を寄せて、日本の米英に対する自衛的戦争の機会に、アジア諸国を植民地の束縛から解放しようとしたもので、植民地解放戦争の性格をもっている。」それから、「米英は世界第一級の富強な大国であった。米英が、国経済協力と植民地独立の音頭をとっていたならば、あるいは大東亜戦争は起らなかったかもしれない。要するに東京裁判は極めて皮相的、感情的であって殆んど裁判という名に位しないものであった。」等々、もう枚挙にいとまないのです。このような論旨というものは全く人間的にもいかがかと思いますけれども、事裁判官として自分の真情を吐露したものを「広報」という一番公式なものの前面に掲げてやる心理というものは、全く私はわからぬ。この人はおそらくこの心理をいまもって私は持っておると思うのであります。この持っておる心理、自分の人止観、人間観、戦争観、社会観というもので必ず判決をなさっておると思うのであります。そうでなければおかしいと思うのであります。いまこの心理は書かぬということにかりになっても、そのついて離れない人生観なり社会観、政治観、戦争観というものは、私は裁判官の名に値しないと思うのです。しかし、あのとき私が明白に言ったのは、「広報」の冒頭にかくのごときことを書くということは言語道断である、直ちに執筆を禁止さるべきだ、それから裁判所の費用で反共右翼雑誌、カレント」を大量に購入して職員に配付をしているということは言語道断である、直ちにこれをやめるべきだという二点を強調したのです。しかるところ、いまあなたのお話のように、この衆議院の中で私が法務委員会におりましたら、ちょっと懇談をしたいというので、別室で懇談をいたしました。いま私は、そういえば、記憶にそんなにさだかではありません、あなたのように私はメモを持っていないから。けれども、私があのとき納得したということは、少なくとも私の主張がいれられたと思っておる。「カレント」はもう買わない、執筆禁止になったということに私は納得しておるのですよ。あなたのようにメモを持ってないから、私は何ともよう言わないけれども、普通のことなら響いてよろしいとかなんとかということは、私のものの考え方として、かくのごとく書く人は、いまシューベルトを書く、べートーベンを書くといったところで、必ずペンというものは自分の本心に返る。それが証拠に、十一号に、労働組合に関し、「裁判所の防衛について」と称して、全司法労働組合は云々というような書き方というものは、もはや衣のそでからよろいが出てきた、こういうふうに私は考えておる。いわんや、反共右翼雑誌の「カレント」は、購入方法を変えてまだ配付されておると私は報告を聞いておる。全く言語道断ではないか。こんなばかなことを、あなたは、方法さえ変えて職員に配付されるならば、これは認めていいというのでありますか。少なくともあなたは誠意をもって善処すると言われ、それから高等裁判所の長官も本人を呼んで説諭をして善処さるべきだということになったじゃありませんか。いまあなたの話を聞いてみると、べートーベンならいいじゃないか、裁判所の防衛ということばはちょっとていさいは悪いけれども、まあこれもいいじゃないか、それから「カレント」は、お話がないけれども、別に公費でなければいいじゃないかというような雰囲気のように思われるのでありますが、もう疑いをかけられる、誤解を生ずるということを避けなければならない裁判所の機構、運営において、これは何といいますか、なまぬるいふろの中に入ったような処置のしかたで、私は断じて承知ができない。すみやかにこれは改めて、「裁判所広報」というものはそういうような私見を書くべきところではない、雑文を書くところではない。「裁判所広報」は必要不可欠のものに限って、本人は執筆を禁止される、明白にこの際処置をされたい。
  23. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 私が先ほど従来の経過を申し上げましたのは、猪俣委員から、裁判所が何ら手を打たない、こまぬいて何事もしないのか、それでいいのかというお尋ねがありましたので、これはどうしても従来の経過を申し上げざるを得なかったわけで、別に他意のあることではございません。メモをたまたま持っておりましたが、あのメモは、三十八日に開かれる予定であった委員会でも申し上げようと思って持っていたもので、そして横山委員はお気づきなかったかとも思いますが、私はメモを手にしながらお話いたしたわけでございます。ただそれだけのことで、ほかに何ら他意はございません。したがいまして、絶対に「展望」に執筆しないということをお約束したこともなく、また、高裁長官もそういうふうに飯守所長に注意を与え勧告したわけでもございません。そういう、職員に一方的な政治的教育を施しておるという疑念を持たれるようなものは今後書いちゃいけない、そういうことを高裁判長から注意して、そして現在に至るまでそれが守られておる、そういう次第で、裁判所としても何ら放置していたわけのものではないということを御理解願いたいと思います。
  24. 猪俣浩三

    猪俣分科員 もう一点で切り上げまして、法務省お尋ねいたしますが、ただ、いま横山委員が言われたように、飯守裁判官については、かつて弾劾裁判所法に基づく訴追委員会の問題となって、訴追委員会に召喚せられて取り調べられたことがあることは、あなたは御存じであるかないか。
  25. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 そのことは十分承知いたしております。
  26. 猪俣浩三

    猪俣分科員 さような人物であることを前提といたしまして、十分裁判行政上注意していただきたいのです。また起こるかもしれませんよ、こういう態度を変えませんと。それだけ私は御荘意申し上げてやめまして、あと法務大臣にお尋ねいたします。  本日の新聞を見ますると、昨日の日本学術会議の総会に、学問・思想の自由委員会の委員長の宗像誠也東大教授がこういう報告をしておるのです。これは法務大臣もひとつ御記憶になっていただきたいのです。これは、公安調査庁の長官もお見えになっておられると思いますので、あとでお尋ねいたしますが、明治百年記念事業について、明治憲法的な秩序の礼賛、軍国主義内傾向の復活、右翼的潮流の助長になるおそれがあるので警戒を要するという報告をしたのでありますが、それはまだいいといたしまして、同委員長は、明治百年記念事業に対して批判的な発言をした学者や文化人に対して、右翼団体と思われるものから、いやがらせ、おどし、面会強要、呼び出しなどが執拗に行なわれている事実をあげ、このような事実は、学問・思想の自由にとって、きわめて憂慮すべき事態と考えられると報告したのであります。それとあわせて、公安調査庁の「内外情勢の回顧と展望」と題する報告の中に、「昭和四十三年の明治百年を目標とした昭和維新断行のための、右翼関係団体の諸活動が顕著になろう」というふうに書いてある。これを宗像教授は引用して、この学問・思想の自由委員会から報告しておるのであります。一体こういう傾向に対して法務省としてはどういうふうに認識せられておるか、御意見を承りたい。
  27. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 いまお話の、明治百年の記念事業というものを、非常に盛大な、内容のあるりっぱな事業としてこれを打ち立てていくということは、たいへんよいことであると考えるのであります。しかしながら、いやしくもこの事業を立案し、その事業を遂行していきます上に、どのような角度から見ました場合でも、いやしくも時代の右翼化などというような傾向にこれが移行いたしますことは厳に警戒すべきものである、また政府は、いかなる事情がありましても、どのような角度からもそういうおそれのないように今後は十分注意をしていきたい、こう考えるのであります。
  28. 猪俣浩三

    猪俣分科員 公安調査庁長官お尋ねしたいと思います。  公安調査庁の「内外情勢の回顧と展望」、これは私は実は見ていませんので、宗像さんが報告されたそのことばで申し上げるのですが、その中に「昭和四十三年の明治百年を目標とした昭和維新断行のための、右翼関係団体の諸活動が顕著になろう」という報告があると宗像さんが報告されたのですが、さような報告があるといたしますれば、その具体的な話を当国会に御報告して――いま法務大臣はそういうことに対しては十分に注意をなさる御方針のようでありますが、もっと具体的に御報告を願いたい。学者にかような嫌悪あるいはまた恐怖の念を抱かしめるようなことは、これは重大問題だと考えます。公安調査庁はすでにこういうふうな展望を持っていられるとすると、具体的な事実をつかんでのお話だと存じまするので、その点を承りたいと存じます。
  29. 吉河光貞

    ○吉河政府委員 明治維新百年祭につきましては、数年前大東塾の影山正治氏その他がこの点を取り上げまして、維新の偉業をしのび、国民精神の振興をはかるというような趣旨でこの行事をやるべきであるというような主張をされまして、自来、右翼諸団体の中では、これに同調いたしまして同じような主張を繰り返す向きがだんだんふえておるような状況でございます。しかしながら、どのような趣旨、目的、規模、内容でこの記念行事をすべきかというようなところは、まだ現実的に具体化されておりませんので、私どもといたしましてはその動きを十分注意して見守っておるというようなところでございます。  御案内のように、ただいま大臣からも御答弁ございましたが、政府におきましては、昭和四十一年三月十五日、明治百年記念は記念事業をやることを閣議了解されておられるのでございまして、越えて同年四月十五日、百年記念行夢準備会を設置するというような閣議決定がなされておるように承っておるわけでございます。ところで、右翼団体が政府のかような措置に対してどのように具体的な働きかけをするかというような点については、まだ具体的な働きは認められないのでございますが、私どもといたしましては、このような点にも十分注意しておる次第でございます。  これとは別に、最近右翼陣営は非常な政治的危機感を持っておるように認められるのでございます。それは、昭和四十五年における日米安保条約存続問題をめぐりまして左翼勢力と対決しなければならぬというような、非常な危機感を持っておるように認められるのでございます。これは遺憾ながら、日本共産党の野坂議長が、数年前に、昭和四十五年は安保条約の存続をめぐり政治的決戦の時期であるというような演説をされました。その後日共本部におきましても、政治方針として、この時期が大きな政治闘争の焦点の一つであるというようなことを言われました。これがため、右翼陣営におきましてはこういうことに刺激されまして、左翼と対決するというような政治的危機感を抱いておるやに認められるのでございまして、これがため、右翼陣営におきましては、その事前の措置といたしまして、国家維新を断行してこれに対決すべき政治体制を整えなければならない、昭和維新を断行しなければならぬというようなことを言われておるわけでございます。その時期を右翼は昭和四十三年の明治百年に当たる時期を選んで行なうべきであるというような主張もぼつぼつ見られておるわけでございます。しかしながら、かような昭和維新といい、国内革新という具体的な内容とかその手段、方法というようなことについては、まだまだ少しも具体化されておらぬ。一つの思想上の主張、その中に盛られておる日本国憲法の改正にいたしましても、その具体的な内容は必ずしも明らかではない。要は、旧憲法の精神に返るというような主張が見受けられる程度でございます。私どもといたしましては、しかし、かような右翼の動きにつきましては十分注意して、その具体的な動きを見ていきたいと考えておるわけでございます。ただいま猪俣委員から御指摘になりました公安調査庁発表の「内外情勢の回顧と展望」、昭和四十二年一月付の報告書類にもこの点をうたっておるわけでございますが、これはあくまで明治百年祭の記念行事とは別個の問題として、右翼陣営が昭和四十三年の明治百年を期して昭和維新を断行したいというような思想上の主張を繰り返しておる、この主張が次第に高まってくるような動きがあるということを報告しておるわけでございますが、しかし、現在の段階におきまして、これを非合法な手段をもって行なうというような言動をまだ見えておりません。かような程度でございますので、私どもは今後の動きにつきまして慎重に注意し、調査を進めていきたいと考えておるわけでございます。
  30. 猪俣浩三

    猪俣分科員 私の持ち時間がきたようでありますから、簡単に質問を打ち切りたいと思いますが、なお長官にお尋ねいたしたいことは、赤尾敏という男のやっております愛国党、これは破防法の対象になっている組織であるかどうか。  それからいま一つ、大日本殉皇会なる右翼団体があるかどうか、それを簡単にお答えいただきたいと思います。
  31. 吉河光貞

    ○吉河政府委員 ただいま御質問の大日本愛国党は、破壊活動防止法に基づく調査対象団体として調査を進めております。この団体は、旧建国会の会長であった赤尾敏が総裁となり、反共を標榜いたしまして昭和二十六年十月ごろ結成された、非常に行動性の強い団体でございます。日教組批判とか原水禁世界大会反対とか、米原子力潜水艦寄港賛成など、時局問題をとらえて活発な宣伝活動を展開しておるような状況でございまして、しばしばその党員の中には暴力的な事犯として検挙をされておるというような事実もございます。現在支部組織を持っておりまして、構成員は約百数十名に及んでおります。かような団体でございますので、厳重にその動向は警戒して調査を進めておる次第でございます。  また、ただいま御賛同になりました不敬言動審査会でございますか……。
  32. 猪俣浩三

    猪俣分科員 いや、大日本殉皇会です。これはあとで御報告いただくことにいたしまして、お調べになっていただきたいと思います。
  33. 吉河光貞

    ○吉河政府委員 これは調査対象団体ではございませんが、大日本殉皇会は、昭和三十六年の一月に、神奈川県大磯町で、小早川貞夫と申す者が会長となりまして、天皇を、現神と申しますか、現人神と仰いで、皇国を害する一切の勢力を討滅するということを信条として結成された団体でございまして、会員約四十名というように把握しておる次第でございます。従来の活動は、おもに機関誌紙、ビラなどを通じまして反共、憲法改正などを主張いたしました。文書の上ではかなり激しい宣伝をいたしておるようでございますが、実力による抗議行動とかあるいはそういうような実力的な行動は現在まで見られていないような状態であります。この団体は調査の対象団体ではございませんが、要注意の団体としてその動向については十分に注意しておるわけでございます。
  34. 猪俣浩三

    猪俣分科員 最後に法務大臣にお尋ねいたしまして私質問を終わりたいと存じますが、いま公安調査庁の調査目標になっておりまする大日本愛国党ですか、この赤尾敏なる者が、都知事選挙に際しまして、美濃部氏に対して身辺に危険が起こるようなことを公言する、この問題、及び、いま宗像東大教授が報告したように、学者や文化人に対して、とにかく右翼団体と思われる者がいやがらせ、おどし、面会強要、呼び出しを執拗にしておるのみならず、いま申しました大日本殉皇会なる団体から宗像さんの自宅まで抗議文がきておる、こういう報告を宗像さんがなされておるのでありますが、一体、この赤尾敏が公衆の面前で美濃部氏に対しまして放ちました暴言、これに対して検察庁はいかなる態度をとっておられるか、及び、こういう面会強要あるいはいろいろな脅迫めいた活動が行なわれておることに対して、公安調査庁はじめ検察庁としてはどういうふうな取り締まり方針でありますか、法務大臣の決意のほどを聞きたいと思います。
  35. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 赤尾発言でございますが、この問題は、先生御承知のごとくに、別個に告発が出ておる次第でございます。そこで、告発以来、慎重の中にも十分の手配をいたしまして、発言当時の選挙管理委員会の職員及びその周辺におりました現職の警察官約十名について取り調べをいたしており、なお検察当局において取り調べの最中でありますから、詳細なことを申し上げる段階でないことは遺憾でございますが、これはあくまでも慎重、厳重なる取り調べをいたしまして、御要望に沿うように、公正な結論を出したいと考えております。  それからもう一つは、おことばのあの宗像報告でございますが、いやしくも思想の自由、学術研究の自由というような事柄を侵害するような言動があります場合には、これは厳重な処置をせなければならぬものと心得ておりますので、告発等の有無にかかわらず、法務省には、いまおことばのごとくに公安調査庁があることでございますので、ここを通じて目下調査をいたしております。その調査の結果を待ちまして、行き過ぎのあります場合においては、告発、告訴の有無にかかわらず、これに対しては公正なる処置を講じたい、こういう決心でございます。
  36. 猪俣浩三

    猪俣分科員 終わります。
  37. 鈴木善幸

  38. 横山利秋

    横山分科員 先ほど同僚委員質問中でございましたから、私の意見を保留しておいたわけでありますが、事務総長にお伺いしますけれども、こういう裁判官というものは、ソビエトに行けば、日本帝国主義の手先であったと述懐し手記を書き、日本へ帰ってくれば、あれは帰るための偽りの手記であったと書き、訴追委員会で裁判され、そうして裁判官になれば、かってなことで国民を惑わし皆さんからおしかりを受けることを書き、しかられたら、今度はベートーベンを書く、抑留中の問題としてベートーベンを書くなら、むしろ、私はなぜあのとき洗脳の手記を書いたかという自己批判をしてこそ真実に迫る手記になると思うのでありますが、いまここであいまいにあなたは問題をなおざりにしようと思われるようでありますが、そういうことは適当な裁判官だと思いますか。人格識見とも国民の師表として公正な裁判をなさるにふさわしい裁判官だとあなたは思いますか。
  39. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 決して私はこの問題をあいまいに片づけようとは思っておりません。昨年から終始誠実な態度で事に当たっております。このことをまずお断わりいたしておきます。  それから、ただいまお尋ねの、要するに飯守判事の人間の問題あるいは思想の問題ということになりますと、これは裁判官の適格性の問題になりますので、この席でわれわれ事務当局からとやかく意見を申し上げる筋合いのものではないと思います。裁判官として適当かどうかということについては、おのずから国法に従った手続がございますので、こういう席で申し上げる筋合いではない、私はさように考えます。
  40. 横山利秋

