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1966-05-06 第51回国会 衆議院 法務委員会 第33号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十一年五月六日(金曜日)    午前十時五十一分開議  出席委員    委員長 大久保武雄君    理事 上村千一郎君 理事 大竹 太郎君    理事 小島 徹三君 理事 濱田 幸雄君    理事 坂本 泰良君 理事 細迫 兼光君       鍛冶 良作君    唐澤 俊樹君       佐伯 宗義君    四宮 久吉君       田中伊三次君    千葉 三郎君       濱野 清吾君    神近 市子君       山口シヅエ君    横山 利秋君       志賀 義雄君    田中織之進君  出席国務大臣         法 務 大 臣 石井光次郎君  出席政府委員         検     事         (民事局長)  新谷 正夫君  委員外出席者         文部事務官         (調査局宗務課         長)      萬波  教君         判     事         (最高裁判所事         務総局民事局         長)      菅野 啓蔵君         専  門  員 高橋 勝好君     ————————————— 五月六日  委員森下元晴君辞任につき、その補欠として鍛  冶良作君が議長指名委員に選任された。 同日  委員鍛冶良作辞任につき、その補欠として森  下元晴君が議長指名委員に選任された。     ————————————— 五月二日  借地法等の一部を改正する法律案に関する請願  (田中伊三次君紹介)(第三六四五号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  借地法等の一部を改正する法律案内閣提出第  一三五号)      ————◇—————
  2. 大久保武雄

    ○大久保委員長 これより会議を開きます。  借地法等の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。坂本泰良君。
  3. 坂本泰良

    坂本委員 以前に自民党の委員の優秀な質問があって、あるいは重複にわたる点があるかもわかりませんが、その点は注意して、お願いしたいと思います。  私はまず第一に、本法案について重大な問題が二つあるのじゃないかと思います。その第一は、いわゆる国民権利義務の争訟について、裁判事件取り扱いと、それから主として民事行政をもって取り扱う点と二つあると思いますが、大きく分けて民事訴訟法を適用するいわゆる訴訟事件と、非訟事件を取り扱う事件二つに分かれておるわけです。本法律案は、従来訴訟事件として取り扱った事件を非訟事件として取り扱う、こういう点が一つと、それから従来いろいろ意見がありまして、特に終戦後の日本におきましては債権、ことに賃借権はやはり物権として、地上権永小作権地役権、こういうのと同一に取り扱うべきである、そうしなければいわゆる居住権に対する権利の保護が不十分である、こういういわゆる債権物権化と申しますか、賃借権物権化する、この二つの大きい問題があると思います。  私はまず第一に、この訴訟事件調停事件のことについてお伺いしたいと思うのですが、従来のわれわれ国民生活関係国家が介入するということにつきまして、いわゆる民事訴訟事件として取り扱う点は、訴訟事件をどういうふうに法務当局はお考えになって、その法改正法対策について向かわれておるか、また非訟事件国民生活関係、人間の生活関係と申しますか、これについての介入についてどういうような考え方で非訟事件考えられ、そしてその非訟事件取り扱いの分野にはどういうものを取り扱ってきたか、この点についての政府当局の御所見をます承っておきたいと思います。
  4. 新谷正夫

    新谷政府委員 借地法等改正に関連いたしまして、従来の訴訟事件として扱われていたものを、非訟事件として今回扱うようにしたのはどういう理由かという御質問の第一点でございますが……。
  5. 坂本泰良

    坂本委員 ちょっと失礼ですが、私の聞く点は、訴訟事件を非訟事件にやったという究極の目的はそうなりますけれども、法案をつくる法務当局として、訴訟事件についてはどういう考えを持って、どういう方法でやってこられたか、非訟事件についてはどういう考えのもとにおいてどういう方法で取り扱ってこられたか、いわゆるわれわれ国民生活関係に介入する関係においての点で、ます総括的な点を承ってから、部分的のことはそのあとに承っていきたいと思います。
  6. 新谷正夫

    新谷政府委員 ごく一般論としてまず申し上げますが、訴訟事件と非訟事件相違点ということになろうかと思うわけでございます。  御承知のとおり法律上の紛争が生じまして、ある一定法律関係があるかないかということが争いになりました場合に、その法律関係存否訴訟物といたしまして裁判所判断いたしますのが民事訴訟事件でございます。  少しく具体的に申し上げますと、この借地法に関連して申し上げますと、たとえば借り主契約違反したために貸し主がその賃貸借契約解除した。ところが、借り主のほうは解除される理由がないということでこれを争いますと、賃貸借という法律関係貸し主にしてみればすでに消滅しておる、借り主にしてみればまだそれは残っておるということで争いになるわけでございまして、賃貸借関係存否を確定いたしますのが民事訴訟でございます。したがいまして、民事訴訟におきましては、そういう法律関係のあるかないかということを究極的に確定いたしますのがその目的でございます。  これに対しまして非訟事件は、既存法律関係があるかないかということではなくて、その法律関係を合目的的に、あるいは衡平見地から国家個人間の法律関係に介入いたしまして、その法律関係を合理的に変更したり、あるいは新しく形成していくということにあるわけでございます。これが非訟事件といわれておるものでございます。したがいまして、非訟事件といわれますものは、一般民事訴訟の対象になるものとは全然性質を異にするわけでございまして、訴訟において争われますものは、法律関係があるかないかという点でございます。非訟事件におきましては、これと違いまして、一定法律関係を新しく形成するとか、あるいは既存法律関係変更していく、これによって国家が公権的な立場から個人間の法律関係に介入していく、そうして衡平な合目的的な結果をそこに生み出していく、ここに非訟事件のねらいがあるわけでございます。  両者差異はそういう点にあろうかと思うわけでございます。
  7. 坂本泰良

    坂本委員 私はいまの御見解のように簡単に割り切れないと思うのです。学説幾らもありますが、大体三つに大きく分かれておると思うのですが、いま御説明のように、一定法律関係国家が介入して変更する、こういうことになれば、訴訟もやはり民事訴訟手続によって、裁判手続によって、国家が介入して変更するわけですから、違いはないじゃないか、こういうふうにも考えられますが、この点はいかがですか。
  8. 新谷正夫

    新谷政府委員 法律関係形成変更をいたします場合に、確かにお説のように訴訟によってやる場合もございます。しかし、これは実体法上の法律関係形成権個人が与えられております場合に、まずその個人意思表示によりまして形成権を行使いたします。その結果について争いが起きますと、法律関係形成されたか、あるいは変更されたかということにつきましての判断をいたすわけでありまして、やはり非訟事件とはそこに性質上の差異があるわけであります。非訟事件の場合には、裁判所裁判によりまして法律関係形成し、変更する、こういうことになるわけでございます。確かに訴訟事件と非訟事件限界は非常にむずかしい問題でございましょうけれども、大体いま申し上げましたように、既存法律関係存否を確定するのが民事訴訟であり、合目的的に、あるいは公権的な見地に立って、国が法律関係形成変更していく裁判を行なう、これが非訟事件、こういうふうに理解してよろしいのではないかと思います。
  9. 坂本泰良

    坂本委員 そういうような御見解をとりますと、やはり訴訟におけるところの形成訴訟と非訟事件との区別がなくなるのじゃないかと思うのですが、その点、いかがですか。
  10. 新谷正夫

    新谷政府委員 訴訟によりまして形成権を行使した場合に、確かにお説のように民事訴訟事件と非訟事件との限界の問題がございます。これは学説上もいろいろの考え方がございます。したがいまして、そこに明確な限界を画するということが非常にむずかしい場合もございますが、しかし法律上は、訴訟によって争われますものは実体上の形成権というものを与えられておりまして、それを行使することを前提として、民事訴訟が行なわれるわけでございます。非訟事件の場合には、裁判所裁判そのものによりまして法律関係形成変更が行なわれる。したがいまして、これは法律関係当事者裁判所に向かいまして、そういう形成変更裁判を求める、その裁判があって初めて法律関係形成変更される、こういうことになるわけでございます。
  11. 坂本泰良

    坂本委員 しかし非訟事件でも、やはり裁判所がやる場合は、決定とかそういうような形式でやるわけでしょう。そうしますと、やはり判決による場合もあるし、裁判の場合でも決定による場合もあるわけですね、競売等の場合。だから区別がなくなるのじゃないかと思うのですが、そういう点、いかがですか。
  12. 新谷正夫

    新谷政府委員 民事訴訟の場合には、口頭弁論を経まして、判決によって実体上の法律関係存否を確定するのがたてまえでございます。もちろん訴訟手続上、いろいろの裁判につきまして、決定あるいは命令形式によって行なうものもございますけれども、実体上の法律関係存否を究極的に裁判いたします形式は、判決という形式になるわけでございます。非訟事件の場合には、これはむろん判決ではございません。決定裁判が行なわれるわけでございます。
  13. 坂本泰良

    坂本委員 そういたしますと、既判力の問題はどうなりますか。
  14. 新谷正夫

    新谷政府委員 民事判決につきましては、実体上の判決でございますれば、これは既判力が当然生ずることは申すまでもないわけでございます。しかし非訟事件につきましては、非訟事件手続法にも規定はございません。原則として既判力はない、こういうことに理解されておるのでございます。
  15. 坂本泰良

    坂本委員 もうちょっと非訟事件訴訟事件関係について承っておきたいのは、まださっきの続きですが、そういたしますと、非訟事件の場合は、決定あるいは命令であっても既判力は全然ない、そうすると、いわゆる司法手続ではない、こういうことになるわけですか。その点いかがですか。
  16. 新谷正夫

    新谷政府委員 司法的とおっしゃましたか……。
  17. 坂本泰良

    坂本委員 司法というと、一般既判力のある、いわゆる裁判のことを意味するのです。
  18. 新谷正夫

    新谷政府委員 裁判所が行ないます判断でございますので、これは裁判の一種でございます。非訟事件裁判裁判の一種でございますが、民事訴訟における裁判とは違うということでございます。民事訴訟におきましては、実体上の法律関係があるかないかということを、口頭弁論を経まして判決の形で裁判所判断いたします。その判断しましたことが、時の前後によりまして矛盾するようなことがあっては困りますので、既判力というものを認めまして、一度判決が確定いたしますと、それに矛盾することが自後主張できなくなるということになるわけでございます。ところが非訟事件民事訴訟とは違います。先ほど申し上げましたように、将来に向かって法律関係形式変更をやるわけでございまして、これは必ずしも口頭弁論は必要でないわけでございます。また実体上の法律関係があるかないかということを当事者主張、立証によってきめるものでもないわけでございます。決定形式国家が公権的に個人間の法律関係に介入するということでございますので、訴訟とは本質的に差異があるわけでございます。
  19. 坂本泰良

    坂本委員 そうすると、一つ民事上の処分だ、こう理解していいですか。
  20. 新谷正夫

    新谷政府委員 裁判所によって行なわれます法律上の処分でございます。
  21. 坂本泰良

    坂本委員 そういたしますと、非訟事件でも当事者双方を呼び出して、いわゆる訴訟と同じ対審関係にやる場合があるのですね。その場合は双方ともあらゆる主張を確実に、正確に裏づけするために資料を出す、いわゆる証拠を出すわけなんですね。その証拠取り扱いなんかは対審をやった場合にも効果価値等の点についてはどういうふうに取り扱うのですか。
  22. 新谷正夫

    新谷政府委員 民事訴訟におきましては、当事者主張の範囲内におきまして裁判所判断いたすわけでございます。しかも、その主張した事実が間違いないかどうかということを、当事者の提出いたします証拠に基づいて判断いたすわけでございます。ところが非訴事件のほうは、これは裁判所職権で調査するたてまえになっておりまして、申し立て人が、一応ある一定法律関係形成変更主張をいたしますが、この事実関係を調べ、それが間違いないかどうかということを調査いたしますのは、裁判所職権行為によって行なわれるわけでございます。もちろん鑑定をいたしたり、あるいは証人の審問をいたすこともございますけれども、これは民事訴訟のたてまえとは違うわけでございます。   〔委員長退席大竹委員長代理着席職権主義前提のもとにおいて、裁判所判断によって当事者主張しておる事実関係を確定して、それに基づいて裁判を行なう、こういうことになっておるわけでございます。
  23. 坂本泰良

    坂本委員 まだはっきりしない点も多少ありますけれども、そこで本法案についてお伺いしたいのは、従来民事訴訟事件として取り扱ったこの借地、借定の問題ですね。これを非訟事件として取り扱うということになると、本質上違ってくるわけですね。それを是認した上でやるということになれば、今度は第一の問題は、先ほどお聞きしましたように、この改正案に基づくところの裁判所行為ですね、結局は決定によって、内容は命令でありますが、それは非訟事件であって結局既判力はない。そうすると、さらにまた民事訴訟として既判力がないというのだから、その問題としてさらに争いが起こるのじゃなかろうか、こう思うのですが、そのほうの点についてはいかがでしょう。
  24. 新谷正夫

    新谷政府委員 今回の借地法等の一部を改正する法律案におきまして、借地条件変更いたしましたり、あるいは増改築禁止特約がございます場合に、裁判所の許可をもって貸し主の承諾にかえる措置を講じたりいたしております。これを非訟事件手続によって行なうことにいたしたのでありますが、従来訴訟事件によって行なわれていたことを、すなわちそのままで非訟事件に切りかえたという趣旨ではございません。御承知のように借地関係借家関係につきましての争いというものは、ずいぶんたくさんあるわけでございます。法律案に関連して申し上げますと、たとえば借地条件借り主無断変更いたしまして、木造建物を所有するために土地を借りておるにかかわらず、堅固の建物無断で建ててしまったということになりますと、これは契約違反することになります。違反いたしますので、貸し主といたしましては、その違反理由として契約解除して土地の明け渡しを求める、そこに訴訟が起きてくるわけであります。ところが借り主のほうは、そういう場合にも契約解除できないのだというふうな主張をいたしまして、貸し主契約解除に争っていくということになるわけでございます。この場合には賃貸借関係貸し主の側から見ますれば、もうすでに解除によって消滅しておる、ところが借り主の側から見ますと解除権の行使は無効であるということで、借り主側からいたしますれば賃貸借関係はまだ存続しておる、こういう主張になります。この賃貸借存否が争われますときには民事訴訟であるべきことは、これは当然でございます。従来そういう形ですべて裁判所に持ち込まれまして争い解決されておったわけでございます。ところが今回の法律案におきましては、そのような無断借地条件変更措置、あるいは増改築禁止特約違反して、無断増改築を行なったという場合に、その法律関係があるかないかということを非訟事件でやろうというのではございません。一応木造建物を堅固の建物に直そうという場合に、貸し主借り主協議が行なわれるのが通常でございます。その協議が整わない場合に、貸し主のほうでいきなり解除することは、これはできないわけでございます。借り主無断でやれば解除できますけれども、そうでなければ解除ができなくなります。そこの解除というところまでいく前の段階におきまして、その賃貸借関係を合理的に調整をしていくということによって、契約解除に伴う法律上の紛争を防止できるのではないか。そこでいわゆる法律上の争いになります前の段階におきまして、裁判所が介入して、諸般事情を考慮いたしまして、非訟事件手続によって賃貸借関係形成変更裁判をしていく、これが今回の改正趣旨でございます。したがいまして、もしもこの新しい借地法規定によりまして非訟事件手続に乗っかりましても、その前提となります賃貸借関係そのものについての争いがあります場合には、これは当然民事訴訟解決するほかはございません。したがって、民事訴訟解決されますればそこに既判力が生ずるわけでございまして、自後それに関する主張はできなくなります。ただ非訟事件でございますので、非訟事件裁判そのものには既判力はないわけでございます。根本の賃貸借関係そのものについて争いがあります場合には、既判力のある民事訴訟判決によって確定するということになるわけでございます。
  25. 坂本泰良

    坂本委員 どうもはっきりしないのですが、そうしますと、この法改正によって、非訟事件裁判所命令で、決定できめるのですね。その決定できめても、それが不服でそれに応じないなら、やはり従来のような借地権確認の訴えとか、それから賃料変更決定があっても、その変更は非訟事件であって、ただ裁判所命令既判力はないのだ、従来の地代が正当である、貸した者は値上げの要求をした額が正当である、こういう考えに立ったならば、やはり同じような従来の訴訟を起こす、こういうことになりますか。
  26. 新谷正夫

    新谷政府委員 地代家賃値上げの問題は、これは別問題でございます。地代家賃増減請求につきましては、従来も実体法上の増額請求権あるいは減額請求権というものがございまして、このたてまえはそのまま残してございます。したがいまして、増額された金額が幾らになるべきであるか、その相当額幾らであるべきかということが争いになりました場合には、これは民事訴訟解決することになっておりまして、地代家賃増減請求についてまで非訟事件でやるというふうなことは考えていないわけでございます。今回の改正は、地代家賃の点は別の面で手当てをいたしたわけでございまして、訴訟によるべきか非訟事件によるべきかということは触れていないわけです。従来どおり民事訴訟によって値上げの問題は解決する、こういう考えでございます。
  27. 坂本泰良

    坂本委員 値上げの問題は私、例をあげたからそうなんですが、じゃ、契約解除の問題はどうなんですか。
  28. 新谷正夫

    新谷政府委員 新しい非訟事件によりまして、たとえば借地条件を新しく変更しまして、新しい法律関係がそこにでき上がるわけでございます。そういたしますと、借り主側貸し主側もその新しく形成されました法律関係に従うことは当然でございます。これにもしも借り主違反するということがございますと、今度は貸し主側がその違反理由として契約解除をいたします。契約解除しました場合に、借り主がまたこれを争うということになりますと、その解除が有効であるかどうか、また言いかえれば賃貸借関係が残っておるのかどうかということにつきましては、民事訴訟でやはり解決するわけでございまして、非訟事件とは全然別個の問題であります。
  29. 坂本泰良

    坂本委員 そういたしますと、従来調停でやりまして、調停が整わぬときには強制調停をやる、それでいかぬときには、それに不服な者は異議を言って訴訟事件で争ったわけです。それと多少意味は変わりますけれども、それと同じようなことになりはせぬかと思うのです。だからあらためて訴訟事件で取り扱ったものを法改正によって非訟事件としてやっても、結局は同じじゃないか、こう思われますが、その点いかがですか。
  30. 新谷正夫

    新谷政府委員 現在もこういった紛争につきましては調停とか和解解決する道がございます。ただ、これは裁判所関与いたしますけれども、調停和解当事者合意に基づいてでき上がるものでございます。したがって、合意が成立いたしませんと、やはり訴訟に持ち込まざるを得ないということになるのでございます。今回新しく借地借家関係について認めようといたしております非訟事件手続は、そういったものではございませんで、裁判所申し立てがございますと積極的にそれに関与いたしまして、当事者の利益の衡平をはかりながら法律関係を新しく合理的に形成をしていく、それによって紛争を防止しようというところにねらいがあるわけでございます。当事者主張ももちろん十分聞きますし、また特別に、従来の非訟事件とは違いまして、この両者の対立的な関係に基づく一種の争いでございますので、主張も十分に尽くさせ、また、民事訴訟法証拠調べと同様の手続によって証拠調べも行なって、十分審理を尽くした上で、その裁判をするようにいたしましたけれども、本質的には、これは非訟事件でございますので、裁判所の積極的な公権的な関与によりまして、裁判所がみずから法律関係変更したり形成していくということでございます。したがいまして、調停和解の場合のように当事者合意が成立しない場合でも、非訟事件でやりますならば、裁判所の公正な判断によって、合理的な法律関係がそこに形成されていく、こういうことになるわけでございます。したがいまして、調停和解とは、今回の非訟事件による裁判は、性質がかなり違ってくるものになります。
  31. 坂本泰良

    坂本委員 裁判所の公正の問題については、これはあと鑑定委員会問題等にも関連するわけで、また簡易裁判所裁判官がこれを取り扱うと、なかなか公正といっても、具体的にどうやられるかという問題、これはまたあとで御質問したいと思いますが、いかに裁判所が公正といっても、当事者がそれに従わない、司法行政処分であるから、その処分に従うわけにいかぬというのでやれば、やっぱり訴訟によって解決をせざるを得ないと思うのです。そうしたら、やはり従来の調停の場合でも、裁判所が公正にやるし、民間の調停委員が中に入って、そして十分努力をしてまとまる場合も相当多いわけです。しかし、どうしてもまとまらぬときは、いわゆる強制調停をやる。強制調停の場合でも、異議を述べれば、結局その調停条項というのは拘束力がないわけですから、裁判で結局解決しなければならぬ、こうなるわけです。そうすると、本法律案改正になりまして、そして非訟事件としてこれをやるということになりましても、結局いかに裁判所が公正でやったといっても、公正でない場合もあるし、それで不服なものは、やはり結局は訴訟によって解決しなければならぬ、裁判によって解決しなければならぬ、こういうことになれば、従来の調停事件その他を通じて、さらに最後は裁判解決をする、それと違いはせぬじゃないか、こういうふうに考えるわけですが、その点について、何か別に理由でもあるかどうか、伺っておきたいと思います。
  32. 新谷正夫

    新谷政府委員 調停和解の場合にも、その当事者合意によってきまりました条項は、これは当事者双方が順守すべき義務は当然法律上発生するわけであります。これに違反しました場合に、その違反効果を、法律上の紛争として訴訟の形によって裁判所判断を求めるということになるわけでございます。非訟事件の場合には、当事者合意によって法律関係が新しくでき上がるというのではなくて、裁判所の公権的な関与によりまして、諸般事情を考慮して、合理的な法律関係形成ということが、裁判所の手によって行なわれるわけでございます。行なわれますと、当事者がこれに拘束されます。裁判所決定でございますが、裁判でございますので、当事者は当然これに拘束されるわけであります。ところが、その法律関係をどちらかの当事者が守らない場合には、相手方のほうからこれに対して、また法律上の手段に訴えて、その法律関係を破棄するとか、いろいろの方法が講ぜられます。そうなりますと、そこで既存法律関係存否が争われる、わけであります。その場合に初めて民事訴訟という形によりまして、その争い解決することになるわけでありまして、非訟事件でやりましたことが全く無意味になるというのではこれはないわけであります。特に今回非訟事件の形をとりましたのは、訴訟によってやりますと迅速にいかないうらみがあるということが一つと、さらに、事柄が既存法律関係があるかないかという争いではなくて、その前の段階におきまして、争いの予防的な意味において、ただ当事者協議がととのわない場合に、裁判所関与によって新しい法律関係形成していくというところに、このねらいがあるわけでございますので、訴訟あるいは調停和解とはその性質が違う、また、目的もそこに違いがある、こういうふうに考えるわけでございます。
  33. 坂本泰良

    坂本委員 そこで、いわゆる非訟事件によって裁判所決定をするでしょう。しかし、それは一つ司法行政処分であるから、既判力がない。ですから、新しい関係をつくったといっても、そうじゃないといってそれに従わなかったら、やはり訴訟解決するよりほかないでしょう。そこで、調停の場合においても、もちろん、調停で多数解決しますよ。解決しない場合、非常に衡平を失するような場合は、調停委員会において、いわゆる強制調停というのを調停案を示してやるわけでしょう。そうすると、それに対して異議がある者は、異議があるといって訴訟を別に起こして、争うでしょう。ですから、同じじゃないかと思うのです。だから、現在においては、調停でできない場合は——それはできる場合はたくさんありますよ。できない場合は、そういうことをしなければならぬ。だから、いかに非訟事件手続にこれを回して、裁判所がおれは公平だといって決定を下しても、それは既判力がないから、そうでないというのでやれば、同じ訴訟手続を経なければならぬ。その内容の効果がどうとか、期日の問題は別として。本質的にそう考えられる。ですから、従来、調停ということで大きくこの貸借問題については解決がついておる。つかない場合には、強制調停の場合もありますけれども、その場合は、やはり従う場合もある。強制調停で、ここまでやられたのだから、双方ともあきらめて、それで解決する場合もあるけれども、そうでない場合は、やはりそれに服従しない者は訴訟を起こしてやらなければならぬ。   〔大竹委員長代理退席、委員長着席〕 それと結論的に同じになるのじゃないか。だから、何も従来の訴訟事件の本質を非訟事件として、本質を変えてまでやる必要がどこにあるかという点について、非常な疑問を持つものですから、どこにあるかということをお聞きしたわけです。
  34. 新谷正夫

    新谷政府委員 従来、本来訴訟解決すべき問題を、和解とか調停解決しておるじゃないか、これとどう違うかという御質問趣旨のように承りましたが、従来、本質的に訴訟解決しなければならない問題を、調停とか和解解決いたします場合と、今回の改正案によりまして、借地借家関係について非訟事件によって処理するというのは、性質が違うわけであります。これは、先ほども申し上げたと思いますけれども、本来の訴訟事件となるべき争訟事件、これは賃貸借で申しますれば、賃貸借関係解除されたということを原告が主張しまして、そして被告がその解除は無効だということを争っておる場合に、これは法律上の紛争があるわけであります。しかも本来なら訴訟解決すべきでございますけれども、訴訟という手続を経ないで、あるいは話し合いで、和解とか調停という形で解決する道もあるじゃないか。たとえば、貸し主のほうは賃貸借がもうすでに終了しておる、あるいは解除されて失効しておる、こう言っておっても、当事者の間で話し合いをいたしますならば、その契約解除意思表示をなかったことにして、従来どおり賃貸借があったという前提で、将来の法律関係を話し合いできめていく、これによって過去の法律上の紛争解決していく、これが、訴訟によって本来解決すべき法律上の紛争を、和解とか調停という形で、話し合いで解決するというのが和解調停趣旨でございます。この今回の非訟事件は、そういう法律上の紛争が起きた後の問題ではなくて、起きる前でございます。これから借地条件変更して——木造建物を所有するために土地を借りておったけれども、将来いろいろの事情で堅固の建物を建てる必要がある。これは借り主無断ではできませんので、貸し主に了解を得てその借地条件を変えてもらいたい、こういう申し出をいたしますと、法律関係は従来のままでございます。ただそういう申し出があったというだけでございます。もし貸し主がこれに応じませんと、従来の借地条件はそのまま残るわけでございます。そのまま残りますと、堅固の建物を建てようにも建てられなくなる。これは、従来の法律関係がそのまま存続しておるからでございます。しかし、それでは借りたほうも、土地を合理的に利用する上において不都合でございますし、もしもこれを無断で堅固の建物を建てるということになりますと、そこに法律上の紛争が出てくる可能性が残されるわけでございます。そうなりますと、将来訴訟に進展していく危険性がございますので、そこまで至ります前の段階で、当事者の間で話し合いがつかない場合に、借地条件変更すべきかどうか、変更するのが適当であるかどうかということを裁判所の公権的な関与によりまして判断して、この条件を変更するかどうかということをきめるわけでございます。したがいまして、借地関係があるかないかという紛争はないわけでございます。ただ、これからそういう条件を変えてみたいという場合に、将来の問題として法律関係はどうあるべきかということを判断するというのが、この非訟事件による解決ということになるかと思います。したがいまして、先ほど、本来訴訟でやるべき問題を和解調停解決する場合と、今回の借地借家関係について非訟事件を申し込むことと、どういう差異があるかということについて、多少御疑念をお持ちのようでございますけれども、これは本質的に性質が違うわけでございます。今回の場合は、借地関係があるかないかという法律上の紛争があるわけではございません。これから先どうすべきかということをきめるにつきまして、裁判所の公正な判断によって、新しく将来に向かって法律関係形成変更していこう、こういうことでございますので、従来の訴訟によって解決すべき問題を和解調停解決するというのとは、性質が違うわけでございます。
  35. 坂本泰良

    坂本委員 そこで、訴訟の前の問題だとおっしゃるけれども、調停でもやはり前の問題があるわけですよ。やはり賃貸借家でありますけれども、その条件の変更の場合は、やはり借地条件あるいは借家条件の変更調停申し立てをやって、そうして話がつく場合もあるわけです。たとえば、木造だけれども、今度は防火地域になったから、どうしても堅牢な建物にしなければいかぬという場合は、そういうような事情があるから、地主、土地の所有者は承諾してもらいたい。やはりこういう、紛争が起きない前に調停をやる。調停申し立てをして、そうして裁判所調停委員一般人の方々の関与をもって話し合いをつける。これがやはりあれじゃないですか、もうすでに明け渡すとかしないとかを調停でやることもありますけれども、それよりも、事前にこの紛争を、——借地権もある。その前に解決してそれをやっていこうというのが調停趣旨でしょう。だから、そういうことも事実上行なわれておるから、さらに絶対の拘束力のない非訟事件でやっていることは、実際上そういうような方法で行なわれておるから、いまさら法を改正してやらぬでもいいじゃないか、こう考えるものですから……。どこに差異があり、どこに改正になれば法的の効果があるかという点を、あったら教えてもらいたい、こういうことです。
  36. 新谷正夫

