○三戸
参考人 ただいま御紹介にあずかりました
日本鉄鋼産業労働組合の三戸でございます。
〔
委員長退席、
始関委員長代理着席〕
私たちは、現在の
鉄鋼業のあり方につきまして、将来に向かって非常に関心があるわけでございますが、そういうときにこの機会を与えられまして、
鉄鋼労連の意見を徴せられることにつきまして、厚くお礼を申し上げたいと思っております。また、ここで私が意見を申し述べましたならば、当然これは将来にわたって国会の
皆さん方の手をわずらわし、最もいい方法で解決されるようお願いをするわけでございます。
先般来私たちは、
経済政策の転換に関する申し入れを政府に行なったわけでありますが、それによりますと、昨年来
日本経済が経験しつつある経済的困難はまことに容易ならないものがあるわけであります。戦後最大といわれる不況はすでに二年にわたって続いておりますが、この間
中小企業の倒産は、統計にあらわれた限りでも一万件をこえておる状態であります。さらに
労働者の首切り、賃金の切り下げは各産業に広がり、失業者は増大の一途をたどっております。しかも、その中で
消費物価の上昇だけは日とともに激しくなるばかりでございます。このような中にありまして、私
たち労働者をはじめ、
中小企業者、農民等、国民の圧倒的多数の者がいかに大きな犠牲と苦しみをなめさせられているかにつきましては、ここで私があらためて多言を費やす必要はない、このように考えております。
言うまでもなく、今日の事態は、すべて
国民生活の犠牲の上に大資本の利益のみを追求する立場で展開されてきた、いわゆる政府の
高度経済成長政策によってもたらされたものにほかなりません。今日の深刻な
過剰生産不況が、
国民生活の向上を不当に抑制しているという現状もまた見のがすことはできないわけでございます。資本の蓄積、設備の拡張のみがあまりにも過大に進められておることから、これによって生じた生産と消費のはなはだしい不均衡に基づくものであることは何人もこれを否定し得ないところが現状でありましょう。
また今日、
国民生活の最大の脅威となっている
消費物価の上昇につきましても、これが大
資本本位の
高度成長政策によって必然的にもたらされた構造的な矛盾によるものであります。特に農漁業、
中小企業等、消費財、
サービス部門における生産力の拡大、
近代化の著しい立ちおくれと、反面における
生産性向上、
コスト低下の著しい大
企業部門での独占的な
価格支持が問題の核心であることは、今日では政府みずからがこれを認めておられるところであります。
今日の経済困難の原因と責任の所在がこのように明らかであります以上、政府がとるべき今後の政策の方向がいかなるものであるべきかはおのずから明らかであります。
これまで過度の
資本蓄積の犠牲となって不当に立ちおくれさせられた
国民生活水準の抜本的な改善を進めるとともに、消費財、
サービス部門の供給力の大幅な
拡大強化を中心とした
消費物価問題の
根本的解決をはかることこそ、今日の
経済政策の最大の目標でなければなりません。そして、これから引き起こされる
最終需要の拡大を中心といたしまして、生産と消費の不均衡の
漸次的解消をはかることが、今日の段階で国民の利益に即した最も合理的な
不況克服の方向であるわけでございます。もとより
国家地方財政の運用も、
個別企業の
経営政策も、すべてこの方向に沿って調整せられるべきであり、その過程で生ずる種々の犠牲と負担は、当然のことながら、多年にわたって巨大な蓄積を進めてきた大資本と
高額所得階層の負うところでなければなりません。
およそ以上のような方向こそが、国民多数の利益に即した経済困難の打開の方向であり、これがまた今日の国民の圧倒的多数の切実な声にほかならないわけでございます。
こういうふうに私
たち鉄鋼労連が現在当面しているものは、いわゆる大
企業中心によるところの設備の
過剰投資、これに基づきまして現在引き起こされている倒産と首切り問題、それからまた将来にわたって起こるところの大きな犠牲を今日ほど痛切に感ずることはないわけでございますので、その点につきまして、現在