    横山分科員 それならば、あなたのなさるべき範囲、権限、あるいは国会の意見に基づいて、少なくともあなたは、御報告がないのですが、「カレント」ですか、それをあいまいな別な方法で購入させて読ませておるという事実がありましたならば、それは処置をなさいますか。また、私どもが指摘をいたしますように、いまは書かない、しかし、こういう人であれば、いつ書くかもしれぬ、しかも「裁判所広報」というものは、そういうものを書くべき筋合いのものではない、疑いをかけられることであるならば、この際執筆を差し控えたがよいという私ども意見をあなたはどう思いますか、あらためて所見を伺いたい。
  41. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 「旬報カレント」は、当時問題になりまして、先ほどお答えするのを忘れておりましたけれども、初めは何か庁費かなんかで買っていた時代があったそうでございますが、現在ではただ寄贈を受けている、それを配付している。(横山委員「配付せぬでもいいじゃないですか」と呼ぶ)そこは、配付するしないは、そこまでわれわれとしては一々指図する筋じゃないと思いますが、とにかく現在は寄贈を受けている、そういうようなことのようでございます。  それから「広報」にはああいうものを載せるべきじゃないじゃないかという問題でございますが、これは確かに、ある特定の片寄った政治教育を施しておるというような論説は載せるべきじゃないと思いますので、その点がまさに問題になりまして、その点を厳重に気をつけてほしいということを、先ほど申しましたような経緯で本人にも伝えまして、それで現在の状況となっているわけでございます。もしかりに万が一逸脱するようなことがあれば、それはそれとしてまた考えなければならぬ問題である、かように考えております。
  42. 横山利秋

    横山分科員 ものごとは折り目が大事ですよ。これが法務委員会において最初のこととして処理をされたならばまだしもだ。けれどもその後もあなたは、ベートーベンだからいいじゃないか、裁判所の防衛だからいいじゃないか、寄贈を受けたんだから、配付したんだからいいじゃないかということでは、折り目が全然ありませんよ。これが、この飯守さんは初めてこういうことをした人ではないわけですね。経歴のある人です。過去の。だからこの際、折り目をとったやり方をしなさいとおすすめしているのです。どうしてもあなたは、それを逃げ回るといいますか、ことばは悪いのですが、そういうことをなさるということは適当ではないと思います。これだけ問題になっておるのですから、一回折り目をつけて、誤解を与えることは一切やめなさい。寄贈を受けたから、ただだから、何でもあなたは配付をいたしますか。こういうものを買ってはいかぬ、反響を呼ぶ雑誌を裁判所で買って配付をしたことが問題になった。しかしながら、今度はただでくれたんだから配ったっていいじゃないか、そういう理屈はここでは通りませんよ。この際折り目をつけるべきだとおすすめをしますが、どうです。
  43. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 はっきり折り目をつけるということはまことにそのとおりです。さればこそ去年来この問題についてわれわれもいろいろ考えて、(横山委員「不十分だと言っています。」と呼ぶ)そうしてこの前に疑いを受けたようなものは載せない、そういうことで一応の折り目はついておると思います。それから裁判所には各方面からいろいろな雑誌やその他の寄贈がございますので、それをどう処理するかということは、これはそれぞれの各庁にまかされておる事柄である、かようにお答えをする以外にないと思います。
  44. 横山利秋

    横山分科員 きわめて私はあなたの答弁を不満とします。おそらく聞いていらっしゃる人も何か不自然なお気持ちをお考えだと思うのでありますが、これ以上はきょうのところは言いませんけれども、あなたの御答弁は全く私としては不満きわまるものであります。  私は、外国へこの前行きましたときに、ある最高裁判所のとびらに「正義の判決あるところ戦争なし」という名文句を見ました。私は、ただにそれが戦争ということだけでなくして、社会の秩序、社会の平和、家庭の平和、すべてに至る意味において戦争ということばにとらえてみたのであります。いまこの戦争理念の違うといいますか、大東亜戦争の観念の違うというような人が日本裁判官として仕事をしておって、そしてその判決が、もちろんそのままなまでそれが反映するものではないにいたしましても、これの影響するところきわめて心配をいたしておるわけであります。多くの裁判官のうちで大多数の人がりっぱな裁判官であろうと思いますが、この飯守裁判官、これを私はイデオロギー的裁判官だと名づけておるのであります。  今度はうっかり裁判官立場について伺います。報ずるところによりますと、浜松の話でありますが、裁判官判決公判で懲役一年四カ月と言うのを誤まって懲役四カ月と言い違えた。うっかり裁判のやり直し公判は九日、静岡地裁浜松支部で開かれ、猥褻図画公然陳列罪の浜松市バー経営者藤田なる者に対して永淵判事があらためて懲役四カ月を言い渡した。これによりますと、一年四カ月と言い渡すべきものをうっかりして四カ月と言ってしまった。けれども、もう言った以上は仕方がないというわけで、そのまま四カ月になっておるというのでありますが、この事実は一体どういうことでございますか。
  45. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 この問題は、あるいは所管刑事局長からお答えするのが筋かとも思いますが、私も新聞、それから簡単な報告程度しか存じておりません。民事裁判は、御知承のとおり判決原本に基づいて言い渡して、そうしてその謄本を送達することとなっております。刑事裁判は、言い渡しのときには判決文ができていなくても原稿、草稿でよろしい。そうして法廷で言い渡したそのものが判決になる。そういうたてまえになっております。したがいまして、原稿に一年四カ月と書いてあるのを間違って四カ月と言ってしまえば、裁判官の口から出たそのことばが判決になります。やはりうっかりそういうことを間違いをおかしたということは間違いないと思います。裁判官がそういう間違いをおかした場合に、今度どういうあれをしたらよろしいか、これは確定前ですと検察官の控訴ということもございますけれども、確定してしまえばもうそれきりのものとなってしまうわけで、是正の道はなくなるわけでございますが、そういう間違いをおかした場合に裁判官がどういう責任をとるかということは、これはまた別問題で、あるいは分限の問題とかそういう問題が、これは別個の問題として起こり得る、かように思います。
  46. 横山利秋

    横山分科員 あきれ果てたことだと私は考えます。これによりますと、うっかり判決してから、不審に思った検事が念を押したので誤りに気がつき、退延して廊下に出ていた被告を呼び出して、あらためて植村判事が懲役一年四カ月を言い渡した。ところが被告は、言い直しは無効だと東京高裁へ控訴して、控訴も昨年末、被告の言い分を認め四カ月の判決をした。こういうことが世の中に、裁判所にあるということですね。さっきのイデオロギー的裁判官も全くけしからぬ話だと思いますが、うっかり判決も、一体これで法の威信が保たれるだろうかと私はふしぎに思うのであります。一体この判事はどういう処分がなされたのですか。
  47. 矢崎憲正

    ○矢崎最高裁判所長官代理者 その問題につきましては、ただいまいろいろと検討をいたしておる段階でございます。十分に調査いたしまして、いかようになるか、その上のことと相なるものと存じます。
  48. 横山利秋

    横山分科員 十分に調査すると言ったって、いま事務総長が言っているように、きわめて理非曲直は明らかです。問題の所在は明らかです。もうすでにこれはどれだけたっているのですか、去年の七月ですか、もうかれこれ長い期間たっておるのに何を調査するのですか。うっかりとはどういう心理であったか、なぜ忙しかったか、なぜというようなことを調査をしておるのか、どういうことを調査をしていらっしゃるのですか。
  49. 矢崎憲正

    ○矢崎最高裁判所長官代理者 この点につきましては、裁判所側、検察庁側等からそれぞれその事情につきまして調査し、また高裁の判決等について調査した上で慎重に事をきめたい、こう存じておるわけでございます。
  50. 横山利秋

    横山分科員 何をもぐもぐ言うておられるのかよくわからぬのですけれども、これは事務総長、あなたの御答弁が簡潔にあったとおり、うっかりやった、うっかりがどういう心理であったか、どういうことであったかによって、処置が違うのでありますか。こういうことはままあることでございますか。
  51. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 こういう例はめったにございません。しかし、絶対皆無だとも申せません。御承知かどうか、戦前に大審院ですら間違った判決をしたことがあるのでございます。そういうときにはそれぞれの手続によって責任をとらされております。今度の裁判も、去年の問題でありますが、われわれの耳に入りましたのはごく最近で、それで人事局長が目下慎重に経過を調査しておる、そういう状態でございます。
  52. 横山利秋

    横山分科員 だいぶ前のうっかり判決がごく最近に耳に入ったということもふしぎなことだと私は思うのでありますが、このイデオロギー裁判官に今度はうっかり裁判官、今度はだらだら裁判の話になるのでありますが、ここにありますのは、まあ同僚議員でありますが、参議院の全国区、豊田さんの公選法違反事件、三十七年六月の参議院選挙の事件ですが、一審だけでも起訴以来すでに四年半もかかっておるというわけですね。公選法では百日以内にすることが必要になっておる。こういうだらだら裁判というものはどういうことになるのですか。判決がおりたころには、もうそのうちには判決がおりるでありましょうけれども、おりたころにはもう任期が終わっておりますね。だらだら裁判についてどういう措置をおとりになっておるのですか。
  53. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 いわゆる百日裁判というものが条文どおり行なわれていないという事実はまさに御指摘のとおりで、ただいまおあげになった事件もだいぶ時間がたっておるようでございますが、しかし、概して選挙違反事件というものは日数がかかるということはこれまでの実例が物語っておるわけでございます。特にそういう選挙違反事件審理につきましては、裁判所だけがやっきとなっても手続が進まない場合もままあるわけで、やはり当事者の協力が足りないと、そのために時間をむだにし、エネルギーをロスする。これは当事者としてみれば、事件を長引かせておけばまた都合がいいという場合もなきにしもあらず、それと裁判所訴訟指揮の力との問題となるわけでありますが、その事件がどういう経過をたどって、何がゆえにこんなに時間をかけておるか、ちょっと本日は急のことで、私、資料を持ち合わせておりませんが、もし所管局長のほうで何か資料があったら――資料を持っておるそうですから御説明させます。
  54. 横山利秋

    横山分科員 公職者には任期というものがある。その任期一ぱい裁判を長引かせれば法律効果、裁判効果を失う。だから公職選挙法には百日というやや訓示めいた規定ではあるけれどもつけてある。しかし、実際の裁判はその公職選挙法の趣旨はまるきりといっていいほど効果をなからしめておる。これは政治的にきわめて重大なことではないか。最高裁の調べを私が入手した数字によりますと、一審における公選法違反の一人当たり平均審理期間は、三十九年で十二・七カ月、四十年が十九・六カ月、延びるばかり。平均四十五日で審理が終わるアメリカとは比較にならぬ。しかも一審ばかりでなくて、二審、三審となれば、これは全く裁判効果はないではないか、まるっきりこの公職選挙法の意思はないではないか。何とかこれは裁判の公平、その罪に対する国民すべての公平的倫理からいっても、もちろん私も裁判所だけが悪いとは言わないが、何か方法考えるべきではないかと思うのでありますが、事務総長並びに法務大臣、御意見ありませんか。
  55. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 選挙関係事件が長引くということは、これは前々から指摘され、裁判所のほうでもいろいろ問題点を研究しておるわけでございますが、また近く刑事裁判官の会同が開かれまして、その席でも選挙違反事件処理について問題点を討議することになっております。それから百日裁判と申しますのは、御承知と思いますが、すべての選挙違反事件がいわゆる百日裁判ではなくて、ある特殊の場合についての、つまり当選に関係のある違反事件、出納責任者とかそういう人たちの――そういう特殊の事件について百日裁判という規定があるのでありまして、選挙違反事件全部が百日以内に処理しなければならぬという趣旨のものではございません。  なお、具体的な事件につきまして刑事局長資料を持っておるようでございますから、説明してもらうことにいたしたいと思います。
  56. 佐藤千速

    佐藤最高裁判所長官代理者 公選法違反の事件審理につきましては、御指摘のとおりまことに審理が長引いておりまして、特に百日で審理すべきことが要請せられておりまする事件におきましても、それが必ずしも守られていないということにつきましては、まことに遺憾に考えておる次第でございます。その理由は多々ございますけれども、問題は、裁判所のみならず、検察庁及び弁護士会の協力を得まして、具体的にいかに遅延を解消するかという問題に帰すると考えておるわけでございます。そこで、先ほど総長からもお答え申し上げましたように、来たる五月の下旬に公選法違反事件迅速処理につきまして、刑事裁判官の中央会同を開催することを計画いたしておるわけでございまするが、それを機会といたしまして、迅速処理について具体的な方策をそこで検討いたしまして、意見が合致いたしまするならば、できるものから具体的な方策を逐次実施していくというふうに考えておるわけでございます。これは昭和三十四年におきましても、公選法違反事件審理の促進につきまして、具体的な方策について申し合わせがなされまして、それに基づまして検察庁及び弁護士会の御協力をお願いしたわけでございまして、一般的なるそういう趣旨におきましてはもとより異存はないのでございまするが、個々の事件の取り扱いということになりますると、まだ十分でない点があることは否定できないのでございます。そこで具体的な方策というもの、過去におきましてどこにその遅延の原因があったかということ、それを解消させるにはどうしたらいいか、こういう具体的な事柄につきまして、会同におきまして検討を加え、意見一致したものから、当事者の協力を得まして強力に実施していきたい、かように考えておる次第でございます。
  57. 横山利秋

    横山分科員 大臣、御意見ありませんか。
  58. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 ただいまの公選法違反被告事件の迅速審理の問題でございますが、これは訴訟関係人の一翼をになっております検察といたしましても大いにこれに力を入れまして、そして訴訟の促進の実をあげるように努力していきたいと思います。  ただ、ありのままに申し上げますと、検察の立場でございますが、ものによりましては百日以内で裁判を行なうということの困難なものが事実上あろうかと存じます、非常に複雑なものにとりましては。そういうものは例外といたしまして、おことばのごとくに、全体として、百日審理をせよという御趣旨には沿わぬ結果になっておるものと反省をする次第でございます。今後十分に訴訟関係人の立場でこれに協力をして、その促進の実をあげていきたい、こう考える次第であります。
  59. 横山利秋

    横山分科員 私がうっかり裁判、だらだら裁判、イデオロギー裁判官等をあげております理由はあとに申し上げますが、問題をひとつ変えまして、本年の一月十八日、約十八年間にわたった拘置所生活をついに終わって、三鷹事件の竹内被告が死亡をいたしました。御存じのように最高裁判所判決は八対七、一票の相違で死刑が確定をいたしまして、本人は無罪を叫びあるいは特赦を要望し、それに対してまさに数十万の署名運動がなされておる過程に、竹内被告はついに生涯を終えたわけであります。その竹内被告の死亡前後のいきさつにつきまして、私はあらためて法務省にただしたいことがあるのです。  簡単に申しますれば、竹内被告に国会議員として会ったのは私一人だと竹内君は言うておったわけでありますが、拘置所における重罪犯罪人の扱い、特に病気になった者の扱いについて欠くるところがあるのではないか。私の調査いたしましたところによりますと、東京拘置所は、竹内君の頭が痛いと言い始めたときの印象を拘禁反応の疑いとしておって、その処置についてなおざりになっておったきらいがありはしないか、周囲の者は、面会をいたしました者は、医師をも含めて、これは脳腫瘍の疑いがあるということを強く叫んで、そして専門医を呼ぶこと、それから重病になったらひとつ寝具その他に十分な措置をとること、場合によれば外の近くの病院に移して完全な看護をしてもらいたいこと、こういうことを要望いたしたにかかわりませず、その拘禁反応の疑いという考えを最後まで変えませず、年末年始のこともございましたけれども、あるいはもちろん竹内君は死んだかもしれぬ、そうしてあっても死んだかもしれませんけれども、措置について不十分な点があったのではあるまいか。なるほど死刑囚ではある。しかし、死刑の執行と病気による死亡とは厳に区別さるべきは当然なことであり、一人の命は地球よりも重いといわれておるのでありますから、囚人であろうと被疑者であろうと、その看病なり病気に対する措置に欠くることがあっては断じてならぬと思うのであります。この点につきまして、診断の誤診と言い得るかどうかわかりませんが、最後まで東京拘置所なり法務省が拘禁反応の疑いという判断をしたことについて責任がある、こう考えるのでありますが、いかがでございますか。
  60. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 そういうふうにお考えをいただくこと、まことに自然であると思います。私は、竹内君の霊に対してまことに冥福を祈る心持ちでこれをお答えをするのでございますが、決して本件について言いわけをしようという心持ちはさらにないのでございますが、ありのままに御報告を申し上げますと、十二月三日であったと報告がきております。昨年の十二月三日に頭痛がする、頭が痛いということを訴えてまいりました。そこで、いま先生のお話しのごとくに拘禁反応ではなかろうかという一応の推測をいたしましたことは事実でございます。そこで、いやしくも重大な身上の人でもありますので、これを東京医科歯科大学の付属研究所の中田博士、権威のある大先生でありますが、中田博士の診断を求めました。診断を求めました結果、拘禁反応の疑いもあるが、どうしてもこれは精密検査をしてみなければならないとの結論になりました。そこで精密検査をしたいということを本人にずいぶん念を入れて申し聞かしたのでありますが、本人は、この精密検査を拒否するという残念な結果になりました。本人が拒否をするというものでございますから、これは手の打ちようございませんので、続いて、御承知相当充実をいたしております医療刑務所が八王子にございますので、その八王子の医療刑務所にからだを移しまして、そしてここで診察を続けました結果、脳神経の腫瘍である。一口に申しますとガンでございましょうが、脳神経の腫瘍であるということの判断が下りまして、ついに気の毒な結果になってしまったという事情が事の真相でございます。診断を誤ってそういう結果を来たしたものであろうということには、まことに申し上げにくいのでありますが、そうは私が判断をできない状態でございます。手は尽くしてみたがどうにもならなかった、こういう結果であるものと御承知をいただきたいのでございます。
  61. 横山利秋

