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湯山勇君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま御
説明のありました
農地管理事業団法案について
質問をいたします。
ただいまの御
説明によりますと、
政府は、今日の
農業の行き詰まりを打開していくためには、
経営規模を
拡大していく以外に道はない、こういう
観点から今回新たに
農地管理事業団を設置して、そうしてさしあたり
明年度は百カ所を
パイロット地区に指定して
実施をする、その
面積は大体千
町歩ということでございます。つまり初めてのことだからまずやってみて、ためしてみて、それから本格的に取り組もうというのでございますけれども、しかし一方、
農民の側から見ますと、これはためすとかやってみてというような甘いものではございません。
自立農家になるために、
借金をして
土地を買う
農家も、
農業を離れて他に転業していく
農家も、ともかくも一家の重大事でございますし、一生の運命を決する命がけの問題でございます。(
拍手)
自立経営農家をつくっていくということは、一方からいえば
離農を推し進めるということと一体でございまして、かつて
所得倍増政策が発表されましたときに、
農民が敏感にこのことを察知いたしまして、これは
農民の切り捨てであるとして強い警戒を示したことは御存じのとおりでございます。いよいよ今回
事業団をつくって、
政府が積極的に乗り出すというのでありますから、
農民は、
農業に残るか
農業を捨てるか、
最後の決断を迫られているような
迷いと不安にかられているのが今日の状態でございます。
政府は、何をおいてもまっ先に、このような
農民の不安や
迷いを解消するために、
十分納得のいく
説明をする必要があると思いますし、そうすることが
政府の当然の
責任であり、義務であると思うのでございます。
そこで、私は、最初に、これらの
農民が
政府にただしたいことをそのまま
農民にかわってお尋ねすることといたします。
まず、
自立農家になろうとしておる側でございます。以前には一
町歩つくっておればりっぱな
専業農家であるし、一町五反もあれば大きな
農家であったのが、いまは二町になっても兼業している例が少なくありません。いま
借金をいたしまして
土地を買って
自立農家になったとしても、はたして十年先、二十年先、さらに
借金の期限の切れる三十年先までも
自立農家としてやっていけるだろうかどうだろうか。やがては、いまの
政策のもとでは二町五反の
転落農家になる
心配はないだろうか。これがその
心配の一つでございます。
次は、
自立農家になって一体どういう
経営をしていったらよいだろうか。米作は安定しているようであるけれども、赤城
農林大臣のスライド制というのは生産者米価の引き下げのようであるし、機械や農薬を使って労働時間を少なくすればそれだけ米の買い上げ価格は下がってくる。基本法ができて、選択的
拡大というので果樹、畜産の奨励をしてくれたけれども、果樹は生産がふえる一方、自由化等によってだんだん引き合わなくなってきている。あのだいじょうぶだといわれたミカンさえも昨年あたりからすでに不安がつきまとっております。畜産に至ってはもう全くお手上げの状態で、えさ代は上がる、牛乳も安い、卵も安い、牛をやめた
農家、鶏でつぶれた
農家も決して少なくありません。豚も値段が不安定のためにどうしても安心して取りつけない。
政府は奨励はしたけれども、一向
責任をとってくれてはおりません。一体、
借金を返しながら働きがいのある
経営ができるように保証してくれるのかどうだろうか。これが
農民の第二の疑問でございます。
次に、買う
土地が安いならともかくも、時価というのでは高過ぎます。いまの
土地の値段は決して
農業で引き合う地価ではございません。二重価格という話もあったけれども、一体なぜそれをやめたのでしょう。田を五反買えば百万円の
借金ができ、一町も買えば二百万円の
借金ができます。開拓
農家の中には、やっていけなくなって開拓地から離れようとしても、
借金に縛られてやめることさえできないものがあるということであります。そんなことになる
心配はないだろうかどうだろうか。これがその三つ目でございます。
農業が将来よくなるという明るい展望があれば、それは子供にもあとを継いでくれと言えますけれども、いまの状態では全く希望が持てません。これでは子供にあとを頼むといっても聞き入れるはずもないし、無理に
農業をやらせても、へたをすると
借金の苦しみまで子供に引き継ぐことになりかねないのであります。国は一体どこまで
責任をとってくれるんだろうか。こういう
心配が
経営を
拡大しようとする側にございます。
一方、
離農する側には、
農業をやめても適当な就職先はない、賃金は安い、臨時や日雇いではいつやめさせられるかわからない。やめたとき、年をとって働けなくなったときの
生活の保障もはっきりしない。
土地を売った金は、いまのように物価が上がるのでは、いつまで、どれだけたよりになるか全く心細い限りである。この
土地を手放しても、安心して
生活できるという見通しがはっきりするまでは、家族には気の毒だけれども、出かせぎでもしながらいまの
農業を続けるしかないのではないだろうか。こういう
心配がございます。
総理から、これらの素朴な
農民がほんとうに安心できるように、これらの人たちに直接お話しになる気持ちでよくわかるような御
説明をいただきたいのでございます。(
拍手)
五年前に
農業基本法ができまして
農業の
構造改善を進めようとしたにもかかわらず、これが成功しなかったことは、総理もひずみということばでお認めになっております。池田前総理が革命的な
農業、革新的な
農業、こういうことばを使われたのも、これはたいへんなことになったということを端的にあらわしたことばだと私は思います。高度成長
政策の中で、雇用の機会も
条件もよかったときに
農地法、農協法を
改正して
構造改善政策を進めようとしたにもかかわらず、
政府の
