○兒玉末男君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
農林大臣より説明のありました
漁業の
動向に関する
年次報告書及び
沿岸漁業等について講じようとする
施策について、佐藤
総理並びに関係
大臣に質問を行ないます。
沿岸漁業等振興法に基づくいわゆる
漁業白書が国会に報告されるようになってから回を重ねること四回、そのつど
日本社会党から
質疑を行ない、
改善すべきところはそのつど
指摘してまいったのでありますが、それにもかかわらず、いまだに改められない点が数多く残っておることはまことに遺憾であります。国会で
指摘をされた欠陥を
改善すべき努力を欠いた
政府も、この際強く反省し、
わが国漁業の発展のために積極的に
取り組むべきであることを強く主張するものであります。
私は、まず
漁業白書の性格について触れてみたいと思います。
漁業白書は、何よりもまず
日本漁業の指針となるべき
内容と権威を持つべきものでなければなりません。そしてその
内容も、
政府の
施策、すなわち、前年度重点
施策として掲げた
漁業生産基盤の
整備事業、
沿岸漁業及び
中小漁業の
近代化事業等々がどう進められ、その効果がどのようにあらわれたか、また、効果がなかったとすれば、どこにその欠陥があったのかというきめこまかい分析が必要であります。その分析の上に、次年度の
施策を積み重ねるという姿勢をとってこそ、真の
漁業白書といえるものであります。現在出されているような古い統計資料を羅列し、次年度予算の数字説明に終始するがごとき白書は、単に国会に報告する義務を形式的に果たしている事務的所産物にすぎないと申しても過言ではありません。かかる形式的かつ
内容に乏しい報告が今後引き続き繰り返され、また、国会で
指摘をされた欠陥の
改善を
政府みずからが無視する状態が通例ともなれば、白書に対する関係者の関心は年ごとに薄れていき、法の目的からはるかに逸脱した無用の長物となりかねません。
政府は、次年度から
漁業白書に対していま少し真剣に
取り組み、
わが国漁業振興の指針となるにふさわしい白書とするよう、責任を持って対処さるべきであります。(
拍手)
総理は、
漁業白書の今日のあり方をどのように
考えておられるのか、そして今後の白書について、これを
改善するためいかなる構想をお持ちなのか、お伺いしたいのであります。
わが国の
漁業は、
昭和三十六年までは引き続き世界第一位の
生産量を占め、名実ともに水産
日本の名を誇ってまいりましたが、三十七年以降はかろうじて二位の座を守って今日に至っております。しかし、近年における中国あるいはソ連の進出
状況からして、これらの国にその地位を追い抜かれ、二位の座が入れかわる日も間近いといわれております。
かかる
状況を招来しました原因は、
政府が水
産業に対しまして積極的な
施策を講じなかった結果であり、それにも増して重要なことは、
日本の
漁業が、将来に対するビジョンも持ち得ず、きわめて近視眼的な
漁業を行なっているということであります。現実に動物性たん白を魚介類に大きく依存する一億の国民を背後に持ちながら、そうして国土の四方を海に囲まれた地理的
条件を有しながら、また、かつて水産の国
日本という名を永年世界にとどろかした実績を持ちながら、現実には積極的な
施策を期待できず、未来像を持ち得ない
状況に置かれているのであります。海洋資源の開発に必要な資源量の
調査、魚介蝦類の種類別の各種
調査、研究、あるいは中、深海魚類の開発
調査並びに研究など、幾多の
調査、研究の課題があるはずであります。これらの基本的な
調査、研究が積極的に行なわれ、その
調査、研究結果に対する国の適切な援助措置が講ぜられるならば、
日本漁業のビジョンを打ち立てることも可能なはずであります。また白書も、未来像をいかにして築き上げるかについての
調査並びに研究の面に全く目を向けていないと思いますが、
総理は一体いまの
日本の
漁業の実態をどのように