鉄鋼業が当面している諸問題につきまして、私たちはここで拾い上げ、それを
皆さま方の前に披露し、そうして将来への検討の課題としていただきたいことをお願いするわけでございます。
さきに申し上げました
過当競争と設備の過剰問題につきまして、その実情は、今日の
鉄鋼業が内包しているところの矛盾、これはきわめて深いものがあり、現今これの解決を迫られている問題は非常に多いわけでございます。これらの中でも最も根本的なものといたしましては、大資本間の過当な
設備投資競争と、その結果としての設備過剰の問題であります。現に大きな論議を呼んでいる粗鋼の
生産調整の問題をはじめといたしまして、
中小企業、平・電炉問題、
輸出問題等、他のすべての問題の解決は、結局のところ、この設備問題の
解決いかんにかかっているといっても差しつかえないのではないか、このように私たちは考えております。
次に、鉄鋼における
設備投資競争と、それによる設備過剰がいかにひどい状態にあるかは、すでにこれは
皆さま方周知のところでございます。いわゆる
高度成長政策に乗って展開された三十年代における無政府的な
設備拡張競争の結果といたしまして、四十年末までに粗鋼の
設備能力は五千四百五十万トンに達しております。四十年度の生産の実績は四千百三十万トンでありますので、これに対しまして約千三百万トン、能力におきまして二五%もの余剰となっているわけでございます。四十一年度中においては、さらに
鋼管福山、
神鋼灘浜、ここにおける
大型高炉が
完成稼動を始めるわけであります。さらに八幡、富士などで
既存能力の増強を含めて三百五十万トンの
能力増が見込まれるわけであります。本年度末の
粗鋼能力は五千八百万トンをこえるわけでございまして、一方本年度中の
生産見通しは四千六百万トン程度であるといわれておりますから、依然として
余剰能力は千二百万トンにも達することになるわけでございます。
公債発行など最大限の人為的な
景気刺激や、昨今の激しい不況のあとを受けました
在庫投資の著しい活発化などで、業況が急激に好況に転じている中で、このような状態ですら、なおこれだけの
余剰能力が存在しておるわけでございます。
以上でございますけれども、しかしながら、問題はむしろこれからであります。このような設備の
過剰投資が明らかであるにもかかわらず、
鉄鋼大手企業は
自社シェアの拡大、業界におけるところの覇権の争奪、このような
個別企業の狭い利害のみにとらわれて、無秩序な
設備拡張競争をいよいよ激化させているのが現状ではないでしょうか。
昨年末、業界は
設備調整を一応実現はしておりますが、この中でも高炉、それから転炉の建設は
野放し状態にあるわけでございます。明四十二年中には、
住友和歌山の四号、それから八幡堺の二号、
東海製鉄の二号、
鋼管福山における二号、
川鉄水島における一号、これらの合計千万トンが完成、稼働を始める。さらには自後の各社のそれぞれの計画をそのまま実施に移すとしますれば、四十三年から四十五年度中に
八幡君津の一号、
富士鶴崎の一号、
鋼管福山の三号、
川鉄水島の二号、
住友和歌山の五号、
神鋼加古川の一号、以上のように新設分だけで合計千二百万トンが追加されるわけでございます。
一方、在来の製鉄所の高炉の
炉容拡大と
技術改良におけるところの平炉から転炉への切りかえなどによる
能力増は、最近非常に目ざましいものがあります。また大手六社以外の各社の
能力増は、これから生ずるところのすべてのものを総合いたしますと、
粗鋼生産能力は、四十一年末五千八百万トン、四十五年度にはどんなに控え目に見積もっても八千二百万トン程度に達するのではないかと推測されるわけでございます。四十五年度の
需要見通し六千万トンに対して実に二千二百万トン、二七%の能力の余剰であります。
次に、一方、
圧延段階での能力過剰は、早くから
通産省当局自身によって指摘されてきたところであります。大体におきまして、
現有施設で四十三年後までの需要をまかなって余りあると言われております。ところが、それにもかかわりませず、昨今の設備二年休戦を破る
