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1965-02-18 第48回国会 衆議院 予算委員会公聴会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十年二月十八日(木曜日)     午前十時十二分開議  出席委員    委員長 青木  正君    理事 赤澤 正道君 理事 稻葉  修君    理事 小川 半次君 理事 二階堂 進君    理事 古川 丈吉君 理事 加藤 清二君    理事 川俣 清音君 理事 辻原 弘市君    理事 今澄  勇君       相川 勝六君    荒舩清十郎君       井出一太郎君    井村 重雄君       今松 治郎君    植木庚子郎君       仮谷 忠男君    小坂善太郎君       登坂重次郎君    中曽根康弘君       中野 四郎君    野田 卯一君       水田三喜男君    八木 徹雄君       石田 宥全君    大原  亨君       田中織之進君    高田 富之君       中井徳次郎君    中澤 茂一君       永井勝次郎君    野原  覺君       山花 秀雄君    横路 節雄君       永末 英一君    加藤  進君  出席政府委員         大蔵政務次官  鍛冶 良作君         大蔵事務官         (主計局次長) 中尾 博之君  出席公述人         全国銀行協会会         長         (日本勧業銀行         頭取)     中村 一策君         日本女子大学教         授       松尾  均君         関西経済同友会         代表幹事         (住友金属工業         社長)     日向 方斉君         東京大学教授  坂本 義和君  委員外出席者         専  門  員 大沢  実君     ————————————— 本日の公聴会意見を聞いた案件  昭和四十年度一般会計予算  昭和四十年度特別会計予算  昭和四十年度政府関係機関予算      ————◇—————
  2. 青木正

    青木委員長 これより会議を開きます。  昭和四十年度一般会計予算昭和四十年度特別会計予算昭和四十年度政府関係機関予算、以上三案について、昨日に引き続き公聴会を続行いたします。  本日午前中に御出席を願いました公述人は、全国銀行協会会長中村一策君、日本女子大学教授松尾均君のお二人であります。  この機会に御出席公述人各位にごあいさつを申し上げます。  本日は、御多忙中のところ御出席をいただきましてまことにありがとう存じます。厚くお礼申し上げます。  御承知のとおり、国の予算は国政の根幹をなす最重要議案でありまして、当委員会といたしましても連日慎重審議を続けておるわけでありますが、この機会に各界の学識経験豊かな各位の有益な御意見を拝聴いたしまして、今後の予算審議の上において貴重な参考といたしたいと存ずる次第であります。何とぞ各位におかれましては、昭和四十年度の総予算に対して、それぞれ御専門のお立場から忌憚のない御意見をお述べ願いたいと存ずる次第であります。  御意見を承る順序といたしましては、まず中村公述人、続いて松尾公述人の順で、おおむね三十分程度において一とおり意見をお述べいただき、その後、公述人各位に対し一括して委員から質疑を願うことにいたしたいと思います。  なお、念のために申し上げますが、衆議院規則の定むるところによりまして、発言の際は委員長の許可を得ること、また公述人は、委員に対しまして質疑をすることができないことになっておりますので、この点あらかじめ御承知おき願います。  なお、委員各位に申し上げますが、公述人各位に対し御質疑のある方は、あらかじめ委員長にお申し出くださるようお願いいたします。  それでは、まず中村公述人から御意見を承りたいと存じます。中村公述人
  3. 中村一策

    中村公述人 ただいま御紹介にあずかりました中村でございます。  本日は、本委員会から昭和四十年度予算案について意見を申し述べるようにとの御指示がございましたので、金融界に籍を置く者の一人といたしまして、私なりに感じましたところを率直に申し上げてみたいと存じます。  以下、問題を四つに分けまして、第一に四十年度予算案性格につきまして、第二には財政弾力性について、第三に財政投融資計画における民間資金活用の問題につきまして、最後に税制改正問題についてという順序で、簡単に申し述べることといたしたいと存じます。  まず第一に、四十年度予算案性格でございますが、財源難のためいろいろ新しい問題も生じてはおりますが、一応健全均衡財政という基本方針は堅持されておりまして、財政規模拡大もおおむね景気に対しまして中立的であると申して差しつかえないように考えます。もっとも四十年度財政規模を三十九年度当初の財政規模に比べてみますと、一般会計では一二・四%の増加財政投融資計画は二〇・九%の増加となっておりますから、財政規模拡大経済成長率見通しを若干上回っていることとなります。しかし、この程度拡大であれば、景気に対する刺激も問題とするほどのことはないと考えます。  このところ、産業界におきましては、やや不況感が薄らいがきてはおりますものの、なお生産能力拡大人手不足など、いわゆる構造的な問題も生じている状態でございますから、この際は景気行き過ぎを招かない範囲内である程度需要をつけて、産業界が前向きに、国際競争力強化体質改善に取り組んでいけるような環境をつくることも財政政策の大きなねらいと存ずるのであります。  ただ、多少気になりますのは、四十年度下半期以降の景気動向との関係でございます。当面はともかくといたしましても、国際収支物価先行き不安材料がないわけではございません。と申しますのは、下半期に入るころになりますと、経済活動も次第に活発になってくるのではないかと思われるからであります。  最近の経済情勢は、不渡り倒産などはまだ尾を引いておりますが、生産設備投資などの面にも落ちつきが出てきております。そして、こうした落ちつきはいましばらく続くものと考えられます。金融情勢は漸次緩和してきておりますが、それが企業段階全体に浸透してまいりますのには若干時間もかかりましょうし、金融政策も慎重に運営されております。  したがいまして、企業としましても、この際は企業間信用行き過ぎ是正手元流動性の回復、あるいは設備投資計画の再検討を行なうなど、引き締め過程において生じましたしこりを解きほぐしていくことに専念しているようであります。また生産能力拡大開放体制本格化に伴う企業間競争の激化、人手不足による賃金上昇、あるいは資本費負担増加といった構造上の問題もございますので、企業態度には、量的な拡大よりも質的な改善に真剣に取り組んでいこうという機運が出ております。したがいまして、当面は経済活動も落ちついた推移をたどるものと思われますが、やがて金融緩和が浸透し、輸出の好調も続きますと、次第に経済活動も増勢を強めていくことになるのではないかと思います。もちろん企業家態度も慎重になってきておりますので、かつてのように景気の安易な急上昇といったことはないと思います。それにいたしましても、生産がふえれば輸入もふえてまいりましょうし、海外景気先行きにも不安定な面もないではありませんので、下期以降の国際収支動向には十分注意をしていかなければならないように思われるのであります。また、物価なかんずく消費者物価動向楽観を許しません。人手不足の基調が続いておりますので、賃金上昇による物価押し上げの動きも出てきているようでございます。したがいまして、下半期財政支出が集中して景気行き過ぎを再び招くことのないよう、予算の実行に際しましては実情に応じて弾力的な調整を加えていただきたいと思います。  次に、支出内容から見た予算案性格でございますが、農業中小企業近代化住宅建築の促進など生活環境整備、あるいは公共投資の拡充といった施策強化されているように見受けられます。これは、単に高度成長のひずみを是正するというだけにとどまらず、より総合的な見地から経済成長社会発展との調和をはかっていこうという趣旨のもので、いわゆる社会開発政策の一端がうかがわれるのであります。  特に中小企業対策につきましては、その予算額を見ますと、一般会計では、前年度当初予算に比べて三一・六%増、財政投融資計画では二四・五%増となっており一般会計財政投融資計画のいずれにおきましても、全体の予算増加率をかなり上回る財源が振り向けられております。内容的にも、工場団地の造成など中小企業集団化、協業化をねらいとした施策中心に拡充されておりまして、小規模企業対策といたしましては、生活の安定に資するため、相互扶助の精神に基づいて共済事業団を設けたり、あるいは無担保、無保証でも融資の道を開くような措置が講ぜられているようでございます。これらはまことに時宜に適した措置と考えられます。  ただ、中小企業近代化の問題につきましても、これは長期にわたる構造的な諸施策を要する問題でございまして、四十年度財政だけで解決されるもの外はございません。中小企業の経営におきましては、現在、人手不足おりから協業による能率の向上設備近代化による生産性向上がますます必要になっておりますので、今後とも中小企業近代化を支援、助成、助長するような長期的な施策を強力に展開することが必要と存ずるのであります。なお、このような中小企業生産性同上にどうしても必要な中小企業金融の面におきましては、民間金融機関の貸し出しが九割前後というきわめて高い比重を占めている現状にかんがみまして、銀行をはじめ、これら民間金融機関賞金量増強につきまして、今後とも何ぶんの御高配を賜わりますよう特にお願い申し上げる次第でございます。  第二に、財政の将来における弾力性の保持という点について申し上げてみたいと存じます。四十年度財政につきましては、特に財源難であったという事情もございましょうが、近年の予算編成におきましては、当然にふえる経費と申しますか、そういったものが大きくなりまして、どうも新しい政策に振り向けられる財源が必ずしも十分ではなくなっているように思われます。したがいまして、新規施策は初年度財政負担がそれほど大きくならないような形で取り入れておく。ところが、それが翌年度には大きな財政負担になって、また新しい施策を圧迫する、こういった関係もないではないように思われます。景気がよくなってまいりますと、税収もふえてまいるものと思いますが、今後経済成長高度成長から安定成長に移っていくといたしますと、かつてのように大きな自然増収はだんだん出にくくなるのではないかと思います。反面、財政に対する需要のほうは、都市過密化を防止する対策とか、開放体制本格化に対処するための産業基盤強化策など、ますます大きくなってまいるものと予想されます。もっとも、このような事情に対処するため公債発行すれば別でありますが、公債発行に踏み切るまでには、その前提として無理なく市中消化が行なわれるように金融市場発行条件整備されるなど、いろいろ解決すべき問題が少なくないように思われます。こうした条件環境が十分整ってからでありませんと、公債発行はややもすればインフレを招きがちでありますので、どうもプラスの面よりもマイナスの面のほうが大きくなる懸念が多いように思われます。  したがいまして、この際はやはり不要不急経費削減や行政の合理化を行なって、あるいは新規施策についてはその目的や効率など慎重に検討することが特に必要であろうかと思います。もちろん四十年度予算案につきましても、財政緊縮化重点化についての努力は十分に払われているように思いますが、この問題については今後とも真剣に取り組んでいかなければならないものと考えます。  次に、四十年度予算案におきましては、利子補給制度が広がって、前々年度剰余金国債整理基金への繰り入れは圧縮されております。利子補給制度の導入につきましては、必ずしも頭から反対するものではございませんが、御承知のように、この制度がだんだんと拡大してまいりますと、財政規模の膨張を招くおそれもございます。この点につきましては、こういうことのないよう十分御留意いただきたいと思います。前々年度剰余金国債整理基金への繰り入れを圧縮することにつきましては、二年間の暫定措置となっておりますので、この限りでは格別異論もございません。しかし、何ぶんにもこれは財政制度全体のあり方に関連する問題でございますので、今後十分に検討される必要があるように存じます。  第三に申し上げたいのは、財政投融資計画における民間資金活用についてでございます。この点につきましては、先般開かれました金融機関資金審議会におきましても申し上げたところでございますが、銀行といたしましては、政府保証債消化など、民間資金活用につきましては、できる限りの御協力をいたす所存でございます。しかし、今後の金融情勢見通しとしては、かつてのような大幅な緩和を期待することはむずかしく、このところ預金環境も一段ときびしさを増してきておる状態でございます。  一方、民間資金需要は、国際競争力強化したり、中小企業設備近代化をはかったりするために、次第に強くなってまいるものと思われますので、この際次のような点につきまして格別の御配慮をお願いいたしたいと存じます。  まず第一点は、年度間の計画はこれでよいといたしましても、政府保証債発行など具体的な取り扱いにつきましては、そのときどきの金融情勢を十分御勘案の上、民間の起債を圧迫しないよう弾力的な配慮をお願いしたいという点でございます。  第二点としては、政府関係縁故債などの増額も予定されているようでございますが、これらは財政投融資計画ワク外にあるとは申しましても、結局は市中金融にしわが寄ってくる可能性の少なくないものでございます。この点もあわせて御勘案の上、無理の生じないようにしていただきたいと存じます。  第三点としては、過去におきましては、年度の途中で政府保証債増額が行なわれたことがあったようでございますが、四十年度政府保証債先行規模はすでにかなり大きなものでございますので、追加発行ということがないよう十分に意を用いていただきたいと存じます。  以上が、財政投融資計画における民間資金活用についての私どもの考え方でございます。  最後に、税制改正案についてでございますが、財源の乏しいわりには大きな減税規模であり、けっこうなことと存じます。内容的には消費者物価上昇おりから、所得税減税中心となっておりますが、企業減税につきましても、法人税率が引き下げられ、内部留保の充実を促進するよう配慮されており、特に中小企業につきましては、税負担軽減のための措置拡大しておりますのも時宜に適したものと考えます。もちろん企業体質改善は一朝一夕にできるものでもございませんので、四十一年度以降におきましてもさらに御配慮いただくことが必要と存じます。  ただ、以上のような減税が行なわれました反面、大多数の預金者が大きな関心を寄せておりました利子所得課税につきましては、少額貯蓄非課税制度預入限度引き上げの点でいろいろ御高配を賜りましたが、一般税率は五%から一〇%に引き上げられて、預金実質利回りがこれまでよりも低下することになりました。消費者物価上昇のきざしが見える際でもあり、銀行といたしましては、この際何とか貯蓄意欲を高揚するよう努力している次第でございますが、皆さま方におかれましても、預金増強に資する環境条件整備につきまして特段の御高配を賜わりますよう、重ねてお願いする次第でございます。  以上、いろいろ申し上げましたが、要約いたしますと、四十年度予算案基本的にはおおむね妥当なものと考えますが、これからの経済情勢は次第に明るさを加えてくるものと考えられますので、民間資金需要もこれに伴って増加の方向に向かい、金融市場としては、下半期以降次第に繁忙に転じていくように思われます。一方、物価国際収支といった面でもそう手放しの楽観は許されないように見受けられます。そうした意味合いから、今後財政運営効率化とか、政府保証債弾力的発行、あるいは貯蓄増強といった点につきまして格別の御配慮をお願いいたしたいということでございます。  これで、私の公述を終わらせていただきます。どうも長らく御清聴ありがとうございました。(拍手)
  4. 青木正

