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1966-07-26 第52回国会 衆議院 商工委員会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    国会召集日昭和四十一年七月十一日)(月曜 日)(午前零時現在)における本委員は、次の通 りである。    委員長 天野 公義君    理事 浦野 幸男君 理事 小川 平二君    理事 河本 敏夫君 理事 始関 伊平君    理事 田中 榮一君 理事 板川 正吾君    理事 加賀田 進君 理事 中村 重光君      稲村左近四郎君    内田 常雄君       遠藤 三郎君    小笠 公韶君       小沢 辰男君    大平 正芳君       海部 俊樹君    神田  博君       菅野和太郎君    黒金 泰美君      小宮山重四郎君    佐々木秀世君       田中 六助君    竹山祐太郎君       中村 幸八君    二階堂 進君       三原 朝雄君  早稻田柳右エ門君       石野 久男君    大村 邦夫君       五島 虎雄君    桜井 茂尚君       沢田 政治君    實川 清之君       島口重次郎君    田中 武夫君       田原 春次君    山崎 始男君       麻生 良方君    栗山 礼行君       加藤  進君 ――――――――――――――――――――― 昭和四十一年七月二十六日(火曜日)    午前十時四十一分開議  出席委員    委員長 天野 公義君    理事 浦野 幸男君 理事 河本 敏夫君    理事 始関 伊平君 理事 田中 榮一君    理事 板川 正吾君 理事 加賀田 進君       内田 常雄君    海部 俊樹君       神田  博君    中村 幸八君       三原 朝雄君  早稻田柳右エ門君       石野 久男君    桜井 茂尚君       沢田 政治君    實川 清之君       田中 武夫君    多賀谷真稔君       田原 春次君    伊藤卯四郎君       栗山 礼行君  出席政府委員         内閣法制局参事         官         (第四部長)  田中 康民君         公正取引委員会         委員長     北島 武雄君         通商産業政務次         官       進藤 一馬君         通商産業事務官         (大臣官房長) 大慈彌嘉久君         通商産業事務官         (重工業局長) 高島 節男君  委員外出席者         参  考  人         (日本鉄鋼連盟         専務理事)   齋藤 正年君         参  考  人         (日本鉄鋼産業         労働組合連合会         中央執行委員         長)      三戸 国彦君     ――――――――――――― 七月二十六日  委員五島虎雄君、實川清之君及び麻生良方君辞  任につき、その補欠として多賀谷真稔君、久保  田鶴松君及び伊藤卯四郎君が議長指名委員  に選任された。 同日  委員久保田鶴松君、多賀谷真稔君及び伊藤卯四  郎君辞任につき、その補欠として實川清之君、  五島虎雄君及び麻生良方君が議長指名委員  に選任された。     ――――――――――――― 七月十一日  特許法の一部を改正する法律案内閣提出、第  五十一回国会閣法第一二九号)  実用新案法の一部を改正する法律案内閣提出、  第五十一回国会閣法第一三〇号) 同月二十二日  輸入韓国ノリの販売に関する請願浦野幸男君  紹介)(第一一号)  同(天野公義紹介)(第一二号)  同(宇都宮徳馬紹介)(第一三号)  同(和爾俊二郎紹介)(第一四号)  同(押谷富三紹介)(第一五号)  同(木村武雄紹介)(第一六号)  同(黒金泰美紹介)(第一七号)  同(島村一郎紹介)(第一八号)  同(砂田重民紹介)(第一九号)  同(田中伊三次君紹介)(第二〇号)  同(田中榮一紹介)(第二一号)  同(谷川和穗紹介)(第二二号)  同外二件(西村直己紹介)(第二三号)  同(長谷川四郎紹介)(第二四号)  同(福井勇紹介)(第二五号)  同(福田繁芳紹介)(第二六号)  同(砂原格紹介)(第三七号)  東京にアジア・エレクトロニクス研修センター  設置に関する請願前田正男君外一名紹介)(  第三〇号)  国産電子計算機利用増大に関する請願前田  正男君外一名紹介)(第三一号)  バナナ業界企業合理化に関する請願秋山徳  雄君紹介)(第五七号)  同(滝井義高紹介)(第五八号) 同月二十五日  鳥取県に中小企業金融公庫支店開設に関する請  願(足鹿覺紹介)(第二一一号) は本委員会に付託された。     ――――――――――――― 七月二十五日  輸出保険改善に関する陳情書  (第二  五号)  中小企業海外協力会社創設に関する陳情書  (第四九号)  街路灯料金割引に関する陳情書  (第八〇号)  園芸等生産関係に対する農事用電力料金の適用  に関する陳情書  (第一〇五号)  国立東北工業開発試験所設置に関する陳情書  (第一〇九号)  四国西南地域開発に関する陳情書  (第一一〇  号)  日本万国博覧会科学発明館建設等に関する陳  情書  (第一二一号)  中小企業対策等に関する陳情書  (第一  二九号) は本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  国政調査承認要求に関する件  参考人出頭要求に関する件  工業に関する件(鉄鋼業に関する問題)      ――――◇―――――
  2. 天野公義

    天野委員長 これより会議を開きます。  国政調査承認要求の件についておはかりいたします。今国会における当委員会の活動を円滑ならしめるため、従前どおり議長国政調査承認要求をいたしたいと存じます。  まず調査する事項といたしましては  通商産業基本施策に関する件  経済総合計画に関する件  公益事業に関する件  鉱工業に関する件  商業に関する件  通商に関する件  中小企業に関する件  特許に関する件  私的独占の禁止及び公正取引に関する件  鉱業と一般公益との調整等に関する件  以上十項目といたし、調査目的といたしましては、  一、日本経済総合的基本施策樹立並びに総合調整のため  二、通商産業行政実情調査し、その合理化並びに振興に関する対策樹立のため として承認要求をいたしたいと存じますが、御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 天野公義

    天野委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。  なお、議長に対する要求書の作成に関しましては、従来どおり委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 天野公義

    天野委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。      ————◇—————
  5. 天野公義

    天野委員長 参考人出頭要求の件についておはかりいたします。  理事会において御協議を願いましたとおり、内閣提出特許法の一部を改正する法律案、同じく実用新案法の一部を改正する法律案審査のため、来たる二十九日参考人から意見を聴取することとし、その人選、手続等に関しましては、委員長に御一任願うことに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  6. 天野公義

    天野委員長 御異議なしと認め、さよう決しました。      ————◇—————
  7. 天野公義

    天野委員長 工業に関する件について調査を進めます。  この際、おはかりいたします。  理事会において御協議を願いましたとおり、鉄鋼業に関する問題調査のため、本日参考人として日本鉄鋼連盟専務理事齋藤正年君、日本鉄鋼産業労働組合連合会中央執行委員長三戸国彦君、以上二名の方から意見を聴取することとし、その手続等に関しましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  8. 天野公義

    天野委員長 御異議なしと認め、さよう決しました。  参考人皆さまにおかれましては、御多用中にもかかわらず御出席をいただき、まことにありがとうございました。  会議を進める順序といたしまして、最初に、参考人からそれぞれのお立場から大体十分程度の御意見をお述べをいただき、次に、委員の方から御質疑がありますので、これに対しまして忌憚なくお答えを願いたいと思います。  それでは三戸参考人にお願いいたします。
  9. 三戸国彦

