○
中山参考人 中山でございます。
現在の
物価問題の
重点がどこにあるかということから申し上げたいと思います。
昨年一カ年間、
企画庁長官の
諮問機関でございました
物価問題懇談会の
座長といたしまして、一月から十二月に至ります間に十一の
提案をいたしてまいりました。あるいは
交通運賃の問題、
生鮮食料、米の問題、それから
再販価格維持の
制度を持っております
身の回り品、医薬品の問題、それから
財政金融に関する問題、さらに最後には土地の
価格に関する問題に及ぶまで、非常に広範な問題についての
見解を取りまとめて、そのつど答申してまいりました。これにつきまして、ちょうど昨日、新たに形を変えて出発いたしました、今度は
総理大臣の
諮問機関であります
物価安定推進の
会議というものの
懇談会がございまして、一体、昨年一年間そのような
提案をし、いろいろな努力をした結果、現在どのような
効果があがっていると認めるか、こういう
質問が各
委員から出てまいりました。これは予想された
質問でございましたので、
企画庁のほうでは、各省と打ち合わせた結果、これはお手元にすでに配付されていると思いますけれ
ども、「
物価問題懇談会提案の
実施状況」という書類を作成いたしました。これは、いろいろな方面の
実施状況の報告をまとめたものでございますので、未完成であり、したがって、第一次稿となっておりますが、これによって、その場合の答弁の第一の
資料が提出されたわけでございます。ここでは、もちろんこういう
資料そのものについての御
説明は省略いたします。
そこで、全体として
座長はどう思うかという
質問を
皆さんからお受けいたしましたので、そのときに率直に申し上げました
見解を、ここでも繰り返して申し上げます。
私の
見解といたしましては、一年間に、
物価の問題についての
提案から、何かの非常に強い
成果を期待するということはあるいは無理なのではないか、そういう
答えを第一に持っております。もしそのような
効果を期待できるといたしますれば、それは一昨々年の、これは同じく
企画庁長官の
諮問機関として設けられました
物価問題懇談会で
提案いたしましたように、一年間
公共料金をストップせよ、こういう形の
提案でございますれば、それは、あるいはこの
提案の結果がどんなことであったかという問題の形ができ上がるかもしれません。しかし、昨年の
成果はそのようなものではございませんので、いろいろな点について、
日本の
物価問題の根本にある問題を指摘し、それについて特に
政府の適切な
政策を求めたというようなものでございました。その結果がここにあらわれておりますので、それを総括して申し上げますと、
幾つかの事項について
予算措置をとった。たとえば、
中央卸売市場、
冷凍魚のための冷蔵庫の設備、あるいは
消費者保護のためのいろいろな啓蒙のための費用、あるいはもう少し突っ込みますと、
中小企業や
農業、酪農も含めての
農業の
近代化に関するいろいろな
予算措置、これらが今度の
予算措置に盛られております。盛られているものが、どのような
成果をあげて今後動き出すかということは、これは
国会のこれからの
審議の経過にも依存するのでございましょうし、そしてそれが固まった上では、
予算を執行する
政府の責任の問題になります。したがいまして、そういう
成果を私
どもは期待しておるのでございますから、一面では
国会が、せっかくでき上がりましたそういう
措置を大いに推進してくださるように、御努力くださることを心からお願いしたいと思うのであります。
そのほかの問題といたしましては、たとえば、非常に大きなものといたしましては、公取の所管に属します十八の
不況カルテルが大体解消いたしまして、わずかに今日ただ
一つだけが残っておるというような
状態でございます。これは、一面から見れば当然でございましょう。
不況カルテルでございますから、
不況を前提としてでき上がった
カルテルが、今日、
過熱かどうかには
議論がございますけれ
ども、とにかく
不況の
段階を脱出いたしましたときに、
不況カルテルが解消するというのは当然でございます。当然でございますけれ
ども、もしも
物価問題懇談会が幾らかの業績をあげたといたしますれば、その解消のために速度を速め、あるいは幾らかの圧力をかけた、
ことばは悪いかもしれませんけれ
ども、そのような
効果を私は申し上げることができるのではないかと思うのです。そのほか小さいことを申しますれば、たとえば米の場合に、
普通外米の輸入を、すでにこれは昨年実行いたしまして、若干の
効果が期待されている。これもまだごくわずかな期間でございますから、どれだけの
成果があがったかということは、申し上げる
段階ではございません。
そういうことで、
一つ一つを取り上げますと、
成果としては非常に少ないようでございますけれ
ども、将来に向かってはある
成果が期待できるのではないかということ。それから、これは仮定でございますけれ
