○上村
委員 私は、この
刑法の一部
改正につきまして、多くの
質問者もございましょうし、すでに過去において何回もこの法案について
質問がされておりますし、私自身も過去において詳細に
質問をいたした
関係もございますので、きょうは一、二点だけ問題点をしぼりましてお尋ねをしておきたいと思います。
実は、昭和四十一年六月九日の朝日の「天声人語」を拝見いたしますと、この
刑法の一部
改正につきまして、従来の業務上
過失致死傷罪の法定刑が「三年以下ノ
禁錮又ハ千円以下ノ罰金」となっている。これを「五年以下ノ
懲役若
クハ禁錮又ハ千円以下ノ罰金」に改めようとする今回の法
改正については実は大いに賛意を表する。またこれが国民の
一般の世論であろうというような趣旨の点が述べられております。もちろんこれは法案自身につきまして
専門的な
検討を加えてという欄でもございません。ですから、単に国民感情といたしまして意見の一面を表示されておる。私はこの点は確かにあろうかと思うのでございます。
それで、この法
改正につきまして、まず第一に「五年以下ノ
懲役若
クハ禁錮又ハ千円以下ノ罰金」
——現行
刑法ができたときは、明治四十一年、東京に
自動車が十六台しかなかった当時のできごとであります。現在は
交通事故の
死傷者が年間何十万というふうにできておる実情から
考えてみる場合に、
相当検討をする必要がある、こういうようなことは私は穏当な、正常な国民感情であろうと思うのでございます。ただ「五年以下ノ
懲役又ハ
禁錮若クハ千円以下ノ罰金」というような範囲が、バランスの上において、法の構成の意味において、妥当であるかどうかというようなことに相なろうか、こう思います。私自身の
考えからいたしますれば、
道路交通法の百十五条とかいうような点を
考えましても、すでに
道交法におきまして、人身
事故というわけではございませんけれども「五年以下の
懲役又は十万円以下の罰金」というような刑の規定が出ております。また諸外国の立法例を見ましても、業務上
過失致死というような場合におきましてのかかる関連の事項から
考えましても、上限を
懲役五年というふうにいたすことは、現在の点からいたしまして妥当であろうというような感じを持っておるものでございまするが、現行
刑法におきましてのたてまえから言いますれば、
過失犯というものにつきましては、法定刑におきまして非常に軽く扱っております。要するに、
過失である以上は、その
責任追及について厳重な処罰を施したからといってその目的を達するわけじゃなかろう、
過失事犯でございます。こういうような観念が現行
刑法に流れておることは明白でございます。たとえば、失火の事件にしましても、
刑法百十六条は「千円以下ノ罰金」になっておりますし、百十七条ノ二の業務上の
過失、あるいは重
過失の場合におきましても「三年以下ノ
禁錮又ハ三千円以下ノ罰金」ということになっておる。
過失傷害の人身に対する被害というような点からの規定としまして、二百九条によりますれば「五百円以下ノ罰金又ハ科料」ということになっておる。また、この点は、第二項において親告罪というふうになっておる。それから二百十条の
過失致死の場合においては、「千円以下ノ罰金」というような流れを来たしておる。ですから、日本の
刑法の体系から言いますれば、
過失の者につきましては、それについて刑を要するに厳罰主義で処したからといって、真の法の目的を達するというわけでないというような
考え方が流れておることは確かでございます。そのつり合いというような問題であります。今回
刑法の二百十一条の業務上
過失致死傷の点について「三年以下ノ
禁錮又ハ千円以下ノ罰金」というものを「五年以下ノ
懲役若
クハ禁錮又ハ千円以下ノ罰金」という点に改めて、他の
過失犯の規定について手を触れていかないという点については、何か
刑法全体に対しての均衡感といいますか、アンバランスの感じが起きておる。もちろん
刑法の
改正の準備草案によりますれば、先ほど局長が御答弁になりましたように、今回の
改正に沿うような点が述べられております。でございますが、一体全
刑法の体系というものにつきまして今後どういうふうに
改正をされていこうとするのか、もちろん交通事犯というようなものを、現在の緊急性によりまして二百十一条について当面
改正をされるという御意思はよくわかります。また、それをたびたびお述べになっておるけれども、
刑法は全体の基本的な法律であります。要するに、もとになる法律である。その中をいじくる際におきましては、全体のバランスということも
考えなければいけない、こういう点について、どういうお
考え、見通しを持っておられるか、こういう点についてお尋ねをしておきたいと思います。