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1965-05-07 第48回国会 衆議院 法務委員会 第26号 公式Web版

  1. 会議録情報

    五月三日  委員長加藤精三君が死去された。 同月七日  濱田幸雄君が議院において委員長補欠選任さ  れた。 ————————————————————— 昭和四十年五月七日(金曜日)    午前十一時十八分開議  出席委員    委員長代理理事 上村千一郎君    理事 大竹 太郎君 理事 草野一郎平君    理事 坂本 泰良君 理事 細迫 兼光君    理事 横山 利秋君       賀屋 興宣君    亀岡 高夫君       唐澤 俊樹君    木村武千代君       小金 義照君    四宮 久吉君       千葉 三郎君    野呂 恭一君       早川  崇君    湊  徹郎君       森下 元晴君    赤松  勇君       長谷川正三君    竹本 孫一君       吉田 賢一君    志賀 義雄君       田中織之進君  出席政府委員         法務政務次官  大坪 保雄君         検     事         (刑事局長)  津田  實君  委員外出席者         警  視  長         (警察庁交通局         交通企画課長) 宮崎 清文君         検     事         (刑事局刑事課         長)      伊藤 榮樹君         専  門  員 高橋 勝好君     ————————————— 五月七日  委員中垣國男君、馬場元治君、濱野清吾君、藤  枝泉介君、山手滿男君及び西村榮一辞任につ  き、その補欠として湊徹郎君、亀岡高夫君、野  呂恭一君、濱田幸雄君、小金義照君及び竹本孫  一君が議長指名委員に選任された。 同日  委員亀岡高夫君野呂恭一君、湊徹郎君及び竹  本孫一辞任につき、その補欠として馬場元治  君、濱野清吾君、中垣國男君及び吉田賢一君が  議長指名委員に選任された。 同日  委員吉田賢一辞任につき、その補欠として西  村榮一君が議長指名委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  刑法の一部を改正する法律案内閣提出第一〇  二号)      ————◇—————
  2. 上村千一郎

    上村委員長代理 これより会議を開きます。  本委員会委員長でありました加藤精三君が去る三日急逝せられました。つつしんで御報告申し上げます。  理事各位の御推挙により、後任の委員長が選任されるまで私が委員長の職務を行なうことになりましたので、よろしくお願いをいたします。(拍手)  この際、本委員会委員長でありました故加藤精三君の霊に対し、ここにつつしんで哀悼の意を表し、黙祷をささげたいと存じます。御起立を願います。   〔総員起立黙祷
  3. 上村千一郎

    上村委員長代理 ありがとうございました。御着席を願います。      ————◇—————
  4. 上村千一郎

    上村委員長代理 刑法の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑を続行いたします。坂本泰良君。
  5. 坂本泰良

    坂本委員 刑法の一部改正法律案に対する逐条説明書を読みますると、二百十一条のところの最後のほうに、「すでに公表されている改正刑法準備草案は、第二百八十四条において、業務過失致死傷及び重過失致死傷の罪に対する自由刑として、今回の改正法律案と同様「五年以下の懲役もしくは禁錮」を規定している」。刑法準備草案を引用してありますが、この改正刑法準備草案を見ますと、全般的に法定刑が重くなっているんじゃないか、こういうふうに考えられますが、その点はいかがでございますか。
  6. 津田實

    津田政府委員 全般的に申しますれば、必ずしもそうでございませんと思います。いまちょっと一々個々に申し上げられないかと思いますけれども、重くなっているものもございますし、必ずしも重くなっていないというもの、あるいは構成要件を突きまぜたもの等いろいろございますので、ちょっと一がいには申し上げかねるかと思います。
  7. 坂本泰良

    坂本委員 私も、ここにいま持ってはおりますが、どれがどうということは、時間の関係もありますから申しませんが、一般的に重くなっているといわれているようです。そこで、一般的に全部にわたって法定刑が重くなっている。そういうものを全般的の改正でなくて、一部改正に直ちに持ってきて、重くなっているから、今度二百十一条の「三年以下ノ禁錮」を「五年以下ノ懲役クハ禁錮」に、こう二年もはね上げる、重くするということについて、現在の刑法との権衡上と申しますか、そういう点から考えて、直ちにこの改正刑法準備草案を持ってきて、準備草案がこうなっているから今度こういうふうに二百十一条だけを一部重く改正するということにはならない、矛盾になるのじゃないか。こういうふうに思いますが、御所見いかがですか。
  8. 津田實

    津田政府委員 この逐条説明で申し上げました趣旨は、その内容から申しましても、最後のほうに付記的に書いてあるわけでございまして、準備草案を直ちに引き抜いてきたという経過ではございません。御承知のように最近におきます非常な交通事故、ことに悪質な交通事故の増加というものは目に余るものがありまして、さようなものに対して、これをなくしたいということは国民の悲願と申しても差しつかえないと思うのでありますが、そういうような状況でありまして、ことにめいてい運転、その他超高速度運転、あるいは無免許運転というようなものにつきましては、最近のその事故状況は、実に目をおおうようなものが出てまいっておるわけでございます。したがいまして、刑法自体明治四十年に制定されたものでございますが、そのときには、いつも例に申し上げて恐縮ですが、東京都内には十六台しか自動車がなかったわけであります。今日百万台になんなんとするということになってまいっておるわけでございますし、さようなことから申しまして、しかもいまのまさに事故が起こるということの予想されるような状況のもとに自動車運転するというような事態が非常に多くなってきたということは、もはや、やはり明治四十年の制定刑法では間に合わぬ事態がその中にはあるというふうに考えてまいったわけでございます。改正刑法準備草案も、いまから数年前に一応公表されたものでございますけれども、すでにその時代において、そういう事態があるということを認識して準備草案にかような内容を盛ったものというふうに私どもは考えておるわけでございまして、そういう意味におきまして、たまたま準備草案考え方が一になっておるということでございます。したがいまして、準備草案から引き抜いて直ちによってもってこれを制定する措置をするんだということではないわけでございます。
  9. 坂本泰良

    坂本委員 無謀運転ですね、説明の最初にあげられておりますように、「相当量の飲酒をした上での酒酔い運転、」いわゆる酔っぱらい運転、「運転技倆の未熟な者の無免許運転、はなはだしい高速度運転等のいわゆる無謀な運転に基因する」、これにあげてありますことをいま御答弁あったと思うのですが、このようなことは現在の交通事故の一部分であって全部ではないと思うのです。だから、これだけをもって三年を五年、禁錮禁錮または懲役にするということにはその理由が薄弱である。だから、改正刑法準備草案もこうなっておるからというので、この刑を重くするための甲第一号証ともいうべきこれを引いて、準備草案にこうなっておるから当然上げてもいいんだ、こういう理由に持ってこられておる、こういうような感じがいたしますけれども、その点いかがですか。
  10. 津田實

    津田政府委員 先ほど申し上げましたように、直ちに準備草案をとってまいっておるわけではもちろんございません。すでにお手元に差し上げております外国立法例に徴しましても、五年あるいはそれよりもっと高いものもあるわけでございます。これはその国の他の法制とのつり合いとか実情とかいうものがいろいろございますから、一がいに、外国が五年であるから日本も五年でよろしいと申すわけではございませんけれども、しかしながら、そういう立法例も十分参酌しての原案ということになるわけでございます。  なお、準備草案につきまして先ほどお尋ねがございましたが、ちょっとつけ加えて申し上げますと、準備草案必ずしも重くなっているわけではございませんので、たとえば放火につきましては、死刑は準備草案からはずしました。それから傷害罪につきましても、現行刑法では十年以下でありますが七年以下となっておりますし、窃盗罪についても同様に法定刑最高を下げております。そういうようなこともございまして、準備草案自体についてはそれ自体考え方によって法定刑の上げ下げをしておるというふうに私どもは考えるわけでございます。
  11. 坂本泰良

    坂本委員 それじゃ、それはその程度にしまして、そこでこれは他の委員からすでに質問があったのじゃないかとも思いますが、この無謀運転について道交法改正その他で重く罰するという改正をして、いませっかく準備草案もできて、刑法全般についての改正が行なわれようとしておる際に、業務上の過失、それからいわゆる重過失も入りますが、これだけを取り上げて改正せぬでも、そういう道路交通法という別な法律がありまするから、それの改正をしておいて、刑法全般改正の際にこれは云々すべきである、こういうふうにも考えられまするが、その点いかがですか。
  12. 津田實

    津田政府委員 道路交通法によりまして無謀運転者を処罰するということは、現在でもスピード違反でありますとか、めいてい運転も当然処罰されておるわけであります。しかしながら、何と申しましても、それは一つの取り締まり法規でありまして、過失によりまして人身事故を起こした場合におきまして、その人身事故自体についての責任の評価をしないで、その前提である高速度運転とか、めいてい運転とかいうことによって重く罰するということは、これは刑法取り締まり法規体系から申して非常にアンバランスと申しますか、本末が誤っておるのではないかというふうに考えられるわけです。刑法は当初以来業務過失傷害、あるいは終戦後におきましては重過失傷害というものを重く罰するということをとってまいっておりますわけでありますので、人身事故の点の刑はそのままにしておいて、その前提であるめいてい運転とかスピード違反だけを重く処罰するという形は、どうも刑罰責任を問うという形においては非常に無理があるということになり、ひいては刑罰に対する考え方自体に重大な影響を及ぼすというふうに考えた次第でございます。
  13. 坂本泰良

    坂本委員 たとえば無免許運転の場合は道路交通法百十八条一項一号で「六月以下の懲役又は五万円以下の罰金」と、こうなっております。やはり無謀運転というのは行政処分的の意味が非常に多いのでありますから、こういう規定がありまするから、無謀運転に対してはわれわれも厳罰は反対じゃないんです。ないからこのほうの、すでに行政規定もあるから、そのほうの規定を強化して、刑法全般体系をこわすようなこの二百十一条だけを取り上げて、そうして、もちろん明治四十年の制定ではありましょうが、ずっと刑法を全般的にやってきましたから、この二百十一条だけを準備草案なんかを引き合いに持ってきて重く罰してやるものではなくて、私は行政処分的の意味を十分含まっているから、この道交法を重くするなり厳罰にしてやるべきじゃないか、こういうふうに考えるのですが、その点いかがですか。
  14. 津田實

