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1966-06-23 第51回国会 参議院 法務委員会 第27号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十一年六月二十三日(木曜日)    午前十一時三十四分開会     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         和泉  覚君     理 事                 木島 義夫君                 松野 孝一君                 稲葉 誠一君     委 員                 後藤 義隆君                 斎藤  昇君                 鈴木 万平君                 中野 文門君                 中山 福藏君                 鶴園 哲夫君                 藤原 道子君                 山高しげり君    政府委員        法務大臣官房司        法法制調査部長  塩野 宜慶君        法務省民事局長  新谷 正夫君    最高裁判所長官代理者        最高裁判所事務        総局民事局長   菅野 啓蔵君        最高裁判所事務        総局民事局第一        課長       西村 宏一君    事務局側        常任委員会専門        員        増本 甲吉君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○借地法等の一部を改正する法律案内閣提出、  衆議院送付) ○執行官法案内閣提出衆議院送付)     —————————————
  2. 和泉覚

    委員長和泉覚君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  借地法等の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を行ないます。質疑のある方は順次御発言を願います。
  3. 松野孝一

    松野孝一君 借地法案関係については、先般私は総論的なことをお尋ねいたしましたが、きょうは、二三各条文について疑問の点を確かめておきたいと思います。  まず、借地法関係について伺いますが、第一に、借地法第八条ノ二第一項の申し立てですが、これは条文には「防火地域指定附近土地利用状況変化其ノ他ノ事情変更」があった場合にできることとなっておりますが、条文を読みますと、いま申し上げたようなわけで、「防火地域指定、」というのははっきりしたことばでありますけれども、その他は、「附近土地利用状況変化」とか、「其ノ他ノ事情変更」など、非常に抽象的な規定になっているので、不必要に広く拡張解釈されるおそれがあるのではないでしょうか。陳情なんかもその点についてわれわれのところに来ているのですが、その点について法務省の見解を承りたいと思います。
  4. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 借地法新設になります第八条ノ二によりますと、「防火地域指定附近土地利用状況変化其ノ他ノ事情変更因リ」というふうに要件が定めてございます。それは、ただいまもお話がありましたように、防火地域指定、あるいは附近土地利用状況変化したというふうな事情は、もちろん客観的に明白にわかるわけでございますが、これらの例示的にあげました事情変更のほかに、「其ノ他ノ事情変更ニ因リ」と、こういうふうに表現いたしておりますので、この点が必ずしも明白でないのではないかという御意見のように伺ったのでありますが、この例示にあげてございますように、事情変更一つの例でございます。「其ノ他ノ事情変更ニ因リ」ということも、客観的にその土地状況が変わってきたということを意味するわけでございます。したがいまして、主観的に当事者事情変更があったということを申しましても、これはこの要件には該当しないことになるわけであります。客観的に見ましてその土地状況が変わってきたということがまず一つ要件になるわけでございます。  しかも、この土地事情変更があったというだけで第八条ノ二の第一項の規定が働くのではございません。さらにしぼりがかかっておりまして、「現二借地権ヲ設定スルニ於テハ堅固ノ建物所有目的トスルコトヲ相当トスルニ至リタル場合二於テ」とございます。したがいまして、かりにいま新しく借地権を設定するといたしますならば、堅固の建物所有目的としてそういう借地契約を締結するのが相当となっているという、そういうふうな客観的に認められる状況下にあることが必要であるという趣旨でございます。したがいまして、その土地事情変更がありまして、しかも現在新しく借地契約を締結するといたしますならば堅固の建物所有することを目的とするのが相当であるというふうに一般的に認められる場合でございます。  したがいまして、この表現は「事情変更ニ因リ」というふうな表現を使っておりますために、きわめて抽象的に理解されるのではないかという御不満も無理からぬことと思いますけれども、規定の全体をごらんいただきますならば、単なる主観によってこの規定が発動するというわけではございません。少なくともただいま申し上げましたような「事情変更」によりまして、客観的にながめましても堅固の建物所有することを目的とする借地権の設定が相当であるというふうに一般的に認められる場合でなければならないという趣旨でございますので、ただいまお話しのような懸念は起きないものと私どもは考えておるわけでございます。
  5. 松野孝一

    松野孝一君 御説明でわかりましたけれども、「其ノ他ノ事情変更因リ」というのは、具体的にどんなことをお考えになっているのですか。
  6. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは「土地利用状況変化其ノ他ノ事情変更因リ」ということでございますので、客観的に土地利用状況が変わってきたという場合が広く含まれることは申すまでもないわけでございます。たとえば、防火地域指定するということのほかに、市街地改造法とかあるいは防災建築街造成法とか、その他いろいろ土地造成あるいは利用に関する各種の法律がございます。そういった法律によりましてその土地利用状況が変わってくるということもあり得るわけでございますし、また、住宅地域商業地帯になるとかというふうな場合ももちろん含まれるわけでございます。一般的にながめましてその土地事情従前と変わってまいりまして、その状況下において建物所有するとすれば堅固の建物所有するのが相当であると認められる場合を包含するわけでございます。
  7. 松野孝一

    松野孝一君 それから防火地域内借地権処理法というのでは、第三条は、堅固でない建物所有借地条件を堅固の建物所有借地条件変更する裁判申し立ての場合において、借地権消滅裁判もできることになっております。今回の改正案では、この点は、借地法第八条ノ二の一項の場合に、借地権消滅裁判を認めていないようでありますが、それはどういうわけでありますか。
  8. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 現在の防火地域内借地権処理法の第三条に、借地権消滅に関する規定があるわけでございます。大体、この防火地域内借地権処理法の構想は今回の借地法改正に取り入れてあるわけでございますけれども、借地権消滅に関する規定は除いてございます。これは、本来、土地の合理的な利用をはかる目的で、従前賃借人が堅固の建物を建てたい、あるいは増改築をしたいという場合の措置を定めたわけでございまして、その土地利用するという方向において合理的な措置をとれるようにしようというのがこの改正趣旨でございます。したがいまして、そういう際に逆に借地権消滅させるということは、この規定趣旨からいっても適当でないのではないかということが考えられますことと、さらに、既存の借地権裁判所の命令とは申しますものの消滅させてしまうということは、これは財産権に対する大きな影響を及ぼすわけでありまして、憲法上の問題にもなりかねないわけであります。この防火地域内借地権処理法というのは、昭和二年の法律でございます。もちろん旧憲法下法律でございまして、現在の憲法のもとにおきまして新しく立法するといたします場合、そこまで規定いたしますことは行き過ぎの感もあるのではないかということを考えまして、今回の改正のときにこれを取り入れないことにいたしたわけであります。
  9. 松野孝一

    松野孝一君 もう一つ借地法の第八条ノ二の第二項の増改築承諾にかわる許可裁判は、具体的特定増改築のみを許可するものであって、一般的抽象的に増改築許可するものではなく、また増改築の制限の特約を廃止するものでもないと解しておるが、それでよろしゅうございますか。
  10. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) そのとおりでございます。第二項にも書いてございますように、単に「土地所有者ハ賃貸人承諾二代ハル許可ヲ与フル」ということでございます。したがいまして、増改築を制限する旨の特約そのものをここで取っ払ってしまうという趣旨ではないわけであります。ことに、増改築の場合におきましては、当該増改築のみに限らないわけでありまして、将来もいろいろの問題が出てくるわけでありまして、簡単に増改築のためにその特約を撤廃してしまうということはこれは適当でないわけでございます。したがいまして、第二項におきましては、個別的に当該増改築について「土地所有者ハ賃貸人承諾二代ハル許可」のみを与えるということにいたしたわけであります。
  11. 松野孝一

    松野孝一君 次に、借地法第九条ノ二の関係について、これはたいしたことではありませんけれども、一応お尋ねしておきますが、借地法第九条ノニは、借地上の建物第三者譲渡しようとする場合についてのみ規定しており、借地上に建物が存しない場合の賃借権譲渡または転貸については、その承諾にかわる許可裁判を認めていないのでありますが、それはどういうわけでありますか。  また、借地法第九条ノ二の第一項の「申立」は、借地上の建物譲渡した後には認められないと考えるが、その解釈でよいのでしょうか。
  12. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 第九条ノニ規定趣旨は、借地権者がその借地上に建物を持っておりまして、これを他に譲渡しようとする場合、言いかえますならば、その場合に借地権者としましてはいろいろの事情に基づいて自己の投下した資本を回収する必要があるという場合に起きる問題を解決しようとするものであります。建物がございまして、どうしてもそれを譲渡しなければならない場合に、賃貸人承諾が得られないということによっていろいろの紛糾が生じているのが実情でございます。しかしながら、賃借人の投下いたしました資本の回収ということもやはり確保できるようにいたす必要がございますので、裁判所裁判によりましてその道を開こうというのがこの規定趣旨でございます。したがいまして、建物もなく、単に土地を借りているというだけの状況下におきまして、その賃借権を他に譲渡するという場合をこの規定によって措置しようということを考えているわけではないのでございます。真に必要な場合ということになりますと、賃借人建物を持っておって、それを他に譲渡しようとしてもどうにもならないという場合に九条ノ二が働いてくるわけでございます。  さらに、借地上の建物譲渡してしまった後はどうなるかという問題でございますが、これは賃貸人承諾を得ておりますればもちろん問題はないわけでございますが、承諾なしに建物譲渡してしまいますと、民法の六百十二条に違反することになるわけでございまして、賃貸人としては契約解除することができるということになるわけでございます。この規定は、あくまでも賃借人がその建物第三者にこれから譲渡しようという場合に、あらかじめ協議がととのわなければ、裁判所によって公正な裁判をしていただくというところにねらいがあることでございますので、無断譲渡してしまった場合は九条ノ二の規定によって救済されることはないということになるわけでございます。
  13. 松野孝一

    松野孝一君 それから借地法の第九条ノ二の第二項の規定によると、賃借権譲渡転貸許可を「財産上ノ給付ニ係ラシムルコトヲ得」と規定しているが、許可裁判が確定しても、賃借人裁判で命ぜられた金銭支払いをしない限り、適法に賃借権譲渡転貸ができないものと思うのでありますが、それでよろしいのでしょうか。
  14. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) そのとおりでございます。第九条ノ二の第一項の規定によりまして借地権譲渡についての承諾にかわる裁判をいたします際に、借地人貸し主との間の利益の公平を期するというために、ただいまの「財産上ノ給付」を命ずることができるようにいたしたわけでございます。この承諾にかわる許可を与えましても、金銭支払いが行われないということになりますと、貸し主側にとりましては非常に不利益な場合も起きるわけでございます。これは、やはり双方が特に公平にしかも的確にこの措置をとれるようにいたしますために、財産上の給付条件にしているわけでございます。借り主側におきましてその給付をしませんと、この裁判効力は生じないということになるわけでございます。
  15. 松野孝一

    松野孝一君 それからもう一つ賃借人借地法第九条ノ二第一項の許可裁判を経ないで、賃貸人無断借地権譲渡転貸した場合には、民法第六百十二条第二項の規定どおり原則として賃貸借契約解除が認められると思うが、そういうふうに解釈してよろしいでしょうか。
  16. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 先ほどもちょっと申し上げた点でございますが、九条ノ二は、あくまでも賃信人がその所有建物を将来譲渡しようという場合に、あらかじめ裁判所許可を得る規定でございます。もしもこれを得ないで無断建物第三者譲渡転貸いたしますと、民法の六百十二条の規定によりまして契約解除されることになるわけでございます。
  17. 松野孝一

    松野孝一君 それから借地法の十二条関係についてちょっとお伺いします。  借地法第十二条第二項の「相当認ムル」ということばがあります。「相当ト認ムル地代又ハ借賃ヲ支払フヲ以テ足ル」というふうに規定しておりますが、この「相当」というのは、主観的に相当考えるものでいいと思うのでありまして、あとで客観的に裁判相当でないということがわかることもあるかもしれませんが、その場合に借地契約債務不履行理由として解除することができないものと考えるのでありますが、その点はどういうふうにお考えですか。
  18. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 結論的には、ただいまおっしゃいましたとおりでございます。第十二条の「相当ト認ムル地代又ハ借賃」と申しますのは、借り主相当と認める金額でよろしいわけであります。本来ならば、客観的に相当地代あるいは借賃を支払いませんと、契約解除というふうな結果になる場合も起きるわけでございます。現実には、裁判が確定いたしますまでの間、幾らが客観的に相当金額であるかということがわかりませんために、現在、地代借賃の増額請求に関連いたしまして非常に多くの紛争があり、訴訟事件も多くなっておるわけでございます。こういった問題を解決いたしますために、ともかくも、借り主は、客観的にその地代あるいは借賃の増額相当だと考えられましても、幾ら払えばよろしいかということが見当がつかないわけでございまして、ある程度増額の必要があると考えられますれば、そのみずから相当考え金額を支払っておくということにいたしたわけでございます。たとえその払った額よりも高額に裁判所裁判によりまして地代あるいは借賃が確定いたしましても、それによって賃借人債務不履行の責任は負わせないようにしようというのがこの規定趣旨でございます。もっとも、裁判によりまして確定いたしました借賃が賃借人の払いました金額より多い場合には、その差額を清算する必要があるわけでございます。それが第十二条第二項の後段にその規定を設けてその間の調整をはかることにいたしたわけでございます。
  19. 松野孝一

    松野孝一君 それから裁判手続関係についてちょっとお伺いします。  借地法第八条ノ二並びに第九条ノ二などの裁判は、非訟事件手続によることになっておるのですが、その事案が、まあ内容的に見れば争訟的性質の強いものがあるわけであります。だから、できる限り訴訟的な手続を取り入れる必要があると思うのであります。この点に関して改正法案はどういう配慮をなさっておるか、ちょっと御説明をいただきたい。
  20. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 借地法第八条ノ二あるいは第九条ノ二等の裁判につきましては、第十四条ノ三の新設規定によりまして非訟事件手続法規定原則的に準用いたすことにいたしておるのでございます。非訟事件手続法でございますと、もちろん訴訟法とは性格を異にいたします。の形で手続が進行するものではもちろんないわけであります。しかしながら、借地関係の問題につきましては、貸し主借り主の事実上の利害の対立というものがございます。法律上の紛争とは言えないかもしれませんけれども、そういった対立した当事者があるということは、これはもう申し上げるまでもないことでございます。そこで、非訟事件手続法の従来の原則に立ちましてこの事件処理するということは必ずしもこの場合適当でないというふうに考えられまして、できるだけ訴訟形態に近い形にいたしまして事案の公正な処理ができるようにいたそうとしたわけでございます。  若干の規定を設けまして、非訟事件手続法原則に対しまして特別の定めを設けたわけでございます。  たとえば、第十四条ノ六でございますが、裁判所は必ず審問期日を開きまして当事者陳述を聞かなければならないということにいたしてございます。これは、申立人のみではなく、その相手方の陳述ももちろん含まれるわけでございまして、また、当事者は、申立人以外の者といえどもこの審問に当然立ち会う権利を与え、その機会にいろいろの主張もできるようにいたしたわけでございます。  さらに、次の第十四条ノ七でございますが、裁判所は、非訟事件手続法によりますと、職権をもって事実の探知をし、さらに職権をもって証拠調べをすることができるようになっておるのでございますけれども、これを単に裁判所職権行動のみにゆだねるということは、先ほど申し上げました理由によりまして必ずしもこの場合相当でないと考えられますので、当事者側証拠調べ申し出をし得る道を開いて、しかもその証拠調べ民事訴訟の例によってやることにいたしたわけでございます。これによりまして、民事訴訟の場合と同じように、当事者証拠調べにおける立会権も認められますし、また、反対尋問権も認められるということになるわけでございます。  さらに、十四条ノ八でございますが、これは特別の理由もあるわけでございますけれども、審理を終結いたしますときに、現在の非訟事件手続法によりましては、特段の裁判所のこれについての処分というものはないわけでございます。適当に職権をもって調べまして、こういう事実が認められるということが確信を得られますと、直ちに裁判に移るということになっておるわけでございますが、それでは借地関係のこういった問題について当事者主張あるいは証拠調べ申し出を十分尽くさせるという機会が必ずしも得られないようになる心配もあるわけであります。十分そういった主張立証を尽くさせるということを考えますと同時に、また、裁判所におきましても、ある一定の段階におきまして審理はこれで全部打ち切るということを明白にすることによりまして、当事者にもその旨を十分理解できるようにし、それまでに主張立証も尽くし得るようにしようということで、十四条ノ八を設けたわけであります。  さらに、そのほか、非訟事件手続におきましては非公開主義でございまして、一般に公開されないわけであります。しかし、この裁判の特殊な性格によりまして、第十四条ノ十四の規定を設けまして、その当事者と、また利害関係を疎明しました第三者に記録の閲覧を請求することができるようにいたしたわけでございます。これによりまして、ある程度手続が公開されるということによりまして公正に裁判が行なわれ撮るように担保しようというわけでございます。  いろいろほかにもこまかい規定がございますが、特に借地関係の問題につきまして争訟的な色合いがかなり深いものでございますので、一般の非訟事件とは若干性格を変えまして、民事訴訟的な色彩を加え、できるだけ公正な裁判ができるようにいたしたつもりでございます。
  21. 松野孝一