    ○三戸参考人 ただいま御紹介にあずかりました日本鉄鋼産業労働組合の三戸でございます。   〔委員長退席始関委員長代理着席〕  私たちは、現在の鉄鋼業のあり方につきまして、将来に向かって非常に関心があるわけでございますが、そういうときにこの機会を与えられまして、鉄鋼労連意見を徴せられることにつきまして、厚くお礼を申し上げたいと思っております。また、ここで私が意見を申し述べましたならば、当然これは将来にわたって国会皆さん方の手をわずらわし、最もいい方法で解決されるようお願いをするわけでございます。  先般来私たちは、経済政策の転換に関する申し入れを政府に行なったわけでありますが、それによりますと、昨年来日本経済が経験しつつある経済的困難はまことに容易ならないものがあるわけであります。戦後最大といわれる不況はすでに二年にわたって続いておりますが、この間中小企業倒産は、統計にあらわれた限りでも一万件をこえておる状態であります。さらに労働者の首切り、賃金の切り下げは各産業に広がり、失業者増大の一途をたどっております。しかも、その中で消費物価上昇だけは日とともに激しくなるばかりでございます。このような中にありまして、私たち労働者をはじめ、中小企業者農民等国民の圧倒的多数の者がいかに大きな犠牲と苦しみをなめさせられているかにつきましては、ここで私があらためて多言を費やす必要はない、このように考えております。  言うまでもなく、今日の事態は、すべて国民生活犠牲の上に大資本利益のみを追求する立場で展開されてきた、いわゆる政府高度経済成長政策によってもたらされたものにほかなりません。今日の深刻な過剰生産不況が、国民生活向上を不当に抑制しているという現状もまた見のがすことはできないわけでございます。資本蓄積設備拡張のみがあまりにも過大に進められておることから、これによって生じた生産消費のはなはだしい不均衡に基づくものであることは何人もこれを否定し得ないところが現状でありましょう。  また今日、国民生活最大の脅威となっている消費物価上昇につきましても、これが大資本本位高度成長政策によって必然的にもたらされた構造的な矛盾によるものであります。特に農漁業中小企業等消費財サービス部門における生産力拡大近代化の著しい立ちおくれと、反面における生産性向上コスト低下の著しい大企業部門での独占的な価格支持が問題の核心であることは、今日では政府みずからがこれを認めておられるところであります。  今日の経済困難の原因と責任の所在がこのように明らかであります以上、政府がとるべき今後の政策方向がいかなるものであるべきかはおのずから明らかであります。  これまで過度資本蓄積犠牲となって不当に立ちおくれさせられた国民生活水準の抜本的な改善を進めるとともに、消費財サービス部門供給力の大幅な拡大強化中心とした消費物価問題の根本的解決をはかることこそ、今日の経済政策最大の目標でなければなりません。そして、これから引き起こされる最終需要拡大中心といたしまして、生産消費の不均衡漸次的解消をはかることが、今日の段階国民利益に即した最も合理的な不況克服方向であるわけでございます。もとより国家地方財政の運用も、個別企業経営政策も、すべてこの方向に沿って調整せられるべきであり、その過程で生ずる種々の犠牲負担は、当然のことながら、多年にわたって巨大な蓄積を進めてきた大資本高額所得階層の負うところでなければなりません。  およそ以上のような方向こそが、国民多数の利益に即した経済困難の打開の方向であり、これがまた今日の国民の圧倒的多数の切実な声にほかならないわけでございます。  こういうふうに私たち鉄鋼労連が現在当面しているものは、いわゆる大企業中心によるところの設備過剰投資、これに基づきまして現在引き起こされている倒産と首切り問題、それからまた将来にわたって起こるところの大きな犠牲を今日ほど痛切に感ずることはないわけでございますので、その点につきまして、現在鉄鋼業が当面している諸問題につきまして、私たちはここで拾い上げ、それを皆さま方の前に披露し、そうして将来への検討の課題としていただきたいことをお願いするわけでございます。  さきに申し上げました過当競争設備の過剰問題につきまして、その実情は、今日の鉄鋼業が内包しているところの矛盾、これはきわめて深いものがあり、現今これの解決を迫られている問題は非常に多いわけでございます。これらの中でも最も根本的なものといたしましては、大資本間の過当な設備投資競争と、その結果としての設備過剰の問題であります。現に大きな論議を呼んでいる粗鋼生産調整の問題をはじめといたしまして、中小企業、平・電炉問題、輸出問題等、他のすべての問題の解決は、結局のところ、この設備問題の解決いかんにかかっているといっても差しつかえないのではないか、このように私たちは考えております。  次に、鉄鋼における設備投資競争と、それによる設備過剰がいかにひどい状態にあるかは、すでにこれは皆さま方周知のところでございます。いわゆる高度成長政策に乗って展開された三十年代における無政府的な設備拡張競争の結果といたしまして、四十年末までに粗鋼設備能力は五千四百五十万トンに達しております。四十年度生産の実績は四千百三十万トンでありますので、これに対しまして約千三百万トン、能力におきまして二五%もの余剰となっているわけでございます。四十一年度中においては、さらに鋼管福山神鋼灘浜、ここにおける大型高炉完成稼動を始めるわけであります。さらに八幡富士などで既存能力の増強を含めて三百五十万トンの能力増が見込まれるわけであります。本年度末の粗鋼能力は五千八百万トンをこえるわけでございまして、一方本年度中の生産見通しは四千六百万トン程度であるといわれておりますから、依然として余剰能力は千二百万トンにも達することになるわけでございます。  公債発行など最大限の人為的な景気刺激や、昨今の激しい不況のあとを受けました在庫投資の著しい活発化などで、業況が急激に好況に転じている中で、このような状態ですら、なおこれだけの余剰能力が存在しておるわけでございます。  以上でございますけれども、しかしながら、問題はむしろこれからであります。このような設備過剰投資が明らかであるにもかかわらず、鉄鋼大手企業自社シェア拡大業界におけるところの覇権の争奪、このような個別企業の狭い利害のみにとらわれて、無秩序な設備拡張競争をいよいよ激化させているのが現状ではないでしょうか。  昨年末、業界設備調整を一応実現はしておりますが、この中でも高炉、それから転炉建設野放し状態にあるわけでございます。明四十二年中には、住友和歌山の四号、それから八幡堺の二号、東海製鉄の二号、鋼管福山における二号、川鉄水島における一号、これらの合計千万トンが完成、稼働を始める。さらには自後の各社のそれぞれの計画をそのまま実施に移すとしますれば、四十三年から四十五年度中に八幡君津の一号、富士鶴崎の一号、鋼管福山の三号、川鉄水島の二号、住友和歌山の五号、神鋼加古川の一号、以上のように新設分だけで合計千二百万トンが追加されるわけでございます。  一方、在来の製鉄所高炉炉容拡大技術改良におけるところの平炉から転炉への切りかえなどによる能力増は、最近非常に目ざましいものがあります。また大手六社以外の各社能力増は、これから生ずるところのすべてのものを総合いたしますと、粗鋼生産能力は、四十一年末五千八百万トン、四十五年度にはどんなに控え目に見積もっても八千二百万トン程度に達するのではないかと推測されるわけでございます。四十五年度需要見通し六千万トンに対して実に二千二百万トン、二七%の能力余剰であります。  次に、一方、圧延段階での能力過剰は、早くから通産省当局自身によって指摘されてきたところであります。大体におきまして、現有施設で四十三年後までの需要をまかなって余りあると言われております。ところが、それにもかかわりませず、昨今の設備二年休戦を破る増設計画各社軒並みに登場いたしまして、現に論議を重ねているのは周知のとおりであるわけです。  しかし私たちは、圧延設備についての議論もさることながら、根本は、以上述べた鉄源段階での過剰投資が問題であると考えております。圧延はきわめて能力伸縮性がございまして、幾らそこで押えてみても、鉄源能力拡張すれば、結局同じであります。また高炉転炉段階で新立地の製鉄所建設野放しにしておいて、それにつきものの圧延設備だけを押えようというのはもともと無理な話である、私たちはこのように考えておるわけでございます。  では、以上申し上げましたそれらから生ずるところの弊害につきまして若干申し述べてみたいと思います。  いずれにしても、鉄鋼業設備の過剰は現在はなはなだしいものがありますし、これも放置しますれば、今後いよいよ重大化することはあまりにも明白であります。このような過当な設備競争設備過剰の不合理さ、これのマイナス面は、個々にあげれば数限りがございませんが、その若干を申し述べてみますと、その一つといたしまして、現在のまま放置をしますれば、わが国最大基幹産業であるところの鉄鋼が、遠からず未曾有の過剰生産恐慌に突入いたしまして、操業率の破壊的な低下、全般的な企業不安と中小企業崩壊、それから雇用不安など重大な混乱と危機の発生を見ることは必至であるといわなければなりません。このような事態発生は、日本経済全体にとりましても、これはゆゆしき問題となることは自明でございます。  次に、こうした恐慌の形をとるにいたしましても、あるいは現にとられているような生産調整カルテル化の形をとるにいたしましても、いずれにせよ、このままで進むなれば、設備遊休化は二千万トン以上にも達するわけでございます。  ところで、現在鉄鋼設備費は、粗鋼トン当りにつきまして少なくとも二万五千円ないし三万円を要します。しかも、これには政府や自治体の負担にかかる埋め立て並びに港湾、それから水資源関係間接的投資は含まれておりませんので、こういう状況のもとで二千万トン分の設備を遊ばせるということは、実に五、六兆円もの資金、すなわち国民の血と汗の結晶を遊ばせておるということにつながるわけでございます。これからはまさに、私たちといたしましても許しがたい国富の乱費でございまして、国民経済的に見ましても、あまりにもはなはなだしい資源のロスといわざるを得ないわけでございます。  次に、かような過当な設備競争は、合理化効果の点でもきわめて問題がございます。すなわち、過度借金依存によって際限もなく続けられていくために、設備技術近代化によりまして、直接的な生産コストは下がっても、金利負担などの資本費コストの膨張が慢性化し、結局総コストはいつまでたっても下がらぬ、せっかくの合理化効果が減殺され、巨額の投資にもかかわりませず、高い鉄を買わされるということになりまして、成果が国民経済に還元されないことになるわけでございます。それのみか、資本構成はますます悪化いたしまして、経済基盤の弱さを抜け出すことができなくなる。これでは本来の合理化目的は全くくずれ去ってしまうわけでございます。  次に、こうした不合理は、設備過剰の圧力で生産調整が行なわれる場合には特に鋭くなってくるわけでございます。借金依存設備であるだけに、操業度を落とした場合におきましては、この場合のコスト高は一段と大きいものになります。結局その上昇分は、生産調整を通じまして形成されるところの安定価格の中に持ち込まれるわけでございます。一方では何兆億円という巨大な設備を遊休させておきながら、本来期待し得心価格よりも著しく割り高な製品を供給するという不合理きわまる事態が、以上によって生ずるわけでございます。  次に、過当な設備競争のもとで中小企業は極度に圧迫されておるのが現状でございまして、中小企業はもちろんのこと、そこに働く労働者をも含めて生活権を奪われ、それは生活崩壊につながっておるわけでございます。節度ある発展のもとで行なわれるなれば、それぞれの特殊分野を守って十分共存し、生きていけるはずの中小企業が、大手過当競争犠牲となってつぶされていくのが現状でございます。  