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松本参考人 私は、
日本弁護士連合会工業所有権制度改正委員会の副
委員長をつとめております
松本重敏でございます。
日本弁護士連合会の
工業所有権制度改正委員会というものは、
日本弁護士連合会の中で、昭和三十八年、政府の審議会が設けられたのと時期を同じくして、全国の弁護士の中から、特に
特許法律に関しましての事務を取り扱っているたんのうな弁護士を、
理事会の議を経て選任いたしまして、そうして
意見をまとめてまいりました。その
意見は、すでに五回にわたりまして公表しております。全体
理事会の議を経て公表しておりますので、皆さまのお
手元にも配付されておると思いますので、それは後日、もしごらんなき方は、十分ごらんおきをいただきたいと思います。
そこで、私のこれから申し上げます
意見は、私個人の
意見ではなくて、
日本弁護士連合会を代弁するものでございますので、その意味でお聞き取りいただきたいと思います。私のこれから申し上げます
内容につきましての要旨を、お
手元に、ごく簡単に項目だけ書いて配付してございますので、これもお
手元にお取りいただきながら、お読みいただきたいと思います。
ここにありますように、
日本弁護士連合会の
意見は、本
法案に対して
反対でございます。以下、この
反対の理由、並びにこれからの将来の
要望、これを三つに分けて申し上げたいと思います。
第一は、
日本弁護士連合会が持つ
工業所有権制度というものに対する基本的態度を、第一点として申し上げます。第二点に、本継続中の
法案の
内容についての基本的な批判を第二にいたします。第三に、時間の許す限り、弁護士連合会としての、将来の
特許行政、
特許法の問題についての
要望を申し上げたいと思います。
まず、第一に、
日本弁護士連合会の持つ基本的態度でございますが、
工業所有権制度というものが持つ
法律的な性質について、政府はあまりにも無理解であるという点をひとつ十分にお聞き取りいただきたいと思います。と申しますのは、御存じのように、
特許とか
実用新案というものは、一定の発明なり考案なり、
法律で定められた要件があるものは当然
登録され、
登録されたものは独占的排他権を保証されるのであります。これは、その運用が非常に公正にされなければ、
工業所有権というもの、そもそもが国家の産業
技術の発展のために存する
制度が、運用が間違った場合には、これは産業の発展を阻害する
制度になるという要因をはらんでおります。いかに発明とか考案というものの保護の
制度がむずかしいか、これは
考えてみれば
考えるほど、
法律制度の中で一番むずかしいものでございます。では、それを貫く基本のものは何かといえば、その
権利の公正さというものを担保する法理論、そしてその
制度全体を貫く調和、これを欠いては
日本の
工業所有権制度というものが、産業の発展に貢献する
制度としての本来の性格がなくなってしまうのです。そういう点が、まず弁護士連合会としては、その政府案に対して根本的な批判を持つ理由でございます。
そこで、私のほうといたしましては、そういう
立場から見ますと、一体
日本の
工業所有権制度というものはどういう沿革をたどってきたか。これは
法案の提案理由を見ましても、
ドイツとかアメリカとかいうものが、
改正されあるいは
改正しつつあるから、わが国も
改正しろ、これは非常な誤りでございます。一体、
日本の
工業所有権制度というものは、昭和三十五年の四月一日に
改正されたばかりでございます。しかも、この
改正の場合に、国会の衆参両院の附帯決議までついておる。それからまだ五年もたっていない。その
改正のときの方向というものと現在のこの
法案の
内容というものは、全く逆方向でございます。これは、政府の
工業所有権というものに対する無定見だと、私ははっきり申し上げたい。三十五年の
法律では、それでは大正十年法のどこを
改正したか、
特許と
実用新案というものの関係だけについて申し上げますと、大正十年から
日本で四十年間もなれ親しんできた
特許と
実用新案というものの間には、はっきりした区別があった。そうして、ただ
特許から
実用新案のほうへだけの
出願変更だけを認めておった。それを昭和三十五年四月一日の
改正では、大幅に発明に
