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寺田最高裁判所長官代理者 先ほどの私の
説明がやや不十分でございましたために、誤解を招いたかと存じますが、たとえばここで三十八年度に刑事の
簡易裁判所では十一件の再審が出た、それの判決が一件か二件しかやらない、こういう
趣旨では実はなかったのであります。この再審の申し
立てがございますれば、むろんその事件をいずれかの
裁判官に割り当てまして、そうしてその
裁判官が真剣にその事件に取り組んで審理を進めてまいるということは、これは
一般の事件と同様でございまして、特に
簡易裁判所等におきましては、そう著しく事件が渋滞しておるというわけでもございませんから、再審につきましてもかなりな速度で審理が行なわれていっているということは、これはそのとおりなんでございます。先ほど申しましたのは、その結果、いわば前の判決が間違っておったという、そういう
結論が出て、いわば再審を認める、何といいますか、前の判決はやり直さなきゃいかぬという、そういう
結論に達するケースというものはかなり少ないということでございまして、たとえばこの十一件の再審の申し
立てにつきましても、これはあくまで全部の事件がほとんど既済になっておりまして、未済で残っておりますのは三件
程度でございます。そういう
意味で
処理としては進んでおるわけでございます。そこで問題は、それじゃなぜその再審の事件が申し
立てが立たないか、つまりその再審が認められて前の判決が間違っておったという
結論が出るケースが少ないのはなぜかという
お尋ねの点でございますが、これは何と申しましても、私
どもの口から申し上げるのは、あるいはいかがかと思いますが、ともかく
裁判所で三回、一番丁寧にやります場合は一審、二審、三審と、三審まで重ねて慎重な
裁判をやって、それで終わったもの、それが再審に出てくるわけでございますが、普通の場合には、かりに
簡易裁判所で間違っておっても地方
裁判所で取り消される、あるいは
高等裁判所で是正される、あるいは最高
裁判所で破れるということで、つまりそこにいきますまでにだいぶ解決するわけでございまして、それでなお最高
裁判所までいって、あるいは事件の起こりました地方の
高等裁判所までいって、それで事件が確定しました後に起こってくる問題でございますから、それが通らないという点が多いということは、むしろ自然ではないかと思います。そういう場合において、これは世界各国どこの立法でもそうでございますが、再審というものには相当厳格な
法律上の要件があるわけでございます。たとえば民事
訴訟法でまいりましても、判決の証拠となった文書その他の物件が偽造であった場合、つまり証拠になったものが偽造であった。しかもその証拠で判断した。それが偽造だったということがわかっただけでなくて、それがもう一度
あとの判決で、やはり偽造であったということにはっきりなった上ではじめて再審が認め誇るというような、いろいろ要件が非常にやかましくついておるわけでございます。これは世界各国の立法でいずれもそうなっておるわけでございまして、なぜそうなっておるかといいますと、これはやはり、判決がそうやたらにひっくり返ったのでは安心して生活ができないということで、各国の立法でそうなっておるわけでございます。そうでございますから、自然、再審事件を調べましても、こういう要件に当たるという場合が非常に限られている。したがって、なかなか再審が通りにくい、こういうことになるわけであります。したがって、もっと再審が通るようにするためには、たとえば
法律を
改正しまして、
法律の要件をゆるやかにすればよいわけでございますが、しかし、こういうことも全体の問題として、はたして立法例等からいってどうであろうかということが問題になるわけでありまして、そういう点は、今後は立法問題であろうと思いますが、現在の
法律のもとではかようなことにならざるを得ない。決して、
裁判官がお互い同士にかばい合って、前のミスを出すまいということでやっているということでは毛頭ない、私
どもとしてはかように信じておるわけでございます。