○八木一男君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
趣旨説明のございました
国民年金法の一部を
改正する
法律案について、
内閣総理大臣、厚生大臣、大蔵大臣に対して質問を行なうものでございます。(
拍手)
国民年金
制度の重要性及びその大幅急速な改善の必要性については、すでに自明のことでございまするので、それに詳しく触れることは省略いたしまして、直ちに
本案に対するわが党の批判的意見を明らかにしつつ、具体的な質問に入ることにいたします。
ただいまの
趣旨説明にありましたように、
夫婦一万円年金の名で
政府が宣伝をしておられる拠出制の改善は、
現行法に比べれば相当
程度の改善であり、最近の
生活水準の向上に見合って、妥当な改善をしようとするもののように一応見えるのではございまするが、よく検討いたしてみますと、そのもとにある重大な欠陥をおおい隠しているわけであります。
昭和三十四年提案されました
政府提案の
国民年金法案自体が、同時に提案された
日本社会党の
国民年金法案の、十分にして、社会保障の理念に徹したものとはたいへん違っておりました。
内容の貧弱な、かつ、その組み立てにおいても、曲がった
部分の多いものでございました。その後数回の
改正はございましたが、何ら本格的な改善をしていない
現行法を、五年目の大改定期にあたって改定する際、その後の
生活水準の向上に見合って改善するだけでは、最初のスタートの悪さが長期間解消されないおそれが濃厚になるわけでありまして、
国民年金
制度の将来まさに憂うべきものがございます。
政府は、昨年の厚生年金保険法
改正の際の、年
金額増大率約二・五倍に合わせれば、それで相当の努力をしたよう考えておられるようでございますが、今度の
改正年
金額で、厚生年金のほぼ半額、しかも、給付開始
年齢に五年の差があることを考えに入れて検討されたのかどうか、疑わざるを得ないのでございます。ことに、当然
引き上げられるべき国庫
負担率の増率はこれを見送り、したがって、苛酷な
保険料値上げの
計画が近い将来さらに加重される危険を包含していることなど、まことに本
制度の発展と円滑な運用を忘れ去った
内容であり、また、社会保障の精神に従った組み立ての改革にはほとんど見るべきものもなく、さらにスライド制、積み立て金運用について、何らの前進の提案がなされていないことなど、拠出制年金に対する真剣な取り組みを故意に怠っていると断言しても決して過言ではないと信じます。(
拍手)
さらに、福祉年金の改定に至っては、衆参両院社会労働委員会の連続の
附帯決議、社会保障
制度審議会の
答申等で、特に、直ちに実現すべき旨を明確に示された条項の実現を怠り、
物価の続騰にやっとあとから追いつく
程度の
内容の改定しか考えておらず、しかも、福祉年
金額改定は明年一月、その支給は明年五月であり、すなわち、本
年度予算では全然関係がないということでは、全くあきれ果ててものも言えない
内容でありまして、
政府の猛省を促さなければならないと存じます。(
拍手)
以上の
観点に立って、逐次具体的な質問をいたしてまいりまするので、総理はじめ各大臣より、ごまかしでない明確な御答弁を求めるものでございます。
まず最初に、拠出年金につき御質問申し上げます。
第一に、年
金額並びに開始
年齢に関してでございます。
二十五年払い込み済みの人の六十五歳からの年
金額が、月額五千円にしかならないわけでございまするが、このような
金額で一体十分な老齢保障と言えるとお考えでありましょうか。本
年度の
生活保護基準が、一級地、標準四人世帯の一人平均をとりますと五千百三十二円でございます。健康で文化的な最低限度の水準をはるかに下回っていることが明らかな現在の保護基準と同じ
金額である。このような少ない年金が、二十五年間の
保険料払い込みの後、五年待たされて六十五歳から支給されるというのでは、全く
所得保障の名に値しないものでございます。何ゆえにこの重大な改定期にこのような低い
