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林参考人 ただいま
前田NHK会長及び
野村専務理事から
種々放送衛星のことについてお話がございましたが、私は一方
民間放送の
事業者の一人といたしまして、
経営者の
立場からこの問題についての
意見を述べさせていただきたいと思います。
お手元に黄色のパンフレットを差し上げました。その左側に優劣比較表というのがございます。これが少し小さいのでまた別にプリントを持ってまいりました。それをごらんいただきながらお話し申し上げたいと思います。
放送衛星の問題は、ただいまお話しのように、非常に新しい、また国際的に重要な問題でございます。ただ、先ほど
前田会長からも言われましたように、この
放送衛星の問題が提案されましてから、
国内にかなり俗論と申しますか、間違った
考え方による
発言というものが非常に多い。また論理の飛躍とかあるいは全然
技術を無視した
発言とかがございまして、そのために相当混乱をしております。それをもう少し整理して、そうしていいことはいい、進めるべきは進める、あるいは
考え違いは正すべきだということを明らかにいたしましたのが私の論文でございます。
まず、この
放送衛星問題を論ずるにあたりまして、一番大切な基本的な態度はどういう態度でこれを論じなければならないかと申しますと、まず、先ほどお話がございませんでしたけれ
ども、国際的な
電波行政という非常に困難な問題があろうかと思います。すなわち、私もかつてジュネーブで国際
会議に
出席さしていただいたのでございますが、そのときに、やはり東西陣営におきましてFMのステレオの
方式を
一つきめるにいたしましても非常なむずかしい議論が行なわれております。そういうふうな現
段階、あるいは将来は非常に好転するかもしれませんが、そういうふうな
段階におきましてこの
放送衛星用の、あるいは直接
放送衛星用の波を確保するということはなかなかむずかしい作業である。その困難性ということをまず十分理解しておく必要があるということであります。
その次に、後ほ
どもう少し申し上げますが、ことにわれわれ
民間放送の番組におきましては高度の融通性というものを必要といたします。その融通性という見地からも番組問題からもこの問題を考慮すべきである。また、
NHKと違いまして、われわれはスポンサーからコマーシャルという形によって収入を得ておりますが、その収入の入り方というものの影響、それから
技術的な困難性、最後に
放送衛星を受信するための受像機の価格の問題、その五つの柱をまず
考えまして、その五つの柱についての十分な基礎的な理解の上に立ちまして、なおかつ経済性を検討してこの進路を定めるべきであるというのが私の基本的態度であります。
それで、最近
放送衛星の問題を論ぜられますときに、
オリンピックのときに使われました
通信衛星とこの
放送衛星と直接
放送衛星との間の混同が非常によく行なわれまして、そのための話の食い違いというものは非常に多いのでございまして、それをまず簡単に申し上げますと、
通信衛星の場合は、比較的わずかな五ないし十ワット、最近出ますブルーバードにおきましては二十五ワットぐらいの小電力の
放送機を積みまして、これをシンコムあるいはそういうような形で三万六千キロメートル上に上げるわけであります。一方受信する側は、非常に大きな、たとえば直径三十メートルぐらいの非常に大きなパラボラアンテナを使いまして特殊な方法で受けますために、その受像機の値段は一億円あるいはそれ以上の非常に高価なものを使っております。すなわちプロがこれを受ける。
衛星のほうが弱くて受信側で非常に強める。それに対しまして直接家庭に送らなければならない
放送はこんな高い受像機では困るわけでございますので、非常に小さな、一メートルあるいは一メートル半ぐらいの小さなアンテナで受けなければならない。したがって、簡単に計算いたしますと、面積で約千分の一ぐらいの小さなものになりますので電力のほうは千倍ぐらい大きくしなければならぬ。ここにいらっしゃる上田
電波監理局長の御計算を
利用さしていただきますと四十四キロワットぐらいの電力を必要とする。したがって、これは形は同じようでございますけれ
ども、困難性ということにつきましては格段の差があるように私は感ずるのであります。
もう
一つ、この場合には、この間の
オリンピックの場合にはこういうような専門家が受けまして、それからそれを家庭に配給してくれますのでよろしいのでございますが、直接受けますときには、われわれ聴視者そのものが受像機を買わなければならない。この値段がかなり高いのではないか。一例としてでございますが、
アメリカのヒューズという会社で計算しました例でございますと、一万台量産した場合には三十六万円、十万台で十八万円、これは周波数がどこにきまるかわかりませんのでほんの一例でございますが、いずれにいたしましても、かなりのお値段の受像機をまた新しく買わなければならないという点において、直接
放送衛星のほうは大きな問題があるわけでございます。この間、
アメリカでABCという
放送会社が、先ほど
前田会長が言われたいわゆる配給
衛星に相当するものの申請を出したのでございますが、これは
アメリカで却下されたようでございます。これはどちらかと申しますと、こんなに高い受像機ではなしに、
放送局で受けられる程度の何千万という程度の受像機にいたしまして、
放送局で受信いたしまして、これをもう少しあげて、それを再び各家庭に
放送局から
放送するというふうな、いわゆるディストリビューションサテライト、配給