中小企業にとどまらず、大手の内部におきましても、過度設備競争がもたらすところの設備過剰の結果といたしまして、まだ十分有効に活用できる償却済みの効率高い生産能力が、伝統ある技術と人、組織もろとも、むざむざとスクラップ化されていくといのが現状であり、そうしてそれによっていま言ったような不合理が生ずるのではなかろうかと、このように私たちは考えておるわけでございます。  次に、過当競争は国際的にも矛盾拡大しておるわけでございまして、現在欧州や米国の鉄鋼業におきましては、日本鉄鋼の進出に対抗いたしまして、大規模な設備役資や合同が展開されておるわけでありまして、設備過剰投資はいまや国際的に深刻な問題を投げかけておるわけでございます。こうした事態は、わが国の無節度な過度設備競争によって誘発された面が少なくないわけでございまして、最近の外国の動向が今日わが国設備競争を一段と刺激しておりまして、それを正当化する唯一の口実になっておりますが、これはさきに申し上げました関連におきましても、一種の悪循環ではないでしょうか。  次に、生産調整の問題につきまして少し述べてみたいと思っております。  以上、設備の過剰を中心といたしまして、そこからもたらされるところのたくさんの矛盾を述べてまいりましたが、その中で、今日特に大きな議論を呼んでおる生産調整の問題にここで一言しておきたいと思います。  実際問題といたしまして、野放し増産競争に突っ込ませたらどのような事態が生ずるかはおのずから明らかであるだけに、いま直ちにこれを撤廃し得ないという主張も現状では理解できないではありませんが、しかしながら、個別企業の私的な利害だけにとらわれた無秩序な設備拡張競争をそのままにしておいて、その結果として生じてくる設備の過剰、生産過剰のしりぬぐいをもっぱら生産調整に求めているのでは、どのように説明をしてみましても、国民経済的に見まして不合理であるばかりではなく、需要家はもちろん、国民世論の納得を得ることはできないであろう、このように考えております。  次に、特に今回の生産調整をうやむやのうちに恒久化し、設備はつくるだけつくっておいて、過剰問題は生産調整で処理をし、いわゆる管理価格の形成によって安定利潤を確保するというような考え方につきましては、国民全体の利益に著しくこれは敵対的な行き方といたしまして、私たちは強く反対をするものでございます。また、こうしたいわゆるアメリカ型の生産調整体制化は、結局雇用面におきましてもレイオフのような形の雇用調整制度を不可欠とするでありましょうし、わが国労働事情のもとで、組合としてこれは絶対に受け入れることができないわけでございます。もしもそれらを経営者が将来にわたって強行するようなことがありますれば、重大な社会問題が免ずるであろうことをここに付言しておきたいと思っております。  では、かような事態をとらえて、今後の鉄鋼業政策につきまして若干意見を述べてみたいと思います。  設備の調整は、いかなる困難を排除いたしましても、これは実施されなければなりません。その内容におきましても、単に圧延部門の新設規制のみではなく、製銑、製鋼など鉄源段階での設備投資も、需要の伸びとともに、これとにらみ合わせてきびしく規制すべきであります。また、普通鋼のみでなく、特殊鋼分野におきましても、設備調整を十分に実施すべきでありまして、この分野では、中小専業メーカーの保護も含めて、大手の進出を強く規制する必要があろうかと思っております。  その具体的な方法といたしましては、第三者をまじえた需要見通しの厳密な再検討、いわゆる設備調整の基準となるところの需要見通しが、現状では、設備能力の評価の点におきましても、需要見通しの点におきましても、ともにきわめて不可解な秘密主義のもとに、鉄鋼業界と通産省の間だけで恣意的、便宜的にやられているきらいがあるわけでございます。これを根本的に是正することが必要ではないでしょうか。  次に、鉄源での段階過剰投資の規制につきましては、粗鋼ベースでの設備過剰の展望につきましては前に述べたとおりでございますが、現在工事が進行中の新設備と既有設備の増強とを合わせただけでも、四十二年度中には七千万トンに達する生産が上がるわけでございます。したがって、製銑、製鋼段階では、少なくとも四十五年度までは設備の新設は一切押えるべきではないでしょうか。  次に、圧延部門の設備休戦の厳守、これにつきましては現在休戦が行なわれておるわけでございますけれども、圧延部門の過剰はあまりにも明らかでありまして、この分野での二年の休戦は、これは例外なしに厳守をされ、来年度以降につきましても、きびしくこの点につきましては規制をすべきであることを私たち意見として持っておるわけでございます。現在、部分的には品不足と市価の高騰が生じておりますが、これはこれまでの減産によるところの一時的現象でありまして、現在設備操業度を本格的に高めまするなれば、なおほとんどの品種にわたって著しく能力に余裕が生ずるわけでございます。  次に、鉄鋼業業界自体としては、すでにこれらの規制を自主的に実施する能力を持ち合わせていないことを、私たちは今日までの経過の中で明らかなものとして判断をするわけでございます。したがって、早急に第三者を交えたところの権限ある何らかの機関を設置いたしまして、投資の調整管理を実施すべきでございまして、必要なればそのための立法措置をとるべきであろう、このように考えております。  設備調整に関しましては、大合同、それから再編成問題等が現在新聞紙上をにぎわしておりますが、巨大資本の経済的、社会的な支配力を極度に強めるような合同は、必ずやこれは独占価格の形成を将来にわたってもたらすでありましょうし、政治的にも、巨大資本による政治への反動的圧力を増大させることになりますから、デモクラシーの観点からいたしまして、これらはわれわれとして賛成しかねるわけでございます。  当面の諸矛盾は、現状の体制のもとで私企業に対する民主的なコントロールを強めることによってこれは解決していくことが望ましいと私たちは考えております。しかし、現状見られるように、それでもなお解決しないということになりますれば、鉄鋼業の抜本的な社会化または国有化に進まざるを得ないだろう、こういう主張も持っておるところでございます。  次に、生産調整につきまして若干の意見を述べてみたいと思います。  さきにも触れましたが、基本的には生産調整につきましては私たちは反対の立場をとっております。特に、設備競争を放置いたしまして、そうして生産調整をやるということにつきましては、これは全く反対の態度を表明するわけでございます。しかしながら、実際問題といたしまして、今日の設備過剰の状態のもとにおきましては、野放し増産競争は大混乱を引き起こすでありましょうし、またかりに設備調整が軌道に乗ったといたしましても、四十二年から四十三年度末までには設備と市場の条件は変わっていかないだろうと私たちは考えておるわけでございます。  そこで不可避的に何らかの生産のコントロールが必要になるわけでございますが、それはあくまでも国民経済全体の利益に沿ったものといたしまして、民主的に管理されることが前提でなければならないわけでございます。そこでは当然鋼材価格の問題が中心点となるわけでございます。一般的な好況の中におきましてあえて生産調整をやる以上、需要家や、または国民一般世論を納得せしめるような適正な価格水準の保持というものは、これは不可欠なものであろうかと考えております。その場合、市況の動向を見まして業界生産を調節するといった業界まかせのやり方では、これは通らないでしょうし、やはり民主的な性格を持った第三者的な機関の監視と介入が問題になろうかと思っておるわけでございます。  次に、さきに少し触れました中小企業の問題につきまして若干申し述べたいと思います。  今日の鉄鋼中小企業の問題は、すでに大資本による直接的な掌握下に置かれまして、加工部門化し、分工場化しておる系列企業の問題と、相対的に大手に対して独占的な地位にあるその他企業の問題とに大別することができるわけでございます。このうち特にここで一般的な関心を提起いたしたいのは、いま申し述べました後者のグループの問題でございます。  そこでは普通鋼、それから平・電炉メーカーと一部の特殊鋼メーカーが中心となるわけでございますが、この分野につきましては、もっぱらくず鉄を再生いたしまして鉄をつくる分野として、いわゆる分野的な特色をはっきり持たした上で、これを積極的に保護育成する政策をとることがぜひとも必要ではないでしょうか。それはまた国民経済の上から見ましても非常に有効であるわけでございます。一貫メーカーでの転炉生産が全面化し、くず鉄需給には現在余裕が生じておるわけでございますので、戦後の鉄鋼消費構造の高度化の結果といたしまして、今後国内くずの発生量の増大が当然として見込まれるわけでございます。このような原料面での条件に加えまして、製品の面におきましても、中小並びに平・電炉メーカー、これらは大手がえてでない品種を当然こなし得るところの特性を備えておるわけでございますので、分野面での一貫メーカーとの間に一定の分業化を形づくった上で、大手にも十分分野尊重を義務づけ、設備技術、それから資金等にわたって、これら分野の中小の積極的な育成をはかるべきではないか、このように考えておるわけでございます。  次に、鉄鋼業合理的管理のためのいわゆる民主的な機関の設置を提案するわけでございますが、さきにも申し上げました、何回か出てまいりました機関のあり方につきましては、いずれにいたしましても、鉄鋼に対する正しい産業政策を立案実施いたしまして、この産業合理的な運営を保証するためには、権限ある何らかの機関の設置がここで必要となってくるのではないか、このようにわれわれは考えておるわけでございます。そうして、この種機関は、基幹産業としての国民全体の立場を真に反映するところの民主的な性格のものとしなければなりません。私たちといたしましては、いまあげました機関の考えにつきましては、当然、各政党、それから組合の代表も参加をしていただきまして、さらに学識経験者をこれに入れる場合は、その推薦権を政党と組合にも与えるべきではないでしょうか。またこれらの実現以前でも、たとえば鉄鋼基本問題小委の構成の民主化ということも十分考えてみる必要があろうか、このように考えております。  最後に、私たち労働者立場といたしましては、今日の鉄鋼業のすべての産業上の問題におきまして、私たち労働者は徹頭徹尾最大犠牲負担者であるわけでございまして、他方、生産と能率向上の面におきましては、おそらく日本鉄鋼労働者などは他の国に比べまして非常に優秀なものがあるわけでございます。私たち労働者はこの産業発展の最大の貢献者でもあります。それはコストについての国際比較一つを見ただけでも、この点は明白であるわけでございます。今後の一切の産業政策の推進にあたりまして、この事実は銘記さるべきでございまして、いやしくもこれ以上労働者に過重の犠牲負担を強要するような政策は決してとられてはならない、このように考えておるわけでございます。逆に今後の産業政策は、抜本的な時間短縮、賃金水準の引き上げ、雇用の拡大を前提としたものでなければならないことを、私たちは終わりに際しまして特にこれを付言し、皆さん方の将来にわたっての協力をお願いするわけでございます。鉄鋼労連といたしましては初めてこのような場に出てまいりましたけれども、われわれの念頭にあるものは、現在鉄鋼業の占めるところの過当競争が、将来日本の国益をそこない、そうして鉄を生産しないところの、世界でも優秀な溶鉱炉ないしその他の施設が、ただ観光資源として放置されるような状態のこないように、私たちは今日、少し早目ではございますが、皆さん方の前に問題を提起いたしまして、はなはだ簡単でございまして、内容につきましても詳細を皆さん方の心に訴えることができなかったと思いますが、どうかその間のわれわれの考え方を十分くみ取られまして、将来にわたって特に皆さん方の御指導とそれから善処とをお願いいたしまして、簡単でございますが、私の意見を述べさしていただいた次第でございます。御清聴ありがとうございました。
  10. 始関伊平

