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1966-07-29 第52回国会 衆議院 商工委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十一年七月二十九日(金曜日)    午前十時三十二分開議  出席委員    委員長 天野 公義君    理事 浦野 幸男君 理事 河本 敏夫君    理事 始関 伊平君 理事 田中 榮一君    理事 板川 正吾君 理事 加賀田 進君      稻村左近四郎君    小笠 公韶君       神田  博君    菅野和太郎君       田中 六助君    中村 幸八君       三原 朝雄君  早稻田柳右エ門君       大村 邦夫君    五島 虎雄君       桜井 茂尚君    沢田 政治君       田中 武夫君    栗山 礼行君  出席政府委員         内閣法制局参事         官         (第四部長)  田中 康民君         通商産業政務次         官       進藤 一馬君         特許庁長官   川出 千速君  委員外出席者         参  考  人         (発明協会理事         長)      高吉 友次君         参  考  人         (日本特許協会         理事長)    石川 正雄君         参  考  人         (特許制度擁護         連盟理事)   大條 正義君         参  考  人         (弁理士会会長奥山 恵吉君         参  考  人         (日本弁護士連         合会工業所有権         制度改正委員会         副委員長)   松本 重敏君         参  考  人         (武田薬品工業         株式会社社長) 武田長兵衛君         参  考  人         (日本大学教授染野 義信君         参  考  人         (青山学院大学         教授)     吉原 隆次君         参  考  人         (東京高等裁判         所判事)    原  増司君         参  考  人         (工業所有権制         度改正審議会小         委員長)    村瀬 直養君     ————————————— 本日の会議に付した案件  閉会審査に関する件  特許法の一部を改正する法律案内閣提出、第  五十一回国会閣法第一二九号)  実用新案法の一部を改正する法律案内閣提出、  第五十一回国会閣法第一三〇号)  工業所有権制度改正に関する件      ————◇—————
  2. 天野公義

    天野委員長 これより会議を開きます。  この際、閉会審査に関する件についておはかりいたします。  通商産業基本施策に関する件、経済総合計画に関する件、公益事業に関する件、鉱工業に関する件、商業に関する件、通商に関する件、中小企業に関する件、特許に関する件、私的独占の禁止及び公正取引に関する件、鉱業と一般公益との調整等に関する件、以上の各案件について、議長に対し閉会審査の申し出をしたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 天野公義

    天野委員長 御異議なしと認め、さよう決します。  次に、委員会閉会審査を行なうにあたりまして、参考人から意見を聴取する必要が生じました場合の人選、日時、手続等に関しましては、あらかじめすべて委員長に御一任願っておきたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 天野公義

    天野委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。  次に、閉会委員派遣に関する件につきましておはかりいたします。  閉会審査案件が付託になり、審査のため委員派遣を行なう必要が生じました場合には、委員派遣承認の申請に関しましては、すべて委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 天野公義

    天野委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。      ————◇—————
  6. 天野公義

    天野委員長 内閣提出特許法の一部を改正する法律案及び同じく実用新案法の一部を改正する法律案を議題として審査を進めます。  本日は、両案審査参考人として、発明協会理事長高吉友次君、日本特許協会理事長石川正雄君、特許制度擁護連盟理事條正義君、弁理士会会長奥山恵吉君、日本弁護士連合会工業所有権制度改正委員会委員長松本重敏君、武田薬品工業株式会社社長武田長兵衛君、日本大学教授染野義信君、青山学院大学教授吉原隆次君、東京高等裁判所判事原増司君、工業所有権制度改正審議会委員長村瀬直養君、以上十名の方が出席されております。  参考人の各位におかれましては、御多用中のところ御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。会議を進める順序といたしまして、最初に各参考人にそれぞれのお立場から大体十五分程度の御意見をお述べいただき、次に委員の方から質疑がありますので、それに対しましても忌憚なくお答えをお願いいたします。  それでは、まず高吉参考人からお願いいたします。
  7. 高吉友次

    ○高吉参考人 発明協会の高吉でございます。本日は特許実用新案につきまして、多少考えております意見を少々申し述べさせていただきます。  特許実用新案滞貨が、両方あわせますと、四十年度末では四十六万件にも達しております。平均いたしますと、ただいま三年半前の出願処理しているというような理屈に相なるのでございます。もちろんものによって審査進捗状況には違いがありまして、本年六月の特許公報を見ますと、早いものは四十年の十二月ころの出願審査しておるものもありますが、一方おそいものは、三十七年の十一月とか十二月ころのものに手をつけておるという状態でございます。  処理の遅延のためにいろいろな面に弊害が起こっておりますことは、皆さまもよく御承知のとおりであります。特許にせよ実用新案にせよ、その制度の趣旨は、世間のために技術あるいは着想を公開させますかわりに、ある期間独占権を与えるという仕組みになっておるのであります。これを考えますれば、当然処理を早くして世間に役立たせる、同時に与えるべき権利は早く与える。ことに実用新案は概して寿命が短いものでありまして、中には三年もかかって出願公告になった、そのときにはもうすでにそれよりも新しいものが出ておるというようなケースも多いのであります。願わくは特許は一年半くらいで、また実用新案は一年くらいで処理していただきたいものであります。それがいま申しましたような三年半分の滞貨で動きがとれなくなっておるというような状態であります。この滞貨を一日も早く一掃し、今後の出願を迅速に処理することの必要性はだれも否定する者はないと思います。  問題は滞貨処理方法で議論が分かれるところかと存じます。一つは、制度改正までしなくとも、審査官増員審査能率の改善、あるいは他方では出願人の教育もいたしまして、事前の調査を十分に行なってもらって、むだな出願をしないように指導する、こういったような措置で解決するのではないかという考え方一つあろうかと存じます。実は滞貨の累増は何も近ごろ始まったことではなく、三十七年度でもすでに二年十カ月分の滞貨を抱いております。特許庁は、逐年増加する滞貨処理に、増員中心に事務の機械化とか、資料の整備とか、こういうようなことで懸命の努力をされておるにもかかわりませず、今日のような結果になってしまいました。  特許実用新案審査官の数は、四十年度末で五百名弱かとわれわれは見ております。四十年度の特許実用新案処理件数が十四万四千件と聞いておりますから、一人当たり三百件弱の能率ということになっております。この年の出願件数が十九万件でございました。一人三百件の能率といたしますと、十九万件を全部処理するためには六百三十名が必要であったはずでございます。それが実際は五百名弱でありました。百三十名のギャップがあるのでございます。審査能力の不足は突然に起こったものではなく、前々から審査官の補充の計画を立て、予算措置も講じながら、実際は素質のいい技術系統の人が採用ができなかったというのがほんとうではないでございましょうか。  四十一年度の出願が二十一万件くらいと見込まれております。一人三百件の能率でございますならば、七百人の審査官が必要となってまいります。現在の五百人程度から一挙に二百名を増員するということが、はたして可能でございましょうか。不可能ならば、現在の四十六万件の滞貨はまた増加しなければなりません。  五年先の四十五年度には、出願件数がおそらく二十七万件くらいにもなるのではなかろうかと見ておる人もあるようでございます。二十七万件が当たるものでございますかどうかわかりませんけれども、もしこの程度であるとすれば、能率三百件としても九百名、このころには能率が一〇%くらいは改善されて、三百三十件くらいは処理できるようになっていると見ましても、八百二十名の審査官が必要となります。  現在の五百名から五年後の必要人員にまで持ち上げていくのに、毎年平均して増員をはかる以外に方法はない。ほんとう初年度に一挙に増員していただきたいわけでありますけれども、初年度から一挙に大増員はできない、平均して増員していくというようなことにいたしますと、滞貨積み増し分も見込んでいかなければなりませんので、おそらく毎年七、八十名ずつの増員を五カ年間くらい続けなければならないと思います。六十名とか六十五名とかいう定員増が毎年いままでは見込まれておるようでございましたが、この確保でさえなかなかむずかしかったような状態で、またそれを上回ります七十名とか八十名とかいうような人数を毎年毎年そろえていくということは、実際は計画倒れになるおそれがないではないと思います。私はこの方法滞貨処理審査促進は見込みが薄いと判断しております。  では、制度改正という手段をとって滞貨処理方法考えてみまするに、この場合、制度改正がはたして滞貨処理の有効な手段であろうかという疑問を生じましょう。もちろん改正内容によりけりでありますけれども、米国あるいはドイツ、この辺でも審査機能が行き詰まりまして、これを打開するのに制度自身改正で血路を開こうとしております。日本でもそこに着眼するのは当然でございます。ことに実用新案制度を持っておる国はわりあい少ないのでありますが、その少ない国の一つの西独でも、実用新案はすでに無審査方式をとっておると聞いております。工業所有権制度改正審議会実用新案公衆審査に移す提案をしております。これは現段階では妥当な方針と私は考えております。制度改正滞貨処理に有効かいなかというよりも、必然的に制度改正にまで持ち込まざるを得ない。そうしなければ滞貨処理は解決しないというのがわれわれの考えでございます。  実は、工業所有権制度改正審議会答申につきまして、当発明協会でも会員の意見アンケートによって調査いたしました。その中で次のような結果があらわれました。お手元に配付いたしました発明協会資料のうちで「特許および実用新案制度改正について」という薄いほうの資料がございますが、この資料の三ページの下半分の数字あとでごらんいただきたいと考えます。これのアンケートに対しましての回答の数字を示したものでございますが、一つは「特許制度大幅改正案についてどのように思いますか」という問いに対しまして、公開制採用に賛成いたしておりますのが八一・五%、反対をいたしておりますのが一八・五%でございます。それから次は、公開出願後一年六カ月がよいというのが五三・七%、二年がよいというのが二八・九%、三年がよいというものになりますと一七%くらいに下がっております。  次の、二番目の「実用新案制度についてどのように思いますか」という問いに対しまして、現行のままがよいというのが二二・五%、やめてしまったほうがよいというのが一四・五%、改正して存続したほうがよいというのが三分の二近くの六三・三%でございます。  次、第三番目といたしまして、「実用新案制度改正についてどのように思いますか」という問いに対しまして、簡略審査でやっていこう、これに賛成しているのが七九・六%、反対をいたしておるのが二〇・四%、簡略審査で行ないます場合に、公開出願後三カ月がよいというのが五五・四%、六カ月がよいというのが四四・六%、一年がよいというのが〇・〇七%になっております。これを見ますと、制度改正を行なって特許早期公開制度採用する、実用新案公衆審査方式採用して、とにかく迅速に処理してもらいたいという希望が端的にあらわれております。  次は、制度改正は一応是認するとしましても、ただいま提出されております改正法案が妥当かどうかという問題でございます。これは立場立場によりまして考え方が非常に異なっております。もともと本法案が、法理論的立場といいましょうか、法体系とでもいいましょうか、そういう立場と現在の実情というものとの調和をはかって組み立てられたものでありますので、どうしてもすっきりしない部分が生ずるのはやむを得ないと私は思います。法案に対していろいろな注文修正意見が出ておるように伺っておりますが、法案技術的な問題にこだわり過ぎまして、法案成立機会を失いまして、滞貨の一そうの増大を招く結果になりますと、これはゆゆしき問題であろうかと存じます。制度改正を実現させねばならないということを前提にいたしまして話し合いを進めてまいりますならば、いろいろ出ております注文修正意見といったようなものの解決は決して不可能とは私は思いません。  結論といたしまして、一つは、制度改正によって滞貨を早急に処理すべきである。二番目は、提出されております改正法案はおおむね妥当であるから、この法案中心として制度改正を実現させるという前向きの態度で進んでいただきたい。そうすれば、法案に対するいろいろな修正意見話し合いがまとまるはずであると考えます。第三、話し合いの場合、修正意見がいろいろ出ておりますが、この修正意見に対してもしわれわれの見解を求められるようなことがありますならば、私たちはこれに対して見解を申し述べる用意をいたしております。こういうことを申し上げる次第でございます。  以上でございます。
  8. 天野公義