    津田政府委員 その点につきましてはいろいろ考えてみたわけですが、現在におきましてこういう問題点があるわけです。自動車運転者過失による死傷事故を起こしました場合に、その者に対して刑法二百十一条の業務過失致死傷罪が成立することは当然でありますが、その運転者が、俗にひき逃げ、そのまま逃走いたしますと、これは現在道路交通法の七十二条第一項前段の規定違反することになって、同法百十七条の罪がさらに成立いたします。その罪と刑法二百十一条の罪とは併合罪になる、こういうことでございます。ところが二百十一条の罪は、現行法によりますと三年以下の禁錮または五万円以下の罰金であります。道路交通法の百十七条の罪、いまのひき逃げの罪は、法定刑は「三年以下の懲役又は十万円以下の罰金」こういうことになっておる。そうすると、どちらも三年でありますけれども、一方は禁錮であり、一方は懲役ということになる。この場合、裁判所が双方の罪につきまして自由刑を選択いたしますと、道路交通法百十七条について定められておる懲役刑長期である三年に半数を加えた長期四年六カ月以下で処断するということになるわけです。そういたしますのですが、ひき逃げを伴わないと刑法二百十一条の法定刑禁錮刑で、ひき逃げを伴いますと懲役刑で、しかも長期四年半になる、こういうことになるわけです。
  15. 坂本泰良

    坂本委員 それは道交法百十七条ですか。
  16. 津田實

    津田政府委員 百十七条との関係におきまして。そうして刑法二百十一条を改正するに際しまして、法定刑懲役刑を加えることなく、禁錮刑長期を五年だけに上げるということになると、これはひき逃げを伴う場合には、懲役刑が三年でありますから、五年の禁錮刑より重いということになりますために、ひき逃げを伴う場合においては、長期四年六カ月以下で処断されることになりまして、結局禁錮だけを五年にしてみても、ひき逃げを伴えば懲役四年六カ月が最大限、こういうようなアンバランスが生ずるわけです。そこで本来の事故そのもの禁錮三年にしかるべきであって、それに救護措置を加えないということになると、とたんに懲役四年六カ月になるというアンバランスが現在でもあるわけであります。そこで道路交通法だけを上げていきますと、これは業務過失というものが非常に薄れて、かすんでしまって、道路交通法だけが非常に目標になるといいますか、著しく目に立つというようなことになりまして、業務過失というもの自体は、もう何でもないのだ、道路交通法さえ目標にすればよいのだ、こういうようなことになりますことは、刑法のいわゆる人身事故に対する社会的責任を問う上におきましては、非常に障害になるというふうに私どもは考えるわけです。
  17. 坂本泰良

    坂本委員 そうすると理由書にあります「故意犯に属するいわゆる未必の故意事案紙一重事案であり、このように人命を無視するような態度で自動車運転した結果、人を死傷にいたした場合も、単に故意犯でないとの理由で、禁錮刑ないし罰金刑によって処罰せざるを得ないことは、」云々とありますね。考え方によると、故意犯で捜査あるいはその他の点で処罰することが困難であるから、業務上の過失を含めた過失に対する二百十一条の刑を引き上げる、こういうふうにもとられますが、その点いかがですか。
  18. 津田實

    津田政府委員 御承知のように未必の故意と認識ある過失の間は、理論的には境目をもちろんつけておりますけれども、現実の問題に当てはめる場合におきましては、非常にそこが困難であります。ことに認識ある過失未必の故意というような場合でありますと、被告人がそのことを自認するかどうかというようなことしか唯一の証拠がないということもあり得るわけであります。したがいまして、そういう人の意識内容だけでこれが故意になったり過失になったりするというようなことでは、実際の運用の面におきましてはきわめて困難であり、かつ微妙な問題になってまいると思うのであります。したがいまして、この裁判所の認定にいたしましても、なかなか未必の故意と認定するということは困難であります。そういうようなことを考えますが、したがいまして、それじゃもう過失過失なんだから軽いんだ、こういうふうに直ちにいけるものかどうか、それで一体責任を問うのが相当であるかどうかということになりますと、これはまた単純な過失と同一視することは困難であるというような問題も出てまいる。そういうようなことをかれこれ考えますると、やはり過失範疇に属するが、きわめてその責任が重大であるというものの範囲というものは、当然出てくるわけでございまして、そういうようなものをねらって今度の改正をする理由にするということになるわけでございます。
  19. 坂本泰良

    坂本委員 ちょっと言い方を変えまして、われわれの了解するところは、過失犯に対しては禁錮刑、こういうふうに了解しておるわけですが、過失犯に二百十一条の禁錮刑を二年引き上げるほかに、懲役刑もやはり五年、まあ、われわれが了解するところによれば、禁錮刑は五年だけれども懲役にすればその半分の二年半、こういうふうに考えるわけですが、ここにこの懲役刑過失犯に対して加えることと、さらに五年の懲役にするということ、これは先ほど道交法の四年半の懲役関係等もありましょうが、その点についての理解が私としてはまだ不十分ですが、過失犯に対して懲役刑を科し、さらに現在の禁錮と申しますと、懲役にすれば一年半、それを今度の改正法懲役を五年にする、こういうことになるわけですね。そういうふうに懲役刑を加えられ、さらに現在の現行法からすれば、禁錮三年は懲役にすれば半分の一年半、とすれば三年半を重くする、私の考えによればこういうことになるわけですね。それは過失犯に対して私は懲役刑を科すべきじゃないという前提で御質問するわけですが、そういう点についての理由は、ここの理由書に書いてあるものだけでは了解できないのでありますが、その点についての御所見を承っておきたいと思います。
  20. 津田實

    津田政府委員 御指摘の点は、そのとおりごもっともなわけでございますが、元来この禁錮刑は沿革的には政治犯のようなもの、あるいはいわゆる悲破廉恥犯に対する刑罰として懲役のほかに設けられたものであります。この意味におきまして、過失犯に対しましては一般的に禁錮刑をもって臨むこととすることが例でありますが、現在過失犯に対しましても、特別法の中には児童福祉法でありますとか、性病予防法でありますとか、そういうようなものに過失犯について懲役を科しておる例はもちろんございます。  そこで、刑法典にはないわけでありますが、しかしながら最近の自動車運転に基因します業務過失致死傷犯あるいは重過失致死傷犯の中には、先ほど申しましたように技量未熟の無免許運転めいてい運転、はなはだしい高速度運転等の結果人を死傷いたしたという事犯が相当数見受けられ、この種の人命を無視するような無謀な運転に基因します場合には、故意犯による殺傷犯といわば紙一重というようなものであります。それが先ほど申し上げましたような過失犯範疇に属するからといって、直ちにこのものに対して懲役刑を考えないということは、国民道義的感覚からいっていかがなものであろうかということが考えられ、むしろ、こういうものについては選択刑として懲役を考えることが国民道義的感覚に合致するというふうに考えたわけであります。  なお、諸外国立法例におきましても、この種の違反に対しましては、わが国の懲役刑に相当する自由刑を科するものとしている場合が多いのであります。それらの点を考えますと、従来刑法典の中では見当たらなかったということにはなりますが、いま申し上げましたような理由によりまして、今回はこの種のものに対するものについては懲役刑も選択できるというふうにいたすほうが国民道義的感覚に合致するというふうに考えた次第であります。
  21. 坂本泰良

    坂本委員 次に、今回の改正に際しまして、罰金の額は上げてはいないわけですが、この罰金を重くするということもいわれておるのですね。これについては何か理由がございますか。
  22. 津田實

    津田政府委員 現在は罰金刑多額を引き上げないわけでございます。準備草案におきましては多額を引き上げておるということになっておりますが、多額を引き上げない現在の理由といたしましては、現在業務過失あるいは重過失致死傷の中には非常に軽微なものもございます。したがいまして、軽微なものについて罰金最高額を上げるというようなことは、全般的に刑を引き上げるというおそれを生ずるわけでございますので、罰金刑につきましては少なくとも現状を維持したい。業務過失の中には、先ほど来申し上げました、今回の刑の引き上げを考えなければならないような非常に重いものと、非常に軽いものとあるということは御承知のとおりでありますので、その意味におきまして罰金刑そのものは引き上げないということにいたしておるわけであります。ただ、これを貨幣価値の問題として考えまして引き上げるということになりますれば、これは刑法全般のすべての罰金刑に通ずる問題でありますので、その点につきましては、この刑法全面改正を待ちたいということであるわけであります。
  23. 坂本泰良

    坂本委員 わかりましたが、しかし、罰金はこの改正では上げずにおいて、体刑を引き上げる。こういうことは、いわゆる禁錮懲役刑体刑に全部——全部と言っては語弊がありますが、罰金は少なくして懲役禁錮体刑に持っていくような方針ではないかという点の心配がございますが、その点はいかがでしょう。
  24. 津田實

    津田政府委員 現在お手元に差し上げております統計表によりましても、この業務過失致死につきましては、たとえば昭和三十七年におきましては二千八百二十人に禁錮刑を言い渡されましたが、そのうち執行猶予のものは千八百四人ということで、大多数の人は自由刑を言い渡されても執行猶予の言い渡しを受けておる、こういうことになっております。したがいまして、自由刑が科せられたからといって直ちに実刑になるということももちろん考えられないわけです。と同時に、禁錮三年から罰金までの間をその情状によってそれぞれ刑が科せられておるわけでございます。したがいまして、その間にあるところのものにつきまして、すでにあるものについて刑を引き上げるという必要はないのであって、この三年が頭打ち以上のもの、刑法制定当時は予想されなかったようなものについては今回の新しい重い法定刑を適用していくということに運用をすることがこの法律運用として最も望ましい。また、そういう趣旨でこれを立案したという提案理由になっております。私どもも全般的にそういう分布を考えてこの法定刑を上げるということでありまして、現在妥当な刑のあるものをさらに何割か上げていかなきゃならないということは考えていないわけでございます。
  25. 坂本泰良

