○中島
参考人 参考人は、十五分という
制限時間があることを実はわからなくて、相当広範囲の研究をしてまいりましたが、時間に
制限がありますので、その一部を申し上げますので前後するようなことがありますが、御了承をお願いします。
参考人は、
商法第二百八十条ノ二第一項中の第五号の
改正、第六号ないし第八号の新設、二百八十条ノ二第二項の
改正について
意見を申し上げます。
まず、
意見を申し上げる前に、先日いただきました
商法の一部を
改正する
法律案参考資料三三五ページの左から四行目の一番上、(二)の下に「控訴人」とあるのは、「被控訴人」の誤りであります。
参考人は、ここに判決正本を持ってまいりましたので、その訂正を要望する次第であります。
参考人があえてこのような要望をいたしますことは、もちろん法務当局のお粗末なる態度を指摘することであります。すなわち、
商法の一部
改正をするきわめて重要な
法律案参考資料に、控訴人と被控訴人の位置をあべこべに書くがごときは、また判決といたしまして権威を失墜するものでありまして、そう申し上げるのでございます。
では、これから
本案に対する
意見を申し述べることにいたします。
第二百八十条ノ二第一項第五号の
改正案については、
賛成であります。
賛成の
理由は、現行
商法におきましては、「
新株ノ引受権ヲ与フベキ者」とあります。
改正商法には「
株主ニ
新株ノ引受権ヲ与フル者」とあります。
現行法の「
新株ノ引受権ヲ与フベキ者」の解釈は、
株主ばかりでなく、
株主以外のものも含むとされております。ところが、裁判上になりますと、しばしば異なった解釈をするものがありまして、そのために訴訟の進行を非常に妨げられる場合が生じ、
参考人も、きわめてこの点は苦い経験を持っておるのでございます。この
意味から申しまして、
改正法案には明確に「
株主ニ
新株ノ引受権ヲ与フル旨」定めてあるので、この一点からしても
賛成であります。
第六号の新設
法案に対しても
賛成であります。
賛成の
理由は、現在においては、
新株引き受け権の
譲渡に関しては、特別法に定められている以外には
規定がありません。けれども、現実においては、事実たる慣習に基づいて、
発行日決済取引の
方法によって行なわれております。しかし、実際に行なわれた数はきわめて少なく、現実から離れた形であります。ところが、今回
新株の
引き受け権の
譲渡が
立法化されようとすることは、まことに時宜に適したもので、
賛成であります。
第七号の新設
法案に対しても、一応は
賛成であります。
賛成の
理由は、第六号の新設
法案と表裏一体をなすものであるから、法的にはあえて
反対する
理由は発見できません。ただ、実際界の
意見をまとめますと、あまりにも事務が複雑化していて、法務当局が常に誇示している
買い取り引き受けは、事務簡素化のためによい
方法であるということとは完全に矛盾しているという批判が、非常に多いのであります。また、
新株引き受け権証書の
交付については、証券作成費が一枚につき三、四十円もかかりますので、
経済的に大きな負担となります。この点の不満は想像以上に大きいものがあります。いわく、法務当局が実際界の現状を推察してくれないでいたずらに
立法化されては、
会社としてはたまらないというぐちをこぼしているのが圧倒的であります。
第八の
法律の新設については絶対に
反対であります。
以下、
反対の
理由を申し上げたいと思います。
新設する第八号
法律案によりますれば、「
株主以外ノ者ニシテ之ニ対シ特ニ有利ナル
発行価額ヲ以テ
新株ヲ
発行スベキモノ」を決すること、及び
新株発行の目的となる諸事項を決することは、すべて
取締役会の専権事項になっております。現行
商法二百八十条ノ二第一項第五号の「
新株ノ引受権ヲ与フベキ者」の新設の際ですら、当時、大衆
株主として脅威的
法律であるとして、内心寒心にたえなかったのであります。けだし、新設第八号
法律案は、現行第五号に比することのできないほど、
株主の不利が露骨にあらわれておるものであります。かてて加えて、非常な危険をはらむものとして
反対をいたします。
新設八号
法案によりますれば、
新株発行の場合、やろうと思えば、
株主に一株も与えないで、
株主以外のものである
証券会社に全部、しかも、特に有利な
発行価額で
発行する権限を