    始関委員長代理 以上で参考人からの一応の陳述は終わりました。     —————————————
  11. 始関伊平

    始関委員長代理 次に、参考人並びに政府当局に対する質疑の申し出がありますので、これを許します。板川正吾君。
  12. 板川正吾

    板川委員 参考人に伺いますが、まず鉄鋼連盟の齋藤専務に伺います。  鉄鋼が当面いろいろの問題点があることは、いま参考人鉄鋼の労働組合の三戸さんが言われたとおりだと思います。本来ならば、ひとつ鉄鋼連盟の立場から参考人意見を聞きたかったのですが、質問に答えてということであります。  そこで簡単に伺いますが、鉄鋼産業秩序の問題をめぐって永野構想というのが新聞で発表されておりますが、どうも永野構想というのは、新聞で見る限りでは、当初の案と最近の二社統合案と非常に変わってきていると思っておるのです。この永野構想というのは一体どういう内容で、どういう目標を持っておるのか、私は鉄鋼連盟として把握しておると思うのでありますが、この点をひとつ明らかにしてもらいたいと思います。  実はわれわれもいろいろ意見を聞いて参考にしようと思っておるのですが、ある時期のを永野構想だろうと思って考えておると、その次新聞に出ると前の意見と若干食い違う。最後になったら最初と全く変わった構想になっておる。一体どういうところに永野構想のほんとうの目的があるんだろうか、また永野氏はいまどういうことを現実に考えておるのだろうか、そういう点、ひとつ連盟のほうで把握した限りにおいて説明してもらいたいと思います。
  13. 齋藤正年

    齋藤参考人 お答えいたします。  私、富士鉄の永野社長から直接に永野構想について伺ったこともございませんし、永野社長の幾つかの発言が、連盟の正式の会議の席上でなしに、公開記者会見というような形でなされておりますので、私の申し上げますのは、私の考えた永野構想ということになるのではないか、そういうことで御了解願いたいと思うのでございます。  永野社長の御意見は、私の考えるところによりますと、一貫しておりまして、会長をやっておられますときから、設備問題について、いまのままではいかぬ、もう少し秩序のある設備投資をやるようにしなければいかぬという非常に強い考え方を持っておられます。現在、設備調整について政府から諮問がございまして、そのもとに昨年から業界でいろいろ研究をいたしておりますが、その研究をやるようになりました発端は、永野社長が会長時代に、設備問題はいままで政府と申しますか、通産省にあります産業資金部会というところにお預けしてあったような形でございましたが、これを業界自身の問題として取り上げ、研究しなければいかぬじゃないかということでスタートしたという次第でございまして、その設備調整業界自身の最大問題として取り上げなければならぬという考えの根底には、鉄鋼業の将来について、三十年代のような急速な成長はむずかしい。一つは国内需要でございますが、従来は国民所得の伸びに対して五割増しとか、場合によっては倍に近い需要の伸びをしておった。しかし今後は先進国並みに国民生産の伸びと同程度かあるいはそれを下回るようになるのではないだろうか。それからこういう非常に強い主張をされましたもう一つの大きな動機は、輸出の見通しでございまして、これも昭和三十六年度から昭和四十年度までは毎年二割とかあるいは三割とか、産業によりましては五割とかというふうな非常に大きな伸び方をしてまいりましたけれども、そのことがアメリカ市場で非常にいろいろフリクションを起こしましたし、ヨーロッパあたりからも非常にいろいろの形での反響がございまして、このまま進めば非常に問題を起こす、これはどうしても輸出の伸びについても、そういう先進国との過度の摩擦が起こらないようにしなければいかぬ。そういう見地からすれば、今後の輸出の伸びは非常に限られたものじゃなかろうか。そういたしますと、これはどうしてもそういう需要に合った設備の調整をはからなければならぬということになるわけでございますが、反面、現在の設備は、製銑、製鋼、圧延、いずれにいたしましても、設備の単位が非常に大きくなりまして、銑鉄で申し上げれば、現在つくっておりますのは二千五百立米クラスの高炉でございますが、最近の生産能率からいたしますと、一日に五千トン程度の出銑がある。年間に直しますと、銑鉄ベースで百八十万トン、鋼塊にいたしますとそれの二割増しでございますから、二百万トン以上のものが一基で出るということになります。現在鉄鋼業界は、いわゆる大手と称せられるのは六社ございますが、各社が二年に一基ずつつくりましても、毎年六百万トンの能力がふえるということになります。需要の伸びは、いまのような見通しからいたしますと、もし国民生産の伸びが今後たとえば七%程度といたしますと、現在の四千万トンベースから三百万トンも伸びるか伸びないかということになる。それに対して、現在のように各社が競争して設備をやっていけば、二年に一本ずつつくっても六百万トンになるということになりますので、何らかその間の調整が必要だ、それがその設備調整の考えになり、その整備調整が、各社のいろいろの事情もございまして、なかなか円滑にいかない。それを解決する手段としてヨーロッパでは、御存じのように西独にいたしましても、あるいはフランスにいたしましても、業界の一位と三位とか、あるいは二位と四位というようなリーダーの会社が合併をしておる。結局、たとえば設備をいたします単位がもし二社になりますならば、毎年一基ずつつくっていってもやや過剰な程度、もし各社が一年おきに一基ずつつくっていきますと、このくらいがおそらく設備建設スピードとしては適当じゃないかと思いますが、そういたしますと、ちょうど需要と見合うような形になるのじゃなかろうか。また諸外国の例を見ましても、従来八幡製鉄なり富士製鉄なりは米国の大手メーカーに次いだ地位でございましたけれども、ヨーロッパの先進国が企業の合併によって巨大化をいたしますと、それに対してもかなり劣位にある。そういうことを考えますと、この際企業の合併をやるということが、こういう問題を一括して解決して設備の過剰競争の問題と企業の国際競争力の問題と両方を一挙に解決する手段であるということがおそらくこの永野構想の中心ではなかろうか。ただその方法として、現在の六社はそれぞれ歴史的な因縁もあってできておりますので、それがここに合併するということはなかなかむずかしいかもしれない。それなら一ぺん全部解散をして、たとえば東日本と西日本というような比較的合併のしやすいと申しますか、あるいは技術的に合理性があると申しますか、そういう見地で再統合して、二社なら二社にしたらいいじゃないかということでございまして、たとえば東西三社でなければならないというような、そういうお考えというよりも、現在の需要の伸びあるいは設備の規模、あるいは他の先進国の競争企業との企業力の差異、そういう問題を一挙に解決をする手段として現在の六社を三社程度に統合するのが適当だ、その一つの例として東西二大会社論というものを言われた、かように私は理解しておる次第でございます。
  14. 板川正吾

