○柴谷要君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま提案されました
所得税法、
法人税法及び
租税特別措置法のそれぞれ一部
改正案に対し、反対の
討論を行なわんとするものでございます。
私は、反対の理由を申し上げる前に、まず、今回の
税制改正に対する姿勢について強く反省を求めたいと思うものでございます。
このところ、毎年のように減税問題が大きな政治課題になってまいっております。これは何より、わが国の税金が国民の負担能力に比べて重いということと、税金の取り方が不公平であるということに原因があるのであります。 (
拍手)その上、本
年度は深刻な経済の不況を反映して、不況対策のための減税の必要が叫ばれてまいっております。
政府も、今回の
改正を「世直し減税」と銘打って、史上最大の大型減税を行なうことにしたと盛んに宣伝してきたのであります。ところが、いざ、ふたをあけてみると、勤労大衆にとっては、
物価高と生活難の中で、減税どころか、かえって負担感は重くなっているのであります。これは
政府の
税制改正にいどむ姿勢そのものに責任があるのでありまして、問題は、減税によってだれがその恩典を受けるのか、だれのための減税かということであります。静かに胸に手を置いて反省していただきたい。いま最も減税を熱望している勤労大衆に対して、
政府のとるべき態度に誤りはなかったかということであります。
政府の減税
規模は、四十一
年度に国税で二千五十八億円、
地方税で二百五十七億円、合わせて二千三百十五億円となっております。しかし、これは
政府みずからが、経済財政政策の破綻に対する責任を回避し、安易な大型公債発行を軸として、大
企業の利潤
確保をねらいとするものであり、このやり方では、景気対策として何ら役に立たないどころか、事実上の不況打開に逆行するものであり、さらには、税の不均衡を一そう
拡大するものであると言わなければなりません。
以上の立場から、私は、ただいま提案されております
税制改正案に対し、その反対する理由を要点的に申し上げるものであります。
まず第一に、佐藤総理は、これまでたびたび大衆所得減税を最優先すると言ってきているのでございます。ところが、今回の
政府減税の重点として、露骨な大
企業救済の態度が打ち出され、勤労大衆には減税とは名のみで、実転的には増税をねらっているのであります。このことは、
政府案決定の過程を振り返ってみれば明らかであり、大型減税とは言っても、その中身は、財界や
自民党内の
企業減税要求圧力に押しまくられ、所得減税は大きく後退をし、
実態は、公債発行を大型化させて、なしくずしに
企業減税をふくれあがらせたにすぎず、減税
規模は、事実上、
企業、所得、五分五分に終わってしまっているのであります。所得減税も、減税の中心は、中高額所得者がその恩典の大部分を吸い取ってしまい、勤労大衆は相変わらず重い税負担のまま放置されているのが
実態であります。
第二の理由は、今回の減税が
物価値上がりにすら追いつけない。生活費には課税すべからずという原則を、忘れられてしまっているということであります。確かに、所得税の課税最低限が、たとえば五人家族サラリーマンの場合、四十一
年度は年収六十一万円余りとなり、これまでより五万円程度
引き上げられることになっているのでありますが、この程度では、四十
年度七・七%、四十一
年度にも
政府のいう五・五%にはとうてい押え切れない、いまの
状況では一〇%程度も値上がりすることが必至と見られる
物価値上がりを調整することすらできないのであります。しかも、相次ぐ公共料金の値上げによって、勤労大衆の生活難は、ますますきびしいものとなっているのであり、不況と
物価高の両面から圧迫を受けている
勤労者、
中小企業者にとって、せめて生活費には税金をかけないでほしいというのが悲願であります。これに対し、
政府は、マーケットバスケット方式により算定した標準生活費が五人家族の世帯では五十八万円となっているから、四十一
年度の課税最低限六十一万円は三万円おつりがくると言っているのでありますが、まさに勤労大衆の生活を無視した暴言と言わなければなりません。現に
総理府の行なっている人口五万人以上の都市の
調査から推計しましても、四十一
年度、五人家族でも消費支出は年間八十万円をこえようとしているのであります。これでは、
物価高の中で、名目賃金の
増加に伴って、実質的には増税となることは明らかであります。現に本
年度減税前の自然増収の大部分は、所得税や間接税など大衆課税の負担に求めているのであります。
第三の理由は、今回の
改正が、大衆重課の税体系を改めることなく、かえって不均衡を
拡大する悪質きわまりないやり方をとっていることであります。
政府は、「蓄積ある