取締役会に与えることになる、実におそろしい
法案であります。しかも、「特ニ有利ナル
発行価額」とは、
考えようによっては際限のない有利な価額と解されます。そして、その「特ニ有利ナル
発行価額」の裏を返せば、
株主に際限のない不利を与えてもいいということを
取締役会が決することができるのであります。
元来、
日本の株価構成原因は、民法九十二条の事実たる慣習を拡張類推して解釈し、かつ、これに便乗して行なわれている
新株発行方法であります。すなわち、
株主に
額面価額によって
新株を割り当て、
株主は割り当て価額の払い込みを済まし、
株主となってその
新株を時価で売却し、
額面価額と時価との差、いわゆるプレミアムを収得する。この妙味が前述の株価構成の原因となっております。したがいまして、米国の時価
発行上のごとく、株価構成の原因が
株主利益配当金、
株式分割等の収益率に由来するのに比べますと、きわめて好ましからざる方向にあります。だからと申しましても、
日本の場合、一挙に公募による時価
発行を推し進めるとすれば、
株主の損害は三兆円にも及ぶと推定されております。なぜならば、株価構成原因は、先ほど申し述べたとおり、プレミアムから
株主配当金及び無償
新株のいわゆる収益率に改革されるからであります。そうなりますと、現在二百円程度いたします株は一挙に七十円ぐらいに暴落をして、すなわち、二百円から七十円を差し引いた百三十円が損害となるわけであります。この集計が、ただいま申したとおり推定三兆円に達するのであります。このようになった場合、一体この膨大なる損はだれが負担するだろうか。もちろん国家は補償いたしません。してみれば、損を負担するのは、
株式を保有する
株主であります。
株主といたしましては、みすみす大きな損を目の前にして、
方法がよかろうが悪かろうが、そんなことを
考える余裕はありません。すなわち、自己防衛の最高の手段として、現在の事実たる慣習によってプレミアムをかせごうとする以外に手段はありません。ここにいま盛んに叫ばれておる時価
発行公募は、全くの絵にかいたぼたもちであります。ちなみに、ジャパン・ファンド副社長セガマン氏は、
昭和四十一年二月二十一日、ホテル・オークラで、いま
日本で時価
発行して
資金を集めようと思っている
会社には、その資格もないし能力もないと語っておりました。
以上詳述いたしましたことによりましても、
日本の
新株発行の姿は、それがよくても悪くても、現在の
株主に
新株引受権を与えて、
株主にプレミアムをかせがせるという以外には道がありません。したがいまして、
株主にとりましては、
新株引受権こそは証券投資の唯一の目的で、目とも取りかえても痛くないほど貴直な存在であります。
新設第八号
法案は、ただいま申し上げましたとおり、
株主にとりましては、最も貴重な
新株引き受け権を
株主に一株も与えないで、全部、しかも特別の安い値段で
証券会社に
発行することを、
取締役会の
決議だけで決することができるようにするというのであります。暴挙もはなはだしいと言わなければならないのであります。
次に、新設第八号
法案の「
株主以外ノ者ニシテ」の正体をはっきりしておかなければなりません。
民事局長は、本
法務委員会で、同
法案の「
株主以外ノ者ニシテ」とは、
株主を除いたすべての者で、特定の者を指さすものではない
趣旨の答弁をされております。
参考人は、この答弁に対してきわめて遺憾に存じます。いやしくも法治国家の
法律案の立案作業の
責任にあたる者が、その立案する
法律案に内在して、その事物の実質を鋭く観察しないはずはありません。すなわち、新設第八号
法案の「
株主以外ノ者ニシテ」のベールをはげば、隠れもない
証券会社がそこに出てまいります。すなわち、朝日新聞三十九年一月八日付の
商法改正案と題する記事中には、
商法第二百八十条ノ二第二項にいう
株主総会の
特別決議は、
証券会社に一括
買い取り引き受けの場合は不要である旨の
規定を設けようとするものであるの
趣旨を報道しております。また、
日本経済新聞四十一年三月二十一日付の、「財界
商法改正に期待」の記事中には、
新株発行の際に、
証券会社に公募分を一括して
買い取り引き受けの場合は、
株主総会の
特別決議を不要とする
立法化である
趣旨の報道をしております。
さらにまた参考資料二五ページ、「