    板川委員 永野構想は、当初設備調整を自主的にやっておった、しかしこれは強制力はない、したがって、業法をつくったらどうか、そういう業法に基づいてお互いに秩序を規制されていくほかはないのじゃないか、しかしもしそれができなければ、ひとつあくまでも徹底的競争でやっていこう、こういう話だったのですね。しかしこれがどういう関係か、この話を業界で受け入れる体制がない。そこで今度は合併論、三社か三社か、一応東西二社ぐらいに分けてやったほうがいい、これは法律になくたって設備調整もできるじゃないか、生産調整もできるじゃないか、あるいは価格調整もできるじゃないか、こういうことで二社合併という形にだんだんと提案の内容が変わってきたのだろうと思う。この二社合併について永野さんは言い、あるいは八幡では稲山さんはこれを好意的に迎えておる。しかし他社はどういう空気を持っておりますか。この二社合併案に対して、ほかのところはどういう空気ですか。
  15. 齋藤正年

    齋藤参考人 先ほどお答えいたしましたように、永野構想と旧しますか、永野さんの発言も、稲山会長の発言も、いずれもわれわれ業界の内部の公式の会議での御発言ではございませんで、いわば記者会見というような形で発表されたものでございまして、したがって、その記者会見に私が直接列席しておりましたわけでもございませんから、あくまで私の考えとして御推察願います。また各社も、それぞれ新聞にはいろいろ報道されてはおりますが、これもその社の責任者が発言したというようなものではなしに、経営者の一人が意見を述べた、それも記者から質問があって、それに関連して述べた、こういうような形でございますから、いずれも非公式なものでございまして、そういう非公式の発言について、私、形式的に連盟の事務を扱っております者が公式なお答えはちょっといたしかねる点は御了承願いまして、ただ稻山社長が、そういうふうなことも考えなければいかぬ問題だということで、その根本は永野社長と現状認識については同じ考えを持っておられるわけでございますが、ただその解決方法としては、必ずしも同じ考えではない、必ずしも全く一致しているとは言えないのではないかと思いますが、しかし基本的な認識は一致しておるわけでございます。それに対して、ほかの各社は、若干基本的認識についても、人によりまして、これはそれほど需要の伸びも窮屈に考えなくてもいいというふうに思っておられる方もございます。その辺が設備調整の問題についても、相当調整に時間を要する原因でございますけれども、それとは別にもう一つ、やはり現在の六社というものがそれぞれ会社の性格も異なりまするし、系列も異なっております。たとえば日本鋼管は造船部門も兼業いたしておりますし、神戸製鋼は機械部門がむしろ鉄と並ぶ大きな部門で、それぞれの部門で別に日本産業界で相当重要な地位も占めておられる。そういうように会社の性格が異なりまするし、御存じのように八幡富士日本製鉄の分離した会社でございまして、あとの会社は日本製鉄の大合同のときに参加をしなかった会社でございますし、特に関西糸の三社は御存じのように戦後に一貫会社になった。そういうふうないろいろの経歴が違いますので、合併問題についても、若干おそらくみな意見の相違があるのではなかろうか。ただ従来は、米国は別にいたしまして、ヨーロッパの日本の当面の競争相手国、たとえば西独なり、あるいはイギリスなりフランスなりに対して、日本大手会社は決してひけをとらない規模であったわけでございますけれども、先ほど申しましたように、ドイツなりフランスなりで非常に合併が進んでおる。イギリスは御存じのように国有化問題がございまして、いま体制問題に触れるような立場ではございませんから進行しておりませんけれども、この問題がもし解決すれば、あるいはおそらく、こういう問題が起こりませんければ、イギリスも相当合併が進んだろうとわれわれ考えられますが、そういう情勢の認識については六社も全く同じではなかろうか。ただ、それをどういう方向解決するかということについては、その法律問題についても、あるいは合併の方法につきましても、あるいは合併その他の時期につきましても、それぞれの経営者で若干ずつ意見の相違があることは事実ではないか、このように考えております。
  16. 板川正吾

    板川委員 三戸参考人に伺いますが、三戸さんの意見、大体伺っておりますと、設備問題はやはりこれは規制をする必要があるだろう、それも、単に高炉だけでなくて、圧延、そういった特殊な設備についてもひとつ考えてはどうだろうか、こういうようなお話がありました。それから、どうも業界に自主的にやる能力は全くないようだ、だから、これは第三者の機関なりをつくって、公正に民主的にひとつ調整をする機能を果たさしたらどうだろう、しかし、それもだめだというなら、国有化なりの方向に踏み切らざるを得ないじゃないか、こういうようなお話。また、当面の生産調整については、一方において操短を指示しておきながら、設備の開示をしないで、生産だけ調整したところでやはりうまくはいかない、こういうやり方はやはり反対だ。いろいろ総合してみますと、第三者の公正な機関をつくって、そして鉄鋼全体の発展と健全な任務の達成というのか、それが経済的あるいは雇用的、社会的な問題を含めて、鉄鋼業の当面の危機を回避して安定をはかるべきじゃないか、そういうようにとれておるのですが、ところで、私が伺いたいのは、いま言った永野構想は、東西三社合併案を具体的に出しております。この二社合併案というのが、三戸さんの意見の中では、合併という問題については多く触れておりません。おそらくこれは、そこはひとつ自主的に考えるべきであって、いまの現状を前提にしてのさっきのお話だろうと思うのです。この二社合併案について、永野さんの最近の構想について、組合としてどういうお考えでしょうか。
  17. 三戸国彦