    天野委員長 次に、石川参考人にお願いいたします。
  9. 石川正雄

    石川参考人 私は、日本特許協会理事長石川正雄でございます。これより、実際にわれわれこの法案によりまして活用しておる立場にありますところの企業体でございます日本特許協会を代表いたしまして意見を申し上げます。  現在のように出願滞貨が非常に累積しておりますと、したがいまして審査が遅延してまいりまして、これが慢性化しております。そうしますと、この新しい技術公開が非常におくれてまいりまして、したがいまして研究の二重投資ということを招いてきます。また一方、権利行使の時期もおくれてまいりまして、新技術企業化すなわち製品化に非常に不安を感ずるようになってまいるのでございます。したがいまして、当協会といたしましては、この問題を解決しようと思いまして、今回特許法実用新案法の一部改正が企図されましたことは非常に賛意を表するところでございます。しかしながら、この法案をつまびらかに検討いたしてみますと、滞貨処理とか審査促進の目的を達することはとてもむずかしいと考えるのでございまして、民間にいたずらに審査のロードがかかってまいりまして、発明者及び出願人、ひいては特許権者の利益を不当に害する点がいろいろ見られるのでございまして、遺憾ながら原案のまま成立することには反対せざるを得ないのでございます。  では、その原案につきまして賛成いたしかねる諸点を申し上げますと、まず公告されずに拒絶査定を受けた出願につきまして先頭としての地位を認めない、これは、八十年来日本特許法先願主義でございまして、これを破るものでございまして、非常にいろいろと支障を来たすのでございますが、そのことにつきましては省略いたします。  それから次に、補正機会を不当に制限いたしまして六カ月にいたすことでございますが、これにつきましてもいろいろ不当なことが出てまいりますが、省略させていただきます。  それからまた三番目に、却下処分を強化しまして、補正による救済の道を閉ざしたことでございます。これもいろいろございますが、簡単に申しますと、収入印紙張り違いがあった、そういうことにつきましても却下する、そういうものは非常に不当であると思うのでございます。  それから次の、新規性喪失例外規定で格別に外国人のみを優遇してしまうというところでございます。これは少しおわかりにくいかと思いますので、ちょっと御説明申し上げますと、外国特許公報に基づきまして、それを新しい文献と同じように、刊行物と同じように認めることによりまして、六カ月の猶予をもって、日本特許を提出することができるのでございますが、これは日本人でもできるはずでございますが、日本人でありながらわざわざドルを使って外国出願して、そして外国特許公報に載りました後、六カ月の間に自分の国に出すというようなことがあるので、非常にドルの節約にならない。かつそれによりましては、外国人が行なう場合におきましても、現在非常に混乱におちいり、訴訟事件におちいっている事件が二、三あるのでございます。そういうものはやめていただきたいということであります。  五番目に、拒絶理由通知に応答しないときは出願を取り下げたものとみなす。これはちょっと取り下げるという処分が非常に酷なのでございまして、そういう処分にはしてもらいたくない。  次に、みずからの先願によりまして本人の後願が排除される。これは少し御説明申し上げないといけないかと思いますが、自分でたとえば新しい化合物を見つけまして、その特許を出した場合に、医薬品にもなるし殺虫剤にもなると書いた場合に、殺虫剤用途特許は取れますから、新たに自分あとから殺虫剤特許を出した場合に、前の自分の製法の特許殺虫剤と書いてあったからだめではないかと言われることでございまして、それは非常に不当ではないか。自分が見つけたのでございますから、自分殺虫剤の詳しいデータを出しまして殺虫剤特許を新たに出すということについては認めていただきたいということでございます。  それから、特許から実用新案への出願の変更、とれを認めないということは不当であるということでございます。  最後に、実用新案法はごらんのとおり無審査登録に非常に近いものになっております。そういうものは保護を厚くすると非常に弊害がございます。たとえば、そこの八の一にありますような、先に特許出願しておりましても、それが認められないうちにそれと同じような実用新案登録に簡単になりますが、なった場合に、先に出しました特許権者無効審判をかけましたときに、あとから出しましたところの実用新案権者がすでに実施しておりますと、無効審判で勝ったといたしましても、先願特許権がその実用新案権者に残るということでございまして、非常に特許権者にとっては不当なことになると思うのでございます。  次に、権利行使に際しまして効力確認審判を経ることにしていないという点でございます。これは、実は裁判所において必ずそういうふうに確認審判を経ることにしていただければよろしいのでございますが、「命ずることができる。」と書いてあるので、非常に弱いということでございます。  それから、実用新案法存続期間が八年になっておりますが、八年では非常に長過ぎるのでございまして、われわれは五年ぐらいを限度としておるのでございます。現にドイツにおきましても三年でありますし、それからイタリアにおきましても四年でございます。八年とは少し長いのではないかということでございます。  以上のようなことにつきまして、添付資料にございますように、われわれはいろいろと要望をしておるのでございます。修正方を願っておる次第でございます。  そもそも工業所有権という制度は、これは実は国際的に考えるべきでございます。  世界状態を見てみますと、審査の行なわれております国におきましては、すべて審査がおくれまして、企業にマッチいたさないのでございます。したがいまして、各国みな改正法考えておるのでございます。たとえばアメリカにおきましても、昨年大統領法で新しく法律改正いたすことになり、これはこの秋に法案が出るそうでございますが、西ドイツにおきましては昨年五月に法案が出まして、目下検討中でございます。一番早く手をつげましたのがオランダでございまして、オランダは一九六三年に法律改正いたしまして、一九六四年の一月一日から施行しておるのでございます。大筋を申しますと、特許出願しまして十八カ月たちましてからその内容公開いたします。そうしまして、審査を希望するものだけを新規性審査をいたすようになっております。これをわれわれは——われわれだけでなくて世界もみなそうでございますが、オランダ方式と呼んでおります。こういうオランダ方式によりました法案がEECの特許法案でございます。それからまたスカンジナビアの特許法案もそうなんでございます。それから現在ドイツ特許改正法案公開になっておるのでございます。  こういうような趨勢にありますのに、今回のこの改正法案は、特許につきましては、工業所有権制度改正審議会答申にも一年六カ月の後に公開するというようなことがあったにもかかわらず、これを採用いたさなかったのでございまして、ただ手続簡略化出願人の犠牲のもとに審査促進をはかろうとしておるのでございます。また一方、実用新案につきましては、この早期公開をあやまって導入いたしまして、審査主義を放てきするかのような大改正を行なっておるのでございます。そのために、特許には公開せず実用新案にのみ公開するというように、特許実用新案との間の均衡を破っておるのでございまして、したがって非常な矛盾が生じてまいったのでございます。当協会といたしましては、実は昔から実用新案は廃したほうがいいのではないかという考えを持っておるのでございます。  今回の改正法律案をすみやかに、成立するというお考えならば、われわれが添付書類に示しましたような要望事項をいれて修正願いたいのでございますが、世界各国におきましては、もうすでに次々と新しく法律改正になっておりますし、また次々に効果も示しておるのでございますから、われわれといたしましては、事ここに至りましたら、継続審査にするよりも、むしろ審議未了にいたしまして、廃案にしていただきたいと思うのでございます。  廃案になりますと、今度は滞貨がますますふえてまいります。そういう滞貨を一掃しまして審査促進することは、われわれ企業家にとっては非常に必要なことでございまして、ぜひそうしていただきたいのでございます。でありますから、この特許制度を実際に活用している立場にありますところの各界の人々の意見を十分にお聞きになって、そして現状にマッチしました特許制度改正していただくように希望する次第でございます。
  10. 天野公義

    天野委員長 次に、大條参考人にお願いいたします。
  11. 大條正義

    ○大條参考人 ただいま御紹介にあずかりました特許制度擁護連盟の大條でございます。本日ここに連盟を代表いたしまして意見を述べさしていただく機会を与えていただいたことは、まことに感謝にたえぬところでございます。  一言お断わり申し上げておかなければなりませんが、参考人の陳述の要旨が、まだお手元に何かの手違いで届いていないようでございます。後ほどお届けすることにいたします。  まず、特許庁滞貨というものについて申し上げたいと存じます。特許庁では、特許実用新案の未処理滞貨が四十六万件にも達するといわれ、改正案を正当化する根拠にしておられるわけでございますが、これを滞貨というふうに言うのは、事態の実際の判断を誤らせるものではないかと考えます。この数字は、本日出願したばかりのもの、または審査済みで登録待ちというようなものも全部含むからであります。このような正常なる在庫数と考えられるものを除きまして、一年半とか二年とか以上審査に未着手のもの、これが滞貨と称すべきものでございますが、このような正味の滞貨は約二十万件でございまして、現在の審査官処理能力をもってすれば、一年数カ月分にしかあたらないわけでございます。したがって、さして驚くような数字ではございません。しかもこの滞貨は急に発生したようなものではございませんので、この滞貨というものが顕著になってまいりました昭和三十一年ごろから約十年間の審査官の定員と実員の差というものが延べで約千名に達するわけでございますが、つまり年間百名の実員の差がございます。そのような実員の差を補充しないで放置したというために起こった当然の結果だと思います。かりに審査官一名が二百五十件ずつ年間に処理するといたしまして、千名の十年間ということは、二十五万件に相当いたすわけでございまして、二十万件の滞貨というものは、起こるべくして起こったということを申すことができると思います。  特許庁では、このような滞貨は、技術革新による出願の高度化とか、出願人側の補正が多いとか、事前調査をしないとか、印紙をはらないとか、非協力とか、そういうこと、それから現行法の不備欠点によるとか、いろいろもっともらしいことを滞貨の原因としてあげておられますけれども、これも一部真理とは存じますが、最も重大なる審査官の実員をどうしたかということが一番の問題ではないかということでございます。  次に、改正法案の欠陥、それから修正ができるのかできないのかという点について申し上げたいと思います。  今回の特許法実用新案法改正の時期とか内容については、改正案が幾多の欠陥を持っておりますけれども、そういうことについては、ほかの法律家の団体のほうに譲りたいと思います。われわれ発明五団体の連合体でございます連盟といたしましては、ただ次の点だけを強く指摘したいわけでございます。すなわちこの法案が、実用新案の無審査公開、それから特許から実用新案への出願変更の禁止、効力確認審判権利期間の短縮などのいろいろの措置によりまして、小発明の保護に著しい打撃を与えるとともに、利用者であるところの国民側に過重の負担をしいたという点でございます。これによって起こることは、当然のことながら、模倣の横行、係争の増大、業界が混乱するというようなことなどでございまして、しかも特許実用新案の二重出願でもやらないことには、十分に保護の目的が達せられないということになりますので、二重出願のようなことでますます滞貨が増加するということに拍車を加えるものと思われるのでございます。そしてそのような適切な保護が小発明に対して得られないとわかったときには、特に青少年層とか中小企業者層の発明意欲というものは当然減退するわけでございます。結局、この法案は、特許法の第一条に明らかに記載されておりますところの「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする。」実用新案法はただ発明と考案の字句が変わっておるというだけでありまして、結局、発明、考案の奨励というのが特許制度の大義名分になっておるわけでございますが、あるいはその審査促進がかりに行なわれるとしても、このような大義名分に反するというような改正は、はなはだよくないというふうに考えるものでございます。  さて、それでは適当に修正をして、この法案は妥協的に持っていけばいいのではないかという御意見も、おそらくあるのではないかと思いますが、そのようなことで各方面をある程度満足させることができるかということでございます。しかしながら、われわれの考えるところ、それはとうてい無理だというふうに考えます。なぜならば、この改正案は、根本におきまして、発明と考案、これは技術、思想の創作というふうに規定されておるわけでございます。つまり同一の概念のものでございます。その片方には審査主義という皮ぐつをはかせており、片方には無審査公開というはだし同然の姿に対して、両足をそろえてうまく歩かせようという調整をすることになるわけでございますから、この調整ということは極度に困難で、少々の時日をもってしてはおそらくできないであろう。字句の修正はできるでしょうけれども、このような根本的なことに対する調整は不能であるということでございます。  したがって、たとえば次のようなことでございます。各界の最低の要請でありますとろの修正意見として、特許から実用新案への出願変更を可能にしてもらいたいという意見は、どのような賛成の団体についても当然あるわけでございますが、とのような出願変更の可能な修正ができるかといいますと、これは特許庁の御意見のほうが正しいようで、おそらくそのような修正はできないであろう。それは形式上はできるかもわかりませんが、つまり公開までの期間が実用新案出願においては六カ月ということになっておりますが、六カ月でなくとも、少なくとも非常に短くするということでございます。しかし特許のほうは、かりに出願されて審査が終わる、拒絶される、そこで実用新案出願変更しようということで変更いたしまして、これが公報にあがる、公開されるという時期には、場合によれば三年半も四年もかかるかもわかりません。片方は六カ月、片方は数年というような、同じ実用新案がそのような違う扱いを受けるということになりますので、その均衡という点でさっそくそのような修正は行き詰まるはずでございます。  さて次には、それでは滞貨の解消、それから特許事務処理促進ということは一体できないのか、このような改正をしないで一体できるのかということでございますが、これは当然にできるわけでございます。先ほども述べましたように、正味の滞貨審査の遅延というものは、結局は特許庁の不作為の結果生じた法律以前の問題でございます。特許制度はいまや重病の床にあるということはいえるかもしれませんけれども、幸いまだ危篤状態というまでには立ち至っておりません。そこでまず必要なることは、病気の直接の原因を除去することでございます。これはつまり審査官の実員を充実するということでございます。もちろん、これに見合う事務職員の充実をはじめとして、他の施策を並行して実行しなければならないわけでございます。そして、そのためには国会それから政府が・日本の経済成長において占めますところの特許制度の比重を再認識されますとともに、小さいくふうといえども、そこに知的創作が存在する以上、あくまでもこれを尊重するという国民の気風を樹立することが肝要でございます。先進国と日本は肩を並べたいといいながら、この点におきましてはまことにお恥ずかしい次第でございまして、国民が模倣性が強いということはいまでも一向に変わらないと言われております。  特許事務の処理促進の具体的施策はいろいろございますが、いずれお手元に付属書類も差し上げることになると思いますけれども、応急的なものも恒久的なものもたくさんございます。時間の関係であとで見ていただきますけれども、「特許事務改善方策」というものをお届けするわけでございます。これらの施策のうちで、特に特許審査公団、特許行政刷新委員会技術交流委員会というようなものを設置していただきたいということ、特に実用新案については、機械検索組織を拙速でもいいから樹立していただきたいというようなこと、それから大学に審査官などの養成機関を設けるというようなことがとりわけ重要でございまして、これらのすみやかな検討を望む次第でございます。  特許審査公団について簡単に申しますと、特許行政の行政処分というものをこれは特許庁が行ない、審査という実務はこの行政処分の機構と分離いたしまして、その審査の委託を受けてそれを答申するという機関でございます。内容については、時間がかかりますので省略させていただきます。  また、国会におかれましては、今後この特許制度はますます重要性が増加し、かつ国際化していくわけでございますから、これに対応いたしまして、最近商工委員会の中に小委員会ができましたことはたいへんうれしく存じておる次第でございますけれども、それのみにとどまらず、たとえて言えば仮称工業所有権制度特別委員会というような組織を、これは国会法四十五条でございましたかによりまして設置をされて——現在ほとんど工業所有権政策というものはもう皆無でございます。場当たりの政策をとっておるというようなことで、たとえて言えば、それでは特許というものは少数者に広い権利を与えるのがしかるべきか、あるいは多数者に狭い権利を認めるのがいいのかというような政策につきましても、全くその学説すらないというような状況でございまして、こういうようなことは政策でいくよりしかたがない。日本の国の状況、諸外国との関係におきまして、こういうことを十分審議していただく機関といたしましては、やはり国会にこのような委員会を正式に認めていただいて、審議に当たっていただきたいものというふうに存じております。  なお、出願処理の遅延が最大であるようにいまは宣伝されておりますけれども、このことは重要なことではございますが、現在はむしろ審査の質の低下ということが重大な問題でございまして、そのために、国内ばかりでなく、現に国際的にも信用を失いつつございます。  このようなことでございまして、これを結論として申し上げますと、特許庁滞貨というものは行政不作為による当然の結果でございますけれども、正味数量はそれほど驚くにあたらない、いまのうちならば行政措置によって解消できるということでございます。  それから、改正法案は根本的に欠陥があって修正が不能であるばかりでございませんで、提案の理由でありますところの出願処理促進というものについては、幾多の方策がございますから、この法案廃案としていただきたく存ずる次第でございます。  これらの方策のうちで、特に審査公団をはじめとするいろいろの組織につきましては、行政能率の改善上すみやかに検討され、かつ実現化されることを望む次第でございます。  それから、特許制度改正は、この改正にわれわれいかにも反対しているように聞こえてもおりますけれども、改正自体には決して反対しているものではございません。発明奨励の強化ということによる国民福祉の増強というような見地から、現在のように審査の遅滞など、こういうストレスのかかってない状態におきまして別途企図し、公明に、慎重に審議していただきたいと存ずる次第でございます。  御清聴を感謝いたします。
  12. 天野公義