商法緊急
改正意見」を提出した
経済団体連合会は、同二七ページで、「条文上の疑義を解消するため
商法第二八〇条の二第二項にいう
株主総会の
特別決議は、買取引受の場合には不要である旨を
商法上、明文を以て
規定されたい」と、きわめて率直に要望しておるのでございます。
以上、立証いたしましたことにより新設第八号の「
株主以外ノ者ニシテ」は、絶対的に
証券会社であることが明確にされたと存ずるのでございます。
次に、
買い取り引き受けは、第二百八十条ノ二の第二項に
規定してある「
株主以外ノ者」であって、
買い取り引き受けは
証券会社に
新株引き受け権を付与するところの
新株発行であります。したがって、
証券会社の
地位は、証券取引法第二条第六項の「有価証券の
発行に際し、これを売り出す目的を以て当該有価証券の
発行者からその全部若しくは一部を取得する者」すなわちディーラーであります。その事実を明らかにするため、参考資料三二七ページ、東京高裁判決三三〇ページ右三行目からを引用いたします。「しかし他面買取引受において、応募者の有無にかかわらず、証券業者は約定数の
新株を引受ける
権利を有し、
発行会社としては、
新株を割当、
発行する義務を負うものであろうか。この点についても約定書(乙第一号証)によって必ずしも明らかではないが、特別の留保がないかぎり、引受義務を負うということはこれに相応する
株式の割当、
発行をなすことを前提としているものと
考えるところであるから
証券会社は
発行会社に対して、約定数までの
新株の割当、
発行を求めることができるものと認められなければならない。従って買取引受契約により
発行会社においてかかる拘束を受けるものとすれば(単なる請負募集となすことはできないし、又この場合
発行会社は割当の自由はないことになる)。証券業者は結局他の者に優先して
新株を引受ける
権利を有するものというべきである。そうすると
商法第二八〇条の二、第二項にいわゆる「
株主以外の者に
新株の引受権を与える場合」に該当するものといわなければならない。山一証券
株式会社においては
昭和三五年一月一四日から同月一六日までの売出
期間内に引受
新株全部を売りつくしてしまったと主張し原審証人松沢助次郎、同星光一はこれに副う供述をしているが、原本の存在ならびに成立に争のない甲第一八号証の一ないし三九、一九号証の一ないし一七六に対比して必ずしも信用できない」とあります。そうして、右証人松沢は当時山一証券の
株式課、引受事務課長であり、また星は被告大成建設の
株式課長でありました。また甲第一八号証、同第一九号証はいずれも、大成建設が山一証券に
買い取り引き受けさせた
新株三百二十万株の山一証券に対する
株主名簿であります。この二つの証拠によりますと、前記二人の供述はまっかなうそで、甲第一八号証同第一九号証の
株主名簿によりますと、山一証券の
買い取り引き受けた三百二十万株は、山一証券の権義で市況を見はからって、ぼつぼつと売っている事実が判明いたしました。また三百二十万株のうち四十八万株を山一第二オープンに時価で組み入れ、
買い取り引き受け価額と時価の差益をもうけていた事実が明らかにされました。ちなみに大成建設の株価は、
発行価額決定時は四百五十円、それに対しまして
買い取り引き受け価額は四百円、また
払い込み期日の四日後、
昭和三十六年一月の大発会には五百三十五円と、実に
買い取り引き受け価額より一株につき百三十五円という暴騰をしております。山一証券は一株につき百三十五円ももうけた上に、通常の手数料の三倍にも達する、一株九円の手数料を大成建設から受け取っております。このように
買い取り引き受け上の
証券会社は必ずと言っていいほど、ばく大な
利益を獲得していることを付加申し上げ、後に申し上げる
買い取り引き受け方法のきわめて拙劣な
方法であるということの
理由に援用したいと思います。
次に「特ニ有利ナル
発行価額」について
意見を申し述べることにいたします。すなわち、参考資料三七ページから三四七ページにわたる訴訟におきまして、
参考人はきわめて苦い経験を持っております。
商法第二百八十条ノ三のただし書き「
新株ノ引受権ヲ有スル者ニ対シ有利ニ之ヲ定ムル場合ハ此ノ限ニ在ラズ」、また同法第二百八十条ノ十「著シク不公正ナル
方法若ハ価額ニ依リテ
株式ヲ
