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国務大臣(
田中角榮君) 私からお答えしていいかどうかわかりませんが、御質問でございますから、内閣で
検討いたしたことを率直に申し上げてみたいと思います。
人間尊重、
社会開発、こういう看板を掲げておる佐藤内閣として、うしろ向き政策ともいわれるべきものに歳出を使うということは一体いいのか、こういうことでございますが、これは一体うしろ向きかどうか、こういう問題も
検討いたしました。それから、人間尊重、
社会開発というようなものに逆行する政策かどうかということも
検討いたしました。また、困った人、もっと
社会保障その他に大いに歳出面をふやさなければならない
事態にありながら、こういう政策に対する歳出とどう調和をするかという評価もいたしました。純農政との関係も評価いたしました。いたしましたが、結論的に、この
法律は自由民主党を基盤とする内閣としてはこれを国会に
提出をして、これを成立せしむるべきだ、こういう結論に達したのであります。
まあその間に、過程におきましては、相当激論もし、慎重かついろいろな観点から
検討いたしまして、どういうことか、率直にこういう機会でありますから申し上げますと、こういうものは一体三重補償という。これは二重補償ではない。これは補償はしない。補償は適法にされたものであって、最高裁の判決とおりである。この
報償というものに対してなぜ一体やるのか、この問題は、ただ
農地解放というの、か非常に犠牲が大きかったというようなものではなく、
農地報償と各種の戦後補償といいますか、これらの問題と区別して、
農地報償は戦争被害とは直接な関係はない、こういう認定をまずいたしました。
それから、
農地報償に対してなぜこんなことをするか、
農地報償はどうしてやるのか、こういうことになりますと、世界的な歴史を見るまでもなく、
農地の解放というものは、これは非常に大きな問題であります。ですから、
農地報償に対してのいろんな問題があっても、
農地解放の実績、
農地解放が行なわれたために、農村の
民主化のみならず
日本の
民主化が行なわれ、今日の
日本の
経済的な
発展の基盤をなした、何びともこれをいなむ者はないというまず判断をいたしました。
この
農地解放という問題は、自作農をつくる、小作と地主の長い闘争の歴史、こういう歴史に徴するまでもなく、自作農をつくろう、こういうことでこの
法律ができて、
農地解放が行なわれたわけです。ところが、自作農のために行なわれたのですから、自作農以外の用に供する場合は、さきに売り渡したところの地主に先取特権を与えるとか、国がこれを取り上げるとか、こういうことが
法律に書いてあれば、私はまだまだ問題は小さかったと思うのであります。初めはもちろん、自作農創設のためでありますから、自作農以外の用途に供するものは国に返さなければならない、こういうことであったのですが、御承知のとおり、
昭和二十九年から
法律を
改正されて他に転売することができるようになった。ところが、インフレなどがあって、まあこういうことでどんどん転売された、こういうことであります。でありますから、そのときに、そのときを契機として旧地主との間に非常に問題が起こってまいったわけであります。そしていろいろな支障が起きる。ですから、そのときから、御承知のとおり転売利益を、差益を徴収してこれを
報償の財源に使うべしと、こういう議論もありました。そんなことはできるものではありません。これは憲法上条件のない
法律として承認されたものに対して、それから差益金を徴収する、そんなことは憲法上できるはずはありません。
いろいろな道行きがありましたが、最後にどうなったかといいますと、これだけ大きな
事業が行なわれて、その結果二十年たってみて、どうもいなかには昔と同じ対立がある。もう小作もないのですから、小作と地主の対立があろうはずがない。ところが、その対立がある。御承知のとおりあるのです。地主というものは
社会的に、
工藤調査会の調べによれば、一般のレベルよりもいいというものの、自分
たちから二百五十円とか三百円とか、そういう非常に安い値段で解放したものが、坪当たり何十万円にも売れる。こういうところに、闘争があろうはずがない農村に、農村の
民主化をはばんでおる事実があります。あるいはもうあそこには絶対に嫁をやらぬ、婿ももらわぬ、こういう
実態をそのままにしておいていいものか。
私
たちはそういうところをこまかに、しさいに
検討して、これだけの大事な
事業に有終の美をなすには、
国民の税金をもってあがなうということはいろいろ議論もございましょうが、これに何らかの
措置を行なおうというのが、この
農地報償法案なのです。ですから、ただやろうということではない。
まあどこの歴史を見ましても、この土地の問題というのは流血の惨であります。血で血を洗い、民族同士が粛清し合っている。こういう世界の歴史に比べると、敗戦の結果とはいえ、
日本の
農地解放は思い切ってやられた、行なわれた。ですから、私
たちはいろいろなことを考える前に、西ドイツのあのとにかく戦後の
国民の全
責任でまず犠牲者に一切のものをやって、しかる後にわれわれが分配しようというほどにわれわれは思い切った
措置はとれないにしても、これだけの大
事業が行なわれたために、当時の地主がその相当の数、相当高い生活程度を維持している、一般の人全体よりもレベルは高いというだけをもって、これで何もしなくてもいいということでは、どうも政治にはならないのではないか。こういうことを十分考えて、ほんとうに農政も行ない、それから
社会保障も行ない、人間尊重も行ない得る、人間尊重の最も大きな問題としてこの大
事業の陰にあるトラブルをなくしよう。そうでも考えなければ、
国民の税金をこんなに使おうという勇気が出るものではありません。そういう意味で非常に慎重に考え、あらゆる角度から
検討した後にこの
法律をあえて成立せしめようと、こういうことになったのであります。
ですから、これはひとつ、これ以上私は申し上げませんが、与党が、
政府がこういうものを提案をした
立場も、考え方もひとつ御理解賜わりまして、まあひとつ別な角度からも御
検討、この
法律案の評価、価値判断というものも、そういう意味からもお願いをできれば幸いだと思う。われわれはただ地主に対して何かしよう、二重補償をしよう、こういう単純な考えでこの
法律を提案をしたのではございませんから、十分佐藤内閣でも
検討して、
検討した結果いま申し上げたような結論に達して、この国会において成立せしめたい、皆さんにお願いしたい、こういうことでございますから、もう二度とは申し上げませんが、御理解願いたい。