    松野孝一君 それから借地法の第十四条ノ十一の規定は、借地法第八条ノ二第三項等の裁判給付を命ずるものは「強制執行二関シテハ裁判上ノ和解ト同一効力有ス」、こういうふうに規定しておるのですが、これは従来のいろいろの立法の例だとこういうのがあるかどうかわかりませんが、「執行力ヲ有スル債務名義ト同一効力ヲ有す」とかあるいは「確定判決ト同一効力ヲ有す」とか書いてあると思いますが、特にこういうふうに書いたのは、何か意味があるわけですか。
  22. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 第十四条ノ十一の規定におきまして、給付を命ずる裁判につきましては  「強制執行二関シテハ裁判上ノ和解ト同一効力有ス」というふうに規定いたしたわけでございますが、これは、御質問のように、現行法におきましてこういう場合にいろいろの形で規定されておるわけでございます。たとえば、「執行力ヲ有  スル債務名義ト同一効力有ス」とか、あるいは「裁判上ノ和解ト同一効力有ス」とか、あるいは「確定判決ト同一効力有ス」とか、それぞれの規定によりましてその使い方が違っておるわけであります。現に、非訟事件的な裁判につきましても、「和解ト同一効力有ス」というのもございますし、また、「債務名義ト同一効力有ス」という表現をとったものもあるわけでございますが、ここで特に「強制執行二関シテハ裁判上ノ和解ト同一効力有ス」といたしましたのは、給付を命ずる裁判でございますので、これによって強制執行できるようにいたす必要がございます。そういう意味で、裁判上の和解同一効力を持たせることによりまして、さらにこれが確定判決同一効力を持つことになり、それが債務名義になるということでございまして、単純に「裁判上ノ和解ト同一効力有ス」というふうに書きますと、これは「確定判決ト同一効力有ス」というふうに裸で書いてしまうのと同じ形になるわけであります。そういたしますと、非訟事件裁判につきまして従来いろいろ議論されておるところでございますけれども、その裁判既判力を生ずるかどうかという点が非常に問題になるわけであります。この手続によります裁判につきまして既判力を認めるということは相当でございませんので、そういう意味で、ただ  「強制執行ニ関シテハ裁判上の和解ト同一効力有ス」と、こういうふうにいたしまして、既判力を持っていないという趣旨を出そうとしたのでございます。同時にまた、執行力ある債務名義たる効力を有すというふうな書き方をいたしますと、これは強制執行手続関係で若干明らかでない問題が起きてくるわけであります。たとえば、承継人に対してその裁判効力を持つのかどうか、あるいは、執行力付与手続が一体どういうふうになっていくのかというような問題、あるいは、請求異議の訴えが起こせるのかどうかというふうな、いろいろの疑問が出てくるわけでございます。そういった点を避ける意味におきまして、「裁判上ノ和解ト同一効力有ス」という表現をとってきたわけでございます。これはあくまでも「強制執行ニ関シテハ」という規定が入っておりますので、そういう強制執行についてはこれが債務名義になるわけでございますが、裸で書いてございませんので既判力を持っていないという趣旨をこれで出そうといたしたわけでございます。
  23. 松野孝一

    松野孝一君 それから借地法第十四条ノ十ですが、この規定によりますと、借地法第八条ノ二及び第九条ノ二等の裁判は「最終ノ審問期日裁判確定前ノ承継人」に対してその効力を有することとしているが、その趣旨は、裁判が無意味になることを防ぐものと考えるのであります。しかし、裁判確定後の承継人に対する効力はどういうふうになるものでありますか。
  24. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 先ほどの御質問でちょっと触れたわけでございまするが、そういった点も十四条ノ十一の規定表現によりまして明らかにしようとする意図があるわけでございます。確定後の承継人に対して効力を生ずるか生じないかということも確かに問題になりますので、第十四条ノ十一におきまして「裁判上ノ和解ト同一効力有ス」ということにいたすことによりまして、民事訴訟法の二百三条あるいは二百一条の規定によりましてこれが承継人に対してもその効力を持つことになるわけでございます。そういう意味で十四条ノ十一の規定をこのように定めたのでございます。
  25. 松野孝一

    松野孝一君 次は、借家法関係について伺います。  借家法第七条ノ二の規定における「相続人ナクシテ死亡シタル場合」と、こういうふうに規定されておるのでありますが、これは、解釈上、相続人の全員が相続放棄をした場合も含まれるわけでしょうね。
  26. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) そのとおり考えております。これは共有の場合にも同じような問題が起きるわけでございますが、その解釈も同じような解釈になっておりますので、全員相続放棄いたしました場合も当然含まれるというふうに解釈すべきものと考えております。
  27. 松野孝一

    松野孝一君 もう一つ、借家法第七条ノ二の規定による借家権の承継は、「居住ノ用ニ供スル建物」のみについて認めるものとしておりますが、店舗や事務所等については承継を認めないのでありますか。
  28. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) そのとおりでございます。この規定は、居住権をその居住者のために確保しようというのがこの規定のねらいでございます。したがいまして、居住者を保護するために特に相続法の特例となるようなこの規定を定めようといたした場合でありますので、一般の単純な店舗、事務所であるというだけの理由によりましてこの規定が当然働くことにはならないわけであります。もちろん、そういった店舗、事務所といえども、その借り主につきまして第七条ノ二に定めるような要件が備わりますと、当然内縁の妻とか事実上の養子にその賃借権が承継されることになるわけでございますが、単純に店舗あるいは事務所であるというだけの理由ではその賃借権を承継し得ないわけでございます。
  29. 松野孝一

    松野孝一君 最後に、民法関係についてちょっとお尋ねいたします。  民法第二百六十九条ノ二の第二項の規定により第三者承諾を得て地下または空間の一部の地上権が設定された場合に、第三者の使用収益権はそれだけ制限を受けると思うのでありますが、一部の地上権が消滅したときには第三者の権利は当然復活するものと考えていいでしょうね。
  30. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) そのとおりでございます。地下または空間の地上権を設定いたしますためにその第三者承諾を得ておるわけでございます。本来ならば、第三者は空間あるいは地下に及ぶ使用権を持っておるわけでございますが、新しく設定された地下あるいは空間の地上権のために自己の権利の行使を制限されても差しつかえないという意味でこの承諾を必要とするわけでございます。したがいまして、もしもこの地上権が消滅してしまったということになりますれば、従来の第三者の権利は当然復活すべきものというふうに解釈いたしております。
  31. 後藤義隆

    ○後藤義隆君 ちょっといまのに関連して。  第八条ノ二の第一項に関係するものですが、木造等の非堅固な建物所有目的とした賃貸借契約を締結して、現にその建物がそこに存する、その建物を保護するという意味でもってこういう法律をつくる必要もあるが、建物が実際はつくられなくてそのままになっておる、契約はそういう目的でしたけれども、そのままになって建物が現存しない場合に、なおそれでもこういう法律をもってその賃借権を保護する必要があるかどうか、その点はどうでしょうか。
  32. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは、直接には、木造の建物があります場合に、それを堅固な建物に直していこうという必要性のある場合をねらったわけでございます。しかし、賃貸借契約におきましてその借地条件が木造建物所有することを目的としておるということになっておりまして、まだ建物はそこにない。しかし、今後それを新しく建物を建てようとする場合に堅固の建物を建てなければならないという客観情勢になってきたというような場合には、これはやはり借地条件変更する必要が生まれてくるわけでございます。しかし、そういう場合に、従来建物がないのにこれからいよいよ建てようという場合にこの規定に便乗してやるというふうなことも考えられないではないわけであります。しかし、これはあとのほうに、第八条ノ二の第四項でございますが、この裁判をいたしますにつきましては、借地権の残存期間がどうなっておるとか、あるいは土地状況借地に関する従前の経過、その他一切の事情を考慮して裁判所が公正な判断を下すことになっております。したがいまして、借地契約はありましても建物をその上に建てていなかったという事情がどういう事情に基づくものであるかというふうな事情も十分裁判所においてしんしゃくされましてこれを許すか許さないかということになろうと思うわけでありまして、その辺は個別的な事案に応じまして妥当な判断が裁判所によってなされるものと期待いたしておるわけでございます。
  33. 後藤義隆

    ○後藤義隆君 それから八条ノ二の第三項の関係でありますが、松野さんからさっきちょっとお確かめがあったのですが、この裁判をなすにあたって地代増額その他金銭支払いを命ずるという裁判は、これはいわゆる法律上の条件ですか、それとも法律上の条件ではないのかどうか。  それからもし金銭支払いをせなかったときは強制執行目的になることは当然であるが、しかし、支払いをしないからといった場合に、普通の双務契約でなくて契約解除ができるのかどうか。いわゆる裁判の解消ができるかどうか。普通の地代ならば、これは双務契約だから賃貸借契約解除はできるが、地代賃料以外の、特に命じた財産上の支払いですね、それを支払わなければ契約解除ができるのかどうか、いわゆる契約解除というと、裁判効力を失なわせるようなことができるかどうかという点は、それはどんなふうになりましょうか。
  34. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 御質問の問題は、第八条ノ二の三項と第九条ノ二の第二項と両方に関連があるように考えるわけでございます。第八条ノ二の第三項の規定は、ここにも書いてございますように、借地条件変更裁判をしたり、あるいは増改築について賃貸人承諾にかわる許可裁判を本来いたすわけでございますけれども、その際に当事者の利益の公平をはかる必要があるような場合におきましては、付随の裁判といたしまして、ここに書いてございますように、地代あるいは期間を変更したり、あるいは特別な財産上の給付を命ずるということをすることによりまして貸し主借り主との間の利益の公平をはかっていこうという趣旨でございます。第八条ノ二の第三項の規定は、あくまでも第一項、第二項の裁判に付随的になされる裁判でございまして、これは当事者の利益の公平をはかるために裁判所が特にそういう裁判を付け加えてなすわけであります。したがいまして、これは当然に支払われることが条件になるというのではございませんで、第一項の裁判と第二項の裁判とはそれ自体として効力を生じますし、また、第三項によって特別に裁判所が付随的に行ないます裁判は第三項の特別の裁判であります。したがいまして、一項、二項と直接これが条件あるいは結果の関係に立つというものではないわけであります。  ただ、第九条ノ二の第二項の場合におきまして、「其ノ許可財産上ノ給付ニ係ラシムルコトヲ得」といたしておりますが、これは条件でございます。この場合にはその支払いをいたしませんと、賃借権譲渡転貸についての承諾にかわる許可効力を生じないことになるわけであります。
  35. 後藤義隆

    ○後藤義隆君 そうすると、第八条ノ二の三項ですが、裁判所財産上の支払いを命じてもこれを払わなかった、強制執行しても目的を達することができなかった、そういうふうな場合でも、あくまでその賃貸借を継続しなければならぬということになると思いますが、そういうことになりましょうかどうでしょうか。
  36. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは先ほども御質問があった点に関連いたしてまいりますが、第八条ノ二の第三項の裁判、特に給付を命じます裁判につきましては、第十四条の十一によりまして債務名義になるわけでございます。したがいまして、もし払いませんと、強制執行をなし得るということになるわけであります。これは払ってないからといって当然に第一項あるいは第二項の裁判が失効するというふうにはならないわけでございます。
  37. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 本案に対する質疑は、一時中断いたします。     —————————————
  38. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 次に、執行宜法案を議題とし、質疑を行ないます。質疑のある方は順次御発言を願います。
  39. 松野孝一

    松野孝一君 執行官法ですが、これは前回の同僚の稲葉委員からの質疑応答でわかっておるのでありますが、根本対策については前々から研究しておられるがまだ結論は得ておらないというお話がありましたが、このもととなる法律、執達吏規則とかいうものは、ドイツかフランスからか持ってきたものと思いますけれども、この西欧の諸外国、ドイツとかフランスとかその他は現存どういうふうなやり方をやっておるんですか、その点をちょっと教えてください。
  40. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) この執行吏制度は、諸外国いろいろなやり方になっておりまして、一口に申し上げることが困難なのでございますが、日本に似ておりますのは、と申しますよりは、むしろ日本が先例にならいましたのは、大陸諸国の例でございまして、大陸の諸国の執行吏の制度に似ているわけでございます。幾つかの例を申し上げますと、たとえばフランスにおきましては、現在手数料制でございまして、それから日本と同じように自由選択制になっております。それからドイツにおきましては、いろいろ経緯がありまして、最初はフランス式の執行吏制度を受け入れていたようでございますが、その後いろいろ改革がございまして、現在では大体固定俸給制に手数料の歩合を加味するという形の制度になっているようでございます。それからオーストリアにおきましては、執行官は裁判所職員で固定俸給制という形になっております。それからさらに英米になりますと、これは法制が全体に非常に違っておりますので、よく申しますシェリフとかあるいはマーシャルというようなものが強制執行に当たっているようでございますが、イギリスのシェリフは手数料制のようでございます。それからアメリカにもシェリフないしマーシャルというようなものがございますが、これらの英米の法制におきましてはこういう仕事を担当しているものが刑事関係の執行も行なうというふうな形になっているもののようでございまして、日本の制度とは英米はかなり違ったもののように考えられるわけでございます。  簡単に申し上げましたが、以上のような大体の形でございます。
  41. 松野孝一

    松野孝一君 それからもう一つ、「執行官法案参考資料」を見ますと、執行吏の人員が非常に減っているようでありますが、ここに戦前からら戦後にかけてはぐっと減っておる、それからさらに漸減しているように思いますが、これはどういう理由に基づくものですか。
  42. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 仰せのように、戦前は相当の人数がありました。平均いたしまして六百人。それが、戦後は、終戦直後と申しますれば、やはり民事事件等が減少いたしました関係で、資料の表にもありますように、三百二十八人というような少ない人数のときもあったわけであります。だんだん戦後の社会状態が平常に復しますにつれまして、三十五年までは漸増の傾向にあったわけでございます。その後漸次また減少の傾向をとりまして、ことしの三月末現在では三百二十五人というふうに戦争直後の最も人数が少なかったときを下回っているというような状況が出ております。これは、執行事件数が、同じ「参考資料」の表にも出ておりますように、多少三十六、七年ごろから減少しているということも出ておるわけでございまするけれども、それ以上に執行吏の数が減ってきておるということは、これは御承知のように執行吏の仕事というものは非常に困難な仕事で、たやすい仕事でないのにかかわらず、これに対する経済上の処遇、待遇というものが十分でない、そういうことで希望者が少ない。そういう関係で年々退職していく人が二十数名あるわけでございまするが、これに対して補充していく数というものが追いつかないという状況で減ってまいってきているのでございます。
  43. 松野孝一

    松野孝一君 いまの執行吏は手数料主義でいっているんだが、その手数料の最低が二十四万円にならなければ国が補給するという規定になっているわけです。今度の四十一年度の予算では、これはどういうふうになりましたですか。
  44. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 現在の執行吏の補助金と申しまするのは、年額の手数料の収入が二十四万二千円に達しないものにつきまして、その手数料収入との差額を補助するということなのでございまするが、この法案がもし成立いたしまして新しい執行官が任命されるということになりますれば、この二十四万二千円の補助金額が、六十二万二千円という、三倍に近い程度の増額になるわけでございます。ただし、それは新しい法律によりまして新しい資格に基づいて任命された新執行官がそういう待遇を受けるということでございますのですが、現在の執行吏は、この法律の附則の規定によりまして施行と同時に執行官に任命されたものにみなされるわけでございまするけれども、採用資格が旧執達吏規則による採用資格でありまする関係上、これを新法による新執行官と同等の六十二万二千円とすることができませんので、これは二十六万四千円程度にしか引き上げることができないわけでございます。ただし、さようにして附則の規定によりまして今度の新しい法律のもとにおきまする執行官に任命されたものとみなされる者につきまして、その経歴、実務上の成績等を参酌いたしまして、新執行官の高い六十二万二千円のクラスの執行官に引き上げていくということは、試験等をやりまして可能なわけでございます。
  45. 松野孝一

    松野孝一君 この手数料は、これはみな最高裁判所の規則に定められることになっているのだが、いま配付しておる表は、これは従来と同じようなものですか。
  46. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 従来はと申しますか、現行は執達吏手数料規則——これは法律でございますが、それで手数料をとれる場合とその額がきまっておるわけでございますが、今回の新法によりますと、手数料をとり得る場合は、八条の規定でございまするか、法律によって規定されるわけでございます。その額につきましては、いろいろこまかい問題になるものでございまするから、裁判所の規則に落とすというたてまえになっております。そこで、もし法律が通りますれば、私どもといたしましてこの点に関する裁判所の規則をつくらなければならないということになるわけでございますが、ただいま私どものほうでこの手数料の額につきましてどういうふうに考えてどういう規則をつくるかということにつきましての方針は、昨年訴訟費用等臨時措置法の改正がございまして、主として執行吏の手数料の値上げが改正され、その結果、従前の約三割増しという手数料の額を認めていただきましたので、今回はさらに手数料を上げるということのさしあたっての必要性をまだ感じておりません。そこで、大体従来の手数料の額をそのまま規則に書くつもりでおります。  ただ、二、三こまかい点で新しく手数料をとることが法律上認められましたものにつきましての額を定め、あるいはごくわずかな部分につきまして従来よりも手数料の額を上げたいと考えております点について申し上げますと、まず第一に、値上げといたしまして、書類の送達はただいま六十円とあるのを八十円程度に、告知・催告の手数料がただいま六十円とあるのを百円程度に、それから書記料を、これはまあ値上げにはなりませんけれども、ただいま半枚につき二十円ということになっておりますのを一枚につき四十円という程度の値上げを考えておりますし、新しく法律上先ほど申しました執行官法の八条の規定で手数料をとることを認められました、たとえば差押物または仮差押物の点検等につきまして、差押手数料の半額、あるいは、商法等による調査の援助・立会等につきまして、従来規定がなかったのでありまするが、今回はこれを千円の手数料を認める、それから執行取消しによる物の引渡しにつきましても、従来規定がありませんでしたので、差押手数料の区別に従ってその十分の三の手数料を認める、あるいは休日・夜間の執務につきましては、二分の一の割り増しを認めるという程度の改正をいたしたいと思っております。
  47. 松野孝一

    松野孝一君 もう一つ、この執行官法を実施する場合には、たとえば執行吏役場を廃止する等、その全従業員を裁判所の庁内の事務室に入れなければならないというようなこともありましょうし、そのほかいろいろかかると思いますが、この予算はどのくらい要求される見込みですか。これを実施する場合においてどのくらい予算がかかるんですか。
  48. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) ただいまのところ、法律を施行しましてどうしても執行吏役場の職員を裁判所の中に入れることができないところと申しまするのは、全国の役場、三百六十余りございますが、その中で十カ所余りであります。この十カ所につきましては、物理上どうしても法律が施行されましても人を入れることができないわけでございます。ただ、裁判所の中に詰め所があるという形をとりませんと、どうしても法律違反になります。そこで、その十カ所につきましては、六カ月の施行期間はありまするけれども、しかし、その間に新築をし改造をするということは必ずしも可能でございませんので、やむを得ず机一つを入れるというような形に十カ所はなるかと思います。しかし、その他の場所におきましても、一応裁判所の中に執行吏役場の人員を取り入れることといたしましても、必ず不十分な場所がたくさん出てくるわけでございます。裁判所が新営されるところにおきましては、その場所に必ず執行吏の事務室をつくるということに、これは裁判所の経理のほうでも、今後の設計は必ずそういうことにするということにしております。それから広さの不十分なところにつきましても、営繕の改築の費用をこの部分に充てていくという方針を出しておるのでございます。ただ、来年度にどの程度やるかということにつきましては、ただいま経理とも折衝中でございまして、来年度のその点に関する予算要求をどの程度するかということにつきましては、担当の局はむしろ経理にあるわけでございますが、私どものほうとしては、この法律趣旨が十分通るように経理のほうと折衝いたしまして、大蔵省との折衝に当たってもらいたい、かように思っておるわけでございまして、ただいま幾らという積算はまだいたしておりません。
  49. 松野孝一