    ○三戸参考人 いま質問がございましたように、実は永野さんとそれから七幡の稲山さんの表現は若干変わっておりまして、処理のしかたといたしましては、片一方は調整論者であり、片一方はさ叩きに言いましたような設備過剰投資を押えるべきだというふうに、若干表現が違っておるわけでございます。ところが、前回永野さんが出されましたのは、東西二つに日本の製鉄を分けたらどうか、こういうふうに言われておりました。次に、それから少し時間をおきまして、稲山さんがそれにこたえるように、永野構想は非常に構想としてはいいし、私もそれに反対ではない、しかし時期がちょっと早いのではないか、このようにそれに対してこたえられておったわけです。ところが、鋼管の社長がその次に、そんなことを言うのだったらまず八幡富士が合併したらどうか、こういうふうに言われたと記憶しておるわけなんです。その内容につきましては、前の方が答弁せられましたが、そのような業界におけるところの内容の違いからきておるのじゃないか、こういうふうに私も考えておるわけでございます。  さて、永野構想について鉄鋼労連組合立場でどうとらえるかと申しますのは、さきに若干私が意見の中で申し上げましたように、合同そのものが及ぼすところの価格独占、並びにその及ぼすところの政治的な独占と申しますか、圧力と申しますか、こういう問題につきましては、私たちも懸念するところが非常に大であるわけなんです。ですから、それをどうかと言われれば、私たちとしては、やはりいな、こういうふうにしか答えざるを得ないというのが現状なんです。ところが、もう一つ違った観点が若干あるのは、東西二つに合同するのではなくて、いまたくさんあるのをもう少し合同したらどうか、こういうふうな考え方は若干われわれの中にも、現在はっきりとした一つの結論としてはないのですが、討論の過程ではあるわけです。と申しますのは、この合同が起きる日本の終局の姿を描いてみますと、各社とも、設備投資はやり過ぎた、これではどうにもいかない、という形でいわゆる合同というものが出てくるのではないかという気がちらっとするわけです。そうすると、設備はたくさんのものをこしらえた、これの金利はずいぶん払わなければならない。   〔始関委員長代理退席、委員長着席〕 ところが、遊休施設はなおかつ遊んでおる。こういう状態になってもし合同したといたしましても、それらに対する金利それから減価償卸費、すべての問題につきましても、これは国民なりそれからそこに働く労働者負担をしなければならないのじゃないかという気がするわけなんです。ですので、もしそういう状態が生まれるとするなれば、これは合同というものも、さっき私が拒否したその以外の点でもう少し考えてみる必要があるんではないか、こういうふうにわれわれはわれわれ内部で一応話し合っているのが現状であります。
  18. 板川正吾

    板川委員 三戸さんに伺いますが、さっき中小企業——特殊鋼なり平・転炉の問題の企業をさしておられるのだろうと思うのですが、大企業から進出しないような分野調整をしたらどうか、こういう御意見があった。これはもうごもっともな意見だと思って、かねて社会党では、中小企業の分野確保に関する法律というのを出して、そうした大企業中小企業分野を侵することのないようなひとつ秩序をつくろう、こういう考え方を持っておるのですが、具体的にはそういう方法について何かいい考え方があるだろうか、こういう点で御意見がありましたらば伺っておきたいと思います。
  19. 三戸国彦

    ○三戸参考人 中小企業の問題につきましては、それぞれの分野でその分野の持つべき力を発揮すべきだ、これが日本の経済のためにも一番いいことだということを私はさきに申し上げておりましたが、現在の大手企業が、設備投資いたしまして、売れ行きが悪いので、なりふりかまわず中小の分野へ押しかけており、そのため中小が非常に苦労しておるという現実が一つございます。  それからもう一つは、日本の場合は転炉法が非常に発展いたしまして、昔であれば平炉で六時間もかけて五十トン、六十トンの鉄が出ておったのが、いまは三十分から四十分で五十トン、六十トンの鉄が出るということになっております。ところが、御承知のように、転炉はくず鉄をあまり必要としないわけなんです。ほとんど溶鉱炉から直接持ってきた溶銑を使いますので、かってはくず鉄をよそから買っておりました日本も、現在のところ、くず鉄が非常に余っておるというふうな珍現象を呈しております。  そこで私たちは、中小ではまだまだ平炉とそれから電気炉メーカーがあるわけでございまして、転炉等にいたしましても、これはくず鉄を必要とするので、そういう点で私たちは、もしそれぞれの持つ分野がはっきりと確立されるならば共存はできるのではないか、こういうふうなことを現在のところは考えております。しかしながら、いまの質問に言われましたように、何かここで妙案がないか、われわれとして一つの考えたところはないか、こういうふうに申されましたが、現在のところは私たちは、ここで具体的に皆さん方の前に提示をするものを用意しておりません。したがいまして、もしそれらのさきに言いました委員会、それからまた、既存のこういう会議等につきましても、われわれとしては将来の努力方向として、その他の点につきましては準備をしたい、このように考えております。
  20. 板川正吾

    板川委員 貴重な意見、特に組合から具体的なたくさんの意見を伺いました。われわれ社会党も、いま鉄鋼産業の重要性というものを認識しまして、鉄鋼対策特別委員会をつくりまして検討しておるのですが、きょう貴重な意見を伺ったのでたいへん参考になりました。  私の質問は以上で終わります。
  21. 天野公義

  22. 伊藤卯四郎

    ○伊藤(卯)委員 齋藤さんの御意見を伺うことができなかったものですから、ひとつ質問をさせていただきたい、こう思っております。  いま御存じのように、大手中心に十九工場にそれぞれ監視員を三交代で送って、生産制限の監視をさしておりますが、大体これは業界ではいつごろまでやったらいいとお考えになっておられるか。
  23. 齋藤正年

    齋藤参考人 生産調整の問題でございますが、これは伊藤先生も御存じのように、通産省がそれぞれ各社粗鋼段階での生産数量の指示をいたしまして、それを業界が守っておる。その守る方法といたしまして、通産省の指示の監視をいたします実行部隊として、いま伊藤先生からお話がございましたような形で監視班が工場に行っておるわけでございます。当面いまの生産調整は九月末までということが通産省の指示で出ておりまして、その後の問題については、われわれまだ何も聞いておりません。ただ、業界実情から申しますと、これは先ほど鉄鋼労連の代表者からもお話がありましたように、業界としては、基本的にまだ非常に能力過剰でございまして、したがって、この需要能力とのギャップは何らかの形で調整をする必要がある。それをどういう形でやったほうがいいかということは、これはわれわれ業界の問題よりも、国全体のいわば経済秩序の問題でございますから、政府のほうでおきめを願っていただきたいとわれわれは思うわけでございますが、基本的には、そういう情勢は、今後設備を全然新設いたしませんでも、なお来年度あるいは再来年度も、現在のような需要の伸びぐあいでは、そういう能力需要とのギャップが残るという事態は続くわけでございます。特に従来そのギャップを輸出で埋めてまいりましたのが、先ほども私、板川先生の御質問に対してお答えいたしましたように、主要マーケットでございます米国を中心にいたしまして、いずれもいろいろ問題を起こしておりまして、特に米国については、わざわざ協定をつくりまして数量規制をいたしておるような段階でございます。最近は殴州向けの数量が非常に減りましたので、ヨーロッパは一応落ちついておりますが、もしヨーロッパもちょっとふえますと、また問題が起こる。そういうことで、そのギャップの分を輸出で逃げるということが、昨年あるいは一昨年以前の状態根本的に違う点でございますので、どうしてもやはり能力需要とのギャップは何らかの形で生産を調整していかないといけないという考え方は持っておる次第でございます。
  24. 伊藤卯四郎

    ○伊藤(卯)委員 御存じのように、現在行なわれておるような、お互いに生産制限を自主調整し合う、これ自体もなかなか反対者もありまして、鉄鋼連盟あるいはまた通産省のほうでもかなり苦労したようですが、通産省あるいは鉄鋼連盟のほうでも努力をされて、ようやく内輪の中の調整がついたようでございますが、しかし、いま輸出がふえておるのは、ベトナム戦争によって、アメリカが設備を稼働できるものはほとんど全部動かしておる、そういう点から日本鉄鋼もアメリカ向けにかなりその影響を受けて輸出が伸びておるというように思うのですが、しかしこれは戦争によることですから、まことに当てになって当てにならぬようなものでございます。現在のままお互いに自主調整を監視員をもってし合うということは、これは法的の、何かそういう行政的の強い措置がなければ、なかなか調整されていかぬのじゃないか、私はこういうように思いますが、現在のこの生産制限を実行していく上において、やはり何らかそういう措置が必要だということを鉄鋼連盟のほうではお考えになっておられますかどうですか。
  25. 齋藤正年