実用新案を近づけたわけです。そうして
特許と
実用新案との間に交互に変更できることを認めたばかりでなくて、意匠権との問にも、三者それぞれに交流できるような
改正をした。この
改正がようやく緒についてきてまだ五年もたたないうちに、いまの
改正法案は、
実用新案、
特許と
出願変更を絶対に認めない
制度、この
一つを見ても、いかに政府の提案する理由というものと
法案の
内容というものが
日本の現状にマッチしていないか、これは十分ひとつ御検討いただきたいと思います。
それから、いまのこういう
特許とか
実用新案というものは、五年、十年、十五年という長期間に限って一定の
権利を保証するわけですけれども、これが三十五年法施行後、まだ大正十年法の
権利というものがたくさんあるわけです。これは旧法による
権利として、現在でも裁判上ほとんどむしろそのほうが多いわけです。それがここでまた
改正になりますと、三つの
権利が併存するわけです。その出生時によって
権利能力の異なる
特許とか
実用新案というものが、世の中にあらわれるわけです。このことだけ
考えても、
制度改正は慎重にしなくちゃいかぬ。そういう認識がないのです。そういう点で、私のほうでは、まず時期尚早だということをはっきり申し上げたい。せっかく衆参両院であれだけの附帯決議をしていただきながら、それだけの努力をしているかどうか。
滞貨といえばすぐ件数で言いますけれども、件数の
内容は一体何か。
滞貨になった原因の
一つに、三十五年法による、
改正をしたということによる
滞貨というものが、私は原因の
一つになっていると思う。とすれば、そういうものの運用をもう少し見守って、そうして解決をしていくべきではないかと思う。
その次に、先ほどもどなたか申し上げましたけれども、国際的に見ても、現在絶対に
改正すべき時期ではございません。もう少し——これは
各国ともと申しますけれども、
ドイツの場合はEECという統一
特許法の問題があるし、アメリカではまだ現実にどういう方向にいくかきまっておりません。
日本の
特許制度というものは、もともと
特許と
実用新案と二本立てだということだけでも、国際的には一応特殊な形になっておる。その上に、
実用新案だけ大幅に
権利とそれからその付与
手続も非常に複雑に変えておる。これはますます国際的に
日本の
特許がわからなくなるのじゃないか。
日本人でもわからなくなってしまう。こういう複雑な
制度にするということ自体が、やはり将来の紛糾を生むし、
法律的にも疑義を多くするし、したがってまた
出願人の不公平さというものを招来してくる。これはぜひ御検討いただきたい。そういう点から見て、私のほうといたしましては、時期尚早だということをはっきり申し上げたい。そういう前提のもとに、現在の
法案の
内容を、時間もございませんので、私のほうで取り上げることだけ二、三ピックアップして御指摘申し上げたい。
まず、
特許と
実用新案というものの関係があいまいなんです。これは発明といい考案といって、両方分けているようですけれども、対象によっては
実用新案のほうがむしろ広いという面もある。そういうふうに、
特許なのかこれは考案なのかわからない
状態はそのままにしておいて、それには何も手をつけないでおいて、大正十年のときにははっきり分かれていたものを、三十五年法でもってほとんど両方を一緒にしておいて、そうして一番基本の問題には手を触れないでおいたままにしておいて、
手続だけ片方は大幅に簡易
審査、しかもこれは
出願変更なし、これでは国民がどちらに
出願していいか、判断をとる基準がない。基準がないということはどうするかというと、これは両方出しておくほかないわけです。ということは、この
制度改正のための
審査促進、
滞貨を減らさせるというための
法案が、逆に
出願の件数の増大を招くということは明らかでございます。現に、いまもどなたか御指摘がありましたように、法
改正の問題に関連して、
実用新案のほうだけ
出願件数の比率が多くなっております。これは、実施された場合にどうかということを暗示する
数字ではないかと私は思う。それから今度は、
実用新案の中で簡易
審査をとるのはいいじゃないか、これはそのことだけを伺えば、それはもっともだということでよろしいのですけれども、一体、それじゃその簡易
審査の
内容は何かということを見てみますと、大きく申し上げますと、