    新谷政府委員 確かにお話のような場合に、調停とか和解解決しておる事例があろうかと思います。しかし、それはあくまでも当事者合意に基づいて、和解調停というものは成立するわけでございます。合意がなければ、和解制度、調停制度がございましても、この利用価値はないわけでございます。幾ら裁判所のほうで、調停委員会のほうで調停条項を示しましても、当事者がそれに応諾しませんと、調停は成立しないわけでございます。したがって、そういった当事者合意がないときには、紛争紛争としていつまでも残っていきます。ところが、非訟事件の場合には、合意のあるなしという問題ではございません。将来法律関係を変えていこうという場合に、裁判所判断で、裁判形式によって、公権的に国が法律関係形成していくわけでございます。法律関係形成していく裁判がございますと、それによって当然法律関係変更され、形成されてまいりますので、当事者合意という問題はここでは関係ないわけでございます。しかも裁判の形で行なわれますので、これは一般の行政処分の場合でも同じでございますけれども、処分が行なわれますれば、そこに法律関係形成されるわけでございます。裁判所が、決定という裁判形式によりまして、この判断を下しますと、法律関係が新しくそこにでき上がってしまう。でき上がった法律関係には、当事者としては従うのが当然でございます。そこに調停和解の場合と非訟事件の違いがございます。  それともう一つ、今回の非訟事件でやります場合にも、裁判所調停あるいは和解解決する道を認めております。むしろそのほうが早く解決しそうだというふうな事案でございますれば、調停和解によってこれを話し合いで解決することも、もちろん可能なわけでございます。場合によりますれば、調停とか和解方法で早く合意によって解決されることも、これはむろんあり得るわけでございます。しかし、本質的には、調停和解と非訟事件裁判というものは違うわけでございます。
  37. 坂本泰良

    坂本委員 そこで、そのいろいろな借地権その他は、非訟事件によって裁判所決定するのでしょう。しかし、既判力がないからそれに従わないといえば、やはり訴訟を起こさなければならぬ。その場合は調停によって、調停が不成立の場合、あるいは強制調停があった場合に、それに従わずに訴訟をやらなければならぬというのだから、結局同じじゃないですか。裁判所調停の場合でも、主任裁判官とそれから一般から出た調停委員との配慮によってきめるわけです。しかし、どうしてもきまらぬ場合は訴訟にいかなければならぬ。非訟事件の場合は裁判所判断だといって、それを決定で下されても、その決定に従わないなら——既判力がないからこんなものには従わぬといえば、結局訴訟を起こさなければならぬ。だから同じじゃないかというふうに考えられるから……。その非訟事件で、裁判所がきめるなら、それに大かた従うべきでしょう。調停でもそうなんですよ。強制調停でも、これはどうも地主が強い。しかし、調停裁判所において強制調停という——といわれておるのですが、条件を提示すれば、たいがいそれに従う場合があるでしょう。しかしながら、それには、やはり合意でないから従えないから、訴訟でやる。片っ方の場合は、裁判所決定できめても既判力がないんだ、だから訴訟でやるというんだから、結論は同じじゃないか、こう思うから、その点を——数の多い少ないというのは、これからやってみなければわからぬ。従来でも賃貸借紛争については、調停というものが大きい役割りを果たしておるわけだから、それにさらに非訟事件でやろうというならば、どれだけのプラスアルファの効果があるだろうということが、私がお聞きをしたい趣旨です。
  38. 新谷正夫

    新谷政府委員 非訟事件裁判既判力との関係で御疑問をお抱きのようでございますが、非訟事件賃貸借関係についての裁判をいたします場合には、一応賃貸借契約というものがあるという前提に立ちましてその借地条件変更するとか、あるいは増改築についての特約にかかわらず、貸し主の承諾にかわる裁判をする、こういうことになるわけでございます。この賃貸借があるかないかというその法律関係争いについては、これは非訟事件関与する限りではございません。これは訴訟解決しませんと、その賃貸借があるかないかということについては解決の道はないわけでございます。したがいまして、かりに非訟事件によりまして、借地条件変更するという裁判が行なわれましても、その根底にあります賃貸借という法律関係そのものがあるかないかという争いは、これは非訟事件とは別個に解決すべき問題でございます。それが既判力の問題につながってくるわけでございまして、もしも、賃貸借契約がない、あるいはすでに過去において失効しておるということが民事訴訟で確定いたしますと、その確定した結果は既判力を持ってまいりますので、それに反する主張はできなくなる。したがいまして、非訟事件借地条件変更するという裁判が行なわれましても、片方で民事訴訟におきまして、賃貸借関係そのものが存在しないということが判決確定いたしますと、この賃貸借に基づく借地条件変更裁判も当然失効する、こういうことになるわけでございます。賃貸借そのものの存否民事訴訟解決すべきであって、それによってきまった以上は、これは既判力を持ちますので、それに矛盾する主張はできなくなる。したがって、非訟事件のほうでかりに条件を変更いたしましても、根底にある賃貸借関係がないということが訴訟判決で確定いたしますと、これはもう将来主張できなくなるということになるわけでございます。もちろんこれは非訟事件裁判裁判所裁判でございまして、覊束力はあるわけであります。当事者はそれに従わなければならないのは当然であります。これは法律関係がそこで変更され、形成されてでき上がってしまっておるわけでありますから、それに従うか従わないかということは、これはまた別問題でありまして、その条件に従わなかった場合には、新しく契約違反の問題、さらに契約解除という問題が起きるわけでございますが、そのことと、根底になる賃貸借存否訴訟物とする民事訴訟の問題とは、これは別個の問題でございます。
  39. 大久保武雄

    ○大久保委員長 神近君、関連質問を許します。
  40. 神近市子

    ○神近委員 いま御説明聞いていますと、非訟事件のほうが調停よりも強力に感じられるのですけれど、それがそちらの意図であるのか。  それからもう一つは、この非訟事件で両方の納得ができないときは、調停裁判命令でなさるおつもりなのか。それはどういうことになるのですか。もう大都会だったら、委員方も大部分がそうじゃないかと思うのですけれども、借地難で、それでこの法律の意図は借地人を保護するのか、それとも土地所有者の紛争の簡素化をつくるためのものか、どちらを意図されておるか、それを伺いたい。
  41. 新谷正夫

    新谷政府委員 非訟事件裁判のほうが調停よりも強力であるかどうかという点でございますが、先ほどから申し上げておりますように、非訟事件裁判にせよ、あるいは調停和解にせよ、これができ上がってしまいますと、いずれもそこに法律関係が新しくでき上がるわけであります。当事者がそれに羈束されて、それに従うべきことは当然でございます。ただ、調停の場合には、当事者の承諾がございませんと、両方の当事者合意がございませんと、調停というものは成立いたしません。したがって、合意がなければ、これは必ず訴訟に持ち込まざるを得ないわけであります。しかし、訴訟まで持ち込む前の段階で、そういう紛争にならないで適当に法律関係を改め、変更していくことが可能であれば、そういう措置をとることによって紛争を防止できるわけでございます。そういう意味で裁判所がそういう場合に関与いたしまして、非訟事件手続によって新しく法律関係形成していくということでございますので、当事者合意によらないでこの非訟事件裁判は行なわれます。そういう意味では調停よりも強力だといえば強力であるかもしれません。借り主のほうで従来木造建物を所有する目的賃貸借をしておりましたが、これを鉄筋の建物とか、あるいはブロックの建物にしたいというふうに考えても、貸し主がそれに応じないという場合に、話し合いができないわけでございます。調停に持ち込みましてもなかなか話し合いができないということも考えられるわけでありますが、そういう場合には裁判所がいろいろの事情考えまして、これは借り主の言うとおり鉄筋なりブロックで建物をつくったほうが、土地の合理的な利用上も有効であるということに判断いたしますと、裁判所借り主のために借地条件を積極的に変更するわけであります。したがいまして、調停の場合のように、合意がなくても裁判所借り主の言うとおりであると認めれば、この変更裁判を行なう、こういうことになるわけであります。そういう意味で、調停よりはむしろ国家機関である裁判所が積極的に関与するという意味では強いわけでございます。  それから強制力の問題でございますが、これも法律規定を置いておりまして、いろいろの附帯の裁判をいたします。物の給付を命ずる裁判等をいたしました場合には、これは強制執行の債務名義となるようにいたしておりますので、一般判決の場合と同じように、この裁判に基づいて強制執行もできるわけでございます。  それから、もともとこの法律改正は、借地人を保護するためなのか、あるいは貸し主を保護するためなのかという御質問でございますが、御承知のようにこの借地法あるいは借家法という法律は、借り主保護をはかってできた法律でございます。民法の賃貸借規定は、当事者双方を対等の立場において規定しておりますけれども、わが国の借地事情、あるいは借家の事情にかんがみまして、すでに早くから借地人保護の必要があるという考えに立ってこの法律ができております。現在もその法律の精神に変わりはございません。ただ、紛争事件が非常にたくさんございますので、これをなるべく早く合理的に解決する方法考える必要があるまいか、訴訟という形によりまして、時間と経費を多分にかけてなかなか解決ができないというのでは、いずれの側にとりましても不都合でありますので、むしろそういう紛争に至ります前に、非訟事件によってこれを合理的に解決していこうというのが今回のねらいでございます。むろんこれは当事者双方の利益を公平に考慮いたしまして、合理的な法律関係形成できるように裁判所が配慮すべきように法律規定を設けてございます。この紛争と申しますか、こういった借地関係の将来の問題についてのいろいろの問題が起きました場合に、双方の立場を十分に考慮してその裁判を行なう、こういう考えに立っております。
  42. 神近市子

    ○神近委員 もう一つ伺いたいのは、地価鑑定委員を任命するということですが、それは裁判所が任命することになるのですか、あるいは自治体が推薦するということになるのですか。
  43. 新谷正夫

    新谷政府委員 御質問はおそらく鑑定委員会のことであろうと思いますが、この法律の十四条に鑑定委員会の組織の規定が設けてございます。これはすでに前例のあるところでございまして、その前例どおりに規定を設けたわけであります。地方裁判所が、特別の知識経験ある者その他適当なる者の中より毎年あらかじめ選任しておきまして、名簿をつくっております。その中から個々の事件ごとに具体的に裁判所が三人以上の鑑定委員指名いたしまして、その人たちによって鑑定委員会を構成するということになるわけでございます。それからもう一つは、当事者合意によって選定した者、こういった人も鑑定委員会を構成できるようにいたしておるわけであります。したがいまして、これは裁判所がこういう人たちを、どういう人が適当であるかということと判断いたしましてあらかじめ名簿をつくっておいて、その中から適当な人が具体的な事件ごとに選任される、こういうことになります。
  44. 神近市子

    ○神近委員 私は、その制度は非常にむずかしいものだと思うのです。それが私のように地区に住んでおりますと、生活委員とか何とか委員とかという人がいるにはいるのですよ。ほとんどこれは実働しない。何しているかは実はわからないというような状態で、それと今度はこの地価の鑑定委員会というのか、そのメンバーのことですけれども、これがやはりその土地に近くなければ地価の変動がよくわからないでしょう。ところが、地価の変動がわかるくらい密接であれば、おそらくそこにそれまで居住した人同士の話でどうしても地主側に密着して、借地人はあとから来た侵入者でありますから、どうしてもその点は不利になるということを考えれば、私は、非訟事件にこれを切りかえようとなさることは何かそこに非常に矛盾がある、あるいは困難があるというように考えるのですけれども、あなた方はお役人であれば、そういうことは、一切この実際の地区の居住的な空気というものは、おわかりにならないと思うのですけれども、その点どういうふうに、たとえば私の考えでは、遠い地区の人ならばまだ信用できると思うのです。けれども、そこの大きな地主であれば、あるいはそこの地所にいる人がいるかもしれない。あるいは何かの姻戚関係がどこかでつながっているかもしれない。そこに非常にいろんな矛盾が生じはしないか。それをあなたはどういうふうにお考えになりますか。
  45. 新谷正夫

    新谷政府委員 この構想は、鑑定委員会という特別な形をとっておりますけれども、すでに罹災都市借地借家臨時処理法に全く同じ鑑定委員制度もございます。それから調停委員関係もこれはだいぶ性質が違いますけれども、適当な方を毎年裁判所で選任されまして名簿をつくっておいて、具体的な事件解決にこの人が最も適当であると思われる人を裁判所指名されるわけでございます。したがいまして、いまおっしゃいますように、地区が非常に広範囲にわたっている場合に、適当な人が得られない。当事者のどちらか一方に片寄るような危険性はないかという御趣旨でございましょうけれども、数ある鑑定委員の名簿の中から具体的な事件関係のない、公正に判断できる人を裁判所は当然選ばれることと私どもは信じておるわけでございます。具体的な選任の問題になりますけれども、そのような不公平な扱いが裁判所によって行なわれるとは私どもは考えないわけであります。従来の土地調停委員につきましても、同じように公正な立場で判断される方が指名されて調停関与しておられる。今回の場合も特にそういうことがあるとは考えられないわけであります。
  46. 神近市子

    ○神近委員 地主と借地人となれば、私どもは借地人の立場ですよ。何としても地主側のほうが裏面で動きやすいんです。ですからあなた方のほうでどんなに公平な人というふうにお考えになっても、新しくこの交渉ができ上がるというようなおそれもあるわけです。私はその点でどうもこの事件を非訟になさるということについて危惧があるわけなんですけれども、あなた方のほうは、もうこれでいけばだいじょうぶだというような自信がおありになりますか。
  47. 新谷正夫

    新谷政府委員 私どもといたしましては、裁判所がこの事件を処理されます際に、鑑定委員会の構成、あるいは裁判そのものにつきまして、当事者双方主張を十分に尽くして、また立証を尽くして、手続を進められることと確信いたしておるわけであります。特にこの制度が地主側に味方するものである、逆に借り主側に特別に味方するものであるというふうな考え方は持っていないわけであります。中正な立場において鑑定委員会が構成され、この事件を公正に処理されることを期待しておるわけでございます。
  48. 神近市子

    ○神近委員 私の借りている地所はお寺の地所なんですよ。いまお手がずいぶん土地を開放して、そして貸しているようでありますけれども、私の地所なんかは前に山であったところで、それで山がどういうわけでお寺のものになったか、これは想像できますね。昔の共有地のようなところであったものが、お寺ができるというのでその山を寺に上げたというようなところ、それがいまみんな開拓されて、立ち木は切られてしまって、そのあとは住宅へ貸して、——あれは宗教法人だろうと思うのです。貸してあるということなんですけれども、もともとが民有地でもない山でありますから、昔は入り会いか何かであったということであろうと思うのですけれども、やはりそういう場合、権利金というようなものが契約のときに取られるのです。これは二十年ごとに更新していかなければならない。これは地代を間違いなくずっと払っていても、二十年ごとにまた契約金というものを納めなくちゃならない。一体これは、法律的にはどういうふうに解釈していらっしゃいますか。
  49. 新谷正夫

    新谷政府委員 権利金につきましては、この性質がいろいろございまして一がいに申し上げられませんけれども、地代家賃統制令にも権利金に触れている条項がございます。これは、昭和二十五年の七月十一日以後に建てられた建物で三十坪未満の住宅につきましては、地代家賃統制令の規定は適用されないことになっております。原則的には権利金その他の名義をもって金銭の授受を禁止してございます。そこで、いま申し上げますような建物につきましては、あるいは権利金の授受ということは行なわれておるかもしれませんけれども、それ以外の建物については権利金の授受は禁止されておるわけであります。この二十年ごとに権利金が授受されるべきものであるかどうかということは、法律上は何も規定はございません。戦後特に土地あるいは借家の事情が窮屈になりまして、権利金の授受ということがだんだんと行なわれておるようでございますけれども、これは当事者の話し合いでやられておるわけでございまして、法律的に権利金を授受しなければならないとか、あるいは二十年ごとにそれを多くしなければならないとかいうものはないわけであります。
  50. 神近市子

    ○神近委員 さっき木造の家屋を鉄筋にするとか、建て直すという意味のときの問題がたいへんたくさん出てまいりました。それは当然だろうと思うのです。戦後資材がたいへん不自由なときに建てたものは、火災にも弱いし、あるいは地震にも弱いということはあり得ると思うのです。これが鉄筋になれば五十年なり、あるいはもっとそれを動かすことができない、動かすためには非常に費用がかかるということはよくわかるのです。だけれど、たとえば夫婦で家を建てたが、子供ができて、だんだんその子供が成長して勉強部屋をつくってやらなくちゃならない、そういうときに、この用地というようなことも、やはり借地人が地主に契約違反だということで、たいへん問題にされるというケースがあるようないまお話であったのですけれども、そういう場合に、そちらの裁判所考え方では、やはりそれが契約違反ということに考えられますか。それはいかがですか。
  51. 新谷正夫

    新谷政府委員 契約によりまして、一切増築は許さない、貸し主の承諾がなければ増築ができないという条項が入っております場合には、無断借り主がそういう増築をいたしますと契約違反になるわけであります。ただこれが契約違反だからといって、貸し主側契約解除いたしまして争いが起きますと、訴訟になるわけであります。裁判所がその具体的な事案をどのように処理されるかということは、個々のケースによっていろいろ事情が違います。したがいまして、そういう具体的な事情を勘案して裁判所判断されるわけでありますけれども、法律的には一応それは契約違反という形になろうと思うわけであります。もしも無断でそれをやりますと、いまお話しのように訴訟になって、いつそれが解決するかわからない、場合によりますと契約解除が有効だと認められて、借り主が立ちのきを命ぜられるということも起き得るわけであります。   〔委員長退席大竹委員長代理着席〕 そういうことにならないように、あらかじめそういう増改築の許可を裁判所によって得る道を講じますならば、そういった紛争も起きないで土地を有効に、合理的に使えるだろうということを考えて、今回、非訟事件によってそういう場合に許可を与える道を講じたわけであります。紛争までいってしまいまして訴訟になりますと、これはもうどちらになるかわかりません。しかし、そこまでいかないで、あらかじめ裁判所の許可が得られますならば、借り主のほうで増築しても差しつかえない、そういう措置を講ずることによって紛争を防止しようというのがこの改正一つのねらいでございます。
  52. 神近市子

    ○神近委員 その増築が、たとえば非訟か何かにかかりますね、調停にかかるかどうか知らないけれども、その場合に悪意でなくて、たとえば子供がふえたとかあるいは老人がいなかから帰ってきて隠居所が要るとかいうので、一間かそこらを建てる、手続を知らないでいきなり増築してしまったというような場合に、あなた方はどんな裁判をなさいますか、ちょっとそれを伺いたい。
  53. 新谷正夫

    新谷政府委員 それはたいへんむずかしい御質問でございまして、ただ子供が新しくふえてきたので増築すると申しましても、土地の形状、あるいは現在建っております建物の位地、形状、そういうものによっても左右されるわけでございます。たかだか五坪の部分を増築する、わずかなものではないかということになりましても、その土地の形状いかんによりましてはそれが適当でない場合もございますし、また十坪の場合でもこれは適当だと言える場合もあるわけでございます。具体的なそれぞれの事案に応じてこれは裁判所判断しなければ、何とも申し上げられません。普通の場合ならば、特に貸し主にとりまして不利益にならないとか、あるいはこの法律に書いてございますように、土地の通常の利用上その程度の増築は相当だというふうに客観的に認められます場合には、これは当然増築を許されることになろうと思いますけれども、いずれにいたしましても、具体的ないろいろな事情を総合勘案いたしませんと、いいとも悪いともそれは申し上げられませんけれども、少なくとも相当であるという客観的な情勢下におきましては許されることになろうと思います。
  54. 坂本泰良

    坂本委員 私はまだ民事訴訟か非訟事件かの関係について残っておりますからこれから質問しますけれども、いま神近委員から重要な発言がございましたから、これは私もあとでやろうと思っていたわけですが、この際お聞きしておきたいのですけれども、この鑑定委員会ですね、この場合の鑑定人の報酬の負担は国家がやるか、あるいは当事者に負担させるか、その点いかがですか。
  55. 新谷正夫

    新谷政府委員 これは国の負担になるわけでございます。
  56. 坂本泰良

    坂本委員 現在、鑑定を商売と言っては失礼ですけれども、鑑定される方がありますね。競売事件なんかでは、その鑑定人が鑑定をしますと、債権額あるいは鑑定建物土地の広さ、狭さとか、価値があるかないかによって、相当多額の鑑定料を払われておるわけです。そういう点を考えますと、国家鑑定人に対する鑑定料を支払うについてどういうことで支払うか、調停委員みたようで、一日日当幾らだ、こういうことではこれは済まないと思うのですが、それかといって鑑定料を出さなければ公平な鑑定はできないじゃないか、裁判所の任命によりましても、やはり鑑定をするについては相当の技術を要するし、さらに実費もかかるだろうし、特殊の技能、経験も要するから、ほんとうの真正な鑑定はできないじゃないか、こういうふうに予想されますが、そういう点はどういうふうに考慮されておりますか。
  57. 新谷正夫

    新谷政府委員 この鑑定委員会委員さんに支給されます手当と申しますか、これは日当の形でございます。いわゆる証拠調べの場合におきます鑑定人に対する鑑定料とは違いまして、日当の形で支給されることになるわけでございます。特に専門的な鑑定が必要な場合があると思います。この場合には裁判所鑑定を命ずることもございますし、また、当事者申し立てによりまして、民事訴訟の例によって証拠調べとしての鑑定人の鑑定を求めるという場合もあるわけでございます。これはむろん一般証拠調べと同じように鑑定料の支給になるわけであります。ここで申します鑑定委員会委員さんに対する手当は、日当の形で支給されるわけであります。
  58. 坂本泰良

    坂本委員 そういたしますと、いわゆる巷間におられる専門的な鑑定人ですね、こういうような方は得られないと思うのですが、そういう点はどういうふうに考えておられますか。
  59. 新谷正夫

    新谷政府委員 この鑑定委員会委員になられる方はどういう方になるだろうかということでございますが、一般の不動産鑑定士のような方、また不動産について特別に知識経験のある方とか、あるいは弁護士さんとか、そういった方になっていただくことになろうと思うのでございます。特に技術的に非常にむずかしい、いわゆる鑑定を行なうという意味ではございません。そういう場合には証拠調べとしての鑑定という方法がございます。そちらによるべきでありまして、こちらはただ、こういう非訟事件による判断をいたします場合に、鑑定委員会の意見を聞いて裁判所がそれを参考にして妥当な結論を得るようにしよう、こういうところにねらいがあるわけであります。証拠調べとしての鑑定とは性質が違うわけでございます。
  60. 坂本泰良

    坂本委員 この法律案が通りますと、結局は運用は裁判所のほうになると思うのですが、裁判所もお見えだからお聞きしておきたいのですが、最初商法の一部の破産編で破産法ができた場合は、これは非訟事件として取り扱っていたわけですね。破産法は非訟事件訴訟事件かという大きい争いがありまして、現在では訴訟事件だという説が強くて、非訟事件説はあまり出す必要はないけれども、それでも学者によっては非訟事件と言っている。この破産の場合でも、いわゆる破産管財人を任命すると、管財人の報酬というのがあるわけです。それは裁判所決定して、相当多額の管財人の報酬が支払われておるわけです。破産財団の額が数千万円、数億円になりますと、それの一割だ五分だということになると、これは普通の弁護士としては得られない報酬が与えられておるわけです。これは現在でもそうだと思うのですが、その取り扱いはいまどうなっておるか。  それから調停地代が問題になりましたような場合は、やはりその主任裁判官あるいは調停委員の配慮によって、鑑定人で鑑定してみよう、それが標準になるからというので、費用は申し立て人と相手方と半分ずつ、こういうことになればいいけれども、ならないときは、債務者のほうで地代値上げに反対をしているというようなことになれば、その値上げに反対をしているのが、現在の価格が正しいというならば、鑑定人は借地借家人のほうで持て、こういうことになって、いろいろそこで調停ですから話し合いが行なわれて、結局双方負担しようというようなことになっても、やはりその鑑定人を裁判所から委嘱してもらう、それに対してやはり相当鑑定料を払わなければならない。  それから競売法によるところの不動産の競売においては、これは法律鑑定人が任命されて、その鑑定人はやはり裁判官の判断によって相当の額の鑑定料が支払われておる。まだほかに例をあげれば幾らもあるのですが、そういうような場合は、やはりそのときの鑑定の内容、努力によって、裁判所のほうで鑑定料の額できまるわけです。しかし、それは当事者負担ということになれば、その当事者が、その鑑定の結果が期待に反しても払う、こういうことになっておる。そういうような裁判所の従来の取り扱いになっておるわけですが、この法律案が通過しまして鑑定委員会ができる、その鑑定委員会の中には、いま御答弁によりますと、専門の鑑定の方も入る、学識経験者も入る、そういうことになれば、これは日当でほんとうに公正な判断ができるかどうか。やはり日当で選任したような鑑定人は、先ほど神近委員が言われたように、その土地の古い人とコネクションがある、だから、その人の意思に反するようなことはできないわけです。また、木造二十年が今度は堅牢な防火建築の六十年の期間になる場合、その場合その鑑定について、はたして日当ぐらいで適当な鑑定ができるかどうか。鑑定料の問題と、それからその鑑定人の選任について、大きな疑問があると思うのです。そういう点について裁判所は、従来のいろいろの鑑定人の場合、あるいは防火地域内借地権処理法を見ますと第六条において「防火地域内借地委員ハ特別ノ知識経験アル者其ノ他適当ナル者二就キ毎年予メ地方裁判所ノ選任シタル者又ハ当事者合意二依リ選定セラレタル者ノ中ヨリ各事件二付裁判所之ヲ指定ス」とありまして、第四条でこれは非訟事件とすると、この法律は非訟事件になっておるのですが、こういうような場合の従来の取り扱いについて、はたして日当でやっておるかどうか、あるいは当事者合意で申し出た場合、その鑑定料についてはどうしておるか、そういうようなことがいろいろとあると思うのですが、そういう点にも考慮を配っての御答弁をお願いしたいと思います。
  61. 菅野啓蔵

    ○菅野最高裁判所長官代理者 この借地事件を非訟事件として裁判所が行ないますにつきまして、まあ迅速に処理することが一つの要件であろうかと思いますが、それと同時に、適正な裁判ができませんと、せっかくこの制度ができてもその効果は薄いということに相なろかと思うのでございます。そこで、この手続が、その結論において適正な結果を得られるかどうかということにつきまして、御指摘の鑑定委員に人を得られるかどうかということに裁判所としても非常に重点を置きまして、ここに人を得たいという気持ちでおるわけでございますが、御指摘のようにこの鑑定委員に対する報酬と申しますかそういうものが、この法律の上では日当を払うということになっておるわけでございまして、しかしてこの日当は、その鑑定委員の仕事にふさわしいだけの日当ということが考えられるわけでございますが、従来も似たような制度に調停委員であるとか参与員であるとか司法委員であるとかいうような制度がございまして、これとこの鑑定委員の日当にどれだけの差がつけられるか、差をつけていいものかどうかというような点がございます。そこで、そうなりますとこの鑑定委員の日当も調停委員等に比して高いものになるか、あるいは同等のものになるか、高いものになるとしてもどのくらいの差がつけられるかということになりますと、見通しといたしましては、それほどの差はつけられないということになりますと、結局現行で調停委員の日当が九百円でございますので、この程度の日当で調停委員としてりっぱな人を迎えることができるかということになりますと、相当の問題があるところでございますが、私どもは、りっぱな人を迎えたいわけでございますけれども、そういう予算上の制限もございますし、それから土地鑑定ということになりますれば先年新しく制度ができました鑑定士の方々が、何と申しましても不動産鑑定についての一番の専門家であろうかと思うのでございますが、しかしながら、鑑定士の数というものは、一昨年と昨年でございますか、いままでまだ二回しか試験が行なわれておりませんので、その数から見ましてもまだ六百人程度ということでございますし、それから、その鑑定士の方々の全国的な分布の状況を見ましても、やはり大都市に集中されているようなことでございまして、今度の借地法改正が施行されました場合に、こういう方々だけを平均的に全国的に鑑定委員会の中に来ていただけるかどうかということについても問題があるわけでございます。  それから、この鑑定委員の方のこの手続における職務と申しますか、お仕事は、実は不動産の価格の鑑定そのものではないわけでございます。八条ノ二でございますか、九条ノ二でございますか、ああいう条件にはまっておるかどうか、それから八条ノ二、九条ノ二の付帯条項、つまり一定の何か給付をするについて、給付をさすべきかどうか、その額はどうかというようなことを裁判所が判定いたしますにつきましての意見を聞くというようなわけでございまして、鑑定委員の構成が三人以上ということになっておりますので、その中の一名ぐらいは、いわゆる不動産の価格の鑑定の専門家を入れておくのが適当かと思われますけれども、しかし、それだけでは鑑定委員会の構成としては不十分で、むしろ一般常識、それからそういう不動産の価格、名義料というようなことにつきましての事情に非常に詳しい、しかも公正な考えをお持ちの方々ということになりますと、やはり弁護士の方々であるとか、その他の知識人を鑑定委員の中に入れまして、いろいろほかの方で三人を構成するということに相なろうかと思うのでございます。専門的な不動産の価格の鑑定ということになりますれば、これは御指摘のように、いわゆる鑑定でございますので、それにつきましては日当などという金額ではとてもまかなえない、いわゆる鑑定料を支払って、そうしてその鑑定に対する対価といたさなければならないかと思うのでございます。でございますから、事件によりましては、単に鑑定委員の方の常識的な意見を聞くだけでは足りなくて、いわゆる鑑定をしなければならない事件もあろうかと思いまするが、常識的な意見を伺うための鑑定委員といたしましては、鑑定料ほどの日当を要しないのではないか、かように考えておるわけでございます。
  62. 坂本泰良