    天野委員長 次に、奥山参考人にお願いいたします。
  13. 奥山恵吉

    奥山参考人 私は、弁理士会会長奥山恵吉でございます。  今般、特許法及び実用新案法の一部改正案が国会で審議せられるにあたって、参考人としてこの委員会において弁理士会の所信を述べる機会を与えていただきましたことにつきまして、深く感謝いたします。  いままで弁理士会は二回の請願書を国会に対して提出しております。その趣旨はともに同じような趣旨でございますが、第二回目の趣旨をここにもう一回読ませていただきます。「第五十一回国会に上程されている特許法実用新案法の一部を改正する法律案は、審議未熟であって、法的欠陥が多く、万一これが施行されるときは、特許行政に大混乱を招くおそれがあると考えられるので、国会は右法律案の成立をさけ、更に慎重に審議されることを要望する」そういう趣旨でございました。いまでもその所信には少しも変わりございません。  今日は、その趣旨に対して幾ぶん見方を変えた理由を申し上げたいと思います。  滞貨処理に対する方策といたしましては二つ考えられます。一つ制度的の処理でございまして、一つは行政による処理であると思います。  行政による方策は、十分に特許庁の拡大強化が実行し得たならば、工業所有権制度に混乱を起こすなどという副作用がなくその目的を達し得ることは明白でございます。ただ問題は、特許庁の拡大強化がどうすればできるか、その点にあるのだと思います。  一方、法律改正による方策は、ここで制度に関する一つの発明をしなければならない、そこに非常なむずかしさがございます。各国でいろいろ研究しておりますが、なかなかそのいい方法が見つからず、先ほどもお話がありましたオランダ方式もございますが、それもいい結果を必ずしも出していないのでございます。  でありますから、滞貨処理についてだけ考えますと、行政の強化によって滞貨処理するということを主として、そうして法制の改正によって処理するということはむしろ従とするほうが本筋でありまして、その逆である、法制を変えてしまって、そうして行政のほうの強化は従とする、そういう考え方は根本的に間違いであると思います。今回の改正案はそういう危険を明白に示しているのであります。  次に、行政的の処理についてどうしたらいいか、それを申し上げます。その前に、特許庁の現状を見なければなりません。  特許庁審査官審判官の絶対数がまず足りないということ。諸官庁中でも特に書類の出入が著しく多い特許庁としては、審査官一名に対する事務職員が不足して不均衡を起こしていること。特許庁の庁舎の面積が不足して、最近も審判部が移転しておりますが、そのくらいでありますから、審査官及び職員の職場の環境は至ってよくないのでございます。これでは能率があがらぬと思います。昭和三十四年国会の附帯決議では、手数料及び税金を高くして、それを全部特許庁の拡大強化に充てるべし、そういう附帯決議があったのでございますが、それが実行されておらず、歳入が歳出をいつでも上回っております。また特許庁長官の任期は一年ないし二年を常としております。このことは、いかに優秀な方々であっても、特許行政の立案及びその管理にはいろいろな困難を伴うことがよく察せられます。世界一に特許出願数及び実用新案出願数の多い日本が、この弱体の特許庁を持っていることに根本の問題があるのだと思います。  しからば、特許庁の強化ができるかできないかの問題でございます。いままで特許庁は非常に苦心されまして、その拡大強化をはかっておられました。しかし、特許庁自身がやられる程度には限度がございます。これは国会及び政府首脳部が特許制度をもっと尊重して、そうして特許庁の拡大強化に十分な力を尽くしてくださる、それが根本であると思います。たとえば国会及び政府首脳部のよい認識があったればこそ、科学技術庁にたちまちにしてできたのでございます。現在ある特許庁の拡大ぐらいのことは、それらの方々のよい認識さえあればきわめて容易である、そういうふうに感ぜられます。こういうふうにいたしますと、たとえば大蔵省は十分な予算を認めましょう。したがって現在の弱体な特許庁は強化されるでありましょう。通産省その他の職場から人員の移動も容易に起こり得ると思います。また文部省は工科大学に工業所有権制度の講座を設けることを認めて、特許制度の重要性を学生に認識させることができるでしょう。そうすれば審査官の志望者も当然ふえて、特許庁での審査官をふやすことも容易になると思います。こういうふうに考えてまいりますと、特許庁の強化拡大は可能である、そういうふうに考えられます。  一方、法律改正による滞貨処理方策について申し述べたいと思います。先ほど申し上げましたように、法律改正による滞貨処理方策は、非常な危険を伴う場合がございます。それは、先ほど申し上げました制度についてのよい発明ができたらいいのでございますが、なかなかそれがむずかしくて、もし間違うと、滞貨処理どころでなく、大混乱を起こすおそれがございます。たとえば、現行の昭和三十五年法改正審議会で六年間を費やしております。そうして法文の条文をつくるために二年間を費やしています。そういうふうに慎重にやって、その間各界の意見を十分に入れてつくられております。そのために混乱の危険はのがれてきたのであります。今回の法案を拝見いたしますと、その成立において十分に各界の意見を聞かなかった点、及び慎重さを欠いたのではないかという点、それを感ぜられます。  もともと特許制度そのものは、根本に考えますと、政府が一カ所で一定の基準で審査して、権利に権威を持たせて世に出すこと、これが基本形だと思います。無審査公開による民間審査制度一つの略体でありまして、両方を次に比べてみます。政府が一カ所で一定基準のもとに審査してこそ、権威が生まれ、かつ公平が期待されるのでありまして、無審査公開による民間審査によると、第一に権威がなく、第二に公平を欠きます。すなわち、強力な特許部を持つ大企業と、弱体な特許部を持つ中小企業と、特許部を全然持たない中小企業及び個人との問には、非常な開きを生じて、公平を欠きます。また、審査制度における百人の審査官審査能力あるいは調査能力は、民間に審査を移した場合には分散されるものですから、民間人の数千人の調査及び審査に匹敵する能力を持つものであります。国としての人的経済から見て問題にならないほど、審査公開制度のほうが無審査公開制度よりはすぐれております。たとえばオランダ方式のように、重複する研究が生ずることを避けて、まず公開し、次に出願人の請求によって審査をする、そういう方式をとってさえも、国家はその請求人によって十分審査してそうして出している、これが原則であります。その点において、今回の実用新案改正案は欠陥を持っておると思います。ことに審査方式をとっている特許制度と、無審査方式あるいはきわめて簡略な方式をとっている実用新案法との併設は、ますます混乱を起こすもとでございます。でありますから、特許法どこまで改正していいかという限度は、やはり政府が審査するというそれに基本を置く、それが限度だと思います。  それでは、いま特許法をあらためて改正するための時間的余裕があるかどうか、それを考えてみます。特許庁の統計によりますと、四十年度における特許願いと実用新案願いとの合計未処理件数は約四十六万件ございます。ところが、これは未処理件数であって、その数の中には、昨日出願した分も入っております。それから審査官が公告決定を一ぺん決定して、審査官の手を離れた、そういう事件も入っているのでございます。それとまた、外国から出てくる優先権主張の出願との先後願の関係から、一カ年半は完全に放置しておくほかはない。ですから、約一年半は放置して、保留されてあります。それらを引きますと、実際には、それは四十年度の統計でございますが、約十八万件になるわけでございます。もし毎年の増加率を七%とみなし、それから毎年九十人の審査官をふやすとなれば、その予想をとってみますと、だんだんに未処理件数が減る傾向を示しております。弁理士会ではこの傾向をどういうふうに見るか、それを考えてみますと、弁理士会は、審査官の増加だけで未処理件数処理考えているものではございません。やはり法制の改正、これは必要と思います。ただ、この未処理件数がだんだん減っていくという事実は、ここで腰を据えて、ゆっくりと、ほんとう日本に適した制度考える余裕がある、そういうことを示すものだ、そういうふうに受け取っております。  そこで、弁理士会といたしましての要望をさしていただきます。  要望の第一点は、特許庁の拡大強化の必要性を、国会及び政府首脳部に認識していただきたいこと、これが重要な第一点でございます。  第二点は、本改正案にはあまりにも欠点が多く、特に実用新案改正法案は、国会上程中にこれに改正を加えることが不可能ではないかと思われるほど根本的の問題を含んでおります。したがいまして、この改正案廃案としていただきたいのでございます。  第三点、今回の改正案が世の中に知られましてから、急に出願がふえております。このことは、なるたけこの改正案を早く廃案としていただきたいのでございます。これを続けると混乱を起こすからでございます。  第四点、その上、直ちに工業所有権制度改正審議会を開いて、期限を限って、新改正案の案出に努力され得るように、そういうふうにしていただきたい。それが弁理士会要望第四点でございます。  弁理士会要望第五点は、この法案廃案とされた場合には、国会の工業所有権制度小委員会、これは常設的にしていただきたいのでございます。特許行政の実情をもこれによって見守られて、その上、国会が特許庁の拡大強化に強力な支援をしていただきたい、これが弁理士会の要望第五点でございます。  弁理士会の覚悟を次に申し上げます。  弁理士会及び各会員は、滞貨処理に対する責任を大きく感じております。したがって、弁理士会及び各会員は、弁理士としての職務の精励によって、特許庁に対して、滞貨処理に極力協力する覚悟でございます。特に、この改正法案の不成立を要望している状況から申しまして、その責任は一そう重大であることを感ずるものでございます。したがって、もし工業所有権制度改正審議会が再出発されるということにでもなれば、弁理士会は、その審議会に対して、各界に十分納得していただき得る案を、全力をあげて立案し、これを同審議会に送り込んで、弁理士会の責任を果たす覚悟でございます。  どうもありがとうございました。
  14. 天野公義

    天野委員長 次に、松本参考人にお願いいたします。
  15. 松本重敏

    松本参考人 私は、日本弁護士連合会工業所有権制度改正委員会の副委員長をつとめております松本重敏でございます。  日本弁護士連合会の工業所有権制度改正委員会というものは、日本弁護士連合会の中で、昭和三十八年、政府の審議会が設けられたのと時期を同じくして、全国の弁護士の中から、特に特許法律に関しましての事務を取り扱っているたんのうな弁護士を、理事会の議を経て選任いたしまして、そうして意見をまとめてまいりました。その意見は、すでに五回にわたりまして公表しております。全体理事会の議を経て公表しておりますので、皆さまのお手元にも配付されておると思いますので、それは後日、もしごらんなき方は、十分ごらんおきをいただきたいと思います。  そこで、私のこれから申し上げます意見は、私個人の意見ではなくて、日本弁護士連合会を代弁するものでございますので、その意味でお聞き取りいただきたいと思います。私のこれから申し上げます内容につきましての要旨を、お手元に、ごく簡単に項目だけ書いて配付してございますので、これもお手元にお取りいただきながら、お読みいただきたいと思います。  ここにありますように、日本弁護士連合会の意見は、本法案に対して反対でございます。以下、この反対の理由、並びにこれからの将来の要望、これを三つに分けて申し上げたいと思います。  第一は、日本弁護士連合会が持つ工業所有権制度というものに対する基本的態度を、第一点として申し上げます。第二点に、本継続中の法案内容についての基本的な批判を第二にいたします。第三に、時間の許す限り、弁護士連合会としての、将来の特許行政、特許法の問題についての要望を申し上げたいと思います。  まず、第一に、日本弁護士連合会の持つ基本的態度でございますが、工業所有権制度というものが持つ法律的な性質について、政府はあまりにも無理解であるという点をひとつ十分にお聞き取りいただきたいと思います。と申しますのは、御存じのように、特許とか実用新案というものは、一定の発明なり考案なり、法律で定められた要件があるものは当然登録され、登録されたものは独占的排他権を保証されるのであります。これは、その運用が非常に公正にされなければ、工業所有権というもの、そもそもが国家の産業技術の発展のために存する制度が、運用が間違った場合には、これは産業の発展を阻害する制度になるという要因をはらんでおります。いかに発明とか考案というものの保護の制度がむずかしいか、これは考えてみれば考えるほど、法律制度の中で一番むずかしいものでございます。では、それを貫く基本のものは何かといえば、その権利の公正さというものを担保する法理論、そしてその制度全体を貫く調和、これを欠いては日本工業所有権制度というものが、産業の発展に貢献する制度としての本来の性格がなくなってしまうのです。そういう点が、まず弁護士連合会としては、その政府案に対して根本的な批判を持つ理由でございます。  そこで、私のほうといたしましては、そういう立場から見ますと、一体日本工業所有権制度というものはどういう沿革をたどってきたか。これは法案の提案理由を見ましても、ドイツとかアメリカとかいうものが、改正されあるいは改正しつつあるから、わが国も改正しろ、これは非常な誤りでございます。一体、日本工業所有権制度というものは、昭和三十五年の四月一日に改正されたばかりでございます。しかも、この改正の場合に、国会の衆参両院の附帯決議までついておる。それからまだ五年もたっていない。その改正のときの方向というものと現在のこの法案内容というものは、全く逆方向でございます。これは、政府の工業所有権というものに対する無定見だと、私ははっきり申し上げたい。三十五年の法律では、それでは大正十年法のどこを改正したか、特許実用新案というものの関係だけについて申し上げますと、大正十年から日本で四十年間もなれ親しんできた特許実用新案というものの間には、はっきりした区別があった。そうして、ただ特許から実用新案のほうへだけの出願変更だけを認めておった。それを昭和三十五年四月一日の改正では、大幅に発明に実用新案を近づけたわけです。そうして特許実用新案との間に交互に変更できることを認めたばかりでなくて、意匠権との問にも、三者それぞれに交流できるような改正をした。この改正がようやく緒についてきてまだ五年もたたないうちに、いまの改正法案は、実用新案特許出願変更を絶対に認めない制度、この一つを見ても、いかに政府の提案する理由というものと法案内容というものが日本の現状にマッチしていないか、これは十分ひとつ御検討いただきたいと思います。  それから、いまのこういう特許とか実用新案というものは、五年、十年、十五年という長期間に限って一定の権利を保証するわけですけれども、これが三十五年法施行後、まだ大正十年法の権利というものがたくさんあるわけです。これは旧法による権利として、現在でも裁判上ほとんどむしろそのほうが多いわけです。それがここでまた改正になりますと、三つの権利が併存するわけです。その出生時によって権利能力の異なる特許とか実用新案というものが、世の中にあらわれるわけです。このことだけ考えても、制度改正は慎重にしなくちゃいかぬ。そういう認識がないのです。そういう点で、私のほうでは、まず時期尚早だということをはっきり申し上げたい。せっかく衆参両院であれだけの附帯決議をしていただきながら、それだけの努力をしているかどうか。滞貨といえばすぐ件数で言いますけれども、件数の内容は一体何か。滞貨になった原因の一つに、三十五年法による、改正をしたということによる滞貨というものが、私は原因の一つになっていると思う。とすれば、そういうものの運用をもう少し見守って、そうして解決をしていくべきではないかと思う。  その次に、先ほどもどなたか申し上げましたけれども、国際的に見ても、現在絶対に改正すべき時期ではございません。もう少し——これは各国ともと申しますけれども、ドイツの場合はEECという統一特許法の問題があるし、アメリカではまだ現実にどういう方向にいくかきまっておりません。日本特許制度というものは、もともと特許実用新案と二本立てだということだけでも、国際的には一応特殊な形になっておる。その上に、実用新案だけ大幅に権利とそれからその付与手続も非常に複雑に変えておる。これはますます国際的に日本特許がわからなくなるのじゃないか。日本人でもわからなくなってしまう。こういう複雑な制度にするということ自体が、やはり将来の紛糾を生むし、法律的にも疑義を多くするし、したがってまた出願人の不公平さというものを招来してくる。これはぜひ御検討いただきたい。そういう点から見て、私のほうといたしましては、時期尚早だということをはっきり申し上げたい。そういう前提のもとに、現在の法案内容を、時間もございませんので、私のほうで取り上げることだけ二、三ピックアップして御指摘申し上げたい。  まず、特許実用新案というものの関係があいまいなんです。これは発明といい考案といって、両方分けているようですけれども、対象によっては実用新案のほうがむしろ広いという面もある。そういうふうに、特許なのかこれは考案なのかわからない状態はそのままにしておいて、それには何も手をつけないでおいて、大正十年のときにははっきり分かれていたものを、三十五年法でもってほとんど両方を一緒にしておいて、そうして一番基本の問題には手を触れないでおいたままにしておいて、手続だけ片方は大幅に簡易審査、しかもこれは出願変更なし、これでは国民がどちらに出願していいか、判断をとる基準がない。基準がないということはどうするかというと、これは両方出しておくほかないわけです。ということは、この制度改正のための審査促進滞貨を減らさせるというための法案が、逆に出願の件数の増大を招くということは明らかでございます。現に、いまもどなたか御指摘がありましたように、法改正の問題に関連して、実用新案のほうだけ出願件数の比率が多くなっております。これは、実施された場合にどうかということを暗示する数字ではないかと私は思う。それから今度は、実用新案の中で簡易審査をとるのはいいじゃないか、これはそのことだけを伺えば、それはもっともだということでよろしいのですけれども、一体、それじゃその簡易審査内容は何かということを見てみますと、大きく申し上げますと、実用新案改正の基準は、公開制度というものと、効力確認審判を設けた、この二つでございます。  そこで、私が二つだけ御指摘申し上げたいのは、まず公開制度というものですけれども、これは、公開されまして、異議申し立てがあれば審査をする、その上で登録する、異議申し立てがなければ、形式審査だけで登録する。そうすると、登録されたあとでは、同じように両方とも効力確認審判手続が要請されるわけです。ということは、制度的に考えてみて、異議申し立ての手続を経て登録されたものと、経ないで登録されたものとの間に何らの区別がないわけです。これは制度としてはちょっとおかしいと私は思う。全然なくて登録されるなら、そういうふうに両方を公正に扱うべきだし、異議申し立てというものを経てきたならば、それはそれなりに何かのものがなければならぬ。ところが、現在の制度では、それじゃ異議申し立て制度があるんだから、それはそれだけ充実させたものに考えればいいかというと、決してそうではない。異議申し立てといいながら、これは非常に簡略なものしか審査しないというたてまえになっておる。これはやっぱり制度が、ちょっと思いつき的なものがあるのじゃないか。私が最初に申し上げたように、一貫した法の理論と全体を貫く調和というものに対する認識がないから、こういうことになる。今度は効力確認審判という、これを、今度の実用新案が将来施行された場合に、権利行使が乱用されないようにチェックする一つのポイントとして設けられた。これは国会に対する提案理由にもありますけれども、効力無効原因がないことの確認を求める審判、こうなっておる。無効審判というものは従来どおりあるわけです。これは無効理由がないこと、ですから、要するにその無効理由がある審判内容とは同じことをやるわけです。それですから、この無効審判というものと効力確認審判が一体どういう関係にあるのか。そうして片方見ますと、効力確認審判というものは、訴訟でも出すとか、そういう侵害が起きなければ、これは求められないという制限がある。片方無効審判はいつでも求められる。そういうふうに、請求手続も違う。それから効力確認審判というものは、それじゃ一体当事者間でやる審判なのかどうかというような点についてもわからない。こういうふうに、効力確認審判自体の内容が非常にわからないと同時に、裁判との関係が非常に不明確である。こういう制度を置くということは、これは出願滞貨を減らす、そのこと自体は悪いことではございません。もちろんしてもらわなければいけないことですけれども、そのあげくに、登録されたあとから何にもならない権利じゃ何もならない。効力確認審判が何カ年かの間に必ずしも進められるという保証はないわけですから、たとえば、実用新案登録される、今度は期間八年である、そのうちに侵害者があらわれた、さて訴訟を出す、それから効力確認審判だ、効力確認審判は高等裁判所にいく、その結果が確定するまでは訴訟は進められない。効力確認審判できまった、いいことになる。今度無効審判のほうがまだある。これは二つあるわけです。さあその場合に、裁判所が出す効力確認審判でいいといったからやっていいか。そうすると、審判手続中には、必要があるときには中止することができるという規定があるわけです。そっちのほうでまた裁判がとめられるかもしれない。時間切れになることはむしろ普通の状態ではないか、ということになると、実用新案に差しとめ請求権を与えたということになっておりますけれども、実情としては、差しとめ請求権が実際に行使されることはない。これはなしくずしの立法だと私は考えるのです。だから、ないならないということなら、まだ国民はわかりますけれども、一応差しとめ請求権があるというつもりでの権利、実際には、これは役に立たない。こういう制度は立法の段階でもう少し検討しなければならない。そういう点で、これは法理論並びに運用上、私は大いに考えていただきたいと思います。これは特許のほうに関連いたしましても、特許の差しとめ請求権、仮保護の場合の差しとめ請求権の問題、これは弁護士連合会の意見書にもありますので、きょうは省略いたしますけれども、内容的に、私のほうではっきり法の欠陥だということを指摘したい問題があるわけです。  そこで、こういうものに対して、最後に、弁護士連合会としての要望を取りまとめて申し上げたいと思います。まずこの法案の審議並びに上程に至る経過が不明朗だ。これは私自身、日本弁護士連合会の委員のほかに、政府の審議会の専門委員もやっておりました。そして、三十八年以来ずっと審議会に列席し、発言の機会を与えられ、自分で直接タッチしてまいりましたので、そういう点からも、ぜひこの際、私一言申し上げたいのは、この工業所有権制度というものは、要するに民間のそういう協力がなければ、制度だけではうまくいくはずがないのです。にもかかわらず、この工業所有権というものをあまりにも経済立法的な評価で考え過ぎている。それは公定歩合を一分上げる下げるということとはおのずから違うわけです。悪ければ改めるということではないのです。やはり改正する前に十分意見を聞くべきです。そうして、政府の提案理由、並びに解説を見ますと、常に、審議会で三年近くにわたって審議してきたということをうたい文句にしておられます。この内容を申し上げますと、審議会を開いたのは大体五十回くらい、しかし、その内容はどうかと申しますと、これは商工委員会のこちらの調査室でまとめられた要点及び問題点の中にございますけれども、その場合、三十八回は小委員会、小委員会が終わってから、わずか総合部会は一回——私は総合部会しか出られません。総合部会一回、総会は二回、これで答申を採決してしまったわけです。小委員会の構成は、ほとんど特許庁関係者、これはたいへん御苦労で、もちろんそのことについてはたいへん敬意を表するわけですけれども、それなればこそ、小委員会答申がきまったら、その小委員会案について、なぜもう少し慎重に審議会にはかってくれなかったか。これは今後のこともありますので、十分その点をひとつお考えいただきたい。  それから、今度は、答申から法案に移る経過ですけれども、これがまたすこぶる私は不可解です。弁護士連合会などは、答申が出てから何も知らされていない。閣議を経まして、国会に入ってから、ほんとうに初めて法案を見せられた。見ましたら、答申にないことだらけだ。ですから、この政府のほうの説明を見ますと、国会に上程されてから反対運動が始まったといいますけれども、前に反対するチャンスがないのです、知らないのですから。これはひとつ、今後のこともございますので、十分常に民間の意見を——私たちは反対のために反対しておるわけじゃない、国家のために憂慮して申し上げておることだから、これはひとつ今後十分意見を聞く機会を与えていただきたい。これは特に申し上げたい。  その次に、最後に一つ申し上げたいことは、なぜそれでは、三十五年法のときにあれだけ丁重な附帯決議があるにかかわらず、特許庁ではどうして滞貨がくずれないと言っておるのかということですけれども、私はこれは内部的なことはわかりませんけれども、外部から、私のほうの委員会で、これは皆さんの意見で、つくづくみんながそう申しますことですけれども、私ももちろんそう思っておりますけれども、三十八年審議会の始まりましたときの長官から、現在の長官まですでに四代かわっております。特許庁のこういう非常の場合です、特許行政にとりまして。そういう非常の場合に、平時と同じようにかわっておる。私は、参考のために、特許庁創設以来の長官の在任期間を全部調べてみた。実に早くかわっておる。一番早い方は数カ月という人がいらっしゃいます。いままでのことはともかくとして、こういう非常の場合には、特許庁の長官の人事問題はもう少し考え直していただかなければ、いかに予算だ、何だといっても、一番上の方が次々にかわっていったのでは——だから、私申し上げたように、三十五年法の改正と今度の改正との問に全く連絡がない。こっちへ行ったのが、またこう行く。これはやはり長官の人事にも関係ないことはない。そういう意味で、これは特許行政の基本的な問題として、ひとつその人事の問題は御検討いただきたい。どうしろということまでは、私のほうはわかりません。そこまでは申し上げませんけれども、少なくとも、いままでの慣例でいいということは絶対にございませんので、その点、ひとつお含み置き願いたい。  大体、時間も経過いたしましたので、以上をもって連合会の意見陳述を終わります。
  16. 天野公義