    松野孝一君 私の言いたいのは、もう一つ、執行官はやはり研修が必要だと思うのです。積極的にこれはやってもらいたいと思いますが、その予算もやはり考えてやってもらいたいと思います。
  50. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 執行官の研修につきましては、当法務委員会におきましても昨年来そういう点の御指摘がございまして、私どももその必要性を十分に感じておったわけでございますが、ことしの予算といたしまして大蔵省も初めてわずかではございますけれどもそのための費用を認めてくれました。しかし、その費用をもってする研修というものは必ずしも十分とは思いませんので、今後ますます予算的な措置をいたしまして、その研修がもう少し充実できるような方向に努力いたしたいと思っております。
  51. 松野孝一

    松野孝一君 この執行官法によりまして、今後の執行官に優秀な人材を得るという自信がありますか。だいぶ待遇改善にもなったように思うのでありますが、特にこの第十二条に、「執行官の退職手当及び退職後の年金その他の給付については、引き続き検討が加えられ、その結果に基づき、必要な措置を講ずるものとする。」と書いてありますが、執行官の待遇の改善についてさらに考慮すべきものもあると思うのですが、この点に関しての御所見を承りたい。
  52. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 執行官の処遇につきましては、ただいま御指摘のとおり、今回の執行官法におきましてある程度の待遇の改善ということは行なわれ得るものと考えておりますが、なお必ずしも十分でないということは御指摘のとおりでございまして、ただいま御指摘いただきました条文にも記載してございますように、その処遇の問題につきましては、今後さらに前向きに検討を進めなければならないものと考えております。
  53. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 午後一時三十分まで休憩いたします。    午後零時四十七分休憩      —————・—————    午後一時五十三分開会
  54. 和泉覚