増設計画が各社軒並みに登場いたしまして、現に論議を重ねているのは周知のとおりであるわけです。
しかし私たちは、
圧延設備についての議論もさることながら、根本は、以上述べた鉄源の段階での
過剰投資が問題であると考えております。圧延はきわめて能力に伸縮性がございまして、幾らそこで押えてみても、鉄源で能力を拡張すれば、結局同じであります。また高炉、転炉の段階で新立地の
製鉄所建設を野放しにしておいて、それにつきものの
圧延設備だけを押えようというのはもともと無理な話である、私たちはこのように考えておるわけでございます。
では、以上申し上げましたそれらから生ずるところの弊害につきまして若干申し述べてみたいと思います。
いずれにしても、
鉄鋼業の設備の過剰は現在はなはなだしいものがありますし、これも放置しますれば、今後いよいよ重大化することはあまりにも明白であります。このような過当な
設備競争と設備過剰の不合理さ、これの
マイナス面は、個々にあげれば数限りがございませんが、その若干を申し述べてみますと、その一つといたしまして、現在のまま放置をしますれば、
わが国最大の
基幹産業であるところの鉄鋼が、遠からず未曾有の
過剰生産恐慌に突入いたしまして、操業率の破壊的な低下、全般的な企業不安と
中小企業の崩壊、それから雇用不安など重大な混乱と危機の発生を見ることは必至であるといわなければなりません。このような事態の発生は、
日本経済全体にとりましても、これはゆゆしき問題となることは自明でございます。
次に、こうした恐慌の形をとるにいたしましても、あるいは現にとられているような
生産調整、
カルテル化の形をとるにいたしましても、いずれにせよ、このままで進むなれば、設備の遊休化は二千万トン以上にも達するわけでございます。
ところで、現在鉄鋼の設備費は、
粗鋼トン当りにつきまして少なくとも二万五千円ないし三万円を要します。しかも、これには政府や自治体の負担にかかる埋め立て並びに港湾、それから
水資源関係の
間接的投資は含まれておりませんので、こういう状況のもとで二千万トン分の設備を遊ばせるということは、実に五、六兆円もの資金、すなわち国民の血と汗の結晶を遊ばせておるということにつながるわけでございます。これからはまさに、私たちといたしましても許しがたい国富の乱費でございまして、
国民経済的に見ましても、あまりにもはなはなだしい資源のロスといわざるを得ないわけでございます。
次に、かような過当な
設備競争は、
合理化効果の点でもきわめて問題がございます。すなわち、過度の
借金依存によって際限もなく続けられていくために、
設備技術の
近代化によりまして、直接的な
生産コストは下がっても、
金利負担などの
資本費コストの膨張が慢性化し、結局総コストはいつまでたっても下がらぬ、せっかくの
合理化効果が減殺され、巨額の投資にもかかわりませず、高い鉄を買わされるということになりまして、成果が
国民経済に還元されないことになるわけでございます。それのみか、
資本構成はますます悪化いたしまして、
経済基盤の弱さを抜け出すことができなくなる。これでは本来の
合理化の目的は全くくずれ去ってしまうわけでございます。
次に、こうした不合理は、設備過剰の圧力で
生産調整が行なわれる場合には特に鋭くなってくるわけでございます。
借金依存の設備であるだけに、操業度を落とした場合におきましては、この場合の
コスト高は一段と大きいものになります。結局その上昇分は、
生産調整を通じまして形成されるところの
安定価格の中に持ち込まれるわけでございます。一方では何兆億円という巨大な設備を遊休させておきながら、本来期待し
得心価格よりも著しく割り高な製品を供給するという不合理きわまる事態が、以上によって生ずるわけでございます。
次に、過当な
設備競争のもとで
中小企業は極度に圧迫されておるのが現状でございまして、
中小企業はもちろんのこと、そこに働く
労働者をも含めて生活権を奪われ、それは生活の崩壊につながっておるわけでございます。節度ある発展のもとで行なわれるなれば、それぞれの
特殊分野を守って十分共存し、生きていけるはずの
