運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1967-03-29 第55回国会 衆議院 物価問題等に関する特別委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十二年三月二十九日(水曜日)     午前十一時開議  出席委員    委員長 戸叶 里子君    理事 小笠 公韶君 理事 鴨田 宗一君    理事 小峯 柳多君 理事 砂田 重民君    理事 橋本龍太郎君 理事 武部  文君    理事 平岡忠次郎君 理事 和田 耕作君       青木 正久君    大野 市郎君       岡本  茂君    竹内 黎一君       中山 マサ君    粟山  秀君       井上 普方君    唐橋  東君       河村  勝君    有島 重武君       正木 良明君  出席政府委員         経済企画庁国民         生活局長    中西 一郎君  委員外出席者         経済企画庁国民         生活局参事官  矢野 智雄君         参  考  人         (一橋大学名誉         教授)     中山伊知郎君     ――――――――――――― 三月二十九日  委員正木良明君辞任につき、その補欠として有  島重武君が議長の指名で委員に選任された。     ――――――――――――― 三月二十七日  公共料金値上げ抑制に関する陳情書  (第九六号) は本委員会参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  物価問題等に関する件      ――――◇―――――
  2. 戸叶里子

    ○戸叶委員長 これより会議を開きます。  物価問題等に関する件について調査を進めます。  まず、参考人出頭要求に関する件についておはかりいたします。  乳価問題について参考人出頭を求めたいと存じますが、これに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 戸叶里子

    ○戸叶委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決定いたしました。  なお、参考人出頭要求の日時、人選等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、これに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 戸叶里子

    ○戸叶委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決定いたしました。      ————◇—————
  5. 戸叶里子

    ○戸叶委員長 本日は、参考人から物価問題の現況について御意見を承ることになっております。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  中山参考人には、たいへん御多忙にもかかわらず本委員会に御出席をいただき、まことにありがとうございます。  申すまでもなく、物価問題はまことにむずかしい問題でありますが、中山参考人には、経済学者として、また物価問題懇談会座長として、豊富な学識と経験をお持ちでいらっしゃいますので、そのお立場から、この際、物価問題について忌憚のない御意見を承り、本委員会調査参考にさせていただきたいと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。  中山参考人お願いをいたします。
  6. 中山伊知郎

    中山参考人 委員長にお尋ねいたしますが、何分くらいよろしいのでございましょうか。
  7. 戸叶里子

    ○戸叶委員長 適当でけっこうでございます。
  8. 中山伊知郎

    中山参考人 御質問が非常におありであろうと存じますので、私、それでは二十分ないし三十分くらい簡単に申し上げたいと思います。よろしゅうございましょうか。
  9. 戸叶里子