    委員長和泉覚君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  借地法等の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を行ないます。質疑のある方は順次御発言を願います。
  55. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 非訟事件手続法による場合に、憲法第八十二条の「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」、これとの関連では具体的にどういう問題があるわけですか。何か法制審議会で相当議論がこの点についてあったのですか。借地借家法の中で非訟事件手続によるものがあったとしても、憲法との関係で特に問題となるべきものはないわけですか。その点はどうなるんですか。
  56. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 非訟事件手続憲法第八十二条との関係でございますが、これにつきましては、具体的にはいろいろの訴訟事件あるいは非訟事件というふうな形におきまして現実の問題として憲法八十二条の問題が論議された経緯はございます。これは最高裁判所におきましても何回かにわたりましてその結論を示されておりますが、今回の借地法等の一部を改正する法律案におきまして第八条ノ二及び第九条ノ二の裁判を非訟事件手続によって行なうということにいたしましたことにつきましては、特にこれが憲法違反であるという趣旨の議論はなされていないのでございます。むしろ、この事柄の性質上、こういう形にいたします場合にはこれは性質上非訟事件であるということで、従来の最高裁の判例等によっても憲法違反でないということにされておりますが、借地法関係におきましてもその趣旨に従ってやる場合におきましては特に憲法八十二条との関係は出てこないという考え方に立ってこの手続を定めたわけでございます。
  57. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 本来、口頭弁論主義でやるものと非訟事件でやるものと、こういう二つの分け方をして、この分ける基準というものはどういうところに求められるのですか。
  58. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 要するに、その問題は、民事訴訟処理すべき性質のものであるか、それとも非訟事件処理すべき性質のものであるかということになるわけでございます。憲法第八十二条のこの趣旨は、口頭弁論を経まして判決の形式によって、言いかえますならば、訴訟の形式によってやります場合に裁判の対審及び判決は公開の法廷でなされなければならないという趣旨であるということは、これは通説と言ってもよろしいと思うわけでございます。  そこで、しからば、民事訴訟の形式をとらない非訟事件はなぜ違うかということになるわけでございます。訴訟の対象になるものと非訟事件の対象になるものとまずどこが違うかということでございますが、訴訟の対象になりますものは、対立しました当事者の間で権利関係の存否について争いがあって、一方はそういう権利関係があるといい、他方はそういった権利関係がないという主張をいたしました場合に、国家機関である裁判所第三者的な立場に立ちまして、その双方の主張を聞いて、そういった権利関係があるかないかということの判断をいたすわけでございます。これが民事訴訟の対象となる事件でござます。ところが、非訟事件の場合には、そのような対立当事者の間の権利関係の存否についての争いというものはないわけでございます。もしも権利関係自体の存否について争いがありますれば、これは非訟事件処理するということは許されないわけでありまして、当然民事訴訟によって解決しなければならないわけでございます。非訟事件の対象になりますのは、ある一定の法律関係当事者の間に新しく形成していくとか、あるいは、既存の法律関係、権利関係変更していくというふうな場合に、非訟事件手続によりまして裁判所が一切の事情を考慮して合目的的にその裁量権に基づいてその法律関係の形成変更を行なうということになるわけでございます。したがいまして、非訟事件の場合には、その関係当事者から裁判所に対しましてそういった法律関係の形成変更を求め、形成変更をしますのは裁判所でございます。当事者間の既存の法律関係があるかないかという判断ではなくて、新しく当事者の権利関係を創設したり変更したりしていく、これを後見的に裁判所が行なっていくわけでございます。いわばこれは一種の行政処分と同じようなものでございます。これを行政庁で同様なことを行ないます場合には行政処分といわれるわけでございますが、裁判所が行ないます場合にこれを非訟事件という形にいたしまして、一定の法律手続に従って公正にその処理を行なうということになるわけでございます。したがいまして、本来、民事訴訟の対象になるべきものと、非訟事件の対象になるべきものとは、もう性質的に違いがあるわけでございます。  今回の借地法について申し上げますと、借地条件変更しようという場合に、新しく旧来の借地条件と違う条件をそこに創設していくわけでございます。あるいは変更するということになるわけでありまして、これは当事者の間にその借地条件についての争いがあるわけではないわけであります。一定の借地条件があるけれども、これを今後どういうふうに変えていくべきかという問題なのでございます。そこに裁判所が後見的に関与いたしましてその法律関係を形成変更していくということになるわけでございます。もしもその借地条件がこうなっておるということにつきまして当事者の間に争いがあったといたしますと、これはその借地条件がどうあるかということを確定する必要があるわけでございますが、これはもちろん訴訟の対象となって民事訴訟で解決しなければならない問題でございます。したがいまして、この八条ノ二あるいは九条ノ二に定めてございます裁判は、いずれも将来に向かいましてそういった新しい法律関係を形成していくものでございますので、性質上こういったものは非訟事件であるべきであるというので、非訟事件手続法規定によることにいたしたわけでございます。したがいまして、憲法第八十二条の関係におきましては、これは非訟事件であるということの理由によりまして憲法違反にはならないというふうに解しておるわけでございます。また、最高裁の幾つかの判決例も、非訟事件憲法八十二条の問題ではないということをはっきりといたしておるわけでございますので、憲法上の問題はないものというふうに確信いたしておるわけでございます。
  59. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 憲法八十二条の違反ではないということは、結局、終局的に公開の法廷でこれを行なうということが残されているというか、担保されているというか、そういう意味だから八十二条の違反でないということなんですね。結局、そういうふうになってくると、非訟事件で取り扱う中での借地条件なりそういうふうなものの存否ですか、権利関係ですか、これについては一応非訟事件できまったものについてもそれは既判力はないんだと、あらためて公開の法廷で争い得る余地というものが残されておるんだと、こういうことになってくるわけなんでしょう。だから既判力があるかないかということと、結局において憲法八十二条の問題とが関連してくるというか、うらはらの関係になってくるんだと、こう考えられるわけですわね。そういう考え方でいいわけですか。既判力との関係で八十二条の問題が起きてくるわけでしょう。
  60. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 既判力の問題はそれに関連して起きる問題ではございますけれども、既判力があるから、あるいはないから八十二条の違反にはならないというふうには考えないわけでございます。八十二条は、そもそも、先ほど申し上げましたように、訴訟によって法律関係を終局的に確定を求めるいわゆる裁判についての規定でございます。非訟事件は、そうではございませんで、法律関係の存否を確定するものではないわけであります。これによって新しく法律関係が形成されます非訟事件裁判はこれは判決ではございませんで、決定によって行なうわけでございますが、この裁判が確定いたしますと、そこに形成力を生じますので、裁判所の示したものに従って当事者の間に法律関係が形成されるという効果は生ずるわけでございます。しかし、これはあくまでも既判力はないわけでございますので、別に訴訟によってその前提がくつがえるようなことになりますれば、当然に非訟事件裁判もその限度において効力を失うということになるわけでございます。そういう意味において、当事者の間に紛争となっておる法律関係がございますれば、それはあくまでも訴訟によって最終的に解決する道は残されておるわけでありまして、非訟事件と訴訟との間に既判力があるかないかという相違によって生ずる問題ではないというふうに理解しておるわけであります。
  61. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 非訟事件をやって決定が出ますね。決定の問題ではなく、その前提となる権利関係ですね、権利関係というものも一応認定するわけでしょう。認定して、そうしてはじめて最終的な非訟事件による決定が出るのが普通ではないですか。その前段の権利関係ということの一応の認定というものについては、これは一般の公開の法廷で行なわれる民事訴訟、口頭弁論主義の訴訟で争う余地が残されている、こういうことになるでしょう。だから、結局、それが残されているから憲法八十二条の違反ではないと、こういう理解のしかたではないですか。ずっと違うのですか。
  62. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) お説のようなことにはなるわけでございます。もちろん非訟事件裁判には既判力がございませんから、もし前提になる法律関係において争いがございますれば、別に訴訟でそれを解決する道があるわけでございます。そして、非訟事件によって認められましたところと反対の結論が訴訟の結果出てくるということになりますれば、もちろん非訟事件のほうがその効力を失ってしまうわけでございます。そういう意味において、かりに非訟事件裁判が行なわれましても、訴訟によって前提問題を争うという余地は、これは残されておるわけであります。もしも非訟事件裁判既判力があるということになりますと、その限りにおいてはすべての裁判所手続によりましてこれをくつがえすということはできなくなるわけでございますので、そういう意味でかりに非訟事件裁判が行なわれましても、訴訟でやる場合には憲法八十二条の保障は残されておるという意味においては、稲葉委員の仰せのとおりでございます。しかし、本質的に八十二条のねらっておるところと非訟事件手続というのは、これは全然別の問題であるというふうに考えておるわけでございますので、関連はございますけれども、既判力があるからないからということから出発するのではないと思います。
  63. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 家庭裁判所の審判手続の問題で最高裁判所での判決が非常に大きく二つに分かれておるわけですね。二つに分かれているという意味は、多数意見と少数意見とが八対七でほとんど差がない。これはまあ構成いかんによっては逆になる可能性もあるわけですね。そうすると、この家庭裁判所の審判手続が、いまの場合では七の意見ですね、七の意見が多数になってくるというと、公開の手続によるやり直しということはできなくなってくるわけですね。八対七でその点について意見が分かれておるわけでしょう。これが七のほうが多数になってくるというと、家庭裁判所の審判手続によって行なわれたものについては、地方裁判所で公開の手続によるやり直しというものは認めるべきでないという意見が多数意見になってきて、最高裁の判決になる可能性があるわけでしょう。それは審判手続の問題だけの問題なんで、この非訟事件手続の問題とは全然別個なもんなんですか。どういうふうになるわけですか。家庭裁判所の審判手続というものは、いまの段階では口頭弁論によってまたやれる可能性があるんだと、多数意見は。だから憲法違反でないと、こう言っているわけでしょう。ところが、それは八の意見で、七の意見は、そうではないんだと、これはもう地裁では公開の手続によるやり直しは認めるべきでないというのが七の意見だと。八対七で意見が分かれておって、七の意見が多数意見になってくると、家庭裁判所の審判手続によって行なわれたものについては、公開の手続によってはできないんだと、せっかく家庭裁判所というものがつくられているのだから。そういうことになってくるわけですね。そうなってきた場合に、この非訟事件手続というものに関連してどういうような影響があるわけですか。これはもう全然影響がないと見ていいわけですね。
  64. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) お話の最高裁判所の判決と申しますのは、昭和四十年の六月三十日にたまたま時を同じくいたしまして二つの事件につきまして最高裁判所の大法廷の判決が示されております。内容的には違いますけれども、論旨は全く三つの事件について同じことになっております。この最高裁判所の判決は、全員一致の意見といたしまして、一応、非訟事件手続によるもの、この事件について申しますれば家庭裁判所の審判手続によって行なわれるものは憲法八十二条の裁判ではないから、したがって憲法違反にはならないということを言っておるわけでございます。ただ、ここで関与されました裁判官が八対七というふうに意見が分かれておりますけれども、この分かれております意見も、結論的には結局同一に帰するわけでございます。非訟事件手続であれば憲法違反にはならないということにおいては、いずれの裁判官の意見も同一でございます。ただ、多数意見の判決理由によりますと、非訟事件によって判断されました事柄の前提となる事件については、これは別に訴訟の道が残されているのであるからということも言っておりますけれども、しかし、少なくとも非訟事件そのものは憲法八十二条の問題とは違うということを申しております。それから少数意見といいますか七名の方の御意見も、これを二つに分けるか分けないか、つまり訴訟で争い得る前提問題というものと、当該の審判の対象になっておる直接の目的物と申しますかそういう法律関係、これとを分けることが事実上できないんじゃないだろうかという御意見もありますし、また、憲法八十二条そのものにつきましても、これは公開の法廷で行なうというふうになっておりますけれども、事案によっては必ずしも公開の法廷でなくてもいい、憲法八十二条そのものも例外を認めておるのではないかというふうなことも言っておられる方もあるわけでございます。いずれにいたしましても、この七名の方の御意見は、本件の事案については、これはすべて性質上非訟事件であるというふうに判断しておられるわけでございます。したがって、これは憲法八十二条の問題にはならない、この点においてはもうすべての裁判官の意見が一致しているわけであります。ただ、いまのお話のように、前提問題は別に争い得るか、あるいは、その前提問題もそれからこの審判の対象になりました事柄もこれはもう全く不可分のもので同一視されるべきだ、したがって、もう家庭裁判所の審判だけを考えればいいのであって、別に訴訟によってその前提問題をどうするこうするということを考える必要はないという意見と、二つに分かれておるわけでございます。  そこで、いずれにいたしましても、非訟事件である限りにおきましては憲法違反にならないということは変わりないといたしまして、それでは七名の方の裁判官の御意見に従った場合、前提問題というふうな形で訴訟を提起された場合、これを訴訟の形で解決し得るかどうかということについては必ずしも触れておられないわけであります。ただ、非訟事件裁判でございますので、これは判決そのものにも響いてございますが、形式的確定力はあるけれども既判力はないということを言っておるわけでございます。したがって、もしもこの事件において問題になっておりますような前提事件について訴訟を提起された場合に、家庭裁判所の審判によってこれが判断が示されているのであるから訴訟は許されないということには必ずしもならないのじゃないかと思うのでございます。家庭裁判所の審判は、先ほども申し上げましたように、形成的な裁判でございます。新しく法律関係をそこに設定しようということでございまして、夫婦の同居義務の態様をそこで新しくきめるとか、あるいは婚姻費用の分担を新しくそこできめるということでございますので、法律関係の形成でございます。そういった非訟事件の問題と、それからもともとその基礎になっておりますところの婚姻そのものが有効か無効かというような問題、あるいは同居義務そのものがあるかないかというような問題は、これはまあ別問題になるわけでございます。それはそれとして、訴訟の対象として争い得るというふうに理解し得ると思うのでございます。   〔委員長退席、理事木島義夫君着席〕
  65. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 非訟事件手続法憲法八十二条との関係憲法違反であるとかないとか、私は一応そういう議論をしたわけですけれども、そのことにこだわるのじゃないんです。これはもうぼくは答えは簡単だと、こう思うんですが、私の言うのは、その前提たる権利関係というか、それと、形成的なものですか、何といいますか、それとが、はっきり可分に分かれている場合はいいでしょうけれども、前提とその結論とが密接不可分のものもあるでしょうし、そういうようなときに、この七名の方が多数説になったときには、結局においてその前提たるものも一般の民訴では争えないという意見が最高裁の判決になってくるのではないか、こういうことが、ちょっとこれを見ると考えられるような気がするんです。具体的な判例の内容を精査したわけではありませんが、我妻さんの言っているのを見ると、どうもそういうふうにとれるんです。これは、話したことの筆記ですから、詳しく述べているわけではありませんけれども、我妻さんの書いたものを見ると、七が多数になってくると、非訟事件手続できまったことは民訴では争えないんだというふうに読めるわけです。ぼくの読み方が悪いのかもわからないし、あるいは我妻さんの理解が悪いのかもわからない。そんなことを言うと我妻さんにおこられるかもしれないけれども……。  そうすると、結局、そこのところが将来非訟事件手続法できまった、きまったけれども、最高裁の判決いかんによってはその前提たる権利関係というものを別訴で争えなくなってくるということがかりに出てきたとすると、ぼくは非常に大きな問題になってくると思うんです。国民の権利が非常に侵害されるし、口頭弁論主義という大原則が全部くずれてしまうので、どうもおかしいと思うんです。だから、八対七でどうしてこう分かれたのか。その分かれ方が、裁判官の理解がおのおの食い違っているので分かれたのでしょうけれども、七が多数説になってきて、八が少数説になってくる可能性というものがないのかどうか。もしあった場合に、一体非訟事件手続法にどういう影響があるかということなんですが、我妻さんの書いたもののぼくの読み方が悪いのかもしれないけれども、そういうふうにとれるんですがね。
  66. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) この七名の方の御意見が多数ということにかりになりました場合にどうなるかということでございますが、これは、この判決に限りません。従来の最高裁判所の同種類の事件についての判決についても示されておりまするが、最近の裁判あるいは学説というものをながめてみましても、非訟事件裁判既判力はないというのがこれは定説と言ってもいいくらいだと思うのでございます。今回の昭和四十年六月三十日の最高裁判所の判決におきましてこの既判力に直接触れておられる方はないようでございますけれども、判決そのものが形式的確定力はあると言っているにすぎないのであって、さらに別訴を起こし得るということは、家庭裁判所の審判には既判力がないということを前提にしなければその理屈は出てこないわけであります。ただ、少数意見、補足意見を述べておられます裁判官の御意見も、おそらくそういう前提に立っておるとは思うのでございますが、そこまで明確に言われた方はこの判決についてはないのでございます。しかし、過去の裁判例におきましてはそこを明確に示されている意見も出ておりまして、少なくとも家庭裁判所の審判については既判力はないというふうに見てよろしいと思うのでございます。  我妻先生のおっしゃっております点でございますが、私もあの雑誌を拝見いたしまして、何回も読み返してみました。しかし、我妻先生のおっしゃる意味が、家庭裁判所の審判のことをおっしゃっておるのか、それとも将来の民事訴訟のあり方というものについて一つの示唆を投げかけておられるのか、その辺が必ずしも明確でないように思うのでございます。もう少し精密に勉強いたしますれば、あるいは我妻先生の言わんとされておるところもわかるのではないかと思うのでございますけれども、少なくとも昭和四十年六月の最高裁判所の二つの判決を通じましてこういう問題があるということを提起されておる。それは、どういうことかというと、従来の民事訴訟においては口頭弁論主義ということで貫いておるけれども、ここまで来るならば、むしろ、訴訟の中においても、口頭弁論主義に徹底するというよりは、あるいは職権主義的な要素を加味することも考えられるのではないかという趣旨のことをおっしゃっているのじゃないかという感じがするのでございます。家庭裁判所の審判そのものがこうあるべきだという趣旨なのか、あるいは訴訟全般についておっしゃっているのか、その辺が必ずしも明確でないように思うのでございます。
  67. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 我妻さんは、七人の人の少数意見についての理解のしかたが、ちょっと御自分流に理解されたんじゃないかというふうに思うんですがね。これはまあ話は別ですからいいですが。  そうすると、非訟事件できめた前提関係というものと、その形成された結論といいますか、それとが、可分な場合もあるんですか、密接不可分で分けられない場合もあるんですか。その点はどうなんですか、具体的な例によって言うと。まあ前提と結論は別だと言えば別ですがね。
  68. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは明確に分けられる場合もあると思います。たとえば遺産の分割の場合なんかを考えますと、分割そのものはこれは形成になるわけでございます。ところが、相続が開始したかどうか、あるいは遺産があるかないかというふうなことは別個の問題でございまして、それ自体が訴訟によって当然争い得る問題でございます。したがいまして、すべて密接不可分のものだとは言い切れないであろうと思うのでございます。それぞれの事案によって、前提問題は前提問題として当然考えられる問題もあるわけでございます。ただ、この事案につきまして、一部の裁判官の方がこれは分けられないというふうにおっしゃっておるのもございますけれども、すべてが  こうだという趣旨ではなかろうと思うのでございます。
  69. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 私が考えるのは、というか、問題にするのは、非訟事件手続できまった決定が、きわめて、何といいますか、法的安定性というか、そういうふうなものがないものとして受け取られる危険性があるんじゃないかと、こう思うんですがね、前提条件一般の民訴でどんどんくつがえっていく可能性があればね。そっちは確定しちゃうんでしょう、まあ抗告があったりなんかしても。確定しちゃって、その前提がくつがえってくる、そうした場合に、非訟事件の決定はどうなんですか。職権で破棄するんですか、申し立てによってまたどうかするんですか。それは関係ないわけですか。
  70. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 非訟事件裁判がこぎいまして、そのあとで前提問題について判決が別訴で行なわれたという場合には、もしも非訟事件のほうでそういう前提問題ありという前提で裁判がなされておる際に、訴訟によってその反対の結論が出るという場合には、その限りにおいて非訟事件裁判効力は失うと、こういうふうに考えるわけでございます。そのことは、最高裁判所の判決においてもそれを言っておるわけでございます。別に非訟事件裁判を取り消すとかなんとかいう必要はないという趣旨に解釈いたしております。
  71. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 だけど、それに反する裁判があったかなかったかということはわからないんじゃないですか、この裁判の非訟事件の決定を下した裁判所には。そういう場合も多いんじゃないですか。だから、当事者から申し立てでもするわけですか。あるいは、決定はそのままなんですか、別に取り消す必要はないんだと。これは理論的に言えば、相反するから、前提条件が変わってきたんだから、無効だということが言えますがね。ところが、無効だということが裁判所にわからない場合にどうするんですかね。——理論的には無効ですよ。理論的に無効なことはわかっているけれどもね。
  72. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 非訟事件裁判そのものを事後に裁判所が取り消す必要もないわけでございます。訴訟におきまして既判力のある判決が出ました場合、当事者裁判所もそれには一切拘束されるわけでございます。したがいまして、既判力のない非訟事件裁判がかりにございましても、それはもはや訴訟の判決によってきまったところと矛盾するわけにはいかないわけでございますから、これは訴訟判決のほうが優先する、その限りにおいて非訟事件裁判効力を失う、こういうふうになるわけでございます。特に非訟事件裁判をした裁判所においてその決定を取り消すという必要もないと思うわけでございます。
  73. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 理論的にはそのとおりなんですね。当事者は、そうすると、あれですか、ただそのままほっておけばいいわけですか。裁判所もほっておくわけですか。
  74. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) たとえば借地権の場合について申し上げますと、借地権があるという前提で条件変更裁判を非訟事件裁判によって行なった。ところが、その後に借地権がなかったという判決が確定したといたしますと、もう借地権が全然ないということが既判力を持ってしまいますし、かりに非訟事件裁判がございましても、裁判所当事者もそれに反する主張はできないわけでございます。当事者の間では当然わかっていることでございますし、かりに借り主のほうでこういう条件変更があった、こう申しましても、その基礎になります借地権そのものがないということが確定しているのでございますから、もはやその借地権がないということに反するような主張はその当事者はできないわけでございます。そういう意味で、非訟事件のほうの裁判効力を失う、こういうことになろうかと思います。
  75. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 権利の形成変更というか、そういうようなものが非訟事件手続で取り扱うものだということになれば、賃料の増減請求ということも非訟事件でやることも考えられるのですか。そういうふうな考え方もあったんですか。
  76. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 賃料の増減請求も、これは新しくそういう法律関係を形成変更するわけでございますから、別にそういう形でやることも不可能ではないと思うのでございます。あるいは訴訟でやるということもこれは不可能じゃないと思います。ただ、賃料の増減請求の場合におきましては、その客観性のいろいろの変化によりまして、ある時点においてその賃料を増額するとかあるいは減額する必要が起きて、その時点において増減の効果を持たす必要があるわけでございます。ただ、裁判でこれをやるということになりますと、裁判にかなりの日数もかかりますし、遡及してその効果を持たせるということはちょっと問題になってくるわけでございます。で、これは、実体法上の形成権の行使によって一応その効果を持たせておいて、その上でもしも額に争いがあれば裁判によってそれを確定するという現行の考え方が妥当であろうと思うのでございます。
  77. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 賃料の増減請求というものは、あれでしょう、非訟事件手続でやれるのですか。大体やれないんでしょう、そんなものは。
  78. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 現在はできません。
