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甲斐参考人 私は、実際に運転免許証を持ちまして、常に
道交法なり、その他交通の諸法令に基づきまして働いておる立場の交通労働者約百万で組織しております全交運の労働者を代表いたしまして、今回の
道交法の
改正案に対しまして反対の立場で
意見を申し上げます。
総体的に最初に、現行
道交法に反対するその
理由を申し上げますならば、一つは、今日の
道路状況の中で、
道交法の
規定と運用が運転者のみにきびしく取り締まり、あるいは検挙第一主義で行なっておりまして、歩行者への指導や取り締まりが非常に薄弱でありまして、片手落ちの運用になっておるからであります。間違った歩行者優先の思想で、横断歩道でないところを横断している場合の
事故が非常に多発しておりますが、これに対する指導、標識自体が非常に少ないし、またその指導も欠けておりまして、一方的に運転する側のみに一〇〇%の責任を帰して運用していることが第一であります。
第二点は、交通の秩序の確立の上に立ちまして、交通の安全と円滑のために、
信号機や歩車道の区分や
標識等については、当然
道路管理者が義務を持って行なわなければならないにもかかわらず、
道交法上では義務化されておりません。
一般的なガードレールや
歩道橋や、安全設備の不備も手伝いまして、これまた一方的な形で運用されております。このことは、
信号機等の設置の有無が即
事故の増減に影響していることは、最近の
事故統計が明確に証明しているところであります。
第三点は、雇用主等の安全運転のための義務
規定が非常に弱くて、また罰則も低くて、いわゆる下命、容認等の
事故原因の要因をなしている事案が非常に多いのであります。これまた運転者だけに責めを及ぼして、今日の労使
関係の現状の中でいたずらに
事故要因を助長しておるばかりであります。
第四は、
道交法がきわめて難解なのであります。そのために、交通の大衆性から当然の必須要件である交通の秩序なりルールなりが歩行者、運転者全体に徹底し得ないでおり、モータリゼーションといわれる今日の時代に合致しない
法律と言わねばなりません。
第五は、交通警察は取り締まりの強化と、たいへん失礼な言い分でありますが、点取り主義からくる検挙第一の行政でありまして、たとえば一方
交通違反等の軽い違反、あやまちは運転手側にあると思いますが、その場合においてすら、目の色を変えて物陰に隠れて検挙してみたりというような
実態を見ますると、またその違反したものに罰則強化の適用をしている今日の現状からすれば、著しく国民感情を刺激しまして、
事故防止に役立っていないのであります。
第六には、現行
道交法は、
信号機の設置権限、横断歩道の設置権限あるいはスピード制限の設定権限など、数えてみますと約十九項目が公安
委員会に委任されております。公安
委員会の現状の機能や
制度からいいますならば、それは即警察が行なうのが
実態でありまして、
道交法の民主的な運用を
制度上、法的にも阻害しているというふうに言わねばなりません。すなわち、運用にあたって、取り締まり側だけの一方的な運用でありまして、国民の意思反映が全然なされておらないということであります。
第七番目は、つけたりの形ではありますけれ
ども、いわゆるデモ等の
憲法で
保障されました示威行為等についてまで拡大適用されて、きわめて反動性を持った運用を指摘しなければならないと思います。
以上が
一般的な
道交法に対する私
どもの見方でございますが、次に、今度の
改正案の問題点を指摘してみたいと思います。
一つは、
改正案にあります横断歩行者の徹底した保護
規定を強化していることでありますが、
趣旨にはたいへん賛成であります。ただし、先ほ
ども言いましたように、横断歩道のためにとまっておるのかどうかわからないというのが今日の
道路現状であります。それは横断歩道等の標識や指示標識その他が不明確でありますから、何でとまっておるかわからないという
事態もしばしばだと思います。その際に、いたずらに今度の改正のように罰則だけ強化しましても、実効が伴わないのではないか。むしろ横断歩道であるという
標識等の明示等がたいへん必要ではないかと思います。
二番目は、積載オーバーの罰則強化の改正でありますが、この罰則強化の今度の改正で
道交法のすべての精神が象徴されるように私
どもは受け取っておりますが、それは全く積載オーバーの責任を実行行為をする運転者だけに——今度は懲役三カ月をつけた
改正案でありますが、いわゆる罪を重くする。これを積ませた人については、若干前進して、
罰金三万円をつけたということはわかるけれ
ども、これは本末転倒でありまして、運転者こそ軽い罰則にしておいて、積ませる側の荷主や雇用主に対して懲役刑を付するのが当然でありまして、たいへん片手落ちどころか、とにかく悪いのは運転手だという思想が象徴されておることについて、たいへん残念でなりません。これ以上運転者をいじめなければならないかということを考えますと、交通労働者の立場からすればたいへん憤りを感じます。
次はタコメーター、いわゆる運行記録計の設置に対する車両保安基準を受けての改正でありますが、これは現状のこれを監査する機関なり人なり、すなわち基準監督官でしょうか、あるいは
自動車関係の許認可上におきましては陸運局その他の監査機関が非常に脆弱である今日からいきましては、ただつけておるというだけでありまして、これが事前に
事故防止のために管理監査することがない限り
意味がない。単に