    坂本委員 そこで、これは大臣にもお聞きしたいことですが、罰則強化政策で根本的な事故防止ができるかどうかという点について、この表を見ますと、たとえば昭和三十五年に道路交通法全面的改正がありまして罰則が強化された。その際に警察当局は、この改正によって事故は少なくなる、こういうようなことが発表されたわけです。ところが、その後現在まで、この表を見ますと事故は減っていないわけです。今回もまた禁錮三年以下を五年以下の懲役禁錮に引き上げたから酔っぱらい運転、無謀な運転がなくなるかというと、私は今後の見通しとしてもそうはならないのじゃないか、こういうふうに考えられるわけですが、それらの点について法務当局警察当局の御意見を伺ってみたいと思います。
  26. 大坪保雄

    大坪政府委員 ただいま坂本さんのお述べになりました、道交法制定罰則強化によって自動車事故の減少を来たすという見込みであったが、実際は減ってないじゃないかということでございますが、そのとおりでございます。ただ私も数はいまはっきり覚えておりませんが、先般当委員会において警察庁局長がどなたかに御答弁申し上げておりましたが、ただいま坂本先生がおあげになりましたその統計表のときと現在とでは走行自動車の数が非常に違っておる。であるから道交法制定以前と道交法制定後とについてみますると、自動車の数が非常に違っておる。非常に増加いたしておる。したがって自動車一台あたりについてみれば自動車による法律違反は比率的にたいへん減っておる、こういう答弁でございました。私もそうであろうと思います。また、そこでこの際、罰則を強化しても将来の見通しとして必ずしも法律違反がそう減るという見通しは立たぬのじゃないかというお話でございますが、先ほど刑事局長が御答弁申し上げましたように、現在の道交法及び刑法罰則における禁錮三年というものの処刑の実情を見ますると、すでに悪質なる業務過失傷害致死等は頭打ちになっているような状態でございます。私どもは、先ほど坂本さんもお話しになりましたように、ただ単に罰則を強化すればそれで犯罪は防止ないし減少せしめることができるとは考えておりませんので、やはり交通の事情が日々と非常に激変をいたしておりまするし、その事故の原因には環境によるものが少なくないわけでございますから、そういう激変した交通事情に即応するような交通ないし取り締まりの環境の整備ということには極力力を注いでまいらなければならない。同時にまた、交通道徳に関する教育をさらに徹底するというようなこと等もいたさなければならないと重々考えられるわけでございます。ございまするが、十分御承知のとおり、最近の道路における交通違反の実情を見ますると、事犯が激増いたしておりまするし、程度が非常に凶悪化いたしておる。非常に重たい物を高スピードで走らせる、人が雲集しておるところに高スピードで走らせるということ自体は非常な危険でございますが、それであるから自動車運転する者は、もう平常人にはるかに数倍する注意力をもってしなければならないわけでございます。それをことさらに注意を怠って、たとえば飲酒をして運転をするとか、あるいはスピード制限を無視してはるかに高いスピードで走るとか、あるいは運転技術が未熟であるということ、すなわち免許を受けてないような状態で車を運転するとかいうことは、過失と申すよりも、酒を飲んで乗る、免許がないのに運転するということ、人が雑踏するおそれがある道路において高スピードで走るということ自体が、すなわちそのものが故意といってもいい。少なくも故意にきわめて近いものであると思うわけであります。しかしながら、そういう事柄が現実になお毎日法規を無視して行なわれておる。そこで私ども人命の尊重の立場からいたしましても、公害的になっておる、大きな社会悪になっておるこういうものを抑制するために、やはりそういう運転をする人に対して警告を発しておかなければならぬ、強い警告を発したい、そういうのが今回の改正の私どもの気持ちとしての基本的な趣旨であるわけでございます。
  27. 宮崎清文

    ○宮崎説明員 ただいまの法務次官の御答弁で大体尽きていると思われますので特につけ加えて申し上げることはございませんが、法務次官も申されましたように、私たちといたしましても、交通事故の原因は多種多様でございまして、したがいまして、罰則の強化のみが事故防止の唯一の方策であるとは決して考えておりません。私たちが現在事故防止の対策として考えておりますのは、大きく分けますと三つございまして、一つは、道路の環境、特に道路における安全施設を整備すること。もう一つは、いわゆる悪質な違反を徹底的に取り締まる。第三は、運転者に対する安全教育を徹底する。この三つを大きな柱にしておりますが、そのうちの悪質な違反を取り締まることにつきましては、ただいま問題になっております罰則の強化が関連してまいります。私たち実は先ほど御指摘のように、昭和三十五年に従来の道路交通取締法を全文改正いたしまして、道路交通法制定いたしましたときに罰則を整備いたしましたが、その後の運用状況を見ておりますと、どうも道路交通違反を担保するためには罰則が少し低かったのではないかということを、率直に言いまして感じたわけでございます。したがいまして、御承知と思いますが、昨年道路交通法の一部を改正いたしまして、所要の罰則の引き上げをお願いいたしまして、これが若干改正されております。ただ、そのときに私たちとして一番問題にいたしておりましたのは、交通違反の中でも一番悪質と思われるいわゆるひき逃げでありますが、非常に不幸なことにこれが年々増加しております。どうも科刑状況を見ますと、従来、私の記憶によりますと、酔っぱらって無免許で人をひき殺して逃げてしまったという、いわゆる最も悪質なひき逃げ事犯につきましても、せいぜい二年半の禁錮とか、そういうような科刑しか行なわれておりません。これはやはり何と申しましても罰則の強化が事故防止の特効薬ではないにせよ、あまりにその予防としては低過ぎるのではないかということで、昨年、一つは業務過失致死傷罪罰則の強化、それからひき逃げに直接関連いたします、先ほど刑事局長から御説明がありましたが、道路交通法七十二条、特に死傷者が出た場合の事後措置違反、この罰則を引き上げることによりましてひき逃げ事故を少しでも減らしたい、かように考えまして、昨年罰則改正をお願いしたわけでありますが、七十二条の違反につきましては、御承知のように従来の一年以下の懲役、五万円以下の罰金を三年以下の懲役、十万円以下の罰金に引き上げましたが、刑法二百十一条につきましては、法務省でもまだ準備が十分でなくて次の機会に延ばしてほしいということでありましたので、私たちも、では次の機会に業務過失致死傷罪罰則を強化する、両方合わせまして特にわれわれが一番問題にしておりますひき逃げ事犯の防止にかかろう、こういうことで大体法務省と話をしたわけでございます。したがいまして、本年予定どおり刑法二百十一条の罰則の強化がただいま議題となっておりますが、私たちの立場といたしましては、繰り返し申しますが、罰則強化のみが唯一の特効薬とは思っておりませんが、これによって少なくとも交通違反の中で最も悪質と思われるひき逃げ事犯が非常に減少することを期待しているわけであります。
  28. 坂本泰良

    坂本委員 罰則を強化することに礼賛の答弁ばかりでございましたけれども、現在テレビのコマーシャルを見ましても、自動車の販売についての宣伝は、とにかくスピードを出していくこと、それから爽快味のコマーシャルをやる。これは通産当局に聞くべきものだと思いますけれども自動車がそういうふうで無制限に増加すれば、今度は、かりに先ほど警察庁の御答弁のように道路の安全装置をやったところで、道路自体についての新設、改修等がなかったらばこれはできないと思うのです。これはまた建設省の関係になると思うのですが、警察庁のほうにお聞きしたいのは、そういう自動車のコマーシャルを販売会社がやると同時に、これはすでに質問があったかと思いますが、自動車学校が非常に乱立して、そして自動車学校に二カ月ですか、実習並びに学習を受ければ試験は容易にできる。また実際上は、そういうところで、あまり自動車免許の際にも、その資格や視力その他自動車運転についての免許資格と申しますか、それを厳格にせずにやれば、結局はその違反が起こる。違反が起こると、自家用車の場合なんか、その瞬間には名誉とか、そういうことを考えるから、わからずに済めば一番いいからついひき逃げをする。それは重く罰する——もちろん重く罰するから威嚇的に少なくなるということは何も否定しませんけれども、その前提たる、いま申し上げました自動車学校の乱立等による免許のとりやすいような方法をとって、道路の基本的な新設、改修等をせずに、安全装置だけしても、それは幾分かはよくなることは否定しないけれども、根本的な解決はできないと思います。そういうようなところで、この罰則強化のほかに、いまいろいろ特殊な点を私はあげましたけれども、そういう面について事故防止対策としてどのような考えを持っておられて取り締まりに臨んでおられるか、その点を結論だけでけっこうですからお伺いしておきます。
  29. 宮崎清文

    ○宮崎説明員 先ほど申し上げましたように、私たち事故防止対策といたしましては三つの大きな柱を考えております。第一の交通安全施設の整備でございますが、これは主として建設省の関係になろうかと思われます。御承知と思いますが、建設省におきましては、道路整備五カ年計画を目下つくっておりまして、昭和四十三年までに約四兆一千億の金を投じまして、道路の新設、既存道路の改修その他をやる予定になっております。私たちのほうの警察といたしましても、建設省と密接な連絡をとりまして、特に新設の道路につきましては最近施設がわりによく完備されておりますが、既存の道路につきましては、率直に申しまして安全施設のやや不備な点もございますので、さしあたり今年度は約百二十億を投じまして既存道路の安全施設の整備促進をはかることにいたしております。  それから第二の運転者の安全教育の問題でございますが、これは先ほど先生が御指摘になりましたように、指定自動車学校の問題と運転免許の資格条件の問題と二つございます。指定自動車学校につきましては、一時御指摘のような点本若干見受けられましたが、この点につきましては、昨年政令を改正いたしまして、指定自動車教習所の基準を強化いたしまして、教習所の職員の資格その他につきましても相当厳格な規定を設けまして、最近は指定自動車教習所につきましては、内容がまずまず満足のできるものになりつつあるのではないかと考えております。  それから第三の運転免許資格の問題でございますが、実はこれはなかなかむずかしい問題がございまして、法律運転免許の不適格者、これはたとえば精神病者とか一定の不適格者がございます。ただ、これがはっきりしております場合は、運転免許試験の際に簡単に排除できますが、一番問題になりますのは、その境目にある人間でございます。精神病者とまではいかなくても、心理的に運転者に不適格な者も若干おりますことは、率直に申し上げまして認めざるを得ない。これらの者をいかにして的確に排除するかにつきましては、ただいま心理学者あるいは医学者等にいろいろお願いいたしまして、心理テストの方法を目下鋭意検討中でございます。すでにある程度の案ができておりますが、まだ完全というようなところまでいっておりませんので、近い将来には心理テストその他によりまして事前に不適格者を排除することにいたしたいと考えております。  最後に、違反をした運転者につきましても、非常に悪質な違反をしたとか、あるいは軽微な違反で本何回も違反を行なうというような運転者は、何か不適格な要素があるのではないかと考えられますので、これらの運転者に対しましては、自後におきましていろいろテストをいたしまして、これを講習によって矯正する、あるいはどうしても矯正の見込みのない者はやはり不適格者として排除する、こういう方策もいま考えております。
  30. 上村千一郎