ども、もしもこのような活動がなかったといたしますれば、あるいは
日本の昨年の
物価はもう少ししにいっていたかもしれない。これは
想像でございますから、正確なことは申し上げられませんけれ
ども、たとえば、
公営企業に属しておりますバスや軌道の
料金の
値上げの問題は、このような世論的な抵抗がもしなかったといたしますれば、あるいはもう少し簡単に承認されているというようなことがあったかもしれません。これは
内容を
一つ一つ見なければわかりませんから、どの
値上げがよくて、どの
値上げがよくないという判断は、私、とてもここでできる問題ではないと思いますけれ
ども、しかし全体として、あのような空気の中でこの問題の処置が幾らかでも慎重になったというようなことがあったといたしますれば、それは
想像をまじえてのお話でございますから恐縮ではございますけれ
ども、若干の
効果があったのではないだろうか、このように考えるのでございます。したがいまして、先ほどの第一の設問に対しましては、私はまずプラス、マイナスちょうどまん中ぐらいのところの点が与えられるのではないかというようなことを申し上げたことでございました。
これは、すでに行なわれました過去の
成果が今日どのくらいあがっているか、このような
質問を受けますこと、あるいは
質問をされます側から申しますと、おそらく過去のことを問うているのではない、今度の
安定推進会議において一体どのような
効果をわれわれが期待していいのかということを、むしろ問うておられるのだと存じます。そうなりますと、現在の
物価の問題、
日本の
物価の
あり方の問題が、どこに
焦点があるかということになってまいりますので、これは、
推進会議の
審議がまだようやく第一回の実質的な
懇談会を始めましたばかりのときに、
推進会議全体の
意見として私から申し上げるだけの材料も、また、私
自身としてその資格もございません。ここから申し上げますことは、完全に
私見でございますから、その
意味で御了承を願いたいと思います。
私は、今日の
日本の
物価問題には、大体三つの
焦点があると存じます。
第一の問題は、ようやく
日本の
物価問題が、抽象的な、あるいは一般的な
需要供給のバランスというような問題からもう一歩進みまして、
制度の問題、あるいは、いろいろな
ことばを使っておりますが、この間の
推進会議で使われました
ことばを拾い上げますと、秩序でありますとか、あるいは慣習でありますとか、あるいはまた
制度というような
ことばがそのまま使われている場合もございますが、とにかく、ただの
需要供給ではなくて、その
需要供給が実際に
物価に反映する場合に、あるいはそれを阻害し、あるいはそれをよけいな形で推進するようになっているいろいろな
仕組み、その
仕組みにどうしても立ち入って
議論を進め、できればその
仕組みを改善する、あるいは合理化するというところに問題を持っていかなければならないことが、非常に明白になってきました。これは、別にいまになって明白になったことではございませんので、むしろ昨年までのいろいろな
経験から、そのことがだんだん確認されてきたと申し上げるほうがいいと考えるのでございますが、たとえば、ことしの春には、
野菜の
春高というようなことがございまして、
生鮮食料のうち、ことに
野菜が非常な
値上がりをいたしました。特に
東京、大阪というような
都会地においてそれがはなはだしかったのでございます。これに対して、
理由はきわめて簡単であります。つまり、冬が非常にきびしくて、そうして
野菜のできが悪かった、そのことが
春高という現象につながっているのだという
説明がございます。そのとおりでございます。そのとおりでございますけれ
ども、たとえば、
需要供給の
関係からだけ見ますれば、一〇%の
値上がりで済むところが、それが実際の
物価騰貴になりますというと、
供給が少し少ないために、実は末端において二〇%、三〇%の
値上がりになってくる。そのことは、中間にございます
市場の
機構、配給の
機構、
流通の
機構というものにいろいろな問題があることを明白に示しているのではないか。現実に、
日本の
流通費といわれております
生産費に対する
小売り価格、マージンまで入れましての差というのは、これはいろいろなものによって違いますけれ
ども、大ざっぱにいって、大体五〇%が
流通の諸掛かりだといわれております。
運賃も含めまして五〇%がそうだといわれております。そうしますと、
物価に及ぼす影響を考えるためには、どうしても
流通関係にメスを入れていかなければならない。これも非常に卑近な、通俗的な例で
皆さんも十分御
承知のことでございますけれ
ども、
東京の
卸売り市場というのは、これは魚にいたしましても、
野菜にいたしましても、
東京の
人口が六百万が最高であるといわれたときにつくられたものだといわれております。それが今日千万人をこえるような
