○斉藤正男君 私は、
日本社会党を代表し、ただいま議題となりました
日本学術振興会法案に反対の討論を行なうものであります。(
拍手)
文部
大臣の提案
説明によれば、本法は、学術の振興をはかるため、特殊法人
日本学術振興会を設立し、学術研究の助成、研究者に対する援助、学術に関する国際協力の実施の
促進等の業務を行なわせることを目的としております。
政府は、本法により、今後、振興会を窓口として学術振興行政を積極的に
推進すると
説明しておりますけれ
ども、しさいにこれを
検討いたしますと、実は
わが国学術研究の将来に重要な問題をかかえ、重大な影響のあることを見のがすわけにはまいらないのであります。(
拍手)
その第一は、行政管理庁が強く
指摘し、公社、公団、特殊法人の新設はこれを
抑制し、整理するという
方針の中で、財団法人
日本学術振興会をこの際特殊法人
日本学術振興会に改組することは、時代の
要請に反することはなはだしいといわなければならないのであります。(
拍手)
その第二は、科学技術の振興につきましては、科学技術庁の所管
事項もこれあり、特に科学技術基本法の制定が焦眉の急務であり、大前提であるにもかかわらず、今日なお法制化されていない段階において、本法が文部省の手によって制定されることは、
わが国科学技術の抜本的振興
対策の上からも、時期尚早と断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
その第三は、産学協同の
推進を明白に打ち出している点であります。しかも、これは、無制限に
産業界、財界と結び、ビッグサイエンスの調和ある
発展にとって大きな障害となることもまた明らかであります。(
拍手)
その第四は、日米科学協力を強く
推進する
機関になりかねない点であります。文部省は、本
法案の
説明の中で、米国側の
担当機関である国立科学財団は
政府機関であり、
わが国も均衡することが望ましいと述べております。この
法案が
国家の監督
強化のもとに日米科学協力、軍学協同というものを一そう
推進しても、歯どめの
機関は何
一つ規定をされておらないのであります。
その第五は、
法案の
内容であります。それは、一口で言えば、学術研究に対する
中央集権化であり、官僚統制の
強化以外の何ものでもないということであります。(
拍手)すなわち、振興会役員の任命、解任をはじめとして、文部
大臣に膨大な権限が与えられていることであります。
振興会の役員として、会長、理事長、三人以内の理事、二人以内の監事が置かれることになっておりますけれ
ども、これら役員はすべて文部
大臣の任命であります。一方的な任命によって文部
大臣がすべての役員人事を支配し得ることは、振興会の組織を
政府が意のままに支配統制するための基礎的前提と断定せざるを得ないし、今日やかましくいわれている官僚の天下り組織となることは必然であります。(
拍手)さらに、文部
大臣は、役員の解任権も持つのであります。しかも、この解任権は、文部
大臣が個人の
見解により役員たるに適しないと認めたときには、いつでも一方的に発動できる仕組みになっておるのであります。
これを要するに、文部
大臣は、役員の任命権と解任権の両者をあわせ持つことにより、振興会人事に対し生殺与奪の実権を握ることになり、きわめて危険であると断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)さらにまた、会長の諮問に応じ重要
事項を
審議する
機関として、十五人以内で組織される評議員会の評議員も同様であります。学術振興会は、学術研究を
中心とする
機関であるからこそ、他の特殊法人と比較して、自主的、民主的運営が確保されなければならないと思うとき、時代錯誤もはなはだしいといわざるを得ないと思うのであります。(
拍手)再三にわたる
日本学術
会議の要望や申し入れにもかかわらず、学術
会議との関係が法文上何ら明記されていない事実は、このことを雄弁に物語ると思うわけであります。
文部
大臣は、まず人事及び組織の両面で振興会を完全に支配下に置いた上で、さらにその事業及び管理運営の面で重要な点をすべてその統制下に置こうとしているのであります。すなわち、全文わずかに三十九条の短い本
法案のうちで、文部
大臣の
認可ないし
承認を必要とするものが七点もあるのであります。このことは、本
法案が、事業及び資金
計画の両面にわたって、これを全面的に文部
大臣の
認可事項とし、その統制下に置こうとしているものであることを証明するものであります。
そもそも、どのような方面、どのような分野の学術振興に重点を置くのか、どのような国とどのような形で国際交流を積極的に進めるのか等々の、学術にとって最も基本的な重大な問題が、事業
計画や資金
配分計画の
内容をなすものである以上、これらをすべて文部
大臣の
認可、
承認事項とすることが、学術の
国家統制への道を開くものであることは明らかなのであります。(
拍手)
さらに、
法案によれば、文部
大臣は振興会の事業実施に対し全面的に監督権を行使し得ることになっておるのであります。しかも、どのような場合にどのような命令を出し得るかにつきましては全く規定をされず、無制限なのであります。このことは、文部
大臣に白紙委任したも同然であり、自由裁量にまかせたも同様なのであります。
法律上必要である、ないし監督上必要であるという理由をつければ、どんな命令でも出すことは可能になっておるのであります。しかも文部
大臣は、進んで振興会の事務所へ立ち入り検査をする権限まで持つのであります。その上、この立ち入り検査を拒否したり、求められた報告を出さない場合には、三万円以下の罰金がかけられ、その他文部
大臣の命令に違反をしたときは三万円以下の過料に処せられることになっておるのであります。
わが国最高の学術研究
機関に対し、屈辱的罰則規定を設けているがごときは、まさに言語道断であるというべきであります。(
拍手)
文部省設置法は、その第五条十八号において、「大学、高等専門学校、研究
機関に対し、その運営に関し
指導と助言を与えること。」と明記されておるのであります。したがって、学術振興会に対する文部省の権限も、
指導と助言の範囲にとどまるべきであって、この範囲を越え本
法案のような強力な指揮、監督権を与えることは、文部省設置法の
趣旨にも違反するものと断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
以上、
指摘いたしましたように、本
法案は、文部
大臣が振興会の役員、評議員の人事を一方的に支配し、振興会の事業、資金
計画をその統制下に置き、その事業執行や振興会の管理、運営に対する全面的監督権を持つことを許した
法案であり、振興会及びそれが行なう学術振興事業を徹頭徹尾
政府の官僚統制下に組み入れ、本来平和と
社会進歩のための自由な学問研究を逆に統制支配しようとするファッショ立法なのであります。それは学問の自由を保障する
日本国憲法第二十三条の精神にも明らかに違反するものといわなければならないのであります。(
拍手)
したがって、本
法案は単に一
法案の問題にとどまらず、学問と
政治の関係についての根本的
考え方に
関連する重要な問題点を含んでおるのであります。もし、本
法案に盛られたような
考え方が認められるとするならば、自由を保障されることによってのみ
発展する真の学術は死滅し、御用学問のみが生き長らえる
方向に今後急速に進むであろうことを、私
どもは心配するのであります。(
拍手)
さきに、
日本科学者
会議に結集された
日本の良心的科学者の皆さんをはじめ、大学、研究
機関の学者の方々が強く本
法案の成立に反対していることも当然だろうと思うわけであります。
援助すれ
ども支配せず、これが学術文部行政の民主主義的
原則であります。援助するかわりに支配する、このことを
原則とするような逆行もはなはだしい本
法案の撤回を求め、私の反対の討論を終わるものであります。(
拍手)