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政府委員(森本修君)
農業災害補償法の一部を改正する
法律案につきまして、提案
理由説明を補足して御説明申し上げます。
第一に、引き受け
方式の改善について申し上げます。
現行家畜共済
制度は、立法当時一戸一頭飼養が支配的であったという事情により、家畜一頭ごとに加入の諾否を
決定するいわゆる一頭引き受け
方式がとられております。しかしながら、その後乳牛を中心として多頭飼養化が進むに伴い、主として農家の掛金負担の
関係から多頭飼養者ほど飼養家畜のうち一部のみを加入させる
傾向が強く、事故率ひいては掛け金率にも影響を及ぼすという好ましくない現象をみるに至っております。
かかる現状にかんがみ、改正
法案におきましては、種雄牛、種雄馬以外の家畜については、家畜の種類ごとに一農業者の飼養するすべての家畜が
一体として共済に付されることとなる包括共済
関係いわゆる農家単位引き受け
方式を創設し、
原則的にこの
方式によることといたしました。他方、農家単位に加入する者に対しては、事故の選択制の新設及び国庫負担の拡充の方途を講ずることといたしておりますので、現行
制度より容易に全頭加入が可能となるのみならず、逆選択の防止による将来の事故率ひいては掛金率の低下が期待される次第であります。
なお、包括共済
関係においてその農業者の飼養する家畜に異動が生じた場合には、新たに飼養せられることとなった家畜も当然に共済に付せられることとなる旨を規定いたしますとともに、死廃事故の発生した際のてん補率に影響を生じないようその者が共済金額の増額を申し出ることもできることとしたわけであります。
第二に、共済事故の選択制の新設について申し上げます。
現行
制度は、死廃事故及び病傷事故について事故の選択を認めないいわゆる死廃病傷一元化共済となっております。これは、疾病傷害共済の普及徹底とこれによる家畜診療の普遍化を目途として昭和三十年度以来実施せられたものであります。
しかしながら、一方、この間特に近年におきましては、わが国の畜産事情の変ぼうは
地域的にも階層的にもまことに著しく、一部には飼養管理技術の向上、飼料条件等外部の条件の変化に基づく経営
方式の
地域的分化等により死廃病傷事故のすべてについて給付を必要としない者がみられるに至っております。これらの者は、自己の必要としない共済事故に対応する部分の掛け金まで納めなければならないため、必然的に掛金を割高と感じ、
制度から遠ざかる結果となり、多頭飼養農家の未加入ないし一部加入の要因となっております。
かかる現状にかんがみ、改正
法案におきましては、客観的にみて死廃病傷すべての事故につき給付を必要としないと認められる者は、それぞれ自己の必要に見合った給付を選択できるように措置いたしました。選択し得る事故の種類につきましては、農家の需要に応じ、病傷事故の全部を除くもの、繁殖障害
関係の廃用及び病傷事故を除くものあるいは病傷事故の全部及び繁殖障害
関係の廃用事故を除くものの三種類のうち定款等で定めたものとする予定であります。また、事故の選択がさきに述べました
趣旨に沿って行なわれるよう、事故選択は、飼養管理技術
水準の高い者及び主として自給飼料以外の飼料により乳牛を飼養する、いわゆる都市近郊の搾乳専業型の経営を営む者に限り認めることとし、それぞれの要件については政令で規定することといたしました。
第三に、掛金国庫負担
方式の改善について申し上げます。
現行
制度におきましては、掛金中死亡廃用に対応する部分の二分の一だけが国庫負担の対象とされ、病傷に対応する部分は国庫負担の対象外とされておりましたので、掛金全体としてみれば国庫負担は二割強となっております。これは農家の零細飼養が支配的であった時代においては、農家にとって死廃事故が全損として重要な
意味を持っていたこと、病傷については事故率が著しく不安定であったこと等の
理由に基づくものでありますが、多頭飼養者にとっては死廃が全損であり病傷が分損であるという
考え方は経営の
実態にそぐわないと
考えられますので、包括加入
方式の創設、病傷給付
方式の合理化等の
制度的措置を講じ病傷危険率の安定をはかるとともに、病傷部分、死廃部分を通じて国庫負担の対象とすることといたしました。