衛星というものを
考えておるようでございます。
現在われわれが使っております伝達
方式と申しますのは、いわゆるマイクロを使っているわけでございまして、ここに
東京の局がございまして、そして仙台、札幌あるいはその他のところに全部マイクロというものでつながれてある、そこに番組をとりまして、そこで各地の
放送会社が
放送しているわけでございます。そして、ここに赤線と青線で示してありますが、このブルーのマーク、ローカル番組が入ります。それからローカルニュースも入りますし、ローカルコマーシャルも入るというふうに、各地でその
地域に密着した番組というものをつくるように現在なっております。また、今度新しく提出されました
放送法におきましても、第五十一条の三に、
地域のための
放送をやるべきだということを加えられております。
ところが、この
放送衛星がどういう形できまるかは別といたしまして、まず
衛星管理機構というものをここにつくらなければいかぬと思うのです。それから直接
放送衛星を打ち上げて、プログラムを送りまして、それから直接受けますと、これは
一つの番組、すなわち一方向的な番組しか受けられない。もちろんこういうことも全然できないことはございませんが、非常にむずかしいことになると思います。したがって、全国単一のプログラムというものを受けるのでありまして、現在のように、各
地域の
地域性を
放送しなければならないという精神というものがこれで失われてくるというおそれがここにあるわけでございます。一方、配給
衛星のほうで
考えますと、
衛星管理機構からここへ上げまして、それを各
放送会社で受けまして、ここでミックスいたしますので、その場合にはローカル番組も、ローカルニュース、ローカルコマーシャルというものも入れられるのでございます。われわれ民間
放送会社におきましては、このローカルコマーシャルというものはかなり重要な収入源でございまして、たとえば、われわれの関西
テレビの例をあげますと、全国一円の番組から入ります収入が約一億円、ローカルセールス及びローカルスポットで入りますのが一億八千万円というふうに、六四%の比率を示しております。これは広島あるいは熊本程度の局に参りますと、大体三六%くらいになってくるわけでございますが、かなりローカルのスポンサー、たとえば一例をあげますと、大阪の阪急不動産というスポンサーは大阪だけに広告すればよろしい。岡山の天満屋は岡山だけに
放送すればよろしいわけでございまして、全国的に
放送するということになりますとたいへんな金額になりますので、各地のスポンサーというものはそこに存在するわけでございます。また各メーカーにいたしましても、今度はこの
地域で、特に広島なら広島
地域で扇風機の広告を重点的にやりたいとか、そういうふうな問題がそこに発生いたしますので、そういうふうなローカル性ということから申しますと、直接
放送衛星は大きなウイークポイントを持っているのでございます。
それから、
民間放送の番組の例をちょっと申し上げますが、
東京から全国に送ります全国番組、そのほかまた全国番組でございますが、
地方のもの、たとえば「ゆく年くる年」のような場合には、新潟の番組が入って、次に四国の番組が入って、九州の番組が入るというふうにどんどん切り変わってまいります。また、
地方の番組が
地方から出るというようなケースもございますし、いろいろ複雑な、また
東京と
地方がかけ合い的に話をするというケースもございます。すなわち、全国一円の番組と、それからローカル番組というものはきれいに分けることができない。それが非常に複雑な巧妙な形で融通的に加わっているというのが現在の番組でございます。そういうふうな
地方番組というものを無視してもいいのだということであれば別でございますが、やはりわれわれのような
民間放送のような
立場でございますと、
地方番組あるいは
地方性、
地域性というものを非常に重視していかなければならないということを申し上げたいと思います。
次に、受信機のことにつきましては先ほど申しましたが、マイクロウエーブが全然
発達していない国、たとえばアフリカでありますとか、パキスタンでありますとか、そういうふうな国、しかも
放送会社がないという国では、そういうふうな全国一円の番組でこれをカバーするということは一の巧妙な方法だと思うのであります。現在
日本はマイクロウエーブでは
世界第二に
発達した国と称しておりますが、そういう国において、マイクロウエーブの現在の方法というものを無視してしまうということはできないのでございます。たとえば過日のような飛行機事故がかりに熊本とかあるいは鹿児島のようなところで発生いたした場合には、これを逆に
東京に送ってくるのには、
放送衛星でやれないことはないと思いますが、非常にむずかしい。それよりもマイクロウエーブでこれをやったほうがずっと巧妙でございます。そういう意味におきまして、
日本のように国土が非常に狭くて、そうしてマイクロウエーブが非常に
発達した国において、しかも基幹的な
放送にこの
放送衛星が有利であるか不利であるかということについては、相当慎重に
考えなければならない。もちろん純
教育放送のような、飛行機が事故を起こそうが何しようがかまわないというふうなものにつきましては、全国一円のものでいいというのでありましたならば、これも
一つの
方式だと私は
考えます。
それからもう
一つ、現在
NHKも民放も
中継局をつくって難視聴
地域の対策をやっておりますが、この難視聴
地域の対策は、先ほど
前田会長も言われましたように、
NHKの場合は全国あまねくやるというので、最後の何%かの