人口になっても、依然としてその
機構でやっておりますから、この
機構のもとで
能率があがるはずがない。したがいまして、
需要供給のほうに、特に
供給不足というような点で若干の遺漏がありますと、それは
物価の面に非常に大きく響くことになる。こういう問題は、実は
生鮮食料一般にあることでございまして、米の場合にいたしましても、非常に重要な問題でございますけれ
ども、
制度的な問題というのが、たとえば
食管制度、これは
一つの
制度でございます。その
制度の
あり方が、これが米価というものに非常な
関係のあることも御
承知のとおりでございまして、必ずしも
需要供給というものからだけ問題を攻めていくわけにはまいらない問題が
方々にございます。そういう問題にどうしても分析を進め、また、できますならばその改善をしていかなければならないという問題が
一つございます。これが第一点でございます。
第二の点は、どうやら私はこの辺で
物価と
通貨の
数量というものをもう少ししっかり考えなければならない
段階にきているのではないかと思います。誤解を防ぎますためにはっきり申し上げておきたいと思うのでございますが、私は、
国債の
発行が直ちに
インフレーションにつながるものとは思っておりません。このことは理論的にはいろいろ問題がありますけれ
ども、私、ここで申し上げることは実証的な点だけを申し上げたいと思いますが、公債をあるいは
国債を
発行している国が必ずしも
インフレーションの進んでいる国ではない。たとえば
アメリカでございますが、
アメリカの
国債の残高は、すでに
国民所得の総額と同じくらいのところまでのぼっておるのでございますけれ
ども、おそらく
物価の点で一番
世界で安定している国は
アメリカでございましょう。これは、ことし去年という
意味ではございません。去年からことしにかけましては
ベトナム戦争もございまして、
アメリカの
物価も決して安定はしておりません。しかし、ここ十年あるいは二十年という時期をとって考えますと、その間に
アメリカの
国債はだんだんに大きくなっておるのでございますが、それにもかかわらず、
物価の点あるいは
経済全体の点における
安定度は
アメリカは非常に高い。これはほかの
理由がいろいろあるのでございますから、
国債だけを取り上げて問題にすることは、もちろんできない相談でございますけれ
ども、そういう
意味で、私は
国債が必ずしもすぐにインフレにつながるとは思っておりません。けれ
ども、
物価と
通貨との問題の
考え方にはいろいろな時期がございます。私は、残念ながら
日本のただいまの時期は、ここ数年前と違うと思います。ただいまの時期は、どうやらそろそろ
通貨の
数量についてももっとわれわれは注意をしなければならない時期にきているように思うのでございます。
これは、直接の
関係といたしましては、昨年の
物価懇談会の
財政及び
金融に関する勧告第八の中で、私
どもは、
国債の
発行高をせめて四十一年度と同じになさってはいかがですか、それから
財政の規模も少し縮小されてはいかがですかというようなことを、
幾つかの例をあげて申し上げました。この七千三百億とかあるいは
財政の
増加率を
経済成長率と歩調を合わせるようにというような
提案は、はっきり申し上げますけれ
ども、私
ども十分に
審議を尽くして到達したものではございません。これは非常にむずかしい問題でございまして、決してあの七千三百億という
数字が一歩も動かないものである、あるいは
成長率との比較がどのくらい正確なものであるかということについて、私は自信をもって申し上げることはできません。けれ
ども、あそこで申し上げようとしたことは、
国債の
発行が承認されたのは、おそらく
不況回復ということであったのでございますから、その
不況の
回復がある程度
効果を奏したときには、もはや
国債をその形で考えることは無理ではありませんか、したがって、できればそれを押えてくださいという、その
意思表示をあの
数字であらわしたのでございまして、それ以上の
意味はございません。間違っておれば私はいつでも訂正する。それから、そのときにも申し上げたのでございますけれ
ども、かりに
国債の
発行高が
昭和四十二年度には八千億、九千億になりましても、それだけの
理由があれば、ちっとも差しつかえないのじゃないかということも申し上げたのでございます。
しかし、全体として申しますと、
日本の
個別物価あるいは
消費財物価の
騰貴を中心として動いて、まいりました現在の
物価情勢が、このままでまいりますと、どうしても
財政、
金融からくる
通貨量との
関係で動くようになる
危険性があるということだけは、どうしても私は認めざるを得ない
段階にきたのではないかと思います。したがいまして、これからの
物価政策の
一つの
重点は、これは、
推進会議でもまだそういう形では問題になっていないのでありますけれ