    ○戸叶委員長 はい、けっこうでございます。
  10. 中山伊知郎

    中山参考人 中山でございます。  現在の物価問題の重点がどこにあるかということから申し上げたいと思います。  昨年一カ年間、企画庁長官諮問機関でございました物価問題懇談会座長といたしまして、一月から十二月に至ります間に十一の提案をいたしてまいりました。あるいは交通運賃の問題、生鮮食料、米の問題、それから再販価格維持制度を持っております身の回り品、医薬品の問題、それから財政金融に関する問題、さらに最後には土地の価格に関する問題に及ぶまで、非常に広範な問題についての見解を取りまとめて、そのつど答申してまいりました。これにつきまして、ちょうど昨日、新たに形を変えて出発いたしました、今度は総理大臣諮問機関であります物価安定推進会議というものの懇談会がございまして、一体、昨年一年間そのような提案をし、いろいろな努力をした結果、現在どのような効果があがっていると認めるか、こういう質問が各委員から出てまいりました。これは予想された質問でございましたので、企画庁のほうでは、各省と打ち合わせた結果、これはお手元にすでに配付されていると思いますけれども、「物価問題懇談会提案実施状況」という書類を作成いたしました。これは、いろいろな方面の実施状況の報告をまとめたものでございますので、未完成であり、したがって、第一次稿となっておりますが、これによって、その場合の答弁の第一の資料が提出されたわけでございます。ここでは、もちろんこういう資料そのものについての御説明は省略いたします。  そこで、全体として座長はどう思うかという質問皆さんからお受けいたしましたので、そのときに率直に申し上げました見解を、ここでも繰り返して申し上げます。  私の見解といたしましては、一年間に、物価の問題についての提案から、何かの非常に強い成果を期待するということはあるいは無理なのではないか、そういう答えを第一に持っております。もしそのような効果を期待できるといたしますれば、それは一昨々年の、これは同じく企画庁長官諮問機関として設けられました物価問題懇談会提案いたしましたように、一年間公共料金をストップせよ、こういう形の提案でございますれば、それは、あるいはこの提案の結果がどんなことであったかという問題の形ができ上がるかもしれません。しかし、昨年の成果はそのようなものではございませんので、いろいろな点について、日本物価問題の根本にある問題を指摘し、それについて特に政府の適切な政策を求めたというようなものでございました。その結果がここにあらわれておりますので、それを総括して申し上げますと、幾つかの事項について予算措置をとった。たとえば、中央卸売市場冷凍魚のための冷蔵庫の設備、あるいは消費者保護のためのいろいろな啓蒙のための費用、あるいはもう少し突っ込みますと、中小企業農業、酪農も含めての農業近代化に関するいろいろな予算措置、これらが今度の予算措置に盛られております。盛られているものが、どのような成果をあげて今後動き出すかということは、これは国会のこれからの審議の経過にも依存するのでございましょうし、そしてそれが固まった上では、予算を執行する政府の責任の問題になります。したがいまして、そういう成果を私どもは期待しておるのでございますから、一面では国会が、せっかくでき上がりましたそういう措置を大いに推進してくださるように、御努力くださることを心からお願いしたいと思うのであります。  そのほかの問題といたしましては、たとえば、非常に大きなものといたしましては、公取の所管に属します十八の不況カルテルが大体解消いたしまして、わずかに今日ただ一つだけが残っておるというような状態でございます。これは、一面から見れば当然でございましょう。不況カルテルでございますから、不況を前提としてでき上がったカルテルが、今日、過熱かどうかには議論がございますけれども、とにかく不況段階を脱出いたしましたときに、不況カルテルが解消するというのは当然でございます。当然でございますけれども、もしも物価問題懇談会が幾らかの業績をあげたといたしますれば、その解消のために速度を速め、あるいは幾らかの圧力をかけた、ことばは悪いかもしれませんけれども、そのような効果を私は申し上げることができるのではないかと思うのです。そのほか小さいことを申しますれば、たとえば米の場合に、普通外米の輸入を、すでにこれは昨年実行いたしまして、若干の効果が期待されている。これもまだごくわずかな期間でございますから、どれだけの成果があがったかということは、申し上げる段階ではございません。  そういうことで、一つ一つを取り上げますと、成果としては非常に少ないようでございますけれども、将来に向かってはある成果が期待できるのではないかということ。それから、これは仮定でございますけれども、もしもこのような活動がなかったといたしますれば、あるいは日本の昨年の物価はもう少ししにいっていたかもしれない。これは想像でございますから、正確なことは申し上げられませんけれども、たとえば、公営企業に属しておりますバスや軌道の料金値上げの問題は、このような世論的な抵抗がもしなかったといたしますれば、あるいはもう少し簡単に承認されているというようなことがあったかもしれません。これは内容一つ一つ見なければわかりませんから、どの値上げがよくて、どの値上げがよくないという判断は、私、とてもここでできる問題ではないと思いますけれども、しかし全体として、あのような空気の中でこの問題の処置が幾らかでも慎重になったというようなことがあったといたしますれば、それは想像をまじえてのお話でございますから恐縮ではございますけれども、若干の効果があったのではないだろうか、このように考えるのでございます。したがいまして、先ほどの第一の設問に対しましては、私はまずプラス、マイナスちょうどまん中ぐらいのところの点が与えられるのではないかというようなことを申し上げたことでございました。  これは、すでに行なわれました過去の成果が今日どのくらいあがっているか、このような質問を受けますこと、あるいは質問をされます側から申しますと、おそらく過去のことを問うているのではない、今度の安定推進会議において一体どのような効果をわれわれが期待していいのかということを、むしろ問うておられるのだと存じます。そうなりますと、現在の物価の問題、日本物価あり方の問題が、どこに焦点があるかということになってまいりますので、これは、推進会議審議がまだようやく第一回の実質的な懇談会を始めましたばかりのときに、推進会議全体の意見として私から申し上げるだけの材料も、また、私自身としてその資格もございません。ここから申し上げますことは、完全に私見でございますから、その意味で御了承を願いたいと思います。  私は、今日の日本物価問題には、大体三つの焦点があると存じます。  第一の問題は、ようやく日本物価問題が、抽象的な、あるいは一般的な需要供給のバランスというような問題からもう一歩進みまして、制度の問題、あるいは、いろいろなことばを使っておりますが、この間の推進会議で使われましたことばを拾い上げますと、秩序でありますとか、あるいは慣習でありますとか、あるいはまた制度というようなことばがそのまま使われている場合もございますが、とにかく、ただの需要供給ではなくて、その需要供給が実際に物価に反映する場合に、あるいはそれを阻害し、あるいはそれをよけいな形で推進するようになっているいろいろな仕組み、その仕組みにどうしても立ち入って議論を進め、できればその仕組みを改善する、あるいは合理化するというところに問題を持っていかなければならないことが、非常に明白になってきました。これは、別にいまになって明白になったことではございませんので、むしろ昨年までのいろいろな経験から、そのことがだんだん確認されてきたと申し上げるほうがいいと考えるのでございますが、たとえば、ことしの春には、野菜春高というようなことがございまして、生鮮食料のうち、ことに野菜が非常な値上がりをいたしました。特に東京、大阪というような都会地においてそれがはなはだしかったのでございます。これに対して、理由はきわめて簡単であります。つまり、冬が非常にきびしくて、そうして野菜のできが悪かった、そのことが春高という現象につながっているのだという説明がございます。そのとおりでございます。そのとおりでございますけれども、たとえば、需要供給関係からだけ見ますれば、一〇%の値上がりで済むところが、それが実際の物価騰貴になりますというと、供給が少し少ないために、実は末端において二〇%、三〇%の値上がりになってくる。そのことは、中間にございます市場機構、配給の機構流通機構というものにいろいろな問題があることを明白に示しているのではないか。現実に、日本流通費といわれております生産費に対する小売り価格、マージンまで入れましての差というのは、これはいろいろなものによって違いますけれども、大ざっぱにいって、大体五〇%が流通の諸掛かりだといわれております。運賃も含めまして五〇%がそうだといわれております。そうしますと、物価に及ぼす影響を考えるためには、どうしても流通関係にメスを入れていかなければならない。これも非常に卑近な、通俗的な例で皆さんも十分御承知のことでございますけれども東京卸売り市場というのは、これは魚にいたしましても、野菜にいたしましても、東京人口が六百万が最高であるといわれたときにつくられたものだといわれております。それが今日千万人をこえるような人口になっても、依然としてその機構でやっておりますから、この機構のもとで能率があがるはずがない。したがいまして、需要供給のほうに、特に供給不足というような点で若干の遺漏がありますと、それは物価の面に非常に大きく響くことになる。こういう問題は、実は生鮮食料一般にあることでございまして、米の場合にいたしましても、非常に重要な問題でございますけれども制度的な問題というのが、たとえば食管制度、これは一つ制度でございます。その制度あり方が、これが米価というものに非常な関係のあることも御承知のとおりでございまして、必ずしも需要供給というものからだけ問題を攻めていくわけにはまいらない問題が方々にございます。そういう問題にどうしても分析を進め、また、できますならばその改善をしていかなければならないという問題が一つございます。これが第一点でございます。  第二の点は、どうやら私はこの辺で物価通貨数量というものをもう少ししっかり考えなければならない段階にきているのではないかと思います。誤解を防ぎますためにはっきり申し上げておきたいと思うのでございますが、私は、国債発行が直ちにインフレーションにつながるものとは思っておりません。このことは理論的にはいろいろ問題がありますけれども、私、ここで申し上げることは実証的な点だけを申し上げたいと思いますが、公債をあるいは国債発行している国が必ずしもインフレーションの進んでいる国ではない。たとえばアメリカでございますが、アメリカ国債の残高は、すでに国民所得の総額と同じくらいのところまでのぼっておるのでございますけれども、おそらく物価の点で一番世界で安定している国はアメリカでございましょう。これは、ことし去年という意味ではございません。去年からことしにかけましてはベトナム戦争もございまして、アメリカ物価も決して安定はしておりません。しかし、ここ十年あるいは二十年という時期をとって考えますと、その間にアメリカ国債はだんだんに大きくなっておるのでございますが、それにもかかわらず、物価の点あるいは経済全体の点における安定度アメリカは非常に高い。これはほかの理由がいろいろあるのでございますから、国債だけを取り上げて問題にすることは、もちろんできない相談でございますけれども、そういう意味で、私は国債が必ずしもすぐにインフレにつながるとは思っておりません。けれども物価通貨との問題の考え方にはいろいろな時期がございます。私は、残念ながら日本のただいまの時期は、ここ数年前と違うと思います。ただいまの時期は、どうやらそろそろ通貨数量についてももっとわれわれは注意をしなければならない時期にきているように思うのでございます。  これは、直接の関係といたしましては、昨年の物価懇談会財政及び金融に関する勧告第八の中で、私どもは、国債発行高をせめて四十一年度と同じになさってはいかがですか、それから財政の規模も少し縮小されてはいかがですかというようなことを、幾つかの例をあげて申し上げました。この七千三百億とかあるいは財政増加率経済成長率と歩調を合わせるようにというような提案は、はっきり申し上げますけれども、私ども十分に審議を尽くして到達したものではございません。これは非常にむずかしい問題でございまして、決してあの七千三百億という数字が一歩も動かないものである、あるいは成長率との比較がどのくらい正確なものであるかということについて、私は自信をもって申し上げることはできません。けれども、あそこで申し上げようとしたことは、国債発行が承認されたのは、おそらく不況回復ということであったのでございますから、その不況回復がある程度効果を奏したときには、もはや国債をその形で考えることは無理ではありませんか、したがって、できればそれを押えてくださいという、その意思表示をあの数字であらわしたのでございまして、それ以上の意味はございません。間違っておれば私はいつでも訂正する。それから、そのときにも申し上げたのでございますけれども、かりに国債発行高昭和四十二年度には八千億、九千億になりましても、それだけの理由があれば、ちっとも差しつかえないのじゃないかということも申し上げたのでございます。  しかし、全体として申しますと、日本個別物価あるいは消費財物価騰貴を中心として動いて、まいりました現在の物価情勢が、このままでまいりますと、どうしても財政金融からくる通貨量との関係で動くようになる危険性があるということだけは、どうしても私は認めざるを得ない段階にきたのではないかと思います。したがいまして、これからの物価政策一つ重点は、これは、推進会議でもまだそういう形では問題になっていないのでありますけれども、重ねて申し上げますけれども私見では、どうも金融財政の面にもう少し物価との関係考慮を織り込んでいくようにしなければならないのではないだろうか。このことは、いま景気の状態がやっと回復して、一部では過熱といわれることもございますけれども、そうでないという説もある。そういう段階に、この発言は非常にデリケートなのでございますけれども、私は、物価という大きな立場から申しますと、第二の物価問題の所在は通貨量にあると思います。決してこれを縮めて圧縮するということだけが能ではございませんので、適正な通貨量ということがもちろん問題でございますけれども、それについてもう少し慎重な考慮を払わなければならない段階にきている、このように考えるのでございます。  第三は、賃金物価との関係でございます。これは、昨日も推進会議懇談会で若干の方々から御発言があり、そして組合総評、同盟、中立労連、すべての代表者がそれについての発言もなさいました。その限りにおきましては、物価賃金とが日本の現在の状態においてはっきり連携を持っている、お互いに影響される関係にあるということは、皆さんが認めておられます。組合の方も認めておられますし、それから、もちろん賃上げ攻勢をまともに受けておられる経営者の側も、そのままに認めておられるわけです。もちろんその場合に、これは申し上げていいと思うのですが、総評の堀井さんから発言がありましたように、そのことだけは認めるけれども、その中身についての議論だったら、私どもはうんと言いたいことがあるんだということを申しておられます。それはそのとおりでけっこうだと思うのです。私自身の考えを申し上げますと、日本の現在の経済成長状態、それから労働力がだんだん窮屈になってくるという状態、それから、現在まで重なってまいりました物価上昇状態、それが中小企業におきましては、生産性と無関係ともいえるような賃上げで、どうしても製品の価格を上げざるを得ないというようなことがあったという事実、それの積み重なりを考えてまいりますと、どうしても日本の場合においても、賃金物価という関係を考えなければならない段階にきている、こう思うのであります。  ただし、そのような考え方を、たとえばいま外国でやっておりますような所得政策というような形で打ち出すには、時期はほとんど全く熟していないといってもいいんじゃないか。これは、決して精神的な意味組合側が反対するとか、あるいは経営者側もむやみにガイドポストを出せ、出せと言っているだけで内容がないとか、そういう精神的な面を言っておるのではございません。あの所得政策というものが出ますためには、どうしてもこういう問題があるのです。  一つは、それでは一体どういう基準所得政策をやるか、基準の問題がございます。大体それは生産性だという答えがすぐにはね返ってくるのでございますが、しかし、生産性を正確にはかれる部門と申しますのは、日本はもとよりのこと諸外国を通じて製造工業だけであります。その製造工業もまた副産物がない——全然ないのはございませんが、副産物が少ないというような単純な製造工業の場合でございます。これが化学工業その他になりまして、どちらが副産物かわからないというような、複合生産物が出てまいりますときの労働生産性のはかり方というものは、非常にむずかしいのであります。これは技術的な問題になりますから省略いたしますけれども、非常にむずかしくて、世界にまだはっきりした測定の方法というものは立っておりません。したがって、日本生産性測定においても相当進んだ国の一つでございますけれども、例外がございまして、製造工業の全体があの生産性指数の中に入っているわけではございません。いわんや、これを所得政策として打ち出します場合には、これは国全体の政策でございますから、どうしても国全体に適用できるような基準でなければなりません。農業にも、中小企業にも、あるいは製造工業でない商業にも、その他の産業にも一般的に適用できるような基準でなければなりません。そうなりますと、ちょうどイギリスがやっておりますように国民経済成長率でやったらどうか、これも一つ考え方です。おそらくイギリス政府のとっております基準国民経済成長率、これは、これ以外にとりようがないといえるようなものじゃないかと思うのでございますけれども、しかし、それをとります場合には、今度はいろいろな違った問題が起こってくることを考えなければなりません。それを生産性と同じように考えることができるのか。その場合の生産性というのは、製造工業生産性指数にあらわれておりますようないわゆる物的生産性、何時間の労働がどれだけの生産物を生むというような物的の生産性の問題と同じなのか違うのか。単に物価が上がったというだけで、生産性が出たように利益があがってくる場合もございましょう。それから、きょうの新聞にも一部分出ておりますけれども、人手を押えて生産を上げていったために、最近の生産性が非常に上がった。そういう場合の押え方というのが、はたして技術の進歩なのか、それともいままでのむだがなくなったのかというようなことを分析するには、非常にむずかしい問題が入ってくるわけでございます。したがって、簡単に申しますと、基準のとり方に一つ問題がある。  第二の問題は、所得政策として打ち出す場合の非常に大きな困難と申しますと、およそ所得政策というのは、現在の所得水準あるいは賃金水準というものを、一応コンスタントに、そのままに変化しないものとしておくのであります。たとえば、三%は上がってよろしい。しかし、繊維産業も三%、石油産業も三%、公務員も三%、すべて同列にこれを見ませんと、所得政策というものは成立しません。ところが、もしそういうことをいたしますと、自分のところは成長産業だ、現に資本も入り、能率もあがり、利益もあがっている、そこで、賃金を三%以上要求し、これを取るのがなぜ悪い。平均して三%といいますれば、今度逆に三%以下のところが出てくるでしょう。そういう例をとると悪いのですけれども、かりにこれを繊維としましょうか。繊維労働者は言うでしょう。自分のところが斜陽産業と一体だれがきめた、斜陽産業じゃなくて、景気の変動はあるけれども、やはりもうかっている場合もあるし、最近はそんなに悪くもない、ということも言えるでしょう。それを平均以下に押えよというのは、どこからそういう理論が出るのかという反発がくるでしょう。おそらくそういうところで問題になるのは石炭産業でしょうか。しかし、石炭産業だって労働者立場からすれば、そういう要求に対して、そうですかとすぐにオーケーをできるかどうか、問題があると存じます。  そうなりますと、一律の所得政策というのは現在の分配のあり方、したがって、各産業賃金水準の相違、格差というものを、しばらくの間はがまんして、そのままにしてくださいということを意味するのだということになります。これはそのとおりなんです。それの一番極端な場合はペイポーズというウィルソンのとっております政策でございます。今度また半年ばかり延長するようでございますけれども賃金をオールストップすれば、現在の格差はそのままだということは当然くっついてくるのであります。これは労働界にとっても、場合によっては産業界自体にとっても、経営者の側にとっても大問題であります。したがって、このような大きな困難を、私は二つしか例をあげませんでしたけれども、まだなかなかむずかしい問題はあるのですけれども、とにかく、少なくとも二つの大きな困難をかかえております。所得政策をいま日本状態、ドライヤー報告ではありませんけれども政府労働界との不信は相当大きいといわれておるような日本状態の中で、いきなり打ち出すことはほとんどできない、こう思います。  それでは、その所得政策だけが、いまのような賃金物価との関係を考える唯一の方法であるかというと、私はそうでない、やはりそういう政策を打ち出さなくても、現実の問題として賃金物価との循環、悪循環か良循環か知りませんが、循環のあることは、どこからも否定のできない事実であります。そういう循環の経路を押えていき、そこからお互いの了解を導き出し、その弾き出した了解に乗ってそういう政策を考えていくということは、所得政策だけが賃金物価に対する唯一の政策ではないという意味において、私は日本の場合にも十分に成立すると思います。これを簡単に申しますと、私は、所得政策は原理的に成立するけれども、これを具体的にするには、もっとお互いに勉強もし、資料も整え、そして十分な準備をしなければならないのだということを申しておるのでございます。これが第三の点でございます。  繰り返して申しますと、第一は制度、慣習、秩序というような物価問題の底にある問題にしっかりと手をつけていかなければならない。第二の問題としては、個別物価の問題も重要でございますけれども日本の現在の状態では、通貨の量、これは当然財政金融という政策の問題になるのでございますが、その点にやはり注目をしていかなければならない段階が近づいている。第三には、日本の現在の物価問題、特にそれを経済の発展状況の上において考えますと、外国だけがそうではないので、日本の側におきましても、賃金物価との関連をやはり取り上げて、十分にこれを考えていかなければならない段階がきている。これが、私の考えております現在の日本物価問題の焦点でございます。  御質問を待ちまして、これだけで初めの話を終わらせていただきます。
  11. 戸叶里子