    青木委員長 ありがとう存じました。  続いて松尾公述人にお願いいたします。松尾公述人
  5. 松尾均

    松尾公述人 ただいま御指名にあずかりました松尾でございます。  私は、特に社会開発社会保障につきまして意見を申し上げてみたいと思います。  昭和四十年度予算を見ますというと、その大きな柱としまして社会開発が掲げられております。しかも、この社会開発に関しましては、すでに懇談会も設立されておりますし、非常に順調な足取りを示しているように思われます。ところが、この社会開発に関しまして、はたして一定の概念と申しますか、これが確立しているかどうかということを検討してみますというと、そうではない。その概念がきわめてあいまいだというふうにいわざるを得ないわけであります。  その一つは、去る一月二十七日、懇談会の発足に際しまして取りまとめられた社会開発基本的問題、あるいは基本的考え方、さらには懇談会に関する諮問事項というものがございますけれども、その場合に発見できますことは、社会開発目標とその手段内容と申しますか、これが非常にかけ離れているのではないかという点であります。すなわち、目標として述べられておりますことは、経済開発社会開発との調和的な振興を行なうんだ、当面の課題としましては経済構造のひずみを是正する、基本的には日本の民族のエネルギーを発掘し、あるいは動員するんだというふうな規定になっております。ところが、その手段内容を見ておりまするというと、社会保障から社会福祉公衆衛生、人口、教育住宅都市計画環境整備、栄養、体育、消費者保護など、おそらく十項目以上も掲げられておるわけであります。  これで目につく点は、この目標手段内容があまりにも距離が離れ過ぎておりまして、この目標に向かってのアプローチの方法とか、あるいはこの順序というものが私たちはつかめないわけであります。しかも、十項目以上にわたるこの手段内容相互関連と申しますか、あるいはその間のいわゆる社会的な優先順位と申しますか、これが明らかでないわけであります。  第二に指摘しておきたい点は、この経済発展段階社会開発との関係についてであります。私が言うまでもなく、この社会開発ということは、一九六〇年前後の国連の社会経済理事会で取り上げられたことばでありまして、その場合に主として討議の対象になったのは、後進諸国における貧困救済というものが取り上げられたわけであります。その場合に、後進諸国では特に型にはまったと申しますか、定型的な事故に対して、保険技術をもってする社会保障、これでは後進国貧困救済には限界がある。したがいまして、そうした社会保障よりはもっと広く、たとえば住宅とか、あるいは文化、教育とか、そういうことを行なわねばならない。そうしますというと、後進諸国における生活救済というものは、単に社会保障だけではなくして、広くそういうふうなものも含むものをもって対処しなければならない。したがいまして、こうしたことに対して社会開発ということばが与えられたわけであります。  ところが、その後進諸国におきましても、いろいろなそのような社会的配慮というものを行なっているわけでありますけれども、十分検討してみますというと、そうした貧困救済と申しますか、生活対策基本には、やはりこの先進国の歩んできた道と申しますか、そうした順序を踏まえているわけであります。やはり基本的には、先進諸国にならいまして、所得の再分配によるこの社会保障というものを据えているということであります。したがいまして、この後進諸国におきましても社会開発ということばをうたい出しているわけでありますけれども、国民の生活対策としましては、正しいコースと申しますか、まず所得の直接分配、特に賃金でありますけれども、それから所得の再分配をはかっていくということ。それから、これを補強するものとしまして、いま申し上げましたような教育とか、あるいは住宅とか、そういうふうな施策を行なうというようなコースをたどっているわけであります。  こういう点を見のがしますというと、社会保障社会開発、言いかえますと社会開発が出てきたがためにこの基本的なコースが見誤られるのではないかという懸念がわくわけであります。そうした目で現在叫ばれている社会開発を見ますというと、この社会的な諸関係項目にいわば一括して社会開発ということばが与えられているのではないか、そういうような感じがいたすわけでありまして、いわば社会開発発展段階的な把握というものが不十分ではないかという懸念がわくわけであります。これが第二点であります。  それから第三点としまして申し上げたい点は、この四十年度予算説明書をいただきましたけれども、これによって見ますというと、同じく社会開発説明の場合にも、たとえば大蔵大臣のおやりになっている昭和四十年度予算についての提案理由説明というふうなものを読んでみますと、社会開発ということばが非常に広く内容が盛られておりまして、おそらく、公共事業と申しますか、こういうものまでも含まれているような気がいたします。これはまあ私の解釈であります。ところが、そのあとについておりまする主計局説明というものを見てみますと、これは主として中小企業農業などのいわゆる産業構造のひずみ是正重点を置かれたものとして社会開発があげられているような解釈ができるわけであります。こういうことでありまして、やはりこの社会開発具体的内容を形成するいろんな政策取り扱いか、まだ日本では未熟ではないかということであります。こういうことでありますから、特に社会開発というようなりっぱな政策目標ができましても、それを体系的に推進するということがはたして可能であろうかどうかという点がその次に懸念される点であります。  その第一点としまして、この社会開発の中身を形成する、あるいは社会開発手段内容となる諸政策がどのような形で体系的につかまれているだろうかという点でありますけれども、その第一点としまして、社会保障社会開発関係、この両者の間の序列つけ方、あるいは比重のとり方、この点が気になるのであります。たとえば、これはもう皆さま方がすでに御承知だと思いますけれども、今回の医療保険改正につきまして、一方では保険料に総報酬制がとられている、そうして保険料のほぼ一四・五%の引き上げというものがなされようとしている。ところが、他方では薬剤費の半額、こういうものを本人負担とされているということでありまして、この両者を総合勘案してみますと、一方では医療保障削減と申しますか、医療費保障削減と申しますか、こういうことが行なわれながら、他方ではいわゆる医療のサービスと申しますか、これの低下が行なわれているということで、こういうことでは社会保障の後退ではないかという点であります。せっかく社会開発というような大きな政策目標があるのにもかかわらず、社会保障がここで後退しているのではないかという気がいたすわけであります。その点で、私が先ほど指摘しましたように、社会開発というものと社会保障との序列と申しますか、比重が狂ってきているのではなかろうかというようなことであります。特に疑問な点は、公害の除去あるいは住宅建設などが予算増加されております。そうして、社会開発というものがせっかく推進されようとしているわけでありますけれども、はたしてこの社会保障の側で、言いかえますというと、社会開発の母体ともいうべき社会保障の側では、そのような後退が許されていいかどうかということであります。逆に、社会開発というものが効果をあげるためには、効果的に推進されるためには、社会保障の充実があって初めて期待できるわけであります。社会開発の推進のためには、どうしてもその母体であり、その前座と申しますか、ともいうべき社会保障の充実が並行し、少なくとも先行することが条件じゃなかろうかと思うわけであります。この点、社会開発社会保障とのいわば関連と申しますかが、やや混乱しているのではなかろうかと思うわけであります。これが第一点であります。  それから第二点は、政策のアンバランスと申しますか、これが社会保障の中でと申しますか、特に医療政策の中で見られるわけであります。もちろん、言うまでもなく、膨大な医療費というものは、国及び地方公共団体、これの負担の残りの七四・五%は、私たち国民の保険料と、それから私たちが病気になった場合、患者が窓口で支払う金額によってまかなうよりほかないわけでありますけれども、はたしてその場合に医療機関に対しまして何らかの合理的な配慮がなされたかどうかという点であります。特に医療機関につきましての配慮があってほしいわけでありまして、その一つは、医療機関の実態調査と申しますか、特に経営実態調査というものは、おそらく二十七年度以降一度もなされていないのじゃなかろうかと思います。特に、私の調べにおいて誤りがなければ、三十二年及び三十六年の中医協でも、この実態調査につきましては、やろうではないかという確約がされていると私は思います。その点、医療問題のうるさいおりから、医療機関に対してのメスというものがぜひあってほしいわけであります。これが一つであります。  それからもう一つは、最近の医療費の値上がりというものの一つの大きな原因は、やはり医療サービスと申しますか、医療制度自体に原因することが多いと思いますけれども、もちろんこれは原因の一つでありますけれども、その点、いわゆる薬価基準ですね、これが三十五年以降据え置きのままだと私は思います。ところが最近の製薬会社の生産力と申しますか、これはきわめて上がっておるのでありまして、反対に薬価は下がりぎみであります。この点、そうした薬価が下がりぎみなところであるのに、薬価基準というものが三十五年以降そのままであるということは、私たちは納得できないわけであります。まあ新聞紙上その他いわれていることでありますけれども、おそらく三%前後ぐらいは低下しているのじゃないかということで、この三%というものは、数としては少ないわけでありますけれども、一兆をこえる総医療費の三%でありますから、これは無視できない存在だと私は思います。  このようにしてみますと、一方では医療社会化が叫ばれまして、いわゆる国民皆保険になっております。ところが、医療の供給の側と申しますか、医療自体につきましては、もう少し合理的な措置というものが必要であるだろうと思います。全体としての医療政策というものをこの二つの面と申しますか、医療需要する面と、それから供給する面というふうなものを考えてみますと、この両者の間の取り扱いがいわば不平等ではないかという点、この点が気になるわけであります。  以上、社会保障社会開発、あるいは社会保障内部の不均衡というものを指摘しましたけれども、第三点として、政策上の混乱というものは、やはり社会開発自体にも私は見られるのじゃないかという点であります。それは、ただいま中村先生からも御指摘になった点でありますけれども、やはり利子補給制度というものは気になる点であります。公害防止事業団とか、あるいは農地管理事業団とか、中小企業に対する共済事業団とか、あるいは住宅供給公社、こういうものなどがせっかくできようとしているわけでありますけれども、この場合に、従来の出資制度というもののかわりに利子補給制度というものが導入されておるわけでありますけれども、この利子補給制度というものは、はたして返済の予定というものがあるのかどうか、おそらく返済の予定のない支出じゃなかろうかという点であります。  それからもう一つは、借入金がふえますと、どうしても膨張していく性質のものでありまして、こうなりますと、いわゆる財政規模が増大しますし、財政規模が増大しますと、どうしてもやはり財政の硬直性と申しますか、そういうものが出てくるのじゃなかろうか、そうなりますると、日本財政自体の構造上の問題がここで拡大していくのじゃないかという点であります。こういうことでありまして、このせっかくの社会開発自体にもこうした不均衡というものが見出されるわけであります。これは、財政の弾力的な運用のためにも、特に私たちが気にしている点であります。  以上、社会開発のいわば概念のあいまいさからきまして、それに関連する諸政策の推進というものがやや不均衡であるという点を指摘しましたけれども、そのような点からしまして、やはり実施のしかたに一つの無理が生じてきているのじゃないかという点であります。これにつきましては、私は多くを指摘する必要もないと思います。たとえば今回の医療費に関しての職権告示の事例があります。多くを述べません。  それからまた、特に健康保険の改正につきましての審議会に関する諮問その他審議の順序、これが変則的じゃなかったかという点であります。この点につきまして多くを語る必要はないわけでありますけれども、一つのこのようなせっかくの民主的なルールというものが違反される、あるいは変則的な手続というものが行なわれるというふうな状態でありますけれども、他方、たとえば先ほど指摘しましたような薬価基準につきましては、そのまま黙認されている、これこそ政府がその責任において改正することができる事柄じゃなかろうかと思います。  こういうふうなことでありまして、特に国民が懸念している点は、職権告示とか、あるいは行政指導とか、こういう点で、せっかくの法律あるいは民主的ルールというものが乱れがちであるという点であります。この点は、何回も申し上げますように、やはり社会開発なり、あるいはそれを形成する手段内容の体系化とか、こういうことのあいまいさからくる一つの無理だろうと思いますけれども、特に社会保障の分野で、最近私たちの周辺で問題になっている点は失業保険がございます。これは、もちろんまだ芽ばえの程度、あるいはいわば警戒の程度だと思いますけれども、最近特に林業とか、あるいは建設業とか、あるいは醸造業、カン詰め業などの食品工業、そういう職場に働いておられる労働者が、やはり季節労働者ということによって失業保険の給付が非常に規制されている、と言うのは行き過ぎでしょうけれども、困難になっているという点が訴えられております。特に労働力の不足といわれる事態におきまして、失業保険の給付が増大するというのは一つのふしぎでありますけれども、行政指導という形で失業保険にいわば規制が加えられるというのもふしぎの一つだと思います。その点、失業保険におきましても、将来の失業あるいは景気変動を考えますと、必ずや赤字の心配が出てくると思います。もしもそういう心配がございますと、やはりこれは堂々と法律の改正、そういう手続を経て実施してもらいたいわけであります。  こういう点を気にしているわけでありますけれども、特に最後に申し上げたい点は、経済発展しますと、国民の生活にからむ社会問題というものも拡大したり、あるいは深まったりしていくものだろうと私は思います。その点、当然社会的な政策と申しますか、これも複雑化していくわけでありますけれども、その社会的な諸施策、あるいは社会的配慮、そういう面に関しましては、何よりもまず一定の定義と申しますか、事柄の概念と申しますか、これを明らかにした上で発足していただきたい、進めていただきたいということであります。そして、その上で体系的な、あるいは統一的な計画を組み、そして民主的なルールを踏んで推進してもらいたいというわけであります。少し口悪く形容しますと、現在の場合には、社会開発目標だけが非常に空転しまして、その手段内容というものがまだこれに追っつかないでいると申しますか、ばらばらであるということであります。それから社会開発の実質的な母体である社会保障というものが停滞しがちである、この点は非常に重視していいんじゃなかろうかと思います。それから社会開発社会保障というものが、いわば転倒した関係にあるのじゃなかろうかという点であります。そして、そうした転倒したものを実施しようとしているところにやはり無理が出てきているのではなかろうか、こういう点を指摘できるわけであります。このようなことでは、社会保障の他の分野で伝えられます厚生年金の改正なんかにつきましても、私たちは非常によけいな心配をしなければならないわけでありまして、この点、社会保障、特に社会保障の中での社会保険の処置につきましては、国会での善処を切望してやまないのであります。  簡単でありますけれども、私の公述を終わります。ありがとうございました。(拍手)
  6. 青木正

    青木委員長 ありがとう存じました。     —————————————
  7. 青木正

    青木委員長 これより両公述人に対する質疑を行ないます。大原亨君。
  8. 大原亨

    ○大原委員 両先生にちょっと質問いたしたいのですが、中村先生はちょうど勧業銀行で土地の値段等にも深い関係があるところですが、両先生にお伺いしたい点は、一つは、社会保障貯蓄と土地の値段、地価、宅地の暴騰、こういうことが非常に問題になっておるわけですが、日本は、貯蓄率は先進国では世界で一番だという。民間貯蓄活用につきましてお話しいただいたのですが、貯蓄率が非常によいということなんですが、そのことの原因は、やはり社会保障貧困であるということです。生きる上において、あるいは老後において非常に不安が多いから、非常に苦労して耐乏生活で切り詰めてやるという大衆貯蓄が起きておると思うのです。その大衆貯蓄が基礎となりながら貯蓄率が非常によろしい、こういう関係が一つあると思います。  その点と、もう一つお二人の先生に御意見をお聞きしたい点は、一方では、所得倍増政策設備投資中心政策でしたから、物価がどんどん上がっておるわけですが、一方では、貯蓄いたしましても、貯金よりも物価がたくさん上がっているという一つの現象が日本においてはあると思うのです。高度成長政策のひずみの中であると思う。銀行貯金よりも物価のほうが上がっているから、生命保険でも何でも一つの貯蓄ですが、貯蓄すればするほど貨幣価値は下落して損をしておる。だから、一方においては貯蓄はしなければならないけれども、貯蓄に依存しても損するから、投機的な土地あるいは宝石、そういうものに依存をするという気持ちが、ちょっと金を持っているりこうな人にはある。こういうことで土地を買いあさって、土地を投機の対象にする。その中に入って土建屋、大きなブローカーその他が土地を買い占めて利権をあさる。こういう悪循環が、全体でいえば、住宅問題や社会保障の前進をますます妨げておる。私はそういうふうな矛盾した側面があると思うのです。その点につきまして、私は、社会保障貯蓄と地価の暴騰、投機の対象、こういう問題につきまして、銀行協会の代表である中村先生と社会保障の権威である女子大の松尾先生から、率直な政策上の御意見を伺わしていただきたい。
  9. 中村一策

    中村公述人 お答えいたします。  貯蓄率の高いというのは、経済成長が高かったということと、それから戦争で全部の財産を失ったということで、日本は比較的貯蓄率が高いというわけなんであります。そこで、いま先生のおっしゃいました、物価が上がってくれば貯蓄するのはばかばかしいじゃないかという御質問、これが一番のポイントじゃないかと思うのであります。全くそのとおりでございまして、私は、先ほども貯蓄高揚の環境づくりということをお願いしたのでございますけれども、何としてもインフレにならぬように環境づくりをしていただきたいと思うわけでございます。それにつきましては、最近は、土地の暴騰をどういうふうにして押えるとか、その他の物価をどういうふうに押えるとかいうような、いま政府としては物価の高騰に非常に苦心して対策を講じておられるようなわけでございますが、これは全く貯蓄増強環境、そういう方面に向けていただきたいと思うわけでございます。先生のおっしゃったとおりに、貯蓄増強物価と悪循環を起こして——そして、貯蓄のマインドを低下させないようにしていっていただきたいということをお願いしたいわけでございます。
  10. 松尾均

    松尾公述人 確かに生活水準のわりに貯蓄率が高いというのは、これもふしぎの一つでありますけれども、御指摘のとおり社会保障が不備だ。したがいまして、いわば生活自動的な原則によりまして自分で貯蓄をするということで、社会保障の不備が一つの原因だ。これは私も原因の一つだと思います。ところが、やはりそれだけではたして理解できるかどうか。  もう一点は、やはり私は生活上のあせりと申しますか、これは非常に卑俗なことばでありますけれども、たとえば日用品にしましても、盛んなデモンストレーションがあるわけですし、非常に他人に比べまして生活を落としたくないというふうなそうした生活上のあせり、これを私はやはり一つの要因として掲げていいんじゃなかろうか。これはどういうことかと申しますと、やはりこれは、企業の側でもきわめて競争が激しいんじゃなかろうかと思います。そうして、企業と国民生活との距離がきわめて近くなってきているということで、企業の国民生活に対する訴え方も非常に近まってきて、しかもそれが強くなってきている。こうしたことが生活上のあせりとなって反映していると申しますか、もう一ぺん言いかえて申し上げますと、私たちの生活が、昔ならば私たち個人で自由になる時間とか、あるいは領域もあったかもしれませんけれども、いまや全く企業体制と申しますか、そういうものの中に取り込まれているというふうなことからくる生活上のあせり、これに対してどういうふうな処置をするかということが、一つの貯蓄というふうな形であらわれてきているんじゃなかろうかと思います。これは、貯蓄内容を見れば、そういうふうな単なる社会保障の不足だけじゃない、他の判断ができることじゃなかろうかと思います。そういうことが一つと、それからもう一つ、土地とかあるいは宝石その他のいわゆる換物運動みたいなことを御指摘になりましたけれども、これは少しどぎつくなりますけれども、一種のインフレーションみたいな形になりますと、もう少し紋切り的に申しますというと、通貨に対する不安みたいなことじゃなかろうかと思います。その点につきまして、やはり土地にしましても、土地なんかにおきましては、何らかの形で国家が土地を買い占める、と言うとおかしいですけれども、国有にして、そういうところに住宅その他を建設していくというような方向が可能であるんじゃなかろうかという点。  それから社会保障につきましては、やはり先ほども申し上げましたように、単なる医療費保障だけじゃなくして、医療を供給する側に対しましても国家の配慮、これも非常に飛躍したことばを申しますと、国有あるいは国営というふうな医療国営みたいなことも当然考えねばならないのじゃなかろうかと思うわけであります。
  11. 大原亨

    ○大原委員 それから高度、成長設備投資中心だったわけですが、実際にいま必要なのは、やはり住宅とか生活向上させる、社会保障を充実させるというふうなことで堅実な大衆購買力を造成していくことのほうへ政治の重点を移さなければならぬときじゃないか。したがって、たとえば銀行融資なんかにいたしましても、住宅なんかに十分振り向けるというふうなそういう政策。もちろん中小企業設備投資その他生産性の問題はございます。物価の問題と関連してありますが、やはりそういう大衆的な住宅その他に、民間を含めて国の金融政策重点を指向することが国全体の経済を正常な状況に持っていくんじゃないだろうか、こういうふうに私は端的な意見を持つわけですが、中村先生の御意見をひとつ……。
  12. 中村一策

    中村公述人 ごもっともでございます。銀行といたしましても、できる限りその方面へ努力していきたいと思います。これにつきましては、政府のほうもそれにひとつ御協力をいただきたいと思うわけでございます。
  13. 大原亨

    ○大原委員 松尾先生にお尋ねするのですが、社会開発概念が非常に乱れているわけです。かってのいいことで使われていると思うのです。お話しのように、私のほうは若干調べてみたのですが、国連で使われているときには、アジア、アフリカの後進地域の経済発展させる基礎工事として、歴史的には教育や工業能力等について問題にしたわけです。日本には、御承知のようなアジア的な後進性があるから、社会開発ということばを持ってきてもいいという面があるかもしれません。しかし、その社会開発という佐藤さんのことばは、大体佐藤さんが総裁選挙に出られたときに、総裁をキャッチするためにつくられたキャッチフレーズでありますから、ちょっとその点が問題があったわけですが、日本で問題は、やはり高度成長政策で端的にあらわれた資本主義の中における弱肉強食というか、強いところがますます強くなって、弱いところとの間においてひずみや矛盾が出てきておる。それを是正するところに一つの大きな社会開発目標を集中するとするならば、やはり社会保障制度というものが、先生御指摘になりましたように大きな問題になるのではないか。したがって、社会開発は、経済企画庁の社会開発基本構想という、これは閣議決定ではないそうですが、それを見てみますと、大体七つ八つの柱を立てております。それから総理大臣や大蔵大臣等が国会で答弁をしている議事録、演説等を見てみますと、大体三本ぐらい柱を立てておられます。その場合その場合により違いまして、それから、御指摘になったかどうか私記憶に十分でないのですが、先般社会開発懇談会というのを政府はつくったわけです。これは、七月の佐藤さんが総裁に立候補されるときに、そういう閣僚を加えた最高スタッフをつくるのだ、経済企画庁や特に厚生省などはこの中心の官庁になって、いままでよりか面目を一新するだろうというふうな談話があるわけですが、それはともかくといたしまして、社会開発懇談会のメンバーを見てみますと、社会保障制度の権威者というようなものはほとんどおりはせぬわけです。みなほとんど財界の代表です。これは、やはり私はおかしいと思うわけです。ピントがはずれておるのじゃないか。これは、あと機会があれば総理大臣に質問したいと思うのですが、それはともかくといたしまして、社会開発というものは、その概念は、歴史的にはともかく、外国はともかく日本においては、社会開発はどういう点に焦点を合わせるべきか、こういう点でいろいろお話があったわけですが、これは他の方も、いろいろ御見解があると思いますが、先生の御見解をそういう面に焦点を合わせながら簡潔にお話をいただきたい。
  14. 松尾均

    松尾公述人 確かに社会開発ということば、現在使われていることばは、分類しますと、大きくは社会保障的なものと、それからいわゆる住宅とか環境整備とかいうふうな民生投資的なものと、それから教育とか文化とかレクリエーションとか、その他いわゆる人的能力でしょうか、そういうものに関連する三分野に分かれているようであります。しかしながら、社会保障というものはむしろ社会開発に先行してあるべきものだと私は思うわけであります。と申しますと、私たちの生活を見てもわかりますように、典型的には一定の資産の上で一定の貯蓄を持ちまして、そして日々と申しますか、年々の労働所得生活するというのが、これが一つの生活のタイプであります。ところが、近代になりまして、いわゆる生活自助の原則というものが打ち出された。それは何かと申しますと、もはや近代労働者というものは一定の資産もない、それから貯蓄もなくなった。その日その日の賃金で暮らすというのが、これが近代労働者の典型的な生活タイプであります。これを生活自助の原則といっているのではなかろうかと思います。  ところが労働運動史その他を見てみましてもわかりますように、賃金だけではどうしてもやっていけないから、いわゆる共済組合運動その他社会保険というふうな所得の再分配的なものが出てきたわけであります。これは一つの貯蓄に相当するわけであります。病気になった場合に社会保険が給付されるというのは、一つの貯蓄でもって医療費をまかなうということと同じであります。ところがさらに経済発展しますというと、そうした賃金あるいは直接分配と再分配ではどうしても成立できないということで、さらに生活の典型的な姿に戻りまして、資産と申しますか、端的には住宅だと思います。あるいは環境——環境条件環境整備、いわゆる民生投資的なものだと思いますけれども、これまでも国家がめんどうを見なければならないということになったものだと私は思います。それだけにいわゆる住宅政策とか環境条件とか、いわゆる広い意味での民生投資というものは経済発展の中で生み出した当然の産物だと思います。したがいまして、社会開発の固有の中身は何かと申しますと、しかも、これを日本的に社会的な諸政策の流れの中で解釈しますと、やはり住宅環境整備その他の広い意味での民生投資が社会開発の固有な中身であるべきだろうと私は思います。そうしますと、文字どおり賃金によって直接分配を行なう、それから社会保険、社会保障などによるいわゆる貯蓄のかわりとしての広い意味での再分配を行なう、そうして最後に固有なと申しますか、民生投資的な社会開発生活をささえるというような体制に進むのではなかろうかと思うわけであります。
  15. 大原亨

    ○大原委員 それから社会保障の問題で、医療保障の後退につきましていま御指摘になりました。確かにいまの一番大きな問題ですが、その中で御指摘になりました薬価基準の問題があるわけですが、これは、私はぜひともこの機会に十分討議をして政策を出さなければいけない問題だと思う。いまや医療保険で九百五十一億円の医療費の増大、それに加えていままでの赤字の累積、こういうものを薬の一部負担や、あるいは保険料値上げでやろうというふうな形になっておるわけですけれども、これは、御指摘のように大問題であります。しかし、医療保険には各サイドの主張が非常に入り乱れておるわけですが、やはり私は、社会保障の中の二つの柱は所得保障と医療保障である。——その一方の医療保障所得保障とも非常に関係があって、貧乏と深い関係があるわけですから、この問題を基本的にどうするかという問題は、やはり学者や実際家が総力をあげて、総知をしぼってやるべきであろうと思うのです。御指摘になりました薬価基準の問題は、私は全く賛成ですが、私はある病院を調べてみましたら、大体薬価基準はマル公でありますが、そのマル公以下で、大体二割以下で買っている病院が相当多いわけです。二割といたしますと、大体七、八百億円になるわけです。三割といたしますと一千億円をこえるわけであります。今回、政府が中央医療協に諮問いたしました諮問案は総医療費の三%ですから、三百億です。これは空中分解いたしておりますが、とにかく薬価基準の問題は、いろいろな制度上の改正と一緒にぜひとも改正すべきであるというふうに私は考えるわけであります。しかし、これはこれだけではもちろんいけません。緊急是正の問題と一緒に相当恒久的な、総合的な問題をやはり議論すべきだと思うわけですが、私はぜひともこういう点をお願いと一緒に御意見をお聞きいたしたいわけですけれども、今回の医療保険医療費値上げに伴う保険制度改正は非常に大問題だと思うわけです。薬価基準を改定する問題を中心として、医療保険制度的な問題点につきまして、ひとつ簡潔にどういう点とどういう点をこの際検討すべきじゃないか、こういう点で先生の御意見がありましたら聞かせていただきたい。
  16. 松尾均