地域をカバーするということは経済的に非常にたいへんである。それをカバーするために
放送衛星をやるのだというようなお話でございましたが、その意味におきまして
NHKは
一つの意義があると思うのでありますが、ただ、すでに建設した
中継局は要らなくなるのだというような
意見を言われる方が一部にあると、私はそれには賛成しかねる。たとえば九州なら九州におきまして、そのローカル性の入った番組を見ている方が、新しく
放送衛星ができたからいままでと違った受信機を購入してくれ、それにはローカル性が入っていないということになりましたならば、みな非常に問題にすると思います。したがって、すでに
中継局を建設したものは、むだにならないというふうな
考え方を私は持っております。
それで、
技術的な困難性につきましては、先ほど
野村さんからお話がございましたが、これも
野村さんのようにいいほうに好転するというケースもありましょうが、また、よそよりもむずかしいというふうに悪転ずるケースもあり得るのでございまして、
日本の国家予算と同じくらいの予算を持っておりますNASA、
アメリカの航空宇宙局は、直接
放送衛星は一九七七年に
研究をするように発表いたしております。昨年の十二月の
アメリカの雑誌に出ております。それくらいの予算と、それくらいの膨大な組織を持っているところが、十一年先にこの
研究の具体的な案を一応示しているということは、やはり慎重に考慮すべきだろうと思います。
また、私が一番理解しにくいのは、そういうような非常な金をかけて、そしてかりに
技術的にそれが解決した場合に、この直接
放送衛星のほうのメリットが一体どこにあるのだろうか、現在の普通の
放送形態よりも、国外の話はまた別にいたしますが、少なくとも
国内を
考えた場合にどういうふうなメットがあるのかということの探求をやはり一番まじめにやらなければならないというふうに
考えます。国外につきましては、
前田会長と同じように、やはり
日本が一流国家になるために、また将来波をできるだけたくさん確保するためにも、国際的に貢献するということは必要でございまして、
研究体制を充実していくということは非常に必要なことだと思います。そうして私は、先ほど
前田会長の言われましたように、直接
放送衛星というのが非常にむずかしい現
段階において、まず配給
衛星的なものを考慮して、そして
NHKの二番組とそれから民放の四番組、現在
日本に六番組がございますが、これを一緒に
考えた配給
衛星的なものを
考える、そして
放送衛星公社といいますか、そういう特別の機関でもつくってやっていくというような方向に進めるのが
一つの案ではないか、その場合でも
地方に起こったニュースをどういうふうに送るかというふうな問題がかなり
考えられなければならないと思います。
それから
放送衛星の場合といまのマイクロウエーブの場合の経済比較、これもかなりまじめにやるべきではないかというふうに
考えております。そして、もしいま国際交換をやるという場合に、先ほど
会長の言われましたように、現在におきましては非常に高いのでございます。たとえば一時間番組を送ろうといたしますと、何百万円というふうな金を払わなければならないのでございまして、
アメリカからフィルムで送ってくれば比較的安くいくものが、こういう方法でやりますと非常に高いのでございます。したがって、スポンサーがわれわれの場合はつかない。
オリンピックとか、そういうふうな非常に特殊な場合はもちろん問題はありませんが、一般の番組においては即時性が必要ないような場合にはこういう方法をとるということは非常に高いのでございます。したがって、むしろ国際的な配給
衛星機構を
考えて、たとえばその配給
衛星を三個上げて
世界をカバーして、そして
日本の番組を一日二時間、
アメリカの番組二時間、
イタリアの番組二時間、
フランスの番組二時間というふうに二時間ずつぐらいでもやって、それを三個の配給
衛星で
世界各国どこでも受けられる、そしてそれを適当に録音録画して自分のところで番組をとってやる、こういうふうな国際的な機構を
考えれば、比較的経済的な方法ができるのではないかというふうな感じを持っておるわけでございます。
いずれにいたしましても、現在の
日本の
放送は、
NHKは全国通っておりますが、民放を
考えますと、
東京、大阪では四番組、名古屋では三番組、広島では二番組、その他の地区では一番組というふうに非常に跛行的な形で、せっかくつくられた番組が
地方にいっておらないわけであります。こういうものをいろいろな形によって、できるだけ多彩な番組を
地方に送るということが
一つの
放送界のビジョンでなければならない。そういうことにこの
放送衛星なりあるいはむしろ配給
衛星を活用するというふうに持っていくべきではないかというように私は
考えます。
ちょうど時間になりましたが、
放送衛星あるいは
通信衛星の
研究を進めるということについては私は賛成でございますが、ただその場合に、その利害得失を、この表にございますように、いろいろな
立場から十分検討願って、現在のマイクロと比べてどういう点がいいのか、たとえばヨーロッパでございますとカラー
テレビの場合なんかは
方式が違いますので、直接
放送衛星をやってもなかなかうまくいかぬと思います。一たん打ち上げた
放送衛星が、非常に高いものが故障を起こしたときにどうなるのだろう、あるいはそういうことは
考えたくありませんが、戦争
状態になったときにはこれを打ち落とされたらどうなるだろう、そういうあらゆるケースを
考え、そして御検討願うということが必要だろうということを申し上げておきます。