    ○戸叶委員長 参考人の御意見の御開陳は終わりました。     —————————————
  12. 戸叶里子

    ○戸叶委員長 質疑の通告がありますので、順次これを許します。小峯柳多君。
  13. 小峯柳多

    ○小峯委員 たいへん整理のついたお話を承りまして、よくのみ込めたような気がいたしますが、お話に関連して二、三御教示をいただきたいと存じます。  お話の後段で、個別物価ということばをお使いになりましたが、物価問題懇談会などで取り上げる物価というものが、どういう物価をお取り上げになることが重点だったのか。私どもは常識的に、個別物価があり、消費者物価があり、また卸売り物価というものがあると思うのでございますが、どうも物価の問題を言うときには、おっしゃる方のお立場で非常にその点がまちまちだろうと私は思うのであります。先生のお話の中でも、制度の問題、秩序、慣習の問題などは、私は消費者物価にむしろ影響がありはせぬかと思いますし、ことに、通貨の問題との関連では、卸売り物価に影響があるほうじゃないかとも考えます。個別物価にいたしますれば、これは生活の内容の変化等から、個別物価の上がったり下がったりすることはむしろ当然だと思いますし、また、それがある意味では文明の進歩でもあるような感じがするのであります。いろいろ物価物価といいますけれども、案外物価の正体というものをつかまえていないでお話があったりするような感じがするものですから、その物価というものを、ひとつ考え方を御教示いただきたいと思うのであります。
  14. 中山伊知郎

    中山参考人 お答えを申し上げます。  たいへん広範な問題で、御指摘の点は、簡単に申しますと、経済学の基本問題につながると思いますが、私、ここで物価と申し上げておりますのは、率直に申しますと水準ということでございます。ただ、その水準を取り扱います場合に、昨年の物価問題懇談会の場合には、消費者物価からスタートいたしました。これを卸売り物価と区別いたしました理由は、御承知のように、ここ数年の間卸売り物価が安定をしておりまして、消費者物価だけが昭和三十六年以来急激な騰貴を続けていたという事情にあるのでございます。ただ、その消費者物価を考えてまいりますと、たとえば、騰貴に対する貢献率は、生鮮食料と米とそれから公共料金がそれぞれ三分の一ずつというような、そういう貢献度を考えていきますと、どうしてもその構成要素に手を触れてまいらなければなりません。その意味個別物価を取り上げたことがございます。しかし、問題はあくまで物価水準でございまして、いま御指摘がありましたように、物価というのは経済あるいは商品の組織の反映でありますから、経済構造が変わり、需要供給が変わっていきますれば物価もまた変動をする。つまり個別物価の間には、それぞれ上がったり下がったりするものがあるのはいつでも当然なのでございまして、したがって、私どもがもし個別物価の問題を取り上げるといたしますれば、それは、生産者の立場で取り上げるということはございます。けれども、いま国民経済一般の問題として取り上げます場合には、水準として取り上げるほかにはございませんので、私どもは、消費者物価を取り上げる場合においても、卸売り物価を取り上げる場合においても——ついでに申し上げますが、私は、消費者物価と卸売り物価という区別は、それは技術的な区別であって、最後には、結局同じものになるのだと考えておりますが、いずれにいたしましても、水準を取り上げております。その水準を取り上げているということを、もう一つ裏返しして申しますと、実は通貨の価値を考えているというふうに御理解願えれば幸いだと思います。
  15. 小峯柳多

    ○小峯委員 それから、先ほどこれもお話に出ましたが、物価賃金の悪循環というふうなことをごく簡単に言ってしまう傾向が私はあると思うのです。私は、立場は保守党の立場なんですが、悪ということを簡単に言ってしまうより、むしろ循環するのは当然だと思いますし、それが経済の成長であり、生活の向上であり、むしろ循環するのは当然だと思うのですが、悪というふうに指摘するその悪というものを、どういうふうに先生はお考えいただいているのでしょうか。
  16. 中山伊知郎

    中山参考人 お答えを申し上げます。  これは、非常に具体的な事実を背景としておるのでございまして、ちょうど昨年の十月でございましたか、ジュネーブにございますILOで、三、四年かかりまして大きな調査が発表されました。それは「プライセス・ウェッジス・アンド・インカムス・ポリシーズ」という書物でございますが、それをごらんいただきますというと、日本も少し入っておりますが、ヨーロッパの各国において、なぜ所得政策というような問題が起こったかということが述べられております。この場合の所得政策というものは、いま御質問のございました物価賃金との循環問題を総称いたします。そうすると、その理由の一番大きなものとして、経済成長に伴っていろんな所得が伸びたのです。その中で、賃金が一番たくさん伸びている。したがいまして、その賃金の伸びるのはどこからきているか、あるいは物価が上がったのは、その賃金の伸びた結果ではないかということが一番注目された。そこで、賃金物価一つでございますから、循環になるのは当然でございますけれども、ある特定の状態、特定の時期をとって考えますと、その賃金の増加と、それから物価、特にコンシューマーズプライセス、消費者財の値上がりとが、ちょうど並行して動くようなことが特に目につく場合があるわけです。これが悪循環というようなことばが出てまいりました理由でありまして、この場合の悪というのは、見方によりましょうけれども、私は、たいていの場合とってしまっても、別に意味は違わないことばだと思っております。
  17. 小峯柳多

    ○小峯委員 先ほどアメリカのお話が出たのですが、お説のように、長い目で見ると、アメリカ物価というものはたいへん安定してきていると思いますが、最近は、これも御指摘のように、かなり調子が変わってきております。先生がおっしゃった三つの問題に焦点を合わせて、アメリカの最近の物価の動きというものは、どういう点に一番重点があるというふうにお考えになっていらっしゃいましょうか。
  18. 中山伊知郎

    中山参考人 お答えをいたします。  アメリカ状態について、特に最近のことを詳しく調査しておりませんので、あるいはお答えが正鵠を欠くと存じますけれども、私は、ベトナム戦争というのが、予算の規模にあらわれたよりは大きな影響をアメリカ経済に与えているのではないかと思います。これは、手に入る材料と申しますのは、もう皆さん承知のように、予算とかその他の形でしか入りませんものですから、それ以上の分析にはどうしても若干の時間がかかって、正確なことは申し上げかねるのでございますけれども、あの予算の規模から申しますと、アメリカにとっては、ベトナム戦争が終わろうと終わるまいと、たいした影響はないという結論が出るような大きい予算でございます。ベトナム戦争だけを取り出して申しますとそうでございます。けれども経済全体にとっての影響は、たとえば労働力の問題、それからキャパシティー、能力に対する生産の要求の問題、それが足りないために、たとえば、日本の鉄の需要が昨年伸びたという事実が目の前にあるわけなんでございます。そういう状態を考えますと、ベトナム戦争アメリカ経済に及ぼした影響というものは、言われているよりは大きいのではないか。そして、いま御指摘になりましたアメリカの最近の、特に消費者物価騰貴ということ、それから、最近少し下がりましたが、金利の騰貴というような、やや異常な不安定要因の原因というものは、これは大なり小なりベトナム戦争関係しているのではないか、これが愚見でございます。
  19. 小峯柳多

