○渡辺勘吉君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま御説明の
農地管理事業団法案に対し、お尋ねをいたします。
佐藤総理は、過般の施政方針演説で、「特に自立農家を
育成するため、農地管理
事業団を設立して、経営規模の拡大をはかる」との所信を表明されました。佐藤農政のビジョンは、自立農家
育成にあることは明らかであります。
政府の言う自立農家とは、所得倍増
計画によれば、二・五ヘクタールの経営規模で、働き手三人で年間百万円の粗収入を得るものとし、四十五年末までに百万戸
育成を目途としてスタートを切りました。しかしながら、
政府の三十九年上期の家計調査
報告によりますと、
わが国勤労者世帯の有業人員数は約一・五人でありますから、これに相当する農業所得を三人でかせぎ出すのでありますから、
政府の言う自立農家経営は、その実は半人前の農政であり、また、賃金なるものが、本来、家族をも扶養するに足るだけのものであるべきだとのたてまえからいたしますならば、三分の一人前経営農家と言わざるを得ないのであります。しかも、高度成長による所得格差の拡大によって、赤字農家は年々大規模農家に波及しております。今日の自立経営は、明日はもはや自立経営たり得ないのであります。去る九日の
予算委員会におきまして農林大臣は、「経営規模の拡大
方向は持っておるけれども、それが
実現できそうもない」と答弁をいたしております。それならば、今度新たに
事業団をつくったなら、中期経済
計画の終わる四十三年末までに自立経営農家を一体何万戸にするというのでありますか、また、所得倍増
計画の最終年度末でありますところの四十五年には、二・五ヘクタール農家を、一体、百万戸にするということでありますかどうでありますか、具体的に答えていただきたい。
政府の調査による経営規模別の農地売買面積を見ましても、二ヘクタール以上の農家は、譲り受けよりもむしろ譲り渡しの件数が多く、売り超過を示しております。逆に三十アールから一・五ヘクタールの階層は買い超過を示しております。自立経営農家
育成とは、東京の役所の机の上で抽象したものにほかならないと言わざるを得ないのであります。しかし、ある程度の耕地規模の拡大ならば、すでに現有家族
労働力を完全燃焼する範囲内で現実に進行しております。
事業団による農地流動化の
促進というものは、現実に行なわれている農地移動に、多少のオリエンテーション
効果は持つといたしましても、これによって自立経営農家を広範囲に成立せしめることはでき得ないのであります。つまるところ、今回の農地流動化
政策なるものは、その出発において、流動化を本気で
考えているのではなくして、零細農民をいびり出す心理作戦であると断ぜざるを得ません。
政策によって現実の経済がどうにでも思うようになると
考えるのは、
政策に対する過信であります。
政策は、経済の法則性にのっとってのみ現実性があり、立てられた
政策が法則にかのう限りでのみ
効果があります。この点について、
総理大臣並びに農林大臣の見解を伺います。
次は、農地価格についてであります。農地価格は、農業の生産
関係できまるのではなくして、高度経済成長
政策で設備拡張に狂奔している諸資本の競争によってつり上げられた地価できまっております。地価騰貴の傾向は、広い背後地に向かって連鎖反応を呼び、そのとまる所は、経済成長
政策の直接の恩恵がなく、
人口は減る一方で、農地を売ったり小作に出したい者はあっても、これを引き受ける者の少ない純農村、農山村地帯であります。
農林大臣にお伺いいたしますが、農地を時価で買うとしましたならば、米価算定の際、地代を時価で算定するということに、農林省の方針が変更されたと見ていいのでありますか。
農地の時価は変動して、あすのことが予測できない実態であります。
事業団が買うとなれば、時価ははね上がる。はね上がった時価を、たとえ融資があっても買い手がつくと大臣はお
考えでありますか。
農地というものは、単に土地だけではありません。かんがい施設、水道あるいは農道、排水路等の付帯物があるが、こうしたものについて、一体どのような策定をし、これに対処されようとするのでありますか。
佐藤総理にお伺いいたしますが、年々高騰に高騰を続ける土地の価格は、いまや、
国民経済のほとんどあらゆる分野に、破壊的な影響を与えて売ります。これに対する基本的な
対策は一体どうなっておるかを伺いたいのであります。
初年度、テストケースとして、
事業団がわずか一千ヘクタールの農地の流動化をするために、役
職員が三百人近くも配置されます。年を追うて陣容が強化され、近い将来において一千名をこえることは必至であります。これは、農地流動化の名のもとに、その実、官僚の人事の流動化となり、再就職の場を求めるということが本音であるということであります。
事業団はまた、官僚的農地管理強化へのきざしを含んでおります。それは、官僚のなわ張り拡張本能の問題だけにとどまりません。農地移動機構を官僚が掌握することで、高度経済成長に必要な土地の収奪を簡単にできるように布石することになります。これは独占資本の論理に基づくものであり、それに官僚の自己保存本能が便乗したものと言わざるを得ない。
事業団の農林省の当初の
構想は、十カ年で三十三万ヘクタール、資金量五千六百億円、融資率年利二分、四十年償還が原案でありました。これがむざんにも破れて、四十年度はテストケースとして、一千ヘクタールにとどめると言う。しかも、金利二分を三分に