中小企業が、大手の
過当競争の犠牲となってつぶされていくのが現状でございます。
中小企業にとどまらず、大手の内部におきましても、過度の
設備競争がもたらすところの設備過剰の結果といたしまして、まだ十分有効に活用できる
償却済みの効率高い
生産能力が、伝統ある技術と人、
組織もろとも、むざむざとスクラップ化されていくといのが現状であり、そうしてそれによっていま言ったような不合理が生ずるのではなかろうかと、このように私たちは考えておるわけでございます。
次に、
過当競争は国際的にも矛盾を拡大しておるわけでございまして、現在欧州や米国の
鉄鋼業におきましては、日本の鉄鋼の進出に対抗いたしまして、大規模な
設備役資や合同が展開されておるわけでありまして、設備の
過剰投資はいまや国際的に深刻な問題を投げかけておるわけでございます。こうした事態は、わが国の無節度な過度の
設備競争によって誘発された面が少なくないわけでございまして、最近の外国の動向が今日わが国の
設備競争を一段と刺激しておりまして、それを正当化する唯一の口実になっておりますが、これはさきに申し上げました関連におきましても、一種の悪循環ではないでしょうか。
次に、
生産調整の問題につきまして少し述べてみたいと思っております。
以上、設備の過剰を中心といたしまして、そこからもたらされるところのたくさんの矛盾を述べてまいりましたが、その中で、今日特に大きな議論を呼んでおる
生産調整の問題にここで一言しておきたいと思います。
実際問題といたしまして、野放しの
増産競争に突っ込ませたらどのような事態が生ずるかはおのずから明らかであるだけに、いま直ちにこれを撤廃し得ないという主張も現状では理解できないではありませんが、しかしながら、
個別企業の私的な利害だけにとらわれた無秩序な
設備拡張競争をそのままにしておいて、その結果として生じてくる設備の過剰、生産過剰のしりぬぐいをもっぱら
生産調整に求めているのでは、どのように説明をしてみましても、
国民経済的に見まして不合理であるばかりではなく、需要家はもちろん、
国民世論の納得を得ることはできないであろう、このように考えております。
次に、特に今回の
生産調整をうやむやのうちに恒久化し、設備はつくるだけつくっておいて、過剰問題は
生産調整で処理をし、いわゆる
管理価格の形成によって
安定利潤を確保するというような考え方につきましては、国民全体の利益に著しくこれは敵対的な行き方といたしまして、私たちは強く反対をするものでございます。また、こうしたいわゆるアメリカ型の
生産調整の体制化は、結局雇用面におきましてもレイオフのような形の
雇用調整制度を不可欠とするでありましょうし、わが国の
労働事情のもとで、組合としてこれは絶対に受け入れることができないわけでございます。もしもそれらを経営者が将来にわたって強行するようなことがありますれば、重大な社会問題が免ずるであろうことをここに付言しておきたいと思っております。
では、かような事態をとらえて、今後の
鉄鋼業の政策につきまして若干意見を述べてみたいと思います。
設備の調整は、いかなる困難を排除いたしましても、これは実施されなければなりません。その内容におきましても、単に圧延部門の新設規制のみではなく、製銑、製鋼など鉄源の段階での設備投資も、需要の伸びとともに、これとにらみ合わせてきびしく規制すべきであります。また、普通鋼のみでなく、特殊鋼分野におきましても、
設備調整を十分に実施すべきでありまして、この分野では、中小専業メーカーの保護も含めて、大手の進出を強く規制する必要があろうかと思っております。
その具体的な方法といたしましては、第三者をまじえた
需要見通しの厳密な再検討、いわゆる
設備調整の基準となるところの
需要見通しが、現状では、
設備能力の評価の点におきましても、
需要見通しの点におきましても、ともにきわめて不可解な秘密主義のもとに、
鉄鋼業界と通産省の間だけで恣意的、便宜的にやられているきらいがあるわけでございます。これを根本的に是正することが必要ではないでしょうか。
次に、鉄源での段階の