    ○小峯委員 御指摘の点に関連してですが、朝鮮動乱のときと、今度のベトナム戦争のときと、私ども外部から見る限り、需要供給関係というものはそんなに大きな開きがないじゃないかというような感じがするのですが、物価の上がり方は非常に違っております。そこで、前のときには生産の余力というものが相当あって、今日は、その後の国民経済の成長で、もうその余力がほとんどなくなっている。その上に加わった重さであるがゆえに、そのウエートが大きいのだというように考えておるのでありますが、先生の御意見はいかがでありますか。
  20. 中山伊知郎

    中山参考人 先ほど申し上げましたように、十分なそういうお答えの能力がないと思いますけれども、私は、この前のときよりもテンポが早いのではないかと思います。つまり、余力が全然ないというほどアメリカ経済が絶頂にいっているとは考えないのでございますけれども、変化に応じてその体制を整えていく、その余力という点から申しますと、今度のほうがいささか詰まっているということが、そういう現象を引き起こす一つ理由であろうと存じます。
  21. 小峯柳多

    ○小峯委員 もう一点伺いたいのですが、先ほど物価水準、卸売り物価通貨との関連のお話が出ましたが、これは、私はじょうずにやっているのは、アメリカのフィスカルポリシーではないかというような感じがするのであります。しかし、物価がそれほど動いていないアメリカでフィスカルポリシーをすでにやり、日本では、御承知のように、物価に追いまくられながらようやくまねごとが始まったような感じがするのであります。そこで、このフィスカルポリシーの効果というものはどのくらい——どのくらいと言ってはおかしいですが、どういうふうに評価したらいいでしょうか。日本あたりでもそういう線にだんだんいくとお考えになっておりますか。
  22. 中山伊知郎

    中山参考人 これからどのようにまいりますかわかりませんけれども一つ申し上げられますことは、おそらく国債というものは、これからも日本財政経済にある程度まで固定化されるのではないか。金額は別でございます。金額は、できるだけ減らしていって、そしてその影響の少なくなるように望んでいることは、先ほど申し上げたとおりでございますけれども、しかし、一たび昭和四十一年度にスタートいたしました国債が、近い将来に全くなくなってしまうというような状態には戻らないと私は思うのであります。そうなりますと、国債一つを取り上げましても、フィスカルポリシー、財政政策というものが——国債というのは明らかにフィスカルポリシーの一つなんでございますから、それを中に含んだフィスカルポリシーが、いままでと違った形でしっかりしていかなければならぬことは、確かに申すまでもないことだ、こう思うのでありますが、それにつきましては、あるいはまだ時間の不足でございましょうか、フィスカルポリシー中心になったという点だけは非常に声高く言われておりますけれども、その内容について、十分考え方がまとまっていないように思うので、これは、これから充実していかなければならない重要な点だと考えます。
  23. 小峯柳多

    ○小峯委員 ありがとうございました。
  24. 戸叶里子

  25. 平岡忠次郎

    ○平岡委員 中山先生が御開陳になりました物価論争の三つの焦点の中で、私も、国債問題についてお伺いしたいと思います。  あなたが先ほど御指摘されましたように、物価問題懇談会が四十一年の十月の十八日に、「物価政策財政政策及び金融政策について」という勧告をなされまして、その中で、公債の規模を、四十二年度については、四十一年度の発行規模である七千三百億円以下にすることが望ましいという勧告がなされましたことは、先ほどもあなたがお触れになったわけであります。しかし、私はこの問題につきまして、実は純然たる赤字公債として、財政法第四条、第五条の規定を乗り越える特例法として、四十年の税不足を補うために二千六百億円の、完全な意味での赤字公債発行がありました。そのときに政府質問したわけなんです。そのときに、政府のと申しましょうか、大蔵省のほうで考えている大体の青写真的なものを知っておりまして、それによりますと、大体四十一年度におきましては、赤字公債ではなしに建設公債の範疇においてやる、つまり、財政法上の違反としてではなしに建設公債でやるということで、とにかく七千億円の発行をめどに出発しましたが、そのときでも、やはり財源が国債に求められるならということで、三百億円ほどこれは予定より多くなったわけであります。その時点において、四十一年におきまして大体七千億円、それから、自後大体五カ年間くらいは千五百億円くらいの純増を考えておる。そうしますと、四十六年におきましては、国債の残高がちょうど五兆円になるわけです。その他政府保証債とか、そういうものを含めまして広義の国債問題が、やはり四十六年の目標において二兆五千億円、両方で、広義の国債におきまして七兆五千億円、その他まだ電力債とかそういうふうな準々国債というものを含めますれば十兆円くらいのものになる予定で、これはたいへんだなという観点から政府を追及したわけです。ところが、先生の御書物を読みますと、アメリカにおいては国民総所得の七〇%以上が国債として現に保有されておるのだから、国債そのものがインフレの決定的な要因になるというような心配は要らぬのだ、そういう御説を見ておるわけです。しかし、依然として疑問になるのは、アメリカの場合七〇%以上の国債を保有して一つ物価に影響がないという事態は、国民それ自体が全部それを消化して保有しているのかどうかという点、あるいは連邦準備銀行自身において、ちょうど日銀のように、やはりその段階で日銀が回収をするようなかっこうになっていないということがあるのではないかと私は思うのです。日本の場合で危惧されるのは、アメリカの七〇%と対比しますれば、せいぜい国債全般で、現状において五%か七%ということであろうと思いますので、量的には決して危惧すべき問題はないようですが、やはりそこに危惧されるのは、一年たった国債なら買いオペの対象になるんだというようなことを日銀総裁がいち早く打ち出しているような点に、非常に危険があるように思うのですが、その辺のところは、アメリカの実情等につきましてお教えをいただき、なおかつ、日本のそういう国債の危機の見通しという点が、どの点に一番あるかということを御解明いただけば幸いです。
  26. 中山伊知郎

    中山参考人 お答えをいたします。  アメリカの場合、日本ことばで申しますれば個人所有ということが徹底しておると存じます。その理由は、別に個人所有をたてまえにしてこれを奨励するとかいうことではございませんで、国債を消化するための市場が、つまり証券市場が十分に発達しております。ちょうど日本で申しますと株式の中の、しかも、金融のついております非常にしっかりした株式と同じような地位をアメリカ国債が持っているということが、一番大きな理由だと存じます。したがいまして、もしもそういうような状況のないところで日本国債がだんだん重なっていき、これが、日本流の民間消化ということができないような状況がはっきりしてまいりますと、これは、アメリカとは違った様相を日本国債が持ち、したがって、違った影響を持つ可能性は十分にあると存じます。ただ私の申し上げましたことは、日本のいまの保有高と、アメリカの現在いっております段階を比べますと、非常に距離がありますものですから、そういう大きな距離のある場合におきましては、やり方いかんによっては、決してインフレにつながるものではない。したがって、そういうことを十分に考えないで、ただ国債が出たらすぐインフレだというのは、少し早過ぎるのではないか、こういうことを申し上げておるのであります。  したがいまして、いまのような議論を重ねてまいりますと、一体四十一年度の公債というものは、本来民間の消化を企図したものであったかどうか、これは学説の分かれるところでありまして、非常にむずかしいのでございますけれども、もしもあれが純然たる不況対策の国債でありましたら、あれは本来日銀保有で出すべきものであったかもしれません。かもしれませんと言うことだけをお許し願いたいのですが、はっきり申し上げることはできませんけれども、かもしれません。つまり、そこには非常に大きな問題が残っておったことは私も承認いたします。けれども、そういう問題があるから、およそその問題を含んだ形における国債発行というのは、直ちにインフレーションにつながるのだという議論は、やはり少し早過ぎるのではないか、私はこう考えております。
  27. 平岡忠次郎

    ○平岡委員 あなたの御指摘のとおり、政府とすれば、四十一年度の国債発行のときに、確固たる準備とか、そういうかまえがなかったと思うのです。それは当時、私も政府論難の演説の中で指摘したのですけれども、経過を見てもそのとおりであったわけです。佐藤内閣が公債発行を決定するにあたって、結局、検討も反省も欠いておったということが、如実にその経過の中にあらわれておったわけです。四十八国会において、昭和四十三年度までは絶対に公債を発行しないという佐藤総理の答弁によって代表されて統一されておりましたが、その後一転しまして、四十一年度以降に発行することがあり得る、さらに再転して、四十一年度に発行するということになったかと思うと、さらに三転して、ついに四十年度内に赤字公債を発行することも辞さないというところまでに発展した。その間六カ月間なんです。六カ月間に四転しておるわけなんです。ですから私は、当時の国債発行というものは、フィスカルポリシーはおろか追い詰められた国債発行の一語に尽きるというふうに断定をいたしました。そういう点は、いまでもまだ尾を引いておると思います。ほんとうのフィスカルポリシーでありますならば、景気の波長自身が当然単年度予算で吸収できないわけでありますから、その国債発行によって、単年度予算にはまらない景気の波長自身を埋めていくということは、当然積極的に政策としてあがってしかるべきですが、日本の場合におきましてはそういうかまえもなしに、どうもやはり財源不足から国債発行にあわただしく踏み切ったという、そういう出発点に非常に問題があったと思うのです。しかるがゆえに、やはり本年度における八千億円の赤字公債の発行それ自体を、そう簡単に合理的なものとして承認できないという私どもの危惧があるわけなんです。そういう点につきまして、あなたが量的に七千三百億円以下に押えるべきだというのは、量的に不適当で、適当な量が七千三百億円ということにアクセントがあるのか、それとも、フィスカルポリシーへのかまえというものが、決定的に政府のかまえとしてでき上がらないうちは危険だというような意味で警告をされたのか、その辺の点はどうなんですか、お答え願いたい。
  28. 中山伊知郎

