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広沢参考人 東京執行役場労働組合の
委員長をつとめております
広沢です。
私は、昨年三月四日に、
訴訟費用臨時措置法等の一部を
改正する
法律案を審査した際に、この
委員会に
出席をいたしまして、
執行吏制度全般に関して
労働組合の
立場を表明して、われわれ
職員の
身分についても概括的に
意見を述べました。このときの
意見については、
昭和四十年の
法務委員会議録第九号に収録されておりますので、御参照願いたいと思います。
今回、
執行官法案の審査にあたりましては、
労働組合の
立場から見ましたこの
法律案に対する若干の
意見と、今後予想されます
執行官制による
実施面でのわれわれ
職員の
身分について述べてみたいと思います。
最初に、総括的な
意見としては、長年懸案となっていました
執行吏制度改革の第一歩として、
執行官法案が提出されたことは当然のことでありますし、むしろおそきに失したといえるのではないかと考えております。
執行官法案提案理由の中で、
制度の
近代化をはかったといわれておりますが、過去、
執行吏制度は確かに非近代的なシステムのもとに置かれてまいりました。たとえば、きのう視察されましてごらんになったように、庁舎の問題を取り上げてみましても、
東京の場合、これが霞ヶ関の
官庁街の中にある建物かと思われますような
バラック建てでありますし、
執行吏役場という呼び方にしましても、非常に古い呼び方であるし、
執行吏制度全般についても根本的な
改革が必要とされてきたということはいうまでもありません。そういった状況の中で
執達吏規則を
廃止して、
執行官法の
成立によって
執行官制度を発足させる、この意義は非常に大きいものといえると思います。
以下、
執行官法案に対する具体的な
意見を述べてみたいと思います。
従来の
執行吏規則第十一条に定められました
執行吏代理の
条項が、今回の
執行官法では触れられておりません。その
附則十一条の中で、「
臨時の
職務の代行についての
暫定措置」として
規定されているだけであります。このことは、
執行吏代理制度を否定して、今後
執行吏代理をなくしていく
方向であろうかと思われますが、
執行官法案説明の中で、
執行吏代理制度の
弊害が指摘されておりますが、どういう
意味なのか、その
意味が明らかでない面がありますが、
弊害があったということになれば、
執行吏代理制度に
弊害があったのではなくて、むしろ
執行吏制度そのものに存在していたのではないかというぐあいにわれわれは考えております。
執行吏代理は、むしろ
執行吏役場運営の面で重要な
役割りを果してまいりましたし、老齢化したところの
執行吏を一面ではささえてきたといっても過言ではないと考えております。
執行吏代理の
制度を設けないという
考え方は、
執行官の
公務員性強化の
方向から推してみますと当然だという
結論が出るかもしれません。しかしながら、
交通違反等の
送達事務が激増している現状において、
送達面での
執行吏代理をどう取り扱うのか、
人員が減ったとしても、
代理の
増員ができないということになれば、
送達事務の
渋滞化をきたして、重大なる
影響を招くことになるのじゃないだろうか。まだ、
執行面での
執行吏代理にしましても、
執行吏自体の若返りと大幅な
執行官の
増員を早急に行なわない限り、この面でも大きな
支障を来たすと思われます。
いずれにいたしましても、
執行吏代理制度の
廃止については、
現行その仕事に従事している
全国約二百名の
代理の処遇問題への対策、これらを明らかにして、また、
執行官をその同人数程度
増員する、こういう
方向を打ち出さない限り効果があげられないのではないかと判断しております。
また、
執行吏制度廃止の
方向は、
現行執行吏役場で働く
職員の将来に対する
職務上の
昇進意欲等を大いにそいで、生まれてくる
執行官制度の
運用上も大いに議論のあるところではないか、こういうぐあいに考えておりますので、この
執行吏代理制度の
個所につきましては、十分なる
検討が必要かと考えております。
次に、
執行官法第六条にあります
金銭保管等に関する