    松尾公述人 御質問が非常に包括的でありまして、何をお答えしていいかよくわかりませんけれども、一つ二つお答えしておきたいのは、やはり現在の医療保険というものと、いわば健康保険——健康保険ということばは悪いのですけれども、医療費保険と健康保険と申しますか、そういう点ははっきり区別すべきじゃなかろうかと思うわけであります。と申しますのは、医療保険というのは、あくまで私たちがお医者さんにかかる場合の医療費を保障してくれるだけでありまして、私どもの健康自体をこれで保障するわけじゃないわけであります。言いかえますと、広い意味での医療制度、あるいは医療社会化と言ったほうが早いと思うのでありますけれども、医療社会化という場合は、医療需要する側の対策医療を供給する側の対策、両方にメスをふるう必要がある。ところが、医療需要の面では皆保険というような形でかなり社会化されているわけですけれども、医療機関、医療サービスこれ自体につきまして何がなされているかということを、私は疑問に思います。したがいまして、医療制度、あるいは医療機関の社会化というようなものがなければ健康自体の保障というものはあり得ない、こういうふうに私は思うわけであります。その点、あくまで医療保険というものは医療費の保障だということですね。したがいまして、医療自体を前進させようと思えば医療機関にもメスをふるわなくちゃならぬということ、この点はまず言い得るのではなかろうかと思います。これが第一点であります。  それから第二点は、保険料でありますけれども、保険料というものと税金の違い、こういう点は当然念頭に置かなくちゃならぬと思います。もちろん税金といっても非常に大ざっぱでありますけれども、税金は主としてその人の所得能力、いわば応能原則によっているわけだと思います。ところが保険というものは、やはり単なる応能だけでは不十分でありまして、受益君に対する負担と申しますか、応益の原則と申しますか、こういう点を貫かなくてはならないと思います。少なくとも社会保険につきましては、そうした応能原則並びに応益原則、これをいかに貫くかということが大問題じゃなかろうかと思うわけであります。これが第二点であります。  それから御指摘がはずれたと思いますけれども、医療自体への政策、あるいは医療機関への政策としましては、私は何よりもまず経営実態調査というものが、少なくとも二十七年に一回なされたきりだということですね。それ以後はなされていない。しかも三十二年、特に三十六年なんかは、もう三者で十分確約したことだと思います。それがなされていないで、医療側の意見を聞かなければならぬという点はまことに不十分だと思いますので、この点は、医療保険を考える場合に何よりもまず先行すべき事柄じゃなかろうか。  以上、三点を申し上げましてお答えとさせていただきます。
  17. 青木正

  18. 中井徳次郎

    ○中井委員 私、中村さんに、ちょっと二、三点ございます。  先ほどのお話にもありましたが、公債発行のことでございますが、公債発行いたしますと一般的にはインフレの要因になるといわれておるのであります。あれやこれやで佐蔵総理も当分公債発行はしないということをこの委員会でも言明をされたわけであります。しかし、学者のうちには、一般国民から公募をいたしまして、そうして、それでもって公共投資に使う、道路とか住宅とかそういうものの建設に使う、そういうことであるならば必ずしもインフレの原因にはなりませんという説をなす人があるわけでございまして、中村さんも、そういう説があることは十分御案内だと拝察するわけでございます。したがいまして、公債発行論につきましては、いつもそういう議論と両方が予算編成期にはくすぶり始めるわけであります。この点につきまして、実際家の中村さんとされまして、そういう説が学説として正しいと思うかどうかということが第一点。それから、そういうことがたとえ正しいといたしましても、現実の面でいまの金融情勢の中で公募公債などやる、そういう余地があるのかどうか。まあ無理してやればやれないわけではないと私も思いまするけれども、そういう余地があるのかどうか。現実のことを考えてみますると、まあ皆さんが窓口になって引き受けられる、一般から公募する、非常に残ってくるというふうなことが起こってくるのじゃないか、これは、しろうと考えでございまするけれども、私は、ちょっとそんな感じがするのでございます。したがいまして、この点につきましてどういう御判断でありまするか、率直にお伺いをいたしたい。これが第一点でございます。  第二点は、利子補給政策でございます。これは、どうも私は私自身が非常に頭が古いのかもしれませんが、利子補給をする政策というものは、補給をする側から見ましても変な、おかしな考え方でもありますし、実際は、補給などはせずに、もっと利子の安い金を貸すとか、あるいは思い切って無利子のものをなにするとか、あるいは出資でいくとか、そういうふうなことをするのが大筋ではないのか、私は政府の投融資計画を見るたびに絶えずそういうことを思うのであります。どうも最近は少し安易に流れ過ぎてやせぬか、利子補給なんということを非常に安易に、それじゃ利子補給でいこう、民間資金だ、そういうことが経営者の側から見てもずいぶん安易でありまするし、無責任でありますし、利子補給をする側からも、何かちょっとそれじゃこれでやっておこうかというふうな印象で、何か経済の本流ではない、何か途中のちょいとした、どう言いますか、どう表現しますか、ごまかし的な感じを私は実は非常に受ける。そういうことなら、もっと考えて、そういうふうに利子補給をしなければならぬようなものであるならば、これはもう公団なり公社なり、あるいは政府の外郭団体とか、あるいは背たくさんございました半官半民的なものとか、そういうものに思い切ってやるべきではないか。何か不明朗であるし、本流ではない、堂々たる道ではないと、金融関係から見まして、資金関係から見ましてそういうふうな感じがしてなりません。しかしながら、これは同時に諸外国でも各地でいま行なわれておるというふうなことも私も知らないわけじゃないのでございます。この二点につきまして、中村さんの率直なお考えを承りたいと思います。
  19. 中村一策

    中村公述人 公債発行の問題は、各方面からいろいろ議論されているところでございます。先ほども公述の中で述べておきましたように、その環境とか、あるいは条件とか、消化できないような環境のもとにおいてこれを発行することは問題ではなかろうかと思います。ことに民間需要が非常に強いものでございますから、公債発行すると、いまのところ、いまの段階においてはややインフレになる可能性があるのではないか、むしろプラス面よりもマイナス面が多いのではないかというふうに考えるのでございます。まあいろいろ保証債は、これは公債に準ずるものであろうとかなんとかいうような議論もございますし、まあ政府保証債も相当出ているのでございますから、公債発行に踏み切るのはよほど慎重に考えないといかぬのではないかというふうに考えるのでございます。  それから、第二点の利子補給の面につきましては、先ほども公述で述べましたとおりでございまして、この運営についてはよほど今後慎重に扱ってもらいたい。先生の御指摘の点もございますので、よほど慎重に扱ってもらいたいということを公述にも申し述べておきましたとおりでございます。
  20. 中井徳次郎

    ○中井委員 第二段の面、利子補給のことですが、私は、むしろこういうものが毎年毎年だんだんふえてくるというふうなことであるならば、あなたがおっしゃるように、中村さんの立場からはそれ以上おっしゃれないかもしれませんけれども、むしろ政府の出資にするとか、あるいは経営の形を変えて、公社的なものにしていくとか、そういうことにすべきではないかというふうなことを考えるのですが、その点、もう一度お答えいただきたいと思います。
  21. 中村一策

    中村公述人 公社、公団とかおっしゃりますけれども、こういうものをたくさんつくりますと、また財政の膨張にもなることでございますので、先ほど申し上げたことを繰り返すようですけれども、何かもう少し慎重に考えていただきたいということだけ申し上げておきたいと思います。
  22. 青木正

    青木委員長 川俣清音君。
  23. 川俣清音

    ○川俣委員 中村公述人にお尋ねをしたいのですが、実はもっと率直な御意見があるのじゃないかと思っておったのです。というのは、貯蓄のことについて銀行が非常に関心を持つことは当然だと思えまするけれども、私、いま非常に危険に感じておりまするのは、日常生活品がこう値上がりしてまいりますると、貯蓄どころではなしに、預金の引き出しが旺盛になってくるのじゃないか、そうすると、銀行は破綻の寸前にきているんじゃないかという危険を非常に感ずるのです。しかし、そういうことをここで言うことは危険なことでありまするから、避けられたのかもしれませんけれども、銀行にとっては非常におそろしい状態ではないかと私は心配するのですけれども、銀行はあまり御心配にならないのですかどうか、この点だけははっきり聞いておきたいと思うのです。
  24. 中村一策

    中村公述人 ただいま御指摘になりましたように、貯蓄を高揚する環境というものは、何としても物価があまり上がり過ぎると、貯蓄するより何か買ったほうがいいじゃないかというような傾向になってまいりますので、これはなかなかむずかしい問題じゃないかと思うのです。もっとも、貯蓄増強ということと、物価が上がったから自分が貯蓄しないという、そういうあまり端的なものでもないじゃないかと思いますけれども、そういう傾向がございます。だから、先ほども申し上げましたように、貯蓄高揚の環境を十分に考えてもらいたい。先ほど、銀行がどうかということですが、そんなことはないようにわれわれはいろいろな手を使って貯蓄増強に全力を尽くしてやりたいと思いますから、どうぞそういう意味において、環境の問題についてひとつこの上とも御支援をいただきたいと思うわけでございます。
  25. 川俣清音

    ○川俣委員 これは、松尾さんにもお尋ねしたいのですが、主食をはじめとして生活必需物資がかくも値上がりしてまいりますと、これは社会保障の問題の前に片づけなければならぬ問題だと、私はそう思うのです。そういうことで、水道料金の値上げであるとか、あるいは主食の値上げというものは社会保障の前に片づけなければならぬ問題だと、私はそう思うのです。いま申し上げたように、最近の状態を見ると、生活必需物資の購入のために預金の引き出し等が旺盛になるのじゃないかとさえ思っておるときでございますから、これについては相当警戒信号を——社会保障を講ぜられておる先生にしてみても、この点が非常に気になることではないかと思いますが、この点をひとつお尋ねしておきたいと存じます。
  26. 松尾均

    松尾公述人 ただいまの御指摘の物価問題でありますけれども、物価問題と申しますと、おそらく通貨価値と同じでありまして、あらゆる政策の基礎だということは私申し上げるまでもありません。特に物価がこういうふうに上がりますと、社会保障の名目的なものと実質的なものとの開きというもの、これはもう私たち社会保障関係者以前の問題でありますし、あるいはその基礎の問題であります。物価問題、特に通貨問題、これにつきましては最も基礎となるものであります。ただこれに関連しまして、最近一つ気に病んでいる点は年金であります。特に健康保険、失業保険というようないわゆる短期保険の場合よりも、年金の場合は長期保険でありますし、なおさらこれが気になるのでありますけれども、年金の給付を定期調整というようなお話も新聞紙上で伝えられておりますけれども、はたして定期調整といっても毎年おやりになってくださるのか、あるいは二十九年、三十五年というように、五、六年に一回やってくださるのか、その点も不明でありますし、むしろ思い切りまして生計費か何かにスライドするというような形をとらざるを得ないのじゃなかろうか、社会保障関係者としましてはそのように感じております。
  27. 青木正

    青木委員長 加藤清二君。
  28. 加藤清二

    加藤(清)委員 私はこの際、中村さん、松尾さん御両氏に対しまして、金融正常化、特にそのうちで最たるものの歩積み、両建て、この件について、お教えを願いたいと思うわけでございます。もとより金融の正常化ということは、大企業設備過剰のブレーキになることでもございまするし、中小企業の倒産対策のきめ手にもなることだと存じます。ところが依然として歩積み、両建てなる悪の花が絶えません。おそらく後世の歴史家はこう書くでしょうね。大企業がつくったところの過剰投資、これの対策としてとられました金融引き締めは歩積み、両建てという名の罰となって、中小企業のみに課せられた。その罰であり重税であるこの歩積み、両建ては、日本経済史上最悪の花であった。かくして上に厚く下に薄い時の政治は、中小企業を史上最大の倒産に追い込んだ、まあ後世の歴史家は必ずこう書くでしょう。そこで、大臣に私はこの問題の実績を尋ねましたところ、だいぶ成績が上がった、改良されつつある、こういうことでございました。ところが両先生、ぜひ聞いてもらいたい。公取の調査によりますと、逆な結果が出ておる。またわが党への陳情、苦情ですね、これにはひどいのがある。枚挙にいとまがないんですね。そのひどさの一例を申し上げますと、政府銀行である開銀さんでさえも、機械工業振興法によってひもつきで貸されたところの金が窓口規制によってゆがめられて、貸されていないという問題がある。全額貸されていないという問題がある。中小企業金融公庫の別ワクで持っていかれたその金が、某市中銀行の代理窓口に行きますと、一千万の金が九百五十万歩積み、両建てさせられて、五十万しか貸されていない。そこで、金利はというたら一千万取られておる。こういう問題がございます。枚挙にいとまがないのです。全く悪の花の最たるものでございます。そこで、今後これが一体どうなるだろうかという見通し、これも承りたいことです。今後一体この見通しがどうなるか。ところが私ども社会党の政調会の調査によれば、中小企業生産設備生産的な装備の引き上げが必要である、設備改善が必要である、すなわち資金の需要が増大する、こういうことになりますると、ケインズを借りるまでもなく、ヒュームやフィッシャーの説に従っても、なお歩積み、両建ては一そう激化する、こう見なければなりません。そこで、これに対する対策でございますが、一体政府としてはどのような対策を立てたならばよろしいかということです。これが第一の質問でございます。政府としてはこれに対してどのような対策を立てたらよろしいか、これを両先生にお教え願いたい。  そこで、お教え願うだけではいけないから私のほうの案を提案してみます。それを批判していただいてもけっこうです。すなわち、中小企業向け政府資金を増大すべきである、第一です。第二は、貸し出しの期限を延長すべきである。第三は、金利を引き下げるべきである、これがわが党の提案でございます。政府のとるべき態度、すなわち政府資金がどれだけ回っているかと申しますと、先ほど中村さんの公述にもありましたように、全体需要の八%しか政府は持っていない、九二%は町金融にゆだねられている。大企業のそれと比較してあまりにも少な過ぎる、これが右へならえになりまして、市中金融もまた年々歳々その中小企業に対する貸し出しの率が低下の一途をたどっている。このような状況では、需要と供給の関係から、歩積み、両建てがふえるにきまっているのです。  次に期間でございますが、最高が五年です、この間の大蔵大臣との質疑応答によって。最高が五年、普通は二年から三年なんです。これで減価償却がはたしてできるでございましょうか。農林その他では十五年、二十五年というのがある。大企業も、十五年というのは幾らでもある。にもかかわらず、中小企業だけは最高が五年で、平均三年なんです。こんなことで償却ができるとは思えません。  次に金利でございますが、一番有利なので九分何ぼなんです。ところが、大企業は六分以下のが幾らもあって、なお足らぬと利子補給ということがやられておる。大企業のそれと比べると、あまりにも中小企業に対する金融は酷に過ぎているではないかと思われるわけでございます。せめてその資金量を、商工中金の北野さんは二〇%にしてもらいたいと言っておられますが、私どもは、大企業ととんとんにすべきである、中小企業設備増大がこれから必要なときだから、むしろとんとん以上の率にすべきである、こう考えているわけでございます。御両者の御意見を伺いたい。
  29. 中村一策

    中村公述人 歩積み、両建ての問題は、長い間非常に論議の的になっていたのでございます。昨年の六月の二十五日には、衆議院の大蔵委員会で、不当な歩積み、両建て預金の規制に関する決議が行なわれました。これに基づきまして、大蔵省から銀行協会に歩積み、両建て預金の自粛基準の示達がありましたので、協会といたしましては、この趣旨にのっとりまして、六月の三十日に新たに自粛措置をきめまして、目下その解消につとめているところでございます。銀行協会の自粛の内容としましては、昨年の五月末現在で集計した基準で、まず自粛対象預金の貸し出しに対する割合をおおむね一年後にゼロにすることを目途として、とりあえず半年後の十一月末までに半減させることになっております。その実績を見てまいりますと、先ほど先生も言われておりましたように、全国銀行で昨年五月末で三・五%が、十一月末で〇・九%になっております。約四分の一に減っております。今後は、この五月末までにこれをゼロにするわけでございます。この前の臨時国会で加藤先生から、歩積み、両建て預金の解消は実質的にあまり進んでいないではないかというような御指摘がございましたので、協会の理事会におきましても私から再三、各行に協力を依頼しておりまして、また、各行ともそのつもりでございますので、もうしばらく時間をかしていただきたいと思うわけでございます。今後はどうするかといいましても、きょうもまたその御指摘がございましたから、一そう強くこれを要望してまいりたいと思います。  なお、先ほどの中小企業に対する金利の問題とか年限の問題とか、こういうことにつきましては、この間も一応、資金量と金利は特段な配慮をしろというように、各支店に徹底しているわけでございます。また、年限などの問題についても、普通銀行としては預金財源になるものでございますから、そう長い年限のものはできませんですけれども、一応そういう点についても十分に研究さしていただきたいと思います。
  30. 松尾均

    松尾公述人 私は、中小企業の専門家ではありませんから、前半の答えはできませんけれども、中小企業に対しましては、中小企業基本法というりっぱな法律がございます。これを中小企業のためにと申しますか、中身はやはり近代化立法だと思いますけれども、近代化政策として進めてもらいたいということであります。しかしながら、実際は、これが中小企業のための、中小企業近代化するというような運営になっていないんじゃないか。非常に抽象的なことばではございますけれども、この近代化立法がいわば——これは私の常に使っていることばですけれども、近代化じゃなくして、いわゆる現代化立法になってしまっているということであります。そのために、せっかくのこの中小企業近代化政策が、その反対の側ではますます生産の集中を呼び起こしているということであります。したがいまして、生産社会化が進んでいるわけでありますし、その谷間で倒産が起こっているわけでありますけれども、文字どおり生産社会化が進みますと、他方では、中小企業に対するいわゆる社会的配慮というものが必要だと思います。せめて失業保険の五人未満適用なんかは一日も早く整備してもらいまして、生産社会化に対応しまして、いわゆる生活社会的配慮、これは十分推し進めていただきたいと思います。
  31. 加藤清二

    加藤(清)委員 次に、金融の正常化に対する政府の指導の方針にあやまちがありやいなやという問題でございますが、どうも政府は、質を問題にせずに、量を問題にしていらっしゃるようでございます。その預金高の高きをもってたっとしとなす——きわむるをもってたっとしではない、逆をいっていらっしゃるようでございます。たとえて申しますと、その十二大都市銀行——お宅の協会のそれでもそうですが、預金高の高いものに対して、高き順にランクをつくってこれにほうびを与える。褒賞制度が行なわれる。すなわち、今度新しくできた公団の資金、これなども、高いところ、高いところへとそれをまかせる。こういう褒賞制度、ここに間違いがあるのではないか。  二番目には、相互銀行以下の零細金融機関に対しては、早く大きくなれ、大きくならなんだらちょちょ切るぞと、まるでサルカニ合戦なんだ。合併させるぞよ、店舗の許可も地域の拡大も、全部預金高の高き順にふやしていく。地域性あるいは必要性などの考慮は一向に払われていない、こういう指導の方針である。これがだんだん行き過ぎまして、政府が入札する土木建設の入札費まで、高いほうがよろしいといって、北陸では、この間九頭龍川なんか六億余も高いところへ入札させるという、こういうやり方が間違いではないかと存じますが、協会としては、こういうあり方についてどうお考えでございましょうか。
  32. 中村一策

    中村公述人 経営は、何といたしましても、ただいま先生のおっしゃいましたように、量も大事ですけれども、同時に質の面も非常に大事なものでございます。最近の政府の指導も、量ばかりではなくして、質の面についても非常に重視して指導をしております。それでひとつ御了承願います。
  33. 加藤清二