考えておられるのか、将来これをいかなる形で
振興、発展させる方針なのか、責任ある御答弁をいただきたいのであります。
次に、
日本の
漁業について具体的な問題で
お尋ねをします。
わが国の
漁業総
生産は、
昭和三十五年から四十年までの五カ年の平均は、年間六百七十万トンであり、その伸びが全く
停滞している
状況であります。一方、
政府は、
わが国の
水産物の
需要は、五年後の
昭和四十六年には約九百万トン、十年後の
昭和五十一年には約一千万トンと予測しているのであります。また、年ごとに
増大する
需要に応じて
輸入は毎年
増加の一途をたどっており、最近の
輸入統計を見ましても、
昭和三十五年の五十五億二千三百万円から、
昭和四十年には四百六十三億六千六百万円に
増大しており、このままで推移するならば、
需要と
供給のアンバランスを
輸入によって埋め合わせすることは、長期的に見ると不可能であります。
また、
わが国民の動物性たん白質の摂取量は、現在、先進国の二分の一ないし三分の一であり、今後国民
所得の
上昇とともに、
水産物が動物性たん白
供給源としてますますその
需要を増してくることは明らかであります。これらの
需要をまかなうに、
輸入のみに依存するという消極的な姿勢では、必ず行き詰まりを来たすことを
考えるとき、
政府が逡巡することなく、即刻積極的な
生産体制をつくる必要があることを痛切に感ずるものであります。
政府は、
需要と
供給の見通しについても、いま少し大所高所から検討を加え、積極的な
対策を直ちに講ずべきでありますが、その方策をお持ちかどうか、お伺いしたいのであります。
さらに、現状打開をはかる前向きの姿勢を持つ意思があるとすれば、
沿岸漁業を不振におとしいれている水質汚濁問題にも、当然きびしい態度で対処されるべきであります。水質二法案は実施されたものの、その後も工場排水、都市下水等による水質汚濁はあとを断たず、魚の住めない
沿岸海域はますますふえております。その上、海岸埋め立ての進行等も加わって、
漁業環境はますます悪化しております。この状態を放置するならば、
沿岸漁業が衰微の一途をたどることは火を見るよりも明らかでありますが、これに対してはいかに対処されるつもりなのか。
以上二点について
総理並びに
農林大臣の御答弁をいただきたいのであります。(
拍手)
戦前、
日本は公海自由の原則により海外漁場に何ら制約を受けることなく進出することができました。ところが、戦後は
状況が著しく
変化して、
日本漁業をめぐる国際的な規制はとみに強化されてまいっております。中でも世界の国々で
漁業専管水域を主張する国は年ごとにふえ、国連加盟九十二カ国のうち実に三十三カ国が十二海里の領海を含めた専管水域を設定し、もしくは設定しようとしております。
一方
わが国は、現在にあっては古典的なものとなりかねない領海三海里説をいまなお固執し、
漁業専管水域についても国際的趨勢にかんがみ、これに対する合理的な
考え方を固めなければならないにもかかわらず、積極的な姿勢をとらず、その設定については関係国との合意に基づくものでなければならないという消極的な立場をとっております。この
考え方は今日国際舞台においては少数意見となっており、はなはだしく説得力を欠くものであります。この消極的な
政府の態度が、ひいては幅の広い領海並びに専管水域の一方的な設定を相手国にゆだねることになり、
わが国の海外
漁業が不利益をこうむることになります。この
政府の方針で
わが国の
漁業を
指導する場合、かつての李承晩ラインと同様、一方的に専管水域を設定した相手国に
日本漁船が拿捕される危険性が多分にあり、現にインドネシアその他の国で事件が発生しております。
先般、外務事務次官を通じて専管水域十二海里説をとる旨の新聞発表がなされましたが、この際
政府は、領海及び専管水域に関する基本的な
考え方を明らかにするとともに、
わが国の
漁業者をいかにして
保護するかについても、その方途を明らかにしていただきたいのであります。