    上村委員長代理 速記を中止してください。   〔速記中止〕
  31. 上村千一郎

    上村委員長代理 速記を始めてください。
  32. 坂本泰良

    坂本委員 行刑の関係になると思いますが、私詳しく知りませんが、法務当局のほうで開放処遇というのですか、たとえば禁錮刑に処した者が刑務所に入って、勤務が非常によければ仮出獄、または前から法律上の規定であるのですが、自宅に帰してやるとか、何かそういうような制度があると聞きますが、そういうような点、ありましたら承っておきたい。
  33. 津田實

    津田政府委員 監獄法の規定によりますと、懲役の受刑者と禁錮の受刑者は厳格に分離して行刑するということになっております。従来は禁錮刑の受刑者はきわめて少なかったわけでございまして、ほとんど統一した処理ができなかったということがいえるわけです。御説のように禁錮刑につきましては、請願によって作業ができるわけですけれども、他の懲役受刑者と分離しなければならぬわけですから、請願作業でありましても、そう本格的な作業はできないという状況にあったわけです。ただ最近、刑法二百十一条によります禁錮の受刑者が多くなってまいりましたので、交通違反禁錮受刑者の一部につきまして、千葉刑務所の習志野作業場外三カ所に特別の施設を置きまして、そこへ集めて拘禁をいたして請願作業につかしているほか、順法精神とか責任観念、その他一般徳性涵養のための生活訓練、それから自動車運転に必要な知識技能の習熟というようなものをやらしておるというのが現在のやり方でございますが、これは禁錮受刑者に対するやり方でございますので、特別の出所というようなことはもちろん認めておりません。これは一般の法律によるだけのものでございます。
  34. 坂本泰良

    坂本委員 これは禁錮刑懲役刑にするということは、禁錮刑にすれば、いまのような特別の扱いをしなければならぬ、そういうような関係もあるから懲役刑を付加したのではないか、こういうような疑いもあるわけですが、受刑者の取り扱い、それから教化の面等についての区別があるから、懲役刑を今度付加して懲役刑を科して、全部懲役のほうに持っていって、その受刑者の措置をする。そういうような便宜上の考えもあって、今度の改正も——それだけではないでしょうが、そういう点もありはしないかと推測されるのですが、その点いかがですか。
  35. 津田實

    津田政府委員 さようなことはございません。と申しますのは、先ほど来申し上げておりますめいてい運転、あるいははなはだしい高速度運転、あるいは技量未熟者の無免許運転、しかも人命を無視するような態度で自動車運転するというようなことは、これ自体大体本来の性格の中に矯正すべきものがあるのではないか、したがいまして、そういう者に対しては懲役刑をもって臨んで、懲役としてこれを矯正するということはやはりそれに適応した処遇であろうと思うのでございます。これに反しまして、そういう反社会性というものが顕著でない、たまたまの事故によって重大な人身事故を起こしたという人につきましては、当然禁錮刑が選択さるべきものなのでありまして、その人については本来の性格を矯正する必要がないので、ただ生活指導さえすればいいということになると思うので、それは明らかに禁錮に適応性があるというように私どもは考えるわけなんでございまして、何でもかんでも懲役にやるためにやるというわけではございませんし、また裁判所自体選択刑として言い渡せるわけでございますから、裁判所自体が何でもかんでも懲役刑にしてしまうということはあり得ないと私は考えております。
  36. 坂本泰良

    坂本委員 業務上の過失の問題ですが、現在の業務の範囲について判例の傾向が非常に広範囲にわたっているから、この業務と一般とは区別すべきではないのではなかろうか。これは先般吉川教授の参考意見にも出ていたと思いますが、業務と一般とを区別して処罰するのではなくて、業務を廃して、すべて一般の過失に基づいて処断すべきである、こういうような意見があったわけですが、そういう点についての御所見を承りたい。
  37. 津田實

    津田政府委員 参考人の方でそういう御意見の方もあることはもちろん承知しておりますし、学者の中でもそういう意見の方ももちろんございます。ただ、何ゆえに業務について重いかということについては、従来通説、判例のとっております考え方は、業務過失致死傷罪は一種の身分犯でございまして、行為の主体が業務者であるので、そのような者に対しては通常人よりも特に重い注意義務が課せられておる。したがって、その義務に違反すれば重い責任を問われるというのが通説でございます。しかし、この通説をかりにとらないといたしましても、業務者その人については、ある事柄を反復して行なう地位にあるわけでありまして、反復して行なう地位にある人にとりましては、その注意義務自体が常に周到であることが自然なんでございます。たまたまやる場合にはそこまで注意が及ばなかったということが許されるとしても、業務者として反復して行なっている者はそこまでの注意をするのは、もう過去の経験からいって当然ではないかということがいわれる。そのこと自体がすでにその者の責任まで反射的に重くなってくるということも考えられるわけでありまして、そういう意味におきまして、この説をかりにとらないといたしましても、やはり業務者について業務者でない者よりも重い法定刑規定するということは、私はむしろ自然である、こういうふうに考えておるわけでございます。
  38. 坂本泰良

    坂本委員 五月三日の朝日新聞ですが、なかなか減らぬ国鉄事故ということで、これは三河島事故、鶴見事故——多数の死傷者が出た大事故でありましたが、これは全国にわたって軌道上の運転者、ことに鉄道の運転者に対しては、機関士に対しては、もちろんケース・バイ・ケースのこともありますが、非常な厳罰で臨んでおられる。裁判の弁護をするについてもよく感ぜられることですが、ことに国鉄なんかは過密ダイヤですね。そういう点について実際機関士の過失を問うのは無理だ。いわゆる営利本位、企業本位一辺倒であって、それから生じたところの犠牲は機関士にかかる。たとえばある裁判において機関士の話なんかを聞きますと、朝国鉄に出て乗務をして、夕方乗務を終わってお湯に入って出たとき初めてやれやれきょうは命が助かった、事故を起こさずに済んだ、こういうような述懐談等も聞きまして感ぜられることですが、そういうような者には、これは過失の点がありましたら、それはそれに対しての責任は追及すべきである。しかし、機関士等を業務上の過失としてこれを重く罰するというのは酷ではないかと思われるのです。そういうような場合は、やはりもう業務とはいえませんから、ダイヤに従って運転士はその汽車を動かして、そうして踏切のところもちゃんと安全装置があるから——また安全装置がなければそういうスピードで走れません。新幹線みたいになっておればこれは別ですが、そうでないところにおける事故が非常に多いわけです。それがまたまた鶴見の事故あるいは三河島の事故にかたまってきたといえば語弊があるでしょうが、そこへ出てきたわけですね。そういう事例で、これは業務といえば業務だし、過失といえば業務上の過失といえても、実際はやはり過失の有無によってその処罰をすべきだ、こういうように考えられる場合が多いわけです。さらに五月三日の朝日新聞によりますと、保安策は強化されたが国鉄の事故は減らない。そして三河島の事故が起きてわずか三年足らずして今度は国鉄当局に設けました安全企画室というのを解消する、こういうようなことでありまして、国鉄という公共企業体の中でもそういうことがあるし、一般タクシーにおいても運転手に労働強化をさせて、その利益は経営者が収奪をする、こういうような点があるわけで、罰則を強化しても、また業務上の過失厳罰に処しても、その事故はなかなか減らないじゃないか、こう思うわけですが、そういう点についての所見をこの際承っておきたい。
  39. 津田實

    津田政府委員 先ほど政務次官が申し上げましたように、この罰則を強化するということ自体がすぐ事故防止の特効薬になるということはもちろん考えられないことはそのとおりでございます。しかしながら、現在の罰則そのものが国民道義的感覚に合致しているかということになると、これはむしろ国民の感覚に合致しないものも相当出てきているのが実情であると私どもは考えるわけです。もちろん、犯罪として過失を問う以上、過失のない者についていかに結果が大きくても過失を問うことはできないわけでありまして、具体的事件については一々申し上げることができませんし、その材料はございませんけれども、たとえば鶴見につきましては少なくともいままで不起訴になっておる。ほかに原因がわかればまた別でございますけれども、そういうようなことになっているわけです。したがいまして、過失のないところを無理に過失にして処罰するということは、これはもうあり得ないことでありますし、裁判所自体としてもそういうことをするはずがございません。問題は、過失があった場合に、反復継続してやっている人の過失、注意義務というものは常に周到でなくてはならぬということは何人も了解することであると思うのでありまして、その意味におきまして、その周到な注意を欠いたということであれば、やはり責任を問われるのはやむを得ないし、また国民自体もそういう責任をとってもらわなければやすやすと交通をすることができないというようなことになると私どもも考えておる次第でございます。
  40. 坂本泰良