    天野委員長 次に、武田参考人にお願いします。
  17. 武田長兵衛

    ○武田参考人 ただいま御紹介のありました武田でございます。  このたび参考人といたしまして、特許法等の改正案につきまして、意見を申し述べることになったのでありますが、特許制度におきまする現在の最大の問題は、滞貨となっております出願処理の問題であり、この滞貨処理促進をはかるために、今回の特許法改正が企てられましたことは、まことにごもっともなことだと思うのであります。しかしながら、この膨大な特許出願滞貨処理という問題は、ひとり日本だけが当面いたしておる問題ではなく、諸外国においても共通の問題をかかえておると聞いておるのであります。この滞貨処理問題の解決を法律改正のみをもって行なうとすれば、どうしても発明者あるいは出願人の方へしわ寄せが来るおそれがあると存ずるのであります。そのために、発明の保護が不十分になり、特許制度の本来の目的にも反することになりかねないと思うのであります。今回の改正法案を、発明者出願人立場から拝見いたしましても、そのねらいとされますところの滞貨処理審査促進の御意図はまことにけっこうなことであり、その趣旨に賛意を表するものではありますが、ただ、これを実現されるための方法にやや性急なものがあり、この法案がこのままの形で施行されますと、発明者特許出願人の保護に欠ける特許行政が行なわれるおそれがあると思わざるを得ないのであります。発明者側に立って考えてみますると、改正法のもとでも、なおかつ特許保護を十分に受けようとするために、この法案のねらいとされるところとは逆に、かえって多くの特許出願を出すようになり、また審査で拒絶されても、納得できないために、審判の提起や高等裁判所への訴えも増加していくのではないかと考えるのであります。現在の滞貨問題を解決するためには、発明者出願人の犠牲による特許庁の事務処理と、審査の手数を省くことを中心とする法律改正だけにたよることなく、特許行政全般に関する総合的な対策の一環としての法律改正という姿がとられることが、非常に望ましいと考えるのであります。  いろいろ、参考人の方々から、すでに御意見が出たのでありますが、本法案に関して一つの点だけ触れてみたいと考えるのであります。  それは補正の問題、第十八条の問題でございます。今回の改正案では、明細書の補正につきまして、現行法に比べまして、きびしい制限が設けられたのであります。すなわち、自発的な補正出願後六カ月以内に限られることになったのであります。審査主義をとっておりますおもな国でありますイギリス、アメリカ、ドイツの例を調べてみましても、これと比べましても、これは相当過酷な取り扱いであると聞いております。このような補正の制限の規定からどのようなことが発生するであろうか、これを産業人として考えてみますると、その一つは、補正をしますと、当然許される発明が補正もできずに拒絶されてしまうという点でありまして、そのために発明の保護奨励という観点から大きなマイナスが生じてくるということ、特に、審査で拒絶されまして審判を請求する場合におきましても、現行法と異なりまして、補正ができないということは、発明者出願人にとって耐えがたいことであろうかと考えるのであります。  その次には、第二として、補正の制限がきびしくなりますために、出願人といたしましては、発明を守るために、同一の発明について少しずつ違った明細書を書いて、二つも三つも予備的な出願をしておかなければならないことになるであろうと思うのであります。こうしたことから、出願の増加という、この法案改正の趣旨とは全く反対の傾向が生じてくるのではないかと思うのであります。  第三には、補正の制限の規定が、事実上、外国人に対しまして日本人に対するよりも有利な待遇を与えることになるという点であります。改正法案の規定では、自発的な補正を認められる期間が、日本への出願の日から六カ月となっております。したがいまして、外国人は本国に出願をしてから一年間の優先権の主張の期間内に補正を行なって、一年目に日本出願をして、さらにその日から六カ月補正できることになるのであります。すなわち一年六カ月の補正期間を持つことになるのであります。自発的な補正のできる間は、要旨変更の補正も可能でありますから、外国人はきわめて有利な立場に立つことになるのであります。日本人も、まず日本出願をしないで外国出願をいたしますと、同様の有利な扱いを受けることになるのでありますけれども、このようなことは、現実の問題としては不可能でございます。国際的に、御承知のように、技術の競争の非常に激しい現今、このような、事実上外国人に有利な結果を生じる規定は避けていただいて、日本人外国人とが平等な立場に立ち得るようにしていただきたいと考えるのであります。これは一つの例であります。この点につきましては、日本製薬団体連合会から意見書が出ておるのでありまして、よろしく御検討をお願いしたいと思うのであります。  さて、特許法改正にあたりまして、ぜひ考慮をお願い申し上げたいと存ずることを申し述べたいと思うのであります。  われわれ発明者出願人が、審査促進に協力をすべきことは当然でありますが、審査官の不足による審査の遅延の解決を、発明者出願人に著しく不利益となるような事務処理の簡易化によってはかるというようなことは、これはできるだけ避けていただきたいのであります。また、特許法技術の進歩、ひいて産業の発達をはかるということを目的とする法律であります以上、基本的な発明や先駆者的な発明には、それにふさわしい厚い保護を与えるとともに、真の改良発明に対しましては、これにもまた特許を与え、開拓的発明に与えられた特許と改良発明に与えられた特許の間には、実施権の付与ということによって技術の交流がはかられるという形が、非常に望ましい、適切な特許制度の姿であろうかと考えるのであります。このような制度の運用は、審査の質的な充実や審査基準の向上、また統一によって、ある程度まで実現していけるものと考えるのでありまして、この点十分に御配慮をわずらわしたいと思うのであります。  滞貨処理審査促進のため、何らかの立法措置が必要であるとは存じますが、これに加えて、審査官増員及びその能力と能率の向上による処理件数の増大、特に審査基準や審査の充実を通じて、いたずらな予防的な出願の必要をなからしめ、かつ模倣的な出願を防止して、その結果、技術進歩のために不必要と思われる出願の増加傾向を抑制することが、事態収拾に必要な一つの方策ではなかろうかと考えるのであります。一部の外国におきましては、出願をまず公開して、公開後に審査を行なっていくという制度が考案されているように聞いておりますが、このような諸施策を総合的に勘案された対策を立てていただきたいと思うのであります。  なお、付言をいたしますとすれば、われわれ産業人として、特許制度の全般として満足すべき目的の達成には、特許庁特許事務を代理されます弁理士の先生方だけの努力によって、特許制度の満足すべき目的が達成されるのではなくて、特許権権利行使の面で非常に重要な役割りを果たされております裁判所及び弁護士先生方の分野においても、非常に重要な問題がありますので、そういう全体をひっくるめた問題として、この問題が取り上げられていくことを希望するものでございます。  以上、私の所見を申し上げましたわけでございますが、まことにしろうと論的な不適切な点もあったかと存じますが、どうか私の意のあるところをおくみ取りを願いまして、何ぶんの御善処方をお願い申し上げる次第でございます。
  18. 天野公義