発行シ」、また同法第二百八十条ノ十一の「
取締役ト通ジテ著シク不公正ナル
発行価額ヲ以テ
株式ヲ引受ケタル者ハ
会社ニ対シ公正ナル
発行価額トノ差額ニ相当スル金額ノ支払ヲ為ス義務ヲ負フ」とあります。すなわち、以上の「有利ニ之ヲ定ムル」とか、「著シク不公正ナル
方法」とか、「著シク不公正ナル
発行価額」等の解釈については、当事者双方の異なった
立場から、全く異なった、しかも飛躍的なものが発生し、訴訟の進行を著しく遅延する原因となっております。
参考人はこのことではほとほと困窮した経験を有するものであります。新設第八号
法案の「特ニ有利ナル
発行価額」こそは、法が運用された暁には、その解釈がいわゆる環の端を求めるに比する怪奇に至らしめるもので、究極において法の権威を失墜する原因になるものと、私はいたくおそれて
反対するものであります。
次に、新設第八号
法案の正体をはっきりしなければならない。これは
証券会社に一括
買い取り引き受けの合法化であります。してみれば、経団連を中心とする財界及び証券業界の主張している、いわゆる商慣習の再発効をねらっていることも当然といえましょう。はたしてそうだといたしますれば、該商慣習の基根となっている、
発行価額が一〇%から二〇%時価より安いことを認容することの
立法化であります。
参考人は、
買い取り引き受け価格が時価より一〇%から二〇%安い価額は、完全に不公正な
発行価額であるということを強調し、その事実を次のごとく明らかにいたします。
参考資料三一五ページ、東京地裁八王子支部の判決三二四ページ右から五行目「本件において右の
新株引受権の付与を伴う
新株発行の
決議がなされたのは、当事者間に争なき事実
関係によって
昭和三六年一月九日となすべきところ、当時における被告
会社の
株式の時価が一株三七〇円であったことは被告の自ら主張するところであるのに、本件
新株発行価額が一株三二〇円と定められたことは争のないところであるから、本件
新株引受権の付与を町価によるものとして公正価額によるものとすることもできない。以上要するに、本件
新株引受権の付与を
株主総会の
特別決議を要しない場合にあたるとすることはできない。」以上の判決は、
発行価額と時価の差、一株につき五十円、すなわち時価に対して一三・五%低いことが不公正
発行価額であると認定し、かつ、この不公正な
発行価額は、第二百八十条ノ二第二項の
手続を必要とするものであると厳格なる見解を示したことに、特に注意をしなければならないと存じます。
次に、第二百八十条ノ二第二項を
改正する
法律案に対しても
反対であります。
反対の
理由を次のごとく申し述べます。
そもそも現行第二百八十条ノ二第二項の
規定は、すでに申し述べましたとおり、三十年
改正商法のときに、第二百八十条ノ二第一項に第五号を追加新設したことに伴う
株主の
利益保護の万全を期するために設けられた
規定であります。すなわち冒頭に「
株主以外ノ者ニ
新株ノ引受権ヲ与フルニハ
定款ニ之ニ関スル定アルトキト雖モ」と強行法規の姿勢を厳と示した至厳なる
規定であります。そして本条の法意は、第五号の
取締役会権限拡張に対する
取締役会の権限
乱用防止であります。
まず、
改正法案の文面から
意見を申し述べます。
改正法案は、特に有利な
発行価格でないならば、
株主総会の
特別決議を不要とし、また、その場合は
理由開示も条件といたしません。一体その場合の特に有利と、特に有利でない
発行価額とのボーダーラインを、どこで判定するのでしょうか。物理的に申し上げますれば、たとえば、紙一枚の差が特に有利か否かを判定する岐点となりましょう。それがまた、第二百八十条ノ二第二項の
手続の要、不要を左右するものであります。さりとて、この重要なる判定をいわゆるどんぶり勘定的にまかせるとすれば、非常に不安定のものとなります。
されば社会は、本
改正法案を評して無
責任きわまる、ひょうたんなまず的な
改正法案であると申しております。そして、実際界はもちろんのこと、訴訟上におきましても、特に有利なる
発行価額の解釈については、いよいよ複雑化し、ひいては訴訟進行上至大なる障害となることは火を見るより明らかであります。
本項を
改正する
法律案は、新設第八号
法案についてすでに
参考人が詳しく申し述べましたとおりいわゆる
証券会社の一括