    坂本委員 国民感情ということを非常に言われますけれども、その国民感情たるや、まことに素朴で、ただ死人ができたあるいは重傷者ができたその事実のみをもって、こんなのは厳罰にしなければならないというのが素朴な国民感情であって、その国民感情に基づいて、やはり裁判の結果も、結局その業務に従事している者に対する——三河島事故については求刑は禁錮一年半とか二年とか、こういうような求刑があったわけですが、その際に、まだ国民感情としては、いかに国鉄当局がその乗務員に対する重労働、あるいは過失といっても、全くその過失たるや国鉄当局の責任にあり、経営者の責任にありというような点を、これは陳弁、証拠を出しても、なかなかそれは現実に認められない。それかといって国民感情が許さないから厳罰にすべきだ、これには当たらないと思うのです。そういう点について特に軌道上における鉄道とか、あるいは私鉄とか、飛行機、そういうような特殊の業務に従事する者については、これは考えなければならぬじゃないか。そうすると、結局業務ということははずして、過失の点についてその責任を追及すべきじゃないか、こういうように考えられますが、その点についての所見はいかがですか。
  41. 津田實

    津田政府委員 過失について重いものから軽いものまで考えるとすれば、もう日常の過失というのはわれわれ一般の国民が常に出会うことであり、自分自身もいつそれに巻き込まれるかもしらぬということはあり得るわけです。たとえば簡単なこと、母親がちょっと目を離したがために子供がけがをした、こういうものも過失であります。これも懲役五年までいかなければならぬという法定刑は不当ではないかということが考えられるわけです。一面、いまおっしゃいましたような非常に過失の程度の低い人については、法定刑の中で刑の量定でまかなうということは相当でありまするけれども、そういう形だと、一般の子供を監護する母親の場合と、同じ法定刑同じ構成要件で考えるということは、これはどうも、いままで刑法が伝統的にとっていない態度でありますし、またそのこと自体は、かえって、むしろ広い範囲に重い法定刑を科するということになるので、適当でないというふうに私どもは考えるわけです。
  42. 坂本泰良

    坂本委員 この業務上の過失の問題についてはいろいろ実例を持っておりまして、いまの答弁のようでない結論が出るような質問もしたいと思いますが、しかし、それはたくさんにわたりますから、あとでまた関連することがありましたその際にやるといたしまして、私、きょうはこれで一応終わります。
  43. 上村千一郎

    上村委員長代理 午前の会議はこの程度にとどめます。  午後一時三十分再開することとし、これにて休憩いたします。    午後零時三十三分休憩      ————◇—————    午後四時十九分開議
  44. 上村千一郎

    上村委員長代理 休憩前に引き続き会議を開きます。  先ほどの本会議濱田幸雄君が法務委員長に選任されましたが、都合により本日出席ができませんので、その指名により私が委員長の職務を行ないます。  刑法の一部を改正する法律案について質疑を続行いたします。横山利秋君。
  45. 横山利秋

    ○横山委員 いろいろと本法案について質疑を重ねてきたのですが、最終的に一、二の点を伺いたいと思います。  かつて私どもはこういうことを政府側に提案したことがございます。それは、海難審判所がございまして、海難の特殊性によって特別の審判をするという性格のものであります。いま私どもが議論しております交通事故につきましても、軽微な単純なものもございますし、三河島を含め、あるいはまた飛行機事故等、裁判を長期に重ねて、なおかつ判断ができないものもございます。したがいまして、すべてがそうだとは言わないのでありますが、海難審判が必要であると同様に、重要な交通事故につきましては交通審判法を制定をするか、あるいは交通審判について学識経験者の意見を聴取したあとで裁判所が判決をするとか、そういう特異な、海難審判所に準ずるか、あるいはそれに似たような形態を行なう必要があるのではないかということをかつて私どもは政府側にただしたことがございます。いま刑罰を重くするというのであるならば、事故の原因を的確に把握をして、あやまちのないようにすることが必要であると思われるのでありますが、政府側はこの種の問題についてどうお考えになりますか。御意見を伺います。
  46. 津田實

    津田政府委員 ただいまの御質問の点でございますが、海難審判所が御指摘のようにあることはそのとおりでございますが、海難に関する海難審判所は、海難関係について審判はいたしますが、これは刑事裁判所あるいは刑事手続の前審たる性格のものではございませんので、一般刑事事件について、しからば専門的な問題をどうするかという問題は、一応別であろうというふうに考えておるわけであります。刑事事件につきましては、御承知のとおりその原因、つまり過失の有無ということを究明することは犯罪の成否に関係する基本的な問題でございますので、その認定につきましては、もちろん御承知のように裁判官、あるいはその起訴する前におきましては検察官において十分これを検討いたしますし、専門的な見地からこれを専門的な知識によって補う必要があれば、専門家に嘱託をいたしまして、刑事訴訟法所定の鑑定等の措置をとってまいっておることは御承知のとおりでございます。現段階におきまして、裁判におきましては、交通事件に限らず、いろいろな問題に専門の問題がすべて出てまいるわけでございます。それごとに特別裁判所をつくるというような問題ももちろんございますが、現在の日本の憲法のたてまえでは、特別裁判所は原則としてこれを置けないし、また最高裁判所の系統外の特別裁判所というものは設けることができないことは御承知のとおりでございます。その意味におきまして、専門的な知識を要するものにつきましては、これは鑑定等の刑事訴訟法に許された手段をできる限り活用するというたてまえでできております。したがいまして、海難の問題につきましても、海難の刑事事件につきましては当然その形をとっておるわけでございますので、そういう意味におきまして直ちにさような審判所的なもの、あるいは前審的なものを設けることはいかがなものかというふうに考えております。これは刑事訴訟法、刑事手続全般の問題に関連する重要な基本問題であろうと思いますので、直ちに一部門だけについてさようなことをするということについては問題があろうかと存ずる次第でございます。
  47. 横山利秋

    ○横山委員 次に、私ども何回も議論をしたところでありますが、もう一度だけお伺いをしたいのであります。  業務過失事故について高度の注意義務が課せられる。実際には本人の能力以上の注意義務が要求される。つまり運転取り扱い心得とか、そのほかの規定を守っておるだけではだめだ。人間として万能というか、人間としてあるゆる努力をして注意をする義務があるというふうに、裁判の判決例でよくそういうような雰囲気があるのであります。結果発生はほとんど偶発的要因でありまして、過失犯の場合は瞬間に危険を認識して反射的に臨機の措置をとらなければなりませんが、ほとんどが時間的な余裕がない問題が多いのであります。したがって、いままでの考え方あるいは判断を見ますと、過失をしたことについては同じであるけれども、一方は偶然にも非常な死傷事故が出た。一方は同じ過失であるけれども死傷事故が少なかったということによって量刑が重くなる。今回はさらにそれに懲役を科するというわけでありますね。不注意をしたということのその原因、結果だけについては同じだけれども、その不注意によって非常な死傷事故が出、あるいは片方では一人けがをさしただけであるということによって量刑が違う。特に列車とか船舶とか航空機の場合においては、死傷者が生ずるか生じないか、全くその可能性は非常に強いけれども、その場合においても、偶発的な要素によって死傷者が出たり出なかったりする場合がある、瞬間的に判断を早くやらなければならぬ。ほとんど時間的な余裕があるかないかが裁判において争われることである。したがって、同じ業務上の過失であるのに、たまたま死傷者が生じたという偶発的な結果発生によって懲役刑に処せられるのであっては、刑の均衡を失するのではないか。私がもう一貫して言っておりますのは、そのような不注意であったか、あるいは不注意といっても運転取り扱い心得なりその規定を守っておった。さらにその上に人間の限界を越えてまで注意義務を課せられておるというようなことでは、町の酔っぱらい運転ひき逃げや無免許運転と同罪に論じたのではいささか過酷ではないか。人が死んだからおまえは懲役だ、一罰百戒といいますか、そういう考え方がこの法案の中ににじみ出ておるような気がするということを強く言うわけでありますが、懲役刑を科するのは問題があり、しかも人が死んだか、けがしたかという結果によって、罪が重くなったり軽くなったりするということは、故意犯ならともかく、不注意によるもの、特にその不注意が人間の能力を越えた労働条件の場合にあっては、これはいささか過酷ではないかという点については、どうにも納得できない点があるわけでありますが、いかがでありますか。
  48. 津田實

    津田政府委員 過失犯におきますところの注意義務の懈怠につきまして、通説、判例の示すところによりますと、これはその地位にある通常人を標準として考えた場合の、当該具体的状況のもとにおいて、何人も当然に結果を予見し、これを未然に防止すべき義務がある場合漫然これを怠った行為、こういうふうなことが通説になっております。したがいまして、絶対の人を標準にしておるということではありません。その点は従来通説、判例で確立されたところでございます。  なお、過失犯についての結果の大小につきましてのただいまの御質問につきましては、まことにごもっともな点があると存ずるのでございますが、元来過失犯は結果が発生したことによって初めて犯罪になるわけであります。過失がかりにありましても、結果が発生しなければ全然犯罪にはならないという性質の犯罪でございます。したがいまして、結果が発生したということは、犯罪の成立要件であると時に、結果の大小ということはその犯罪の情状そのものに少なからぬ影響があることは当然でありまするけれども、しかしながら、過失犯を処罰することの本質は、先ほど申しました犯人の注意義務を怠ったことに対する社会的非難が中心でございます。したがいまして、先ほどお尋ねのとおり、偶然のことによって結果が非常に大きくなるという場合はもちろんあるわけでございます。大体過失犯につきましては、過失の態様、程度ということに重点を置きまして、その次が結果の大小ということになって、刑の量定が初めてなされるというふうに従来からなっておるわけでございます。したがいまして、結果の重大ということで非常に社会の耳目を引くわけでありまするけれども、刑の量定にあたっては、必ずしも結果一本やりでいくということではなくて、むしろ過失の程度、過失の態様の問題に重点が置かれるというように従来も運用されておるわけでございます。これは一般に犯罪と刑罰との関係におきまして、結果の発生は非常に重要視されるわけでございまして、たとえば傷害罪と傷害致死の場合は、偶然の結果で致死になるかもしれないわけでございます。しかしながら、傷害罪と傷害致死につきましては相当の刑の開きを置いておるわけでありますので、結果ということは、やはり刑罰の上においては無視することができないものでありまするけれども過失犯のいまの偶然的要素というものは、先ほど来申し上げましたように、むしろ刑の量定としては第二義的なものであるというふうに私どもは出与えておるわけでございます。
  49. 横山利秋