金額を設定されたか。なぜ、
金額においても、年金支給開始
年齢においても、厚生年金と合わせることを考えられなかったのか。近い将来に、この年
金額、開始
年齢の両方を、どんなに控え目に考えても、そのいずれか一方を合わせることをしなければ、
所得保障の前進あるいは
国民平等の方向に相反することになると思われまするが、総理大臣並びに厚生大臣の御答弁を求めます。
第二に、国庫
負担率の問題であります。
厚生省の
原案が、
保険料と同額、すなわち、給付に対して二分の一であったことは明らかでございます。
国民年金の給付
内容の大幅改善の緊要性と、
国民年金被保険者の
保険料負担能力を考えるとき、国庫
負担率増率は絶対に必要なことであり、社会保障
制度審議会、
国民年金審議会の両
答申もこのことを強調いたしており、さらに、昨年厚生年金の国庫
負担率増率のあったことをあわせ考えれば、何ゆえにこの増率を取りやめたか、まことに理解に苦しむものであり、心から憤激にたえないところであります。少なくとも明
年度より
保険料と同額の国庫
負担を実施すべきものと思いますが、総理大臣、厚生大臣、大蔵大臣、各大臣の前向きの御答弁を要求いたします。
特に、この際、前もって申し上げておきますが、厚生年金の国庫
負担が二割、
国民年金のそれが三分の一だから、このままでよいのだというようなおざなりの答弁はなさっていただきたくはないのであります。厚生年金と
国民年金
改正案との比較では、両
制度の給付する年金実額に対する国庫
負担額の割合は、年
金額、開始
年齢を換算して比較いたしますと、表面的な率の多寡とは逆に、
国民年金のほうが少なく、厚生年金の二分の一ということに相なることを念頭に入れられて、前向きの御答弁をいただきたく存じます。
第三点は、
保険料に関してであります。
本案は、
昭和四十二年一月から
現行の月百円、百五十円をおのおの百円ずつ
引き上げ、四十三年からさらに五十円ずつ
引き上げることに相なっております。最初の
引き上げ率でも、昨年行なわれた厚生年金
保険料引き上げ率五割七分増よりも高い七割六分増になり、二度目の
引き上げを加えると、実に十一割四分増に相なるわけであります。私は、厚生年金の
引き上げ率ももっと
軽減すべきものと考えるわけでございますが、使用主
負担のない
国民年金の
保険料がこのような率で
引き上げられることは、
物価高や
不況の影響を受け、
生活にあえいでいる被保険者の多い本
制度において、まことに過酷きわまるものであると信じます。国庫
負担率の大幅増率を行ない、さらに修正賦課方式をいま少し取り入れて、
保険料の値上げを取りやめるべきであると考えるものであります。被保険者の
保険料の
負担の困難性を直視し、将来の分をも含めて値上げを取りやめ、あるいは値上げ幅縮小に努力されることが緊要だと思いますが、厚生大臣の明確な御答弁を求めます。
第四点は、本
制度の仕組み、組み立てに関してであります。
衆参両院社労委の決議は、社会保障の精神に従った
内容の改革を指示いたしておりますが、今回、ごくわずかな障害関係以外何らこの種改善に手をつけていないことは、全く怠慢きわまるものでございます。今回の
改正案において
免除を受けた者の年
金額は、
保険料納入者の三分の一にいたしておりますることは従前のとおりでございます。元来、
保険料を払いにくい貧困な人たちが老齢あるいは障害の状態になった場合、またはその人の遺族が年金を必要とする度合いは、
保険料を払い得る人たちよりもはるかに多いのであります。
所得保障が必要な度合いの多い人に多い年金が支給される、これが社会保障の本義であります。
保険料を払いにくい人の年金が、他の人の三分の一ということでは、全くの保険主義であり、社会保障の精神をじゅうりんしたものといわなくてはならないのでございまして、
免除者の年
金額を少なくとも納入者と同額にすることが、至急に実現されなくてはならないと信じます。衆院社労委の決議もこの問題の解決を指示いたしているわけでございまするのに、何ゆえこの方向の