政策の誤りから
経営規模は
拡大しないで、兼業の
増加という変則的な結果を招いてしまったのであります。そのため生産は伸びないで、
機械化貧乏あるいは荒らしづくり、冬作の放棄、そういう事実が増大したことは、
農業構造改善がいかに困難なことであるかを実証いたしております。総理はほんとうにこの困難と取り組む御決意があるのかどうか、この点をはっきりしていただきたいと思います。
私がこの点に不安を感じますことは、いま
農林大臣の御
説明にあった来年度の計画でございます。当初、農林省は十年間で三十三万
町歩を対象にして、
事業団に五千六百億円の
資金手当てをしよう、そうしてまず四十年度には六千
町歩を対象として百五億の
資金を要求いたしております。
貸し付けの
条件は年二分、四十年
償還、こういうことであったにもかかわらず、むざんにも査定の結果は、
資金は要求の五分の一の二十億円、
面積は六分の一の千
町歩、
貸し付け条件も三分で三十年と、全く後退してしまっております。かりにこのテンポで進んだとすれば、農林省が計画しておった三十三万
町歩の
移動には三百三十年かかる計算になります。
所得倍増計画による二町五反の
自立農家百万戸達成に必要な七十八万
町歩の
土地を
移動させるには、実に八百年近くもかかるという計算になります。幾らこれがパイロットである、初年度である、こういうことをおっしゃっても、これではあまりにひど過ぎます。ほんとうにこれでやる気かどうか、私は疑問を感ぜざるを得ないのであります。
総理は施政
方針演説におかれまして、特に今年は
自立農家を
育成するため、
農地管理事業団を設立して
経営規模の
拡大をはかる、こう明言しておられます。大蔵大臣は
構造改善政策を進めたときの当時の自民党の政調会長であったはずでございます。
農地管理事業団は赤城
農政の生命線である、こう大臣は宣伝されております。これだけの人がそろって、
農業のひずみを直すという基本
政策を持っておる内閣で、こんな貧弱な
予算しか組まれなかったのは全く了解に苦しむところであります。(
拍手)これは一体
熱意が足りなかったのか、あるいは自信がなかったのか、農林省に説得する力がなかったのか、総理、大蔵大臣、
農林大臣からはっきりしていただきたいのであります。
なお、
農林大臣からは今後どの
規模の
自立農家をどのくらいの数、どれくらいな年次計画でつくるかをはっきりさせていただきたいのであります。と申しますのは、
農民には三十年先あるいは一生の決断を求めておきながら、
政府が来年のことは来年にならなければわからない、これでは私は通らないと思うのでございます。
次に、本
法案に関連して特に指摘しなければならない点は、
農地の
拡大と表裏一体の関係にある
離農者
対策が何ら示されていないことであります。
農林大臣は、ただいまの御答弁で、進むに従ってということをおっしゃっておりますけれども、
わが国の
農家がわずかな
農地にたよって、いざというときのみずからをみずから保障しておることは御存じのとおりであります。この命の綱の
農地を手放す者に何ら
対策が示されない上に、国の駐在員が町村に配置せられてこれを
推進するというのであります。わずかばかり
譲渡所得税を
考えるといったって、全くそれは問題になりません。まさにこれは
農民の切り捨てであります。水のないプールへ飛び込めと言うのと同じであります。どこに一体総理の人間尊重の
政治がございましょう。(
拍手)本来ならば、
政治の姿勢としては
離農者
対策が先であって、それから後にこれが出るのが
政治の常道でございましょう。一体、
離農者
対策はいつ出されるのか、そしてその
内容はどういうものか、当然この場において明らかにする
責任があると思いますので、それをお示しいただきたいのであります。(
拍手)
なおまた、
農業を続けていく
農民に対して新たに
農民年金をお
考えになっておられれば、その
内容もお示しいただきたいのであります。
最後に、
政府はいまもなお、先ほどの御答弁にもありましたように、自主
農家のくいぜを守ってこれに執着しておるために、単に現在
売買されておる
農地に
方向づけをすることによって目的が達せられるような、実に甘いお
考えを持っておられるようでございます。確かに
農業人口の三%は毎年動いております。
農家戸数も〇・三%程度は減少しております。この傾向が増大さえすれば、
方向づけだけで目的が達せられる、このようにお
考えになっておるのであれば、それは大きな間違いでございます。
御存じのように、若い人が
農村にいなくなっております。生産意欲は低下し、荒らしづくりや冬作放棄が激増して、すでに一昨年あたりから
わが国の
農業は体質の弱体化による生産低下の徴候を示し始めております。
農家戸数がいまのようなまま、ずるずる減っていって、それで適当な数に減少したときには、それよりも先に
農業自体が崩壊しておるのではないでしょうか。現に
農村は社会機能の麻痺によって手のつけられなくなっている事例も少なくございません。このことに目をおおっては
構造改善は進められないと思います。健全な、将来に明るい展望のある
農業の
構造改善を行なうためには、
農業や中小企業の犠牲において高度成長を遂げてきた日本の経済
体制そのものにメスを入れなければなりません。
農地政策、農産物の
価格対策等の
農業政策はもちろん、貿易、物価、賃金、雇用、社会保障等、あらゆる総合的な
対策を打ち立てなければならないのであります。それがいまの
政府の案では、
事業団は役人のポストづくりの
事業団であるといわれてもいたし方がないのではないでしょうか。
農業の
構造改善は、一
事業団、一農林省の問題ではありません。総理以下
政府が総力をあげて取り組まなければならない重大な問題であります。そうしていま直ちにそうしなければならない
段階に直面いたしております。総理は直ちに強力な総合
機関を設けて真剣にこれと取り組む御決意を持っておられるかどうかを
最後にお尋ねいたしまして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