    齋藤参考人 現在の生産調整の形でございますが、これは御存じのように、現在独禁法のもとで業界が自主的に調整をするということは認められておらないわけでございまして、カルテルをつくって公正取引委員会の認可を受けるか、あるいは通産省の指示によってやるかという、どちらかの形しか許されておらないのではなかろうか。そういう点からもこういう措置がとられたと思うのでございますが、先ほど申しましたように、われわれ業界としては、何らかの生産調整措置は必要だ。そういたしますと、どちらかの形態——いままでの考え方でございますれば、どちらかの形態ということになるわけでございますが、生産カルテルというやり方でございますと、実は非常に効果があがりにくいということは、過去の経験でも立証されておりまして、実は前回の生産調整の際には、監視の方法も若干やったわけでございますけれども、しかし非常に不完全で、結果としてはかなりルーズなものになった。そういう見地から、このたびは通産省の直接指示という形でございましたので、その指示の監視のために、先ほどお話がありましたように、かなりきっちりした監視措置もとれた。またこの数量のチェックも十分できますということも原因しておると思いますが、いまのところ業界全体もかなり秩序立った生産の体制が守られておりますけれども、カルテルをつくるということになりますと、数も非常に多いし、またカルテルでの監視方法ということについてもおのずと限界があると思われますので、現状のようにはなかなかやることが困難だ。なおこの不況カルテルについては、公正取引委員会のほうでいろいろ基準を持っておられるようでございまして、現在の情勢ではたして御承認が得られるかどうかということも私ら何ともわかりません次第でございますが、したがって何らかの形で、しかも現在程度の実効のあがるような形の調整が続けていけるように御配慮を願いたいというふうに考えております。
  26. 伊藤卯四郎

    ○伊藤(卯)委員 輸出の問題は近代国家というか、鉄鋼生産国の間において、日本がダンピング輸出をしておるというところから、特にカナダ政府などは日本政府に資料の提出を求めたり、それから欧州各国でも、かなり日本が輸出に際してダンピングしておるということが絶えず国際問題になってきております。ところが日本の製鉄事業は、御存じのように鉄鉱石の八〇%以上、強粘結炭の六〇%以上、とにかく鉄をつくるその原材料は外国から大部分輸入をして鉄をつくっているのですが、ところがその鉄が国際的に非常に安売りになっておるということで問題にされております。御存じのように日本は世界的に金利が高いのですが、その上配当もしておる。一体こういう中において、日本の製鉄が国際的に安売りをしておるといって問題にされておることは、これはふしぎ中のふしぎのように思いますが、一体これはどういう点に特徴があるというふうに連盟ではお考えになっていますか。ちょっとお聞かせ願いたいと思います。
  27. 齋藤正年

    齋藤参考人 伊藤先生の言われますように、輸出取引先でいろいろ問題を起こしたということは事実でございます。ただ、この値段の点につきましては、それぞれのマーケットで相場というものがあるわけでございまして、日本のメーカーとしても、その相場をいたずらに下回って安売りをして何ら得がないわけでございますから、これは故意に値下げをしてめちゃくちゃな値段を出したというわけではございません。ただ、新しい市場に進出する場合には、御存じのように、鉄鋼というものはみな規格化された商品でございますから、結局そのメリットは価格しかないということになりますので、従来の価格よりもどうしても若干安くしなければ新しい市場に進出は非常にむずかしい。それが日本の場合は、米国マーケットでも、西部は比軟的前から少しずつ出ておりましたけれども、中部あるいは東部あたりは全くここごく最近の進出でございますが、そういう新しい市場に進出する。それも先ほど申しましたように、需要能力とのギャップが相当大きいものでございますから、相当急激に大量のものを出そうということになりますと、どうしても価格上のメリットをつけないと出ないというところから、いろいろ問題が起こった。で、値段の点につきましては、ヨーロッパの輸出社、たとえばベルギー、ルクセンブルグあたりは、従来輸出値段は世界的な輸出の相場というものをつくっておりまして、これがたとえば「メタル・ブリテン」というような雑誌にも気配相場が出ているくらいでございますから、それを無視した価格ではございませんけれども、とにかくその相場よりも若干安くなければ新しい地域に進出できない。しかもそれが相当まとまった数量を出すということになりますと、どうしてもそのマーケットに非常に大きなショックを与える、従来の価格なり従来の取引ルートで流れておりましたそのマーケットに非常に大きなショックを与える。たとえばヨーロッパのマーケットでございますと、それぞれのメーカーがECSCという統制機関、六カ国の共同機関に売り値を届け出ているわけでございまして、それは域内の全需要者に一律にその値段を守らなければいかぬ、こういうことになっておりますけれども、ただし輸出の安値のオファーがあった場合には、そのオファーに対抗するために、対抗するに必要な限度において値下げをしてよろしいと、まあこういうことになっているわけでございます。数量が少なければ、安いものが入ってまいりましても、それは市場に影響を与えない。それが相当まとまった数量が入りますと、どうしても市場に非常にショックを与えまして、従来そういうオファーに対して無視しておったメーカーでも、対抗上やむを得ず値下げをしなければいかぬというようなことで、昨年あたりはそういう値下げが非常に多くなって、EEC諸国内の相場を非常に下げた。そういうところが非難の原因になったわけでございます。  そこで、どうしてそんな安売りをして配当がやっていけるか、こういう御質問でございますが、これはもう配当がやっていけないようになった。昨年まではどうやら、積み立て金もくずしましたし、いろいろの輸出とかあるいは合理化のための特別償却というようなものも、従来やっておりましたのを全部取りやめまして、まだ昨年の九月期はどうやら一割を維持いたしましたけれども、それだけの努力をやりましても、三月期はついに守り切れなくなって、八分配当にまで下げざるを得なくなったということでございますから、現在の不況あるいは輸出の過当競争というものは決してそう楽なものではない。ただ、現在の日本の主要製鉄メーカーの、特に新鋭設備につきましては、これはヨーロッパなりあるいはアメリカなりの設備に対抗いたしまして、十分対抗できるだけのコストにはなっておる。その点は、これはもうはっきり言えるわけでございまして、現在の日本の国内価格というのは米国なりヨーロッパなりに比べても決して高くない。むしろ原料に特殊の市場のあるイギリスを除きましては、まず一番安いほうでございます。それだけ国内で安く売って、なおかつ安い外国市場に大量に輸出をしなければいかぬ。これはいま伊藤さんからもお話がございましたように、鉄鋼業としては一種の社会的な責任という意味もございまして、従来は相当無理しても輸出をやってきた。それがここへきて、能力生産のギャップのためにやむを得ず、まあいわば押し出し輸出の分も加わりまして、それがついに企業経営の限界に達したというのが現状というふうに私らは考えておる次第でございます。
  28. 伊藤卯四郎

    ○伊藤(卯)委員 私どもの勉強したところによりますと、もちろん日本製鉄所というのはみんな海岸線にありまして、それで専用船も相当大きな船が入れる、そういうことと、船の輸送によるというだけで、この地理的特典というのは非常に大きいと思います。それから技術の優秀性ということが国際的に認められてきておることも特典の一つでありますが、先ほど鉄鋼労連の三戸委員長が言っておりましたように、やはりこの労働者の労働諸条件というものは、欧米——アメリカは別格として、欧州諸国からしても、平均するとまだ半分以下の程度にあるように私どもの計算ではなっていますが、やはり鉄鋼労働者犠牲というか、いわゆる生産と取り組んで能率をあげておる、それに比較すると、鉄鋼労働者犠牲というものが相当大きくこの輸出の上に背負わされておる、こういうように考えますが、この点いかがですかということが一点と、それからさらに、大手六社というかあるいは十社というか、そういうところが開発銀行から借りておられる金、市中銀行から借りておられる金、世界銀行から借りておられる借金、これがおわかりでしたらお知らせ願いたいことと、それから金利が日本は非常に高い。御存じのように財政投融資金でさえも六分五厘というふうに高いんですが、こういう点がトン当りの上に非常に大きな負担になっておるはずです。私どもの調査によりますと、トン当り英国では一ドル、日本ではたしか十ドル近くぐらい金利を払っておるんじゃないか、こういうように思いますが、こういう点をあわせて考えますと、やはりこの鉄鋼労働者犠牲というものが一番大きな負担になって、日本鉄鋼業が世界の三位に伸びてきておる、こういう点を重視しなければならぬと思いますが、こういう点についてひとつ齋藤さん、お聞かせ願いたいと思います。
  29. 齋藤正年