    横山分科員 私は詳細な報貨を受けておるわけでありますが、手を尽くしたがどうにもならなかったという大臣の報告とはいささか見解が異なるのであります。それは、少なくとも本人は拘禁反応ということが十八年たってから起こるということは、私もしろうとでありますけれども考えられないのであります。頭が痛い、そして本人が精密検診を受けることを拒否したという二つの点は矛盾するわけであります。病人でありますから、精密検診を受けないというても、手をかえ品をかえ、友人をあるいは家族を含めて説得をする、そしてみんなでとにかくやらせるということが必要でありますが、家族その他の者に対し、東京拘置所は一線を画して、最後には、それはもういよいよ危篤になったからということで、そのとびらを開いたようでありますけれども、一線を画して、あくまで東京拘置所並びに法務省だけで処置しようとなさった。病舎に移されましたのが危篤状態になってからであります。これなども私は考えなければならぬことではあるまいか。これだけ重要な竹内君でありますから、その病気がどうにも判断ができない、しかも本人は頭痛がする、いろいろな問題を訴える、食事もあまり進まないということになれば、当然病舎に移して、そして家族にも会わせ、意見も聞き、やらせるべきが人情ではないか、法律以前の問題ではないか、こう考えるのであります。私が東京拘置所へ参っていろいろ話を聞いたのでありますが、これは最高裁、裁判官を含めてすべての問題にも共通するわけでありますが、やはり常駐のいい医者はおりませんね、そう言っては失礼でありますが。そういうしかけになっておる。東京拘置所をはじめ全国の刑務所に働く人についても、その質、その量、これはもう大臣よく御存じのところだと思うのであります。したがいまして、危篤になったならば、これは所内のお医者だけではとてもだめだ。常時のことはさておき、こういう状況になったのでは特別なはからいをしなければだめだ。いままでのありきたりの常識的な判断で、法務省に聞いてくれ、法務省はどこそこの監察医かあるいは検事局に聞いてくれ、かずけ合いが年末年始に相当なされています。責任のある判断をする人が最後の瞬間までなかった。結局、東京拘置所の所長の判断ということになったらしいのであります。かずけ合いもはなはだしいと私は思うのであります。かずけ合いをするという原因一つには、いい医者が所内にいない。いまどなたがいらっしゃるか、失礼な話でありますが、全般的にそういうことであります。そういう収容されておる諸君のための、執行されておる人だからといって、病気や看病やなんかに欠くるところがあってはならぬと思うのでありますが、この際、この経緯にかんがみて大臣、善処の方法を伺いたいと思います。
  62. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 お説まことにごもっともな御意見であると存じます。そこで、所内においての診断だけではいかがかというところから、権威のある東京医科歯科大学の中田博士をわずらわした、こういうことでございます。たいへん言いにくいことを申し上げますと、この診断の結果、精密検査を必要とするという判断になったことは、さすがに私は、しっかりした判断であったと、実はしろうとながら思うのであります。その精密検査に応じてくださっておれば、脳神経のガンといえども、早期発見ができたものではなかろうか。しかし、時間をかけてくどいたのでありますけれども、何としてもその精密検査には応じてくれなかったというところから、ついにやむを得ず、八王子の医療刑務所に移した、こういう事情でございます。しかしながら、詳細は、私が現地を知っておるわけでもございません。報告に基づいてそういうふうに判断をしておりますので、現地を知っております政府委員から、その余の事柄については答弁をさせることにいたします。
  63. 横山利秋

    横山分科員 この御報告を伺う前に、こういう事実が一体あったのか。法務大臣がおっしゃった中田博士――「医師団を代表して中田博士は拘置所の某課長に会見、治療上の具体的問題について話し合いをしようとしたが、課長は「何の資格で来たか、医者が次々に来て困る、中には礼を失した医者もいる、かつてもこういうことがあり、非礼な医者には二度と所内に入れぬことにしたことがある。今度も考えねばならぬ、あんた方は明らかに先入観を持っている。われわれのミスを発見しようとしているのではないか」等と言った。中田博士が「非礼な者とは誰か」と言うと答えられず、カルテを見せてもらえないかとたのむと「公文書だから見せられない」と拒否した。中田博士が「せめて枕もとにカルテとデーターを置いておいて見られるようにしてもらえないか」と言うと課長は「あんたそれを見てどうするのだ」という態度であった。中田博士は重いふとんを改めるよう要求、レキカと毛布数枚を持って来させた。また心電図をなぜとらないかと聞いたところ、「検査人員がいない、昨日は測れる状態ではなかった」と答えたので、「今日はなぜとらぬのだ」と聞くと、「測る予定だった」と言いわけをした。」これが、いま御説明を承るのでありますが、その雰囲気というものが私はわかるような気がする。拘置所としては、自分たちの責任だ、仕事をするのは自分たちの責任だという気持ちに固執し過ぎて、この際、死ぬかもしれない一人の病人に対して、皆さんと協力をできるものならしようじゃないかという気持ちになぜなれないのだ。あなたがおすすめなさった中田博士だったら、そういう人だったら、なぜ拘置所はそういう態度をとらないのかという気がいたします。これが私は、拘置所における今回の問題の考えなければならない一つの最大の問題ではないかと思うのであります。
  64. 武田武久

    ○武田説明員 専門のことでございますので、樋口医療分類課長からお答えいたします。
  65. 樋口幸吉

    ○樋口説明員 ただいま、中田博士の診断に対して東京拘置所の職員が十分資料を提供しなかったというような発言でございますが、少なくとも中田博士には見せたのではないかと思います。それは住田医師のことでは……。
  66. 横山利秋

    横山分科員 中田博士です。医師団を代表して中田博士が行った。
  67. 樋口幸吉

    ○樋口説明員 中田氏は東京医科歯科大学総合法医学研究施設の教授で、医療団とは関係のない人でございます。
  68. 横山利秋

    横山分科員 私の言っている医師団というのは、医師で診断をした皆さんが相談をして、その結果として中田博士が課長に会見をして、こういう状況があって――もちろん最後には見せたですよ。過程のことを言っておる。
  69. 樋口幸吉

    ○樋口説明員 それは中田博士ではなくて、住田医師ではないかと思います。
  70. 横山利秋

    横山分科員 ありません。違います。
  71. 樋口幸吉

    ○樋口説明員 法務省といたしましては、一月早々、中田博士そのほか適当な権威のある医者があればそれに見てもらったほうがいいであろうということを東京拘置所側に勧告いたしました。直ちにその日に東京医科歯科大学の中田教授に見てもらいました。そのときに私は中田教授に電話をいたしまして、こういう脳腫瘍の疑いもあるから、その点は十分診察をしてくれということを申し上げたわけでございます。  その後、本人が精密検査を拒否しているという情報が入りましたので、これはやはり環境を変えて、専門家のいる八王子医療刑務所に移せば、そこで精密診断ができるのではないかということを考えまして、その移送手続をとっておりました最中に症状が悪化いたしました。そこで、すでに脳腫瘍の疑いを持っておりましたので、東大の脳外科の教授であり、脳外科では日本最高権威といわれる佐野圭司教授の診断を仰いだわけでございます。その際は、脳腫瘍であるということは軽々に診断は下せない、脳腫瘍の疑いは十分あるけれども、脳腫瘍と診断するに必要な検査が欠けている、それは脳の血管に造影剤を入れて診察をしたり、あるいは脳室に空気を入れて撮影する、あるいは脳波の検査をするというような、脳腫瘍の確定診断に必要な検査がなされていなかったから、脳腫瘍の確定診断ができないのはやむを得ないであろうという佐野教授のお話でございます。そこで、その後の治療につきましては、佐野教授の指示を仰いで治療をいたしました。佐野教授が診察されましたときには、おそらくもはやあと一日はもたないのではないかということでございましたが、東京拘置所の医務の全機能をあげまして努力をいたしまして、四日以上も生命を保ったのでございまして、これについては佐野教授も、非常に珍しいケースであるということをおっしゃっておられました。  私どもといたしましては、やはりそれぞれの専門がございますので、その道の最高権威にできるだけそういう診断の機会を仰いで、間違いのないようにいたしておりますし、そういうように努力をいたしております。
  72. 横山利秋

    横山分科員 私は、時間がございませんから、申し上げておきたいのでありますが、少なくとも、あなた方が本格的に竹内被告の診断治療に取りかかられるまでにはずいぶん日数がかかり過ぎておる。十二月の初めごろから様子がおかしい、頭痛がすると言い出しておる。それが拘禁反応ではなかろうかということが、ある時期まで拘置所ないしは法務省として一貫したものの考え方で、それが、周囲の者及び部外から行ったお医者さんが脳腫瘍の疑いがあるといって、本格的にあなた方が取り上げられるまでに時間がかかり過ぎている。そして責任のかずけ合いが各法務省内部でやられ過ぎておる。これは遺憾なことだと私は強く指摘しておきたいのであります。今後、拘置所に収容されておる諸君の病状あるいは看護等について格段の措置をとらなければならぬ。  こういうようなことがどうして起こるかということなんでありますが、最近におきまして、いま裁判官の一部の人たちについて指摘をしたと同じように、法務省内部におきましても、ここ一両年あまり感心するようなことがなくて、おかしなことばかり起こっておることは大臣御存じのとおりであります。松山刑務所で、暴力団が入り込んで全く暴力団の天国といわれた松山刑務所になって、女囚のところに男囚が入り込んで、それを刑務所の職員が世話をしておった、お酒やたばこを届けておったということも歴史的な事件でありますが、同町に長野事件であります。あそこの刑務所でも暴力団が入り込んで、そうしてわいろを使い連絡をさせる。仙台の地検でありましたか、昨年マージャン賭博事件が出まして、週刊誌で大騒ぎになる。最近では、警察官の交通事故が各所で続出をしておる。まことに遺憾千万なことが最近において続発をしておる。昨年では、今度は入管にいろいろな問題で汚職が出た。まさに一番法の厳正で身を正すに、余人よりもと言ってはまことに気の毒な話ではありますが、少なくとも率先をして綱紀の粛正をし、そうして裁判官として身を正し、そうして警察官としてあるべき本来の姿にしなければならぬ法務省や最高裁において、かくのごとき問題が連続して指摘されざるを得ないということは、私としてはまことに残念なことであります。これでは法の威信もないではないか、裁判に対する国民の信頼はないではないか。うっかりして判決をした、それが一年四カ月が四カ月であったからいいとは言わぬけれども、かりに逆に四カ月の判決を一年四カ月にして、言い直しはできぬで、それは済まされるものであろうか。そう考えますと、私はこれらの一連の事実というものを根本的にもう一ぺん考え直さなければならぬということではないか、こう考えるのでありますが、法務大臣はいかがでございましょうか。
  73. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 おことばまことにごもっともでございます。十分に反省を加えまして、いまおことばをいただきましたような件は、すべて直接か間接か綱紀の弛緩が原因であるというふうに考えるわけであります。綱紀の粛正に十分心をいたしまして、反省を重ねて、今後はこれを根絶することに向かって努力と苦心を払いたいと考える次第であります。
  74. 横山利秋

    横山分科員 そこで、先ほど猪俣委員がおっしゃったのですが、こういう一連の事実はどうして起こるか、偶発的に、その場所だけで、その人だけに起こったものであろうかどうかという原因の究明をすることが必要であろうと思う。もちろん精神的な面も必要でありましょうけれども、先ほどの裁判官の仕事の過重ということも、やはり問題の一つであろうと思う。私はその意味で、いい悪いは別として二、三の例示をいたしたいと思うのでありますが、裁判官が今度宅調をやめました。いままでは仕事を持ってうちへ帰って、うちで判決を書いておるということがございました。なぜそういうことをするのか、私は、あえて歴史的な経緯があるにしても、裁判官というものは役所で仕事をなさるということが普通であろうと思っているのです。だから宅調が廃止されたことは非常にけっこうなことだが、同時にもう一つ、夏休みというものが裁判官にある。これは国家公務員は年次休暇二十日間ある。特別公務員はそれがない。だから歴史的に裁判官は特別に夏休みをお使いになる。夏になると、何か民事事件刑事事件が減るのでございましょうか。交通事犯が減少するのでありましょうか。言いにくいことではありますけれども、犯罪は日夜を問わない、季節を問わない。夏になればまた夏のような犯罪が激増するのであります。どうして常時執務体制をとれないのでありましょうか。いろいろな過去の経緯がございましょうとも、夏休みもノーマルな状態裁判所はやってもらえぬものでありましょうか。それによって裁判の遅延を解消する方法はないのでありましょうか。これが一つであります。  もう一つは、先ほども話が出たのでありますが、司法研修所という制度がある。毎年五百人ぐらいの司法修習生が入る。五百人入って、話を聞けば、その中で卒業をして判事補になるのは七、八十人の人数である、検察官になるのが四、五十人の人数である、あとの三百八十人ぐらいは弁護士になっていくそうですね。司法研修所に入っている間は二万円ですか三万円ですか、国家が給料を差し上げることになっておる。弁護士という制度、まあ同僚議員も弁護士の方がおるのでありますから、私の発言にあるいは御意見があるかもしれませんけれども弁護士一つの民間の仕事として重要な職ではあるけれども、国家が給料を二年も払って、そうして弁護士を養成して、大学を出てから司法修習生になって、そして国家がまたやって、そして民間で商売させる。片一方は同じ年数をやって判事補、検察官になる。司法研修所というものは、こういう本来の趣旨は一体どこにあるのであろうかと、私はきわめて通俗的であるがふてきに思うのであります。なぜ、国家の機構である司法研修所を卒業した人が判事補になり検察官になるというしかけになっていかないのであろうか。どこの外国に、こういう二年間国家が税金でめんどうを見て、そして弁護士に仕上げられて、はい御苦労さまでした、弁護士を開業してくださいというようなりっぱな制度が、一体どこの国にあるのであろうかとふしぎに思うのであります。人が足りない、裁判官は人が足りない、五百人司法修習生を養成しているではないか。これが第二番目の疑問であります。  第三番目の疑問は、これは裁判官から司法部に働く皆さん、あるいは法務省に働く皆さん全体を通観して思うのでありますけれども、どうしても日の当たらないところに住んでおる人ばかりであります。刑務所へ行きまして、刑務所で働く人を見ると、もう明るい顔をしているという人がわりあい少ないですね。見るからそうかもしれませんけれども社会から隔絶している、住居も隔絶をした状況であります。そういうところへ好んで入るというような状況というものは、何がいいから好んで入るか、また精神的にも天職として、どうして天職と考えて就職をするかと思うと、私はいささか暗然たる気持ちがするわけであります。拘置所の内部を見てまいりまして、少年院も見てまいりましたけれども、脱走をするからというて周囲に鉄のさくをするわけにもいかぬ。そして常に従順に、あるいは説諭をし、人間性を持って応待するためにはずいぶん苦労をするであろう。そういうような状況をこのまま放置をするならば、裁判官にも、もうなり手がないだろう。刑務所へ就職する人もいやがるだろう。少年院の指導員になるのも、好んで一体だれがなるだろうかと思いますと、このままじゃどうしようもないじゃないか。裁判官も欠員がある。法務省内部も非常にたくさんの欠員がある。裁判所の書記官だってずいぶん欠員がある。これは最高裁判所法務省とは多少違いまして、法務省のほうは欠員不補充のたてまえがあるけれども最高裁判所のほうは何で欠員のまま放資をしていくのか。何で、もっとどんどんと採用して、そしてかかることのないように充実をしていかないのだろうか、何をおつき合いをしておるのか。最高裁判所は政府と違った独立した機能と権限を持っておるのではないか。何か停滞した雰囲気があるのではないかというように感ずるわけであります。時間の関係上、夏休みの問題と司法研修所の問題と欠員の問題と、それから待遇条件が非常に悪いという四点を一応指摘したのでありますが、御意見を伺いたいところであります。
  75. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 まず、裁判官と夏休みの問題でございますが、御知承かと思いますが、世界各国で夏休みを一番少ない期間しか持っていないのは日本裁判官であります。アメリカとかその他の国に行きますと、何カ月も、二カ月、三カ月という休暇をとって、そうして経済的な余裕もあると思いますが、世界を回ってきたり、日本を訪問したりいたします。ところが、日本裁判官は、夏休み二十日間となっております。しかもその二十日間は、その裁判所が全部休むのではなくて、いわゆる半舷上陸といいますか、半分ずつ休むという関係になっております。これは一日たりとも裁判事務を停滞させてはいかぬ、そういう考慮からでございます。また、これに対して逆に、これは弁護士会の一部でありますが、ああいうふうに半分ずつ半舷上陸的な休暇のとり方だと、弁護士である自分たちは一日も休むひまがなくなる、いっそ思い切って一カ月なら一カ月、そういう御意見もあるわけでございますけれども、わが国の休暇の制度は、いま申しましたとおり半舷上陸、しかもその二十日間をフルに休む裁判官というのは、ほとんど忙しい裁判所ではないと思います。あるいは休暇の間に入ってまで仕事をやる、あるいは早目に仕事をやる、あるいは地方へ出かけて大ぜいの証人を調べなければならぬというときに、ふだんの開廷日をつぶすことを避けて夏休みにそれでは行こうというふうにして、全然夏休み返上ということはないと思いますけれども、もう非常にその点は、夏休みを犠牲にしても仕事をやっておるというのが実情でございます。また、場合によりましては、夏休みを半分以上も返上して、そうして法廷を続けるという例もないこともございませんし、私どもも、遠い背のことでございますけれども、二年半かかった事件、その特定の大きな事件だけを相当した部におりましたが、その部では一切夏休みを返上して、そうして審理を急いだ、そういう例もございますので、夏休みというものを日本裁判官が楽しく過ごしておる――ちょっと表現が妙ですが、そういうことは、外国に比べますと、もう比較にならぬほどみじめなものである。やはり裁判官は常に一件のことが頭にありますので、家族を犠牲にし、自分を犠牲にしても急ごうという、そういう気持ちは持っておるわけでございます。  それから第二は研修所の問題。この研修所の制度は新しい制度として生まれたものでありまして、従来は判事、検事と弁護士とを差等をつけまして、いわば弁護士を軽く見て、判事、検事を裁判所に配置した。そうして弁護士については、初めは弁護士試補という、後にはできましたけれども、そういう制度もなく自由に放任しておいた。つまり学校を出れば、あるいは司法試験を通れば、すぐそのまま弁護士として働き得るという制度でありましたものを、法曹全般の水準を上げるということは、裁判官、検察官の水準を上げるだけでは足りませんので、やはり優秀な弁護士を養成する必要がある。それには新しい制度のもとにおきまして法曹三者というものが一体となって、そうして司法のために尽くさなければならぬ。その研修時代は何ら三者の間に区別をつける必要がない、そういう考慮から、世界にあまり例のないこの研修所の制度というものができました。この制度は、日本独特のものではございますが、ドイツに多少似た制度があると聞いておりますが、むしろ外国の法曹界からは非常な関心の的となっておるわけでございます。ただ、だんだんと研修所も手狭になり、あるいは法曹人口が足りないということがいわれておりまして、一体どの程度将来日本法曹人口をふやすべきか、また、研修所の制度は従来どおりでよろしいかといったような問題がございます。そういう問題のために最高裁判所司法修習運営諮問委員会という委員会がございまして、そこで裁判所、検察庁、法務省弁護士会、学者等を委員にお願いして、目下そういう問題を取り上げて研究中でございます。  第三の欠員の問題、確かに裁判所職員の欠員の問題というのは絶えず頭を悩ましている問題で、しかも御指摘のように内閣の閣議の外にあるということは事実でございますけれども、しかし、裁判部門については、やはり裁判所の独自の機能を発揮するために、内閣が欠員不補充の原則を出した、あるいは増員しないということをきめたといわれましても、裁判所はそれに拘束されないで、ただその趣旨は十分に参考にしてやっておりますが、一般職員の場合については、あるいはある程度内閣の線に協力せざるを得ないという場合もございますので、なお欠員の実態、その補充関係等については、こまかいデータは所管局長がおりますので、もし御必要でしたら局長から説明いたさせます。  それから待遇問題、ことに裁判官の待遇問題については、国会の非常な御協力によりまして次第次第に改善されてまいりました。同じようなことは一般職員についてもむろん考えなければなりませんので、この点については常に人事局がいろいろと苦心いたしております。もし御必要でしたら、そういう点について所管局長から御説明申し上げたいと思います。
  76. 横山利秋