改正をしなかったか、次の問題とあわせて答弁を求めます。
次に、拠出年金
制度の障害年金の受給者の中に、二十歳以前に障害者になった者をなぜ含めないのか。今回の改定案では、一級障害者の最低保障額が年間七万二千円、月額六千円に相なっておりますが、障害福祉年金では月二千二百円、しかも
所得制限がつく
内容であります。二十一歳以後に障害を受けた者は、比較的高い年金を無条件で受け、二十歳以前に障害を受けた者は、その四割以下の年
金額の支給を受けるのに
所得制限があるような
制度の欠陥を、このまま放置してよいものかどうか。二十歳以前は被保険者ではなく、したがって、その時点の障害は保険事故ではないというような、非常に狭い考えの保険学者の俗説に惑わされて、この
制度が強制加入であり、いわゆる逆選択の危険がないことを忘れ果て、社会保障の本義にもとるやり方をしてきたことに対して、なぜ反省をして是正の措置をとられなかったか、お伺いいたしたいと思います。
以上の二点につき、総理大臣から大筋の考え方、厚生大臣から具体的なお答えを求める次第でございます。社会保障の精神にのっとった前向きの努力の方向を明らかにされることを要望いたしておきます。
第五に、スライドについてであります。
昨年の厚生年金保険法
改正の際に、早急に各年金
制度のスライド制の具体的
方法について確立する確約がなされたわけでございまするが、なぜ今回本法案
提出時に間に合わせようという積極的な
態度をとられなかったか、その後の準備はどのように進行しているか、厚生大臣に伺いたいと存じます。
第六に、積み立て金の運用に関してであります。
すでに二千億をこえようとする
国民年金の積み立て金の問題は、厚生年金と同様、重大な問題であります。元来、積み立て金は被保険者並びに遺族に年金を支給するために積み立てられた金であり、被保険者のものといってもあえて間違いのない性質の金であります。したがって、その全額について被保険者が権利を持つべきものであり、新納入
保険料の四分の一だけしか還元融資に回されていないことは、まことに言語道断でございます。還元融資の率を大幅に
引き上げること、管理運用の権利を被保険者代表が過半数を占める機関に移すべきものと思いますが、総理、厚生、大蔵各大臣の深い反省の上での御答弁を要求いたします。
次に、福祉年金に関して御質問申し上げます。
まず第一に、なぜもっと大幅な年
金額の
引き上げを行なわないか。
政府の著しく熱意を欠いた
改正案に対して、私は、
国民の立場に立って全く憤激にたえないのであります。現在の老人、障害者、母子家庭に十分なる対処をすることなくして、何の
国民年金
制度かといわなくてはならないと存じます。(
拍手)
現在の老人は、今日のこの社会の基礎を労々として築いてくれた先輩であります。あの苦しかった戦中戦後の時代を、社会の責任あるにない手としてわれわれを支えてくれた人たちであります。しかも過去の蓄積を悪性インフレのため失ってしまっております。家族
制度の実質的な変革によって、心細い思いをしておる人たちでございます。将来の年金
計画も大切ではございますが、それ以上に、現在の福祉年金の飛躍的充実こそ、
所得保障の精神より見て最も緊要なものであることは明らかでございます。
しかるに、老齢福祉年金は月一千円のスズメの涙ほどの
金額をもって発足以来、何らの本格的増額がなされておりません。月一千百円、月一千三百円と二回の改定があり、今回月千五百円に改定しようとするものでございますが、これは、その間の
物価の値上がりにおくればせに追いついているのみであって、何らの積極的な意味を持つものではないのであります。
政府は、何ゆえに月少なくとも五千円なり四千円なりに増額をして、いま少しでも社会的な親孝行をしようとしないのか。拠出年金を二倍半にしたならば、
政府の通常のやり方でも
現行月一千三百円の二倍半、すなわち、月三千二百五十円に
引き上げることが自然であります。どんなに少なくとも、発足当時の月一千円の二倍半、すなわち、月二千五百円まで
