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横山委員 どう本要領を得ないのだが、まだ私の言うことがようわかっていないようだから
考えておってほしいのです。
法務省に伺いますが、
業務上
過失致死傷罪というのは
昭和三十三年四月十八日の
判決によりますと、「
刑法二一一条にいわゆる
業務とは、本来人が社会生活上の地位に基き反覆継続して行う行為であって、かつその行為は他人の生命身体等に危害を加える虞あるものであることを必要とするけれ
ども、行為者の目的がこれによって収入を得るにあるとその他の欲望を充たすにあるとは問わないと解すべきである。」と
最高裁の
判決に出ています。これによりますと、まことに常識上私
どもが庶民の中でいう
業務上と
最高裁の
判決のいう
業務上とは天地雲泥の
相違がある、こう思われるわけであります。はたして一体反復継続して行なう行為であるから
業務上とし、その人はそれだけの知識を持っているから持っていない人が犯した罪より本重いということを判示しておると思うのでありますが、この点については、私は結果として同じ人が死傷したことについて、その
加害者側といいますか、その人の知識のあるなしによって
刑罰を強くするということについて、
刑法としてほんとうは適当であろうかどうかということを私は
考えるわけであります。いろいろとこの点について各界の
意見を
考えてみるのでありますが、たとえばこの人は
最高裁の
調査官坂本武志という人のジュリストに載ったものでありますが、「とくに問題なのは、
業務上
過失致死罪のそれである。無免許、酒酔い、ひぎ逃げというような悪質なものについてはもちろん、そこまでいかないものについても、しかもかなりの額の
損害賠償がなされているものについても、
禁錮の実刑を科した事例が
相当多くなっているように思われる。激増するこの種
事犯の取り締りの必要からすれば一理あることであるが、他の
一般の罪、ことに殺人、傷害、傷害致死などの罪の量刑と比較してみると、いささか重きに失しているのではないかと本思われる。ここらで一度との問題をふり返ってみる必要があるのではないかと思う。」それから東京高裁
昭和三十年四月十八日の
判決でありますが、「取締の徹底という見地について考察してみるに、なるほど
事故防止のためには
故意犯も
過失犯も等しく処罰するのが
相当とも一応
考えられるのであるが、不
注意による
違反を
防止するためには、先ず何が
違反であるかを認識させその規律の遵守を徹底させるのが前提である。さればこそ、同令(
道路交通取締令)第五条においては当該公安
委員会に
道路標識又は区画線によって適当な表示をなすことを
義務づけておるのである。
刑罰をもってする威嚇よりまず規律の周知徹底が先決問題であり、これに努力しないで処罰の徹底のみを期するは本末顛倒と
考えられる。」次は
法務省の発行いたしました
犯罪白書、
昭和三十九年版、「暴力
犯罪の現況三問題点をとってみますと、「なお、
事故の発生については、
道路の不
整備、
交通信号および標識の不明確、
自動車自体の構造的な欠陥などが、その遠因をなしている場合もあるが、
運転者および歩行者が
道路交通法規を遵守するよう、いっそう努力することによって、
事故発生件数を大幅に減小させる余地があるものと
考えられる。」同じくこの
犯罪白書でありますが、「(四)
業務上の
過失致死傷事件の処罰強化の問題
昭和三〇年以来、数年間の検察庁および
裁判所における前記のような
事件処理
状況によれば、
一般的にいって、
自動車による
業務上
過失致死傷事件の処罰が強化されつつあると
考えられるが、立法上の面からも、この種の罪について、
刑法所定の
法定刑の長期である
禁錮三年を、より重い
懲役刑等に改めるべきであるという
考え方がある。
改正刑法準備草案が第二八四条に
業務上
過失致死傷罪を
規定し、その
法定刑の長期を五年以下の懲役もしくは
禁錮としているのも、その一例である。しかしながら、前述したように、
裁判所の
科刑は徐徐に重くなりつつあるとはいえ、1−48表に示すとおり、多くの
事件が一年以下の
禁錮に処せられており、二年以上の
禁錮に処せられている
事件はきわめて少ない現状からみれば、今直ちに、
法定刑の長期を引き上げるべきであるかどうかの点は、検討を要する問題の一つであろう。」まだその引用をいたそうとすれば枚挙にいとまがありませんが、たとえば中央大学の吉田常次郎教授は「
過失死傷罪につき
業務上のそれと然らざるものを包含せしめ、その
法定刑の種類範囲を広くする
規定を設けるのが妥当だと思う。現行法の如く
業務上の
過失死傷罪と普通のそれとを区別する如きは徒に上告を多くするばかりである。」九州大学の井上正治教授は「
過失犯の構造」として論文を掲げておられるけれ
ども、やはり「
業務上
過失」を削除して「重大ナル
過失」のみに限るとする
考え方にも賛同をしておられる。
こういうふうに
考えてみますと、
法務省内部はもちろん、各学会その他におきましても量刑を引き上げる等についてあまり全面的賛成者がございません。また、量刑引き上げ以前の問題がある。また量刑を引き上げるべき筋合いの人数というものはあまりにも少ないというような見解がきわめて多いと思っているわけであります。それらの
意見の中には、根本的に
業務上
過失事故というその
業務上という範囲がめちゃくちゃに広過ぎて、通常われわれのいう
業務上という範囲から全く違うという点をも
指摘されておる。このようないろんな
意見を総合してみますと、私は、
法務省が何か気をはやって、この
法律を
改正すれば、世間に与える
影響、
交通関係者に与える
影響がきわめて甚大であって、
交通事故がなくなっていく、激減していくという
錯覚におちいるのあまり、あなた方がうたい文句で言っているような酔っぱらい
運転、無
免許運転、
スピード違反、主としてこの
判決の
内容を見ましても、これはマイカー族に多い。マイカー族の中にあらわれた酔っぱらい、ひき逃げ、無免許を刑を重くすることによって、それらと縁もゆかりもないこの
交通労働者——酔っぱらって汽車や飛行機や船やあるいはタクシーを
運転している人はいない、無免許でそういうことをやっている人はいない。それから汽車や
電車や飛行機を
スピード違反をするばかはない。したがって、マイカー族が庶民の中で問題になったものを正しくとらえないで、正常な運行、正常な努力、
注意をしている人たちに——実はあなたの言うところによれば、十六人のためにやるわけじゃない、全部のためにやるのだ、それが威嚇、予防のためになるとすれば、マイカー族をしかりつけるためにやるやつが、すべての
交通労働者、すべての
交通関係者にあらぬしわ寄せを与えるということになりはしないかということを私は痛感するわけですが、その点の御
意見はいかがですか。