    加藤(清)委員 もうあと二点でなんでございますが、銀行側それ自体も、ひとつお考えおき願わなければならないではないかという問題がございます。  その第一は、先ほどもちょっと触れましたが、中小企業に対して選別融資を行なう。特に今度は、通産省もそういう指導方針のようでございます。その結果、系列傘下はよろしゅうございますけれども、特にまた銀行系列傘下はよろしゅうございますが、それ以外は極度に制限をする。その結果は、中小企業に対する資金貸し出し率が低下をしておるという問題、同時に、中小企業もだんだん大きくなってくる。ところが、貸し出し限度額というものをつくって、からだが大きくなったにもかかわらず小さな着物を着せておる。からだはおとなになったのだけれども、三つ身や四つ身の着物を着せておる。だから破れる、倒れる、こういうことにも相なるわけでございます。そこで、その問題については一体どうお考えか。同時に、もしほんとうに勇気があって歩積み、両建てをいけないからやめさせるんだということになるならば、私は試案を提出してみたいと思います。あくまで社会党試案でございます。しかし、その試案は、公取などではたいへんな賛成を呼び、中小企業の借りる側では大賛成でございます。これは、与党のお方ともいろいろ折衝し、相談していることでございますが、与党の中にも賛成がずいぶんあるのでございます。その問題は何かといえば、第一、歩積み、両建て預金が、あえて数字をあげることが必要ならば、それは許しましょう。しかし、その場合の利ざやかせぎをやめてもらいたい。つまり歩積み、両建てした場合の預金の金利、貸し出しの金利、これは正常でないから、つけさせない。利ざやかせぎをやらせない。これをやったら一ぺんにとまるのです。信用補完というのが名目でございますが、そうじゃない。金利を余分にかせぎたいのです。百万円ほしいところを二百万円貸して、二百万円の金利が取りたいのです。そこに問題がある。だからこれをやめてもらえるかどうか。  第二、しからざれば、公取の言う特殊指定はいかがでございましょうか。大蔵省のなわ張り根性にまかせておいてはなかなか直らない。  三番一の提案は、苦情処理機関がいま金融機関の中にございます。しかし、この機関の機能と申しましょうか、効果は、終戦直後、国内で横着したアメリカの兵隊をアメリカの機関が裁判したと同じ結果になっておる。さっぱり効果があがらない。みんな逃げていってしまう。おそれながら、おそれながらと、よう申し出ない。きのうの学者諸公もそれを言うておられた。真実を申し出ることができない。それではいけないから、中小企業がほんとうに真実を語って、その苦情を処理するには銀行以外の場所に処理機関をつくる、このことのほうがより適切ではないか、こう思われまするが、これについてはいかがでございましょうか。
  34. 青木正

    青木委員長 加藤委員、十二時を過ぎておりますので、簡単に願います。
  35. 中村一策

    中村公述人 歩積み、両建ての解消、自粛につきましては、先ほど申し上げたとおりでございますが、金利の引き下げにつきましては十分に努力しております。また、中小企業貸し出しの比率が下がっているのではないかというような御質問もございましたけれども、これは、昨年度は証券対策に関する融資も相当ございましたし、また、その間に卒業生もございまして、そういうような関係で、多少そういう率の下がった点がございます。  それから、問題の特殊指定と苦情処理機関の点でございますけれども、特殊指定は、私のほうといたしましては、何でこれを避けてもらいたいかと申しますと、まず第一は、特殊指定を受けますと大蔵省と公取の二元的な監督を受けるというわけでございまして、いろいろ問題があるのではないかということ、それからまた、歩積み、両建て預金に一定の基準や規則を設けるといたしましても、内容は千差万別でありまして、金融取引の実情に即した妥当なものがなかなかきめられないのではないかというようなことと、それから第三としましては、金融機関がここで特殊指定を受けますことは、信用上、また対外的に見ましてもぜひ避けてもらいたいということで、今日まで何とかして自分たちが自主的にこの解消にいま努力しているわけでございます。協会としましても、苦情受付なども設けましてやっておるのでございます。そうして、公の苦情処理機関はどうだというようなお話もあるけれども、いま一生懸命で自分が自主的にこれをやってみようという気持ちでやっておりますから、もうしばらくこれからの実績を見ていただきたいと思うのでございます。
  36. 加藤清二

    加藤(清)委員 最後に、一つ抜けた点がございますので……。歩積み、両建てをさせた場合に、貸し出す金利は日歩一銭五厘という限度がきめられております。それを一銭五厘を取ってはいけない、ゼロにしなさい、ゼロがいけないなら一銭もとってせめて五厘くらいにする、つまり歩積み、両建ての利ざやかせぎのうまみをずっと逓減させればこれがなくなるのではないか。現在の大蔵大臣の指令によれば、一銭五厘ということになっているはずです。あれをぐっと五厘引き下げるとか、一銭引き下げるとかいうことです。
  37. 中村一策

    中村公述人 御指摘の点は、この前の自粛措置によりまして、金利は差がないようにしていると思うのでございますけれども……。
  38. 加藤清二

    加藤(清)委員 そのとおりです。銀行局長の指示によるとそのとおりなんです。ところが、その具体的に行なわれておる事実はそうでないということを私が指摘をしているわけなんです。  それでは、あまり時間をあれしても申しわけありませんから、最後にまとめてお尋ねいたします。  不渡り手形、不良手形は刑罰に処すると大蔵大臣は言いましたが、この一年間、一つもその実例があがっておりません。にもかかわらず、中小企業倒産の発端は、みなほとんど不良手形でございます。それから連鎖反応でございます。この問題についてきめこまかくお尋ねしたいのですが、時間がございませんから、これを今度おたくのほうで、統一手形の用紙をあれされるはずでございます。そこでぜひひとつ守っていただきたいことは、発行期日を必ずつけさせる。当然のことなんです。そうでなかったなら、これは通用しないはずだ。それが全部いま横行しておる。同時に、発見される場所、六十日以上の不良手形が発見される場所は全部銀行なんです。そこで、これをチェックなさる場合に、その金利を、下請代金支払遅延防止法に従って、六十日以上のを発見した場合には、その割り引き料は振り出し人に持たせる、こういう問題、これがそのポイントだと思います。そこで、それを様式を変えられるにあたって念頭に置かれたかどうか、実行に移されるかどうか。  同時にもう一点、別な問題ですが、今度課税方式が変わりました。預金の金利に対する課税が、五%から一〇%にはね上がったんです。ここから吸い上げられる金が二百億の余あると大蔵大臣説明しておる。これは減税というたてまえから言ったらどうもおかしい。同時に、配当利子の分離課税と比較いたしますると、ここにたいへんな問題が出てくる。きめこまかくやりたいが、それができない。簡単でよろしゅうございますから、これについての御意見をお漏らし願い、それをやがてこの場のまた討議のたたき台にしたい、かように思うわけでございます。
  39. 中村一策

    中村公述人 御指摘のように、振り出し日のない手形が相当ございます。これは、サイトの長いものを隠すための手段として用いられているのもあるようでございます。しかし、先ほどの下請代金支払遅延等防止法にきめられているわけでございますけれども、金融機関といたしましても、はっきりつかみにくい実情もあるのでございます。もちろん振り出し日のない手形は、割り引き対策としては好ましくありませんから、金融機関としては極力これに注意いたしまして、振り出し日を入れていただくようにしておるのでございます。  それから預金金利分離課税の問題の、五%を今度一〇%にする、これは私も貯蓄増強の必要ということから、その存続を強くお願いしておったのでございますけれども、いろいろ税の体系とかその他から、非常に努力していただいたらしいんですが、結局そういうことになったのでございます。配当の問題につきましては、何としてもこれからは、供給と同時に需要を喚起しないと証券市場というものは明るくならぬということにおきまして、配当の優遇措置ということはけっこうじゃないかと私は思います。ただ、五%が一〇%となったのはまことに残念でございますけれども、しかし、非常に御努力されて結局これはこうなったんだから、この前提において一生懸命で預金を集めていきたいと思います。どうぞひとつよろしくお願いしたいと思います。
  40. 青木正

    青木委員長 次に、永末英一君。
  41. 永末英一

    ○永末委員 三点、中村公述人に伺いたいと思います。  第一は、政府保証債性格をどのように判断しておられるか。私どもは、政府が公社、公団を乱設しまして、それに政府保証債発行する、あなた方のほうの銀行は、シンジケートでこれをお受けになる、しかも、その最終的な結末が、もし銀行が保有しているこの政府保証債を担保にして日銀が貸し出しをする、こういうぐあいになるといたしますと、名前は公債ではございませんが、いまやられている政府保証債経済的機能は、まさしく公債そのものだとわれわれは判断するのでございますが、銀行とされましてはどういうぐあいにこの性格を御判断になっておるか、御意見を伺いたいと存じます。
  42. 中村一策

    中村公述人 政府保証債は、ただいま御指摘がございましたように、公債と同じじゃないかというような御意見もあるのでございますけれども、私は、そうではないので、公債に準ずる性格は持っておりますけれども、赤字公債とは違うのでございまして、公債とは違うものだという考えを私持っております。
  43. 永末英一

    ○永末委員 私が伺いたかったのは、最終的に銀行が保有する政府保証債が担保になって日銀が貸し出しをする、そうしますと、結局これは通貨の増発になり、赤字公債と同じ役割りを果たす、こういうことになりはしないか、こういうことを銀行としてはどうお考えかということなのです。
  44. 中村一策

    中村公述人 オペレーションの政策によりまして買い上げられておりますけれども、日銀の買い上げ対象といたしましては、発行後一年を経過したもので、しかも償還期限より一年以上前のものということに限られておりまして、その点は扱いにおいて公債と違っておるわけでございます。
  45. 永末英一

    ○永末委員 期限の扱いは違うけれども、最終的な機能は同じじゃないかと私は思いますが……。  次に、この設備投資が行なわれましたときに、いわば銀行金融の本質は、私どもは短期金融だと思うのです。ところが、日本の資本市場がはっきりしていませんために、いわば長期の資金を必要とすべき設備投資に対して短期の銀行金融がまかなっていく、それが金利負担の増大となって、現在の株価の低いというのは、いわばその面からくるところの収益力が下がった点にあるのではないか、こう思うのでありますが、一体これは、勧銀の頭取としてのあなたに伺いたいのでありますが、なぜ日本には長期信用というものがもっと確立し得ないのか、これがもっと確立しておるならば、いままでのような混乱を来たさずに、もう少し安定した方向が金融市場としてできるのではないか。もちろん公社債の市場の整備、育成ということもございますが、長期信用体系の確立という点について、ひとつ問題点をこの機会にお聞かせ願いたいと思います。
  46. 中村一策

    中村公述人 全くそのとおりでございまして、理想的に参りますと長期、短期というものをはっきり分けて、そうして融資をしていくのがたてまえでございます。現在は長期信用機関、興銀さんとか長期信用銀行さんとか、または不動産銀行さんだとかいう機関がございますけれども、それではまだ目下のところ十分な資金量がございませんので、それを補完する意味もございまして、市中銀行でその長期の資金を扱っているわけでございます。おっしゃるとおりでございます。
  47. 永末英一

    ○永末委員 最後にもう一点伺いたいのは、先ほど配当分離課税について望ましいかのごとき御意見がございましたが、利子分離課税が行なわれておるから、今回政府はそれと均衡をとるような意味合いで配当分離課税をやろう、こういうのでありますが、私どもは、この配当分離課税というものが実際に非常に影響するのは、僅々七千人くらいの配当所得者には益がございますが、一体それによって起こる弊害は、五十万円以下の銘柄を持つ株式所有者を的確に把握することができない、つまり、いわばやみの金が流れてくる、やみの金を造成させる、こういう非常に金融市場全般としましてわけのわからぬ金が流れてくる、こういう結果が出てくると思うのです。銀行側としましては、すべての資金の流れというものを把握した上で金融に対するかまえはできると思いますが、一体こういうわけのわからぬ金をつくるということに御賛成でしょうか、ちょっと御意見を伺いたいと思います。
  48. 中村一策

    中村公述人 わけのわからない金をつくることに賛成かどうかというような御質問でございますけれども、それは決して賛成しているわけではございません。ただ、先ほども申し上げましたように、何としても現在の資本市場の育成、証券市場の育成というような問題については、需要面から何とかしてこれを考えなくてはならぬということから、この配当優遇ということが出てきたものと私は考えております。
  49. 青木正

    青木委員長 以上をもちまして、両公述人に対する質疑は終了いたしました。  中村松尾公述人には、御多忙のところ長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとう存じました。厚く御礼申し上げます。(拍手)  午後は一時より再開することといたします。  なお、理事の方に申し上げますが、休憩後直ちに理再会を開会いたしますから、理事の方は委員長室にお集まり願います。  暫時休憩いたします。    午後零時二十二分休憩      ————◇—————    午後一時六分開議
  50. 青木正

    青木委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  昭和四十年度予算についての公聴会を続行いたします。  本日午後御出席公述人は、関西経済同友会代表幹事日向方齊君、東京大学教授坂本義和君であります。  この機会に御出席公述人各位にごあいさつ申し上げます。本日は御多忙中のところ御出席をいただきまして、まことにありがとう存じます。厚くお礼申し上げます。御承知のとおり、国の予算は国政の根幹をなす最重要議案でありまして、当委員会といたしましても連日慎重審議を続けておるわけでありますが、この機会に各界の学識経験豊かな各位の有益な御意見を拝聴いたしまして、今後の予算審議の上において貴重な参考といたしたいと存ずる次第であります。何とぞ各位におかれましては、昭和四十年度の総予算に対しましてそれぞれ御専門のお立場から忌憚のない御意見をお述べ願いたいと存ずる次第であります。  御意見を承る順序といたしましては、まず日向公述人、続いて坂本公述人の順で、おおむね三十分程度において一通り御意見をお述べいただきまして、その後公述人各位に対し一括して委員からの質疑を願うことにいたしたいと思います。  なお、念のために申し上げますが、衆議院規則の定むるところによりまして、発言の際は委員長の許可を得ること、また、公述人委員に対しまして質疑をすることはできないことになっておりますので、この点あらかじめ御承知おき願います。  なお、委員各位に申し上げますが、公述人各位に対し御質疑のある方は、あらかじめ委員長にお申し出くださるようお願いをいたします。  それでは、まず日向公述人から御意見を承りたいと存じます。日向公述人
  51. 日向方斉