国庫負担の割合につきましては、現行国庫負担割合を勘案して三分の一を下限とし、特に牛については多頭飼養化の進行と多頭飼養者の一部加入という
実態に対処して、その加入を促進するという見地から飼養頭数区分に応じ五分の二、二分の一と国庫負担を逓増せしめることといたしました。この頭数区分は、畜産事情の急速な変化に弾力的に対応させるため政令に譲ることといたし、農家の負担力と加入の実績等を勘案して定める所存でありますが、現在のところ、乳牛につきまして三頭から五頭まで五分の二、六頭から二十九頭まで二分の一とすることを予定しております。
なお、主として自給飼料以外の飼料により乳牛を飼養する者につきましては、その経営の
実態等からみて国庫負担割合を一律十分の三といたしました。また、飼養管理技術
水準の高いという
理由によって事故選択の適格が与えられた者につきましては、その者がみずからの判断によって必要のないと認めた事故を除外することによって相当大幅な掛け金負担の軽減が期待されることでもあり、国庫負担割合は十分の三とすることといたしました。
なお、肉用牛につきましては、基本的には右に述べましたような
原則を適用することといたしますが、現在その多頭化が進行していないこと及び肉用牛飼養の低収益性等にかんがみ、肉用牛の多頭化につき乳牛と同様な
実態が成熟するまで当分の間、事故の選択を行なった者を除き、一律に五分の二の国庫負担を行なうことといたしました。
第四に、異常事故に対する
政府の再保険
責任の強化について申し上げます。
現行
制度におきましては、
政府と連合会とは農作物共済及び蚕繭共済の場合と異なり歩合により
責任を分担しております。これは、家畜の損害が農作物、蚕繭のそれと異なり年次変動が少ないという
両者の性格の差違に基づくものと
考えられます。しかしながら、伝染病、風水害等により特定
地域に集中的に発生いたします災害につきましては、歩合保険の仕組みによりますと連合会等に負担力を越えた不足が発生し、しかも往々これが固定化する結果となります。よって、伝染病、風水害等の異常事故による損害につきましては全額
政府の再保険に付することとし事業の安定的運営が確保できるよう措置するため、保険料及び再保険料、保険金及び再保険金の額等につき所要の改正を加えることといたしました。
第五に、家畜共済の損害防止事業の強化について申し上げます。
わが国の畜産経営は、その多頭化の過程において一般に事故多発の
傾向がみられるのみならず、農作物、蚕繭と比較して各経営間の技術
水準の格差が著しく、ために適期診療がおくれ事故が拡大する場合が多いかに見受けられます。一方、農業共済
団体等はその組合員等に対し自己の費用負担において損害防止事業を指示することができるよう現行法に規定されておりますが、主として経営収支のいかんによってその実施
状況に格差を生じているのが現状であります。
かかる現状にかんがみ、繁殖障害等農家の立場からも事業収支の立場からも重要と認められる特定の疾病事故につき、予防診療を計画的に実施することを内容とする損防事業を
全国統一的な
基準に基づき強力に推進するため、国が農業共済組合連合会に対し財政的措置を講ずることとし、その法的根拠を明定することといたしました。この損害防止事業は農林
大臣の承認に基づき農業共済組合連合会の指示によって行なうものとし、その実務は農業共済
団体家畜診療所、開業獣医師双方に担当せしめることを予定しております。
なお、本事業は、家畜保健衛生行政と部分的に重複する面も生じてまいるおそれなしといたしませんので、国、都道府県それぞれの
段階におきまして保健衛生行政主管部局と緊密な連絡を保ちつつ、その協力のもとに効率的に事業を実施いたしてまいる所存であります。
本事業の強化によって、事業収支の改善が期待されることはもとより早期診療による事故拡大の防止によって農家の受ける利益も大きいものと予想されます。
第六に、病傷給付
方式の合理化について申し上げます。
現行
制度におきまして、家畜、ことに共済金額に応じて一事故ごとの限度が課せられておりますが、このため農家にとって特に重要と認められ、一般的に長期化する
傾向のある繁殖障害等の病傷事故につき診療給付が徹底せず、かつ、家畜ごとに限度が課せられるため、特に多頭飼養者が全頭加入していた場合不合理と感ずる場合が多く見られました。