    坂本委員 この第八条ノ二によりますと、「借地条件変更」とある。これがいなかのたんぼとかなんとかについては、あまりそう問題はないと思うのですが、しかしながら、いま大きい問題があるのは、市町村におきましては工場誘致をやるでしょう。そうしてその工場ができると、その近所に対する土地賃貸借の問題、それからその価格の問題に関連して、いわゆる権利金とかそういう問題が大きくなってくるわけです。博多駅をごらんなさい。博多駅をたんぼの中に建てたでしょう。坪千円かそこらだったのが、いま坪百万円というじゃないですか。やはりこの法律が予定しているところの問題の起きるところはそういうようなところです。さらにまた、東京とか大阪とか五大市、その他のいわゆるその土地の発展その他によって条件の変更を大きくやる場合がある。ですから、その場合に、あなたのいまおっしゃったような鑑定委員に日当を払ったぐらいでは、三年前までは坪千円足らずのところが坪百万円にもなっている、そういう土地借地条件変更という問題になれば、そう簡単にできるものではないと思うのですが、この法律ができて七月一日から施行になるとすれば、直ちにその問題ができてくるわけです。法律ができれば、これを実際に行なうのは裁判所がやられるわけだから、裁判所としての、そういう点についてのもう少し何か具体的な考え方でも聞かなければ、われわれこの法律をつくる国会としては、なかなかその判断ができないのではなかろうか、こういうふうに考えるわけですが、そういう点は、まだ法律ができぬから、できてからのことにするというようなお考えですか。
  63. 菅野啓蔵

    ○菅野最高裁判所長官代理者 この法律の施行は公布の日から一年以内ということでございまして、来年の五、六月ごろには施行して、そうして実際に裁判所がこういう事件を受けなければならないということに相なろうかと思うのでございます。私ども、これは推定でございますけれども、実際この事件がどういうふうに動いていくであろうかということにつきまして、いまの裁判の実務等とにらみ合わせましてどういうふうになっていくであろうかということを実は考えておるわけでございますが、この事件のうち、まず前提条件が問題になる。すなわち、借地権があるかどうかということについて争いが起きますと、これは非訟事件でありましてもそう既判力がないわけでございますが、しかし、その前提条件を判断していくときには、これはやはり訴訟に似たような形態をとっていくであろう、そうしてそれはやはり相当の期間を要するのではなかろうかというふうに考えるわけでございます。しかし、一方におきまして、その借地権の存在確認というような訴訟が起きておりますれば、これはそのほうにまかせて、こちらの手続は中止をしておくというようなことになろうかと思うのでございます。  それからさらに、その点について争いのない事件でありましてもさらに二つの種類があろうかと思います。すなわち、八条ノ二の問題にいたしましても、九条ノ二の問題にいたしましても、八条の問題にいたしますれば、条件を変更するということについては地主のほうも納得しているが、ただその付帯条件についていろいろ問題があるという形のもの、それから九条ノ二の問題にいたしましても、借地権の譲渡についてはそれほど地主としても異存はないけれども、その条件、いわゆる名義書きかえ料とか、将来の賃料の額について当事者間で話し合いがつかないというような、こういう二種類の事件が出てくるのではなかろうかと思うのであります。それで一番手っとり早く片づくのではないかと思われるのは、つまり付帯条件だけについて当事者間に話し合いがつかないというような事件、これは想像でございまするけれども、いまの実務のやり方等を見ておりますると、そういう事件はおそらく和解ということになっていくのではなかろうかと思われます。つまり借地条件変更あるいは譲渡については当事者間に争いがないわけでございまして、付帯条件についてのみ当事者間に話し合いがつかないという事件でございますから、そこに話し合いの余地は十分にあり得るわけでございまして、そういう事件和解に持っていくというのが事件を処理する上におきましても一番いい方法ではないか。もちろんそういう場合におきましても、付帯条件をきめるにつきまして裁判所の一存でやるのではなくて、鑑定委員会の意見というものをその審理の経過におきまして随時聞きながら、当事者が納得いくような和解なり調停なりというものを成立せしめるべきものであろうと考えております。  それから、そもそも地主がどうしても借地権の譲渡を納得しない、どうしても譲らない、あるいは借地権の条件の変更に応じないというような場合に、いわゆる八条の二の条件あるいは九条の特に地主に不利な場合でないそういう場合に当たるかどうかということの判断をいたしますにつきましては、どうしてもこれは鑑定委員の御意見を伺いながら判断をしなければならないということになろうかと思うのでございまして、先ほど御指摘の福岡の駅前が急に土地が値上がりをした、こういう場合に、一体付帯条件である将来の賃料というものをどういうふうにきめていったらいいかということは、これは非常に専門的なことに相なろうかと思うのでありまして、これは単なる鑑定委員の常識的な意見ということでは相済まぬ。鑑定人に相当の報酬を出して鑑定をしてもらう。これは資料等の収集、すなわち、判断に要するいろいろの材料を集めるというようなことにも手間はかかりましょうし、はっきりした賃料、幾ら相当ということの結論を出すための判断、それに対する対価といたしまして相当な報酬を払うべきものであろうかと思うのでございますが、これはいま申しましたように、一体これは借地条件変更してもいいものかどうか、あるいは借地権の譲渡について承諾をしてしかるべきものかどうかということになりますれば、これはいわば専門的といいますよりも、経済的、社会的円満な常識というようなところにむしろ重点が置かれるのではないか、そういう判断につきましては、先ほど来申し上げました日当による鑑定委員と申しまするとちょっと口がすべりますが、そういう形でやっていただけるんではなかろうかというふうに感じておるわけでございます。
  64. 坂本泰良

    坂本委員 私は、この法律ができてくると、まあ博多駅の例を出したわけですが、あそこは特に八階建て、九階建て、地下二階、三階という計画があるそうです。ですからこの法律が出ますと、あそこはたんぼであったから小作権の問題、いわゆる普通の小作契約の民法上の賃貸借による場合と、それから永小作権があるかどうか、これは調べてみなければわかりませんが、そういう場合も想定される。それから民法上物権地役権地上権の問題があるのでありますから、この問題は調停その他にも出てくると思っておるのですが、この法律が出てくると、直ちに問題になるのではないか。そうすると、大体ああいうようなたんぼは一反の小作料というのは戦前は現物小作料で米三俵とかいうようなものだったですね。それで換算してみますと、いまは一俵が四千数百円ですから、五千円としましても五、三、十五で、一反歩、三百坪の小作料は一万五千円ですね。その一坪が百万円もするようになっておるのです。五十万、百万といわれておる。あそこは地主成金が出ておるというので評判なんです。そういうところは全国にたくさんあると思いますが、一番わかりやすいから博多駅の場合を例に出したのですが、九州に行って博多駅に行きますと、まわりはたんぼでバタ屋がいたところに、今度はりっぱな駅ビルが立つわけです。その場合に、八条の二の条件の変更の問題が出てくる、その場合の鑑定委員会というのは、常識的な判断でいいかどうか、やはり相当鑑定料でも——これは当事者から、相当の値上がりだから地主がかってにいかぬということになれば、小作人に対しても、坪何万円という金が入れば、それは田の草をとってやるよりよっぽどいいから、紳士になるわけですが、そういうような問題が起きたときに、はたして公平な鑑定が日当の鑑定人でできるかどうかということを心配するわけです。この法律ができれば、七月一日から施行されるわけでしょう。ですから、そういうような点も考えられた上で、私はこれは老婆心でもないと思うのですが、この法の施行、運営の問題について裁判所はよほど考えがなければ——この法律簡易裁判所で取り扱うというのでしょう。簡易裁判所の判事というのは定年を過ぎた裁判官かあるいは書記官その他あがりの裁判官でしょう。この裁判官において、はたして非訟事件としてのこの取り扱いができて、さらにそういう鑑定人の選任その他について、はたして現在の時世に適応したものが得られるかどうかという点について、大きな疑問を持つのです。少なくとも法律案を審議するにあたっては、提案者とその運用にあたる裁判所においては、やはりその所見があってしかるべきだと思うのです。そういう意味で聞いておりますから、法務省と裁判所からひとつ所見を承っておきたい。
  65. 新谷正夫

    新谷政府委員 博多駅前の、土地の状況の激変しておるところにつきまして、すでに建物を所有するための賃貸借関係が存在しておりますと、建築いたします建物の種類、構造によりましては、この場合の八条の二の規定が動く場合も考えられるわけです。この場合に、はたして地価の値上がりのはなはだしいところに法の適用をいたしますときに鑑定委員会のみの関与で十分であるかどうかということでございますが、先ほど来裁判所のほうからも御説明がございましたが、いろいろの土地の地価の鑑定というふうなことのみならず、この非訟事件裁判をいたしますにつきまして、付随の裁判をいろいろ行ないまして、当事者間の利益の衡平をはかる措置をとっております。こういった措置をとるにつきまして、専門家あるいは法律家もまじえました鑑定委員会の意見を聞いて妥当な結論が出るようにというのがこのねらいでございます。専門的な厳密な意味での土地の評価というふうなことになりますと、ものによりましてはこの鑑定委員会では十分でない場合もあり得るわけでございます。そこで、非訟事件ではございますけれども特に証拠調べの特別の規定を設けまして、当事者申し立てによりあるいは裁判所職権によって民事訴訟法手続による証拠調べをいたすことができるようにいたしたわけでございます。その一つといたしまして、鑑定を命じて訴訟上従来行なわれております厳密な意味での鑑定の結果を考慮に入れてこの非訟事件裁判も行ない得る、このようになるわけでございます。したがいましてこの鑑定委員会のみではなく、本来の鑑定もあわせて行ない得るという措置を講じたわけでございます。  それから、この法律が通過いたしますと七月一日に施行されることになるので、裁判所の態勢がはたしてそれで間に合うのかという御趣旨の御質問でございますが、これは附則の第一項にございますように、原則として七月一日から施行することにいたしておりますが、これは非訟事件の新しい裁判制度に関するものはただし書きで除いてございまして、七月一日から施行されますのは地代家賃増減請求あるいは借家権の承継の問題、地上権の新しい規定、これは空間と地下の特殊な範囲の地上権を新設しようというわけでございますが、その問題と、それから建物保護法の一部改正、その点が七月一日から施行されるわけでございます。あと訴訟上の非訟事件による非訟事件手続を導入いたしました点につきましては、その先でさらに施行期日がきめられるわけでございまして、その実施されますのは、ここにも書いてございますように「公布の日から起算して一年をこえない範囲内において政令で定める日から施行する。」こうなっております。したがいまして、非訟事件関係規定が動き出しますのは、予算年度で申しますと来年度以降になる予定でございます。裁判所におかれましても、その間に来年度のいろいろの措置を講ぜられましてこれに対処しようという考えでございます。  それから簡易裁判所の管轄に属さしめることは事案によっては適当でないのではないかという御意見でございます。確かにそういう場合もあろうかと思いますが、これは新設いたしております十四条ノ二の規定のただし書きにございまして、当事者合意がありました場合にはその不動産の所在地の簡易裁判所で管轄することを妨げない、こういうふうにいたしてございます。したがいまして、当事者合意がないのに簡易裁判所で処理されるということはないわけでございます。すべての事件簡易裁判所で処理されるということになりますと、ものによっては適当でない場合も確かにございましょうけれども、これは当事者合意がある場合だけに限られておりますので、合意があって簡易裁判所で処理される分におきましてはこれは差しつかえないもの、かように考えるわけでございます。
  66. 菅野啓蔵

    ○菅野最高裁判所長官代理者 事件の進行におきまして妥当な結論を得ますために、鑑定委員会の意見を聞くだけでは足らない事件がございまして、当事者の費用の負担による鑑定委員を使わなければならない場合があるであろうということにつきましては、法務省と同じ考えでおるわけでございますが、そもそもこの鑑定委員相当な人数の、しかも相当な方々を得られるかどうかということにつきましては、極力努力はいたすつもりではおりまするけれども、そうたやすいことではないというふうに考えております。しかしながら、現在も罹災都市の借地の臨時処理法におきまする鑑定委員というものがすでに七百名余り選任されておるわけでございまして、私どもの推計いたしております今度の借地法事件が出てきますると、約手数百人の鑑定委員を要するであろうというふうに推計しておるのでございまするが、現在のすでに七百人おられる罹災都市の関係鑑定委員を拡大するといたしましても、新しく千人以上の方を選任しなければならない。そこにいい人が得られるかどうかということにつきまして、相当の努力を要するであろうというふうに考えております。これは来年の五、六月の施行ということになりますので、その間約一年ございまするので、極力りっぱな方を選任することができますよう努力いたすつもりでございます。  なお、簡裁でこの事件をやることが不適当ではなかろうかという点の御指摘でございましたが、これも先ほど法務省からお答えがございましたように、当事者合意がなければ簡裁でこの事件を扱うことができませんのが本案でございまして、当事者に管轄につきましての合意がある事件と申しますると、先ほど私が申し上げましたように、当事者にそれほど深刻な争いのない、すなわち九条ノ二で考えますれば、借地権の譲渡自体といたしましては当事者には争いがない。まあその付帯条件と申しまするか、いわゆる名義料の額等につきまして争いがあるというような事件について、当事者で話し合ってみようじゃないかというような場合に、事件は簡裁でやってもいいじゃないかというような話し合いがつきました場合に簡裁がこの事件をやることに相なろうかと思うのでございまして、そういう場合ならば簡裁でこの事件をやっても差しつかえないのではないかというふうに思っておるわけでございます。
  67. 坂本泰良

    坂本委員 いや、そういうことなら、これは双方が、土地の所有者、賃借人で深刻な争いがなかったら、なかなか裁判所のほうに出さぬですよ。あるいは調停で片づくでしょう。だから、この当事者合意あるときはその所在地のあれだというのは——ただ私がここで心配するのは、最初契約をするとき合意をしておくのですね。そうすると、十年、十五年たった先についてはやはり情勢の変化があって困るような場合がある、それに縛られることもあるし、さらにいま御答弁のような事案なら、おそらく私は簡易裁判所に持ち出す事件ではないだろうと思います。だから、こんなものあってもなくても同じじゃないか。ただへんぴなところで、本庁の裁判所に行くのには数時間も汽車に乗るというようなへんぴなところに簡易裁判所があるところでは、それじゃそこへ行こうじゃないか、やろうじゃないかということがこれはなきにしもあらずと思うのですが、そういう趣旨ならいいのです。しかし、法ができますと、法はひとりで動き出しますから、やはりそのときの力関係によって、何といっても土地の所有者が力は強いから、借地借家人というのは力が弱いのだから、これに同意しなければどうこう言われると、つい落ちますから、そういう危険性はあるのです。当事者合意だから、それじゃ簡易裁判所でやるというのである、だから私お聞きしたわけなんです。  まだ本筋と離れておりますが、もう一つ、ついでだからこの鑑定委員会の問題でお聞きしたいのですが、これは最も重要な問題と思うわけですが、従来裁判所では、調停委員その他で、いまおっしゃったような七百名とかあるいは千名、もっと少ないところもあるでしょう。また管財人名簿なんというのは、そういうような名簿は大体幾つぐらいあるかお知らせ願いたいと思います。
  68. 菅野啓蔵

    ○菅野最高裁判所長官代理者 これも全国の裁判所が一律であるかどうか、ただいまのところ調査ができておりませんけれども、破産管財人等につきましては、東京の地方裁判所におきましては、毎年管財人の候補者の名簿というものをつくっておるようでございます。それから調停委員につきましては、御承知のように、これは毎年調停委員と構成すべき候補者というものを選任いたしまして、これも名簿というものができておるわけでございます。司法委員、参与員につきましても同様でございます。それから鑑定委員につきましても、罹災都市の関係鑑定委員の名簿というものも毎年候補者を選任いたしまして、その名簿ができております。今後この借地法改正によりまして、新たに鑑定委員が選任せられるということになりますれば、その選任の方法も、毎年あらかじめ一年の任期ということを原則といたしまして、その候補者の名簿をつくることに相なろうかと思います。
  69. 坂本泰良

    坂本委員 そこで問題は、調停委員の例をあげますと、社会党の市会議員なんか大ぜいおる都市においては、借家人の調停委員相当おるのです。ところがそうでないところは、土地の有力者とか名望家というのは、先ほど神近委員の御質問にもあったのですが、大体地主の味方とか、そういう人が多いわけです。ですから、なかなかこの鑑定委員の選任というのはむずかしいと思うのですが、従来の例によってやるつもりですか。特にこれは法務省のほうの新聞発表によると、非常に借地人のためにもなる法律である、こういうふうにいわれておりまするが、そうするならば、借地人のほうが多いと思うのです。ですからそういう点について十分考慮を払わないと、その委員によって、かえって法の運用が曲げられてくるんじゃないか、こういうふうにも思われるのですが、そういう点についての、法律が通過するにあたっての御所見を承っておきたい。
  70. 菅野啓蔵

    ○菅野最高裁判所長官代理者 この法律によりますと、第十四条ノ五で、鑑定委員の選任は地方裁判所がするわけでございます。これは従来の調停委員の選任の方法と同じわけでございまするが、私どもといたしましては、やはり選任の基準というものにつきまして、通達なり通知なり、そういうもので一応地方裁判所にその基準を示さなければならないものと思っておりまするが、その際はその借地条件変更あるいは借地譲渡の承諾あるいはそれに加えまする付帯条件ということが、借地人、地主双方に公平にまいるような人たちを選任するような基準というものを、要するにその社会あるいは経済、その土地事情というものにつきまして、いわゆる常識を持っている方々が選任できるよう、そういう基準をつくってまいりたいと思うわけでございます。具体的な選任につきましては、これはいまの調停委員の選任の方法と同じように、地方裁判所が具体的にどの人を選ぶということには相なろうかと思いまするけれども、私ども事務当局の者といたしましては、その選任が具体的に公平になるように、適正な人を得られまするような基準をつくってまいりたいと思っております。
  71. 坂本泰良

    坂本委員 まだ鑑定機関の問題については、あとで逐条のとき質疑しようと思ったわけですが、たまたま重要な問題で神近委員の関連質問があったものですから触れました。  それで、休憩前に、われわれが一番重要視しております、最初に申し上げました訴訟事件と非訟事件についての見解を整理して、それから休憩にしてもらおうと思うのです。    〔大竹委員長代理退席、委員長着席〕  そのあとで、やはりこの問題について一番重要なのは、いわゆる賃借権たる債権物権と同一な権利になるかどうか、その点はやはりどうしてもこの法案が通過するについてはただしておかなければ、施行になって直ちに問題が起こると思います。ことに鑑定委員の問題でも、やはりその問題が起こるところ、これは新しく土地の値上がりをするところ、それから急激に繁華になるところ、また農村といいましても市町村の工場誘致法によって工場誘致をされたような場合についての土地の大きな変動が、現在も起きつつありますが、今後も起こる危険性がある。そういうときに、ここに法律案が予定している第八条ノ二の変更賃借権の譲渡、転貸の承諾とか、それから残存期間の問題、譲渡の問題、転貸の問題等が多く起きてくるのは、そういうような急激に土地が値上がりをした、坪千円くらいのが数十万円あるいは百万円にも達するような値上がりをしたところについてこういうような問題が起きてくると思うのです。ですから、その際についてはやはり十分法の施行の際の問題も配慮して、十分の審議をしておかなければならぬと思うのです。だから私は非訟事件である訴訟事件について、従来、借地借家関係訴訟事件として当然のごとくずっとやっていたのを、今度非訟事件に本質上変えてしまうというところで、やはりその点については十分論議をしておかないと、やはり法律ができてひとり動きをしたとき、学者の見解とかそういうようなものだけにまかしておけない、やはりわれわれは公務員として法案の審議について重大な責任をもってこれを審議しておかなければならない、こういうふうに考えるわけなんです。  そこで、私は訴訟事件か非訟事件の問題で、これは既判力の問題で大きく関係すると思うのですが、私いまちょっと集約してみたのですが、この訴訟事件と非訟事件区別について、大体大きく三つに学説が分かれておると思います。  その第一は、民事訴訟形成関係ですね。これは訴訟になれば形成訴訟が主と思うのですが、この民事訴訟形成による私的利益の促進が民事訴訟であり、形成訴訟はしたがってこれは非訟事件に全部なってしまうんじゃないか、こういうふうに考えますと、これだけを非訟事件に取り扱うのでなくて、その他多くの形成訴訟関係は非訟事件に全部入ってしまうんじゃないか、こういうふうに考える点が第一。  それから第二は、これは普通国家作用の性質による区別といわれておりまして、訴訟は法規により抽象的に予定されたのを適用して、そうして紛争解決する民事司法権である、いわゆる民事司法権の行使である。非訟事件は端的に私人間の生活関係に介入するため、命令処分することを目的とする民事行政処分でないか、これが非訟事件である、こういうふうに区別すること。  それからもう一つは、これは安易な問題と思いますが、実定法によって法律できめられておるからこれは非訟事件である、あるいは訴訟事件である、非訟事件訴訟事件の本質を無視して、いわゆる実定法できめるからその区別をするんだ、いわゆるこれは実定法説だと思うわけですが、その三つに区別されると思います。提案者は、この訴訟事件を非訟事件と今度法律上の規定でされるわけですが、この三つのうちのいずれを重点にして、いずれをとってこの法律を提案されたかどうか、その点を承っておきたい。
  72. 新谷正夫

    新谷政府委員 ただいま三つの考え方についてお述べになったわけでございますが、従来形成訴訟として民事訴訟によって解決しておったものを、この際全部非訟事件手続によって処理するということを考えておるのではございません。これは事柄が全然別個の問題でございます。端的に申し上げますと、この八条の二の関係におきましては、条件を無視して借り主無断で堅固の建物を建てたという場合には契約違反になりまして、その契約違反理由として貸し主契約解除いたしますと、そこに争いの余地が生ずるわけであります。それによって賃貸借関係が従来どおりあるのか、あるいはすでに解除によって消滅したのかという争いが起きました場合に、これを賃貸借関係存否を確定するのが民事訴訟でございます。形成訴訟の場合には、あとで出てまいりますが、たとえば地代、家賃の増減請求でございます。これは実体法上の請求権の行使によりまして、私人が相手方に対してその意思表示をいたしますと、当然に法律上その新しい法律関係形成されるわけであります。これは従来地代が一万円であったものが、意思表示によって客観的な相当の額に当然値上げされるわけでございます。すでにその意思表示によって法律関係形成されているわけであります。それを当事者の間に一万五千円ということに争いがございますと、それは具体的には幾らが客観的に相当の額であるかということを確定しなければならない。そこで裁判所にその形成権を行使した結果の法律関係の確定を求めるのがこの訴訟でございます。したがいまして、民事訴訟でやります場合には、当事者主張しておる法律関係があるのかないのかということを確定するのが目的でございます。そういうものを非訟化して非訟事件手続によって今回全部処理しようということを考えているのではございません。八条の二の関係について、また繰り返しになりますけれども、条件をこういうふうに変更してこれから堅固な建物を建てたい、無断でやったのではないのですけれども、これからそういうふうに条件を変更してもらいたいという希望がありますときに、相当の場合にはその条件を変更してよろしいじゃないか、将来に向かってその条件を変更いたしまして、堅固の建物が建てられるように、借り主の利益も考えなければならぬわけでございます。そういう場合に法律上は紛争はないのであります。賃貸借そのものの存否には争いはないのですけれども、その条件を将来に向かって新しく形成変更していこうという場合に国家がそれに介入していこうというわけでございまして、従来の賃貸借関係そのもの存否を争って民事訴訟解決している問題とは全然別個の問題でございます。したがいまして、最初申されました形成訴訟を非訟事件化するのではないかということを考えておるわけでは毛頭ございません。今回非訟事件で認めようとしました事柄はすべて従来訴訟では解決できなかった問題でありまして、訴訟以前の問題を非訟事件の形によって、早く予防的に解決しようというのがねらいでございます。  それから第二点の、民事訴訟既存の事実関係国家が法規を適用して、その法律効果の判定をするのが民事訴訟であり、私法上の生活関係に国が介入して行政処分的に裁判所が処理するのが非訟事件である、こういうふうにおっしゃいました。これはまさにそのとおりであろうと思います。今回非訟事件として取り上げました問題も、借地借家問題について国が公権的に合目的的な見地から、この法律関係の合理的な形成訴訟変更関与していこうというわけでございまして、そういう意味で、この第二点でおっしゃいましたような趣旨で、今回の非訟事件を認めようというわけでございます。  それから第三点の、これは法律規定があるかないかという形式的な区分でございますが、こういう考え方も確かにございますが、法律によって非訟事件によるということになりますれば、これは当然非訟事件になるわけでございます。問題はその実体がどうかということであろうかと思います。実体はいま申し上げましたように、法律関係があるかないかということの争い解決するのが民事訴訟でございますけれども、今回の新しく認めようとしております非訟事件は、それ以前の問題といたしまして、紛争を防止するためにあらかじめ法律関係形成変更に国が関与していこう、こういう趣旨でございます。
  73. 坂本泰良

    坂本委員 何か賃借権物権化の問題は重要な点があるわけですが、ひとつ休憩をお願いいたします。
  74. 大久保武雄

    ○大久保委員長 午前中の議事はこの程度にとどめます。午後は二時半から委員会を再開することとし、この際休憩いたします。    午後一時十分休憩      ————◇—————    午後二時五十三分開議
  75. 大久保武雄

    ○大久保委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  借地法等の一部を改正する法律案に対する質疑を続行いたします。坂本泰良君。
  76. 坂本泰良

    坂本委員 借地借家法等の改正につきまして、賃借権、いわゆる債権物権化の問題について若干お尋ねしたいと思いますが、昭和三十四年十二月の借地借家法改正準備会におきまして、借地借家法改正要綱試案というのが発表されておるわけであります。これには「わが国の借地借家制度は、民法のほか、建物保護法・借地法・借家法・罹災都市借地借家臨時処理法その他の特別法によって定められているが、この試案では、これらの特別法に代えて単独の借地借家法(借地借家法案要綱。以下、法案要綱という。)を制定し、同時に、現行制度に大幅な改正を加えるとともに、この改正に伴う関係法律の改廃及び所要の経過的措置借地借家法施行法において定めることとしている。」この試案の大綱が出されまして、この中には賃借権たる借地権は抵当権の目的とすることができるとか、その他の意見がありまして、いわゆる借地権を物権化するという試案が出されておるわけですが、今回のこの改正案については、この点についてどういうような見解をもってこの改正案を出されておるのか、その点を承りたいと思います。
  77. 新谷正夫