    横山分科員 私の手元にあります数字を見ますと、判事五十三人、判事補二十九人、簡裁判事が八人欠員である。事務官の欠員は三百人である。そして何か本年度定員の要求を、五百人でありましたか要求されて、三、四十人でありますか補充をされたにすぎない。これに矛盾があるのであります。欠員があるのに何で増員の要求か、欠員をまず最初に補充すべきではないか、それもせずに要求とは何だという矛盾が一つあるのであります。私は多年法務を担当しておるのでありますから、その間の事情はわからないではないけれども、何はともあれまず欠員を補充すべきだ。何か判事判事補は年度の終わりに欠員になったものを、年度の初めに卒業した人で充足するのだからという論理らしいけれども、それにしたところで、すでに恒常的な欠員ということがおかしい。実行定員の中で過員になっておって何が悪い。年間を通じて平均的なプラスマイナス・ゼロということで何ら差しつかえがないではないか。大体五百人要求して数十人で、一体それで納得しておるのかどうか、それを伺いたいのであります。
  77. 寺田治郎

    ○寺田最高裁判所長官代理者 ただいま横山委員から御指摘のございました事項は毎度御指摘を受ける事項でございまして、私どもとしても、いつもその点について十分な配慮をいたしておるわけではございますが、いろいろな関係で必ずしも十分な点に参っていないような次第でございます。  まず、裁判官の欠員の点は、ただいま横山委員からお話のございました数字のとおりでございまして、これは昭和四十二年三月一日現在における欠員でございます。実は国会で御審議いただきます場合、いつも二月、三月ごろの現在員で御報告申し上げることになりまして、ただいま横山委員からもお話のございましたとおり、欠員の最も多い時期に相当するわけでございます。いまお読み上げになりました判事の欠員につきましては、実はもうすでに判事補が全部判事に任官いたしまして、埋まっておるわけでございます。また、それによりまして生じました判事補の欠員につきましては、すでに司法修習生が卒業いたしましたので、今日ではそれも全部埋まっておるわけでございます。ただ、簡裁判事につきましては、現在もまだ若干の欠員がございますが、これは逐次定年で退官になります判事でありますとか、あるいは特別選考によります簡裁判事によって充員する見通しになっております。そういたしまして、欠員があるにもかかわらず、増員を要求いたしました趣旨は、そのような定員では裁判事務を処理するのに不十分であるというところから要求したわけでございます。しかしながら、現在これらの欠員を埋めまして、しかも、なおかつ、その増員分を埋める充員の見通しがつきませんことには、増員の要求が理解されないのは当然でございまして、そういう関係から、結局本年のところは事務量と充員関係と双方にらみ合わせまして、七名の裁判官増員が認められ、これについて御審議をいただいておる、かような状況になるわけでございます。  それから次に、一般職の問題について簡単に申し上げたいと存じますが、一般職の職員につきましても、本年の二月一日現在で、御指摘のとおり三百人程度の欠員があったわけでございます。しかしながら、この点につきましても、これまた書記官研修所から、本年の三月に約二百名近い者が卒業をいたしまして、これらの人は事務官の身分を持っておった人でございますから、それだけの分は事務官のほうに欠員が移ることになるわけでございます。その事務官の欠員につきましては、本年の新卒業者、大学あるいは高校等の新卒業者から逐次充員いたしておる次第でございます。そういう関係で、お手元に参ります欠員は、最も多い時期のものになるわけで、四月の末ごろになりますと、それはかなりの程度に埋まるわけでございます。一般職の点は、必ずしも全部その時期に埋まるわけではございませんが、逐次そういうふうに埋まる関係にあるわけでございます。  なお、先ほどちょっと内閣の閣議決定との関係のお話がございまして、総長から御説明申し上げたとおりでございますが、裁判部、裁判官及び書記官につきましては、私どもこれは事務量その他からいっても、また司法権の独立からいっても、こういう職種については自主的に運営させていただきたいというふうに申し上げておるわけでございます。それに反しまして一般的な司法行政部門につきましては、閣議の御趣旨も十分尊重し、また、私ども立場も申し上げて御理解をいただくという考えでおるわけでございますが、本年度におきましても、約五十人近い一般職の増員を認めていただきましたということの裏は、欠員については不補充を解除していただいたという趣旨に了解いたしております。これは必ずしも内閣から解除していただいたという趣旨というふうに御理解いただく必要はないかと思いますが、私どもが御協力申し上げておりましたことを、この際は自主的に欠員を補充させていただけることになる、こういうふうな趣旨に理解いたしておるわけでございまして、これによって、裁判所の運営は十分やってまいれるという確信を持ちまして、本予算をお願いしておるような次第でございます。
  78. 横山利秋

    横山分科員 事務総長にちょっとお伺いしますが、五百人の要求が五十人認められた。それでいまの御答弁のように、裁判所機構は十分に運営されるという御答弁はちょっと不思議に思うのですが、五百人要求して五十人で十分運営できるのですか。
  79. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 約一割程度で話をつけたという形にはなりました。それにつきましては、やはり予算のいろいろな折衝段階がございまするが、最小限度とりあえずそれだけ認めていただければ、どうやらやっていける。またそれから先の問題として考えたらよかろう、こういうことでございますので、そのために裁判所の機能が低下するとか、そういうことはございません。
  80. 横山利秋

    横山分科員 私は、この際ひとつ最高裁判所にくぎをさしたいと思うのでありますが、常識的にいって、五百人要るといってそれが一割の五十人満たされたら、ありがとうございましたというその態度が、これは最高裁判所のみならず、すべての予算折衝の過程で起こり得べき問題ではありますけれども、特に最高裁はかかる態度では断じてならぬ。あなた方は、御存じのように財政法によって二重予算権というものが別に与えられているんですよ。そういう一割満たされたらありがとうございましたという態度を続ける限りにおいては、財政法の規定は何にもならぬ。他の官庁と同じように、最初の予算要求は山をかけて、五十人あればいいんだけれども、五十人と要求すると、また五人くらいになるから、五百人にしておけというような感じを持つ限りにおいては、いつまでたっても同じことであります。私は、本日ここで裁判の遅延を論じ、うっかり裁判を論じ、イデオロギー裁判官を論じ、あるいはこうしたいろいろな状況を述べます中で、特に法務省は大臣が予算折衝の閣議の中にあって、責任を中枢に持っておられるけれども、あなたのほうは閣議の中に大臣がいないから、最高裁制度が独立しておるから、財政法によって二重予算権が与えられて、政府が出したものに対して異議があるならば、国会に別に予算の要求が出せる。政府はそれに対する説明をし、そして別に予算を提示する義務がある。そういう特別な権限が与えられておるのです。それにもかかわりませず、他の省と同じように、五百人要求して五十人認められたら、ああけっこうでございました、大体それでうまくやっていきますということが累積いたしていきますから、裁判は遅延する。そして判決効果を失うような判決がだらだら裁判で起こる。うっかり裁判もときには起こる。そして世間の非難を浴びるような裁判官を放置していくというようなことになるのだと思います。新しいこの二重予算権が制定されまして以来、最高裁判所に特別の権限が与えられて以来、財政法に基づくこの権限を行使したことがあなたのほうは一回もないではありませんか。それで私の指摘したようなことが起こって、国会の答弁だけで、きょうは何とか適当におさまればそれでいいというようなものではありません。少なくともいつかは、今日のこの裁判状況に対して、公正な裁判を、国民の信頼に基づく裁判を実行するためには、しっかりと腹を据えて、五百人要求したらびた一文欠けてはいかぬ。われわれはそれが正しいと思っている。それでなければ、裁判制度は維持できない。確信と勇気を持って予算要求をしなさい。それが認められなければ、財政法の発動をなぜあなたはやらぬか。そういうようなやり方で毎年毎年――あなたはおかわりになるだろう、だれかがまた事務総長になって、こういう答弁をなさるでありましょう。それでは最高裁判所の権威というものは、憲法、法律上に基づく主張というものは絵にかいたぼたもちだ。伝家の宝刀を抜くときもない。そして、きのうかくてありけり、きょうもかくてありなんというような態度で、最高裁判所の権威というものは保てぬと私は思うのでありますが、いかがでございましょうか。
  81. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 ただいま裁判所の二重予算権のことについて御指摘がございました。これは裁判所としては非常にありがたいことでございます。裁判所は閣議に席を持っていない、閣議の外におりますので、十分に裁判の機能を発揮させるために、裁判所の予算上の独立を認めてやろうというのが財政法の十九条の趣旨だということは、われわれも十分理解いたしております。それで、毎年の予算要求の際には、常にこの二軍予算権のことを念頭に置いてやっております。決してこれを忘れているわけじゃございません。それでは、これまでそれを発動した機会がなかったじゃないかということでございますが、それは、全然発動したことはないという趣旨ではなくて、昭和二十五年の補正予算のときに、裁判官の給与改善に必要な経費として裁判所が要求をした額よりも大蔵省の案が下回りました。それで、大蔵省に二十五年の十一月二十三日に、裁判所の案のとおり予定経費補正要求書を作成するように要求いたしました。ところが、二十六日、財政法十九条の手続裁判所としてとりかけましたところ、大蔵省の了解が得られましたので、それでそれを取りやめたということがございます。  次は、昭和二十七年度の予算のときですが、営繕に必要な経費につきまして、やはり大蔵省から減額通知を受けました。それで、二十七年の一月二十一日に裁判所当初案で予定経費要求書を作成しまして、二十一日に財政法十九条の手続をとったことがございます。このときも、その結果大蔵省との間に話し合いがつきましたので、事柄は解決いたした次第であります。  次は、昭和三十五年度の補正予算の場合ですが、裁判官の報酬の改定につきまして裁判所の要求がいれられず、三十五年の十二月三日に大蔵省の原案で閣議決定がなされましたが、そのときに裁判所部内では、財政法十九条の手続をとる準備をいたしました。が、その直後、大蔵省のほうから裁判所の要求をいれるという話がありまして、この点も話し合いがつきました。  こういうわけで、正式に最後までこの二重予算権を行使したことはございませんが、やはり、この二重予算権というものが一つの大きなバックとなって、結局においては大蔵省がいろいろ了解してくれて話し合いがついて、あえてこの手続を踏むまでもなく話が解決いたしたということでございまして、決して私どもとしては、せっかく認められておるこの二重予算権、その行使については非常に慎重でなければならぬ、いたずらにただ世間騒がせに終わらせてはいけないとはいうことは十分に戒心いたしておりますが、予算の要求につきましては、常にこの問題を念頭に置いてやっております。  それから人員の点でございますが、なるほど人員の点は、当初要求からはだいぶ減りましたけれども、しかし、裁判の機能というものは、人員ばかではなくて、やはり、ほかのいろいろな器具、備品あるいは録音機といったようなこともございます。そういう点を全部を総合して考えて、この際はあえて二重予算を要求しなくてもこれでよかろうというように話がつきました結果、今回はその措置に出なかった、そういう事情でございます。
  82. 横山利秋

    横山分科員 いま例示をあげられました点は、形式的には二重予算権を国会に上程したことが一回もなかった。そして政府と最高裁との間に妥協が成ったということだと法律上は解釈さるべきであって、財政法に基づく二重予算権はいまだ一回も行使をされていない、われわれの審議の対象になっていないということだと思うのであります。私は、その意味におきまして、裁判制度というものが、近く刑法の全面改正や、あるいは法曹一元化や、あるいは最高裁判所の庁舎の問題や、あらゆる大きな問題をかかえ、また他方では、日常の裁判の遅延から、あるいは判決効果の薄れておることや、さまざまの問題が累積しておるときであるから、ときどき予算分科会でこういう議論をする、法務委員会で議論をするということでなくて、ひとつ裁判全体を議論の対象にするためにも、また、あなたのほうが一回腰を据えて、裁判制度について国民の関心を高め、自分たちの任務を遂行するためにも、腰をきめて、一ぺん財政法の発動を正式にすべき時期というものが今日迫っておるのではないか、こういうことを私は申し上げたいのであります。本日は、そういう点において問題を指摘いたしまして――指摘をいたしましたこと自体にも問題がありますけれども法務省並びに最高裁に、綱紀の粛正から、それから私が申し上げるように、さまつ的な是正でなくて、えりを正した根本的な是正をされるように特に要望いたしまして、残りました問題は、また別の機会にいたすことにして、私の質問を終わることにいたします。
  83. 鈴木善幸

    鈴木主査 午前の会議はこの程度にとどめ、午後は一時四十分より再開することとし、この際、暫時休憩いたします。    午後一時六分休憩      ――――◇―――――    午後一時四十八分開議
  84. 鈴木善幸