総理大臣は、領海及び専管水域並びに関係漁民の
保護についていかなる方策で対処されるつもりなのか、この際明確にお答えをいただきたいのであります。
また、これに関連しまして、この種の拿捕事件は
政府の
指導の誤った結果生ずるものであると
考えますが、これについての
政府の責任、たとえば李承晩ライン拿捕事件の際の閣議決定に基づく援助措置に類する救済方策を講ずる用意がありやいなや、あわせて明らかにしていただきたいのであります。
次に、近隣国との漁場の競合問題について
お尋ねいたします。
日韓国交正常化に伴い、
わが国は韓国
漁業育成のため、無償供与による第一年度分として漁船三十四隻、三百六十万ドル、また、民間信用供与によるものの総額九千万ドルのうち、第一年度分一千五百万ドルを決定し、
沿岸漁船四十三隻、遠洋漁船三十九隻、計八十二隻の建造が契約済みと報ぜられております。しかも、これらの漁船はカツオ・マグロ
漁業あるいは底びき網
漁業に従事するものが大部分であります。すでに台湾
漁業も大幅に進出をしてきておりますおりに、
わが国の援助によって韓国
漁業が進出してくれば、
日本漁業との競合は必至の情勢であり、関係者一同も非常に憂慮しておるのであります。この漁場競合もまた
政府の方針によるものでありますが、
政府は、この結果生ずる不利益、悪影響を最小限度に食いとめる責任を持つとともに、こうむった不利益を償う責を負うべきであると思いますが、これに対する
対策をいかに講じようとするのか、
総理並びに
農林大臣に御答弁を求める次第であります。
次に、許可
漁業に関する問題点について
農林大臣にお伺いいたします。
漁業は公開性、流動性、相互関連性、多岐利用性等数多くの特性を持つ漁場から
水産資源を採取するという特異な性格を持っていますので、その操業には何らかの規制が必要であることは理の当然であり、その規制の
一つとして
漁業許可制度をとっていると思いますが、
日本の
漁業許可制度については、いま
一つの任務があわせて課されていると思うのであります。それは
日本の
漁業が跛行的な発達をすることを阻止する、すなわち
漁業全般の発達が期せられず、特定のものだけが発展するいびつな形をとることを防止するという大きな目的を持っていることであります。
しかるに、現行の許可制
漁業の実態を見ますときに、この目的からはなはだしく逸脱し、ただ単に形式的なワクのみを規制した中で、
基盤の異なる
漁業者に弱肉強食の
自由競争をしいているとしか思えない点があります。このことは、許可制度に触れることなく、現行制度のもとであげた
生産の実績のみを重視する
考え方がその原因であろうかと思います。たとえば、
資本の大小によって許可制
漁業の恩恵を受ける
格差が大きくつけられていること、トン数補充制を採用しているために、漁船の新改造に許可トン数を売買するというような一種の権利売買が公然と行なわれ、それもトン当たり三十万から四十万の高値を呼んでいることなどから、
日本の
漁業の中にあって、常に重要な役割りを果たしている
中小漁業及びその他の
漁業として扱われている弱小
資本の
資本制
漁業は実に大きな痛手を受けているのであります。
これらの実態から
考える場合に、制度本来の意義を失ない、むしろ逆に跛行的発展を助けているがごとき現行許可制度は、その運用をすみやかに
改善する必要があろうと思いますが、
農林大臣の御
所見を承りたい。
さらに、許可
漁業に関連し、
漁業就業者の問題でお伺いします。
沿岸漁業、遠洋
漁業のいかんを問わず、
漁業就業者は出港時より帰港時まで、その身体を完全に拘束されることは当然でありますが、漁労の必要によっては、早朝、深夜を分かたず過激な
労働に従事しなければなりません。その上に、
気象条件に大きく影響されることと、この上ない危険作業であることも加わって、
漁業後継者が少なくなり、
漁業従事者の年齢構成も、高年齢層の比重が高くなってきております。
日本漁業がビジョンを持ち得ないこととあわせて、