    ○横山委員 第三番目の問題は、ここに最高裁の調査官坂本武志という人の「ジュリスト」に載った論文を要約いたしますと、「業務過失致死罪に対する禁錮の実刑判決は殺人、傷害等の罪の量刑と比較して、いささか重きに失しているのではないか」という論文を掲げているわけであります。その裁判例をずっとあげまして、それを実証しておるわけでありますが、問題の要点として、「とくに改正してほしいと思う点」として、「過失犯を罰する場合を明文をもつて規定すること。」第二に、「結果加重犯の加重されるべき結果の発生について、過失を必要とする旨規定すること。」第三に、「単純過失犯の刑を重くすること。」第四に、「過失賍物罪の規定を設けること。」等を列挙いたしまして、それを立証づけておるのでありますが、最後に、「当面している問題」として量刑をあげて「とくに問題なのは、業務過失致死罪のそれである。無免許、酒酔い、ひき逃げというような悪質なものについてはもちろん、そこまでいかないものについても、しかもかなりの額の損害賠償がなされているものについても、禁錮の実刑を科した事例が相当多くなっているように思われる。激増するこの種事犯の取締りの必要からすれば一理あることであるが、他の一般の罪、ことに殺人、傷害、傷害致死などの罪の量刑と比較してみると、いささか重きに失しているのではないかとも思われる。ここらで一度この問題をふり返ってみる必要があるのではないかと思う。」と書いてある。  私は、この坂本さんのみならず、各学者や弁護士等の所論を摘出する時間がありませんけれども、一番最後にあります「しかもかなりの額の損害賠償がなされているものについて」これと実刑との相関関係について、まだあなたの御答弁に納得できないことがある。罪を重くする、それによって事故をなくするという考え方と、加害者が、お気の毒だからできるだけのことをするから何とかひとつといって、かなりの額を損害賠償をしても、自分の罪に何にも影響がないとすれば、どうせ罪になるんだから、損害賠償はまあまあという気持ちになるのが人情だと思う。ですから被害者の気持ちをそんたくして、一罰百戒のように罪を重くするよりも、むしろ罪を大きくすることによって損害賠償の交渉というものをなおざりにする結果があるのではないか。損害賠償の、示談によって被害者の遺家族ないしは、本人に対して、とにかくできるだけのことをしなければならぬという気持ちを、量刑を重くすることによって薄らぎさせはしないかということについては、どうお考えになるか。
  50. 津田實

    津田政府委員 ただいまの論者のお考えにつきましては、私どもはよくわからないのでありますが、一例といたしまして、第一審判決で実刑を受けて、損害賠償をしたことによって、その後控訴審で執行猶予になるとかあるいは罰金になるという事例は、私どもしばしば耳にいたす次第でございます。  なお、お手元にお配りいたしてございます「業務過失致死傷および重過失致死傷事件に関する事例集」というのがございます。それば昭和三十五年一月一日以降法務省の刑事局に報告のあった比較的重い刑の実刑、すなわち禁錮二年六カ月以上の刑の事件の判決を抜粋して差し上げてございますが、この判決を逐一見てまいりますと、事例としては禁錮三年あるいは二年六カ月以上まことにやむを得ないとどなたもお考えいただけるような事例であろうと思うのでございます。そういうことで刑の量定そのものが非常に過酷であるというふうには私どもは考えない。むしろ、さらにお手元にお配りいたしてございます統計資料によりますと、業務過失致死傷事件の七、八割というものは、自由刑を選択されまして、執行猶予になっております。そういう意味におきまして、量刑自体としては、私は決して過酷にはなっていないというふうに考えるわけでございます。先ほど申し上げましたように、被害弁償をしたために執行猶予になった事例は、私どもはしばしば承知する事例でございますので、その点を考えますると、刑が重くなったから、そのために賠償のほうがおろそかになるという問題ではないというふうに私は考えておる次第でございます。
  51. 上村千一郎

    上村委員長代理 志賀義雄君。
  52. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 刑法の一部を改正する法律案が通過したならば、検察庁あるいは法務省として、それによって犯罪が減少するとお考えなんですか。
  53. 津田實

    津田政府委員 しばしば当委員会で申し上げておりますように、法定刑の引き上げが事故防止の万能策でないということは申し上げておるとおりでございますし、先ほど来も申し上げておりますように、今回引き上げを要すると認められたものは、非常に悪質な無謀操縦、無謀運転に基因するものを主たるねらいといたしておるわけでございます。したがいまして、このこと自体で全般的に事故が直ちに減るとは考えませんが、少なくともさような無謀操縦、無謀運転をする者に対しましては、大きな警鐘になることは間違いないというふうに考えますので、事故の発生数は別といたしまして、悪質者に対しましては相当の警鐘になるというふうに私どもは考えておるのでございます。
  54. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 それでは伺いますが、本年度予算で、交通事犯に対して罰金とか科料とかございますね。それは幾らぐらい予算に計上されているのか。
  55. 津田實

    津田政府委員 三十八年度におきまする全国の罰金、科料の徴収額というのは約百四十九億でございます。これは道路交通法関係あるいは業務過失関係罰金額の総額は、集計しておりませんのでわかりませんが、大体のところはそれの七〇%ないし八〇%かと思います。そういたしますと大体百十億から百二十億になると思います。昭和四十年度におきましてどのくらいになるか、ちょっといま手元でわかりませんが、もう二、三十億は罰金、科料総額がふえると思いますので、三十億ふえれば、その八〇%として二十四億ぐらいはふえるということになるのではないか。したがいまして、百三十億程度ぐらいになるのじゃないかというふうに考えております。
  56. 志賀義雄

    ○志賀委員 実は先日大阪でタクシーに乗っておりましたら、タクシーの労働者が——全自交という労働組合ですけれども、客席のところにビラをぶら下げておりまして、われわれから百二十億円の罰金が取られる——いまの局長のお話では、これがまた二十数億増加する予定であると言われております。ことしの一般会計予算が三兆六千五百億でございますから、およそ三百分の一はこれで負担する、政府のほうではもうそれだけ取れるものとして予算に計上している。しかも一番悪質な者を今度の刑法の一部改正によって処罰すれば、これに対する警鐘になり、若干は防止の役割をする。しかも政府のほうは一般会計予算の三百分の一もこれでまかなっていくという非常にここは矛盾した現象が出ております。これまで当委員会において、刑法の一部改正の問題としては非常に多くの方々から、またかなりの時間をかけて今日まで質問が行なわれたのであります。これは自民党のほうにも出されたと思いますが、交通事故をなくす会の海野晋吉会長及び全日本交通運輸労働組合協議会議長堀井利勝氏の名前でもって、「刑法一部改正に対する反対申入書」というのが各党の法務委員に配られた。私のところにも昨日一部届けられたのでありますが、ただいまの本年度予算から見て百三十五億ないし百四十五億もの予算ということになると、これは三百分の一の予算を初めから当てにしてかかっている。タクシー労働者その他の交通労働者の人口、これは決して有業人口の三百分の一ということになりませんので、これと比較すると、実にこれは重大な問題が含まれている。ただいまの予算の面と、これを改正しようとする趣旨とまるっきりそこで逆になっておる。政府自身が一方ではこれを少しでも防止しよう、警鐘を与えよう、こう言いながら、頭から予算の面ではそういうことを考えている。これは矛盾もはなはだしいことでありますが、それについていま申し上げました反対申入書の中で、これまでも言われていること、これは1・2・3とありますが、「著しい自動車の生産増と普及により交通量がその許容量の限界を越え、劣悪な道路や不適性な道路標識等、交通安全の為の諸設備が不充分である事、」これが激増の原因である。このことはもちろん刑事局長も今日までの答弁の中でお認めになっている。これが一番大きい理由であります。第二に「交通企業者が安全輸送を配慮しないで営利第一主義をとり、交通労働者にはノルマ歩合制賃金や長時間労働を押しつけ、余りにも苛酷な労働条件の下で労働させている事、」これについては、私はタクシーの運転手を若干調べてみました。そうしますと、かつて参議院の法務委員会もあわせてここで問題になったことでありますが、それは人権擁護局の協力も得て調査したことがだいぶ前にあります。仮眠所さえない、それで仮眠所のことはやや普及してまいりましたが、最近では食堂もなければふろもない。したがって、タクシー労働者は手入れに油類を使いますから、それで仮眠所で寝るふとんがべとべとになっている。これは名前をあげてもよろしゅうございますが、杉並区の三幸交通というタクシー会社と八王子市の旭交通という、これも小さい会社でありますが、そこの社長なんかは、労働組合との交渉で、法律なんか守るところがあったらお目にかかりたい、こういうことを団体交渉の席上なんかで公言する。さらに千住の内山観光という観光バスの会社では、五千円の賃上げをして、ロックアウトで七千五百円の賃上げを実現している。ここで特に法務省に御注意願いたいことは、このロックアウトのときに、この内山観光というバス会社の車を修理するという名目で小菅刑務所の修理所に観光バスを全部入れてしまった。何のことはない、法務省がこういう不当なことをやるのに協力している。これは政務次官御存じないでしょう。こんなばかなことが行なわれているのです。めちゃくちゃなことをやるのに対して、法務省の管轄下にある刑務所がこれに協力するというようなばかげたことをやっておきながら、刑法一部改正について幾らもっともらしい理由をつけられたところで、東京のタクシー労働者は納得しますか。この問題で法務省の真意を疑う、こういうことになっております。こういうこともあるのだから、この内山観光とどういう理由で修理契約を結んだか、ひとつお調べ願いたいと思います。あとで報告を願います。こういうむちゃくちゃなことが行なわれているのです。千住の内山観光というバス会社でバスを半年ぐらい全部小菅刑務所に入れてロックアウトの理由にしている。普通の修理会社だったら、そこへ交渉にいけるが、御承知のとおり刑務所の修理工場というものは高いへいの中にありますので、そこへ乗り込んでいって労働者が向こうの労働者と交渉することもできない、こういうめちゃくちゃをやっているのです。法理論のことはいままで多くの委員から質問が出ましたから、私はこういう具体的な事実をもって伺うのです。  なお、三多摩地域のタクシー業者は協定を結んで、自分の会社の運転手が他の会社へ移ることを禁止し、これに違反した場合には十万円の違反罰金を取られるのです。しかも違反した労働者は、結局それを負担させられることになる。三多摩に居住し、そこのタクシー会社につとめているような者は、このために全く生活の方途を失うというようなことになる。一体法律上こんな十万円を取るというようなことが許されているのかどうか。こういう条件の中で働かされる。第一に反対申入書で言われた道路事情、危険防止のいろいろな施設、こういうものがない中で、タクシーの運転がいろいろな事故を起こしたときに、法務省自体関係していることで、政府自体がこういう予算を組んでいることで、こういうものがみな納得させることができますか。労働基準監督署なんて来てくれたことはない。業者と一ぱいやって、自分たちのことを見てくれたことがないというのが、東京のタクシー業者の、ことに零細業の従業員の場合の充満した不平であります。こういう状態に置かれております。  しかも今度の法案の提案理由として、決して悪質重大犯というばかりでなくて、「最近の交通事犯が数に於て激増し」こういう前書きがついております。決して局長の言われるように重大事犯のことばかりではありません、例にあげられているのは。「質的には高度の社会的非難に価する悪質重大事犯が続出している現状に鑑み」ということの前にいまの文句がある。そうしますと、今度は刑を加重するというようなことになりますこの法案が通りますと、結局は全体の業務上の過失致死傷の場合なんかにどうしてもいろいろと量刑上の不合理が出てくる。改正刑法準備草案の中にあるものの一部をこういうふうに入れられますと、どうしてもいまの法体系というものは狂ってくる、こういう点も十分考慮されなければいけないのであります。これまで伺っていても、東京に自動車が十六台しかない、あるいは四十四台しかないときにできたもので現状に合わないと言われる。では、自動車の量がふえた現状において、それに相応する道路事情も考慮されているか。ただあなたは自動車の数の比較だけで言われている。そういうお考えでは、ことに法務省の管轄下でロックアウトに事実上協力するというようなことが出てくる。これで一体この法案が通ってうまく運用されるものかどうか、その点について御自信がありますか、局長にまず伺います。
  57. 津田實