    齋藤参考人 現在手元に資料がございませんので、金額が幾らになるかということは、あとでもし御必要でございましたら別に提出いたすことにいたしまして、現在に開発銀行からはほとんど借りておりません。ただ、岸壁その他の公共施設と申しますか、そういったものについて従来開銀資金のワクがございましたので、若干借りたものがございますけれども、最近はほとんどございません。それから世銀資金も最近は全然借りておりません。ただ、米国からの輸入機械に関連いたしまして、アメリカの輸出入銀行から若干借りておるものがあるという程度でございますが、この金利負担自体が非常に大きいことはお話のとおりでございまして、アメリカあたりでは利子部分は売り上げ額の一%にも達しない程度でございますが、日本の場合は大体売り上げ額の七%程度を金利として払っておりまして、金利負担が経理の非常な圧迫になっておる。またそれは設備拡張合理化のいい面もございますけれども、現在は過剰能力になっており、その負担が非常に経理を圧迫しておる、これは事実でございます。賃金につきましては、これは日本企業規模によって非常に違いますけれども、大手メーカーの賃金水準というものは、欧州——欧州と申しましても、西独あるいはイギリスあたりとイタリアあたりとはだいぶ違いますけれども、少なくともイタリアあたりに比べまして決して遜色はないんじゃなかろうか、特に日本の場合には間接給与と申しますか、いわゆるフリンジベネフィットというものが非常に複雑な形で、計算が困難でございますけれども、そういうものを入れますと、EEC諸国の中間ぐらいに比べまして決して遜色はないんじゃなかろうかと思います。もちろん経営者としては、十分な給料を払うということが経営者の責任の一つでございまして、いまの給与が非常に高過ぎるのだということを申し上げているわけではございませんけれども、しかし、欧州諸国に比べましても決してそう低いほうではない、そのことで労働者に御迷惑をかけているということではなしに、その負担が結局経理面の圧迫となって減配もせざるを得ないようになった、こういうのが実情じゃないかと私は考えております。
  30. 伊藤卯四郎

    ○伊藤(卯)委員 最後にいま一点だけお伺いしたいと思います。これは別に齋藤さんに議論をふっかけるわけではございませんけれども、イタリア程度より低くないということは、イタリアというのは御存じのように欧州各国で貧乏国中の貧乏国、労働者諸条件も一番低いといわれているイタリアでございますから、イタリアの例ということはあまりお考えにならぬほうが私はいいんじゃないかというように、これは別に議論をふっかけるわけではございませんが、そいういうようにわれわれが考えていることを、ひとつ十分参考にお井に入れておきたい、こう思うわけであります。  最後に一点伺いますのは、御存じのように鉄鋼生産は世界の三位であるが、人口一人当たりにすると、ソビエトより日本のほうが生産量が高いのです。ところが、国内需要度からいくと、まだ日本鉄鋼需要度は世界のたしか十三番か十四番目ぐらいじゃないかと思います。そうしますと、国内需要というものは、最近、特にまた今後相当伸びていくというように思っているのですが、現在つくられてある設備、それだけを、設備過剰にはっているからといってそのままにしておきますと、近代化の上におくれをとるという問題も出てきますけれども、いままでと同じような設備を、過当競争して、しかもそれを高金利の借金によってやっていくということは、これはまことにばかばかしいことでございます。したがって、やはり生産需要のバランスをとっていき、そうして設備近代化に積極的に切りかえていき、近代国家水準に達するまで持っていく、そうすると相当国内需要度がふえてくるわけでございます。そういう点において、現在の過当設備というものを、ひとつばかな競争はやめよう——これは先ほど板川委員も言われておりましたが、もちろん独禁法との関係もありますから、なかなか問題がありますけれども、しかしながらどこの国でも自由放任の野放しという国はないのです。特に鉄のごときは基幹産業でございますから、これに対して生産需要の調整をはかっていくということが当然必要であることは言うまでもございませんが、これがやはり先ほど齋藤さんの意見を伺っておりましてもわかりますように、お互いにこれは自主的にやっていくといくということは不可能であるから、独禁法との関係はあるけれども、その生産需要の調整をはかるいわゆる計画的な鉄鋼生産というものをやっていけば、あるいは国内需要増大してくる、あるいは国際的な点においても日本が相当確実な市場を持てっおるわけですから、そういう調整さえはかっていくならば、鉄鋼業というものはますます伸びていく、また国際競争に打ち勝っていける、こういうように私は常に思っておるのでございますが、これについては、さっきからだんだんお尋ねしたようないろいろな金利負担の問題、特に金利負担はひどいのですから、そういう問題についてのやはり解決をしなければなりません。そういうもろもろの障害になる問題を解決し、それから自主調整ではなかなかできないごたごたもございますから、こういう問題等もあわせて解決するためには、どうしても法的処置によらなければなかなかできないのじゃないか、基幹産業だから当然そういう必要があるのではないかということを痛切に感じまして、たとえば製鉄業法というか鉄鋼業法というか、そういうような法的処置によってこの製鉄業、鉄鋼業の今後の健全な計画的な発展ということ等をやる必要があると非常に痛切に感じておりますが、こういう点についてひとつ最後にお聞かせ願いたいと存じます。
  31. 齋藤正年

    齋藤参考人 イタリアの賃金水準の問題を出しましたのは、たまたま例としてあげただけでございまして、これは伊藤先生もおっしゃいますように、決して日本が、あるいは鉄鋼経営者がそれに満足しているわけではない。ただ現在、日本の一人当たりの国民所得は、イタリア以下でございます。その国民平均に比べて決しで悪くないということを申し上げただけで、もちろんEEC諸国平均、あるいはそれ以上の賃金を出せるようにやらなければいかぬ、この点は全く同感でございます。  それから伊藤先生のおっしゃいました生産調整なり設備の調整なりについて、それが必要であるから、何らか法的措置が必要ではないかというお尋ねでございますが、生産の調整あるいは設備の調整が必要であるということについては、全く私も、いままで何回かお答えいたしましたように、痛感いたしております。特に先生もお話しになりましたように、一人当たりの消費という点からいきますと、日本は昨年でもまだ三百キロに満たない。アメリカの六百キロ以上というのはちょっと目標が高過ぎますけれども、西独でも五百キロ以上になっておりますし、イギリスも四百キロ台でございますので、日本の理想から言えば、少なくともその辺までは持っていくべきである。おそらく日本の経済の成長力から言えば、いずれ将来にはそうなるのだというふうにわれわれも自信を持っておりますし、したがって、またそれに見合うだけの設備は当然経営者としてやるべき責任があるのではないかという考えも持っております。また実際、現在のように日本が世界一の鉄鋼輸出国となって、鉄鋼の輸出というものが経営の不可欠な一部分というよりも重要な部分になっておる際でございますから、これはどうしても国際競争力を今後とも維持していくためには、設備合理化もやらなければいかぬ。そのためにも設備をやらなければいけないわけでございますが、先ほどお答えいたしましたように、設備単位が非常に大きくなっている。高炉一基建てましても、二百万トン近い銑鉄が出る。あるいは製鉄所の最低規模というものが現在はまず五、六百万トン、アメリカあたりでは一千万トンを最低規模と考えている。そういうことになりますと、現在の日本の既存製鉄所は、ごく一、二のものを除きまして、経済性から見てほとんどまだ不十分だ。したがって、今後の投資はそういう非常に経済性の高いところへ集中的に投資をしなければいかぬが、そういう投資をするには現在の体制が不十分だということは、全くそのとおりだと私らも考えております。ただ、そういう体制をやるために必要なことは、まず業界自身がそういう問題について十分意見の一致を見、協調するということが基本的な条件でございまして、そういう農本的な条件の上に立って、さてどういう法律体系がいいかということは、これは私らの申し上げることではなしに、国会なり政府なりのお考え願うことでございますけれども、ただ私らの立場からいいますれば、現在の独禁法は、率直に申しまして、やや窮屈に過ぎるきらいがあるのではなかろうか。しかもいまの独禁法は、メーカーが二、三の会社になって、そういうところで話し合いがうまくいっている——話し合いというか、お互いの理解がうまくいっている場合にはそれはいいのだけれども、業界同士で少しでも話し合いをするのはいかぬというような、そういうことじゃないのかもしれませんが、そういう感じの運用のように見えますけれども、もう少し業界自身の話し合いと申しますか、協調というものが、国全体の利益というものを害しない、その進歩なり改善なりに貢献する限度においては、もう少し別の取り扱いを考えていただいてもいいのではないかと思われますが、それが法律の改正とかいうような措置が必要かどうか、あるいは鉄鋼業法というような形をとらなければそういうことができないのかどうかということになりますと、これは私のお答えできる範囲ではございませんので申し上げかねますけれども、しかし何らか業界の協調が保たれて、むだな競争がないような体制をやっていただきたいというのが、これは私だけでなしに、業界全体の希望でございます。
  32. 伊藤卯四郎

    ○伊藤(卯)委員 いろいろお伺いしたいこともございますけれども、政府に伺ったほうがかえってよかろうかと思いますから、お二人にお尋ねすることはもうこれをもって終わりたいと思います。三戸さんと齋藤さんには貴重な意見をお聞かせいただきまして、ありがとうございました。
  33. 天野公義

    天野委員長 ほかに参考人に対する御発言もなければ、参考人に対する質疑はこれを終了することといたします。  参考人各位には御多用中のところ、長時間にわたり御出席をいただき、まことにありがとうございました。  次会は明二十七日水曜日午前十時三十分委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後零時三十九分散会