買い取り引き受けの合法化で、その場合は、第二百八十条ノ二第二項の
手続を不要とする方向で、具体的に申し述べますれば、
証券会社に時価より一〇%から二〇%安く
新株を
発行する場合は、
取締役の
決議だけで第一日八十条ノ二第二項の
手続を不要とするの
立法化であります。けだし、
改正法案のべ-ルをはげば、そこに偉大な特権を授けられる
証券会社の正体があらわれるのであります。ここに本
改正法案は、社会をして、おとぼけとか、マジックとかの批判を湧出させる泉をつくっております。では、「特ニ有利ナル
発行価額」すなわち第二百八十条ノ二第二項の制約の対象となる「
株主以外ノ者」とは一体だれでありましょうかを明確にしなければならないと存じます。
参考人がすでに申し述べましたとおり、本項の
改正法案は、経団連を中心とする財界の強い要望に支配されましたことは、あらためて念を押すまでもありませんが、参考資料二五ページ、
経済団体連合会の提出した「
商法緊急
改正意見」に、「
商法第二八〇条の二第二項にいう
株主総会の
特別決議は、買取引受の場合には不要である旨を
商法上、明文を以て
規定されたい。」とあります。
参考人の最もふしぎに存じますことは、本項
改正法案は、ただいま申し述べました経団連の
意見を全幅的に取り入れたことは全くこれを疑う余地がないのであります。してみれば、その
意見どおり
改正法案にそれを明文化してしかるべきであります。すなわち、
証券会社が時価より一〇%ないし二〇%引きで一括
買い取り引き受けをする場合は、第二百八十条ノ二第二項の
手続を不要とする。しかし、そのような
法案を作成し、公開するとすれば、社会の世論は絶対に
承知いたしません。なぜならば、そのような
規定は、すでに申し述べましたとおり、
会社設立の
趣旨と
会社法制定の本義に逆行するはなはだしいものとなるからであります。しかしながら、中身はそれと全く同じであります。しからば、
立法当局は完全に
国民に対してぺてんを食わしているという事実が全く露見するものであります。このような
法案は、
株主を軽視、蔑視することはなはだしいものでございます。
参考人は、
買い取り引き受け方法こそは、
資本調達上最も非なる
方法であるから、すべからく排除しなければならないと申し述べ、その事実を次のごとく明らかにいたします。
第一は、時価より一〇%から二〇%引きという不公正な
発行価額で
買い取り引き受け、しかも、普通手数料の三倍にも達する高額の手数料を受け取る、すなわち、
会社と
株主にとってきわめて不利な
方法であります。
第二は、
買い取り引き受け方法の行なわれるときは、必ず市場が好況で、いわゆる株に羽がはえて飛ぶように売れる場合のみで、市況の低調時の
新株発行には
買い取り引き受けは全く行なわれません。むしろこのようなときの
新株発行の場合は、
証券会社の
買い取り引き受け方法による協力こそ切望しておりますが、そのような場合は、
証券会社は高見の見物で、手をこまねいていて協力はいたしません。この現実から申しましても、
買い取り引き受け方法は、
証券会社の一方的
利益追求の目的のために案出された
方法で、
会社及び
株主にとっては、まことに好ましからざる
方法であります。
ちょっと飛ばしまして、第五は、親引けであります。親引けと申しますのは、
新株発行にあたり、参考資料三五五ぺ-ジから三六五ぺ-ジの間に登載されている
買い取り引き受け契約の締結の際、要の極秘の契約が
証券会社と
発行会社の
取締役間に締結することができるのであります。すなわち、たとえば、三百万株を時価より一〇%から二〇%低く
発行価額を決定する代償として、そのうちの百万株を
証券会社が
発行会社の
取締役に売り戻す
方法であります。そして
取締役は、適当の
方法でその
新株を売却して
発行価額と時価の差益金を獲得できる
方法であります。現行
商法上の
株式譲渡方法ですら、この実体は容易に露見されません。まして
改正法案によれば、本人が自白しない限り絶対に露見いたしません。
取締役のこのやみ取得はもちろん 脱税の対象物であります。それをあるいは旧株の払い込み金に充当することもありましょうし、ぜいたくな私生活の費用にも使われましょう。さらにまた、
会社の表面に出せない交際費等に流用することもできる等の穴があるのであります。ここに