    鈴木主査 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。石田宥全君
  85. 石田宥全

    石田(宥)分科員 私は、昭和三十九年以来問題になっております阿賀野川の水銀中毒事件についてお尋ねをしたいと思うのでありますが、まず概要をちょっとかいつまんで申し上げておきます。  三十九年以来明らかになったところによりますと、水俣病によって死者五名、今日寝込んでおる者あるいはどうにかうちの中だけは歩けるというような者などで患者二十一名、そのほか四十名の胎児性水俣病を生むおそれのある婦人があって、それから乳児のうち十六人が水俣病の症状に似た脳性麻痺になった、これは、調査の結果は、母の胎内にいるときに水俣病にかかったものという診断が下されておるのであります。これ以上多くのことを申し上げませんが、そういう実情にございます。  そこで最初にお尋ねいたしたいことは、このようないわゆる公害による人身事故というものが大きく社会の注目を浴びておるときに、司法当局が全く関与しておらない。これは一体どういう理由なのか。人間が一人殺傷された事件があっても特別捜査班等を設けて諸般の対策を行なわれておるにもかかわらず、たくさんの人命を失い、さらに患者を出し、あるいはまた、生まれた子供にもそういう脳性麻痺というようなものが十六人も出ておる。実はこれはもっと調査をいたしますと、もっと相当数があるんです。あることは明らかなんです。ところが、人間尊重をうたっておられる佐藤内閣は、これに対して司法当局が全然関与しておらないということはいかなる理由によるものであるか、お尋ねをしたいと思います。
  86. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 このなくなられた五名の皆さんの霊に対して御冥福を祈る気持ちでお話しを申し上げるのでありますが、司法当局が本件に関して関与をしないのはどういうわけか、そういうおことばはまことによくわかるのでありますが、本件の問題は、死体を解剖してみると水銀が出てきた。おそらく、その原因を尋ねてみますと、まだわからないのでありますけれども、工場その他どこからか水銀が流れ出たものであって、廃水その他廃棄された液体の中にこれが含まれておって流れ出たものであって、それを魚がのみ込んだものではなかろうか、その魚を人間が食べたということからこういう被害が広く広がってきたものではなかろうかという、これは推定でございます。大体の目安をここに渇きまして、その死の原因となっております水銀の出所というものを、それの根源をまず総合調査によって――総合調査というのは、あらゆる方面からの調査を総合するという意味でございますが、そういう調査によりましてその水銀の出所を確かめる。そしてその責任を究明するということが順序であろうかと存じます。それで、あろうかでなしに、まさにそのとおりであると考えまして、目下、司法当局でなく、厚生省におきましても、その他の専門機関においても、せっかく調査を急いでおる。その急いでおります中間報告的なものを一両日前に厚生省が発表いたしましたのでございますが、これは、最終的結論として、この水銀はどこの工場からどういう姿で出てきたものであるか、あるいは工場以外のところから出ておるものであるかということの原因所在を究明することがいまだできておらないので、司法当局の発動という順序にこないという、そういうふうに御賢察をいただきたいのでございます。  そこで、どの時期が来たならば司法当局が発動をするかという問題でございますが、この問題は、まず政府の手によって、厚生省を中心としてその水銀の出どころ、所在をまず確かめて、そしてその真相を究明いたしました上で、その責任を明らかにすることに努力をしたい。関係法令といたしましては、直接に関係がありますのは、これは、水銀は毒物でございますから、毒物及び劇物取締法、――毒物取締法というものがございます。これによりますと、工場等であります場合には、その廃棄をいたしますものは、一定の化学的技術的な方法で浄化をいたしました上でなければ工場の外に流し出してはいけないという規定がございます。それに違反をいたします場合においては、責任者は体刑処分を受けなければならぬ厳格な法律がございます。こういう法律もございますので、問題の所在さえ明らかになりますれば、その状況の結果を待って発動しておそくない、また順序としてはそれ以外に道はない、こういうことでございます。
  87. 石田宥全

    石田(宥)分科員 いまの御説明、よくわかるのです。わかるのですけれども、私が特にこの問題を最初に持ち出しましたのは、実はいわゆるその原因者と目され、疫学班その他厚生省で一応の結論を出しました。この結論が出ておる中に若干触れておりますけれども、実は上流にずっと以前から、あるいは死亡しあるいはそれがためにわずらった人が数名あることが想定されるのです。ところが、そういうものについては厚生省では捜査権がない。それがために、やはり司法当局の手をわずらわしませんと、大事なところが押えられないといううらみがある。少なくとも被害の事実は明らかになっておるし、そしてまた厚生省も、一応の結論というけれども、これは去年の三月、すでに同様の結論が、中間報告が行なわれておるのです。私は、これはすなおに学術関係者等が出した結論であろうと思うのでありますが、どうも政治的な配慮があるのではないかと考えられる節がある。そこで、厚生省ではどうも強制捜査権がない。ここに問題があるのではないか。したがって、当然司法当局が手を下すべきであろう、こう考えて、この質問をしておるわけです。  これはひとつ人権擁護局長に伺いたいのでありますが、人を死に至らしめるといえば、これ以上の人権侵害はない。また、容易に治癒でなきいような患者を出した、しかも子供にまでその後遺症が及んでおる、こういう事態が発生しておるのに、一体人権擁護局としてはいかにこれに対処されたのか、いかなる見解のもとにこれに対処されておらないのか、ひとつ承りたいと思うのです。
  88. 堀内恒雄

    ○堀内政府委員 私ども昭和四十年六月十三日の各種の新聞の報道によりまして、本件の事件の発生を知ったのでありますが、人権擁護の見地からしましてゆゆしい問題と考えるのでございます。この事件につきましては、所管の厚生省や新潟県当局などにおきまして原因究明に乗り出しておりますので、被害者などから人権侵害事件として申告はございませんけれども関係機関と密接な連絡のもとに鋭意情報の収集につとめている、こういう段階でございます。まだ事件としては取り上げておりませんが、情報を収集する――すでに他の省及び新潟県当局が動き出しておるという理由でそういう立場をとっておるのでございます。今後も引き続きまして関係機関と緊密な連絡をとりまして、被害者の救済のために鋭意努力いたしたい所存でございます。
  89. 石田宥全

    石田(宥)分科員 報告等資料の収集に当たっておられるということでありますけれども、もう事実は明瞭なんですよ。これは本人からの申告があろうとなかろうと、これくらい大きな被害を出しておるのに、直接手を下しておらないということは怠慢ではないか。今日憲法に明記された人命の尊重ということ、これに対してその当局である人権擁護局が直接調査もしていないというようなことは私は許しがたい怠慢だと思うのです。これは大臣どうですか。
  90. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 人権擁護局の態度といたしましては、調査の結果を待つというただいまの局長の答弁は、この程度やむを得ないものではなかろうかと思います。  そこで、非常に重要な御発言でもありますので、私が責任をもって御答弁を申し上げたいのでありますが、ありのままに申し上げますと、言いのがれなどをすべき筋合いのものではございませんので、ありのままにものを申し上げますと、法務省の私のほうの態度も、せっかく県もやっておることであり、厚生省もやっておることであり、専門家の手によって原因究明をやっておるのだから、原因究明ができた上で刑罰法規に触れる場合は――刑罰法規というのは、いま言った毒物及び劇物取締法といったような法律が現存しておるわけでございますから、そこでそういう刑罰法規に触れるものと認める場合に初めて発動すべきものである、こういう態度でありまして、聞きようによりましては消極的態度ではないか、それでいいのかというおしかりはごもっともであろうと存じます。よって、この問題は人権にも関する重大問題でもあります。単に捜査権を持たない人権擁護局にまかしておくべきものではないと考えますので、せっかく県なり厚生省を中心としまして水銀の出所を究明しておる段階で、私の見ますところ、近いと思います、総合的な調査の結果の結論は遠くないと思っておりますので、その結論を待ちまして、捜査当局といたしましては積極的な態度をもって公正な立場でそれに対処をしたい、こういうことをここで申し上げておく次第であります。
  91. 石田宥全

    石田(宥)分科員 これは大臣にも、人権擁護局長にも申し上げておきますが、かねて昭和三十一年ごろに熊本県の水俣で四十名の死者を出し、百数十名の患者を出しておる。その後、熊本大学でこれは動物実験をいたしまして確認をしておるのです。ただ今日、政府がこれを確認しなかったというこの一点だけで、いまだにあいまいな態度をおとりになっておられるようです。しかし、いやしくも良心的な学者が動物実験によって結論を出しておる。ところが、その結論が出たにもかかわらず、直接この工場の監督官庁である通産省は、ただ一片の通達を出したにすぎないのです。カーバイドからアセトアルデヒドを製造する段階において出るところのメチル水銀というものは水俣病を発生するおそれがあるということは明らかになったのです。そこで通産省は、これに対しては「調整池あるいは除濁池等を設けること、あるいはまた、循環水につきましてこれをできるだけ外に出さないようにというふうなこと、それぞれの工場に対応した措置をとるようにというふうな指示をいたしたわけでございます。」指示はしておる。一片の指示はしたけれども、一ぺんも現場を見にも行ってない。工場はそれに対する除濁装置は何もやっておらない。これは厚生省のある官吏が、会社当局が実は何ら措置をしませんでしたと言ったと言っております。従業員の口から何らの除濁装置をやっておらないと、こう言っておるのです。そうなりますと、毒劇物取締法ですか、これに照らしても許さるべき行為ではないと思うのです。なぜ一体、単なる一片の指令にとどまらずに、これに対して現場を検証するなり、何らかこれを実施せしめるような措置をとらなかったか。私は今日なおやはりこういうものが全国に数カ所あるのではないかと思うのです。あるメチル水銀を使う工場に対して、あるところから、このカーバイドからアセトアルデヒドを製造する工程で出た廃液を買ってくれないかという交渉がごく最近行なわれておるのです。そういう事実に照らしまして、もう一つは、鹿瀬の昭和電工という工場の、まあ普通ボタ山と言っておるのですが、そアセトアルデヒド製造のかすです、そのかすが転々として、二、三の会社が中に入りまして、今日郡山にある工場でそのメチル水銀採取の精製が行なわれておるのです。これも厚生省の諸君が知っておるのです。そうすると、もうこれ以上一体何を調査し、何を一体やろうとされるのか。同時にまた、通産省の従来のような態度でありますというと、重ねてこういうような事態が全国各所に起こるおそれなしとしない。私はそういう点を重要視したいと思うのです。したがって、それは通産省の所管であり、あるいは科学技術庁の所管でありましょうけれども、事人権に関する問題であり、今日の法体系のもとにおける欠陥がありとするならば、それはひとつ改めなければならないし、ここでやはり政府として、ことに法務省として再び三たびこのような事態の発生することのないような対策がすみやかにとらるべきである、こういう趣旨で実はこの質問をしておるわけです。大臣の所見を承りたいと思います。
  92. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 ごもっともでございます。ただ、厚生省においても、通産省においても、県当局におきましても、せっかく水銀の所在について、流出の経路について専門調査をいたしておる段階でございます。それが私が先ほど申し上げたように近く結論が出る見込みのものでもございますので、しばらくお待ちをいただきまして、この結論を見ました上で積極的な態度をもってこれに対処をいたしまして、いやしくも毒物及び劇物取締法に明記してあるがごとき、そういう基準はずれの廃液を工場外に流したような事実があります場合においては、これは断固たる態度をもって処置をすべきものと考えます。しばらくの御猶予をいただきたい。
  93. 石田宥全

    石田(宥)分科員 そこで私は、以上申し上げましたように、厚生省並びに通産省の行政府の責任というものは、これはきわめて重大ではないか、そういう見地に立って、これは行政府の責任として国家賠償の責任を政府は負わなければならないのではないかという質問書を実は提出いたしました。政府は国家賠償の責任はないものと考えるという答弁書を出しておるのです。しかし私はそう簡単に片づけることのできない問題だと思うのです。その毒性を承知しながら、その廃液の中にメチル水銀が排出されておることを承知しながら、それに対する除毒措置をやりなさいという通達を出しただけで、全然現地も見なければ、あらためて報告も受けておらない。これはやはり許しがたいものではないか、こう思うのです。ところ   がたまたまゆうべの新聞を見て、私と同じようなことを考えている人があるということを知ったのでありますが、「近事片々」にこう書いてある。「阿賀野川水銀中毒の犯人は工場排水、の結論。水俣の悲劇を再実験させた責任者はだれだ。」「〃水俣〃以後、昭電の水銀廃液を傍観していた厚生、通産省は、公害ほう助の疑いがある。」こういう記事が載っておる。私も、まさにそのとおりだ、私が従来考えておったとおりのことがずばりここに出ておると考える。これは法務大臣として、このような公害が今後さらに深刻になってくるときに、行政府のほうで承知をしながら、これをただ通達を出したからこれでいいのだというような態度をとるとするならば、許さるべきことでないと思うのです。こういう問題に対する――やはり政府全体の問題でありましょう。総理大臣の答弁すべき問題であるかもしれないけれども法務大臣は法務大臣としての見解をここに明らかにしていただきたいと思うのです。
  94. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 お説のような場合における政府の責任という問題でございますが、現行の法律制度調査をしてみますと、ただいま申し上げた毒物及び劇物取締法という直接の取り締まり法のほかに、工場排水等の規制に関する法律という法律がございまして、これは排水規制法と一口に申しております。この法律によりますと、直ちに逮捕するというわけにはいかぬのでありますが、いけないと思った場合においては、政府はその工場責任者に対して、排水の規制はかくのごとくに行なうべし、現状のままではいけないということを勧告することができる。しかし単に勧告する権利だけでなしに、その勧告に応ぜざる場合においては、工場責任者に対しては体刑の責任を負うてもらわなければならぬということがその法律の内容となっております。そういう立場から、私が責任を持ってただいまの御質問に対してお答えをしたいと思いますことは、かつてお話のありました水俣病もございます。またこのたびのこの問題もございますので、こういう問題にかんがみまして、今後は、こういうおそれあり、危険ありと考える工場は一目にして明らかであるはずでございますから、この工場の責任者に対して工場排水の規制に関する厳重なる通達を出さしめて、むろん現場調査の上でこれを出さしめまして、それに対して、この勧告に応ぜざる者に対しては法に規定する罰則に基づいて厳重なる処断を加えるという方法によって、今後の問題が三たび起こることのないようにこれを根絶していきたい、法務大臣は責任をもってこれを推進したい、こう考える次第でございます。
  95. 石田宥全

    石田(宥)分科員 まあよくわかりますが、水質二法というのは、私も実は関与しておりまして、これはざる法といわれておるのです。今度の場合も同様でありますが、昭電側は否認しておるのです。そこで論争になっておるのですから、いまお話の水質二法というものでは、これはどうにもならないのです。  そこで最近問題になっております大牟田川、これは無機水銀のようですが、しかし学者の説によると、無機水銀の中にもやはり多少のメチル水銀があるのではないか、あるいは無機水銀そのものもやはり人体に相当影響を及ぼすのではないかという説もある。こういうものに対して、国が実はメチル水銀などの許容量というものを持っておらないのです。定木がないのです。規定がないのです。そうなるといま大臣のおっしゃるようなことでお臨みになっても、なかなかこれは片づく問題ではないと思うのです。すぐ問題になってくる問題としては、大牟田川の問題やら、あるいは丹後の宮津で火力発電がこれから起されようとしておる。これはもう公害が起こることはきわめて明瞭です。そこで、原因者がこれを否認しておれば何年でも結論が出ないという。実は今度の問題なども全く奇々快々なんですよ。なぜ奇々快々であるかというと、昨年の三月ちゃんと中間報告が出されて、これは電工の廃液だといっておる。ところが電工側は子供の言うようなことを――私ここで繰り返すのもどうかと思うのですけれども、実に幼稚な反論をしておるのです。こっけいなことには、地震のときに港の倉庫の中にある農薬が流れ出したおそれがある。それは港からすぐに、信濃川から阿賀野川をつなぐ通船川というのがありますが、その通船川を通って阿賀野川へ行って阿賀野川の水を汚濁した、こういう主張をしておった。会社はそれを文書にしてばらまいた。現場へ行ってみたら、実は隆起しておりまして、水は全然流れていないのです、地震時に一時的に隆起しておって。それが明らかになったところが、今度はその説をやめて、海へ出て、一たん海へ出たものが塩水くさび状に阿賀野川へのぼってきた、こういう議論を出した。同時に、ぼくはいわゆる御用学者と言っておるのですが、ある御用学者は、科学技術振興対策特別委員会にこれくらいの大きな写真を持ってきて、これがその農薬が海へ流れ出た証拠だ。写真を持ち出してきた。その写真をとった人のところへ行って聞いたら、言下に、これは昭和石油会社のタンクの炎上による石油が海面へ流れ出たものであって、カラー写真で見ればごらんのとおりちゃんと石油の色が出ておりますと、これもまた否認されておる。まあそんなことが十ぐらいありますよ。子供のようなことだけれども、簡単に否認されるようなことだけれども、いまだにやはりこの間のいわゆる疫学班の結論に対しても承服しがたい、訴訟によってやるのだ、こう言っておる。そうすると、訴訟によってあくまでやるということになると、昭和電工などという、安西社長なんというものは相当な人ですから、総理大臣も御親戚だし、三木外務大臣も御親戚だし、いろいろあるわけです。そういうところの圧力のためにこれは十年戦争になる、あるいは十年以上になるかもしれない。いまの患者は死んでしまいます。そういうことになるおそれがある。  そこで私は大臣によくお考えを願いたいことは、今後さらにこういう被害を起こさないために、またその他の理由もございますけれども、いま公害基本法というものを準備中のようでありますが、その法律案の中に過失があるかないかということでまた問題がこじれる。無過失であろうともその責任を負わせるということにならないと、水質二法がざる法であると同じように、またつかみどころのないものになって、従来と同じことになると考えられるのです。一定の基準をつくっておいて、そうして無過失といえども人命を損傷するがごとき被害を与えた場合においては、企業側が当然その責任を負うべきであるというふうに規定をすべきではないかと、こう考えるのですが、大臣はどうですか。
  96. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 刑罰法規の立て方の問題でございますが、非常に重要なお話をなさったのであります。どのように憎むべき事情があります場合でも、無過失の行為に対して責任を負わすのだということは、刑罰法規をつくってまいりますたてまえから申しまして、近代刑法のとっております方向、主義から申しまして、無過失であっても処罰はするんだ、許さぬのだということは、いかに感情の上から考えてよろしい場面でありましても、そういう立法を行なうということはむずかしいのではなかろうか。したがって、私の立場から申しますと、公害基本法という基本法ができます場合においても、そういう方向の刑罰を盛ることには賛成をいたしかねる、こう考えるのでございますが、いま先生の仰せの目的を達するためには、無過失であっても責任を負わすのだというこの思い切った考え方でなしに、同様の目的を達する道はあるのではないか。たとえばどういうことであるかと申しますと、現在の毒劇物取締法、この法律によりますと、一定の基準が先生お説のとおりに設けてございまして、その基準をはずれて廃液を工場外に流したという場合においては、政府の勧告などは要らないのであります。直ちにこれは責任者は刑罰、体刑の処罰を受けなければならぬという明文になっております。したがって、技術的な問題でありますけれども、技術上の化学処理方法といたしまして、ここに一定の基準を厳格に規定をいたしまして、この基準を守らなければ排水はできないのだ、こういう規定を設けてこれに罰則をつけておけば、故意、過失という問題を離れまして、この形式に反する場合においては責任者は当然に処罰を受ける、故意があるか過失があるかそういうことは問わない、こういうたてまえでこの法規をつくり上げていくことが可能であろうと思います。そういう意味で全国に警告を出し、反省をせしめ、重ねてこういう事件が発生しないように、根絶することは政府の立法施策の上から私はできるものと考えております。
  97. 石田宥全