ども、重ねて申し上げますけれ
ども、
私見では、どうも
金融、
財政の面にもう少し
物価との
関係の
考慮を織り込んでいくようにしなければならないのではないだろうか。このことは、いま景気の
状態がやっと
回復して、一部では
過熱といわれることもございますけれ
ども、そうでないという説もある。そういう
段階に、この
発言は非常にデリケートなのでございますけれ
ども、私は、
物価という大きな
立場から申しますと、第二の
物価問題の所在は
通貨量にあると思います。決してこれを縮めて圧縮するということだけが能ではございませんので、適正な
通貨量ということがもちろん問題でございますけれ
ども、それについてもう少し慎重な
考慮を払わなければならない
段階にきている、このように考えるのでございます。
第三は、
賃金と
物価との
関係でございます。これは、昨日も
推進会議の
懇談会で若干の
方々から御
発言があり、そして
組合の
総評、同盟、
中立労連、すべての
代表者がそれについての
発言もなさいました。その限りにおきましては、
物価と
賃金とが
日本の現在の
状態においてはっきり連携を持っている、お互いに影響される
関係にあるということは、
皆さんが認めておられます。
組合の方も認めておられますし、それから、もちろん
賃上げ攻勢をまともに受けておられる
経営者の側も、そのままに認めておられるわけです。もちろんその場合に、これは申し上げていいと思うのですが、
総評の堀井さんから
発言がありましたように、そのことだけは認めるけれ
ども、その中身についての
議論だったら、私
どもはうんと言いたいことがあるんだということを申しておられます。それはそのとおりでけっこうだと思うのです。私
自身の考えを申し上げますと、
日本の現在の
経済の
成長状態、それから
労働力がだんだん窮屈になってくるという
状態、それから、現在まで重なってまいりました
物価上昇の
状態、それが
中小企業におきましては、
生産性と無
関係ともいえるような
賃上げで、どうしても製品の
価格を上げざるを得ないというようなことがあったという事実、それの積み重なりを考えてまいりますと、どうしても
日本の場合においても、
賃金と
物価という
関係を考えなければならない
段階にきている、こう思うのであります。
ただし、そのような
考え方を、たとえばいま
外国でやっておりますような
所得政策というような形で打ち出すには、時期はほとんど全く熟していないといってもいいんじゃないか。これは、決して精神的な
意味で
組合側が反対するとか、あるいは
経営者側もむやみに
ガイドポストを出せ、出せと言っているだけで
内容がないとか、そういう精神的な面を言っておるのではございません。あの
所得政策というものが出ますためには、どうしてもこういう問題があるのです。
一つは、それでは一体どういう
基準で
所得政策をやるか、
基準の問題がございます。大体それは
生産性だという
答えがすぐにはね返ってくるのでございますが、しかし、
生産性を正確にはかれる部門と申しますのは、
日本はもとよりのこと諸
外国を通じて
製造工業だけであります。その
製造工業もまた
副産物がない——全然ないのはございませんが、
副産物が少ないというような単純な
製造工業の場合でございます。これが
化学工業その他になりまして、どちらが
副産物かわからないというような、
複合生産物が出てまいりますときの
労働生産性のはかり方というものは、非常にむずかしいのであります。これは技術的な問題になりますから省略いたしますけれ
ども、非常にむずかしくて、
世界にまだはっきりした
測定の方法というものは立っておりません。したがって、
日本は
生産性の
測定においても相当進んだ国の
一つでございますけれ
ども、例外がございまして、
製造工業の全体があの
生産性指数の中に入っているわけではございません。いわんや、これを
所得政策として打ち出します場合には、これは国全体の
政策でございますから、どうしても国全体に適用できるような
基準でなければなりません。
農業にも、
中小企業にも、あるいは
製造工業でない商業にも、その他の
産業にも一般的に適用できるような
基準でなければなりません。そうなりますと、ちょうど
イギリスがやっておりますように
国民経済の
成長率でやったらどうか、これも
一つの
考え方です。おそらく
イギリスの
政府のとっております
基準、
国民経済の
成長率、これは、これ以外にとりようがないといえるようなものじゃないかと思うのでございますけれ
ども、しかし、それをとります場合には、今度はいろいろな違った問題が起こってくることを考えなければなりません。それを
生産性と同じように考えることができるのか。その場合の
生産性というのは、
製造工業で
生産性指数にあらわれておりますようないわゆる
物的生産性、何時間の
労働がどれだけの
生産物を生むというような物的の