    津田政府委員 罰金科料の歳入の問題とこの刑法改正案との関係について御質問がございましたので、その点についてまず申し上げますが、先ほど申し上げましたのは、大体私の推定で申し上げましたのですが、ただいま大体数字が入りましたので、訂正かたがた申し上げますが、昭和四十年度におきます罰金、科料の歳入見積もりは百六十七億でございます。それに対しまして、これは罰金科料全部でありまするから、交通事件関係は八〇%としますと、百三十四億くらいになります。七〇%とすればもっと下になりますが、大体そういうことの見積もりであります。全体の罰科金の八〇%が交通事件によるものというふうに大体考えられますので、大体八〇%なら——百四十九億がいままでの最高であります。ところが、それじゃ予算において罰科金の見積もりをなぜ入れるかという問題でございますけれども、これは歳入として、罰科金というものは本来刑罰の結果の歳入でありますので、本来国としてはそういうものは期待してならないはずのものなんですけれども、しかし、実際といたしましてその程度の額が入ってくるということは、これは否定できないわけでありますから、それを歳入見積もりに入れておることは、これは国の財政計画を立てます上においては当然のことだと私は思います。でありますけれども、しかしながらこの罰金あるいは科料を見返りにして何か歳出を考えるということは、これは適当でないことは当然でありまして、私どもも従来の御質問に対しましては、それを見返りに考えて何か歳出に充てるということは考えるべきではないということを申し上げたわけでございます。  そこで、刑法の今回の改正につきましては、先ほど申しました無謀運転に基因するものについて重い法定刑を適用しようというのがねらいであるということになりますと、この罰金科料の問題とはその面では直接関係がないわけです。むしろ個個の罰金科料——交通関係罰金科料は主として道路交通法違反によりまして発生する違反に対する罰金あるいは科料であります。したがいまして、人身事故とは面接の関係のない場合が大部分である。そういう意味におきまして、これはこの部分において刑法改正とこの歳入見積もりをするということは決して矛盾いたさないと思うのでございます。  なお、法務省管下におきましてただいま御指摘のような事例と申しますか、ございましたかどうかにつきましては私は承知いたしておりませんから、調査いたしてみるつもりでございます。
  58. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 その結果を報告してくださいますね。法務政務次官、その点いかがですか。
  59. 大坪保雄

    大坪政府委員 罰金の問題についてはただいま刑事局長から申し上げたとおりでありますが、千住の内山観光というところがロックアウトをやって、その期間じゅうバスの修理と称して小菅の刑務所に預けておったというようなことは、私もその事実は存じません。驚いていま伺っているところでございます。ひとつ実情を調査いたしまして、適当な機会に報告いたしたいと思います。私は、ロックアウトということがわかって、いま志賀さんのお話のように事業主に協力する意味でやったということはあり得ないと考えておりますので、おそらく従来から何か修繕をその都度やっておった、そういう慣行で、幸い車が遊んでいるときだからというようなことでやったのではないかと思いますけれども、これは想像でございますから、調査をいたしたいと思います。  それから三多摩のあるタクシー営業者が、その従業員が他の会社に逃げていくような場合には十万円の罰金を取ることにしているということは、どうも私はそういうことは許されないことだと思いますから、これはしかし取り締まり官庁でございます警察庁のほうで調べてもらうことに私のほうから連絡をいたすことにいたします。  それこれございますが、しかしながら、先ほど刑事局長がよくお答えいたしましたように、今回の場合は、きわめて悪質重大なる過失犯について特別の刑罰を科そうということでございますから、その限りにおいては私どもは効果をあげ得るのではないだろうか、こう期待いたしておるのであります。
  60. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 一問だけ。そういう交通のなにが昭和四十年度において百四十数億円も入る予定を立てれば、大蔵省がそういう予算を立てる場合には、法務省に対して本年度は罰金はどれぐらい出るということの問い合わせがありますか。どれぐらい計上するという問い合わせがありますか。それとも大蔵省だけでやるのですか。あなた方のほうで今年は百四十何億、これは三百分の一以上になりますが、そういうことを出されるのですか、どうですか。
  61. 津田實

    津田政府委員 これはもちろん大蔵省から、その歳入見積もりを作成する場合には法務省に協議がございます。したがいまして、法務省といたしましては、過去の上昇実績あるいは自動車の台数の増加とか、そういうようなものを考えまして、この歳入見積もり——これは見積もりだけのことでございまして、その限度まではどうしても罰金を取るという意味では全然ございません。
  62. 上村千一郎

    上村委員長代理 これにて本案に対する質疑を終了いたします。     —————————————
  63. 上村千一郎

    上村委員長代理 これより討論に入ります。坂本泰良君。
  64. 坂本泰良

    坂本委員 私は、日本社会党を代表いたしまして、本案に対して反対の討論をいたさんとするものであります。  以下、若干その理由を申し上げます。近年ますます交通事故が多発し、めいてい、無免許運転等悪質犯が増加していることについては、われわれ一般人はもちろんでありますが、ことに交通労働者においてはみずからの生命に対する焦眉の問題として早急に抜本的施策を希求しているところであります。今日の事故発生の原因は、第一に著しい自動車の生産増と普及により、交通量がその許容量の限界を越え、劣悪な道路や不適正な道路標識等、交通安全のための諸設備が不十分であることであります。第二に、交通企業者が安全輸送を配慮しないで営利第一主義をとり、交通労働者にはノルマ歩合制賃金や長時間労働を押しつけ、あまりにも過酷な労働条件のもとで労働させていることであります。第三は、自動車教習所が極度に営利企業化しており、免許基準が低く、十分なる精神機能テスト等を行なわない制度の不備等にあることであります。以上の点は、われわれが常に指摘したところであります。政府は以上のような交通事故の根本原因の是正を怠り、罰則強化懲役刑の付加を内容とする本件刑法一部改正法案を提案したのであります。その提案の理由に、最近の交通事犯が数において激増し、質的には高度の社会的非難に値する悪質重大事犯が続出している現状にかんがみ等々、その事故防止のためにということでありますが、次のような理由により本法に反対するのであります。  第一は、罰則強化政策は根本的な事故防止対策にはならず、むしろ悪質犯を醸成することになることであります。昭和三十五年の道交法全面改正の際、罰則強化がなされ、警察当局もそれは事故防止に大いに役立つ旨の説明を行ないましたが、自来今日まで統計上明確な答えが出ているとおり、減少するどころか増加の一途であります。警察当局も道路の拡張等交通環境の整備が第一であると最近は述べています。また、自己の責任とはいえないような事故に対しても厳罰主義で過酷な納得のいかない罰則が適用されているため、低賃金や低い生活水準ということも基因して、いたずらに反抗心を植えつけ、その実効はあがっていないのであります。われわれは、めいてい、無免許運転ひき逃げ等の悪質犯の絶滅を心から望むものでありまするが、さきに東京高裁の判例にもありますとおり、刑罰をもってする威嚇より、まず規律の周知徹底が先決問題であり、これに努力しないで処罰のみを期するということは本末転倒であると指摘しております。  第二は、業務過失致死傷罪について懲役刑を付することは刑法体系上問題であり、いわゆる開放処遇の政策と矛盾するものであります。刑法禁錮刑懲役刑とを区別して科刑していることは意味があるところで、非破廉恥罪たる業務過失致死傷罪懲役刑を付加することは刑法改正準備会でも改正刑法準備草案審議に際しても問題とされたということであります。また、新聞報道等によれば、法務省は道交法違反の受刑者に対して、先ほど申しましたように、受刑態度がよいから開放処遇を実施し、社会復帰の効果をあげる措置をとっているといいますが、かような観点からいたしまして実態に逆行するものといわねばならぬと思います。  第三は、業務過失致死傷罪の解釈適用が拡大され、刑法上問題化しているとき、罰則を強化することはなおさら問題であると思います。現行法の解釈適用について、裁判所業務の範囲を営利、非営利を問わず、反復継続される行為はすべて含まれると広く解釈し、娯楽としての狩猟行為もこれに含めて処断しています。また、その業務上必要なる注意義務の範囲も、法令のみならず、条理その他社会通念上当然に要求される注意義務であるというようにきわめて広く拡大解釈され、実務上問題となっているところであります。私たちは、諸外国の最近の立法例において見られるとおり、過失犯の区別を業務上と一般とを区別することなく、重大なる過失と軽微なる過失というように区別して処罰すべきであると主張するのであります。  第四に、そこで私たちは、この際むしろ現行刑法改正して、業務過失致死傷罪を削除して、重過失致死傷罪によって悪質な交通事故を処断すべきである。そしてこの悪質なるめいてい、無免許運転等々に対しては、道路交通法改正して厳罰に付すべきではないかと考えるのであります。  そこで私たちは本法案に対しまして修正案を考えてみたのであります。しかしながら、その修正案の起案に際しまして考えたことを、その理由の二、三を述べて反対の理由を明らかにしたいと思います。  その一は、現行法の解釈適用について、判例は、まず第一に業務の範囲を営利、非営利を問わず、反復継続される行為はすべて含まれるものと広く解釈し、次いで第二に、業務上の注意義務の範囲についても、法令のみならず、条理その他先ほど申しましたように、社会通念上当然要求される注意義務というようにきわめて広く拡大解釈していて、実務上問題となっているところからして、過失に内在する義務違反の程度の大小によって構成要件上区別を設けることは合理性があるが、業務、非業務によって差等をつけることは、過失犯処罰の本質からいって不合理であると考えるのであります。  その二は、過失業務上と一般のそれとに区別することは不合理な不均等を生ずるのであります。業務上とは同種の行為を反復継続することと解されているため、たまたま無謀な者が無免許で一回自動車運転し、人を死亡せしめても、単純過失致死罪として、刑法上は五万円以下の罰金になるにすぎないのであります。無免許運転しましても、道交法第百十八条一項一号によりますると、六月以下の懲役または五万円以下の罰金にせられるのみであります。そこでむしろ過失犯刑罰の軽重は、過失の重大性の有無によって決せられるべきで、行為の反復継続性に求めるのは不合理であると思うのであります。  その三は、英米法系の立法例は、過失犯の区別を業務上と一般に区別することなく、重大な過失といわれるものだけを処罰していますが、大陸法系に属する立法例、たとえば現行西ドイツ刑法第三百十五条のa、一九六二年オーストリア刑法草案第百十四条などのように、両者を区別せず、近代諸外国においては過失の軽重を科刑の軽重の基準とする傾向にあるのであります。  以上の諸点よりいたしまして、本法案に対して反対を表明するものであります。
  65. 上村千一郎