条項についてでありますが、これは
附則で
暫定措置が設けられております。しかしながら、
東京の場合、
執行吏が二十数名、
職員が
代理を含めて八十五名もいる大世帯の
執行吏役場においては、かなり問題がある
個所ではないか、こういうぐあいに考えております。七
東京の場合、毎日受理する新しい
事件数が六十件から七十件あります。
予納金及び競売その他による
保管金の払い戻しの件数は一日に五十件から六十件にも及んでおります。この
金銭処理がすべて所属
裁判所で行なわれるということになると、事件当事者の繁雑化はもちろん、われわれ
職員のオーバーワークも生まれてきますし、また、
事務処理全般についても大きな停滞をきたすのではないだろうかと推察しておる次第であります。過去、
執行吏または
執行吏代理が
金銭上の不正事件を起こしたことがありましたが、この点は、今後とも最高裁等の監督、管理を強化するということによって十分に防ぎ得るのではなかろうかと考えております。
手数料制度が維持される限り、特に
東京のように、事件が多くて、しかもその処理が比較的
近代化されている役場においては、
金銭保管の問題は十二分に一考されるべき問題の性質を持っていると思います。
このほか、法文上での
意見としましては、
附則第十一条二項の
執行官の代行者に対する報酬が、旧
執達吏規則の第十七条一項における
手数料十分の三以上を支給すべしという
条項を、今回の
執行官法の中にも生かしておりますが、これは全く旧態依然とした条文を受け継いだものと言えるんではないかと思います。従来からこの十分の三の報酬は一体何なのか、非常にあいまいである
条項として、われわれの間で論議されたところのものなのでありますが、どういう根拠で十分の三の
考え方が出てきたものなのか、さらに
近代化を目ざす
執行官法において、なぜこういう
意味のない
規定を存続させたのか、その理解にわれわれは非常に苦しむものであります。
そのほか、将来の問題としましては競売
制度の
改善の問題もあります。あるいは
執行官制度実施に伴う十分なる国家の予算
措置の問題なりが
検討される必要があるんではないか、こう思っております。また、今回の
執行官法がその
制度と
実施面での
近代化を目ざし、なおかつ一般職公務員への移行を考えたところの第一歩、そのステップであるとすれば、今後
執行官の新規採用者に対する収入面での問題等につきましても、抜本的に対策が講ぜられない限り、
執行官制度の
改革は、竜頭蛇尾に終わるのではないかという危惧を、この際に表明しておきたい、こう思います。
さて次に、
執行官法実施の面で、われわれの将来の問題について触れていきたいと思います。
現在、われわれの
東京執行吏役場
労働組合には、
送達面での
執行吏代理を含めて七十四名の組合員がいます。非組合員は、
執行吏代理を含めて十一名、合計八十五名の
職員が
東京の役場では働いております。この
職員と
執行吏とは労使関係にあり、合同役場と
労働組合とは現在労働協約を締結しております。この
職員の中で
執行吏代理者は三十五名いまして、この
代理者に対する条文あるいは
規則あるいは今後の
身分規定については、今回の法
改正の中でも触れられておりますが、残る五十名の
職員、
全国ではそれ以上の数の
職員がいるわけですが、その
職員については、従来ももちろん、今回の
執行官制度実施の中においても全く言及されておりません。この点については将来の問題を含めて八十五名の
職員及び
代理者が、大きな危惧と不安とを抱いているということをこの機会に強調いたしておきたいと思います。
いままでは合同役場というものがあって、そこに
執行吏という使用者が集まり、その使用者の中から幹事長が選出され、その団体にわれわれ
職員は雇用され、働いてきた、こういう雇用関係がありました。ところが、今度は役場という観念も名称もなくなる。そこでたとえば
執行官部というようなものがある、それだけである。その新しい
制度における雇用関係は一体どうなるのか、こういう疑問も一般組合員の中から率直に出されております。まあ私たちは、もちろんその点は従来と変わらないというぐあいに説明しておりますが、今後