    石田(宥)分科員 理屈としてはそのとおりなんですね。しかし、たとえば水銀のような場合に、毛髪中の水銀の含有というようなもので、一部には農薬の影響が大きいという説がある。それから一部の学者が調べるところによると、部会のばい煙の中における水銀がむしろそれよりも高いという資料を出しておるところもある。ところが、遺憾ながら今日水銀の許容量というものは国際的にもまだ再検討を要するということになっており、国内にはもちろん許容量がきまっておらない、その上に企業側がこれを否認をすればどうにもならない、こういうことになる。日本のいわゆる資本主義経済社会の中では当然のことのように思われておるのですけれども、どうも通産省などは企業本位、人命よりは企業を尊重するような姿勢が常に見受けられる。したがって、毒劇物を排出するようた企業に対して、これを許可、認可をする時点でぴしっととめる、許可、認可をしないということが可能であるなら、それはよろしいのです。ところが、現存はさっきから申し上げておるように、なかなかそれが困難なんですよ。そうすると、やはり無過失責任をも追及するというところまでいかないと、企業側が言を左右にしてこれを否認をするということになると、今度の問題のようにどこまでいってもこれは堂々めぐりの議論になってしまう。政府の出した結論でも企業側が認めないということになれば十年戦争になって、そうしてついに患者は死亡してしまうというおそれなしとしない。こういう点から考えて私は、その許可、認可の時点で一定の許容量という定木があって、基準があって、それに基づいてこれが行なわれるならよろしいのですけれども、これは日本では今日行ない得ないのではないかという疑いを持つのです。ですから、この点をしつこく実は要求したいのです。まあ、無過失責任とはっきり言ってしまえば法律をつくる場合には非常な困難性が伴うと思いますけれども、しかし、やはりそれぐらいの精神で法文を整理し、そういう趣旨でこれをつくってもらわないとなかなかむずかしいのではないか、こう思います。これはひとつ私の意見を聞いておいていただきたい。  それから次に、一つ提案のような形で私の意見を述べておきたいと思うのですが、スウェーデンでは水裁判所というものを設けまして、企業の監視、取り締まり、企業の認許可、それと被害者保護のため紛争の処理被害の認定、補償などを実施いたしております。日本でも公爵処理委員会または公害裁判所を設置すべき段階にきておるのではないか。最近、先ほど申しました東京のばい煙のごときもの、隅田川のような汚濁された水を清浄化する点等については、これはもう都会だけではございませんで全国的な問題です。だからすでにその時点に達しておるのではないか、こう考えるのです。そういう問題について公害基本法がいま準備中で、いつ御提案になるか存じませんけれども、そういう点について法務省の見解、法務大臣の見解、これを承っておきたいと思います。
  98. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 水ばかりでなく空気に関しましても、水と空気に関する専門裁判所といったようなものが必要な過程にだんだんと進みつつあるということは、お説に全く賛成をするわけでございます。基本法をつくります際にはこれらのことを念頭に置きまして、空気につきましても、水につきましても、たいへんむずかしいことでありますけれども、一定の基準を確立いたしまして、その基準にはずれる場合におきましては、これに対しては責任者はその責任を負うていただきたいという方向に向かって、厳格な態度で臨んでいくべきものである、こう考えるのでございます。ただいま先生の仰せになりました諸問題につきましては、速記もこれをちょうだいいたしまして、十分にこれを参考にいたしまして、政府の立案段階における資料としていきたいと考えます。
  99. 石田宥全

    石田(宥)分科員 ぜひひとつそのように願いたいと思うのでありますが、実はいまその法案の原案ができておりまして、各省間で討議が重ねられておる模様でありますが、これは大臣じゃないと思いますけれども法務省側はこの法案についてはきわめて消極的である、むしろ通産省のほうにどうも振り回されておるのではないかということが伝えられておるのです。私は大臣にいやみを言うわけじゃありませんよ。全くそういうことであれば遺憾千万なことだと思いますので、これはひとつ大臣に記憶にとどめておいていただいて、こういう過密都市地帯にはもちろんのこと、全国至るところに起こっておるこの公害に対しては、やはり厳然たる態度で、き然たる態度で法律の原案の作成に臨むように、大臣みずからも、またその担当をしておる皆さんにも御注意を願いたい、こう思うわけです。この点御質問を申し上げて私質問を終わりますが、ひとつ……。
  100. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 お説のとおりに熱意をもって積極的にやっていきたいと思います。法務省のほうが消極的であるということは何かの誤解であろうかと思います。それはどういうことかと申しますと、最近私の事務次官竹内君を関西に出張せしめました。公害を視察せよとの出、張命令は出さなかったのでありますが、せっかく関西に行ったのだから三重県の公害問題の中心地を視察してこようということで、その筋の案内を受けまして、本人の報告によりますと、ついでながら公害の現状を見てきた、ずいぶんひどいものだ、これはこのままに捨ておけぬという詳細なる報告を私に旅行中ついでにしてまいりました視察報告をしてきておるほどでございまして、非常に積極的な関心を次官以下の事務当局も持っております。今後は仰せのように、大臣はもちろん次官以下の者も、この問題につきましては積極的熱意をもって政府の立案段階で苦心を払いますように努力をいたします。
  101. 石田宥全

    石田(宥)分科員 これで質問を終わります。
  102. 鈴木善幸

  103. 中谷鉄也

    中谷分科員 公職選挙法違反の被告事件のいわゆる百日裁判の問題について主としてお尋ねをいたしたいと思いますが、石田分科員のほうから産業公害の問題についてお尋ねがありましたので、順序を変えまして私もこの問題からお尋ねをしていきたいと思います。  たとえば、ばい煙がおりてきて洗たくものがよごれる。さらにまた、悪臭が流れてきて非常に生活の平穏を乱される。さらにまた、非常に人体に害を及ぼすような悪臭、そういうもので健康を害される、こういうふうな非常に深刻な、水俣のような人の命が失われるというふうな、そういう結果は招来しなくても、生活の平穏が害されて、そうしてそこに損害が生ずる、こういうふうな公害問題というのは、全国余るところにあると思うのです。そういう公害の被害を受けている住民、そういう住民が裁判所損害賠償訴訟を起こすということを計画をする。ところがそういう訴訟を起こしようがない、非常に被害を受けておる人の人数が多い、費用がかかるというふうなのが現実だと思う。したがいまして、先ほど大臣がお話しになりましたように、水と空気の裁判所というふうな構想の以前に、そういうふうに現にばい煙だとか、汚水だとか、悪臭などによって被害を受けている住民が訴訟を起こしやすくする、そういうふうなことが手続法の面だとかあるいはまた訴訟費用の面で考慮されなければならない段階にきているのではないか、この点についてひとつお答えをいただきたいと思います。
  104. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 たいへんむずかしい御質問でございます。お説のとおりに、空気にしても水にしても、今回の新潟の事件がその例でございますが、こういう問題が起こりましたときに、だれを相手に、何を根拠に損害賠償訴訟を起こすのかということになりますと、公害基本法のございません現状のもとにおいては、まあほとんど損害賠償訴訟というものが起こしようがない。このたびの新潟事件につきまして申しますと、幸いにして県当局なり厚生省なり通産省の手によって原因が究明されて、どこの工場から流れ出た排水に原因があったということが明らかになりましたような場合は、それを根拠として訴えを起こすことも可能となってまいりましょうが、そういうことがない限りは、お説のとおり手のつけようがないということになるわけでございます。  そこで問題の起こっておりますように、公害基本法を設けまして、水と空気を中心にいたしまして民衆の生活を守る立場から具体的に基準を明らかにする。そういう基準を越えた煙突を持っているもの、そういう程度を越えた排水を行なっておる、工場というようなものに対しましては、おのずから民事上の責任も明らかになるように法律の明文をつくっていかなければ全く意味がないわけでございます。処罰をいたします反面において、被害者から民事訴訟法による訴訟を起こしやすいように法律、制度というものもつくっていかないと、この基本法に意味がないわけでございます。そういうふうな方向で基本法の立案に苦心をしておる、こういうふうに御承知おきをいただきたいと思います。
  105. 中谷鉄也

    中谷分科員 公告基本法の考え方は承知いたしておりますが、いま大臣の例示によれば、基準を越えてばい煙が出ているそのことと現実に住民の洗たくものがよごれるということとの因果関係の問題、これは結局住民のほうに立証責任があるわけです。こういうふうな問題について、これは訴訟法の基本的な問題にもなってくると思いますし、直ちにそういうことができるのかどうかについて、私も軽々に発言はできませんけれども、この種のいわゆる公害に関する事件等については立証責任を転換するというふうなことまで手続法の面で改正をしなければ、住民の利益は守れないのじゃないか、こういう点についてお答えをいただきたい点が一点。  いま一つは、訴訟救助に関する点でございますが、たしか民訴法百十八条でございましたかの規定によりますと、「資力なき者」ということになっていたと思います。それから人権擁護の関係での貧困者の訴訟援助に関する事項という、いわゆる訴訟扶助の関係の規定もあると思いますが、要するに公害の被害を受けている住民がイコール直ちに貧困者とは限らないわけです。ただ損害額が必ずしも大きくない。しかし、非常に被害を受けておる範囲が多いというふうな場合、これは訴訟費用の面、特にその因果関係を立証するための鑑定費用などばく大なものだと思う。そういうようなものについては特に裁判所が負担する、要するに岡が負担するというふうなことでなければ、結局公害の被害を受けながら泣き寝入りをする。交通災害と産業災害は非常に大きな問題になってくると思いますが、産業災害については泣き寝入りをするという問題が起きてくるのではないかと思うのです。この点についてはいかがでしょうか。
  106. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 民事訴訟手続をいたします場合に、近代国表がいずれもとっております方法でございますが、被害を受けたと称する被害者被害の立証をする、挙証責任被害者にある、この事件の場合でいえば原告にあるということの原則をくつがえして、加害者のほうに加害の立証を行なわしめる、その立証は逆に加害をした覚えがないとの立証を行なわしめるということになろうかと思いますが、そういう例外的な措置をいたしますことには、立法技術の中から幾多の困難――ここで私がよいかげんなお答えを申し上げるということになってはいかがかと存じますので、これがなかなかむずかしいと申し上げる以外にないと思います。それから、一方の訴訟をいたします場合には、住民が五万ありますと、五万の住民が一会社あるいは二つの会社、何個かの会社を相手に訴訟を起こすという事件が起こりそうでございます。わが国の民事訴訟手続では予想をしていない事態でございます。しかし、公害基本法ができまして、この公害の問題が今日以上一歩前進をすれば、何万の住民が全員原告となり、代表者を定めて、そしてその加害会社といわれるものを相手に訴訟段階に及ぶということが、なるほどお説のとおり起こりそうに思います。こういう場合に、どういうふうにこれを保護すべきものか、訴訟技術のしで、また代表者を定める代表制度の上で、それから印紙その他訴訟費用の上で、弁護士その他を入れる、代理人をいかに定め縛るかという方法のしにおいて、いろいろな新しい方法考えていかなければならないものと思います。これはお説を参考にいたしまして十分に検討をしてみたい、こう考える次第であります。
  107. 中谷鉄也

    中谷分科員 裁判所のほうに同じ問題ですがお尋ねをしておきたいと思いますが、午前中の猪俣委員の御質問に対して、東京大阪等においては交通に関する特別部、これを設けられておる、こういうようなお答えであったわけです。ところが、私は統計は詳しくわかりませんけれども、先ほども少し触れましたが、産業公害に関する裁判は非常に少ないと思うのです。これが少ないというのは、逆にいえば、起こしようがないからだと思うのですが、今後産業公害等に関する特別部というふうなものを設けられる意思があるのかどうか、この点についてはいかがでしょうか。
  108. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 先ほど来、法務大臣の御答弁を伺っておりまして、これは非常に重要な問題で、かつ新しい問題であるということがよくわかりましたが、今後そういうような与件が起こり縛る、手続面、実体面の手当てができてそういう問題が裁判所に係属する、そういうような状況になりますれば、やはり裁判所もそれに対処した執務体制を考えるのは当然だと、かように考えております。
  109. 中谷鉄也

    中谷分科員 そこで、今度は産業公害の刑事的な面、検察権の発動といいますか捜査、要するに処罰の対象になる公害事件というようなものについてお尋ねをしたいと思うのですけれども、先ほどのいわゆる第二の水俣病といわれている与件等についても、大臣のお答えは、厚生省のいわゆる調査班の結論を待ってというようなお話だった。要するに、とにかく検察官にしろ弁護士にしろ、それから裁判官にしろ、いわゆる自然科学、特に化学、そういうふうなものに対する一般的な知識が非常に乏しいと思うのです。だからといって、これだけ公害の事件が出てくる、しかもそれが刑事の処罰の対象になるような、捜査しなければならぬような事件が出てくるというときに、他の政府機関、他の省の結論を待つ、それから捜査にかかるのだ、捜査権を発動するのだということでは、これは国民の利益というものは守れないのじゃないか。いわゆる検察庁それ自体の中で、このような特別法違反の問題について、直ちに捜査に着手できるような体制というか、これは検察官一人一人の研修の問題があると思いますけれども、同作に、検察庁それ自体としてそのような体制というか、システムになっておらなければならぬ。この点についてはいかがでしょうか。
  110. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 理論的にはお説のとおりでございます。そう仰せられると、その下をくぐる手だてはない、そのとおりであります。そのとおりでありますが、あえて申しますと、検察庁、検察官といえども国家の役人であって、国家の一行政官である。そういう立場で通産省なり厚生省が熱心に専門技術家を動員して調査をしておりますことはお認めをいただくとおりでございます。そういう努力をしておるわけでございますから、全く別個に犯罪捜査のたてまえで専門家を動員して、専門家の鑑定を求めて、ここに検察権を発動するということは、何と申しましても少し無理があるのではなかろうか。しかしながら、ここに積極的な告発が行なわれたといったようなそこに端緒があります場合においては、この告発を端緒として積極的、独自の考え方で捜査をしなければならぬということも起こるのではないか。現在の段階においては、水銀がいかなる性質の水銀であるかは別論といたしまして、水銀性を持つ、原因のある物がどこから流出したものであるか、倉庫に積み上げてあったものが水害によって流出したものであるか、それともそれは基準に違反をして工場から排出せられたいわゆる排水であるかというようなことは、現在のところ想像はつくのでありますけれども、科学的にはわからぬわけであります。そういうわからない段階において、告発、告訴、何事もないという段階におきまして、非常に重要な人権に関する問題でありますから、注目しておるのではありますけれども、こういう情勢にあります場合に、独自の考え方で直ちに犯罪ありと思量して捜査に着手したということは、幾らか行き過ぎのそしりを免れないのではなかろうか、こういうふうに考えますので、他の行政官庁たる総会調査の結果を一応待とう、待ってこれがいけないというこことであるならば、これによって発動ができる、こういうことで、その結論ももう近い、こう見ておりますので、どうぞしばらくおまかせをいただきたいと思います。
  111. 中谷鉄也