    新谷政府委員 昭和三十年ごろから特に戦後の借地借家関係紛争が非常に多くなってまいりました事情にかんがみまして、現行借地借家法がこのままでいいかどうかということを検討する必要があろうということになりまして、借地借家法改正準備会というものを設けたわけでございます。これは法務省の研究機関といいますよりは、法務省の担当官も入っておりますけれども、むしろ学者を中心にいたしましてその準備会なるものをつくりまして、そこで将来一応考えられる構想というふうなものを試案的に研究してみたらどうかということからあの準備会ができ上がりまして、昭和三十二年に一応ごくアウトラインのようなものができまして、三十四年の十二月に要綱試案という形でこれが発表されたわけでございます。しかし、準備会そのものがただいま申し上げましたように、法務省として正式にこの準備会をつくってというものではございませんで、民事局の担当官と一部の専門の学者の方々の集まりとしてそういう準備会をつくったという経緯にございまして、そのでき上がりました要綱試案そのものが、局の案でももちろんございませんし、法務省といたしましてもその要綱試案をそのまま受け取るかどうかということも考えていなかったわけでございます。いろいろ権利義務関係に重大な影響が及びますので、慎重にも慎重を重ねまして、一応要綱試案という形で一般の意見を求めたというのがそれまでの経緯でございます。  この要綱試案によりますと、現在ございます物権でありますところの地上権あるいは債権であります賃借権、こういったものを一元化して全部物権にしたらどうであろうかというふうなこととか、あるいは対抗要件が現在まちまちになっておりますこういったものを、登記という方法で統一したらどうであろうか、あるいは存続期間を一律に定めたらどうであろうか、そういった問題を取り上げたわけでございます。これは、もちろん中心になりますことは借地権の譲渡が自由に権利者の意思に従ってできるようにというところに一つのウエートがあったようでございまして、そういう観点から債権である賃借権物権にしようということが一つの大きな骨子になっていたようでございます。しかし、先ほど申し上げましたように、この案が直ちに法務省の案というわけのものではございませんで、行く行く法制審議会にはかりまして、借地借家法というものは将来どうあるべきかということを考えます一つの資料といたしましてこういったものができ上がったわけでございます。法務省におきまして法制審議会に諮問をいたしまして、緊急やむを得ない範囲のものをとりあえず立法化して、現状の不備を補ったらどうかということから作業が始まりまして、今回提案いたしましたような内容のものにまとまったというのが従来の経緯でございます。  借地権を一律に物権化することにつきましては、これは非常に重大な問題でございまして、現在大部分の僻地権が債権である賃借権によって構成されているという事実でございますし、またそれを物権にいたしますにつきましては、いろいろ問題もあるわけでございます。また、現に債権でない、地上権という物権で行なわれているものもあるわけでございまして、現行法の借地権というものを直ちに一律に物権としての借地権に改めてしまうのがいいか悪いかということは、早急に結論を得られない非常に困難な問題でもあるわけでございます。そういう意味で、今回法制審議会の結論として出されましたのは、その物権化という問題には触れないで、しかも土地の有効な利用、合理的な利用をはかり、同町に借地人と貸し主の間の法律関係の合理化もはかる、同時に借地権者の投下資本の回収を合理的にできるようにするにはどうしたらいいかということを考えまして、今回の法案の中にその一部を織り込んだわけでございます。物権化ということも、確かに一つ考え方であろうと思いますけれども、政府といたしましては、法制審議会の答申にございますように、現在の債権である賃借権前提にいたしまして、その間に生ずる不都合を除去するために今回の法律改正考えた次第でございます。
  78. 坂本泰良

    坂本委員 そうしますと、この借地借家法改正準備会というのは、法務省の中の準備会ではないのですか。なお、あわせてそのメンバーのおもな人をお聞きしたい。
  79. 新谷正夫

    新谷政府委員 法務省の研究機関という趣旨ではなかったように私承知しております。これは法務省として、そういう結論を直ちに受け入れていいかどうかという問題、これはどういう結論が出るかわからない状況下におきまして、そういう準備会というものをつくりまして、法務省の担当官と学者の一部の方の集まりで一応研究してもらおうという趣旨でできたものでございますので、法務省の研究機関というほどのものではなかったように私承知いたしておるわけでございます。
  80. 坂本泰良

    坂本委員 いや、それはちょっと違うんじゃないですか。そういう性質もわからずに、メンバーもわからぬというのでは——せっかく画期的な借地借家法改正要綱試案が出ておる。これは、私は法務省の機関としてできて、そしてそのメンバーに法務省キャリアも入り、学者も入って、そうしてできたものじゃないかと思うのですが、その点どうですか。
  81. 新谷正夫

    新谷政府委員 私も当時民事局におりまして、直接関係はいたしませんでしたけれども、その経緯は記憶がございます。法務省の何か正式の機関というふうな形でむろんできたものじゃございませんで、従来法制審議会におきまして、いろいろの問題を審議をしてまいりました経緯もございまして、その中の専門の方々と法務省の担当官の集まりをひとつつくって、そういったいわば非公式の研究組織でございますが、こういうもので一度研究してみたらどうかという程度のものとしてこれが発足したわけでございます。したがいまして、これが昭和三十二年にその試案のさらに要綱と申しますか、問題点というふうなものをとりまとめたものを各方面にお示ししまして、意見を求めたことがございますが、その際も、法務省民事局としてやったのではなくて、法務省の民事局の参事官室で担当官が中に入っておりましたので、法務省として将来これを研究する上の参考にしたいという意味で、その問題点を各方面にお示しして意見を求めたという経緯がございます。昭和三十四年にこの意見を求めました場合も、やはり同じような形をとっているわけでございまして、民事局として正式にこれををやったという趣旨のものではないように承知いたしているわけであります。
  82. 坂本泰良

    坂本委員 そうしますと、この当時は、法務大臣の諮問機関の法制審議会はもうすでにあったわけですか。あるいはこの当時は、それと並行してこれがあったのではないかと思うのですが、その点いかがですか。
  83. 新谷正夫

    新谷政府委員 法制審議会は、これは戦前からあった組織が、戦後そのまま承継されてできているものでございます。この借地借家法の改正につきましては、法制審議会としては、その当時正式に取り上げておりません。非常に重大な問題でございますので、一応考えられる問題点をピックアップして整理してみようという程度のものと私は承知しているわけであります。したがいまして、これが法制審議会の意見であるとか、あるいはそのままの案で法制審議会に諮問したとか、あるいは法務省の案としてこれを取り入れたというような事実はないのでございまして、あくまでも先ほど申し上げましたように、関係の担当者の研究組織としてそういう集まりができて、そこで研究した結果、こういうものができた、こういうことに御理解をいただきたいと思うわけでございます。
  84. 坂本泰良

    坂本委員 そうしますと、今度の当法案の立案にあたりましては、この点は全然考慮を払わなかったのですか。さらにまたいわゆる物権化の問題については、いろいろと検討された結果、先ほどの御答弁のように、まだ賃借権たる債権としての上においての法案改正だ、こういうようになると思いますが、そのとおりですか。
  85. 新谷正夫

    新谷政府委員 大体そのとおりでございます。先ほども申し上げましたように、法制審議会におきましても、この物権化の方向でいくのにはいろいろ問題もありますし、早急に解決しなければならない問題がございますために、そういった根本的な問題には触れないで、現在の改正案のような内容を答申としていただいたわけでございます。したがいまして、法制審議会にこの要綱試案というものが参考に出されたことは事実ございますけれども、それをそのまま法制審議会の意見として取り入れるとか、なんとかいうことはなされなかったわけであります。こういうものも参考にしながら借地法、借家法の問題点をどう解決したらいいかということを法制審議会として検討されたわけでありまして、これを全然考慮に入れなかったというわけではございませんが、あの要綱試案のような内容のものは一挙にできるものではないし、またいろいろ各方面の御意見もあることでございますので、そういうことを念頭に置きながら最小限度の改正案ということで、今回の案のような答申が出たわけでございます。
  86. 坂本泰良

    坂本委員 そうしますと、賃借権地上権を一緒にして、簡単に言えば、いわゆる賃借権の本質を持ってきた地上権ですか、そういう賃借権地上権を一緒にして一つ物権として、そうして抵当権の目的とするということもあるようですが、賃借権が、現在のように経済的にも相当価値があるようになってきて、その譲渡を認めるということになると、他の物権より以上に経済的価値と申しますか、そういうのが出てくると思うのですが、そういう点については全然考慮を払わなかったかどうか、その点を承っておきたい。
  87. 新谷正夫

    新谷政府委員 確かに、おっしゃいますように、賃借権そのものの価値というものもあるわけでございまして、これを担保に入れることができますれば、これは賃借権者にとっては非常に好都合なわけでございます。しかし、その前提といたしまして、これをまず物権にするかしないかというところに前提の問題があるわけでございまして、それを解決いたしませんと、直ちに賃借人の意思のみによってこれを担保の目的にするということも困難なわけでございます。賃借権物権にするかどうかということにつきましては、先ほど申し上げましたように、いろいろ重大な問題がございまして、この際そこまでやるのは相当でないという法制審議会の結論でもございましたので、現行法をもとにいたしまして、しかも賃借権の譲渡、軟貨について生ずる不都合をできるだけ公平に解決できるようにということから、九条ノ二のような規定を設けまして、その間の調整をはかろうといたしたわけであります。
  88. 坂本泰良

    坂本委員 しつこいようですけれども、問題は土地賃借権の問題ですね。現在でも、債権たる賃借権があって、そこに家屋を建築して、そしていわゆるみずから商売その他に使っておる、そういうような場合は、今度の高速道路の建設等にあたって土地が買収される場合は、高速道路その他の道路公団の関係は、買収がどういうふうになっておるか、いまちょっと覚えておりませんが、大体、民間の土地借地権でも、その土地を売買する、たとえば借地人が所有者からその所有権を買い受ける、こういうような場合は、大体東京あたりは七分、三分ですね。たとえば一坪三十万円の売買価格と見ますと、土地借地権者のほうが二十一万円、土地の所有者のほうは九万円、いわゆる七分、三分というような関係にある。九州とか北海道でも、函館とか門司、そういうところにまいりますと、やはり土地の貸借権者が六割で、所有者が四割だ。さらにまた、もう少しほかの熊木とか、あるいは札幌——北海道のほうはよくわかりませんが、そっちのほうにまいりますと、地主と借地権者は半々だ、こういうようなことで、実際上は賃借権が現在債権でありながら、そういう価値を認めておるわけです。ですから、先ほど申しましたように、貸借人がその土地を買い受ける場合は、坪幾らときめて、その七割を賃借人、土地の所有者が三割、今度は逆に土地の所有者が土地を賃貸して、そしてそこに賃借人が家を建てておる場合、それをさら地にして、そして土地の所有君が、自分が建築をしたい、ビルディングをつくりたいというときは、やはりそういうような割合で賃借人に支払ってやるというのが、現在の実情じゃないかと思うのです。私なんかも、二、三そういうのに関係したことがありますが、そういうような状態になっておるし、さらに貸借権も含めたその土地の価格というのが、十万、二十万どころではない、五十万、さらには百万というふうに値上がりをしているという現在の状態において、やはりそういうような場合においては、私はこの試案は最も適切なものであって、やはりこういうような訴訟事件を非訟事件にして解決をするというような改正をやる場合においては、さらに、その前提としては、やはり地上権賃借権を一緒にして物権として取り扱い、さらにそれを抵当権の目的物にする、そういうことになると、土地賃借権者が単にそういういま一、二の例を私があげましたときの収益だけでなくて、土地の賃借人に対してもやはり非常な経済的の効果がありまして、担保にやると金融の目的物にもなる、こういうことになるから、やはりこの改正案考える場合には、当然そういう点も配慮しなければならない。そのことが全然議論も法制審議会の過程でなかったといえば、あまりにもこれは土地の所有者保護に堕して、そうして賃借人の権利については実質を無視した、権利を認めないものであり、ただその一部をこの改正案であらわしておるにすぎない、こういうふうにも考えられるものですから、その賃借権物権化の問題については、何か真剣に討議されることがしかるべきであるし、もしもそういうのが討議されていないということになれば、この現在の実情を無視した審議会の行き方ではなかろうか、こういうふうにも思うわけですが、その点いかがでございましょう。
  89. 新谷正夫

    新谷政府委員 賃借権の譲渡が一番問題になりますのは、賃借人がその借地上に建物を持っていまして、その建物が抵当に入っておるような場合に、抵当権の実行によって建物の所有権と同時に賃借権が移転しなければならないという事態に立ち至る場合でございます。これが事例としては一番多いだろうと思います。また、借地人の側にいたしましても、自己の投下資本をそれによって回収できる道が開かれるかどうかということも、その賃借権処分が自由に行なわれ得るかどうかということにかかるわけでございます。そういう意味合いにおきまして、確かに賃借権物権になりますれば非常にすっきりといくことは、もう御説のとおりだろうと思います。しかし、現在の土地賃貸借というものが、債権契約によってできておりまして、もっぱらその人と人との信頼関係の上に立ってできておるということになっておるわけであります。これが現在のわが国の土地の貸し借りの大部分を占めておるのが、実情でございます。こういった状況下にある債権を一挙に物権にしてしまうということが、そもそも大きな問題でございます。それはどういう技術的な方法考えたらいいのか、そういう点についても、まだ十分研究を必要とする問題であろうと思うのでございますけれども、さしあたってそこまでやるということは、現在の状況下におきましては、なかなか困難の伴う問題でございます。さればといって、賃借人が借地上に建物を持っておって、それを必要に応じて処分しなければならない、あるいは担保に供さなければならないという場合に、貸し主の恣意のみによってそれが押えられるということになりましては、これは借り主にとりましても非常に迷惑なことであります。そこで、物権にするにはいろいろ問題がございますのでちょっと困難でございますけれども、特に貸し主にとって不利となるような心配もないにかかわらず、貸し主がそれを承知しない。上物の譲渡、それに伴う賃借権の譲渡、転貸を貸し主が承諾しないということでありますと、これは貸し主にとりましても非常に不利益であります。そこを解決する方策といたしまして、九条ノ二の規定を設けまして、裁判所衡平見地からその賃借権を譲渡できるかどうか、また譲渡の承諾を与えるべきかどうかということを判断することにいたしまして、現在の債権である借地権によって生ずる不都合をこれによって最小限度除去していこうと、こういうことを考えたわけでございます。物権化ということは、非常に重大な問題でございまして、今後の問題に残されるわけでございますけれども、現在の現実を私ども考えまして、とり得る措置といたしますれば、今回の九条ノ二に定められたような方法が最も妥当な措置ではないか、このように考えておるわけであります。
  90. 坂本泰良

    坂本委員 そこで、賃借権債権とは信頼債権である、こう言われますけれども、やはり学者のいろいろの本なんかを見ると、土地の所有者は、現在ではそれを自分の土地だから自分が使用するということはある一部であり、たくさんの土地を持っている人はやはり貸すのだ。貸した以上は、その土地の所有者は賃料を取る。いわゆる賃料についての収益が土地の所有者の唯一の目的になるわけです。それから社会的な発展というのは、地主というのはじっとして何にもやらずにもうける。ことに現有はなはだしいのは、駅ができる。できれば、たんぼが何千倍、何万倍になる。これは不当利得ですよ、社会的に考えますと。そういうようなものではなくて、もう人に利用させるために貸した以上は、その経済的な価値は賃料の収益だ。その収益をその土地の所有者が取る。したがって、もう民法ができた当時の賃借人の信頼によって土地を貸すということは、二十年、三十年も昔のことで、現在においては地主と土地の所有者というのは、だれが使おうと——甲が使おうと、丙が使おうと、だれが使おうと、その賃料を取ればいいんだ。それがいまになって賃借人の関係は信頼関係があると言うのは、私はおかしいじゃないかと思うのですよ。しかしながら、そういうことを法務省でも言うものだから、いよいよそれじゃ家屋ですよ、賃借地の上に所有している家屋を担保に入れるときは、銀行とかその他は必ず地主の承諾の判をもらってこいと言うのです。そうしないと、この価格を百万円に見ても、承諾書があれば八十万貸していただける。承諾書がなかったら三十万か四十万しか貸さない、こういうことになるわけです。それだから、承諾をとるためには地主に対して若干の判こ料をやらなければならぬ。それが東京、大阪あたりの、そういった五大都市の実情じゃございませんか。いわゆる地主が書きかえ料を取る。法律上は禁止されておるけれども、書きかえ料を取る。そういうふうで、ただ信頼関係ということだけでやると、地主の判こが要る。それから、期限の書きかえの場合は、二割か三割の書きかえ料を取らなければ、期限を二十年更新しない。いまこの法案で問題になっておるのは、二十年内であっても、防火建築地区に入れば、今度は堅牢な建築をしなければならぬ。そうするためには承諾が必要だ。契約解除がどうなるかという問題の救済が、今度の法律改正案であります。ですから、もう私は、いまの時代は、土地所有者が甲という賃借人に信頼関係で貸すというようなことは、これはもう昔の八十代のおじいさんが言うならば別としまして、現在の法律組織においては、もうそういうことを言う時代は過ぎておるのではないかと思うのですよ。やはりそれを前提にしてこの法律案考えれば、賛成もしなければならぬ。手ぬるいじゃないか、こういうふうにも思われるわけなんです。そこで、少なくともこの法律案をつくるについては、賃借権物権の問題を考える。そうすると、その上に建築しておる建物の担保価値よりも、その借地権自体に対する担保価値というものがそこに出てきまして、そうして経済的の利用というのが借地人に大きくなってくる。それがいろいろ判例とかその他を——判例の有利になっておるような点もいろいろとありましょう。いま申し上げたのが、私は基本じゃないかと思う。したがって、債権物権化などというと大いにとっぴなことを言うというようなことになりますけれども、実際の日本の経済的賃借権の価値の問題、あり方の問題、土地の所有者が行なうところの収益の問題、こういう点を考えると、これは物権にしても差しつかえないというのがここで出てくる。そのあらわれが、すでに昭和三十四年に、特に法務省の正式の機関ではないにしても、そこが主宰されて学者やその他の専門家の多数が協議されて、検討されて出た結論が、この改正要綱試案じゃないか。ですから、これはやはり相当権威あるものとして——官製のものであろうとなかろうと、権威あるものとして、法務省としてやる場合は尊重すべきであろう、こう思うのです。ですから、その上に立ってのこの法律改正案だ。まだ貸借権を物権とするのには時期が尚早だという点についての議論がありましたら、その議論のおもなものと、全然そういうような議論はなくてこの現在の改正案ができたかどうか、その点はいかがでございますか。
  91. 新谷正夫

    新谷政府委員 現在の借地権が、地主の側にとってみれば、単に地代を徴収すればそれで足りるというふうに簡単に割り切ってしまうという場合もございましょうし、また現実の問題といたしまして土地を貸す場合には、その相手方によって貸すか貸さないかをきめる。言いかえれば、相手方が信用できる人でなければ貸さないというふうな例も、またこれは多々あるわけであります。一がいに人的な信頼関係はもう現代の社会においてはないんだ、この借地権に関してはないんだということは、言い切れない面が多分に残っておるように私どもは理解しておるわけであります。したがいまして、民法上の賃貸借であります以上、一般債権と同様に、当然これは相手方の信用度等も考慮に入れませんと地主としては賃借権を設定しないという現実があるということは、これは十分考慮しておく必要があろうと思うわけであります。要綱試案に、一律にこれを物権化するのが相当であるというふうな考え方が打ち出されております。これは、われわれがすでにもう学生時代から学校で教わったことでございまして、賃借権物権化というのは、大勢としてはそういう趨勢にあるということを教わりましたけれども、さて現実の問題にぶつかってみますと、ただいま申し上げましたように、やはり土地賃貸借というものは、特に人的な信頼関係の上に立っておる面が多分にあるわけでございます。これを一挙に物権にするということは、現段階ではとうてい不可能なことである、こういうふうに理解せざるを得ないわけであります。さりとてその要綱試案というものを全く抹殺して、それを考慮に入れないで今回の法案ができたかということでございますけれども、そうではございません。純然たる信頼関係に立っておるのだから、貸し主の意思次第でどんなにでもなるということでは、借り主の立場も救われないわけでございまして、そういう点を考慮いたしまして、特に貸し主の不利益にならないような場合には、裁判所が中に立って賃借権の譲渡、転貸が可能なように措置をとったわけでございまして、これを物権にいたしますれば事は一番簡単でございましょうけれども、現実というものは必ずしもそういうふうにはなっていないということをながめました上で、この結論が出されたわけであります。法制審議会におきましても、むろん要綱試案というものを参考資料として十分検討された結果、この結論が出たわけでございまして、政府といたしましても、法制審議会の結論を尊重いたしまして今回の改正案をつくった次第でございます。
  92. 坂本泰良

    坂本委員 要綱試案を参考にされたと思いますから、賃借権の対人信用関係というものは、私はもう考慮する必要はないと思うのです。木造建物にしても二十年でしょう。それから今度は、防火地区の堅牢な建物は六十年でしょう。人間は、それは八十、九十で死ぬ人もあるのですけれども、平均年齢いま七十くらいですか、昔は人生五十年と言っておったのですが。ですから、貸すときのその甲なる人が、二十年後にどうなるか、さらに六十年後にどうなるかということは、これは信頼関係にはならぬと思うのです。この二十年間にどんな大きい社会変動があってきているのか。土地の価格そのものにしても、先ほど申しましたように、一反歩、三百坪たった三千円くらいの田地がすでに三億円、こういうことになって、その地主の人はそれだけの地主になっている、こういわれる時期でしょう。ですから、こういう社会的な変動をするのには、ただじっとして土地を持っているだけの努力で、そういう価値が上がるものじゃないのです。社会的の変動に加えて、やはり国民大衆の努力によって、国の興隆に関係してその土地の価格が上がるというのが、問題になってくるのです。したがって、土地の所有者一人にそういう利得を与えるべきものじゃない、これは当然のことだろうと思う。しかもまた、二十年、三十年間この土地を貸す以上は、所有者というものは、地代さえ払えば、解除はできないわけでしょう。貸しておかなければならない。また判例によっても、自分みずからが使うかその他正当な権利のある場合以外は、従来の人に貸しておかなければならないというようになっておるわけでしょう。こういうことを考えますと、賃貸借のいわゆる信用関係というのは、必要ない。ただ、税金その他周囲の状況等によって地代が上がれば、上げなければならぬ。上げて、その上げるだけの収入を得ることが、現在所有者の一つの所有権の内容になっているわけでしょう。ですから、そういうようなときになって、特に土地賃借権の問題について地上権と同じような物権として法制化するということは、当然のことではないだろうか。したがって、本法案改正にあたりましても、もう一歩進んだそこまで検討をして、将来やるべきものかどうか、時期尚早だから今回はこの段階にしておく、こういう問題は、当然私は立案者としては考慮に入れるべき問題だし、大いに問題にしなければならなかった点だと思うのです。法務大臣、こういう点について、この法律案改正にあたっての御見解はいかがでございますか。
  93. 石井光次郎

    ○石井国務大臣 いままで坂本君と新谷君とお話し合いされましたように、この問題がこういう形をとりまして成案として出てくるまでにはいろいろないきさつがあったわけでございますが、いまおっしゃるように、この賃借権の問題を物権として扱うようになるかどうかという問題であります。これはただいま、それではそういうふうにするのだということをここでお約束するわけにもいかないのじゃないかと思うのです。こういう問題も、一つの命題として取り上げて研究もしたわけでございますが、しかし、今日の場合としてはまず差しあたってこの程度にということで出したわけでございます。かといって、これがやらぬとも申し上げられないし、やるとも申し上げられないというのが、実際の状態でございます。これから大いに研究して、世の中の情勢の——あなたは世の中はもう変わっておるのだとおっしゃるんだから、そのようにこれから先も変わっていくのでございましょう。そうしますと、いまやらなければならぬということになると思いますが、ただいまのところは、私はどうともはっきり申し上げられない。
  94. 坂本泰良

    坂本委員 私の考えでは、すでに土地賃借権というのは、物権地上権と同じに物権としても差しつかえない状態にきているのじゃないか。もちろん賃料の支払いは厳格にしまして。そうしたことが、土地賃借権としての、物権としての担保価値がある。さらにまた、その上の建物を持っておれば、その建物としての相当の価値が出てくる。そうしないと、現在では、先ほどちょっと申しましたように、この借地上の建物を担保に入れる際には、その所有者の承諾書をとってこなければならない。そうすると、そこに、裏にいろいろの取引が行なわれる。だから、借地権はどんどん上がって、いま七分三分の状態で、所有者の権利は三割であって、借地権が七割じゃないですか。書きかえ料を何万円出しなさいというと、やはりその家屋の担保価値というものが承諾者の判があるとないとで数十万円、あるいは大きいのになれば数百万円違ってきますから、そこで十万、五十万の金はめんどくさいからやって、その利用価値をよけいにして、銀行から金を借りてやったほうがいいんだということで、取引が裏に行なわれる。それから増改築の問題では、契約解除をやっておいて、そうして今度、解除を取り消すからあと十三年間その賃借権を認めようというところで、そこでやはり坪何万円とか、あるいは場所によっては数十万円の金が取引されまして、そうして正当な商人がマージンを得るよりも、また生産業者がその生産工程のいろいろな費用を出して純利益をあげるものよりも、地主は不当な利益を得てやっておるのです。そうして、そういうものをおもてに出さずにおいてくれ、そうすると、税務署は知らぬから税金の対象にならぬということで脱税が行なわれる場合がある。現在の世の中においては、すでに賃貸借関係は、賃借人の信用関係などということは、もう時代が過ぎているんだ。すでに物権化して、そうしてやったほうが、経済的の利用価値も、また国民全部の取引関係のためにもなる、こういうような時代がいま来ているのじゃないかと思うから、善意に解すれば、その橋頭堡としてこの法律改正案が出るのだと考えるけれども、また一方、考えれば、なんだ、こんなだらしのない、なまぬるい改正案だけでなくて、もっと現在の取引の実情、社会の情勢に合うような物権化というような、この大きい考えの上に立ってやるべきが、現在地主の横暴ということはどこでも言われておりますから、そういう社会的是正のためにもなるんじゃないか、こういうふうにも考えられるから、御所見を承ったようなわけですから、これから大臣、研究するんでなくて、もう実情はこうあるということをもう少し検討されて、大臣の在職中にでも、やはりもっとこの法律案をつくるべきじゃなかろうかとも私は思うわけですが、御所見はいかがですか。
  95. 石井光次郎

    ○石井国務大臣 ただいまお答え申したことと同じことを申すようなことでございますが、この問題につきまして、さっきもお話のありましたように、私のほうの関係、これに研究いたしておる者やら、学者たちやらの、非公式でありましたが、準備会でいろいろ研究しておりました。その中には、あなたのおっしゃっておったような物権問題等も取り上げて、これを世の中に問うというような形で持ち出したという状態でございました。しかし、いろいろやるうちに、これを実際にはどうやっていくかという問題になりまして、法制審議会の議に付して、これらのものを参考にいたしまして研究いたしました結果、今日の場合においてはこの程度のところが適当なところであろうという結論が出てきたわけでありまして、私ども、今日の場合においては、ここいらのところがまあまあというところじゃないかと私ども思うておるわけでございます。私がいつまで法務大臣をしておるか知りませんが、在任中に改正するということは申し上げられません。研究は必ずやっていかなければならぬ問題だと考えております。
  96. 坂本泰良

    坂本委員 時間が参りましたから、できたら、あとでもやりますが、いろいろ聞きたいこともありますけれども、最後に一つだけ……。  これは、私、ちょっと気づいた点ですが、この供託等の場合においての是正の際の問題ですが、七条にもありますが、不足額については年一割の割合による利息ですね。これは十二条の場合も「不足額ニ年一割ノ割合ニ依ル支払期後ノ利息」、こうありますが、供託の場合は、御存じのように年二分八厘なんですね。やはりその不足額の場合の利息の一割をつけるとか、そういう意味だろう、こう思うのですが、供託の利息は年二分八厘です。これをこちらのほうは一割にしたというと、多少権衡上の関係もあると思うのですが、一割にされた根拠はどこにありますか、お聞きしたいのです。
  97. 新谷正夫

    新谷政府委員 借地法第十二条第二項として掲げました規定の中に、支払い額に不足がありますときには、この不足額に年一割の割合による支払い期後の利息を付して支払う、こういうことになっておりますが、これは本来支払い期限が到来しておるわけであります。しかしながら、当事者の話し合いがつかない場合に、裁判でその値上げ額が確定いたしますまでは、借り主相当と認める地代、家賃を払っておけばそれでよろしい、こういうことにいたしたわけであります。本来なら支払い期が到来いたしておるわけでありますから、その後は遅延損害金を支払うべき筋合いのものであろうと思うわけであります。現在の市中金利が大体一割前後、また遅延損害金が一割五分ないし二割くらいのところが普通だということがいわれておりますので、そういう点を考慮いたしまして、この際の不足額に対する利息を一割というふうに規定したわけであります。
  98. 坂本泰良

    坂本委員 私は、現在の状態でこの一割というのが高いか低いかの問題じゃなくて、裁判の場合は、商行為の場合は年六分、遅延損害金、一般の場合は年五分、それから供託の利息は年二分八厘、こうなっておりますから、そういうように法の制定の上においての問題であまり区別があるのじゃないか、こういうふうに考えますので、そういう点について均衡上の問題でお聞きしたわけですが、そういう点は関係ないわけですか。
  99. 新谷正夫

    新谷政府委員 確かに、均衡上の問題があると言われますと、そういうふうにも考えられるわけでございますが、事柄が、これは本来払うべきものを払わないで、しばらくそのまま置いておくわけであります。しかも借り主にいたしますれば債務不履行の責任を免れております。そういう利点もございますので、いろいろ考慮いたしまして、一割くらいの利息をつけて払うのが双方の利益を調整するのに適当なところであるまいか、こう考えまして一割といたしたわけでございます。本来なら裁判できまりました額が、支払いあるいは供託いたしました額よりも高額の場合、借り主のほうはこの賃貸借契約解除されるうき目に立つわけであります。それをそういうふうにしないようにして、この法律関係が紛糾しないようにしよう、少なくとも裁判が確定いたしますまでは、借り主相当と認める金額を払っておけば、これによって債務不履行の責任を問わないというふうにいたしました借り主側の利点も多分にあるわけであります。そういう点を考慮いたしますと、通常の法定利息でいいのかどうか、あるいは、これは実質的には遅延損害金でございますが、そういう点を考慮いたしまして年一割といたしたのであります。
  100. 坂本泰良