かかる現状にかんがみ、これを家畜の種類ごとに農家単位に年間妥当な
水準に設定するよう改善いたしました。なお、この限度は現行料率への影響、農家の診療費の分布等を勘案し、料率に急激な変更を与えることなく相当部分の農家は自己負担なしに診療を受けられるような
水準に設定する方針であります。
この結果、重点的な病傷につき手厚い給付が受けられることとなりますが、特に多頭飼養者については限度が農家の飼養する家畜全体を通じて利用できるよう設定されることとなりますので、その効果が大きいものと
考えられます。
その他、最近の急速な畜産事情の変化を直ちに料率に反映させるため料率改訂期間を四年から三年に短縮すること、共済金の早期支払いを促進するため農作物共済及び蚕繭共済を除き損害評価会の事前審査義務を排除すること、多頭飼養者の包括加入を容易ならしめるため掛け金分納の道を開くこと等のため所要の措置を講ずることといたしました。また、利用
状況が著しく低く、
制度を設けておく
意味の乏しいと
考えられる生産共済は廃止するとともに、同様な
趣旨においてヤギ、綿羊を共済目的から除外することといたしました。
最後に、現行加入奨励金は、国庫負担
方式の変更を機会に廃止することといたしました。
以上今回の改正は、
制度の全般にわたりますため、相当の準備期間を置くことが必要と
考えられましたので、四十二年四月一日から施行することといたしました。
簡単でございますが、以上をもちまして、本
法律案についての補足説明を終ります。
続いて、お手元にお配りしております家畜共済の概要と実績という配布
資料を御説明申し上げます。
第一ページは、現在の農業災害補償
制度の機構でございます。これは御案内のとおり、組合員と農業共済組合、共済組合連合会、国の再保険特別会計という
段階によってそれぞれ共済
責任を負担しながらやっておるわけでございます。いずれも保険の
方式をとっておりますので、掛け金を支払う、あるいは保険料、再保険料をそれぞれ上部の
段階に支払いまして、事故が起こりました際に、それぞれ負担区分に応じて保険金なり、共済金が組合員に支払われる、そういうふうな仕組みになっておるわけでございます。
それから二ページへまいりまして、現行の家畜共済の共済目的と共済事故が書いてあります。
共済事故は簡単に言いますと、保険にかけることのできる家畜の種類でございます。
保険の種類といたしましては死廃病傷共済と生産共済というふうになっておりまして、死廃病傷共済のほうは、ここにありますように、牛、種豚、馬というのが右のほうに(注)をいたしてありますが、そういう年令以上のものが保険にかけられる、共済事故は死亡、廃用、病傷、こういうふうに分かれております。生産共済は胎児と幼児の共済であるということでございまして、牛、馬、事故としましては、死亡、廃用ということになっておるわけであります。
それから三ページへまいりまして、ここには加入頭数の推移を書いてございます。乳用牛、肉用牛、馬いずれも三十五年から三十九年の変化を示しております。乳用牛のほうは、三十九年でごらんいただきますとわかりますように、飼養頭数が百二十八万頭、一定の年令制限がございますから、資格のありますものが約百三万頭、加入しておりますのが五十万強、こういう
関係でございまして、加入率は約五〇%弱というかっこうであります。
それから肉用牛につきましても同様なことが書いてございまして、加入率については六五%、それから馬の加入率が七一%ということで、馬、肉用牛に比べまして、乳用牛の加入率がやや劣っておるというのが特徴でございます。
四ページは、共済金額と共済価額が書いてございます。一頭当たりで——まん中辺にありますからごらんいただきたいと思いますが、乳用牛のほうは一頭当たりの共済価額、つまり家畜の値段、価値といいますか、価額が約十一万円、共済に入っておりますのが四万七千円ということで、付保率と一般に言っておりますが、付保率が約四〇%という
状況であります。肉用牛が同じような指数でまいりますと四七%、馬が四三%、いずれも三十九年度はそういう
状況でございます。
それから五ページは、共済掛け金の
状況でございますが、これも一頭当たりで見ていただきますと、乳用牛の三十八、九年度は三行目にございますが、一頭当たり四千四百円というのが一年当たり一頭の掛け金であります。そのうち農家が負担をいたしておりますが三千四百八十円程度、従来の