実用新案の
改正の基準は、
公開制度というものと、効力
確認審判を設けた、この二つでございます。
そこで、私が二つだけ御指摘申し上げたいのは、まず
公開制度というものですけれども、これは、
公開されまして、
異議申し立てがあれば
審査をする、その上で
登録する、
異議申し立てがなければ、形式
審査だけで
登録する。そうすると、
登録された
あとでは、同じように両方とも効力
確認審判の
手続が要請されるわけです。ということは、
制度的に
考えてみて、
異議申し立ての
手続を経て
登録されたものと、経ないで
登録されたものとの間に何らの区別がないわけです。これは
制度としてはちょっとおかしいと私は思う。全然なくて
登録されるなら、そういうふうに両方を公正に扱うべきだし、
異議申し立てというものを経てきたならば、それはそれなりに何かのものがなければならぬ。ところが、現在の
制度では、それじゃ
異議申し立て
制度があるんだから、それはそれだけ充実させたものに
考えればいいかというと、決してそうではない。
異議申し立てといいながら、これは非常に簡略なものしか
審査しないというたてまえになっておる。これはやっぱり
制度が、ちょっと思いつき的なものがあるのじゃないか。私が最初に申し上げたように、一貫した法の理論と全体を貫く調和というものに対する認識がないから、こういうことになる。今度は
効力確認の
審判という、これを、今度の
実用新案が将来施行された場合に、
権利行使が乱用されないようにチェックする
一つのポイントとして設けられた。これは国会に対する提案理由にもありますけれども、効力無効原因がないことの確認を求める
審判、こうなっておる。
無効審判というものは従来どおりあるわけです。これは無効理由がないこと、ですから、要するにその無効理由がある
審判の
内容とは同じことをやるわけです。それですから、この
無効審判というものと効力
確認審判が一体どういう関係にあるのか。そうして片方見ますと、効力
確認審判というものは、訴訟でも出すとか、そういう侵害が起きなければ、これは求められないという制限がある。片方
無効審判はいつでも求められる。そういうふうに、請求
手続も違う。それから効力
確認審判というものは、それじゃ一体当事者間でやる
審判なのかどうかというような点についてもわからない。こういうふうに、効力
確認審判自体の
内容が非常にわからないと同時に、裁判との関係が非常に不明確である。こういう
制度を置くということは、これは
出願滞貨を減らす、そのこと自体は悪いことではございません。もちろんしてもらわなければいけないことですけれども、そのあげくに、
登録された
あとから何にもならない
権利じゃ何もならない。効力
確認審判が何カ年かの間に必ずしも進められるという保証はないわけですから、たとえば、
実用新案が
登録される、今度は期間八年である、そのうちに侵害者があらわれた、さて訴訟を出す、それから効力
確認審判だ、効力
確認審判は高等
裁判所にいく、その結果が確定するまでは訴訟は進められない。効力
確認審判できまった、いいことになる。今度
無効審判のほうがまだある。これは二つあるわけです。さあその場合に、
裁判所が出す効力
確認審判でいいといったからやっていいか。そうすると、
審判手続中には、必要があるときには中止することができるという規定があるわけです。そっちのほうでまた裁判がとめられるかもしれない。時間切れになることはむしろ普通の
状態ではないか、ということになると、
実用新案に差しとめ請求権を与えたということになっておりますけれども、実情としては、差しとめ請求権が実際に
行使されることはない。これはなしくずしの立法だと私は
考えるのです。だから、ないならないということなら、まだ国民はわかりますけれども、一応差しとめ請求権があるというつもりでの
権利、実際には、これは役に立たない。こういう
制度は立法の段階でもう少し検討しなければならない。そういう点で、これは法理論並びに運用上、私は大いに
考えていただきたいと思います。これは
特許のほうに関連いたしましても、
特許の差しとめ請求権、仮保護の場合の差しとめ請求権の問題、これは弁護士連合会の
意見書にもありますので、きょうは省略いたしますけれども、
内容的に、私のほうではっきり法の欠陥だということを指摘したい問題があるわけです。