    坂本委員 遅延損害金と申しましても、やっぱりそれは裁判の場合の損害金、あるいは訴状送達というのが普通だと思いますが、その前に催告なんかやっておれば、催告の日から損害金を取れることになるのです。それが、商行為は六分、一般は五分だから、それとの関係に立つと倍になる。やはり裁判でこういうような遅延損害金その他が確定する場合は、一様にすべきが一番妥当じゃないか、こういうふうに思うわけですが、そういう点についての考えはなかったわけですか。
  101. 新谷正夫

    新谷政府委員 単純に遅延損害金だけならばお説のとおりだと思いますが、先ほど申し上げましたように、これは単に不足額を払っていないというだけにとどまりませず、借り主といたしましては、この法律規定によりまして債務不履行の責任を免れ、契約解除をされる危険性もなくなっているわけであります。特別に借り主のほうに利益が及びますので、そういう意味で貸し主との間の相互の利益の均衡ということを考えますと、一割ぐらい出してもいいのではあるまいか、こういう趣旨でございます。
  102. 坂本泰良

    坂本委員 なおありますが、時間も参りましたから、次回の採決の前に、時間がありましたら、それまで留保しておきまして、私はこれで終わります。
  103. 大久保武雄

    ○大久保委員長 横山利秋君。
  104. 横山利秋

    ○横山委員 私はまず、法案とは直接に関係ありませんけれども、この機会に、民事局長はたぶん百も御存じのはずでありますから、法務大臣にぜひともひとつお骨折りを願わなければならぬ二、三の問題についてお尋ねをしたいと思います。  同僚諸君とともに、あしたは日本橋並びに芝の登記所へ勉強にいくことになっております。何か聞くところによれば民事局長は御都合があるそうで、法務大臣はやはりお出かけにならぬと思うのでありますが、私も、どういう仕事をやっておるか、どのくらいの件数があるかということをずいぶんいろいろと取り寄せました。全く、見れば見るほど一驚を喫することばかりであります。たとえば、まず最初の資料を申し上げますと、全国で法務局の職員は一万人である、そして法務局採用の臨時職員が千三百六十人、ですから一割三分は臨時職員である。そこへ外部団体としての司法書士が約一万三千人ぐらい手伝っておる。それから、さらに土地家屋調査士が約二万人手伝っておる。これは窓口へ来るお客さんじゃありませんよ。仕事を手伝っているのですよ。   〔委員長退席大竹委員長代理着席〕 それから両団体の補助者、事務員が約数万である。その他市町村職員の臨時要員があるというわけでありますから、まさに、人いわく、ベトナムみたいなものである。正規軍はほんのちょこっとしかおらぬ。あと全部応援部隊で戦争をやっておるということなんであります。一万人の人間しかおらずに、数万人の人間が本来の業務に入り込んで仕事をしておるということは、極端に言うならば違法行為である。私も名古屋法務局を見ましたが、職員のおるところとお客さんのおるところとは違うのです。違うのですけれども、雑然となってしまって、司法書士が入っておる、土地家屋調査士が事務机のところに入り込んでおるので、お客さんと見分けがつかぬです。一体、法務局は正規軍で仕事ができないのでありますか。なぜやらないのでありますか。正規軍は一万人で、数万人が外国軍だ、なぜ外国軍を使うということになるのか。業務量を見ますと、これは私、特に名古屋につくれと言ってつくらしたのでありますが、これがべらぼうもないカーブです。年々歳々全部上へ上がっておるわけです。それを言ったら、これはもう人がふえました、何人ふえたかと言ったら、数人ふえました、こんなことで何が一体役に立つかと言うたのでありますが、これは一体どういう解決を将来しようとするのでありますか。正規軍で仕事をさせるということは不可能だ、法務大臣の傘下でこんな仕事のしっぷりをしておるということは、私は言語道断だと思うのです。ですから、あした行って、お願いできるならば、芝なり日本橋の正規軍は何か腕章でもつけてもらって、外国の応援団はまた何か色でも違ったようなものをつけておってもらうとかして、どうして仕事が行なわれておるかということを知りたいのでありますけれども、法務大臣は現状をどうお考えになりましょうか。
  105. 石井光次郎

    ○石井国務大臣 私も一、二カ所、登記所でございますか、それを見せてもらいました。問題がありましたから、ちょうどこの機会に見たいと思いまして、なるべく困っておるような状態のところ、それから、このごろ施設を改めたというようなところと比較のできるようにと思って、両方見せてもらいました。あなたのいまお話しのような、まことにこれで仕事をしていくのにはたいへんなことだと思うような混雑しておる状態のところを私も見ました。これはみんな法務省があげて何とかしなければならぬということは、口ばかりでなく、いろいろとやっておるわけなんでございましょうが、あなたのおっしゃるように、わずかばかりの人員の増加というようなこと等で実際の需要に追いつかないというのが実際のようだと思うのでございます。まず第一は人員を増さなくちゃならぬこと、それから施設をよくしなくちゃならぬこと、それからできるだけ機械化と申しますか、人手を省いて、そして能率のあがるようにしなくちゃならぬこと、あるところに私は参りまして聞きますと、もとは、かりにいろいろな書類を写しに来ると、申し出てから三日とか四日とかかかったのが、今度は新しいところに移ってから、行ってすぐに書類を出して、すぐ写して帰れるというような話、それがあたりまえの話で、何日も何日もかかって書類を写さなくちゃならぬというようなことであれば、ビジネスの上においては、その何日かたつうちに商売人には非常な損害を及ぼすようなことになるのじゃないか、そういうふうなことから、ぜひそういう足らぬところを、もっともっとひとつ増すべきじゃないかというようなことを私ども考えておるわけでございまして、実は今度の予算がずっと組まれたあとでございましてはなはだ遺憾でございましたが、組まれなくても微力でどうにもならなかったかもしれませんが、もう少し力を入れるべき点があったのじゃないかというようなことをしみじみ考えておるわけでございます。来年度の予算等につきまして、一ぺんではできないことも多いと思いますが、ひとつ力を合わして、諸君のお力添えもかりまして、いま申したような点を順次改めていくようにしていきたいと思っております。
  106. 横山利秋

    ○横山委員 これは名古屋の乙号事件のお客さんの数字を調べさしたのですが、一口に不動産関係で三百十四人、商業法人関係で七百四十六人、約千人の人が狭いところへ来るわけですね。ですから、私どもがのぞきに行っても、全くごった返しておるわけです。ごった返しておるのはいいけれども、窓口の人はたばこも吸わずに一生懸命ごたごたやっておる。向こうに待っておる人は、腰かけて待っておらずに立って待っておるわけです。そして一日窓口の人の顔ばかり見ておる。顔に穴があかぬかと思うくらい顔ばかり見ておる。お茶もありゃせぬ。こちらにテーブルが二つ、三つあるけれども、そこで押し合いへし合いして閲覧しておる。そこでは足らぬから、向こうのほうまで行って、そして窓口の職員の腰かけをちょっと借りてやっておる。来たらまた立ってやっておる。こういうようなことを一体いつまで続けるのか。そして私が機械設備はないのかと言ったら、ゼロックスがある、まあ見てくれというので、ゼロックスを見た。そうすると、普通のコピーはこんな青写真みたいな色だ。ところが、ゼロックスは全く鮮明にうまくいく。これはいい機械じゃないか、何台あるのかと言ったら、一台しかないと言う。一台、これは法務局のものかと言ったら、いや法務局のものじゃない、借りている。三十五万円の借り賃だというわけです。名古屋に何か二十台かそこらしかないけれども、法務局のゼロックスが一番よく利用されておる。あんまり利用し過ぎていかぬのじゃないか、こわれやせぬかと言うて心配しているそうだけれども、しかし、これがあればたいへんいい。そんな三十五万円ぐらい、なぜ買えぬかと言うたら苦笑いをしておるわけです。その三十五万円のが十台ぐらい並んでおったらずいぶん鮮明にして敏速に仕事ができそうだと思うのです。人が足りなければ、大臣、金を回しなさいよ。そうして能率よくやったらどうかと私は思うのですが、いまの大臣の答弁では、予算がきまったからどうにもならぬとおっしゃるのですが、民事局長、一体今日のこのような状況に対して、どのくらいの予算で、どのらくいの機械設備で、どのくらいの人員をふやすという計画はことしはどうなっておるのですか。
  107. 新谷正夫

    新谷政府委員 本年度の予算につきましてはもうすでに御承知のとおりでございます。確かに登記所の事件が非常に激増いたしております。それに対処いたしますために、先ほど大臣がおっしゃいましたけれども、人員の増加も必要でございます。また機械に移せるものはなるべく機械に譲ってスピードをあげ、サービスを向上させるということもこれも必要でございます。また、そういった人員、機械のみならず、施設のあり方、調査事務室のあり力というものが非常に能率に影響いたすわけでございます。そういった面も毎年くふうをいたしまして、私どもといたしましては、いろいろの試作品と申しますか、最もいいものをつくり上げようという努力を毎年重ねておるわけでございます。  来年度の予算の要求も、あと二、三カ月いたしますと準備にかかるわけでございます。その際に検討しなければならぬ筋合いのものでございますけれども、いずれにいたしましても、登記所の窮状というものは、ごらんになりましたように非常にはなはだしいものがございますことは申し上げるまでもないわけでございますので、人員の要求、さらに機械化あるいは施設の整備、さらに今後の能率化のための研究、そういったことを各方面にわたりましてやりたいということを考えておるわけでございます。しかし、何分にも国の予算の制約がございますのと、政府といたしましても、最高の方針として人員の増加を抑制するという基本方針が毎年出されるわけです。そういうようなことでなかなか容易ではございませんけれども、法務省の中でも登記所の増員要求、またその認められました人員の数というものは、少ないながらも、ほかの組織と比べますと圧倒的に多いわけです。いろいろ皆さま方の御理解もいただきまして何とかしなければならないという空気があるということは、これは申すまでもないわけでございますけれども、限られた予算の範囲内で少しでも能率をあげる方法を今後とも考えていきたいというように考えております。
  108. 横山利秋

    ○横山委員 そんなことを言たって——法務大臣に伺いたいのですが、一体法務局、法務省というものは、厳格な仕事をなさなければならないところだと思うのです。ところが、職員でもない人間を職員のごとく使う。これを応援と称している。どこがけじめになっているのですか。応援と称して、法務省の職員でもない人間が、法務省の役所の中にのこのこ入ってきて、のこのこ書類を出して、のこのこかってにやって、そしてのこのこそれを持って出ていくというだらしないやり方を続けておったらいけませんよ。これは私は、綱紀の粛正という点から見ても、役所の仕事にけじめをつける点から見ても、今日法務省、法務局の職員が一万人で応援団体や臨時職員が数万人で仕事が運営されておる、こういうあり方というものは、姿勢を正さなければどこにだれが一体責任を持つのでしょうか。職員は自分でやらないことを責任を持たされる。もしも間違いがあったときに責任を持たされるという結果が出てくる。おれは知らぬ、おれがやったのではない、あれは司法書士がやってきて、土地家屋調査士がやってきてやっていったのだということでは、責任の帰趨が明らかにならないじゃありませんか。一体、法務局としては、司法書士や土地家屋調査士、臨時職員にやらせてはならないという仕事のけじめはありますか。
  109. 新谷正夫

    新谷政府委員 まことにお説のとおりでございます。私どももできるだけ早い機会にそういった外部の人の応援という体制は解消すべきであるということを考えておるわけでございます。これも一挙にはなかなかまいりません。増員が五千人、一万人と一挙に認められますれば、早急に解決する問題かもしれませんが、なかなか増員という問題は予算の中でも一番むずかしい問題でございまして、一歩一歩前進を続けていくというのが実情でございます。そうかといって、外部の応援をそのまま私どもは甘んじてながめておるというのではございません。可能なところでは、現に外部応援を完全に排除しておるところもございます。少しずつでもそういう体制をとって、法務局の責任を明らかにしていくということは、もうお説のとおりでございますので、そういう方向に向かって現に努力を重ねておる、またそういう実績もだんだんあがってきておるということは申し上げられると思います。
  110. 横山利秋

    ○横山委員 私の質問に答えてないのですが、もっと外部の応援団体は、ここからこれ以上はやってはならないというけじめはないわけですね。
  111. 新谷正夫

    新谷政府委員 おそらくおっしゃいまするその限界といいますのは、外部の人が登記所の事務室に入りまして、登記簿を見て、登記簿の写しをつくるという作業を応援してやっていただいておる場合があるわけでございます。それは御承知のように登記所には登記簿の謄本、抄本の交付の仕事と、それから閲覧というのがございます。閲覧といいますのは、倉庫の中にあります簿冊を出してまいりまして、これを一般の縦覧に供するということでございます。見た人が、そこで自分の手控えをつくる、あるいは登記簿に番いてあるとおりのものを自分の控えとしてつくって帰るということがございます。これはしかし、閲覧者がみずからの責任において写し取るのでございます。それは登記所の責任ではございません。単に目でながめて見て、ああ、こうかというふうに理解して帰るというのでは不確実でございますので、メモをつくるなり、そのままの姿を写し取って帰るという場合がございます。これは閲覧のやり方でございます。ところが、謄抄本の場合に、いまお話しのように登記所に少しでも早く謄本、抄本を交付をしてもらいたいという方々が、応援というふうな形で登記所に参りまして登記簿の写しをつくるわけでございます。写しをつくりますが、それには登記官が認証いたしまして、原本と相違ないということを奥書きいたしております。その奥書きの段階は、登記所の責任で、これはやらざるを得ません。これは写したものと原本を対照いたしまして、そうして認証文をつけまして、登記官が職員をしてこれを本人に交付しておるわけでございます。そこまでいきますと、これは登記所の責任でございます。外部の人のいろいろ応援はございますけれども、最後の責任を明らかにするということは、応援の場合といえども登記所としては明らかにしておるはずでございます。そうはいいましても、万一間違いが起きた場合のことを考えますと、いつまでも応援に甘んずるわけにはまいりませんので、いま申し上げましたように、できるだけ早い機会にこの応援体制というものを排除していこうということを考えておるわけでございます。
  112. 横山利秋

    ○横山委員 私も照合しておるところを見ましたよ。普通のごちゃごちゃしておる中で、そこへ持ってくると、その人が判こを持って、写したものとこっちとをにらみ合いながら間違いないといって判こを押す役目です。そんな山ほど持ってくるやつをざっと照合して、まあ、いつも来るやつだから間違いないだろうといって判こを押すことがないとはいえないと私は思うのです。そういうけじめのつかない仕事のやり方を、大臣、いつまでも続けておって、もし万一それによって間違いが起こったときに、一体どういう責任をとってくれるのか、私は不思議でならない。大臣はおそらく登記所をごらんになったことがないのじゃないかと思うのです。ごらんになっておれば、自分の傘下の役所で、そんな正規の職員が少なくて、圧倒的によその人が自分の傘下の仕事をしておる。しかもそれは商売人である。役所の利益を代表するのではないですよ。なんぼ司法書士や、あるいは土地家屋調査士が、やや公共的な中正な立場をとっておるとしましても、やはり向こうから、依頼者から手数料をもらって商売をしておるんですから、そこに間違いがないとは私は言えないと思うのです。これを見て、この窓口扱いと司法書士の扱いの比較を手に入れてみますと、謄本、抄本、登記証明、印鑑証明等の比較は、謄本にあっては五五%、抄本は六一%、登記証明は六三%、印鑑証明は四七%が司法書士の扱いなんです。合計いたしますと、まさに五六%が司法書士の扱いなんです。司法書士に一体どのくらいお礼を出しておるのか。きょうそちらからいただきました表を見ますと、私が聞いたよりもえらい安く書いてあるですね。これは実際なんですか。これは登記申請ですか、登記申請に対する手数料が一件五百円、八百円、千二百円、百円、これは間違いない数字でしょうな。これは公称ですか。それとも実際のですか。私は、こんなに安いとは思っておらぬ。それと、国民が法務局へ行って、なぜ半数以上も司法書士に頼むか。私は、司法書士諸君の営業妨害をするつもりはない。けれども、もっとこれが法務局へ行って簡単にくれるものなら、司法書士に頼まないですよ。手数がかかるから、混雑してわからないから、サービスがあんまりよくないから、忙しいから司法書士のところに行くだけの話で、事柄自身としては、こんなものをもらうのにそんなにむずかしいことじゃない、そうでしょう、民事局長。問題は、しろうとが行って謄本をもらい、抄本をもらうのに、そんなにむずかしい申請書が、要るわけじゃないでしょう。時間がかかるから、めんどうくさいから、役所の仕事がややこしいから、それで司法書士のところに行って、ぜにさえ出せば早くやってくれる、昼から来ればもらえる、要するにいらぬ金を使っておるんです。もっとサービスがよくなったら、五十何%も司法書士に頼む人はない。区役所に行ってごらんなさい。区役所で司法書士に頼む国民がどれくらいありますか。ほとんどの人が、自分で区役所に行って自分で書いて帰ってくる。法務局だけが五六%も司法書士扱いにさしておるということ自身、全くなっとらぬ。これは職員がさぼっておるわけじゃない。私が見ておる間もごった返しているんですから、職員諸君はたばこを吸ういとまもない。そこでもって黒板を見たら、毎週木曜日には全員超過勤務と書いてある。超過勤務を毎週一回全員やることになっておる。なんでそんなことをきめておるかということを聞いたら、どうしても仕事がたまる。仕事がたまるから、一人、二人残っておってもみっともないから、木曜日なら木曜日だけは全員が残る、これはずっと前からそうなっておる。それなら超過勤務に普通の仕事が食い込んでおるわけですね。そんなものは超過勤務じゃない。そんなことをやらせることが実際おかしい。ですから私は、司法書士扱いが全体の五六%、過半数をこえているということについて、法務大臣は責任を持ってもらわなければいかぬ。国民へのサービスが行き届いていないという何よりの証拠だと私は思う、いかがですか。
  113. 新谷正夫

    新谷政府委員 まず、手数料の問題でございます。これは各司法書士会におきまして手数料の規定を定めております。この定めにつきましては、法務大臣の認可を受けて定めることになっています。法務省としましては、各地の司法書士会の報酬規定がまちまちにわたりますことを避けますために、大体の統一基準というものをつくりまして、それに合致するものでないと認可しない方針をとっております。したがいまして、それが全国的にほぼ統一されておると考えてよろしいと思うわけでございます。ただ資料として差し上げました数字が、一件ごとの報酬がいかにも安過ぎる、現実はこれよりももっと高いのではないかという御質問でございましたが、ものによりますと、これは注に書いてございますように、金額によってその差等が出てまいりましてこのとおりにはまいらないわけでありますが、これは原則をここに書いてあるということでございます。  それから五六%のものが司法書士に頼まなければならないという現状は、国民のサービス機関としての登記所のあり方として相当でない、こういう御意見でございますが、これもある面におきましてはまさにお説のようなことが言えると思います。しかし、登記の申請というのは、簡単なようでございますけれどもなかなかむずかしい問題でございます。私どもが個人の場合、私、登記の申請をしたことはございませんけれども、たとえば戸籍の届け出をいたします場合に、ちょっと問題がはずれるかもしれませんけれども、戸籍の届け出番を書くことにつきましても、私自身ちょっと戸惑うようなことがあるわけでございます。ましてや登記の申請を一歩間違いますと、これがもうなかなか将来にわたってその是正が困難になる。また本人の申請によって登記されたものをむやみに直すわけにいかぬということにもなりますし、それは慎重にも慎重を期しませんと権利関係に非常に問題を生ずるわけでございます。そこで申請する人は、その安全を期するために専門家の司法書士さんにお願いをしてやらなければならない場合も多々あるわけでございます。個人で十分申請書を書ける人もむろん中にはございます。しかし、すべての登記の申請が自分でこなせるかどうかということになりますと、事件によりまして非常に差異がございますので、ものによっては必ずしもそうもまいらないというわけでございます。できるだけ簡単なものにつきましては、申請書の見本のようなものを窓口に置きまして、本人に書いていただくように便宜をはかっておるところもあるわけでありますが、司法書士さんの業務という問題もございます。何も法務省としまして、司法書士さんに仕事が多くなることを願っているというわけではございませんけれども、やむを得ない場合には司法書士さんにお願いしてやらざるを得ないことがあることは間違いございません。非常にむずかしい問題が中にはございますので、一律にこれを本人の手書きの申請書で処理するということはなかなかむずかしい問題でございます。しかしながら、そうは言っても、窓口機関としてできるだけ金のかからない、時間のかからない、サービスの向上ということを考えていくべきことはもちろんでございます。そのように今後とも努力いたしたいと思っているわけであります。  なお、ただいまの点に関連いたしますので申し上げますと、明日御視察いただきます日本橋の登記所でございます。これはかつては五日ないし一週間ぐらい謄抄本の交付がおくれておったような事情がございます。しかし、現在入っておりますのは仮庁舎でございます。いずれ行く行く大手町の合同庁舎の中に入る予定になっておりますが、現在プレハブの臨時の庁舎をつくりまして、そこへ移したわけでございます。しかし移します際に、設計しのくふうをこらしまして簿冊の格納してありますところと事務室となるべく距離を短くいたしまして、それぞれ担当のところから直接簿冊のほうへ最短距離で行けるようにくふうしたわけでございます。それをやりました結果、人員措置も従前と変わりなく、ほかに特に変わった点はございませんけれども、施設だけを改善することによりまして、全部即日処理ができるようになってしまった。これは人員の増加のみならずほかの面でも十分考慮いたしませんと、登記所の事務の能率が向上ししないという一つの端的な証拠になるのではないかと思うわけでございます。明日御視察いただきますので、その点もごらんいただきたいと思いますが、私どもといたしましてはいろいろの方面から登記所の能率を向上させることによって、国民に対するサービスが十分行き届きますようにということは、もちろん最も念願いたしておるところでありまして、今後ともそういう面につきましては十分努力いたしたい所存でございます。
  114. 横山利秋

    ○横山委員 この表を見ますと、十年間に登記の甲号は三十年が六百九十二万件、三十九年には千百九十四万件、一・七三倍、乙号のほうは千五百七十六万件が七千七百四十六万件、五倍、登記従事人員は六千八百七十七人が七千七百三十八人、つまり一・二倍くらいになっただけですね。それでもって、私どもはほかの大蔵委員会でも指摘したのですが、二つの問題がある。一つは臨時職員を千三百六十人使っておるというけれども、この臨時職員は四百円から六百十円ぐらいの範囲で採用されて、しかも一年以上たっておるものが多いというのですね。なぜほかっているのです。なぜ木採用しないのですか。それから二つ目には、いわゆる国税庁の依頼を受けて、本来自分の仕事ができぬくせに人の仕事をしておる。税の通報制度で、いやだ、いやだと言いながら、結局自分のところの仕事が満足にできないくせに人の仕事のお手伝いをしておる。何でしているんだと言ったら、国税庁から地方税は地方税法によって地方自治体に通知するんだからついでにやる、それでお金をもらっているからしようがない、こう言う。そういう本来の仕事ができた上ならともかくとして、できもせぬくせに人の仕事に手を出して、そして満足にそれに対する予算ももらっていないで、臨時人夫を一年以上も使っておるという労務態度、労働態度はよくないじゃないですか。臨時職員を本採用にしなさいよ。国税庁に、まだうちの仕事ができないからお断わりすると言って断わりなさいよ。
  115. 新谷正夫

    新谷政府委員 約千三百人の臨時職員がございますが、これは先ほどお話の税務署に対する通知の要員のみではございません。登記台帳の一元化の作業その他登記所本来の作業のためにも約半数は採用しておるわけでございます。こういった人たちの給与が低いという点が一つ問題でございますが、本年度から若干給与の賃金単価が増額になりましたので、従来よりは多少待遇面もよくなるだろうと考えております。  また、一年以上臨時職員のままで登記所に勤務さしておって、それを本採用しないのは不都合じゃないかという御意見でございますが、この点はまさにそのとおりであろうと思います。長年にわたりまして臨時職員として登記所の仕事をやりました人たちが、せっかくなれて、登記所の本来の職員としても仕事ができる、にもかかわらず本採用にならないでそのまま臨時職員でおるということは、本人のためにも非常にお気の毒なわけでございます。これをいつまでもそのまま放置しておるというわけではございませんで、欠員ができますと人事院のほうの承認を得まして逐次これを正規の職員に採用する、または公務員試験に合格した人はそのまま正規の職員に任命するという措置を講じておるわけでございまして、ただいまこまかい資料を持っておりませんが、過去におきまして大体年間七十人平均でございましたか正規の職員に繰り入れいたしております。決してこのままで放置しようという考えは持っておりません。優先的にこういう人たちを正規の職員に採用する方針でございます。  それから税務署通知の問題でございますが、これは確かに登記所本来の業務ではございませんけれども、地方税法によって市町村に通知する通知書と内容が大体同一でございます。したがいましてその際に紙が一枚多くなるかならないか、これを複写機でとりますので手数料としては結局同じなのでございますけれども、一枚紙がよけい入ってくる、複写に多少力が入るという差異が出てくるわけでございます。しかし国税庁から協力を求められましたので、官庁間の協力関係といたしまして私どもといたしましてもこれをやっておるわけでございます。ただ人員も不足しており、施設も広くないのによけいな仕事を押しつけられて不都合じゃないかという御意見のようでございますけれども、国税庁のほうでも本年度約三千万円くらいこの賃金の予算を計上されまして支出委任の形で本省のほうに渡されることになっております。その予算の範囲内で私どもはやりますということを言っておるわけでございまして、これによって採用された賃金職員に負担以上のことをやらせる考えは毛頭ございません。許された予算の範囲内の仕事しかできないということははっきり申し上げておるわけでございます。決して一般の事務にこれによって影響を及ぼすようなことがあるということはないと考えております。
  116. 横山利秋

    ○横山委員 大臣、四月一日からメートル法になりました。それで台帳を全部メートル法に直さなければならぬのですが、どういう計画でメートル法に法務局の帳簿を全部かえられると思っておるのですか。先般私が某法務局長に聞きましたら、やります、ええ、やります、こう言っておるだけであります。一体何十年かかって法務局が全メートル法の体制に整うのか、大臣は閣僚としてメートル法の施行日を御存じのはずでありますが、この予算編成においてメートル法施行に伴う法務局の業務体制について御検討願いましたか。
  117. 石井光次郎

    ○石井国務大臣 メートル法をやることになったことは承知しております。実施は来年度からでございます。来年度予算を要求して万遺漏なきを期するつもりでございます。
  118. 横山利秋

    ○横山委員 どうなんです。メートル法で全般的に法務局の仕事が切りかわるのはいつですか、体制がきちんとなるのは。
  119. 新谷正夫

    新谷政府委員 現在のメートル法施行法のたしか十条か十三条に規定がございまして、登記簿等にすでに用いられております尺貫法単位の計量方法、それはそのまま使っていいことになっております。したがって法律的に申し上げれば、将来に向かって現在尺貫法で書かれておる登記簿はそのままでいいわけであります。しかし一般的にメートル法を実施して、国民になるべくメートル法を使ってもらいたいという政府の方針でもございますので、法律上はそうなっておりますけれども、来年度以降の問題といたしまして、計画的にメートル法に切りかえる措置を講じようという計画を持っておるわけでございます。先ほど大臣がおっしゃいましたのもそういう趣旨でございます。それでは来年まで一切メートル法への書きかえをやらないかということになりますと、これは余力のある限り現在でもメートル法に書きかえてもよろしいわけでありますので、その登記所の都合を見ましてメートル法に直していくということはもちろん差しつかえがないわけであります。ただ一律にメートル法に書きかえるということでございますけれども、現在におきましてもメートル法で申請しなければならない場合とそうでない場合があるのです。メートル法でどうしても申請しなければならない場合には、当然登記簿のほうもそれを受けて書きかえをやっていくわけでありまして、一律にこれを来年度から一斉に書きかえを始めるというものではむろんないわけであります。現在からやれるものはやっていく、また法律上そうしなければならないものは、現在から直していく。ただ残された問題は、先ほども申しましたように、計量法施行法にございますので、この施行法の規定はそのままといたしましても、登記所といたしましては、できるだけ早い機会にメートル法に書きかえをしていく、こういう計画で来年度以降の問題として考えるということにいたしておるわけでございます。
  120. 横山利秋