  79. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 できないのはどういうわけかというんです。やれるようにしてやったらいいじゃないかという意見もあるんですか。要綱のときには何かそういう考え方じゃなかったんですか。
  80. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 「要綱試案」におきましては、地代の増減の請求を裁判所に対してできるようにしたらどうかという構想でできておったわけでございます。しかし、これは、先ほど申し上げましたように、その増減の効果の発生する時期の問題もございますし、どういう形にしたらいいかということは非常にむずかしい問題でございます。現行法では実体法上の形成権の行使によってその効果は生じているということになっているのでございまして、これを将来裁判手続によってすべてやるようにするのがいいかどうかということについては、もう少しいろいろの面から検討してみませんと、はたしてそれでいいかどうかということは申し上げられないわけでありますが、一応「要綱試案」ではそういう構想も考えておったのでございます。
  81. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 たとえば形成の訴えということで境界確認の訴えなんかありますわね。そうすると、それを訴えを起こしたときに、原告の請求棄却というわけにはいかないというわけですね、形成の訴えだから。必ずどこか境界を裁判所はきめなきゃならぬわけでしょう。それから地代の増減の場合でも、たとえば地代増額を要求してても、その額が不適正だというわけで請求棄却というわけにいかないわけでしょう。必ず裁判所がきめなきゃいかんわけですね、形成の訴えだから。これは、そうすると、その場合に請求を棄却するともう一ぺんまた訴えを起こさなければならない、また請求を棄却するとまた訴えを起こさなければいけないということで、訴訟の経済の上から非常に問題だろうということから帰納してみてというか、それから形成の訴えで、形成権の行使だと、こういうことで必ず裁判所がきめなきゃいけないという形になってきたんですか。訴訟経済が先に立って、あとからこういう理屈がついてきたんですか。どうもそこら辺のところがぼくはよくわからないんです、なぜ形成権の行使なんていうことを言い出してきたのか。訴訟経済が中心なんですか。必ずしもそうでもないですか。変な質問で恐縮ですけれども。
  82. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 稲葉委員の仰せのように、何回もそういう訴訟を繰り返すということは、すべての場合にこれはとてもその当事者の立場に立って見ますと煩にたえないところでございます。話し合いがつきますならば、話し合いでやったほうが円滑にいくわけでございます。   〔理事木島義夫君退席、委員長着席〕 現に、大部分のこういった事案は、訴訟にならないで、話し合いで話がついておるわけでございます。これをすべて訴えの形式によらなければ地代の増減ができないということにいたしますと、非常に窮屈なことになるということは言えるわけでございます。同時に、いまのように何回も訴訟を繰り返すということになりますと、その当事者にしてみますれば、増額する側にしましても、減額請求する側にいたしましても、たいへんな問題になるわけでございます。と同時に、その裁判効力の発生する時期の問題が、先ほど申し上げましたように、一つの問題でございます。また、その裁判が確定するまでの間の地代支払い関係、あるいは債務の不履行になるかならぬかというふうな問題もそれに関連して出てくる可能性もあろうと思うのでございまして、一律にこれを裁判手続によらなければできないというふうにするのはいろいろの面でまた不便な問題が残るんじゃないかというふうに考えられるわけでございます。
  83. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 形成権の行使というふうなことについては、法律の明文がないというと形成権の行使だというふうに認められないわけですか。
  84. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) そのとおりでございます。
  85. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、たとえば給料の請求権の、公務員の場合もあるし、民間の場合もあるでしょうけれども、その場合に、物価が上がった、税金が上がったから、あるいは人事院の勧告が出たと、だから給料を上げてくれという意思表示をしますね。これは何ですか。これは形成権の行使じゃないですか。
  86. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) それは形成権の行使ではございません。ただ増額してもらいたいという希望の開陳でございまして、その意思表示をすることによって当然に給料が増額になるわけではないわけでございます。
  87. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 だって、地代の場合は、土地使用の対価でしょう。給与というのは、労働力の対価ですわね。本質的にちっとも違わない。継続的な一つ契約関係であることも違わないわけですね。物価が上がり、税金が上がり、一定の年限がたてば給料が上がるということは常識なわけですね。そういうように、ある年限たてばある程度の給料が上がるというようなことが当事者間の契約できまっているとか、公務員の場合には法律できまっているとかということになれば、それに基づいて給料を上げてくれと、この請求権を行使するのは、そこで意思表示が到達すれば、適正なところまで給料が上がったということになるのじゃないですか。ならないですか。
  88. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは形成権の行使でございませんで、そういう意思表示をしましたからといって当然に給料がその額だけ上がるというものではないわけであります。
  89. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 その理由はどういうところにあるんですか。
  90. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは、そういう形成権の行使という形で給料の増額の請求ができるという法律の根拠はないわけでございます。形式的にはまあそういうことであろうと思います。
  91. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 仲裁裁定が出たらこれに従うと書いてあれば、仲裁裁定が出れば、給料をそこまで上げろという意思表示をすれば、そこまで上がるのじゃないですか。
  92. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 各個々の公務員におきまして、それを一々そういう意思表示をすることによって当然に上がるものではないわけでございます。公務員の場合には、御承知のように給与の基準というものがきまっておりまして、これに基づいて給与を支給するということになっておるわけでございまして、個人の意思表示によって当然に上がるというわけではないわけでございます。
  93. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 それは、あれでしょう、使用主と雇われた者との契約だからじゃないですか。契約できまったものを一方的に上げることができないというところに理論があるのじゃないですか。そうなってくれば、地代だって契約なんだから、途中で一方的に上げて、それは形成権の行使で適正できまっちゃうというのはどうも納得できない。本質的に形成権の行使というものなのか、地代はですよ。あるいは、法律の明文があってはじめて形成権の行使ということが認められたのかということですわね。法律の明文があってはじめて認められたものだということならば、きわめて便宜的なものだというふうに考えられるわけですね。
  94. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは、法律規定がございますために、形成権の行使ということになるのでございます。本質的にどうあるべきかという問題ではないわけでございます。
  95. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 では、借地借家法で形成権の行使として認められておるのは、建物買取請求権だとか、造作物買取請求権だとか、まだほかにもありますか。あるいは、商法なり民法の中で形成権の行使として認められておるものにはどんなものがありますか。
  96. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 解除権もそうでございますし、告知権もそうでございます。取消権もそうでございます。あるいは商法では株式の買取請求権というようなものもございます。これは法律でその旨の明文の規定がございます場合に形成権の行使として許されるわけでございます。
  97. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 借地借家法では何と何ですか。
  98. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 地代家賃の増減の請求権と、造作物の買取請求権、それから建物の買取請求権、解約告知もそうでございます。
  99. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 これは借地権でも借家権でも出てくるんですけれども、相続の関係ですね。これは一般的にこういうものの相続をですね、まあこれは権利には違いないですけれども、どういうふうに考えているのですか。共同相続だから、もうあらゆる人がやはりその相続をするんだという考え方をとっているのですか。あるいは、建物を借りている場合の相続の場合には、そこに居住しているというか占有している人だけが相続するんだという考え方をとっているわけですか。
  100. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 相続の場合には、そこに居住しております者も、居住していない者も、相続人である限りにおいてはその権利を承継するわけでございます。
  101. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 理論的にはもちろんそのとおりなんですが、何かそこに住んでいる人だけが相続権というものを取得するんだ、賃借権の相続をするんだと。その他の者は、現実に、観念的には相続するとしても、それを相続するについての利益と言うとことばは悪いんですけれども、そういうようなものはないんだから、占有している人だけが相続することでいいんだという考え方もあるんじゃないですか。ありませんか。そういう判例もあるんじゃないですか。
  102. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 相続の民法規定の解釈といたしましては、そういうことは考えられないと思うのでございます。すべて相続人である限りにおいては、すべての財産を平等に相続するというその原則どおり権利関係の承継が行なわれるものというふうに思います。
  103. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、借地権にしろ、借家権にしろ、共同相続人が相続したと。そうすると、その相続人がどこにいるのかわからない場合が相当あるわけですね。そういう場合に訴えを起こすときには、あらゆる相続人に訴えを起こさないというと、それが一人でも二人でも抜けていると、いうと、結局訴えとして効力がなくなっちゃうというか、判決があっても効力がなくなっちゃうということになるんですか。
  104. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 原則的にはそうでございます。これはひとりこの賃借権の問題に限りません。現在の相続法が御承知のような体系になっておりますので、これに関連して実はいろいろ問題があろうと思うのでございますけれども、民法の相続のたてまえがこのようになっております以上、これはやむを得ないだろうと思うのでございます。
  105. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 内縁の妻の場合が出てきているわけですけれども、これはそこに同居していなくてもいいんですか。
  106. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 今回の改正によります借家法第七条ノニ規定の問題でございますが、これは、この規定の上にも表現してございますように、相続人なくして死亡しました当時に「婚姻又ハ縁組ノ届出ヲ為サザルモ賃借人ト事実上夫婦又ハ養親子ト同様ノ関係ニ在リタル同居者アルトキ」と、こういうことになっておりますので、その者は、つまりそういう養親子あるいは夫婦と同様の関係にありました同居者は、賃借人の権利義務を承継する、こういうふうにいたしたわけでございます。
  107. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、同居というものに限定したのはどういうわけなんですか。
  108. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 現実にその賃借によって居住権が確保されております者を保護していこうという趣旨でございます。したがいまして、同居していない、ほかの建物に住んでいる者にまでその賃借権を承継させる必要はないわけでございまして、相続を開始いたしますと同時にその家屋から立ちのかなければならないというふうなことを防ぐために同居者に限定して、なお、これをあまり広げますと、かえって混乱が起きる可能性もございますので、必要な限度にとどめるべきであろうというふうに考えたわけでございます。
  109. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 労働基準法やなんかでは、たしか生計を一にする者というふうな書き方だったですね、そこに住んでいる人を保護するという考え方だと。そこで、賃借り人と生計を一にする者という書き方では、何といいますか、法律趣旨から  いって違うということも言えると思いますけれども、元来は、前の法案では——要綱ですか、では、賃借り人と生計を一にする者というふうになっておったのですか。それを変えたのですか、今度。
  110. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) そのとおりでございます。要綱ではそのような趣旨が書かれておったのでございますが、そういたしますと、その法律関係が非常にわかりにくくなる心配がございます。また、これは相続法の特例でございます。したがって、同居者であればだれでも賃借権を承継できるというふうにしたしますのもちょっと広過ぎるのではあるまいか、少なくとも養親子あるいは夫婦と同様の関係にある同居者というふうにしぼっておいてよろしいのじゃないかというふうに考えたわけでございます。
  111. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、初めの法案のときには、どうして貸借り人と生計を一にする者という書き方をしたわけですか。そのときにはそれだけの理由があったんでしょう。それがいいと思ったからそういうふうに書いたんでしょう。いまになってそうじゃないというのは、どういうわけでなんですか。そのときにはどういう考え方だったんですか。そこまで考えつかなかったというわけですか。
  112. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) まあその当時のことは私も実はよくわかりませんけれども、同居者は少なくともその建物に居住できるようにしようというつもりであったと思うのでございます。しかし、同居者といいますと、これも範囲が非常に広くなりますし、死亡の前日あるいはその当日同居してきたというふうな者もその中に入ってくる可能性もございます。そこまで認める必要はないのではあるまいか。従来被相続人とその建物に同居しまして一緒に暮らしておった者ということがまず一つ要件であろうと思うのでございますが、それにいたしましても、いかなる人でもその賃借権を承継させるというのは、これは少し行き過ぎの感があるのじゃないか。さりとて正規の相続人でない限りはいかなる人も承継しないというのも、これは居住権を確保していくのには不十分でございますので、まあここに書いてありますような限度で承継するというふうにいたしますれば、法律関係が不明確になるという心配はあるまいというふうに考えたわけでございます。
  113. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 これは建物だけの場合に限定されているわけですか。店舗の場合や事務所ですかの場合には含まないとかいう考え方もあるんですか。
  114. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 第七条ノ二には「居住ノ用ニ供スル建物賃借人ガ」と書いてございますので、一応住宅ということになるわけでございます。店舗、事務所の場合には、純然たる店舗、事務所であってそこに居住していないというふうな場合には、この規定は適用ないわけでございます。しかし、同じく店舗、事務所と申しましても、そこに居住して居住の用に供している場合も相当あるわけでございます。そういう場合には、もちろんこの規定の適用があるということになります。
  115. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、併用住宅の場合には適用があるわけですか。
  116. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 適用がございます。
  117. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 借家法の改正というのは、今度の場合非常に少ないわけですが、その他の借家法で特に改正すべき点というのは考えなかったのですか。ないのですか、いま問題になっておるような点は。
  118. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) いろいろ問題はあると思うのでございますけれども、さしあたり特に緊急に改正を必要とするというところだけにこの法律案全般においてしぼってあるわけでございます。そういう意味で、とりあえず借家法につきましては、借賃の増減に関する規定賃借権の承継に関する規定だけにいたしたわけでございます。
  119. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 いろいろな問題があって起きてくるのは、権利金の問題なんか現実の問題として起きてくるわけですね。権利金については、現行法規定ではどういうふうなあれですか。
  120. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 借家法には権利金に関する規定はございません。地代家賃統制令にあるわけでございます。したがいまして、権利金をどうするかという問題につきましては、借家法との関連において問題がございますけれども、借家法そのものの問題としてではなくて、これは別途検討を要する問題であろうと思うわけでございます。
  121. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 権利金は地代家賃統制令ではどういうふうになっているのですか。とっちゃいけないんでしょう。
  122. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 原則として授受を禁止されております。
  123. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 ですけれども、現実には行なわれているわけですね。それは、権利金をとった場合には、普通の場合に転貸借やなんかの家主の承諾は要らないというふうに見えていい場合が多いんですか。
  124. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 権利金の性質がどういうものかということにこれは帰着する問題であろうと思います。御承知のように、権利金と一口に申しましても、その性質にはいろいろの態様のものがあるわけでありまして、たとえば場所的利益、あるいはしにせ料とか、のれん代、そういうものを権利金と称しておるものもございますし、また、借賃の前払いというふうな形のものもございます。また、賃借権を設定いたしますと、所有権がそれだけ制約されることになりますので、裏を返して申しますと、賃借権そのものの対価というふうな形で授受される場合もあるわけでございます。一がいに権利金がどういうものかということは申し上げられませんけれども、いろいろの場合を考えて検討する必要があるわけでございます。ただ、権利金が授受されておるから当然に賃借権譲渡転貸は許されるべきであるということは、一律には言えないだろうと思います。それを授受することによって賃借権譲渡転貸を認めておる場合もこれはあるだろうと思うのでございますけれども、一がいにそういうふうに断定はできないものと考えております。
  125. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 それは、一つの慣習として、権利金をとれば転貸借の場合のすでに承諾があったんだというふうに見ている場合もあるのですか。そういう慣習もあるという認定も場合によってはあるのじゃないですか。
  126. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) そういうふうな慣習があるというところまで言っていいかどうかわかりませんけれども、個々の事案によりましては、権利金を授受したいきさつ等から申しまして、賃借権譲渡転貸しても差しつかえないという約諾があったと認められる場合もこれはあり得ると思うのでございます。しかし、その権利金も、単なる賃料の前払いというふうな形でございますれば、それによって当然に賃借権譲渡転貸を認めたということにはなりませんので、これはその内容に一々検討を加えた上でなければ、慣習ということによって一律に言い切ることはできないだろうというふうに思います。
  127. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 借地権なら借地権消滅して更新するというときに、権利金というものあるいは更新料というようなものをとって、そうして更新をするというのは、一つの慣習として見ていいんですか。そこはどうなっているのですか。そこまで言えないわけですか。
  128. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 名義書きかえは別でございますが、更新料というふうな形で権利金をとっておる例も、これはございます。しかし、これが慣習となっておるというふうにはちょっと言い切れないものがあろうと思うのでございます。東京においては権利金の授受がかなり行なわれておると、こういうふうに言われておりますけれども、しからば、それが慣習として認められるかということになりますと、必ずしもそうは言えないわけでございまして、いろいろの調査された資料によりましても、すべてについてそういう権利金とかあるいは更新料というものが授受されておるわけではございません。一律にそういう慣習があるというふうに言うこともこれは困難であろうと思います。
  129. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、慣習があるかないかということは、これはその土地事情にもよるし、土地が特殊なところだとか、いろいろ問題がありましょうから、一般論としては言えないわけですけれども、そうすると、それが慣習でないということになると、現実に名義書きかえ料やなんかを要求して、要求に応じなければ更新しないというような場合には、どうなんですか、それは。
  130. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは、その当該当事者契約でございます。約束ごとでございますので、借り主のほうもこの程度の更新料を出して更新してもらえるならこの更新料は払おう、そうして契約を更新してもらおうということになるわけでございますが、あまりにも高い金額でございますと、それなら思い切ってこの賃貸契約を終了さしてしまおうという場合もあり得ると思います。それぞれの事案によって違いますので、そういう要求がありましたからといって当然に慣習に従ってそれを授受しなければならないというものではないわけでございます。
  131. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、更新のときには、名義書きかえ料なり更新料として幾ら幾らとるというふうな契約は、これは借地人に不利なものとなって、借地法の十一条で強行法規で、なかったものとみなされるのですか。
  132. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 借地法というよりは、むしろ権利金でございますので地代家賃統制令の問題でございまして、統制令の第十二条の二にその規定がございます。しかし、これは統制令の二十二条によって一定のものにつきましては適用除外をされておりますので、原則的にはそういうものの授受はできないということになるわけでございます。借地法、借家法の強行規定に違反する特約は無効であるというふうになっておりますが、これはむしろ地代家賃統制令のほうからそういう授受が有効か無効かということになろうと思います。
  133. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、借地法十一条で、借地人に不利なものは、なかったものとみなされるわけですね。借地人に不利なものというのは、あれですか、例をあげるとどういうふうなものが——たくさんあると思うんですけれども、どういうふうなものが借地人に不利な契約であって、なかったものとみなされるわけですか。
  134. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) たとえば借地法の四条で更新の請求あるいは建物の買取請求権というのがございますが、この更新の請求をいたしました場合に、あらかじめ契約によりまして、いまの更新料を払わなければ更新に応じないというふうな約束をしたといたしますと、この十一条違反になりまして、この特約というものは無効になろうと思うわけでございます。また、二条の借地権消滅規定、あるいは六条の法定更新、こういったものに違反するような特約をいたすことももちろん強行規定ということになるわけでございます。十一条では、「第二条、第四条乃至第八条及前条ノ規定ニ反スル契約条件ニシテ」、こうございますので、それぞれの条文ごとにその規定を回避しようというような趣旨のものでございますれば、これは無効になるというふうに解釈してよろしいと思います。
  135. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 借地法十一条の場合に、「片面的強行規定」と、こう書いてあるのですけれども、「片面的」というのはどういう意味ですか。
  136. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 十一条は、ここにございますように、これこれの「条件ニシテ借地権者ニ不利ナルモノハ之ヲ定メサルモノト看倣ス」とございます。したがいまして、借地権者に不利益なものはこれは無効になるということでございまして、有利なものはむろん差しつかえないと。それから特約は、すべて無効になるものではなくて、借地権者に不利益なものだけが無効だと、こういう趣旨でございます。
  137. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そういう意味で片面的だと、こういうわけですね。  そうすると、今度の借地借家法の改正で、一部に、ことに関西のほうからいろいろ反対があったということが言われているわけなんですがね。まあ関西ばかりではないでしょうけれども、それはどういうところにあるのですか。何か商慣習が違うのですか、東京と関西との間で。