    ○日向公述人 皆さま、私日向であります。このたび私見を述べる機会を得ましたことをまことに光栄と存じております。関西経済同友会代表幹事といたしまして御指名を受けたのでありますが、私、関西経済同友会基本的考えにつきましては十分了知しておりますが、これから申し上げる意見の一々につきましては、同会の承認を得たものでありませんから、一応私個人の意見として御聴取願いたいと存じます。また、経営者としての率直な意見をそのまま申し上げて参考にしたいと思いますから、もし失礼に当たることがありましたら、ひとつ御寛大な気持ちをもって御聴取いただきたいと存じます。  まず最初に、現在経営者が最も希望することは企業減税でございます。今回の減税案によりますと、法人税率は一%引き下げでありますが、これではわれわれの希望とは全く比較にならないのであります。一方、輸出所得の控除の廃止は、輸出産業にとっては相当の増税となります。例を私どもの会社にとってみますと、半期約八百億円の生産をして二百億円の輸出をしておりますが、輸出所得控除額廃止によりまして約三百億円の増税になります。一方、法人税一%減税は、いろいろのものを差し引かれまして二千万円にしかなりません。また、ドイツでは、輸出に対しまして国内の取引高税を払い戻しておりますが、この税率は四・一八%から六・六八%の取引高税でありまして、それをかりに五%としましてわが社に適用してみますと、十億円の減税になるのであります。こういう点だけから考えましても、わが国の輸出競争力に大きく響くというふうに考えられます。私は、さしあたり配当金に対する課税を、ドイツと同じに一五%、現在では二六%でありますが、一五%に引き下げることを提言いたします。わが国の企業は、外には国際競争があり、うちには労働攻勢によって、利益率は年々低下し、社内留保を多くすることは事実上不可能であります。したがって、株式資本を増加することによって資本構成を是正するほかはないのでありますが、株式による資金調達は、借り入れ金によるよりも、一割配当を前提にしまして一・六九倍という高い資金コストになりますので、勢い借り入れ金に依存する場合が多くなります。わが国の企業の資本構成は年年悪化しまして、現在では大体資本一対借り入れ金四くらいになっていると思うのでありますが、外国では、西独においては資本金一対借り入れ金二になるというので心配いたしておりますが、英米では資本金三対借り入れ金二というのが普通であります。世界の奇跡といわれるわが国経済成長のにない手である企業の体質が年々悪化するということは、まことに皮肉なことでありまして、この矛盾を解決し、資本充実をはかるためには、さしあたり配当軽課を強化するということが一番適切であると思います。私は、わが国も西独と同様、配当に対する課税を一五%にしていただきたいと強く希望いたします。もちろん、これには、日本、ドイツの税制の相違や、その他いろいろと問題はあると思いますが、これは、大局的に考えまして、現在の配当軽課措置強化するんだというふうに考えていただけば、簡単に片づくと思います。  一体に、税務関係者の考え方が、税務の理論にとらわれまして、税の目的がどこにあるかを見失いがちであるというのが、われわれ財界人の通説であります。税の目的は、税を取ることではなくして、国民経済の健全な発展をもたらすことであり、その意味では国家の経済政策と表裏一体をなすものでなければならないと思うのであります。また、税制審議会なども思い切って改組いたしまして、広く納税者の声を謙虚な気持ちで聞きまして、国民経済の健全な成長に沿うような税制改革を行なうことを強く希望いたします。  次に、政府の合理化でございますが、民間企業は、国際競争に対処すべく合理化に血のにじむような努力を重ねております。わが国製鉄業全体としましても、年々生産性向上しておりますが、政府事務との比較のために、私どもの会社の本社、支社の管理部門の生産性向上をとってみますと、十年間に五倍以上の生産性を上げております。最近二カ年だけでも八三%の生産性向上いたしております。政府におかれましても、こうした合理化の努力がはたして行なわれておるであろうか、私ははなはだ疑問に思います。中央官庁はもとより、地方自治体においても、ぜひとも合理化を行ないまして、ジョンソン大統領の、一ドル多く使うときにはそれだけの利益を国民にもたらすという、そういうような努力をお願いいたしたいと存じます。今回の予算も、本年度はたいした増加ではないが、来年度以降には行政費の増加が相当重なるというように聞いておりますが、それならば、一方において不必要なものを思い切って縮小していただきたいと思います。  また、佐藤さんを委員長とする臨時行政調査会でありましたか、この答申も出ておるようでありますから、これを直ちに実行に移していただきたいと思います。いままでも、いろいろな調査会等が設けられまして答申が出ましても、なかなか実行に移らないのが実情であったと思いますので、今回の行政調査会の答申は、ぜひとも実行に移していただきたいと思います。もし実行に移さなければ、委員会を設けること自体が非能率化であると思います。しかし、私はここで直ちに大規模な行政整理を行なうというようなことを希望するものではありません。少なくともわれわれがやっておるような、原則として減員の不補充を行なうというような手法をもちまして、不要部門の人員を拡充部門のほうに移しまして、そして節約した予算をもって官吏の待遇改善の道をはかったらいかがであるかと思うのであります。私の調べによりますと、わが国の官公吏及び公社の従業員数は、各国に比較しまして多いように思います。でありますから、いまから十年計画くらいをもちまして、中央地方の官庁の能率増進をはかっていただきましたらいいのではないか、かように考えます。  また、この予算によりますと、今後公社とか事業団の数などもふえてくるようでありますが、一方、公社の中には、資本を株式にいたしまして公開して、民間企業にしたほうが能率も上がり、製品も安くなり、従業員の福祉向上にも役立つのではないかと思われるものがあります。たとえば専売公社などは、株式会社に改組いたしまして、二つ以上の複数の事業会社にして、競争さしたほうが能率も上がるのではないか、消費者のためにもいいのではないか、また、それが繁栄すれば税収も得られるのではないか、かように考えるのであります。  いずれにいたしましても、政府の事業は、政府でなければならないという事業に限りまして、そして、不要不急といいますか、純政府事業でないものはどしどし民営に移しまして、政府の合理化を行なっていただきたいと思うのであります。  また、府県制度も、いまから百年ほど前にできたものがそのままで今日の状態にあるということは、非常に根本的に問題があるのではないかと思います。申すまでもなく、今日の府県制度ができた時代と、今日の交通、通信の発達の度合い、あるいは経済地域の拡大などから考えましても、当然に府県の統合が行なわれてしかるべきでありますが、これがなかなか行なわれておりませんのは、まことに遺憾であると思います。私は、すみやかに府県合併の促進をもたらすような法律をつくりまして、これを促進することを希望いたします。地方によりましては、府県合併の機運も醸成せられておる地方もありますので、この際立法化に踏み切ることを切望いたします。  ただし、この場合にも、一挙に行政整理をするとかいうような必要はないのでありまして、経済の発達の速度に合わせまして徐々に改廃を行なっていけば、かつての郡制度を廃した場合と同様に、きわめて順調に進むことができる、かように考えておるのであります。  また、最近、行政官庁と金融界との協調によりまして、選別融資を行なうのだというような話が伝えられておるのでありますが、こういうことからして官僚統制が再現するようなことになりはせぬかというような懸念もありますので、この点も十分御注意いただきたいと思います。言うまでもなく、自由主義経済下においては、企業の責任は企業自体が負う以外に責任の負う方法はございません。借金するほうも金を貸すほうも、それぞれ自己の責任において行なうものであります。もちろん、開発銀行とか輸出入銀行とか、国策銀行が政府の方針のもとに金融を行なうことは当然でありますが、民間金融機関あるいはその集団の行なう金融、並びに民間事業が行なう借り入れについては、あくまでそれらの企業の自己責任において行なうことを根本原則といたしますので、この根本原則を厳守するよう特に御留意願いたいと存じます。政府機関が経済情勢の予測など啓蒙的活動を行なうことはまことにけっこうでありますが、金融そのものに対しては、直接・間接の別なく、何らかの圧力を加えることは絶対に避けていただきたいと存じます。もしその必要があるならば、議会の承認を得た法律の根拠に基づいて行なうべきでありまして、そのことは法治国といたしまして当然のことでありますが、往々にしてその区別が判然とせぬ場合があり得るので、特にこのことを申し上げまして、行政官庁のあり方を十分御監視いただきたいとお願いする次第であります。  次に、労働問題でありますが、最近労働組合において欧州並み賃金の獲得ということが言われておるのでありますが、これには私は絶対反対であります。御承知のとおり賃金水準は、その属する企業の負担力の範囲内、あるいは広く国民経済力の負担力の範囲内において維持向上すべきものであると思います。わが国の国民所得はまだまだ低くありまして、英国、ドイツなどと比べますとまだ半分以下であります。イタリアに比べましても七〇%に達しておりません。政府のいわゆる中期経済計画がかりにあのとおり達成されると仮定いたしましても、それが達成したときにおいて、ちょうどいまのイタリアの国民所得くらいのものにしかなりません。しかも、これらの国々の持つ過去の蓄積、いわゆる潜在経済能力を入れてみますと、まだまだわが国の国民経済能力はこれらの西欧諸国には遠く及ばないのであります。この実態を無視いたしまして、組合だけが欧州並みの賃金を要求するといたすならば、企業の負担力はとうていこれにたえないのでありまして、終局は破壊されていくのほかはないと思うのであります。  私は、考えますのに、わが国の労働組合は、戦後生活必要賃金という要求をもって賃金上昇につとめてまいりましたが)もうそういうことばでは通らない程度にまで賃金上昇いたしまして、いわば中産階級化してきたので、これ以上賃金上昇を要求するのには何か目的がなければならないというので、欧州並み賃金水準という要求に変わってきたのではないかと想像するのであります。こうした全く利己的な、また経済的な根拠のない不合理な要求には、あくまで反対いたします。私は、今後の賃金上昇は、生産性向上の範囲内で、かつ生産性向上に要した資本費を吸収した後の余力をもって賃金上昇をはかる以外には、健全な経済の発達の道はないとかたく信じておるのであります。政府の関係機関におきましても、この点をよく了承の上労働問題の処理に当たっていただきますよう、議会の皆さんによろしくお願い申し上げる次第でございます。  また、最近ILO条約の八十七号でございましたか、これに関する調査団が来日いたしまして、いろいろと調査いたしまして勧告案を出したようでありますが、私が了解しておるところでは、政府はこの勧告案を受諾する用意を示したのに対して、組合側が満足しないで批准に賛成せぬというようなことを聞いておるのでありますが、もし私が了解するとおりであるならば、政府はあえてこの条約を批准する必要はないと考えるのであります。わが国の労働情勢を詳細に調査した第三者が勧告したのでありますから、これは、一方の政府が了承し一方が了承しないならば、その了承しない側の責任において批准が不成立におちいってもやむを得ないと思うのであります。外国にも批准しない国があるのであります。私は、根本において、利潤追求のためにでき上がった私企業、つまり結局は利潤追求機関であるところの事業における労資の関係と、それから公共事業、これは公共へのサービスを目的とするところの公共事業、その中における労働関係、ここにはもう労資関係はないのであります。それから、もう一つ、国家の機能を行なうところの公務員、ここにはまた労資関係はありません。この労働関係、その中でも教育を行なうような特殊の任務を持っておる公務員の労働関係、それにはそれぞれその労働関係に応じた労働条件改善の方法があるはずであります。あるべきであると私は思うのでありますが、それを一律に、資本家対労働者の団体交渉の場であるところの労資関係のこの労働関係と全く一緒に考えておるところに根本的な見解の相違があるのではないか、かように考えておるのであります。また、一がいに、わが国の官公労の労働者側と管理者側との関係は、われわれから見ましてもなかなか複雑怪奇でありまして、区別がつかないような場合がありまして、これでうまく労務管理がいくのであろうか。また、事実うまく労務管理がいかないで、その結果が民間企業に、まあ率直に言って迷惑になる場合も多々あるのであります。いまやわが国の企業における労資関係は、決して本質的には先ほど申しましたような意味において片づいてはおりません。しかしながら、労働者側も、企業あっての労働賃金上昇であるというような大きな観点においては、かなり認識を深めてきておる時代において、ひとり官公労だけは、どうもそういう段階にまでも来ていないのではないか。要求が通れば、それは国民の税金にひっかかっていくというので、どうも官公労関係はうまくいってないのじゃないか。企業のほうは、むちゃな要求を続けていきますと、勢い企業がつぶれてしまって自分らの職場もなくなりますので、最後へいきますと、かなり理解度が深まってきているように思うのでありますが、官公労だけがどうもその点がうまくいってない、かように考えておるのであります。議会の皆さんには、政府の官公労務管理を改善するように、ひとつ十分に御監督をいただきたいと思う次第であります。  最後に、私は鉄鋼関係に従事いたしておりますので、少し鉄の関係で議会の皆さんに陳情申し上げたいのでありますが、石炭調査団の御報告の結果によりまして、石炭の価格を二百円引き上げることにおきめになっておるようでありますが、これは、鉄鋼業に対しまして、初年度においては十七億円、平年度においては二十億円の負担増となるのでありまして、わが国輸出産業の大宗である鉄鋼業に甚大な影響を及ぼすものであります。御承知かと存じますが、わが国の鉄鋼業は、わが国における輸出産業のナンバー・ワンと申し上げましてもはばからないのでありまして、全体の輸出の一四%を占めております。三十九年度の上期の実績をとってみますと、上から八社の中に、第一番、第四番、第六番、第七番、第八番と思いましたが、そのような順位でいずれも製鉄会社が入っておるのであります。そのほかにも、造船会社でありますとか、あるいは機械会社等が入っておりまして、上から十番目、ベスト・テンの中に軽工業で入っておるのは東洋レーヨン一社であるかと思いましたが、とにかく、わが国の鉄鋼業は、輸出産業の根本をなしておるばかりでなく、量的にも、単一品種におきましては断然第一位であるのであります。この鉄鋼業が他産業の不振のためにこうした負担をかぶせられるということは、まことに私企業としても困ったことでありますが、国家の輸出産業維持のためにも非常に困ったことであると思います。でありますから、この二百円をもし引き上げるならば、政府は、この引き上げを、助成金の交付なりあるいはその他の何らかの方法において解決していただきたいと思います。そうして、他産業へこれが波及することを絶対に防止願いたいと思います。また、少なくとも輸出産業にこれが波及することだけは防止願いたいと思うのであります。根本において、現在でも重油に比較いたしまして石炭の値段は経済的に高いのであります。これは聞いた話でありますが、九州の大石炭山において、福利施設には重油を燃料に使っておるという話を聞いておりますが、それはあり得ることであります。自分のところの石炭を売っても、安い能率のいい重油を使うということは当然あり得ることでありまして、経済の原則というものはこういうものであります。でありますから、ここで無理をしまして二百円価格を上げましても、そうすると、消費者のほうが石炭は使わなくなって、重油あるいはほかの燃料を使うようになりますと、結局は石炭の消費が減ってまいります。一方においては石炭労働者の確保などもだんだん困難になってまいりますから、せっかく石炭調査団が御報告になりました予定の出炭量も維持できなくなるのではないか。そうして、石炭企業は値上げによってかえって自分の企業活動が圧迫されることになるのではないか、それが経済原則である、経済の結果はそうなっていくというふうに私は考えるのであります。でありますから、この二百円の値上げの問題もわれわれにとってはたいへんな問題でありますが、根本において、この石炭調査団の調査の結果そのものをもう一ぺん考え直すべき段階に来ておるのではないか、かように考えますので、このことを申し上げて最後のお願いといたします。  御清聴たいへんありがとうございました。(拍手)
  52. 青木正