執行官が特別職の国家公務員から一般職の国家公務員に移っていく可能性があります。一般職の公務員たる
執行官が事業主にはなれないだろう、とすればわれわれ
職員自体の公務員化ということに一体なるのかどうか、そういう疑問にも今後答えていただく必要があるんではないかというぐあいにわれわれは考えております。当分の間はもちろん、よほど
執行官の
制度が大きく変わらない限り、将来とも繁雑な
執行事務を
執行官だけでは処理していけない、絶対に処理し得ないということは、もう明らかであります。先ほど述べました
執行吏代理の今後の処遇の問題にいたしましても、関連があることだと思います。
東京の場合、
執行面での
執行吏代理は別といたしましても、
送達面での
執行吏代理とそうでない一般
職員との間には、何ら異なった年齢なりあるいは勤続年数なり、成績なりという問題は介在しておりません。入所した
職員のある人は
送達事務を取り扱う
代理になる、ある人は一般
職員になっていく、いわゆる新旧年齢の区別なく分かれているだけで、全く同等の
職員でありますし、
執行吏代理だけを切り離しまして何らかの特別の
措置を講ずる、こういうことでは問題の解決にならない、こういうぐあいに考えております。
〔
大竹委員長代理退席、
委員長着席〕
したがって、全
職員をどのように処遇するかという今後の問題につきましては、もちろん職を失うことのないような
方向で十分なる対策を講ぜられるよう強くこの機会に要望する次第であります。
さらに強調したい点として、今後
執行官への採用を大いにわれわれ
職員の中から行なっていただきたいということであります。明治二十三年に
執行吏制度が発足して以来今日まで、何ら
身分的に保障のない
職員が何百、何千、あるいはそれ以上の数がこの強制
執行事務に携わって働いてまいりました。言いかえれば、国家で定めた事業に奉仕してきたということが言えるとも思います。しかもある時期には非常に劣悪な労働
条件のもとで働きました。健康保険や失業保険
制度あるいは
退職金
制度がない、こういう状況のもとに置かれた
職員がたくさんおりました。そういう中でやめていった
職員も数限りありません。
労働組合が
昭和二十九年に
結成されまして、初めて人間らしい労働
条件をかちとりました。しかしながら現在決して高いとは言えない賃金でありますし、その庁舎にいたしましても、あるいは環境にいたしましても、あるいは年金等による将来の保障にいたしましても、非常に不満足な状態に置かれているのではないかと思っております。現在
東京の八十五名の
職員中、勤続十年以上の者が六十三名に達しております。そのほとんどが強制
執行事務に精通し、現在の
執行吏制度をささえている、こういう言い方をしても決して過大な表現ではないのではないかと考えます。直接現場に出て差し押えや仮処分等を行なわないだけの話で、その後の事件の進行や、あるいは毎日毎日の事件の処理から事件の終結に至るまで、そのほとんどがわれわれ
職員の手によって行なわれておる、処理をされておる、こういう事実をひとつ銘記していただきたいと思います。
執行吏と全く同一の仕事を行なっている
執行吏代理、
送達事務を処理している送達
代理をさらに加えれば、われわれ
職員の
責任とその貢献度は実に大なるものがあるのではないかと言えると思います。こういう
職員を将来
執行官に登用する門戸を開いて、最も
執行事務に精通してすべての事情をわきまえた
執行吏役場の
職員を、
執行官に採用してこそ初めて
執行官制度の意義が生まれてくるのではないかということをわれわれは確信してやみません。今後
執行官採用の場合、書記官の横すべりだけではなく、どんどんわれわれ
職員の中から採用するよう重ねて要望する次第です。
以上、
執行官法に対する
意見と、
執行官制度実施にあたっての
意見を述べてまいりましたが、今後、最高裁
規則等の作成なり、あるいは六カ月以内に
実施していく面での
運営の問題等、またはその後二年なり三年にわたる新
制度実施の面で、われわれ
労働組合及び
職員の
意見を十二分に反映され、
執行官制度がより
前進をするようわれわれの
意見を基礎にしていただきまして、ひとつ十二分に今後とも
意見を反映されるよう特に要請いたしまして、組合代表の
意見を終わります。