買い取り引き受け方法はどうしても排除しなければならない重大な原因があります。
第六は、
買い取り引き受けは、
株式の需給のアンバランスを招き、株価暴落の原因をつくります。すなわち、すでに申し述べましたとおり、
買い取り引き受け方法は、
証券会社の
利益追求と
発行会社の
取締役の役得が得られる温床となっております。だから、それらの者にとっては、
買い取り引き受けを少しでも多くしたいと念願することは人情のしからしむるところであります。すなわち、彼らにとっては、
買い取り引き受けを多くすればそれに比例する収入があるからであります。これが大衆投資家のふところぐあいを
考えない
買い取り引き受けが盛んに行なわれ、
昭和三十五、六年はその頂上に達し、当時の流行語「銀行よさようなら、
証券会社こんにちわ」が盛んに唱えられ、いわゆる証券業界に岩戸景気と称するものが来訪したのであります。しかし、その中身は、膨大な過剰
株式の横溢で、ダムがくずれたように株価は暴落し、ついに
日本証券保有組合の設立となって、過剰
株式のたな上げ措置を講じ、かつ、増資
新株発行の停止あるいは
制限等をして、かろうじて
経済危機を乗り越えたことは、あまりにもなまなましい事例であります。もちろんこの悪因は、
買い取り引き受けに由来しております。
第七は、「財政
経済弘報」第九八二号「
会社ノート一八四」 「
株式の公募
方法を改善、大蔵省の方針」の記事の一部を次に申し述べまして、
買い取り引き受けのきわめて非なる事実を明らかにいたします。「大成省は、
株式発行会社と
証券会社が随意契約によって
株式の第三者割り当て(新規公開や公募増資)を行なうことは株価の公正化、公募の公平化に反し、大衆投資家にめいわくをかけるとして、この改善策を検討してきたが、」中略して、「市場への
株式公開や
株主以外の第三者割当て増資など、いわゆる
株式の公募は、
発行会社と取り扱い
証券会社(幹事)の随意契約によって行われている。このため
発行株式は
発行会社自身が買い取って取り引き先にはめ込んだり(親引き)、幹事
証券会社が同業者に分配したり(協会提供)して〃公募〃は実際面では有名無実になっている。またその価格も、時価の一〇%ないし二〇%引きというあいまいなきめ方がなされており、とくに新規公開株は公開時に
証券会社の買いあおりで異常な人気を集め、公開前に割り当てをうけた特定の者だけが
利益をうける半面、公開直後の高値で買った
一般投資家が、その後の急落で損害をこうむる例が多く、問題になっている。」と書いてあります。
参考人は、
買い取り引き受けにはるかにまさる阪田方式があることを御紹介申し上げます。
阪田方式と申しますのは、大阪のインキ製造
会社、阪田商会が
昭和三十六年中に行なった
新株発行の
一つの方式であります。すなわち、
株主額面割り当て以外の分中の六十万株を、一株百五十円(
額面価額は五十円)の
発行価額で、
商法第二百八十条ノ四に基づき、
株主平等割り当てを行なったのであります。すなわち、
買い取り引き受けの場合、
証券会社にもうけさせる金額を
株主に直接与えたのであります。このことは、
株主利益保護の実際であります。また、この阪田方式によりますと、
買い取り引き受けの場合の
証券会社に支払う割り高の手数料を支払う必要がないため、
会社はそれだけ経費が節約できます。また、
手続はきわめて簡素化されます。すなわち、
額面価額
株主割り当ての分と右プレミアムつき
株主割り当ての分の両方の
株式申し込み証を
一つの封筒に入れて
株主に送付する。
株主は、申し込み証提出と同時に、
引き受け価額に相当する申し込み証拠金を払い込む。この事実は、申し込み
期日(支払い
期日前)に事実上増資は成立する。しかし、ただいま申し述べましたとおり、
買い取り引き受けは、
証券会社の
利益と
取締役の親引けの役得は失われます。そこで
証券会社が盛んに阪田方式を批判し、とうとう阪田方式は、あとを断ってしまいました。その事実を「ジュリスト」第二三三号「
株式公募の問題点」の内容の一部を申し上げ、その事実を明らかにいたします。
「鈴木」――これは法制審議会の
商法部会会長であります。
鈴木 この前の共同研究のときに、いろいろな形の公募が出つつある情勢を見て、私どもの大体の
考え方としては、
株主に割り当てる場合に必らず
額面で