    中山参考人 最後の点だけをもしお答えすることを許していただけますならば、私は、両方含んでおるつもりでございます。ただ、いま御質問にありましたようなふうに分析して、AとBと二つの面を兼ねてこういう勧告をいたしますということを、明白にうたっておりません。その点については、私どものほうのまだ十分な検討が行き届いていないのだろうと存じます。私は、ただいまの御説明あるいは御質問の中にございました政府のかまえというものの政治的な意味は存じません。ただ、経済の面から見まして、あの公債発行というのは意味があったと思います。その理由は、これはよけいなことになるかも存じませんけれども、あの表面の理由不況対策でございますけれども、税金をあれ以上よけい取れない、もっと簡単に申しますと、減税もしなければならぬということも含んでおったと思います。私は、この点は日本経済のために非常に重要な点だろうと存じます。あのときの国家需要をまかなおうとしますれば、当然出てくるのは、形はいろいろございましょうけれども、増税でございます。増税を避けて、少ないかもしれませんが減税までいって、そして不況対策をやるために公債が出たということでございますれば、これは相当評価していいんじゃなかろうか。その間にいろいろ政治的な折衝がございまして、そういう点で、立場によって御不満があることは私もよくわかります。私どもも、政府のやることが一から十まで満足だと決して思っておるわけではございませんけれども、しかし、経済的な面で、あの公債がどういう効果をもったかという点になりますれば、単に不況とか景気対策とかいうことのほかに、ぜひ税の負担ということも入れてお考えを願いたい。これは私のほうからお願いをいたしたいと思います。
  29. 平岡忠次郎

    ○平岡委員 別の問題でお伺いします。  あなたの最初のお話の中に、制度的なオブスタックルが正常な需要供給を阻害していることが多々あるんだ、そういうお話がありまして、最後に、食管制度にちょっと触れられたように思います。これも、需要供給を円滑にさせないオブスタックルの一つであるかどうかという議論は、非常に大きな問題だろうと思います。  実は、昭和二十八年ごろ北村徳太郎さんと一緒に外国に行ったことがあります。その旅の話ですが、かなり政府のとった政策の裏話等がありまして、私はいまでも記憶に残っておることは、北村さんの食管制度を取り上げた理由についての話でした。かいつまんで申しますと、結局、資本主義制度のもとにおいて優勝劣敗がございます。その優者というのは、結局、資本の回転率の早いもの、たとえて言うならば、小売り商が二割とか三割の利益をかけておりますが、しかし、それではなかなか蔵は建たぬ、問屋の場合では、一%の低いマージンでも、回転が早いから蔵が建つんだ。そういう観点から見ますと、農業というものは一種類につきまして、米なら米、麦なら麦につきまして、一年に一回きり回転しない。したがって、資本主義市場の中において商品として立ち向かうということになれば、もう論理的に初めから劣者であることはわかっておる。しかしながら、食糧それ自体が、生理学的に食物それ自身がなければ国民も生きていけないという点において、非常に貴重な価値なんですね。そのことを実証するのは、戦中、戦後において、たんすの底の着物をはたいてまで割の合わない交換をしたということでもわかるわけです。しかし、食糧そのものが足らぬときは非常に貴重ですが、オーバープロダクションになった場合には、食いだめができませんから、これは下落の一途をたどるということにもなります。そういうふうな点で、いずれにいたしましても人の生命をささえていくという、そういう視点からは非常に貴重なものであるわけですから、資本主義市場におけるところの本来的な劣勢をそのままにしておいてはいかぬということで、国家の保護があってしかるべきだ。そこで、結局いま食管の問題が論ぜられるときには、生産者米価に教わって消費者米価を上げるのか、消費者米価に教わって生産者米価に政府の適当な政策を加えるのか、そういうふうに視点がいろいろ違うと思いますが、しかし基本的には、食糧の大宗であるところの米麦については、政府政策的な、安い安定価格というものをまず尺度として置くのだということ、そうしますと、今度はそれに教わって生産者それ自身価格を強制するということになりますれば、再生産もできないということになる。それであるから、そこに食管制度というものを設けて、国民から集めたところの税金のプールの中からそれを補てんしていく、そういうことで食管ができたということをおっしゃっていました。私は、やはりその北村さんのおっしゃった大原則というものは、将来に向かっても当然堅持されなければならぬように思っております。ただ、政府予算編成にあたって、それは金の足らぬところからいろいろと細工をしがちでありまして、食管のように、まさにいま言ったいきさつから申しましても、特別な一つの会計というものに対して、通常的な、ただ需給関係の問題のほうにそれを移していくというような考え方はとるべきではないと思うのです。そういう点で食管それ自体が、いまお話にあったところの需給を阻害するところのオブスタックルの一つであるという、そういう御示唆があったかどうか知らぬですけれども、その点では少し異議があるのですが、いかがでございましょうか。
  30. 中山伊知郎

    中山参考人 お答えを申し上げます。  たいへん重要な問題を、簡単にお答え申し上げることはむずかしいのでございますけれども、私、食管制度の運用を含めまして、需給調節の役割りという点から見ますと、障害のある場合があると存じます。その点は、すでに昨年の物価問題懇談会で指摘いたしました。その理由は、すでに指数化方式をとっておって、その指数化方式を完全に、もしあれがいいものといたしますと、これはいまの御趣旨のものを、いわば制度にいたしたものだと私どもは考えております。もしそれをそのままに運用されまして何にもよけいなものが入ってきませんでしたら、私は、今日のような食管制度の中における赤字の累積はなかったものと考えております。もちろん、赤字が全然ないとは申しません。けれども、非常に少なかったと思います。したがいまして、生産者米価が上がったらすぐ消費者米価にさや寄せして上げなければならぬというような今日の問題は、もし数年前、あの指数化方式がとられました三年前にさかのぼっていろいろ細工が行なわれませんでしたら、今日のような問題はなかったと思うのであります。その意味において、若干制度的な問題があると存じます。しかし、そのことは決して指数化方式の根本にございます生産費及び所得の補償という考え方、これが、いまおっしゃった大切な米麦をつくる農民に対する制度ということの精神だろうと思うのです。その精神がいけないとか、それは改廃すべきであるということを私は申し上げているのではございません。その点を釈明しながらお答えを申し上げます。
  31. 平岡忠次郎

    ○平岡委員 もう一点だけお伺いします。  現存の物価上昇の問題におきまして、従来は、大体コストプッシュインフレーションという観点が前面に出ておりました。しかし、戦後と申しましょうか、最近になりまして、ディマンドプルインフレーションの要素が非常に考慮されなければならぬということは当然であろうかと思うのですが、日本の場合におきまして、ディマンドプルインフレーション、これの一番大きな問題点はどういうことですか。
  32. 中山伊知郎

    中山参考人 ディマンドプルと申しますのは、ごく通俗的に申しますれば、需要が多くなって物価が上がる場合ということなんでございますが、日本の場合、特に消費者物価に影響のあった点から申しますと、一つ所得の増加、これはどうしても需要の増加になります。もう一つは、特に生鮮食料その他について申し上げますと、食生活の生活慣習の変化、これも非常に大きな要因だと思います。そうしてこのような要因の中には明らかに、先ほども申し上げましたけれども、抵抗できない、むしろ抵抗してはいけない側面がございます。したがって、消費者物価と一口に申しましても、あるものは上がってよろしい。他のものは下がらなければならない。そうして水準が、とにかくわれわれの通俗的な常識で安定と考えられるようなそういう水準にございますれば、われわれは、日々の経済行動も、国家の予算も、企業の計画もできるわけでございます。そういう状況に持っていくことが大切なんでございまして、需要そのものから起こるいろいろな理由の中で、もし日本の今日の需要増の一番大きなものをとりあげますれば、やはり消費需要の増加というのが——最近の所得増加が非常に急速な上がり方なんです。レベルとしては決して大きいとはいえませんけれども、しかし、数年間に七百ドルまでいったということはたいへん大きなことなんでございまして、それからくる、消費の増というものからくる需要増の圧力というのが、消費者物価を押し上げた大きな理由一つだということは、私否定できないと存じます。
  33. 戸叶里子

    ○戸叶委員長 和田耕作君。
  34. 和田耕作

    ○和田委員 中山先生に三点ほどお伺いしたいと思います。  最初に先生から、物価問題懇談会提案がどのように政府の施策に反映しておるかということについてのお話がございましたけれども、まだ政府実施状況という内容を読んでいませんが、新聞などで散見するところによりますと、また、懇談会提案と今国会予算内容を見ますというと、こまかい問題はいろいろ出しておるようですが、物価問題懇談会提案をした重要な問題を幾つか無視をしておるし、あるいは逆行しておるような面もあるという感じがするのですけれども、その問題をどういうふうにお考えになるのでしょうか。
  35. 中山伊知郎

    中山参考人 お答えを申し上げます。  おそらくその問題の具体的な内容と申しますのは、土地の価格についての提案に関することであろうと推測申し上げます。その形でお答えをいたしますから、もし違っておりましたら追加質問をお願いいたしますが、土地に関しまして相当思い切った勧告をいたしました。思い切ったと申しますけれども、あそこにも書いてございますように、いろいろな審議会やその他類似のところで考えましたことをまとめて、大きく一挙に打ち出してくださいということを申し上げておるのであります。したがって、別に取り立てて、土地増価税というような、もといわれましたような政策が正面に出てきておるというわけじゃございません。それにもかかわらず、これが十分に行なわれていないというような感じをお持ちになるのは、おそらく今度の国会でございますか、提案されるために用意されておりますいろいろな、宅地造成とか、あるいは土地収用法の改正、そういうようなものの動きが非常に鈍いということを御指摘になっておるのじゃないかと思いますが、私どもとしてはこれはどうもできませんので、はっきり申しますと、非常に歯がゆい感じを持っております。持っておりますけれども、これを重ねてそういう形で申し上げるのは、すでに懇談会も終わっておりますし、新たな推進会議でどのように取り上げられるかということは、これからおはかりをしていかなければならない。もしそういう点で不備がございますれば——私どもはあの土地の問題についても、そんな新しいことをいっておるのではない。いままでいわれたことを一まとめにして、一挙に実行してくださいませんと、逆に地価をつり上げるような逆効果を持ちますから用心をしてください、こういうことを申し上げておるのですが、そういう点で思い切った措置、これは非常に大きな財政措置を要するので、困難とは思いますけれども、もう一歩前進していただきたい、こう考えております。
  36. 和田耕作