企業、たくわえある家計」を目標として減税すると称しているのでありますが、そのねらいは、所得減税においては中高所得層に重点を置き、
企業減税においては大
企業の利潤
確保にあることは明らかであります。所得税減税千二百八十九億円といっても、その大部分は納税者のわずか六、七%にすぎない中・高所得層に吸い取られてしまい、その結果は、高校を卒業して
就職すれば、すぐその七割以上が納税義務者にされてしまうという
実態に置かれているのであります。特に問題としなければならないのは、今回の
改正が、所得税率の中だるみ是正ということで、課税所得百万円から三百万円の中間所得層を重点とした税率を調整していることであります。これにより所得税減税の三分の一以上の四百四十億円の減税となっているのでありますが、逆に最低税率は八%から八・五%に
引き上げられ、大衆の税負担を
増加させているのであり、四十
年度の課税所得階級別納税人員を見ましても、納税人員の中で課税所得百二十万円以下の者が九五・九%と、絶対多数を占めているのであります。にもかかわらず、減税の重点がこれらの低所得クラスに置かれないため、減税減税とかけ声ばかりは大きくても、納税人員全体としては相変わらず二千六十五万人で、あまり減っていないのであります。さらに重要なことは、課税最低限の
引き上げに見合って諸控除が
引き上げられているのでありますが、五人家族サラリーマンの場合、五万円の控除
引き上げによって、年収百万円程度の人は五千円の減税になるのに対し、年収一千万円クラスの人は二万五千円の大幅減税となることであります。減税の恩典は、まさに上に厚く、下に薄い、高額所得者優遇の結果を生み出しているのであります。
また、法人税におきましても、留保所得税率を一挙に二%も下げ三五%としただけでなく、
企業の体質
改善という名目で、自己資本比率の
改善、合併、スクラップに伴う減税など、租税特別
措置を大幅にふやすなど、さらに
税制調査会などでも問題にされました配当軽課税率の
引き上げすらついに見送られてしまったことは、まことに問題と言わなければなりません。わが国の
企業経営に占める租税公課の割合は、外国に比べても決して高いものとは言えず、法人利潤の低下は税制には何ら責任のない筋合いのものであります。特に租税特別
措置につきましては、その弊害のみがあらわれ、毎年の
税制改正において必ずその改廃が取り上げられてきたのであります。高度成長の谷間で不況と
物価高に苦しむ
中小企業に対する減税は名ばかりであり、またしても、大
企業減税のしわ寄せを受けてしまっているのであります。
以上申し上げましたように、減税の
内容は、勤労大衆に重く押しつけ、中高所得者や
企業減税を進めることにより、かえって税の不均衡を
拡大し、一般大衆をして税金の重荷を背負わせる結果であると申さねばなりません。
第四に、
政府の言う「世直し減税」どころか、不況打開にも逆行する
税制改正ということであります。過剰生産を中心とする今日の不況を打開するためには、とりわけ
物価の抑制と、あわせて重点的な大衆所得減税を行なうなど、下からの
需要拡大をはからなければならないのであります。
最後に私は、今回の減税が、これまでの自然増収依存の減税とは明確に区別されるべき
内容を持つことを重視するものであります。必要減税の最も危険な本質は、減税が国債発行を前提とした財政政策の根本転換の中で行なわれていることであります。国債発行下の減税は、減税後の税体系によって国債の元利償還を行なうことになるのであり、国債所有者は富裕階級に多いのでありますから、特に税の仕組みが大衆重課の体系に据え置かれている現状におきましては、将来にわたって、勤労大衆の税金培増となる危険を確実に持っていると思うのであります。
以上、私は、
政府の
税制改正に反対する理由を申し上げてまいりましたが、このような政策は、
国民生活を無視し、税財政の体系を決定的に破壊するものであると断ぜざるを得ないのであります。いま国民の最も期待しているのは、思い切った所得減税を行なうと同時に、税の不公平を是正することであり、このことが下からの
需要拡大による不況打開に通ずる道であるということであります。このような立場から、私は、所得税においては、五人家族年収八十万円までは免税とし、納税人員を半減させるべきであります。他方、大
企業については、資産所得能力にふさわしい課税を実現し、租税特別
措置を大胆に改廃することが必要であると思うものであります。
政府は、この際、謙虚に国民の声を聞くべきではないでしょうか。これこそが、わが国の経済にとっても、前途を明るくする道であることを特に申し上げ、右三案に対し、反対の
討論を終わるものであります。(
拍手)
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