過剰投資の規制につきましては、粗鋼ベースでの設備過剰の展望につきましては前に述べたとおりでございますが、現在工事が進行中の新設備と既有設備の増強とを合わせただけでも、四十二年度中には七千万トンに達する生産が上がるわけでございます。したがって、製銑、製鋼段階では、少なくとも四十五年度までは設備の新設は一切押えるべきではないでしょうか。
次に、圧延部門の設備休戦の厳守、これにつきましては現在休戦が行なわれておるわけでございますけれども、圧延部門の過剰はあまりにも明らかでありまして、この分野での二年の休戦は、これは例外なしに厳守をされ、来年度以降につきましても、きびしくこの点につきましては規制をすべきであることを私たちは意見として持っておるわけでございます。現在、部分的には品不足と市価の高騰が生じておりますが、これはこれまでの減産によるところの一時的現象でありまして、現在設備の操業度を本格的に高めまするなれば、なおほとんどの品種にわたって著しく能力に余裕が生ずるわけでございます。
次に、
鉄鋼業の業界自体としては、すでにこれらの規制を自主的に実施する能力を持ち合わせていないことを、私たちは今日までの経過の中で明らかなものとして判断をするわけでございます。したがって、早急に第三者を交えたところの権限ある何らかの機関を設置いたしまして、投資の調整管理を実施すべきでございまして、必要なればそのための立法措置をとるべきであろう、このように考えております。
設備調整に関しましては、大合同、それから再編成問題等が現在新聞紙上をにぎわしておりますが、巨大資本の経済的、社会的な支配力を極度に強めるような合同は、必ずやこれは独占価格の形成を将来にわたってもたらすでありましょうし、政治的にも、巨大資本による政治への反動的圧力を増大させることになりますから、デモクラシーの観点からいたしまして、これらはわれわれとして賛成しかねるわけでございます。
当面の諸矛盾は、現状の体制のもとで私企業に対する民主的なコントロールを強めることによってこれは解決していくことが望ましいと私たちは考えております。しかし、現状見られるように、それでもなお解決しないということになりますれば、
鉄鋼業の抜本的な社会化または国有化に進まざるを得ないだろう、こういう主張も持っておるところでございます。
次に、
生産調整につきまして若干の意見を述べてみたいと思います。
さきにも触れましたが、基本的には
生産調整につきましては私たちは反対の立場をとっております。特に、
設備競争を放置いたしまして、そうして
生産調整をやるということにつきましては、これは全く反対の態度を表明するわけでございます。しかしながら、実際問題といたしまして、今日の設備過剰の状態のもとにおきましては、野放しの
増産競争は大混乱を引き起こすでありましょうし、またかりに
設備調整が軌道に乗ったといたしましても、四十二年から四十三年度末までには設備と市場の条件は変わっていかないだろうと私たちは考えておるわけでございます。
そこで不可避的に何らかの生産のコントロールが必要になるわけでございますが、それはあくまでも
国民経済全体の利益に沿ったものといたしまして、民主的に管理されることが前提でなければならないわけでございます。そこでは当然鋼材価格の問題が中心点となるわけでございます。一般的な好況の中におきましてあえて
生産調整をやる以上、需要家や、または国民一般世論を納得せしめるような適正な価格水準の保持というものは、これは不可欠なものであろうかと考えております。その場合、市況の動向を見まして業界が生産を調節するといった業界まかせのやり方では、これは通らないでしょうし、やはり民主的な性格を持った第三者的な機関の監視と介入が問題になろうかと思っておるわけでございます。
次に、さきに少し触れました
中小企業の問題につきまして若干申し述べたいと思います。
今日の鉄鋼の
中小企業の問題は、すでに大資本による直接的な掌握下に置かれまして、加工部門化し、分工場化しておる系列企業の問題と、相対的に大手に対して独占的な地位にあるその他企業の問題とに大別することができるわけでございます。このうち特にここで一般的な関心を提起いたしたいのは、いま申し述べました後者のグループの問題でございます。