  138. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 関西から出ております反対意見の最も大きなものは、東京と関西で借地関係についての慣行が違う、これを一律に全国的に同じ法律を実施することは適当でないというところにあるようでございます。しかし、この慣行が違うと申しますのは、ただいまお話のございました権利金の授受に中心が置かれておるようでございます。関西におきましては権利金は授受されていないと。しかるに、東京、横浜等においては権利金が授受されている。そういう慣行をもとにしてこの法律ができ上がっているという主張のようでございます。しかし、そういった慣行があるかないかということを一がいに申し上げられないことは、先ほども申し上げたとおりでございます。また、東京にかりにそういう慣行があって、関西にそれがないかといいますと、そうでもないわけでございます。  これは慣行と言えるかどうかは別といたしまして、お手元に差し上げました「借地法等の一部を改正する法律案関係資料」の二五一ページないし二五二ページという表を用意いたしてございます。これは、昭和三十八年に建設省が調査いたしました報告書でございます。その一部を抜粋したものでございますが、東京都と大阪市の状況を統計にとったものをここにあげたわけでございます。ごらんになってもおわかりと思いますけれども、権利金の授受について申し上げますと、大正年間あるいはそれ以前から昭和三十七年までの間の資料をこれに載せております。その間におきまして、東京都におきましては、この調査の対象になりましたのは三千七百七十三件でございまして、そのうち権利金のありましたものが三百六十九件でございます。これを比率で申し上げますと、第二欄にございますように、九・八%が権利金の授受が行なわれておるということになるわけでございます。これに対しまして、大阪の場合はどうかと申しますと、調査の対象になりましたのは千九十二件でございまして、その中で権利金の授受されましたのが二百十五件でございます。これをパーセンテージで申し上げますと、一九・七%となりまして、むしろ東京よりは大阪のほうが権利金の授受の比率が大きいという結果が出ております。これは昭和三十七年だけをとってみましても同じでございまして、東京都においては二〇%について権利金の授受が行なわれておるのに対しまして、大阪市におきましては二八・九%について権利金の授受が行なわれているということになっておるわけでございます。  まあいろいろそういった関西方面からの御意見もあったわけでございますが、これはそれぞれのお立場で承知しておられる範囲内で関西にはそういう慣行はないということをおっしゃったと思うのでございますけれども、現実に私ども関西に参りましていろいろ各方面にこの実情を聞いてみますと、いやもうすべていま家を借りたり部屋を借りたりするのに権利金の授受なしでそんなことができるものですかというように一笑に付されるのが実情でございます。したがいまして、それが慣行であるかどうかは別といたしまして、東京も大阪もそういった権利金の授受があるということについては変わりがないというふうに私ども考えておるわけでございます。  したがいまして、この法律がかりに施行になりまして、そういった慣行の違いによるいろいろの御意見というものもそれは御意見としてはあると思いますけれども、実質的には東京、大阪として特に区別する理由はないように考えるわけであります。
  139. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 何か関東と関西とで非常に違うんだということをよく言われるんですよ。関西の経済団体からでもそういうような意味のことを言ってきたように記憶しているのですけれども、的に調べてみればその点はそれほどでもないということならまた別ですがね。  借地法の問題で今度の大きな一つの特徴というか、それは、土地を借りて建物を建てている、その建物をほかへ売ろうとしたときに、地主の承諾がいる。地主が承諾しなかった場合に、裁判所に対して、あれですか、地主の承諾にかわる裁判を求めるのですが、そういうような形のものができるようになったと、こう思うんですが、その場合に、いまでも、間接強制のような形で、地主が承諾しなければ、建物を買取請求権を行使できるわけですね。その場合に、建物の時価で売買が意思表示によって成立するわけですね。その時価の中に借地権を含まないというのは、どういうところからくるんですか。含まないという判例になっているんですね。
  140. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 従来の買取請求権は、貸し主承諾なくして建物譲渡してしまったという場合に、承諾を得られない場合、その建物の買取請求をするというわけでございます。これは建物自体の買取請求でございます。この場合に、借地権価額は時価の中には含まれていない、ただ場所的利益はこれは考慮するというのが下級審の判決の例だと思うのでございます。今回の場合には、その建物の買取請求ではないわけでございまして、第三者譲渡しようとする場合に、賃借権譲渡あるいは転貸承諾にかわる許可を求めるという、だけのことでございます。
  141. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 それはもちろんそうであって、今度の法律によって、買取請求権のそれの内容が変わるのか変わらないのかと言っているのじゃなくて、買取請求権のときに時価を含まないという判例なりの根拠がどこにあるのかということなんですよ。だから、買取請求権を行使したって、非常に安くなっちゃって、ちっとも地主に対する間接的な心理的な強制にならないんですね。買取請求権を行使されたほうが地主は高くなる場合があるわけですよ。買っちゃってほかに売るときにその借地権の価額を含んだような形で売れるわけですから。どこに根拠があるわけですか。買取請求権の経済的内容です。理論的にはわかりますけれども、これはどういうわけですか。
  142. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 借地法で申しますと、四条の建物等の買取請求権と、十条の建物等の取得者の買取請求権と、二つあるのでございます。四条の場合は、借地権消滅する場合でございます。十条の場合は、先ほどお話しのように、賃借権無断譲渡転貸いたしまして、これを賃貸人から解除される場合の問題でございます。したがいまして、賃借権というものを考える必要はないわけでございまして、ただ上ものだけの対価ということになるだろうと思います。
  143. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 理論的にはそうですよ。六百十二条で解除できるんだと、当事者間の信頼関係に基づいているんだから。第三者無断で買ってから買取請求権を行使するわけでしょう、当然契約解除されるべき筋合いのものなんだからという意味も含んでいるのかもわかりませんけれども、だから、買取請求権というものは非常に弱いものになっているんじゃないですか、内容的に。借地権というものは現実に世間で非常に大きく価借づけられて、そのもの自身が経済的利益を持っている場合が非常に多いわけですね。多いけれども、十条でいう買取請求権の行使の場合にはそれが含まれないでしょう。含まれないことになっているけれども、建物の物理的な価額というものは非常に安いものだから、地主はむしろそのほうが得なんですね、譲渡しないほうが。譲渡しないで買取請求権を行使されたほうが、建物を買って場所的利益を含めてほかに売ったほうがいい、あるいはさら地にして売ったほうがいい、こういう形になってくる。だから、理論的に言えば、第三者は地主の承諾が要るんだから、それを得ないでやったんだから、それだけの制裁を受けるのはあたりまえだという、契約解除さるべき内容を含んで買っているんだから、借地権の価額なんというものは含まないというのは筋は筋だと思うんですけれどもね。当事者間の債権関係だという考え方をとっているからそういう結論が出るのですが、そうすると、買取請求権の場合に、場所的利益を含めるんだと言っていながら、借地権の価額は含まないんだということは、具体的にどういうふうに違うんですか。
  144. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 借地権の価額といいますと、これも各地によってそれぞれ違うわけでございますが、おおむね所有権の七〇%あるいは八〇%くらいというのが借地権の価額というふうに見られておるようでございます。ところが、場所的利益といいますのは、その場所にあることによって生ずる特別の利益を言うわけでございまして、これは必ずしも借地権の価額のように厳密に算定できるものではなかろうと思うのでございます。借地権の価額そのものも必ずしも正確にはじき出せるものではないかもしれませんけれども、有利な場所を使っておるということであれば、特にそういう事情も考慮してということでございまして、場所的利益を加算するという意味ではないようでございます。裁判例で申しておりますのも、そういう場所的利益を考慮して建物の価額をきめろと、こう申しておるようでございます。
  145. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 場所的利益というのは、借地権一つの内容をなすのですか。そうは考えられない全然別個のものですか。
  146. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 借地権の内容ではないだろうと思います。借地権借地権でございますが、その土地借地権を設定してその土地利用する、その特定の土地の上にもし何か特別な利益が生ずるとかいうふうな、その場所を利用することによって生ずる利益を場所的利益というふうに言っていると思います。
  147. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 それは、分ければそのとおりなんですけれども、借地権の価額を算定する場合には、当然場所的利益というものも含まれて算定されることになるのですか。
  148. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 当然に含まれるとまで最高裁の判決が言っているかどうか、必ずしも明確でございません。そういうことも考慮すべきであるという趣旨のことを言っておると思います。
  149. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、今度の法律関係では、借地権そのものを担保に入れるとかなんとかいうことについては、特別な手当てはしていないわけですか。
  150. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これはいたしておりません。
  151. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 借地権そのものは担保の対象になることは間違いないですか。
  152. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 現在の借地権は、御承知のように債権関係でございまして、したがいまして、これを担保に供するということは必ずしも担保の目的を達成できないわけでございまして、地主の承諾がなければ借地権譲渡転貸はできないわけでありますから、担保権者がその借地権を取得するということはあり得ない。また、第三者譲渡するということも無条件にはできないわけでございます。したがいまして、借地権そのものを担保にするということは実際問題としてはあり得ないと思います。事実上起きてまいりますのは、借地権者がその上に建物を持っております場合に、その自分の持っている不動産である建物を担保に供するということでございます。これは登記もできますし、担保として十分効用を果たすわけでございますけれども、それに関連して借地権譲渡転貸が問題になるわけでございます。その場合には九条ノ二の規定が働いてくる余地が出てくるわけであります。
  153. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、借地権が物権化してくると、借地権そのものとして担保に入れることができるわけですか。
  154. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) それは可能でございます。
  155. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうなってくると、借地権というものの経済的な利用ということが、物権化したことによって非常に大きく行なわれてくるということになるわけですね。そうすると、借地権を物権化することによって得られる利益とそれから不利益、これは地主側と借地人側と両方あるわけですね。地主側は、借地権が物権化された場合にはプラスになるものはなんにもないですか。あるいは、地主側にもあるですか。借地人側ではどうですか、プラス・マイナスは。
  156. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 地主側には、借地権が物権になりました場合に特に利するところというものはないだろうと思います。
  157. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 じゃ、借地人のほうはどうですか、プラスは。
  158. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 借地人側にとりましては、物権になりますと、非常に強力な権利でございますし、先ほどお話しのような担保の対象にも容易にできるわけでございます。したがいまして、借地人にとっては有利になるわけであります。
  159. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 借地権が物権化することによって借地人に不利になる面は何かあるんですか。
  160. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは、物権化いたしますと、おそらくその設定の対価は非常に高いものになるだろうと思います、賃借権の場合と違いまして。その存続期間の関係、あるいは権利の性質の関係から申しまして、借地権設定の対価というものは非常に高いものになるだろうということは考えられるわけであります。
  161. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 借地権設定の対価というのは、地代ですか、地代と別個のものですか。
  162. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) 地代、あるいは権利金というふうものも考えられます。
  163. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そこで、話が元に戻って恐縮ですが、その借地権を物権化するということについても反対があることはよくわかるのですが、結局、反対というのは、地主側の反対ということになるわけですね。地主側ではちっともプラスにならない、マイナスだというのですから。とまで言えないですか。
  164. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは必ずしも地主側だけの反対というのではございません。前回も申し上げたと思いますけれども、弁護士連合会をはじめといたしまして各種の団体、あるいは裁判所の中にもその反対意見の出たところもございますし、地主階層からの反対だけがあったということは言い切れないと思うのでございます。
  165. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 この借地法改正になった場合に、裁判所でいろいろ負担が多くなるという話があるわけですよね。これは百人くらいふやして一年間に一ぺんにというわけにいかないから、最初三十人くらい判事さんをふやすんだという話が出たわけですけれども、裁判官をふやすのはそれとして、それじゃ書記官だとかあるいは事務官とかというのは、そういった方面はふやさなくてもやっていけるんですか。そこはどういうふうに考えているわけですか。あるいは最高裁側でもいいんですけれども。
  166. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) きょうはその点につきまして資料を持って参りませんでしたけれども、もちろん、裁判官だけでこの事件がまかなえるわけでございません。書記官、事務官、タイピストに至るまでの予算的な手当てをしなければならないと思います。
  167. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そこで、専門的な知識経験を有し、事情に明るい者で鑑定委員会を構成するんだと、その意見を原則として聞くんだということになっているわけですが、具体的には鑑定委員会というようなものをどういうふうな者によって構成するとか、あるいは鑑定人の方にはどの程度の謝礼を上げるとか、いろいろありますね。こういう点はどういうふうにお考えなんですか。
  168. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) まず、鑑定委員会の構成でございますが、鑑定委員会が意見を求められる事項は、八条ノ二あるいは九条ノ二の付帯条件の点と、それから八条でいきますと条件変更してしかるべきものかどうか、九条でいきますと承諾を与えるのがしかるべきものかどうかというような点を裁判所が鑑定委員会に意見を聞くということになろうかと思います。そういう点につきましては、現在鑑定士という制度ができまして、鑑定士の意見を聞くということがある意味では一番よい方法かと存じまするけれども、しかし、鑑定士は不動産の価格それ自体の鑑定でございまするので、それだけの知識では実は足りないわけでございます。ただいま申しましたように、いろいろ付帯条件についての判断であるとか、あるいはそもそも承諾すべきかどうか、あるいは条件変更すべきかどうかということの判断になりまするので、鑑定委員会の構成が法律上三人となっておりますが、そのうち、一人は鑑定士のような方を入れるのがいいんじゃないか。そのほかは、いまの罹災都市借地借家臨時処理法におきます鑑定委員の実情を見ますと、やはり弁護士であるとか、不動産業者であるとか、その他各種の知識人が鑑定委員になっておられまするので、そういう方々をやはり裁判所が選任していくということになろうかと思います。  それから報酬の点でございますが、これが借地法関係の鑑定ということになりますと、土地の価格それ自体の非常に専門的な知識、あるいは先ほど申しましたような事柄につきましての判断についての専門的な知識を持っておられる方々でございまするから、相当の待遇をしなければその仕事に適した方をお迎えするということはなかなかむずかしいんじゃないかというように思っておるわけであります。ただ、御承知のように、裁判所には鑑定委員に似た性格の職務をやっておられる方に調停委員がございます。調停委員の仕事は、必ずしも専門家ではございませんけれども、しかし、やはりこれとの均衡ということがございまして、日当等をきめます上におきましても、この調停委員がただいま御承知のように日当九百円でございます。それで、これ以上どの程度の高い報酬を借地法関係の鑑定委員に払えるかどうかということにつきましては、裁判所といたしましても努力はいたすつもりでございますけれども、やはり基準は、調停委員の九百円というようなことが基準になろうかと思いますので、まあ報酬といたしましてはそう高くないと申しますか、むしろ低い。それで、先ほど申しましたようなりっぱな方々をお迎えできるかどうかということにつきましては、相当の予算的な努力をしなければならな  いというように考えているわけでございます。
  169. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 鑑定委員会の人の費用というのは、これは国が払うんですか、当事者が負担するんですか。
  170. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) これは調停委員と同じ性格でございまして、裁判所が予算の中から払うということでございます。
  171. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 これは、日当というか、そういうようなものは払うんでしょうけれども、鑑定そのものの費用というのはないわけですか、この鑑定委員会では。地価の関係のような場合にはあり得るわけでしょう。地価の鑑定の場合には非常に高いですわね。そういうのは、一般の民訴の場合でも、それから調停の場合なんか非公式にやる場合がありますが、これは当事者が負担していますわね。裁判所は負担しないわけでしょう。だから、鑑定委員会は、名前は鑑定委員会だけれども、鑑定じゃないんですか、別に。
  172. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) この借地借家の新しい改正法によって生まれました非訟事件手続におきまして、訴訟事件におけると同じような鑑定を必要とする場合があろうかと思います、特に地価等を正確に把握するためには。それは、ここに規定にございますように、民訴と同じ証拠調べをするということになっておりまして、鑑定人に宣誓の上鑑定を命じて、そうして鑑定人による鑑定書の提出を待つ、こういうことになろうかと思います。こういう意味での鑑定人に対する報酬というものは、いわゆる鑑定料、訴訟における鑑定料と同じものでございまして、これは当事者の負担において相当の鑑定料を払う、まあ払われるということになろうかと思います。
  173. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、鑑定人として宣誓して正式に鑑定した場合の報酬というか、そういうものは当事者が払うことになるんで、宣誓なんかしないでやった場合にはそれは裁判所が払うと、こういうことになるんですか、そこのところは。
  174. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 鑑定委員会の鑑定意見というものと、いわゆる鑑定というものの区別には、やはりやや微妙な点があるように思われます。ただし、先ほど申し上げましたように、鑑定委員会で御判断を願うと申しまするか、裁判所が意見を求める点は、たびたび申し上げますように、八条ノ二のいわゆる借地条件変更が可なりやという点、あるいは借地権譲渡あるいは転貸について特に賃貸人に不利でないのかどうかというようなことの判断が一つと、それからまあ借地条件変更を許すにしても、あるいは承諾にかわる裁判をなすべしという判断をしたとしても、そのときに、いわゆる対価のような付帯条件ですね、これがどの程度のものがしかるべきかというようなことについて裁判所が意見を求めるわけでございますから、それはおのずとその土地の地価であるとか、あるいは先ほど法務省のほうから御説明がありましたいろいろの慣行であるとか、権利金の問題であるとか、そういうような点につきましてやや専門的な意見を求めるわけでございまするから、そういう意味でやや鑑定的な性格を持つということも言えるかと思いまするが、普通の鑑定人が自分で資料を集めてそうして調査をして意見を出して鑑定書をつくるというのとは、程度においていくらか差があるし、鑑定人の鑑定ほどの厳格な意味での意見ということまでも求められるのではないというふうに私どもは理解しておるのでございまして、多少微妙な点はございまするけれども、鑑定人の鑑定とそれから鑑定委員の意見というものには多少の差があると、そういう意味で報酬等につきましても差が出てくる、差が出てもしかるべきものであるというふうに思っておるのでございます。
  175. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 鑑定委員会というと、非常に科学的なものでなきゃならぬというふうにちょっと聞こえるわけですよね、鑑定ということばからいって。そうすると、ここで言う鑑定委員会というのは、それほどのものではないんだと、まあ裁判所が相談するというけれども、相談機関というふうな形というか、その程度のものにしかすぎないということになるんですか。その点がちょっとはっきりしないんですが、これは実際やってみなくちゃわからないかと思うんですがね。鑑定委員会でやっぱり精密な鑑定をしないとなかなか結論を出しにくいという良心的なことになってくれば、そこで非常に科学的な鑑定が行なわれるということもあり得るわけなんですか、あるいは、ここで言う鑑定委員会というものは、今度の改正で取り扱うものについては率直に言ってそんなに科学的なところまでいかなくてもいい性質のものをこの鑑定委員会で取り扱うんだと、名前は鑑定と使うけれども、いわゆる厳格な意味で言う鑑定として普通の人が考えるような程度のものではないんだと、調停委員会の調停委員がやるのとそう違わない程度のものなんだと、その程度のことなんですか。どうもちょっとはっきりしない点があるんですがね。鑑定委員会というと、いかにも厳格に科学的にやって、書面でみんな返事でもするようにちょっと考えるんですけれども、必ずしもそういうふうなところではないんですか。
  176. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 法律趣旨とするところは法務省のほうから御解説もあろうかと存じますが、私どもはこの法律が施行された場合の運用の姿というものを考えておるわけなんでございます。そういたしますと、報酬が低いから意見を出すのはいいかげんなものでもいいというものではないと思いまするけれども、この鑑定委員に求められておる意見と申しまするのは、先ほど来申し上げておりますように、土地関係ですから、そういう意味では専門的な意見——普通の調停委員とは違った専門的であろうと思います。しかしながら、単なる専門的な科学的な意見ではなくて、いわゆる社会常識を持った円満な常識ということが鑑定委員会としては——法律的というよりも、不動産の取引ということについてのやや専門家ではあるが、しかしそれに加うるに円満な社会常識を持った人、その人の意見をこういう事件については裁判所が尊重してやっていくという姿が法律の非訟事件を施行していく上において出てくる姿じゃないか、そういうことを法律がねらっておるんじゃないかというふうに理解しておるのであります。
  177. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 これは法務省のほうにお聞きするのですけれども、金銭給付関係するようなことを含んで鑑定委員会は意見を聞かれるということですね。給付と言ったって、本来的なものじゃなくて、付随的にそれが伴うという場合も含めて、鑑定委員会に意見を聞くというか、そういうこともあるんですか。
  178. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは最高裁判所の民事局長からもお答えがありましたが、第八条ノ二あるいは第九条ノ二の裁判をいたしますにつきまして、本来の条件変更あるいは承諾にかわる許可のほかに、付随の裁判をいたすわけでございます。このすべてにつきまして妥当な結果が出ますように、裁判所の一種の諮問機関的な鑑定機関と申しますか、性格はやや中間的な性格になるかもしれませんけれども、不動産鑑定士あるいは不動産業者あるいは有識者としての弁護士さん、そういう方を含めた三人以上の委員会の構成にいたしまして、その具体的な再案事案に応じましてどういう措置をとるのがいいかということをはかった上で裁判所はきめるわけでございます。もちろんこれは鑑定委員会の意見に拘束されなければならないという性質のものじゃございませんけれども、そういった専門の方々の知識経験を利用して、それによって裁判の適正妥当な結論を導き出すということをねらっているわけでございます。したがいまして、本来の専門的な意味での鑑定、厳格な意味での鑑定ではございません。そうかといって、調停委員会のようにただ円満に納まればよろしいという、当事者紛争を妥当な解決に持っていけばよろしいというだけのものでもない。若干専門的な鑑定的な要素もこれは加わってくるというふうに考えているわけでございます。大体この裁判をいたしますにつきまして不動産鑑定士の方も鑑定委員会の中に入られると思いますので、その地方地方の事情に明るい人たちによって構成されるこの鑑定委員会の意見というものは、十分尊重に値するものになるだろうということを期待しております。しかし、どうしてもそれでは足りない、厳密な意味での訴訟法上の鑑定が必要だということになりますれば、これはまた別個の問題でございますが、この規定の中にもそういう証拠調べもできる規定を取り入れておりますので、そういう必要があれば別に鑑定は鑑定としてやり得る道も開いているわけでございます。
  179. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 これは、前もって鑑定委員というものを調停委員と同じように裁判所から任命しておくのですか。あるいは、そのときになって頼むのですか。
  180. 新谷正夫