    天野委員長 次に、染野参考人にお願いいたします。
  19. 染野義信

    染野参考人 ただいま御紹介をいただきました日本大学の染野でございます。  この法案に関しまして、私の意見を以下限られた時間の範囲内で述べたいと思います。  言うまでもなく、この法案の提案の理由とするところは、特許出願あるいは実用新案出願が激増しまして、その増加が目ざましく、その結果として、出願審査が大幅におくれて、未済の事件特許庁に渋滞をし、累積をしまして、現状では、その解決の手段方法をいまや失っているということでありまして、その解決の唯一の方策がこの法案であるというわけであります。まことにそうした事態は好ましくない事柄でありまして、そうした異常事態を解決するために、政府が各種の措置採用していることについては敬意を払う次第でありまして、この法案もそうした施策の一環に属するものと考えております。確かに実用新案について無審査制を採用するといったかなり思い切った方策は、将来の方向の一つ考えられますし、研究を必要とする主要なテーマであろうと思います。  ところで、ここに提案されております特許法並びに実用新案法改正法案は、以上のような観点から見て、最も理想的な、そしてその実施によって社会的混乱が生じない、現状において考えられる唯一の方策かと申しますと、私はそうではないという見解を有するものであります。以下その理由を明らかにいたします。  周知のように、発明の保護というのは、歴史的に見ても、資本主義の発展の前提をなします技術の発展のささえであります。一国の全生産手段における技術水準の直接の発展向上を目的とするものであります。すなわち、技術自体から見ますと、技術の必然的発展の方向を開発し、そしてこれを推進するものでもあるわけであります。したがって、そうした発明の保護というのは国家の発展にとって不可欠のものでありまして、当然にその完全な保護と権利確立のための早い審査が要求されてくるわけであります。完全にして迅速な権利の確立は、特許権において最も重大な問題となってくるわけであります。  先ほど諸参考人から述べられましたように、先進諸国では無審査制度を含めた改正への方向が打ち出されているという御説明がありましたが、これらは実用新案ではなくて、特許についてであることを念のためにつけ加えておきたいと思いますが、そうした特許法改正一つ世界の潮流でありまして、そうした世界の潮流に合わせた研究が進められるべき段階にわが国も到達していると考えるわけであります。ところが、実用新案というのは、こうした一国の技術の発展、社会の進歩というものとは直接関係しないものでありまして、この制度は別の目的を持っているわけであります。すなわち、実用新案法が成立した明治三十八年以来今日まで、この法律に託されてきた主要な目的は、ある商品の特徴なり新しさについてのくふう、思いつきが、市場において他人によって容易に模倣されて、そしてそのことによって過当競争が引き起こされるのを禁止するという目的に奉仕する点にあるわけであります。市場での過当競争を防ぐという本質的使命を有していることから、これによって必然的に保護されるものは非耐久的軽消費財ということになってまいりますし、これによって過当競争から守られるものは主として中小企業ということになってくるわけであります。したがって、こうした目的を有する実用新案権が国家の厳格な審査の手を離れて成立し、その権利行使のためには、どんなよい権利も、それから模倣によって成立したかもしれない権利も、先ほど松本参考人が申されましたように、異議審査を経て厳格な審査の結果成立した権利も、そうでない権利も、一括して効力確認審判という一段階を経ないと、言うならば、本格審判を経ないと行使できないということは、結局はそうした実用新案権が機能において弱まってくること、言うならば、その実用新案権による市場の規制が薄れて、ある意味では放任状態に近づくということを意味するわけであります。過当競争の防塞を取り除くという方向に踏み出してよいという日本経済の強靱性を、わが国中小企業が全体としていまや保持するに至っていると言ってよいでありましょうか。これが本法案の根底の問題であります。  ところが、こうした私の憂慮に対して次の反論が想定されます。第一は、理屈はともかくとして、審査が渋滞し、未審査事件がたまりにたまっていまや破局寸前にある、これを解決するととこそ重要である。これが第一点。第二は、本法案は、実用新案権というものをなくするものではなくて、無審査公開し、異議を広く天下に求めて、これを聞いて登録した権利を与えるものであるから、その権利を持つことによって過当競争から防衛できる。むしろ本法案のほうがより過当競争の防止に役立つ。第三に、純粋に手続的な面から見ても、改良が施されて、早い、よい結果が期待できる。以上が本法案をめぐって私の見解に対して予定される反論でありますが、しかし、これは全く理論的根拠に乏しい見解だと考えるわけであります。  まず第一点の、事件がたまりにたまって破局寸前にあるという見解は、次の意味でナンセンスであります。もちろん早い審査にこしたことはない。ただ、早くするために権利の機能を弱めてしまうということまで事のついでにはかってしまう。というのは、結局早くするという政策の要求によって制度の本質をすら変えてしまうという点に問題があるわけであります。声を大きくして叫ばれている、いまや破局寸前にあるということは、三年半も審査時間がかかり、そうしてこのために過当競争が激発し、いまやわが国市場は混乱状態にある、この過当競争をなくするためには権利は弱めてもよい、何でもよい、早く結末だけつければよいという声が日に日に高まりつつあるというのでありましょうか。もし、そうでないとすれば、実用新案は三年審査でも十分に過当競争抑止の機能を果たしておるのでありますし、むしろこの危機意識は立案当局の観念の産物ではないかという推測さえ生ずる可能性があるわけであります。こうした危機意識の観点から権利の本質に変更を加えることは問題であると考えるわけであります。  次に、第二点として、本法案は、出願公開後、したがって考案の内容公開された後に、異議を天下に求めて、これに審査を集中して登録するのだから、過当競争を早く解消せしめる利点ありという見解について見ますと、これはそうなってほしいという願いと望みによってささえられているにすぎないと考えるわけであります。つまり、同一のくふう、思いつきがあれば、それが秘密であろうが、あるいはもうすでに公知になってしまっておろうが、ときには、他人の特許実用新案とそっくり同じものについても、出願があればまず出願公告となり、これを実施する権利が発生するということに問題があるわけであります。他人の権利を侵害している者も、その侵害しているやり方について出願をしておきますと、これについても例外なしに出願公告となり、実施する権利が発生するわけであります。これでは過当競争を防ぐという実用新案権の本来の機能はすっかり失われてしまっているということが言えるわけであります。そのような不都合な出願があれば、権利者たる者はよろしく異議を申し立てるべし、またそうするだろうから、ダブルパテント、トリプルパテント、二重、三重、五重の登録はないだろうという反論がありましょうが、しかしそうした結果を生み出す例外をたてまえとして、蓋然性によって法を制定することは、近代法のもとではあり得べからざるととだと考えるわけであります。異議により人のものをまねた考案について登録されるはずがないといっても、出願したほとんどすべてのものが出願公告になるという制度のもとで、現在年間の出願が先ほどの御説明だと十万件というけれども、この無審査になることによってどのくらいふえるかは、これは予想だにつかないことであります。いわんや特許庁すら調べ切れないという事情のもとで本法案が提案されているわけですから、一般の中小企業なら特許庁にまさる調査力と資料収集力があるという前提がはたしてとれるでありましょうか、問題だと考えます。一歩退いて、かりに完ぺきな異議が期待できるとしても、それなら完ぺきな権利が成立するはずであります。ところが、その権利に基づいて侵害者に立ち向かうときには、効力確認審判というスクリーンを通らなければならないというのでは、すでに異議の申し立てに完全性を期待していないということに法案自体がなっているのではないかと考えるわけであります。言うならば、比喩的に申して恐縮でありますが、せっかく権利者は小判をもらったと思ったら木の葉だったということになりかねないのであります。いずれにせよ、先後願関係における後願者に、また特許やあるいはすでに公報に載ってしまった他人の実用新案との関係で、本来付与すべきでない者にまで権利を認めこれを無効にすれば、その者について正当な実施権が認められるという制度は、実用新案制度の本旨にもとるものと考えるわけであります。  第三点として、手続上の改善は理想的だとの反論に対して見解を述べますと、これは次のような重大な問題が存在しております。すなわち、出願審査手続が複雑となり、それがそれぞれ独立しておるために、審査手続は現状よりかえって複雑になるのではなかろうか。たとえば、実用新案出願をいたします。まず最初にその願書は方式審査官によってその方式が審査される。それが違反している場合には却下されて、それに対しては行政不服審査があって、東京地裁に訴えが起こされて、高裁に上がって、最高裁に上がるというコースが開かれているわけです。その次に、方式審査がパスすれば、今度は審査内容についての適法なものか、取り上げていいかどうかの実用新案法十条審査が始まります。十条審査官は、その十条に該当するかどうかを審査して、さらに該当するならば拒絶査定をいたしますから、その系統の審査審判、訴訟が継続いたします。さらにそれがパスすると、次に出願公告出願公告については、異議の申し立てがあれば異議の申し立てに対する審査が行なわれ、さらにそれに基づいて拒絶が行なわれれば、その拒絶の結果については、民事訴訟法に現在ございますように再度の考案、ちょうど抗告に類する制度で、審査官による再審査制度が置かれておりますから、その再度の考案が審査官によって行なわれる。その段階を経て初めて審判に上がってまいります。  ところが審判は、再審査審査官のした結論に基づいてしか審判できませんから、非常に狭い幅で審判を行ないますが、その結果に対してはさらに高裁に出訴をすることができる。高裁が審決を不当だといって取り消した場合には、審判にその事件は戻ってまいります。審判では、その原査定を破棄して自判をすることができませんから、さらにこれをもとの審査に戻す。かくて方式審査、十条審査、公告決定、公告異議拒絶査定、再審査審判、戻って審査、かくて登録が行なわれていく。かなり複雑巧妙をきわめた手続が成立することになってくるわけです。出願の実質無審査によってせっかく解放されたというその制度のたてまえをとっていながら、純手続的な面においてかなり複雑怪奇な手続を要求している点、これが必ずしも改善され、理想的な手続にまで移行したということはできないと考える理由であります。  さて、時間の関係上、私は最後に、それではどのような法案が望ましいであろうかということの結論だけを指摘さしていただきますと、現在私どもにお見せいただいた法案は、私は、大学でもしこれを採点するとするならば、どうしても合格点は差し上げることのできない答案のように感じられるわけであります。  私は、まず第一に、こうした無審査制の採用あるいは実用新案制度の改革というものは、これに十分な審査の時間と、権利に対するこうした従来はりっぱな権利だと思っている一般の権利意識がありますから、その権利意識の修正という政策の上での措置が必要である。  第二番目には、当面の施策としては、出願願書が定型化され、さらに形式化されることが望ましい。たとえば図面を中心として簡単な要領をその項目のもとに列記せしめるカードシステムなりを採用しまして、審査官が一日平均三カードから五カードくらいはこれを閲覧し審査し得るような体制に持ち込むことができるのではなかろうかというのがその二点。  それから三点としましては、昭和三十四年法が取り入れました複雑な補正、却下、審判制度であるとか、あるいはその他のもろもろの審査渋滞の原因となっている手続を取り上げて、これらをそれぞれ廃止することが必要であること。  第四に、選択出願制について考慮研究を加える必要があるのではなかろうか。選択出願制と申しますのは、出願にあたりまして、願書に、フランスなどで行なわれておりますようにSG、DGの付号を付した出願と、それから有審査出願とを分けまして、無審査で早く権利がほしい者はその無審査出願のコースを選べばよいし、それから有審査で長くかかってもよいという者は有審査出願をすればよいということによって、選択出願制を採用することによりまして、現在の滞貨が過当競争の原因となっているという事実があるなら、そうした措置を講ずることも考えられるであろう。期限を限って正規の審判請求を出さしめ、出ないものについてはSG、DGとして審査をして権利を与えるということも考えられるのではなかろうか。  以上、私はこの法案に対する見解と、将来どのような方向で法案考え、準備すべきかということの二点を説明したわけであります。  こまかい法文の構成その他につきましては、かなり多数の問題がございますが、ここでは省略しまして、以上の二点の説明にとどめたいと思います。御清聴を感謝いたします。
  20. 天野公義

    天野委員長 次に、吉原参考人にお願いいたします。
  21. 吉原隆次

    吉原参考人 吉原でございます。  私は、持ち時間の関係上、あまりこまかいことはやめまして、実用新案法の無審査または簡素化について主として申し上げたいと存じます。  本来、私は、この前の現行法の審議会のときも、実用新案の廃止論者でありました。けれども、不幸にして特許法と同じような実用新案ができて、はなはだ驚いておるのであります。そうして、われわれ仲間は、こんな法案ができれば、必ず審査はおくれて、滞貨増加、特許庁は破滅だということを当時から予言しておったのであります。  申すまでもなく、旧実用新案法は、特許法に比べまして非常に軽微なものでありました。それはドイツの軽微な実用新案法をそのまま採用いたしまして、軽微な実用新案法として、日本でも非常に重宝がられたのであります。しかるに現行実用新案法に至りましては、まことに驚くなかれ、特許法と同じです。何ゆえに特別に実用新案法を設ける必要があるか、こうたんかを切りたいのであります。これが滞貨のふえる原因の大半を占めておると私は思うのであります。  まず第一に考えてみると、特許法第二条第一項には、「この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」第一、高度ということがおわかりになりましょうか。常識的にはわかります。新聞用語としてはいいのでありましょうが、法律家が見て高度、そうして実用新案法第二条第一項には同じ定義なんです。「この法律で「考案」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作をいう。」と書いてある。ただ高度という文字があるとなしです。これでは出願人は、何を出していいかわかりません。  なお、二、三例をあげて申し述べますれば、旧特許法には特許出願の分割の制度はありましたけれども、実用新案登録出願制度はありませんでした。これは発明は一発明家、二以上の発明家ということはなかなか出願当時は困難なことです。したがって、出願の分割制度というものを特に認めております。これは条約においてもそうです。それを同じ規定を現行実用新案法はこれを認めております。また、出願変更をたびたび申されましたから、もう言う必要はありませんが、相互いの出願変更、特許から実用新案にいく、これはあり得ることですけれども、実用新案、意匠から発明に出願変更するというようなことはまあないといっても——あれば、そんな弁理士はどうかしております。そういう制度を設けております。それからまた、不実施の制裁の規定、条約には発明特許については不実施の制裁規定を非常にむずかしい条件を設けて認めておるのであります。意匠には認めてはいけない。実用新案には適用してもいいとは書いてありますが、その精神は、実用新案というものは非常に軽微なものだから、不実施の制裁なんということはもう認める必要がないじゃないかというのが条約の精神なんです。その精神にも触れており、また先願、後願等につきましても、これは特許特許出願実用新案実用新案登録する、意匠は意匠の出願、商標は商標の出願として先願、後願を認めるのが旧法の形であり、これは世界的の制度であります。それを特許出願実用新案登録出願とを、先願、後願ごっちゃにして見る。小学校の生徒に、一万円札と五千円札を出して勘定せいといったら、一万円は一万円、五千円は五千円と分けて、おそらくプラスするでしょう。一万円、一万五千円、また五千円で二万円、そんなばかな計算をする人はないでしょう。そうして、旧法は権利発生後においてもし抵触があれば、適当にこれを調和する規定があったのであります。そんな規定を知らないのでしょうか。知っておるのでしょうが、何でもかんでも特許法と同じなんです。しかもわれわれ審議会委員は、何にも知らなかったのです。審議会ではそんなことは一切答申しません。それをかってに立案者が特許法と同じにしてしまったんです。それが滞貨のふえる大原因であります。先ほど弁護士会の代表者は、特許庁長官法律の制定に一定の方針がない——ことばは違いますが、しかしわれわれは前の審議会では、そんなことは想像もしませんことがかってに入っております。そうして同じになっております。悪法と申しましょうか、世界的な暴法です。悪よりも暴です。暴法は一日も早くこれを改正するがいいのです。  それで、私は第一義においては、実用新案法廃止論です。しかし中小企業保護とか、いろいろな題目がありまして、実用新案法というものにも日本はあこがれがありますから、軽微なる実用新案法、これを簡素化した実用新案法として残すならば、私は賛成であります。もちろん今度の案の内容は、こまかく見ますと、私は全般的に必ずしも賛成はできませんが、一日も早く現行法というものはやめてしまったがいいのです。それを一日も長く置くなんということはどうかと思います。その意味において朝令暮改も私は望むところです。悪は悪で早く罰したほうがいいのです。  それから、先ほどどなたかから議論がありまして、私は原稿も書いてきません、ただみんなのを聞いておってここで申し上げるのですが、人さえふやせばいいような話がずいぶん出ましたけれども、人をふやすということは、現在の長官はもちろん、累代の長官、総務部長は苦労に苦労を重ねておられると思うのであります。しかも弁理士会でしたか、大学には審査官の養成のような制度を設けたらいいといわれた。私も大学の先生で、養成しております。そうすると、試験を受けますと、みな金のもうかる弁理士になってしまいます。私は自分の後継者、後任をやらせる者をつくろうと思ってもできません。みんな弁理士になって金もうけだ。私が自分の教えた生徒に審査官になれといっても、技術者でも事務家でも、それじゃ審査官を志望しようなんで者はありはしませんよ。あればけっこうです。だから私は、特許庁長官は、東京高等裁判所長官と同様ぐらいの地位にし、これはしょっちゅうかわっていいです。外交官のように、半年でも一年でもいいです。その下に事務官一人、技術官一人、特許監というものを置いて、審査審判をぐっと押えたらいいじゃないか。そうして各部長はガラス張りの前で部長と課長と一緒に置いて、自分でいい決定を部長も課長もしたらいいじゃないですか。何も高くとまって、奥の院におる必要はないじゃないですか。そういう改正、取り扱いの方法もあるのです。  それから、先ほど八年は長過ぎる、五年というようなことがありました。実は私もそれを聞いて、ドイツは三年でしたか六年でしたか、初めは三年でもう三年延ばしたのか、ちょっと覚えておりませんが、私は記憶力でものを言いませんが、五年ぐらいならば——八年は長過ぎます。  それとともに、定義は、この法律のいまの定義ではいけません。特許法のいわゆる「高度」なんという文字はとってしまって、そして、この法律実用新案とは、物品の形状、構造、組み合わせにかかる進歩した技術的考案をいうとかなんとか、そのことばはいま思いつきですから、そういうような軽度のものを感ずるような形にして、何とかこの法案を通していただきたい。一日も早く通していただかなければ、ほんとう特許庁はつぶれちまいますよ。微細な点において反対があるなら、それは改正すればいいのです。またいま特許協会の方が公開制度のことを申されましたが、一年半の公開、あれを削除したのははなはだ不都合であります。私はその話を聞いて、どうして勉強されないかと思って情なくなった。この前のなくなられた渡辺さんに、総会のときに私は言ったのですが、項目公開、明細書の、発明の名称、発明の詳細なる説明、特許請求の範囲、そういう項目だけの公開が何の役に立ちますか。そして渡辺さんは東京と大阪と福岡で出願書類閲覧を許せと言われる。しかしそこまでいけば、われわれは通産局の存在する場所、進んでは県庁のある場所全部に書類を置けとでも言いたくなるのです。これは不可能をしいる。現在普通の閲覧は、われわれのときは一分か二分待てば書類を出して閲覧させました。おそらくいまは一週間ぐらい待たなければ普通の閲覧すらできない。それに項目公開で、全体の公開なんて言ったら大蔵省びっくりしちゃいます。できない。不可能でしょう。不可能を言う必要はない。  それからまた先願、後願の話が出ました。それは法律を知らぬ方で、先に出願したもの、これはしろうとが俗にいう先願ですね。けども、先願主義を適用する場合には、そういうのじゃないのです。これは例をあげていうといいのですが、おれの学校は日本人でなければ入れない、男でなければ入れない、それから試験地獄を避けるために先に出願した者を入れるのだ、こういう規則があると仮定したならば、朝鮮人とか外国人が先にどんどん出願して、女がどんどん出願して、ほんとうの有資格者がおくれたというのは、これは先願と見るのですか。これはこれで、これは日本人でない、これは女だからいかぬ。いわゆる資格がある者についての先願、後願です。新規性もあり、たとえ出願は先であっても、新規性なしで拒絶を受けた、進歩性なしで拒絶を受けた、それは先願主義先願じゃないのです。これはどこまでも特許すべき発明について、二以上の出願があったときには、まっ先の出願特許する。だから先願主義の規定の先願という意味を知らない方の議論なんです。  しかし、あまりしゃべっているとはなはだ申しわけがありませんから、これくらいでやめておきまして、御質問があればいつでも参ります。  失礼いたしました。
  22. 天野公義