    ○横山委員 この次までに法務省で調べておいてもらいたいのでありますが、今回の改正案で空中権について改正がされました。いまから申し上げるのは海底と海上の問題でありますが、名古屋港の埋め立て予定地にあります海底私有地が名古屋の法務局蟹江出張所に登記がされ、旧所有者から、これによりますと、ある名古屋の不動産会社が二億数千万円で海底私有地を買った。ところが、名古屋の管理組合は、その上に——上というか、海面一帯に名港西部埋め立て計画があって、すでに運輸省の港湾審議会でも認められ、あとは埋め立て認可の申請をするばかり。計画では七十二・六万平方メートルを埋め立てるというのでありますから、その下にあります私有地はすっぽりこれに包まれてしまうわけであります。それで、問題になりますのは、法務局というところは、現状を確認しないで、書類だけ整っておれば登記を受け付けるという現行体制ですね。それが一体適当であるかどうかという問題が、一つ提起をされます。  それから第二番目は、千葉の法務局が千葉港湾建設事務局の問い合わせに対して「春分、秋分の口の満潮時に、海面下に没する土地には所有権は認められない」と答えた例がある。このため同蟹江出張所がことしの春分の日の満潮時に現地を調査してみると、大部分が水没しておることがわかった。しかし、同所の位置を示す正確な図面がないばかりか、現場の地理も昔と変わっているために、水没区域をはかるのがむずかしいとしておると、こういうのであります。つまり千葉法務局が言った解釈が正しいのであるかどうかというのが、第二番目であります。  第三番目は、かりに正しいとしても、これは不動産会社が買った以外の土地で、いまは水面下にあるけれども、しかし、その地主は名四国道の建設に協力して、自分の土地から土砂をぶち上げさして、その名四国道の土地に提供して、その補償金を現にもらっておるという事実があるわけです。そうだとすれば、水面下であっても、それは所有権は確定ができるのではないかという点が、第三番目であります。  それから第四番目は、この蟹江出張所長の話では、「大部分は海面下に没しているが、残っている陸地を無視できず、できるだけの調査をする。」と新聞でも答えている。そういう蟹江出張所長は、調査をして陸地があったとしたならばどうするつもりであるか、また実地調査をして権利を確定する権限が法務局なり出張所長に一体あるのかどうかという問題がある。それから地方自治法の九条の三、二百六十条でなくなっているかどうか。地方自治体が調べて登記所へ申請をし、職権で滅失の措置を法務局がする場合があるが、一体この問題の合理的な解決というものはいかにあるべきであるか。いまやこの状態でいくならば、運輸省の港湾審議会が認めた埋め立て計画は、名港管理組合副管理者前田氏の話によると、結論が出るまで静観せぜるを得ない、こういう結果になって、非常な重大な問題に発展をするという諸点について、この次の火曜日の委員会までに実情調査の上御答弁が願いたいと思うが、いかがでありますか。
  121. 新谷正夫

    新谷政府委員 具体的な名古屋の問題に関連いたしまして御質問があったわけでございますが、私その実情をつまびらかにいたしませんので、さっそく調査いたしまして、お答えできるものはこの次の機会にお答え申し上げるようにいたしたいと思います。
  122. 横山利秋

    ○横山委員 それでは火曜日に御調査の結果を伺うことにして、文部省からおいでを願いましたから、先般参考人に伺った点についてただしたいのでありますが、本借地法の一部改正の中で、先般私が参考人にもただしたのでありますが、都市の中心にあるお寺並びにお官、神社、そういうところが境内地と境外地のうち、境外地を付近の商店街に貸して、そうして本法案のような堅牢なる建物にいたしたいという借地借家人の主張、希望に対して、法外もない要求をするために、いま都市の発展は——もちろんそればかりではないけれども、昔から発展をしてきたそういう盛り場が衰微しつつあるということを、私は黙視しがたい点があるのであります。もちろん、宗教法人については国の関与するところではないにしても、最近の宗教法人のあり方、既成宗教と新興宗教とニュアンスは違いましても、宗教法人の事業活動について少し考えるべき点があるのではないかと思うのでありますが、まず御感想を伺いたいと思います。
  123. 萬波教

    萬波説明員 お答えいたします。  宗教法人につきましては、どうも一般的に宗教法人自体も、あるいは一般国民の方々の中にも、何か特定の権限が付与されておるというような錯覚を持っておいでになる方があるのではないか、こういうように思うのでございます。宗教法人につきましては、これは税法等によって宗教本来の用に供されるものにつきましては非課税等の措置がとられておりますけれども、それ以外のいかなる法律行為につきましても、一般国民ないし他の公益法人その他と何ら変わるところがないわけでございます。したがいまして、宗教法人なるがゆえに特定の権能が与えられておるという錯覚の上で、いろいろな宗教法人らしからざる事業などに手をつけられるという法人があることは確かだと思っております。事実そういうような状況もございますので、私のほうは、昨年から四年計画で全国十八万にわたる宗教法人のうちの無作為抽出一〇%の法人につきまして、宗教法人が現に行なっておる事業はどういうものであるか、内容はどうであるかということを調査しておるわけでございます。そういう点から申しまして、先ほど先生のおっしゃられました既成宗教と新しい宗教の間に、私ども、いま感じではございますけれども、相当な違いがあるわけでございます。既成宗教と申しますのは、御承知のように、長年一定の境内地と境外地というものを所有してまいったわけでございます。その境内地の中で行なわれてくる宗教事業というものが中心であったのでございますけれども、戦後の経済的な変動その他によって何らかの経済的な措置をとらなければならないという事情も起こって、みずからの財産を切り売りするという状況になっておる状況がございます。これに対しまして、新しい宗教の場合は、戦後の信教の自由という立場から、新たに境内地をみずから獲得し、それを広げていくという形での事業展開があるわけでございます。そういう意味で、財産の処分につきましては、新宗教よりも既成宗教の中にいろいろな因襲的な問題点が残っておるという点は考えられるわけでございます。この点は、もちろん宗教自体の宗教活動としては、国、地方公共団体ともに関与することはできませんけれども、しかし、財産の処分なり何なりという点で疑問の点を感じました際には、当然私のほうから所轄する包括法人等を通して注意を喚起することはできる、こういうように思っております。   〔大竹委員長代理退席、委員長着席〕
  124. 横山利秋

    ○横山委員 私の入手をしたところでは、二つ、三つあるのでありますが、一例を申し上げますと、名古屋の大須の盛り易でありますが、境外地、境内地といっても、お寺さんがかってに境外地、境内地をきめ、きのうまでは境外地であったけれども、おい、そこを貸してやるわ、そのかわりこれだけの銭をよこせといって、かってに境内地にできるものですね。したがって、お寺さんがうんと言わなければ、また言うところの金を出さなければ使えないし、昔からの盛り場でありますから、火災予防のために消防署がやいやい言うても、ちょこっと直そうとすれば、とほうもない、百万円よこせ、二百万円よこせということのために、そういうことができないという状況は、見のがすわけにはいかない。しかも、その既成宗教の場合に、檀家総代というものがあって、おっさま一人の判断ではできないと称して、事実はおっさまがすべて実権を持っている。自分の都合の悪いときになると、檀家総代だ。檀家総代を集めておいて、こういうふうにがんばっているから承知してくれということになって、都合の悪いことは檀家総代、都合のいいことは自分の権限というような状況が、本法案の審議の中でも一つの私は課題だと思っておるわけであります。しかも、その上、そのお寺の財政収入については、いまあなたのおっしゃるように、民間団体であるから、全くどんぶり勘定で、経理がどうなっておるやら、檀家総代にほとんど話もしない。それで寄付金はじゃんじゃん集まってくる。どういうふうになっているか、それはわからない。さりとて、私はいまあなたに国の憲法の規定を無視して宗教法人の経理について国が監察しろとは言わないけれども、何かこの辺ひとつ考えるべき点がありはしないか。私は、先般大蔵委員会で公認会計士法の審査にあたって、少なくとも今日の金融機関なり、あるいは信託なり、あるいは保険会社なり、それらのすべては公認会計士の監査証明を受けさせるべきであると主張したときに、いま全国の私学の紛争が、早稲田を頂点として非常に紛争がある。国は税金をまけ、補助金を出しといったような状況についても、文部省の監督権を強化しろとは言わない。しかし、せめて学生並びに父兄の要望にこたえて、公正な第三者の監査証明を受けさせるべきであると同じように、宗教法人も同様、自律的な立場において寄付金を、社会的に、やや公共的に社会の中に位置しておるのであるから、みずから公認会計士の監査証明を受けさせるような制度にしたらどうであろうかと思うのでありますが、この点について御意見を伺いたい。
  125. 萬波教

    萬波説明員 ただいまの最初の点でございますが、いまのお寺さんの問題でございますけれども、これはあくまでも宗教法人でございます。法人として、当然宗教法人によって、その事業の決定は責任役員の共同の責任をもってやらなければならないという前提があるわけでございます。したがいまして、住職が個人の意思をもって財産を処分する、あるいは何らかの事業を行なうということは、絶対に許さるべきじゃない、このように前提として考えるわけでございます。そのような意味から、宗教法人法の中では、宗教法人が財産を処分するについては、別に国なり、地方公共団体なりに届け出とか承認とか受けることはないようになっておりますけれども、しかし、法人法の二十三条にございますように、およそ財産の処分を行なうという場合には、その責任役員の当然の議決機関の決議を必要とし、同時に処分を行なおうとする行為の少なくとも一カ月前には信徒あるいは利害関係人に対して周知するための公告を行なわなければならない、こういう法律的な規制があるわけでございます。したがいまして、法人として何らかの事業を行ない、財産処分を行なうというようなことであれば、当然この規定によってやられなければならない、こういうように思います。ただ、申し上げますのは、十八万に及ぶ宗教法人のうち、大体八万程度がお寺さんでございます。それから同じ八万くらいがお宮さんでございます。その他の法人は、キリスト教その他の諸教という状況になっております。たとえばお寺さんの場合を考えてみましても、この八万のお寺さんのうち、少なくとも五分の一程度のお寺さんは住職のいないお寺さんでありながら、しかもこれは法人として存在しておるという事実があるわけでございます。これらが戦前からの長い因襲に受け継がれて、すべての面で法人意識に欠除する運営がなされるという事態は、確かにあるというように私ども感じておるわけでございます。ちょうどことしが宗教法人法ができて十五年になります。この際に、私どもとしてはできるだけ宗教法人意識というものを強めるためのあらゆる措置を講ずべきであるというように考えまして、昨年の都道府県の主管課長会議の際にも、特に私のほうから指示いたしまして、宗教法人の法人事務に対する研修を徹底して行なえということを申した次第でございます。これは時間のかかる問題かとも思いますけれども、要は宗教法人自体が法人だという意識をしっかり持っていただかなければならないのじゃないか、こういうように思います。  さらに、いまの公認会計士の監査等につきましても、全く私同感でございまして、宗教法人の会計経理、というものが、国から何ら制肘も受けないし、私どものほうへ到達することもないわけでございますけれども、少なくともある程度のく会計を行なう教団等につきましては、公認会計士等の監査をみずから行なうということは、まことにけっこうだというように感じます。
  126. 横山利秋

    ○横山委員 民事局長に伺いますが、たとえばそのような地域で、都市計画地域で、もちろん防火地域で、そして地方自治体からは堅固な建造物にすることが望ましいというふうに指定されておるところで、それじゃそのようにしたいというて、お寺さんなりお官さんがそれならば百万円よこせ、百五十万円よこせとかいうて争いになりますね。そこで裁判ということになって、非訟事件としてこの法律が適用されるわけですね。その場合に、本来その人は、現状のままやらなくて済むことなんだ、けれども、地方自治体の強い要請があってやるというのでありますけれども、私どもが心配いたしますのは、そういう公共的な必要によって堅固な建造物にする場合でも、この法律の通用は、結論としては鑑定人の鑑定によって両方の顔を立てて、足して二で割るような結果にならないかと心配をするのですが、その点はどうお考えですか。
  127. 新谷正夫

    新谷政府委員 ただいまの問題になりましたような案件につきまして、借地権が有効に設定されておりまして、周囲の土地の利用状況の変化その他の事情変更によりまして、木造建物を堅固の建物に直す必要がある、またそれが相当であると認められるような場合におきましては、今回の八条ノ二の規定の適用が当然あるわけでございます。この場合に、鑑定人の鑑定の結果によって出ました金額を二で割って双方に顔の立つような裁判が行なわれるのではないか、勢いそれは地代にも影響してくるというふうな御趣旨のように承ったのでありますけれども、これは必ずしもそういうふうに算術的に二で割って、それを双方適当に負担させるというふうな趣旨のものではございません。百万円要求し、あるいは百五十万円要求したからと申しまして、それが基礎になるわけでもございませんし、鑑定委員会の公正な意見を聞いて、裁判所が適正な判断をなされるわけであります。また、その借地についてのいろいろの問題で専門的な鑑定を要します場合には、今回の非訟事件手続によりまして証拠調べもいたしまして、裁判所がそれに基づいて判断いたすわけであります。ただ算術的に、当事者のほうで幾ら幾らと言ったからといって、また鑑定委員会のほうで幾ら相当であると言ったからといって、裁判所がそれを足して二で割るような形式的な処理はいたされないであろうと思うのであります。あくまでもこれは当事者双方の利益を公平に比較考量して、合理的にその法律関係形成して解決していく、こういう趣旨でございます。
  128. 横山利秋

    ○横山委員 そういうことにはならぬとおっしゃるけれども、私はそういうことになりそうな気がしてしかたがない。それなら、どこの条文に、私の言うような公共的な必要によってやられる場合は考慮せよと書いてあるのか。
  129. 新谷正夫

    新谷政府委員 八条ノ二の冒頭に「防火地域ノ指定、附近ノ土地ノ利用状況ノ変化其ノ他ノ事情変更二因リ現二借地権ヲ設定スルニ於テハ」云々、こう書いてございます。これは客観的にその土地の利用状況が変化する等の事情変更理由といたす場合でございます。したがいまして、個人の単なる恣意のみによってこの規定が働くというわけのものではないわけでございまして、ただいま仰せのように、公共的な事情によって防火地域に指定されるとか、あるいは住宅地区改良法によりまして、お粗末な建物を除去して、そのあとへ耐火性の堅固な建物を建てるというようなことにもなりました場合には、これは当然この事情変更ということによって、八条ノ二の規定が働いてまいるわけであります。ただ、公共的な目的のためにというふうな表現はとっておりませんけれども、事情変更といいますことは、これは客観的な事情変更をいうのでございまして、個人の恣意のみによってこの耕地が働くという趣旨ではないわけであります。
  130. 横山利秋

    ○横山委員 しかし、八条ノ二も、冒頭に防火地域の指定その他の事情により、そういう公共的なうたい文句でありながら、ずっと読んでいきますと、「裁判所八前二項ノ裁判ヲ為ス場合二於テ当事者間ノ利益ノ衡平ヲ図ル為必要アルトキハ他ノ借地条件変更シ、財産上ノ給付ヲ命ジ共ノ他相当処分ヲ為スコトヲ得」となっておる。私は、そういう防火地域だとか、公共的な必要で、本人の意図に反してというか、本人の希望はないけれども、やらざるを得ないときには、いままでの借地条件——つまり私の言うのは金のことです。金のことで、特に負担をかける必要はなしというふうに断じてもらいたいくらいなんですよ。そうじゃないでしょう、これは。裁判所は、やはり鑑定人の意見を聞け、そして出さなければならぬものは出す場合があるといっておるのです。出す場合もあるぞではなくて、大体これは出さざるを得ぬという書き方じゃないですか。もしも公共的——防火地域だとか、都市計画だというならば、この後段のほうは、もっと借地、借家人の立場を尊重する書き方がどこかに出てこなければならぬはずじゃないですか。そうじゃないでしょう。
  131. 新谷正夫

    新谷政府委員 この第八条ノ二の規定が働きますのは、先ほども申し上げましたように、土地事情変更によりまして、現在借地権を設定するといたしますならば、木造建物ではなくて、堅固な建物を所有するために借地権を設定することが相当であると認められるような場合ということになるわけであります。しかし、これはあくまで賃借権でございますので、当事者間の契約前提として、その時点までは賃貸借関係が継続してきておるわけであります。これを変更いたしますと、木造建物を所有するということで契約ができておりましたものを堅固な建物に直すということになりますと、その賃貸借の存続期間の延長を考えなければならない場合が出てまいります。また、地代も、当然木造建物を所有する場合と、堅固な建物を所有する場合とで違ってまいるかと思うわけであります。そういうことを考えますと、いろいろの借地条件変更しなければならない場合もございましょうし、また、その他の財産上の給付を命ずることによって、双方の利益の衡平をはかっていくということが必要なわけであります。この措置をとることによりまして、借地権者は確かに利益するわけでございますけれども、一方において貸し主のほうの立場も考慮をいたしませんと、公平な結果は期待できないわけであります。そういう意味で、当事者双方の利益の衡平をはからなければならないというふうにいたしたわけであります。ただ、借地権者の利益が無視されておるというふうな御意見のようでございますけれども、私どもは、その間の双方の利益をあくまでも衡平措置していくということをねらいまして、こういう規定を置いたわけであります。
  132. 横山利秋

    ○横山委員 やはり私の聞きたいこととあなたのほうの答えておることに、若干のズレがあるということを私は感ぜざるを得ないのです。先般の参考人でも、あなたはうしろにいてお聞きになったと思うのですけれども、公共的な必要がある場合においては、もちろんその前の借地条件とは違う条件となることは認めるけれども、ぼくの言うのは、不当な要求は、地主並びに家主の要求については、もっと借地、借家人を守るべきであるという立場が、この八条ノ二の中にはにじみ出てはいない、そういうことを私は言いたいのです。しかしこれは水かけ論になるから、同僚委員質問もあると思いますから、先ほどの海底地面を含めて、二、三の質問を残しまして、一応きょうはこれで終わります。
  133. 大久保武雄

    ○大久保委員長 志賀義雄君。
  134. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 初めに、委員長を通じて資料請求をいたします。先般ソ連大使館のポクロフスキー一等書記官の件が新聞紙上に報じられました。コロンビア人の逮捕を求められてそのアパートに入ったところ、中にアメリカ人がいてそこで紛争が生じたそうでありますが、そのアメリカ人はどういう人であり、いまどうなっているのか、まだ日本にいるのか、あるいはまた、日本からもうあの事件の直後いなくなったのか、そういう点について法務省のほうでは——大臣もいらっしゃいますが、法務省の刑事局あるいは公安調査庁にそれに関する情報あるいは資料がありましたならば、外務省とも御連絡の上、あるいは警察庁とも御連絡の上、ひとつ示していただきたいと思いますが、その点いかがでございましょうか。
  135. 大久保武雄

    ○大久保委員長 本日は関係の局長が出ておりませんけれども、政府と協議いたしまして御趣旨に沿いたいと思います。
  136. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 私の言いたいのは、法務大臣もここにいらっしゃるので、法務大臣のほうから、その資料は提出するように手続をとるということをおっしゃってくださればいいと思います。それを法務大臣、委員長のほうから当委員会へ……。
  137. 石井光次郎

    ○石井国務大臣 私自身初めて承りますし、よく聞きまして御返事申し上げます。
  138. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 お聞きになった上で、必要な資料は提出していただけますかどうかということを伺っているのです。
  139. 石井光次郎

    ○石井国務大臣 よく聞いてみないとどういう問題かわかりませんが、多少のものはお出しいたします。
  140. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 ではお開きになった上でお願いしたいと思います。  この借地法等の一部改正法案は、一口に申しまして——局長に伺いたいのでございますが、非訟事件手続法によって処理しよう、こういうことになるのでございますね。
  141. 新谷正夫

    新谷政府委員 今回の改正案に盛られております事項すべて非訟事件というわけではございませんが、従来の地代、家賃の増額の請求あるいは減額の請求がございました場合の最終的な解決方法は、これは民事訴訟によるわけでございますから、新しく新設いたしました借地条件変更あるいは増改築の禁止の特約がある場合の地主の承諾にかわる裁判あるいは借地権の譲渡または転貸についての賃貸人の承諾にかわる許可の裁判、これについては非訟事件手続法によるということでございます。
  142. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 それはわかりました。特にこの場合についてそういう規定を設けられたのは、こういう今度の改正がやられるのは、こういう事件を迅速に処理する必要上そういうふうにされるのですか。
  143. 新谷正夫

    新谷政府委員 これは法律上の紛争が起きました後は一般民事訴訟解決するほかはございません。しかし当事者の間で借地条件変更したり、賃借権の譲渡、転貸をいたすにつきまして協議が調いません場合に、本来ならば、ほっておきますならば、それを理由として契約解除が行なわれる等の事情によりまして、賃貸借関係の在否が争われて訴訟になるわけでありますが、そこまでいかないうちに早くそういう紛争を予防いたしまして、しかも当事者双方の利益の衡平をはかりながら法律関係を合理的に形成していこう、こういう趣旨で非訟事件にしたわけでございまして、本来の訴訟事件解決すべきものは、従来どおりやはり訴訟事件解決しなければならないわけでございます。
  144. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 こういうことがひとつ法律の一部改正でできますと、裁判の促進化——スピードがおそい、これは日本の裁判の特徴だというくらいにいわれているのでございますが、これがひいてはそのほかに影響を及ぼして、本来裁判であるべきものが、実質上裁判所の行政行為みたいになっていくこと、それを私はおそれるのでございますが、その点についてはどういうふうにお考えになりますか。と申しますのは、私自身が裁判所の行政行為によって、本来の刑が終わっておるのに予防拘禁所にまたぞろ入れられたことがありました。そのときにだんだん広がっていきまして、前に総理大臣をやっておられた吉田茂老人までも、これはごく短い期間ですけれども、ちょっと憲兵隊に引っぱられたというように、だんだん広がっていったことがございます。私は、これは私自身の経験からいってもどうもくさいなという感じがするのでありますが、その点いかがですか。
  145. 新谷正夫

    新谷政府委員 先ほども申し上げましたように、本来民事訴訟によりまして解決すべき問題は、今後といえども民事訴訟によるべき問題でございます。これはそういう法律上の紛争に至ります前に、法律関係があるかないかという当事者争いが起きます前に、合理的な法律関係形成することによって、そういう紛争を防止しようというところにねらいがあるわけでございまして、従来の訴訟解決すべき問題を非訟事件で今後処理するような方向へ持っていこうというふうなことを考えているわけではございません。こういう紛争が起きやすい事例が非常にたくさん借地借家関係にはあるわけでございますので、そういう特殊の面だけをつかまえて、非訟事件でなるべく迅速に、しかも裁判所関与することによって当事者の利益の衡平をはかりながら法律関係を合理的に形成していこう、こういうことを考えておるわけでございます。一般法律上の紛争にまで非訟事件のこの規定を及ぼしていこうということは全然考えていないわけでございます。
  146. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 私の申しますのは、人の自由を奪って、国民の自由を奪って、監獄と同じ建物にぶち込んでおる、違うところは、当時で食費が監獄とプラス一銭だけ違ったところへ私は四年間入れられて、日本が戦争に負けたためにやむなく出されたようなわけであります。その前には警察の豚箱、これも二十九日の拘留期限というのがあった、これが半年になり、一年になり、二年になる。今度は、とうとういま言ったように予防拘禁というようなことになっていったわけであります。裁判になる前にと言われますと、いまのような経路で、これはもう裁判をスピード化しなければならないというようなことから問題が起こってくるというのは、この問題は当然当事者にとっては生活の本拠に関するものでありますから、者の主張も聞き、よく実態も調べた上で裁判をしませんと、どうも居住権の問題にも関連してきます。ましていま物価高ということは佐藤内閣の手に負えないところにきているわけであります。これが生活と権利に重大な影響を持つものだとすれば、いまこういう改正案だけで、こういうことでやって、そういう重大な問題が起こるおそれはないというお考えでこういうものを出されたのかどうか、その点を伺いたいと思います。
  147. 新谷正夫

    新谷政府委員 国民の生活権を擁護し、生活を豊かにしていくということは、むろん政府の施策全般の問題として考えるべき問題でございます。今回の僻地法、借家法の問題は、現在御承知のように土地の貸し借り、建物の貸し借りをめぐりまして、いろいろな紛争が出ております。裁判所訴訟事件の約二〇%ぐらいがおそらくこれに当たるのじゃないかといわれるぐらいにこの関係争いが多いわけでございます。こういった争いをいつまでも解決できないような状況に置いておくということになりますと、土地を貸す人につきましても、また借りる人につきましてももちろんのこと、非常に不都合でございますし、土地の有効な合理的な利用ということが不可能になるわけでございます。そこで、そういった紛争になります前に、裁判所の公権的な関与によりまして、その紛争の防止をはかろうというのがこのねらいでございます。もちろん生活権は非常に重大な問題でございます。単に非訟事件であるからといって、従来のような職権主義的な調査方法によってこの問題を処理するのがいいかどうかということも、確かにそれに関連する問題として出てまいるわけでありますので、今回のこの借地法、借家法の改正にあたりましては、同じく非訟事件でございますけれども、当事者は必ずその裁判官の前で意見を述べ、陳述する機会を与え、しかも職権証拠調べをする、非訟事件の例外といたしまして、当事者申し立てによりまして、当事者の希望する証拠調べも行ない得るようにいたしました。十分当事者主張なりその証拠裁判所で利用して、公平な裁判ができるようにということをねらっておるわけでございます。非常に国民の生活に密着する重大な問題でいざいます。それだけに手続の面におきましても、それだけの慎重な配慮を加えたつもりでございます。
  148. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 事実をもって従来の例から申し上げたほうがよろしいと思いますが、これまで裁判所の指定した鑑定人の鑑定、たとえば家屋が朽廃してきた、その鑑定は大体判例の考え方にぴったり合わせるようにつくり上げられているというのが実情でございますが、今度裁判所鑑定人を命じたりしていろいろやらせるということになりまして、こういう事件が方々に、いまのように防火地域が方々に設定されていく、こういう事件が全国に起こってきますと、その鑑定人が次第に組織されてくる、固定化されてくると、鑑定委員会鑑定意見が事実上官製のものになる。役所のつくったものになっていく、こういうことについては、あらかじめ予測されてやられているのかどうか、従来の裁判所の指定した鑑定人の鑑定、そういう結果に次第になってきている。その点については何か予防措置を講ずるとか、先ほど来伺っておりましてそういうことはないとおっしゃるけれども、事実からいってそういうことになるおそれがあるのではないか、こういうふうに考えるわけであります。その点はいかがでしょう。
  149. 新谷正夫

    新谷政府委員 今回の改正法案第十四条ノ五に、鑑定委員会についての規定を設けてございます。これは三人以上の委員をもって組織するわけでございますけれども、これは各事件ごとにその裁判所が名簿の中から適当な人を選びまして、たとえば不動産鑑定士の方とか、あるいは弁護士さんとか、あるいはその土地事情に詳しい方とか、そういう方を選びまして、公正な常識に従った判断を求めて、それを参考にして裁判が行なわれるわけでございます。このためには地方裁判所があらかじめ特別の知識、経験のある方とか、あるいはその他適当な方の中から毎年名簿を作成しておきまして、その中から事件ごとに指名いたしまして、三人以上の構成によりましてこの鑑定委員会というものが組織されて、非訟事件の処理に協力することになるわけであります。単なる鑑定人、従来の証拠調べでやってまいっておりますような鑑定というものとは若干性質が違うわけでございます。鑑定といいますと非常に専門的な知識経験を駆使いたしまして、専門の立場からいろいろの判断を下すわけでありますが、これはそういう趣旨とは若干違いまして、常識的に、しかもそこの土地事情に詳しい人あるいは不動産についての専門的な知識を持っておる方、そういう方の衆知を集めた結論といいますか、意見を出していただいて事案を処理しよう、こういうわけでございます。これが官製的な、形式的なものに堕してしまうのではないかという御懸念だと思いますけれども、私どもは、裁判所が公平に、公正にこの事件を処理いたします上において、鑑定委員会の意見を十分尊重してやられることと思うわけであります。鑑定委員会の意見が出ましたからといって、はたしてそのとおりのみにされて裁判所判断されるか、あるいはさらに、別に鑑定を命じまして、鑑定人の意見を別に聞かれるか、いろいろのことが考えられるわけでございます。最も公正妥当な結論を得ますために、裁判所としても十分配慮されてこの事件を処理されることと考えるわけであります。まあ御懸念のような、従来の判例に追随するとか、あるいは形式的な判断が下されてそれで処理されるというふうには、私どもは考えていないわけでございます。
  150. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 それは、たとえば最初の一件、二件ですね。あるいは裁判所ごとに違ってくると思いますが、一件、二件ぐらいのときはいいですけれども、今後はますます都市が大きくなっていって、密集地帯ができますと、自然今度の改正案の対象になるものがふえてきます。これが幾つも幾つも繰り返されていくうちには、一種の類型になって、裁判所のほうでも、大体類型化できた、一面習熟する面はあるでしょう。が、同時に、特殊の裁判上の鑑定と違って、悪く制度化されるというようなことになるのではなかろうか、こういうことを私は申し上げているのであります。  それはそれとして、じゃもう少し立ち入って申しますと、二週間以内に即時抗告の道が開けており、即時抗告は執行停止の効力を持つというのでありますが、その場合に、あとどのような措置を講ずるのか、その点についてはどういうことになりますか。
  151. 新谷正夫