そこでは普通鋼、それから平・電炉メーカーと一部の特殊鋼メーカーが中心となるわけでございますが、この分野につきましては、もっぱらくず鉄を再生いたしまして鉄をつくる分野として、いわゆる分野的な特色をはっきり持たした上で、これを積極的に保護育成する政策をとることがぜひとも必要ではないでしょうか。それはまた
国民経済の上から見ましても非常に有効であるわけでございます。一貫メーカーでの転炉生産が全面化し、くず鉄需給には現在余裕が生じておるわけでございますので、戦後の鉄鋼消費構造の高度化の結果といたしまして、今後国内くずの発生量の増大が当然として見込まれるわけでございます。このような原料面での条件に加えまして、製品の面におきましても、中小並びに平・電炉メーカー、これらは大手がえてでない品種を当然こなし得るところの特性を備えておるわけでございますので、分野面での一貫メーカーとの間に一定の分業化を形づくった上で、大手にも十分分野尊重を義務づけ、設備、技術、それから資金等にわたって、これら分野の中小の積極的な育成をはかるべきではないか、このように考えておるわけでございます。
次に、
鉄鋼業の合理的管理のためのいわゆる民主的な機関の設置を提案するわけでございますが、さきにも申し上げました、何回か出てまいりました機関のあり方につきましては、いずれにいたしましても、鉄鋼に対する正しい産業政策を立案実施いたしまして、この産業の合理的な運営を保証するためには、権限ある何らかの機関の設置がここで必要となってくるのではないか、このようにわれわれは考えておるわけでございます。そうして、この種機関は、
基幹産業としての国民全体の立場を真に反映するところの民主的な性格のものとしなければなりません。私たちといたしましては、いまあげました機関の考えにつきましては、当然、各政党、それから組合の代表も参加をしていただきまして、さらに学識経験者をこれに入れる場合は、その推薦権を政党と組合にも与えるべきではないでしょうか。またこれらの実現以前でも、たとえば鉄鋼基本問題小委の構成の民主化ということも十分考えてみる必要があろうか、このように考えております。
最後に、私
たち労働者の立場といたしましては、今日の
鉄鋼業のすべての産業上の問題におきまして、私
たち労働者は徹頭徹尾最大の犠牲負担者であるわけでございまして、他方、生産と能率向上の面におきましては、おそらく日本の鉄鋼
労働者などは他の国に比べまして非常に優秀なものがあるわけでございます。私
たち労働者はこの産業発展の最大の貢献者でもあります。それはコストについての国際比較一つを見ただけでも、この点は明白であるわけでございます。今後の一切の産業政策の推進にあたりまして、この事実は銘記さるべきでございまして、いやしくもこれ以上
労働者に過重の犠牲と負担を強要するような政策は決してとられてはならない、このように考えておるわけでございます。逆に今後の産業政策は、抜本的な時間短縮、賃金水準の引き上げ、雇用の拡大を前提としたものでなければならないことを、私たちは終わりに際しまして特にこれを付言し、
皆さん方の将来にわたっての協力をお願いするわけでございます。
鉄鋼労連といたしましては初めてこのような場に出てまいりましたけれども、われわれの念頭にあるものは、現在
鉄鋼業の占めるところの
過当競争が、将来日本の国益をそこない、そうして鉄を生産しないところの、世界でも優秀な溶鉱炉ないしその他の施設が、ただ観光資源として放置されるような状態のこないように、私たちは今日、少し早目ではございますが、
皆さん方の前に問題を提起いたしまして、はなはだ簡単でございまして、内容につきましても詳細を
皆さん方の心に訴えることができなかったと思いますが、どうかその間のわれわれの考え方を十分くみ取られまして、将来にわたって特に
皆さん方の御指導とそれから善処とをお願いいたしまして、簡単でございますが、私の意見を述べさしていただいた次第でございます。御清聴ありがとうございました。