    天野委員長 次に、原参考人にお願いいたします。
  23. 原増司

    ○原参考人 私は、東京高等裁判所でもってただいま工業所有権関係の事件を取り扱っている裁判官でございます。また、工業所有権制度改正審議会の一委員をつとめていたものでございます。しかしながら、これから私が申し上げる考えは、申すまでもございませんけれども、これらの地位とは何ら関係のない、ただ役人としては、役人といっても特許庁の方々は別でございましょうけれども、一般役人としては、比較的長く工業所有権の事務に従事しておった者の一個の意見としてお聞き取り願いたいと存じます。  非常に出願件数が増加し、内容が複雑化し、高度になる。それに伴って特許庁の審理が非常におくれ、未処理件数が累積し、審理期間が長くなったという現状はまことに憂慮すべきことでございまして、これについて何らかの方策を講じなければならないことはどなたも異論のないところではなかろうかと存じます。しかしながら、これらの事態は決して一朝一夕にしてきたものではなく、その由来するところは非常に遠く、また原因も一、二にとどまらぬと存じますから、したがってその解決も至難の事業と思われます。これに対し、政府当局が敢然立って打開の道を開こうとした真剣な態度に対しては、深甚の敬意を表するものであります。しかしながら、この意図に基づいて、その意図を実現するために出された方策、すなわちこのたび審議されつつあるところの改正法案を前にして、私はたいへん遺憾ではありますが、反対意見を述べざるを得ないのでございます。以下、形式的及び実質的方面から私の意見を述べてみたいと存じます。  形式的観点から申しますと、工業所有権制度審議会の答申について、まだ国民の十分な批判がされていないのでございます。私はただいま申しましたように、審議会の委員の末席を汚した者でありますが、審議会は二年半の間におきまして、相当長期ではありますが、決して一つの方向、同一線上にのみ審議が進んだのではございません。すでに一般に知られたことと存じますけれども、審議会は当初、この事態の解決を、実用新案制度の廃止という方向によって解決したらいかがかという考えが持たれておったのでございます。しかしながら、諸般の事情の考慮のもとに、当初の方向を変更いたしまして、この制度は存続せしめよう、しかしきわめて弱い、あるいは完全な権利とはいわれないかもしらぬような弱い権利を存続せしめることとして解決しようとしたのでございます。したがって、その存続期間もおおむね三年、差しとめ請求権は持たせないのでございます。したがって今度は、そういう弱い権利であるから、それを生む手続権利内容に相応する簡略な、簡易なもので満足しようじゃないか、それによって手続促進をはかろうとした、これが審議会の抱いた基本的構想であると私は理解しております。しかるに、審議会の末期に至り、きわめて短時間の間にあわただしい審議の末、実用新案権については差しとめ請求権を認める、また出願公開については、特許法の、厳密な審査を経た出願公告と同一の効力を認めるということが答申案の原案に盛られたのでございます。私は総会の席で、第二の、公開について出願公告と同一の効力を持たせるというのには強く反対いたしまして、議事録にその異議はとどめられているはずであります。また、第一の実用新案権について、差しとめ請求権を認めることについては、差しとめ請求権の行使による弊害を防止するための措置を講ずるということを、答申案のうちに書きとめていただいたわけであります。しかしながら、このような経緯によって生じた答申案でございますから、われわれといたしましても、決してこれを強行する自信はございません。十分世の中の御批判を受けて、その上法文化されたらいかがかと考えたのでございます。しかるに、それがなされないままに法案が提案されたことが、先ほど来各大ぜいの方から御指摘になりましたように、効力確認審判の無理論性というような問題でもって激しい激しい御批判を承ることにつきまして、私も委員の一人として、はなはだしい責任を感じているわけでございます。  第二に、改正法案は、それならば審議会の答申を忠実に実施しておるかどうかと申しますと、たいへん残念でありますが、そうではございません。もちろん政府は審議会の答申に拘束されるものではなしに、自己の所信に従って法案をつくるべきではございましょう。しかしながら、答申案のかってなところ、ことばは過ぎるかもしれませんが、かってなところだけをとって、それへまた全然別個の観念をつぎはぎされては、これはたまったものではございません。その一つの例といたしましては、実用新案法案十五条で実用新案権の存続期間を八年としておるのでございます。これは初めの、非常に弱い力を持つ実用新案、それならば簡単な審理でがまんしようといったそいつはそのままにしておいて、今度は似ても似つかない強い効力を与えておる。こういったことはまさに審議会の答申に対して本質的な変更を加えるといっても差しつかえないではなかろうかと存じます。  かくして法案ができました。しかし法案自体が、国民に対して十分理解検討の機会が与えられておるかどうかと申しますと、これまたしからずでございまして、私ら委員においてすらも、政府から法案ができたといって示されたのは、国会へ提出される十数日前でございます。いわんや、その法案内容について検討批判する余地もありませんでしたし、さらにこの法案に対して、非常に、それこそ実質的の関係を持つところの発明家、実業界はもちろん、弁理士、弁護士、学者その他の実際関係家に対しては、何ら開示されず、批判も求めなかったことは、先ほど松本参考人がお述べになったとおりでございます。したがって、法案が出てから、非常に数多くのまた強い反対の声が聞かれると申しますが、それは私はむしろ当然のことだと存じます。審議会の委員はともかくとして、これら実際に工業所有権に携わる人の協力なくして特許行政が行なわれるものではありません。どうぞ委員各位におかれても、との国民の声を謙虚に聞かれて、法案に対処されることを望みます。  次に、実質的の観点から二、三批判を述べてみたいと存じますけれども、相当技巧的、技術的のことにわたりますし、すでに日本特許協会等から御説明並びに資料の御提出があったように承知いたしますから、私は二、三について簡単に申し上げてみたいと思います。  一つは、補正制限の問題でございますけれども、明細書の補正を制限することは、今度の改正案の大きな一つの特徴になっておりますけれども、なるほどこの補正というものが手続をおくらすことは間違いないと思います。しかし手続のおくれという一面のみをもって補正を制限することは、はなはだ意味のないことでありまして、先ほども武田薬品株式会社社長からもお話がありましたように、補正によって発明家は自分権利の範囲を明白ならしめ、発明を十分に開示し、有効な特許権をつくり出す、このために補正は欠くことができないものであると存じます。それを、ただ手続がおくれるというだけでもって、切ってしまうことは、はなはだ不当だと存じます。ことに、審判を請求するにあたって手続補正を許さないということは、結局において出願人をして審査官見解に盲従をしいるものであるといわねばなりません。やはり国民はどこまでも正しいとするところを述べて、審査官意見を求め、その最後の判定を得た後にあるいは補正をし、あるいは分割をするような態度をとってしかるべきだと存じます。  またこの補正は、他の面においては、実用新案法のほうではこれはまた非常に行き方が違っておりまして、審査の過程においては補正はできない、審判を請求したら補正ができる、こういうことになっております。なぜ、審判の過程においてできる補正であったら、審査の過程でできないのでありましょうか。審査の段階でやれば非常に経済的に早くできるものを、一ぺん落第さしておいて、もう一ぺん上へやらして、そのときに直させるなんという必要はどこにもないではないか。私はその理由を不敏にして知ることができないのであります。  二番目に、先願の地位の強化でございまして、この先願の地位の問題が出ますと、また吉原参考人に大いにおしかりをこうむることだと存じますけれども、私の理解するところによりますと、先願の主義は日本特許法がとるところの最先の出願者のみに特許権を与えるという先願主義の大原則を表明しておるものであります。ところが審査基準というものは、実際においては人間のすることでありますから非常にまちまちであります。ある先願者が出願したけれども、不幸拒絶査定になってしまった。ところが、同一発明について出願したところが後願が特許された。そういうことはきわめて例外だとお考えになるかもしれませんが、実際上は非常にあり得ることであり、また実際あることでございます。そういった場合、この先願によって後願を排するということは、公平の観念からも当然認められることでありましょう。あまりいい例ではございませんけれども、あいつも落第し、こいつも落第するのなら、おれの落第もしんぼうしようということになるのでございますが、おれを落第させておいて、同じやつを及第させたのではおさまらないと思います。そういった公平の法政策からも、やはり今度のように先願公開されたものにのみ与えられるという趣旨は通らないのではなかろうかと存じます。  第三番目に、これは要綱には掲げられておりませんけれども、先ほど私が審議会でもって強力に反対いたしましたと申しましたけれども、審査を経てなされた出願公告にわれわれはほとんど異議なしにすでに差しとめ請求権の効力を認めております。つまり審査した結果それが公開される。公開するとまねをするやつができる。そうしたらよしてくれということを裁判所に請求することができる。それだけの保護をわれわれは考えておるのでございます。というのは、損害賠償なんというものは、債務者が無資力になってしまえば何の役にも立たぬものでございます。特許工業所有権は、その初期において模倣から完全に独占をしなければ効果を発するものではございません。そういう意味において、われわれは出願公告に対して仮保護を認めている説をとり、またわれわれの実務もそうしているのでございますけれども、今度の法案は、五十二条の改正で、特許権出願公告から差しとめ請求権を奪っておるのでございます。今度はいろいろの問題がございまして、手続促進するとか、滞貨をなくするとかということが目的でありますが、特許法の効力を弱めるということは審議会には全然諮問もされず、また法案の目的にもないと思います。こういった制度には極力反対せざるを得ないのでございます。  最後に、簡略審査制度について一言申しますと、簡略審査簡略審査というと、何か審査しているようでございますけれども、実はこれは私は無審査の別の呼び名じゃないかと存じます。これは染野教授も明らかに指摘されましたけれども、希望と現実とを混同するものであります。特許庁はともかく六カ月たったらみんな何でもかんでも公報に載せて出してしまう。そういたしますと、まず第一番に出願の数も従来より増しましょう。かりに出願の数が従来と同じだといたしましても、今度は少なくとも従来の出願公告に比して、歩どまりが五割だといたしますと、倍のものが公表され、公開される。しかしその倍の数はともかくも、その質たるや実にはしにも棒にもかからぬようなものが非常に多いであろうことは、われわれがこの拒絶査定に対する不服の訴訟をやっておって経験することでございますけれども、そういったわけのわからぬ数多くのものを産業界に審理して異議を申し立てよといっても、それは、そういった要求を受けるところの実業界の過大な負担を考えても、とても行なえることではないと思います。かくして簡略審査制度なるものは、実質においては無審査主義、しかも無審査主義世界工業所有権の趨勢に反して——これは御承知のようにスイスでも、数年前から従来の無審査制度を、品物は限っておりますけれども、だんだん審査主義に移行して、権利の力と信用を増そうとしておるわけでございます。そういった世界の趨勢に反するばかりでなくて、今度は何かわからぬ——先ほどは、金貨をもらったと思ったら木の葉だったということを申されましたけれども、この木の葉が金貨の名前をもって流通することが、これは非常にこわいことでございます。それがために産業はどれだけ脅威にさらされるでございましょう。また一面、今度はその金貨がいずれは木の葉になることを知った国民は、何だ実用新案なんてものは一向おそれるに足らぬものじゃないかと言って、ひいては正当な厳重な審査をされた特許権にまで権利を尊重しない考えが及んでいきはしないか、そのことを一番おそれるのでございます。  まだたくさんいろいろの論点は用意してまいりましたが、時間もないから、最後にそれではどうしたらいいかということを一言申させていただきます。  この未処理事件がふえ、審査がおくれるということは、決してわが国だけの現象ではなく、先ほど来皆さんが述べられたように、世界各先進国特許界の直面している大きな悩みでございます。その悩みをいまいかに解決するかということで各国はいろいろな構想を進めつつあり、すでにオランダ等はその実現を見ておるわけでございますが、ここで私たちはもっとじっくり腰を落ちつけて、それらの施策について、実績及び理論等について十分検討を加え、その長をとり短を捨て、世界的であり、しかもわが国情に合うところの工業所有権をつくることに専念しなければならないと存じます。  第二は、いま言ったように、未処理事件の滞貨とか累積とか審理の遅延は、これは世界的現象でございましょうが、近年事件が非常にふえるというのは、これはどうも日本世界一のように考えられます。これをまたどうするかということは別の観点から考えなければならぬことでございますが、私が考えますのに、議論はたくさんございましょうけれども、実用新案特許と両方が並び存するがゆえに、結局十万で済むものが十万と十万、二十万になっておる。そこで、実用新案制度特許法及び意匠法に吸収してしまえという案を持っているわけでございます。実用新案を廃止するということになると、これは非常にいろいろの問題が起きるだろうと思いますけれども、そんなことはおまえことばだけではないかと申しましょうけれども、しかし、北米合衆国はすでにステーツがそうやっておって、結局特許法一本でまかなっております。したがって、実用新案特許法に吸収いたしましたら、なるほど非常に低劣な、それこそ独占権に値しないものは排除されましょうけれども、かなりのものが特許制度に吸収されて、先ほど来もしばしば指摘されたように、理論的に矛盾するような二つの制度が並び存することもなくなるだろうと思います。  それからもう一つは、この出願の増加が、結局審査の実情等にかんがみまして、おれはこんな特許なんかほしくないけれども、ほかのやつが出すから取っておかなければ困るというものも相当あるように聞いております。防衛出願というのだそうでございますが、私は、そういったものはそれなりの取り扱いをすればいいので、おれは出願はする、権利はほしくないというなら、そうしたらこっちも審査しなくていいと思いますから、そういうものはどんどん受け付けて、ただそれなりに一年ぐらい握っておって、公開して、権利を与えないという制度をとるならば、その分においては出願があっても困らないのじゃなかろうか、そういった考えを持っております。  以上、はなはだ蕪雑ではございましたけれども、私の意見を開陳させていただきました。
  24. 天野公義