    政府委員新谷正夫君) これは調停委員と同様でございまして、地方裁判所が特別に知識経験のある人その他適当な人の中から毎年あらかじめ選任しておきまして、各事件ごとにその選任された者の中から三人以上の委員を選びまして、それによってそれぞれの事件に応じて鑑定委員会を構成していくわけでございます。
  181. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 まだほかにも質問したいところがありますけれども、一応借地法関係はこの程度にして、また次にやるということにしておきたいと思います。
  182. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 速記をとめて。   〔午後三時三十九分速記中止〕   〔午後三時五十三分速記開始〕
  183. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 速記を起こして。     —————————————
  184. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 次に、再び執行官法案を議題とし、質疑を行ないます。質疑のある方は順次御発言を願います。
  185. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 最高裁判所の民事裁判官の会同の議事録などを見ますと、中間報告ですか、中間案というのですか、何かそれについていろいろの各民事裁判官が集まって会同して議論しているわけですね。その中間案というのはどういうものなんですか。正式の名前は何というのですか、ちょっと忘れましたが。
  186. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 三十六年と三十七年の二回にわたりましていわゆる中間案につきまして裁判官の会同を開いております。これは法務省のほうで法制審議会の段階で強制執行手続法に関しましていわゆる中間案をまとめられたのに対しまして、裁判官のほうとしての運用上のいろいろの意見を聞くために裁判所のほうとしてもそういう会同を開いていろいろの意見を聞いたわけでございます。これは、執行官制度と申しまするよりも、強制執行法の手続の問題でございます。
  187. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 その二回の会同で執行官制度のことについても論議することになっておったんだけれども、何かそこまでいかないで終わっちゃっているんじゃないですか。執行官制度の問題については全然論議されていないのですか。
  188. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 主として手続方面のことでございまして、それに触れてあるいは執行官制度自体のことにも触れる点もあるかと思いまするが、この会同の記録を読んでみますると、おもな論点はやはり手続関係でございます。
  189. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 その会同の記録をぼくもざっと見たのですが、執行官のことを目次のところじゃ聞くようになっているんですね。いくらさがしてもないんですよ。どうしてないのかと思ったら、途中で切れちゃって、あとは協議未了ということになっているんですね。二回ともそうなんですね。よけいなことですけれども、その日にちゃんと協議すべきことになっておったのに、そこまでやらないのですか。途中で時間が来るとやめちゃうんですか。会同だから、顔合わせか、会食するのが目的か、よく知りませんがね。執行官制度の問題は提起されているのに、全然論議されていないですね。そこまで問題にならなかったのですか。
  190. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 執行官制度につきましては、まだ案がまとまっておらなくて、その点が議題にならなかったようでございます。私、その当時民事局におりませんで、この会同にも参列しておりませんので、詳しい事情はわかりませんけれども、もしこまかい事情につきましての点でございましたら、その会同に出ておりました第一課長の西村君が代理者として出ておりますので、お答えすることをお許しを願いたいと思います。
  191. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 こまかい点ですからいいです。ただ、それを見てみますと、手続法の改正のほうを中心として論議されておったわけですから、そちらのほうが改正案として今度出てくるなら話はわかるんですけれども、そういう会同の中でたとえばおしまいのほうにちょっと出てきて、しかも協議されていない執行官の問題がここで法案として出てきて、肝心かなめのほうはちっとも進まないで出てこないものですから、何だか変だなあという感じを受けたのですが、いわゆる中間案というのは、手続法の関係が中心なんですか。中間案には執行官の問題は入っていないんですか。
  192. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 私も記録等によって当時のことを調べているわけでございますが、当時のことを振り返ってみますと、先般法務省から御説明がありましたように、法制審議会としては一応俸給制による一元的な執行官の制度がいいのではなかろうかという一応の結論を出し、その結論に従って、しからばそういう制度のもとで手続はどうしたらいいの、だろうかということの研究を進めておったようでございます。それがいわゆる中間案でございまして、この中間案の前提となっておるのは、執行官の一元化案を一応の前提としておる。ところが、その手続法の改正と同時に制度自体というものをもう一度考え直す段階がまた参りました。と申しまするのは、これも先般法務省のほうから説明がありましたように、一応の理想としては固定給の完全な公務員による執行官制度というものがいいのではないかというふうに考えられるにしても、現実の姿をながめたときに、それだけの人を得られるか、それだけの適任者があるかというようなことが現実に問題となる。で、いますぐそこに踏み切ることは、人員増加の面におきましても現状の二倍、三倍の人が要る。しかも適当な人間をということになれば、相当高い俸給の人でなければならぬ。そういうことが人員を埋めていく上に可能かどうかというような現実論になりまして、将来はそちらのほうにあるいは向くべきであるかもしれないにしても、そこに至るまでには一段階踏んで、いわゆるそういう理想の制度をつくり出す基盤というものができてこなければ、直ちに理想的な制度にすぐ移れないんじゃないかという議論が中間案がきまりました後に出てきたわけでございます。
  193. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 中間案というのは、法務省でつくったんですか、最高裁でつくったのですか、どっちでつくったんですか。
  194. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) この中間案と申しますのは、民事訴訟改正の中間案でございまして、その内容は法制審議会の準備会段階でつくり上げた中間案でございます。
  195. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 その中間案の中に、もちろん、民事訴訟法ですから、強制執行もあるでしょうし、それから執行吏の問題もあると思いますけれども、その中間案に書いてあるいわゆる執行吏制度の改正というものと今度の改正案というものとが違うのはどこが違うのですか。大体説明を聞いてわかってはいますけれども、その中間案では、あれですか、全部俸給制にしろという案なんですか。そこ、だけが違うのですか、今度の案と。
  196. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 民訴の改正の中間案でございますが、これは弧制執行関係の中間案でございます。そして、その中間案は御指摘のように俸給制の公務員である執行官というものを前提としたものでございまして、それから執行官一元の考え方に基づきまして手続法を考えたらどうかという内容になっているわけでございます。したがいまして、今回の執行官法は、俸給制を採用するに至りませんでしたし、それと関連いたしまして執行官一元の形をとっておりません。執行裁判所と執行官と二元の形をとっておりますので、その点も当時のものとは違っているわけでございます。
  197. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 俸給制と一元の形というのは、これは法制審議会でつくった案だというんですけれども、法務省もその案にはタッチしてできたものではないんですか。どの程度タッチしているのですか。
  198. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 法務省の担当者も一部は委員にもなっておりますし、幹事の中にも入っておりますので、法務省の担当者としての考え方もその検討の中には入っているわけでございます。
  199. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 結論的には、いま言った俸給制なり一元の形をとるというんですか。執行裁判所と執行官と一元すると、こういう行き方に。その案のときには、法務省なりあるいは最高裁判所ですか、両方賛成したのですか。あるいは、そうじゃないんだと、中間案だから一応そういう案をつくって各方面の意向を聞こうという程度だったのですか。
  200. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 法制審議会には、いま申しましたように、法務省関係者も入っておりますし、最高裁判所関係者も入っておりまして、学者等々と一緒になって検討を進めたわけでございます。その段階では、法務省におきましても、最高裁判所におきましても、こういう形の制度は円滑に運営できるものならばけっこうじゃないかということで、特にその点に異存はなかったわけでございます。
  201. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 いま言ったことばの中にあらわれているのですけれども、円滑に運営できればいいということで異論がなかったというわけですね、結論的に。結局俸給制になるよりは手数料制にしてくれということで、俸給制にすることに執行吏から反対があったのですか。ざっくばらんに言うならば、結局手数料制を残してくれという意向があったので手数料制は残ったということなんですか。
  202. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) そういう事情はないわけでございます。
  203. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、「執行官法案説明書」というのがありますが、この「二、法律案の内容」の一の「執行官の新設」というところ、ちょっとページがうってないのであれですけれども、その中で最後から三行目ですが、「この点、現行の執行吏制度に比して変わりばえがしないとの批判を免れないとも思われますが、」と、こう善いてあるのですが、現行の執行吏制度に比して変わりばえがしないなんて、そんなことをだれが言っているんですか。法務省の中でもそういうことを言っているんですか。
  204. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) これは必ずしも法務省の中で言っておるわけではないのでございまして、これは従来から国会の委員会におきましても執行吏制度について根本的な改革を必要とするのじゃないかという御指摘があったわけでございますが、その御指摘の際に、やはり手数料制というのはおかしいのじゃないか、俸給制にすべきであるのじゃなかろうかというような御意見が出ていたわけでございます。そこで、そういう御意見をお持ちの方からごらんになりますれば、手数料制を今回はなお残しておりますので、この点は現行の執行吏制度に比して変わりばえしないとの批判を免れない面があるのではないか、こういう趣旨で記載したわけでございます。
  205. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 さっき塩野さんが、俸給制なり一元化というものが円滑に施行されればそういうふうにしたかったんだと言われたのですが、そうすると、その二つのことがポイントですわね。その二つのことが実現されておらないということは、結局において反対があったわけでしょう、既存勢力と言うと語弊があるけれども。そうじゃなくてはおかしいじゃないですか。まあ平たく言えばその点はどうなんですか、その点はオフィシャルに答弁しにくいのかどうかは別にして。いずれにしても、中間案できめられた二つの線がとられていないと。それで、そのきめられた二つの線というのは、あれですか、法務省にしても、最高裁にしても、そういう方向に実現したいと、こういうことなんですか、いまの俸給制と一元化ですか。
  206. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 一元でしかも俸給制という問題でございます。これは、先ほども申し上げましたように、法制審議会で検討の結果、そういう方向が一応検討の方向として打ち出されたわけでございまして、その段階におきましては最高裁判所法務省も法制審議会に関与しておりますので、その方向については特段の反対はなかったわけでございます。そうして、さらに今回そのような根本的改正の形に至らなかったというのは、別段執行吏その他から特段の反対があったということではないのでございます。前回もその点につきまして御説明申し上げましたが、やはり俸給制でしかも執行官の一元という形は、現行制度から見ますと非常な改革になるわけでございまして、俸給制の執行官ということになりますと、前回申しましたように、相当多数の執行官というものを求めなければならない。それだけの数の優秀な執行官の候補者というものを求め得るだろうか。さらにまた、手数料制は、御承知のとおり、働けば働くだけ手数料が余分に入るということで、勤労意欲を刺激し、事務能率の向上をはかるという形になっておるわけでございますが、これが手数料制でなくて俸給制ということになりますと、そういうふうな能率向上の一つのよすがというようなものもなくなるわけでございます。しかも、御承知のとおり、執行官の仕事は、事務所で執務をしておるという時間はほとんどないわけでございまして、いつも外で現場で執行しているというようなことになりますので、これを監督し、能率を向上させていくというためには、またそれなりのいろいろ工夫が必要となるのじゃなかろうかというようなことで、現段階でこれらの問題点をすべて解決して根本的な改革をやるということにはまだ自信が持てないと申しますか、踏み切りがつかないというのが実情でございまして、決して執行吏等の反対の結果現在のような執行官法ができたということではないのでございます。
  207. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 執行吏の人たちが反対したのでこういうふうになったのかどうかということは、これはまた別の問題になると思うんです。執行吏の人の意見もぼくは十分聞いておらない点がありますから、その点についてははっきり言えないんですが、私が聞いた範棚では、この法案に対してなかなか態度がきまらなかったと、こういうのが意見のように聞いておるんですがね。最初は反対のような意見が盛んに執行官の人から来たわけです。あとからは反対の意見を取り消すんだということで来たんですけれども、これは九州の一部の人ですが、どうもそこら辺のところよくわからないのですが、いずれにいたしましても……。  そうすると、中間案というもののときには、最高裁も法務省もその中におもだった人が入っていていろいろ検討した結果、反対はなかったと、こういうんですけれども、中間案をつくるときに、あれですか、いま習ったように俸給制にするなりあるいは一元化するということはいろんな面から無理なんだと、こういうことを法務省なり最高裁判所当局は主張しなかったのですか。
  208. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 稲葉委員御承知のとおり、私はその当時関係しておりませんでしたので、あまり詳細な事情は承知していないのでございますけれども、その当時、法制審議会で検討しておりました際は、明治二十三年以来実施してきたこの制度をどういうふうに改正するのが理想的であるのかということで、理論的に理想的な形のものを組み上げていこうということで議論が行なわれてきていたように思われるわけでございまして、一応それで先ほど申しました執行官一元で完全俸給制というようなことが一つの理想的な姿ということで打ち出されたのでございますが、これを現行制度から切りかえていくという具体的な方策というようなところまではまだその段階ではこまかく検討が進んでいなかったんじゃないかというふうに考えられるわけでございまして、その後だんだんにそれじゃどういうふうにして切りかえていくかというような具体的な検討が始まりましたところが、そう簡単にはこの制度を切りかえていくことはむずかしいのじゃないかという実際上のいろいろ疑問が出てまいりまして、そこで現在までまだ最終的な構想をきめるというところまで達していないのが実情でございます。
  209. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 現在の手数料制の執行吏を俸給制にすると人数が多数になるんだというお話がありましたね。仕事の量がそうふえるわけでもないし、それはどうして俸給制にすると多数になるのですか。俸給制になると仕事をしなくなっちゃうのですか。
  210. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 俸給制にしますと決してなまけるというわけではないのでございますけれども、手数料制は、先ほども申しましたように、能率を上げて働けば働くだけ手数料がふえていくということでございますので、極度に能率的に仕事をするというのが現実の姿であろうと思います。それを公務員としての勤務条件その他を考え合わせて検討いたしてみますと、やはり現在の数よりは相当たくさん人員を用意しなければならないのじゃなかろうかと、こういうことでございまして、前回三倍程度ということを申し上げましたが、実際に現在全国の執行吏がやっております事務量を厳格に判定いたしまして、それを普通の国家公務員の職員がやるとすればどれだけの人員を要するかということを実は厳密にまだ検討していないわけでございまして、前回もちょっと申し上げましたが、ドイツで手数料制から俸給制に切りかえるという議論が出ました際に、俸給制の執行官にすれば三倍くらい必要とするのじゃないかというような論議がされたようでございまして、法制審議会などでもそういう話が出まして、日本でもこういう制度に根本的に切りかえるという際にはまず三倍程度を確保しなければならないのじゃなかろうかという話が出ている程度のことでございます。
  211. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、今度の法案の中でも、執行官について公務員としての性格をより強化するために役場の制度をとらないこととしたのだということですが、役場の制度をとらないけれども手数料制が残っているということになってくれば、それは仕事の分配とか何とかということはいまの制度と違ってくるかもわかりませんけれども、手数料のほうはやはり今度の制度になってくると非常に変化が出てくるのですか。減ってくることが考えられるのですか、一人の収入から見ると。あるいは、非常にこう均霑してくるということになるのですか。
  212. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 御指摘のように、今回の執行官法によりますと、従来の自由選択制を廃止いたしまして、事務分配を裁判所でやるということになりますので、原則として平等分配という形になるだろうと思いますので、その面から申しますれば、従来、一方の人は非常に仕事が多かった、あるいは片方の人は非常に少なかったということでアンバランスがありましたようなところでは、それが比較的平均化するという場合があるかと存じます。しかしながら、実情を見ますと、従来そういうアンバランスの生じておりますのは、一方は壮年で非常に能率よく働ける、片方は七十以上の老齢で必ずしも敏活に仕事ができないというようなために事件数のアンバランスがあったというような例が多いように思われますので、現在の執行吏は今回の執行官法で全部執行官に自動的に切りかえられますので、従来の老齢の方でも新執行官になるわけでございまして、そういう実際の体力とか事務能率とかいうものは今後しばらくの間は裁判所の事務分配の際にも考慮せざるを得ないのじゃなかろうかという感じがするわけでございまして、これは各地方裁判所で事務分配のやり方をおきめになるわけでございますが、おそらく当面はそういう配慮も必要なんじゃなかろうかというふうに考えられますので、さしあたって切りかえの際には非常な従来との収入の差が生ずるということはないのじゃなかろうかというふうに考えているわけでございます。  事務分配の点につきましては、最高裁判所のほうから御説明するのが相当かと思います。
  213. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) ただいま法務省のほうから御説明のありましたところで大体のところは尽きておるわけでございまするが、多少補充して申し上げますと、今度事務分配を裁判所でするということになります。で、その理想とするところは、やはり平等に分配するということにあろうかと思います。しかしながら、やはり手数料制をとっている以上、能率化ということがあるわけでございまして、単に平等に分配するということでは手数料制のいい面が抹殺されるわけであります。手数料制だけでいきますと、しかし反対に過当競争等がございまして、その辺でまた適正でないというところがあるわけでございます。要は、手数料制のいいところを生かしながら、しかし過当競争に流れないようにしていく。それで、そういうふうな事務分配のしかたを裁判所がしなければならないわけでございます。  事務分配を裁判所がするということをもう少し具体的に申し上げますと、事務分配に関する抽象的な基準を裁判所が定めるということになるわけでございます。そのときに、先ほど申しましたような理念に従いまして基準をつくるわけでございますが、具体的にはそれじゃどういうことになるかと申しますると、同じ能力で同じような適性を持っている執行官が数名おりますところでは、事件を平等に分配するということが原則になります。しかしながら、現執行官が新しい制度のもとにおける執行官としてさしあたりは任命されたものとみなされるというようなわけでございまして、今後新しい制度のもとで任命される執行官との間には能率的にも差があるというふうに見ざるを得ない。そうしますれば、事務分配の上でもその差を認めて適正な分配をしなければならないということにもなろうかと思うのでございます。さらに具体的に申し上げますると、平等に分配するというようなことを申し上げましても、受付順に平等に分配するということを必ずしも考えておるわけではございません。御承知のように、執行吏の行ないます仕事の上で不動産の競売の仕事がごさいますが、これはばらばらに個々の執行吏がやりますよりも、一人の執行吏が不動産競売を担当してやっていくということでありませんと、たくさんの事件を一律に集めてやるというわけにまいりませんものですから、各地の合同役場におきましても不動産競売の事件だけはある特賞の執行吏がやるということになっております。ただし、それによる収入というものはほかの執行吏にも分配するというようなことでやっております。  それから東京のような地域の広い土地でございますると、受付順に仕事を分配しておりますと能率的に仕事ができませんので、地域によって担当者をきめまして、そしてその特定の地域の事件はA執行吏、ほかの地域のところはB、C、Dというふうな地域的な事物分配のしかたをしておりまして、なお、その間で不均衡が起こりませんように、期間を区切りまして、A、B、C、Dの地域を交代してやっていくというようなことで、各執行官の平等をはかるというようなこともやっておるわけでございます。  なお、特定の執行吏にぜひやってもらいたいというような申し立て、従来で言いますと委任の形式があったわけでございますが、これは原則としてそういうふうな事件の割り振りのしかたは今後やめてまいろうかと思うのでございます。それは、特定の執行吏に頼むということは、とかく債権者と執行吏との間の結びつきというようなことに誤解を生じまするし、そういうような疑惑があってはならない仕事でございまするから、債権者と特定の執行吏との結びつきということは極力排除していきたいとは思いまするけれども、これも訴訟事件等ですでに御承知かとは思いますけれども、関連事件について事件の分配が関連の事件を扱っている部で裁判をされる、それが訴訟促進の上で能律的であるというようなこともございまするので、執行事件の上でもそういう事態が出ております。特に通常の分配のしかたとは違っておっても、特定の執行吏にその事件をやらしたほうがいいというような事情があり、合理的な理由があるならば、その事件をその執行吏に分配するというようなことも可能な基準をつくっておくということになろうかと思います。
  214. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 不動産の競売を専門の執行吏の人がやっているということになってくると、実情は東京のような場合どういうふうになっているのかよく知りませんが、それをやっている人の収入は非常にふえてくるけれども、自分のものとしないで、役場に納めるという形を現在でもとっているのですか。
  215. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) そういうふうにやっているようでございます。
  216. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 それから、仮処分や仮差押の執行の場合は非常に急ぐわけですけれども、そうすると、こういうものの配点はどういうふうにやるのですか。一般の執行吏の人は普通の執行事件を持っておってきまっているから、仮処分や仮差押は、裁判所で分けても、前の普通の事件を持っているのだからだめだと言われると、どんどんおくれてしまいますね。
  217. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) それは、現在でも、特に急ぐ事件につきましては、待機している執行吏がやるという実情になっておりまして、今後も、もちろん原則は平等分配ということでございまするけれども、そういう特に急ぐ場合にはだれだれの執行吏がやれるというような基準をきめておきませんと、やはりそういう緊急の場合には間に合わないかと思います。
  218. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 手数料規則で見ると、仮処分はいま千円ですか。この千円というのは手数料ですね。今度の執行官法案になっても同じなわけですか。ところが、この計算の方法が、たとえば債権者が十人なら十人、二十人なら二十人いて、賃金の仮払いの仮処分のときなんかの計算は、債権者が一人一件と考えるというような行き方をとるようなんですね。だから、組合関係で、組合は法人格を持っていませんし、持っていても賃金の場合は直接請求ですから、たとえば五百人ぐらいで賃金の仮払い請求の仮処分執行なんかありますね。あるいは、仮差押をする場合がありますね。五百人で全額五百円だというわけなんですね。そういう計算になっているんですか。
  219. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 仮処分ということになりますと、いろいろな形態があるわけであります。したがいまして、執行の方法もいろいろな形態があるわけでございます。それでございますから、またその手数料にしても、各種各様の場合があるわけでございます。ただいまお話がありましたような賃金仮払いの仮処分でありますと、つまり金銭給付債務名義になりますから、これは差押ということになりますので、結局請求債権の額によりまして手数料がきまってまいるわけでございます。それで、やはり債権者は一人一人でございますから、一人一人がやはり仮差押の手数料を払うというようにするわけでございます。
  220. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、五百人なら五百人、千人なら千人で債権目録に従って仮払いの仮処分、仮差押をすることがあるわけですね。そうすると、一人が一日行ってそれで千件分の手数料をとれることになるんですね、規則からいうと。そういうことになっているんですか。それは賃金請求権ですから、組合は適格がありませんから、各個人個人ですから、理論的にはそういうふうになるわけですね。それで非常に困りまして、執行吏の人も気の毒がって、それじゃ気の毒だからといってそこで話し合ってまあ普通の常識的なことをしてもらったんですがね。これなんかどうするんですか。これはやはり一件なんですか、そういうのは。件数としては千件に数えるんですか。
  221. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) そういう仮処分に基づいて仮差押をする場合でございますね、共同で仮差押の申請をする場合と各別に申請をして仮差押が行なわれる場合とが考えられると思います。共同申請の場合には共同で、差し押える手数料はやはり各別になろうかと思います。ただ、各別に執行を行ないまして最初の人が執行してしまいますと、あとは照査手続でございます。照査のためには照査の手数料が要るわけでございます。これは差押の手数料の半額ということになっております。
  222. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、普通の債権者ならいいですけれども、労働者が未払い賃金だからというので未払い賃金を請求するわけですね。一人二万か三万でしょう。そこらのところで千人分を請求すると、そうすると、これでいうと手数料が一人千円になってしまうわけですか、手数料だけで。千人で千円だから百万ですか、百万円払わないと執行吏は賃金の差押をして仮払いの仮処分をやってくれないですか。
  223. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 千円とおっしゃったのは、これは普通のよくやります執行吏保管の仮処分でございますね。ああいう場合は千円になりますが、仮差押ですと、差押のところの規定によるわけでございますので、金額によりまして、一万円までは二百円、五万円までは四百円、十万円までは六百円、十万円超過の分につきましては八百円、こういうふうになっております。
  224. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 わかりました。それで仮差押をして仮払いの仮処分をやるわけですが、物件がその土地にあればいいけれども、別のところにある場合があるわけですね。そうすると、出張旅費が入るわけでしょう。出張旅費は千人分に計算するわけですかね。千人分の手数料をもらって、千人分の出張旅費がとれるわけでしょう。一人一件なわけでしょう、賃金請求権のような場合は。そういう計算になるのですか。理論的にはそうなるのじゃないですか。違うのですか。
  225. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) これは、確かに法律上疑問のある点だと思います。けれども、同じ場所で同じ物件を差し押える  債権者が異なっておりましても、同じ場所で同じものを差し押えるという、執行するときの旅費の支給のしかたいかんというようなことが常に執行吏との協議会等で問題になりますが、その場合には、同じ場所で同じものを差し押えるような場合には、手数料は各別にとってもよろしいが旅費はいかぬと、私どもの事務当局の結論はそういうことにして、そういうふうに執行吏に指示しております。
  226. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 まあ旅費の場合は、そういうように実際はとっていませんよね。あるいはそれは話し合いで一件分にしてもらったり、一件分では少ないからというので多少色をつけて、と言っては語弊がありますけれども、やっておるのでしょうけれども、最初の手数料が、これで言っても、あれでしょう、五万円までは四百円ですか仮差押はね。そういう場合に、それが千人いると四十万円ですか、そういうふうに払わないというと賃金の仮払いの仮処分はやってくれないんですか。そういう形になっちゃうのですか。それで結局やってみたけれどもそれはとれなかった、と言うと語弊がありますけれども、それはまあ別として。  だから、そういう場合に、賃金請求権というのは、理論的に言えば本人でなければもらえないわけですからね。組合がかわってもらう法律的な権限もないのだし、それから代表者がもらうとか、あるいは選定当事者というかそういう場合もあるかもしれませんけれども、かりに法人格を持っていたって、法人はもらえないわけでしょう、賃金ですからね。そういう点になってきて、現実の問題で困る場合が相当あるんですよね。それは執行吏の人と話し合って、執行吏の人が理解があるものですから、そこのところは適当にかんべんしてもらったりなんかするんですがね。これは表面的にやられると、それだけのものを払わないとあれになっちゃうんですね。  そうすると、いまの場合は、あれですか、たとえば千人分の賃金の請求だということになると、それを裁判所では千件分として取り扱うんですか、配点をする場合に。
  227. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 事件の配点ということになりますれば、先ほど申し上げましたように、関連事件というようなことで同じ執行吏にそういう事件は配点したほうが能率的であるし、これを各別にやるということは非常に旅費なんかの点を考えますれば不経済でありますから、そういう点につきまして、事件の配点ということは原則として平等ということでございまするけれども、しかし、いろいろの例外の場合を考えての基準をつくらなければいけないというように思っております。
  228. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 まあくどいので適当にしますけれども、そういう場合、だから、事件は、執行吏の人に千件分の事件を配点したというふうに考えるのか、あるいは、関連だからということで一件なのかということですよね、そういう点をどういうふうに考えるのですか。
  229. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) これは、手数料の面から見ますと一件というふうには見ないというふうに先ほど申し上げたわけであります。旅費の面から見ると一件の扱いをしろ、事件分配の面から見てもこれを千件と見るのはおかしいじゃないかというようなことになりまして、理論は一貫しないかと思いまするけれども、そこはやはりおのずから合理的な法の解釈と申しまするか、適用にあたっての合理的な解決の方法を考えなければならないと思っております。確かに手数料の点は不合理でございまするけれども、しかし、実際問題といたしまして一人が差し押えておれば、あと配当要求をすればいいとか、照査をすればいいとかということでございまするので、全部のものを一人の人が押えてしまえば、あと続いて同じような差押を執行するということは実際問題としてないんじゃないかというふうに考えております。
  230. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 一人の人が押えるといったって、一人の人の債権で全部押えられないんじゃないですか。それは不可分の問題は別として、そして照査によってやってくれといったって、一人の人の請求は非常に少ないわけですからね、金額が。その人だけで差押するわけにはいかないから、結局ある程度の人数のものが見合った財産を差押しなきゃならぬということになってくるし、将来ほかに財産があるかもわからぬということも考えてくれば、結局においてほかの債権者ですね、そこに千人の人が働いていれば、その人全部のものをもらっていかないと不安ですから、もらっていくという形になると思うんですけれどもね。これは実務上の問題で、率直に言うと、まあそこでよく執行吏の人と話し合いをしましてまけてもらったりなんかするんですね。これは規則どおりにすると、たいへんなことになっちゃうんですよ。それでぼくも困ったことがあるんですけれども、そういう場合に具体的にどういうふうにするのかということですね。これはまあいろんな面で研究してもらわないといけないことですが、理論的に言えばいたし方がないとしても、実務の上で何とかそれを規則か何かの中にはっきり書くわけにいかぬといたしましても、実際のこういう仕事の中の一つの慣習みたいなものとして、何か合理的なもののように解決をしてもらわないと困ってしまうことが起きるんじゃないかと、こう思いますが、まあそれは別の問題になると思います。で、執行の場合に、いままでの例では、不動産競売の場合には裁判所の決定で期日の告知なんかしますわね。ですから、延期の場合なんかでも裁判所へ持っていくわけですね。ところが、裁判官によっては、不動産競売は債権者が延期申請してきても延期なんか認めないという行き方をとっている裁判官もあるんですね。と同時に、そうじゃなくて、これは債権者と債務者の間の問題なんだから、競売を債権者のほうで延ばしてくれと言ってくれば、債務者のほうが一部支払ったりなんかすることもあるし、支払わなくても、延期ということで債権者のところへ頼みに行って、債権者のほうから延期申請が出る場合がありますね。動産の場合だと、これは執行吏のところですから、執行吏に来れば必ず延ばしちゃうわけです。ところが、不動産の場合は、裁判所がやっていますから、裁判所へ行くと、いや、自分の方針は債権者だけ延ばしてくれと言ったってだめだ、裁判所のほうへ不動産競売を申し立てておきながら、何回も何回も延期していくというような行き方はいかぬ、これは競売しちゃうんだといって延期を認めない人もいるわけですね。これはどういうふうな指導をしているわけですか。指導と言うと、裁判官に最高裁が指導できる権限はないでしょうけれども、どういうふうなことを実際やっているんですかね。
  231. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) まず、不動産競売のほうでございますけれども、これが、御指摘のように、まあ債務者だけの申請では延ばすわけにいかない、債権者が言ってくれば延ばしてもいいんじゃないかという考えの方と、それから、いや、債権者も債務者も異議がなくても、そう無制限に延ばすわけにいかぬという考えの方がございます。これは、競売手続あるいは強制執行による競売も、いわゆる非訟事件職権主義でやる手続だということが、やたらに延ばせないんだという考え方の一つの根拠であろうと思います。それも、実際上の問題といたしましては、御承知のように競売手続というものが必ずしも最終の目的として使われているものじゃない。つまり、競売すると、こう言って間接強制的な働きを目的として一部弁済を受けることを目的として債権者が申し立てるということがあるわけでございます。これはまあそういうふうに競売手続利用されるということも、これは法律目的としていること自体から離れるかもしれませんけれども、それはそれとしての一つの働きをするんだという見方と、いや、そういうようなふうに競売制度というものは利用されてはいかぬのだ、ほんとうに競売の目的でそういう申し立てをするのならば、そうやたらに債権者といえども延ばすことは許されないんだという考え方の相違からそういうことがきていると思います。訴訟事件につきましては、やはり当事者主義ということが非常に働きますから、当事者が判決を求めないのに何も急いで判決をする必要は毛頭ない。競売手続につきましてはその辺が多少考え方が違うところから、当事者の意向のいかんにかかわらず裁判所職権で進めるということをすべきだという議論が出ておるわけでありまして、これもある程度理由があることであろうと思います。
  232. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 その競売の前提ですね。債務名義を得るのは、普通口頭弁論で当事者主義でやっているわけですから、それが確定しちゃってその権利の執行を求める。もちろんそれは国家機関によって求めるわけですけれども、そのときになっていきなり職権主義になっちゃって、債権者のほうで延ばしてくれと言っても延ばさない。あまり裁判所を何というか利用し過ぎるといって延ばさない。そういう考え方もあるんですね。そこら辺のところが徹底していないんです。どちらが正しいか議論がありますし、裁判官独立ですから、こういうふうにやれとも言えないでしょうけれども。  もう一つ、動産のほうはどうかというと、これは執行吏はどうなんですか、非訟事件手続法によって執行吏が動産の競売をやっているんですか。それに対して執行吏はそれを延ばすとか延ばさないとかいう権限があるんですか。どういうふうになっているんですか。
  233. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) これが申立制に今度変わりますと、従来の裁判所の不動産競売と同じような性質に変わるんじゃないかと思いますが、今は委任という制度でございます。その辺は、不動産の競売についての裁判所のあり方と執行吏のあり方というものが理論上多少違うんじゃないか。したがいまして、委任者がきょうやらぬでもいいというときに進んでやるということは、今の制度ではいかがかと思うわけであります。
  234. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 だから、委任ですから、委任を受けたほうは、委任したほうの意思に反してできないわけですか。執行吏は、そうすると、動産競売の場合には、委任者の意思に反して、きょう延ばしてくれと言ったら——すぐその日に延ばしてくれという場合も債権者からありますけれども、大体前の日あたりが多いですけれども、一部相手が金を持ってくるとか、延ばしてくれと頼まれたりする場合がありますね。動産の場合は委任だからだから執行吏はそれに対して判断権というか拒否することができないんだ、不動産の場合は裁判所職権なんだからやれるんだということになってくると、そこのところでなぜそういうふうに不動産の場合と動産の場合とが違うのか、そこら辺のところがわからなくなってきちゃうんですよ。最高裁としては、民事裁判官の会同なんかのときに、不動産の競売の場合に、裁判所としては、申立期日がきまるというと、延ばしてくれ延ばしてくれじゃかなわぬという気持ちがあるかもわかりませんけれども、どういうふうに最高裁としての何といいますか方針を出していくのですか。そういう点が論議になったことはあまりないんですか。
  235. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 実務の上では一体延期の取り扱いをどうしたらいいかということはやはり問題になっております。ただ、会同の問題としては取り上げられたという記憶はございません。裁判官といいますよりは、期日を延期するということは書記官にとっては相当のやはり事務量になるわけでございまして、書記官あたりがむしろあまり延ばすことには賛成しないようでございます。
  236. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 「執行官の職務」としてここに書いてあるのは、「現行の執達吏規則の規定は、今日では、執行吏の職務内容を的確にいいあらわしているとはいえず、この規定の中には、他の法令の規定と重複しているものや、現在は適用の余地がなくなっているものがありますとともに、反面、社会情勢の推移に伴い、当初この規定が予想しなかったと思われるような事務についても、執行吏がその職務として取り扱っている場合が次第に多くなっているのであります。」と、こう書いてあるのですが、これは現在の執達吏規則がどういう点が不十分であって、そうして現実に執達吏規則から離れて執行吏が職務として取り扱っているということもこれはあるんですか。この「執行官法案説明書」というのはたいへんこれりっぱなものであって、なかなか良心的に書いてあるので、ぼくは読んでいて感心したんですけれども、あらゆる法案の説明書もこういうふうによくわかりやすく良心的に書いてもらうとけっこうだと思うんですが、これはどういうことですか。
  237. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 現在の執達吏規則で規定している執行吏の職務内容のうち、現にすでに適用の余地がなくなっているというような場合がございますとともに、執達吏規則の中に必ずしも明確にあらわれていないものでも執行吏がその職務として取り扱っているものがある、こういうふうに説明してあるわけでございますが、現在の執達吏規則は、一条、二条、三条に執達吏の職務内容が規定してあるわけでございます。その中に、たとえば第三条の第一には「書類物品ノ送付ヲ為スコト」というような規定がございます。ところが、御承知のとおり、現在執行吏が物品の送付をするというようなことは実際にないわけでございまして、書類のほうは、もちろん書類の送達はやっております。おそらく明治の二十三年当時、この執達吏規則が制定された当時には、何らかこういう職務行為があったのだろうと思うのでございますが、現在の訴訟法等におきましてはこういう仕事はなくなっているわけでございます。それからさらに同じ条文の第三に「令状ノ執行ヲ為スコト」という規定があるわけでございます。これも現在執行吏が令状の執行をするというようなことはないわけでございまして、こういう点が現在適用の余地がなくなっているものがある、こういうことでございます。  それから反面、当初この規定が予想しなかったと思われるような事務もふえているということでございますが、これはたとえば不動産の強制競売の際に不動産の評価を執行吏が命ぜられるということがあるわけでございます。これらの行為につきましては、現存の執達吏規則の一条、二条、三条の中には明確にこれを職務というふうに規定していないわけでございまして、こういう点がございますので、今回それらの諸点を整理いたしまして、執行官法案の第一条におきましてこれを整理して規定した、こういうことになっているわけでございます。
  238. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、執達吏規則はこれは法律でしょう。法律に書いてないことを執行吏がいま言ったようにやる根拠はどこにあるんですか。
  239. 塩野宜慶