    青木委員長 ありがとう存じました。  続いて、坂本公述人にお願いいたします。坂本公述人
  53. 坂本義和

    ○坂本公述人 私は、大学で国際政治という講座を担当して勉強しておる者でございますので、予算の具体的な費目について外交との関係で御意見を申し上げるような資格を持っている者ではございません。したがって、私は、ただ日本の外交問題についての基本的な考え方に関連しまして私自身の意見を申し述べさしていただきまして、もしそれが何らかの御参考になればたいへん幸いだと思って参りました次第でございます。  今日日本の外交が当面しております最も重要でまた切実な問題として、中国問題、朝鮮問題、これは日韓交渉を含むわけでございますが、それからベトナムの問題、この三つがあるということについては、おそらくどなたも御異論がないことだと思います。この三つの問題には一つの共通の特徴が見られます。  それは、第二次大戦後、いわゆる冷たい戦争が激化をいたしますとともにつくられてきましたところの東西両陣営というものを仕切る最前線が一つの民族を分断しているという点で、中国も朝鮮もベトナムも共通の問題をかかえているという事実だと思います。こういうふうに冷戦によって民族が分裂させられているという事実は、次のような二重の意味でアジアの平和にとってきわめて重大な脅威の源になっていると思います。  第一は、申すまでもなく、分裂した民族の再統一というものが完成するまでは、それぞれの民族の内部で緊張が持続をします。そして、それが直ちに東西問の対立とか衝突へと国際化されるという、そういう危険があるということであります。朝鮮戦争がその最も代表的な例であることは申すまでもありません。  第二に、それぞれの分割された民族が、ほかの分割された民族の内部で起こった紛争とか緊張に非常に敏感な反応を示し、その意味でも紛争や緊張が容易に国際化される、そういう危険があるという点であります。たとえば、去る一月八日韓国政府が南べトナムに二千人の軍隊を派遣すると決定をいたしましたのはその一つの例であります。台湾の国府も同様な派兵を考慮しているというような報道もございましたし、また、最近では北朝鮮が北ベトナムへ派兵する可能性があるというようなことも伝えられております。こういうように、ある分割された民族の内部で燃え上がった火が他の分割された民族に飛ぶ火する危険というものが今日非常に高まりつつあるということは、見のがすことができない点ではないかと思います。  こういった分割された民族の問題を解決することなしには、アジアの平和と日本の安全とは絶対に達成することができないと思います。そして、こういったアジアでのきびしい国際緊張の中心にあるものは、申すまでもなく中国問題であります。そしてまた、アメリカと中国との間のするどい対決であります。したがって、私は、以下にまずわが国にとっての中国の問題を主として中心に取り上げまして、それとの関連において朝鮮とベトナムの問題について若干考えを述べさせていただきたいと思います。  中国問題あるいは日中問題と呼ばれる問題の焦点は、申すまでもなく、台湾の国府が中国全体を代表するという、そういう想定、仮定が、はたして妥当であるかどうかという点にしぼられるわけであります。日本にとってもこの問題は講和条約締結のときから一貫して懸案となってきたのでありますが、最近に至り国連総会で北京政府の代表権を支持する票がふえてまいりましたために、わが国としてもこの一両年のうちにこの問題についての態度を最終的に明確にする必要に迫られていると思われます。しかし、日本にとって中国問題がまず国連での代表権問題という形で迫っているということには、私は、次のような二つの問題点が含まれているのではないかというふうに懸念いたします。  第一は、つまり、この場合一体日本自身がどういう態度を選ぶのかという、そういう姿勢ではなくて、ほかの国々の決定がなされた場合に日本は一体どういうふうに反応するのかという、そういう意味で、いわば受け身の、受動的で自主性に乏しい、そういう姿勢が日本の外交の中に見られるように懸念されるという点であります。  それから、第二の問題点は、特に一九六一年以来、日本が重要事項指定方式の提案国となってまいりまして以来、代表権の交代については三分の二の多数決が必要であるとか、あるいは前の国連総会の重要事項指定についての決議の拘束力を解除するためには、次の総会では三分の二以上の多数決が必要であるとか、そういった議論というものが非常に多くなってまいりました。本来高度に政治的な問題であるはずの中国問題が、とかく小手先の国連の規約いじりとか、あるいは末梢的な条文解釈の問題といった、いわば次元の低い問題に置きかえられるような傾向があらわれているというのが第二の問題点であります。  したがって、こういった弊害におちいることなく、中国問題のいわば本質に立ち返って、そして日本としての自主的な判断を下すことがぜひこの際必要であると思われるのでありますが、そのための一つの手がかりといたしまして、私は、今日いわゆる中国問題といわれている問題がはっきりした形で発生いたしました一九五〇年当時に起こりました次の二つの事件の持つ意味をここに再確認しておくことが重要ではないかと考えるのでございます。  第一は、中華人民共和国が一九四九年十月に成立いたしまして三カ月の後、一九五〇年一月の五日にアメリカのトルーマン大統領は、台湾は中国の一部であるということ、そしてまた、その場合台湾が帰属する先の中国というのは、中華民国——あるいは国府でもよろしいわけでございますが、中華民国であるかあるいは北京政府によって代表される中華人民共和国であるかということの決定は、これは中国の内政問題であって、アメリカはそれに干渉しないということを明らかにいたしたという事実であります。さらに、当時のアメリカのアチソン国務長官は、同じ日にこの大統領の言明を補足いたしまして、次のように述べたのであります。つまり、台湾が中国に帰属するということは、対日講和条約が結ばれているかどうかということには関係なく、実際上もう疑いの余地のない問題である、また、台湾が中国本上を支配する政権のもとに編入されるというのは、これは当然のことであって、本土に共産主義の政権ができたからといって、それを理由に台湾を分離するための外国介入というものを正当化することはできない、そういう趣旨の発言を行なりたのであります。私は、これはきわめて正当な議論であったと思います。アメリカは、当時すでに北京政府とはかなりきびしい対立関係にございましたけれども、そのアメリカでさえも以上の点を承認していたということであります。ところが、その後、この解釈は、朝鮮戦争の勃発、進行とともに変更されたことは、御存じのとおりであります。それでは、その変更ははたして正当な理由に基づくものであったか。もしその変更が正当な理由によるものでないのであれば、ただいま申しましたところの一月五日に発表されましたアメリカ政府の見解は、今日も十分その意義を持っていると考えなくてはならないと思うわけであります。  そこで、第二に、朝鮮戦争が問題になるわけでございますが、この戦争の過程で、一九五一年の二月に北京政府は国際連合によって侵略者とみなされ、自来アメリカは、北京政府は国連憲章を守る意思がないという、そういう理由でその国連代表権の獲得に反対をいたしました。また、北京政府の侵略を阻止するという観点から、台湾の本土からの分離を積極的に行なうことになったわけでございます。朝鮮戦争につきましては、今日も歴史的に見まして非常に不明な点が多いので、私としても断言的なことを申し上げる立場にございませんけれども、そういった制約のうちでこの戦争のたどった経路というものを少し詳しく見てみますと、これが次のような経過をたどっていることが明らかになると思います。  まず、この戦争は北朝鮮とソ連との連絡のもとに開始されたというのが西側の多数説でございますが、同じような関係が初めから北朝鮮と中国との間にあったという解釈は、これはきわめてまれでございます。これは、西側の学者、歴史家の中にもそういう解釈は非常にまれであります。つまり、中国は初めから朝鮮戦争の勃発について関係を持っていなかったという解釈が圧倒的に多数でございます。中国が戦争に介入をいたしましたのは、韓国軍や国連軍が三十八度線を越えて、いわゆる北進をいたしましてから、少なくとも約十日前後あとであります。また、実際に国連軍と中国のいわゆる義勇軍とが戦いを交えましたのは、この三十八度線を越えました十月七日から一カ月以上もたってからであったのでございます。この三十八度線を越えるということを認めました国連の決定がはたして正当であったかどうかということについては、二つの重要な疑点があると思います。第一に、北朝鮮の侵入を排除するというだけにとどまらず、北朝鮮へ侵入するということがはたして国連の行動として妥当であったかどうかということは、これはかなり疑わしい点であります。第二に、かりに三十八度線の上で完全に停止するということが軍事戦闘技術的にも困難であるといたしましても、北朝鮮への侵入を必要最小限度に食いとめるならばともかくといたしまして、当時すでに国連の統制を逸脱する傾向を示しておりましたマッカーサー元帥に対して無限定に北進を許したということは、これは、国連の決定としてはなはだ妥当性を欠くのではないかという点でございます。国連軍が三十八度線を越える直前の十月四日、米ソ問の妥協を試みたインドの提案が国連総会に提出をされまして、これは結局反対三十二、賛成二十四、棄権三という割合で否決をされたのでございますけれども、しかし、当時の国連は加盟国五十九でございました。その中にこのインド案に賛成する票が二十四あったということは、当時アメリカの影響力が圧倒的であった国連としては、きわめて異例の多数であったわけでございまして、このことは、この当時国連自身が、この北進、つまり三十八度線を越えることについてかなりちゅうちょしていたということを示す一例であろうかと思います。もしこのときに国連軍が三十八度線を越えていなかったならば、中国の義勇軍の介入というものも起こらなかったでありましょうし、したがってまた、中国が後に侵略者と宣告されるというようなことも起こらなかったと考えられます。そうしてまた、その後の中国と国連との対立、あるいは中国と米国との対立も、現在ありますよりは、はるかに緩和されたものとなることができたのではないかと考えられます。その意味で、今日中国が持っておりますところの非常に根深い国連不信の根というものの生まれました第一次的な責任は、これは国連と米国とがある程度負わなければならないという面があると思われますし、したがってまた、国連が一方的に中国を侵略者と宣告することがはたしてどこまで妥当であったかということも、今日再検討の余地があろうかと思われます。さらに、もし中国の侵略と呼ばれるものがこういうような経過で発生いたしましたのだといたしますと、その侵略を理由にいたしまして、アメリカ政府が、台湾の地位について一九五〇年一月当時先ほど申しましたような見解を述べておりましたのを、その後変更いたしましたことも、はたして十分に正当な根拠があったとは言いにくいということにもなろうかと思います。  以上のような歴史的な経緯を背景に置いて考えました場合、日本の中国政策がどうあるべきかについて、私は次のような結論を導き出すことができるように考える次第であります。  第一は、中国は一つであり、台湾は本土と一体であり、大陸を支配する北京政府が中国の正統政府であるという原則に立脚してわが国が北京政府承認の方向に進むことを、正確に北京政府に伝達することが必要ではないかと思います。ここで私が原則とか方向ということを申しましたのですが、それは、次のような二重の意味においてであります。つまり、一方では、一つの中国と二つの中国との間にはこれは絶対に妥協があり得ないという意味で、原則にあいまいさがあってはならないということであります。と同時に、その原則を実現する方向に進む方法につきましては、これはかなり弾力的であってもよいということが、同時にそこに含まれているわけであります。したがって、ある日一挙に全面国交回復を北京政府との間に実現するというような必要は必ずしもなく、たとえば、アメリカ並みの大使会談を行なうこと、あるいは西欧の諸国並みの政府間の通商その他の協定を結ぶことなどから始めまして、最終的な法的な政府承認に至るまで非常にさまざまの段階があり得ることは、これはあらためて申し上げるまでもないことと存じます。また、ここでは、必ずしもこのテンポが、スピードが早いということが必要なのではなくて、決して途中で逆行するというようなことをしないという意味で日本の外交の方向が確立しているということが大事であろうかと思われます。政経分離という方式で貿易面だけでの利益をあげるのにとどめようとすることは、そのこと自体が貿易そのものを絶えず不安定化させてきたということは御承知のとおりであります。  第二は、北京政府による国連代表権獲得を支持するということであります。したがって、重要事項方式の提案国になるというようなことは、これは絶対に避けるべきであろうかと存じます。そもそも、中国を国連から除外することによって不利益を受けるのは、中国よりも国連自身でございます。その上、前に申しましたように、国連には中国を侵略者として排除するに足る十分な正当な根拠がどこまであるのかという点については、疑わしい点もございます。そうだといたしますと、まさに国連そのものの機能と正当性とを回復するために、北京政府の代表権を認めなければならないわけでありまして、それこそが真の国連中心主義にほかならないと私は考える次第でございます。  第三は、台湾との関係でございます。国府が一つの中国の立場をとります以上、日本による北京政府の承認が国府の承認と両立しないのは事然でございます。したがって、日本が北京政府承認の方向に進むある段階で国府が外交関係を断絶いたしましても、それはやむを得ないと考える次第であります。また、かりに国府が二つの中国の立場に変わりまして、断交を控えるというような場合でありましても、日本としては積極的に外交関係の維持をはかるべきではないのではないかと存じます。それは、北京政府との国交回復に好ましくない影響を与える可能性があるからでございます。しかし、そのことは、もし台湾が望む場合にも貿易の継続を拒むべきだということではもちろんございません。台湾の住民も中国の人民であります。台湾の民衆と日本国民との相互の利益のために民間レベルでの貿易を続けることは、これは台湾が望むならば何らちゅうちょする必要はないと思います。その意味では、政経分離という方式はむしろ台湾との間に適用されてしかるべきものではなかろうかと考えております。  次に、国連におきましては、国府が代表権を失って国連を去るという方向に進めていく以外には解決がないと私は考えます。これまでのわが国と国府との関係からいたしまして、この方向に日本が積極的に進めていくということは、これはかなり困難であろうかと存じますけれども、少なくとも、そういった方向への動きを阻止するということは、日本としてやはり控えるべきことであろうかと存じます。  一つの論理的な可能性といたしましては、国府が安全保障理事会でいわゆる二重拒否権を行使いたしまして、北京政府はかりに総会に議席を得ても、安全保障理事会には国府が残るということも考えられることでありますけれども、しかし、国府が中国を代表するという想定の非現実性が問題になっている場合に、国府がこういった状態にとどまることは、実際政治上私は非常に不可能になっていくだろうと思います。  第二の可能性は、国府が一つの中国の立場に立って最終的にみずから国連を去っていく場合であります。この場合には、問題はもちろん著しく単純になるわけであります。  第三の可能性は、国府が二つの中国を受け入れて国連総会に議席を保持する道を選ぶ場合でございます。しかし、これを北京政府の国連出席以前に行なえば、北京政府は国連への出席を拒否することは明らかであります。したがって、この方式は問題の解決には役立たないわけであります。  それに、たとえばソ連などが拒否権を行使いたしました場合には、台湾の国連への新規加盟がそもそも実現し得ないということになります。また、北京政府への代表権交代が済んだあとで台湾の新規加盟を行なうことがもちろん不可能であることは申すまでもありません。したがって、いずれにしましても、二つの中国という方式が国連代表権問題に何か新しい解決策となり得ると期待することは、私はできないと考えます。  しかし、このように、国府が日本との国交関係を失い、また国連の議席を失ったといたしましても、事実として台湾に政権が、国府の政権としてであれ、いわゆる台湾共和国の政権としてであれ、存続するということは、おそらく当分変わらないことでありましょうし、また、アメリカがこの政権に支持と援助を与えることも当分変わらないと思います。ある意味では、実はそれからが本格的に台湾問題が始まると言ってもいいと思います。つまり、そこにあらわれてまいりますのは、もはや国連の末梢的な規約いじりというようなものによってではなくて、アジアにおけるアメリカと中国との関係を平和共存の方向に根本的に変えていくということによってのみ解決し得るといった性質の問題であります。換言すれば、それはアメリカが台湾から手を引いても基本的な不利益はないというふうに判断をするような状況が実現されたとき初めてこの問題は解決する、そういった性質の問題であろうと存じます。台湾問題を最終的に解決するには米中の平和共存の確立と強化以外にないということは、いわゆる台湾独立という考え方、つまり、これまで私が述べてまいりましたのとは全く別個な考え方の立場の場合でありましても、やはり結論としては同じようなところに到達せざるを得ないという一事からも裏づけられると思います。と申しますのは、この台湾独立運動は、さしあたり国府への反発が非常に強く、ひたすら外省人、つまり中国本土から来た人々からの台湾人の独立を主張しておりますけれども、しかし、少し長期的にまた現実的に考えるところの独立論者でありますならば、中国本土との平和共存がなくして台湾の独立というようなものはあり得ないということを認めざるを得ないと思われます。なぜならば、本土との緊張が続く限り、台湾は軍事的、経済的にアメリカに大幅に依存せざるを得ないわけでありますし、それは、まさに独立という目標に反するという結果にならざるを得ないからであります。したがって、その意味では、平和なくして独立は達成できないと思われます。しかし、同時に、もし本土との関係がそれほどまでに平和になっていくときには、あくまで独立に固執するということにあまり意味がなくなってくるということも考えられます。ことに、北京政府は、現在のように台湾が分離されている間は、台湾の自治を約束するということは控えておりますけれども、もし台湾が外国の影響から脱却してくる場合には、台湾に対して高度の自治を承認するという公算がきわめて大きいと考えられます。その場合には一そう独立と自治との区別というものは薄らいでいくということになるかと思われます。それがまさに台湾問題の根本的な解決にほかならないのではないかと考える次第でございます。  アジアにおける米中間の平和共存を確立するのは、きわめて長期にわたる努力を必要とすると思われます。さらに、台湾問題を真に解決するためには、直接に台湾問題についてアメリカ、中国の間の折衝を促進するということだけではなくて、それと並行して、台湾問題以外のアジアにおける問題を一つ一つ解きほぐしていくことが不可欠であろうかと思います。たとえば、日本と中国との間に近い将来に不可侵条約を締結するというようなことは、これは、アジアの冷戦を緩和する一つの礎石を据えることに役立つであろうと考えられます。また、朝鮮問題、ベトナム問題を解決の方向に進めていくということも、この点から見ても非常に必要なことであると思われます。  そこで、朝鮮問題とベトナムにつきまして簡単に私見をつけ加えさせていただきたいと思います。  今日の朝鮮問題の多くが、その根本において、朝鮮のきわめて不自然な南北分割に由来するということは申すまでもありません。すなわち、南北朝鮮の統一は、第一に、朝鮮民族の政治的な安定と経済的な自立との達成のために、これは不可欠の条件であります。第二に、したがって、朝鮮における国際緊張緩和のためにも必須の条件であります。したがって、また第三に、日本の真の安全にとっても欠くことのできない条件であると思います。  朝鮮における民族統一運動は、戦後間もなく超党派的に展開をされましたけれども、李承晩政権のもとできびしく抑圧されて、一時は表面から姿を消しておりました。しかし、一九六〇年に李政権が倒れました後の韓国での選挙では、各政党が一斉に平和統一の構想を打ち出しましたし、また、北朝鮮からも南北連邦制の提案が行なわれ、統一への関心と運動とが著しく高揚したのでございます。その一つの頂点が一九六一年春の学生による南北統一運動であったことは御存じのとおりでございます。その五月に成立をいたしました現在の政権は、統一運動をきびしく弾圧いたしましたけれども、しかし、最近に至りましては、朴政権自体が統一問題を政府として取り上げざるを得なくなっていることは、これも周知のとおりでございます。こうした一連の動きは、民族統一への精神的な欲求と経済的な必要とがいかに根強いものであるかということを端的に示していると思います。それは、沖繩住民の日本本土復帰への強い願望にも通ずるものであろうかと存じます。  こういった状況のもとで、日本が朝鮮に対してとるべき政策は、朝鮮統一に寄与するものでなければならないわけであります。少なくとも統一を阻害するものであってはならないと思われます。このような観点からわが国がなすべきことの第一は、南北朝鮮の間に現在存在している軍事的な緊張を緩和するための国際的な条件をつくり出していくことにあると思います。こうした朝鮮における緊張緩和のためには、南北朝鮮自身が、たとえば相互間の経済的な交流とか文化的な交流を増大していくこと、あるいは南北間に不可侵協定を締結するというようなことなどが有効な方策であろうかと存じますが、それと並行しまして、南北朝鮮の軍備の削減ということが不可欠である。そのためには何らかの国際的な保障が必要であると思います。本来ならば、こういった任務は国際連合が負うべき性質のものでありますが、御存じのとおり、朝鮮におきましては、国連は朝鮮戦争以来紛争の一方の当事者になっておりますために、現状のままではそういった役割りを演ずることはできない状態にあります。しかし、もし北京政府が国連に代表権を持つことになりましたならば、北朝鮮も国連の権威と正当性とを認めるようになることは明らかであります。それによって朝鮮問題に対して国連が果たし得る機能が著しく改善されることも、十分予想されるところであります。その意味からも、中国の国連代表権問題はすみやかに解決されなければならないのであります。そういった条件のもとで、国連の監視のもとに現在韓国に駐留しております国連軍という名の米軍が撤退をいたしまして、それにかえて、中立的な国々からなるところの国連警察軍により暫定的に三十八度線のパトロールを行なうという体制がつくられましたならば、南北朝鮮の軍備の削減は著しく容易になると思われます。特に、韓国におきましては、約六十万の軍を維持しているということが、経済の安定と成長にとって大きな障害になっておることを思いますと、こういった軍備の削減を可能にするということは、実質的には南北朝鮮に対し多額の経済協力を行なうにもひとしい意味を持ち得るのであろうと思われます。韓国に対する経済援助は、いわゆる六億ドルの資本供与という形をとらなければ行なえないというような性質のものではないということを、ここに注意することが必要ではなかろうかと思います。今日、日本が朝鮮国民に対して何にも優先して行なわなければならないのは、朝鮮の統一と緊張緩和とのために、朝鮮の軍備削減が可能となるような国際的諸条件を整えることに寄与することでございまして、南北の分裂を固定化するような方向が日韓交渉を妥結させることではないと存じます。もちろん、たとえば漁業問題は、両国の漁民の生活にかかわる最も差し迫った問題でございまして、これについて交渉を行なうことはぜひ必要であります。しかし、これは本来全面的な国交正常化の問題とは別個に話し合いが可能な性質のものでありますし、現に、日本政府自身、そういった立場をとった場合も過去にあったわけでございます。また、日本は、もちろん韓国との国交そのものを拒むという必要はないと思いますが、もしそれを行なうならば、同時に、北朝鮮との人的、物的な交流が拡大されるということがぜひ必要であろうかと思います。また、韓国に対して一切の経済援助を拒むということも私は必要ないと思いますけれども、しかし、それを行なうならば、同時に、少なくとも北朝鮮との貿易の拡大への努力が行なわれなければならないのではないかと思います。北朝鮮に向けてのこういった政策をとらないままで日韓交渉が進められますならば、それは朝鮮の統一を妨げ、したがって南北朝鮮の政治的、経済的自立を阻害し、朝鮮民族の不幸を持続させるばかりではなく、朝鮮での軍事的緊張を存続させることによって、日本自身の安全にとっても好ましくない結果を招く危険があると存じます。今日日本の安全に対する危険の一つが朝鮮の軍事的緊張にあるということは、先般国会で問題となりました三矢作戦計画の例からも明らかでございまして、何か非常事態が起こってからの対策を講ずるということよりも、朝鮮からそのような危険も除去することのほうがはるかに重要であるということは、申すまでもないところだと存じます。  最後に、南ベトナム問題について一言だけつけ加えさせていただきますならば、南ベトナムの今日の事態を招いた最大の原因の一つは、アメリカがこの地でもっぱら軍事的な観点から反共政策を打ち出したということにあると思います。一九五四年七月のインドシナの停戦・平和の諸条件を取りきめましたジュネーヴ会議最終宣言への調印を拒否いたしましたダレス国務長官が、その直後の九月に、いわゆるSEATOと呼ばれます東南アジア条約機構、軍事同盟をつくり上げたということは、こういった軍事的な反共政策を端的に示す例でございまして、こういうふうに軍事的な観点が優先をいたしました結果、第二に、アメリカは南ベトナムでの農地解放を徹底させることを怠り、それが、今日見られますように、農民の支持を決定的に失なうということになってしまったわけであります。こうした政策の結果、今日続いておりますどろ沼のような戦争は、現地の住民にとりまことに大きな不幸であるばかりではなくて、米中関係及び米ソ関係をも悪化させる危険を持っておりますし、ひいては日本の安全に対する脅威ともなり得るものでございます。したがって、一日も早く停戦を実現するために、わが国には、フランスあるいは他のAA諸国とともに一九五四年のジュネーヴ会議にならった政治折衝の場をつくる責任と余地とがあると思われます。確かに今日の日本は、強大な軍事力を背景にして外交を展開する立場にはございません。しかし、現代では、他面におきまして、まさに核兵器を持った強大な国が実は相互に手づまり状態におちいっております。そこに中小国家が外交のイニシアティブをとることができる余地があるわけでございます。ベトナムに見られますような大国の手づまりを建設的に解いていくということが、アジアにおけるかけ橋としての日本の任務であり、そのために日本のなし得ることは決して少なくないのではないかと考える次第でございます。(拍手)
  54. 青木正

    青木委員長 ありがとう存じました。     —————————————
  55. 青木正

    青木委員長 これより両公述人に対する質疑を行ないます。辻原弘市君。
  56. 辻原弘市

    ○辻原委員 両公述人の方からただいまそれぞれの御所見を承りまして、なおこの機会に重要な問題としてお尋ねをいたしたい点が一、二点ございますので、簡単にお答え願いたいと存じます。  最初に、日向さんにお尋ねをいたしますが、けさほど当委員会公述をされました中村勧銀頭取が述べられておったのでありますが、いま私どもがわが国の経済の中で当面して一番気にしている問題は、財政支出の面から起きる一般的にはインフレの傾向、さらにはそれが景気に与える刺激、こういう問題が今後どういう形にあらわれてくるであろうかという点が経済動向として最も懸念するところでありますが、中村さんの公述のおことばをかりましても、また一般にいわれておる観点から言いましても、四十年度経済動向というものは、かいつまんで言えば、少なくとも貿易収支は一応均衡の状態には至っておるけれども、しかしながら、不況感ということがあまりにもこれが前面に出たために、ここに金融の緩和に伴ってふたたび景気刺激のそういう方向に、政府の施策も、また一般民間経済界においてもそういった方向を意識的にたどるのではなかろうか、そうすることが下半期における経済に対してかなりの影響を与える、すなわち計画を活発化せしめる、そういう要因を今日そこにつくっているのではないか、これがひいて国際収支に影響を及ぼす。こういった経済の見方が一般的だと思うのでありますが、そこで、そういうことをなからしめるためには、これはもちろん国の政策全般の問題ではあるが、民間の今日の経済動向なり、また経済行動というものがいまどういう状態にあるかということをつまびらかにしなくてはいかぬと思いますし、民間の協力を得ないでそのことは達成できないと思います。先ほど日向さんがお述べになりました中で、かねて言われておりますように、日本経済の持っている構造的な要因として、一つは賃金の問題、一つは原材料のコスト高の問題を指摘をされ、あげられておるわけでありますが、私は、それと同時に、より以上重大視しておりますものは、これは経済界が従来の過当競争に基づく設備過剰、必然的に生まれたシェア争い、こういうことが再び活発化するのではなかろうか、この点が今後のわが国経済をきめる一つの大きなキー・ポイントではないか、そういう点でいまいろいろやられておりますけれども、どうも下期あたりには再び以前のようなことはないであろうけれども、かなりの設備投資、これが予定されている。すでに経済界の中で投資という問題がかなりゆるまってこようとしております。自己資本蓄積という面からいえば、これもまたある程度やむを得ない方向でありましょうとも、そこから一つの突破口が開かれるということになれば、結局、同じことを再び繰り返すのではないかという心配であります。そういった点について業界自体の、今後の設備投資、そういったシェア争いに対する何といいますか、自主規制といいますか、あるいは業界の統合といいますか、そういった点にかなりの決意と方策を持っておられるかどうか、この辺のところを少し承っておきたいと思います。
  57. 日向方斉

    ○日向公述人 お答えいたします。わが国の経済動向の今後につきましては、大体いまお話がありましたようなことではないかと思うのでありますが、しかし、私は、そこで、一言つけ加えたいのは、従来景気が過熱した場合には、金融をしゃにむに引き締めまして国内に不況をつくり、それで、企業は食うに食われなくなって輸出に出ていく。それが国際収支が均衡がとれると、また金融をゆるめる。そうすると、またもとのもくあみになるということを繰り返してきているように思うのであります。私は、この間に国際収支均衡に対する総合的な手を打って、これでいいというようにしたところで、だんだんゆるめるということでないと、単純に引き締め、単純にゆるめるというようなことを繰り返しただけではなかなか片づかないと思います。また、そういう面からいいまして、輸出振興の問題につきましても、あるいは輸入の合理化の問題につきましても、まだまだ打つ手が残されておる。極端な言い方をすると、あまりたいした手も打たずに今日まできているように思うのであって、この景気動向については、そうした総合政策が打たれないで単純にゆるめれば、またインフレになるというおそれはあると思います。  そこで、私は、設備投資設備投資といわれるが、設備投資だけがインフレの原因でありたかどうかという点でありますが、今日わが国製鉄業界が実は過当競争をやっております。なかなかこの調整は骨を折っております。しかしながら、いま製鉄業界で動いておる設備は、少なくとも近代設備に関する限りフル操業をしておるのでございます。いまとなると決して過剰投資ではなかったのであります。それから、これからの設備につきましても、業界でいろいろと相談をしております。先日も各会社で計画しておるものを持ち寄ってみますと、ある部門については、それが完成するころにおける操業度は現在と同じでいけるというふうな見通しをつけたものもあります。もっとも部分的には、同じ設備を四社あたりが同時にやろうというような問題がありまして、これらの調整についてはまだ時間を要すると思います。また、企業間における競争というものは非常に強いものでありますので、この調整が一朝一夕に片づくとは思いません。しかしながら、業界におきましてもだんだんと協調していかなければ元も子もなくなるということがわかっておりますから、私は、次第に業界の協調というものは進むと思います。根本におきまして、わが国の製鉄業は、戦後に国策会社日鉄を二つに分けまして、これを競争会社にした。一方では銑鉄部門を持たない私営会社が、急激にその銑鉄部門を持たなければならなかったという歴史的過程がありまして、しゃにむにある程度のかっこうをつけなければならないという時代が続いてきたことも、わが国の鉄鋼業の競争を激しくした一つの原因でありました。しかし、これらもだんだんと形がついてまいりますと、長い目では業界の協調ということはできる、またそうしていかなければならぬ、かように考えております。  したがいまして、ここで国際収支が均衡がとれたからといって、これを緩和していく足取りにつきましては、私は慎重にいくべきだと思います。また、それを金融だけに依存せずに、輸出振興の面も大いにおやりなさい、輸入の合理化の面も大いにおやりなさい、国民の貯蓄蓄積も大いにおやりなさい。そうした幾つかの手を打ちながら次第にゆるめていけば、私はある程度景気回復と国際収支の均衡は両立できると思います。その間における設備の調整も、百点はつけられないと思いますが、次第にいいものになっていく、またそうしていかなければならぬと考えておる次第でございます。
  58. 辻原弘市