方式によって国庫が負担をしておりますのが九百五十九円ということで、国庫負担の割合が約二一%ということでございます。肉用牛につきましては、同様の
数字が一八%、馬につきましては一六%、こういった
状況でございます。乳用牛の掛け金が他の畜種に比べて高いというのがこの表に出た
傾向でございます。
それから六ページへまいりまして、支払い共済、これは事故を起こした場合に、平均的に一頭当たりどの程度の保険金をもらっておるかという表でございますが、乳用牛につきましては、三十九年度を見ていただきますと、死亡、廃用の場合に約四万円、肉用牛は二万七千円、それから馬は三万一千円ということでございます。
それから(2)としておりますのは、病気になりました際の診療費が一頭当たりどの程度かかっておるかという表でありますが、三十九年度乳用牛が千七百円程度、肉用牛が一千円、それから馬は千四百円程度、そういうことであります。
それから七ページへまいりますと、金額危険率ということで、保険にかけております金額と実際に支払いを受けました共済金との比率というふうに御理解をいただけばいいと思いますが、三十九年度といいますか、乳用牛のほうは三%から四%程度、それから肉用牛のほうは一%足らずから一%程度ということで比較的安定いたしております。馬は三%前後ということでございます。
それから病傷のほうは下欄にございますが、乳用牛のほうがやはり四、五%、肉用牛が一%、馬が二ないし三%程度ということで、乳用牛の危険率が他の畜種に比べて高いということでございます。
それから八ページは、中家畜の実績でございますが、ヤギ、綿羊、種豚といのが一番上にありまして、
先ほど御説明いたしましたようなことで、加入頭数がきわめて少ない、ヤギが三百頭、綿羊が千二百頭というようなことでございます。それから事故の
状況は飛ばしまして、(3)の生産共済のほうをごらんいただきますと、乳用牛がそれぞれ三十四頭、肉用牛が二百三十頭、馬が七百四十頭というようなことで、これもきわめて、利用の
状況は頭数が少ないということでございます。
それから九ページへまいりまして、家畜共済の収支の
状況が書いてございます。連合会の収支でありまして、左のほうは黒字の額と連合会の数、右のほうは赤字の額と連合会の数というふうに分類をいたしております。
傾向といたしましては、黒字を生じております金額あるいは連合会の数は、最近五年間の間に漸減しておる。それから逆に、不足金の額と不足金を生じておる連合会の数がふえてきておるというのがこの表にあらわれている
傾向かと思います。
それから一〇ページへまいりますと、家畜診療所の
状況を一覧表にしてございます。上のほうは家畜診療所の数でありまして、いろいろの経営主体によりまして営まれておりますけれども、総計としては、
全国で約千四百ほど、家畜診療所がございます。そこで働いております獣医師の数は、約二千人ということでございます。最近の
傾向としては、診療所の数及び獣医師の数、いずれも漸減
傾向であるのが右のほうにあらわれております。それから、下は家畜診療所の収支の
状況でございますが、
全国一千カ所ばかり調べました表でありまして、一診療所当たり、ここにありますような収支の
状況、それから支出の
状況でありまして、赤字を示しておるというのがこの表であります。
それから一一ページ以降は、共済事故の種類別の、どういう事故が多いかということを表にしてあらわしておりますが、死亡廃用事故で、乳用牛においては、泌尿生殖器病が一番多い。次いで消化器病という
状況であります。馬は、消化器病が一番多くて、あと外傷不慮といったのが次いでおります。それから役肉用牛は、消化器病が一番多く、次いで外傷不慮、馬と同様の
傾向でございます。これが死廃事故の
傾向であります。
それから一二ページは、病傷事故でありまして、これも大体、死廃事故と同じようなことでありますが、乳用牛においては、泌尿生殖器病、それから消化器病。それから馬及び役肉用牛は、消化器病が第一で、それぞれ表にのっておるような順位で、病傷事故が発生しておるという
状況でございます。
簡単でございますが……。
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