    ○和田委員 御推察のように、私も土地の問題は非常に重要な問題だと思いますし、これにはかなり思い切った、しかも、決意を持った政策が必要だと考えます。したがって、早急にこれが実現するという予想もしていなかったのですけれども、そういうふうなかまえが出ていないことが一つと、もう一つ、いまの国債の問題でも、この提案では相当きつく、四十一年度の国債よりも下回る必要があるという要望があるのですけれども、この問題についても、そのような趣旨が今国会予算には適用されていないように思いますし、米価の問題につきましても、できるだけ上げないでほしいという第一項の三振がございますけれども、それもあれだし、またよけいないろいろな圧力のあれもあって、まあ重要な問題についての精神を無視しておるような感じが私はするのです。私自身は、懇談会の御提案が大体妥当だと思いますし、これはできるだけ計画を持って実行さすようなことが必要だと思いますけれども、さて、そのような状態物価安定推進会議というものが今度できるわけですけれども、先生としまして、つまり佐藤総理以下の担当者が、この懇談会の趣旨を、すぐでなくても将来了承をして、これを実行する意思があるという判断を持たれておるのでしょうか。この点について、ひとつ伺いたいと思います。
  37. 中山伊知郎

    中山参考人 お答えを申し上げます。  これは、私としては何とも申し上げられませんので、私の目で見ました実情を申し上げますけれども、第一回の推進会議に佐藤総理大臣の両側に十二人の大臣が御列席になったという事実でございます。そうしてその中に、私は個人的に親しい方もございますけれども、それはぜひ自分たちの立場としてもできるだけやりたいということをおっしゃっておりますので、これを信用を申し上げるほかには方法がございません。ですから、できればそういう方々が——これは今度の推進会議になって、私どもが望みを持ちました一つは、いままでのように企画庁が中心でございますと、各省、特に生産者といわれております省は、どうしても受け身に回って、場合によっては現状を擁護するような形になるのであります。例を申し上げると悪いのですけれども、運輸省の運賃問題がそうでございますし、農林省の生鮮食料品に対する問題も若干そうでございます。それを、今度の推進会議は総理の諮問機関になったという変化が、もし各省の大臣がみずからその責任を負って、正面に立ってやってこられるということになりますれば非常に願わしい。これが、私ども推進会議という形にかけております望みの一つでございます。その点をひとつ御了承を願いたいと思います。
  38. 和田耕作

    ○和田委員 その問題につきまして、政府が従来重要な問題で設置される審議会、懇談会のようなもの、これは新聞なんかでも伝えられるし、私どももそういう感じを持つのですけれども、責任回避をして、ぐあいのいい点は少しはとるけれども、ぐあいの悪い点は飛ばしてしまい、全体としては、まあ国の有識者の意見を聞いた施策だというふうな、カムフラージュの場になるという意見が多々あるわけでありますけれども、この場合もそのような感じがしないわけでもないのでございまして、私どももその点大いに監視するつもりでおりますけれども、責任を持って物価の問題について提案されているわけでございますから、その実施について、強い決意を持ってやっていただきたいということをお願いするわけでございます。  内容的に、ちょっと私はこういう感じがするのですけれども物価問題懇談会提案のすべてに流れる背景の中に、日本の重要な物価を国際物価に近づけていく、そのための措置が必要だという考えが共通して流れているような感じがするのですけれども、それ自身、私も間違っておるとは申し上げません。ただ、先ほど平岡さんの話にもありましたように、米価の問題にしましても、国民の生活を時期的に安定のできる、その期間におけるそのような問題も、非常に具体的に、特殊化してもけっこうでございますが、そういうような形で取り上げていただきたいというのが一つと、もう一つは、経済に対する統制的な一つの流れが出てくると思います。統制と申しますと、古い考え方に基づく統制という考えがございますけれども、たとえば、流通の問題を円滑にするための新しい統制、国の関与という問題も出てくると思います。計画、統制という意味が、そのような古いものと新しいもの、つまり、自由経済なり自由な価格機構を維持するための統制というようなものも出てくるように思うわけでございますけれども、そういった問題についても、明らかに区別をされた説明なり要求なりをしていただきますと、非常に前進をしていくのじゃないか、そういう感じがするわけでございまして、この問題をぜひともお考えいただければしあわせだと思います。  それから、第二の質問でございますけれども賃金物価の問題につきまして先生から非常に有益なお話があって、私はたいへん勉強になったわけですけれども基準のとり方という問題でございます。この問題は、個々のいろいろなデータのとり方が重要な要素になると思いますけれども、つまり労働組合側、あるいは経営者側、あるいは政府が、よってもってその議論の基礎になるようなデータをつくっていくということが、非常に重要な段階にきていると思うのですけれども、それをつくるためにどのような方法がいいのかということでございますが、このことをひとつお教えいただきたいと思います。
  39. 中山伊知郎

    中山参考人 お答えを申し上げます。  第一の点でございますが、前の物価問題懇談会の全提案を通じて、国際物価へのさや寄せもしくは水準化ということを考えているかという御質問でございますが、正確にそれを表に出して考えていることはございません。しかし、何を考えるかと申しますと、私どもの一番重点を置きましたのは、消費者物価の問題は決して消費者物価だけの問題ではない、必ず卸売り物価の問題に影響する。この点については反対論もありますけれども、事実の問題として約五年ないし六年の間、消費者物価の問題がほとんど卸売り物価のほうに影響を与えないような形で動いたことはございます。けれども、これはかりに五年続きましても例外的な事象でありまして、卸売り物価と小売り物価の間にそういう画然たる区別はないのでございます。そのことは、卸売り物価と小売り物価あるいは消費者物価の構成品目をごらんになればよくわかりますので、両方に食料品も入っておりますし、繊維も入っております。共通の品目が非常に多いのでございますから、結局においては響いていく。響いていくことは、たとえば卸売り物価に響きますと、これが貿易に関係をしてまいります。そういう意味で、国際物価との関係を考えておりました。けれども、国際物価水準にさや寄せすることがいいのだというような、目標を立てて作業したことはございません。その最大の理由は、残念ながら国際物価自体も非常に動いておるという事情でございまして、何にさや寄せしていいか、そういう点が非常に問題があったということでございます。  それから第二の問題は、賃金物価の基礎的な政策のための資料をつくるために、どういう準備なり形が必要であるかという御質問でございます。イギリスの例をとりますと、少なくとも十年間の準備をしております。ウィルソン内閣ができて所得政策を打ち出し、そして賃金ストップのような強硬な政策をとりますまでに、インカムポリシーから始まってインカムズポリシーに変化した。これが六三年か四年でございますが、近いところではそんなところに変わっておりますけれども、その全期間を通じて、たくさんの人がかかっていろいろな調査を各方面から積み上げております。でございますから日本の場合にも、こういう問題の関心が高まりますれば、経営者組合も、それから政府も、それぞれの機関を通じて大きな調査を始めていくことが必要であろうと存じます。それに関連いたしまして、経済企画庁の中の経済審議会が、理論的、調査的な問題としてまずこれを取り上げて、一部会にこれを置こうというような動きがあるようでございますが、もしそういうことができますれば、政府としてはスタートを切ったと言ってもいいのではないかと存じます。ただ、スタートを切ってすぐに満足すべき結果が出るということはできませんので、日本の場合にも、少し長い準備をかけたほうがいいのではないかと私は考えております。  それから付帯いたしまして、第一の問題に関連して統制、計画という問題にお触れになりましたが、私ども、今日自由経済ではございますけれども、昔の自由経済とは違いまして、ある秩序もしくは秩序的なワクの中の自由経済を考えております。その意味で、そういうワクづくりの意味の計画と、それからその中の自由競争というようなものとをはっきり区別せよという御意見は、きわめて適切なものと存じますし、私自身もそのように考えておりますので、できるだけはっきりそういう点を打ち出すように努力いたしたいと存じます。
  40. 和田耕作

    ○和田委員 最後に一点だけ御質問したいと思います。  経済企画庁から出ております経済社会発展計画があります。これは完了年度が四十六年度ですか、その年度に、いままでの六%台のアップから三%くらいまでにとどめたいという大方針を出されておるようでございます。それについていろいろと総括的な施策が出ております。私、よく拝見しましたけれども、確かにそのような状態になっていくであろうというふうには理解されないのですけれども、先生はこの問題をどのようにお見通しになられるのですか。
  41. 中山伊知郎

    中山参考人 お答え申し上げます。  一つの目標として三%なら三%という数字を掲げられているということ、そのこと自体に私は特に反対の意見は持っておりません。けれども、三%という最終年度の目標が、何か特別の意味があるというふうには私は考えません。私の考えます唯一の意味は、この計画期間の政策実施を通じて物価を、先ほども申しましたように、国民が常識的に考えて安定しているといえる程度に下げる努力をしていこうということであろうと存じます。そのことは、もっと具体的に申しますと、昭和四十二年度は昭和四十一年度より少し下がった、たとえば、昭和四十一年度はどうもいま五%ぐらいらしいのでありますが、それが四十二年度は四・八%になった、四・五%になった、そして四十三年度はまたそれを〇・幾ら下がった、とにかくわれわれが努力すれば、この非常に変動の激しい時期ではあるけれども、したがって変動が激しいということは、ややもすれば物価騰貴のいろいろな原因が出てくるような状況であるけれども、努力次第によっては物価を安定する方向に持っていくことができるのだという自信を、国民も政府もみんなが持てるようになるということが一番大切だと存じますので、そういう意味を持ったものと理解して私は賛成しております。それ以上の意味は、残念ながら認めることはできません。
  42. 和田耕作