    新谷政府委員 裁判所裁判に対しましては、十四条ノ九の規定によりまして二週間以内に即時抗告を認めまして、不服の申し立てを許すことにいたしたわけであります。抗告がございますと、抗告審でさらにこの判断を下すわけでございます。この非訟事件のいわば第一審的な判断だけで確定させてしまうということは、当事者の立場にいたしましてもいろいろの問題がございます。そこで、これに対して不服申し立て方法として即時抗告を許すということにいたしたわけでありますが、二週間の期間を切りましたのは、その二週間のうちに即時抗告をいたしませんと裁判が確定するわけであります。そういたしませんと、せっかく最初の裁判所裁判が行なわれましても、不安定のままの状態になって困りますので、  一定の期間を定めてその期間に即時抗告を許す、しかも確定するまでは非訟事件による裁判の効力を生じないということにいたしまして、確定した後に初めて当事者間に確定的な法律関係形成され、あるいは変更される効果を生ずる、こういうことにいたしたわけでございます。
  152. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 抗告裁判決定されましたものを、再度の不服の申し立てということはできないのでございますね。抗告裁判をやりますね。そうしてそれでやはりもとのとおりだ、それでは借地人借家人は非常に不利だと思っていても、もうそれについて出てしまえばもうどうにもならないというか、あるいはまた抗告裁判自体の場合に不服申し立てが十分考慮されないというようなことが、借地借家人の組合の人なんかでも非常に心配しているのでありますが、その点についての保証はどういうふうになっておりますか。
  153. 新谷正夫

    新谷政府委員 今回の非訟事件は、非訟事件手続法規定によるわけでありまして、抗告の手続につきましては、御承知のように非訟事件手続法によりまして民事訴訟法手続を準用いたしております。したがいまして、民事訴訟法規定に基づく特別抗告の道も開かれておるわけでございます。これのみによって究極的に確定してしまうというわけではございません。したがいまして、当事者の利益も十分に考慮し得る道が開かれておる、このように考えておるわけでございます。
  154. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 きょうはそれだけにしておきます。
  155. 大久保武雄

    ○大久保委員長 大竹太郎君。
  156. 大竹太郎

    大竹委員 きょうは第九条ノ三から逐次お伺いしたいのでありますが、この九条ノ三でありますが、こまかいことはあとでお聞きして、総体的に見まして、競売その他で第三者がうちを買った、そしてそのあとから地主の承諾を求めるいろいろな手続に入るわけでございますが、先ほどから坂本委員からも御質問があったのですが、これは実際問題とすると非常に不都合なことがあると思うのです。たとえば公売、競売でうちを買うにしても、地主の承諾を受けられるか受けられないかで値打ちは全然違うものだと思うのです。こうやって非訟事件でいろいろ手続をされるのなら、少なくともほんとうに第三者が買う前に、地主がその人間に貸してもいいかどうか、ましてや、この場合にはいわゆる地主の承諾がなくとも非訟事件によって決定されるわけですから、それをやるのが私はほんとうの親切ではないかと思うし、そしてことに家を処分する、そのものの値打ちというものは私は全然違うと思うのですが、それらについてどうお考えになりますか。
  157. 新谷正夫

    新谷政府委員 公売、競売の場合におきまして、第三者がこれを取得した場合のことでございますが、これは何人がはたして競落するのかということが実はまだわかっておりません。したがいまして、競売の手続が終結いたします前に、自分がこれを競落するからといって地主にかけ合いましても、はたしてそれが実効性のあるものになるかどうかということもわからないわけでございます。現行法におきましてはこういう措置がございませんために、もしも地主が承諾いたしませんと、建物を取得しても明け渡すというはめに立ち至ってしまうわけでございます。それでは非常に土地の利用上も不都合でございますので、すべて公売、競売の場合もこのようにいたしまして、競落した第三者の申し立てによりまして、地主の承諮を得られる道を開くということにいたしたわけでございます。あらかじめ何人が取得するかということもわかりませんので、やはりこれは競落の決定なりあるいは競売代金の支払いのあった後に、かくかくの者が競落人になったということがきまりました後にやるのが相当である、こういうように考えております。
  158. 大竹太郎

    大竹委員 私は、先ほどの坂本委員質問は、全体的には賛成できない面もあるのですが、競落したあとからいまのように承諾しないということでは、これはやはりものの値打ちが全然出ないということになるわけですから、少なくともこういう公に買った場合だけでも、競落した人間が一応借地権を取得したとみなすとかというような法律上の保護というものが、私は必要じゃないかと思うのですが、そういうことは立法上できないのですか。
  159. 新谷正夫

    新谷政府委員 競売、公売の場合におきまして、何人がその建物を取得するかというようなことは、もちろん地主にもわかりません。土地建物賃貸借関係というものは、先ほど坂本委員からも御質問がございましたけれども、これはやはり対人的な信頼関係に立っておる場合が非常に多いわけでございます。そういうことを考慮いたしますと、公売、競売の場合に限って、地主の承諾がなくても当然競落人がその不動産を取得する、また賃借権を取得するというふうにいたしますのはいかがであろうというふうに考えまして、やはりこれは九条ノ二の場合に準じまして、地主の承諾を必要とするというふうにいたしたわけでございます。
  160. 大竹太郎

    大竹委員 次に、第何項ですか、第三者が二カ月以内に限り申し立てができるということになっておるわけですが、こう二カ月とはっきりきめられたところは、どの辺から出されたのですか。
  161. 新谷正夫

    新谷政府委員 二カ月とはっきり書いたのでございますが、これは一カ月でいいじゃないかという御意見もありましょうし、また、二カ月では足りないという御意見もあろうかと思うのでございます。しかし、これはいつまでも不安定な状態に置かれますと、地主のほうも困りますし、そうかと申しまして、競落いたしました人の都合も考えなければなりません。これがあまり短い期間でございますと、競落人も非常にやりにくいことも考えられるのでございます。したがいまして、二カ月くらいのところが適当なところではあるまいかということを考えて、二カ月といたしたわけでございます。
  162. 大竹太郎

    大竹委員 次に、それなら二カ月以内に申し立てをしなかった場合、そうすると、結局買った人はどういう立場に立つでしょうか。うちは買ったが土地は貸してもらえないということになると、やはりそれをまた処分せんければならぬということになる。そう考えてよろしいですか。
  163. 新谷正夫

    新谷政府委員 これは二カ月たってしまいますと、地主の承諾を得る道がなくなるわけでございます。これは現行法のもとにおきましても起きる問題でございまして、地主の承諾がない場合には、建物を収去して土地を明け渡さなければならないということになるわけでございます。ただ、その間におきましても、地主との間の協議がおそらく続けられると思います。協議が調いませんと、借地法の十条の規定によりまして、財産取得者のほうにその建物の買い取り請求権が認められておるわけでございます。そちらのほうの解決法もあるわけでございます。
  164. 大竹太郎

    大竹委員 次に、この規定を見て私ちょっと考えついたのですが、これはむしろよくある規定なんですが、ほかにもこういう例はあるのですが、賃貸人に二カ月以内に異議があるかどうかということを通知といいますか知らせまして、それで異議がなかった場合には借地権の譲渡があったものとみなすというような規定にしたほうが、買い受けた人とすれば承諾を得やすいといいますか、そういうようにしたほうがいいんじゃないですか。その点はどうですか。
  165. 新谷正夫

    新谷政府委員 御意見のような考え方もできると思いますが、これはあくまでも民法の六百十二条のあの規定を受けての措置でございます。したがいまして、民法六百十二条では貸し主のほうからの好意によって、貸し主側の積極的な考え方によってこの賃借権の譲渡、転貸を認めるというたてまえになっておりませんで、借地人のほうでその承諾を求めるというたてまえになっておるわけでございます。したがいまして、この競売、公売の場合には、若干事情が違いますけれども、やはり民法の六百十二条の規定のたてまえから申しまして、競落人側からの申し立てにするのが適当であろう、こういうふうに考えたわけでございます。
  166. 大竹太郎

    大竹委員 時間がございませんから次に移りたいですが、十二条であります。先ほど坂本委員との間にいろいろやり取りがございましたが、この増額、減額については非訟手続によっておらないわけであります。先ほどいろいろ議論を聞いておりますと、どうも私わからないのですが、家賃を幾らにするかということも借地契約一つの条件であります。そのほかの建て増しするとかしないということも一つの条件である。大きな月で見れば一つの条件だ。そういうことから見ますと、地代、家賃そのものの変更についてだけは訴訟手続により、そのほかの条件の変更その他については非訟事件でいいということは、何か理屈に合わぬような気がするのですが、その点はどうお考えになりますか。
  167. 新谷正夫

    新谷政府委員 確かに今回の改正案を通覧いたしますと、場合によっては非訟事件、場合によっては通常の民事訴訟ということになっておりますので、不統一の感がないではございません。しかし、地代増減請求につきましては、これは現在実体法上の意思表示によりまして、当然にその時点から地代増減が行なわれるわけでございます。たとえば一月一日に増額の請求をいたしますと、その時点において客観的な相当地代が増額されるわけでございます。その相当地代幾らかということが争いになりました場合に、後に訴訟解決するわけでございますが、これをもし非訟事件でやるといたしますと、非訟の手続に乗ってまいりますのは、やはりかなり時期的におくれてまいるわけでございます。そういたしますと、一月一日にさかのぼってその地代の増額を認めなければならないという問題が出てまいりまして、非訟事件裁判でそのような遡及効を認めるような結果を認めてもよろしいかどうか、非常に大きな問題がございまして、また今回この十二条の第二項を規定することによりまして、従来のような地代、家賃の争いにつきまして賃貸借そのものが債務不履行によって解除されるという問題はともかく一応なくなると考えられますので、従来どおりこれを訴訟の形に残しましても、従来以上の遅延が起きる、訴訟が長引くというような問題は起きない。むしろ従来よりはその時間は短縮されるだろうということになるわけであります。したがいまして、今回は特にその根本の問題には触れないで、一応地代、家賃の増減請求にからまるいろいろの紛争を少しでも少なくしようという措置にとどめた次第でございます。
  168. 大竹太郎

    大竹委員 次に同じ条文でありますが、増額で争われたという場合には、借り主相当と認むる地代または家賃を支払うことをもって債務不履行が免れるというのでありますが、私ども、地主、家主いろいろから陳情を受けておりますのは、どうもこの点があいまいだ、たとえばいままで百円なら百円、それを二百円にする、それで借りているほうでは、いや二百円では高い、百五十円にしてもらいたい、だけれども、貸し主のほうでは百五十円では承知ができないといった場合には、私はものの道理からいえば、たとえば供託をして争うという場合には、百五十円を納めてけんかすればほんとうの道理は通らぬと思いますが、これによりますと、いままでの地代である百円なら百円を納めておけばいいようにとれるのですが、その点はどうなんですか。
  169. 新谷正夫

    新谷政府委員 百五十円が相当考えまして百五十円を供託されれば、それでもよろしゅうございますし、争いがありますために百五十円までは供託しないで、従来どおり百円供託したという場合は、それでもよろしいわけであります。ただ、この規定にございますように、弁済期後の不足額につきまして、将来その額が確定いたしますと、一割の利息をつけて支払うことになりますので、その辺で貸し主借り主の間の利害の調整をはかったということでございます。確かにちょっとごらんになりますと、従来どおり払っておけばそれでいいというのは、少し借り主側に有利に過ぎるんじゃないかという御意見もあろうかと思いますが、あとで精算の際に利息を支払うことによって、その間の調整をはかることによって双方の利益を調整しよう、こういうふうに考えたわけでございます。
  170. 大竹太郎

    大竹委員 それで次のこの減額でございますが、この場合に、貸し主のほうの、これもこの趣旨からいえば従来のものを請求することができるということになるんだろうと思いますが、借り主のほうではそれ以下ということになっているわけですが、供託はそれならやはり従来のものをやらなければ債務不履行になるんだろうと思いますが、しかし、たとえば百円のものを八十円にしてくれと借り主が言っている場合、そして八十円を供託をした、そして裁判をやったらやはり八十円でいいという判決が出たとします。それでもやはり八十円供託しておったら債務不履行になるのですか、その点はどうですか。
  171. 新谷正夫

    新谷政府委員 減額の場合は、増額の場合の逆になるわけでございまして、貸し主相当と認める金額の支払いを請求いたしますと、それを支払わなければなりません。したがいまして、それを払っていない限りは、債務不履行の責任は免れないわけでございます。
  172. 大竹太郎

    大竹委員 それなら、いまの私の設例の場合には債務不履行になるわけですね。
  173. 新谷正夫

    新谷政府委員 債務不履行になるわけでございます。
  174. 大竹太郎

    大竹委員 そういたしますと、やはり私は、この条文として表現がまずいんじゃないかと思う。それならむしろそのままいずれも従来のものを支払え、こうしておかれたほうが、いまのような疑義が出ないで非常にいいんじゃないかと私は思うのですが、その点どうですか。
  175. 新谷正夫

    新谷政府委員 百円の従来の地代に対しまして八十円の減額の請求があった場合、貸し主のほうは、百円まではいいけれども、九十円払っておけというふうな場合も考えられるわけでございます。したがって、一応貸し主請求いたしました額を払っておいて、あとで金額がきまりましたら、よけいに取っておりました分はまた同じく利息をつけて返すことによって調整をはかる、こういうことにいたしたわけでございます。
  176. 大竹太郎

    大竹委員 こればかりじゃない。前のほうも、やはり私が申し上げましたような疑義が出ますから、この前のほうもあとのほうもいずれも、従来の額を支払っておけば足りるという条文にされたほうが非常に明確じゃないか。いま私が言ったような疑義が残らぬじゃないか、こう思うのですが、どうですか。
  177. 新谷正夫

    新谷政府委員 確かにそのほうが明確ではあろうと思います。しかし、増額の請求がございました場合に、誠実な借り主が、せめてこのくらいは払っておこうということも望ましいわけでございます。これは当然、たとえば百円のものが二百円に増額請求されまして、百五十円に落ちつくだろう。しかし、落ちつくまでの間は百三十円払っておきましょうということであれば、これはあえて阻止する必要もないわけでございまして、借り主が百三十円払おうということであれば、それだけ払っておけばいいということにして、相当と認められる額を借り主の意思に基づいて払う分におきましては、これはそのまま受けてよろしい、こういうふうに考えたわけでございます。
  178. 大竹太郎

    大竹委員 次に、ほかにもまだいろいろございますが、十四条ノ八の、「裁判所ハ審理ヲ終結スルトキハ審問期日二於テ其ノ旨ヲ宣言スベシ」、審理終結の宣言、これは一体どういう意味なんですか。
  179. 新谷正夫

    新谷政府委員 現在の非訟事件手続法におきましては、審理終結の宣言ということはございません。適当な時期に裁判所が審理を打ち切りまして、職権で調査いたしましたところに基づいて裁判をすればよろしいわけであります。しかし、この借地借家関係は、一般の非訟事件と違いまして、当事者の利害の対立のある一種の争訟的な性格を帯びたものでございますので、できるだけ当事者双方主張を尽くさせ、また立証すべきものは立証させて、その上で審理を遂げるほうがよろしいわけでございます。したがいまして、いつの時点においてこの審理を終結して、それまでの資料で裁判を行なうかということを、明らかにする必要がございますので、そういう意味で、審理終結の宣言ということをいたしまして、当事者主張あるいは立証を尽させようということにいたしたわけでございます。  なお、これを定めることによりまして、審理終結後裁判確定までの間に当事者が更迭いたしました場合、これは後に出てまいりますが、その承継に対しても裁判の効力を及ぼさせる意味から申しましても、これが必要になるわけでございます。
  180. 大竹太郎

    大竹委員 次に、十四条ノ十一でありますが、「ノ裁判ニシテ給付ヲ命ズルモノハ強制執行二関シテハ裁判上ノ和解ト同一ノ効カヲ有ス」、この「強制執行二関シテハ」ということをここへわざわざお入れになった意味はどういうことですか。
  181. 新谷正夫

    新谷政府委員 非訟事件裁判につきまして、既判力があるかないかという問題、先ほど議論があったところでございます。   〔委員長退席、小島委員長代理着席〕 特に給付を命ずる裁判につきましては、債務名義としての効力を持たせる必要があるわけでございます。ただ、債務名義という表現をとりますと、承継の関係あるいは執行文付与の手続の問題、いろいろな手続がどうなるかという疑問が若干あるわけでございます。そうかといいまして、単純に裁判上の和解と同一の効力を有すとしますと、これは確定の判決と同一の効力があると見られまして、既判力があるのじゃないかというふうに見られる疑問が出てくるわけでございます。そこで、「強制執行ニ関シテハ」ということばを入れることによって、既判力はないけれども、この裁判によって債務名義として強制執行ができるという趣旨を明らかにしようとしたものでございます。
  182. 大竹太郎

    大竹委員 次に、この借家法で一点だけお尋ねしておきたいのですが、この第七条ノ二でありますが、第一、この条文で私ちょっとお聞きしたのですが、ずっとして「在りタル同居者アルトキハ」とこうなっておるのですが、これは上の「事実上夫婦又ハ養親子ト同様ノ関係ニ在リタル同居者」、両方へかかる趣旨ですかどうですか。
  183. 新谷正夫

    新谷政府委員 両方にかかる趣旨でございます。
  184. 大竹太郎

    大竹委員 それでは、これが地主とか家主の人は非常に心配をしているのでありますが、たしか法制審議会で、この「同居者」というのを、生計を一にするというようになっておったかと思うのでありますし、また、私は、ことに同居者というような表現をしてあるとよけいにその点が心配になると思うのですが、やはり一定の期間同居しているというような趣旨でないと、さあたいへんだということで、まぎわにそういうものをつくり出すと言っちゃ語弊があるかもしれませんけれども、いろいろそこで細工をする余地が出てくるということになると思うのですが、その二点についてどうお考えになりますか。
  185. 新谷正夫

    新谷政府委員 法制審議会の答申におきましては、お話のように、生計を一にする者というふうになっておったわけでございます。しかしこの生計を一にする者というふうな表現をそのまま持ってまいりますと、法律関係はかえってわかりにくくなる心配がある。ことに相続が開始いたしました時点におきまして、急に入り込んできて、生計を一にしておったということを言い出しますと、そういったものもすべて中に含まれてしまいまして、かえって法律関係の混乱を来たすのじゃないか。したがいまして、必要な最小限度のものをやはり具体的にあげて、これには借家権を承継させるのが適当だと思われるものだけに限定したほうが、かえって法律的な安全性が得られるのじゃないかというふうに考えたわけでございます。したがいまして、どういうものを取り上げるかと申しますと、やはり届け出はしておりませんけれども、事実上祝言もあげて、周囲から見ましても名実ともに夫婦として暮らしておる人とか、あるいは養親子として親子の関係で暮らしておる人とか、こういうふうに限定する必要があるのではあるまいかというふうに考えたわけでございます。  それから、こういった人たちについてある一定の期間同居しておるというふうにしたほうがいいのじゃないかという御意見がございましたが、確かにそういう考え方もとれると思います。しかし、これをかりに一カ月あるいは三カ月ときめましても、ほんとうに祝言をあげて、夫婦になったのが一週間前だった。たまたま一週間後に突如として借家人が事故によって死亡したというふうな場合に、そういう事実上の夫婦が除外されるのも、これまた酷なことでございます。したがいまして、これはそういう夫婦関係にあったとか養親子関係にあったとかということは、その人たちの立証責任にかかっている問題でございますので、特に期間を置かないでも、事実上の夫婦あるいは養親子と同様の関係にあった人がそういう証明をいたしますならば、そういう問題も起きないで承継ができることになろうというふうに考えているわけでございます。
  186. 大竹太郎

    大竹委員 最後に一つだけお聞きしたいのですが、今回の改正、ことに非訟事件でおやりになるということで、この規定を全体から見ますと、やはり裁判官の裁量の余地とでも申しますか、それが非常に広くなり、そしてそれが非常に大事になる問題だ。したがって、裁判官、そういっては失礼だけれども、こういう方面のことに対して相当練達な裁判官をしてこの種の事件を扱わせなければ、私は相当これは問題になるようなことも出てくるのではないか、こう思うわけでありますが、この裁判官はなかなか一時に養成するとか見つけてくるというわけにはいかぬものでありますが、それらのことについて十分、われわれも裁判所にお聞きするのはあれかもしれませんが、配慮はできているのでしょうか。  それからいま一つ、やはりこれは特別部と申しますか特別の係と申しますか、どの判事さんにでもやらせるというわけにはいかないだろう、したがって、何といいますか、特別部とでも申しますか、特別の係とでも申しますか、そういうものをやはりおつくりになる必要があるのではないか、そういうことも考えるが、それらについてお伺いしたいと思います。
  187. 菅野啓蔵

    ○菅野最高裁判所長官代理者 御指摘のように、こういう事件裁判官の裁量の余地の多い事件に相なると思います。したがいまして、この事件を担当する裁判官につきましては、十分練達の裁判官、法律的と申しますか、むしろ社会常識のあるような裁判官がこれに当たってもらいたい、こういうふうに思っております。  それから、何と申しましてもこういう事件は専門的に扱うほうが能率的でございますし、そしてこの事件一つには迅速に解決するという必要性があろうかと思いますので、大都市におきましては、たとえば東京であるとか大阪、名古屋、あるいは借地借家事件が多いところといたしまして神戸などもございますので、こういうところは専門部、特別部と申しますか、そういうものをつくってまいりたいというふうに考えております。
  188. 大竹太郎

    大竹委員 一応これで終わります。
  189. 小島徹三

    ○小島委員長代理 鍛冶良作君。
  190. 鍛冶良作

    鍛冶委員 だいぶ質問が出ましたけれども、ぜひ聞かなければならぬと思っておるところを一応確かめておきたい。  私はこの法律はたいへん実情に合うことをきめられたものでけっこうな法律だと思っております。しかるに、諸所からいろいろの意見がありまして、ことに実際家のほうから、こういう法律ができるということは——実際家というか家主及び地主のほうでは、こういう法律が出たらわれわれはこの上なおいじめられるのではないかというので、非常な反対があります。   〔小島委員長代理退席、大竹委員長代理着席〕 そこで聞いておりますと、いままでの借地借家の事件においては、戦後地主及び家主というものはたいへんないじめられ方をした、裁判になると何でも借地人を勝たせる、借家人を勝たせるという傾向であった、しかるに、今度またこういうふうに借地人及び借家人を保護するようなものを出されたら、この上いじめられたらわれわれは立ち切れぬ、こういうことがほんとうの訴えでございます。さように聞いてみますと、われわれのいままでの経験から見れば、いたずらに杞憂しておるのでなくて、現実にさようなことがあったと思う。この点は、あなた方法務省においても裁判所においてもそういう事実がなかったかどうか、あったとすれば、どうしていままでそういうことになっておったのか、この点をひとつ率直に意見を聞かしていただきたいと思います。
  191. 新谷正夫

    新谷政府委員 借地法、借家法という法律は、これは借地人保護のためにできておる法律であるということはいまさら申し上げるまでもないところでございます。加えまして、戦後の借地事情あるいは借家事情が非常に窮屈になりました際に、ますます借地借家関係についての紛争が多くなり、また借り主を保護しなければならぬと同時に、貸し主もまた保護しなければならぬという事態が起きたわけでございます。そういう際に、それぞれの事案について裁判所におきましてそれぞれ妥当な裁判をされたことと思いますが、必ずしもいまお話しのように、貸し主に不利益な裁判に終始しておるとは言えないと私は思うのでございます。もちろん事案によりましてそれぞれの差異がございますので、貸し主が勝つ場合もあれば負ける場合もあるわけであります。貸し主に不利益な例ばかりを取り上げますと、いかにも貸し主に不利益な一般の傾向のようにも受け取れるわけでありますけれども、必ずしもそうではないという例もあるわけであります。また最近、こういう借地借家法という法律がありながらも、貸し家の件数というものは年とともにふえてきております。このことが裁判所裁判官必ずしも貸し主に不利益に働いておるというのではないことの一つの間接な証拠ではないかと思います。年々貸し家の数がふえてないというふうにいわれますけれども、関係省の統計によりますと貸し象の増加率は年とともにふえておるのが実態であります。こういうことを考えますと、裁判によって必ずしも貸し主に不利益な判決が行なわれてきたということは言い切れないと思います。この法律改正になりましても、裁判所でありますので、公正にその点は扱われますことを私どもも信じておりますし、双方の利害を十分考慮しながら妥当な裁判が行なわれるだろうということを信じて疑わないものであります。
  192. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そんな月並みの返事を聞くのなら私はこんな質問をしない。現にわれわれも目に余るものを幾多見ております。ことに正当な事由がある場合ということだって、正当な事由というのはその人の頭によってどのようにも動くのですから、そういうことでわれわれが目に余ったものがあると思います。裁判所のほうではそういうようなことはお気づきになりませんでしたか。そんなことはないのにそういうことを言うやつは、何か特別のつむじ曲がりだというなら話は別だ。私は、そんなことは決して彼らの杞憂ではなくて、現実にそういうことがあったと思うが、いかがですか。
  193. 菅野啓蔵

    ○菅野最高裁判所長官代理者 従来なされましたいろいろの家屋明け渡し、土地明け渡しの事件につきましていろいろの判決例が出ましたことにつきまして、世の中がどういう御批判をなされておるかということにつきましては、私どももいろいろ知っておるところでございますけれども、この裁判が妥当であったかどうかということにつきましては、私ども事務当局におります者としてはとやかく申す立場におりませんものですから、従来の裁判が妥当であったかどうかという点につきまして私から申し述べることにつきましてはどうか御容赦願いたいと思います。ただ借地人保護に過ぎるか、あるいはその傾向が強いか、地主保護の傾向が強いかということは、これは戦争直後の、住居が全く混乱しておりました時代と、そうでなくなりつつある時代とによりまして、だんだん判決の傾向というものも変わるものであろうというふうに考えております。
  194. 鍛冶良作

    鍛冶委員 いま言われたように終戦後の混乱時代と今日とではよほど変わってもらわなければならぬし、変わっておるだろうと思う。それから、戦後の混乱時代であったがゆえにそういうものが非常に身についたか知らぬが、いずれにしてもそういうことを心配しておる者が多い以上は、私は法務省のみならず裁判所としても、そういうことは杞憂なんだ、前はいろいろのことがあったかもしれぬが、今後はそういうことはないようにするのだから安心してこの法律を信頼してくれ、こうひとつ国民に大きく安心を与えてもらいたいものだと思うのです。したがって、またそれならばどういう方法でそういうことのないようにやるか、これは私の質問する点もその点から来ておるのですが、そういうことに対してひとつこれは思いやりがあってほしいものだと思うのですが、いかがでしょう。
  195. 菅野啓蔵

    ○菅野最高裁判所長官代理者 裁判所といたしますれば、要するに法に従って裁判をするわけでございます。今度法が変わるということになりますれば、その法の趣旨はどういうところにあるかというところを裁判所裁判をするときに十分考えるだろう。そのためには先ほど申しましたように、相当この事件というものは裁量の幅のあるむずかしい事件だろうと思いますので、法律の知識だけでなく、十分常識にたけた、いわゆる練達の裁判官をもってこの事件に当たってもらいたいというふうに考えておるわけでございまして、なお法律はそのほかに鑑定委員という制度を設けて、そうしてそういう専門家の意見を聞いた上で裁判をしろということになっておりまするので、この法律趣旨に従いまして、十分熟達した裁判官が鑑定委員の意見を、専門家の意見を聞いて、そうして妥当な裁判をするであろうというふうに確信をいたしております。
  196. 鍛冶良作