    政府委員(塩野宜慶君) 御指摘のとおり、執達吏規則は明治二十三年の法律でございます。先ほどこの執達吏規則の一条、二条、三条に明確に規定されていないというふうに申し上げた次第でございまして、執達吏規則の第三条を見ますと、「執達吏ハ法律規則二定メタル職務ノ外裁判所及検事局ノ命令ニ依リ其ノ職務ニ応スル事務殊二左ノ事務ヲ取扱フノ義務アリ」ということで、裁判所及び検事局の命令による場合にはかなり広くその職務範囲がきめられるというふうに考えられるわけでございまして、先ほど申しましたような例は、この規定によって執行吏の職務というふうに解釈し得るものであろうというふうに考えていたわけでございます。
  240. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 執行吏が訴状、だとかその他のものを送達しますね。あれは、あれですか、執行吏規則に書いてあるのですけれども、どの程度のことをやっているんですか。あれは郵便法で認められているんですか。
  241. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 執達史規則で「告知及催告ヲ為スコト」と、こうあります。第一条で送達をする職務があるわけでございます。どういう場合に送達をするかということは訴訟法できまっておるわけでございまして、いろいろあるわけでございます。それで、民事の場合ですと、いわゆる執行吏による送達が原則でございまして、郵便による送達もございますし、それから郵便に付する送達もございます。郵便に付する場合、これは郵便法によってなされる。それから執行吏による送達における場合は、民事の場合でございますと、民事訴訟法によって送達の方法もきまっておるわけでございます。
  242. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 執行吏が送達するときに、依頼者はどうするんですか。普通の書留ですか。いま百三十円ですが、今度百七十何円に上がるんですか。それと同じ金額を払うんですか。そこまで払わない、少し安いんでしょう。九十何円かな。
  243. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 郵便による送達か執行吏による送達かということは、これは当事者の選択によってどちらでもできるわけでございます。郵便による送達の場合には、郵便料を予納するわけでございます。それから執行吏の送達の場合には、執行吏の送達に関する、先ほど申しました送達の手数料と、それから旅費を予納するわけでございます。郵便による送達が利用されるのは、執行吏送達よりも安くなる場合、つまり距離が遠くなりますと執行吏の旅費が高くなります。そこで、郵便による送達を当事者利用する。近い場合ですと、郵便より安くなる場合がございます。そういう場合に執行吏送達が利用されるというのが現状でございますが、どちらを選ぶかということは、当事者の自由でございます。
  244. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 それで、執行吏が訴状だとかその他の書類を送達するときに、何か変なガリ版で刷ったようなもの、何ですか、あれを張るんですね。送達証紙ですか、あれは。どうでもいいようなもんですけれども、あれは、あれですか、裁判所でつくっているんですか。
  245. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) いま御指摘の点は、何か弁護士会と執行吏との間で協議してつくっておる証紙のようなものでございますか。
  246. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 ええ。
  247. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) これは、原則は、先ほど申しましたように、裁判所に予納すべき費用でございます。裁判所を通じて送達がなされるわけでございまするけれども、実際にはその費用というものは執行吏に払われる手数料及び旅費でございます。それを数多く事務的にこなすために、執行吏と弁護士会との間の話し合いで証紙というような形でやっておるということを聞いておるわけでございまするが、これは法律の正式なたてまえから言うと、その法律からはずれておると言わざるを得ないと思います。
  248. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 その証紙みたいなのは、どこでつくっているんですか。どこでつくって、どこへ行って買うんですか。裁判所で印刷しているのですか。
  249. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 裁判所は、もちろんそういうものを印刷してはおりません。
  250. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 そうすると、執行吏が勝手に印刷しているのですか、弁護士会との話し合いですか。
  251. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) 弁護士会と執行吏との話し合いでこしらえておるという話は聞いております。
  252. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 執行吏送達のほうは、郵便でやるより安いんですね。それを利用したいと思う場合もあるのですけれども、何か距離が非常に短いのですか、何か制限があって、同じ市内の中でも、片っ方のところは執行吏送達で入るのだけれども、ちょっと離れると執行吏送達がだめだというふうなことになっているらしいんですね。どういうふうな制限になっているんですか。どこできまっているんですか、そんなことは。
  253. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) これは、結局、今度の改正になる前の特別送達ですか、あれが百三十円であったのが百七十五円になったかと思いますが、つまり、従来の百三十円よりも安くて送達ができれば執行吏送達が利用されるということでございます。それは、現行で行きますと、送達の手数料が四十円、それから一キロ八円の計算で旅費が計算されますので、往復で計算いたしますと、結局五キロぐらいだと百三十円より安くなるというようなことで、おのずからその利用の範囲がきまってきております。
  254. 稲葉誠一

    ○稲葉誠一君 どうでもいいようなことですが、何か郵便法違反のような印象をちょっと受けるんですが、それに対して郵政省あたりから別に文句が出ないんですか。そういうことをやっているのを知らないんですか、郵政省は。どうなんですか、郵便法違反ではないんですか。訴訟行為ならかまわないのですか、特別の法律規定があるから。
  255. 菅野啓蔵

    最高裁判所長官代理者(菅野啓蔵君) どちらが特別法かという問題になろうかと思いますが、むしろ郵便法と同じくらい古い昔から訴訟法があったわけでございまして、郵政省当局はもちろんその事情は知っておって——むしろ訴訟状の送達というのは執行吏によるのが原則である、ただ、例外的には郵便にもよれるというふうにだんだん変わってきた。それで、将来の姿を見ますと、執行吏送達というのはだんだん時代おくれで、これは郵便にまかすべきものではないかというふうに私どもは考えているわけでございます。
  256. 和泉覚

    委員長和泉覚君) ちょっと速記をとめてください。   〔速記中止〕
  257. 和泉覚

    委員長和泉覚君) 速記を始めてください。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時五分散会      —————・—————