    ○和田委員 いまおっしゃいましたように、たとえば、労働組合賃上げの問題にしましても、物価が将来どうなるのかということがはっきりしないという点が、賃上げを要求してくる背景だと思います。われわれにしましても、物価はだんだん上がるだろうという予測が立つから、いろいろな必要以上のものを買っているという心理にもなるわけでございまして、四十六度までに三%に引き下げるという目標を設定するということは、非常に重要なことだと思います。その内容がかりに不確定なものでございましても、そういうふうな目標を立てることは、非常に重要な問題だと思います。そうであれば、もっと責任を持ってこの問題を考えておるとするなれば、もっと確かな、いま先生もおっしゃったように、四十一年よりも四十二年はこうなる、四十二年よりも四十三年はこうなる、こうなるこうなるということが、国民がわかるような計画として出すべきだと私は思うのですけれども、そのためには、つまり重要な、たとえば公共料金のような問題、このウエートの問題、いろいろございますけれども、これが全般的な影響というのは確かに大きな問題でございますので、公共料金についてはすべてのそういう施策を実行するけれども、この計画では、公共料金は平均よりも以下に押えるということばがありますけれども、そういうことばでなくて、公共料金は、四十二年、四十三年、四十四年と年別ではなくてもいいですけれども、こういうふうな順序でこれを押えていくとか、あるいは公共料金に準ずる重要な問題、米価の問題にしましてもその他の問題にしましても、そういう重要な品目については、四十六年までにこのような方法、このような施策をもってこうするんだという、その数字、その目標だけは持っていただかないと、ただこういうふうないろいろな大きな総合的な政策の形はとっておりますけれども、肝心の点が抜けているという感じがするわけでございまして、こういう問題をひとつぜひとも先生のほうでも御検討いただきたいと思うわけでございます。以上でございます。
  43. 中山伊知郎

    中山参考人 これはお答えではございませんが、ただいまのお話を私どもも十分承って仕事をしていきたいと思います。物価の安定自体が、いろいろな問題に影響することは当然なんでございますけれども、実はそれを組み込んだ経済計画というのは、世界のどこにもないのでございます。これは非常に妙なことなんでございますけれども、どのくらいの物価騰貴を織り込んで経済計画を立てるかということになりますと、それを予測することだけで、ほとんど経済計画の全体が立ったり、こわれたりするような状態になります。したがいまして、過去に日本にたびたび経済計画らしきものが出ておりましたけれども、どれをとりましても、物価は一応安定という前提で議論が進んでおります。非常に動いていくものでございますから、それを取り入れて経済計画を立てるとなりますと、おそらく現在の立て方というようなものが非常に変わってくるのではないかと思うのです。私、まだ十分には勉強しておりませんけれども、そういう動的な変化を一切取り入れて、しかもなお経済計画という名に値する計画というようなものが立つのか立たないのか、こういう点も、勉強してみなければならない一つの問題だと存じます。
  44. 和田耕作

    ○和田委員 よくわかります。よくわかりますけれども政策を実施していくという、こういうふうにしたいという意欲が何だか感ぜられないということでございます。公共料金の問題にしますというと、公共料金を、私どもは一年間ストップにしろということを三年間続けて言うてきたわけでございますけれども、いまでもそういう考えを持っておりますが、政府が四十六年までに三%にするという強い御意志があらわれるような計画がございましたら、こういうふうな考え方は再検討してもいい、私個人はそういう感じがするのですけれども、ただ、そういうふうなものが単なるおざなりなものであったり何かしたら因るわけでございまして、公共料金については、何かそういうことができそうに思うのですけれども、その点、公共料金の範囲でもむずかしい問題でございましょうか。
  45. 中山伊知郎

    中山参考人 一つの従来の私の経験を申し上げますと、実は昭和三十八年でございましたか、物価問題懇談会の結論の一つに、公共料金一年間のストップということを掲げました。実はあれは一つだけを勧告したんじゃございませんで、そのほかに中小企業農業近代化とかたくさんあったんでありますけれども、それだけを政府は実行された。したがいまして、昭和三十八年度の物価というのは確かに騰貴率は少のうございました。四%幾らでございましたか、五%近くで一番小さかったのでありますが、実はそのことの反動が翌年にまいりまして、もうむやみに公共料金が上げられまして、しかも、それに抵抗する政府の姿勢ができていなかった。一年間という期限が切れたら当然上がるんじゃないかというので攻められても、政府はもう手も足も出なくてずるずるっと上がってしまった。そして私どもが、ああいう勧告をするからいけないのだというおしかりを受けたのでございますが、それで非常にあつものにこりてというような形で、いまは非常に慎重にかまえております。したがいまして、いまの問題に対するお答えをいま直ちに申し上げることはむずかしいのでございますけれども物価をとにかく安定させようというような努力をいたします場合に、やはり政府の持ち分というのは非常に大きい。公共料金というのはその中の一つでございますから、これは政府の決意とともにわれわれも主張して、できるだけ安定化をはかっていきたいと思います。ただ、オールストップかどうかというような問題については、なお慎重な考慮を要すると存じます。
  46. 戸叶里子

    ○戸叶委員長 武部文君。
  47. 武部文

    ○武部委員 和田委員のほうから、物懇の提案とその実施の状況について質問がありまして、私と重複いたしますが、若干質問をいたしたいと思います。  私、きのうこれをいただきましたので、提案の十一項目と実施状況とを総体的に照らし合わせてみました。なかなかじょうずにこの実施状況のプリントはできておりますが、いろいろ検討してみますと、食い違ってしまって合わない点が非常にたくさんあると思います。たとえば、先ほども質問がありましたが、米価の問題については、政治的な加算、これはやめるべきであるということが勧告されておりますが、現実にはあのような結果になってしまいました。それから公債の発行についても同様です。それから地価対策についても、言われましたように、土地収用法の問題も全然これは出ていない、こういうふうな点が非常に見受けられるわけであります。ただ、この勧告の十一項目については、早い結果を期待することは困難ではないかとおっしゃいました。確かにそうだと思いますが、物価は日々変動し、上がっていくものでございますから、あまりゆうちょうにかまえておったのでは効果はあがらないと思うわけです。また、おっしゃった中に、幾つかの提案について予算措置をとった、こういうような御説明もございました。調べてみますと、確かに生鮮食料品の流通改善費について十四億六千万円、あるに越したことはありません。十二カ所の公設市場をつくる。これもいいことには違いありませんが、こういうようなことを考えてみますと、あまりにも場当たり主義で、この実施状況を見ますと、むしろ物懇の場を通じて政府物価政策の、悪いことばで言えば防波堤、隠れみのになっておりはしないかというようなことさえ実は私は考えるのでありますが、こういう点について、先生どうお考えになっておられるか、お伺いをいたしたいと思います。
  48. 中山伊知郎

    中山参考人 先ほどこの点の一部についてお答えを申し上げましたので、特に繰り返して申し上げる余地が少ないのでございますが、これはどうも未定の計画という形で答えが出ておりますので、その成果を全部合わせてどれだけの効果があったかというような判定を下すことは、むずかしいと存じます。そして、おっしゃるように、いままで出ました成果については、残念ながら非常に足りない点がございます。その中で私が一番気になっておりますことは、一つ一つ政策ではなしに、むしろ全体の精神といいますか、物懇のみんながほんとうに損得なしに知恵を持ち出し合って考えたことなんでありますけれども、そういう問題について、なぜこういう提案が出てきたかというようなことを、もう少し親身になって考えてほしい、その点の配慮が政府のほうでもう少しほしいということを痛感いたします。実は個々の問題については、私ずいぶん経験がございますけれども審議会やあるいはこういう会議の諮問の結果を政府でどれだけ取り上げているかという点について、おそらく各諮問委員会に参加した学者のほとんど全部が、若干の不満は持っておるのだろうと存じます。しかし、全体を通じまして、たとえばヨーロッパの国々、特にフランス、イギリスと比べますと、こういう民間人ででき上がっております審議会の議を使うという習慣が、非常に発達しているのは日本でありまして、これがかりに隠れみのに使われておるとしても、私は、たくさんそういう審議会をつくられることはむしろいいんじゃなかろうかと思います。ただ、ほんとうにそれを悪い意味でつくられては困りますので、そういう隠れみのにならないような監視というようなのは、皆さんで十分しっかりやっていただきたいと思うのでありますけれども、逆に、審議会で出たことは全部通らなければ完全ではないというのも、これも少しおかしな話じゃないか。政治を行なうのはやはり政府と、そして国会を形成されている国会議員なんでありますから、審議会というのはそれに対する意見を述べるのですから、言ったことがみな通らなければならぬというのなら、それは政府そのものだということになるわけで、それは私は無理だと思うのです。まあその話は中間ぐらいのところにあるということで、私はあきらめております。
  49. 武部文

    ○武部委員 わかりました。  具体的な問題について一つ質問いたします。物懇の提案の中に、「牛乳および乳製品について」という項目があります。この二月十三日の日に、国民生活審議会の消費者保護部会が政府に対して、三十九年にとられた牛乳小売り値の指導価格を取りやめるということについて検討するよう要望を出したようであります。いま御承知のように、牛乳の問題がたいへんな問題になっておりますが、自由競争することによって牛乳の値下げが期待できる、こう考えたことが逆になっておるようでありますが、これについて先先はどうお考えになりますか。
  50. 中山伊知郎