    上村委員長代理 大竹太郎君。
  66. 大竹太郎

    ○大竹委員 私は自由民主党を代表いたしまして、本案に賛成の意見を申し述べたいと存じます。  最近における交通事故と、これに伴う死傷者の増加の趨勢はまことに著しいものがあり、憂慮にたえないものがあります。しかもこれらの交通事犯の中には、自動車運転による悪質な業務過失致死傷及び重過失致死傷、たとえば未熟な無免許運転めいてい運転、はなはだしい高速度運転等、いわゆる無謀悪質な運転がきわめて多く、これらの中には故意犯とほとんど同程度の社会的非難に値するものが相当数見受けられるに至っているのであります。このような悪質な交通事犯に対しては厳重に処罰すべきであるというのが、一般国民の世論であると同時に、本委員会において意見を徴しました四人の参考人も異議がなかったところでございます。したがって、この際現行刑法第二百十一条の法定刑に、新たに禁錮刑懲役刑を加え、刑の上限を三年より五年に引き上げることは、まことに時宜を得た措置であると考えるのであります。  次に、刑法第四十五条後段の併合罪改正についてでありますが、昭和三十八年一カ年に全国第一審裁判所において有罪の判決を受けた者の大部分は、道路交通法違反にかかる罪について即決または略式の裁判で罰金以下の刑の判決を受けたものであります。これら罰金以下の刑に処する確定裁判によって併合罪関係を遮断することは、事件の審判手続や刑の執行手続を著しく複雑化し、種種の混乱を招いているのであります。そこでこれを改正して刑事裁判の円滑な運営をはかることは、緊急の要事であると考えるのであります。  以上の理由によって、私は本改正案は相当であると考え賛成するものであります。なお、この改正案による刑法第二百十一条の法定刑の引き上げは、一般善良な運転者の権益に重大な影響を及ぼすおそれがありますので、本法の実施に際しましては、当局はその点に十分な注意を払われたいと考えます。一言付言する次第であります。
  67. 上村千一郎

    上村委員長代理 志賀義雄君。
  68. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 私は、この刑法の一部改正法律案には反対であります。これまで当委員会においてのいろいろの質問に対する政府の御答弁が、一つとして私どもを十分に納得させないからであります。  その内容についても、先ほど刑事局長のほうからは、決して予算の面でもそれを引き当てにしているのではないと言われましたけれども、警察官の間では点を稼ぐために交通事犯をきびしくする、一カ月の終わりにはいつでもそのための交通取り締まりが特に強化されることは天下公知の事実であります。しかも法務省のほうで一般会計予算の収入の三百分の一をこえるもの、これを当てにしないと言われるけれども、毎年の実績ではこれが欠くべからざる財源になる。この一点を見ても、この法律改正趣旨がそこからもう根本的に濁っていることを私どもは指摘しないわけにはいかないのであります。  なお、外国立法例を引用されて、外国でも五年のところがある、だんだんふえてくると言われますけれども、そういう国では、道路の改良、拡張、標識その他の予防施設なんかも十分完備した上のことであって、その点を差しおいて刑罰だけを強化するということでは、これは表面主張されることと違った結果を招くだけであり、なおまた外国立法例にしても、先ほど坂本委員からも指摘がありましたとおり、最近では過失の区別を業務上と一般と区別しないで、重大過失、軽微過失、こういうふうに処罰する傾向になっておるのでありますから、この際これを改正すると言われるならば、そういう外国立法例を引用されるときには、このことも十分考えられるべきでありますが、そういう点が一向に考慮されておりません。この結果は、かえってこういう事犯を起こした場合に、これを何とかごまかすためにさらによけいな犯罪までも生む結果を生じることは火を見るより明らかであります。こういう意味において、私はこの改正法案には反対であるということを申し上げます。
  69. 上村千一郎

    上村委員長代理 これにて討論は終局いたしました。  これより採決いたします。  刑法の一部を改正する法律案に賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立
  70. 上村千一郎

    上村委員長代理 起立多数。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。     —————————————
  71. 上村千一郎

    上村委員長代理 本案に対し、大竹太郎君より、自由民主党提案にかかる附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。  この際、本動議について提出者の趣旨説明を求めます。大竹太郎君。
  72. 大竹太郎

    ○大竹委員 附帯決議案の趣旨説明する前に、決議案をまず朗読させていただきます。    刑法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)  刑法第二百十一条の法定刑の引き上げは、高速度交通機関の運行に従事する者の権益に重大な影響を及ぼすおそれのあるものであるから、この改正規定の施行に当つては、政府並びに裁判所は、酩酊運転、無免許運転、危険な高速度運転等のいわゆる無謀運転による悪質な事犯を厳重に処罰するとの本改正趣旨と目的にかんがみ、一般善良な運転者等の権益の擁護について、万全を図るよう期待する。  右決議する。  ただいま読み上げました決議案によっても明らかなように、本委員会の審議の過程におきましても、各委員が非常に心配されましたことは、悪質な運転者の刑を引き上げることはよいけれども、刑の上限が上がったということによりまして、善良な運転者の刑も自然に上がるのではないかということが一番憂慮されたところでございます。また、本委員会においてお呼びをいたしましていろいろ意見を徴しました四人の参考人全部の意見も、やはりこの悪質なものに対する刑を引き上げるということには異議はなかったのでありますけれども、いま申し上げましたように、善良な運転者の刑までもそれに引きずられて上がるのではないかということを非常に憂慮されておったわけでございまして、そういうような面からいたしまして、ぜひ当局におかれましては、この法案を実施される場合におきましては、いま申し上げましたように一般善良な運転者の権益の擁護に遺憾のないことを期していただきたいということを、附帯決議として、この委員会において決議されるように希望いたす次第でございます。
  73. 上村千一郎

    上村委員長代理 これにて趣旨説明は終わりました。  本動議について採決いたします。  本動議に賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立
  74. 上村千一郎

    上村委員長代理 起立多数。よって、本動議は可決されました。  ただいま可決されました附帯決議について、政府の所信を求めます。大坪政務次官。
  75. 大坪保雄

    大坪政府委員 政府といたしましては、ただいま御決議になりました附帯決議の趣旨を十分尊重いたしまして、御期待に沿うようにいたしたいと存じます。     —————————————
  76. 上村千一郎

    上村委員長代理 次におはかりいたします。ただいま議決されました法律案に対する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、これに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  77. 上村千一郎

    上村委員長代理 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。   〔報告書は附録に掲載〕      ————◇—————
  78. 上村千一郎

    上村委員長代理 この際発言を求められておりますので、これを許します。志賀義雄君。
  79. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 本来法務委員会の日程によりますと、金曜日は国政調査に当てることになっておりましたが、連休その他の関係、またなくなられた故加藤前委員長の熱心な御希望もあって、きょうになったのでありますが、前々から問題になっていることは、例の吹原事件の問題でございますが、この審議を新しい委員長のほうでも促進されるように、上村委員長代理からもお伝え願いたいのでず。  これは一口で申せば、政党派閥のトンネル会社ということで、決して天才的ペテン師とか昭和の天一坊とかいう事件ではございません。それに私どもの調査いたしたところでは、これは決してこの事件だけでなく、なお他に四件これに類似した事件もございます。会期が切迫しておりますので、こういう点もできれば来週中、その問題がここに提示されるのがよろしかろうと思いますので、新委員長のもとで吹原事件の審議を進められるようにお伝え願いたいと思いまして、一言いたします。
  80. 上村千一郎

    上村委員長代理 次会は公報をもってお知らせすることとし、これにて散会いたします。    午後五時二十七分散会