    天野委員長 次に、村瀬参考人にお願いいたします。
  25. 村瀬直養

    村瀬参考人 私は、工業所有権改正審議会の小委員長をしておりました村瀬でございます。  もう時間が非常に迫っておりまして、詳細な点は申し述べることを省略いたしたいと考えますが、私の結論を申し上げますならば、現在の段階において、この提案されておる特許法改正案並びに実用新案法改正案、これについてはできるだけ早く御審議を進行されることが適当であろうと考えます。この点を申し上げます。  それでは、その簡単な理由を申し上げたいと存じます。  いままでたびたび論ぜられましたように、わが国の特許並びに実用新案出願の状況は非常にふえている。これは必ずしも昔からのことではないのでございまして、ことに昭和三十八年から非常に飛躍的に増大をしてきておるのでございます。したがって、これの未処理件数いわゆる滞貨というものも、年々非常に激増しておるのでございます。これをこのままに放置しておきますと、おそらくはわが国の工業所有権制度の円滑な運用が阻害されるのではないか。現に各出願処理に要する期間が、平均において一件三年半というような状態になっておるのであります。したがって、これをどうして解決するかということは、どうしてもわれわれが考えなければならないのであります。  申すまでもなく、特許法の本来の機能というものは、発明者に対して一定の保護を与えるということと同時に、なるべく早く技術公開をして、一国の技術水準の進展をはかる、これはあらためて申すまでもないことでございますが、そういう点にあるのでございますが、現在のような処理状態というものをそのままにしておきますならば、とうていその目的を達することができないのであります。もっとも特許庁におきましては、現在までにおきましても、先ほど来多々議論が述べられておりますように、あるいは人員の増加であるとか、あるいは設備の改善であるとか、あるいは機械の採用であるとか、いろいろの方法によってこの処理の進捗をはかってきておるのでございます。しかしながら、どうしてもそれだけでは十分目的を達することができない。もちろん、たとえば人員の増加というものについては、今後もさらに一そうの努力が必要であると考えます。しかし、それだけではどうしても所期の目的を達成することができない。したがって、最後の結論として、どうも制度そのものを再検討することが必要である、こういうふうな結論に達したのでございます。  もっとも、先ほどから申し述べられておりますように、特許法あるいは実用新案法というようなものは、一国の基本的の実体法でありまして、これを軽々に改正をするということは厳に慎まなければならないことでございます。ことに、現在の特許実用新案法というようなものは、非常に長い間の審議を経て、ようやっとつい先ごろ施行せられた新しい沿革を持っておるのでございますから、そういう制度についてこれを改正するというようなことは厳に慎まなければならない。これは現に私もさように考えておったのでございます。したがって、今回の改正は、そういうような実体法の根本を再検討するということではなくて、さしあたっておるところの処理の停滞あるいは処理促進をどのようにやって、もって工業所有権法の本来の目的に適応せしめることができるか、こういうことを中心の目標として今回の改正を加えた次第でございます。  以上のような状態がありまするので、われわれの工業所有権制度改正審議会におきましては、通産大臣の諮問を受けまして鋭意考究を重ねてまいったのでございます。その審査のいきさつについては、あるいはいろいろ御不満を持っておる方もあるかと存じまするが、また先ほどからいろいろそういう点について議論があったようでございますが、実際においては、現在の状態においてなし得べき最善の方法をとって措置考えてまいったのでございます。この審議会において一定の答申をなしまして、それから当局のほうでは、なお各方面の意見を聞いてその調整を加えた。したがって、その結果においては多少原案とは違っておるような結果ができておりまするが、これはまことにやむを得ない事情に基づいておるものではないか、かように考えておるのでございます。  さて、今回提案になっておりまするところの内容について、あらためて詳しく申し述べる必要もございませんが、その最も中心となっておりますのは、実用新案について、先ほどからたびたび論議になっておりました簡略審査の道を採用するということにいたしたのでございます。一体、実用新案については、これも先ほどから議論がございましたが、時代の進展に伴って、現在においてはこれを廃止するのがいいのではないか、またこれを廃止しても、これも先ほどからお話があったように、相当の部分は特許法のほうへ移ってくる、また相当の部分は実用新案法のほうに移っていく。したがって、ことばをかえていえば、実用新案の廃止とか特許法等にこれを合体吸収するというふうな考え方もあるかと思います。現にそういうふうな、これを廃止しても結果においては全面的の廃止ということではない、またこれを諸外国の例について考えてみますると、実用新案法というものが特許法と独立して存在しておる国は、現在において比較的きわめて少数なものでありまして、これらの関係もやはりわが国としては現在の状態においては十分に考慮をする必要がある、こういう議論が非常に多くの人によって主張され、今日もまた主張されているところでございますが、審議会といたしましては、多年にわたって行なわれてきておった実用新案法をここですぐ廃止するということは適当でない、したがって、これに対して何らかの改正を加えた実用新案法を存置するのが適当ではないか、こういう考えから実用新案法について簡略審査主義というものを採用いたしまして、実用新案を存置することに決定をいたしたのでございます。もっとも、この簡略審査主義によって、いろいろ値打ちのないようなものがどんどん権利になって乱用されては困るというような点を考慮いたしまして、これの乱用を防止するについては、例の審判制度、先ほどから申し述べられておりますような審判制度というものが今度の法律採用せられておる。したがって、これら全体を考えてみますると、まず大体現在の状態においてはこの程度が適当ではないか、かように考えるのでございます。  今回の改正法案内容については、以上が最も中心的な事柄でありまするが、なおそのほかにいろいろ問題がありまして、要するに、これによって処理の進捗をはかるという目的を達成することにしておりますが、それら詳細の点については、特にこの際これを説明することを省略いたしたいと考えます。  結論を申し上げますると、要するに、今回の改正によりまして、特許とか実用新案審査というものは非常に進捗せられると考えられておるのでございます。現在、特許実用新案審査に大体三年半の期間が必要である、こういうふうに言われておりまするが、今回の法律改正によりまして、昭和四十三年度末におきましては、特許は大体二年程度、それから実用新案は一年または一年半、これは異議の申し立てがあった場合とそうでない場合によって違いますが、大体その程度において審査が行なわれる、かように考えるのでありまして結果から申しますれば処理の期間は大幅に短縮せられる、こういう予定でございます。しこうして、処理の期間が非常に促進せられますると、これによって、一々は申し上げませんが、その結果は、一般の実業界その他において非常に大きな効果が得られると考えるのであります。  あらためて申し上げるまでもなく、科学技術の振興ということはわが国において最も必要なことであり、それについて、その発明の奨励というものは非常に重要なことである。それで、その発明の奨励にはいろいろな方策が講ぜられておりますが、その中心工業所有権制度の完備、運用の改善ということがその中心になるということは申すまでもないところであります。その点において、今回の法律でいろいろ問題はありましょうと思いますが、現在の状態においては、これを審議して、そして一日も早くこれを実行に移すということが必要ではないかと考えるのであります。  最近、通産省の中小企業庁に審議がありまして、その際にある業者の代表者が来て話をしておりましたが、これは組合の方でしたが、自分の組合では登録制度採用して、非常にその効果があがっておるということを述べておられました。その登録制度は一体どういうものであるか、法律制度によるものであるかどうかということをお伺いいたしましたところ、これは全然法律制度によっておるのではない、私の組合が自主的にやっておるものである。そのときに、一体現在の法律制度のもとにおいての登録制度というのをやっておったならば、いたずらに時間がかかって、とうていその目的を達することができないので、われわれのほうでは全然そういうことは考えていないということを言っておりました。これを聞いて私は、非常にたいへんなことである、かように考えたのでございます。私はもう少し広く考えてみますると、特許等の内容、運用の状態が現在のようなことで推移をするということでありまするならば、あるいは日ならずして工業所有権全体が円滑に運用し得ないような状態になるのではないか、こういうところを一日も早く改善することが絶対に必要である、かように考えるのでございます。先ほどからいろいろ御議論を聞いておりましたが、いずれも非常にごもっともな意見であるように考えまするが、これらの問題を精細に分けてまいりますと、基本的の問題と、それからそうでない手続その他の問題とある。こういう手続その他の問題については、これは十分に御審議の過程において適当に考慮し、判断し得る問題である。それから基本的の問題、これは工業所有権制度全般の非常に重要な問題である。私もこれを考慮することは絶対に必要であると思いまするが、これは非常な基本的な問題であって、いま直ちにその結論を出すことはできない。しかるに他方面において出願の滞積、滞貨の累積ということは現実の問題である、そういう基本的な問題を十分に解決してからでなければ何らの措置がとれない、こういうことでありますれば、おそらくは所期の目的を達することは困難なのではないかと考えるのでございます。  したがって、結論を申し上げますならば、本改正案はできるだけ早く御審議を進めて、そして結論を出す。それについては、基本的の問題については、なおこれと切り離して十分に並行的に考究することを必要とする。それから応急的の問題については、審議の過程において十分に各方面の意見を聞いて、私どものほうでも十分に研究はしたのでありまするが、なお十分に御審議を願って、そうして結論を得るようにいたしたい、こういうふうに考えるのでございます。  一言簡単にちょっと意見を申し述べました。
  26. 天野公義

    天野委員長 以上で各参考人からの一応の陳述は終わりました。     —————————————
  27. 天野公義

    天野委員長 参考人並びに政府当局に対する質疑の申し出がありますので、これを許します。始関伊平君。
  28. 始関伊平

    始関委員 先ほど来各参考人からたいへん傾聴すべき意見を開陳していただきまして、ありがとうございました。  時間がたいへんおそくなっておりまして恐縮でございますが、せっかくの機会でございますので、二、三の点につきましてお尋ねをいたしたいと存じます。  問題は、異常ないわゆる滞貨処理から出発をいたしております。もっともこの点につきましては、この中に正常な滞貨と見ていいものもあるので、滞貨が多いというけれども、たいしたことではないのではないかという御意見の開陳もあったと存じます。そこで、ただいまこの法案の取りまとめに当たられました村瀬委員長がお述べになりましたように、法の実体的な部分は手をつけないでおるのであって、応急的な手続の規定のみを改正しようとするものであるから、国会の審議の過程において、もし不満な点があれば十分直したらいいんじゃないか、こういう御意見もございましたが、大多数の御意見というものは、これは染野さんなんかがおっしゃったように、点をつければ合格点はとてもつかぬものである、はしにも棒にもかからぬものであるから、一ぺんやり直しだ、審議会の構成についても御意見がございましたが、新しく出直せ、こういう御意見のようでございます。それで、この点につきまして、これは特許権というものを実際の生産の上に活用されておりまして、きわめて重大な利害関係を持たれまする特許協会理事長石川さんも、はっきりと継続審査はやめて、そして廃案にせよ、こういう御主張でございますが、かりにそうなったといたしますと、先ほど来伺いまして、私どもも、特許法実用新案法をいじるということがいかにむずかしい問題かということがわかったわけでありますし、また国際的な関係があるのだけれども、国際的な流動性も激しい時代だ。そこで新規にやり直すといたしますと、三年なり四年なり現状のままでいくということを覚悟せざるを得ないと思うのであります。しかしそれは、拙速主義でやることの弊害と、それから滞貨がたまってもがまんできるかどうかという点の利害の比較考慮の上からいたしまして、やむを得ない、こうお考えになったと思いますが、石川さんからその点につきまして明快にお答えをいただきたいと思います。
  29. 石川正雄

    石川参考人 私どもは、滞貨が非常に多くなるということにつきましては、非常に迷惑を感ずるところなんでございますが、しかしこの点でりっぱなものになるというならば、二、三年ぐらいはしんぼうできるということでございまして、しかも今回の法案にいろいろと盛られておりますように、ある程度までは妥協のできる点ができておるのでございますから、さらにこれを、現在いろいろな方が述べましたように、三月の国会に提出されまして初めてわれわれはみなこの法案内容を知ったのでございますから、そういうことなく、今後、現在参考人がいろいろと申し上げられておりますようなことを結集いたしましてやったならば、三年ぐらいでできるのではないか、こう思うのでございまして、それをしんぼうするというかまえはわれわれは企業体にはあるのではないか、こう思うのでございます。
  30. 始関伊平

    始関委員 もう一ぺん伺いますが、いま国会で審議されておりますこの政府原案というものは、これから審議あるいは検討を加える原案になり得るものとお考なのか、これも一切御破算で新しくやり直すべきものとお考えなのか。もしこれが検討の基礎になり得るものであるとするならば、むしろ国会での継続審議を主張されるべきではないかと思いますが、もう一回はっきりひとつお答えを願います。
  31. 石川正雄

    石川参考人 ちょっと申し上げます。誤解があるかと思いますが、先ほど申しましたように、ちょっと吉原参考人からはおしかりを受けましたのですが、三十九条の第一項を削った、同じような発明があるにもかかわらず、これが異なった日にちに出願された場合には、先願のものに特許権を与えるという項目を削ったところにわれわれいろいろ議論があるのでございますが、その項目だけではなくて、いろいろそれから波及した条件が出てまいるのであります。そういう根本のこと、そういうものを練り直しましてやったならばよろしいと思うのでございますが、さらに実用新案につきましても、いろいろまだこれでは十分でないというところがありますので、もう一度これをもとへ返して、そうして皆さんには現在の知識が一応与えられておるのでございますから、そういう考えがすでにあるのでございますから、そういうものをもとにいたしまして、さらにもう一つ国際的にいいますと、ドイツ法案もありますし、またアメリカの法案も次に出てまいるのでございますから、そういうものもいいところを参酌いたしまして、そうしてやったらどうかというのでございまして、もう一ぺん根本に返って白紙に返ってやったほうがよろしいのではないかと思うのでございます。
  32. 始関伊平

    始関委員 弁護士会の松本さんにちょっとお尋ねいたします。  あなたの御意見一つの何といいますか極端を示しておられると思うのでございまして、法体系ないし権利関係の安定性というようなことからいたしまして、こういうものはむやみといじるべきではない、案の内容いかんを問わず法律改正そのものに反対だというふうに受け取れる御発言があったと思います。もっとも後段で委員会の構成について御不満があったから、ちょっとニュアンスの違う点もありましたが、そうすると、滞貨処理については特許庁の拡充等をやってやるべきであって、法律改正そのものは差しあたり、三年か五年か知りませんが、やらぬほうがいいんだ、こういう御意見でございますか。
  33. 松本重敏