    鍛冶委員 人にもよりましょう。私は、研修所においても新しい裁判官を研修されるとき、何といっても人間をつくることが一番大事なんですからね。そういう意味でやってもらいたいし、したがってこの裁判についても若い者には行き過ぎがあるか知らぬが、十分なれた練達たんのうの士を充てる、こういうことをしてもらう点において非常によかろう、こう思うのですが、その点はあなたのほうから……。  ところが、もう一つ杞憂としてわれわれ考えるのは、先ほどからずいぶん出ましたが、非訟事件でやられるということなんです。まあ法律上の点から見ても、当事者間のほんとうの争いではなくて、争い前提条件である主としてこれをきめるものだから、とこうおっしゃいますが、これは非訟事件でやればいわゆる職権主義であることは当然でございます。そうすると、どうもいまの裁判でさえいろいろと地主に不利益、家主に不利益なものが出たのに、こういうような重大なことを非訟事件でやられるとすれば、なおさらにこの職権主義でやられてさらいつけられるのではないだろうか、こういう杞憂を起こすのが当然だと思うのです。そこでこれらの点も考えて、いまおっしゃいましたが、合わせてひとつあなた方の今後のこれに対する対処方を聞かしていただきたい。  第一は、非訟事件形成だけなんだからということはこの間からずいぶん聞くのですが、形成だけでもこれは職権でやれるということになると当事者にとってはたいへんに心配があると思うのです。そこへ持ってきて、いままでの経験からたいへんに心配しておったのですから、こういう点から考えて非訟事件でいいんだ、またそういう例があってもこういうことで確かにその点の心配のないようにやるんだということを、ひとつここで国民に向かって答弁するつもりで答弁をしてもらいたい。
  197. 菅野啓蔵

    ○菅野最高裁判所長官代理者 この種の事件を非訟事件でやってよいのかどうかということは、これは一つには理論の問題でございますが、一つには政策の問題でございまして、まあ私どもといたしましては政策の問題にとやかく申す筋合いのものではないと思いまするが、法律が非訟事件でやれということになっておりますので、これを実施する裁判所といたしましては、この事件が迅速にしかも妥当な結論を出し得る運用のしかたをしなければならないという点につきましては、十分気を配っておるわけでございます。  そこでこのほかに前提要件である借地権があるかどうかということが争いになった場合に、これを非訟事件でやるということについての御疑問、問題点の御指摘でございます。私どももこれは本来は権利があるかないかという確定の問題でございまするから、非訟事件でやるという、それが既判力をたとえ持たないものにいたしましても、本来の性質からして訴訟事件的なものであるというふうに考えておりまするので、おそらく実際の事件といたしましてそういう前提問題がそもそも争いになったというときにおきましては、やはりあまり職権主義というようなことで職権証拠調べをするというような方法はとらないで、いわゆる民訴の原則によりまして当事者の出した証拠を、この法律で認められております民訴の証拠調べによって正式にやっていくものであろうというふうに考えておるわけでございます。もちろん例外的な事件といたしましてこういうことも考えられるわけでございます。そもそもそういう点は実際上にはそう争いがないと申しまするか、証拠の上で借地権があることが明瞭な事件、ただ当事者が争わんがために争って、後の応訴、譲渡の承諾を与えたかどうかというそういう争いに入っていくことを遅延せしめるために特段にそういう主張をする場合もあろうかと思いますので、そういう場合には必ずしも深く証拠調べに入らないという、いわば権利乱用的な事件の場合には、そういうところまで民訴の手続を利用しての証拠調べというところまでは入っていかないとも思いまするけれども、そこがどうもやはり裁判所として証拠調べをして、じっくり事実認定をしなければならない事件であるといたしますれば、その点につきましては非訟と申しまするよりもむしろ訴訟事件的な事件でありまするから、民訴に従った証拠調べをするであろうと思うのです。  なお、その点につきまして別訴で借地権の確認というような訴訟が係属いたしておりますればその結論を待つ。そしてこちらの手続は中止するというような手続をとるのではなかろうかというふうに考えておる次第でございます。
  198. 鍛冶良作

    鍛冶委員 調べ方についてはまたあとにいたしますが、先ほどから特別の部ということが出ておりますが、どういうものをお考えになっておるのでしょう。それから何によってそういうものをつくられるのですか。よりどころの法律です。おそらくここに書いてある裁判所の規則ですか、それでであろうと思うが、ひとつ具体案を示していただきたい。
  199. 菅野啓蔵

    ○菅野最高裁判所長官代理者 部の数はこれは裁判所の規則できまると思いますが、その中で裁判会議によりまして毎年事件の配点、分配ということをきめるわけでございます。それによりまして事件の分配の方法として特殊事件はどこの部に分配するというようなことで特殊部がきまってまいるということに相なろうと思います。
  200. 鍛冶良作

    鍛冶委員 いや、何か借地借家の九条ノ二及び三に関するものを取り扱う部ができるという考えじゃないですか。それを聞いておるのです。そういう考えがあるか、あるとすればよりどころは何によるのか。おそらく最高裁判所の規則とここに書いてございますから、それによって定められるのじゃないかと思うが、その点いま考えておられるところを聞いておきたい、こういうことです。
  201. 菅野啓蔵

    ○菅野最高裁判所長官代理者 どういう部をつくるかという御質問に対しましては、これは八条ノ二による事件あるいは九条ノ二による事件、これを取り扱う部というか専門部をこしらえるつもりでおります。それでなぜそういう部ができていくかという手続上の問題といたしましては、事件の分配は裁判所が、と申しますのは、つまり裁判会議が毎年事件の分配につきまして、配点につきまして、司法行政の一つといたしましてそういう事件の分配をやるわけでございまして、何部にはこの八条ノ二の事件と九条ノ二の事件を割り当てるということで事件の配点がきまってまいる。そうしていわゆる特殊部ができるということに相なろうかと思います。
  202. 鍛冶良作

    鍛冶委員 どうもよくわからない。普通の裁判官のところへ回してやると同じようではなくて、八条ノ二とか九条ノ三を取り扱う特別の部をこさえようという考え方をこの間大臣言っておられるのですが、ただ普通裁判官ならだれに回っていくか順序によって当たっていくのだが、私はこういう人を、特別練達たんのうの者でこういうものに経験のある、そして非訟事件でやっても文句を言われぬような取り扱いをする人をこの部に充ててもらうと思うのですが、またそれが非常にいいと思っているのだが、その点がどうもよくわからない。そういうものをこしらえると言っておられた。何べんも聞いておるのですが、そういうものじゃないですか。それとも普通一般だけれども、だれにいくかわからないのか、この人はこういうことに専門なんだ、この人はこれがきたらやる、つまりこういう特別の部、そういうものを設けられるつもりじゃないですか。
  203. 菅野啓蔵

    ○菅野最高裁判所長官代理者 そのとおりでございまして、たとえば東京の裁判所に三十何部かございますが、そのうち第何部かをかりに借地借家の処理事件部というふうにいたしまして、そこにたんのうな裁判官を配置いたしまして、そして事件が現に出てまいりますると、通常事件は順番、部によりまして均分に配点するわけでございますが、特殊事件はただいまでも、たとえば商事部であるとか行政部事件であるとかということになりますと、そこの部には通常事件は一部配点になるとか全然配点にならないとかということがございますけれども、商事部事件は商事部に全部、行政部事件は行政部に全部いくということになっております。それと同様に借地事件部は、まあ事務の分量を見まして普通事件も多少配点になるというような分配のしかたになるかもしれませんけれども、しかし借地事件は全部そこにいく、そこに配点されるという事務の分配のされ方になる。そしてそこにいわゆる特殊部ができるということに相なろうかと思います。
  204. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこで私は私見を御参考に一つ申し上げておきたいことがあるのですが、練達たんのうの士といったって、そうたくさんおるわけじゃありません。よほどあなたのほうで苦労をせられなければならないのだが、そこで考えられるのは、まだずいぶん間に合う人で定年にかかる。六十五歳で普通なら定年ですね。ところが五十条を見ますと、簡易裁判所は七十歳までやれる。私はこういう部をつくられたら、こういう部へまだずいぶんりっぱな人で、やめられた人を特に七十歳まで充てるということを考えられたら非常によくいきやせぬか。それにはやはり最高裁の規則か何かで借地借家法の八条ノ二、九条ノ三のことを置くと、こう書いて、その部は判事は七十歳までやれる、こういうふうにしてもらったほうが非常にいいと思うので、これはひとつとくと御考慮を願っておきたい、こう思うのです。一体おまえはそんなばかなことを言ってもだめと言うんなら、これは聞かしてもらってもいいが、とるところがあるとすれば御考慮を願っておきたい、こう思います。  それからついでですから、先ほどそちらのほうから言われましたが、裁判官にいい者を置くだけではない、鑑定人にりっぱな人を置く、これはずいぶんこの間から議論になっております。そこでこの鑑定人ですが、これは十四条ノ五の一号に規定してある。これを見ますと、「地方裁判所が特別ノ知識経験アル者其ノ他適当ナル者ノ中ヨリ」とある。この特別の知識経験とは何に対する特別の知識経験なんですか。裁判官がおられるのだから、借地借家に関する法律の特別の経験がある人という意味ではありますまい。そうしてみると、おもに地代に関する鑑定人だとか、そういうような借地借家に関する特別の知識経験のある者だと思うが、このほかにまだ何か知識経験のある者をお考えになっておられますか。法務省のほうからでよろしいです。
  205. 新谷正夫

    新谷政府委員 ここで特別の知識経験と申しますのは、今回新たに設けました事件につきまして、言いかえますと、借地借家に関します借地条件変更とか、増改築の問題、それにからまるいろいろの借地条件等の問題、さらに賃借権の譲渡、転貸の関係、こういった事柄についての特別の知識経験のある者という意味でございます。さらに「其ノ他適当ナル者」と申しますのは、そういう特別の知識経験のある方もございましょうが、必ずしもそうではなくて、法律の専門家も必要な場合があるわけでございます。たとえば弁護士さんのような方にも参加していただくことが適当な場合もあるわけでございますので、そういうことを考えましてこういう表現にいたしたわけでございます。
  206. 鍛冶良作

    鍛冶委員 どうもこれははっきりいたしませんが、調停委員であるならば、特別の専門の知識がなくても、徳望のある人とか、常識の高い人とか、こういう人でもいいと思うのですが、この場合はそうではなかろうと思うのですね。まあ借地借家に関する経験、これはよろしゅうございます。そういう者は特別なんですから、先の部へ入るだろうと思う。その次に「適当ナル者」というのはどういう者かもう一ぺんはっきりひとつ……。
  207. 新谷正夫

    新谷政府委員 借地借家に関しまする特別の知識経験ある方に参加していただくことは当然望ましいわけでございます。それのみによってはたして妥当な意見が出ますかどうか、そういう点も考慮いたしますと、やはり弁護士のような、こういった事件についていろいろの経験のおありの適当な方にこの中にも入っていただいて、皆さんの意見を総合して適切な鑑定委員会としての意見を出していただこう、こういう趣旨でございます。
  208. 鍛冶良作

    鍛冶委員 弁護士ならば、これはいいでしょう。いいけれども、そのほかあまりどうも感心しないのを入れてもらって一そう紛糾することなきにしもあらずと思います。これらの点はひとつ大いに考えていただきたい。だれを入れてもいいんだということではとてもいかぬと思います。  その次。先ほどから聞いておると、非訟事件手続法によってやる裁判決定ですね。そしてその決定既判力がないと言われるのですが、これはこうなると、私はたいへんなことを予想するのですが、堅固の建物を建てて五十年貸してやる、権利金は幾ら、家賃は幾ら幾ら、こういうふうにやる。これに不服の者は即時抗告をやって負けたとすれば判決確定するわけですが、既判力がないわけだからやはりだめだ。どうしても聞かなければ訴訟をやり直すよりしかたがない。それはどうです、そういうことになりませんか。そういうことになると思うのだが。
  209. 新谷正夫

    新谷政府委員 非訟事件裁判が確定いたしますと、その裁判の内容に従いまして法律関係が新しく形成変更されます。形成変更されました法律関係は、当事者間の確定的な法律関係となるわけでございます。したがいましてこの新しく創設された法律関係に従って貸し主も、借り主もその義務を履行し、権利を行使するという関係に当然立つわけでございます。既判力の問題は、一般民事訴訟の場合におきまして、賃借権があるかないかという法律上の紛争について判決がありました場合、もしも賃借権がないという判断が下りました場合に、それを賃借権ありということを主張することはできないというのが簡単に申しますと既判力でございます。判決の内容に反する法律関係存否主張ができない。これは訴訟におきましても、あるいは訴訟外におきましても、その内容どおり確定するわけでございまして、それに反する主張はできない。これは非訟事件決定によって裁判が行なわれますが、その決定が確定いたしますと、その決定によって定められました法律関係がそのまま当事者間の法律関係として新しくでき上がるわけであります。でき上がったものは、当然当事者がそれに拘束される、それに従う義務があるのは当然であります。既判力の問題とは別でございます。賃貸借関係そのものがあるかないかということにつきましては、民事訴訟で争うべきものでありまして、それで確定すれば、それに反した主張はできない。したがってもしもこの非訟事件によりましてある一定法律関係が設定されます、されますが、既判力がございませんので、別に民事訴訟判決によりまして、賃貸借関係がないということが確定いたしました場合には、この決定も効力を失う。そこに違いがある。もしも賃貸借関係がないということが判決で確定いたしますと、あるという主張はもうできなくなる。その既判力拘束は受けるわけでありますけれども、非訟事件によります決定によって定められた法律関係そのものは、確定いたしました以上は、当事者間の法律関係として存続していく。しかし民事訴訟によってそれがくつがえされる場合が出てまいりまして、前提賃借権がないということになれば、それを前提にした非訟事件裁判というものも、これは効力を生じないわけであります。
  210. 鍛冶良作

    鍛冶委員 ちょっとどうも直ちに首肯しがたいな。八条ノ二に定めるものは賃借権の有無について定めるのではありません。したがいまして、さようなことは問題になるわけはない。堅固の建物を建てられるかどうか、それについては他の条件がどういうことになるか、それだけきまるだけですから賃借権関係ありはせぬから、もともとないものはない。その五十年建てていいか悪いか、そこで定められた条件を履行することによって五十年やられるかということが確定するかどうかということです。確定して、その確定力が及ぶということが既判力じゃないのですか。われわれはそう考えておるのですが、それならばもとのものは借地権があるかないかというようなことは争ってやいないのですから、そんなものは出てくるはずがない。私が言うのは、それが既判力がないと言われるのだから、われわれの考えておる民事訴訟の確定と違うということだろう、こう思うのですが、それは違わないのですか、どうです。
  211. 新谷正夫

    新谷政府委員 八条ノ二の非訟事件手続におきまして、賃貸借関係があるという前提で、もちろんこの借地条件変更も行なわれるわけであります。ただしかし、賃貸借関係があるということが争われている場合もあり得るわけであります。そういう場合にその賃貸関係そのものを、別の民事訴訟によって争われている場合は、それはそれで解決するわけであります。ところが民事訴訟を起こさないで、いきなりこの非訟事件手続によってまいりまして、借地条件変更を求めてまいるという場合もあり得るわけであります。その場合に当然前提として借地権の存否ということが問題になるわけであります。この非訟事件手続前提問題といたしまして借地権の存否裁判所判断することは、これはあり得るわけであります。これは最高裁判所判決にいたしましても、そういう場合はむろんあり得るが、しかしそれは既判力の対象にならない、こういうふうにはっきり言っておるわけであります。もしもその点が争いがあって民事訴訟で確定いたしますならば、そちらが優先する、したがって非訟事件によりまして賃借権存否前提にしまして借地条件変更裁判をいたしましても、前提問題が民事訴訟でくずれてしまった場合には、この非訟事件のほうも効力を生じない、こういうことになるわけであります。その前提問題である借地権の存否という点について既判力がないというわけでございます。
  212. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それは裁判しないのだから、ないのはあたりまえだ。そうすると、五十年おってもいい、そのかわり権利幾ら出せ、地代幾ら出せということをきめますね、それで確定しますね。それが確定したら法律上何という効力ですか。既判力でないとおっしゃるならば何という効力ですか。
  213. 新谷正夫

    新谷政府委員 これは裁判の確定でありまして、それによって覊束されるのは裁判として当然でございます。新しく当事者の間で法律関係が設定されまして、堅固の建物を建てる賃貸借にしようという契約がかりにできたといたします。そうすると、それに拘束されるのは当然でございます。地主が承諾しませんために裁判によってきめようということでございますので、もしその内容が明らかにされて、その裁判が確定いたしますならば、そういう法律関係当事者の間には発生する、こういうことになるわけであります。
  214. 鍛冶良作

    鍛冶委員 やはり裁判ですね。裁判の力が当事者拘束する、永遠に拘束する、それは既判力だとわれわれ習ってきたのですが、それは既判力じゃないのですか。先ほどから言われる借地権があるかないかということを争ってはいないのだから、そんなものは出るはずはないのだから、それだけのもので、それでも裁判で確定すれば、当事者は永遠に拘束されるのだ。われわれはそれを既判力だと思っておるのですが、そのほかに既判力というのがあるのですか。
  215. 新谷正夫

    新谷政府委員 民事訴訟におきましては、御承知のとおり口頭弁論終結の時点における当事者主張、あるいは証拠、それに基づいて裁判をいたすわけでございます。その一定の時点というのが口頭弁論終結のとき、そのときにおける一切の資料に基づきまして裁判所判断するわけであります。したがいまして、それまでにほかにいかなる主張がございましょうとも、またほかにどのような証拠がございましょうとも、それに基づいてその裁判と反する主張はもはやできないということになるのが既判力の本来の意味でございます。そういう意味で申し上げておるのでありまして、裁判が確定すればその裁判拘束されるのは当然でありますけれども、ただ裁判拘束されるということが既判力であるとは考えていないわけであります。既判力というのは別の意味でございます。
  216. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それ以上はことばの争いですから、先ほどから聞いておってほんとうの確定じゃないのだと聞いた者はだいぶありますよ。私だけじゃないのです。われわれいままで習ってきた知識が足らぬのかもしれませんが、われわれいままではそう聞いておりません。それはそれだけにしておきましょう。  まだいろいろありますが、その次に聞きたいのは、もうそれだけでなにしますが、八条ノ二における、「其ノ借地条件変更スル」とある、この「変更」は、どのようなものが入っておるのか。期間であるとか、地代であるとか、敷金であるとか、権利金とかいうものでしょうが、あなた方のほうで大体この中に入ると思われるものはどういうものを入れておられるか、それをひとつ聞きたいと思います。  その次には、第三項にもまた同じく「他ノ借地条件変更シ、財産上ノ給付ヲ命ジ其ノ他相当処分ヲ為スコトヲ得」、これもどういうものを予想しておられますのですか、両方をひとつ具体的に分けて聞かしてもらいたいと思います。
  217. 新谷正夫

    新谷政府委員 八条ノ二の第一項にございます「其ノ借地条件」と申しますのは、これは前のほうに出てまいりますが、「堅固ノ建物以外ノ建物ヲ所有スル旨ノ借地条件変更ニ付当事者間ニ協議調ハザルトキ」この手続にするわけでございます。従来木造建物を所有するために土地を借りておる、そういう条件になっておりますために堅固の建物を建築することができません。これにはその「堅固ノ建物以外ノ建物ヲ所有スル旨ノ借地条件」を変更いたしませんと堅固の建物は建築できないわけであります。そういう意味で「其ノ借地条件」と申しますのは「堅固ノ建物以外ノ建物ヲ所有スル旨ノ借地条件」を意味しているわけでございます。  それから第三項の「借地条件変更シ」とございますが、これは特に「必要アルトキハ他ノ借地条件変更シ、」、こう規定してございます。これは前の第一項の借地条件以外の借地条件でございます。たとえば期間をどの程度にするのが相当であるとかあるいは地代をどの程度に定めるのが相当であるとかということをこの借地条件として考えておるわけでございます。いわば第一項の「堅固ノ建物以外ノ建物ヲ所有スル旨の借地条件」以外の借地条件、これを第一項の借地条件変更に伴いまして「当事者間ノ利益ノ衡平ヲ」期するために、ほかの借地条件につきましても裁判所が慎重に検討いたしまして、必要があるものはそれに即応するように変更していく、こういう趣旨でございます。
  218. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私の聞かんとするのは、第一番に期間ですね。それはいままでならば二十年だったのだが今度は六十年にする。これが借地条件変更の第一番に入ると思います。したがって地代というものにも影響があるものだと思われる。それから堅固な建物でなかったら二十年たてば更新するのですから、二十年たてば当然また変わるということになる。六十年変わらぬとすれば変わる方法をきめなければならぬ、そういうことがある。  その次に問題は、堅固にあらざるものについては敷金を取っておったとしてもこれは相当安い敷金であったのだろう、今度はそれではいかぬということになってきはせぬか。それから近ごろはやりの権利金というものが、六十年なら六十年おられるのですから、ほとんど売買したと同じようなもの、少なくとも八〇%の権利を渡すわけですから、そういうものについて敷金なり権利金なりというものでついてくると思うが、そういうものが入るのかどうか、それからそのほかにもあなたのほうで予想して入ると思われるものがあるか、これを聞きたいと思うのです。
  219. 新谷正夫

    新谷政府委員 第三項の裁判をいたします場合には第四項の規定によりまして裁判所は「借地権ノ残存期間、土地ノ状況、借地ニ関スル従前ノ経過其ノ他一切ノ事情ヲ考慮スルコトヲ要ス」と定めてございます。したがいまして、第三項の規定によりまして他の借地条件変更して期間を定めます場合にも、必ずこれが六十年になるとか三十年になるとかいう筋のものではございません。従前の借地関係の一切の事情を考慮し、特に借地権の残存期間というものがどのくらいあるか、堅固の建物を建てるにしてもあとどのくらいが相当であるかということをきめるわけでございます。必ずしも六十年とか三十年とかというふうにきまるわけではないわけであります。  それから「財産上ノ給付」でございますが、これは権利金とか敷金というものではなくて、この第一項、第二項の裁判をいたしますことによりまして、地主側には、従来木造で所有を認めておったのに、堅固の建物を建てるということになりますと、存続期間にも非常に影響をいたします。これがひいては地代にも影響するわけでございますけれども、ただ、それだけではたして十分に貸し主のほうの利益が守られるかということも考えなければなりません。したがいまして、必要がある場合には特別にこの第三項の規定によりまして財産上の給付を命ずることにいたしたのでございまして、この財産上の給付が敷金であるとか権利金であるというふうに考えておるものではございません。要するに双方の利益の衡平を期するために金でその辺のバランスを考えよう、金銭を給付することによってそのバランスを考えていこうという趣旨でございます。
  220. 鍛冶良作

    鍛冶委員 名義はどうであろうと金で片づけられるということですね。権利金と言ったっていいでしょう。権利金と言ってはいけないかどうか、敷金と言ってはいけないか、それはどうですか。
  221. 新谷正夫

    新谷政府委員 従来の裁判所和解調停等におきましても、示談金とかあるいはいろいろの名前を使っております。しかし権利金とかなんとかということばは、あるいはあるかもしれませんけれども、私寡聞にしてそういうことを聞いておりません。特に権利金となりますと法律上当然にこれを給付すべき義務があるものではございません。最近待に慣行によりましてこういう金が給付されておるというのは事実でございますけれども、当然の権利として権利金を要求する筋合いのものでもないわけでございます。したがいまして、裁判所が進んで権利金を払えというのはいかがかと考えるわけでございまして、ここで申します財産上の給付というのはそういう意味ではなくて、両者の利益の衡平を期するために、財産上の給付を与えることによって地主のほうに迷惑をかけないようにして双方の利害の調整をはかろう、こういう趣旨のものでございます。
  222. 鍛冶良作

    鍛冶委員 どうも少し何か法律にこだわっておられるようですが、私はむしろ常識的に、権利金を取ってはいかぬと言ったところが、現実には世の中では取っているのですから。だから今度この法律をつくったからそんなくだらぬことにこだわらないで、一般にやられておって、それは公序良俗に反するというなら別ですが、しからざる限りは認めていいのだから、今度は権利金を取っていいのだ、私はそうだと思っている。それはあなたは権利金じゃないのだと言えばあれですが、しかしいずれにしましても地代家賃統制令十一条に抵触することは間違いございませんな。これをどう解釈するか、一応私は聞いておったのだがどうもふに落ちなかったので、この点だけでもひとつ確めておきたいと思うのです。
  223. 新谷正夫

    新谷政府委員 地代家賃統制令の十一条と申しますと、権利金ではなくて、敷金とか修繕費とか造作費に関する規定でございましょうか。
  224. 鍛冶良作

    鍛冶委員 権利金です。名義のいかんを問わず、取ってはいかぬという……。
  225. 新谷正夫

    新谷政府委員 それは十二条の二の規定でございます。これは「貸主は、如何なる名義があっても、借主から借地権利金又は借家権利金を受領することはできない。」こういう規定でございます。これは地代家賃統制令の原則的な規定でございますが、二十三条に適用除外の規定が設けてございます。二十三条の中に、先ほどもちょっと申し上げたことでございますけれども、住宅につきまして、昭和二十五年の七月十日以前の三十坪以下の住宅については、地代家賃統制令の適用があるわけでございます。そういう場合には、この十二条の二の規定が当然かぶってまいるわけでありますけれども、それ以外のもの、言いかえますと、二十五年七月十一日以後に建築された建物につきましては、この十二条の二の規定も適用が排除されるわけでございます。したがいまして、すべての場合に権利金の授受ができないというのではございません。二十三条の規定によって適用除外がされておりますものについては、十二条の二の規定は適用がないわけであります。今回の借地法の八条ノ二の第三項の規定によりまして、「財産上ノ給付ヲ命ジ」といいますのは、これは権利金という意味で書いたのではございません。巷間伝えられるところによりますと、地代の七〇%あるいは六〇%が権利金だと仮定いたしましても、ここで命じます財産上の給付がはたして六〇%のものかどうかということは、保証の限りではないわけでございまして、裁判所が適当と認むる金額を給付することによって、両者の利益の公平をはかるわけでありますので、あるいは地代の一〇%ぐらいのものに相当する金銭の給付を命ずることもございましょう。しかし、それは結果的に見てそのパーセンテージというものが出るわけでございまして、特にその地区に行なわれておる慣行に従って六〇%あるいは七〇%の権利金を払えという趣旨で書いたのではないわけでございます。
  226. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これは私よくわからないが、これの適用除外されておるものは、それで済むかもしれませんが、それ以外のものはそれじゃいかないのですね。
  227. 新谷正夫

    新谷政府委員 適用除外されておりませんと、権利金の授受もできません。
  228. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうなると、こういう裁判をしようと思っても、できぬことがありますね。その点がたいへん問題になってくるのだが……。
  229. 新谷正夫

    新谷政府委員 それでありますから、先ほど来申し上げておりますように、この財産上の給付といいますのは、もしこれを権利金と見ますと、地代家賃統制令の十二条の二の規定との関係が問題になるわけであります。われわれはこれは権利金とは見ていないわけであります。権利金といえば、その地方地方における慣行に従いまして、一定の率のものが支給される慣行になっておるようでございますけれども、裁判所が給付を命じます財産上の給付というのは、その地方で慣行として行なわれておりますその率による権利金を交付せよという意味ではないわけであります。要するに、両者の利益の衡平をはかるために、裁判所が適当と認める財産上の給付を命ずることによって、両者の利益の調節をはかる、こういう趣旨でございます。これを権利金と見ますと、お説のように、たちどころに地代家賃統制令の十一条の二との関係が問題になるわけであります。われわれはそうは考えていないわけであります。
  230. 鍛冶良作

    鍛冶委員 あなたのほうではそう考えておられぬか知らぬが、坪五万円ずつよこせ、こういって取った、それはいいのですね、坪五万円ずつ出せ、そういう裁判をやっても。そういう場合にはいかぬのだとおっしゃれば別だが……。
  231. 新谷正夫

    新谷政府委員 その坪五万円といいますのが権利金という意味であるかどうかは別といたしまして、八条ノ二の第三項の規定に従って裁判所が定めた金額でございますれば、差しつかえないわけでございます。
  232. 鍛冶良作

    鍛冶委員 いいのですか。
  233. 新谷正夫

    新谷政府委員 はい。
  234. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それが世上いわゆる権利金でございますが、権利金と言わぬからいいのですか、それとも性質が違うからいいのですか。それを私は聞いているのですよ。
  235. 新谷正夫

    新谷政府委員 権利金と言う、言わないの問題ではなくて、この法律の八条ノ二の第三項の規定によって認められる財産上の給付でございます。したがいまして、これは権利金を給付するという趣旨ではない、こう申し上げておるわけであります。
  236. 鍛冶良作

    鍛冶委員 この程度にしておきましょう。それは世上言う権利金でございますよ。しかるに、それは権利金と言わぬからいいのだと言われたが、これは必ずあとで問題が起きるに違いないと思うから私はこの問題を提起したのです。そこで、私はもっと、この地代家賃統制令というものがこのままでおいていいのかどうかということを聞きたいのだが、きょうはひとつ御研究願うことにして、この程度にしておきます。
  237. 大竹太郎

    大竹委員長代理 本日の議事はこの程度にとどめます。  次会は来たる十日午前十時から理事会、午前十時三十分から委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後六時四十六分散会