引き上げている。二分の持つ意義は、金利というよりも、取り扱い
事務実費にとどめるというところに、社会
政策的な意義があったはずであります。三分となれば、もはや、借金の利息的性格になります。しかも、四十年を三十年に圧縮し、これでも規模拡大による生産性の
向上で十分返済できると、衆議院の本
会議で総理は答弁をしておりますけれども、規模拡大も容易ではない、小農技術では生産性も上がらない、農産物価格の保障も不十分で、一体何で生産性の
向上が期せられましょうか。総理にお伺いするとともに、大蔵大臣の答弁を求めます。
昭和四十年度
予算は、ひずみを是正するとして、逆にひずみを拡大した不健全
予算であるとしか評価し得ません。幾多の
問題点のうち、
事業団等に対する利子補給について、大蔵大臣に伺います。
昭和四十年度
予算の特徴の一つは、総花
予算を盛り込んだため、原資不足を来たし、窮余の手段の一つとして、利子補給方式を大幅に取り入れたことにあります。言うまでもなく、利子補給は
補助金の一変形であり、特定部門を優遇する物的直接的統制の一種でありますが、返済のない支出であります。しかし、いずれも安上がりの
費用で発足しながら、これら融資に対する利子補給は、借り入れ金残高の増大に比例して、二年目に三倍と確実に膨張していく性質のものであります。農地管理
事業団への利子補給も同様であります。この種の新方式の導入は、日本
財政のひずみを一そう拡大するものであることは、言うまでもありません。その根源は、産投特別会計への
一般会計からの繰り入れが前年度に比べて八〇%も圧縮したことによるのであります。大蔵大臣は、四十一年度もこの不健全な利子補給方式を拡大するのか、あるいは産投特別会計に
一般会計から大幅の資金量を繰り入れて健全化をするのか、その方針を伺います。
農民を不安定な低賃金
労働者として動員する「貧しさ」という原動力は、同時に、農民をして農地にしがみつかせる力でもあります。農民が農地を手放すのは、
事業団ができたからではなく、新しい職場が十分な賃金を保障し、住む家が
確保され、病気になっても金がかからず、子供の教育にも負担がなく、老後の心配のない年金が約束されるような、各般にわたる社会保障が得られる見通しのついたときであります。農地が農民にとって財産であるのは、老後も一家の生活を自分たちで最低線を守る物的な唯一のよりどころだからであります。
佐藤総理並びに
関係閣僚の皆さんにお伺いしますが、あなた方は、イソップ物語で、太陽と風が旅人の着物をはがす話を御存じでありましょうか。太陽は、さんさんとした光熱で、旅人がみずから着物を脱ぐ
条件を与え、風は、強引に力で旅人の着物をもぎ取ろうとすればするほど、押え込んで放さないのです。
政府がやろうとしている
事業団は、このイソップ物語の風と同様であります。さしずめ、あなた方は風の閣僚である。農民がみずから農地を手放していく
条件をなぜ先につくらないのですか。フランスでは、離農者終身年金制度や、その他もろもろの心あたたまる
行政措置が講ぜられているのを見るにつけ、零細農いびり出しの心理作戦にのみ重点を置いて、先進国の社会保障制度には目をおおう、そうした
わが国の政治の実態は、片手落ちの農政として反省を求めざるを得ない。
人間尊重をモットーとする佐藤総理の見解を伺います。
今日、
行政の全面的な改革は、
国民のひとしく切望するところであると同時に、また、国家的にも、きわめて重要な課題であります。昨年九月、臨時
行政調査会の
意見が示されましたが、佐藤総理は、この
意見を受けてどう対処されてきたのか、また、今後どう
措置されようとするのか、その基本的態度並びに具体的
構想を明らかにしてほしい。
なお、臨時
行政調査会の
意見の中で、公社、公団等の改革については、次のように指摘をしております。すなわち、これらの設立は「人事管理のゆきづまりとか、なんらかの政治的圧力に原因が求められる場合が少なくなく、」「無秩序に乱立する傾向にある。」ので、すみやかに整理統廃合に踏み切れと勧告しております。無秩序に乱立された公社、公団の
現状の上に、さらに、本
法案に基づく農地管理
事業団は、このほかに七つもの公社、公団、
事業団等とともに、新たに誕生せんとしておりますが、これらは、いわゆる
社会開発をスローガンとした、佐藤色を盛った
行政としてお目見えをしようとしております。これは、臨時
行政調査会の
答申や、
国民の声を否認し、
行政のひずみを拡大し、ひいては
国民に一そうの過重な負担を要求するものであります。佐藤総理並びに
行政管理庁長官の
所見を伺います。
ヨーロッパ農業の歴史を顧みるまでもなく、農業経営、そして農法の発展の歴史は、そのまま土地利用高度化そのものでありました。しかるに、
わが国における
国民経済から要求される農業生産での土地の問題は、高い地価のもとで土地集約の
方向がとられ、農業経営本来の課題である国土の高度利用を避けて、明治以来その基礎なくして急激な商品生産を余儀なくされてきたことは、
わが国農政の根本的欠陥でありました。
政府は、所得倍増
計画でも、はたまた中期経済
計画でも、このランド・セービングの亡霊にとりつかれ、農業経営本来の使命であるランド・ユージングに目をおおい、これを
政策課題に取り上げなかったところに、
わが国農政の根本的欠陥があります。