    松本参考人 いまの御質問に簡単に、結論的に申し上げれば、制度改正はいまの時期にすべきでない。そしてもしどうしても行政上の措置として制度改正をしなければいかぬというなら、これはもう原案を、いまの法案廃案にいたしまして、そして白紙に戻して、民間の意見を十分に考えまして、それから同時に、先ほどどなたかが申し上げましたけれども、こういうふうに変わるんだというPRをして、そうしてその施行がスムーズにいくような体制のもとにしなくちゃいかぬ。それには、私のほうで特に申し上げたいのは、特許権というものは特許庁だけがっくるものじゃないということです。特許庁がつくるのは、それは審査を国からまかされているから審査するだけで、その登録されたものの権利行使は、これは個々の人の責任と費用と、そうして裁判所がするのです。そういう裁判所とか個々の国民の経費負担、そういうもの全体で初めて円満な工業所有権制度というものが存続しておる。ところが、私の認識する範囲では、特許権というものは特許庁がすべてまかなえるんだ、こういう認識にとれるわけです。  それから私がもう一言申し上げたいのは、実質の問題は別だ、手続だけの問題だという意見がいまありましたけれども、これがもうそもそも間違いなんです。私が申し上げましたように、工業所有権というものは一定期間の独占的権利を付与される。この権利の付与というものの手続を除いて、そんな独占的なものが保護されるはずがないわけです。一体独占禁止法で禁止する独占がなぜ特許法の場合にあるか。これは本来、独占というものは悪なんです。ところが、それは国の伸展のために特に一定の範囲で保護しよう。だから、その手続の公正さというものがむしろ基本なわけです。その手続だけですから、簡単に変えるんだという考え方が私はもういかぬ。だからまずこれは廃案にして、白紙にしてもとへ戻して、そうしてその間の根本的な問題があるなら、もっとそういう点、手続、実態を兼ねて、そうして一般の国民の世論を喚起して、そうしてこれを改正すべきで、その間特許庁がいま言うように、この二、三年で破産する、とんでもないです。それは努力が足りないからです。そういうことでございます。
  34. 始関伊平

    始関委員 最後にもう一つだけ伺います。それは先ほど来の参考人の御発言のニュアンスがそれぞれ若干ずつ違っておりまして、奥山さんがそういうほうのニュアンスの一番大きい発言をされたと思いますが、法律改正よりも特許庁の拡大強化、人員の増加などということに努力すればよろしいんで、それをやれば、法律改正なんというものは少なくとも急ぐ必要はない、こういうような御意見であったと思います。この点につきまして、かつて特許庁に御勤務になったことがあり、いま青山学院で特許法の講義をしていられます吉原先生から、先ほど、どうも弁理士のほうがもうかって、みんなそっちへ行ってしまうというような御意見もございましたが、今後とも特許庁の人員の増加、執務体制の整備等に努力すべきは当然でありますけれども、目下の人不足の状態、特に技術者の不足、それから地位、待遇を上げろというお話がありましたが、特許審査事務というものは、それほど魅力のある仕事ではなかろうと思います。特に実用新案なんというものはそうじゃなかろうかとしろうとですが考えます。こういう点につきまして、これはひとつ村瀬さんから、特許庁の拡大強化ということが、予算が認められ、その他の政治的条件が許すとしても、目下の人間の需給関係などから見まして、そう簡単にできるものかどうかという点についての御所見をちょっと伺っておきたいと思います。
  35. 村瀬直養

    村瀬参考人 ちょっとお答えを申し上げます。  いまお話しのとおり、現在の状態においてなかなか適当な人を非常に無制限にたくさんとるということは、実行上困難じゃないか、かように考えるのです。  それからまた、人をとる、こういう場合においても、審査事務というのは相当むずかしい仕事でありますから、とったすぐあくる日から能率をどんどん発揮するということもむずかしい。したがって、そういう点をすべて考慮して、また、過去にも特許庁において鋭意人の増員というものをはかってきている。その結果がこういうふうな状態である。もっとも、この点について根本的に、たとえば特許庁の地位、特許庁長官の地位を高等裁判所の長官と同じようにするとか、いろいろな問題があると思いますが、これはなかなかそう簡単にできる問題じゃない。もちろん、それは私ども個人としていろいろ意見は持っておりますけれども、その問題はもちろん考究する必要がある。しかしながら、滞貨の存在あるいは出願件数の未処理が累増しているというのは現在の問題でありますから、そういうものと一緒に根本問題を解決して、その措置をやっていこうということは、ちょっと目的の上からいって適当でないのではないだろうか、私はさように考える。
  36. 天野公義

    天野委員長 沢田政治君。
  37. 沢田政治

    ○沢田委員 十名の方の貴重な御意見をお伺いしたわけですが、ほとんどの参考人の方はやはり廃案であって、いまの時点に出されている法案に対しては反対である、こういう態度を表明されました。私どもも特に反対である方の意見を聞いたわけではありませんけれども、そういう懸念を持って、本法案が前国会に提出されると同時に反対をいたしてまいったわけであります。まさしく私どもが懸念していることが、先ほどの参考人の方々によってさらにそれを補強され、主張されたことは、非常な貴重な参考になるものとして感謝にたえない次第でございます。特に私どもが一番反対した理由は、行政能力の不足、国民に対するサービスの不足——能力がないとは言いませんが、そういう不足を、法律改正して、国民の利益を圧縮して、そうして現実を解決するということは、やはり政治の立場においては本末転倒じゃないか、主客転倒じゃないか、そういう立場に基づいたわけでございます。そういう点も皆さんから主張されたので、まさしくそのとおりであります。  しからば百歩譲って、必要悪として譲ったとしても、滞貨処理というものが、たとえば実用新案簡略審査といっておりますけれども、事実上は無審査なわけです。そういう方法によって、しからば百歩譲って認めたとしても、滞貨処理ができるかどうか、この点についても私どもが自信を持てなかったわけであります。むしろやはり、立法上の議論の問題もあるけれども、いろいろ私法上の問題からいっても、事務手続の上からいっても、かえって混乱するのではないか、こういう危険性をも懸念したわけであります。それも皆さんによってやはり同感の意を表されたわけであります。そこで私は、反対論——賛成論の方は、それぞれ自分の所信なり、また自分考えに基づいて賛成しておりますから、これはけっこうでございます。特に学者の方におきましては、これは当然だと思うのです。しかしながら、やや賛成、これも完全に賛成じゃありませんけれども、高吉さんの場合は一応賛成論のようでありますけれども、法案審議の過程においてそれぞれの修正がなされることを期待しているのだといいますから、これは一〇〇%の賛成ではないと思いますけれども、特に学者のそれぞれの参考人の先生方は、これは問題はありません。そのとおりだと思いますけれども、ただあなたの場合は、それぞれの工業所有権者の利害関係、そういうものとの接点が非常に多いと思うわけであります。そういう意味で、私は学者の考え方よりも、やはり一般の工業所有権者はどういう利害を考えておるか、なぜ反対しておるかということを、あなたの場合は普通の方よりも知っておられるのではないか、こういうように期待しておったわけです。  そこで、あなたは賛成だということでありますけれども、特に私ここで聞きたいのは、あなたは何というか、法案を継続審議するのは賛成だと言っておりますけれども、あなたの下部の各都道府県に支部がありますね。そこの支部の方々が、私はここで名前を控えますけれども、相当多数が、この法案が通ると非常に国民、特に関係者の利害が圧縮されるので困るのだ、これを通してもらったのではとんでもないことになるというので、私どものところへたくさん来ておるわけです。したがって、あなたの意見はやはりあなたの支部全体を含めた賛成の意見であるか、あなた個人の意見であるかをお聞きしたいと思うのです。
  38. 高吉友次

    ○高吉参考人 結論だけ申し上げます。確かに発明協会の支部には、本問題に対して反対の態度をとっておるところもかなりございます。また同時に、賛成の意見を表しておるところも同様たくさんございます。私のほうの協会の構成というものが、ごく大ざっぱに申し上げますれば、発明をする人間、それからこの発明を助けていく人間、たとえて言えば、学校の先生のような研究の方面から援助していく、あるいは弁理士のような人、こういう発明を助けていく人、それから次はその発明を利用する人、いわば企業家、こういう人たちの構成になっております。問題によりまして、どうしてもそこに利害の相反する立場に立たざるを得ないこともございます。今回の場合におきましても、かなりそういう面があるやに私は考えますので、そこで私のほうといたしましては、グループとしての意見ということよりも、会員個々の考え方を直接聞いてみたほうがよかろうということで、昨年の八月、審議会の答申中心にいたしまして、簡単ながら解説を加えてアンケ−トをとってみました。その結果に基づいて発明協会としての考え方というものをまとめた次第でございます。自然、私個人の考え方というものではないと御了解を願いたいと思います。
  39. 沢田政治

    ○沢田委員 特に重要じゃないかもわかりませんけれども、事実ないことであればたいへんなことであるので、冤罪を晴らしてあげたい意味から私は申し上げたいのでありますが、特に弁理士会さらには日弁連、こういう弁護士、弁理士の方々がこの法案反対しておるのは、収入が減るから反対しておるのだ、こういう私から考えるならば常識以外の流言があったことを私は記憶しております。しかしながら、これは収入は減りませんよ。紛争が激しくなるのだから、ますますふえると思うのです。私が考えるならば、やはり何とかして、独占がいいか悪いかは別としても、必要悪としていま是認しておるのだから、その手続を公正にしてやらなくちゃ不公正になるのじゃないかという、国民の権利を守るという立場から皆さんがやっておることであるというように私は考えております。皆さん参考人意見もそうだと思いますけれども、それに対して、やはり皆さんもそういう声を耳にしているかどうかわかりませんけれども、そういううわさがありますので、この際一応立場を若干お変え願えれば幸いだと思うのです。
  40. 奥山恵吉

    奥山参考人 お答えいたします。  そういううわさもちょいちょい耳にしたことがございます。これは、われわれが今度の法案の成立に反対している、それに対する一つの反撃だと、そういうふうに考えますけれども、これはすこぶる卑劣なうわさでございまして、歯牙にもかけておりません。ただいま沢田委員の申されましたとおり、われわれといたしますと、この法案が通ればむしろ収入はふえるので、人をどうしてふやそうか、そっちのほうの心配をするくらいでございます。決して私ごとによって国家の制度に対しての意見を述べるような、そんな低い考えは持っておりません。
  41. 沢田政治

    ○沢田委員 最後に、大臣がおりませんので次官に私はお伺いしたいと思います。  前々国会、通常国会でも、特許法の一部改正の審議をなさる際に、基本的な特許行政に取り組む姿勢として、一年に一回ぐらい特許庁長官がわかっておるようなたらい回し人事じゃいかぬじゃないか、滞貨もそれじゃ処理できないじゃないか、その場当たりじゃいかぬじゃないか、それは技術的なあるいは義務的な、法的な長期展望に立たなければいけないのじゃないか、こういう点を主張したわけです。特にそういう弊害が現在まであったので、私どもは指摘したわけであります。ある長官は、審査官のノルマの上昇をはかる、あるいは予算獲得に狂奔する。やれ人員だ、制度改正だ。それぞれ何かやらなくちゃ、これはかっこうがつかぬという意味かどうか、私は理解に苦しむわけでありますけれども、そういうことであっては、これは混乱に混乱の上積みをするだけじゃないか、こういうことで、特許行政というような特殊なこういう官庁でありますから、行政機能を持っておりますから、相当長期の視野、展望に立ったやはり人事配置をすべきじゃないか、こういう点を重ねてわれわれは主張したわけです。その場合、なるほどそのとおりだと言っておるけれども、倉八前長官の場合もそうじゃないわけです。何かを無計画に手がけては、その責任をとらず、いずこともなく天下りをする、こういうばかなことであっては——法律技術的な問題じゃない、基本的な態度からいって、おそらく責任はそこにあるじゃないか、こういう主張をしてきたわけです。これに対してどういうような御意見ですか、明確な答弁を願いたい。
  42. 進藤一馬

    ○進藤政府委員 御答弁申し上げます。  特許庁長官、重大な責任の地位にありまして、ただいまおことばのように、なるべくかわらないでやっていただかなければならない立場にございますが、通産省といたしまして、全体の配置の点で異動がありまして、大局から見まして、あとあとの事務的なことも十分に連絡いたしましてかわったような次第でございまして、そういう点でございます。御了承願います。
  43. 沢田政治

    ○沢田委員 いまの答弁は、わかったようなわからないようなじゃなく、全然わからぬ答弁でありますが、これはいずれ大臣からその所信をただしたいと思いますので、私の質問はこれで終わります。
  44. 天野公義

    天野委員長 ほかに御発言もなければ、参考人に対する質疑はこれを終了することにいたします。  参考人各位には御多用中のところ、長時間にわたり御出席をいただき、ありがとうございました。  参考人の皆さま方には御退席を願ってけっこうでございます。      ————◇—————
  45. 天野公義

    天野委員長 この際、始関伊平君外二名から、工業所有権制度改正に関する件について決議すべしとの動議が提出されております。  まず、趣旨の説明を求めます。始関伊平君。
  46. 始関伊平

    始関委員 工業所有権制度改正に関する件につきまして、商工委員会において決議すべき旨の提案をいたしましたが、自由民主党、日本社会党及び民主社会党を代表して、私から提案の趣旨を御説明申し上げます。  まず、案文を朗読いたします。    工業所有権制度改正に関する件(案)   現在、工業所有権制度に関する審査審判の遅延と未処理案件の累積は著しいものがあり、産業及び技術の発展に重大な悪影響を及ぼしつつある。   よつて政府は、審査審判促進並びに未処理案件処理促進のため、画期的な予算措置等によって当面の事態の改善を図るとともに、工業所有権制度の改正について、関係者の理解と協力をも求めつつ、速やかに抜本的な措置を講ずるよう努力すべきである。   右決議する。 以上でございます。  御承知のごとく、特許実用新案等の出願件数は、近年激増の傾向にあり、これに伴いまして、審査審判処理は著しく遅延し、未処理案件いわゆる滞貨は六十万件余の膨大な数に達しているのであります。この事態は、産業及び技術の発展に重大な悪影響を与え、工業所有権制度の意義を著しく薄弱化しております。  現在、政府から提案されております特許法改正案及び実用新案法改正案は、このような現状に対処して、審査審判促進滞貨処理をはかろうとするものでありまして、その目的自体に対しては何人も賛意を表するところであります。  しかし、まことに遺憾ながら、このたびの改正案には、先ほど各種の立場から参考人から意見が述べられましたように、幾多の問題点が含まれておりますので、その成立を期することはきわめて困難であります。したがいまして、この際、政府においては、新たな観点に立って審査審判及び滞貨処理促進のために必要な方策を早急に樹立する必要があろうと考えるのであります。すなわち、当面の事態を改善するために、予算の増額、特許庁機構の整備等をはかる一方、制度改正については、構想を再検討の上、民間関係者、学識経験者の理解と協力をも求めつつ、また広く世界各国の立法例をも参酌しつつ、適切かつ抜本的な改正案をできる限りすみやかに立案するよう努力すべきであります。  工業所有権制度の憂慮すべき現状にかんがみまして、以上の点を政府に強く要請する趣旨をもって本決議案を提出した次第でございます。  何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。
  47. 天野公義

    天野委員長 以上で趣旨の説明は終わりました。  採決いたします。  本動議のとおり決するに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  48. 天野公義

    天野委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。  この際、通商産業政務次官から発言を求められておりますので、これを許します。進藤政務次官。
  49. 進藤一馬

    ○進藤政府委員 通産大臣にかわりまして一言申し上げます。  ただいま工業所有権制度改正につきまして決議をいただきました。政府といたしましては、決議の御趣旨に沿いまして、鋭意努力する決意でおりますことを申し上げます。     —————————————
  50. 天野公義

    天野委員長 おはかりいたします。  ただいまの決議の関係方面への参考送付等の取り扱いにつきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  51. 天野公義

    天野委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。  次会は公報をもってお知らせすることとし、本日はこれにて散会いたします。    午後一時五十三分散会