○小平国務
大臣 ただいま議題となりました
雇用対策法案につきまして、その提案理由及び内客の概要を御説明申し上げます。
近年わが国の
雇用失業情勢は、ときには停滞の時期もありましたが、全体としては、
雇用の大幅な増加、失業の減少などかなりの改善が見られたところであります。
今後の情勢を概観いたしますと、本春を頂点として新規学校卒業者を中心とする若年労働力の急激な減少及びその学歴
構成の変化、
平均寿命の伸長による人口
構成の高齢化の
傾向に加え、技術革新の進展、生産工程の変化等に伴って、技能労働者等生産部門に従事する労働者の不足が一そう激化することとなる反面、中高
年齢者等の再就職問題などが懸念されるところであります。したがいまして、このままでは、わが国経済の基調が人手不足へ移行する過程において、
年齢、職種、産業等によって、労働力需給の不均衡が顕著になり、その結果、労働者が安定した職場でその能力を有効に発揮できるようにし、これを通じてその経済的、社会的地位の向上をはかることに対して大きな障害となるものと
考えられます。
このような事態に対処するため、今後の産業及び労働面における構造的変化等に伴う
雇用に関する政策について、
昭和三十九年二月
内閣総理
大臣から
雇用審議会に諮問したところ、同審議会におきまして二年近くにわたり慎重な審議が行なわれ、昨年末これに関しての答申をいただきました。労働省におきましても、かねてから今後の情勢に即応する
雇用対策の方向について検討を加えてきていたところでありますが、この答申の趣旨を十分に体し、そこに述べられております「すべての労働者の能力が十分に発揮されて、経済の発展と労働者の福祉の向上を実現していくために」、「
職業能力、職種を中心とする近代的労働市場の形成」、「労働力の適応性と流動性の向上」、「技術者、技能者の養成と
職業指導の充実」等必要な施策を総合的に展開することを
内容とする
雇用対策の大綱を取りまとめたのであります。
この大綱は、何ぶんにも
雇用対策に関する重要事項でありますので、重ねて
雇用審議会にはかり、その御意見を全面的に取り入れて、成案を固め、ここに
雇用対策法案として提案した次第であります。
次に、その
内容の概略を御説明申し上げます。
第一に、この法律は、国が
雇用に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働力の需給が質量両面にわたり均衡することを促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の
職業の安定と経済的、社会的地位の向上をはかるとともに、
国民経済の均衡ある発展と完全
雇用の達成とに資することを目的とするものであります。なお、当然のことではありますが、この法律の運用にあたっては、労働者の
職業選択の自由及び事業主の
雇用の管理についての自主性を尊重しなければならないこととしているのであります。また、国はこの目的を達成するため、
職業指導及び
職業紹介の事業、技能に関する訓練及び検定の事業、労働者の福祉の増進に必要な施設、労働者の
職業の転換、地域間の移動、職場への適応等を援助するために必要な措置、
雇用形態の改善等を促進するために必要な施策その他労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするために必要な施策を充実すること及びこれらの施策を総合的に講じなければならないこととしております。
さらに、これらの施策及びその関連施策を講ずるに際しましては、
国民経済の健全な発展、それに即応する企業経営基盤の改善、国土の均衡ある開発等の諸施策と相まって、
雇用機会の着実な増大及び地域間における就業機会の不均衡の是正をはかるとともに、労働者がその能力を有効に発揮することの妨げとなっている
雇用慣行の是正を期するように配慮しなければならないことを明示しているのであります。
第二に、国は
雇用対策基本
計画を策定しなければならないこととし、その中で、
雇用の動向を明らかにするとともに、先に申し述べました労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするために必要な施策の基本となるべき事項を定めることとしておりますが、この場合に、職種、技能の
程度その他労働力の質的側面を十分考慮しなければならず、かつ、特定の職種、中小規模の事業等に関して特別の配慮を加えることができることとしております。
また、その策定にあたっては、労働
大臣が、広く
関係行政機関の長と緊密な連携を保って案を作成し、
雇用審議会の意見を聞き、かつ、都道府県知事の意見を求めた上閣議で決定しなければならないこととし、さらに、
計画の策定または実施に関し、労働
大臣が
関係行政機関の長に対して、所要の要請をすることができることとして、必要な施策の総合的な実施及びその実効性を確保することといたしております。
第三に、労働者がその能力に適合する
職業につくことができるようにし、また、企業がその必要とする人材の確保ができるようにするため、