    中谷分科員 次に、先ほど申しました公職選挙法違反事件のいわゆる百日裁判の問題についてお尋ねをしておくわけですけれども、その前に、訴訟の促進というか、逆のことばで言うと、訴訟の遅延の防止、審理の迅速化というふうな、実務家にしろ学者にしろ、ずいぶん論議してきた問題だと思うのですが、この問題の中で、午前中も若干質問が出ましたけれども、要するに、裁判官の適正な人員というのは一体どの程度なのかというようなことについて私は裁判所お尋ねしたいと思うのです。特に私お尋ねしたいのは、人口過密都市といわれている東京大阪、要するに東京地方裁判所、それから大阪地方裁判所などの、これは合議部もあり単独部もございまするけれども、そういうところの裁判官の手持ち事件というのは一体どの程度あるのか、それから、大体これも私予想ができますし、想像はできますけれども、一人の裁判官がいろいろな条件の中でこなせる、大体この程度は持てるだろうという手持ちの事件の件数というのはどの程度なのだろうか。現に持っている、手持ちの事件と、大体この程度なら無理がないだろうというものとの間に相当大きなずれがあると思うのであります。特に最高裁判所としては、これは法廷の数だとか、手続法の改正だとか、訴訟関係者の協力だとか、いろいろな条件によって違ってくると思いますけれども、大体一人の裁判官としてはこの程度の手持ち件数でありたい、それが裁判官の適正な人員ということの一つのめどになると思うのでございますが、こういうことについてひとつ御答弁をいただきたいと思うのです。
  112. 寺田治郎

    ○寺田最高裁判所長官代理者 若干技術的な問題になりますので、便宜まず私から御説明させていただきたいと存じます。ただいま中谷委員のお話に出ました問題は多岐にわたっておるわけでございますが、まず、裁判官のあるべき人数はどのくらいであるか、こういうお話でございます。これは実はきわめてむずかしい問題でございます。と申しますのは、たとえば民事事件をとって考えてみますと、御知承のいわゆる潜在的事件というようなものもございまして、訴訟が早くなれば、国民は、ほかの方法によろうと考えておった場合に、やはり裁判所をたよる、訴訟を起こす、こういうことになって、これは人権擁護上きわめて望ましいことではございますが、事件はふえるという関係になるわけでございます。したがいまして、民事事件の場合等には、一体どのくらいの事件裁判所に起こるかということ自体が浮動的な要素を持つわけでございます。ただしかしながら、一応そういう点は別といたしまして、大体現存のような状況でどのくらいの裁判官増員をはかればよいかという点につきましては、御承知臨時司法制度調査会の当時に私どものほうの係官から説明いたしましたのは、当時の時点におきまして約五百七十人の増員を必要とするというふうに申し上げたわけでございます。もっともその後いろいろ増員をしていただいておりますので、この数はさらに変わってまいっておるわけでございますし、臨時司法制度調査会意見書におきましては、裁判官増員という方法は最初にとるべき方法ではなく、むしろいろいろな方法、たとえば補助機構の拡充あるいは配置の適正化、手続の合理化、権限の再分配、かようないろいろな方法をあわせとった、その並行的に、あるいはそのあとで考えるべき問題であるというような御指摘もされておるわけでございます。そういう意味におきまして、私どもとして現在そういう方法をとった上で何人の裁判官を必要とするかということについては、明確な数字をもって申し上げられる状況ではないわけでございます。  それから、次に配置の問題にお触れいただいたわけでございますが、この点も私どもとしては非常に苦慮いたしておるわけでございまして、ただいま御指摘のとおり、大都会ではやや負担が構いのに反して、地方の裁判所、特に支部等においてはかなり余裕のある場合もあるわけでございます。しかしながら、かりにそういう場合におきましても、支部に最小限一人の裁判官、甲号支部に最少限三人程度の裁判官は、これはその構成上ぜひとも配置しなければならない関係になりますために、そこにエネルギーの余剰がございましても、これを大都会の裁判所に引き上げるというわけにはまいらないわけでございます。さような面からのみ申し上げますれば、かような裁判所を何らかの意味で統廃合することが合理的な処置になるわけでございますけれども、他面、この点につきましては、やはりその地方の方々の人権擁護という面からの問題点がきわめて重要でございますので、事務的にあるいは計数的に考えただけで処置がとれる問題でもないわけでございます。さような点で若干負担のアンバランスが残りますことは、これは裁判所の機構上やむを得ないものと考えて、なるべくそれを少なくするように努力はいたしておるわけでございます。  そこで、最後にお尋ねのございました大都会の裁判所裁判官の負担の件数、及びそれのいわばあるべき姿という問題でございます。この点は、いま中谷委員からも御指摘のございましたとおり、まず民事刑事で違いますし、それから民事刑事それぞれについて単独部といわゆる合議部というものとで非常に違うわけでございます。しかもその構成の立て方が、民事事件の部におきましては、東京大阪とも、合議部で同町にその裁判官が合議に関与しながらまた別個に単独の与件も処理する、こういう構成をとっておるのに対しまして、刑事関係のほうでは、地方裁判所においていわゆる法廷合議事件というものがある関係もございまして、合議部と単独部は別個に構成されておるわけでございます。そしてその件数は、特に刑事の場合には単独部にかかります事件は比較的軽微な事件であり、合議部にかかりますものは相当に難件が多いというところから、その間の負担作数にも相当のアンバランスがございます。そのことがそれで合理的であるわけでございます。そういう関係で、単純に現状の手持ち事件がどのくらいということについては、なかなかその御説明が困難になるわけでございますが、ごく大まかに申し上げますと、東京地裁の民事の場合におきましては、大体一合議部に六百件見当――と申しますと、その部には合議事件がかりに百件あるとすれば、単独事件を二百五十ずつやりながら合議百件に関与する、かような形になるわけでございます。大阪の場合はそれよりも若干上回った数字になっております。刑事平作におきましては、先ほど申し上げました合議部の関係では、来京におきましてはおおむね、合議部に五十件見当でございます。これに対しまして、大阪はこれよりかなり上回っております。単独部の関係では、大京では大体一人が百件余り、大阪はこれまたこれよりかなり上回っておる状況でございます。いま大阪につきまして東京よりやや上回っておもというふうに申し上げましたのは、従来の経過からいたしまして、大阪の場合、数年前までかなり狭隘な庁舎で執務せざるを得ない状況にあったわけでございます。それが数年前に中谷委員承知の分室というものができまして、その関係でかなりの増長をし、それから逐次順調に進んでまいっておるわけではございますが、その東京とのアンバランスがいまだ若干尾を引いておるわけでございます。大阪の場合の根本的な解決は、近年中に予定されております大阪裁判所の改築を待つというほかはなかろう、それまでできる限り手は尽くしておりますけれども、完全に東京並みになりますのにはもう数年御猶予をいただくほかなかろうかと考えておるような次第でございます。  それから一点、そのあるべき姿でございますが、これは科学的に申し上げることは非常に困難でございますが、現在の東京刑事部等は、手持ち事件の数のみから申し上げますれば、ややふさわしい件数になっておるのではないか、かように考えておるわけでございます。
  113. 中谷鉄也

    中谷分科員 午前中の質疑の中で、過去五年間で裁判官の数が大体百人増員された、こういうふうな御答弁があったわけですけれども、そうすると、五年前と現在を比べてみて、いわゆる単独部、合議部、要するに一審の裁判官の手持ち事件が減っているのか。これも私統計がよくわかりませんけれども、何か感じとしては、事件がどんどんふえてきている。年々とにかく裁判官は忙しくなってきている、と同時に、非常に疲れてきている、こういうふうな感じがするわけですけれども、五年間で百人増員になったから、要するに手持ち事件が減ってきているのか、それとも、そうじゃなくて、増員にはなったけれども事件の数と裁判官との関係では、要件のほうがよりふえておって追いつけない、こういう状態なのか、この点もひとつ御答弁をいただきたいと思います。
  114. 寺田治郎

    ○寺田最高裁判所長官代理者 まことにごもっともなお尋ねでございますが、これは五年前と比べまして手持ちが減っており、そうして負担が楽になっておりますことは、いま計数をもって詳細に御説明するまでもなく、私自身実際に体験いたしたところからいたしましても、大阪で当時相当多数の事件を持っておりましたのに対しまして、最近の数字を見ますると、それよりは下回っておるわけでございます。しかしながら、これは必ずしも百人そのものの問題ばかりでございませんで、百人の問題は、高等裁判所、簡易裁判所等の関係もございます。そのほかにさらに、比較的事件数の少ないところから都会地へ裁判官を定員異動するという関係もございます。さような方法をいろいろ併用いたしまして負担の軽減をはかっておるわけでございます。
  115. 中谷鉄也

    中谷分科員 そこで次の質問なんですけれども、ことしの司法試験、司法修習生の採用予定人員、これはどの程度になるわけでしょうか、この点をひとつお尋ねいたしたいと思います。  同時に、実は法務大臣が大臣になられて、京都で法務大学という何かお話があったと思うのです。これはもうすでに何べんも質疑の中に出てきたのですけれども臨時司法制度調査会意見書などとはこれはずいぶんかけ離れたと思われる構想でありお話であったと思うのです。だから、これはひとつ念のためにといいますか、法務大臣のおっしゃっておる法務大学というのは一体どんなことなのか、これをひとつ御答弁いただきたい。  まず、裁判所のほうから、裁判官が非常に足らないというふうな状態の中で、法曹人口も足らないというふうな中で、一体司法修習生の採用人員はどの程度を予定しているのか、先にお答えをいただきたい。
  116. 岸盛一

    岸最高裁判所長官代理者 今年度の司法試験でどのくらいの修習生を採用できるかということでございますが、司法試験は御承知のように資格試験でありまして、はたして何名合格するかということが問題になるわけであります。これまでここ数年来の経過を見ますと、一万人以上の受験生がありまして、最終的に合格するのは大体五百人前後ということで、去年もおととしも五百二十人とか三十人とか、よく司法試験の考試委員の会議等でも問題になりますが、それでは六百人、七百人も合格点をとったらどうするか、これは合格点をとれば何とかしてでもそれを収容しなければならぬことは間違いないと思いますが、無理に人数をふやすために試験の基準を下げるということは、これはまた大きな法曹の質の問題になりまして、大体現在のところでは五百数十人というところに落ちついておるようでございます。しかし、将来の構想としてどうするかということは、午前中もちょっと申し上げましたが、司法修習運営諮問委員会等でこれから十分討議しなければなりませんし、また経理方面の――まだこれはこれからの問題でございますが、少なくとも千名くらい収容できるような宿舎をつくりたいというようなことを考えております。裁判官、検察官、弁護士の質を下げることなくしてしかもその数をふやしたい、それには、試験のあり方、それから修習のあり方等、いろいろ総合的な問題がからみますが、大まかなことを申し上げますと、以上のとおりでございます。
  117. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 法務大学に関する御関心をいただきまして、ありがとうございます。  実は法務法曹という中には、申し上げるまでもなく、裁判官、検察官、弁護士、この三軒を含めて法務とか法曹とかということばを使っておるわけでございますが、その法務大学をつくりまする目的は、まず第一に、大きなねらいは一つある。  その一つは、どうも昨今、ただいま御質疑にありましたように、人材が得られにくい。数多くの採用をしようと思えば、試験の基準を下げなければならぬ、頭脳の低い人を採用するということにならなければならぬ。それで、高い基準で理想の法曹を養成しようと考えますと、司法試験の基準は高くしなければならぬ。高くすれば人はなお得られない、こういうことになります。そこで、これに優秀な法曹としての専門的教育を与えまして――専門的教育というのは、一般の法律学に加うるに法百人としての知識を与えるという意味で専門的教育というのでありますが、そういう知識を与える独立の大学、いわゆる大学規定によらない、単独法による法務大学というものを考えてみてはいかがなものであろうか。これならば、相当高度の教育を施しまして、相当数多くの人材を得ることが可能となってくる、こういうことが一つのねらいでございます。  それから第二の法務大学のねらいは、これは私の長い弁護士の経験、衆議院議員になりまして今日までの経験から一貫して言うておることでございますが、願わくはこの法曹は、弁護士も、検事も、裁判官も、三者ともに思想的に見て右に片寄らず左に偏せざる中道を歩む思想の持ち主であってほしい。あえて言いますならば、思想的には憲法は自由でありますから、どんな思想も御自由でありますから、思想をとかくするというよりは、職務を遂行するにあたっては、ひとつ中道で片寄らずにいってもらいたい、片寄った思想でものの判断をしてもらっては困る、こういうふうに考えていくことが理想と思うのでありますが、いかんせん、思い思いの高等学校、思い思いの大学で数年間にわたって教育された者を、ただ知的試験だけで、それを中心として、何分間か人物試験も行なうのでありましょうけれども、中心になるのは知的な試験だけで、知的検査だけで合格せしめて、これを収容して二年間修習をしておるのでありますが、その二年間の修習をするときには、もうすでに独自の高等学校、独自の大学で教育を受けて独自な思想を持ってきておると、右に片寄らず左に偏せずなどと申しましても、これはなかなか言うべくして行なわれるものではない、こういうふうに考えますので、私は、高等学校からお預かりできまいか、将来法曹になりたいと希望する人は高等学校の年齢からお預かりをするわけにいくまいかということを考えたのでございます。しかしながら、高等学校程度のものから預かるということはなかなか容易なことでございませんので、修習の二年間を加えまして、そうして実際の大学教育は四年間、修習二年を加えますと六年でございますから、その同じ六年間で、国家は授業料を無料とし、一切の教育に必要なる資料は国費をもって配給するという方針をとりまして、原則として寄宿舎に収容いたしまして、六年間の大学で教育を施す。  そこで問題となりますのは、それじゃほかの大学で勉強をした者は法曹になれないではないかということがありますので、それは現行と同じように、ほかの大学を四年修了された方は五年生に編入を許す、五年生入学を許す、二年間は修習の期間とするわけでございますから、そこで修習をしていただき、やはり法務大学の卒業生ということになって資格が与えられる。  こういうふうな構想で、人材を集めやすく、かつ片寄らない態度法曹としての任務を果たしていただくような、理想の法務行政の行なえる国にしていきたい。理想の裁判の行なえる、理想の裁判官、理想の弁護士、理想の検察官というものを見たければ日本に来い、こういう形の教育をやりたいものだと考えたのが、法務大学の構想でございます。  それから、これは一言申し上げますと、私の単なる構想で思いつきをしゃべったというものでない。これはもう永年にわたって考えてきたことで、私が十数年前にすでに雑誌にも書いておることでございます。これを京都で発表いたしだのでございますが、間もなく正式の法務省省議を開きまして、省議の席でこの構想を発表いたしまして、次官以下の者に対して十分この構想を練るようにということで、日下構想を練ることを命じております。現在は構想段階でございますが、この構想段階が終わりましたら、大体のアウトラインを文章にいたしましてこれを表面に出しまして、そして裁判所弁護士会、国会はもちろんのこと、わが国のあらゆる各層各界の御意見を聞きました上で具体的な立案をすることにしたい、こういう構想でございます。
  118. 中谷鉄也

    中谷分科員 臨時司法制度調査会意見書の中にも、司法修習制度についての改善司法研修所の管理運営等については相当突っ込んだ議論がなされているわけで、この問題については大臣が法務大学というのに非常に意欲的なので、私非常に驚くと同時に敬意を表するのですけれども、端的に申し上げますと、何か大臣のお考えのようなものだとすると、法務大学ではなしに、法務技術大学のようなものになりかねないのではないかという感じがいたします。これはまあ構想としてお話しになっておられる段階なので、これについての質疑をさらに続けることはやめます。  そこで、いわゆる百日裁判の問題ですが、裁判所に最初お尋ねをいたしたいと思います。  公職選挙法のいわゆる百日裁判、この問題については、もう長官の訓示であるとか通達だとか、いろいろなものが従来ずいぶん出ていると思うのです。ところが、先ほどからも御答弁がありましたように、要するに、改善の傾向が見えない。逆に言うと、百日で裁判が終わるなどということが例外だ。要するに、百日以上かかるのはあたりまえだということになっている。そこで、裁判所としては五月の下句に刑事裁判官の合同会議をお持ちになるということですけれども、特に統一地方選挙のあと公職選挙法違反の事件が集中してくると思うのですが、何といたしましても、当選をした人が任期近くまで刑事被告人というふうなことで裁判が延びていく、裁判が終わらないというふうなことは、やはり国民が納得しないと思うのです。したがいまして、裁判所としては、昭和三十四年の通達等においてもかなり詳しいことをお取りきめになっておられるのですけれども、少なくとも今度の統一地方選挙後の百日裁判実現のための対策として、いろいろなきれいごとを並べるのではなしに、このことだけはどうしても裁判所としてはやりたい、そうして百日裁判を実現したいということをお答えいただきたいと思います。
  119. 佐藤千速