引き上げをしなければ、発足当時から過酷であった拠出年
金額に対する福祉年
金額の比率すら守られないことになり、その名に値しない貧弱な現時点の親孝行が、その度合いをさらに低くすることに相なるわけであります。なぜこのような貧弱きわまる改定案しか出されなかったか、明年にでも各福祉年
金額の大幅
改正の意思を持っておられるのかどうか、総理、厚生、大蔵三大臣より明確な答弁を要求いたします。
次に、老齢福祉年金支給開始
年齢についてであります。
厚生年金の開始
年齢が六十歳であり、拠出制
国民年令の開始
年齢が六十五歳であるときに、老齢福祉年金が七十歳であるということは、いかにしても不合理なことであり、解決しなければならない問題であります。しかも、現在の六十歳代の人たちは、戦中戦後の苦難時に遭遇し、将来の六十歳代の人たちよりも、お気の毒なことにはるかに老齢化の度合いが激しいのであります。これらの点から見て、私たちは当然六十歳支給開始が妥当と考えているわけでございますが、現
内閣においても、せめて六十五歳開始にこの際踏み切らなければ、為政者としての責任を果たしたことにならないと信じます。ことに、年金
制度の不可欠的な欠点である、比較的楽な暮らしをして長生きをした者が比較的長い期間給付を受け、苦しい
生活をして前者より短命な者がその給付の恩恵に浴さないということを少しでも
緩和するためにも、老齢福祉年金の開始
年齢引き下げは絶対必要であり、衆参社労委の
附帯決議、社会保障
制度審議会の
答申の
趣旨もそこにあるわけであります。
政府は何ゆえにこの問題を取り上げられなかったか、せめて一年ごとに一歳ずつでも、開始
年齢を段階的に引き下げることくらいでも考えることができなかったか、総理及び厚生大臣の答弁を要求いたします。
次に、
配偶者所得制限の撤廃の問題であります。
世にもまれなるこの奇怪な
所得制限を、この際どうして撤廃しなかったのか。この
改正案によれば、両親に孝養を尽くすむすこに六十六万の収入があったときに、その七十歳以上の両親の老齢福祉年金が支給されるのに、むすこや嫁を失い、残された孫を七十歳以上の老
夫婦が養わなければならないために、おじいさんが老骨にむち打って四十一万円の収入があった場合には、おじいさんはもちろん、おばあさんにまで年金が支給されないことになっているわけであります。この
配偶者所得制限という、無意味にして過酷な
所得制限の矛盾を、
内閣総理大臣は一体どうお考えになるか、お伺いいたしたいと思います。(
拍手)
配偶者所得制限の撤廃が衆参社労委で決議され、社会保障
制度審議会で
答申されたのに従って、そのことの実現のために要求されたわずか四十一
年度一億五千万円、平
年度二億円の予算要求が予算在庫で削られ、わずかに障害福祉年金の配偶君
所得制限撤廃三千万円が認められたのみであります。その事情を
内閣総理大臣は知っておられたのかどうか、もし知っておられなかったなら、大蔵省の査定がいかにこの種のものにきびしいか、厚生省がいかに弱腰であるかについて再認識されて、これを即時是正さるべきものと思いますが、総理大臣の所見を伺いたいと思います。
なお、同様の
経過を持つ
夫婦受給制限の全面撤廃を提案しなかったことにつき、厚生大臣の深い反省の上の答弁を求めます。
時間の関係上、以上で質問を終わるわけでございますが、お聞き及びのとおり、私は、
国民年金
制度、社会保障
制度の改善、確立を要望する
国民の立場から、建設的に具体的な問題を提起する気持ちをもって御質問申し上げたわけでございまするので、
内閣総理大臣はじめ厚生大臣、大蔵大臣も、
政府原案を防衛するという狭い立場から離れて、
国民の立場から社会保障前進という
観点に立って答弁していただくことを期待申し上げる次第でございます。もし不幸にして、不誠意、かつ一方的な御答弁があった際は、今後徹底的に追及する決心を明らかにいたしまして、御質問を終わる次第でございます。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