雇用に関する諸情報の提供とこれに基づく指導援助を充実することといたしております。このため、労働
大臣は、労働力の需給の状況、求人、求職の条件その他必要な
雇用情報を迅速かつ的確に収集、整理するとともに、今後の技術革新の進展や産業構造の変化等に即応して
職業の現況及び動向、
職業に関する適性、適応性の増大等
職業に関する基礎的事項について
調査、研究をし、これらの
雇用情報、
調査研究の成果等を
職業指導、
職業紹介等を行なうに際して活用させるとともに、広く
関係者が利用し得るよう配慮することといたしております。さらに、
職業紹介機関は、これらの
雇用情報、
調査研究の成果等を提供して、求職者に対しては、その適性、能力、経験、技能の
程度等にふさわしい
職業を選択することができるよう、また、求人者に対しても、職務に適合する労働者を雇い入れることができるよう必要な指導、援助をすることといたしております。
第四に、国は、若年層の能力の開発向上及び中高年層の
職業への適応性の増進をはかるため、
職業訓練施設の整備、
職業訓練の
内容の充実及び方法の研究開発、
職業訓練指導員の養成確保及び資質の向上等
職業訓練を充実するための施策を積極的に講ずるものとし、また公共の
職業訓練機関が行なう
職業訓練と産業界が行なう
職業訓練とが相互に密接な関連のもとで行なわれ、有為な技能労働者の養成確保がなされるようはかるべきことを明らかにいたしております。また、技能を軽視しがちな
雇用慣行を改善し、労働者の技能の向上と技能労働者の地位の向上をはかり、能力を中心とする労働市場の形成を促進するため、技術の進歩等の状況を考慮して技能評価のための適正な基準を設定し、これに準拠した技能検定
制度を確立し、かつ、その拡充、普及をはかることといたしております。
第五に、産業構造の変化等の過程において生ずる
職業転換を円滑にする等、労働者がその能力に適合する
職業につくことを容易にし、及び促進するため、
職業転換
給付金
制度を創設し、
関係給付の充実をはかることといたしております。
これは、従来、特定の失業者に対して支給してきた就職指導手当、
職業訓練諸手当、職場適応訓練費及び就職のための移転費について必要な充実をはかるほか、その支給対象を拡大するとともに、特定職種訓練受講奨励金、広域求職活動費、訓練受講のための移転費、帰省旅費を新たに加え、
制度的に確立しようとするものであります。
第六に、中高
年齢者または身体障害者の
雇用を促進するため、国が、別に法律で定めるところにより、
雇用率を定め、これが達成されるよう必要な施策を講ずるものとし、これと並んでこれらの者の適職を選定し公表するとともに、その就職の促進につとめ、また、事業主その他の
関係者に対し、その雇い入れを容易にするための援助を行なうことといたしました。
雇用率に関しましては、現在、身体障害者については身体障害者
雇用促進法に必要な規定を設け、その推進をはかってきているところでありますが、中高
年齢者につきましても、事業主は、労働
大臣が適職に応じて定める
雇用率を達成するようその雇い入れにつとめなければならないこと、及び労働
大臣が常時百人以上の労働者を使用する事業所であって中高
年齢者の
雇用に著しい困難を伴わないものに対し、
雇用率の達成のために必要な要請ができることを
職業安定法に規定するよう措置しているところであります。
第七に、労働
大臣は、身体に障害のある者、新たに
職業につこうとする者、中高
年齢の失業者その他
職業につくことについて特別の配慮を必要とする者に対して行なわれる
職業紹介及び
職業指導の実施に関し必要な基準を定めることができることとし、また、労働者募集に関し、過当な求人競争による弊害を除去するために労働
大臣が募集時期について規制することができるようにする等
職業安定法に若干の
改正を加えているところであります。
第八に、建設業その他事業の実施が、季節の制約を受ける業種の労働者が年間を通じて
雇用されることを促進するため、事業主に対し、これに必要な設備の設置または整備に要する資金の貸し付けを行なう業務を
雇用促進事業団の業務に追加することといたしております。
以上のほか、この
法律案において、大量の
雇用量の変動についての事業主の届け出義務等必要な規定を設け、また、その附則において
関係法律について所要の整備をいたしております。
なお、この
法律案の作成にあたって、
雇用審議会のほか、中央
職業安定審議会及び中央
職業訓練審議会にはかり、その意見を十分尊重しているところでありますが、今後とも、この法律の施行上の重要事項につきましては、これらの
関係審議会に意見を求めるとともに、その施策の実施にあたり
関係行政機関とも緊密な連携を保ちつつ、今後の情勢に即応して積極的な
雇用対策を展開し、すべての労働者がその有する能力を有効に発揮することができるよう万全を期する所存でおります。
以上、この
法律案の提案理由及びその概要につきまして御説明申し上げた次第であります。何とぞ御審議の上すみやかに御可決あらんことをお願い申し上げます。