生産性の問題と同じなのか違うのか。単に
物価が上がったというだけで、
生産性が出たように
利益があがってくる場合もございましょう。それから、きょうの新聞にも一部分出ておりますけれ
ども、人手を押えて
生産を上げていったために、最近の
生産性が非常に上がった。そういう場合の
押え方というのが、はたして技術の進歩なのか、それともいままでのむだがなくなったのかというようなことを分析するには、非常にむずかしい問題が入ってくるわけでございます。したがって、簡単に申しますと、
基準のとり方に
一つ問題がある。
第二の問題は、
所得政策として打ち出す場合の非常に大きな困難と申しますと、およそ
所得政策というのは、現在の
所得の
水準あるいは
賃金水準というものを、一応コンスタントに、そのままに変化しないものとしておくのであります。たとえば、三%は上がってよろしい。しかし、
繊維産業も三%、
石油産業も三%、公務員も三%、すべて同列にこれを見ませんと、
所得政策というものは成立しません。ところが、もしそういうことをいたしますと、
自分のところは
成長産業だ、現に資本も入り、
能率もあがり、
利益もあがっている、そこで、
賃金を三%以上要求し、これを取るのがなぜ悪い。平均して三%といいますれば、今度逆に三%以下のところが出てくるでしょう。そういう例をとると悪いのですけれ
ども、かりにこれを
繊維としましょうか。
繊維の
労働者は言うでしょう。
自分のところが
斜陽産業と一体だれがきめた、
斜陽産業じゃなくて、景気の変動はあるけれ
ども、やはりもうかっている場合もあるし、最近はそんなに悪くもない、ということも言えるでしょう。それを平均以下に押えよというのは、どこからそういう理論が出るのかという反発がくるでしょう。おそらくそういうところで問題になるのは石炭
産業でしょうか。しかし、石炭
産業だって
労働者の
立場からすれば、そういう要求に対して、そうですかとすぐにオーケーをできるかどうか、問題があると存じます。
そうなりますと、一律の
所得政策というのは現在の分配の
あり方、したがって、各
産業の
賃金水準の相違、格差というものを、しばらくの間はがまんして、そのままにしてくださいということを
意味するのだということになります。これはそのとおりなんです。それの一番極端な場合はペイポーズというウィルソンのとっております
政策でございます。今度また半年ばかり延長するようでございますけれ
ども、
賃金をオールストップすれば、現在の格差はそのままだということは当然くっついてくるのであります。これは
労働界にとっても、場合によっては
産業界自体にとっても、
経営者の側にとっても大問題であります。したがって、このような大きな困難を、私は二つしか例をあげませんでしたけれ
ども、まだなかなかむずかしい問題はあるのですけれ
ども、とにかく、少なくとも二つの大きな困難をかかえております。
所得政策をいま
日本の
状態、ドライヤー報告ではありませんけれ
ども、
政府と
労働界との不信は相当大きいといわれておるような
日本の
状態の中で、いきなり打ち出すことはほとんどできない、こう思います。
それでは、その
所得政策だけが、いまのような
賃金と
物価との
関係を考える唯一の方法であるかというと、私はそうでない、やはりそういう
政策を打ち出さなくても、現実の問題として
賃金と
物価との循環、悪循環か良循環か知りませんが、循環のあることは、どこからも否定のできない事実であります。そういう循環の経路を押えていき、そこからお互いの了解を導き出し、その弾き出した了解に乗ってそういう
政策を考えていくということは、
所得政策だけが
賃金、
物価に対する唯一の
政策ではないという
意味において、私は
日本の場合にも十分に成立すると思います。これを簡単に申しますと、私は、
所得政策は原理的に成立するけれ
ども、これを具体的にするには、もっとお互いに勉強もし、
資料も整え、そして十分な準備をしなければならないのだということを申しておるのでございます。これが第三の点でございます。
繰り返して申しますと、第一は
制度、慣習、秩序というような
物価問題の底にある問題にしっかりと手をつけていかなければならない。第二の問題としては、
個別物価の問題も重要でございますけれ
ども、
日本の現在の
状態では、
通貨の量、これは当然
財政と
金融という
政策の問題になるのでございますが、その点にやはり注目をしていかなければならない
段階が近づいている。第三には、
日本の現在の
物価問題、特にそれを
経済の発展状況の上において考えますと、
外国だけがそうではないので、
日本の側におきましても、
賃金と
物価との関連をやはり取り上げて、十分にこれを考えていかなければならない
段階がきている。これが、私の考えております現在の
日本の
物価問題の
焦点でございます。
御
質問を待ちまして、これだけで初めの話を終わらせていただきます。