政府の
指導性の欠除によって、
漁業後継者を少なくし、若年
労働力の確保を困難にしていると思うのでありますが、これも早急に
対策を講ずべきであろうと思います。
政府は、
漁業後継者育成についての
対策を持っておられるのかどうか、また、
漁業後継者育成資金等について検討されているかどうか、お伺いいたします。
加えまして、
漁業労働者の
労働条件等についてお伺いします。
漁業労働者の場合も、同じく時間にとらわれず、必要によって漁労に従事しなければならないという
漁業の特性を重視するのあまり、
労働基準法並びに船員法に規定されている
労働者の
保護規定の適用を除外されております。そのために深夜、早朝にわたる長時間
労働が継続し、出漁期間中は休日もなく、これらの重
労働に比較して、季節
労働であるために、年平均にならすと賃金が低い等のことが加わって、
漁業労働者を志望する者が年ごとに
減少し、現在
労働者不足のために出漁できない漁船すらあるといわれており、極端にいえば、
労働者を集め得る
漁業だけが将来残っていくであろうともいわれている実情であります。
許可条項の
一つに、
労働法令関係について著しく違反したものは不許可あるいは許可
取り消しをするという定めがありますが、
労働条件が劣悪なために志望者が激減しているにもかかわらず、不許可または許可
取り消しが一件もないということは、まことにふかしぎなことであります。
漁業生産を上げるための原動力である
漁業労働者を確保するためには、必要な
保護規定の適用と適切な賃金体系の確立をはかることが必要でありますが、この際、
労働者の
保護規定適用除外をある程度形を変えるか、あるいは違反事実のあったものにはきびしい態度で許可
取り消しを行なうなど、その措置を講ずべきであると
考えます。
以上、許可
漁業に関連する問題についてどのように対処される方針なのか、
農林大臣及び運輸
大臣にお答えを要求する次第であります。
最後に、
農林大臣並びに防衛庁長官に
お尋ねいたします。
さきにも触れましたように、
日本の
漁業生産と需給の関係は、年々その
均衡がくずれ、それを
輸入の
増大によってまかなっておりますが、
漁業生産を
増加させるために最も必要な近海の好漁場が他の目的に使用され、そのために著しい
漁業制限を受けているという問題であります。その結果、関係海域で操業していた漁民は、漁場を遠隔の地に求めざるを得なくなり、漁獲量の
減少、経費の
増大等できわめて大きな痛手を受けております。これらの海域を九州周辺に限って列挙しても、米軍演習場リマ水域、陸海空自衛隊の実弾射撃場、内之浦東大宇宙観測所、また鹿児島県南種子の宇宙開発センター等、その海域は実に一万六千七百平方キロで、東京都全面積の八倍以上に達しており、そのいずれもがカツオ・マグロ
漁業の宝庫といわれる水域であります。これらの広大なすぐれた漁場が、何ら制限を受けることなく漁労ができるとするならば、実に大きな漁獲高が約束され、
日本漁業の
振興にも大きな貢献をなし得るはずであります。
もし、これら演習場やロケット基地等の諸施設並びに海域が必要欠くべからざるものであるとするならば、これを
漁業並びに船舶の航行に支障を来たさない地域を選定し、設置もしくは制限を行なうべきであります。ただ単に地形上の問題と、周辺住民の意向が
政府の方針と比較的簡単に同調をはかれるという安易な分析だけで、魚族の宝庫といわれる海域を指定することは、
漁業振興のたてまえからも、漁民の
生活権を守る立場からも、絶対に行ってはならないものであります。
政府はこの際、これらの制限水域を全廃し、これらの海域における漁労を全面的に保障する措置をなし、関係漁民の
生活の保障と
日本の
水産資源の確保をはかるべきだと
考えますが、これについていかなる措置をとられるおつもりか、関係
大臣のお答えを求めまして、私の代表質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