そこで、こういうものに対して、最後に、弁護士連合会としての
要望を取りまとめて申し上げたいと思います。まずこの
法案の審議並びに上程に至る経過が不明朗だ。これは私自身、
日本弁護士連合会の
委員のほかに、政府の審議会の専門
委員もやっておりました。そして、三十八年以来ずっと審議会に列席し、発言の
機会を与えられ、
自分で直接タッチしてまいりましたので、そういう点からも、ぜひこの際、私一言申し上げたいのは、この
工業所有権制度というものは、要するに民間のそういう協力がなければ、
制度だけではうまくいくはずがないのです。にもかかわらず、この
工業所有権というものをあまりにも経済立法的な評価で
考え過ぎている。それは公定歩合を一分上げる下げるということとはおのずから違うわけです。悪ければ改めるということではないのです。やはり
改正する前に十分
意見を聞くべきです。そうして、政府の提案理由、並びに解説を見ますと、常に、審議会で三年近くにわたって審議してきたということをうたい文句にしておられます。この
内容を申し上げますと、審議会を開いたのは大体五十回くらい、しかし、その
内容はどうかと申しますと、これは商工
委員会のこちらの調査室でまとめられた要点及び問題点の中にございますけれども、その場合、三十八回は小
委員会、小
委員会が終わってから、わずか総合部会は一回——私は総合部会しか出られません。総合部会一回、総会は二回、これで
答申を採決してしまったわけです。小
委員会の構成は、ほとんど
特許庁関係者、これはたいへん御苦労で、もちろんそのことについてはたいへん敬意を表するわけですけれども、それなればこそ、小
委員会で
答申がきまったら、その小
委員会案について、なぜもう少し慎重に審議会にはかってくれなかったか。これは今後のこともありますので、十分その点をひとつお
考えいただきたい。
それから、今度は、
答申から
法案に移る経過ですけれども、これがまたすこぶる私は不可解です。弁護士連合会などは、
答申が出てから何も知らされていない。閣議を経まして、国会に入ってから、
ほんとうに初めて
法案を見せられた。見ましたら、
答申にないことだらけだ。ですから、この政府のほうの説明を見ますと、国会に上程されてから
反対運動が始まったといいますけれども、前に
反対するチャンスがないのです、知らないのですから。これはひとつ、今後のこともございますので、十分常に民間の
意見を——私たちは
反対のために
反対しておるわけじゃない、国家のために憂慮して申し上げておることだから、これはひとつ今後十分
意見を聞く
機会を与えていただきたい。これは特に申し上げたい。
その次に、最後に
一つ申し上げたいことは、なぜそれでは、三十五年法のときにあれだけ丁重な附帯決議があるにかかわらず、
特許庁ではどうして
滞貨がくずれないと言っておるのかということですけれども、私はこれは内部的なことはわかりませんけれども、外部から、私のほうの
委員会で、これは皆さんの
意見で、つくづくみんながそう申しますことですけれども、私ももちろんそう思っておりますけれども、三十八年審議会の始まりましたときの長官から、現在の長官まですでに四代かわっております。
特許庁のこういう非常の場合です、
特許行政にとりまして。そういう非常の場合に、平時と同じようにかわっておる。私は、参考のために、
特許庁創設以来の長官の在任期間を全部調べてみた。実に早くかわっておる。一番早い方は数カ月という人がいらっしゃいます。いままでのことはともかくとして、こういう非常の場合には、
特許庁の長官の人事問題はもう少し
考え直していただかなければ、いかに予算だ、何だといっても、一番上の方が次々にかわっていったのでは——だから、私申し上げたように、三十五年法の
改正と今度の
改正との問に全く連絡がない。こっちへ行ったのが、またこう行く。これはやはり長官の人事にも関係ないことはない。そういう意味で、これは
特許行政の基本的な問題として、ひとつその人事の問題は御検討いただきたい。どうしろということまでは、私のほうはわかりません。そこまでは申し上げませんけれども、少なくとも、いままでの慣例でいいということは絶対にございませんので、その点、ひとつお含み置き願いたい。
大体、時間も経過いたしましたので、以上をもって連合会の
意見陳述を終わります。