発行する必要はない。むしろ若干のプレミアムをつけた
発行価額で、
株主に割り当てる方向にいくのが
法律的にも疑義がないし、また実際の取り扱いの上でも簡単で費用も要らないから、あらゆる
意味で妥当じゃないかと
考えたのでしたが、それに一番近い形が今最後にいわれた阪田商会のやり方だろうと思います。というのは、証券業者に
引き受けをさせるという段階を省略して、引受権を
株主に直接与えるという形なので、そこにほかのものと非常な違いがあるわけです。これについて証券業界にいろいろな批判があるということをただいまおっしゃいましたが、証券業界ではどういう批判をしているのですか。「竹中」――これは山一証券の社員です。
竹中 現状では時期尚早というわけです。ちょっと
法律論からはずれるかと思うのですけれども、(後略)
「三戸岡」――これは当時の日魯漁業の総務部次長です。
三戸岡 (前略)阪田方式のときは、
証券会社に相談する余地はなかったというので、
証券会社が非難するということなのだろうか。
竹中 非難というと強く聞こえ過ぎるのですけれども、やや時期尚早ではないかという批判といいますか……。
三戸岡
額面を超える
発行価額によって
発行する
新株を、
株主に引受権を与えて割当てる方式がどうして時期尚早なのか判らない。(後略)と申しておるのでございます。
アメリカでも、ただいま申し上げました阪田方式に最も近い時価
発行株主割り当ての
方法を行なっております。すなわち一九五二年中に行なったアメリカン・カン社の増資
新株発行もその
一つであります。アメリカン・カン社は、
発行済み
株式九十八万九千五百九十九株に対して一〇%の
新株発行をいたしております。そして時価より一五・三%
発行価額を安く、そして
株主平等割り当てをしたのであります。ここに思い違いをしてばならぬことは、アメリカン・カン社が時価より一五・三%低い
発行価額で
発行したことを見て、
買い取り引き受けの場合、一〇%から二〇%低いのは合理性があるという、すなわち経団連を中心とする財界、証券業界の主張は、とんでもない誤りを犯した
考えとなるからであります。なぜならば、
株主割り当ての場合は、時価より一五・三%低い
発行価額で
発行しても、その割り安分の
利益は、
株主が直接受け取るので、このことこそ真の
株主利益の
保護です。
参考人が力説していることは、
株主以外の
証券会社が、
株主の利する分を持っていってしまうから、それはけしからぬというのでございます。
また、英国では、原則的に阪田方式とほとんど同じの
株主割り当て時価
発行を行っております。このことは、「
日本経済新聞」四十一年四月十五日の「
株式分割など盛ん、英国では
株主割り当て」のところに、きわめて親切に、かつわかりやすく報道しております。
結論的に申し上げます。ただいま申し上げました阪田方式による
新株発行を行なえば、あえて
商法を
改正して
買い取り引き受け方法を合法化する必要もなく、すなわち第八号
法案を新設することも、第二百八十条ノ二の第二項を
改正する必要も全くございません。また先ほど申し述べましたとおり、わが国の株価構成原因をプレミアムに求めることは邪道であります。ゆえに、それはどうしても改めなければなりません。しかしそれは急いではなりません。なだらかな勾配によって誘導していかなければなりません。それには、英国のごとく、すなわち阪田方式によって、もちろん
額面価額を割ることは許されませんが、時価より二〇%も三〇%も底くなさってもいいのじゃないか。こういう
株主割り当てをして、
株主に妙味を味わわせつつ、時価
発行の方向に誘導していくことであると
参考人はかたく信じております。
以下、
委員さん方にまことに失礼なことを申し上げますが、
株主総会の
決議は、
会社及び
株主の公正なる
利益を多数の
株主によって
決議することで、
会社及び
株主の不利なことが目の前に見えておるにもかかわらず、多数決で
決議することは、多数決の
乱用で、無効または取り消しの原因になると解されております。
法律の成立におきましても、ある
意味から申せば、帰一するところがあると存じます。どうかどんな小さい疑点でも、これを氷解するまで御審査を賜わりまして、ほんとうに
国民の納得のできる
法律をつくっていただきたいことを希求してやまない次第であります。