事故があったときに立証の役に立つだけだというふうに考えております。
その次は免許証の仮停止処分の問題であります。これは一項、二項、三項に分けておりますが、一項と二項、すなわち酔っぱらって人を死傷せしめた場合、あるいはひき逃げをした場合は、感情論としては私も理解できます。しかし、ここにもあらわれておりますように、いままでの聴聞
制度の実質的廃止であり、あるいは警察官の権限がこれによって非常に拡大されることによりまして、歩行者側の過失があっても無条件に仮停止になるということになれば救う道がないということもあわせまして、きわめて問題だと思います。そういう
意味で一項、二項については私もあまり申し上げたくはありませんが、特に三項については、この中にあります無免許、いわゆる百十八条の一項一号と、あるいは五号ですか、いわゆる無免許運転、無資格運転等については立証が明らかでありますから、仮停止処分について理解もできますが、そのほかの過労運転、スピード違反、信号違反等たくさんありますけれ
ども、これらの違反を犯して死亡せしめた場合には二十日間の仮停止ということになりますと、これは立証が非常にむずかしいことを考えますと、これまたたいへんな問題だと思います。私たちは免許証一枚で生活をしておる立場からすれば、あとでかりに運転手に過失がなくて歩行者こそ酔っぱらって飛び込んできたような場合でなくなられても、一方的に二十日間の免許証の停止ということになれば一カ月生活ができないという、その救済の道は何ら
規定もないし、
一般的に国家賠償法に基づく
手続しかないとするならば、たいへんな問題だと指摘しなければならぬと思います。
それから公安
委員会に対する事務の委任でありますが、これは実際の
実態論からすればわかりますけれ
ども、このようにどんどん警察権限を強化することでいいかどうか、たいへん疑問に思います。今日の交通状況からいいますならば、当然第三者機関的な何かの機関を設けてこれらの
処理等をすべきじゃなかろうかと考えます。
最後に、問題であります
反則金でありますが、これは専門家でない立場で
違憲論を申し述べることを差し控えたいのでありますけれ
ども、私の聞いている範囲では、少なくともきのう警察学校を卒業された現場警察の方が、捜査権、起訴権、判決権を一人で駆使するということになれば、昔のような違警罪即決例の復活を思わせる心配をしておるところであります。
その第一点は、すなわち、オイコラ警官の復活を一そう助長しはしないか。三十五年の大改正以来、非常に
権力と懲罰主義が強化されました。また最近にも例がありますように、大阪でしたか、
道交法違反者に対する射殺
事件もありました。そういう権限の乱用、強化が行なわれるということを心配いたします。
二つ目は、正式
裁判の道が残されているとはいうものの、一そうこの
裁判を形骸化するものだと思います。
その次は、収奪の本質を持つものだということを言わねばならないと思います。これは
反則金に対しまして、その次は点数制が改正されてつけられますから、自動的無
権利的に免許証の取り消し等が行なわれまして、また額にもよりますが、
反則金を払えば済むのではないかということで、ますます罰の意識について、収奪方向の形で運営が行なわれはしないかということをたいへん心配いたします。
最後は、いま
川口の市長さんもおっしゃいましたけれ
ども、どだい交通安全のためにこの
反則金を
地方自治体が得ようというところに、今日の政治の貧困をなまいきにも追及したいのでありますけれ
ども、年間約百六十億でしょうか予定してありますこの
反則金が
地方自治体に還元されるということになりますならば、ますます
地方自治体と警察
権力が癒着しまして、警察の発言権が強化拡大いたしまして、国家警察への道を進める手段ではなかろうか。たいへんよけいな心配かもしれませんが、しております。
以上、今度の
改正案に対して問題点を申し上げましたけれ
ども、私も反対のための反対の
意見では建設的ではありませんし、また本
委員会における
審議の状況につきまして、いずれ可決の方向だということを考えますならば、むしろこういった点をぜひ取り上げていただきたいことを二、三点申し上げて、
意見にかえたいと思います。
一つは、現行
道交法の不備は先ほど来申し上げましたけれ
ども、
事業主に対する罰則の強化をもっともっとしてほしいわけであります。特に積載オーバー、
整備不良車両運転の問題、過労運転、スピード運転、ノルマの強要等のいわゆる雇用主義務の罰則の強化が第一点であります。
第二点は、
道路管理者の義務の法定化をぜひしていただきたいのであります。
三番目は、運転者の保護
規定を強化してもらいたいということ。
四番目は、先ほ
ども言いましたように、本法の運営にあたりまして、現行の公安
委員会の単位に交通
審議会あるいは
委員会等を設けまして、今日の交通状況に対処する
道交法の運用にあたって民間有識者も入れました
審議会あるいは
委員会等を設けまして、この
法律の運用にあたって民間人を参加させることによって、法の意識の徹底やら警察が意図していることの徹底等を民主的に運用する機関をつくっていただきたい、こう思います。
以上の点を申し上げましたけれ
ども、本
委員会ではなく法務
委員会ではありますが、
刑法二百十一条の改正にも見られますごとく、とにかく運転者いじめの罰則強化のみをお考えにならないで、ぜひとも交通の取り締まりが先行しないので、もっともっと三E政策で言われております安全設備なり教育の問題なり等を総合的に取り上げていただきますように、心から
お願いしまして、私の
意見といたします。