    中山参考人 お答えをいたします。  この問題は、ちょうど昨日の第一回の懇談会でも、消費者代表のほうから指摘がございまして、その間農林省からの答弁もあり、若干の応答がございました。問題の要点は、行政的な指導をやめる。そのやめる趣旨は、自由競争を助長するということなんでございますけれども、それには条件があった。つまり、酪農それ自体を育成し、奨励し、そして供給力も十分つけ、あるいはさらに流通機構にも十分な合理化を——十分とはいえませんが、合理化をやって、その上で行政的な指導をはずしたほうがいいということになっていたのに、行政的な指導だけを先にはずしちゃった、そこで、何かかってにいろんな値上げができるようなムードを起こし、逆に消費者の側には、もうしかたがないのだというあきらめを起こさしたようになっている、この点は非常に遺憾であるからさっそく措置をとれ、というような強い御発言がございまして、ちょうど、国民生活審議会の消費者保護部会というのがございまして、その部会長をされております方が推進会議委員として御参加になっておりましたものですから、そのほうでさっそくこの問題を取り上げてくださるように依頼をいたしまして、一応の問題の終結はそれでついたのでございますけれども、いま御指摘の、自由競争を奨励して、そして価格の低下もしくは少なくとも安定を維持しようという意図が、今日のような状態ではたしてそのまま達成できるかという問題については、非常に大きな問題でございまして、すでにこれに先立って酒の問題がございました。今度は牛乳であります。おそらくこういう物資はほかにも続いてまいりましょう。そういう場合に、いまのような行政指導でいくやり方、押えるやり方、これは上げれば、もう生産費が多かろうが少なかろうがみなそろって上がってしまうということですね。そういうのはまずいからといってはずしちゃったのですけれども、依然として何かカルテル的な行動がとられて、そして上がっていきますれば何にもならない。はずしたことがむしろ奨励になる。これでは困るという議論は十分残っております。まあほんとうの意味のあのねらいは、行政指導をはずしたほうが——これはここまで申し上げていいかどうかわかりませんが、公取が活動する余地があるというだけでもいいじゃないかということがねらいなんです。もしも大きな牛乳の生産者がほんとうに談合によってあの価格を上げたという事実があるなら、これは公取の対象になるわけですから。ところが、もしもいままでのように行政指導で、農林省の所管で——あれは厚生省ですか、両方ですか、その所管であのような値上げが認められたといたしますと、そうすると、もう公取も何も活動の余地がないのです。どっちがいいか非常にむずかしい問題でございますので、物価安定推進会議におきましては、この問題を近い将来にもっと突っこんで取り上げるつもりでおります。
  51. 武部文

    ○武部委員 最後に先生の御意見を聞きたいと思います。  フランスのドゴール政権がとりました例の物価凍結令、これはフランスの物価政策については非常に成功したと私どもは聞いておるわけでありますが、これについて先生どういうふうに評価をしておられるか。同時に、そういう状態日本の現状には全然当てはまらないものかどうか、この点最後にお伺いいたします。
  52. 中山伊知郎

    中山参考人 ドゴール政権のもとでとられました物価政策にはたくさんの段階がございまして、いまおっしゃいました諸物価、特に身の回りといいますか、生鮮食料品を中心とする物価の凍結令というのは三度出ております。最近では、一番新しいのは昨年でございますが、どれも評価がプラス、マイナスございまして、何にもならなかったというのと、やっぱり役に立ったというのと二つございます。それですから、外におりましてこれを評価することは非常にむずかしいのでございますけれども、私はあれは、ちょうどウィルソンがとっております賃金凍結令のような、一つのやむを得ない政策であったと思いますので、むしろ私は、フランスのような状態日本がなっていないことを幸いとするものでございます。
  53. 戸叶里子

    ○戸叶委員長 有島重武君。
  54. 有島重武

    ○有島委員 中小企業の分野調整の問題ですけれども、この問題についての今後の方向、それから差し迫っての処置、そういったことについて伺いたいのでございます。
  55. 中山伊知郎

    中山参考人 中小企業の問題が、物価問題懇談会で特に昨年一年について問題になりましたのは、御承知のように、消費者物価騰貴一〇〇%と仮定しますと、その上がった率一〇〇%——一〇〇%ではございませんが、六年間で三五%でございますけれども、これをかりに一〇〇%といたしまして、その中の分け前を見ますと、中小企業の製品というのが、大体その物価の中に三分の一の貢献度を持っておるのでございます。それで、中小企業近代化とか合理化とかいうことが問題になって、物価問題懇談会では取り上げたわけでございます。それが一つの面。もう一つは、せっかく中小企業が合理化をしてお互いに競争しようとする場合に、どうも現在の中小企業保護の規定の一部が、あたかもカルテル助成の制度のように働いているのではないかという疑いがあるという点で、制度的に一つ問題になりました。この二つが、この前の物価問題懇談会で問題になったことでございます。  そのうちの第一の近代化の問題というのは、先ほど御指摘がございましたように、若干予算的な措置が組まれておりますけれども、どのくらいの効果をあげるかということは、これからの問題でございます。  それから制度の問題につきましては、すでに中小企業の協同組合あるいはその他について、結成を相当厳重に監督しなさいというような通産省からの示達が出ております。ある程度まで府県単位でやっておりますけれども、そういう監督行政が行なわれております。したがって、若干の改善は見られているのじゃないかと思いますが、しかし総体的に申しますと、中小企業に関する物価問題のむずかしさというのは、今後数年続くのだと私は考えております。
  56. 有島重武

    ○有島委員 貿易の問題でございますけれども、後進国との貿易について、その見通しはどういうことになりますか。
  57. 中山伊知郎

    中山参考人 物価との関係で申しますと、特に後進国との貿易がいますぐ問題になるようなことは私はないと思います。ただ最近は、御承知のように、アメリカに対して輸出が三分の一、南米その他を入れますと、後進国地域に対してはちょっと三分の一をこえると思います。あと雑地域が三分の一ということになりますが、その中の後進国地域に対する輸出は、これからも私は増加する傾向にあると思います。そうしてその方面での競争力というのは、何といっても輸出価格ということになります。世界の国々から後進国に売り込みが行なわれておるわけでございますから、日本がそのシェアを維持しあるいは拡大していくためには、最後の最後はどうしても価格という問題になってまいります。その意味におきましては、後進国に対する輸出品目の価格を構成するいろいろな要素、そういうものを十分分析して、全体としてはやはり少なくとも物価の安定、できれば輸出価格の引き下げですけれども、そこまで持っていけませんでも、少なくとも安定が必要だと存じます。
  58. 有島重武

    ○有島委員 ただいまの問題でございますけれども、物を出すということと、それからもう一つは、技術そのものをここに出していくこととは相関連することじゃないかと思いますが、そういった点についてはどうお考えでしょうか。
  59. 中山伊知郎

    中山参考人 後進国援助自体につきましては、おっしゃるように、日本のように資本が少ない、自分の国でも資本をむしろ外国から持ってこなければならないというような面がありますところでは、余っております人材を技術援助という形で持ち出すということが非常に有効でございますし、特に、中小企業方面につきましては、最近のAPO、エーシアン・プロダクティビティー・オーガニゼーションという国際機関がございます。私はその日本代表理事をしておりますが、十二カ国の東南アジアの国々からまいります最も大きな要求は、中小企業に関する技術指導者を送ってくれということでございます。その点については、これからもおそらく規模が拡大されていくだろうと思います。物価問題と少し離れますので、お答えをこの程度にさせていただきます。
  60. 有島重武

    ○有島委員 先ほど動的変化を一切取り入れることはできない、そういうようなお話がございましたけれども、どの程度取り入れて考えるかということは、重要なことじゃないかと思うのです。その点についてはいかがでございましょうか。
  61. 中山伊知郎

    中山参考人 そういう変化をだんだん取り入れていこうというのが、新しい経済学の進歩と申しますか、そういうことでございまして、中期計画におきましても、今度の新長期計画におきましても、計量部会というのがございまして、そこでは、こういう形で動的な要素を取り入れております。こういう形でと申しますのは、過去にはこうであった、過去の傾向、トレンドはこうであったという形で取り上げているわけです。ですから、たとえば設備投資が国民所得全体に対して三〇%をこえる場合には、物価はどうもいままでの傾向では六%上がっていた、もしも物価のほうを五%に押えようというならば、国民所得に対する民間投資の割合は二五%でなければならないような数字になります。こういう形では、しょっちゅう指数の中に、過去の動いた要因が反映されてきているわけです。けれども、それをずっと延長するだけでいいのか、その上にある目標を置いて、それを曲げていくのがいいのか、そういう点になりますと、議論が分かれまして非常にむずかしい。決して動的要素の全体が入っていないのではございません。できるだけ入れようとしておるのでありますけれども、その入れ方については、いまなお未定の問題がたくさん残っているということを申し上げたにすぎません。
  62. 有島重武

    ○有島委員 経済規模がますます大きくなるにつれまして、動的変化に対応する考え方の幅も大きくなりますでしょうし、また、絶対量もふえると思うのです。そういたしますと、弱小業者はそのあおりを食うことで非常に影響力が大きくなると思われるわけでありますけれども、そういったことに対しての処置についてはどうお考えですか。
  63. 中山伊知郎

    中山参考人 どういうふうにそれを理解申し上げたらいいかわからないのでございますけれども、いま日本のみならず、世界経済の差しかかっている段階というのは、どちらにしても非常に大きな変化でございます。影響を受けるのは決して弱小企業だけでなしに、大企業でさえ大きな影響を受けております。たとえばドイツのクルップの工業が、最近、日本ことばでいえば破産のような形になった。あれは同族会社的なものでございますから、特別といえば特別でございますけれども、私ども学生の時分から今日まで、ドイツのクルップといえば、世界大企業中の大企業と思っていたものが、あんなふうになるような世の中でございますから、影響は全部にくると思いますが、その場合に、きた影響に対する抵抗力という点から見ますと、抵抗力の弱い産業とそうでない産業の区別がある。こういうことに注意をしていくのは、おそらく経済学を越えた政治の問題だろうと存じます。
  64. 戸叶里子

    ○戸叶委員長 他に御質疑はございませんか。——なければ、以上で質疑は終わりました。  中山参考人には、長時間にわたり、貴重な御意見をお述べいただき、本問題調査のためたいへん参考になりました。委員会を代表いたしまして厚くお礼を申し上げます。(拍手)  次会は公報をもってお知らせすることとし、本日はこれにて散会いたします。    午後零時五十九分散会