    ○辻原委員 設備投資は、日向さんが直接関係をせられておる製鉄業界、それに関連する部門についてのお話があったわけでありますが、私どもが一番心配している設備投資動向というものが、いまお話のごとくであるならば、これはかなり私たちも安心できると思いますが、従来の実績からいたしまして、なかなか企業間の調整というものは実際問題としてはむずかしくて、結局最後にはかなりのものにふくれ上がるという状況でございましたから、あえてその御決意のほどを承ってみたわけであります。  その次に、もう一点伺ってみたいのでありますが、これは金属部門、製鉄業等と重要な関係もあるわけであります。特に日向さんは関西財界を代表される代表幹事というお立場にもありますので承っておきたいのでありますが、それは、中国貿易の問題であります。  いま中国貿易の焦点というのは、何といいましてもプラントの問題であります。これは、御承知のごとく昨年台湾のああした問題があって、いま国会内外をにぎわしている吉田さんの書簡なるものが中心になって、これが台風の目でいろいろ動いておるのですが、かねて私どもの伺う関西財界の皆さん方の御意向というものは、これは経済同友会、日経連等全般の動向よりも、むしろ中国問題については一歩足を外に出している、こういうふうに感じとして受け取ってきたわけであります。これは、もちろん政治的意味じゃございませんが、そういった意味からいって、われわれは国民の常識として、池田内閣でも佐藤内閣でも政経の分離を言われるのだから、少なくとも通例の商業ベースによる商取り引きというのは、どこからつっついてみたって、これは政に入るのじゃなくて経に入る。そうするならば、いまの停滞しているプラントの問題については、その方針に従ってすみやかに解決すべきじゃなかろうか。そうしなければ、いませっかく手がかりを得ている中国問題、去年の実績なんかを見ましたって、財界等のお骨折りもあって飛躍的に増大している。何といっても将来の貿易収支を改善する一つの大きなめどというものは、やはり中国貿易にかなり大幅のウエイトをかけていかなければならぬということは、ひとり私どもの意見ではなくて、もはやこれは国民の声だと思うのですが、そういう意味で、このプラント等の問題について、ひとつこの機会に、私は具体的にはお尋ねをいたしませんが、関西財界等の御所論として当然あってしかるべきだと思いますし、御意見を承りたいと思います。
  59. 日向方斉

    ○日向公述人 簡単にお答え申し上げたいと思いますが、中国貿易の問題は、わが国の外交上の立場がありますので、単に事業界だけの希望だけで割り切っていけるものではないということは、私はよく承知しております。実は昨年共産圏からいろいろお客さんが参りましたときに、わが国の財界の一部、私の属しておる住友グループなども大歓迎のような——これは事実はそうではなかったのでありますが、かっこうに取りざたされましたときに、私は、関西経済同友会代表幹事といたしまして十地区の代表幹事を集めた会合におきまして、中国貿易の問題はしかく簡単にはいかないと思う、根本においてわが国の外交上の立場があるので、簡単に経済的に割り切っていくものではないと思う、また中国とわが国との貿易関係は、先方は中国を建設するに必要な資材を要求するし、それには同時に買い付けるだけの外貨を用意しなければならないので、勢い全体としては、求償バーター・システムを拡大するような形でないと簡単にはいかない、昔のように、中国貿易が再開すれば、大阪あたりを中心とする軽工業製品がどんどん出るというような事態ではない、したがって、国民として簡単にこの問題はやってはいけないのだという意味で、むしろ中国貿易論に水をかけたのであります。それは経済同友会としての動きでありました。その後において具体的にいろいろと問題が出てまいりまして、具体的に当面しておられる会社にはまことにお気の毒だと思います。しかしながら、これは中国と台湾との問題等も関連いたしますから、わいわい言うて、新聞等をにぎわして片づく問題ではないと私は思っております。実際的にそうした困った問題が何らかの形におきまして片づいていくことを希望する次第であります。また、われわれの中国との貿易も、表面立ってわいわい言うよりも、実際の商談として次第に進めていくのが賢明であろう、いわゆる政経分離のもとにおいて実益をあげていくということが、われわれの当面している道ではないか、かように考えております。
  60. 辻原弘市

    ○辻原委員 坂本先生に一、二点伺ってみたいと思うのですが、特に重要な問題として中国の問題をあげられました。先生のお考えを承ってまいりますと、結論としてきわめて明快にお答えを出されておったやにお開きをしたのであります。すなわち、中国は一つであって、中国は一つであるという考えのもとには、中国は二つであるというこの考え方と最終的には絶対に相いれないものであるという論を立てられました。しかしながら、そこへいく道程、過程においては、当然その進むべき方向の中に弾力的な措置があってしかるべきものだ。こういうお話で、現実にいまの政府が言っておる政府間の交渉、あるいは大使会談等の話を例にあげられたわけですが、そういう道程を想定いたしましても、結局は、その道程における台湾という問題が、何といっても割り切れない人たちにはそれが口実になり、ネックになっていると思うのです。そこで先生は、結論を出された後において、三つの可能性という問題を出されたわけでありますが、私がいまここでお尋ねをしておきたいと思いますのは、その道程において、一つは日本対台湾の間における、たとえはいま私が日向さんにお尋ねをしたあのプラントの問題のごとく、台湾の日本に対する経済的干渉、あるいはその他の問題が必ず提起される。まずそういう道程における問題の処理というものを、これは現実及び国際法的な立場、そういうものからにらみ合わせまして、どうしたら一体わが国としては一番賢明なのであろうか。こういうことはひとしく専門家の御意見を承りたい点なのです。もちろん、政治の立場のわれわれは、当然現実問題としてこれは考えなければならぬ問題です。御参考にその点をまずひとつ承っておきたい。  それから、国連における台湾の問題、いま先生が申されたように、一つの可能性として安全保障理事会に台湾が残る場合がある。しかし、現在の中国がとっておる立場は、いずれにしようが、国連に国府が残っておる段階においては、いかなる形の方法であろうとも中国は国連に参加をしないという態度を堅持しているように私どもは考えるのであります。したがって、幾つかの可能性という問題は、これは形の上での可能性であって、現実問題としての可能性は、すなわち中国の正統政府、北京政府が代表として加わったその瞬間においては、台湾、国府の代表権がなくなるというのが、実際の上における今日の段階で考えられる結論じゃないか、私はこう思うのです。そこで、先生がお述べになりました幾つかの可能性という問題は、必ずしも現実の可能性ではないのじゃないかという気が私はいたすのであります。したがって、いまの道程における日本との関係、それからいま私が述べたような国連における中国の問題について、いま一度先生のお考えをちょっと承っておきたい。
  61. 坂本義和

    ○坂本公述人 第一の問題につきましては、私は、基本的には高度に政治的な問題だと思っております。日本が北京政府との外交関係を回復していくという方向に進みました場合に、貿易の断絶とか、あるいは外交関係の断絶という問題が台湾との岡に起こるということは十分考えられることだと思いますが、ただ、そのことと、それから結果として必ず日本と台湾との間に貿易が断絶しなければならないかということとは別の問題だと私は思います。つまり貿易は、これは私が申し上げるまでもないことでありますけれども、相互の利益の問題でございますから、したがって、政治的な観点から、一時的に台湾のほうからいろいろな形での貿易の断絶というようなことがかなり行なわれましても、現在の日本と台湾との貿易の構造関係日本経済力と台湾の経済力との関係から申しまして、それほど日本が心配をする必要はないのじゃないか。したがって、一時的な若干の紛糾はありましても、貿易関係を継続していくことは、可能性としてはかなりあるのではないかと私は思います。それから外交関係の問題につきましては、先ほど私もちょっと触れましたけれども、台湾の国府が一つの中国の立場をとっている限りは、これは両立いたしませんから、したがって、日本が北京政府を承認する以上は、外交関係が絶たれてもやむを得ないと思います。ただその場合に、外交関係が絶たれても、あるいは事実上貿易関係などが残ることの結果として、たとえばイギリスの例に見られますように、領事的な役割りを持つものが事実上残っているというようなこともあるかもしれませんし、ことに台湾が二つの中国を認めるというようなことになりました場合には、その可能性は非常に大きくなると思います。その場合には、日本として積極的に台湾との外交関係を維持する、そういう態度をとる必要はないと思いますけれども、事実上台湾との間にいわば領事レベルでの通路というものは残されるというようなことも、これは一つの可能性としては考えられるのではないかと思います。  それから第二の国連の問題につきましては、私、先ほど申し上げましたのが、あるいは説明が不十分だったかと思いますけれども、私も、結論といたしましては、ただいまの御意見と全く同じであります。つまり、国連の規約の上ではいろいろな可能性が考えられますけれども、しかし、現実の問題としては、国府が何らかの形で国連に残っている限りでは、絶対に北京政府が国連に出席するということはあり得ないと思います。ですから、その意味では、一度はとにかく国府が国連から姿を消すということがない限りは、北京政府が国連に姿をあらわすということもないということは疑いのない事実だと思います。
  62. 辻原弘市

    ○辻原委員 時間がございませんので、あと一つだけ承っておきたいと思います。詳細はまた同僚委員からお尋ねがあるだろうと思いますので……。  それは、日韓交渉の問題ですが、あるいは先生のお話の真意を私が取り違えているかもしれませんので、もしそうであったらお許しを願いたいと思いますが、いま承った範囲によりますと、交渉のやり方の問題についていろいろお話がございました。そこで私たち社会党の立場、またこれは社会党のみならず、従来池田内閣当時からずっと政府も述べてき、とってきた態度というのは、日韓交渉についてネックになっているのが、一つは漁業交渉の問題である。わが国の利害の問題からいうならば、李ラインの撤廃という問題、あるいは竹島の占拠の問題等々は、これは国民感情としては、国交回復に先立って何としても解決すべき重要な問題である。こういう前提のもとに、交渉はあげてすべての懸案事項を一括して解決するのだ。こういう態度をとってきているわけなんです。先生が冒頭に述べられた御意見の前段については、私ども全く同一見解です。われわれが日韓会談について反対の立場を持しておりますのは、単にわが国の平和のみならず、アジアの平和、あるいは南北両朝鮮にとっても、民族感情なりあるいは民族の利益から、いま先生がお述べになったごとく、南北が対立していることは、これはどう考えても利益ではない。したがって、南北統一を阻害するようないろいろな形というものは、これはわれわれは将来友好国として結ぶ立場においても、そういう方策についてわれわれが援助を与えるべきではない、それが先決だというこの見解、この考えは同じであります。しかしながら、その後段に述べられました、ともかく国交回復をした後においていろいろな懸案事項について解決する道があるのではなかろうか、漁業等の問題についてもやってしかるべきではないかということについては、やや私どもの考えとこれは異なるのではないかと思いますので、それについて、いま一度先生のお考え方を承っておきたいと思います。
  63. 坂本義和

    ○坂本公述人 これも私のあるいは説明のしかたが不十分であったかと存じますが、私が申し上げましたのは、漁業問題は非常に差し迫った問題でもございますし、直接の両国の漁民にとって非常に切実な問題でありまして、これはできるだけ早く、日韓の全面的な国交回復の問題とは別にでも切り離して解決することが望ましいし、またそれができるのではないか、できる性質の問題ではないかということを申し上げたわけでありまして、国交回復をしなければ漁業の問題も解決がつかないということを申し上げたのではございません。
  64. 辻原弘市

    ○辻原委員 わかりました。終わります。
  65. 青木正

    青木委員長 次に横路節雄君。
  66. 横路節雄

    ○横路委員 私は坂本さんにお尋ねしたいのです。  それは、今回のアメリカの北ベトナムに対する爆撃の問題です。前にトンキン湾事件のときは、衆議院の外務委員会がございまして、当時椎名外務大臣が衆議院の外務委員会で、トンキン湾事件に対してのライシャワー大使の言を引用して説明しているのを、私は外務委員会を傍聴して聞いておったわけです。そのときは、北ベトナムの魚雷艇が攻撃をしたから、したがって、それをはね返したのだ。いわゆる国連憲章五十一条にいう自衛権の発動なんだ、こう言っているわけです。今度は、坂本さんも新聞でごらんのとおり、本委員会でも今回の北ベトナムの爆撃の問題を取り上げましたし、この間椎名外務大臣は、本会議でこの問題を取り上げて、いわゆるアメリカ軍の北ベトナム爆撃に対する正当性といいますか、報復爆撃だ、こう言っているわけです。しかし、どうも自衛権の問題に触れているのか触れていないのか、本会議ですからその点までこまかによくわからないのですが、そこで、私は、その点は坂本さんは専門家でいらっしゃいますから、この点をはっきりとひとつ教えていただきたいと思うのですが、国連憲章の五十一条に、「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、」——これは日米の安保条約を昭和三十五年に安保特別委員会で議論したときも、ずいぶん問題になったわけです。現に武力攻撃が発生した場合には、「安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。」、こういっているわけです。今度は、だれがどう考えてみたところで、あの北緯十七度線には三カ国の監視委員会があるわけですから、あそこから越境して米軍に攻撃をかけたということは、三国の監視委員会のどの国も認めていない。明らかに私は国連憲章五十一条の違反だと思う。  それからもう一つは、この国連憲章の第二条の第四項に、すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。」、この国連憲章第二条の第四項でも明確にそのことを言っており、許されているのは五十一条における武力攻撃が発生した場合です。だから、明らかに今回の米軍によるところの北ベトナムの爆撃は、国連憲章違反である、国際法違反であると私は思うのです。政府は正当であると言っているのです。こういう点は、なかなか坂本さんにおいでいただいてお聞きをするなんという機会はまたとないですから、やはりこういう機会に、はっきり学者としての意見を私は国会を通じて明らかにしていただきたい、こう思うのであります。そういう意味で、私どもは実はおいでいただくことを期待もし、われわれ衆議院の予算委員会としては、審議日程も限られた中で公述人としておいでいただいておるわけですから、どうかそういう点——ここには自民党の人もおって、気にさわることがあるかもしれませんが、そういうところは遠慮なしに、国際法なら国際法という観点に立って、きちっとひとつお話しをしていただきたいと思います。そういう点、ひとつ明確にしていただきたい、そういうふうに思います。第一点はそのことをお尋ねいたします。私そのほかにまだ二つございますが、一つずつお聞きします。
  67. 坂本義和

    ○坂本公述人 私は、必ずしも国際法の権威でございませんので、そういう最終的なお答えを申し上げる資格があるとも思いませんけれども、結論といたしましては、私はいまの御意見に賛成でございます。前のキューバの危機の場合にも、やはりアメリカが封鎖をしてソ連の船の通行を妨害するというのは国際法の違反であるということは、これはアメリカの内部でも実はかなり多くの人が認めたことでございましたけれども、ああいう何といいますか、いわば軍事的な作戦の観点というものが非常に強く出てまいりました場合には、アメリカの場合でも、私は国際法というものを非常に無視するといいますか、非常に軽く考える傾向というものが、特に最近かなり出ているように思います。  それから特に今度の場合には、アメリカ人の一般の立場としては、やはり北ベトナムが援助しておる、それによってアメリカ人が殺されたというような、そういう一つの感情というものがあると思います。これは、しかし、アメリカの議会の上院などでも当然に問題になっておる点でありますけれども、南におけるベトコンの攻撃が北の指示を仰いでやったと言われるわけですが、はたして北の指示を得てやったということがはっきりわかるくらいなら、どうして事前に防ぐことができなかったかという問題が起こされて、それに対しての明快な答えというものは、いまのところ出されておりません。したがって、いわば軍人の立場としてといいますか、軍の立場として国際法を軽視する傾向と、それから一般の国民の中にある感情論として、国際法などというものを問題にしないという傾向がかなり強く出ておることは、非常に憂うべきことだと私も存じます。  ただ、もう一つの問題は、インドシナの問題に関しましては、御存じのとおり中国も国連に加盟しておりません、代表権を持っておりませんし、北ベトナムもその加盟国でございませんので、したがって、国連が直ちにこの問題を取り上げるということは非常に制約されておる。そのために、国連憲章を引用して議論をする場所というものが、まず実際問題としてはないのが現状です。もしそれがありましたならば、いま御指摘の点は、私は当然ニューヨークの国連でもっと議論された点だったと思いますけれども、そういう点から申しましても、私は繰り返しになりますけれども、中国の北京政府が代表権を持っていないという状態というものが、いろいろな場合に多くの災いをもたらしてくることになるのではないかというふうに考える次第でございます。
  68. 横路節雄

    ○横路委員 いまの点は、第二条のところで、「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の」——何もここでは国際連合に加盟しておる云々ではなしに、「いかなる国の」という意味ですから、私はそういう意味で第二条を引用したわけであります。  そこで次に、先ほどのお話と関連いたしまして、このベトナムの紛争というものがだんだん国際化してきておる、このことは、日本の安全と非常に大問題があって、先ほどお話がございました朝鮮問題と関係があるわけです。  そこで、私は、この問題について二つお尋ねしたいのですが、先ほどもちょっとお話がございましたが、この間、韓国の国会でアメリカ大統領の要請に従って南ベトナムに二個大隊を派遣した。それに伴って、これは新聞の伝えるところですが、北朝鮮はいま北ベトナムに対してジェット戦闘機を供与するとかしないとか言っておる。したがって、在日米軍は、われわれの知っておる限りにおいては、大体警戒体制に入ったわけですね。警戒体制は大体五段階ありますが、ABCDEの中の第三番目の警戒体制に入ったわけですから、したがって、在日米軍の警戒体制の段階というものは、決して軽々に見るべきではないして思う。そのことはどこに関係があるかというと、この韓国の南ベトナム派兵に関連しておる。そこで、私はこの間から非常に問題だと思いますのは、この予算委員会で同僚の石橋委員から質問したのですが、これはまだはっきりしていないのですが、佐藤総理がジョンソン大統領に韓国の派兵を承認したということを、韓国では李外相が言ったということを言っているのです。私は、坂本さんにお尋ねしたいのですが、大韓民国とアメリカ合衆国との間の相互防衛条約というのがあるわけです。そこの第三条「各締約国」というのですから、アメリカと韓国です。各締約国が行動する場合にはどこに出ていくかというと、「現在それぞれの行政的管理の下にある領域又はいずれか一方の締約国が他方の締約国の行政的管理の下に適法に置かれることになったものと今後認められる領域において行われるいずれかの締約国に対する太平洋地域における武力攻撃が自国の平和及び安全保障を危くするものであることを認め、共同の危険に対処するため自国の憲法上の手続に従って行動することを宣言する。」だから、たとえばグアム島に行くとか、ハワイに行くとかということはいいんでしょうが、この大韓民国とアメリカ合衆国との間の相互防衛条約のどこを見たって、南ベトナムに対する韓国の派兵というものが行なわれるその条約上の法律的な根拠はない。アメリカ大統領の要請に従って出ている。この点についてどう思いますか。先生は、私は国際法の直接担当ではないとおっしゃいますけれども、それでも、先ほど中国問題その他についていろいろお話があったのですから、きっと——私の一番心配しているのは、北緯三十八度のいわゆる緊張、いま現に在日米軍は警戒体制に入った。第三段階の警戒体制に入っている。どういう状態なのか、これがよくわからぬ。そういうときですから、私はそういう意味で、この韓国の南ベトナムの派兵、大統領の要請というものは、この条約からいっても、これは違法なものだと思う。この点について、先生はどうお思いになりますか。韓国の南ベトナム派兵です。
  69. 坂本義和

    ○坂本公述人 南ベトナムへの派兵が米韓相互防衛条約に基づいたものでないということは、おっしゃるとおりだと思いますけれども、だからといってそれが違法だということには、すぐにはならないんじゃないでしょうか。それは全く別な、つまり政治的な決定の問題であって、別に条約関係がなくても、韓国が派兵するということ自身を禁止することは、妙な法といいますか、国際法というものがあるわけではないと思います。
  70. 横路節雄

    ○横路委員 しかし、これはアメリカ大統領の要請に従って——一体今日の南ベトナムの状態というのけ、あれは何なんでしょうか。南べトナムの状態というものは、正統な政府というものがあるんでしょうか。(発言する者あり)私、ただ先生に聞いているんですよ。先生のお考えはどうですかということです。私が聞いているのけ、アメリカ軍があそこに行っているのは、南ベトナム政府の要請だというが、一体南ベトナムの政府というのは、正統な政府と言えるのかどうか。しょっちゅうネコの目のようにクーデターでかわってくる。民衆の支持は得られていない。そういうものから見たら、今日の南ベトナムの政府というものは、先生の目から見れば、あれは正統の政府と言えるのかどうか、そういう点です。先生のお考えを聞かせてもらえばいいのです。
  71. 坂本義和

    ○坂本公述人 政治的な観点から申しましたら、もちろんおっしゃいましたように、国民の支持を得ておるとも思いませんし、問題があると思いますけれども、しかし、だからといって、その政府の要請に基づくのは違法であるということには直ちにはならないので、やはりそれはちょっと問題の性質が別だろうということを私申し上げたわけでございます。
  72. 横路節雄