    佐藤最高裁判所長官代理者 私からお答え申し上げます。  仰せのとおり、重々ごもっともでございます。まさに私ども中谷委員と同じ気持ちでこれを何とかしなければならないというふうに考えておるわけでございます。午前中にも若干申し上げましたように、選挙事件迅速処理について具体的な改善事項についての申し合わせができておる。それが必ずしもそのとおり励行されておらない。趣旨においては検察庁も弁護士会も異論がないところでございますが、にもかかわらず、それが実効があがらないのはなぜであろうかということに帰するわけでございます。一時に多数の事件が殺到するということ、そういう不利益な状況を背景にしてしかも迅速に処理しなければならないということでございますので、なおさらでございますが、具体的には、従前も申し合わせたような事柄、一言で申し上げれば、それを実行するということに尽きるわけでございますが、末端におきましてはなおそれが徹底しない。たとえば、具体的な事件におきましては、相当多忙な弁護人が主任弁護人におつきになる、そのために期日と期日の間隔が開いてしまうというようなことも従前から問題になっておる。そういう場合に、その当該事件のあります裁判所の所在地の弁護人に主任弁護人をお願いして進行をはかってはどうかというようなことも、従前から一つの具体的な方策としていわれておるわけでございますが、さて具体的な事件処理になりますと、被告人本人と当該弁護人との信頼関係の問題というようなこともございまして、なかなかそれが考えているとおりにいかないというようなこと、あるいは、御承知のとおり、この種の事件におきましては訴因が多数である、追起訴も多いというようなことから、なかなか審理に入るのがおそくなるというような面もございます。  それで、先ほどの御質問に対して具体的にどうするかということでございますが、やはり従前あげられておりますような事柄は、今日においても妥当するような事柄がもっぱらでございます。そこで、それをさらに具体的に関係方面と会同の事前あるいは事後に連絡をとりまして、実際問題としてできる範囲においてこれだけはどうしてもやろうというようなことを、もう少し具体的に個々的に線を出してみたい、かように思っております。  それから、単に中央の会同でそういうことを申し合わせるというだけに終わらせないで、これはすでに先日、東京地裁におきましては、御承知のとおり、第一審強化方策協議会というのを開催いたしまして、対応する検察庁及び弁護士会三者の協議を行ないまして、この種事件審理促進についての打ち合わせをいたしまして、その点について意見の統一を見たということもございますし、東京のみならず、ほかの裁判所におきましてもそういうことが行なわれておりまするので、これをただその打ち合わせが行なわれたというにとどまらず、そのあとを受けまして、具体的に、しからば今度は個々の部においてそれをどういうふうに具現化するかという問題があるわけでございますし、裁判所の内部におきましても、単に審理の問題にとどまるわけではございませんので、たとえば判決書きの浄書を早くするとか、そういうことも、じみなようでございまするが、かなり大事なことでございまするので、そういう問題もさらにきめのこまかい検討を行なって、できるものからどしどしやっていく、そういう体制をとるということが必要でございます。それは個々の部あるいは係だけの問題ではないのでございまして、当該裁判所全体が有機的な関係を持ちまして協力していくという体制がぜひとも必要だと思っております。  そこで、どういう事柄をやるかということは、なおこれから関係方面と私ども十分に連絡をとっていきたいと思っておりまするが、従前、三十四年の会同におきまして合意に達しましたような事柄は、これはいまにおきましても妥当するものと考えておりまするので、いわばそれをさらに具体化していく、実際問題としてどういうふうに具体化していくかという問題をもっと掘り下げる必要があるのじゃないか、かように考えているわけでございます。
  120. 中谷鉄也

    中谷分科員 刑事局長のほうからずいぶん詳しい御答弁があったのですけれども、結局、三十四年――と申しますよりも、公職選挙法が改正になってから繰り返し繰り返し言われてきたこと以外に、新しい具体案、提案というのはなかなかないと思うのです。これは私は実務家としてそう思います。しかし、何としてでも、法に定めてあるからという意味ではなしに、選挙の浄化というか、そういう観点からいって、百日裁判というその法の趣旨を生かしていくということは、これは国民の一つの気持ちだと思うのです。  そこで、これは裁判所訴訟指揮の問題になってまいりますると、この委員会で直接お尋ねしていいことかどうかはっきりしませんので、とにかく裁判所の御努力をお願いするということで裁判所の御答弁は一応お聞きしておきまして、大臣にひとつ御答弁いただきたいのですけれども、大臣は、四月の五日に全国次席検事会同において訓示をされました。その訓示を拝見いたしますと、「公訴を提起したものについては、迅速適正な科刑の実現につき遺憾なきを期せられたい」、こういうふうな訓示なんです。この訓示、これはあたりまえといいまづか、そのとおりのことだと思うのですけれども、具体的に――先ほど裁判所の御答弁がありましたとおり、裁判所のほうでも、百日裁判を実現するための三十四年の打ち合わせをとにかく実行しなければいかぬのだというお話はあっても、特効薬はない。検察庁のほうでも、集中審理だとか、あるいは調書の閲覧問題だとか、いろいろな点についてくふうをしておられると思うのですが、結局それも従来やってきたことであって、百日裁判の趣旨というのは実現しないと思うのです。  そこで、まあ地方議員、県会議員にしろ、市会議にしろ、町村会議員にしろ、そういう当選した人の気持ちというものをそんたくしてみますと、とにかく裁判になると延ばそうとする、これは候補者といいますか議員心理だと思うのですけれども、ひとつ勇気をもって訴因をしぼられたらどうか。要するに、供応の事件なんかで五つも六つも起訴されるから結局長くかかる。訴因を思い切ってしぼられたらどうか。先ほど裁判所刑事局長さんのお話の中に、訴因が多いという趣旨のお話もありましたけれども、ひとつ訴因をしぼられて、すみやかに自己の選挙に関して有罪の判決を受けた者は失格をするのだ、そのことのほうが、むしろ裁判効果としても、選挙の粛正というか浄化の面でも意味があるのではないか。この点についてはいかがでしょうか。これ以外に百日裁判を実現する方法はないと私思うのですけれども、お答えをいただきたいと思います。
  121. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 いまのお話でございますが、百日裁判という御主張、猪俣先生からも先ほどございましたし、先生からもただいまお話しありましたが、この両先生の百日裁判の御主張というものは、私は、裁判所ばかりに責任があるというふうに言えないのだ。これは言いにくいことなんで、私の役人もたくさんおりますけれども、やはり訴訟関係人としての検察官の責任もある。一半の責任は検察官も負わなきゃいかぬ。具体的に、訴因をしぼるというようなところまでいくかいかぬかは別でございまして、たとえば法廷における攻撃、防御の方法を迅速にやる、そしてその立証を迅速果敢にやっていくということを生かしまして、検察官の都合によりこの日は悪いから次の日に延ばしてもらいたいなどということもひとつ最小限度にとどめるようにして、期日のきめ方一つに至るまで、やはり検察官も裁判長に協力をするという態度をとっていくべきものである、実は百日裁判促進ということばは私の訓示の中にはございませんけれども、そういう頭が日ごろあるものでございますから、そこで次席検事会同をいたしました際にも、迅速果敢にこれをやっていけ、ぐずぐずするな、急げという意味をここにやや具体的に述べたのでございます。  それから、先生の仰せになりました最後の、訴因をしぼるという問題、これがなかなかむずかしい問題であると思います。たとえて申しますと、同一事項の買収なら買収、供応なら供応というものが五つも六つも並んでおります場合においては、その最も悪質なものを三つなら三つとらえて、あとはひとつ事情としてつき添えておくといったようなことができぬことはございませんが、買収、供応、戸別訪問、その他質の違うものが一つ一つ重なって同一候補者に出ておりますような場合に、そのうちの大下なものの一つに訴因をしぼり上げるということは、なかなか――検察にはやはり公平の原則というものがございますので、ある人はしぼり得る、ある人はしぼれないという、二つ三つやった人も、一つしかやらなかった人も同じ価値で裁判をされているんだ、求刑をされているんだということ、どうもこの点はむずかしいことと思います。しかし、御趣旨はよくわかりますので、御趣旨を体しまして、十分訴因をしぼるところまで協力をして促進すべきものだという考え方に立って、ひとつ検討さしていただくことにいたします。
  122. 中谷鉄也

    中谷分科員 とにかく百日裁判を実現するためには、裁判所を中心として、検察官、弁護人、訴訟関係人の協力がなければ成り立たないことだ、これはよくわかるのですが、そうすると、特に検察官に対する要望といいますか、百日裁判実現のために一番ネックになっているというか、検察官に対してこれだけはやってもらわなきゃいかぬのにやってくれないということで、百日裁判が実現しない一つ原因という問題の中に、要するに証拠書類とか証拠物の閲覧の問題、この問題については、やはりすみやかに閲覧をさせるということはひとつ徹底をしてもらいたい、このことをお願いいたしたいと思います。
  123. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 承知いたしました。極力そういうふうに指示をいたします。
  124. 中谷鉄也

    中谷分科員 そこで、その次に私お尋ねをいたしたいのは、公判の迅速適正化、その前提になる統一地方選挙における悪質事犯のとにかく徹底した検挙ということなんですけれども、この点については大臣に傾向をひとつお答えをいただきたいと思うのです。いわゆる統一地方選挙のとにかく悪質事犯としては、主としてどういうふうな傾向のものが出てきているのか。特に公務員の地位利用というのが相当各選挙において私は行なわれていると思うのですが、この点についての検挙の状況は一体どうなっているのか、この点についてお答えいただきたいと思います。
  125. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 公務員の地位利用の違反でございますが、どうも申しにくいのでありますが、相当量のものがあるのではないかと推定できるのであります。ところが、これはまたひとつ困ったことには、この問題の検挙、証拠をあげるということが、一定の組織を持った公務員を相手でございますから、なかなか容易でございません。調べてみましても、知らぬ存ぜぬということが多い、実際はやっておるということが相当に多いのでありますが、どうもその検挙に困難性を伴うておる、そうして証明が困難だということで、わりあいにあると見受けられるのでございますけれども、実際に検挙される者は至って少ない、こういう傾向でございます。
  126. 中谷鉄也

    中谷分科員 百日裁判の問題については、百日裁判が実現することが非常に困難だというふうなことの感じがいたしまして非常に残念ですが、これは裁判所法務省、それから関係人であるところの弁護人、それぞれ努力しなければいかぬことだと思いますが……。  最後に、個人的にはこういう賛同をすることは非常に遺憾ですけれども法務省刑事局長さんに私御答弁をいただきたいと思います。と申しますのは、何と申しましても、これは法務大臣御自身で御訓示をされて、選挙の取り締まりの励行を訓上されているということなんですが、前の委員会等においても、参議院の委員会等においても大臣すでに御答弁になったようですけれども、大臣のいわゆるお茶の会与件というのが現在捜査の対象になっている。したがって、これは大臣から御答弁いただくわけにはいきませんが、刑事局長さんにひとつ御答弁をいただきたいと思います。要するに、とにかく捜査をすみやかにやれ、こういうふうな大臣の訓示、当然のことだと思うのですが、法務大臣の――と申しますか、これは田中さんのいわゆるお茶の会の文書違反です。この事件については一体現有どうなっているのか、終結をしたのか、それともまだ現在捜査中なのか、それが捜査中なら、いつごろ終結するのか、このあたりについて、これはやはり選挙違反の筋目をただす、事件になるならないは別として、筋目をただすという意味で、この事件についてははっきりしたお答えがあることが大事だと私は思う。その点についてはひとつ刑事局長さんのほうから御答弁をいただきたい。
  127. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 捜査段階に関しましては刑事局長から御報告します。それから、せっかく大事なことでありますから、事実について一口だけ申し上げます。  私は、二十二年目になると思いますが、中一年休んだことがございますが、二十二年間継続いたしまして、数万名に案内を出しまして、お茶の会を一月元日から三日間やっております。元日休みまして日、三日のみやったことも一、二度ございますが、大体正月三日間は継続しております。本年もそうやりたいと思いまして、十二月まで数カ月以前から、選挙云々されないころから、はがきの表書きをして準備をさしておりました。ところが、十二月に至って、お茶の会の案内状を印刷しようという段階になりまして、はからずも――ほんとうにこれははからずもだったわけでありますが、はからずも法務省につとめることになった。そこで、しかたがありませんので、これはお茶の会が、やれないということで、案内状の用意をしておった表書き数万通を、約八万何千通になろうと思いますが、これを、お茶の会をいたしませんという延期の通知状に切りかえた。これはもちろん、申し上げるまでもなく、解散を決定いたします以前の十二月二十二日投函、二十三日ないし二十四日に民衆にこれが届いておる。京都から出して京都に配達をしたという事件でございます。  私の見解は、これは文書違反などという筋のものではない。文書違反というものは、告示になってから後の行動が文書違反であって、告示以前の問題では文書違反の問題はあり得ない。それから、事前の運動ではないかという疑いがございましょうが、事前の連動というものは、選挙がきたら自分に票をもらいたいとの意図を表明した文書でない限りは、これは文書は自由であろう、数のいかんにかかわらず自由であろう、こういう判断をいたしまして、秘書が書いたといっておるようでありますが、それはうそでありまして、私がみずから原稿を書きまして、私が印刷を命じた、私の責任でございますので、それがけしからぬことであって、法規に違反するものだという認定をその筋から受けます場合においては、直ちに身の処置をする、こういう決意を持っておるものであって、私の見解は、違反になろうはずがない、こういう考え方を持っております。  捜査段階におきましては刑事局長から御報告を申し上げます。
  128. 川井英良

    ○川井政府委員 二月の十八日に京都府警本部に対しまして告発がなされまして、一応の取り調べをした上で、三月の十八日に京都地検に対しまして告発事件についての送付がなされました。その後、京都地検におきまして捜査を続けておりまして、最近の報告によりますと、近いうちに結論を出したい、こういうことに相なっておりますので、結論といたしましては、目下捜査中、こういうふうにお答えを申し上げます。
  129. 中谷鉄也

    中谷分科員 まあ非常に個人的には遺憾なことだという前提を置いてお尋ねをしたのですけれども、端的にいって、田中さんといいますか法務大臣のほうから御答弁があるとは思わなかったわけです。そこで、法務大臣が答弁に立たれて、これは御自分のことだ、違反じゃないんだ、こう御答弁される。  それで、私あまりこういうふうなことについてはお尋ねをしたくありませんが、刑事局長にこれだけを聞いて賛同を終わりたいと思いますが、中さん御自身を京都地検ではすでにお取り調べになりましたかということが一点。いま一つ、たとえば、この当時の新聞報道によりますと、市川房枝さんの日本婦人有権者同盟なんというのは、これはたいへん不穏当だ、こういうように言っておる。だから、田中さん御自身、大臣御自身が、違反じゃないんだ、こうおっしゃっても、そういうふうに思った人というのは確かにたくさんいるわけなんです。現に、私もよく知っていますが、田中さんも弁護士だけれども、京都のまじめな弁護士がこれを告発したというふうに私聞いている。まあそういうことなんだ。そこで、刑事局長にいまお尋ねした、田中さん御自身をすでに取り調べられたのかどうか。近くというようなことですけれども、近くというのは、結局そうすると、何かまだ調べが足らないということになるのか、一体、それでは四月じゅうにというふうに理解してよろしいのか、それとも、五月の末までかかるのか。これはほかの人の違反じゃなしに、田中伊三次さんという法務大臣の違反だということで、国民はやはり注目しています。違反の有無に関することですから、この点についてはお答えをいただいておくほうがいいと思いますので、お答えをいただきたい。
  130. 川井英良

    ○川井政府委員 なるべくお答えをしたいと思いますけれども、目下捜査中の案件でありますので、大臣を地検の検事が調べたかいなかということも含めまして、もうしばらく御猶予をいただきたと思います。それから時期の問題でありますけれども、何日ということをいま申し上げるだけの報告を受けておりませんけれども、五月末になるというようなことはないということは申し上げることができると思います。
  131. 田中伊三次

    ○田中国務大臣 私、大臣なことですから……。私を取り調べた取り調べないということ――事実聴取と思いますが、下火について事実聴取をしたかどうかということ、私本人は、遠慮なく聴取をしてもらいたい。それから先の段階でございますが、警察に告発があったわけです。その警察の告発は、私の進んで、こういう事情で発送したものであるという書類を警察に提出をいたしました。その書類に基づいてさらに具体的に聴取の必要があれば、いつでも調べてもらいたいということで、進んで警察の調べを受けた。事実聴取を受けまして、一件書類もできております。したがって、検察の段階においても、ぜひ調べてもらいたいとの希望を私は持っておるのでありまして、現在のところ、まだその段階に来ておらぬようでございますが、いつでも進んで取り調べを受けるという考えになっております。
  132. 中谷鉄也

    中谷分科員 要するに、刑事局長に要望申し上げておきますけれども、とにかく事件として、捜査の秘密というほどのものになるかならないかの判断は別として、一件としては非常に簡単だというか、事件だと思うのです。したがいまして、特にこの種の事案についてはひとつ明確な捜査の経過を、しかるべき段階にははっきりさし、もらいたい。そうでなければやはり納得しないと思うのです。そのことだけを要望しておきます。
  133. 鈴木善幸

    鈴木主査 これにて裁判所及び法務省所管、予算の質疑は一応終了いたします。  明二十一日は、各党間の御協議によりまして、午前十時より開会し、防衛庁、科学技術庁予算及び大蔵省関係予算について質疑を行なうこととし、本日は、これにて散会いたします。    午後三時四十三分散会