    ○横路委員 もう一つお尋ねしておきたいのですが、それは、日米の安保条約の第四条に「締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずか一方の締約国の要請により協議する。」こうなっている。今度の韓国の南ベトナムの派兵は、日本の安全に非常な問題を残したわけですね。在日米空軍がすでに警戒体制に入っている。伝えられるところによれば、先ほど話したように、北朝鮮の空軍があるいは出るかもしれない。どういう状態が起きるかもしれないという場合に、安保条約第四条に基づいて、先ほど言った南ベトナムの派兵等は、韓国には日本政府としてはそれはやめなさいということは言えないかもしれないが、アメリカに対しては——アメリカ大統領の要請で行なったことなんですから、アメリカに対しては、韓国の兵隊を南ベトナムに派遣し、北緯三十八度の戦線が緊張し、そのことが極東の平和に非常に不安な状態を起こし、ひいては日本の安全に対して脅威を与えるから、そういうことはひとつやめてもらいたいのだということは、——日米安保条約の四条からいって、このことがいま在日米空軍の、これらをひっからめて一切がいま警戒体制に入っている状態からいって、当然韓国にはおまえやめろということは言えないでしょうが、しかし、安保条約を結んだアメリカに対しては、アメリカ大統領の要請に従って行くんだから、それはうまくないです、そのことは三十八度線の緊張を強めることになる、日本がどんな事態に巻き込まれることになるかもしれないから、そういうことはやめてもらいたいんだ、そういうことは安保条約の四条から——どうも安保条約というものを結んだきり、四条にしても六条にしても全く形だけで、日本から積極的に向こうにどうだ、こういうことはやめてくれ、これはどうなんだということは言ったことがない。向こうから一方的に通告だけ受けている。そういう安保条約の運営から見て、当然今回の問題などはそういうようにすべきだ、安保条約四条からいって私はそうすべきでないかと思うのですが、この点の解釈はどうでしょうか。
  73. 坂本義和

    ○坂本公述人 その点は、私はやはりかなり解釈の幅があり得ると思います。結論としましては、私は、いまのお話のとおり、そういうことはやめてほしいということをアメリカに申し入れること自身には全く私個人としては賛成でございますけれども、それは安保条約第四条があるから反対をするのではなくて、かりに安保条約第四条がなくても、日本の国の安全という観点からは当然すべきことであって、必ずしもそれは安保条約第四条の解釈と結びつけなければいけないか、あるいは逆に言いますと、結びつかなければこういう意見はできないという性質のものではないと思います。ですから、それはあまり条約の条文だけに根拠を求めるという必要はないし、また、そうすることは必ずしも日本の利益にとって得策ではないのではないかというように私は考えます。
  74. 青木正

  75. 永井勝次郎

    ○永井委員 日向さんにお尋ねをいたしたいと思います。  第一点は、いま突然で年月は覚えていませんが、先年鉄鋼が不況カルテルを組んだことがあります。第一年次は不況カルテル、第二年次が景気が立て直ったそのとき、引き続いて鉄鋼の値段を上げないためにカルテル、第三年目は、価格が落ちついてきた、そうすると、その価格の安定のためにというのでまたカルテル、こういうふうに、不況からこういう内容でカルテルを政府に求める。そういう一つの独禁法を破るやり方をしてきますと、景気がよければよいでカルテル、不景気なら不景気でカルテル、もういかなる場合でもこれはカルテルをやる、鉄鋼業界のこういうやり方について、どのように御判断なさるか、これが一つ。  もう一つは、先ほど御公述の中にありました労働賃金、これを労働者が国際並みにという要求をすることは、とんでもない話だ、こういうようなお説であったと思うのですが、コストの中に占める労働費、これが鉄鋼の場合どうなっているかといえば、アメリカでは六二・七%、西独は三五%、日本は二四・六%、鉄鋼のコストの中に占める労務費は、このような状態です。でありますから、こういう立場から——これはアメリカの半分にもなってないのですから、それを国際並みに引き上げていくという要求は、私は当然ではないか、こう思うのです。  それからもう一つ、企業利益の中からの労働の分配率ですが、これは、先進各国では大体五〇%、日本の場合三〇%——これは鉄鋼の場合です。そういうふうになっておる。さらに福利厚生施設はどうなっているかといえば、イタリアの場合は法律できめてあるわけですが、その法定のものだけでも四二・四%、日本の場合どうかというと一一・八%、こういうひどい労働収奪の実態なんですね。こういう状態から、労働者が、自分の権利を回復するために要求を続けていく。しかも鉄鋼の関係からいえば、必ずしも不景気ではない。先ほど来、不況の心配はない、操短の心配はない、設備過剰の心配はないと、こうおっしゃておるのですが、そういう中で、いつまでも安い賃金で労働者を働かして、その競争力で開放経済体制に入っていくというやり方は、これはひどいやり方じゃないか。  それから企業の実情から見ても、人命尊重のいろんな設備、公害の問題にいたしましても、工場の中のいろんな諸設備にいたしましても、これはもう国際的に見て非常に劣っておる。人命尊重の気がまえがない、姿勢がないといってもいいほどだ、こう思うのです。私は、あえて公述人の日向さんに討論をふっかけるわけではないのです。先ほどそういうお話がありましたので、こういう基礎的なはっきりした数字、根拠に基づいて、労働者が要求するのはふらちだというようなお考えですが、そういう根拠はどういうところから出るのでありますか、これをお示し願いたいと思います。
  76. 日向方斉

    ○日向公述人 御指摘の点に十分ひとつ御理解願いたいと思いまして……。  第一のカルテルの問題でありますが、現在カルテルを正式にやっておるのは、特殊鋼だけでございます。しかしながら、ある程度の価格を安定いたしませんと、企業の収益力が非常に低下しまして、皆さんに御迷惑をかけますので、ある程度の値段を維持したい。しかも現在のわが国の鉄鋼価格は、どの品種をとりましても、世界のどの国よりも安いのでございます。その中で特に低落しておるものについては、何とかこれを維持したいというのが、今日のカルテルの問題であります。それから好況時における問題は、むしろ役所のほうがこれを押えたのであります。この点は誤解だと思います。われわれが好況時にカルテルをつくって、自分がもうかる値段を押えた覚えはありません。これは、たぶん行政指導か何かで、もうかるときには押えられました。そういう事実はあります。いずれにしましても、自由主義経済下において、寡占的なカルテルをつくって、そして不当の値段を維持するということはよくないと思います。しかしながら、今日のわが国鉄鋼業は、どの角度をとりましても、国際的に見てやや安目になっておりますから、これが急激に下落した場合には、ある程度の防衛手段を許してもらわねばならぬ、かように考えております。第一点はそうであります。  その次の国際的賃金の問題であります。私は、企業の立場としまして、まず企業が負担できる賃金でなければならない、その集合である国民経済の負担できる賃金でなければならぬということを申し上げたのであります。したがいまして、単に国際的に安いからということを押しつけられましても、これで負担できない場合にはやむを得ないのであります。それでは、国際的に見てわが国の国民所得は高いかと言いますと、先ほど申し上げましたように、全体としては非常に低いのでございます。その中で、鉄鋼労働賃金などはかなり高くなっております。国民のレベルから見て。昔、私が住友に入ったころに、労働賃金はおおむね六十円前後でありました。それを四百倍にいたしましても、四、六、二万四千円でございますか。現在は四万三千円ないし四千円のところにあります。そのころの住友労働者の賃金は、労働貴族とまで大阪ではいわれておりました。ところが、われわれ経営者の収入は、そのころの住友の社長の収入の数分の一でございます。これはどういうことかというと、結局日本のみんなが貧乏してこの国際競争力を維持しておるのであります。なぜ賃金費が低いかというと、これは金利、借金の費用が大部分を占めてくるから、それを償うためにわれわれが貧乏して仕事をしておるのであります。その貧乏の度合いが、上ほどレラティブな貧乏なんであります。けれども、それを上げろとは言いません。しかしながら労働組合だけが国際賃金企業の負担力あるいは国家の負担力を越えて、おれたちだけは西欧並みの賃金になろうという考えには、私は絶対に不賛成であります。これは、その国の国力、その企業の持つ負担力の中において、お互いに改善しながらその賃金水準を上げていくべきである、かように考えておるのであります。  それからもう一つ、分配の問題ということがありましたが、実は分配するどころではありません。いままでの経過を見ておりますと、設備投資による賃金コストの上がりは、少しもとは言いませんが、ほとんど回収できておりません。労働賃金のほうは、労働生産性が上がるに従ってだんだんとふえております。一時は労働生産性の上がり、その原因の大部分は資本投資による合理化であったのでありますが、その労働生産性の上がりをずっと上回った賃金の高騰でありました。それが現状であります。したがいまして、欧米においてこういう比率で分配されておるから、日本においてもそうでなければならぬという理屈にはならないのであります。日本ではまだ設備投資によって生産性が上がっているが、その設備投資の資金はほとんど回収されてない状態にあります。  人命の尊重につきましても、われわれ企業の及ぶ範囲において極力尊重につとめております。わが属における労働安全性なども、年々向上いたしております。公害等に対する整備も、われわれの力の及ぶ限り努力いたしております。しかしながら、このことにつきましても、政府においても、何か公害除去等につきましては、低利の金を貸していただくとか、いろいろな方法をもって御援助いただきたいと思っております。
  77. 永井勝次郎

    ○永井委員 議論、討論をするわけではありませんからなんですが、先ほど石炭の値上がりの問題をお話しになりました。いま設備投資に対する資金コストの問題をお話しになりました。たとえば佐友グループなら住友グループとして見て、石炭が値上がりした。これはマイナスだけではないので、住友グループの石炭の部門では、値上がりによって利益は上げる。金融のコストが高い。これは、住友は普通の銀行から信託から生命保険から損害保険から、そういう金融機関を持っておられます。その金融の面ではふくれるわけです。どっちでしぼってどっちでもうけるかというだけで、グループの中でもうけるという面においては同様なんです。でありますから、労働賃金の問題については分配率、これは利益の中からの分配なんです。国際水準では五〇%、日本の場合は三〇%、こういうのですから、これはひとつ厚生施設の問題もお考えを願いたいと思うわけです。これは、あえて議論するわけではありません。  その次に、やはり自由経済の中でも力にまかせて何でもかってにやっていいというものではない。そこにはおのずから公共性を持ち、ひとつの公益性を持っていると思います。やはり経済秩序は、おのずからそこに確立していかなければならぬルールがあると思うのです。ところが、最近大企業があらゆる部門にささってきています。実例をあげろといえば、あそこにこんなこうかんな調べたものがありますから申し上げますが、それは繁雑にたえませんから。たとえば石油販売なんかも、最近はガソリンスタンドを新設する、あるいは買い取る。クリーニングの果てまでも大企業がどんどんささっている。それから紙コップとか、ちり紙とか、すき和紙の範囲までずっと入っている。トイレットペーパーまでずっと入っている。石油ストーブもそうです。こういうように、大企業が少しでももうかることなら遠慮会釈なく中小企業を食いつぶして、そこに入っていっている。こういうやり方についてどのようにお考えになるか、これが一つ。  それから商業の面でいえば、住友が数年前アメリカの資本と提携してスーパーマーケットをやろうとして、地域の業者から非常に反撃を受けて、これは形を変えていまいろいろおやりになっているけれども、こういうように外国の資本と結びついて、弱肉強食かってほうだいということで、中小企業の分野にもどんどんささってくる。こういうことは経済秩序の上からどういうようにお考えになっているか。  それから、その上に支払い代金、手形の問題、これは百何十日、二百日という手形が横行している。系列において単価をたたく。検収の日時をおくらせる。最近支払い代金の問題がやかましくなってきましたが、非常にいいアイデアを持っている人には、自分の工場敷地内にその下請工場の倉庫をつくらせて、そこに製品を入れておく。その倉庫に入っているのですから、検収はいつでもできる。いつでも自分の間に合わせられる。取引の事実は行なわれない。公正取引委員会の取り締まりの目をそういう方法でごまかして、自分の敷地内に官軍をつくらせて納品させるというようなこともどんどんやっているということで、経済秩序というものは日本の場合ほとんどないにひとしい、こういうふうに思うのですが、三井、三菱と並んで日本の三大財閥の住友グループとしてどう考えるか。もうかることなら何でもやっていいということで、中小企業を食いつぶして倒産の打撃を与えるようなことはしなくても、大企業は大企業としてやって国際競争で競争する、そういう任務があると思うのです。国内の弱いものを食いつぶすということなら、ばかでもできるわけですから、その点について、大企業として現在行なっているやり方と、経済秩序の問題、外国資本と結んでいろいろおやりになるという関係、こういう一連の現在乱れております経済のいろんな動きに対して、日本の財閥グループの代表としてどういうふうにお考えになるか、ひとつ御意見を承りたい。
  78. 日向方斉

    ○日向公述人 最初にお答え申し上げたいのは、財閥とかグループとかについてでありまして、先生のお考えは、だいぶ現状と離れておるように思います。財閥というのはなくなってしまいまして、そうして、兄弟会社で多少の株の持ち合いはしておりますが、名前は同じのをつけておりますが、かりに金利が上がって住友銀行がもうけても、私たちには何も関係がありません。そこの株主やあるいは預金者に利益があっても、われわれには関係はないのです。石炭がもうけましても、少しも私どもには関係ないのであります。  ただ、昔から住友の同じめしを食べておりますから、お互いに注意し合って、あまり品の悪いことをしたくないとかいうような意味では仲よくしております。また株も多少持ち合ったりしておりますが、全然事態は変わっております。この点は、先生全く誤解でございますので、御了解いただきたいと思います。  その次に、あらゆる部門、中小企業まで手を出すのではないかというお話でありました。私自身の考えといたしましては、大組織のものは大組織らしい仕事をしていくのがいいと思います。利益さえあれはどんなものでも乗っ取っていくというような考え方はよくない考えであると思います。私自身も、住友金属の中にあった異質の幾つかの部門を、性質の違う部門を別会社にいたしてやりますと、その事業に即した運営をいたしますから能率が上がってまいりまして、この方針は正しいと思っております。したがいまして、何でもかんでも手を出すというのは、私はいい考えじゃないと思います。ただ、こういうことはあります。いま原料等の関係から、大きな企業と結びつかないとその企業が成立しない場合があります。たとえば鋼の分野におきましても、高炉から転炉というような、一番能率的な過程を通した鋼を使いませんと競争にならない場合があります。そういう場合には、そういう会社を系列下に置くとかいうようなことは考えられると思います。しかしながら、やはり小規模でやったほうがいい事業は小規模でやり、大資本でやったらいい事業は大資本でやるというような基本的な考え方は、いま先生のおっしゃるとおりでありまして、私もそのつもりでやっております。少なくとも私はそういうつもりでやっております。  住友系のある社が何をしたかというような話につきましては、私詳しく存じませんが、しかし外資と提携しちゃいかぬというのもまた極端な先生のお考えでありまして、日本は資本も足りませんから、場合によれば外資も、振り回されないほうがいいとは私も思いますけれども、ある程度安い外資も利用して、また向こうの合理的経営方法なども勉強する必要もあって入れる場合もあると思いますが、ただその場合にも、お説のとおり弱いものいじめをするなんというのはわれわれの本懐でございません。その点は先生のおっしゃるとおりだと思います。  それから、支払い代金の遅延の問題でありますが、これは、私は、根本に日本経済がこういうふうに高度成長してきたについては、資本の蓄積が経済発展に足りませんから、どうしてもそこに開きがあったのであります。そこで、企業は借金によって膨張してきたのであります。ですから、オーバーボローイングによって今日の経済成長が遂げられたといっても過言でないくらい借金経営で伸びてきたのであります。しかも、その借金が、全部が全部とは言いませんが、健全に投資されてきたものでありますから、ここで世界に奇跡だといわれる日本成長が遂げられたのであって、ある意味においては、私は日本の奇跡的成長は、オーバーボローイングの善用によったとまで考えておるのでありますが、それを国際収支関係で急激に引き締めたものでありますから、必要な資金はどうしても調達しなければなりません。そこで、手形の発行というようなことになって、最近では、べらぼうな手形を出すのは刑法上の問題にしたほうがいいのではないかという意見民間にもありますけれども、しかし、悪質なものは別といたしまして、これもやむにやまれずこういうことになってきておるのでありますから、私は国際収支改善できるとともに、改善の範囲内で次第に金融をゆるめていただきたいと思います。そうして、こちらも出したくて出す手形ではありませんから、それが返ってきて、その金をまた返していくというような正常化を一歩一歩していただいたらいいのではないか、かように考えております。  また下請をたたくというお話もございましたが、われわれもさんざんたたかれておるのでございます。材料メーカーでありますから、自動車屋さん、造船屋さん、そこいらからさんざんたたかれておるのであります。それをわれわれは合理化いたしまして、そして、そのたたかれた値段でやりつつあるのであります。そのようにいたしまして、今日わが国の製鉄業が全量の二〇%も輸出できるというのは、そういうたたかれるのに対応しながらわれわれが合理化してきたからでありまして、これはもう一段下にも同じことがあり、もう一つ下にも同じことがあると思います。もっともその程度については、実はわれわれもしゃくにさわる場合がずいぶんあります。でありますから、規模の小さいところでは、こんちくしょうと思う場合もあるのではないかと思いますが、ここのところはお互いが良識的に考えまして、双方が合理化していくということ以外にはないかと思うのであります。  なお倉庫をつくってヤード延長をやっているとか、いろいろな場合があるようでありますが、それも、悪意ばかりの場合ではありません、善意の場合もあります。いずれにいたしましても、何とか国際収支の均衡が許す範囲内において次第に金融をゆるめ、金融の正常化をしていただくことをわれわれとしても希望いたしている次第であります。
  79. 永井勝次郎

    ○永井委員 いろいろ御親切にお教えいただいてありがとうございました、短い期間に世界の史上でも珍らしいほどの高度成長をした、この成長は資金の関係でなったのだというお話でありますが、もちろんそれも大きななにですが、金さえあればりっぱな設備はできるのですが、設備してそれを動かして、そこから利益をあげていくというのは労働力の力だと思うのです。今日このすばらしい成長をとげた大きな原動力は、資金もありますが、労働力もある。その労働力をいま企業の中でどの程度に御評価なさっておられるか。そのものは下請等に、おれも困るから二百日の小切手を切る、おれも困るから労働賃金は上げられないのだ、これでおしまいになってはまずいのですが、その点はどのように評価して、どのようにこれから生かそうとしておるのか、現状で果たせる努力をどのようにしておられるか、それをひとつお伺いしたいと思います。
  80. 日向方斉

    ○日向公述人 お答え申し上げます。労働生産性とその原因ということについて、アメリカのカリフォルニア大学で研究を発表しておるのであります。それによりますと、大部分は設備による、その次は技能管理、技術管理による、従業員の貢献によるものはゼロだ、こういう統計が出ております。けれども、私はそれを信用しておるわけではありません。これはむちゃだと思っておりますけれども、実はアメリカのような国は、そういうドライな結論を出しておるのであります。日本では、われわれはそう思いません。実は私一昨年から社内の改善提案を募集いたしまして、一人二件以上出せと言ったところが、実は結果において一人三・三件、二万三千人の従業員で八万件になんなんとする提案を得まして、私自身非常に感激をいたしておるのでありまして、やはり全従業員が心をあわせて成長しておる、こういうことは高く評価しておるのであります。  したがいまして、労働賃金のほうも、先ほど申し上げましたように、戦前の四百倍と考えましても、それのまた五割増しぐらいの水準にきておるのであります。それでは管理者のほうはどうかといいますと、上にいくほどその度合いが悪いのであります。社長が一番度合いが悪くて、その次が重役で、その次が部課長であります。そういうふうになっておるのでありまして、われわれとしましても企業の許す範囲において、労働者の福祉向上賃金向上を誠意をもってはかっていくつもりでございます。ただいままでのところは、まだまだ借金の金利その他の負担に追われまして十分にはいきませんが、われわれの負担力の及ぶ範囲においては次第に向上していきたいと思います。
  81. 青木正

    青木委員長 以上をもちまして両公述人に対する質疑は終了いたしました。  日向、坂本両公述人には、御多忙のところ長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとう存じました。厚くお礼申し上げます。(拍手)  以上をもちまして公聴会は終了いたしました。  なお、理事諸君に申し上げますが、本日午後四時三十分から、委員長室において理事会を開きますから御承知おき願います。  本日はこれにて散会いたします。    午後三時二十六分散会